特許第6238904号(P6238904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238904
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】被覆切削工具及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20171120BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20171120BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   B23B51/00 J
   B23C5/16
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-546536(P2014-546536)
(86)(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公表番号】特表2015-500148(P2015-500148A)
(43)【公表日】2015年1月5日
(86)【国際出願番号】EP2012075569
(87)【国際公開番号】WO2013087848
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年10月14日
(31)【優先権主張番号】11009859.7
(32)【優先日】2011年12月14日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カール ビョールマンデル
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−200516(JP,A)
【文献】 特表2010−512251(JP,A)
【文献】 特開平11−131235(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/092608(WO,A1)
【文献】 特開2004−114268(JP,A)
【文献】 米国特許第06756111(US,B1)
【文献】 欧州特許出願公開第01897970(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0222885(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02251122(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0190250(US,A1)
【文献】 特開2005−153098(JP,A)
【文献】 特開2001−322008(JP,A)
【文献】 特開2000−158209(JP,A)
【文献】 特開2008−87150(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/107648(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び表面コーティングを含む被覆切削工具であって、前記コーティングが、0.05〜0.4μmの平均粒子幅を有する少なくとも1つの柱状MTCVD Ti(C、N)層を含むTi(C、N、O)層を含み、前記平均粒子幅は、前記柱状MTCVD Ti(C、N)層の最下部界面と最上部界面の間の中心位置で前記基材の表面に対して平行な方向における直線に沿って、前記被覆切削工具のすくい面上の基材の表面法線に対して垂直な表面法線を有する断面において測定されたものであり、
前記MTCVD Ti(C、N)層に含まれる炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比(C/(C+N))は、前記直線に沿って50μm離れた10箇所の地点で電子マイクロプローブ分析を用いて測定された平均値が0.50〜0.65であることを特徴とする、被覆切削工具であって、
前記柱状MTCVD Ti(C、N)層の平均厚さが5〜15μmである、被覆切削工具。
【請求項2】
前記平均粒子幅が0.1〜0.2μmである、請求項1に記載の被覆切削工具。
【請求項3】
C/(C+N)比が0.56〜0.60である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
【請求項4】
前記MTCVD Ti(C、N)層が、組織係数TC(hkl)が以下のように規定されるCuKα放射線を用いて測定されるX線回折パターンを示し、
【数1】

式中、I(hkl)=(hkl)反射の測定強度であり、
0(hkl)=ICDDのPDFカード番号42−1489による標準強度であり、
n=計算に用いた反射数であり、
用いた(hkl)反射は(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)、(422)及び(511)であり、
TC(422)とTC(311)の合計が>5.5である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項5】
Al23層をさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項6】
前記Al23層が、2〜6μmの平均厚さを有するα−Al23層である、請求項5に記載の被覆切削工具。
【請求項7】
