特許第6238845号(P6238845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238845フェノール樹脂、フェノール樹脂混合物、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物およびそれらの硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238845
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】フェノール樹脂、フェノール樹脂混合物、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物およびそれらの硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/20 20060101AFI20171120BHJP
   C08G 59/06 20060101ALI20171120BHJP
   C07D 311/76 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C08G8/20 Z
   C08G59/06
   C07D311/76
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-125010(P2014-125010)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-187242(P2015-187242A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2017年1月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-45811(P2014-45811)
(32)【優先日】2014年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】中西 政隆
(72)【発明者】
【氏名】江原 清二
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−060091(JP,A)
【文献】 特開平06−148878(JP,A)
【文献】 特開平11−217386(JP,A)
【文献】 特開平11−302364(JP,A)
【文献】 特開平11−174642(JP,A)
【文献】 特開2001−133945(JP,A)
【文献】 特開2002−060638(JP,A)
【文献】 特開2000−241966(JP,A)
【文献】 特開昭64−076047(JP,A)
【文献】 特開平10−232491(JP,A)
【文献】 特開昭57−034552(JP,A)
【文献】 特開2000−338661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/00− 8/38
C08G 59/00−59/72
C07D 311/76
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R、R、X、X、X、Xはそれぞれ独立して存在し、R、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表し、X、X、X、Xは水素原子または有機基を表し、少なくとも1つはヒドロキシ基又はヒドロキシ基で置換された有機基を表す。XとX、XとXは互いに結合して環状構造を形成しても良い。kは1〜4を示す。)で表される構造を骨格中に含有するフェノール樹脂と下記式(2)
【化2】
(式中、R、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基または置換又は無置換のフェニル基を表す。kは1〜4を示す。)で表されるフェノール化合物を含有するフェノール樹脂混合物。
【請求項2】
(3)下記式(3)
【化3】
(式(3)中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表し、kは1〜4を示す。)、
と下記式(4)
【化4】
(式(4)中、Rは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表す。)
を反応させてなる請求項1に記載のフェノール樹脂混合物
【請求項3】
水酸基当量が120〜500g/eq.である請求項1又は請求項2に記載のフェノール樹脂混合物
【請求項4】
請求項1及至請求項3のいずれか一項に記載のフェノール樹脂混合物にエピハロヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂。
【請求項5】
請求項1に記載のフェノール樹脂又は請求項1及至請求項3のいずれか一項に記載のフェノール樹脂混合物と、エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤及び/または硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性が要求される電気電子材料用途に好適なエポキシ樹脂組成物、およびその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は作業性及びその硬化物の優れた電気特性、耐熱性、接着性、耐湿性(耐水性)等により電気・電子部品、構造用材料、接着剤、塗料等の分野で幅広く用いられている。
【0003】
しかし近年、電気・電子分野においてはその発展に伴い、樹脂組成物の高純度化をはじめ耐湿性、密着性、誘電特性、フィラー(無機または有機充填剤)を高充填させるための低粘度化、成型サイクルを短くするための反応性のアップ等の諸特性の一層の向上が求められている。又、構造材としては航空宇宙材料、レジャー・スポーツ器具用途などにおいて軽量で機械物性の優れた材料が求められている。特に半導体封止分野、基板(基板自体、もしくはその周辺材料)においては、その半導体の変遷に従い、薄層化、スタック化、システム化、三次元化と複雑になっていき、非常に高いレベルの耐熱性や高流動性といった要求特性が求められる。なお、特にプラスチックパッケージの車載用途への拡大に伴い、耐熱性の向上要求がいっそう厳しくなっている。具体的には、半導体の駆動温度の上昇により、150℃以上の耐熱性が求められるようになってきている。エポキシ樹脂の耐熱性向上には官能基密度を向上することが有効であるが、その反面、吸水率および誘電率の向上が弊害となる。
