【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明の詳細を説明する。はじめに、実施例および比較例における評価方法について説明する。
【0043】
<1.定着部材の表面形状の解析方法>
〔1−1.Rvk及びRvk/Rpk〕
定着部材の表面形状の計測には、光干渉方式の非接触表面形状システム(商品名:VertScan 2.0/R3300G Lite、株式会社菱化システム製)を用いる。
【0044】
潤滑性評価パラメータである突出谷部深さRvkおよび突出山部高さRpkは、定着部材の表面画像のベアリング解析により得られるベアリングカーブから算出する。ここで、該計測システムにおけるベアリングカーブとはJIS B 0601:2001にて定義されている「負荷曲線」と同義であり、視野画像内の各画素における表面高さデータ全測定点から算出されたものである。本発明に係る実施例から得られたベアリングカーブを
図2に示す。突出谷部深さRvkおよび突出山部高さRpkの詳細は、JIS B 0671:2002で規定されている。Rvkおよび「Rvk/Rpk」の値は、各定着部材について任意の5ヵ所にて得られた5回測定値の平均値とする。
【0045】
〔1−2.ディンプルの最大長さ〕
表面層に形成されたディンプルの最大長さは、前記計測システムでの孔解析により算出する。以下に、孔解析の具体的な方法を説明する。
【0046】
まず、視野画像内の各画素の表面高さデータに対して、ブロックサイズ100画素ごとに曲面補正を行い、得られた粗さデータの高さゼロの位置から−1.0μmを二値化閾値に設定する。この際、二値化時のベース面(高さゼロの面)が孔自体のデータを含んでしまう可能性を考慮し、「再二値化」処理を行うことによって孔を含まない面を高さゼロの面に設定する。二値化閾値面(−1.0μm)より下の画素が隣接する領域をラベリングし、各ラベル領域ごとに最大長さを算出する。ここで、最大長さとは、一つのラベル領域において重心を通る径のうち最長のものをいう。発見されたラベル領域のうち「孔」領域として判定するための基準として、最大長さの上限値を100μm、下限値を1μmに設定する。
【0047】
本発明に係る実施例から得られた二値化画像を
図3に示す。平均最大長さDとは、二値化画像内の各「孔」領域の最大長さの平均値である。実施例および比較例に記載の平均最大長さDは、各定着部材における任意の5ヵ所にて得られた平均最大長さの平均値とする。また、二値化画像内における最大長さの分布から算出される標準偏差σと平均最大長さDとの比を変動係数CV=σ/Dとして定義する。上記平均最大長さDが平均値として意味をなすための前提条件として、二値化画像内における最大長さのばらつきを表すCVが1.0未満であることとする。
【0048】
<2.定着部材の表面層の硬さ測定>
定着部材の表面層の硬さは、JIS−Aタイプのマイクロ硬度計MD−1型(高分子計器株式会社製)を用いて、温度23℃、相対湿度55%の環境においてピークホールドモードで測定する。マイクロ硬度計は、ゴム材料、熱可塑性エラストマー、軟質プラスチックなどの厚さ2mm以下の薄物の硬度測定に適している。定着部材の端部から15mm以上25mm以下の位置の両端部及び中央部の合計3点について、各点円周方向90°ごとに合計4点測定する。得られた合計12点の測定値の平均値をマイクロ硬度とする。
【0049】
弾性層のシリコーンゴムが低硬度であるほど、定着部材の表面マイクロ硬度は低くなるため、定着性は良くなるが、その一方、熱劣化が起き易くなるために過度に低硬度のものを用いることができない。また、マイクロ硬度は弾性層の厚みとも関係があり、弾性層の厚みを大きくするほどマイクロ硬度を低くできるが、前述したとおり、厚みが大きすぎると定着部材の熱容量が大きくなり、クイックスタート性が低下する。
【0050】
本発明では、表面層の形状起因による硬さ(柔軟性)と定着性の比較を目的としていることから、マイクロ硬度に影響しうる弾性層のゴム硬度と厚みは、各実施例および比較例において同一とする。すなわち、実施例および比較例の弾性層としては、高熱伝導性フィラーであるSiCを50体積部混入させた、JIS−A硬度で10°のシリコーンゴム層を200μmの厚みで設けることとする。
【0051】
<3.定着部材の定着性の評価>
定着性の評価は、温度15℃、相対湿度20%の環境に保たれた実験室内で行う。定着部材を
図1に示す定着装置に装着し、この定着装置を、60枚/分(プロセススピード350mm/sec)の高速定着を可能とするレーザービームプリンタに組み込む。通紙中の定着ベルトの表面温度は200℃になるように設定する。記録材としては坪量75g/cm
2、レターサイズのラフ紙(Fox River Paper社製 フォックスリバーボンド)を用いる。
【0052】
ここで定着性とは濃度低下率(単位:%)をもって表される。濃度低下率とは、定着装置が冷えた状態から、黒およびハーフトーン(灰色)の5mm角の未定着画像がレターサイズ用紙の上に9ヵ所配された記録材Pを定着装置によって定着させ、出力された記録材Pの画像を一定の条件で擦ったときの、擦り前の濃度から擦り後の濃度を引いた濃度低下分を、擦り前の濃度で割ったものとして算出する。このとき、画像の濃度は濃度測定器(マクベス社製)にて測定する。よって、この擦り試験による濃度低下率が小さいほど定着性が良いということになる。この濃度低下率はレターサイズ用紙上の9ヵ所の黒およびハーフトーン画像の全てに関して算出し、250枚を連続プリントして、以下の評価基準で表示する。
×:250枚について濃度低下率が20%を超える箇所が1ヵ所以上存在する。
○:上記の「×」に該当しない。
【0053】
<4.定着部材の表面の離型性(汚れ付着性)の評価>
離型性の評価は、定着部材を定着性の評価と同様の定着装置およびレーザービームプリンタに組み込んで行う。記録材としては坪量68g/cm
2、A4サイズのCS−680(キヤノン株式会社製)を用いる。10000枚を連続プリントした後の、定着部材の表面を目視およびVertScanで観察し、その汚れの程度で定着部材の汚れ難さを評価する。すなわち、定着部材の表面が汚れやすい場合には、表面層に形成したディンプルにトナーが付着することで孔が塞がるため、10000枚通紙前後の孔解析の結果を比較することで、定着部材の表面の汚れ難さを知ることができる。評価基準は以下の通りである。
○:通紙前と比較して、ディンプルが半数以上残っている。
×:通紙前と比較して、紙粉およびトナーの付着によりディンプルが半数未満になっている。
