特許第6238899号(P6238899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238899モノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法、補修方法、およびモノリス型分離膜構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238899
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】モノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法、補修方法、およびモノリス型分離膜構造体
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20171120BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20171120BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20171120BHJP
   B01D 65/10 20060101ALI20171120BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20171120BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20171120BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20171120BHJP
   C01B 32/15 20170101ALI20171120BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20171120BHJP
   B01D 69/04 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B01D71/02
   B01D69/12
   B01D69/10
   B01D65/10
   B01D63/00 500
   C01B39/48
   C01B33/12 Z
   C01B32/15
   C04B38/00 303Z
   B01D69/04
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-538441(P2014-538441)
(86)(22)【出願日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2013075331
(87)【国際公開番号】WO2014050702
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2012-218220(P2012-218220)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】市川 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】谷島 健二
(72)【発明者】
【氏名】中村 真二
(72)【発明者】
【氏名】長坂 龍二郎
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−237073(JP,A)
【文献】 特開平07−299341(JP,A)
【文献】 特開平05−184886(JP,A)
【文献】 特開昭61−000407(JP,A)
【文献】 特開平09−192457(JP,A)
【文献】 特表2008−521595(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0151926(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/105511(WO,A1)
【文献】 特許第3502912(JP,B2)
【文献】 特公平02−014084(JP,B2)
【文献】 特開昭56−133003(JP,A)
【文献】 特開昭61−097006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
C01B 33/20−39/54
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材と、前記セルの内壁面に成膜された無機材料で形成されている分離膜とを含み、
前記分離膜に欠陥のある前記セルの少なくとも両端部が、エポキシ、シリコン系、およびフッ素系のいずれかの合成樹脂の高分子化合物である、流体が流通しないシール部材で閉塞されており、
前記両端部が前記シール部材で閉塞されていない前記セルは、
前記セル外から前記セルごとにガスで加圧して、前記ガスが前記セル内に透過する透過量を測定したときに、いずれの前記セルも前記透過量が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)の範囲内、または、
前記セルごとに減圧して、前記セルの真空度を測定したときに、いずれの前記セルも前記真空度が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)の範囲内にあるモノリス型分離膜構造体。
【請求項2】
前記無機材料がゼオライト、炭素、およびシリカのいずれかである請求項に記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項3】
使用耐圧が1MPa以上である請求項1または2に記載のモノリス型分離膜構造体。
【請求項4】
長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材の前記セルの内壁面に無機材料で形成されている分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の前記分離膜に欠陥のあるセルの少なくとも両端部を、エポキシ、シリコン系、およびフッ素系のいずれかの合成樹脂の高分子化合物であらかじめ成型された、流体が流通しないシール部材を差し込んで塞ぐモノリス型分離膜構造体の補修方法。
【請求項5】
