(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記信号取得工程によって取得された前記アコースティックエミッション信号に基づいて、前記強化層の損傷を示す第2の条件を満たすか否かを判定する第2の判定工程を更に備える、請求項1に記載の複合容器の検査方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0017】
図1に示すように、複合容器1は、円筒形状のライナー2と、ライナー2の外面側を覆うように設けられた強化層3と、を備えている。ライナー2の両端部はドーム状に形成されており、当該両端部の先端には、口金4が取り付けられている。ライナー2の材料は特に限定されないが、用途によって、樹脂製、金属製が選択される。樹脂製のライナー2としては、高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂を回転成形やブロー成形にて容器形状に賦形されたものに、金属製の口金4が付けられているものが挙げられる。金属製のライナー2は、例えば、アルミニウム合金製や鋼鉄製等からなるパイプ形状や板形状からスピニング加工等により容器形状を形成したあとで、口金4の形状を形成するものが挙げられる。強化層3は、ライナーに硬化性樹脂が予め含浸された繊維を巻き付けることによって形成される。繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ポリエチレン繊維、スチール繊維、ザイロン繊維、ビニロン繊維等が挙げられるが、特に高強度、高弾性率かつ軽量な炭素繊維を用いてよい。
【0018】
以上のような構成により、複合容器1は、円筒状のシリンダ部1aと、両端側のドーム部1bと、を備える。シリンダ部1aの全域、及びドーム部1bの略全域は強化層3で覆われており、ドーム部1bの先端の口金4(及びその周辺領域)は、ライナー2の表面が露出している。
【0019】
複合容器1は、特に用途は限定されないが、例えば、水素や天然ガスなどの燃料ガスを高圧で貯蔵するための容器である。複合容器1は、据え置き型として用いられてもよく、移動体に搭載されて用いられてもよい。複合容器1は、例えば、全長が0.5〜10m、直径が200〜1000mm程度に設定され、使用時には、0〜150MPa程度の圧力に耐えることができる。ただし、複合容器1は、このような数値範囲に限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、複合容器1を検査するための検査システム100は、複合容器1に取り付けられるアコースティックエミッションセンサ(以下、アコースティックエミッションを「AE」と称する)5と、システム全体の制御を行う制御部10と、表示部11と、入力部12と、を備えている。
【0021】
AEセンサ5は、材料が変形、または材料中に微小な亀裂などの損傷が生成する際に発生するAEや、亀裂が成長して材料が破壊されるときに発生するAEを検出するセンサである。
図1に示す例では、ライナー2が露出している部分に対してライナー2の表面にAEセンサ5Aが取り付けられ、ドーム部1bにおける強化層3の表面にAEセンサ5Bが取り付けられ、シリンダ部1aにおける強化層3の表面にAEセンサ5Cが取り付けられている。ライナー2の表面に取り付けられたAEセンサ5Aにより、ライナー2の疲労破壊の兆候を検出し易くなる。また、強化層3の表面に取り付けたAEセンサ5B,5Cにより、強化層3の損傷を検出し易くなる。なお、AEセンサ5の数量は特に限定されない。また、取付位置に関しても、ライナー2の表面、ドーム部1bにおける強化層3の表面、及びシリンダ部1aにおける強化層3の表面の少なくとも一の箇所に取り付けてよい。例えば、ライナー2の表面及びドーム部1bのみにAEセンサ5を設けてシリンダ部1aに設けなくともよく、ライナー2の表面及びシリンダ部1aのみにAEセンサ5を設けてドーム部1bに設けなくともよい。AEセンサ5は、制御部10と電気的に接続されており、検出したAE信号を制御部10へ出力する。
