特許第6238821号(P6238821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238821
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】定着部材、その製造方法および定着装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20171120BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   G03G15/20 515
   F16C13/00 E
   F16C13/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-75517(P2014-75517)
(22)【出願日】2014年4月1日
(65)【公開番号】特開2015-197603(P2015-197603A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】浅香 明志
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松本 真持
【審査官】 平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−151446(JP,A)
【文献】 特開2006−091182(JP,A)
【文献】 特開2005−227624(JP,A)
【文献】 特開2003−122164(JP,A)
【文献】 特開2013−064916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状基材の外周面に、弾性層、フッ素樹脂から成る表面層が順次積層され、
該表面層の表面がディンプルを有し、
該ディンプルは、
プラトー構造表面の潤滑性評価パラメータである突出谷部深さRvkが0.8μm以上2.0μm以下であり、且つ、
該突出谷部深さRvkと該表面層の表面の突出山部高さRpkの関係が1.8≦Rvk/Rpk≦20.0であることを特徴とする電子写真用定着部材。
【請求項2】
前記ディンプルは、
前記表面層の表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDが15μm以上26μm以下であり、且つ、
最大長さ分布の標準偏差σと平均最大長さDとの比として定義される変動係数CV=σ/Dが1.0未満である請求項1に記載の電子写真用定着部材。
【請求項3】
前記表面層の厚みが8μm以上25μm以下である請求項1または2に記載の電子写真用定着部材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の電子写真用定着部材を有することを特徴とする定着装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一項に記載の電子写真用定着部材を製造する方法であって、
フッ素樹脂粒子と、該フッ素樹脂粒子の溶融温度以下で分解する微粉ワックスと、が分散されてなる表面層形成用塗料の塗膜を弾性層の上に形成する工程と、
該塗膜中のフッ素樹脂粒子を溶融させると共に、該微粉ワックスを分解せしめる工程と、を有することを特徴とする電子写真用定着部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を用いた画像形成装置の加熱定着装置に用いる定着部材および定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンター、コピー機、ファクシミリ等の電子写真画像形成装置の加熱定着装置に用いられる定着部材として、ベルト形状のもの、ローラ形状のものがある。ベルト基材には、ポリイミドなどの耐熱樹脂材料あるいはニッケル電鋳やSUSなどの金属材料等が用いられる。かかるベルト形状あるいはローラ形状の基材上には、シリコーンゴム等の耐熱ゴムからなる弾性層が設けられる。弾性層を設けることにより、トナーが転写された紙等の記録材が、相対向する二つの定着部材、すなわち加熱部材と加圧部材、が圧接されて形成されたニップ部を通過する際に、かかる弾性層を構成するゴムの柔軟性によって、定着部材の表面が記録材上のトナー画像に沿って変形して、接触面積が広がることで接触熱抵抗が低減される。これによりトナーを一様に溶融して記録材上に定着させることができ、定着ムラが無く高光沢で良質な画像を得ることができる。
【0003】
