(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238977
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】視神経症または先天性視神経萎縮を治療するためのアンギオテンシン変換酵素阻害薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/403 20060101AFI20171120BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20171120BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20171120BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20171120BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
A61K31/403
A61P27/02
A61P43/00 101
A61K9/08
A61K9/20
【請求項の数】20
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-519375(P2015-519375)
(86)(22)【出願日】2013年6月28日
(65)【公表番号】特表2015-522000(P2015-522000A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】IB2013001375
(87)【国際公開番号】WO2014001889
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月24日
(31)【優先権主張番号】TN2012/0343
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】TN
(73)【特許権者】
【識別番号】512310136
【氏名又は名称】ラオフ・レキク
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ラオフ・レキク
【審査官】
菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】
特表2003−501461(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/151685(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/403
A61K 9/08
A61K 9/20
A61P 27/02
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミプリルまたはラミプリラートから選択される少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と、眼科用神経保護薬として使用するのに適した薬学的に許容される賦形剤とを含む、レーベル遺伝性視神経症の治療のための眼科用組成物。
【請求項2】
固形剤または液剤の形態である、または経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、局所的に、または眼内注射によって投与することができる、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
前記局所投与が、点眼剤によるものである、請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
前記ラミプリルまたはラミプリラートが、0.001から15%(w/v)、好ましくは0.05から10%(w/v)、より好ましくは0.1から3%(w/v)の範囲の濃度で投与される、請求項1から3のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が、0.1から0.2ml量で2%(w/v)の濃度で眼内注射により投与されるラミプリラートである、請求項1、2及び4のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
ラミプリルまたはラミプリラートから選択される少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と、眼科用神経保護薬として使用するのに適した薬学的に許容される賦形剤とを含む、レーベル遺伝性視神経症に罹患している人の視覚機能の維持または回復のための眼科用組成物。
【請求項7】
前記視覚機能が、視力または視野である、請求項6に記載の眼科用組成物。
【請求項8】
固形剤または液剤の形態で存在する、あるいは経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、局所的に、特に点眼剤により局所的に、または眼内注射によって投与することができる、請求項6または7に記載の眼科用組成物。
【請求項9】
前記ラミプリルまたはラミプリラートが、0.001から15%(w/v)、好ましくは0.05から10%(w/v)、より好ましくは0.1から3%(w/v)の範囲の濃度で投与される、請求項6から8のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項10】
前記少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が、0.1から0.2ml量で2%(w/v)の濃度で眼内注射により投与されるラミプリラートである、請求項6から9のいずれか一項に記載の眼科用組成物。
【請求項11】
ラミプリルまたはラミプリラートから選択される少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を含む、レーベル遺伝性視神経症の治療のための眼科用医薬。
【請求項12】
