特許第6238961号(P6238961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6238961同時押出され耐衝撃性に改良されたPMMAフィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238961
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】同時押出され耐衝撃性に改良されたPMMAフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20171120BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20171120BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/30 D
   B32B27/28
   B32B27/18 Z
【請求項の数】18
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-507459(P2015-507459)
(86)(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公表番号】特表2015-520046(P2015-520046A)
(43)【公表日】2015年7月16日
(86)【国際出願番号】EP2013057645
(87)【国際公開番号】WO2013160121
(87)【国際公開日】20131031
【審査請求日】2016年3月14日
(31)【優先権主張番号】102012207100.8
(32)【優先日】2012年4月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390009128
【氏名又は名称】エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】クロード ゲナタン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル エンダース
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス フリードリヒ デッセル
(72)【発明者】
【氏名】カーステン ポスタート
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク シュテアクレ
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−516857(JP,A)
【文献】 特表2003−503531(JP,A)
【文献】 特表2008−538794(JP,A)
【文献】 特表2009−519145(JP,A)
【文献】 特表2009−520859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00〜B32B43/00
C08J5/00〜C08J5/24
C08J7/00〜C08J7/18
C09D1/00〜C09D201/10
C08L1/00〜C08L101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非オリゴマーのPMMAマトリックス材料を有する第1の層と、非オリゴマーのPMMAマトリックス材料を有する第2の層とを有するPMMAフィルムであって、前記第1及び第2の層の少なくとも一方が耐衝撃性改良剤を含み、および前記第1の層非オリゴマーのPMMAマトリックス材料の他に、SECを用いてPMMA標準に対して測定された、300〜1500g/molの質量平均分子量を有する、オリゴマーのPMMAを2.0〜20質量%含有することを特徴とする、前記PMMAフィルム。
【請求項2】
前記第2の層が1つ以上の艶消し剤を0.5〜20質量%含有することを特徴とする、請求項1記載のPMMAフィルム。
【請求項3】
前記艶消し剤が、酸化ケイ素粒子、TiO2粒子、BaSO4粒子、BaCO3粒子であるか、架橋されたポリマー粒子であり、1〜40μmの直径を有することを特徴とする、請求項2記載のPMMAフィルム。
【請求項4】
前記の架橋されたポリマー粒子が、架橋されたPMMA粒子または架橋されたシリコーン粒子であることを特徴とする、請求項3記載のPMMAフィルム。
【請求項5】
前記第1の層が1つ以上の粘着防止剤を0.01〜0.5質量%含有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項6】
前記粘着防止剤が酸化ケイ素粒子、TiO2粒子、BaSO4粒子、BaCO3粒子であるか、架橋されたPMMA粒子もしくは架橋されたシリコーン粒子であり、0.5〜40μmの直径を有することを特徴とする、請求項5記載のPMMAフィルム。