かかる定着部材においては、トナーに対する離型性を確保するために、上記弾性層の表面にシリコーンオイルを含浸させる方法がとられてきた。しかし、この方法では、離型性を持続させるためにシリコーンオイルを補充しなければならず、それにかかるユーザーメンテナンスの負荷やシステムコストの増大等の問題により、シリコーンオイルを使用しない定着部材が必要とされていた。そこで、シリコーンオイルを使用しない定着部材として、上記弾性層の表面に離型層を形成した構成のものが提案されている(特許文献1)。このような離型層を構成する材料としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、及び、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂(FEP)といったフッ素樹脂が使用されてきた。
【0004】
上述した弾性層の表面に離型層を設けた定着部材、即ち、定着ローラ及び定着ベルト、における離型層の形成手段としては、その弾性層の表面に、前記したフッ素樹脂を主成分とする分散液(水系分散塗料)又は粉体塗料を塗装し、これを融点以上に加熱して成膜する方法、あるいは、別途作成したフッ素樹脂チューブを弾性層の表面に被覆する方法等が使用されている。
【0005】
しかしながら、離型性を確保するために必須のフッ素樹脂は熱伝導率が低いため、定着部材の加熱効率が低いという問題があった。また、弾性層を構成するゴムに比べて硬いフッ素樹脂の層が弾性層の表面に形成された定着部材は、フッ素樹脂層の影響により、前述した記録材との接触熱抵抗の低減に必要な特性である柔軟性が損なわれるので、定着ムラ等の不具合が発生するという問題があった。
【0006】
電子写真画像形成装置では様々な記録材上にトナー画像が形成されるが、中でも記録材として最もよく使用される紙は、表面に紙の繊維による凹凸が存在し、その凹凸の上にトナー画像が形成される。すなわち、表面の起伏が大きい記録材上のトナーに対して、表面の起伏で「凸」に位置する部分では、定着部材の表面とよく密着し熱及び圧力がよく伝わる。これに対して、「凹」に位置する部分では、硬いフッ素樹脂層に覆われた定着部材の表面との密着性が悪くなるため、それぞれの部分でのトナーのつぶれ具合が異なり、結果的に局所的な定着性の悪化や濃度ムラを引き起こすことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−148988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような問題に対し、本発明者等の検討の結果、以下のような知見を得た。すなわち、定着部材の表面層にディンプルを形成することにより、定着部材の表面のマイクロ硬度が低下すること、すなわち表面が柔軟化することがわかった。また、その定着部材を搭載した電子写真画像形成装置によって記録材上に定着されたトナー画像は、定着性を評価する際の擦り試験によっても濃度低下が低減されることがわかった。
【0009】
本発明の目的は、フッ素樹脂からなる表面層の利点である離型性を維持しつつ、硬いフッ素樹脂層の表面にディンプルを形成して表面層を柔軟化することにより、紙表面の凹部への追従性を良くして定着性能を向上させた定着部材を提供することにある。また、本発明の他の目的は、定着ムラのない、高品位な電子写真画像を安定して形成することのできる定着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明は、円筒状基材の外周面に、弾性層、フッ素樹脂から成る表面層が順次積層された電子写真用定着部材であり、該表面層の表面がディンプルを有し、該ディンプルはプラトー構造表面の潤滑性評価パラメータである突出谷部深さRvkが0.8μm以上2.0μm以下であり、且つ該突出谷部深さRvkと該表面層の表面の突出山部高さRpkの関係が1.8≦Rvk/Rpk≦20.0であることを特徴とする。
【0011】
第2の発明は、第1の発明である前記定着部材において、前記ディンプルは、該表面層の表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDが15μm以上26μm以下であり、且つ最大長さ分布の標準偏差σと平均最大長さDとの比として定義される変動係数CV=σ/Dが1.0未満であることを特徴とする。
【0012】
第3の発明は、第1または第2の発明である前記定着部材において、前記表面層の厚みが8μm以上25μm以下であることを特徴とする。
【0013】
第4の発明は、第1〜第3の発明のうちの何れかの発明に係る前記定着部材を有する定着装置であることを特徴とする。
【0014】
