(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238831
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】バルサルタン含有錠剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/41 20060101AFI20171120BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20171120BHJP
A61K 31/549 20060101ALI20171120BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20171120BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
A61K31/41
A61K47/38
A61K31/549
A61K47/04
A61K9/20
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-91072(P2014-91072)
(22)【出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2015-209386(P2015-209386A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】橋本 悠作
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】保坂 昌一
(72)【発明者】
【氏名】岡村 康史
【審査官】
馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/100112(WO,A1)
【文献】
特開2014−062064(JP,A)
【文献】
特表2000−506540(JP,A)
【文献】
特開平11−322802(JP,A)
【文献】
特開2001−114703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/41
A61K 9/20
A61K 31/549
A61K 47/04
A61K 47/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
A61K 31/41
A61K 9/20
A61K 31/549
A61K 47/04
A61K 47/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療的有効量のバルサルタンと、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと、を含む造粒物からなる錠剤であって、
前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、3.0以下のアスペクト比、45°未満の安息角、50μm以上の平均粒子径、0.40g/cm3以上の嵩密度及び0.65g/cm3以上のタップ密度を有するものであり、かつ
前記造粒物中に、前記錠剤の全重量に対して前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%以上60重量%以下含有することを特徴とする、バルサルタン含有錠剤。
【請求項2】
前記錠剤に、2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.4mPa・s以上3.6mPa・s以下の粘度を示すヒプロメロース、又は2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.0mPa・s以上2.9mPa・s以下の粘度を示すヒドロキシプロピルセルロースをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のバルサルタン含有錠剤。
【請求項3】
有効成分として、治療的有効量のヒドロクロロチアジドをさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のバルサルタン含有錠剤。
【請求項4】
前記錠剤にケイ酸と、滑沢剤とをさらに含むことを特徴とする、請求項1乃至3の何れか一に記載のバルサルタン含有錠剤。
【請求項5】
治療的有効量のバルサルタンと、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと、を含有する造粒物からなる錠剤の製造方法であって、
3.0以下のアスペクト比、45°未満の安息角、50μm以上の平均粒子径、0.40g/cm3以上の嵩密度及び0.65g/cm3以上のタップ密度を有する前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤溶液中に分散させて造粒液を調製し、
前記錠剤の全重量に対して前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%以上60重量%以下含有させるように前記造粒液を添加して、前記造粒物を調製することを特徴とする、バルサルタン含有錠剤の製造方法。
【請求項6】
前記結合剤の溶液がヒプロメロース又はヒドロキシプロピルセルロースの水溶液であることを特徴とする、請求項5に記載のバルサルタン含有錠剤の製造方法。
【請求項7】
前記ヒプロメロースは、2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.4mPa・s以上3.6mPa・s以下の粘度を示すことを特徴とする、請求項6に記載のバルサルタン含有錠剤の製造方法。
【請求項8】
前記ヒドロキシプロピルセルロースは、2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.0mPa・s以上2.9mPa・s以下の粘度を示すことを特徴とする、請求項6に記載のバルサルタン含有錠剤の製造方法。
【請求項9】
有効成分として治療的有効量のヒドロクロロチアジドをさらに含むことを特徴とする、請求項5乃至8の何れか一に記載のバルサルタン含有錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルサルタン含有錠剤及びその製造方法に関する。特に、バルサルタンの溶出性に優れたバルサルタン含有錠剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンジオテンシンII受容体拮抗薬であるバルサルタンは、高血圧症の治療薬として、広く使用されている。また、バルサルタンは、他の薬効成分と組み合わせた配合剤としても使用されており、例えば、利尿作用と降圧効果を有するヒドロクロロチアジドとの配合剤などが知られている。