【請求項7】
前記第1及び第2の層が耐衝撃性改良剤を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項8】
前記耐衝撃性改良剤がポリ(メタ)アクリレートからなる少なくとも1つのシェルを有する、コア・シェル型粒子またはコア・シェル・シェル型粒子であることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項9】
非オリゴマーのPMMAマトリックス材料がメチルメタクリレート80〜100質量%と1つ以上のさらなるエチレン性不飽和の、ラジカル重合可能なモノマー0〜20質量%とからなる組成物を重合させることによって得られたものであることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項10】
前記第2の層が1つ以上の艶消し剤を2.0〜12質量%含有することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項11】
前記艶消し剤が1.5〜20μmの直径を有することを特徴とする、請求項3記載のPMMAフィルム。
【請求項12】
前記第1の層非オリゴマーのPMMAマトリックス材料の他に、オリゴマーのPMMAを5.0〜18質量%含有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項13】
前記第1の層および/または前記第2の層がさらにHALS化合物、およびトリアジンおよび/またはベンズトリアゾールを含有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項14】
前記第1の層が2〜100μmの厚さを有し、および前記第2の層が2〜100μmの厚さを有することを特徴とする、請求項1から13までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項15】
前記フィルムが2〜100μmの厚さを有する、第3の層を前記第2の層上に有することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載のPMMAフィルム。
【請求項16】
前記の第3の層が耐引掻性のPMMA層、PVDF層、PMMA/PVDF層または装飾層であることを特徴とする、請求項15記載のPMMAフィルム。
【請求項17】
物体を被覆する方法であって、請求項1から16までのいずれか1項に記載のPMMAフィルムを貼合せおよび/または接着により、物体と堅固に接合することを特徴とする、前記方法。
【請求項18】
前記物体は、プラスチックからなることを特徴とする、請求項17記載の物体の被覆法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、天候の影響から保護するフィルムとして、および装飾フィルムとして、材料上に適用するための、新規種の艶消しされたPMMAフィルムに関する。殊に、本発明は、基体上での特に良好な付着力によって優れている、新規種の少なくとも二層のPMMAフィルムに関する。その際に、外側層は、艶消しを示し、および内側層は、基体上での付着力を改善する低分子量成分を含む。
【0002】
技術水準
機械的応力および天候の影響から材料を保護するために、当該材料を透明PMMAフィルムで被覆することは、有効であることが実証されている。当該フィルムは、高光沢の平滑面を有する。さらに、僅かに反射する艶消し面が望まれている、一連の用途がある。熱可塑性プラスチック基体、殊にフィルムの艶消し面は、一般に、特殊な艶消しロールまたはゴムライニングロールを用いて製造される。JP 9028239には、例えば、フッ化ビニリデン樹脂およびメタクリル酸エステル樹脂からなる艶消し面を有するフィルムまたは板を、押出およびエンボスロールへの押出品の案内によって製造することが記載されている。しかし、このように製造されたフィルムは、当該フィルムがごく僅かな延伸で、例えばフィルムを縁部にわたり貼合せる際に、このごく僅かな延伸が生じるのと同様に、当該フィルムのエンボス構造、ひいては当該フィルムの艶消しを失なうか、または貼合せ工程の際に押圧によって(これに関しては、Winnacker/Kuechler,第6巻,第471頁,第4版,1982,Carl Hanser Verlag Muenchen,Wien)、当該フィルムのエンボス構造、ひいては当該フィルムの艶消しを失なうという欠点をもつ。
【0003】