第5の発明は、第1〜第3の発明のうちのいずれかの発明に係る前記定着部材を製造する方法であって、フッ素樹脂粒子と、該フッ素樹脂粒子の溶融温度以下で分解する微粉ワックスと、が分散されてなる表面層形成用塗料の塗膜を弾性層の上に形成する工程と、該塗膜中のフッ素樹脂粒子を溶融させると共に、該微粉ワックスを分解せしめる工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、定着ムラがない電子写真画像を安定して形成することに貢献し得る定着部材を提供することができる。さらに本発明によれば、定着ムラのない、高品位な電子写真画像を安定して形成することに貢献し得る定着装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る定着装置の概略構成図(断面図)である。この図面の左上方の図は、定着ベルトの部分拡大図(断面図)である。
図2】本発明に係る実施例から得られたベアリングカーブである。
図3】本発明に係る実施例から得られた二値化画像である。
図4】実施例及び比較例におけるRvkと表面マイクロ硬度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る定着部材は、円筒状基材の外周面に、弾性層、フッ素樹脂から成る表面層が順次積層され、該表面層の表面がディンプルを有し、該ディンプルはプラトー構造表面の潤滑性評価パラメータである突出谷部深さRvkが0.8μm以上2.0μm以下であり、且つ該突出谷部深さRvkと該表面層の表面の突出山部高さRpkの関係が1.8≦Rvk/Rpk≦20.0であることを特徴としている。
【0020】
〔表面層の凹凸〕
ここで、突出谷部深さRvkの数値範囲は、定着部材の柔軟性と離型性のバランスから規定されているものである。Rvkの下限値である「0.8μm」なる値は、弾性層の表面にフッ素樹脂から成る表面層を備えた定着部材において、表面マイクロ硬度を下げて表面層を柔軟化させるために最低限必要な値である。Rvkが0.8μm未満であると、表面層の柔軟性が不十分であるために、定着性の向上効果が得られない。また、Rvkが「2.0μm」を超えると、ディンプルの谷部に付着したトナーを表面層が保持するために、表面層の離型性能が損なわれる。
【0021】
そして、該表面層の表面の突出山部高さRpkに対する突出谷部深さRvkの比である「Rvk/Rpk」の数値範囲は、定着部材の柔軟性の向上及び実現可能な凹凸度の限界という観点から規定されているものである。「Rvk/Rpk」の値が「1.8」未満であると、凹部からなるディンプルと同程度に存在する凸部によって上記のような柔軟化が阻害されて、十分な定着性の向上効果が得られない。また、Rpkを小さくすることが柔軟化を阻害することはないが、Rvkの上限値である2.0μmを超えない範囲で、凸部を減らしRpkを十分に小さくした場合においても、実現可能な値として「Rvk/Rpk」の上限値を「20.0」と規定したものである。
【0022】
また、前記ディンプルは、該表面層の表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDが15μm以上26μm以下であることが好ましい。15μm以上であれば、ディンプル内にトナーが付着しにくく、表面層の離型性能が損なわれない。また、26μm以下であれば、ディンプルの存在しない平坦部分の割合が相対的に多いため、表面層の耐久性、すなわち耐摩耗強度の点で問題となることもない。
【0023】
さらに、前記平均最大長さDは、最大長さ分布の標準偏差σと平均最大長さDとの比として定義される変動係数CV=σ/Dが1.0未満であることが好ましい。この範囲内であれば、平均値に対する分布のばらつきの影響を大きく受けることなく、平均値から離型性や耐久性の良否を判断することができる。
【0024】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0025】
<定着装置>
本発明に係る定着装置について説明する。本発明に係る定着装置は、電子写真画像形成装置に用いる定着装置であって、前述のような本発明の定着部材が定着ベルトあるいは定着ローラとして配置されているものである。電子写真画像形成装置としては、感光体、潜像形成手段、形成した潜像をトナーで現像する手段、現像したトナー像を記録材に転写する手段、および、記録材上のトナー像を定着する手段等を有する電子写真画像形成装置が挙げられる。
【0026】
本発明に係る定着装置の一実施態様を示す断面図を図1に示す。以下の説明において、定着装置及びこの定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは記録材の面において記録材の搬送方向と直交する方向である。短手方向とは記録材の面において記録材の搬送方向と平行な方向である。長さとは長手方向の寸法である。幅とは短手方向の寸法である。記録材に関し、幅方向とは記録材の面において記録材の搬送方向と直交する方向である。幅とは幅方向の寸法である。
【0027】
