特許第6238910号(P6238910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238910
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】免疫グロブリンを用いた粘膜炎の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20171120BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20171120BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   A61K39/395 YZNA
   A61P1/02
   A61K45/00
   A61P43/00 121
   A61K9/10
   A61K9/06
   A61K9/20
   A61P31/04
   A61P31/10
   A61P29/00
   A61P17/02
   !C12N15/00 A
【請求項の数】17
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2014-560392(P2014-560392)
(86)(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公表番号】特表2015-513554(P2015-513554A)
(43)【公表日】2015年5月14日
(86)【国際出願番号】EP2013054722
(87)【国際公開番号】WO2013132063
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】12158939.4
(32)【優先日】2012年3月9日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501091604
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト
(73)【特許権者】
【識別番号】510239897
【氏名又は名称】ウニベルジテート ベルン
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・アエビ
(72)【発明者】
【氏名】ゾニア クリスティーナ・ルアー
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・シャウブ
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・ミーシャー
(72)【発明者】
【氏名】アードリアン・チュルヒャー
(72)【発明者】
【氏名】セドリック ピエール・ボナーブルグ
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 Journal of Experimental Medicine,1988年,Vol.167,No.6,p1945−1950
【文献】 Infection and Immunity,1998年,Vol.66,No.3,p974−979
【文献】 Advances in Experimental Medicine and Biology,1997年,Vol.418,p909−911
【文献】 口腔病学会雑誌,1976年,Vol.43,No.2,p107−112
【文献】 Supportive Care in Cancer,2011年,Vol.19,No.6,p799−806
【文献】 口腔・咽頭科,1994年,Vol.6,No.2,p71−77
【文献】 Oral Surgery,Oral Medicine,Oral Pathology,Oral Radiology,and Endodontics,2008年,Vol.105,No.6,p739−744
【文献】 Infection and Immunity,2003年,Vol.71,No.12,p6793−6798
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分としてJ鎖含有IgAと組換え分泌成分を含む、対象における局所投与による消化管の粘膜炎の予防または治療において使用するための医薬組成物であって、J鎖含有IgA中のIgAが血液またはその成分由来のIgAである前記医薬組成物。
【請求項2】
消化管の粘膜炎が口腔粘膜炎である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
IgMをさらに含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
別の免疫グロブリンをさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
粘膜炎に罹患したまたは罹患するリスクがある粘膜領域との長期の接触時間を与えるように製剤化されている、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
製剤が、クリーム、ゲル、シロップ、ゼリー、罹患した粘膜近傍で溶解する固体形態またはそれらの組み合わせから選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
粘膜への局所投与が、1種またはそれ以上の微生物の付着および/または侵入を減少させる、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
微生物が、細菌および/または真菌である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
粘膜への局所投与が、粘膜創傷治癒を促進する、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
粘膜への局所投与が、抗炎症作用を及ぼす、請求項1〜のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
抗炎症作用が
(a)炎症促進性サイトカイン発現の阻害;および/または
(b)抗炎症性サイトカインの発現の刺激
である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
対象が、化学療法および/または放射線療法を受けているまたは受けようとしている癌患者のような消化管の粘膜炎を発症するリスクがある対象である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
リスクがある対象が、以前の化学療法および/または放射線療法の処置の結果として粘膜炎を発症した癌患者である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
患者の好中球数が減少し始めたときに組成物の投与が開始される、請求項12または13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
患者の好中球数が正常を下回っている期間中に治療が維持される、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
医薬組成物が1日最大6回まで対象に投与される、請求項1〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
医薬組成物が粘膜炎の治療のための追加の有効な薬剤を含むか、または患者が殺菌性口内洗浄液のような別の薬剤も用いている、請求項1〜16のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所投与による粘膜炎の治療に使用するための免疫グロブリンを含む組成物に関する。特に、本発明は、粘膜炎を治療するためのJ鎖含有IgAおよび分泌成分を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌患者は、様々な治療に関連する後遺症に苦しんでいる。消化管の粘膜炎は、化学療法および放射線療法の最も衰弱させる副作用の1つである(非特許文献1)。疼痛、粘膜潰瘍、および非経口栄養を必要とする食品摂取の困難性は、患者の快適さに深刻な影響を与え、局所感染および全身感染のリスクを増加させる(非特許文献2)。さらに、粘膜炎は、その後の化学療法または放射線療法のサイクルの遅延を生じさせる。これは、治療中断または化学療法の用量減少を必要とする場合があり、全生存に有害な影響を有することがある。また、粘膜炎の管理は費用の嵩む治療および長期入院を必要とするため、粘膜炎は経済的な問題として現れる。
【0003】
粘膜炎に関する現在の標準的な治療は、主に、疼痛をコントロールするための姑息的手段に依るが、粘膜炎に関与する発症機序に対処していない。
【0004】
粘膜炎の複雑な病態生理学を理解することは、予防策および/または治療策の考案に重要である。現在の概念は、5つの重複したフェーズ(非特許文献3)を伴う:(1)粘膜炎は、細胞毒性薬の投与または放射線照射中に開始される。損傷は、最初の可視的および臨床的に定量され得る変化が生じる(例えば、粘膜紅斑)数日前に始まり、おそらく、DNA損傷および/または活性酸素種によって引き起こされる。(2)損傷応答経路および炎症促進性カスケードが活性化される。(3)これらのシグナル伝達経路の増幅を伴う悪循環、例えば、TNF−αの放出、NF−κBの活性化、および活性酸素種は、細胞死を増強し、それによって粘膜の損傷を媒介すると考えられている。(4)可視性潰瘍が発症し、粘膜表面上の複数菌叢の存在によって不利な影響を受け、炎症促進性サイトカイン放出を増強する(非特許文献4)。口腔および消化管の片利共生生物または通性病原体は潰瘍に侵入し、菌血症を引き起こす場合がある。(5)粘膜障壁の再生は、毒性刺激および炎症促進性シグナルが減少した後にだけ生じ、好中球数が回復している。
【0005】
これらの戦略および病態生理学的な事象のいくつかは、インビトロおよび動物モデルでの研究で再現することができる。放射線、または化学療法に典型的に使用される化学物質(例えば、メトトレキサート)への上皮細胞の曝露は、局所的に存在する上皮細胞上での抗癌療法の効果と潜在的な副次的損傷をモデル化するための適切なアプローチである。これは、口腔粘膜炎の早期段階/開始段階(上述されるようにステージ1、2および3)に対応している。この目的のために使用され得る上皮細胞は、角化上皮細胞系(例えば、Detroit 532)および非角化上皮細胞系(例えば、H376)を含む。同様に、口腔微生物叢に存在する日和見病原体への上皮細胞の曝露は、口腔粘膜炎の後期段階(ステージ3および4)を模倣し、特に、局所的に存在する微生物によって引き起こされる炎症の永続化は、このような系において研究し得る。口腔微生物叢に存在する典型的な日和見病原体には、ストレプトコッカス(Streptococcus)属種、特にS.ミチス(S.mitis)およびS.ニューモニエ(S.pneumoniae)が含まれ、ある程度はモラクセラ(Moraxella)属種も含まれ、例えば、M.カタラーリス(M.catarrhalis)が挙げられる(非特許文献5)(非特許文献6)。