前記眼科用組成物が、固形剤または液剤の形態である、または経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、局所的に、または眼内注射によって投与することができる、請求項11に記載の眼科用医薬。
【請求項13】
前記局所投与が、点眼剤によるものである、請求項12に記載の眼科用医薬。
【請求項14】
前記ラミプリルまたはラミプリラートが、0.001から15%(w/v)、好ましくは0.05から10%(w/v)、より好ましくは0.1から3%(w/v)の範囲の濃度で投与される、請求項11から13のいずれか一項に記載の眼科用医薬。
【請求項15】
前記少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が、0.1から0.2ml量で2%(w/v)の濃度で眼内注射により投与されるラミプリラートである、請求項11、12及び14のいずれか一項に記載の眼科用医薬。
【請求項16】
ラミプリルまたはラミプリラートから選択される少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を含む、レーベル遺伝性視神経症に罹患している人の視覚機能を維持するまたは回復させるための眼科用医薬。
【請求項17】
前記視覚機能が、視力または視野である、請求項16に記載の眼科用医薬。
【請求項18】
前記眼科用組成物が、固形剤または液剤の形態で存在する、あるいは経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、局所的に、特に点眼剤により局所的に、または眼内注射によって投与することができる、請求項16または17に記載の眼科用医薬。
【請求項19】
前記ラミプリルまたはラミプリラートが、0.001から15%(w/v)、好ましくは0.05から10%(w/v)、より好ましくは0.1から3%(w/v)の範囲の濃度で投与される、請求項16から18のいずれか一項に記載の眼科用医薬。
【請求項20】
前記少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬が、0.1から0.2ml量で2%(w/v)の濃度で眼内注射により投与されるラミプリラートである、請求項16から19のいずれか一項に記載の眼科用医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用神経保護薬(neuroprotector)として視神経症または視神経萎縮の治療に使用するための、少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物に関する。この眼科用組成物を使用して視神経症または視神経萎縮を治療するための方法も開示する。本発明は、特に、進行性の視覚喪失を引き起こす視神経劣化に関連のある眼科疾患の治療のための医薬品について開示している。この眼科用神経保護薬組成物は、視覚機能、例えば視力または眼の視野を、維持するまたは回復させる。
【背景技術】
【0002】
視神経症は、視神経萎縮と呼ばれることも多く、視神経線維の一部または大部分が喪失している状態をいう。視神経は、神経細胞の軸索を含有している。神経細胞は網膜から出て視神経円板(optic disc)にて眼を離れ視覚野に進み、ここで眼からの入力情報が処理されて視覚となる。網膜内層の網膜神経節細胞に由来する視神経線維は120万本ある。神経細胞の損傷または死は、視覚喪失を引き起こす。
【0003】
視神経症は、虚血性視神経症、視神経炎、圧迫性(compressible)視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、ミトコンドリア視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症および遺伝性視神経症が原因で生じうる。これらの異なる視神経症はすべて、眼の多様な病的状態が原因で生じる。例えば、虚血性視神経症は、視神経への血流不足が原因で生じ、圧迫性視神経症は、眼窩または視神経管内で病変を引き起こす可能性のある腫瘍、感染症および炎症過程が原因で生じる。自動車事故時の前頭部への鈍的外傷など直接的または間接的な傷害を受けた際の頭部外傷は外傷性視神経症の原因となりうるが、このような外傷の場合、外傷は組織面を越えなくても力の限界を超えることがある。
【0004】
遺伝性視神経症としては、レーベル遺伝性(hereditay)視神経症、先天性(congenial)視神経萎縮およびKjer型の常染色体優性視神経萎縮(autosomal dominant optic atrophy, type Kjer)が挙げられ、Kjer型の常染色体優性視神経萎縮はKjer症候群として知られていることもある。
【0005】
LHONの別名としても知られるレーベル遺伝性視神経症は、網膜神経節細胞およびその軸索のミトコンドリア遺伝性の変性であり、急性または亜急性の中心視喪失の原因となる。LHONは、母親からのみ伝わり、ヌクレオチドの11778位(G→A)、3460位(G→A)および14484位(T→C)でのミトコンドリアゲノムの突然変異に起因する。突然変異の内容次第で、視覚改善の程度は大きく異なる。例えば、14484位の突然変異では視覚改善の確率は37%から71%であるのに対し、11778位および3460位の突然変異では、改善の確率はわずか4%である[Stoneら、J. Neuro-opthalamol、12:10〜4ページ(1992);Oostraら、J. Med Genet、31:280〜286ページ(1994)]。
【0006】
レーベル病は、一般に男性集団において若年成人期中に発症する、両側性、無痛性、亜急性の視覚障害であることを特徴とする。罹患した個体は、大抵は無症状であり、やがて、片方の眼の中心視野にぼやけが生じる。他方の眼は、2から3カ月遅れて罹患する。大多数の症例において、視力は著しく低下して指数弁以下となり、視野テストでは、拡大した高密度の中心暗点または盲点中心暗点が示される。
【0007】