【0004】
そこで、従来から耐熱性および吸水率や誘電率などの諸特性を両立するエポキシ樹脂が要求されていた。耐熱性が良好なエポキシ樹脂として、アセトンとレゾルシンの反応が試みられ、非特許文献3、特許文献1、特許文献2に示すようなフラバン構造およびスピロクロマン構造を有するフェノール樹脂およびエポキシ樹脂が開発されてきた。しかし、特許文献1記載のフラバン構造では高い耐熱性を示す一方で、依然として官能基密度が高く、前述の諸物性を両立することは困難であった。特許文献2に記載のスピロクロマン構造ではモノマー成分のみを単離して用いているため、母骨格の結合による硬化ネットワークの剛直性が発揮されず、耐熱性は依然不十分なままであった。さらには特許文献3にはスピロクロマン構造を有するエポキシ樹脂が開示されているが、モノマー成分のみを用いており、オリゴマー成分及び混合物については開示されておらず、その性能は不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】“2008年 STRJ報告 半導体ロードマップ専門委員会 平成20年度報告”、第8章、p1−1、[online]、平成21年3月、JEITA (社)電子情報技術産業協会 半導体技術ロードマップ専門委員会、[平成24年5月30日検索]、<http://strj-jeita.elisasp.net/strj/nenjihoukoku-2008.cfm>
【非特許文献2】高倉信之他、松下電工技報 車関連デバイス技術 車載用高温動作IC、74号、日本、2001年5月31日、35−40頁
【非特許文献3】P.Livant他、J.Org.Chem.1997、Vol.62、737〜742頁
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−275221号公報
【特許文献2】特開2002−193970号公報
【特許文献3】特開平10−60091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的にエポキシ樹脂において耐熱性と吸水率・誘電率などの諸物性はトレードオフの関係にあることが知られている。これは架橋密度が向上し、エポキシ基の開環構造が増大することに起因している。本発明は、耐熱性および低吸水率・低誘電率が要求される半導体周辺材料において、これらの諸物性を両立するフェノール樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物およびそれらの硬化物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成させるに到った。
すなわち本発明は、下記(1)〜(7)に関する。
(1)下記式(1)
【化1】
(式中、R、R、X、X、X、Xはそれぞれ独立して存在し、R、Rは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表し、X、X、X、Xは水素原子または有機基を表し、少なくとも1つはヒドロキシル基又はヒドロキシル基で置換された有機基を表す。XとX、XとXは互いに結合して環状構造を形成しても良い。kは1〜4を示す。)
で表される構造を骨格中に含有するフェノール樹脂。
(2)前項(1)記載のフェノール樹脂と下記式(2)
【化2】
(式中、R、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表す。kは1〜4を示す。)で表されるフェノール化合物を含有するフェノール樹脂混合物。
(3)下記式(3)
【化3】
(式(3)中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表し、kは1〜4を示す。)、
と下記式(4)
【化4】
(式(4)中、Rは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表す。)
を反応させてなる前項(1)〜(2)のいずれかに記載のフェノール樹脂又はフェノール樹脂混合物。
(4)水酸基当量が120〜500g/eq.である前項(1)〜(3)のいずれか一項に記載のフェノール樹脂又はフェノール樹脂混合物。
(5)前項(1)〜(4)のいずれか一項に記載のフェノール樹脂又はフェノール樹脂混合物にエピハロヒドリンを反応させて得られるエポキシ樹脂。
(6)前項(1)〜(4)のいずれか一項に記載のフェノール樹脂又はフェノール樹脂混合物と、エポキシ樹脂を含有するエポキシ樹脂組成物。
(7)前項(5)に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤及び/または硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物。
(8)前項(6)または(7)のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフェノール樹脂及びエポキシ樹脂は、スピロクロマンオリゴマー構造を有する新規なフェノール樹脂、エポキシ樹脂である。このようなフェノール樹脂ないしエポキシ樹脂を得ることで、耐熱性と低吸水率・低誘電率などの相反する特性を両立する樹脂を得ることができる。さらに、本発明のフェノール樹脂及びエポキシ樹脂は高い密着性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の前記一般式(1)で表されるフェノール樹脂(以下、「本発明のフェノール樹脂」という。)は、ジヒドロキシベンゼン類(a)とカルボニル類(b)を反応させて得ることができる。
まず、ジヒドロキシベンゼン類(a)について説明する。ジヒドロキシベンゼン類(a)は下記式(3)
【化5】
(式(3)中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表し、kは1〜4を示す。)
で表される化合物である。