かかる定着装置は、加熱体としてのセラミックスヒータ1と、支持部材としてのヒータホルダ2と、加熱回転体としての無端状の定着ベルト3と、加圧回転体(バックアップ部材)としての加圧ローラ4などを有している。
【0028】
ヒータホルダ2は、剛性を有する耐熱性材料によって横断面略樋形状に形成されている。そしてヒータホルダの短手方向中央の下面に設けられた溝部でセラミックスヒータ(以下、「ヒータ」と記す)を支持している。
【0029】
定着ベルト3は、ヒータを支持させたヒータホルダの外周にルーズに外嵌されている。さらに定着ベルトの内周面(内面)には、ヒータとの摺動性を向上させるためにグリスが塗られている。
【0030】
加圧ローラ4は、定着ベルトの下方で定着ベルトと平行に配置されている。そしてこの加圧ローラとヒータとで定着ベルトを所定の加圧機構によりヒータ側に加圧している。これにより加圧ローラの外周面(表面)を定着ベルトの外周面(表面)に加圧状態で接触させ、後述の弾性層を弾性変形させることによって定着ベルトの表面と加圧ローラの表面との間に所定幅の定着ニップ部(ニップ部)Nを形成している。
【0031】
<定着部材>
電子写真用定着部材の代表例として定着ベルトについて、更に詳しく説明する。定着ベルト3は、図1中の定着ベルトの部分拡大図に示すように、内側から基材5、弾性層6、表面層7が設けられた複層構造を有する無端状のベルト部材である。
【0032】
〔基材〕
円筒状基材は、例えば、薄肉の可撓性を有する無端状のベルトである。基材の材料として、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の薄肉耐熱性樹脂が用いられる。またより熱伝導性を高めるために、SUS、Ni等の薄肉金属を用いてもよい。また、基材は熱容量を小さくすることでクイックスタート性を満足させ、さらに一定の機械的強度も満足させる必要があるため、厚みは5μm以上100μm以下、好ましくは20μm以上85μm以下とすることが望ましい。
【0033】
〔弾性層〕
基材の外周面にはシリコーンゴム等で形成される弾性層6が形成されている。弾性層を設けることで、高光沢で定着ムラのない良質画像を得ることが可能になる。すなわち、弾性層が定着ニップ部Nで記録材P上のトナーや、記録材Pの紙繊維の形状に対して変形し、未定着のトナー画像を包み込むことによって、トナー画像に対して均一に熱を与えることができるようになる。弾性層の厚みは薄すぎると弾性が十分に発揮できないため、高光沢で定着ムラのない画像を得ることができず、厚すぎると定着ベルトの熱容量が大きくなって、クイックスタート性が低下する。そのため、弾性層の厚みとしては、30μm以上500μm以下、好ましくは100μm以上300μm以下とすることが望ましい。
【0034】
本発明に係る弾性層を構成するシリコーンゴムの原料は、室温で流動性を持つポリマーであって、加熱により硬化が進行するものであり、硬化後に適度に低硬度で、加熱加圧定着装置で用いるのに十分な耐熱性と変形回復力を有する液状シリコーンゴムである。特に、加工性が良好で寸法精度の安定性が高く、硬化反応時に反応副生成物が発生しないなどの生産性に優れる理由から、付加反応架橋型の液状シリコーンゴムを用いることが、より好ましい。
【0035】
液状シリコーンゴムは、例えばオルガノポリシロキサン(A液)およびオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B液)を含み、さらに触媒や他の添加物を適宜含む組成物である。オルガノポリシロキサンはシリコーンゴム原料のベースポリマーであり、その分子量は、各種充填剤の混合攪拌や、それにより得られた混合物の流動性を適当な範囲とするために、数平均分子量5000以上10万以下が好ましく、質量平均分子量1万以上50万以下がより好ましい。
【0036】
弾性層はシリコーンゴム単独で構成された場合、熱伝導率が低い。熱伝導率が低いと、ヒータから記録材に対して効果的に熱を伝えることが困難になり、加熱不足による定着ムラなどの画像不良を生じるおそれがある。弾性層の熱伝導率を上げるために、弾性層を構成するシリコーンゴム中に高熱伝導性フィラー(以下「フィラー」と称する)を混入させることができる。フィラーとしては、SiC、ZnO、Al、AlN、MgO、カーボン等が用いられる。また、これらのフィラーは単一で用いても良く、2種類以上を混合物として使用してもよい。これらフィラーを弾性層に混入させることで、弾性層に導電性を付与することも可能である。
【0037】
〔表面層〕
弾性層の外周面には、例えば、四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体樹脂(FEP)等のフッ素樹脂から形成される表面層7が設けられている。
【0038】