前記Ti(C、N、O)層が、Al23層に隣接するTi(C、O)層をさらに含む、請求項5又は6に記載の被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学気相成長(CVD)コーティングで被覆された表面を有する基材を含む切り屑を生じる金属の機械加工のための被覆切削工具及びその製造方法に関する。特に、本発明は、少なくとも1つの微粒子の炭窒化チタン層を含むCVDコーティングを有する被覆切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
切り屑を生じる金属の機械加工のための切削工具、例えば、超硬合金、サーメット、立方晶窒化ホウ素又は高速度鋼などの耐久性のある材料から作成された円形工具すなわちエンドミル、ドリルなど及びインサートは、切削工具の耐用年数を延ばすために一般的に耐摩耗性コーティングを有する。耐摩耗性コーティングはCVDによって被覆されることが多い。というのも、この技術には幾つかの利点があるからである。それは、切削工具の製造において高い処理量を可能にし、複雑な形状に対しコンフォーマル(conformal)なコーティングを可能にし、そしてアルミナなどの絶縁性コーティング層を堆積させるのに容易に使用することができる。
【0003】
とりわけ、旋削加工用の超硬合金切削工具は、十分な耐摩耗性を提供するために異なる材料の層状構造を含むCVDコーティングで通常被覆され、個々の層の組成、微細構造、組織などは、特定の用途についてコーティングの特定の特性を改善するように選択される。今日用いられている主なコーティングは、基材の表面に堆積される炭化チタン、窒化チタン、炭窒化チタン、酸炭化チタン及び炭窒酸化チタン(以下、TiC、TiN、Ti(C、N)、Ti(C、O)、Ti(C、N、O)層と称される)から選択される1又は複数の層を含むTiベースの層(以下、Ti(C、N、O)層と称される)、並びにTi(C、N、O)層上に堆積されるアルミナ層(以下、Al23層と称される)を含む。中温CVD(Moderate Temperature CVD)(MTCVD)プロセスは、高温CVD(High Temperature CVD)(HTCVD)プロセスと比較して、Ti(C、N)層の堆積に有利であることが見出された。
【0004】
Larsson及びRuppiによるThin Solid Films 402(2002)203−210では、HTCVDによって堆積したTi(C、N)コーティングと比較した場合の、MTCVDによって切削工具の基材上に堆積したTi(C、N)コーティングの微細構造及び特性に関する研究が開示されている。HTCVD Ti(C、N)コーティングは、好ましい成長方向のない等軸粒及び0.2μm未満の平均粒径を示す。対照的に、MTCVD Ti(C、N)コーティングは、X線回折測定における比較的大きいTC(422)値(以下、(422)組織と称される)及び約0.5μmの幅を有する柱状粒子を示す。微細構造における相違は、低い温度とアセトニトリル(CH3CN)などの攻撃的な前駆体に起因する。MTCVD Ti(C、N)コーティングは、HTCVD Ti(C、N)コーティングと比較して、より良好なエッジの耐チッピング性を有するが、より悪い耐クレーター摩耗性を有する。しかしながら、耐フレーキング性は、特に、厳しい用途、例えば断続切削操作を含むノジュラー鋳鉄における旋削加工では、MTCVD Ti(C、N)コーティングにとってさらに重要である。
【0005】
欧州特許出願公開第1187970号明細書では、上記のMTCVDプロセスのように、アセトニトリル、四塩化チタン、窒素及び水素、加えてC24又はC36などの炭化水素を含む前駆体を用いたMTCVDプロセスによって堆積された(422)組織を有する柱状Ti(C、N)層が開示されており、柱状Ti(C、N)層に含まれる炭素及び窒素の合計に対する炭素の高い原子比(C/C+N)すなわち少なくとも0.70の原子比を与え、したがって標準的なアセトニトリルプロセスと比較して高い硬度と改善された耐摩耗性を与えることが開示されている。これらの前駆体を用いて形成された柱状Ti(C、N)層は、0.05〜0.5μmの平均粒子幅を有する微粒子であり、高い破壊抵抗性を有する。改善された硬度にもかかわらず、この柱状Ti(C、N)層の耐酸化性は、特にコーティングに多くの熱を生じさせる切削操作に関しては不十分な場合がある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、切削操作において改善された特性を有する被覆切削工具を提供することである。本発明のさらなる目的は、改善された耐摩耗性、例えばフレーキングに対するより高い抵抗性を有する被覆切削工具を提供することである。本発明の別の目的は、ノジュラー鋳鉄の旋削加工及び高速切削において高い性能を有する切削工具を提供することである。
【0007】
これらの目的は、請求項1に記載の切削工具及び請求項9に記載の方法によって達成される。好ましい実施態様は従属請求項において開示される。
【0008】