【0022】
表示部11は、検査を行う作業者に対して情報を表示する機能を有しており、ディスプレイなどによって構成されている。表示部11は、制御部10から送信される情報を表示する。なお、スピーカーなどにより音声によって情報を出力してもよい。入力部12は、作業者の操作によって必要な情報を入力する機能を有しており、マウス、タッチパネル、ペンタブレット、キーボードなどによって構成される。入力部12は、入力された情報を制御部10へ送信する。制御部10は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。制御部10は、信号取得部13と、測定部14と、判定部15と、処理部16と、を備えている。
【0023】
信号取得部13は、AEセンサ5から出力されるAE信号を取得する機能を有している。測定部14は、信号取得部13で取得されたAE信号を用いて、検査のための判定に用いられる各種値を測定する機能を有している。なお、測定部14は、検査場所などの関係により、AE信号にノイズが含まれる場合は、当該ノイズを除いたAE信号による測定値を測定可能である。また、測定部14は、ライナー2の疲労に起因する損傷によって生じるAEを測定可能であると共に、強化層3の損傷(繊維の損傷、硬化性樹脂の損傷)によるAEを測定可能である。
【0024】
判定部15は、検査のための各種判定を行う機能を有している。判定部15は、測定部14による測定値に基づいて、すなわち信号取得部13によって取得されたAE信号に基づいて、ライナー2の疲労破壊の兆候を示す第1の条件を満たすか否かを判定する機能を有している。例えば、判定部15は、測定部14による測定値が予め設定された閾値以上である場合に、第1の条件を満たすと判定する。第1の条件の判定のために設定される閾値は、ライナー2の疲労破壊の兆候を示す値であればよく、その閾値がどの程度の疲労の進行度合いを示す値であるかは特に限定されない。例えば、疲労破壊の直前であることを示す値を閾値として設定してもよく、使用開始から疲労破壊までの中間時期であることを示す値を閾値として設定してもよい。また、第1の条件の判定のために用いられる閾値は、AEセンサ5で検出されたAEのエネルギーに基づいた値に対して設定され、具体的には、AEの累積エネルギー(例えば測定開始からの累積エネルギー)や、所定時間内におけるAEエネルギー量や、AEのヒットレートに対して設定される。なお、AEのエネルギーは、AE信号の波形から演算されてもよいが、演算を容易にするために近似的に演算してもよい。例えば、AEの数をAE累積エネルギーの大きさと同等なものと見なし、AEの数のカウント数をAE累積エネルギーとしてもよい(なお、AEの数を単純にカウントしてもよく、大きいAEの場合はエネルギーが大きいものとみなし、大きさに応じて加算してカウントしてもよい)。または、ライナー2の疲労破壊の兆候を示すAE波形やAEの周波数分布を有するAE信号が検出されること自体を第1の条件としてもよい。
【0025】
ライナー2の疲労破壊に関し、複合容器1の使用を繰り返すサイクル試験を行うことで、使用開始から最終的にライナー2が疲労破壊を起こすまでの間に、ライナー2の疲労の影響によって発生するAE信号を検出することができる。例えば、
図2に示すように、複合容器1に流体を入れて内圧を上げた後、流体を複合容器1から出して内圧を下げることを1サイクルとして、当該サイクルを繰り返しながら、その時に発生するAE音をAEセンサ5で検出する。このようなサイクル試験を行った場合、
図3に示すように、使用初期から中期にかけては略無音状態が続き、P1に示す回数において、複合容器1のライナー2の疲労・亀裂発生を示すAE信号が検出される。更にサイクルを続けると、P3に示す回数において、疲労亀裂の進展増加を示すAE信号が検出される。そして、更にサイクルを続けてゆくと、P3に示す回数においてライナー2の最終的な疲労破壊が発生し(リークが発生する)、当該疲労破壊によって発生するAE信号が検出される。このような試験結果より、複合容器1の検査中にAE音を測定することによって、ライナー2の疲労の進行度合いを検査することができる。例えば、P1やP2で検出されるAE信号に基づいて検査を行うことで、ライナー2の疲労がある程度進んでいることを判断できる。例えば、