さらに、前記面上での艶消し効果は、一定の不均一な混合相形態を有するポリマー混合物によって形成されることができ、この混合相形態は、任意にさらなる添加剤によって安定化される。寸法安定性の艶消し剤は、例えばJP 89234427中に記載されている無機顔料である。ここで、ポリエステルフィルム上の艶消し面は、CaCO3またはBaSO4を、アクリルポリマー、例えばポリメチルメタクリレートからなるマイクロビーズとともに添加することによって、押出で形成される。しかし、前記フィルムの透明度は、無機顔料の高い屈折率に基づき、高い散乱光損失に左右されて極めて僅かである。さらなる欠点は、摩滅を引き起こす無機顔料によって惹起される、フィルム押出の際のロール表面の摩滅である。
【0004】
したがって、一連の出願において、架橋されたポリマー粒子は、艶消し効果を形成する散乱顔料として使用されている。すなわち、JP 8489344には、フッ素化エチレン性不飽和モノマーと、多工程で製造された、架橋された(メタ)アクリレートポリマーと、1〜500nmの平均直径を有する、架橋された粒子からなる艶消し剤とからのポリマー混合物からなる、艶消し面を有する耐候性保護フィルムが記載されている。前記粒子の散乱能力は、一方では当該粒子の大きさに基づき、他方では、粒子とマトリックスとの間の屈折率の差に基づく。粒子とマトリックスとの間の不相容性は、欠点であり、このことは、マトリックス材料の機械的性質の重大な劣化をまねく。
【0005】
EP 1249339には、一方ではOH官能性ポリ(メタ)アクリレートである艶消し剤を技術水準に従って含み、他方では、片側で相応するロールを用いて表面構造化されかつ別の側で平滑であるPMMAフィルムが記載されている。
【0006】
EP 1380403には、ここで片側の艶消しが様々なロール温度によって形成されかつ様々なロール表面では形成されないことだけが極めて似ている、PMMAフィルムの製造法が記載されている。
【0007】
しかし、艶消し剤を含む全てのフィルムは、基体上、例えばPVC上で減少された付着力を示す。艶消し剤は、たいてい、相応する減少された付着力をまねく。付着力を改善するために、一方では、接着剤または表面的に塗布される付着助剤を使用する方法が存在する。しかし、このことは、塗布の際にさらなる方法工程を必要とする欠点をもつ。それとは別に、ポリマーマトリックスをより軟質に調節する方法が存在する。しかし、それによって、このフィルムは、より高い温度で加工中でも、貯蔵ロールからの剥離の際に問題を生じる程度に粘着性になる。明らかにより高い貼合せ温度の場合には、艶消し剤が、貼合せ圧力によってフィルム成形材料中に埋没するか、または貼合せロール表面またはエンボスロール表面が複合面上に模写される。それによって、艶消し剤の効果は、低下される。殊に、PVCは、当該の艶消しされたフィルムにとって重要な基体である。それというのも、これによって、例えば窓異形材、門またはファッサード要素には、装飾を施すことができ、同時に、耐候性を保証することができるからである。
【0008】
EP 0528196には、艶消し剤として架橋されたポリメタクリレート粒子を含むPMMAフィルムが開示されている。実際に、当該粒子は、無機粒子よりも良好に基体上での付着に貢献するにもかかわらず、当該系の場合も付着力は、なお明らかに改善されるべきである。
【0009】
この問題は、WO 2006/043672によれば、透明PMMAフィルムを艶消塗料で片側被覆することによって解決された。類似の系は、JP 2008−030353(公開番号)において見出せる。ここで、耐衝撃性PMMAフィルムは、アクリレート結合剤とシリカ粒子とからなる塗料で被覆される。それによって、基体に対向した側は、艶消し剤を含まないが、しかし、当該系は、薄手の艶消被覆が、マトリックス中に艶消し剤を含んでいるPMMAフィルムよりも摩滅に対して明らかに敏感であるという欠点をもつ。さらに、このPMMAフィルムは、幾つかの基体、例えばPVCに比べてなお理想的な付着力を示さない。
【0010】
US 2009/0252936には、最終的に、さらに1〜20μmの厚さの艶消された層を備えている、ポリカーボネート層とPMMA層とからなる、透明な同時押出品が開示されている。この場合も、艶消された層は、同様に塗料として塗布されている。さらに、また、この開示内容には、如何にして、基体に対する、艶消しされたフィルムの付着力を簡単に改善しうるかということについては教示されていない。そのために、ポリカーボネートが数多くの基体との比較で、PMMAに比してなおより劣悪な付着力を示すことについて述べることにする。
【0011】
課題
したがって、本発明の課題は、技術水準に関連して、簡単にかつさらなる接着層なしに塗布することができ、およびその際に良好な初期付着力ならびに長時間付着力を基体上、例えばPVC上で示す、新規種のPMMAフィルムを提供することであった。
【0012】