ミトコンドリア障害を対象とした療法は、非常に限られている。ビタミン類および補因子類、葉酸、ビタミンB12、チアミン、リボフラビン、L-カルニチン、L-アルギニンおよびクレアチン;電子受容体(ビタミンCおよびメナジオール);フリーラジカルスカベンジャーのCoQ10、イデベノン、α-リポ酸、ミノサイクリン、シクロスポリンA、グルタチオンおよびビタミンE;ならびに毒性代謝物阻害剤、例えばジクロロアセタートを用いる一般的な療法がある。これらの療法はすべて、有用ではあるが、視覚の回復や維持には役立たない。
【0008】
米国特許出願第2010/0273894 A1号には、疾患の症状(systems)を緩和するためにトコトリエノールキノンを用いる、レーベル遺伝性視神経症および優性遺伝視神経萎縮を治療する方法が記載されている。トコトリエノール類もトコフェロール類も、親核を同じくする同族体(parent cogener)として同じビタミンEファミリーに属し、フェノール系酸化防止剤として作用する。この化合物は、固形剤形、例えば錠剤の形態で、または、液体剤形、例えば液剤の形態で、投与することができる。視力は、20/400未満から約20/100に改善される。
【0009】
常染色体優性視神経萎縮またはKjer症候群は、遺伝性視神経症の最も一般的な型であり、視神経を冒し、視力低下および失明の原因となる。この症候群は小児期に始まり、その原因は、視神経線維の死に間接的に関わるミトコンドリア機能不全である。視力は一般に両眼で低下し、患者の15%に重度の視覚喪失が生じる。一部の患者においては、年齢とともに視力が減退している。また、患者は全般的な色弱であり、青色-黄色間、および、赤色-緑色間を識別できない。Kjer症候群患者の視野は、中心暗点、傍中心暗点または盲点中心暗点を示す。
【0010】
先天性視神経萎縮も、視神経の変性または破壊の原因となる遺伝性疾患である。先天性視神経萎縮の比較的軽度の形態が常染色体優性視神経萎縮であり、小児期に視覚劣化が徐々に始まるが、その後ほとんど進行しない。より重度の形態が常染色体劣性視神経萎縮であり、出生時または生後2年以内に認められる。この形態は、眼振(不随意眼球運動)を伴う。先天性視神経萎縮は視神経乳頭蒼白と称されることもあるが、その理由は、眼の奥に視神経乳頭の蒼白な外観がみられることによる。この眼疾患の症状は、視神経円板の変化、および、視覚機能の減退である。
【0011】
今日まで、いずれの視神経症についても、有効で、かつ、視力または視野の維持または回復に役立つ既知の治療は存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願第2010/0273894 A1号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Stoneら、J. Neuro-opthalamol、12:10〜4ページ(1992)
【非特許文献2】Oostraら、J. Med Genet、31:280〜286ページ(1994)
【非特許文献3】Remington's Pharmaceutical Sciences、第21版、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、当技術分野では、視神経症、より特定すると虚血性視神経症、視神経炎、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、ミトコンドリア視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症、および、遺伝性視神経症、例えば、レーベル遺伝性視神経症、常染色体優性視神経萎縮、Kjer病、先天性視神経萎縮(atropy)、ならびに、眼の中心動脈の閉塞(inclusion of the central artery in the eye)を原因とする視神経症を治療するための改善された組成物を得る必要がある。
【0015】
本発明は、この必要を満たし、視力および視野を維持または強化するための眼科用神経保護薬である眼科用組成物を提供する。
【0016】
これらの目的および他の目的は、「課題を解決するための手段」、「発明を実施するための形態」および「特許請求の範囲」によって明らかなように、本発明によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
視神経症または先天性視神経萎縮の治療において眼科用神経保護薬として使用するための、少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物が、本発明により提供される。
【0018】
本発明の眼科用組成物において使用される少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、フォシノプリル、ラミプリル、カプトプリル、トランドラプリル、モエキシプリル、リシノプリル、キナプリル、エナラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリルおよびそれらの混合物、ならびにそれらの活性代謝物である。
【0019】
本眼科用組成物は、少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を含むことができ、この場合のACE阻害薬は、フォシノプリラート(fosinoprilate)、トランドラプリラート(trandolaprilate)、モエキシプリラート(moexiprilate)、ラミプリラート(ramiprilate)、キナプリラート(quinaprilate)、エナラプリラート(enalaprilate)、ペリンドプリラート(perindoprilate)およびベナゼプリラート(benazeprilate)である。
【0020】
本発明は、さらに、視神経症または視神経萎縮の治療において眼科用神経保護薬として使用するための、ラミプリルまたはラミプリラートと薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を提供する。
【0021】