長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材の前記セルの内壁面に無機材料で形成されている分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法であって、
前記セル外から前記セルごとにガスで加圧して、前記ガスが前記セル内に透過する透過量を測定し、前記透過量が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも多いセルを欠陥とするモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法。
【請求項6】
長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材の前記セルの内壁面に無機材料で形成されている分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法であって、
前記セルごとに減圧して、前記セルの真空度を測定し、前記真空度が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも悪い値のセルを欠陥とするモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルの内壁面に分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法、補修方法、およびモノリス型分離膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多成分の混合物(混合流体)から特定の成分のみを選択的に回収するために、セラミック製のフィルタが用いられている。セラミック製のフィルタは、有機高分子製のフィルタと比較して、機械的強度、耐久性、耐食性等に優れるため、水処理や排ガス処理、あるいは医薬や食品分野等の広範な分野において、液体やガス中の懸濁物質、細菌、粉塵等の除去に、好ましく適用される。
【0003】
このようなセラミック製のフィルタにおいて、分離性能を確保しつつ、水透過性能を向上させるには、膜面積(分離膜の面積)を大きくすることが必要であり、そのためには、ハニカム形状(モノリス型)を呈することが望ましい。モノリス型分離膜構造体とは、多くの場合、外形が円柱形であり、その軸方向に形成された多数の平行な流路(セルという)を内部に有する多孔質の基材を具備し、更に、その多孔質の基材に比して孔径の小さな分離膜が、セルを形成する内壁面に形成されたものである。
【0004】
モノリス型の基材(ハニカム構造体)に分離膜を成膜する場合、多くのセルに良好な膜が成膜できても、一部のセルに欠陥があることが製品の良否に影響していた。特許文献1には、セラミックス膜の欠陥検査法、欠陥補修法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−131786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の欠陥検査法や欠陥補修法は、チューブ外面の欠陥を検査し、補修する方法である。
【0007】
モノリス形状の基材のセルの内側に発生した欠陥の検出は目視では不可能であった。また、モノリス形状の基材のセルの内側に発生した欠陥の簡易的な補修方法はなかった。
【0008】
本発明の課題は、セルに分離膜が形成されたモノリス型分離膜構造体の欠陥を検出する簡易な欠陥検出方法を提供することにある。また、欠陥のあるセルを有するモノリス型分離膜構造体を補修するモノリス型分離膜構造体の補修方法を提供する。さらに欠陥が補修されたモノリス型分離膜構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明によれば、以下のモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法、補修方法、およびモノリス型分離膜構造体が提供される。
【0010】
[1] 長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材と、前記セルの内壁面に成膜された無機材料で形成されている分離膜とを含み、前記分離膜に欠陥のある前記セルの少なくとも両端部が、エポキシ、シリコン系、およびフッ素系のいずれかの合成樹脂の高分子化合物である、流体が流通しないシール部材で閉塞されており、前記両端部が前記シール部材で閉塞されていない前記セルは、前記セル外から前記セルごとにガスで加圧して、前記ガスが前記セル内に透過する透過量を測定したときに、いずれの前記セルも前記透過量が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)の範囲内、または、前記セルごとに減圧して、前記セルの真空度を測定したときに、いずれの前記セルも前記真空度が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)の範囲内にあるモノリス型分離膜構造体。
【0015】
] 前記無機材料がゼオライト、炭素、およびシリカのいずれかである前記[]に記載のモノリス型分離膜構造体。
【0017】
] 使用耐圧が1MPa以上である前記[1]または[2]に記載のモノリス型分離膜構造体。
【0018】
] 長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材の前記セルの内壁面に無機材料で形成されている分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の前記分離膜に欠陥のあるセルの少なくとも両端部を、エポキシ、シリコン系、およびフッ素系のいずれかの合成樹脂の高分子化合物であらかじめ成型された、流体が流通しないシール部材を差し込んで塞ぐモノリス型分離膜構造体の補修方法。
【0021】
] 長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材の前記セルの内壁面に無機材料で形成されている分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法であって、前記セル外から前記セルごとにガスで加圧して、前記ガスが前記セル内に透過する透過量を測定し、前記透過量が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも多いセルを欠陥とするモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法。