ジヒドロキシベンゼン類(a)の具体例としては、カテコール、3−メチルカテコール、4−tert−ブチルカテコール、3,5−Di−tert−ブチルカテコール、レゾルシン、2−メチルレゾルシン、5−メチルレゾルシン、2,5−ジメチルレゾルシン、4−ブチルレゾルシン、4−ヘキシルレゾルシン、ハイドロキノン、2−メチルハイドロキノン、2,6−ジメチルハイドロキノン、2,3−ジメチルハイドロキノン、2,3,5−トリメチルハイドロキノン、2−tert−ブチルハイドロキノン、2,5−Di−tert−ブチルハイドロキノンなどが例示されるが、これらには限定されない。カテコール、レゾルシン、ハイドロキノンが好ましく、レゾルシンが特に好ましい。ここで、式(1)においてオリゴマー構造を得るために、レゾルシンを特に好適に使用することができる。
【0011】
次に、カルボニル類(b)について説明する。カルボニル類(b)としては、下記式(4)
【化6】
(式(4)中、Rは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、または置換又は無置換のフェニル基を表す。)
で表される化合物である。
このようなカルボニル類(b)の具体例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、4−ヒドロキシベンズアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、3−メチル−2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、3−ペンタノン、2−メチル−3−ペンタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン等が例示されるが、これらに限定されない。アセトン、メチルエチルケトンが好ましく、アセトンが特に好ましい。
【0012】
本発明のフェノール樹脂は、酸性条件下で、式(3)で表される化合物の一種以上と式(4)で表される化合物との縮合反応によって得られる。尚、塩基性条件下で反応を行うこともできるが、酸性条件下の方が好ましい。
式(4)で表される化合物は式(3)で表される化合物1モルに対して通常0.25〜5.0モル、好ましくは0.3〜2.5モルを使用する。
【0013】
酸性条件下で縮合反応を行う場合、用い得る酸性触媒は特に限定されないが、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、シュウ酸等の有機酸触媒、塩酸、硫酸等の無機酸触媒が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、複数の種類を併用してもよい。酸性触媒の使用量は、式(3)で表される化合物1モルに対して通常0.001〜15モル、好ましくは0.002〜10モルである。
塩基性条件下で縮合反応を行う場合も同様に行うことができ、使用する塩基性触媒は公知のものであれば特に限定されない。
【0014】
本発明のフェノール樹脂を得る反応では、必要に応じて溶剤を使用してもよい。用い得る溶剤としては、例えばカルボニル類のように式(4)で表される化合物との反応性を有するものでなければ特に制限はないが、原料の式(3)で表される化合物を容易に溶解させる点ではアルコール類、芳香族炭化水素類を溶剤として用いるのが好ましい。
用いることができる溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の非プロトン性極性溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられるが、これらに限定されない。
溶剤を使用する場合の使用量は特に制限されないが、例えば、式(3)で表される化合物1モルに対し100〜500重量部使用することができる。
【0015】
反応温度は通常10〜150℃であり、好ましくは30〜130℃、特に好ましくは50℃〜100℃である。反応時間は通常0.5〜20時間であるが、原料化合物の種類によって反応性に差があるため、この限りではない。
【0016】
反応終了後、塩基を用いて酸触媒を中和する。塩基としては特に限定されないが、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリポリリン酸5ナトリウム、アンモニア等が例示される。この際、塩基を均一に分散させるために、水溶液として徐々に滴下することが好ましい。
【0017】
反応終了後、樹脂として取り出す場合には、反応物を水洗後または水洗無しに、加熱減圧下で反応液から未反応物や溶媒等を除去する。未反応物を効率的に除去するために、水蒸気蒸留や塩基性条件下において水洗を行ってもよい。結晶で取り出す場合、大量の水中に反応液を滴下することにより結晶を析出させる。
【0018】
このようにして得られる本発明のフェノール樹脂は、下記式(1)
【化7】
(式中、R、R、X、X、X、Xはそれぞれ独立して存在し、R、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、またはこれらの置換基を有しても良いフェニル基を表し、X、X、X、Xは水素原子または有機基を表し、少なくとも1つはヒドロキシル基又はヒドロキシル基で置換された有機基を表す。XとX、XとXは互いに結合して環状構造を形成しても良い。kは1〜4を示す。)
で表される構造を骨格中に含有するフェノール樹脂となる。
【0019】
式(1)で表されるフェノール樹脂は具体的には下記式(5)、
【化8】
(式中、R、R、kは前述と同じ意味を表す。P、P、P、Pは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、またはこれらの置換基を有しても良いフェニル基を表し、少なくとも1つ以上はヒドロキシル基を表し、n、mは0以上の整数を表す。但し、n=m=0の場合を除く。)
下記式(6)、
【化9】
(式中、A、B、R、R、P、P、P、P、kは前述と同じ意味を表し、l、n、mは0以上の整数を表す。但し、n=m=0の場合を除く。)
下記式(7)、
【化10】
(式中、A、B、R、R、P、P、P、P、kは1〜4を示し、n、mは0以上の整数を表す。但し、n=m=0の場合を除く。)
で表されるフェノール樹脂である。ただし、本発明の式(1)で表されるフェノール樹脂はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0020】
また、本発明のフェノール樹脂には通常式(2)
【化11】
(式中、R、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、またはこれらの置換基を有しても良いフェニル基を表し、kは1〜4を示す。)