殊に、本発明の課題は、特に良好な初期付着力ならびに長時間付着力を有する、新規種の艶消しされたPMMAフィルムを提供することであった。
【0013】
さらに、本発明の課題は、高い特有の耐候性とともに、湿分、風、日光および殊にUV光に抗する、気候敏感性の物体にとって十分な保護を保証するフィルムを提供することであった。
【0014】
さらに、艶消されたPMMAフィルムは、視覚的に良好な、長時間安定性の艶消しを有するべきである。
【0015】
さらなる明示されなかった課題は、以下の説明ならびに本明細書の実施例および特許請求の範囲からもたらされる。
【0016】
解決
前記課題は、他方でそのつどPMMAマトリックス材料を有する、少なくとも2つの層を有する、新規種のPMMAフィルムにより解決される。殊に、このPMMAフィルムは、2つの層の少なくとも一方が耐衝撃性改良剤を含み、および内側層がPMMAマトリックス材料の他に、300〜1500g/molの質量平均分子量を有する、オリゴマーのPMMAを2.0〜20質量%含有することによって特徴付けられている。好ましくは、内側層のマトリックス材料は、オリゴマーのPMMAを5.0〜18質量%、特に有利に10〜12質量%含有する。その際に、前記平均分子量は、SECを用いてPMMA標準に対して測定される。
【0017】
意外なことに、オリゴマー成分を規定された量で含有する、相応するフィルムは、内側層の特に良好な付着力を基体上、例えばPVC上で生じさせ、およびこの付着力は、前記フィルムの残りの機械的性質または光学的性質に不利な影響を及ぼすことなしに、特に長時間保持されることが見い出された。同様に、意外なことに、オリゴマー成分を内側層内だけに含む二層フィルムとしての構造によって、より高い温度の下でも外側で粘着質にならずかつ相応して、a)良好に加工することができかつb)基体上への塗布後に、技術水準の僅かに良好に付着するフィルムと同様に良好な表面特性を有するフィルムを提供しうることが見い出された。
【0018】
さらに、本発明によるPMMAフィルムは、当該フィルムの内側が技術水準のフィルムと比較してより良好に印刷されうるという利点を有する。
【0019】
好ましい実施態様において、PMMAフィルムは、外側層において、1つ以上の艶消し剤を0.5〜20質量%、有利に2.0〜18質量%、特に有利に4.0〜15質量%含有するフィルムである。前記艶消し剤は、殊にSiOx粒子、TiO2粒子、BaSO4粒子、BaCO3粒子であるか、架橋されたポリマー粒子であるか、または2つ以上の前記粒子からなる混合物である。架橋されたポリマー粒子は、有利に架橋されたPMMA粒子またはシリコーン粒子である。特に好ましくは、艶消し剤は、架橋されたPMMA粒子である。
【0020】
艶消し剤として使用される粒子は、たいてい、1〜40μm、有利に1.5〜20μm、特に有利に2.0〜6.0μmの直径を有する。
【0021】
前記の好ましい実施態様と組み合わされていてもよい、さらなる実施態様において、内側層は、1つ以上の粘着防止剤を0.01〜0.5質量%、有利に0.02〜0.05質量%含有する。前記内側層中の粘着防止剤は、前記フィルムを加工中に、例えば貯蔵ロールからの剥離の際に、その下にある層から簡単に分離することを保証する。この結果、急速なプロセス進行および支障のない処理がもたらされる。前記粘着防止剤は、殊に、0.5μm〜40μm、有利に1.5〜20μm、特に有利に2.0〜6.0μmの直径を有する、SiOx粒子、TiO2粒子、BaSO4粒子、BaCO3粒子、架橋されたPMMA粒子または架橋されたシリコーン粒子である。好ましくは、酸化ケイ素(SiOx)粒子が粘着防止剤として使用される。
【0022】
本発明によれば、PMMA中に含まれている耐衝撃性改良剤は、有利に、ポリ(メタ)アクリレートからなる、少なくとも1つのシェルを有する、コア・シェル型粒子またはコア・シェル・シェル型粒子である。殊に、軟質コア、すなわち0℃未満、有利に−10℃未満のガラス転移温度を有するコアおよび20℃を上回る、有利に70℃を上回るガラス転移温度を有するシェルを有する粒子が好ましい。その際に、たいてい、軟質相は、主に、アルキル基中に1〜6個の炭素原子を有するアクリレート繰返し単位からなり、および硬質相は、主に、MMA繰返し単位からなる。前記耐衝撃性改良剤は、有利に10〜150nmの平均粒径を有する。この粒径は、耐衝撃性改良剤の場合に超遠心分離法による測定法を用いて測定される。PMMAマトリックス材料に適した耐衝撃性改良剤の正確な説明は、WO 2007/073952中に見出せる。
【0023】
前記内側層および/または前記外側層の耐衝撃性に改良されたポリ(メタ)アクリレートプラスチックは、たいてい、PMMAマトリックス材料20〜80質量%、有利に30〜70質量%および耐衝撃性改良剤20〜80質量%、有利に30〜70質量%からなる。前記記載では、艶消し剤、粘着防止剤および任意のさらなる添加剤または染料は、考慮されていない。しかし、PMMAマトリックス材料に関する質量記載には、オリゴマーのPMMAが含まれている。