図3に示すL2を閾値として設定することができる。あるいは、P3でのAE信号が検出される直前のAE信号に基づいて検査を行うことで、ライナー2が疲労破壊直前の状態であることを判断できる。例えば、
図3に示すL1を閾値として設定することができる。以上より、判定部15の判定に用いる第1の条件は、予め測定された、複合容器1の使用サイクルとライナー2の疲労によって生じるAEとの関係を示すデータに基づいて定められる。例えば、P1やP2に対応するAEの累積エネルギーを閾値として設定し、測定部14で測定されたAEの累積エネルギーが当該閾値以上であることを第1の条件としてもよい。または、P3へ至る直前のAEの累積エネルギーを閾値として設定し、測定部14で測定されたAEの累積エネルギーが当該閾値以上であることを第1の条件としてもよい。
【0026】
また、判定部15は、測定部14による測定値に基づいて、すなわち信号取得部13によって取得されたAE信号に基づいて、強化層3の損傷を示す第2の条件を満たすか否かを判定する機能を有している。強化層3の損傷によって生じるAE信号は、ライナー2の疲労によって生じるAE信号とは異なる特定を有しているため、第1の条件とは異なる条件として、第2の条件を設定することができる。例えば、判定部15は、測定部14による測定値が予め設定された閾値以上である場合に、第2の条件を満たすと判定する。また、第2の条件の判定のために用いられる閾値は、AEセンサ5で検出されたAEのエネルギーに基づいた値に対して設定してよく、具体的には、AEの累積エネルギー(例えば測定開始からの累積エネルギー)や、所定時間内におけるAEエネルギー量や、AEのヒットレートに対して設定される。または、強化層3の損傷を示すAE信号が検出されること自体を第2の条件としてもよい。なお、ライナー2の疲労によるAE信号よりも強化層3の損傷によるAE信号の方が、強化層3の損傷を明確に示しており、AE信号の解析による判別を行い易い。
【0027】
強化層3の損傷に関し、
図4に示すように、通常使用時の圧力をPL1としたとき、当該圧力PL1よりも更に圧力を高くしてゆくと、強化層6の繊維や樹脂の損傷が進んでゆき、圧力PL2で複合容器1の破壊が生じる。このときの強化層6の損傷に基づくAE音は順次増加してゆく。従って、複合容器1の検査中において、通常の使用圧力で使用しているにも関わらず、損傷を示すAE信号が強化層6から検出されたら(例えば、破壊が起きる前段階の圧力PL3で検出されるようなAE信号)、強化層6に損傷が発生していることを判断することができる。以上より、判定部15の判定に用いる第2の条件は、予め測定された、複合容器1の圧力と強化層6の損傷によって生じるAE信号との関係を示すデータに基づいて定められる。
【0028】
処理部16は、システム内の各種制御処理を実行する機能を有している。例えば、処理部16は、複合容器1の運用開始・運用停止処理や、ライナー2の疲労破壊の兆候があることを検出した際にその旨の情報をフィードバックするための処理などを実行する。
【0029】
次に、本実施形態に係る複合容器1の検査方法の一例について、
図5〜
図7を参照して説明する。
図5〜
図7の処理は、制御部10において実行される処理である。なお、複合容器1の検査方法として、運用中の複合容器1を常時監視する常時監視方法を採用してもよく、定期的に検査を行う定期検査方法を採用してもよい。
【0030】
まず、
図5に示す検査方法について説明する。
図5は、運用中の複合容器1を常時監視する場合の処理の一例を示している。
図5の例では、ライナー2の疲労破壊の兆候を示す第1の条件として、最終的な疲労破壊の直前におけるAE累積エネルギーを閾値として設定し、AE累積エネルギーの測定値が当該閾値以上となることを条件として設定した。例えば、
図3の例では、最終的な疲労破壊が起こるP3の付近におけるAE累積エネルギーを閾値として設定できる。