【0003】
これらのバルサルタン含有錠剤は乾式造粒法により製造されることもある(特許文献1)が、乾式造粒法は、例えば、特許文献3にも記載されている通り、粉塵の発生や、打錠前粉末の流動性の低下等により、打錠時における充填不良、重量のバラツキなどの問題を生じることがある。
【0004】
このため、粉末の凝集性の改善、圧縮性・含量均一性の向上が見込まれる湿式造粒法を用いたバルサルタン含有錠剤の製造方法についての検討もなされており、例えば、特許文献2には、有効成分をラクトース及びポテトスターチと混合し、混合物をゼラチンのアルコール性溶液で湿潤化して造粒する方法、有効成分をラクトース及びコーンスターチと混合し、混合物をコーンスターチと水を加温したペーストで湿潤化して造粒する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、カプセル製剤の製造時に、精製水中に溶解したポビドンおよびラウリル硫酸ナトリウムを含む造粒溶液で、バルサルタンおよび微結晶セルロースを流動層造粒機で造粒する製造方法が記載されている。特許文献4には、非水溶媒および水中に溶解した、界面活性剤、非水溶性サルタン及びポリマーを、噴霧乾燥機を使用して噴霧乾燥し、白色乾燥粉末を産する非水溶性サルタンを含む組成物の製造方法が記載されている。また、特許文献5には、バルサルタン、微晶質セルロース101、クロスポビドン、及びポビドンK-30を流動層混合機/造粒機で均一化して顆粒を形成し、顆粒を微晶質セルロース102、コロイド状無水シリカ、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、及びクロスポビドンの混合物に加える固形バルサルタン組成物の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2000−506540号公報
【特許文献2】特開平4−235149号公報
【特許文献3】特表2002−533390号公報
【特許文献4】特表2009−542764号公報
【特許文献5】特表2010−535754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バルサルタン含有錠剤の製造にあたり、一般に繁用される湿式造粒法の製造条件を用いて湿式造粒を行った場合、得られた錠剤からのバルサルタンの溶出が著しく低いことが、本発明者の予備的検討により判明した。
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するものであって、湿式造粒法を用いてバルサルタンの良好な溶出性を有するバルサルタン含有錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によると、治療的有効量のバルサルタンと、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと、を含有する造粒物からなる錠剤であって、前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが、3.0以下のアスペクト比、45°未満の安息角、50μm以上の平均粒子径(レーザー回折法)、0.40g/cm
3以上の嵩密度及び0.65g/cm
3以上のタップ密度を有するものであり、かつ、前記造粒物中に、前記錠剤の全重量に対して前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを20重量%以上60重量%以下含有するバルサルタン含有錠剤が提供される。
【0010】
なお、アスペクト比は、特開2011-195665の段落[0014]に記載されている方法を用いて測定することができる。即ち、50〜200個程度の粒子について、一般的な光学顕微鏡にて倍率100倍程度で粒子毎に長径、短径の長さを測定してその比を求め、その平均値で表現できる。
【0011】
本発明の一実施形態に係るバルサルタン含有錠剤は、前記造粒物中に、2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.4mPa・s以上3.6mPa・s以下の粘度を示すヒプロメロース又は2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.0mPa・s以上2.9mPa・s以下の粘度を示すヒドロキシプロピルセルロースをさらに含んでもよい。
【0012】
本発明の一実施形態に係るバルサルタン含有錠剤は、前記治療的有効量のバルサルタンに加えて治療的有効量のヒドロクロロチアジドを有効成分としてさらに含んでもよい。
【0013】
本発明の一実施形態に係るバルサルタン含有錠剤は、前記錠剤にケイ酸と、滑沢剤とをさらに含んでもよい。
【0014】
また、本発明の一実施形態によると、治療的有効量のバルサルタンと、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと、を含有する造粒物からなる錠剤の製造方法であって、3.0以下のアスペクト比、45°未満の安息角、50μm以上の平均粒子径、0.40g/cm
3以上の嵩密度及び0.65g/cm
3以上のタップ密度を有する前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤溶液中に分散させて造粒液を調製し、前記低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤の全重量あたり20重量%以上60重量%以下含有させるように前記造粒液を添加して、前記造粒物を調製することを特徴とする、バルサルタン含有錠剤の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の一実施形態に係るバルサルタン含有錠剤の製造方法は、前記結合剤溶液がヒプロメロース又はヒドロキシプロピルセルロースの水溶液であってもよい。
【0016】
本発明の一実施形態に係るバルサルタン含有錠剤の製造方法は、前記ヒプロメロースが2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.4mPa・s以上3.6mPa・s以下の粘度を示してもよい。
【0017】