本発明は、基材及び表面コーティングを含む被覆切削工具であって、前記コーティングが、0.05〜0.4μm、好ましくは0.05〜0.25μm、より好ましくは0.1〜0.2μmの平均粒子幅を有する少なくとも1つの柱状MTCVD Ti(C、N)層を含むTi(C、N、O)層を含み、前記平均粒子幅は、前記MTCVD Ti(C、N)層の最下部界面と最上部界面の間の中心位置で前記基材の表面に対して平行な方向における直線に沿って、前記被覆切削工具のすくい面上の基材の表面法線に対して垂直な表面法線を有する断面において測定されたものである被覆切削工具に関する。前記MTCVD Ti(C、N)層に含まれる炭素と窒素の合計に対する炭素の原子比(C/(C+N))は、前記直線に沿って50μm離れた10箇所の地点で電子マイクロプローブを用いた電子マイクロプローブ分析によって測定した場合に、0.50〜0.65、好ましくは0.55〜0.62、より好ましくは0.56〜0.60、最も好ましくは0.57〜0.59である。
【0009】
本発明の1つの実施態様では、上記の柱状MTCVD Ti(C、N)層の平均厚さは5〜15μmである。
【0010】
本発明の微粒子のMTCVD Ti(C、N)層に関する1つの利点は、従来のMTCVDと比較して平滑な表面を可能にするということである。好ましくは、本発明のMTCVD Ti(C、N)層は平滑作用を有することができ、すなわち、MTCVD Ti(C、N)層の外表面は基材表面より低い表面粗さRzを有する。
【0011】
本発明の1つの実施態様では、コーティングは、切削操作において高い耐摩耗性を得るのに好適なAl23層又は他の層などの外層をさらに含み、それはTi(C、N、O)層上に堆積され、任意選択でその間及び/又はその上に1又は複数の追加の層、例えば最外層として堆積されるカラー層を有する。
【0012】
本発明の1つの実施態様では、Ti(C、N、O)層は、例えば、上記のMTCVD Ti(C、N)の前に、基材上に堆積される拡散障壁として機能するTiN層などの追加の層をさらに含む。追加の層の別の例は、上記のAl23層などの外層の堆積前に上記のMTCVD Ti(C、N)層上に堆積される1又は複数の層である。これらの層は、例えば機械的な固定によって外側の層の改善された接着性を提供し得る。
【0013】
本発明の1つの実施態様では、Ti(C、N、O)層は、拡散障壁を提供するのに十分な厚さ、好ましくは0.3〜0.6μmの厚さを有する最も内側のTiN層を含む。
【0014】
本発明の1つの実施態様では、Ti(C、N、O)層は、Al23層の成長のための広い表面積を提供するために最も外側のTi(C、O)層を含む。
【0015】
本発明の1つの実施態様では、Ti(C、N、O)層は、MTCVD Ti(C、N)層上に堆積されたHTCVD Ti(C、N)層を含む。
【0016】
本発明の1つの実施態様では、コーティングは、基材上に堆積されたTiN/MTCVD Ti(C、N)/Ti(C、O)による一連の層からなるTi(C、N、O)層を含む。任意選択で、MTCVD Ti(C、N)とTi(C、O)層の間にHTCVD Ti(C、N)層が堆積される。好ましくは、TiN層の厚さは0.3μm〜0.6μmである。好ましくは、MTCVD Ti(C、N)層の厚さは、研削材の逃げ面磨耗に対して十分な抵抗性を提供するために、5〜15μm、より好ましくは8μm〜12μmである。好ましくは、HTCVD Ti(C、N)層の厚さは0.2μm〜0.4μmである。好ましくは、Ti(C、O)層の厚さは0.3μm〜0.8μmである。好ましくは、コーティングは、Ti(C、O)層上に堆積されたAl23層をさらに含む。用途に応じて、Al23層は、α−Al23、κ−Al23又はそれらの混合物であることができる。例として、ノジュラー鋳鉄における旋削加工での使用に関して、Al23層は好ましくはα−Al23である。
【0017】
本発明の1つの実施態様では、コーティングは、2〜6μm、好ましくは3〜5μmの厚さを有するα−Al23層を含む。
【0018】
本発明の1つの実施態様では、コーティングは、X線回折測定において比較的大きなTC(012)値(以下、(012)組織と称される)を有するα−Al23層、例えば、米国特許第7,163,735号明細書に従って堆積されたα−Al2Oであって、ノジュラー鋳鉄の旋削加工における使用に好適な2〜6μm、好ましくは3〜5μmの厚さを有するα−Al23層を含む。本願では、α−Al23層は主として熱障壁として使用され、耐摩耗性は、MTCVD Ti(C、N)層によって本質的に提供される。Al23層の厚さがさらに増加すると、耐フレーキング性が低下してより粗い上部表面を与える可能性もあり、結果として切削中のコーティングに対するより高い付着力をもたらし、フレーキングによる損耗が増す可能性がある。
【0019】
本発明の別の実施態様では、上記のAl23層は、X線回折測定において比較的大きなTC(006)値(以下、(001)組織と称される)を有するα−Al23層である。というのも、α−Al23層の結晶の(0001)面の法線(C軸)は、米国特許第7,993,742号明細書に従って堆積されかつ2〜6μm、好ましくは3〜5μmの厚さを有するα−Al2Oなどの基材表面の法線に向かって整列されるからである。(001)α−Al23層の耐摩耗性は、厚さを増すことによって改善されるが、厚過ぎるAl23層は耐フレーキング性を低下させる。
【0020】
MTCVD Ti(C、N)層の柱状粒子は、長さと幅、そして基材表面に対して垂直なMTCVD Ti(C、N)層の成長方向に沿って縦軸が伸長する。粒子幅は、一軸ではなく、様々な方向に異なっていてもよい。加えて、粒子は、一般に成長方向に完全には整列されない。したがって、粒子幅は容易には測定されない。本願の目的のために、柱状粒子の幅は、基材表面に対して平行な方向に伸長すると考えられ、それはMTCVD Ti(C、N)層の成長方向に対して垂直な方向であり、15000倍の倍率でMTCVD Ti(C、N)層の研磨断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真において測定される。粒界は、隣接している粒子間のコントラストの差によって同定され、粒子幅は、以下にさらに説明されるように、隣接している粒界の間の距離として直線に沿って測定される。