で表される化合物が少なくとも一定量含有するフェノール樹脂混合物となる。式(2)で表される化合物の含有量は液体クロマトグラフィー(HPLC)の274nmにおけるピーク面積において、通常10〜95面積%であり、好ましくは20〜80面積%、さらに好ましくは25〜70面積%である。式(2)で表される化合物の含有率が10面積%より少ないとゲル化が懸念され、95面積%より多いと耐熱性が劣る。
【0021】
本発明のフェノール樹脂又はフェノール樹脂混合物(以下、「本発明のフェノール樹脂等」という。)の重量平均分子量は通常300〜2,000、好ましくは320〜1,500、より好ましくは340〜1,000である。水酸基当量は通常120〜500g/eq、好ましくは130〜400g/eq、より好ましくは140〜300g/eqである。軟化点は通常70〜200℃、好ましくは80〜180℃、より好ましくは100〜160℃である。
本発明のフェノール樹脂等はシアネート樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂原料として有用である。
【0022】
次に、本発明のエポキシ樹脂について説明する。
本発明のエポキシ樹脂は、上記手法によって得られた本発明のフェノール樹脂等と溶剤中、エピハロヒドリンとを反応させ、エポキシ化することにより得られる。ここで、本発明のフェノール樹脂等に、本発明のフェノール樹脂等以外のフェノール化合物を併用しても良い。
併用できる本発明のフェノール樹脂等以外のフェノール化合物としては、エポキシ樹脂の原料として通常用いられるフェノール化合物であれば特に制限なく用いることができる。
本発明のエポキシ樹脂としては、優れた融点を示し、なおかつ高い耐熱性を有する硬化物が得られる。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂を得る反応において、エピハロヒドリンとしてはエピクロルヒドリン、α−メチルエピクロルヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等が使用できるが、工業的に入手が容易なエピクロルヒドリンが好ましい。エピハロヒドリンの使用量は、本発明のフェノール樹脂等の水酸基1モルに対し通常2〜20モル、好ましくは2〜15モル、特に好ましくは2〜8モルである。通常エポキシ樹脂は、アルカリ金属酸化物の存在下でフェノール化合物とエピハロヒドリンとを付加させ、次いで生成した1,2−ハロヒドリンエーテル基を開環させてエポキシ化する反応により得られる。この際、エピハロヒドリンを上記のように通常より顕著に少ない量で使用することで、エポキシ樹脂の分子量を延ばすとともに分子量分布を広げることができる。この結果、得られるエポキシ樹脂は、比較的低い軟化点を有する樹脂状物として系中から取り出せ、優れた溶剤溶解性を示す。
【0024】
また、エポキシ化の際に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の非プロトン性極性溶媒などを添加して反応を行うことが反応進行上好ましい。中でも、アルコール類が好ましく、アルコール溶剤の極性により、エポキシ化時のイオン反応を効率良く進行することができ、高純度でエポキシ樹脂を得ることができる。用い得るアルコール溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。中でも、エポキシ樹脂との相溶性の観点から、メタノールを用いることが特に好ましい。
【0025】
上記アルコール類を使用する場合、その使用量はエピハロヒドリンの使用量に対し通常2〜50質量%、好ましくは4〜35質量%である。また非プロトン性極性溶媒を用いる場合はエピハロヒドリンの使用量に対し通常5〜100質量%、好ましくは10〜80質量%である。
【0026】
エポキシ化反応に使用できるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、これらは固形物をそのまま使用しても、あるいはその水溶液を使用してもよい。水溶液を使用する場合は、該アルカリ金属水酸化物の水溶液を連続的に反応系内に添加すると共に、減圧下または常圧下で連続的に留出させた水及びエピハロヒドリンの混合液から分液により水を除去し、エピハロヒドリンのみを反応系内に連続的に戻す方法でもよい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、本発明のフェノール樹脂等の水酸基1モルに対して通常0.9〜3.0モル、好ましくは1.0〜2.5モル、より好ましくは1.0〜2.0モル、特に好ましくは1.0〜1.3モルである。
また、エポキシ化反応において、特にフレーク状の水酸化ナトリウムを用いることで、水溶液とした水酸化ナトリウムを使用するよりも得られるエポキシ樹脂に含まれるハロゲン量を顕著に低減させることが可能となる。更にこのフレーク状の水酸化ナトリウムは、反応系内に分割添加されることが好ましい。分割添加を行なうことで、反応温度の急激な減少を防ぐことができ、これにより不純物である1,3−ハロヒドリン体やハロメチレン体の生成を防止することができる。
【0027】
エポキシ化反応を促進するために、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩を触媒として添加することが好ましい。4級アンモニウム塩の使用量としては、本発明のフェノール樹脂等の水酸基1モルに対し通常0.1〜15gであり、好ましくは0.2〜10gである。
【0028】
反応温度は通常30〜90℃であり、好ましくは35〜80℃である。反応時間は通常0.5〜10時間であり、好ましくは1〜8時間である。中でも、アルコール溶剤を用いた場合、50℃〜90℃が好ましく、60〜85℃がより好ましく、70〜80℃が特に好ましい。
反応終了後、反応物を水洗後、または水洗無しに加熱減圧下で反応液からエピハロヒドリンや溶媒等を除去する。また得られたエポキシ樹脂中に含まれるハロゲン量をさらに低減させるために、回収した本発明のエポキシ樹脂をトルエン、メチルイソブチルケトンなどの溶剤に溶解し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を加えて反応を行ない、閉環を確実なものにすることも出来る。この場合、アルカリ金属水酸化物の使用量は、本発明のフェノール樹脂等の水酸基1モルに対して通常0.01〜0.3モル、好ましくは0.05〜0.2モルである。反応温度は通常50〜120℃、反応時間は通常0.5〜2時間である。
