特許第6238938号(P6238938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238938
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】放電加工用電極線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/08 20060101AFI20171120BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20171120BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20171120BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20171120BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20171120BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20171120BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   B23H7/08
   H01B5/02 A
   C22C9/04
   C22F1/08 C
   C25D5/50
   C25D7/06 U
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 691Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-158360(P2015-158360)
(22)【出願日】2015年8月10日
(65)【公開番号】特開2017-35753(P2017-35753A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】515219333
【氏名又は名称】元祥金屬工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100087918
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 耕平
(72)【発明者】
【氏名】張國大
【審査官】 篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−126949(JP,A)
【文献】 特公昭57−005648(JP,B2)
【文献】 特開2013−035119(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/028117(WO,A1)
【文献】 特表2007−507359(JP,A)
【文献】 特開2003−291030(JP,A)
【文献】 特開2002−126950(JP,A)
【文献】 特開平08−318434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/08
C22C 9/04
C22F 1/08
C25D 5/50
C25D 7/06
H01B 5/02
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電加工用電極線の製造方法であって、
銅60%と亜鉛40%とを混合溶解して熱凝固を経て、銅−亜鉛二元共晶を液相から固溶相の全β(Beta)相の合金体に溶融凝固させてなり、前記固溶相の全β(Beta)相の合金体に対して亜鉛めっきをした後、低温熱処理を施すことにより、前記固溶相の全β(Beta)相の合金体と亜鉛めっき層との境界にγ(Gamma)相、ε(Epsilon)相、η(Eta)相を生成させるように制御することにより、前記固溶相の全β(Beta)相と相互溶解が生じて前記固溶相の全β(Beta)相の合金体の外面に境界層が形成される固溶相の全β(Beta)相の合金体からなり、前記境界層には、少なくともγ(Gamma)相、ε(Epsilon)相、η(Eta)相を含む放電加工用電極線を生成させてなることを特徴とする放電加工用電極線の製造方法。
【請求項2】
銅と亜鉛の含量比が60:40である場合において、前記固溶の全β(Beta)相の合金体は、熱凝固を経て形成され、平衡相によって二元共晶の固溶相の全β(Beta)相の合金体と亜鉛めっき層との境界においてγ(Gamma)相、ε(Epsilon)相、η(Eta)相を含んで存在し、そして低温熱処理時間を制御することにより形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【請求項3】
前記固溶相の全β(Beta)相の合金体の銅−亜鉛二元共晶は、熱凝固を経てなり、融点が903℃〜900℃であることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【請求項4】