【0031】
図5の処理を開始する前に、複合容器1の検査の準備が行われる。複合容器1にAEセンサ5を取り付け、当該複合容器1を水素ステーションに設置する。次に、処理部16は、複合容器1の運用開始処理を実行する。処理部16は、複合容器1に対して燃料を供給・取り出しするための装置や機器の運転を開始する(ステップS10)。これによって、複合容器1に燃料が供給されて圧力が上昇し、複合容器1から燃料が取り出されて圧力が低下するサイクルが繰り返し行われる。次に、制御部10は、複合容器1を水素ステーションで実際に運用した場合にAEセンサ5に入ってくる、水素ステーション固有のノイズを把握する(ステップS11)。固有ノイズとして、例えば、ガス圧縮機や電磁弁作動音や車通行などによる周辺環境音などが挙げられる。測定部14は、信号取得部13によって取得されたAE信号を解析することによってノイズを把握する。
【0032】
次に、信号取得部13は、AEセンサ5からのAE信号を取得すると共に、測定部14は、当該AE信号に基づいてAE累積エネルギーを測定する(ステップS12)。このとき、測定部14は、S11で把握したノイズによるAEエネルギーを差し引いてAE累積エネルギーを測定する。次に、判定部15は、S12で取得されたAE信号に基づいて、第2の条件を満たすか否かを判定することによって、強化層3の損傷が有るか否かを判定する(ステップS13)。具体的には、強化層3の損傷を示すようなAE累積エネルギーが閾値として設定されていた場合、判定部15は、S12で測定されたAE累積エネルギーが閾値以上であるか否かを判定することによって、強化層3の損傷が有るか否かを判定する。あるいは、判定部15は、測定部14によってAE信号の解析を行った結果、強化層3の損傷を示すAE信号が検出されたか否かを判定することによって、強化層3の損傷が有るか否かを判定する。
【0033】
S13において、強化層3の損傷が有ると判定された場合、処理部16は、複合容器1の運用を停止する運用停止処理を実行する(ステップS16)。処理部16は、複合容器1に対して燃料を供給・取り出しするための装置や機器の運転を停止する。強化層3が損傷している場合は、複合容器1の強度に影響があるため、複合容器1の使用を直ちに止める必要があるため、S13の判定の後、直ちに運用停止処理を行っている。
【0034】
S13において、強化層3の損傷が無いと判定された場合、判定部15は、S12で取得されたAE信号に基づいて、第1の条件を満たすか否かを判定することによって、ライナー2の疲労破壊が近いか否かを判定する(ステップS14)。具体的には、判定部15は、S12で測定されたAE累積エネルギーが、閾値以上であるか否かを判定することによって、ライナー2の疲労破壊が近いか否かを判定する。
【0035】
S14において、ライナー2の疲労破壊が近くないと判定された場合、S12から再び処理を繰り返す。一方、S14において、ライナー2の疲労破壊が近いと判定された場合、S16へ移行し、処理部16は、複合容器1の運用停止処理を実行する。以上により、
図5に示す処理が終了し、水素ステーションから検査対象に係る複合容器1が撤去される。
【0036】
次に、
図6に示す検査方法について説明する。
図6は、運用中の複合容器1を常時監視する場合の処理の一例を示している。
図6の例では、ライナー2の疲労破壊の兆候を示す第1の条件として、運用開始から最終的な疲労破壊に至るまでの間の中間時期におけるAE累積エネルギーを閾値として設定し、AE累積エネルギーの測定値が当該閾値以上となることを条件として設定した。例えば、
図3の例では、中間時期においてライナー2の疲労によるAE信号が検出されたP1付近におけるAE累積エネルギーを閾値として設定できる。
【0037】
図6においては、S10、S11、S12、S13、S16で