【0021】
本発明による切削工具の1つの実施態様では、MTCVD Ti(C、N)層は、組織係数TC(hkl)が以下のように規定されるX線回折パターンを示し、
【数1】
式中、I(hkl)=(hkl)反射の測定強度であり、I0(hkl)=ICDDのPDFカード番号42−1489による標準強度であり、n=計算に用いた反射数であり、用いた(hkl)反射は(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)、(422)及び(511)であり、TC(422)とTC(311)の合計が5.5よりも大きく、すなわちTC(422)+TC(311)>5.5である。TC(422)とTC(311)の合計は好ましくは6よりも大きい。好ましくは、TC(422)>TC(311)である。
【0022】
本発明の1つの実施態様では、MTCVD Ti(C、N)層は、123.15〜123.25の2θ位置に(422)反射を有するX線回折パターンを示す。(422)反射の2θ位置はコーティング中の炭素含有量と関連しており、より高い炭素含有量が(422)反射のより低い2θ位置に相関するようなものである。
【0023】
本発明の1つの実施態様では、MTCVD Ti(C、N)層の(422)反射に帰属されるピークの半値全幅(FWHM)の値は0.4〜0.5、好ましくは0.42〜0.46である。FWHMは粒度に関連しており、FWHMのより高い値はより小さい粒子に相関するようなものである。
【0024】
本発明の1つの実施態様では、インサートの旋削加工に関して、MTCVD Ti(C、N)層の平均厚さは5〜15μm、好ましくは7〜12μmである。
【0025】
本発明の1つの実施態様では、フライス加工及びドリル加工に関して、MTCVD Ti(C、N)層の平均厚さは3〜7μmである。
【0026】
MTCVD Ti(C、N)層の改善された耐摩耗性のおかげで、硬度と引き換えに基材の靭性を向上させることができる。本発明の1つの実施態様では、基材は、Coを含むバインダー相中にWC粒子を含む超硬合金から作成される。好ましくは、Co含有量は5.6〜6.4wt%である。
【0027】
本発明の実施態様はTi(C、N、O)層中の唯一の金属元素としてのTiとともに説明されているが、Tiに加えてTi(C、N、O)層又はその個々の層は、MTCVD Ti(C、N)層の粒子幅又はC/(C+N)比を大きく変更しない量において、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W及びAlのうち1又は複数から選択される元素を含むことができる。さらに、C、O及びNのうち1又は複数に加えて、Ti(C、N、O)層又は1若しくは複数の個々の層はまたBも含むことができる。さらに、上記のMTCVD Ti(C、N)層は、MTCVD Ti(C、N)層の特性に顕著な効果を有することなしに少量の酸素を含むことができる。本発明の1つの実施態様では、Ti(C、N、O)層はこれらの追加の元素の1又は複数を含む。
【0028】
本発明の1つの実施態様では、上記のTi(C、N、O)層上に堆積される切削操作における高い耐摩耗性に好適な上記の他の層は、周期表の4a族(Ti、Zr、Hf)、5a族(V、Nb、Ta)若しくは6a族(Cr、Mo、W)に属する元素、又はAlの炭化物、窒化物、酸化物及びホウ化物、或いはそれらの互いの固溶体から選択される化合物を含む。
【0029】
Al23層は2成分層として記載されているが、本発明の代替の実施態様では、Al23層は、(Al、Zr)Oなどの3成分又は多成分化合物を形成するために、例えば、Zrなどの1又は複数の元素を含むことができると解されるべきである。Al23層はまた、異なる組成及び微細構造の2以上の相からなっていてもよい。
【0030】
本発明はまた、CVDプロセスを含む被覆切削工具を製造するための方法であって、前記プロセスが、
基材を真空チャンバー内に準備する工程、
前記真空チャンバーに前駆体を提供する工程、及び
前記基材上に少なくとも1つの柱状MTCVD Ti(C、N)層を含むTi(C、N、O)層を堆積させる工程
を含み、前記柱状MTCVD Ti(C、N)層が、少なくともTiCl4、CH3CN又は他のニトリル及びH2を含む前駆体であって、前記真空チャンバーに提供されるTiCl4及びCH3CN又は他のニトリルの体積百分率に基づいて4〜10、好ましくは5〜8、より好ましくは6〜7のTi/CN比を有する前駆体を用いて700〜910℃、好ましくは800〜850℃、より好ましくは820〜840℃の温度で堆積される方法に関する。
【0031】
基材は、Ti(C、N、O)層の堆積前に堆積される中間層として表面コーティングを含むことができる。
【0032】
Ti/CN比は、柱状MTCVD Ti(C、N)層の粒度を効率的に制御するために上記の範囲内で使用される。
【0033】
本発明の1つの実施態様では、MTCVD Ti(C、N)層は、TiCl4、ニトリル及び堆積の際の唯一のガスとしてのH2を用いて堆積される。好ましくは、ニトリルはCH3CNである。
【0034】