【0006】
加えて、ハムスター、ラットおよびマウスにおける様々なインビボモデルが十分に確立され、しばしば使用され、さらに、規制当局によって承認されている。最も一般的に使用されているモデルは、放射線または放射線療法と化学療法の組み合わせに曝露されたゴールデンシリアンハムスターに基づく;予防介入と治療介入の両方がモデルにおいて報告されている(非特許文献7)。
【0007】
癌治療の強度と粘膜炎発症のリスクの間には直接的な相関がある。リスクの増加は、以前の治療サイクルにおいて粘膜炎を発症した患者において観察されている。不安などのストレス因子もリスクを高める。また、粘膜微生物叢の性質および程度、ならびに癌治療による既存の微生物叢の可能な修飾は、炎症性刺激を増強する場合がある。
【0008】
炎症促進性シグナルの破壊および微生物負荷の低減は、粘膜炎を治療および/または予防するための潜在的な標的として同定されている。複数の比較無作為化試験において試験されたたった7つの試薬は有意な効果を有することが見出されたが、観察された改善は軽微であった。ポリミキシン、トブラマイシンおよびアムホテリシンBを含有する経口トローチは、好影響を有することが見出されているが(非特許文献8;非特許文献9)、粘膜炎における局所的な抗菌剤の使用は、日常的に推奨されていない(非特許文献10)。現在では、微生物は、粘膜炎の開始を引き起こさない可能性があり、後続の段階において役割を果たし得ると考えられている。最近では、組換えケラチノサイト増殖因子(KFG)は、粘膜炎を有意に改善することが示された(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Sonis ST(2009年)Oral Oncol 45、1015−20頁
【非特許文献2】Elting、LSら(2003年)Cancer 98:1531−9頁
【非特許文献3】Sonis ST(1998年)Oral Oncol 34:39−43頁
【非特許文献4】Ratner、AJら(2005年)Proc Natl Acad Sci USA 102:3429−34頁
【非特許文献5】The Human Microbiome Project Consortium(2012年)Nature 486:207−214頁
【非特許文献6】Dewhirst FE(2010年)J.Bacteriol 192:5002−5017頁
【非特許文献7】Watkins B(2010年)Oral Dis 16:655−660頁
【非特許文献8】Stokman MAら(2003年)Br J Cancer 88:1012−6頁
【非特許文献9】Wijers OBら(2001年)Int J Radiot Oncol Biol Phys 50:343−52頁
【非特許文献10】Donelly JPら(2003年)Lancet Infect Dis 3:405−12頁
【非特許文献11】Blijelevens N & Sonis、S(2007年)Ann Oncol 18:817−26頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、癌関連の治療計画によって引き起こされる粘膜炎の効果的な治療法が強く求められている。新しいアプローチは、消化管の粘膜炎、特に口腔粘膜炎の予防および治療のために緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、驚くべきことに、消化管の粘膜炎、特に口腔粘膜炎が、免疫グロブリン、特にIgAおよび/またはIgMの局所投与により効果的に治療され得ることを見出した。
【0012】
したがって、本発明の一態様は、対象における局所投与による消化管の粘膜炎、特に口腔粘膜炎の予防または治療において使用するための免疫グロブリンを含む組成物である。
【0013】
好ましくは、免疫グロブリンは、IgAおよび/またはIgMを含み、より好ましくは、免疫グロブリンは、J鎖含有IgAもしくはJ鎖含有IgMまたはこれらの組み合わせを含む。好ましくは、免疫グロブリンは、血漿または血漿画分などの血液またはその成分から得ることができる。より好ましくは、本発明の組成物はまた分泌成分を含む。好ましくは、分泌成分は組換え分泌成分である。
【0014】
本発明の好ましい態様において、組成物は分泌様IgAを含む。また、組成物は、別の免疫グロブリンと組み合わせて、好ましくはIgM、好ましくは分泌様IgMと組み合わせて、分泌様IgAを含んでもよい。
【0015】
本発明のさらなる態様は、粘膜炎に罹患した(または罹患するリスクがある)粘膜領域との長期の接触時間を与えるように製剤化されている、上述される組成物である。好ましくは、組成物は、クリーム、ゲル、シロップ、ゼリー、罹患した粘膜近傍で溶解する固体形態、またはそれらの組み合わせとして製剤化される。別の好ましい組成物は、飲み込む前または吐き出す前の数分間、口中で保持するのに適するように製剤化される液体組成物である。好ましくは、液体製剤は、味が快適であるように香味物質を含む。このような物質は、イチゴ、リンゴ、モモ、ブルーベリーなどの果実の味;キャラメル、チョコレートの味を与えることができ;さらに、チーズまたはトマトなどの風味のいい味を使用してもよい。組成物はまた、免疫グロブリンの安定性を高める他の適切な添加剤、例えば安定化剤を含んでもよい。
【0016】
本発明のさらに別の態様は、粘膜への局所投与が、細菌または真菌などの微生物(単数または複数)の付着および/または侵入を減少させる、上述される組成物である。微生物は、粘膜表面上の微生物叢の一部であってもよい。
【0017】
本発明のさらなる態様は、粘膜への局所投与が粘膜創傷治癒を促進する、上述される組成物である。好ましくは、本発明の組成物は、増殖因子、例えば、ケラチノサイト増殖因子を分泌するように上皮細胞を刺激する。
【0018】
本発明のなおさらなる態様は、粘膜への局所投与が抗炎症作用を及ぼす、本発明の組成物である。抗炎症作用は、
(a)炎症促進性サイトカイン発現の阻害;および/または
(b)抗炎症性サイトカインの発現の刺激
であってもよい。
【0019】
本発明の別の態様は、対象が、化学療法および/または放射線療法を受けているまたは受けようとしている癌患者のような消化管の粘膜炎を発症するリスクがある、上述される組成物である。特に、粘膜炎を発症するリスクがある対象は、以前の化学療法および/または放射線療法の処置の結果として粘膜炎を発症した癌患者である。以前の化学療法および/または放射線療法の処置は、化学療法および/または放射線療法を受けた後に寛解していた患者における一連の治療サイクルにおける初期の治療サイクル、または一連の治療サイクルの治療の一部であってもよいが、この場合、癌が再発しており、別の一連の化学療法および/または放射線療法が指示されている。好ましくは、患者の好中球数が減少し始めたときに組成物の投与が開始される。好ましくは、患者の好中球数が正常を下回っている期間中に治療が維持される。
【0020】
本発明の組成物は、患者に、1日あたり最大6回まで、好ましくは1日あたり最大5回まで、より好ましくは1日あたり最大4回まで、さらにより好ましくは1日あたり最大3回まで、最も好ましくは1日あたり2回またはそれよりも少ない頻度で投与される。
【0021】
本発明の別の態様において、組成物は、増殖因子または防腐剤などの粘膜炎の治療のための追加の有効な薬剤を含む。また、消化管の粘膜炎の治療における、同時の、個別のまたは逐次的な使用のための併用製剤として、本発明の組成物および第二の活性薬剤を含む製造物も本発明に含まれる。このような第二の活性薬剤は、例えば、増殖因子などの創傷治癒を促進する薬剤、防腐剤などの抗菌剤、例えば、殺菌性口内洗浄液、または抗炎症剤であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記したように、癌患者における粘膜炎、特に口腔粘膜炎は、依然として、主要な医学的問題であると考えられ、効果的な治療が求められている。そこで、本発明者らは、驚くべきことに、消化管の粘膜炎、特に口腔粘膜が、免疫グロブリン、特にIgAおよび/またはIgMの局所投与によって効果的に治療され得ることを見出した。
【0023】
したがって、本発明の一態様は、対象への局所投与による、消化管の粘膜炎、特に口腔粘膜炎の予防または治療に使用するための免疫グロブリンを含む組成物である。好ましくは、免疫グロブリンはヒト免疫グロブリンである。
【0024】
好ましくは、免疫グロブリンは、IgAもしくはIgMまたはこれらの組み合わせを含み、より好ましくは、免疫グロブリンは、J鎖含有IgAもしくはJ鎖含有IgMまたはこれらの組成物を含む。好ましくは、免疫グロブリンは、血漿、脱クリオ(cryo-poor)血漿、または血漿画分などの血液または血液の成分から得ることができる。より好ましくは、免疫グロブリンは、他の血漿タンパク質、例えば、免疫グロブリンGを精製するために血漿を処理中に得られる側画分から精製される。好ましくは、免疫グロブリンは、乳または初乳から得られない。好ましくは、免疫グロブリンは、例えば、マンノースまたはシアル酸またはガラクトースなどの糖残基の酵素的付加または除去によって、インビトロでグリコシル化を変化させることによって、精製後には修飾されない。好ましくは、免疫グロブリンは、純粋な抗TNF抗体および抗体TNFに関して富化した免疫グロブリンではなく、またはTNF−αで免疫されたヒトもしくは動物ドナーから精製される。
【0025】
本発明の別の態様において、組成物はまた分泌成分を含む。好ましくは、分泌成分は、組換え分泌成分、好ましくは哺乳動物細胞系において産生さる分泌成分である。
【0026】
本明細書で使用される用語「分泌成分」は、J鎖含有免疫グロブリンに特異的に結合するタンパク質を意味し、高分子免疫受容体(plgR)、好ましくは哺乳類plgR、より好ましくは霊長類plgR、最も好ましくはヒトplgR、の細胞外部分に関連し、またはそれから誘導可能であり、またはそれと同一である。好ましくは、分泌成分は、J鎖含有免疫グロブリンに対して増加した安定性を付与する。伝統的な狭い意味での分泌成分(本明細書では「天然の分泌成分」と称する。)は、通常、J鎖を含有する二量体もしくは多量体IgAまたは五量体IgMに、分泌中に関連付けられる、高分子免疫グロブリン受容体(plgR)の細胞外部分である。J鎖含有IgA/IgMは、上皮細胞の側底面で高分子免疫グロブリン受容体に結合し、トランスサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。次に、この受容体複合体は、上皮細胞の管腔表面に輸送される前に、細胞内コンパートメントを通過する。続いて、トランスサイトーシスされたIgA/IgM−plgR複合体は、タンパク質分解を通じて放出され、天然の分泌成分と称される高分子免疫グロブリン受容体(plgR)の一部は、J鎖含有IgA/IgMと結合して留まり、分泌性IgA/IgGを放出する。しかしながら、IgAの逆トランスサイトーシス、すなわち管腔表面から側底面へのトランスサイトーシスもまた起こるという証拠がある。