図5と同様な処理がなされる。S13において強化層3の損傷が無いと判定された場合、判定部15は、S12で取得されたAE信号に基づいて、第1の条件を満たすか否かを判定することによって、ライナー2の疲労破壊の兆候があるか否かを判定する(ステップS17)。具体的には、判定部15は、S12で測定されたAE累積エネルギーが、閾値以上であるか否かを判定することによって、ライナー2の疲労破壊の兆候があるか否かを判定する。
【0038】
S17において、ライナー2の疲労破壊が近くないと判定された場合、S12から再び処理を繰り返す。一方、S17において、ライナー2の疲労破壊の兆候があると判定された場合、処理部16は、ライナー2に疲労破壊の兆候があるという情報を作業者へフィードバックする処理を実行する(ステップS18)。ここでは、直ちに複合容器1の使用を停止する程に疲労が進行していない状態を検出しているため、複合容器1の運用停止処理に代えて、情報のフィードバックを行っている。例えば、処理部16は、現時点におけるサイクル数及び残りの使用可能サイクルの推定値を作業者にフィードバックしてよい。または、処理部16は、使用のサイクルが想定よりも早い(遅い)場合、複合容器1に対して設定されている寿命(例えば15年)よりも早く(遅く)疲労破壊が来る旨をフィードバックしてよい。その際、目安となる残りの寿命をフィードバックしてよい。処理部16は、情報を表示部11へ出力することによって、情報をフィードバックする。
【0039】
以上により
図6に示す処理が終了する。S16の運用停止処理によって終了した場合、水素ステーションから検査対象に係る複合容器1が撤去される。S18の情報フィードバク処理によって終了した場合、
図5のS12へ移行し、ライナー2の疲労破壊が近いことを判定してもよい。あるいは、
図6のS17で設定された閾値よりも高い閾値を設定することで、更に疲労が進行した時期に情報フィードバック処理を行うようにしてもよい。
【0040】
次に、
図7に示す検査方法について説明する。
図7は、水素ステーションの定期検査時に複合容器1の検査を行う場合の処理の一例を示している。
【0041】
図7の処理を開始する前に、複合容器1の検査の準備が行われる。水素ステーションに既に設置されている複合容器1にAEセンサ5を取り付ける。次に、処理部16は、複合容器1内の耐圧試験のために、容器内部の圧力を昇圧する処理を実行する(ステップS20)。次に、信号取得部13は、AEセンサ5からのAE信号を取得する。判定部15は、S21で取得したAE信号が有音に係る信号であるか、無音に係る信号であるかを判定する(ステップS22)。なお、判定部15は、限りなく小さく無音に近い音も無音であるものと判定する。S22において、無音であると判定された場合、判定部15は検査に係る複合容器1は健全な状態であると判定する(ステップS28)。
【0042】
一方、S22において有音と判定されると、判定部15は、当該音がノイズであるか否かを判定する(ステップS23)。S23においてノイズであると判定された場合、複合容器自体に破壊音が発生しているわけではないので、判定部15は検査に係る複合容器1は健全な状態であると判定する(ステップS28)。
【0043】
一方、S23においてノイズだけではないと判定された場合、破壊音が発生している可能性があり、健全性が損なわれている可能性があるため、処理部16は、更に検査を進めるために、再度の昇圧処理を実行する(ステップS24)。測定部14は、昇圧時のAEエネルギー量を測定する(ステップS26)。判定部15は、S26で測定したAEエネルギー量が、予め設定しておいた閾値以上であるか否かを判定する(ステップS27)。閾値として、ライナー2の疲労を判定するための閾値(例えば、
図5や
図6の処理の例で設定した閾値)を設定してよい。また、S27のタイミングで、強化層3の損傷が有るか否かの判定を行ってもよい。S27において、AEエネルギー量が閾値未満であると判定された場合は、判定部15は検査に係る複合容器1は健全な状態であると判定する(ステップS28)。一方、S28において、AEエネルギー量が閾値以上であると判定された場合は、判定部15は検査に係る複合容器1は健全な状態ではないと判定する(ステップS29)。
【0044】
S28にて複合容器1が健全であると判定されて