【0022】
] 長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有する多孔質セラミックのモノリス基材の前記セルの内壁面に無機材料で形成されている分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法であって、前記セルごとに減圧して、前記セルの真空度を測定し、前記真空度が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも悪い値のセルを欠陥とするモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法は、数値で欠陥を検出するため、見落としがない。本発明のモノリス型分離膜構造体の補修方法は、直接欠陥を補修するのではなく、セル自体を埋める方法であり短時間で容易に補修できる方法である。特に、他のセルに比べて欠陥の多いセルを検出し、それを補修することにより、モノリス型分離膜構造体全体としての分離係数を向上させることができる。欠陥が発生しているセルのみを補修することで、製品の歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係るモノリス型分離膜構造体の一実施形態を示す図である。
図2A】モノリス型分離膜構造体をハウジングに装着した実施形態を示し、セラミック分離膜構造体のセルの延びる方向に平行な断面を示す模式図である。
図2B】モノリス型分離膜構造体をハウジングに装着した他の実施形態を示し、セラミック分離膜構造体のセルの延びる方向に平行な断面を示す模式図である。
図3】粒子付着工程において、種付けスラリーを流し込む状態を示す模式図である。
図4】水熱合成により、多孔質体上にゼオライト膜を形成する膜形成工程の一実施形態を示す模式図である。
図5】本発明に係るモノリス型分離膜構造体の他の実施形態を示す斜視図である。
図6】ガス透過量の測定を説明するための図である。
図7】真空度の測定を説明するための図である。
図8】欠陥のあるセルに高分子化合物を流し込んで硬化させて補修した分離膜構造体の断面図である。
図9】あらかじめ成型された高分子化合物を欠陥のあるセルに差し込み、欠陥のあるセルを塞いだ分離膜構造体を示す図である。
図10A】モノリス型分離膜構造体のセルのセル番号を示す図である。
図10B】他の実施形態のモノリス型分離膜構造体のセルのセル番号を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0026】
本発明のモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法は、長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有するモノリス基材のセルの内壁面に分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法である。セル外からセルごとにガスで加圧して、ガスがセル内に透過する透過量を測定し、透過量の値が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも多いセルを欠陥とする。すなわち、このようなセルを他のセルよりも欠陥の多いセル(欠陥セル)とし、補修の対象とする。
【0027】
または、セルごとに減圧して、セルの真空度を測定し、真空度が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも悪い値(低真空)のセルを欠陥とする。すなわち、このようなセルを他のセルよりも欠陥の多いセル(欠陥セル)とし、補修の対象とする。
【0028】
Aの値としては、σ〜6σの範囲で決めればよいが、σ〜5σが好ましく、分離精度を求められる場合には、σ〜3σが好ましい。製品の製造工程におけるガス分離や脱水等の比較的高い分離性能を問われる分野では2σ、排水処理や排ガス回収等の分離精度より分離膜構造体のコストが重視される分野では5σが好適である。
【0029】
セルの欠陥検出は、透過量の測定、真空度の測定のいずれで行ってもよい。なお、標準偏差σは、各セルのガスの透過量(または真空度)をx、ガスの透過量(または真空度)を測定したセル数をnとした場合、下記式によって求められるものである。
【0030】
【数1】
【0031】
本発明のモノリス型分離膜構造体の補修方法は、長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有するモノリス基材の補修方法である。モノリス型分離膜構造体の欠陥のあるセルのうちの少なくとも一部のセルの少なくとも両端部を流体が流通しないシール部材で塞ぐことにより、欠陥を有するモノリス型分離膜構造体を補修する。具体的には、セルの内壁面に分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥のあるセル内に、シール部材である高分子化合物を流し込んで硬化させて、欠陥のあるセルを塞ぐ。または、シール部材である、あらかじめ成型された高分子化合物を欠陥のあるセルに差し込み、欠陥のあるセルを塞ぐ。なお、製品が高い分離性能を問われる場合は、欠陥とされたセルの全てを塞ぐことが好ましい。
【0032】
本発明のモノリス型分離膜構造体の補修方法で補修されたモノリス型分離膜構造体は、長手方向の一方の端面から他方の端面まで多孔質の隔壁によって区画形成されたセルを複数個有するモノリス基材と、セルの内壁面に成膜された分離膜とを含み、一部のセルの少なくとも両端部が、流体が流通しないシール部材で閉塞されている。
【0033】
以下、さらに具体的に説明する。まず、モノリス型分離膜構造体について説明し、その後、モノリス型分離膜構造体の欠陥検出方法、補修方法について説明する。
【0034】
1.モノリス型分離膜構造体