【0027】
ヒトplgRは、クローニングされ、配列決定され、その配列はSwissProtエントリーP01833として利用可能であり、配列番号1に示される。ヒトplgRは、764個のアミノ酸残基を有する糖タンパク質であり、シグナルペプチド(残基1〜18)、細胞外部分(残基19〜638)、膜貫通領域(残基639〜661)、および細胞質領域(残基662〜764)を含む。残基19〜603は、上述されるようにJ鎖含有IgAまたはJ鎖含有IgMと結合するものと考えられ、この糖タンパク質の該部分は、通常、分泌成分(「天然の分泌成分」)と称される。
【0028】
本発明の組成物に用いられる分泌成分は、J鎖含有IgAと結合することができる任意の細胞外plgR配列を含むことができる。例えば、分泌成分は、哺乳類供給源、例えば、霊長類、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ラットもしくはマウスまたはそれらの変異体由来のplgRの細胞外ドメインを含むことができる。また、いくつかの哺乳類種またはそれらの変異体由来の細胞外ドメインの機能的ハイブリッドは、本発明における使用のために意図され、例えば、分泌成分様タンパク質に異種由来の免疫グロブリン様ドメインを融合することによって調製される。機能的な分泌成分はまた、通常存在する免疫グロブリン様ドメインの選択を融合することによって形成することができ、例えば、ウサギ分泌成分は機能的であって、ドメイン1、4および5のみで構成されている。しかしながら、好ましくは、ヒト分泌成分またはその機能的変異体が用いられる。
【0029】
したがって、本発明の組成物に用いられる分泌成分は、好ましくは、配列番号1の残基19〜603またはそれらの機能的変異体を含む。機能的変異体は、欠失、挿入および/または置換を含んでもよく、好ましくは、置換は保存的置換であり、例えば、塩基性アミノ酸残基は別の塩基性アミノ酸に置換され、疎水性アミノ酸は別の疎水性アミノ酸で置換される。変異分泌成分は、配列番号1の残基19〜603に対して配列において少なくとも50%同一であり、好ましくは、配列番号1の残基19〜603に対して少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、より好ましくは少なくとも85%またはさらには90%、さらにより好ましくは少なくとも92%、94%、95%、97%、98%またはさらには99%同一である。最も好ましくは、分泌成分は、配列番号1の残基19〜603を含みまたはさらにはそれからなる。
【0030】
当業者は、組換え技術によって分泌成分を製造する方法をよく知っている。CHO細胞におけるヒト分泌成分の発現の例は、Phaliponら(Phalipon Aら(2002年)Immunity 17:107−115頁)によって報告されているが、本発明は、このシステムによって製造される分泌成分に限定されない。例えば、鋳型としてplgRを発現する細胞または組織から単離したRNAを用いて、所望のcDNA配列は合成的に製造されまたはRT−PCRを介してクローニングされ得る。次に、cDNAは、pcDNA3などの哺乳類発現ベクターに挿入することができる−多くの代替の発現ベクターが利用可能であり、当業者に周知である。続いて、組換え発現ベクターは、CHO、Cos、HEK293またはBHKなどの適切な宿主細胞系に導入される。他の細胞系は入手可能であり、使用することもできる。細胞系にこのようなベクターを導入する方法には、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび当業者に周知の他の技術が含まれる。次に、通常、発現ベクターを保有し、対象とするタンパク質を発現する細胞を選択し、クローニングする。また、ウイルス発現系を用いることができ、例えば、ワクシニアウイルスを用いて、哺乳類細胞中に高レベルでタンパク質を発現させることができ、バキュロウイルス発現系を用いて、昆虫細胞中に高レベルでタンパク質を発現させることができる。酵母または細菌発現系も想定することができ、このような発現系は当業者に知られている。植物発現系もまた使用することができ、当業者に知られている。
【0031】
本発明の組成物に使用される分泌成分またはその変異体はまた、得られるタンパク質の精製を助けることができるタグ、例えば、ヘキサ−ヒスチジンタグを含んでもよい。このようなタグが切断可能なリンカーを介して結合されている場合、タグは、本発明において使用する前に切断することができる。同様に、分泌成分は融合タンパク質として製造され得る。再度、融合パートナーが本発明において使用する前に分泌成分から切断され得るように、切断可能なリンカーを使用することができる。
【0032】
続いて、当業者は、標準的な方法を用いて、発現したタンパク質を精製することができる。
【0033】
分泌成分はまた、天然の供給源から得ることがある、好ましくは、乳、唾液もしくは粘液から得ることができる。好ましくは、分泌成分は、ヒト起源であるが、他の種由来の分泌成分もまた本発明において使用することができる。
【0034】
組成物中の分泌成分とJ鎖の間のモル比は、1:10と10:1の間、好ましくは、1:5と5:1の間、より好ましくは1:2と2:1の間である。
【0035】
組成物に使用される分泌成分の量は、組成物における少なくとも50部(重量比)のタンパク質に対して1部(重量比)の分泌成分であってもよく、好ましくは、組成物における少なくとも40部、30部、20部、15部、10部に対して1部の分泌成分であってもよく、最も好ましくは、少なくとも5部のタンパク質に対して1部の分泌成分であってもよい。
【0036】
本発明の好ましい態様において、組成物は分泌様IgAを含む。組成物はまた、別の免疫グロブリンと組み合わせて、好ましくは、IgM、好ましくは分泌様IgMと組み合わせて、分泌様IgAを含んでもよい。本発明の別の好ましい態様において、組成物はまた、単独でまたは他の免疫グロブリンと組み合わせて分泌様IgMを含むことができる。
【0037】
本発明のさらなる態様は、粘膜炎に罹患した(または罹患するリスクがある)粘膜領域との長期の接触時間を与えるように製剤化されている、上述される組成物である。「接触時間」とは、組成物またはその部分が罹患した粘膜表面またはリスクがある粘膜表面上で活性なままである時間量を意味する。好ましくは、接触時間は、数分より長く、より好ましくは数時間より長く、さらにより好ましくは数日より長く、最も好ましくは粘膜炎の予防または治療である生物学的効果を発揮するのに十分な長さである。好ましくは、組成物は、クリーム、ゲル、シロップ、ゼリー、罹患した粘膜近傍で溶解する固体状態またはそれらの組み合わせとして製剤化される。組成物はまた、1つまたはそれ以上の適切な添加剤、例えば、スクロース、ラクトース、マルトデキストリン、デンプン(例えば、トウモロコシ由来)、セルロース誘導体、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースまたはアクリル酸、メタクリル酸樹脂、油(例えば、オリーブ油)、蜜蝋または類似の薬剤を単独でまたは組み合わせて含む錠剤として製剤化されてもよい。また、発泡性成分を含むことができる。ゲルは、例えば、ブタゼラチンもしくはデンプン系の材料、プロピレングリコール、PEG40、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、サッカロース、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロースまたは類似の薬剤を用いて形成することができる。シロップは、糖類、グリセリンまたはソルビトールのような糖ポリオール、糖の再結晶化を防止するための酸、緩衝剤、キレート剤、香味剤および香味増強剤、着色剤の1つまたはそれ以上を添加することによって形成することができる。ゼリーは、例えば、ゼラチン、例えばブタゼラチンを用いることによって形成することができる。
【0038】
あるいは、液体組成物は用いられ、飲み込む前または吐き出す前の数分間、口中で保持するのに適するように製剤化される。好ましくは、液体製剤は、味が快適であるように香味物質を含む。このような物質は、イチゴ、リンゴ、モモ、ブルーベリーなどの果実の味;キャラメル、チョコレート、ナッツまたは同様のものの味を与えることができ;さらに、チーズまたはトマトなどの風味のいい味を使用してもよい。組成物はまた、免疫グロブリンの安定性を高める他の適切な添加剤、例えば安定化剤、着色剤、緩衝物質などを含んでもよい。
【0039】
組成物は、対象が口腔粘膜炎を発症するリスクがある場合、口内に直接適用されてもよく、また、消化管の他の部分において組成物を放出するように設計された製剤として経口的に摂取されてもよい。また、組成物は、肛門に送達されてもよく、送達のこの形態に適した製剤として供給されてもよい。組成物は、消化管の特定の領域でその放出を制御する製剤として送達することができる。当業者は、所望により、粘膜との所望の接触時間を達成させるために、本発明の組成物を製剤化することができる。
【0040】
本発明のさらに別の態様は、粘膜への局所適用が、細菌または真菌などの微生物(単数または複数)の付着および/または侵入を減少させる、上述される組成物である。微生物は、粘膜表面上の微生物叢の一部、例えば、口腔微生物叢または腸内微生物叢であってもよい。好ましくは、組成物は、微生物に結合する免疫グロブリンおよび/または微生物が産生する毒素を含む。好ましくは、例えば、表面に曝露されたPRRまたは細胞内PRR(パターン認識受容体、例えばToll様受容体)との特異的な微生物表面成分(例えば、PAMP、病原体関連分子パターン)の結合からもたらされる、細胞内炎症促進性下流カスケードの活性化を防止するために、無傷または損傷した粘膜表面への微生物による付着および/または侵入は、少なくとも25%減少され、好ましくは、少なくとも30%、35%、40%、45%減少され、より好ましくは、少なくとも50%減少され、理想的には、さらに増加した程度、例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%減少される。
【0041】
本発明のさらなる態様は、粘膜への局所投与が粘膜創傷治癒を促進する、上述される組成物である。好ましくは、本発明の組成物は、増殖因子、例えば、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、または他の創傷治癒を促進する因子、例えば、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(例えば、bFGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、形質転換増殖因子(例えば、TGF−αまたはβ)、血小板由来増殖因子(PDGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)の1つまたはそれ以上を分泌するように上皮細胞を刺激する。したがって、組成物は、コラーゲン、ラミニンまたはフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスの成分を分泌し、血管新生を促進させるために固有層の上皮細胞および線維芽細胞を刺激し得る。