本発明の1つの実施態様では、MTCVD Ti(C、N)層を堆積させる場合、TiCl4の流量は合計の前駆体ガス流量の2〜4体積%である。
【0035】
本発明の1つの実施態様では、上記のCH3CN又は他のニトリルのガス流量は、0.5体積%未満、好ましくは0.2〜0.5体積%、より好ましくは0.4〜0.5体積%である。
【0036】
比較的高いTi/CN比を有しかつ追加の炭化水素がないことで、堆積プロセス中のすすを避けることができる。前駆体ガス中にC24やC36などの炭化水素を使用することでもたらされる高い炭素含有量により、すすが問題となり得る。
【0037】
本発明の1つの実施態様では、本方法は、前駆体としてN2をさらに含む。これは、接着が改善され得ること、そして小さな粒子幅及び低い炭素含有量が維持されるために有利である。さらに、N2を含有する前駆体で堆積されたコーティングは、チャンバー内での厚さの変化を低減する傾向を示す。前駆体としてN2だけでなくCH3CN又は他のニトリルも使用することの1つの利点は、堆積速度が速くなる可能性があるということである。
【0038】
本発明の1つの実施態様では、N2ガスの流量は、合計の前駆体ガス流量の40体積%未満である。
【0039】
本発明の1つの実施態様では、N2ガスの流量は、合計の前駆体ガス流量の10体積%未満、好ましくは5体積%未満である。
【0040】
先に記載したものとともに使用できる別の可能性のある前駆体はHClである。HClは、チャンバー内での厚さの変化を低減する能力のために有利である。HClの不利な点は、遅い堆積速度とTi(C、N)粒子の粒子幅を増加させる傾向があることである。800〜850℃、好ましくは820〜840℃の比較的低い温度で本発明によるMTCVD Ti(C、N)の堆積を行うことで、厚さの変化はより小さくなり、HClを回避することができ、その結果として、HClの添加による粒度増加を回避することができる。
【0041】
本発明の1つの実施態様では、柱状MTCVD Ti(C、N)層は、2〜4体積%のTiCl4、0.2〜0.5体積%、好ましくは0.4〜0.5体積%のニトリル、好ましくはCH3CN、及び残部がH2からなる前駆体ガス流であって、真空チャンバーに提供されるTiCl4及びニトリルの体積百分率に基づいて6〜7のTi/CN比を有する前駆体ガス流を用いて800〜850℃、好ましくは820〜840℃の温度で堆積される。
【0042】
本発明の1つの実施態様では、柱状MTCVD Ti(C、N)層は、2〜4体積%のTiCl4、0.2〜0.5体積%、好ましくは0.4〜0.5体積%のニトリル、好ましくはCH3CN、10体積%未満のN2及び残部がH2からなる前駆体ガス流であって、真空チャンバーに提供されるTiCl4及びニトリルの体積百分率に基づいて6〜7のTi/CN比を有する前駆体ガス流を用いて800〜850℃、好ましくは820〜840℃の温度で堆積される。
【0043】
本発明の1つの利点は、プロセス中に又は形成されるコーティング層中に過剰な量の炭素を有することなしに、MTCVD Ti(C、N)層の小さな粒子幅が提供できることである。
【0044】
本発明の他の目的、利点及び新規な特徴は、添付図面及び特許請求の範囲とともに考慮した場合に、以下の発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0045】
本発明の実施態様は、添付図面を参照して以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1図1aは本発明の1つの実施態様によるコーティングの断面図であり、図1bは図1aの一部を拡大したものであり、コーティングのMTCVD Ti(C、N)層の粒子幅の測定を図式的に示すものである。
図2図1aのコーティングのMTCVD Ti(C、N)層における粒子幅の分布を表すヒストグラムである。
図3】基材の重元素をコーティング内に拡散させるために被覆切削工具を熱処理にさらす本発明の1つの実施態様によるコーティングの断面図である。
図4】従来技術によるコーティングの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
[例1]
本発明の1つの実施態様による被覆切削工具を製造した。まず、6.0wt%のCo及び残部がWCの組成、17.52kA/mのHc値(DIN IEC60404−7に従ってFoerster Koerzimat CS1.096を使用)及びHV3=1.6GPaの硬度を有する超硬合金CNMG120412−KM基材を、粉末を圧縮しそして圧縮体を焼結することによって製造した。コーティングの堆積前に、基材をウェットブラスト法によって約35μmまで角を丸くした。0.4μmのTiN、9.1μmのMTCVD Ti(C、N)、0.2μmのHTCVD Ti(C、N)及び0.6μmのTi(C、O)の層順序からなる約10.3μmの合計厚さを有するTi(C、N、O)層、(012)組織及び約3.8μmの厚さを有するα−Al23層、並びに0.7μmのTiC/TiNカラー層からなるコーティングを基材上にCVDによって堆積した。コーティングを表1に記載されるMTCVD Ti(C、N)層及びα−Al23層の成長のための堆積条件を用いて放射状ガス流を備えたCVD反応器内で堆積した。酸化及び核形成工程をα−アルミナ層の成長前に実施した。堆積後に、被覆切削工具をウェットブラスト法にかけて、すくい面上のカラー層を除去した。
【0048】