表面層はフッ素樹脂分散液を塗布することにより形成された塗膜を加熱することによって形成されたものであることが好ましい。また表面層中に存在するディンプルは、フッ素樹脂と該フッ素樹脂の溶融温度以下で分解する微粉ワックスとを含む分散液を塗布することにより形成された塗膜に対して、該塗膜を加熱硬化する際に該微粉ワックスを分解させることによって形成されたものであることが好ましい。
【0039】
表面層の厚みは、1μm以上50μm以下、好ましくは8μm以上25μm以下とすることが望ましく、弾性層をチューブで被覆したものでもよく、弾性層の表面を塗料でコートしたものであってもよい。
【0040】
表面層としてPFAチューブを用いる場合、PFAチューブの膜厚は10μm以下では均一なチューブの成型や被覆が難しくなるため、15μm以上が好ましい。一方で、膜厚が25μmを超えるとチューブ自体が硬いため、チューブにディンプルを形成したとしても、紙表面への追従性を良くして定着性能を向上させるほど定着ベルトの表面を柔軟化できない。このため、表面層のPFAチューブの膜厚は25μm以下にすることが好ましい。
【0041】
表面層がフッ素樹脂コーティング層の場合には、チューブに比べて表面硬度が硬くなりにくい。フッ素樹脂コーティング層の膜厚は、薄くコートする場合には耐久性に問題が生じ、厚くコートする場合には均一性に問題が生じるため、実際には8μm以上30μm以下にすることが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明の詳細を説明する。はじめに、実施例および比較例における評価方法について説明する。
【0043】
<1.定着部材の表面形状の解析方法>
〔1−1.Rvk及びRvk/Rpk〕
定着部材の表面形状の計測には、光干渉方式の非接触表面形状システム(商品名:VertScan 2.0/R3300G Lite、株式会社菱化システム製)を用いる。
【0044】
潤滑性評価パラメータである突出谷部深さRvkおよび突出山部高さRpkは、定着部材の表面画像のベアリング解析により得られるベアリングカーブから算出する。ここで、該計測システムにおけるベアリングカーブとはJIS B 0601:2001にて定義されている「負荷曲線」と同義であり、視野画像内の各画素における表面高さデータ全測定点から算出されたものである。本発明に係る実施例から得られたベアリングカーブを図2に示す。突出谷部深さRvkおよび突出山部高さRpkの詳細は、JIS B 0671:2002で規定されている。Rvkおよび「Rvk/Rpk」の値は、各定着部材について任意の5ヵ所にて得られた5回測定値の平均値とする。
【0045】
〔1−2.ディンプルの最大長さ〕
表面層に形成されたディンプルの最大長さは、前記計測システムでの孔解析により算出する。以下に、孔解析の具体的な方法を説明する。
【0046】
まず、視野画像内の各画素の表面高さデータに対して、ブロックサイズ100画素ごとに曲面補正を行い、得られた粗さデータの高さゼロの位置から−1.0μmを二値化閾値に設定する。この際、二値化時のベース面(高さゼロの面)が孔自体のデータを含んでしまう可能性を考慮し、「再二値化」処理を行うことによって孔を含まない面を高さゼロの面に設定する。二値化閾値面(−1.0μm)より下の画素が隣接する領域をラベリングし、各ラベル領域ごとに最大長さを算出する。ここで、最大長さとは、一つのラベル領域において重心を通る径のうち最長のものをいう。発見されたラベル領域のうち「孔」領域として判定するための基準として、最大長さの上限値を100μm、下限値を1μmに設定する。
【0047】
本発明に係る実施例から得られた二値化画像を図3に示す。平均最大長さDとは、二値化画像内の各「孔」領域の最大長さの平均値である。実施例および比較例に記載の平均最大長さDは、各定着部材における任意の5ヵ所にて得られた平均最大長さの平均値とする。また、二値化画像内における最大長さの分布から算出される標準偏差σと平均最大長さDとの比を変動係数CV=σ/Dとして定義する。上記平均最大長さDが平均値として意味をなすための前提条件として、二値化画像内における最大長さのばらつきを表すCVが1.0未満であることとする。
【0048】
<2.定着部材の表面層の硬さ測定>
定着部材の表面層の硬さは、JIS−Aタイプのマイクロ硬度計MD−1型(高分子計器株式会社製)を用いて、温度23℃、相対湿度55%の環境においてピークホールドモードで測定する。マイクロ硬度計は、ゴム材料、熱可塑性エラストマー、軟質プラスチックなどの厚さ2mm以下の薄物の硬度測定に適している。定着部材の端部から15mm以上25mm以下の位置の両端部及び中央部の合計3点について、各点円周方向90°ごとに合計4点測定する。得られた合計12点の測定値の平均値をマイクロ硬度とする。
【0049】