【0042】
好ましくは、増殖因子を分泌させる刺激は、生物学的に有意であり、例えば、増殖因子の分泌は、標的細胞における有意な効果が達成されるような程度まで刺激される。
【0043】
本発明のなおさらなる態様は、粘膜への局所投与が抗炎症作用を及ぼす、本発明の組成物である。本発明の組成物の抗炎症作用は、さらに
(a)炎症促進性サイトカイン発現の阻害;および/または
(b)抗炎症性サイトカインの発現の刺激
において特徴付けられ得る。
【0044】
好ましくは、粘膜における1つまたはそれ以上の主要な炎症促進性サイトカインの発現が、本発明の組成物によって減少され、より好ましくは、2つまたはそれ以上の主要な炎症促進性サイトカインの発現が減少され、さらにより好ましくは、3つまたはそれ以上の炎症促進性サイトカインの発現が減少される。好ましくは、炎症促進性サイトカインは、IL−1、IL−6、IL−8、IL−17、IFN−γ、TNF−α、MCP−1、IP10から選択される。好ましくは、発現の減少は、少なくとも25%の減少、好ましくは、少なくとも30%、35%、40%、45%の減少、より好ましくは、少なくとも50%の減少、理想的には、さらに増加した程度、例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%またはさらにそれより高い減少である。
【0045】
好ましくは、1つまたはそれ以上の主要な抗炎症性サイトカインの発現が、本発明の組成物によって刺激され、より好ましくは、2つまたはそれ以上の抗炎症性サイトカインの発現が刺激され、さらにより好ましくは、3つまたはそれ以上の抗炎症性サイトカインの発現が刺激される。好ましくは、抗炎症性サイトカインは、IL−1Ra、IL−4、IL−10、IL−11、IL−13、TGF−βから選択される。好ましくは、発現の刺激は、少なくとも2倍の刺激であり、より好ましくは少なくとも5倍、10倍、20倍、50倍の刺激であり、さらにより好ましくは少なくとも100倍の刺激であり、最も好ましくは500倍またはそれを超える刺激である。
【0046】
より好ましくは、炎症促進性サイトカインの発現の減少と抗炎症性サイトカインの発現の刺激の両方は、本発明の組成物によって提供される。
【0047】
本発明の別の態様は、消化管の粘膜炎を発症するリスクがある対象が、化学療法および/または放射線療法を受けているまたは受けようとしている癌患者である、上述される組成物である。特に、粘膜炎を発症するリスクがある対象は、以前の化学療法および/または放射線療法の処置の結果として粘膜炎を発症した癌患者である。以前の化学療法および/または放射線療法の処置は、化学療法および/または放射線療法を受けた後に寛解していた患者における一連の治療サイクルにおける初期の治療サイクル、または一連の治療サイクルの治療の一部であってもよいが、この場合、癌が再発しており、別の一連の化学療法および/または放射線療法が指示されている。
【0048】
本発明の組成物は、予防的に与えられてもよく、または活性な既存の粘膜炎の治療として与えられてもよい。好ましくは、治療は、発生している粘膜炎の症状に先立って開始される。治療は、化学療法および/または放射線療法の開始前、開始と同時、または開始後に始めてもよい。好ましくは、化学療法を受けている患者において、組成物の投与は、患者が好中球減少(すなわち、絶対好中球数(ANC)<0.5×10/L)となり、したがって、粘膜炎を発症するリスクがあるときに開始される。好ましくは、治療は、好中球減少期間を通じて、ANCが回復するまたは0.5×10/Lに到達し、粘膜炎が臨床的に解消するまで続けられる。粘膜炎を頻繁に誘発する化学療法剤には、とりわけ、メトトレキサート、アントラサイクリン、5−フルオロウラシル、および骨髄破壊的な化学療法レジメンが挙げられる。好ましくは、局所的な放射線療法を受けている患者において、組成物は、治療の全期間中、粘膜炎が解消するまで投与される。
【0049】
本発明の組成物は、患者に、1日あたり最大6回まで、好ましくは1日あたり最大5回まで、より好ましくは1日あたり最大4回まで、さらにより好ましくは1日あたり最大3回まで、最も好ましくは1日あたり2回またはそれよりも少ない頻度で投与される。
【0050】
本発明の別の態様において、組成物は、増殖因子または防腐剤などの粘膜炎の治療のための追加の有効な薬剤を含む。また、消化管の粘膜炎の治療における、同時の、個別のまたは逐次的な使用のための併用調製物として、本発明の組成物および第二の活性薬剤を含む製造物も本発明に含まれる。このような第二の活性薬剤は、例えば、増殖因子などの創傷治癒を促進する薬剤、防腐剤などの抗菌剤、例えば、殺菌性口内洗浄液、または抗炎症剤であってもよい。
【0051】
本発明は、以下の図面を参照して、以下の非限定的な例において例証される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】ゲルスロットの1mmあたり0.5μg/mlのタンパク質としたイムノブロット分析(10%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)、続くウエスタン転写、ならびにmAb17C7(三量体と単量体のUspA1およびUspA2の両方に特異的である)[パネルA]、mAb24B5(単量体UspA1に特異的である)[パネルB]、およびmAb10F3(CopBに特異的である)[パネルC]を用いたOMPの検出を示す図である。HRPをコンジュゲートした二次ヤギ抗マウスIgG抗体を、一次抗体を検出するために使用した。
図2】ゲルスロットの1mmあたり0.4μg/mlのタンパク質としたイムノブロット分析(10%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)、続くウエスタン転写、および一次抗体の供給源として、ヒトのプールされた唾液(0.3g/l)[パネルA]、血漿IgA F4[パネルB]またはプールされた血漿IgG(Privigen(登録商標))[パネルC]、ならびに化学発光を用いた可視化のための適切なHRPをコンジュゲートした二次抗体を用いた抗体結合の検出を示す図である。
図3】IgA F4を用いた付着阻害アッセイを示す図である。MEMおよびMEM−PBSを陰性対照として使用した。5mg/mlのIgA F4が補足されたO35E.1およびO35.1を陽性対照として使用した。全体のp値(一方向ANOVA)は<0.0001であった;は有意差<0.05を示す。
図4】IgA F5Aを用いた付着阻害アッセイを示す図である。MEMおよびMEM−PBSを陰性対照として使用した。5mg/mlのIgA F5Aが補足されたO35E.1およびO35.1を陽性対照として使用した。全体のp値(一方向ANOVA)は<0.001であった;は有意差<0.05を示す。
図5】IgG(Privigen(登録商標))を用いた付着阻害アッセイを示す図である。MEM、MEM−プロリンおよびMEM−PBSを陰性対照として使用した。10mg/mlのIgGが補足されたO35E.1およびO35.1を陽性対照として使用した。全体のp値(一方向ANOVA)は0.009であった;カラム間の差はいずれも統計的有意差に至らなかった。
図6】IgM F5Aを用いた付着阻害アッセイを示す図である。MEMおよびMEM−PBSを陰性対照として使用した。5mg/mlのIgM F5Aが補足されたO35E.1およびO35.1を陽性対照として使用した。全体のp値(一方向ANOVA)は<0.001であった;は有意差<0.05を示す。
図7】10mg/ml濃度のIgA F4が上皮細胞への細菌の浸潤を有意に阻害したことを実証するM.カタラーリス(M.catarrhalis)侵入アッセイを示す図である。全体的なp値(一方向ANOVA)は0.014であった;は有意差<0.05を示す。細胞侵入の完全な阻害を示す信頼性の高い対照を利用できなかった。
図8】10mg/ml濃度のプールされた血漿IgG(Privigen(登録商標))が上皮細胞への細菌の浸潤を有意に阻害したことを実証するM.カタラーリス(M.catarrhalis)侵入アッセイを示す図である。全体的なp値(一方向ANOVA)は0.015であった;は有意差<0.05を示す。細胞侵入の完全な阻害を示す信頼性の高い対照を利用できなかった。
図9】5および2.5mg/ml濃度のIgM F5Aが上皮細胞への細菌の浸潤を有意に阻害したことを実証するM.カタラーリス(M.catarrhalis)侵入アッセイを示す図である。全体的なp値(一方向ANOVA)は<0.0001であった;は有意差<0.05を示す。細胞侵入の完全な阻害を示す信頼性の高い対照を利用できなかった。
図10】IgA F4の抗炎症活性は、M.カタラーリスの外膜タンパク質(OMP)で刺激したDetroit 562細胞を用いて評価した図である。濃度増加させたIgAをOMP刺激時の細胞に適用した。Detroit 562細胞によるMCP−1(A)、IL−8(B)およびIL−6(C)の分泌は、マルチプレックスサスペンションアレイ(ルミネックス技術)を用いて、刺激開始時(t=0)と24時間後(t=24)に測定された。陰性対照は、OMPを添加していない試料である。
図11-1】IgA F4の抗炎症活性は、H376細胞およびHGF−1細胞を用いて評価した図である。濃度増加させたIgAを休止H376細胞とHGF−1細胞に適用し、または刺激時(HGF−1細胞)に適用された。H376によるIP−10細胞(A)とG−CSF細胞(B)の分泌とHGF−1細胞(C)によるIP−10の分泌は、マルチプレックスサスペンションアレイ(ルミネックス技術)を用いて、刺激から24時間後に測定された。
図11-2】図11−1の続き。
図12】IgA F4を用いて付着阻害アッセイを示す図である。IgA F4は、H376細胞へのS.ニューモニエ(S.pneumoniae)R6(A)とS.ミチス(S.mitis)(B)の付着能力を妨げる。
図13】IgA F4を用いた細胞毒性アッセイを示す図である。γ線照射によって誘導したH376細胞の細胞死におけるIgA F4の線量効果の減少。(A)時系列に記述されるように実験を行った。(B)照射から24時間後、CytoTox−Glo(商標)細胞毒性アッセイ(Promega)を用いて細胞死を測定した。数字は、ジギトニンで処理されたH376細胞試料中で測定された総細胞毒性と比較した特異的な細胞死に対応する。
図14】IgA F4を用いた創傷治癒アッセイを示す図である。(A)時系列に記述されるように実験を行った。(B、C、D)細胞単層における人工ギャップの閉鎖は、異なる時間間隔でのスクラッチの画像を取り込むことによって記録され、ギャップサイズが測定された。100%創傷の再上皮形成は、人工ギャップの完全な回復に対応している。