【0024】
前記耐衝撃性改良剤は、前記PMMAフィルムの内側層中ならびに外側層中に含まれていてよい。特に好ましい実施態様において、2つの層中には、耐衝撃性改良剤が含まれており、この耐衝撃性改良剤は、そのつど、同じ耐衝撃性改良剤であってもよいし、様々な耐衝撃性改良剤であってもよい。
【0025】
本発明によるPMMAフィルムは、任意の添加剤、艶消し剤および/または粘着防止剤の他に、挙げられた耐衝撃性改良剤およびPMMAマトリックス材料からなる。その際に、PMMAマトリックス材料は、当該PMMAマトリックス材料がPMMAだけからなることを必ずしも意味するのではなく、製造のために使用されるモノマー組成物がMMAを80〜100質量%含有することを意味する。さらに、重合に使用されるモノマー組成物は、1つ以上の、さらなるエチレン性不飽和の、MMAとラジカル的に共重合しうるモノマーをさらに0〜20質量%含有しうる。好ましくは、これは、アルキルアクリレートである。適当なマトリックス材料を製造する規定および使用可能なコモノマーがリストアップされていることは、EP 1963415中に見出せる。前記記載は、外側層のマトリックス材料のために使用することができるし、オリゴマー成分ではない、内側層のPMMAマトリックス材料80〜98質量%のためにも使用することができる。
【0026】
特別な実施態様において、外側層は、機械的に負荷可能なPMMA層である。このことは、そこで使用されるPMMAマトリックス材料が特に高い分子量を有することを意味する。この特に高い分子量は、100000〜200000g/mol、有利に120000〜170000g/molである。
【0027】
前記組成物については、前記内側層のPMMAマトリックス材料中に2.0〜20質量%の濃度で含まれていてよいオリゴマーPMMA成分が当てはまり、殊に前記段落の記載と同様に、PMMAマトリックス材料の非オリゴマー成分にも同じことが当てはまる。好ましくは、前記オリゴマー成分は、前記内側層のPMMAマトリックス材料の非オリゴマー成分と同じ組成を示すかまたは当該非オリゴマー成分に極めて類似した少なくとも1つの組成を示す。そのために、前記オリゴマーPMMA成分は、塊状重合または溶液重合を用いて製造されることができ、引き続き溶剤は除去されるかまたはポリマーは、例えばメタノールまたはジエチルエーテル中で沈殿される。この合成は、当業者にとって容易に推考できる。相応して300〜1500g/molの低い分子量を実現させるために、相応して高い濃度の開始剤および任意に高い濃度の調節剤(鎖長移動試薬)が例えば100℃を超える任意に高い温度で使用される。
【0028】
そのために、オリゴマーPMMA成分を製造するための開始剤として、たいてい、有利に、一時間の半減期が100℃未満、有利に80℃未満、特に有利に60℃未満にある程度の分解温度を有する過酸化物および/またはアゾ開始剤が使用される。さらに、300〜1500g/molの低い分子量を実現させるために、調節剤が使用されてよい。前記調節剤は、たいてい、メルカプタンであり、このメルカプタンは、大工業的に前記目的のために使用され、および当該メルカプタンの意図的な選択は、当業者にとって容易であるべきであった。
【0029】
溶液重合は、有利に、ケトン中、例えばアセトンもしくはメチルエチルケトン中で実施されるかまたはアセテート中、例えば酢酸エチル、酢酸プロピルもしくは酢酸ブチル中で実施される。挙げられた溶剤は、当該溶剤が大工業的に前記目的のために設けられかつ毒物学的に懸念されないという利点を有する。さらに、前記溶剤は、重合後に簡単かつ完全に除去可能である。
【0030】
こうして製造されたオリゴマーPMMA成分は、前記フィルムの製造前に、耐衝撃性改良剤、内側層のための残りの、より高分子量のPMMAマトリックス材料および任意のさらなる添加剤と混合される。このことは、別々の方法工程において、ミキシングエクストルーダー(Mischextruder)もしくはミキシングニーダー(Mischkneter)を用いて行なわれるか、またはラミネート層または同時押出品層を製造するために、フィルムの形の層の製造に使用される、押出機または同時押出機中で直接に行なわれる。2つの別々の方法工程の場合には、2つの装置、例えば前記ミキシングエクストルーダー(Mischextruder)と前記押出機とは、フィルム押出のために、インラインで互いに接続されていてもよく、したがって、混合物の単離は、不用である。
【0031】