本発明の一実施形態に係るバルサルタン含有錠剤の製造方法は、前記ヒドロキシプロピルセルロースが2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.0mPa・s以上2.9mPa・s以下の粘度を示してもよい。
【0018】
本発明の一実施形態に係るバルサルタン含有錠剤の製造方法は、有効成分として、前記治療的有効量のバルサルタンに加えて治療的有効量のヒドロクロロチアジドをさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、湿式造粒法を用いてバルサルタンの良好な溶出性を有するバルサルタン含有錠剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例に係る製剤処方の構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施例に係る試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るバルサルタン含有錠剤について説明する。但し、本発明のバルサルタン含有錠剤は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0022】
本発明者らは、湿式造粒法を用いて良好なバルサルタンの溶出性を有するバルサルタン含有錠剤を提供すべく鋭意検討した結果、ある種の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを、結合剤溶液中に分散させ、これを造粒液としてバルサルタン含有造粒物を調製することにより、バルサルタンの溶出性が良好なバルサルタン含有錠剤が得られることを期せずして発見し、本願発明を完成させた。
【0023】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、湿式造粒法、特に流動層造粒法において、3.0以下のアスペクト比、45°未満の安息角、50μm以上の平均粒子径、0.40g/cm
3以上の嵩密度及び0.65g/cm
3以上のタップ密度を有する低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤溶液中に分散させて使用する点が上述した各特許文献とは大きく異なる。低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、崩壊剤として粉体で添加するのが一般的であり、分散液の形態で、しかも湿式造粒法の造粒液として用いることはほとんど行われていない。
【0024】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、バルサルタン含有造粒物中に、本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを、錠剤の全重量に対して20重量%以上60重量%以下、より好ましくは35重量%以上50重量%以下含有する。
【0025】
本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとしては、例えば、信越化学工業株式会社のL−HPC(登録商標)(LH−B1)を用いることができるが、これに限定されるものではない。L−HPC(LH−B1)は、アスペクト比が2.5、平均粒子径が55μm、嵩密度が0.48g/cm
3、タップ密度が0.69g/cm
3、安息角が40°である。
【0026】
なお、特開2010−189384号公報には、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの水分散液を流動層造粒工程で噴霧することにより造粒物の表面改質を行い、錠剤硬度と崩壊性を得ることが記載されているが、有効成分の溶出性に関しては何ら記載がない。
【0027】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、バルサルタンの錠剤からの溶出性を大幅に改善するという、前記特許文献からは予想できない効果をもたらすものである。
【0028】
さらに、前記特許文献における低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの錠剤中の添加量は、1質量%以上20質量%以下であり、20質量%を超えると成形性、崩壊性に顕著な向上が見られないと記載しているが、本発明においては、錠剤の全重量に対して20重量%以上を造粒物中に含有させることが望ましい。
【0029】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、治療的有効量のバルサルタンを含有することができる。例えば、1錠あたり20mg、40mg、80mg又は160mg含有するようにしてもよい。また、本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、バルサルタン以外の有効成分との配合剤であってもよい。例えば、治療的有効量のヒドロクロロチアジドを含有することができ、例えば、6.25mg又は12.5mgのヒドロクロロチアジドをさらに含有するようにしてもよい。本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、ヒドロクロロチアジドを含有する場合でも、上記の特性を有する本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを、結合剤溶液中に分散させ、これを造粒液とする湿式造粒法により、造粒物中に低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤の全重量あたり20重量%以上60重量%以下の量で含む、バルサルタン・ヒドロクロロチアジドの造粒物を得ることができる。得られた造粒物を用いて製造された錠剤は、良好なバルサルタンの溶出性を有する。
【0030】
また、本発明に係るバルサルタン含有錠剤の製造において使用される結合剤溶液は、結合剤としてヒプロメロース又はヒドロキシプロピルセルロースを含むことが好ましい。ヒプロメロースの場合は、2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.4mPa・s以上3.6mPa・s以下のものが特に好ましい。ヒドロキシプロピルセルロースの場合は、2重量%の水溶液を20℃において測定したときに、2.0mPa・s以上2.9mPa・s以下の粘度を示すものが特に好ましい。本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、ヒプロメロース又はヒドロキシプロピルセルロースを錠剤の全重量に対して1重量%以上20重量%以下、好ましくは2重量%以上10重量%以下、より好ましくは4重量%以上8重量%以下含有する。