図15】上皮細胞系におけるIgA受容体の分析を示す図である。CD71およびCD89(または関連するアイソタイプ対照)に対する染色は、H376細胞およびデトロイト細胞において行われ、フローサイトメーターを用いて分析された。
図16】IgA F4調製物およびIgG調製物における抗TNF活性をELISAによって評価した図を示す。ELISAプレートのウェルをTNFα(1μg/ml)で被覆し、さらにブロッキングした。濃度増加させたIgA F4、IgGおよび抗TNFα抗体(モノクローナル、インフリキシマブ)をウェルに適用した。いくつかのウェルでは、遊離TNFαを添加し、試験された抗体の特異的結合を阻害した(競合アッセイ;バー)。洗浄後、TNFαを結合した免疫グロブリンを、HRP標識した特異的二次抗体を用いて明らかにした。
【実施例】
【0053】
実施例に包含される研究は、免疫グロブリンが、組み合わせた抗菌および抗炎症/前創傷治癒効果を有し得、したがって、消化管の粘膜炎、特に口腔粘膜炎の効果的な予防および治療のための魅力的な選択肢であることを示す。
【0054】
口腔咽頭腔の粘膜上皮細胞層を模倣するために上皮細胞系を用いた。このような研究に適した細胞系の一例は、ヒト咽頭細胞系Detroit562(ATCC CCL138)である。使用されるさらなる適切な細胞系は、H376の口腔底由来の扁平上皮癌細胞系、およびHGF−1の歯肉線維芽細胞系である。粘膜微生物叢の一部である微生物の例として、本発明者らは、典型的な鼻咽頭および口咽頭病原体であるモラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、ならびにストレプトコッカス属種などの口腔微生物叢に見出される他の細菌を使用した。このモデル実験系は、予備のインビトロ実験に適していると考えられた。これは、細胞系の起源が、経口投与された免疫グロブリンの作用の意図された(好ましい)部位に対応するためである。さらに、Detroit細胞は、以前に、細菌(生存したもしくは不活性化された細菌全体または細菌表面成分)で曝露されたとき、炎症促進性活性化を示すことが示されている。通性病原体であり、唯一の天然生息域がヒト咽頭であるM.カタラーリスを選択した。これは、インビトロにおいてDetroit細胞に付着し、浸潤するM.カタラーリスの能力に起因し、IL−6、IL−8、TNFα、MCP−1およびGM−CSFなどの炎症促進性メディエータの分泌を誘導するためである。また、M.カタラーリスの特定の外膜タンパク質(例えば、UspA1およびUspA2)は、付着および侵入を仲介し、さらにCEACAM1とTLR2に結合することによって、炎症促進性カスケードを誘発する。これらの外膜タンパク質の同質遺伝子ノックアウト変異体を利用することができる。M.カタラーリスのUspA1とUspA2は、ヒト免疫系によって認識される既知の免疫原であり、健康な個体に特定の血漿および唾液IgAおよびIgMを誘導する。さらに、ストレプトコッカス属種、特にS.ミチスおよびS.ニューモニエは、口腔内に存在する典型的な日和見病原体として使用された。このようにして、このインビトロモデルは、細菌の付着および侵入、ならびに炎症の細菌誘導におけるヒト免疫グロブリン製剤の効果を評価するのに適している。
【0055】
〔実施例1〕
血漿由来および唾液由来の免疫グロブリン製剤はM.カタラーリスを認識する抗体を含む
本発明者らの免疫グロブリン製剤が抗菌作用を有することができるかどうかを試験するために、本発明者らは、最初に、口咽頭管の粘膜表面に見られる潜在的な病原体を認識する抗体を含むかどうかを確立しようとした。このような微生物の例として、M.カタラーリスを使用した。
【0056】
1.1.細菌株およびヒト細胞系。M.カタラーリス株25238をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から購入した。実験室株O35Eは、耳炎の子供からの中耳単離物である。細菌は、脳−心臓浸出液(BHI)寒天プレート(Difco、Detroit、MI)上で37℃にて5%CO雰囲気下で培養され、またはBHIブロス中で37℃にて毎分200回(rpm)で培養された。いくつかの実験において、細菌は、PBS中で生存している細菌の再懸濁および60℃にて60分間のインキュベーションによって熱不活性化された。ヒト咽頭細胞系Detroit562(ATCC CCL 138)は、10%の熱不活化されたウシ胎児血清(FCS)、2mMのL−グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム(Sigma、St.Louis、MO)、1×非必須アミノ酸(Sigma)、100U/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシンが補足されたEagle最小必須培地(MEM;Invitrogen、Basel、Switzerland)中に37℃にて5%CO下で維持された。
【0057】
1.2.試薬。プールされたヒト免疫グロブリンアイソタイプ(それぞれ、IgA(「IgA F4」[50mg/ml]、「IgA F5A」[50mg/ml])、IgG(Privigen(登録商標)[100mg/ml])およびIgM(「IgM F5A」[10mg/ml])をCSL Behring、Bern、Switzerlandから得た。IgG製剤は、市販のヒト静脈のIgG(IVIG)製剤(Privigen(R))である。精製されたヒト血漿のIgAおよびIgM画分は実験製造物である。IgAは、MPHQカラムの連続溶出、続くアフィニティークロマトグラフィーによる分離によって血漿から製造された。CSL Behring AG(Berne、Switzerland)のIVIgの製造プロセスのAIEXクロマトグラフィー工程から、画分F4は、10mMリン酸塩/30mM酢酸塩(pH6.5)を用いたMacro−Prep High Q(Bio−Rad、Hercule、CA)カラムの後洗浄後、55mM酒石酸塩/5mM酢酸塩(ph7.6)による溶出によって得られた。その後、画分F5は、50mMリン酸塩/25mMクエン酸塩(pH5.0)を用いて溶出された。F4とF5は、限外/透析ろ過によってPBS中で約1mG/mLにされ、次に、IgSelect樹脂(GE Healthcare、Glattbrugg、Switzerland)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによってIgGを枯渇させた。IgA F4は、F4充填のIgSelectクロマトグラフィーのフロースルーにおいて直接回収された。IgA F5を得るために、F5充填のIgSelectのフロースルーは、CaptureSelectヒトIgM樹脂(Bioaffinity Company BAC)を用いたアフィニティークロマトグラフィーによってIgMを枯渇させた。このCaptureSelectヒトIgM樹脂の溶出は、ここで使用されるIgM F5画分をもたらした。IgA F4、IgA F5およびIgM F5は、限外/透析ろ過によって最終濃度にした。
【0058】
1.3.イムノブロット解析。25238およびO35E菌株の外膜タンパク質(OMP)調製物は、EDTAバッファー法(Murphy TF & Loeb MR(1989年)Microb Pathog 6:159−74頁)によって調製され、それぞれ図1と2において、ゲルスロットの0.5と0.4μg/mmのタンパク質濃度でSDS−PAGE(10%ポリアクリルアミド)によって分別された。その後、ゲルは、PVDFメンブレン(Immobilon−P(登録商標)、Millipore Corporation、Bedford、MA)にエレクトロトランスファーされた。イムノブロット分析は、モノクローナル抗体(17C7(Aebi Cら(1997年)Infect Immun 65:4367−77頁)、24B5(Cope LDら(1999年)J Bacteriol 181:4026−34頁)、10F3(Aebi Cら(1998年)Infect Immun 66:3113−9頁)[0.5%のmAb上清、絶対濃度は不明である])、および唾液または上記したプールされたヒトIgAまたはIgG(0.4μg/ml)を一次抗体として使用し、西洋ワサビペルオキシダーゼで標識した、1:4000に希釈したヤギ抗ヒトIgAまたはIgG(Sigma Corp.、St.Louis、MO)を二次抗体として使用して行われた。SuperSignal West Pico化学発光基質(Pierce Chemical Co.、Rockford、IL)を、抗体結合を検出するために使用した。
【0059】
図1は、ATCC25238菌株のOMPが、主要なOMP UpA1(mAb 17C7およびmAb 24B5)、UspA2(mAb17C7)およびこれらのmAbを生じさせ、M.カタラーリスの主要でより臨床的に関連した系統発生上の系統1(Meier PSら(2005年)Vaccine 23:2000−8頁)の標準的な代表であるO35E菌株(Helminen MEら(1993年)Infect Immun 61:2003−10頁;Helminen MEら(1994年)J Infect Dis 170:867−72頁;Cope LDら(1999年)J Bacteriol 181:4026−34頁)に類似したCopB(mAb10F3)、に指向される3つのモノクローナル抗体と強く反応することを示す。
【0060】
その後、本発明者らは、ヒト血漿および唾液が、標準的なイムノブロットアッセイ(Stutzmanら(2003年)Infect Immun 71:6793−8頁)を用いて、ATCC25238とO35Eの両菌株に由来するM.カタラーリスOMPと反応する抗体を含むことを確認した。図2は、ヒト唾液とOMPの両方が、ヒトIgA(唾液、OMP)、および/またはIgGによって認識される複数の抗原を含むことを示す。
【0061】
これは、M.カタラーリスの参照小児中耳単離物として世界中で使用され、利用可能なモノクローナル抗体の生成のために使用される、標準O35E系統群1菌株(Bootsma HJら(2000年)J Infect Dis 181:1376−87頁)として、ATCC25238菌株は、上皮細胞付着因子(mAbの17C7と25B4)の発現において同様に振る舞うことを、最初に解明することは重要であった。図1は、これがその事例であることを示す。さらに、図2に示すように、血漿由来のIgAおよびIgGは、同じATCC25238の外膜エピトープを認識し、これは、本発明者らの一連の実験においてこの菌株の有用性をさらに実証する。UspA1主要付着因子(mAbの17C7と24B5の両方と反応する)は、ヒトフィブロネクチンおよびCEACAM1(Brooks MJら(2008年)Infect Immun 76:5322−9頁)と反応するドメインを含み、したがって、の多種多様のヒト上皮細胞系に結合すべきであることは、ここで注目される。イムノブロットにおける明確なバンドの生成は、抗体が、それらの特異的抗原結合(Fab)ドメインによって外膜小胞に結合するという概念を支持する。
【0062】
〔実施例2〕
上皮細胞への細菌接着の阻害