それとは別に、オリゴマーPMMA成分は、インサイチュー(in−situ)でPMMAマトリックス材料とともに、内側層のために製造されてもよい。そのために、ポリマー混合物には、例えばモノマー70〜95質量%の変換後に、極めて低い分解温度を有する第2の開始剤を高い濃度で供給することができる。それとは別に、または、さらに、反応器温度は、反応の終結時に明らかに上昇させることができ、および任意に調節剤またはさらなる調節剤が添加されうる。当該温度上昇は、例えば、実際の反応温度よりも20℃高く、有利に30℃高くともよい。当該温度上昇により、一方では開始剤の分解が促進され、それによって開始剤の濃度が高まる。他方では、鎖の中断が起きるかまたは存在する調節剤との反応が有利に起きる。それとは別に、様々な反応条件、例えば開始剤濃度および/または温度で2つの別々の反応帯域を備える反応器が使用されてもよく、およびこれらの反応帯域の内容物は、重合の終結時または重合後に一緒にされる。
【0032】
本発明によるフィルムの内側層および/または外側層は、記載された成分だけでなく、さらなる添加剤、例えば染料、有利に透明な着色のための染料、加工助剤または安定剤を含有することができる。特に有利には、内側層および/または外側層、殊に有利に外側層は、UV安定性パケットを含む。好ましくは、前記安定剤パケットは、UV吸収剤およびUV安定剤から構成される。その際に、UV安定剤は、たいてい、立体障害アミン(障害アミン光安定剤:HALS化合物)である。UV吸収剤は、ベンゾフェノン、サリチル酸エステル、ケイ皮酸エステル、オキサルアニリド、ベンズオキサジノン、ヒドロキシフェニルベンズトリアゾール、トリアジン、ベンズトリアゾールまたはベンジリデンマロネートであることができ、有利にトリアジンおよび/またはベンズトリアゾールであることができ、特に有利にトリアジンとベンズトリアゾールとの混合物であることができる。それとは別に、UV吸収剤は、重合活性基により前記マトリックス材料中に重合導入されてもよい。適当な化合物を詳細にリストアップすることとPMMAフィルム中またはPMMA層中での当該化合物の好ましい濃度は、EP 1963415中に見出せる。
【0033】
本発明によるPMMAフィルムは、有利に前記内側層および前記外側層に対して、4〜200μmの厚さを有し、その際に内側層は、2μm〜100μm、有利に10〜60μmの厚さを有し、および外側層は、2μm〜100μm、有利に5μm〜50μmの厚さを有する。
【0034】
任意に、本発明によるPMMASフィルムは、2μm〜100μm、有利に5μm〜50μmの厚さを有する、第3の層を有することができる。その際に、前記の任意の第3の層は、外側層上に存在する。好ましくは、この第3の層は、耐引掻性PMMA層からなるか、PVDF層からなるか、ラミネートもしくは同時押出品からなるか、またはPMMAとPVDFとの配合物からなる(最後の配合物は、さらに短く、PMMA/PVDF層の総称でまとめられる)。さらなる任意の第4の層は、例えば塗料層、装飾層または耐引掻性被覆であってもよい。
【0035】
本発明によるフィルムは、貼合せにより、任意に接着層を用いて、内側層と外側層との間に製造されうるか、注型法を用いて製造されうるか、または有利に同時押出法により製造されうる。
【0036】
本発明によるPMMAフィルムの他に、物体を被覆する方法の形での当該PMMAフィルムの使用も本発明の構成成分である。この方法は、本発明によるフィルムが貼合せおよび/または接着により、物体と堅固に接合されることによって特徴付けられている。前記物体は、有利にプラスチック、殊にPVCまたはABSからなる物体である。この物体は、例えばPVC窓異形材であることができる。しかし、本発明によるPMMAフィルムを、金属表面上および/または接着剤、例えばPU接着剤を備えた表面上に貼り合わせることも可能である。さらに、前記物体は、さらなるフィルムであってもよく、その上には、本発明によるPMMAフィルムが貼合されるかもしくは押し出されるか、または同時押出される。
【実施例】
【0037】

SEC測定(またはGPC測定とも呼称される)は、35℃のカラム炉温度で溶離剤としてのTHFを用いて行なわれた。評価は、PMMA標準に対して行なわれた。装置は、次のカラムの組合せを有する:SDV LinL 10μm 前置カラム(8×50mm)、2 SDV LinL 10μm カラム(8×300mm)、2 SDV 100オングストローム 10μm カラム(8×300mm)(全てPSS社製、Mainz在)およびKF−800D ソルベントピーク 分離カラム(8×100mm)(Shodex社)。評価をPSS Win GPCソフトウェアを用いて行なう。
【0038】
光沢度をDIN 67530によるレフレクトメータ−値として測定する。測定角度は、60°であった。測定を、タイプEUROPLEX PC 2339Hの黒色マットの下地上で行なった。
【0039】