【0031】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤の製造において使用される結合剤溶液に添加可能なヒプロメロースとしては、例えば、信越化学工業株式会社のTC−5Eを用いることができるが、これに限定されるものではない。また、本発明に係るバルサルタン含有錠剤の製造において使用される結合剤溶液に添加可能なヒドロキシプロピルセルロースとしては、例えば、日本曹達株式会社のNISSO HPC−SSLを用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0032】
バルサルタンに起因する付着性を改善するため、本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、ケイ酸を含むことが好ましい。添加するケイ酸としては、無水ケイ酸が好ましく、特に、軽質無水ケイ酸が好ましい。本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、錠剤中にケイ酸を1重量%以上20重量%以下、より好ましくは、2重量%以上10重量%以下含有する。
ケイ酸は、一般的な使用方法、即ち、バルサルタン含有造粒物に粉体として添加し、その後打錠しても良い。あるいは、バルサルタンおよび必要に応じて他の有効成分を含む粉末組成物にケイ酸を粉体として添加した後、流動層造粒法により造粒することも可能である。
【0033】
さらに、ケイ酸の一部を本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとともに造粒液中に分散したものを用いて流動層造粒することにより、本発明に係るバルサルタン含有錠剤からのバルサルタンの溶出率がさらに向上するため、より好ましい。
【0034】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、上記の他、一般的に使用される賦形剤及び/又は補助剤を追加することが可能であり、例えば、結合剤、崩壊剤、希釈剤、担体、滑沢剤、流動化剤、着色剤、pH制御剤が挙げられる。
【0035】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤において、崩壊剤は、バルサルタン含有造粒物に粉体として添加されるものであり、造粒液中に分散して用いられる低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとは別に使用される。
【0036】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤において使用可能な崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドンが挙げられ、これらの崩壊剤は適宜組み合わせて添加することが出来る。本発明に係る造粒液に分散して用いるものと同じ低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが、特に好ましい。
【0037】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、軽質無水ケイ酸等を挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウムを好適に用いることができる。
【0038】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤において、軽質無水ケイ酸以外の流動化剤は、打錠前に粉体で添加することができる。例えば、コロイドシリカ、タルク等が挙げられる。
【0039】
染料や顔料を含む着色剤としては、例えば、酸化鉄レッド又はイエロー、二酸化チタン、タルク等が挙げられる。pH制御剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、フマル酸、クエン酸ナトリウム、二塩基性リン酸カルシウム、二塩基性リン酸ナトリウム等が挙げられる。また、これらの賦形剤及び/又は補助剤の2種以上の混合物を選択することができる。
【0040】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、3.0以下のアスペクト比、45°未満の安息角、50μm以上の平均粒子径、0.40g/cm
3以上の嵩密度及び0.65g/cm
3以上のタップ密度を有する低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤溶液中に分散させ、これを造粒液として湿式造粒法により得た造粒物を用いて製造されるものであり、それによってバルサルタンの良好な溶出性を実現することができる。
【0041】
本発明に係るバルサルタン含有錠剤の製造において、各種湿式造粒法の中でも流動層造粒法や転動流動層造粒法が好ましく、特に流動層造粒法が好ましい。例えば、本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを錠剤の全重量あたり20重量%以上60重量%以下の量で含むバルサルタン造粒物を調製するにあたり、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを結合剤溶液、例えば、ヒプロメロース又はヒドロキシプロピルセルロースの水溶液に分散させ、これを造粒液として、バルサルタンならびに必要に応じてケイ酸を含む粉末組成物を流動層造粒法により造粒する。なお、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースは、全量を造粒液に分散させずに、一部をバルサルタンとともに粉体で混合、添加しても良い。得られた造粒物を整粒して整粒物とし、滑沢剤及び崩壊剤を混合して、常法により打錠することにより、本発明に係るバルサルタン含有錠剤を得ることができる。なお、撹拌造粒法や練合造粒法を用いた場合には、得られる造粒物が硬く、崩壊性や溶出性が劣るため適さない。
【0042】