本発明の免疫グロブリン製剤の抗菌作用をさらに実証するために、免疫グロブリン調製物が、咽頭上皮細胞系Detroit562へのM.カタラーリスの接着の阻害において有効であるかどうかを試験した。
【0063】
インビトロにおけるヒト上皮細胞に付着するM.カタラーリスの能力は、先に記載されるように測定された(Aebi Cら(1998年)Infect Immun 66:3113−9頁)が、以下の変更を伴った。Detroit562細胞(1ウェルあたり約3×10細胞)は、0.1%FCSが補足されているが、抗体を含まないMEM中で、24ウェルの組織培養プレートにおいてコンフルエントな単層になるまで一晩増殖され、MEM中で3回洗浄された。細菌を一晩増殖させ、感染の適切な多重度(MOI)に調整した。生存している細菌は、適切な濃度の免疫グロブリン(上の段落1.2に記載したように調製した)または対照(例えば、IgGアッセイに関してプロリン)が補足されているが、抗体を含まない、FCS不含MEM中でウェルに添加され、5分間、1,500rpmで遠心分離され、その後、30分間、37℃にてインキュベートされた。次に、ウェルをMEM中で5回洗浄し、トリプシン処理し、懸濁液は、付着細菌の数を決定するために定量的に培養された。O35E.1菌株(すなわち、対立遺伝子置換によって生成された同質遺伝子uspA1の付着因子ノックアウト変異体(Aebi Cら(1998年)Infect Immun 66:3113−9頁))を陽性(すなわち、付着阻害)対照として使用した。データは、上皮細胞に付着する元の接種材料の細菌の割合として表された。各々のアッセイを3連で実施し、少なくとも3つの実験を行い、調査した条件あたり少なくとも9個のデータ点を得た。細胞生存率は、トリパンブルー排除、および市販のLDHアッセイ(BioChain Institute、Inc.、Hayward、CA)によって形態学的に確認された。
【0064】
IgA F4(図3)とIgA F5(図4)の両方は、5mg/ml濃度で付着を有意に阻害した。陽性対照O35.1と5mg/mlのIgAが補充されたO35.1の付着は有意に低かった。プールされたヒト血漿IgGによる付着阻害は全体的に有意であった。しかし、カラム間の差は統計学的な有意性に達成しなかったが、図5は、IgG濃度依存的な阻害効果を示唆する。一方、図6に示すように、IgM F5A画分は、強力な付着阻害効果を示した。
【0065】
IgA F4およびIgA F5は、5mg/ml濃度でDetroit細胞への付着を有意に阻害することが見出された(図3および図4参照)。用量効果曲線が存在するようであった。主要な付着因子であるUspA1の発現が欠損している同質遺伝子変異体である陽性対照菌株O35.1の付着もまた有意に低かった(有意性を示さなかった)。これらの所見は、血漿IgAが、−生理的な唾液濃度を約1log10超える濃度で−インビトロで咽頭上皮細胞へのM.カタラーリスの結合を阻害することができることを示す。これらのデータは、細菌表面成分(例えば、OMP、LOS)の炎症促進作用を防ぐ中和「粘膜」抗体としてその可能性を支持する。同様の知見は、精製された血漿IgM F5Aについて記録された(図6)。統計的な有意性が得られなかったが、類似の傾向(図5)がまた血漿IgG(Privigen(登録商標))について観察された。これは、結合したIgG(およびIgM抗体)がヒト補体を強く活性化し、その後の死滅またはオプソニン化を伴う細菌結合が粘膜炎の予防に望ましくない場合があることを言及することは注目に値する。しかしながら、補体がヒト腔において活性であるのかどうか、およびどの程度活性であるのかは知られていない。
【0066】
〔実施例3〕
免疫グロブリンによる上皮細胞の細菌侵入の阻害
以前に示されているように(Spaniol Vら(2008年)Microbes Infect 10:3−11頁)、M.カタラーリスは、小児および若年成人において、インビボで上皮細胞に浸潤し、さらに粘膜下咽頭の軟部組織に局在し得る(Heiniger Nら(2007年)J Infect Dis 196:1080−7頁)。したがって、本発明者らは、インビトロで咽頭上皮細胞の浸潤を阻害するヒト免疫グロブリンの可能性を調査し、免疫グロブリン製剤の潜在的な利点をさらに実証した。
【0067】
細菌侵入は、先に記載されるようにゲンタマイシン保護アッセイ(Spaniol Vら(2008年)Microbes Infect 10:3−11頁)を用いて評価され、以下の変更を伴った。細胞は、抗生物質を含まない培地中で調製された。洗浄後、細菌は、上の段落1.2に記載されるように調製された、所定濃度の各々の免疫グロブリンとともに30のMOIで添加され、5分間、1,500rpmで遠心分離され、3時間37℃にて5%CO下でインキュベートされた。細胞内細菌の数を決定するために、感染された単層をPBS中で3回洗浄し、硫酸ゲンタマイシン(200μg/ml)を用いて、2時間37℃にて処理された。洗浄後、細胞は、0.25%トリプシン−EDTAを用いた処理によってプラスチック表面から脱着され、1%サポニンの添加によって溶解され、定量的な細菌培養のためにPBS中で連続的に希釈された。侵入率は、接種されたcfu数によるゲンタマイシン曝露後に回収されたcfu数で割ることによって計算された。
【0068】
図7は、10mg/ml濃度のIgA F4が、0.1mg/mlと比較して、Detroit562咽頭細胞の浸潤を有意に阻害したことを示している。10mg/mlと陰性対照(MEM−PBS)の比較は、有意性に到達しなかった。同様に、10mg/mlのヒトのプールされた血漿IgG(Privigen(登録商標))は、MEM−PBSの陰性対照と比較して侵入を有意に阻害した。これはまた、血漿IgM F5について当てはまり、5mg/mlで、MEM−PBS対照および0.1mg/mlの最低濃度のIgGと比較して、侵入の有意な阻害を実相した。図7〜9中の分散度として、本発明らは、平均の標準誤差(SEM)を用いた。また、本発明者らは、Detroit細胞の浸潤を完全に行えない「陽性」対照の提示を控えることを余儀なくされ、これは、このような細菌が利用できなかったためである。
【0069】
より多くの古典的な細胞外病原体が、最近、粘膜上皮細胞層全体に浸潤しまたはトランスサイトーシスすることが見出されている。例えば、分類不可能なヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenzae)(Eldika、N & Sethi S(2006年)Curr Opin Pulm Med 12:118−24頁)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(Que YAら(2005年)J Exp Med 201:1627−35頁)などが挙げられる。細胞内持続性は、粘膜免疫を回避する手段であってもよく、ホストの上皮下腔および−最終的には−血管腔に接近するためであってもよい。これは、発熱性好中球減少症および粘膜炎を有する患者において特に関連性があり得る。本発明者らは、確立されたゲンタマイシン保護アッセイを用いて、上皮浸潤の免疫グロブリン媒介性阻害を測定し、3つ全てのアイソタイプがDetroit細胞の浸潤を阻害し得ることを見出した。IgA F4(図7)およびIgM F5A(図9)の場合において、有意な阻害は、それぞれ10mg/mlおよび5mg/mlで観察された。再度、同様の傾向が、統計的に有意ではないが、血漿IgGについて見出された(図8)。
【0070】
〔実施例4〕
免疫グロブリンによる上皮サイトカイン/ケモカイン放出の調節
免疫グロブリンの抗炎症作用の可能性を示すために、免疫グロブリン製剤が、上皮細胞によるサイトカイン/ケモカイン放出に影響を与えるかどうかについて調べた。
【0071】
Detroit細胞単層を調製し、濃度増加させたIgA F4の存在下で、様々な濃度のM.カタラーリスのOMP(OMP調製について実施例1.3参照)を用いて刺激した。陰性対照は、OMPを含むまたは含まない培地で構成された。個別の上清を刺激後の0時および24時間で回収し、次に、分析するまで−80℃に維持した。本実験において、試料は、検出前に16時間、一晩インキュベートされた。マトリックス溶液として、本発明者らは、0.1%FCSでRPMI−1640細胞培養培地(Sigma、R8758)を使用した。試料を調製後、Bioplex 200アナライザー(BioRad)を用いてデータを取得した。Detroit細胞の調製、様々な濃度の免疫グロブリンおよびOMPへの曝露は、ベルン大学感染症研究所で実施された。サイトカイン/ケモカインの測定は、CSLベーリング(Bern)で行われた。
【0072】
0時で、Detroit細胞は、OMPと様々な濃度のIgA F4が補足されたまたは補足されていない新鮮な培地を受け入れた。こうした理由から、図10A、B、Cに示されるように、この時点で上清中にサイトカインはほとんど検出することができなかった。24時間で、いずれのOMPを含まない場合、Detroit562細胞は、検出可能なレベルのMCP−1、IL−8およびIL−6を分泌した(図10A、B、C)。MCP−1は、単球/マクロファージの動員を制御する主要なケモカインである。それは、多くの疾患に関与している(Deshmane SLら(2009年)J.Int.& Cyt.Res.29、6、313−326頁)。IL−8または好中球走化性因子は、好中球を組織に動員するケモカインである。また、それは口腔内の炎症に関連している(Ertugrul ASら(2013年)J Periodont Res;48:44−51頁)。最後に、また、IL−6は、炎症の重要なメディエータであり、照射された線維芽細胞において誘導されることが示されている(Brach MAら(1993年)J.Biol.Chem.268:8466−8472頁;Rincon M(2012年)Trends Immunol.33(11)571−577頁)。重要なことには、培地へのOMPの添加は、MCP−1、IL−8およびIL−6産生をそれぞれ約10倍、3倍および7倍増加させた。さらに、少量のIgA F4は、OMPにより誘導されたケモカイン/サイトカイン産生においてほとんど影響を及ぼさなかったが、10mg/mlのIgAは、MCP−1分泌を顕著に減少させ、より少ない程度にIL−8およびIL−6分泌を減少させた。
【0073】
これらの結果を支持するために、本発明者らは、追加の細胞系についてIgA F4活性を試験することを目的とした。口腔底の組織は、口腔粘膜炎の経過中に損傷した組織の1つを表している。本発明者らは、口腔底に由来する新たな細胞系であるH376(ヒト口腔扁平上皮癌;HPACC 06092005)を見出した。H376に加えて、本発明者らは、歯肉線維芽細胞(HGF−1細胞系;ATCC(登録商標)CRL−2014(商標))を研究するために選択した。これは、歯肉線維芽細胞が口腔内の上皮細胞下に位置され、口腔粘膜炎の経過で炎症を感知するためである。
【0074】
以下の実験において、本発明者らは、H376およびHGF−1細胞のサイトカインプロファイルを分析した。
【0075】