図1aは、15000倍の倍率における被覆切削工具のうちの1つのコーティング及びすくい面の基材の最も外側の部分の断面SEM画像を示す。MTCVD Ti(C、N)層は、微細な柱状粒子を有する柱状構造を含む。MTCVD Ti(C、N)層の粒度を評価するために、粒子幅を、図1bにおいて図式的に示されかつ以下でさらに説明されるようにSEM画像中で測定した。最小の粒子幅は26nmであり、最大の粒子幅は474nmであり、平均の粒子幅は140nmであり、粒子幅の中央値は118nmであった。図2について言うと、MTCVD Ti(C、N)層の粒子幅分布を表すヒストグラムをこの測定に基づいて作成した。測定した粒子幅を、30〜470nmが40nm幅及び470〜570nmが20nm幅の別々の離散間隔(ビン)に分布させる。測定した粒子幅の最大頻度は70〜110nmの間隔内にある。
【0049】
図3について言うと、MTCVD Ti(C、N)層の粒界内に基材の重元素すなわちW及び/又はCoを拡散させてSEM画像のコントラストを与えるために、粒子幅の測定に使用される被覆切削工具を55mbarのH2ガス流中1100℃で1.5時間熱処理にさらした。30000倍の倍率において、拡散が粒子間の輝線として観察され、粒子幅がこれらの輝線の間の距離として測定される、図3を参照されたい。粒子幅を、基材の表面から約4〜5μmの位置で基材と平行な10μmの線に沿って測定した。最小粒子幅は73nmであり、最大粒子幅は390nmであり、平均粒子幅は162nmであり、粒子幅の中央値は146nmであった。測定した粒子幅の最大頻度は110〜150nmの間隔内にある。
【0050】
MTCVD Ti(C、N)層(表2を参照)及びα−Al23層の柱状粒子の優先的な成長方向を示す組織係数TC(hkl)を、以下に説明されるように、例1に従って製造した被覆切削工具におけるX線回折によって決定した。MTCVD Ti(C、N)は、(311)にも大きい値を有する強い(422)組織を有する。α−Al23層は(012)組織を有する。
【0051】
MTCVD Ti(C、N)層は、2θ=123.22°に(422)反射のピークを有するX線回折パターンを示し、それは以下に説明されるように決定した。このピーク位置は、MTCVD Ti(C、N)層における0.57のC/(C+N)比に相当する。X線回折によって炭素含有量を決定するのに用いた第2の方法は、リートベルト法を使用することによる。このアプローチからの結果は、ピーク位置からの結果と同じである。(422)反射のピークのFWHMは0.44°である。元素分析もまた、以下に説明されるように、電子マイクロプローブ分析による粒子幅の決定に使用される被覆切削工具に対して実施し、それによってMTCVD Ti(C、N)層における0.58のC/(C+N)比が実証された。
【0052】
[例2]
従来技術による被覆切削工具を、例1の被覆切削工具を試験するときの基準として使用するために製造した。まず、5.2wt%のCo、0.23wt%のCr炭化物及び残部がWCの組成、22.91kA/mのHc値(DIN IEC60404−7に従ってFoerster Koerzimat CS1.096を使用)及びHV3=1.8GPaの硬度を有する超硬合金CNMG120412−KM基材を、粉末を圧縮しそして圧縮体を焼結することによって製造した。コーティングの堆積前に、基材をウェットブラスト法によって約35μmまで角を丸くした。0.4μmのTiN、9.8μmのMTCVD Ti(C、N)、0.2μmのHTCVD Ti(C、N)及び0.6μmのTi(C、O)の層順序からなる約10.3μmの合計厚さを有するTi(C、N、O)層、(012)組織及び約4.0μmの厚さを有するα−Al23層、並びに1.2μmのTiN/TiCカラー層からなるコーティングを基材上にCVDによって堆積した。MTCVD Ti(C、N)層の成長のための堆積条件は表1に記載される。堆積後に、被覆切削工具をウェットブラスト法にかけて、すくい面上のカラー層を除去した。
【0053】
MTCVD Ti(C、N)層(表2を参照)及びα−Al23層の柱状粒子の優先的な成長方向を示す組織係数TC(hkl)を以下に説明されるように測定した。MTCVD Ti(C、N)層は、(311)にも大きい値を有する強い(422)組織を有する。α−Al23層は(012)組織を有する。
【0054】
MTCVD Ti(C、N)層は、2θ=123.47°に(422)反射のピークを有するX線回折パターンを示し、それは以下に説明されるように決定した。このピーク位置は、MTCVD Ti(C、N)層における0.52のC/(C+N)比に相当する。(422)反射のピークのFWHMは0.27°である。元素分析もまた、以下に説明されるように、マイクロプローブ分析によって実施し、それによってMTCVD Ti(C、N)層における0.56のC/(C+N)比が実証された。
【0055】
図4は、基準のコーティングの断面のSEM画像及び被覆切削工具のすくい面上の基材の最外部を示す。MTCVD Ti(C、N)層は、当該MTCVD Ti(C、N)層を通して延びる粗い柱状粒子を持つ柱状構造を有する。
【0056】
[例3]
被覆切削工具を、同じTi(C、N、O)層であるが4.2mmの層厚さを有する異なるα−Al23層を持ち、かつX線回折によって測定した場合に、例1のα−Al23層よりも高いTC(006)を与える異なるα−Al23プロセスを用いて、例1に従って製造した。
【0057】
[例4]