【0029】
反応終了後、生成した塩を濾過、水洗などにより除去し、更に加熱減圧下で溶剤を留去することにより本発明のエポキシ樹脂が得られる。また、本発明のエポキシ樹脂が結晶として析出する場合は、大量の水に生成した塩を溶解した後に、本発明のエポキシ樹脂の結晶を濾取してもよい。
このようにして得られる本発明のエポキシ樹脂は、式(1)で表される本発明のフェノール樹脂に含まれるヒドロキシル基がグリシジル化された構造を有するが、式(2)で表されるフェノール化合物のグリシジル化物も一定量混入しても良い。ここで、得られたエポキシ樹脂において、その樹脂中、式(2)で表されるフェノール化合物のグリシジル化物は液体クロマトグラフィー(HPLC)の274nmにおけるピーク面積において、通常10〜95面積%、好ましくは20〜80面積%、さらに好ましくは25〜70面積%含有する。式(2)で表される本発明のフェノール化合物のグリシジル化物の含有率が10面積%より少ないとゲル化が懸念され、95面積%より多いと耐熱性が劣る。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂の重量平均分子量は通常300〜2,000、好ましくは320〜1,500、より好ましくは340〜1,000である。エポキシ当量は通常180〜550g/eq、好ましくは190〜450g/eq、より好ましくは200〜350g/eqである。軟化点は通常50〜180℃、好ましくは60〜160℃、より好ましくは70〜150℃である。
【0031】
上述の通りフレーク状の水酸化ナトリウムを使用して得られる本発明のエポキシ樹脂の全ハロゲン量は1800ppm以下が通常であり、1600ppm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1300ppm以下である。全ハロゲン量が多すぎるものは硬化物の硬化物性に悪影響を及ぼすことに加えて、未架橋の末端として残ることから、硬化時の融解状態時の分子同士の配向が進まずに硬化物性の低下につながる。
【0032】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物について記載する。本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明のエポキシ樹脂及び本発明のフェノール樹脂等の少なくともどちらか1つを必須成分として含有する。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物において、本発明のエポキシ樹脂は単独でまたは他のエポキシ樹脂と併用して使用することが出来る。
【0034】
他のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビスフェノールAD及びビスフェノールI等)やフェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、芳香族置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、アルキル置換ジヒドロキシベンゼン及びジヒドロキシナフタレン等)と各種アルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルキル置換ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、クロトンアルデヒド及びシンナムアルデヒド等)との重縮合物、キシレン等の芳香族化合物とホルムアルデヒドの重縮合物とフェノール類との重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物(ジシクロペンタジエン、テルペン類、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル、ブタジエン及びイソプレン等)との重合物、フェノール類とケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン及びベンゾフェノン等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジメタノール類(ベンゼンジメタノール及びビフェニルジメタノール等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジクロロメチル類(α,α’−ジクロロキシレン及びビスクロロメチルビフェニル等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ビスアルコキシメチル類(ビスメトキシメチルベンゼン、ビスメトキシメチルビフェニル及びビスフェノキシメチルビフェニル等)との重縮合物、ビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物、並びにアルコール類等をグリシジル化したグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等が挙げられるが、通常用いられるエポキシ樹脂であればこれらに限定されるものではない。これらは、1種類のみ使用しても、2種以上を併用してもよい。
他のエポキシ樹脂を併用する場合、本発明のエポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分に占める本発明のエポキシ樹脂の割合は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、特に好ましくは100質量%(他のエポキシ樹脂を併用しない場合)である。ただし、本発明のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂組成物の改質剤として使用する場合は、全エポキシ樹脂中で1〜30質量%となる割合で添加する。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物において用い得る硬化剤としては、例えばアミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物及びフェノール系化合物等が挙げられる。これら他の硬化剤の具体例を下記(a)〜(e)に示す。ただし、本発明において用いることができる硬化剤はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