高められた温度で湿潤貯蔵後の目視的観察報告:複合フィルムに60℃および約98%の相対湿度で湿った布を衝突させる。1年になるまでの貯蔵時間中に、そのつど1ヶ月の時間間隔で付着力を目視的に試験する。劣悪な付着力の場合、層剥離が生じる。
【0040】
高速剥離試験:市販のアルミ箔を、テフロン板上に鏡面側で上向きになでて滑らかにする。引続き、試験すべきPMMAフィルムの内側を、前記の滑らかな表面上に載置し、かつスポンジでなでて滑らかにする。PMMAフィルムの外側に、第2のアルミ箔を鏡面側で載置し、かつスポンジでなでて滑らかにする。アルミ箔を、そのつど片側で少なくとも2cmの長さのストリップが突き出る程度に載置した。最後に、金属板を載置し、および試験体全体を170℃で1分間、70バールでプレートプレス機中でプレスする。テフロン板および金属板を取り除いた後、アルミニウムストリップを剥離し、かつ1(ほとんど付着力なし)ないし5(強い付着力)の値で評価する。
【0041】
煮沸試験:PMMAフィルムに、高速剥離試験と同様に、当該フィルムの内側にPVCフィルムをプレスしかつ当該フィルムの外側にアルミ箔をプレスする。アルミ箔をプレス後に取り除く。PVC−PMMA複合フィルムを沸騰水(100℃)または90℃の熱水中で24時間、貯蔵する。良好な付着力の場合には、目視的に確認できる相違は、期待されないが、しかし、付着力が劣悪である場合には、層間での気泡形成および別の目視的に確認できる効果が見出せる。
【0042】
例1:オリゴマー成分の製造
羽根付き攪拌機、記録装置を有する温度計および接続されたサーモスタットを有する加熱可能なオイルジャケットを備えた、2Lの攪拌タンク中に、溶剤としてのメトキシプロピルアセテート60g(Dow Chemical社のDowanol PMA)、メチルメタクリレート24g(MMA)およびMA1g(メチルアクリレート)を予め装入する。この混合物にt−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート3.0gおよびn−DDM7.0g(n−ドデシルメルカプタン)を添加し、かつ攪拌しながら90℃へ加熱する。発熱を確認した後、MMA446gとMA19gとn−DDM150gとからなる混合物の計量供給を開始すると同時にジャケットオイル温度を110℃へ高める。その際に、計量供給速度は、2.3g/分でありかつ約4.3時間継続させた。計量供給の終結後に、メトキシプロピルアセテート80g中のt−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート38.8gからなる溶液を350分間にわたり、攪拌しながら同様に110℃のオイル温度で供給する。2回目の計量供給が終結した後、110℃でさらに60分間攪拌する。揮発性成分をロータリーエバポレーターでの冷却後に除去し、引き続き生成物を高真空中で60℃で乾燥させる。分子量測定をSECを用いて行なった。オリゴマーは、1100g/molのMwを有する。
【0043】
内側層のための材料
内側層のための材料として、MMA63.5質量%とn−ブチルアクリレート34.3質量%とメチルアクリレート0.5質量%とアリルメタクリレート1.7質量%とからなるコポリマーを使用する。その際に、この成形材料は、二相で存在する。一方では、n−ブチルアクリレートからなるコアおよび別の3つの成分からなるシェルを有するコア・シェル型粒子が存在する。前記成分は、耐衝撃性改良剤である。そのうえ、MMAとエチルアクリレートとからなる熱可塑性マトリックス材料が存在する。このポリマーは、約95000〜100000g/molのMwを有する。前記内側層の材料は、71℃のビカー軟化温度を有し、および熱可塑性割合は、約81℃のガラス転移温度を有する。前記内側層の材料は、さらに、記載されたポリマー組成物100質量%に対して、Tinuvin 360 1.0質量%、Sabostab 119 1.0質量%およびUV安定化パケットとしてのCGX UVA 006 1.0質量%を含有する。さらに、前記内側層の材料は、同様にポリマー組成物100質量%に対して、Evonik Industries社のSipernat 44MS 0.02質量%(SiO2粒子)を粘着防止剤として含有する。
【0044】
外側層のための材料