図1に、本発明に係るモノリス型分離膜構造体1の一実施形態を示す。モノリス型分離膜構造体1(以下、単に分離膜構造体ともいう)は、モノリス型の基材30(モノリス基材)と、分離膜33とを備える(本明細書では、基材30を、モノリス型多孔質体9(または、単に多孔質体9)ともいう。)。本発明における「モノリス型の基材」とは、長手方向の一方の端面から他方の端面まで複数のセルが形成された形状あるいはハニカム状の基材を言う。
【0035】
分離膜構造体1は、多数の細孔が形成された多孔質からなる隔壁3を有し、その隔壁3によって、流体の流路となるセル4が形成されている。以下、基材30、分離膜33等について詳しく説明する。
【0036】
(基材)
基材30の材質は、セラミックス、金属、樹脂など多孔質であれば、特に限定されない。そのなかでも多孔質セラミックであることが好ましい。より好ましくは、骨材粒子が、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、ムライト(Al・SiO)、セルベン及びコージェライト(MgAlSi18)等である。これらの中でも、粒径が制御された原料(骨材粒子)を入手し易く、安定な坏土を形成でき、かつ、耐食性が高いアルミナが更に好ましい。
【0037】
基材30は、その外形は円柱形であり、外周面6を有しているが、基材30の全体的な形状やサイズについては、その分離機能を阻害しない限りにおいて特に制限はない。全体的な形状としては、例えば、円柱(円筒)状、四角柱状(中心軸に直交する断面が四角形の筒状)、三角柱状(中心軸に直交する断面が三角形の筒状)等の形状が挙げられる。中でも、押出成形がし易く、焼成変形が少なく、ハウジングとのシールが容易な円柱状が好ましい。精密濾過や限外濾過に用いる場合には、中心軸に直交する断面における直径が30〜220mm、中心軸方向における長さが150〜2000mmの円柱状とすることが好ましい。
【0038】
基材30は、長手方向の一方の端面2aから他方の端面2bまで多孔質の隔壁3によって区画形成された、流体の流路となるセル4を複数個有する。基材30は長手方向の両端側に貫通し、長手方向と平行なセル4を、30〜2500個有している。
【0039】
基材30のセル4の断面形状(セル4の延びる方向に直交する断面における形状)としては、例えば、円形、楕円形、多角形等を挙げることができ、多角形としては四角形、五角形、六角形、三角形等を挙げることができる。尚、セル4の延びる方向は、基材30が円柱(円筒)状の場合には、中心軸方向と同じである。
【0040】
基材30のセル4の断面形状が円形の場合、セル4の直径は、1〜5mmであることが好ましい。1mm以上とすることにより、膜面積を十分に確保することができる。5mm以下とすることにより、強度を十分なものとすることができる。
【0041】
基材30の上に平均粒径を変えた複数の層を設けることもできる。具体的には、基材30の上に、平均粒径の小さい中間層、表面層を積層することもできる。中間層、表面層を設けた場合は、これらも含めて多孔質体9ということにする。
【0042】
基材30の両端面2,2には、シール部1sが配設されていることが好ましい。このようにシール部1sが配設されていると、混合物の一部が分離膜33を通過することなく基材30の端面2から基材30の内部に直接流入し、分離膜33を通過したガス等と混ざって外周面6から排出されることを防止することができる。シール部1sとしては、例えば、ガラスシールや金属シールを挙げることができる。
【0043】
(分離膜)
分離膜33は、複数の細孔が形成され、その平均細孔径が多孔質体9(基材30、または、中間層、表面層を設けた場合は、それらも含む。)の平均細孔径に比して小さく、セル4内の壁面(内壁面4s)に配置されたものである。
【0044】
分離膜33の平均細孔径は、要求される濾過性能または分離性能(除去すべき物質の粒径)により、適宜決定することができる。例えば、精密濾過や限外濾過に用いるセラミックフィルタの場合であれば、0.01〜1.0μmが好ましい。この場合、分離膜33の平均細孔径は、ASTM F316に記載のエアフロー法により測定した値である。
【0045】
分離膜33としては、ガス分離膜、逆浸透膜を採用することができる。分離膜33は、特に限定されるものではないが、無機材料で形成されていることが好ましい、さらに具体的には、無機材料としては、ゼオライト、炭素、およびシリカ等を挙げることができる。
【0046】
分離膜33が、ゼオライト膜である場合には、ゼオライトとしては、LTA、MFI、MOR、FER、FAU、DDR、CHA、BEAといった結晶構造のゼオライト等を利用することができる。分離膜33がDDR型ゼオライトである場合には、特に、二酸化炭素を選択的に分離するために用いられるガス分離膜として利用することができる。
【0047】
2.分離方法
次に、本実施形態の分離膜構造体1を用いて複数種類が混合した流体から一部の成分を分離する方法について説明する。図2Aに示すように、本実施形態の分離膜構造体1を用いて流体を分離する際には、分離膜構造体1を、流体入口52及び流体出口53を有する筒状のハウジング51内に収納し、ハウジング51の流体入口52から流入させた被処理流体F1を分離膜構造体1で分離し、分離された被処理流体(処理済流体F2)を流体出口53から排出することが好ましい。
【0048】
分離膜構造体1をハウジング51に収納する際には、図2Aに示すように、分離膜構造体1の両端部において、分離膜構造体1とハウジング51との隙間を、シール材54,54で塞ぐことが好ましい。シール材54としては、特に限定されないが、例えば、O−リング等が挙げられる。
【0049】
流体入口52からハウジング51内に流入した被処理流体F1の全てが分離膜構造体1のセル4内に流入し、セル4内に流入した被処理流体F1は、分離膜33を透過して処理済流体F2となって基材30内に浸入する。そして、基材30の外周面6から基材30外に流出して、流体出口53から外部(外部空間)に排出される。シール材54,54によって、被処理流体F1と処理済流体F2とが混ざることを防止することができる。
【0050】
図2Bに、分離膜構造体1をハウジング51に装着した他の実施形態を示す。図2Bに示すように、分離膜構造体1を、流体入口52及び流体出口53,58を有する筒状のハウジング51内に収納する。この実施形態では、ハウジング51の流体入口52から流入させた被処理流体F1を分離膜構造体1で分離し、分離された被処理流体(処理済流体F2)を流体出口53から排出、残り(流体F3)を流体出口58から排出することができる。流体出口58から流体F3を排出することができるため、被処理流体F1の流速を大きく運転することができ、処理済流体F2の透過流速を大きくすることができる。