(a)アミン系化合物 ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン及びナフタレンジアミン等
(b)酸無水物系化合物 無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルヘキサヒドロ無水フタル酸等
(c)アミド系化合物 ジシアンジアミド、若しくはリノレン酸の2量体とエチレンジアミンより合成されるポリアミド樹脂等、
【0036】
(d)フェノール系化合物 多価フェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、テルペンジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン及び1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等);フェノール類(例えば、フェノール、アルキル置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン及びジヒドロキシナフタレン等)と、アルデヒド類(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、o−ヒドロキシベンズアルデヒド及びフルフラール等)、ケトン類(p−ヒドロキシアセトフェノン及びo−ヒドロキシアセトフェノン等)、若しくはジエン類(ジシクロペンタジエン及びトリシクロペンタジエン等)との縮合により得られるフェノール樹脂;前記フェノール類と、置換ビフェニル類(4,4’−ビス(クロルメチル)−1,1’−ビフェニル及び4,4’−ビス(メトキシメチル)−1,1’−ビフェニル等)、若しくは置換フェニル類(1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メトキシメチル)ベンゼン及び1,4−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン等)等との重縮合により得られるフェノール樹脂;前記フェノール類及び/又は前記フェノール樹脂の変性物;テトラブロモビスフェノールA及び臭素化フェノール樹脂等のハロゲン化フェノール類
(e)その他イミダゾール類、BFアミン錯体、グアニジン誘導体
【0037】
これら他の硬化剤の中ではジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン及びナフタレンジアミンなどのアミン系化合物、並びにカテコールとアルデヒド類、ケトン類、ジエン類、置換ビフェニル類又は置換フェニル類との縮合物などの活性水素基が隣接している構造を有する硬化剤がエポキシ樹脂の配列に寄与するため好ましい。
他の硬化剤は単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。他の硬化剤を併用する場合、本発明のエポキシ樹脂組成物中の全硬化剤成分に占める本発明のフェノール樹脂等の割合は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、特に好ましくは100質量%(他の硬化剤を併用しない場合)である。
本発明のエポキシ樹脂組成物において、本発明のフェノール樹脂等を含む全硬化剤の使用量は、全エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して0.5〜2.0当量が好ましく、0.6〜1.5当量が特に好ましい。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要により硬化促進剤を添加しても良い。硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルフォスフィン、ビス(メトキシフェニル) フェニルフォスフィン等のフォスフィン類、2―メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2―エチル,4―メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリスジメチルアミノメチルフェノール、ジアザビシクロウンデセン等の3級アミン類、テトラブチルアンモニウム塩、トリイソプロピルメチルアンモニウム塩、トリメチルデカニルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩などの4級アンモニウム塩、トリフェニルベンジルフォスフォニウム塩、トリフェニルエチルフォスフォニウム塩、テトラブチルフォスフォニウム塩などの4級フォスフォニウム塩(4級塩のカウンターイオンはハロゲン、有機酸イオン、水酸化物イオンなど、特に指定は無いが、特に有機酸イオン、水酸化物イオンが好ましい。)、オクチル酸スズ等の金属化合物等が例示される。
硬化促進剤の使用量は、エポキシ樹脂100重量部当たり、通常0.2〜5.0重量部、好ましくは、0.2〜4.0重量部である。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物は必要に応じて無機充填材を含有させることができる。
本発明のエポキシ樹脂組成物が含有する無機充填材は、公知のものであれば何ら制限はない。無機充填材の具体例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、アルミナ、酸化マグネシウム等の無機粉末充填材、合成繊維、セラミックス繊維等の繊維質充填材、着色剤等が挙げられる。これら無機充填材の形状は、粉末(塊状、球状)、単繊維、長繊維等いずれであってもよいい。