細胞単層は、2つの濃度のIgA F4(MEM中で調製した5および10mg/ml)の存在下で調製された。陰性対照は、培地単独(純粋なMEM細胞培養培地、Life Technologies、51200−046)からなっていた。個別の上清を24時間で回収した。HGF−1細胞は、線維芽細胞を刺激することが知られている炎症促進性サイトカイン(例えば、組換えIL−1βおよびTNFα、ともに50ng/ml、それぞれMilteni(130−093−893)およびPeprotech(300−01 A)から入手)で刺激された。刺激後、次に、分析するまで、上清を−80℃にて維持した。マトリックス溶液として、本発明者らはMEMを使用した。試料を調製後、Bioplex 200アナライザー(BioRad)を用いてデータを取得した。
【0076】
H376細胞は、炎症と関連したIFN−γによって誘導されるタンパク質であるIP−10(Liu Mら(2011年)Cytokine growth Factor Rev.22(3)、121−130頁)、および炎症部位で好中球を動員し得る炎症性メディエータを表すG−CSF(Suzuki S(2002年)Blood 99:1863−1865頁)を分泌した(図11A、B)。図11AおよびBにおいて、本発明者らは、IgA(5mg/ml)によるH376細胞の処理が、IP−10とG−CSF産生の両方を約50%に強力に減少させたことを示す。10mg/mlへのIgAの濃度増加は、G−CSF産生をさらに減少させなかったが、IgA(5mg/ml)よりもわずかに良好にIP−10産生を減少させた(図11A、B)。H376細胞は腫瘍細胞であり、活性化された表現型を有する可能性があった。本発明者らは、IP−10とG−CSFレベルの両方が、初代口腔上皮細胞における場合ほどには高くない可能性があることを除外することができない。
【0077】
HGF−1は歯肉線維芽細胞である。それらは、定常状態でいずれものIP−10を産生しなかった(図11C)。しかしながら、IL−1βおよびTNF−αなどの炎症性分子が培地(純粋なMEM)も適用されたときに、IP−10産生の明確な誘導があった。TNFαは、同等の濃度で、IL−1βよりもIP−10誘導において強力であった。両方の条件において、刺激時でのIgA添加は、IP−10産生を強く減少させた。最も高いIgA F4濃度は最も強い減少を示した。それにもかかわらず、IgA F4(5mg/ml)は、非常に類似した免疫抑制作用を示した(図11c)。
【0078】
要約すると、本発明者らのデータは、IgA F4が、骨髄細胞(例えば、上皮細胞)ではない細胞において免疫抑制作用を及ぼすことを示した最初のものである。これは、口腔粘膜炎の経過中に、炎症促進性ケモカインおよびサイトカインが、電離放射線および/または上皮細胞および線維芽細胞による細菌定着に応答して上方制御されるため、非常に有益な情報である。これらの結果は、口腔粘膜炎の経過中に、IgAが、広範囲の細胞サブセット(例えば、好中球、マクロファージ、上皮細胞など)におけるその免疫抑制作用を潜在的に標的とすることを示す。
【0079】
〔実施例5〕
免疫グロブリンによる、M.カタラーリス以外の細菌の付着、侵入および該細菌によって誘導される上皮サイトカイン/ケモカイン放出の調節の阻害
同様の実験において、実施例1〜4に記載されているように、M.カタラーリス以外の細菌、または真菌などの他の微生物を調べる。微生物には、限定されないが、病原性および日和見病原性種、例えば、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、ストレプトコッカス・ビリダンス(Streptococcus viridans)群、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumonia)、エンテロコッカス・フェカリス/フェシウム(Enterococcus faecalis/faecium)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumonia)、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、ヘモフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ストレプトコッカス・ミチス(Streptococcus mitis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、および多くの種の嫌気性細菌が挙げられる。実施例1〜4に記載されているのと同様の結果が得られる:IgA調製物は、上記の細菌または真菌に対する特異的な抗体を含む;上皮細胞の付着および侵入は阻害される;炎症性サイトカイン反応は阻害される。同様の結果が他の上皮細胞系を用いて得られ、胃腸管および結腸の粘膜内層に代表される。
【0080】
〔実施例6〕
動物モデルにおける粘膜炎の予防
適切に製剤化された免疫グロブリン製剤は、口腔粘膜炎の動物モデルにおいて試験される。免疫グロブリンは予防的に適用され、その後、Ryuら(J.Radiat.Res.、51、595−601頁、2010年)から適合されるCD89トランスジェニックマウスモデルにおいて、同時化学および放射線療法(CCRT)によって粘膜炎を誘導する。本発明者らは、口腔粘膜炎の程度および重症度においてであるが、さらに創傷治癒およびCCRTに起因する組織損傷の消散に関連した要因において免疫グロブリン治療の効果を測定する。口腔粘膜炎の重症度の実際の指標は、体重減少、舌の萎縮および口腔粘膜(上皮の厚さ)である。さらに、治療効果は、上皮層の厚さ、粘膜の基底細胞の数、増殖マーカーKI−67の組織学的定量化、mRNA転写物(組織試料のインサイチュハイブリダイゼーションおよびRT−PCR)およびKGF、上皮細胞増殖因子、線維細胞増殖因子、血管内皮細胞増殖因子Aのような増殖因子のタンパク質発現を測定するによって評価される。このような分析は、免疫排除の結果として、および潜在的にはIgAとCD89発現細胞の直接的相互作用に起因して、細胞内炎症促進性カスケードの下方制御に関する情報を得る。IgAで処置したマウスは、体重減少が少なく、それらの舌と口腔粘膜は、未処置の動物と比較して、それほど重度に罹患していない。分泌様IgAで処置したマウスはさらに良好に保護される。
【0081】
あるいは、口腔粘膜炎のハムスターモデルは、Watkinsら(Oral Dis 2010年、16:655−660頁)に記載されているのと同様に使用される。適切に製剤化されたIgA製剤(または対照についてはビヒクル溶液)は、最大28日目までの研究の全期間、シリアンゴールデンハムスターに、予防的に(例えば、−3日目に開始)毎日3回与えられる。急性放射線によって誘導された粘膜炎のモデルにおいて、0日目に、一方の反転させた口腔頬袋を放射線照射(40Gy)し、他方の頬袋を対照のために未処置のままにする。あるいは、分割された放射線によって誘導した粘膜炎のモデルにおいて、60Gyの累積線量が適用され、(Watkins、Oral Dis 2010年、16:655−660頁)に記載されるように、7.5Gyの8回の分割に分配される。併用シスプラチンおよび急性放射線によって誘導した粘膜炎のさらに別のモデルにおいて、疾患は、0日目にシスプラチン(5mg/kg)および35Gyの放射線の組み合わせによって誘導される。口腔粘膜炎の臨床評価および体重のモニタリングは、6日目に開始し、研究の終了まで、典型的には28日目まで毎日行われる。採点システムは(Watkins Oral Dis、2010年 16:655−660頁)に記載されている。さらに、組織および血漿試料を回収し、組織学的分析、血漿中の炎症マーカーの決定、および様々な組織の遺伝子発現研究のために、研究全体で適切に処理される。未処置/ビヒクル処理された動物は、口腔粘膜炎を発症し、疾患ピークは16〜18日目辺りであり、自然治癒は、粘膜炎の回帰によって証明され、18〜20日目辺りで開始する。IgAで処置された動物は、対照動物と比較して有意に低い粘膜炎スコアを有し、体重減少が少なく、同時に軽度の組織学的所見があり、炎症マーカー(限定されないが、炎症サイトカインおよびケモカインを含む)のレベルが減少する。炎症の減少と創傷治癒の促進は、遺伝子発現分析技術によって、mRNA発現レベルで確認される。分泌様IgAによる処置はさらにより効果的である。
【0082】
〔実施例7〕
口腔上皮細胞に対する日和見病原体の付着阻害
実施例2に示されている本発明者らの免疫グロブリン調製物の抗菌作用に対する本発明者らのデータを裏付け、さらに強化するために、本発明者らは、H376上皮細胞に対する細菌付着を妨害するIgAの能力について試験した。
【0083】
口腔微生物叢は、フィルミクテス(Firmicutes)門について優勢である多種多様の細菌株で構成されている(The Human Microbiome Project Consortium(2012年)Nature 486:207−214頁)(Dewhirst FE(2010年)J.Bacteriol 192:5002−5017頁)。重要なことは、非被包性ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)およびストレプトコッカス・ミチス(Streptococcus mitis)(両方ともフィルミクテス門由来)は遺伝的に非常に近い。S.ミチスは、主要な口腔日和見病原体を示すことが知られ、上皮バリアが破壊したとき、典型的には、口腔粘膜炎の患者に起こり得るため、潜在的に感染に至る可能性がある。非被包性S.ニューモニエは上皮によく付着し、結膜炎などの粘膜感染を引き起こし得るが、侵襲性疾患を引き起こさない。このように、S.ニューモニエR6とS.ミチスの両方は、このプロジェクトに照らして細菌と経口粘膜上皮間の相互作用の研究に有用なモデル生物である。
【0084】
インビトロでのヒト上皮細胞に付着する細菌分離株の能力は、実施例2および文献(Aebi Cら(1998年)Infect Immun 66:3113−9頁)において先に記載されるように測定されたが、以下の変更を伴った。H376細胞(1ウェルあたり約3×10細胞)は、0.1%FCSが補足されているが、抗体を含まないMEM中で、24ウェルの組織培養プレートにおいてコンフルエントな単層になるまで一晩増殖され、MEM中で3回洗浄された。細菌を一晩増殖させ、感染の適切な多重度(MOI)に調整した。生存している細菌は、適切な濃度の免疫グロブリン(上の段落1.2に記載したように調製した)または対照(例えば、IgGアッセイに関してプロリン)が補足されているが、抗体を含まない、FCS不含MEM中でウェルに添加され、5分間、1,500rpmで遠心分離され、その後、30分間、37℃にてインキュベートされた。次に、ウェルをMEM中で5回洗浄し、トリプシン処理し、懸濁液は、付着細菌の数を決定するために定量的に培養された。データは、上皮細胞に付着する元の接種材料の細菌の割合として表された。各々のアッセイを3連で実施し、少なくとも3つの実験を行い、調査した条件あたり少なくとも9個のデータ点を得た。細胞生存率は、トリパンブルー排除、および市販のLDHアッセイ(BioChain Institute、Inc.、Hayward、CA)によって形態学的に確認された。