【0051】
3.製造方法
(基材)
次に、本発明に係る分離膜構造体1の製造方法について説明する。最初に、多孔質体の原料を成形する。例えば、真空押出成形機を用い、押出成形する。これによりセル4を有するモノリス型の未焼成の基材30を得る。他にプレス成形、鋳込み成形などがあり、適宜選択できる。次いで、未焼成の基材30を、例えば、900〜1450℃で焼成する。なお、セル4内に、中間層、表面層を形成してもよい。
【0052】
(分離膜)
次に、セル4の内壁面4s上に分離膜33を形成する。分離膜33として、ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜を形成する場合を例として、説明する。
【0053】
(ゼオライト膜)
分離膜33としてゼオライト膜を配設する場合について説明する。本発明に用いるゼオライト膜は従来既知の方法により合成できる。たとえば、図4に示すように、シリカ源、アルミナ源、有機テンプレート、アルカリ源、水などの原料溶液(ゾル67)を作製し、耐圧容器65内に多孔質体9(基材30)と調合した原料溶液(ゾル67)を入れた後、これらを乾燥器68に入れ、100〜200℃にて1〜240時間、加熱処理(水熱合成)を行うことにより、ゼオライト膜を製造する。
【0054】
このときに種結晶として予めゼオライトを多孔質体9(基材30)に塗布しておくことが好ましい。次に、ゼオライト膜が形成された多孔質体9を、水洗または、80〜100℃の温水にて洗浄し、それを取り出して、80〜100℃にて乾燥する。そして、多孔質体9を電気炉に入れ、大気中で、400〜800℃、1〜200時間加熱することにより、ゼオライト膜の細孔内の有機テンプレートを燃焼除去する。以上により、ゼオライト膜を形成することができる。
【0055】
シリカ源としては、コロイダルシリカ、テトラエトキシシラン、水ガラス、シリコンアルコキシド、ヒュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。
【0056】
有機テンプレートはゼオライトの細孔構造を形成するために用いられる。特に限定されないが、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムブロミド、1−アダマンタンアミン、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、等の有機化合物が挙げられる。
【0057】
アルカリ源としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属や、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属や、四級アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0058】
ゼオライト膜の製造方法は、LTA、MFI、MOR、FER、FAU、DDR、CHA、BEAといった結晶構造のゼオライトについて適用することができる。
【0059】
(シリカ膜)
セル4の内壁面4s上に、分離膜33としてシリカ膜を配設する場合について説明する。シリカ膜となる前駆体溶液(シリカゾル液)は、テトラエトシキシランを硝酸の存在下で加水分解してゾル液とし、エタノールで希釈することで調製することができる。また、エタノールで希釈する代わりに、水で希釈することも可能である。そして、多孔質体9の上方から、シリカ膜となる前駆体溶液(シリカゾル液)を流し込み、セル4を通過させ、あるいは、一般的なディッピングによって、前駆体溶液を、セル4の内壁面に付着させる。その後、10〜100℃/時にて昇温し、350〜600℃で1〜100時間保持した後、10〜100℃/時で降温する。このような流し込み、乾燥、昇温、降温の操作を3〜10回繰り返すことによって、シリカ膜を配設することができる。以上により、分離膜33がシリカ膜である分離膜構造体1が得られる。
【0060】
(炭素膜)
セル4の内壁面4s上に、分離膜33として炭素膜を配設する場合について説明する。この場合、ディップコート、浸漬法、スピンコート、スプレーコーティング等の手段によって、炭素膜となる前駆体溶液を多孔質体9の表面に接触をさせ、成膜すればよい。フェノ一ル樹脂、メラミン樹脂、ユリヤ樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、又はセルロース系樹脂等、あるいは、それら樹脂の前駆体物質を、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、NMP、トルエン等の有機溶媒や水等に混合、溶解させれば、前駆体溶液を得ることができる。前駆体溶液を成膜する際には、それに含まれる樹脂の種類に応じて、適切な熱処理を施してもよい。こうして得られた、前駆体膜を炭化して、炭素膜を得る。
【0061】
図5に、本発明に係るモノリス型分離膜構造体1の他の実施形態を示す。本実施形態では、一方の端面2aから他方の端面2bまで貫通して列をなして形成された複数の分離セル4aと、一方の端面2aから他方の端面2bまで列をなして形成された複数の集水セル4bを備える。分離膜構造体1の分離セル4aと集水セル4bの断面形状は円形である。そして、分離セル4aの両端面2a,2bの開口は開放されている(開口のままである)。集水セル4bは、その両端面2a,2bの開口が目封止部材で目封止されて目封止部8が形成され、集水セル4bが外部空間と連通するように、排出流路7が設けられている。また、分離セル4aの内壁面4sの表面に分離膜33が配設されている。
【0062】
4.欠陥検出方法
上記のようにして作製した分離膜構造体1は、分離膜33に欠陥がある場合がある。分離膜33に欠陥があると、そのままでは、製品として使用することができない。そのため欠陥の有無を検出する必要がある。そこで、まず、欠陥検出方法について図6を用いて説明する。欠陥検出方法の第1の方法は、セル4外からセル4ごとにガスで加圧して、ガスがセル4内に透過する透過量を測定し、透過量が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも多いセル4を欠陥とする方法である。