図7に示す処理が終了した場合、定期検査は終了し、引き続き水素ステーションでの複合容器1の使用が継続される。一方、S28にて複合容器1が健全ではないと判定されて
図7に示す処理が終了した場合、水素ステーションから複合容器1が撤去される(直ちに交換が必要な程度の不健全性であった場合)。あるいは、複合容器1の残り寿命がどの程度であるかなどの情報がフィードバックされる。
【0045】
次に、
図8及び
図9を参照して、実際の測定データを用いて、ライナー2の疲労破壊の兆候を示す第1の条件を設定する設定方法の一例について説明する。ただし、第1の条件の設定方法は、これに限定されるものではない。
【0046】
まず、測定に用いる複合容器1として、長さが3800mm、外径480mmの300Lのものを用いた。この複合容器1の常用圧力は82MPaであった。この複合容器1に対して、プリアンプ内臓式のAEセンサ(V150−RIC)を取り付けた。取付箇所は、
図8(a)に示すように、複合容器の両端と、シリンダ部に所定間隔で複数のAEセンサ5を取り付けた。
図8(a)においてAで示す位置には、軸方向から見て
図8(b)に示すようなパターンで取り付け、Bで示す位置には、軸方向から見て
図8(c)に示すようなパターンで取り付けた。また、AE計測用ユニットとしてVallen社製の「AMSY−5M37」を用い、計測用ソフトウェアとしてVallen社製の「VisualAE」を用いた。また、複合容器1へのAEセンサ5の設置方法としては、シリコン接着剤などを用い、接触媒体としてシリコングリスなどを用いた。
【0047】
上述のような設備を用いて、サイクル試験を行い、当該サイクル中のAE累積エネルギーを測定した。なお、サイクル中のAEの数を累積した値をAE累積エネルギーとした。測定結果を
図9に示す。なお、ライナー2の疲労により亀裂が成長し、最終的に疲労破壊が発生したと見なしてサイクル試験を停止したときのサイクル数は25000回であった。
図9の横軸の「サイクル回数」は、対応する回数を25000回で割ることによって無次元化された数値である。また、縦軸の「AE累積エネルギー」は、対応するAE累積エネルギーの測定値を、25000回の時の測定値で割ることによって無次元化された数値である。
【0048】
図9に示すように、複合容器1の運用開始から最終的な疲労破壊に至るまでに、三段階のステップを経ている。第1のステップでは、ほぼ無音の状態となる。第1のステップは、使用開始からサイクル回数0.5付近まで続いている。第2のステップでは、複合容器1の疲労による亀裂等を示すAE信号が発生する。第2のステップでは初めにAE累積エネルギーが急激に増加し、その後は緩やかに増加する。第2のステップは、サイクル回数0.5付近から0.8付近まで続いている。第3のステップでは、疲労破壊に向けてAE累積エネルギーが順次増加する。第3のステップは、サイクル回数0.8付近から最終的な疲労破壊へ至るまで続く。
【0049】
このような、複合容器の使用サイクルとライナー2の疲労によって生じるAE信号との関係を示す測定データに基づいて、ライナー2の疲労破壊の兆候を判定するための第1の条件を設定することができる。例えば、ライナー2が疲労破壊の直前であることを判定するための閾値として、
図9において点線で示すエネルギー許容値L3を設定することができる。複合容器1の検査時においては、AE累積エネルギーの測定値がエネルギー許容値L3以上となったら、第1の条件が満たされたとして、複合容器1の運用を停止する。
【0050】
次に、本実施形態に係る複合容器1の検査方法の作用・効果について説明する。
【0051】
まず、強化層3を有していない従来の鋼製容器に対しては、非破壊検査手段として多様な検査方法を採用することが可能であった。例えば、鋼製容器の試験方法として、磁噴探傷試験、浸透深傷試験、超音波探傷試験、放射線透過試験、過流探傷試験などが採用されていた。
【0052】
