(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、エポキシ樹脂に優れた特性(特に耐熱性)を付与できる新規な単量体化合物を提供することを目的とする。また、本発明は当該単量体を用いて得られた新規なエポキシ樹脂組成物又はエポキシ樹脂硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、9,9’−ビアントリルの構造を有する単量体を用いることで、樹脂の耐熱性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記項に記載の化合物及びその製造方法、並びに重合体に関する。
【0009】
項1.一般式(1):
【0010】
【化1】
(式中、R
1a、R
1b、R
2a及びR
2bは、同一又は異なって、炭化水素基、基:−OR
5a、基:−SR
5b、基:−(CO)−R
5c、基:−(CO)−O−R
5d、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又は置換アミノ基を示す。R
5a、R
5b、R
5c及びR
5dは、炭化水素基を示す。m1a、m1b、m2a及びm2bは同一又は異なって、0〜4の整数を示す。R
3a及びR
3bは、同一又は異なって、アルキレン基又はオキサアルキレン基を示す。)
で表されるエポキシ化合物。
【0011】
項2.前記R
3a及びR
3bがメチレン基である前記項1に記載の化合物。
【0012】
項3.エポキシ成分と硬化剤とを含む硬化性エポキシ樹脂組成物であって、エポキシ成分が前記項1又は2に記載の化合物を含む、硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0013】
項4.前記硬化剤がフェノールノボラック硬化剤を含む、前記項3に記載の硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0014】
項5.前記項3又は4に記載の硬化性エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物。
【0015】
項6.一般式(2):
【0016】
【化2】
(式中、R
1a、R
1b、R
2a及びR
2bは、同一又は異なって、炭化水素基、基:−OR
5a、基:−SR
5b、基:−(CO)−R
5c、基:−(CO)−O−R
5d、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又は置換アミノ基を示す。R
5a、R
5b、R
5c及びR
5dは、炭化水素基を示す。m1a、m1b、m2a及びm2bは同一又は異なって、0〜4の整数を示す。)
で表される化合物と、一般式(3):
【0017】
【化3】
(式中、R
3は、同一又は異なって、R
3a又はR
3bを示し、Xはハロゲン原子を示す。R
3a及びR
3bは、同一又は異なって、アルキレン基又はオキサアルキレン基を示す。)
で表される化合物とを、塩基存在下で反応させる工程を含む、一般式(1):
【0018】
【化4】
(式中、R
1a、R
1b、R
2a、R
2b、R
3a、R
3b、m1a、m1b、m2a及びm2bは前記に同じ。)
で表されるエポキシ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエポキシ化合物は、エポキシ樹脂の単量体として用いることができる。また、本発明のエポキシ化合物を用いて得られた重合体(エポキシ樹脂硬化物)は、耐熱性や貯蔵弾性率が向上することが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
1.一般式(1)で表される化合物
本発明は一般式(1):
【0022】
【化5】
(式中、R
1a、R
1b、R
2a及びR
2bは、同一又は異なって、炭化水素基、基:−OR
5a、基:−SR
5b、基:−(CO)−R
5c、基:−(CO)−O−R
5d、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又は置換アミノ基を示す。R
5a、R
5b、R
5c及びR
5dは、炭化水素基を示す。m1a、m1b、m2a及びm2bは同一又は異なって、0〜4の整数を示す。R
3a及びR
3bは、同一又は異なって、アルキレン基又はオキサアルキレン基を示す。)
で表されるエポキシ化合物に関する。
【0023】
R
1a、R
1b、R
2a及びR
2bは、同一又は異なって、炭化水素基、基:−OR
5a、基:−SR
5b、基:−(CO)−R
5c、基:−(CO)−O−R
5d、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又は置換アミノ基を示す。
【0024】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を挙げることができる。これらの中でも、耐熱性の観点よりフッ素原子であることが好ましい。
【0025】
炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基等を挙げることができる。
【0026】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等の炭素数1〜12のアルキル基、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基を挙げることができる。
【0027】
シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基等の炭素数5〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0028】
アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等の炭素数6〜10のアリール基を挙げることができる。
【0029】
アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数6〜10のアリール基を有する炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができる。
【0030】
アルケニル基としては、エテニル基、プロペニル基、1−ブテニル基等の炭素数1〜12のアルケニル基、好ましくは炭素数1〜8のアルケニル基を挙げることができる。
【0031】
シクロアルケニル基としては、シクロヘキセニル基等の炭素数5〜8のシクロアルケニル基を挙げることができる。
【0032】
アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、1−オクチニル基等の炭素数1〜12のアルキニル基、好ましくは炭素数1〜8のアルキニル基を挙げることができる。
【0033】
m1a、m1b、m2a及びm2bは同一又は異なって、0〜4の整数を示す。
【0034】
R
5a、R
5b、R
5c及びR
5dは、上記R
1a、R
1b、R
2a及びR
2bにおける炭化水素基として例示した基を示す。
【0035】
置換アミノ基としては、アルキル基等の基が1又は2個(好ましくは2個)置換したアミノ基を挙げることができる。
【0036】
R
3a及びR
3bは、同一又は異なって、アルキレン基又はオキサアルキレン基を示す。アルキレン基としてはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2−ブタジイル基、テトラメチレン基等の炭素数1〜6のアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基であることがさらに好ましく、メチレン基であることが特に好ましい。オキサアルキレン基は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基)の任意の炭素原子が、酸素原子が互いに隣接しないように酸素原子に置き換わったものであり、炭素数と酸素数の和が1〜20のオキサアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜12のオキサアルキレン基であることがより好ましい。具体的には、
【0038】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、9,9’−ビアントラセン骨格を有しており、重合体の合成に使用した場合に、得られる重合体の耐熱性、貯蔵弾性率等の物性を向上することが期待される。
【0039】
2.一般式(1)で表される化合物の製造方法
一般式(1)で表される化合物は、例えば、下記反応式:
【0040】
【化7】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、R
3はR
3a又はR
3bを示す。R
1a、R
1b、R
2a、R
2b、R
3a、R
3b、m1a、m1b、m2a及びm2bは前記に同じ。)
の反応のように、一般式(2)で表される化合物と一般式(3)で表される化合物とを、不活性雰囲気かつ塩基存在下、反応させることにより、一般式(1)で表される化合物を製造することができる。なお、一般式(2)で表される化合物は、特開2013−107847号公報に記載された方法等により公知化合物から製造することができる。
【0041】
当該反応で用いる塩基としては、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、水素化ナトリウム等のアルカリ金属水素化物等が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0042】
上記Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子が好ましい。
【0043】
当該反応は溶媒を用いても用いなくともよい。当該反応で用いる溶媒の具体例としては、トルエン等の炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。
【0044】
当該反応は、不活性雰囲気下で行われる。例えば、アルゴン雰囲気下、窒素雰囲気下等で反応を行うことができる。必要に応じて、液体の原料や溶媒に不活性ガスをバブリングして、液体中に残存する空気を予め除去してもよい。
【0045】
当該反応における一般式(3)で表される化合物の使用量は、一般式(2)の化合物 1モルに対して2モル以上であればよく、過剰量を用いてもよい。一般式(3)の化合物が液体である場合、溶媒量の一般式(3)の化合物を用いることもできる。
【0046】
当該反応における塩基の使用量は、一般式(2)の化合物 1モルに対して、2モル以上であればよく、過剰量を用いてもよい。具体的には、一般式(2)の化合物 1モルに対して、2〜20モルであることが好ましく、4〜12モルであることがより好ましい。
【0047】
当該反応における反応温度は、例えば、50〜80℃で行うことができる。反応時間は反応が十分に進行する程度であればよい。
【0048】
3.硬化性エポキシ樹脂組成物及び樹脂硬化物
本発明の一般式(1)の化合物は、エポキシ基を2つ有する化合物であるため、エポキシ樹脂を合成するための単量体として使用できる。本発明の一般式(1)の化合物を含む樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂硬化物は、耐熱性が向上し、貯蔵弾性率が向上する。
【0049】