例3と同じTi(C、N、O)層及びα−Al23層を有する被覆切削工具を例1に従って製造したが、MTCVD Ti(C、N)層は830℃ではなく870℃で堆積した。より高い堆積温度により、断面のSEM画像において観察されるように、例1及び例3よりもはるかに微粒子のMTCVD Ti(C、N)層が得られた。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
[例5]
例1及び2の被覆切削工具を、以下の条件下での断続的な外部軸方向及び正面削りの切削操作を含む冷却剤なしのノジュラー鋳鉄09.2GGG60の旋削加工において試験した。
切削速度Vc 350m/分
送りfn 0.3mm/rev
切削の深さap 4mm
時間/部品Tc 1.25分/ピース
【0061】
試験した工具の工具寿命基準は、加工対象物の寸法公差からの逸脱であった。技術水準を示す例2の被覆切削工具は12ピースをどうにか切削した。本発明の実施態様の一例を示す例1の被覆切削工具は18ピースをどうにか切削した。ノジュラー鋳鉄の断続的な乾式切削は厳しい切削操作であり、フレーキング及び他の不連続な摩耗機構並びに不十分な耐酸化性がしばしば工具寿命を制限する。この試験では、異なる両方の工具とも良好な耐酸化性を示すが、例1の工具は、優れた耐フレーキング性のため、例2の工具よりも優れている。本質的にα−Al23層の組織のみこの被覆切削工具と異なる例3の被覆切削工具は、この性能試験において例1の被覆切削工具と同じ有利な性能を示した。
【0062】
[例6]
例1及び2の被覆切削工具を、以下の条件下での連続的な内部軸方向の荒削りの切削操作を含む冷却剤を用いたノジュラー鋳鉄(09.2GS500 HB220)の旋削加工において試験した。
切削速度Vc 160m/分
送りfn 0.35mm/rev
切削の深さap 3mm
時間/部品Tc 1.5分/ピース
【0063】
試験した工具の工具寿命基準は、加工対象物の寸法公差からの逸脱であった。技術水準を示す例2の被覆切削工具は15ピースをどうにか切削した。本発明の実施態様の一例を示す例1の被覆切削工具は22ピースをどうにか切削した。例3における摩耗機構とは対照的に、この試験における工具寿命は逃げ面摩耗抵抗性によって制限され、それは例1の被覆切削工具において優れている。本質的にα−Al23層の組織のみこの被覆切削工具と異なる例3の被覆切削工具は、この性能試験において例1の被覆切削工具と同じ有利な性能を示した。
【0064】
[例7]
例3及び4の被覆切削工具を、以下の条件下での冷却剤を用いた断続的な切削操作を含むノジュラー鋳鉄SS0717の長手方向の旋削加工において試験した。
切削速度Vc 250m/分
送りfn 0.2mm/rev
切削の深さap 2.5〜2mm
【0065】
例3の切削工具は、耐フレーキング性において例4の切削工具よりも優れていた。
【0066】
本願の目的及び特に上記の例に関して、コーティングの特性を決定するための方法が以下に規定される。
【0067】
コーティングの個々の層の厚さ及び粒度を評価するために、被覆切削工具を切断し、細かくしそして研磨して、被覆切削工具のすくい面上の基材の表面法線に対して垂直な表面法線を有する研磨断面を得る。
【0068】
層の厚さは、光学顕微鏡を用いて測定される。
【0069】
粒子幅の測定を可能にするために、電子チャネリングによってMTCVD Ti(C、N)層内の異なる配向の粒子間に十分なコントラストを与える平滑な表面を得ることが必要である。したがって、粒子幅の測定の目的のために、断面図の研磨は、
9μmの平均ダイヤモンド粒径及び2dlのオイル(Mobil Velocite no.3)あたり0.7gのダイヤモンド粒子を有するオイルベースのダイヤモンド懸濁液(Microdiamant AG製)を用いて紙上で大まかに研磨する工程、
1μmの平均ダイヤモンド粒径及び2dlのオイル(Mobil Velocite no.3)あたり0.7gのダイヤモンド粒子を有するオイルベースのダイヤモンド懸濁液(Microdiamant AG製)を用いて紙上で細かく研磨する工程、並びに
150rev/分及び35Nの圧力で220秒間、0.06μmの平均粒径を有するSiO2(10〜30%)及びAl23粒子(1〜20%)の混合物を含む懸濁液(Masterpolish2,Buehler)のしずくの下で軟質の布を用いて酸化物研磨する工程を含む。
【0070】
粒子幅は、図1bに図式的に示されるように、5.0kV及び5mmの作動距離で得たSEMの15000倍の倍率における研磨断面のSEM顕微鏡写真から測定される。粒界は、隣接している粒子間のコントラストの差異によって同定され、粒子幅は、MTCVD Ti(C、N)層の最下部界面と最上部界面の間の中心位置で基材の表面に対して平行な方向における10μmの直線に沿って、同定した隣接する粒界の間の距離として測定される。20nm未満の粒子幅は、SEM画像では容易に同定されないので考慮されない。
【0071】