一方、ライナー2に繊維を巻き付けて強化層3を形成している複合容器1においては、上述のような方法で検査を行うことができない。鋼製容器は均一な管厚を有していると共に滑らかな表面を有しているために、上述のような方法によって良好に検査を行うことができた。しかしながら、複合容器1は、繊維を巻き付けるために、表面が滑らかではない上、厚み方向における層構造も場所によって完全に均一とならない。従って、複合容器1において、鋼製容器で用いられる方法を採用しても、良好に検査を行うことができない。例えば、強化層3が磁性を有していないため磁噴探傷試験を採用することはできず、表面が滑らかではないため、表面の傷に薬品を塗布する浸透深傷試験を採用することはできず、管壁構造が均一ではないためセンサから超音波を発して観測する超音波探傷試験を採用することはできず、その他の方法も構造上採用することができない。
【0053】
更に、鋼製容器は疲労破壊に強い容器であるため、検査においては、鋼製容器が健全であるか健全でないかの判断ができればよく、疲労の進行度を判断する必要性が低かった。それに対して、複合容器1のライナー2は、(特にアルミニウム合金を採用した場合)疲労破壊が鋼製容器に比して起こりやすい構成である。また、鋼製容器は疲労破壊に強く、予め定められた規定の寿命より前に疲労破壊が起こる可能性が低かったが、複合容器1の場合、疲労破壊へ至るまでの期間が運転環境や条件によって大きく左右されることにより、ライナー2の寿命自体も、運用環境や条件の影響により変動する場合がある。従って、複合容器に対して規定の寿命が定められていたとしても、使用環境や使用条件を変更することによって、寿命が左右され得る。このように、鋼製容器とは状況や前提が大きく異なる複合容器1を良好に検査できるように、好適な検査方法が求められていた。
【0054】
そこで、本発明者らは、鋭意研究の結果、複合容器1の非破壊検査方法として、AE法を採用することが好適であることを見出した。また、本発明者らは、複合容器1のライナー2の疲労の進行度合いとAEのエネルギーとの間には、所定の関係性が成り立つことを見出した。さらに、予め測定しておいたAEの測定結果に基づいて条件を設定することで、検査に係る複合容器1のライナー2に疲労破壊の兆候があるかどうかの判定を行うことが可能であることを見出した。
【0055】
そこで、本実施形態に係る複合容器1の検査方法では、S14,S17,S27などの第1の条件を判定する工程において、複合容器1に取り付けられたAEセンサ5から取得したAE信号に基づいて、第1の条件を満たすか否かを判定している。これによって、検査対象に係る複合容器1のライナー2の疲労破壊の兆候を検査することが可能となり、複合容器1を適切に検査することが可能となる。
【0056】
ここで、繊維をライナー2に巻き付けることによって形成される強化層3の損傷とAEとの間には、ライナー2の疲労の進行度合いとは異なった関係性が成り立つ。ライナー2は、高圧と低圧のサイクルを繰り返すことで疲労による損傷を(強化層3に比して)生じやすい一方、繊維はサイクルの繰り返しに強いため強化層3はサイクルの数が多くなっても疲労による損傷が生じにくい。次に、複合容器1内の圧力が通常使用時における圧力よりも高くなり、複合容器1が膨張する場合について説明する。ライナー2は伸びやすい材料で構成されているため複合容器1が膨張しても直ちに損傷には至らない。一方、強化層3の繊維は荷重を受けても変形しないように強固に複合容器1を支持することができるが、複合容器1が膨張するに至った後は、繊維の破断や樹脂の割れなどの損傷が(ライナー2に比して)起きやすい。以上のように、サイクルの繰り返しによる疲労に関しては、強化層3よりもライナー2が影響を受け易く、圧力が高くなることによるダメージに関しては、ライナー2よりも強化層3が影響を受け易い。このように、ライナー2と強化層3とでは、構造上の性質が異なっていることにより、損傷の態様が異なっているため、損傷によって生じるAE信号も性質が異なったものとなる。
【0057】