【0063】
図6に示すように、測定したいセル4の片端をシリコン栓等の栓21で封じ、セル4の他方を石鹸膜流量計等の流量計22に接続する(他方側の栓21aには、孔が形成されており、管が流量計22につながっている)。栓21は、円錐状または円錐台状の樹脂であることが好ましい。このような栓21を用いると、気密性を向上させることができる。そして、分離膜構造体1の外表面からCF等のゼオライトの細孔径よりも分子径の大きいガス(評価ガス)をガスボンベ23から供給(例えば、0.2MPa)し、セル4から評価ガスが一定量(例えば0.5cc)漏れるまでの時間を計測して評価ガスの透過量を算出する。全てのセル4に対して測定を実施し、各セル4の評価ガスの透過量データから、評価ガスのガス透過量の標準偏差σを算出する。
【0064】
透過量が(全セルの平均値+A)よりも多いセル4は、分離係数の低下に影響が大きいセル4である。したがって、他のセル4よりも欠陥が多く分離係数が低い低分離係数セルを、σ〜6σを用いて検出することで、分離係数低下に影響が大きいセル4を選択的に検出することができる。1本のモノリス型分離膜構造体1のなかの低分離係数セル(欠陥セル)を検出し補修することでモノリス型分離膜構造体全体の分離係数を向上させることができる。
【0065】
次に欠陥検出方法の第2の方法について説明する。欠陥検出方法の第2の方法は、セル4ごとに減圧して、セル4の真空度を測定し、真空度が(全セルの平均値+A)(ただしAは、σ〜6σの所定の値、σは標準偏差)よりも悪い値のセル4を欠陥とする方法である。
【0066】
図7に示すように、測定したいセル4の両端を孔が形成されたシリコン栓等の栓21aで封じる。栓21aは、円錐状または円錐台状の樹脂であることが好ましい。このような栓21aを用いると、気密性を向上させることができる。一方の栓21aには、真空ポンプ25、他方の栓21aには、真空計26を接続する。そして、真空ポンプ25でセル4内を真空引きし、セル4内の到達真空度を測定する。全てのセル4に対して測定を実施し、各セル4の到達真空度のデータから、真空度の標準偏差σを算出する。
【0067】
真空度が(全セルの平均値+A)よりも悪いセル4は、分離係数の低下に影響が大きいセル4である。したがって、他のセル4よりも欠陥が多く分離係数が低い低分離係数セルを、σ〜6σを用いて検出することで、分離係数低下に影響が大きいセル4を選択的に検出することができる。すなわち、1本のモノリス型分離膜構造体1のなかの低分離係数セル(欠陥セル)を検出し補修することでモノリス型分離膜構造体全体の分離係数を向上させることができる。
【0068】
なお、本発明の欠陥検出方法は、1本のモノリス型分離膜構造体のなかの、他のセル4に比べて特に分離係数の低い、低分離係数セル(欠陥セル)を検出することができる。
【0069】
5.欠陥補修方法
上記のようにして欠陥があると判断された分離膜構造体は、そのままでは、製品として使用することができない。そこで、欠陥を補修する方法を説明する。
【0070】
本発明のモノリス型分離膜構造体の補修方法の第1の方法は、セル4の内壁面に分離膜33が成膜されたモノリス型分離膜構造体1の欠陥のあるセル4内に、柔軟性のある、または流動性のある高分子化合物27を流し込んで硬化させて、欠陥のあるセルを塞ぐ方法である。図8に、欠陥のあるセルに流体が流通しないシール部材である高分子化合物27を流し込んで硬化させて補修した分離膜構造体1の断面図を示す。一部のセル4の少なくとも両端部が高分子化合物27で閉塞されていることが好ましい。さらに、高分子化合物27は、セル4の両端部のそれぞれに、1mm以上流し込んで硬化させることが好ましい。欠陥のあるセル4内のすべてを高分子化合物27で充填してもよい。このようにすることにより、欠陥のあるセル4には、混合物(混合ガス、混合液体等)が、浸入しなくなるため、分離性能の低下を防ぐことができる。なお、図8の高分子化合物27による閉塞は、図5では、分離セル4aに対して行われるものであり、図5の集水セル4bにおける目封止部8とは異なる。
【0071】
また、本発明のモノリス型分離膜構造体の補修方法の第2の方法は、あらかじめ成型された高分子化合物27を欠陥のあるセル4に差し込み、欠陥のあるセル4を塞ぐ方法である。この際、接着剤を併用してもよい。図9に、あらかじめ成型された高分子化合物を欠陥のあるセルに差し込んだ分離膜構造体を示す。第2の方法においても、一部のセル4の少なくとも両端部が高分子化合物27で閉塞されていることになる。
【0072】
高分子化合物は、耐圧性、耐薬品性があるため、高分子化合物で欠陥のあるセル4を塞いだ分離膜構造体1は、使用上問題がない。高分子化合物としては、合成樹脂が挙げられる。さらに具体的には、合成樹脂としては、エポキシ、シリコン系、およびフッ素系を挙げることができる。
【0073】
上記の方法で作製、補修された分離膜構造体1は、加圧により補修部(高分子化合物で閉塞したところ)および分離膜33に欠陥が生じず、分離性能の低下が起きない最大圧力である使用耐圧が1MPa以上である。使用耐圧(分離性能保持強度)とは、分離膜構造体1のセル加圧後に分離性能の低下が起きなかった最大圧力をいう。すなわち、(加圧後の分離係数/加圧前の分離係数)<1のとき、分離性能が低下したとし、分離性能が低下しない最大圧力を使用耐圧(分離性能保持強度)とする。
【0074】
本発明の透過量や真空度が平均値から乖離しているセル4を補修する方法は、他のセル4と比べて欠陥の多いセル4を補修することができる。このようなセル4を補修の対象とすることで、効率よくモノリス型分離膜構造体全体の分離係数を向上させることができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
1.モノリス型分離膜構造体の作製方法
モノリス型基材30を作製し、そのセル4内に分離膜33を形成した。まず、基材30の作製について説明する。
【0077】
(基材)
平均粒径50μmのアルミナ粒子(骨材粒子)100質量部に対して無機結合材(焼結助剤)20質量部を添加し、更に、水、分散剤、及び増粘剤を加えて混合し混練することにより坏土を調製した。得られた坏土を押出成形し、モノリス型の未焼成の基材30を作成した。
【0078】