前記外側層は、PMMAをベースとする艶消し剤15質量%を含有する。この艶消し剤は、MMA45質量%とn−ブチルアクリレート45質量%とエチルアクリレート7質量%とグリコールジメタクリレート3質量%とからなる組成物を有する。さらに、前記外側層は、コア・シェル・構造を有する耐衝撃性改良剤を52質量%の割合で含有し、その際にコアは、主にアクリレートから構成され、およびシェルは、主にメタクリレートから構成されている。このコア・シェル型粒子は、MMA58.6質量%とn−ブチルアクリレート40.7質量%とアリルメタクリレート0.7質量%とからなる全ての組成物を有する。そのうえ、MMAとメチルアクリレート1質量%とからなる熱可塑性マトリックス材料39質量%が存在する。前記外側層の材料は、さらに、記載されたポリマー組成物100質量%に対して、Tinuvin 360 1.0質量%、Sabostab 119 1.0質量%およびUV安定化パケットとしてのCGX UVA 006 1.0質量%を含有する。このポリマーは、約95000〜100000g/molのMwを有する。総じて、前記外側層の材料は、少なくとも81℃のビカー軟化温度、少なくとも91℃のガラス転移温度および20±5の60゜での光沢度を有する。この光沢値は、技術水準による艶消されたフィルムの光沢値に相応する。
【0045】
例2:内側層のためのポリマー顆粒の製造(一般的な規定)
前記内側層の材料の記載された成分を、例1からのポリマーと共に、二軸押出機中で粗砕ノズルを介して排出し、ストランドとする。後続接続されたグラニュレーター中で、前記ストランドを粗砕して粒質物粒子とする。「前記内側層の材料」のポリマー成分に対して、例1からのオリゴマー成分10質量%を供給する。
【0046】
例3:フィルムの製造
前記二層フィルムを製造するために、チルロール法を使用した。このために使用される押出装置は、それぞれ1個の溶融ポンプを有する、2個(任意に、3個)の一軸押出機および多層ノズル(2つの分配通路を有する幅広スリット押出ノズル)から構成されていた。全ての装置は、さらに、ローラーミル(L字形の配置)および巻取り装置を有していた。
【0047】
前記内側層を製造する、第1の一軸押出機A中で、上記された「内側層の材料」による耐衝撃性に改良されたポリメチルメタクリレートを使用した。
【0048】
前記例において、たいてい艶消しされた外側層を製造する、第2の一軸押出機B中で、上記された「外側層の材料」による耐衝撃性に改良されたポリメチルメタクリレート成形材料を使用した。前記多層ノズルの出口開口に対して約25mmの距離で、チルロールのローラーは、中央に位置していた。前記チルロールのローラーの温度を70℃〜130℃、有利に90℃〜100℃に調節した。融液流の温度は、約240℃であった。融液皮膜の内側層は、ローラー表面上でほぼ接線方向に当てられ、かつ当該ローラーに約90°で巻き付いた。さらなる後冷却ローラーに巻き付いた後に、このフィルムレーンの厚さを、縦走するように配置された無接触の測定システムによって算出し、電子的に処理される情報により、前記ノズルの融液分布を、サーモボルトシステム(Dehnbolzensystem)を用いて幅にわたって調整した。前記フィルムを引き続き巻き取った。得られた二層フィルムの厚さは、約53μmであった(内側層10μmおよび外側層43μm)。煮沸試験において、気泡形成は、確認することができない。この高速剥離試験は、内側層について5の値をもたらし、かつ外側層について1〜2の値をもたらす。
【0049】
例4:三層フィルムの製造
例4によるフィルムを例3によるフィルムと同様に製造した。しかし、さらに、この場合には、第3の一軸押出機により、第3の融液皮膜を外側層上に同時押出アダプターを用いて施した。それとは別に、このことは、三層同時押出ノズルにより行なうことができた。そのために、材料として、Evonik Industrie AG社の特に高分子のPlexiglas(登録商標)8Hを使用した。これは、1質量%の割合のメチルアクリレート割合、147000g/molの分子量Mwおよび108℃のビカー軟化温度を有するPMMAである。この第3の層を10μmの厚さで塗布した。煮沸試験において、気泡形成は、確認することができない。この高速剥離試験は、内側層について5の値をもたらし、かつ外側層について1の値をもたらす。
【0050】
比較例1:
50μmの厚さを有する、内側層の材料からなる単層フィルムを、チルロール法を用いて製造する。このために使用される押出装置は、融液ポンプを有する一軸押出機および幅広スリット押出ノズルから構成されていた。全ての装置は、さらにローラーミル(L字形の配置)および巻取り装置を有していた。
【0051】
高速剥離試験は、2つの層について5の値をもたらす。したがって、接着作用は、両側で生じる。このことは、後加工のためにフィルムロールをほどく際に問題をまねき、かつ後加工に使用されるであろうロール装置上にスケール沈積をまねく。PVCフィルムとの貼合せ後に、煮沸試験において、気泡形成は、確認することができない。
【0052】
比較例2:
50μmの厚さを有する、外側層の材料からなる単層フィルムを、チルロール法を用いて、比較例1と同様に製造する。PVCフィルムとの貼合せ後に、煮沸試験において、強い気泡形成が確認されうる。
【0053】
この高速剥離試験は、前記フィルムの上側および下側について1の値をもたらす。