本実施形態に係る複合容器1の検査方法は、取得されたAE信号に基づいて、強化層3の損傷を示す第2の条件を満たすか否かを判定する工程(S13,S27など)を更に備えている。上述のように、繊維をライナー2に巻き付けることによって形成される強化層3の損傷とAEとの間には、ライナー2の疲労の進行度合いとは異なった関係性が成り立つ。従って、ライナー2の疲労破壊の兆候を示す第1の条件とは異なる第2の条件を設定することによって、強化層3の検査も適切に行うことができる。鋼製容器は、管壁が単一の鋼材のみで構成された単純な構造であるため、鋼製容器用の従来のAE法を複合容器1に転用しても、十分な検査が行えない可能性があった。一方、本実施形態では、複合容器1の構造(ライナー2と強化層3を含んでいる)と性質を考慮した検査を行うことにより、複合容器1についてより適切な検査を行うことができる。
【0058】
本実施形態に係る複合容器1の検査方法において、AEセンサ5は、ライナー2及び強化層3の表面に取り付けられている。ライナー2の表面にAEセンサを取り付けることで、ライナー2の疲労破壊の兆候を示す第1の条件を正確に判定することが可能となる。一方、強化層3の表面にAEセンサ5を取り付けることで強化層3の損傷を示す第2の条件を正確に判定することが可能となる。このように、一つの複合容器1の中に性質の異なるライナー2と強化層3が存在している場合でも、各箇所について適切な検査を行うことができる。例えば、同一箇所からのAE信号のみの判断では、AEが検出された場合であっても、どこから発生したAEであるかの判断が難しいが、上述のような構成とすることにより、例えば、ライナー2表面(強化層3表面)から検出されるAE信号が小さい一方、強化層3表面(ライナー2表面)から検出されるAE信号が大きい場合、強化層3(ライナー2)での損傷が大きいことを判断できる。
【0059】
本実施形態に係る複合容器1の検査方法において、強化層3の表面に取り付けられるAEセンサ5は、複合容器1のシリンダ部1aに配置されている。強化層3のうち、軸方向への破壊を生じるドーム部1bよりも、周方向への破壊を生じるシリンダ部1aの方が破壊が生じやすい。従って、シリンダ部1aにアコースティックエミッションセンサ5を取り付けることにより、強化層3の損傷をより正確に検査することができる。
【0060】
本実施形態に係る複合容器1の検査方法において、強化層3の表面に取り付けられるAEセンサ5は、複合容器1のドーム部1bに配置されている。複合容器1のうちライナー2はドーム部1bの先端側で露出しているため、ライナー2の表面に取り付けられるAEセンサは、当該位置に取り付けられる。従って、強化層3の表面に取り付けられるAEセンサもドーム部1bに配置することにより、両センサの取付位置が近くなり、検査の際のセンサ取付作業が容易になる。
【0061】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、検査方法に用いられる検査システムの構造は、上述の実施形態に係るものでなくともよく、検査のフローも上述の実施形態に限定されるものではない。
【0062】
なお、上述の実施形態では、検査対象に係る複合容器として、ライナーと強化層を有する複合容器を例として挙げたが、複数の異なる性質の状態、材料からなる複合容器であれば、上述の複合容器に限られず、あらゆる複合容器に本発明の検査方法を適用することができる。すなわち、複合容器は、少なくともライナーと繊維の巻き付けによって形成される強化層とを備えていればよく、例えば、強化層の外側に他の層を有してもよい。また、ライナーが、金属や樹脂からなる容器本体を備え、当該容器本体の外周側や内周側に異なる材料の層を有していてもよい。また、
図1に示す複合容器では、口金4が強化層3から突出していたが、例えば
図10に示すように、口金4が強化層3に埋め込まれた構成としてよい。なお、このような複合容器1に対してライナー2の表面にAEセンサ5Aを取り付ける場合、口金4の端面付近であって強化層3から露出している部分に取り付けてよい。なお、複合容器は、ライナーの口金に取り付けられるバルブや延長パイプ等の部材を含むことがある。従って、「複合容器にAEセンサを取り付ける」とは、そのような部材にAEセンサを取り付けることも含まれる。