【0085】
図12Aに示すように、S.ニューモニエR6は、口腔底を起源とするH376細胞に非常によく付着した。洗浄後、60%超の細菌がまだ細胞に付着していた。重要なことには、IgA F4(2mg/ml)の添加は、上皮細胞へのS.ニューモニエR6付着を顕著にブロックするのに十分であった。約75%の細菌が細胞への付着を妨げられ得た。IgAの用量増加は、細菌付着のわずかに多くの阻害を示した。図12Bにおいて、H376へのS.ミチス付着について試験した。本発明者らは、S.ミチスが、S.ニューモニエR6より少ない程度に上皮細胞に結合することを見出した。しかしながら、IgA F4は、S.ミチス付着を明確に阻害し、最大効果は5mg/mlであった。このようにして、口腔粘膜炎の症状を示す患者の口腔内へのIgA F4の投与は、日和見病原体のコロニー形成から口腔上皮を保護することができる。
【0086】
〔実施例8〕
IgAはγ電離放射線によって誘導される細胞毒性から上皮細胞を保護する
放射線療法は、腫瘍を有する患者の標的である増殖細胞(例えば腫瘍細胞)を治療するために使用される。DNA切断および活性酸素種を生成させることによって、γ電離放射線は、一般的に腫瘍細胞死を誘導する。それは口腔上皮の細胞は、それらの低い代謝回転のため、照射に対してより抵抗性であると考えられるが、繰り返される照射は、これらの細胞に対して細胞毒性をなおも誘導することができる。IgAが、電離放射線後に細胞の生存に影響を与えるかどうかを調べるために、本発明者らは、H376を照射し、24時間後の細胞毒性を測定した。
【0087】
図13Aに示すように、H376は、MEM(80μl)中に3×10細胞/ウェル(96ウェルプレート)で播種し、2時間と37℃で維持された。次に、IgA F4(5または10mg/ml)および/またはMEMは、最終濃度が100μl(3連)に達するようにウェルに添加された。翌日、細胞を4Gyで照射し、37℃に戻した。照射から24時間後、細胞毒性は、CytoTox−Glo(商標)細胞毒性アッセイキット(Promega、G9291)を使用して評価された。このキットは、細胞死の過程中に放出される細胞内プロテアーゼの量を測定する。
【0088】
図13Bに示されるように、30%超のH376は、電離放射線を受けた後に死滅した。IgA F4を用いたH376細胞の予防的治療は、用量依存的にこの細胞毒性を減少させた。IgA(10mg/ml)は、24時間で細胞死をほぼ50%阻害し、IgA(5mg/ml)はほぼ30%阻害した。したがって、上皮細胞へのIgAの添加は、生存優位性を提供した。また、患者の上皮への繰り返しの照射の効果を減少し得る。
【0089】
〔実施例9〕
創傷再上皮形成における有益な効果
口腔粘膜炎の過程での細菌のコロニー形成および炎症シグナルを調節することは関連性があるが、口腔粘膜炎症状の軽減は、口腔上皮の潰瘍後に迅速な創傷閉鎖を必要とすることが明らかになってきている。KGFは、創傷再上皮形成において重要な役割を果たしている。これは、KGFが、現在、口腔粘膜炎の治療において使用するためのいくつかの承認された薬剤の1つである理由の1つである。さらに、口腔粘膜炎の過程におけるIgAの潜在的な役割を詳述するために、本発明者らは、創傷した上皮についてIgAを試験した。インビトロにおける細胞上皮への照射の潜在的な損傷効果を再現するために、本発明者らは、スクラッチアッセイで使用する前に細胞単層を照射した。
【0090】
創傷治癒を試験するために使用される主なアッセイは、一般的なスクラッチアッセイである。これは、人工的な創傷の閉鎖を測定するために、細胞単層を傷つけ、経時的に画像を取り込むことからなる。図14Aに示すように、本発明者らは、MEM(最終体積500μl)中に1ウェルあたり約3×10個(24ウェルプレート)のH376細胞を播種し、プレートを37℃にて2時間維持した。次に、免疫グロブリン(例えば、IgAもしくはIgGまたは培地対照)をウェルに添加し、プレートをさらに22時間37℃に置いた。この工程で、プレートを2Gy、4Gyで照射し、または未処理のままとし、37℃に戻した。24時間後、各々のウェルの細胞単層全体でP1000チップを用いてスクラッチを作製した。人工的なギャップにスクラッチされた細胞が落下するのを防止するために、培地を除去し、細胞単層をMEMで1回洗浄した。次に、免疫グロブリンが補足されたMEMまたは補足されていないMEMをウェルに添加した。顕微鏡を用いて様々な時間点で撮像し、ギャップの大きさを測定した。100%の創傷再上皮形成は、人工的な創傷の完全な回復に対応する。
【0091】
IgA F4は2つの用量(10mg/mlおよび5mg/ml)で試験し、一方、IgGは10mg/mlで使用した。興味深いことに、定常状態で、IgAは、人工的なギャップ閉鎖においてわずかな陽性効果を示した(図14B)。対照的に、IgGは、創傷閉鎖を遅らせるようである。照射された細胞単層を傷つけた場合、IgAの役割はより明確になった(図14CおよびD)。IgA F4は、照射されたH376細胞の移動および分裂を維持し、一方、未照射の細胞は、人工的なギャップを同じ速度で覆わなかった。さらに、細胞を4Gyで照射した場合、IgAの効果がより強かった。細胞を2Gyおよび4Gyで照射した場合、上皮細胞におけるIgGの陰性効果が観察された(図14C、D)。
【0092】
〔実施例10〕
上皮細胞へのIgAの特異的結合
IgAが細菌刺激および創傷再上皮形成の過程全体で上皮細胞機能を制御する潜在的なメカニズムに関する情報を得るために、本発明者らは、Detroit 562とH376の両上皮細胞の療法におけるIgA受容体の細胞表面発現を分析した。
【0093】
いくつかの受容体は、IgAに結合することが報告されている。それらは、CD89、CD71(トランスフェリン受容体)、ASGP−R、FCAMR(Fca/mR、CD351)、およびplgR(CD300e)(Monteiroら(2003年)Annu.Rev.Immunol.21:177−204頁)である。CD89は、骨髄系細胞に発現し、一方、ASGP−R、FCAMRおよびplgRは、それぞれ肝細胞上、Bリンパ球とマクロファージ、および腸管上皮細胞上に存在する。CD89だけは、高特異性でIgAと結合する。
【0094】
多くの細胞型が、トランスフェリンのその受容体(例えば、CD71)への結合によって駆動されるトランスフェリンからの鉄の取込みを必要とするため、したがって、CD71は、非常に分化した細胞を除いて、多くの細胞型に潜在的に発現している(Pomka Pら(1999年)IJBCB 31、1111−1137頁)。しかしながら、そのレベルは、細胞から細胞へとかなり変化する。これまで、CD71は、単量体IgAと分泌型IgAの両方に結合することが示されている(Mouraら(2001年)J.Exp.Med.194、4、417−425頁)。したがって、口腔上皮細胞におけるIgAのための潜在的な標的である。
【0095】
この受容体の発現を調節するために、本発明者らは、PBS(1×)で洗浄したH376およびDetroit562細胞を10分間37℃にて、Accutase(eBioscience)を用いて穏やかに脱着させ、それらをPBS(1×)で洗浄し、抗ヒトCD71(BD Biosciences、クローンA59)抗体を用いてPBS(1×)中、氷上で30分間染色した。アイソタイプ対照抗体を用いて、バックグラウンドの蛍光レベルを評価した。CD89は、骨髄細胞上でのみ発現し、陰性対照として使用した(BD Biosciences、クローンM−A712)。2回の洗浄工程後、試料をFACS Canto IIフローサイトメーター(Becton Dickinson)にかけた。
【0096】
図15に示すように、本発明者らは、Detroit 562とH376の両上皮細胞がトランスフェリン受容体を明確に発現することを見出した。対照的に、予期されたように、CD89は、上皮細胞では検出されなかった。
【0097】
〔実施例11〕
IgA F4製剤はTNFαと反応しない
過去数年にわたって、炎症および腫瘍発症の促進に関与する主要なタンパク質を標的化しおよび/または阻害するための免疫グロブリン(例えば、モノクローナル抗体)の生成が強力に増加した。慢性疾患ならびに自己免疫疾患において、抗TNFα特異的抗体は、治療された患者における炎症を抑えることが示されている。
【0098】
実施例4(図10および11)に示されるように、IgAは、上皮細胞による炎症促進性分子の産生を下方制御した。IgAの観察された抗炎症作用における抗TNF活性の関与を排除するために、本発明者らは、本発明者らのポリクローナルIgAおよびIgG製剤中のTNFα特異的抗体レベルを決定した。
【0099】
TNF−αは、96ウェルプレート(試料プレート)(Nunc Maxisorb)において、PBS pH7.4(50μL/ウェル)中で1μg/mlにて2時間37℃で被覆された。次に、ウェルを300μlの洗浄緩衝液(1×PBS、0.05%(v/v)Tween−20)で1回洗浄し、Smart Block(Candor Bioscience)で2時間37℃にてブロックした。並行して、被覆されたTNF−αなしの結合対照プレート(ブランクプレート)を調製した。洗浄工程後、Ig試料(IgA F4/IgG Privigen/Infliximab)をLowCrossBuffer(LCB)(Candor Bioscience)で希釈した。いくつかのウェルにおいて、遊離TNF−αを添加し、抗体結合を阻害した。試料(100μl)をプレートにピペッティングし、2時間37℃にてインキュベートした。インキュベーション後、ウェルを3回洗浄し、プレートを30分間、37℃にて、関連する二次抗体:抗体緩衝液(LCB)中のポリクローナルウサギ抗ヒトIgG−HRP(Dako;0.5μg/ml)またはポリクローナルウサギ抗ヒトIgA HRP(Dako;0.5μg/ml)とともにインキュベートした。ウェルを以前のように4回洗浄し、続いて、超高感度TMB(Fitzgerald)で発色させた。反応物を1M塩酸(Merck)を用いて停止させ、吸光度をEnVisionマルチラベルリーダー(Perkin Elmer)により450nmで測定した。
【0100】
図16は、発明者らのIgGとIgA F4製剤の両方がごく少量の抗TNFα抗体を含んでいたことを実証する。同等の濃度で、IgAおよびIgGは、抗TNFα特異的抗体であるInfliximabと比較して、TNFαに対して、それぞれ1.2×10および1.1×10倍反応性が小さい。したがって、IgA免疫抑制活性は、抗TNFα活性とは無関係なTNFαである。
図1
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図11-1】
図11-2】
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図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]