未焼成の基材30に、その外周面6の一の部位から集水セル4bを貫通して他の部位まで連通する排出流路7を形成した(実施例3のみ。図5参照。)。
【0079】
そして、基材30を焼成した。焼成条件は1250℃、1時間とし、昇温ないし降温の速度はいずれも100℃/時間とした。
【0080】
実施例1〜3、5〜6の多孔質体9(基材30)は、外形が円柱形で、外径30mm−全長160mm、セル径が2.5mm、セル数が55個(ただし、実施例3は、集水セル4bが30個)であった。
【0081】
実施例4の多孔質体9(基材30)は、外径180mm−全長1000mm、セル径が2.5mm、セル数が2050個であった。
【0082】
次に、多孔質体9のセル4内の壁面に、分離膜33として、DDR膜、シリカ膜、炭素膜のいずれかを形成した試料を作製した。それぞれの作製方法について説明する。
【0083】
(実施例1〜4)
(DDR膜の形成)
分離膜33としてDDR膜をセル4の内壁面4s上に形成した。
【0084】
(1)種結晶の作製
M. J. den Exter, J. C. Jansen, H. van Bekkum, Studies in Surface Science and Catalysis vol.84, Ed. by J. Weitkamp et al., Elsevier(1994)1159−1166、または特開2004−083375号公報に記載のDDR型ゼオライトを製造する方法を基に、DDR型ゼオライト結晶粉末を製造し、これをそのまま、または必要に応じて粉砕して種結晶として使用した。合成後または粉砕後の種結晶を水に分散させた後、粗い粒子を除去し、種結晶分散液を作製した。
【0085】
(2)種付け(粒子付着工程)
(1)で作製した種結晶分散液をイオン交換水またはエタノールで希釈し、DDR濃度0.001〜0.36質量%(スラリー64中の固形分濃度)になるように調整し、スターラーで300rpmで攪拌し、種付け用スラリー液(スラリー64)とした。広口ロート62の下端に多孔質の多孔質体9を固着し、多孔質体9の上部から160mlの種付け用スラリー液を流し込みセル4内を通過させた(図3参照)。スラリー64を流下させた多孔質体9は、室温または80℃、風速3〜6m/sの条件で10〜30minセル内を通風乾燥させた。スラリー64の流下、通風乾燥を1〜6回繰り返してサンプルを得た。乾燥させた後、電子顕微鏡による微構造観察を行った。DDR粒子が多孔質体9の表面に付着していることを確認した。
【0086】
(3)膜化(膜形成工程)
フッ素樹脂製の100mlの広口瓶に7.35gのエチレンジアミン(和光純薬工業製)を入れた後、1.156gの1−アダマンタンアミン(アルドリッチ製)を加え、1−アダマンタンアミンの沈殿が残らないように溶解した。別の容器に98.0gの30質量%のコロイダルシリカ(スノーテックスS,日産化学製)と116.55gのイオン交換水を入れ軽く攪拌した後、これをエチレンジアミンと1−アダマンタンアミンを混ぜておいた広口瓶に加えて強く振り混ぜ、原料溶液を調製した。原料溶液の各成分のモル比は1−アダマンタンアミン/SiO=0.016、水/SiO=21である。その後、原料溶液を入れた広口瓶をホモジナイザーにセットし、1時間攪拌した。内容積300mlのフッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器65内に(2)でDDR粒子を付着させた多孔質体9を配置し、調合した原料溶液(ゾル67)を入れ、140℃にて50時間、加熱処理(水熱合成)を行った(図4参照)。なお、水熱合成時は、原料のコロイダルシリカとエチレンジアミンによって、アルカリ性であった。走査型電子顕微鏡で膜化させた多孔質体9の破断面を観察したところ、DDR膜の膜厚は、10μm以下であった。
【0087】
(4)構造規定剤除去
被覆できた膜を電気炉で大気中450または500℃で50時間加熱し、細孔内の1−アダマンタンアミンを燃焼除去した。X線回折により、結晶相を同定し、DDR型ゼオライトであることを確認した。また膜化後、多孔質体9がDDR型ゼオライトで被覆されていることを確認した。
【0088】
(実施例5,6)
(シリカ膜の形成)
次に、分離膜33としてシリカ膜を内壁面4s上に形成した。シリカ膜となる前駆体溶液(シリカゾル液)は、テトラエトシキシランを硝酸の存在下で加水分解してゾル液とし、エタノールで希釈することで調製した。内壁面4sが形成された多孔質体9の上方から、シリカ膜となる前駆体溶液(シリカゾル液)を流し込み、セル4を通過させ、前駆体溶液を、セル4の内壁面に付着させた。その後、100℃/時にて昇温し、500℃で1時間保持した後、100℃/時で降温した。このような流し込み、乾燥、昇温、降温の操作を3〜5回繰り返すことによって、シリカ膜を配設した。
【0089】
(実施例7)
(炭素膜の形成)
分離膜33として炭素膜をセル4の内壁面4s上に形成した。フェノ一ル樹脂有機溶媒に混合、溶解させ、前駆体溶液を得た。ディップコーティングによって、炭素膜となる前駆体溶液を多孔質体9の表面に接触をさせ、成膜した。その後、300℃、1時間の熱処理を行い炭素膜の前駆体であるポリイミド樹脂を表面に配設した。そして、得られたポリイミド樹脂層配設基材を、非酸化雰囲気下600℃、5時間の条件で熱処理し炭素膜を得た。
【0090】
2.欠陥検出方法
真空度測定による方法、ガス透過量測定による方法を用いて、分離膜33が形成された分離膜構造体1の欠陥を検出した。
【0091】
(真空度測定)
図7に示すように、各セル4の真空度を測定した。セル4の一方を真空ポンプ(アズワン型番G−20DA、排気速度24L/min、到達圧力1.3×10−1Pa、2段式)で吸引し、他方のセル4に真空計(GE Sensing社製キャリブレーター、型番:DPI800)を接続してセル内を真空引きし、セル4内の到達真空度を測定した。
【0092】
全セル4の真空度の平均値と標準偏差(σ)を算出し、(平均値+2σ)よりも真空度が悪いセル(低真空のセル)には欠陥が発生している(他のセル4に比べて欠陥が多い)と判断した。表1に、実施例1の結果を示す。セル番号は、図10Aに示す位置で、全55個のセル4について、真空度を調べた。なお、表の真空度は、ゲージ圧(大気圧を基準に真空をマイナス表示)である。
【0093】
【表1】
【0094】