また、本発明に係るバルサルタン含有錠剤は、以下のように、ヒドロクロロチアジド配合錠として製造することができる。有効成分であるバルサルタンならびにヒドロクロロチアジドを含む粉末組成物に、必要に応じてケイ酸を混合し、本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの特定量を結合剤の溶液、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースの水溶液中に分散させ、これを造粒液として流動層造粒法によりバルサルタンとヒドロクロロチアジドを含む造粒物を得ることもできる。得られた造粒物を整粒して整粒物とし、滑沢剤及び崩壊剤を混合して打錠することにより、本発明に係るバルサルタン含有錠剤(ヒドロクロロチアジド配合錠)を製造することができる。なお、打錠は、市販の打錠機を使用して、常法により行うことができる。
【実施例】
【0043】
上述した本発明に係るバルサルタン含有錠剤の具体的な製造例及び試験結果を示して、より詳細に説明する。
【0044】
(実施例1)
実施例1として、1錠中にバルサルタン80mgおよびヒドロクロロチアジド12.5mgを有効成分として含有する錠剤を、以下のように製造した。流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、バルサルタン160.0gとヒドロクロロチアジド25.0g及び軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)12.0gを混合し、予め低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社)160.0gを分散させたヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC-SSL、日本曹達株式会社、24.0g)水溶液を造粒液として噴霧し、造粒及び乾燥を行い、造粒物を得た。得られた造粒物を22号篩で整粒し、この整粒物に、ステアリン酸マグネシウム4.0g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社)20.0gを混合した後、ロータリー式打錠機(菊水製作所)に充填して、打錠し、錠剤重量202.5mgの錠剤を得た。
【0045】
(実施例2)
実施例2として、有効成分に混合する軽質無水ケイ酸粉末の量を32.0gとした以外は、実施例1と同様の工程にて、錠剤重量212.5mgの錠剤を得た。
【0046】
(実施例3)
実施例3として、軽質無水ケイ酸粉末20.0gを有効成分と混合し、予め低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを分散させたヒドロキシプロピルセルロース水溶液にさらに軽質無水ケイ酸12.0gを分散させて造粒液とした以外は、実施例1と同様の工程にて、錠剤重量212.5mgの錠剤を得た。
【0047】
(実施例4)
実施例4として、実施例3と同様の工程にてバルサルタン含有整粒物を調製し、さらにステアリン酸マグネシウム4.0g及び軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)10.0gとクロスポビドン(コリドンCL−SF、BASF)10.0gを混合した後、ロータリー式打錠機(菊水製作所)に充填して、打錠し、錠剤重量212.5mgの錠剤を得た。
【0048】
(実施例5)
実施例5として、1錠あたりバルサルタン80mgおよびヒドロクロロチアジド12.5mgを有効成分として含有する錠剤を、以下のように製造した。流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、バルサルタン160.0gとヒドロクロロチアジド25.0g及び軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)20.0g、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社)20.0gを混合し、予め低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社)120.0gならびに軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)12.0gを分散させたヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC-SSL、日本曹達株式会社、24.0g)水溶液を噴霧し、造粒及び乾燥を行い、造粒物を得た。得られた造粒物を22号篩で整粒し、この整粒物に、ステアリン酸マグネシウム4.0g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社、)20.0gを混合した後、ロータリー式打錠機(菊水製作所)に充填して、打錠し、錠剤重量202.5mgの錠剤を得た。
【0049】
(実施例6)
実施例6として、ヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC-SSL、日本曹達株式会社、24.0g)水溶液の代わりに、ヒプロメロース(TC-5E、信越化学工業株式会社、24.0g)水溶液を使用すること以外は、実施例5と同様に錠剤重量202.5mgの錠剤を得た。
【0050】
(実施例7)
実施例7として、実施例6と同じ工程で得られた整粒物に、ステアリン酸マグネシウム4.0g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社)10.0gとクロスポビドン(コリドンCL−SF、BASF)10.0gを混合した後、ロータリー式打錠機(菊水製作所)に充填して、打錠し、錠剤重量202.5mgの錠剤を得た。
【0051】
(比較例1)
比較例1として、特許文献1の実施例3に準じた構成成分を用い、製造法を乾式法から流動層造粒法に変更し、バルサルタン80mgおよびヒドロクロロチアジド12.5mgを有効成分として含む錠剤を、以下のように製造した。流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、バルサルタン160.0g、ヒドロクロロチアジド25.0g、軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル、)12.0gおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-11)、信越化学工業株式会社)160.0gを混合し、ヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC-SSL、日本曹達株式会社、24.0g)水溶液を噴霧し、造粒及び乾燥を行い、造粒物を得た。得られた造粒物を22号篩で整粒し、この整粒物に、結晶セルロース(セオラス(登録商標)PH-301、旭化成ケミカルズ、)18.0g、軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)2.0g、ステアリン酸マグネシウム4.0g、タルク4.0gおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-21)、信越化学工業株式会社)10.0gを混合した後、ロータリー式打錠機(菊水製作所)に充填して、打錠し、錠剤重量209.5mgの錠剤を得た。なお、L-HPC(LH-11)は、アスペクト比5.0、安息角49°、平均粒子径55μm、嵩密度0.33g/cm