前記固溶相の全β(Beta)相の合金体に対して亜鉛めっきした後、反応温度を250℃以下の低温に制御する低温熱処理を施してなることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【請求項5】
前記固溶相の全β(Beta)相の合金体と亜鉛めっき層とからη(Eta)相を生成する反応温度を420℃以下に制御し、ε(Epsilon)相を生成する反応温度を600℃以下に制御し、γ(Gamma)相を生成する反応温度を835℃以下に制御してなることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電加工用電極線に関するものであり、さらに詳しくは、放電加工のために用いられ、切断しても粉落ちせずに環境保護に寄与でき、かつ製造において一回の金属プレス加工で完成され、製造工程を有効に簡略化することができ、その不良率を低減することが可能な金属合金線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1種の従来の加工電極線は、図3に示すように、米国特許US第8067689号公報によれば、その金属合金線は、α(Alpha)相の銅金属線12には、まず、1層の黄銅塗布層18に対して亜鉛めっき処理を施し、かつ表面にも電気めっき層15を形成させ、α(Alpha)相の銅金属線12を亜鉛めっきしてなる固体合金である。β(Beta)相の銅金属線12は、銅金属線に亜鉛めっき法で塗布されると共に、表面を引抜加工した後、再び熱処理を施してから、銅−亜鉛固溶体18で電気めっきした後、再び熱処理してなる固体合金は、γ(Gamma)相で、かつ表面に電気めっき層15をめっきした金属合金線となる。ただ上記の如く従来技術の金属合金線の銅−亜鉛二元共晶合金上に、いずれも銅合金を亜鉛めっきしてなるβ(Beta)相であるため、銅金属線12の第1工程である溶融亜鉛めっきを施してβ(Beta)相を生成した後、再び銅金属線12の第2工程である電気めっきを施すめっき層を生成してから熱処理を施す必要があり、γ(Gamma)相を達成するために、二次電気めっき及び熱処理のプロセスを行う必要がある。銅芯は速く切断することができるが、精密度が制御し難く、粗度が好ましくなく、製作コストが高く、不良率が高く、プロセス時間が長く、かつその金属合金線は、ワークを切削する際、表面にめっきした電気めっき層15に摩耗、粉落ちが容易に生じて汚染することになり、環境保護性を有しなくなるという問題がある。
【0003】
また、第2種の従来の加工電極線は図4図5に示すように、米国特許US第6447930号公報において、当該電極線3は、単層または多層の芯31と、銅または銅−亜鉛合金から構成される均一なα(Alpha)相の基体を有する1個の外層(α(Alpha)−Ms、α(Alpha)相の黄銅芯心)と、亜鉛または亜鉛合金から構成される1個のシース層η(Eta)−Znとを有する。そのうち、シース層32は、拡散出現温度以下の1つの温度より低い時に芯に「塗布」されることが最適であり、外シース層は、α(Alpha)、β(Beta)、γ(Gamma)またはε(Epsilon)から構成され、再び黄銅芯体31に塗布を施して亜鉛めっきし、それにより、電食性能と放電性能がさらに改善される。ただその電極線3は、依然として黄銅である芯体31に、再び亜鉛または銅−亜鉛合金から構成される1個のシース層32で塗布され、技術上、溶融亜鉛めっき法で銅金属線に塗布され、上記のように開示した従来技術の製造技術も同様である。その結果、製造過程にも、及びワークを製成するために行う切削にも、依然として上記のように二次製造工程(α(Alpha)+Zn→β(Beta)、β(Beta)+Zn→γ(Gamma))の必要があり、高コスト及び電極線を形成する金属材の精密度が制御し難く、粗度が好ましくない欠陥が存在する。
【0004】
第3種の従来技術は図6図7に示すように、欧州特許EP第0733431号公報において、当該電極線4は、単層または多層の芯41と、銅または銅−亜鉛合金から構成される均一なα(Alpha)相の基体を有する1個の外層(α(Alpha)−Ms、α(Alpha)相の黄銅芯心)と、亜鉛または亜鉛合金から構成される1個のシース層η(Eta)−Znとを有する。その電極線4は、依然として黄銅である芯体41に、再び亜鉛または銅−亜鉛合金から構成される1個のシース層42で塗布され、技術上、溶融亜鉛めっき法で銅金属線に塗布され、上記のように開示した従来技術の製造技術も同様である。
その結果、製造過程にも、及びワークを製成するために行う切削にも、依然として上記のように二次製造工程(α(Alpha)+Zn→β(Beta)、β(Beta)+Zn→γ(Gamma))の必要があり、高コスト及び電極線を形成する金属材の精密度が制御し難く、粗度が好ましくない欠陥が存在し、かかる欠陥の改善された電極線の開発が切望されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許US第8067689号公報
【特許文献2】米国特許US第6447930号公報