本発明のエポキシ樹脂組成物における無機充填材の使用量は、エポキシ樹脂組成物中の樹脂成分100質量部に対して通常2〜1000質量部である。これら無機充填材は1種のみを使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物には硬化促進剤を含有させることもできる。使用できる硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール及び2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、トリエタノールアミン及び1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の第3級アミン類、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン及びトリブチルホスフィン等の有機ホスフィン類、オクチル酸スズなどの金属化合物、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート及びテトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート及びN−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。硬化促進剤は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜15質量部が必要に応じ用いられる。
【0041】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じてシランカップリング剤、離型剤及び顔料等種々の配合剤、各種熱硬化性樹脂並びに各種熱可塑性樹脂等を添加することができる。熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の具体例としては、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂、シアナート樹脂、イソシアナート化合物、ベンゾオキサジン化合物、ビニルベンジルエーテル化合物、ポリブタジエンおよびこの変性物、アクリロニトリル共重合体の変性物、インデン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリエチレン、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂、または熱可塑性樹脂は本発明のエポキシ樹脂組成物中において60質量%以下を占める量が用いられる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記各成分を均一に混合することにより得られ、その好ましい用途としては半導体封止材やプリント配線版等が挙げられる。
本発明のエポキシ樹脂組成物は従来知られているのと同様の方法で容易にその硬化物とすることが出来る。例えば、本発明のエポキシ樹脂組成物の必須成分であるエポキシ樹脂、硬化剤、並びに必要により硬化促進剤、配合剤、各種熱硬化性樹脂や各種熱可塑性樹脂等を、必要に応じて押出機、ニーダ又はロール等を用いて均一になるまで充分に混合して得られた本発明のエポキシ樹脂組成物を、溶融注型法あるいはトランスファー成型法やインジェクション成型法、圧縮成型法などによって成型し、更にその融点以上で2〜10時間加熱することにより本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物を得ることが出来る。前述の方法でリードフレーム等に搭載された半導体素子を封止することにより、本発明のエポキシ樹脂組成物を半導体封止用途に用いることができる。
【0043】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は溶剤を含むワニスとすることもできる。該ワニスは、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤のうち、少なくとも一方に本発明のエポキシ樹脂、もしくは本発明のフェノール樹脂等の少なくとも一方を含み、必要に応じて熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材などのその他の成分を含む混合物を、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、グルタル酸ジアルキル、コハク酸ジアルキル、アジピン酸ジアルキル等のエステル類、γ−ブチロラクトン等の環状エステル類、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ及びソルベントナフサ等の石油系溶剤等の有機溶剤と混合することにより得ることが出来る。溶剤の量はワニス全体に対し通常10〜95質量%、好ましくは15〜85質量%である。
上記のようにして得られるワニスをガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維及び紙などの繊維基材に含浸させた後に加熱によって溶剤を除去すると共に、本発明のエポキシ樹脂組成物を半硬化状態とすることにより、本発明のプリプレグを得ることが出来る。尚、ここで言う「半硬化状態」とは、反応性の官能基であるエポキシ基が一部未反応で残っている状態を意味する。該プリプレグを熱プレス成型して硬化物を得ることが出来る。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例で更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。合成例、実施例、比較例において部は質量部を意味する。
なお、水酸基当量、エポキシ当量、軟化点、ICI溶融粘度は以下の条件で測定した。
・水酸基当量
JIS K−7236に記載された方法で測定し、単位はg/eq.である。
・エポキシ当量
JIS K−7236に記載された方法で測定し、単位はg/eq.である。
・軟化点
JIS K−7234に準拠した方法で測定し、単位は℃である。
・ICI溶融粘度
JIS K 7117−2に準拠した方法で測定し、単位はPa・sである。
【0045】
実施例1
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、窒素パージを施しながらレゾルシン253部、トルエン387部、98%硫酸113部を加え、撹拌下で80℃にまで昇温した。この中にアセトン134部を1時間かけて滴下し、同温度のまま3時間反応を続けた。反応終了後、10%水酸化ナトリウムを用いて中和し、メチルイソブチルケトンを500部加えて、樹脂を溶解させた。続けて洗浄水が中性になるまで水洗を行い、得られた溶液から、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下にメチルイソブチルケトン等を留去することで本発明のフェノール樹脂238部(P1)を得た。得られたフェノール樹脂の水酸基当量は212g/eq.、軟化点は108℃、重量平均分子量は586であった。