55個のセル4の真空度の平均値は、−99.76kPa、標準偏差(σ)は、0.15kPa、(平均値+2σ)は、−99.46kPaであった。したがって、セル番号が、1,16,43の3個のセル4が欠陥と判定された。
【0095】
(ガス透過量測定)
図6に示すように、膜の細孔径以上の分子径を有するガスを、セル4内に導入し、ガス透過量から欠陥を調べた。DDR膜の場合、四フッ化メタンを用いた。まずは測定したいセル4の片端をシリコン栓で封じ、セル4の他方を石鹸膜流量計に接続した後、モノリス基材の外表面から四フッ化メタンを0.2MPaで供給し、セルから四フッ化メタンが0.5cc漏れるまでの時間を計測して四フッ化メタンの透過量を算出した。シリカ膜、炭素膜の場合、六フッ化硫黄を用いた。
【0096】
全セル4の透過量の平均値と標準偏差(σ)を算出し、(平均値+2σ)よりも透過量が多いセルには欠陥が発生している(他のセル4に比べて欠陥が多い)と判断した。表2に、実施例3の結果を示す。セル番号は、図10Bに示す位置で、全30個のセル4について、透過量を調べた。
【0097】
【表2】
【0098】
30個のセル4の透過量の平均値は、0.0009L/m・s・MPa、標準偏差(σ)は、0.0006L/m・s・MPa、(平均値+2σ)は、0.0021L/m・s・MPaであった。したがって、セル番号が、7,10,29の3個のセル4が欠陥と判定された。
【0099】
3.補修方法、効果
表1(実施例1)、表2(実施例3)に示したもの以外のもの(実施例2,4〜7)についても、同様にして欠陥を判定し、欠陥と判定されたセル4について、補修を行った。
【0100】
(DDR型ゼオライト膜)
(実施例1:エポキシ)
分離膜構造体1の真空度測定から検出した3つの欠陥セルにエポキシ樹脂(コニシ製E200)を端面から5mm流し込み、室温にて24時間乾燥させセル4を閉塞させた。
【0101】
(実施例2:シリコン栓)
分離膜構造体1の真空度測定から検出した4つの欠陥セルにあらかじめ円錐型に成型されたシリコン栓(アズワン型式2ピンク)を差し込んで固定し、セル4を閉塞させた。
【0102】
(実施例3:パーフロ栓)
あらかじめ円錐型に成型されたパーフロ栓(エア・ウォーター・マッハ製)をガス透過量測定から検出した3つの欠陥セルに差し込んで固定し、セル4を閉塞させた。
【0103】
(実施例4:エポキシ)
実施例4のみ、外径180mm−全長1000mm、セル径が2.5mm、セル数が2050個の大型の多孔質体9を用いたものである。分離膜構造体1の真空度測定から検出した31個の欠陥セルにエポキシ樹脂(コニシ製E200)を端面から10mm流し込み、室温にて24時間乾燥させセル4を閉塞させた。
【0104】
(シリカ膜)
(実施例5:シリコン栓)
分離膜構造体1のガス透過量測定から検出した9つの欠陥セルにあらかじめ円錐型に成型されたシリコン栓(アズワン型式2ピンク)を欠陥セルに差し込んで固定し、セル4を閉塞させた。
【0105】
(実施例6:パーフロ栓)
あらかじめ円錐型に成型されたパーフロ栓(エア・ウォーター・マッハ製)を真空度測定から検出した7つの欠陥セルに差し込んで固定し、セル4を閉塞させた。
【0106】
(炭素膜)
(実施例7:シリコン栓)
分離膜構造体1の真空度測定から検出した3つの欠陥セルにあらかじめ円錐型に成型されたシリコン栓(アズワン型式2ピンク)を欠陥セルに差し込んで固定し、セル4を閉塞させた。
【0107】
(分離係数)
分離膜33がDDR膜の場合、以下のようにして、補修前、補修後の分離係数を求めた。二酸化炭素(CO)とメタン(CH)の混合ガス(各ガスの体積比を50:50とし、各ガスの分圧を0.2MPaとした。)を、分離膜構造体1のセル4内に導入し、分離膜33を透過したガスを回収しガスクロマトグラフを用いて成分分析を行い、「分離係数α=(透過CO濃度/透過CH濃度)/(供給CO濃度/供給CH濃度)」の式により分離係数を算出した。
【0108】
分離膜33が炭素膜、シリカ膜の場合、以下のようにして分離係数を求めた。水とエタノールの混合液を、分離膜構造体1のセル4内に導入し、分離膜33を透過した液を回収し、ガスクロマトグラフを用いて成分分析を行った。そして「分離係数α=(透過水の濃度(質量%)/透過エタノールの濃度(質量%))/(供給水の濃度(質量%)/供給エタノールの濃度(質量%))」の式により分離係数を算出した。
【0109】
(加圧後の分離係数)
図2Aに示すように、補修後の分離膜構造体1を、流体入口52及び流体出口53を有する筒状のハウジング51内に収納し、ハウジング51の流体入口52から水を流入させて水により5MPaで加圧した後、乾燥機にて乾燥させた。その後、上記と同様にして、分離係数を算出した。
【0110】
表3に補修前、補修後、5MPa水圧加圧後の分離係数を示す。
【0111】
【表3】
【0112】
表3に示すように、補修前に比べて補修後は分離係数が向上し、補修の効果が確認された。また、補修後の分離膜構造体1について、水による5MPaで加圧した後の分離性能は、加圧による分離係数の低下は認められなかった。すなわち、使用耐圧(分離性能保持強度)が5MPa以上あると言え、補修部の耐圧性が確認された。言い換えると、高分子化合物で閉塞した分離膜構造体1は、5MPa以上に耐えられた。表には示していないが、ガス透過量についても、5MPaの水圧加圧による問題は、発生しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の欠陥検出方法、補修方法は、セルの内壁面に分離膜が成膜されたモノリス型分離膜構造体の欠陥検出、補修に用いることができる。本発明のモノリス型分離膜構造体は、混合ガス、混合液体の分離に用いることができる。
【符号の説明】
【0114】
1:分離膜構造体、1s:シール部、2,2a,2b:端面、3:隔壁、4:セル、4a:分離セル、4b:集水セル、4s:内壁面、6:外周面、7:排出流路、8:目封止部、9:多孔質体、21:栓、21a:(孔が形成された)栓、22:流量計、23:ガスボンベ、25:真空ポンプ、26:真空計、27:高分子化合物、30:基材、33:分離膜、51:ハウジング、52:流体入口、53,58:流体出口、54:シール材、62:広口ロート、63:コック、64:スラリー、65:耐圧容器、67:ゾル、68:乾燥器。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B