【特許文献3】欧州特許EP第0733431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の課題は、前記に二次製造工程を要することなく、一回の加工工程のみで表面に電気めっき層を形成させることができ、切削による微塵発生を抑制した放電加工用電極線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、本発明の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、全β(Beta)相の合金体を利用し、その金属核に対して直接亜鉛メッキし、低温熱処理に供すると共に、低温熱処理時間を延長することにより、γ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を含有する固体合金が形成し、金属プレス加工により金属合金線が得られる点に着目し、本発明に想到した。
かくして、請求項1に係る発明によれば、
放電加工用電極線であって、

該放電加工用電極線が、銅60%と亜鉛40%とを混合溶解して熱凝固を経て、銅−亜鉛二元共晶を液相から固溶相の全β(Beta)相の合金体に溶融凝固させてなり、前記全β(Beta)相の合金体の金属核を亜鉛めっきした後、直接に低温熱処理時間を延長するように制御することにより、γ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を生成させることにより、β(Beta)晶相に相互溶解が生じて表面に電気層が形成される固体合金からなり、少なくともγ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を含む金属合金線を生成させてなることを特徴とする放電加工用電極線
が提供される。
また、請求項2に係る発明によれば、 銅と亜鉛の含量比が60:40である場合において、前記全β(Beta)相の合金体は、熱凝固を経て、平衡相によって二元共晶固体合金に対してγ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を含んで存在し、そして低温熱処理時間を延長するように制御することにより形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線
が提供される。
請求項3に係る発明によれば、
前記全β(Beta)相の合金体の銅−亜鉛二元共晶は、熱凝固を経てなり、溶点が903℃〜900℃であることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線

が提供される。請求項4に係る発明によれば、
前記全β(Beta)相の合金体に対して亜鉛めっきした後、直接に反応温度を低温250℃以下に制御する低温熱処理を施してなることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線
が提供される。
請求項5に係る発明によれば、
前記全β(Beta)相の合金体からη(Eta)相を生成する反応温度を420℃以下に制御し、ε(Epsilon)相を生成する反応温度を600℃以下に制御し、γ(Gamma)相を生成する反応温度を835℃以下に制御してなることを特徴とする請求項1に記載の放電加工用電極線

が提供される。請求項6に係る発明によれば、
β(Beta)+γ(Gamma)の合金体に対して反応温度を500−400℃に制御する低温熱処理を施し、直接にγ(Gamma)相の金属合金線に形成される銅−亜鉛合金材は、切断面粗度Ra<0.05を有し、または反応温度を400℃に制御する低温熱処理を施し、直接にε(Epsilon)相の金属合金線に形成される銅−亜鉛合金材は、切断面粗度Ra<0.05を有し、あるいは反応温度を250℃に制御する低温熱処理を施し、直接にη(Eta)相の金属合金線に形成される銅−亜鉛合金材は、切断面粗度Ra<0.10を有することを特徴とする、請求項5に記載の放電加工用電極線
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
従って、前記全β(Beta)相の合金体の金属合金線は、二次加工を要さずに一回の加工工程のみで線材の表面に電気めっきを施してめっき層を形成して完成されると共に、従来技術の金属合金線は、ワークの切削に表面にめっきした電気めっき層に粉落ちが容易に生じるという欠陥が改善されることから、環境保護に寄与できる効果と、製造工程を効果的に短縮することができる効果と、その不良率を低減することができる効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る放電加工用電極線の金属合金材の断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る放電加工用電極線の銅と亜鉛の平衡相を示す説明図である。
図3】従来技術の放電加工用電極線の金属合金材の断面図一である。
図4】従来技術の放電加工用電極線の金属合金材の断面図二である。
図5図4の金属合金材の局部拡大図である。