弾性層のシリコーンゴムが低硬度であるほど、定着部材の表面マイクロ硬度は低くなるため、定着性は良くなるが、その一方、熱劣化が起き易くなるために過度に低硬度のものを用いることができない。また、マイクロ硬度は弾性層の厚みとも関係があり、弾性層の厚みを大きくするほどマイクロ硬度を低くできるが、前述したとおり、厚みが大きすぎると定着部材の熱容量が大きくなり、クイックスタート性が低下する。
【0050】
本発明では、表面層の形状起因による硬さ(柔軟性)と定着性の比較を目的としていることから、マイクロ硬度に影響しうる弾性層のゴム硬度と厚みは、各実施例および比較例において同一とする。すなわち、実施例および比較例の弾性層としては、高熱伝導性フィラーであるSiCを50体積部混入させた、JIS−A硬度で10°のシリコーンゴム層を200μmの厚みで設けることとする。
【0051】
<3.定着部材の定着性の評価>
定着性の評価は、温度15℃、相対湿度20%の環境に保たれた実験室内で行う。定着部材を図1に示す定着装置に装着し、この定着装置を、60枚/分(プロセススピード350mm/sec)の高速定着を可能とするレーザービームプリンタに組み込む。通紙中の定着ベルトの表面温度は200℃になるように設定する。記録材としては坪量75g/cm、レターサイズのラフ紙(Fox River Paper社製 フォックスリバーボンド)を用いる。
【0052】
ここで定着性とは濃度低下率(単位:%)をもって表される。濃度低下率とは、定着装置が冷えた状態から、黒およびハーフトーン(灰色)の5mm角の未定着画像がレターサイズ用紙の上に9ヵ所配された記録材Pを定着装置によって定着させ、出力された記録材Pの画像を一定の条件で擦ったときの、擦り前の濃度から擦り後の濃度を引いた濃度低下分を、擦り前の濃度で割ったものとして算出する。このとき、画像の濃度は濃度測定器(マクベス社製)にて測定する。よって、この擦り試験による濃度低下率が小さいほど定着性が良いということになる。この濃度低下率はレターサイズ用紙上の9ヵ所の黒およびハーフトーン画像の全てに関して算出し、250枚を連続プリントして、以下の評価基準で表示する。
×:250枚について濃度低下率が20%を超える箇所が1ヵ所以上存在する。
○:上記の「×」に該当しない。
【0053】
<4.定着部材の表面の離型性(汚れ付着性)の評価>
離型性の評価は、定着部材を定着性の評価と同様の定着装置およびレーザービームプリンタに組み込んで行う。記録材としては坪量68g/cm、A4サイズのCS−680(キヤノン株式会社製)を用いる。10000枚を連続プリントした後の、定着部材の表面を目視およびVertScanで観察し、その汚れの程度で定着部材の汚れ難さを評価する。すなわち、定着部材の表面が汚れやすい場合には、表面層に形成したディンプルにトナーが付着することで孔が塞がるため、10000枚通紙前後の孔解析の結果を比較することで、定着部材の表面の汚れ難さを知ることができる。評価基準は以下の通りである。
○:通紙前と比較して、ディンプルが半数以上残っている。
×:通紙前と比較して、紙粉およびトナーの付着によりディンプルが半数未満になっている。
【0054】
<実施例1>
円筒状基材としてステンレス鋼(SUS)により製作された外径30mm、厚さ35μm、長さ240mmのものを使用した。上記基材の外周面にプライマー(商品名:DY39−051、東レ・ダウコーニング株式会社製)を塗布し、熱風循環式オーブンで150℃、30分間熱処理した。プライマー処理後の基材の外周面に、弾性層として2液付加型液状シリコーンゴム混合物をリングコート法にて厚さ200μmで塗布形成し、180℃にて加熱硬化させた。その後、200℃の熱風循環式オーブン中で4時間、2次硬化を行い、弾性層を形成した。
【0055】
次に、弾性層の表面を紫外線照射処理(UV処理)した。このUV処理は必須ではないが、この処理によりシリコーンゴム表面のタック性が低下し、かつ撥水性が変化し親水性にすることができる。このUV処理を行ったのちに、シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE−903、信越化学工業株式会社製)をエタノールで質量比5倍に希釈した液を弾性層の表面にスプレーにて塗布し、室温にて自然乾燥させた。尚、乾燥後の膜厚が1.0μmになるようにした。次に、プライマー(商品名:PR−990CL、三井・デュポンフロロケミカル株式会社製)をスプレーにて乾燥後の膜厚が3μmになるように塗布した。その後、熱風循環式オーブン中において温度150℃で10分間加熱乾燥して、塗膜を形成した。
【0056】