本発明の硬化性エポキシ樹脂組成物は、上記一般式(1)の化合物及び硬化剤を含む。硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤に用いられている公知の硬化剤を挙げることができる。具体的には、フェノールノボラック硬化剤、ポリアミド樹脂、ポリメルカプタン系硬化剤、酸無水物系硬化剤等である。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、一般式(1)の化合物の他に、公知のエポキシ化合物を含んでいてもよい。その他のエポキシ化合物としては、9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ化合物は、市販品をそのまま用いてもよい。
【0051】
その他のエポキシ化合物は、例えば、一般式(1)の化合物 100部に対して、1〜10000部で用いることができる。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、さらに硬化を促進するための硬化触媒を含んでいてもよい。硬化触媒としては、トリフェニルホスフィン等のホスフィン系化合物、ジアザジシクロウンデセン、トリス(ジメチルアミノエチル)フェノール等の三級アミン化合物、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物、スルホニウム塩等が挙げられる。
【0053】
硬化触媒の使用量は、例えば、一般式(1)の化合物 100部に対して、0.1〜10部である。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0055】
なお、以下の実施例において、各種物性の測定及び評価は以下の方法により行った。
【0056】
(NMR)
NMRスペクトルは、Bruker BIOSPIN社製 AVANCE III HD(300MHz)を用いて測定した。
【0057】
(HPLC)
株式会社島津製作所製 HPLCシステムを用いて、
カラム:東ソー社製 TSKgel ODS−80T
M(TOSOH) 4.6mm×25cm
測定条件:水/アセトニトリル(容量比:30/70)、温度40℃、流量1.0mL/min
の条件において、測定した。
【0058】
(動的粘弾性測定)
貯蔵弾性率の測定は、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製の動的粘弾性測定装置Q800にて測定を実施した。測定は引張モードで周波数を1Hzとし、室温より300℃まで昇温速度2℃/minの条件にて行った。また、貯蔵弾性率測定と損失弾性率の比であるtanΔが極大値を示す温度をガラス転移温度とした。
【0059】
実施例1
10,10’−ジ−(2,3−エポキシプロポキシ)−9,9’−ビアントリル (以下において、「AD−G」とする)の製造
【0060】
【化8】
攪拌機、アルゴンインレット、及び温度計を備えた500mLセパラブルフラスコ中に、9,9’−ビアントラセン−10,10’(9H,9’H)−ジオン (3.84g、0.01mol)及びエピクロロヒドリン(100mL)を仕込み、アルゴン雰囲気下、60℃で加熱攪拌しながら、水酸化ナトリウム(4.0g、0.1mol)を加え、60℃にて2時間加熱した。その後、室温に冷却した後、反応混合物を分液ロートに移し、トルエン(250mL)及び水(250mL)を加え、70℃で加熱攪拌し、洗浄を行った後、有機層を分離した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、これを濾過し、得られた濾液を濃縮した。濃縮後得られた残渣をトルエンで再結晶させ、AD−G 2.71g(収率54%;一番晶で2.41g、二番晶で0.30g)を得た。
【0061】
AD−Gの
1H−NMRスペクトルは以下のとおりである。
1H NMR (300 MHz, CDCl
3) δ2.95 (m, 2H), 3.08 (t, J = 4.4 Hz, 2H), 3.72 (m, 2H), 4.36 (dd, J = 6.3, 10.7 Hz, 2H ), 4.72 (d, J = 10.7 Hz, 2H), 7.09 (d, J = 8.7 Hz, 4H), 7.17 (t, J = 7.6 Hz, Ar, 4H), 7.50 (t, J = 7.6 Hz, Ar, 4H), 8.52 (d, J = 8.7 Hz, Ar, 2H).
試験例1
AD−Gを用いた樹脂硬化物の製造
9,9−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)フルオレン(BPFG、大阪ガスケミカル株式会社製)又はBis−Aエポキシ(エピコート(登録商標)828、三菱化学株式会社製)とAD−Gとを所定の比率で混合した混合物 100重量部に対して、フェノールノボラック硬化剤(PSM−4261、群栄化学工業株式会社製) 69重量部、硬化触媒としてトリフェニルホスフィン(TPP) 1.7重量部を含むTHF溶液(固形分濃度約20重量%)を作製した。
【0062】
得られた各THF溶液を基板上にキャストし、乾燥した後、175℃で5時間加熱処理することで、各樹脂組成物を硬化させ、硬化物を得た。各硬化物について、動的粘弾性測定を行い、ガラス転移温度並びに50℃及び260℃での貯蔵弾性率を測定した。下記表1及び2において、樹脂組成物における各成分の組成比と得られた硬化物のガラス転移温度及び貯蔵弾性率の測定結果を示す。
【0063】
【表1】
エポキシ化合物の20重量%をAD−Gに代えた実施例2では、エポキシ化合物がBPFGのみからなる比較例1よりもさらにガラス転移温度及び50℃における貯蔵弾性率について高い値を示した。
【0064】
【表2】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂として知られているエピコート828の一部をAD−Gに代えたところ(実施例3及び4)、ガラス転移温度及び50℃における貯蔵弾性率が向上することが分かった。