図6】従来技術の放電加工用電極線の金属合金材の断面図三である。
図7図6の金属合金材の局部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の内容を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る放電加工用電極線の金属合金材の断面図であり、図示のように、その放電加工用電極線は、銅60%と亜鉛40%とを混合溶解して液相(溶解温度909℃)から熱凝固(融点903℃〜900℃)を経て、銅−亜鉛二元共晶を液相から固溶相の全β(Beta)相の合金体10に溶融凝固させてなると共に、前記全β(Beta)相の合金体10の金属核を亜鉛めっきした後、直接に低温熱処理(反応温度を低温250℃以下に制御。)を施すことにより得られるものである。さらにかかる低温熱処理の処理時間を延長するように制御することにより、γ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を生成させ、β(Beta)晶相に相互溶解が生じて表面に電気層が形成される固体合金を、少なくともγ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を含み、低表面粗度で、迅速に切断でき、粉落ちせず、及び付着力に優れる金属合金線1を生成させる。
【0011】
図2は、本発明の銅と亜鉛の平衡相を示す図である。図示のように、その中、縦軸は温度(℃)を示し、上横軸は銅(Cu)の含量比を示し、下横軸は亜鉛(Zn)の含量比を示す。当該平衡相図において、銅及び亜鉛の2種の元素を選択した後、銅と亜鉛の含量比が60:40である時(図2の標示符号10に示す斜線で標示された部分に位置する箇所)に、前記全β(Beta)相の合金体10を選択した後、前記全β(Beta)相の合金体10に対して低温熱処理を施し、平衡相によって二元共晶固体合金に対してγ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を含んで存在する。そして低温熱処理融点時間を延長するように制御し(反応温度を低温420℃以下に制御してη(Eta)相を生成させ、または反応温度を低温600℃以下に制御してε(Epsilon)相を生成させ、あるいは反応温度を低温835℃以下に制御してγ(Gamma)相を生成させる。図2の標示符号1a,1b,1cで標示された部分に位置する箇所のように、被加工物の表面粗度(Ra)値は以下の表1に示す。
【0012】
【表1】

【0013】
β(Beta)+γ(Gamma)の合金体に対して反応温度を500−400℃に制御する低温熱処理を施すことが好ましい場合、直接にγ(Gamma)相の金属合金線1に形成される銅−亜鉛合金材1aは、面粗度Ra<0.05を有し、精密かつ迅速な切断が行われ、またはβ(Beta)+γ(Gamma)の合金体に対して反応温度を400℃に制御する低温熱処理を施すことが好ましい場合、直接にε(Epsilon)相の金属合金線1に形成される銅−亜鉛合金材1bは、面粗度Ra<0.05を有し、一般的に精密な切断が行われる。あるいはβ(Beta)+γ(Gamma)の合金体に対して反応温度を250℃に制御する低温熱処理を施すことが好ましい場合、直接にη(Eta)相の金属合金線1に形成される銅−亜鉛合金材1cは、面粗度Ra<0.10を有し、粉落ちせずに精密かつ迅速な切断が行われ、そして前記全β(Beta)相の合金体10を利用すれば、金属核に対して直接に亜鉛めっきして低温熱処理を施し、少なくともγ(Gamma)、ε(Epsilon)、η(Eta)相を含む金属合金線1は、二次加工を要さずに一回の加工製造工程のみで線材の表面に電気めっきを施してめっき層を形成して完成されることから、α(Alpha)相の銅芯体にβ(Beta)相の表層を熱処理加工した後、再びγ(Gamma)相の表層に二次加工熱処理する必要があるめっき層の伝統的な繁雑な製造工程である問題を解決すると共に、その加工表層にめっきした電気めっき層の粉落ち、粗度と精密度に好ましくない欠陥が改善されることから、環境保護に寄与できる効果と、製造工程を効果的に短縮することができる効果と、その不良率を低減することができる効果が達成され、及び低表面粗度で、迅速に切断でき、粉落ちせず、及び付着力に優れる効果が達成される。
【0014】
なお、上記の説明は、あくまでも本発明の好適な実施例を示すものであって、本発明は、これらによって限定するものではなく、特許請求の範囲に基づいて行う等効果を生ずる発明及びバリエーションのいずれも、本発明の範囲内に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0015】
従来技術
12:銅金属線
15:電気めっき層
18:銅−亜鉛固溶体
3:電極線
31:芯体
32:シース層
4:電極線
41:芯体
42:シース層

本発明
10:合金体
1:金属合金線
1a,1b,1c:銅−亜鉛合金材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7