次に、平均粒子径が0.1μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(EM−500、三井・デュポンフロロケミカル社製)100質量部に対して、微粉タイプのポリエチレンワックス(商品名:Ceridust3620、クラリアントジャパン株式会社製)を8質量部混合して、表面層形成用塗料を調製した。それを前記プライマー塗膜の表面に表面層の厚みが15μmになるように、スプレーにて塗布した。その後、室温にて10分間乾燥させ、表面層形成用塗料の塗膜を形成した。
【0057】
その後、プライマーおよび表面層形成用塗料の塗膜を、熱風循環式ハイテンプオーブンにより380℃にて3分間加熱して、塗膜中のフッ素樹脂粒子を溶融させた。その際、塗料中に混合した微粉ワックスは、フッ素樹脂と分離しながら溶融・分解され、フッ素樹脂で構成された表面層にディンプルを形成した。次いで、冷風により急冷して定着ベルトを得た。これにより形成された定着ベルトの表面層のRvkは1.2μm、「Rvk/Rpk」は1.8であった。また、表面層に形成されたディンプルの、表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDは26μmであった。各評価結果を表2に示す。
【0058】
<実施例2〜5>
微粉タイプのワックスの種類及び使用量を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルト2〜5を得て評価した。評価結果を表2に示す。
【0059】
<比較例1>
微粉タイプのワックスを用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトC1を得て評価した。評価結果を表2に示す。塗料中に微粉ワックスを混合していないため、表面層にディンプルは形成されず、表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDは0μmであった。
【0060】
<比較例2>
水性フッ素樹脂分散塗料として、平均粒子径が0.1μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:EM−500、三井・デュポンフロロケミカル社製)と、平均粒子径が0.2μmのFEPを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:FEP120−JR、三井・デュポンフロロケミカル社製)を7/3(質量比)で混合したディスパージョンを用いた。このディスパージョン100質量部に対して、微粉タイプのポリエチレンワックス(商品名:Ceridust3610、クラリアントジャパン社製)を14質量部混合した表面層形成用塗料を調製した。これら以外は実施例1と同様にして、定着ベルトC2を得て評価した。評価結果を表2に示す。
【0061】
<比較例3>
水性フッ素樹脂分散塗料として、平均粒子径が0.1μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:EM−500、三井・デュポンフロロケミカル社製)と、平均粒子径が10μmのPFAを水に分散させたフッ素樹脂分散塗料(商品名:PFA350−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)を8/2(質量比)で混合したディスパージョンを用いた。また、微粉タイプのワックスを用いなかった。これら以外は実施例1と同様にして、定着ベルトC3を得て評価した。評価結果を表2に示す。塗料中に微粉ワックスを混合していないため、表面層にディンプルは形成されず、表面粗さデータの高さゼロの位置からの深さ1.0μmにおける平均最大長さDは0μmであった。
【0062】
<比較例4及び5>
微粉タイプのワックスの種類及び使用量を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトC4及びC5を得て評価した。評価結果を表2に示す。
【0063】
[Rvkと表面マイクロ硬度の関係]
以上の各実施例及び比較例の構成における、Rvkと表面マイクロ硬度の関係を図4に示す。マイクロ硬度は、Rvkの値が最も小さい比較例1のマイクロ硬度をゼロとしたときの相対的な硬度ΔMDで表している。この結果より、Rvkの値が大きくなるほど、定着部材の表面のマイクロ硬度が低下すること、すなわち表面層が柔軟化することがわかる。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
これらの結果より、フッ素樹脂層からなる表面層の利点である離型性を維持しつつ、硬いフッ素樹脂層の表面にディンプルを形成して柔軟化することにより、紙表面の凹部への追従性を良くして定着性能を向上させる定着部材が提供されることが分かる。
【符号の説明】
【0067】
1 セラミックスヒータ
2 ヒータホルダ
3 定着ベルト
4 加圧ローラ
5 基材
6 弾性層
7 表面層
図1
図2
図3
図4