【0046】
実施例2
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、窒素パージを施しながらレゾルシン435部、トルエン664部、リンタングステン酸20部を加え、撹拌下で80℃にまで昇温した。この中にアセトンを229部滴下したところ、反応液は激しく発熱した。同温度で5時間反応を続けたところ、白色結晶が析出した。続いて、フラスコにディーンシュタークを設置し、共沸により脱水しながら、120℃まで昇温したところ、白色結晶は溶解し均一になり、この状態でさらに10時間反応させた。反応終了後、リン酸2水素ナトリウム0.2部、30%水酸化ナトリウム2.5部を用いて中和し、さらにメチルイソブチルケトン500部を加えて、樹脂を溶解させた。続けて洗浄水が中性になるまで水洗を行い、得られた溶液から、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下にメチルイソブチルケトン等を留去することで本発明のフェノール樹脂(P2)390部を得た。得られたフェノール樹脂P2の水酸基当量は190g/eq.、軟化点は111℃、重量平均分子量は530であった。
【0047】
比較例1
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、レゾルシン300部、アセトン78部、パラトルエンスルホン酸0.3部を仕込み、80℃で2時間反応させた。次いでアセトン78部を追加し80℃で2時間反応させた。次いで純水で洗浄水が中性になるまで洗浄を行い、得られた溶液から、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下に留出分を除去し、白色結晶のフェノール樹脂(P3)を228部得た。得られたフェノール樹脂P3の融点は200℃、水酸基当量は118g/eq.、重量平均分子量は509であった。
【0048】
実施例3
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、窒素パージを施しながら本発明のフェノール樹脂(P1)238部、エピクロロヒドリン953部(9.2モル当量 対 フェノール樹脂)、メタノール62部を加え、撹拌下で溶解し、70〜75℃にまで昇温した。次いでフレーク状の水酸化ナトリウム46.4部を90分かけて分割添加した後、更に75℃で75分反応を行った。反応終了後,水150部で水洗を行い、油層からロータリーエバポレーターを用いて減圧下、過剰のエピクロルヒドリン等の溶剤類を留去した。残留物にメチルイソブチルケトン570部を加え溶解し、75℃にまで昇温した。撹拌下で30重量%の水酸化ナトリウム水溶液14.9部、メタノール6.8部を加え、1時間反応を行った後、油層の洗浄水が中性になるまで水洗を行い、得られた溶液から、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下にメチルイソブチルケトン等を留去することで本発明のエポキシ樹脂(E1)296部を得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は276g/eq.、軟化点71℃、150℃におけるICI溶融粘度は0.15Pa・s、重量平均分子量は594であった。
【0049】
比較例2
撹拌機、還流冷却管、撹拌装置を備えたフラスコに、窒素パージを施しながらフェノール樹脂(P3)336部、エピクロロヒドリン1082部(4モル当量 対 フェノール樹脂)、メタノール70部を加え、撹拌下で溶解し、70〜75℃にまで昇温した。次いでフレーク状の水酸化ナトリウム121.1部を90分かけて分割添加した後、更に75℃で75分反応を行った。反応終了後,水洗を行い、油層からロータリーエバポレーターを用いて減圧下、過剰のエピクロルヒドリン等の溶剤類を留去した。残留物にメチルイソブチルケトン950部を加え溶解し、75℃にまで昇温した。撹拌下で30重量%の水酸化ナトリウム水溶液39.0部、メタノール11.4部を加え、1時間反応を行った後、油層の洗浄水が中性になるまで水洗を行い、得られた溶液から、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下にメチルイソブチルケトン等を留去することでエポキシ樹脂(E3)466部を得た。得られたエポキシ樹脂E3のエポキシ当量は207g/eq.、軟化点79℃、150℃におけるICI溶融粘度は0.57Pa・s、重量平均分子量は1,375であった。
【0050】
実施例4、比較例3、4
各種成分を表1の割合(部)で配合し、ミキシングロールで混練、タブレット化後、トランスファー成形で樹脂成形体を調製し、160℃で2時間、更に180℃ で8時間加熱を行い、本発明のエポキシ樹脂組成物及び比較用樹脂組成物の硬化物を得た。これら硬化物の物性を以下の条件で測定した結果を表1 に示した。
・TMA
TMA熱機械測定装置:真空理工(株)製TM−7000
昇温速度:2℃/min.
・ピール強度
JISK−6911に準拠
・吸水湿性
直径5cm×厚み4mmの円盤状の試験片を100℃―浸水、85℃―85%、121℃―100% の各条件下、24時間煮沸した後の重量増加率(%)
・誘電性
K6991に準拠して1GHzにおいて測定
【表1】
PN:フェノールノボラック(明和化成工業株式会社製 H−1)
OCN:o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製 EOCN−1020−55)
TPP:トリフェニルホスフィン(純正化学株式会社製)
【0051】
表1の結果から明らかなとおり、本発明の硬化物は、現在使用されているエポキシ樹脂を用いた硬化物(比較例4)に比べて、耐熱性および低吸水率・低誘電率が優れていることを確認できる。また、同様の骨格をもつエポキシ樹脂を用いた硬化物(比較例3)に比べて、さらに低吸水率・低誘電率が優れていることを確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のフェノール樹脂等、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物及び硬化物は、耐熱性および低吸水率・低誘電率が要求される半導体周辺材料において、これらの諸物性を両立することから、半導体封止材やプリント配線版材として有用である。