【0054】
<実施例1>
円筒状基材としてステンレス鋼(SUS)により製作された外径30mm、厚さ35μm、長さ240mmのものを使用した。上記基材の外周面にプライマー(商品名:DY39−051、東レ・ダウコーニング株式会社製)を塗布し、熱風循環式オーブンで150℃、30分間熱処理した。プライマー処理後の基材の外周面に、弾性層として2液付加型液状シリコーンゴム混合物をリングコート法にて厚さ200μmで塗布形成し、180℃にて加熱硬化させた。その後、200℃の熱風循環式オーブン中で4時間、2次硬化を行い、弾性層を形成した。
【0055】
次に、弾性層の表面を紫外線照射処理(UV処理)した。このUV処理は必須ではないが、この処理によりシリコーンゴム表面のタック性が低下し、かつ撥水性が変化し親水性にすることができる。このUV処理を行ったのちに、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE−903、信越化学工業株式会社製)をエタノールで質量比5倍に希釈した液を弾性層の表面にスプレーにて塗布し、室温にて自然乾燥させた。尚、乾燥後の膜厚が1.0μmになるようにした。次に、プライマー(商品名:PR−990CL、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)をスプレーにて乾燥後の膜厚が3μmになるように塗布した。その後、熱風循環式オーブン中において温度150℃で10分間加熱乾燥して、塗膜を形成した。
【0056】
次に、平均粒子径が0.1μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(EM−500、三井・デュポンフロロケミカル社製)100質量部に対して、微粉タイプのポリエチレンワックス(商品名:Ceridust3620、クラリアントジャパン株式会社製)を8質量部混合して、表面層形成用塗料を調製した。それを前記プライマー塗膜の表面に表面層の厚みが15μmになるように、スプレーにて塗布した。その後、室温にて10分間乾燥させ、表面層形成用塗料の塗膜を形成した。
【0057】
その後、プライマーおよび表面層形成用塗料の塗膜を、熱風循環式ハイテンプオーブンにより380℃にて3分間加熱して、塗膜中のフッ素樹脂粒子を溶融させた。その際、塗料中に混合した微粉ワックスは、フッ素樹脂と分離しながら溶融・分解され、フッ素樹脂で構成された表面層にディンプルを形成した。次いで、冷風により急冷して定着ベルトを得た。これにより形成された定着ベルトの表面層のRvkは1.2μm、「Rvk/Rpk」は1.8であった。また、表面層に形成されたディンプルの、表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDは26μmであった。各評価結果を表2に示す。
【0058】
<実施例2〜5>
微粉タイプのワックスの種類及び使用量を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルト2〜5を得て評価した。評価結果を表2に示す。
【0059】
<比較例1>
微粉タイプのワックスを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトC1を得て評価した。評価結果を表2に示す。塗料中に微粉ワックスを混合していないため、表面層にディンプルは形成されず、表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDは0μmであった。
【0060】
<比較例2>
水性フッ素樹脂分散塗料として、平均粒子径が0.1μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:EM−500、三井・デュポンフロロケミカル社製)と、平均粒子径が0.2μmのFEPを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:FEP120−JR、三井・デュポンフロロケミカル社製)を7/3(質量比)で混合したディスパージョンを用いた。このディスパージョン100質量部に対して、微粉タイプのポリエチレンワックス(商品名:Ceridust3610、クラリアントジャパン社製)を14質量部混合した表面層形成用塗料を調製した。これら以外は実施例1と同様にして、定着ベルトC2を得て評価した。評価結果を表2に示す。
【0061】
<比較例3>
水性フッ素樹脂分散塗料として、平均粒子径が0.1μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:EM−500、三井・デュポンフロロケミカル社製)と、平均粒子径が10μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:PFA350−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)を8/2(質量比)で混合したディスパージョンを用いた。また、微粉タイプのワックスを用いなかった。これら以外は実施例1と同様にして、定着ベルトC3を得て評価した。評価結果を表2に示す。塗料中に微粉ワックスを混合していないため、表面層にディンプルは形成されず、表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDは0μmであった。
【0062】
<比較例4及び5>
微粉タイプのワックスの種類及び使用量を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトC4及びC5を得て評価した。評価結果を表2に示す。
【0063】
[Rvkと表面マイクロ硬度の関係]
以上の各実施例及び比較例の構成における、Rvkと表面マイクロ硬度の関係を
図4に示す。マイクロ硬度は、Rvkの値が最も小さい比較例1のマイクロ硬度をゼロとしたときの相対的な硬度ΔMDで表している。この結果より、Rvkの値が大きくなるほど、定着部材の表面のマイクロ硬度が低下すること、すなわち表面層が柔軟化することがわかる。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
これらの結果より、フッ素樹脂層からなる表面層の利点である離型性を維持しつつ、硬いフッ素樹脂層の表面にディンプルを形成して柔軟化することにより、紙表面の凹部への追従性を良くして定着性能を向上させる定着部材が提供されることが分かる。