3及びタップ密度0.56g/cm
3である。
【0052】
(比較例2)
比較例2として、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-31))を造粒液に分散して、噴霧した。バルサルタン80mgおよびヒドロクロロチアジド12.5mgを有効成分とする錠剤を以下の通り製造した。流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、バルサルタン160.0g、ヒドロクロロチアジド25.0gおよび軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)12.0gを混合し、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-31)、信越化学工業株式会社)160.0gを分散したヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC-SSL、日本曹達株式会社、24.0g)の水溶液を噴霧し、造粒及び乾燥を行い、造粒物を得た。その後の工程は比較例1と同様に錠剤重量209.5mgの錠剤を得た。なお、L-HPC(LH-31)は、アスペクト比3.6、安息角49°、平均粒子径20μm、嵩密度0.28g/cm
3及びタップ密度0.59g/cm
3である。
【0053】
(比較例3)
比較例3として、比較例2と同じ工程で得られた造粒物を用い、その後の工程は実施例2と同じ工程で、錠剤重量202.5mgの錠剤を得た。
【0054】
(溶出試験)
第16改正日本薬局方 溶出試験法 パドル法に準じ、バルサルタンの所定時間当りの溶出率を測定した。溶出試験第1液(塩化ナトリウム 2.0gを塩酸 7.0mL及び水に溶かして1000 mLとする。)を用いて、溶出率の10分値及び120分値を得た。実施例1〜7及び比較例1〜3の溶出率を測定した。溶出率は、溶出試験第1液(JP-1)でのバルサルタン(VAL)の溶出率の10分値及び120分値について測定した。また、実施例1〜3及び5〜7については、水でのバルサルタン(VAL)の溶出率の30分値を測定した。また、実施例2〜7については、無包装の状態の錠剤を25℃75%RHの条件下で3ヶ月間保管した後の同値を測定した。測定結果を
図2に示す。ただし、実施例5については2ヶ月間保管した後の値を示す。
【0055】
図2の結果から明らかなように、実施例1〜7は何れの条件においても、比較例に比し、溶出率が向上した。一方、乾式造粒法の一例である特許文献1に記載の実施例3に準じた組成で、製造方法を流動層造粒に変更した比較例1は、溶出率が低かった。また、本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとは物性の異なるL-HPC(LH-31)を分散した比較例2及び3では、著しく溶出率が低くかった。この結果から、本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの分散液を造粒液として流動層造粒を行うことにより、溶出性が顕著に改善されることが明らかとなった。
【0056】
また、実施例3において、軽質無水ケイ酸の一部を造粒液に分散して添加したところ、
図2に示したように、さらに良好な溶出性を得ることができた。
【0057】
また、結合剤溶液としてヒプロメロースの水溶液を使用した、実施例6及び7の水でのバルサルタン(VAL)の溶出率を見ると、無包装の状態の錠剤を25℃75%RHの条件下で3ヶ月間保管した後であっても、溶出率が低下しにくい傾向であった。
【0058】
(実施例8)
主薬としてバルサルタンのみを配合した実施例8を以下のように製造した。流動層造粒機(パウレック社製、機種:MP-01)にて、バルサルタン160.0gと軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)20.0gを混合し、軽質無水ケイ酸(アエロジル200、日本アエロジル)12.0gおよび低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社)160.0gを分散させたヒドロキシプロピルセルロース(NISSO HPC-SSL、日本曹達株式会社、24.0g)水溶液を噴霧し、造粒及び乾燥を行い、造粒物を得た。得られた造粒物を22号篩で整粒し、この整粒物に、ステアリン酸マグネシウム、4.0g及び低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC(LH-B1)、信越化学工業株式会社)20.0gを混合した後、ロータリー式打錠機(菊水製作所)に充填して、打錠し、錠剤重量200mgの錠剤を得た。
【0059】
(溶出試験)
上述したような実施例と同様に、第16改正日本薬局方 溶出試験法 パドル法に準じ、溶出試験第1液(JP-1)でのバルサルタン(VAL)の溶出率の10分値及び120分値を測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】
【0060】
表1の結果から、流動層造粒法により製造した実施例8は、速やかな溶出性を示すことが明らかとなった。
【0061】
以上説明したように、本発明に係るバルサルタン含有錠剤においては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを流動層造粒法における造粒液に分散して用いることにより、良好な溶出性を得ることができる。また、ヒドロクロロチアジドを有効成分としてさらに含有する錠剤においても同様の効果を得ることができる。また、ケイ酸の添加量を増量するとともに、その一部を、本発明に係る低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとともに結合剤溶液中に分散させて造粒液とし、それを用いて流動層造粒することにより、さらに良好な溶出性を得ることができる。