柱状MTCVD Ti(C、N)層は、対をなす柱状粒子を含み、他の粒間の欠陥又は転位さえ含み得るが、これらは本方法では粒界とみなされないものとする。双晶結晶粒の対称及び配向は、双晶境界を通過するときにコントラストにおいて実質的な差異を生じさせない場合があるので、双晶境界は同定されそして除外することができる。したがって、対をなす柱状粒子は、粒子幅を決定する際に1つの粒子として処理されるものとする。しかしながら、これを検証することは難しいことがあり、粒間境界として双晶境界をカウントすると、平均粒子幅の値が減少することになる。粒子幅の測定におけるこの困難を克服するために、基材の重元素の粒界への拡散を含む方法を、例として、例1において用いた方法に従って使用することができる。これは、重元素が上記の欠陥又は転位の中に拡散できないので有利である。拡散しているバインダーを見るための断面を調製するために、酸化物研磨工程なしで、断面を荒い研磨工程と細かい研磨工程のみにさらす。これにより、酸化物研磨で得られるよりも大きい表面粗さが得られ、したがって、コントラストが完全に異なり、組成モード後方散乱コントラスト(composition mode backscatter contrast)がそこに拡散しているより重い元素で粒界を可視化するのに用いられる。
【0072】
MTCVD Ti(C、N)層の組織を調査するために、X線回折がPIXcel検出器を備えたPANalytical CubiX3回折計を用いて逃げ面に対して実施される。被覆切削工具は、サンプルの逃げ面をサンプルホルダーの参照面に平行にすることを確実にし、かつ逃げ面を適切な高さにするサンプルホルダーに乗せられる。Cu−KαX線が測定に使用され、電圧は45kV、電流は40mAである。1/2度の散乱線除去スリット及び1/4度の発散スリットが使用される。約2θの角度で測定される被覆切削工具からの回折強度はTiCNピークを生じ、約20°〜140°、すなわち10〜70°の入射角θ範囲にわたる。
【0073】
バックグランドの除去及びCu−Kαストリッピングを含むデータの分析は、PANalytical’s X’Pert HighScoreソフトウェアを用いて行われ、これから得られる積分ピーク面積を用いて、以下の式に従って測定強度データと標準強度データの比を比較することにより、X’Pert Industryソフトウェアを用いてMTCVD Ti(C、N)層の組織係数TC(hkl)が計算される。
【数2】
式中、I(hkl)=(hkl)反射の測定された面積強度であり、I0(hkl)=ICDDのPDFカード番号42−1489による標準強度であり、n=計算に用いた反射数であり、用いた(hkl)反射は(111)、(200)、(220)、(311)、(331)、(420)、(422)及び(511)である。
【0074】
MTCVD Ti(C、N)層は有限的に厚い膜であるので、1組の同じ化合物のピークの相対強度は、Ti(C、N)層を通る経路の違いのために、バルク試料に関するものとは異なる。それゆえ、TC値を計算する場合には、Ti(C、N)の線吸収係数も考慮して、薄膜補正が積分ピーク面積強度に適用される。例において使用した基材はWCであったので、WC(111)ピークによるTiCN(311)の重複を補正するために、さらなる補正が適用される。これは、TiCN(311)面積強度から別のWCピークすなわちWC(101)面積強度の25%を差し引くことによりなされる。MTCVD Ti(C、N)層上のさらなる可能性のある層がMTCVD Ti(C、N)層に入射する及びコーティング全体から出射するX線強度に影響するので、層内のそれぞれの化合物の線吸収係数を考慮して、これらに関しても同様に補正することが必要である。
【0075】
炭素含有量を推定するために、CuKα放射線を使用して得られたX線回折パターンにおける(422)反射の回折角2θが決定される。(422)反射の位置はコーティング中の炭素含有量と関連しており、より高い炭素含有量が(422)反射のより低い角度に相関するようなものである。TiC01からTiC10の範囲におけるC/N比は、回折角2θに対して線形依存性を示し、それにより(422)反射の位置を測定することによってC/N比に関する情報を取り出すことが可能となる。
【0076】
炭素含有量を決定するのに使用される第2の方法は、先に記載したように収集した完全な回折パターンに対してリートベルト法を使用することによる。リートベルト法により、TiCN相の格子パラメータに関するデータを抽出することが可能となる。格子パラメータはまた、先に記載したC/N比とともに直線的に変化する。このアプローチからの結果は、回折角が炭素含有量を調べるのに使用されるパラメータである結果とよく相関する。
【0077】
(422)反射はまた、粒子幅を推定するのに使用される。これは、回折パターン中のピークのFWHMを測定することによって達成される。FWHMは粒度に関連しており、幅のより高い値はより小さい粒子に相関するようなものである。
【0078】
元素分析は、MTCVD Ti(C、N)層のC/(C+N)比を決定するために、波長分散方式スペクトロメーター(WDS)を備えたJEOL電子マイクロプローブJXA−8900Rを用いた電子マイクロプローブ分析によって実施される。MTCVD Ti(C、N)層の平均組成の分析は、10kV、29nA、TiCN標準を使用しかつ原子番号、吸収及び蛍光の補正を伴って、MTCVD Ti(C、N)層の最下部界面と最上部界面の間の中心位置で基材の表面に対して平行な方向における直線に沿って50μmの間隔を空けた10箇所の地点において、MTCVD Ti(C、N)層中の逃げ面の研磨断面に対して実施される。例1では、前記地点は、基材とMTCVD Ti(C、N)層の間の界面から4〜6μmの距離でMTCVD Ti(C、N)コーティング中に配置した。
【0079】
本発明は種々の典型的な実施態様に関連して説明されたが、本発明は、開示された典型的な実施態様には限定されず、それよりむしろ、特許請求の範囲内にある種々の改良及び同等の変更を包含するよう意図されると解されるべきである。
図1a-1b】
図2
図3
図4