本明細書に記載の本発明の眼科用組成物を用いて治療することができる視神経症または視神経萎縮は、先天性視神経萎縮、虚血性視神経症、炎症性視神経症、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、ミトコンドリア視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症、遺伝性視神経症および/または(or and)眼の中心動脈の閉塞であってよい。
【0022】
別の態様では、本発明は、遺伝性視神経症、例えば、レーベル遺伝性視神経症、先天性視神経萎縮およびKjer型の常染色体優性視神経萎縮を治療することができる、本明細書に記載の眼科用組成物を提供する。
【0023】
また別の態様において、虚血性視神経症または炎症性視神経症、ならびに、急性メタノール中毒に起因する中毒性視神経症も、本明細書に記載の組成物を用いて治療することができる。炎症性視神経症に関しては、本眼科用組成物は、視神経炎、視神経脊髄炎または類肉腫症を治療することができる。
【0024】
本明細書に記載の眼科用組成物は、固形剤または液剤の形態である。本明細書に記載の眼科用組成物は、経口的に、非経口的に(parentally)、静脈内に、筋肉内に、局所的に、または眼内注射によって投与することができる。この眼科用組成物は、点眼剤の形態で投与することもできる。
【0025】
その治療を必要とする人の視覚機能の維持または回復のために眼科用神経保護薬として使用するための、少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物(an ophthalmic composition comprising an ophthalmic composition)は、本発明の別の態様である。
【0026】
その治療を必要とする人の視覚機能の維持または回復のために眼科用神経保護薬として使用するための、ラミプリルまたはラミプリラートと薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物は、本発明の別の態様である。
【0027】
視覚機能は、例えば、視力または視野である。
【0028】
眼科用神経保護薬を用いて視神経症または視神経萎縮を治療するための方法であって、その治療を必要とする人に、少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を投与することを含む方法は、本明細書に記載の本発明のまた別の態様である。
【0029】
眼科用神経保護薬を用いて視神経症または視神経萎縮を治療するための方法であって、その治療を必要とする人に、ラミプリルまたはラミプリラートと薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を投与することを含む方法は、本明細書に記載の本発明のまた別の態様である。
【0030】
治療することができる視神経症または視神経萎縮は、先天性視神経萎縮、虚血性視神経症、炎症性視神経症、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、ミトコンドリア視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症、遺伝性視神経症、レーベル遺伝性視神経症、先天性視神経萎縮、Kjer型の常染色体優性視神経萎縮、または眼の中心動脈の閉塞である。
【0031】
また別の態様において、視神経症は、急性メタノール中毒に起因する中毒性視神経症、または虚血性視神経症、または炎症性視神経症、例えば、視神経炎、視神経脊髄炎もしくは類肉腫症である。
【0032】
本明細書に記載の眼科用組成物は、本方法において、固形剤または液剤の形態で使用することができ、経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、局所的に、または眼内注射によって、投与することができる。この眼科用組成物は、点眼剤として投与することもできる。
【0033】
また別の実施形態において、本発明は、その治療を必要とする人の視覚機能を維持するまたは回復させる方法であって、その治療を必要とする人に、少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0034】
また別の実施形態において、本発明は、その治療を必要とする人の視覚機能を維持するまたは回復させる方法であって、その治療を必要とする人に、ラミプリルまたはラミプリラートと薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0035】
視覚機能は、視力または視野である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】レーベル視神経症を有する患者RWの蛍光血管造影画像(fluoangiography)である。
【
図2】レーベル視神経症を有する患者RWの光干渉断層撮影法(OCT)のスキャン画像である。
【
図3】前部虚血性視神経症を有する患者MMの蛍光血管造影画像である。
【
図4】前部虚血性視神経症を有する患者MMの蛍光血管造影画像である。
【
図5】中心動脈閉塞を有する患者STの眼底写真である。
【
図6】メチルアルコールの摂取に起因する中毒に罹患した患者SRの蛍光血管造影画像である。
【
図7】メチルアルコールの摂取に起因する中毒に罹患した患者SRの光干渉断層撮影法(OCT)のスキャン画像である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本明細書で使用する場合、用語「眼科用神経保護薬」は、原発性の神経細胞病変によりもたらされるアポトーシス性の神経細胞死を防止する、遅延させるまたは食い止める療法において使用することができる眼科用組成物を意味する。
【0038】
「視覚機能を回復させること」は、個体の視覚がその初期状態から改善されることを意味する。
【0039】
「ACE阻害薬」は、本明細書で使用する場合、アンギオテンシンIからアンギオテンシンIIへの変換を遮断するアンギオテンシン変換酵素阻害薬の略語である。ACE阻害薬には、血管拡張作用もある。ACE阻害薬は、高血圧およびうっ血性心不全の患者における用途が公知である。本明細書に記載するACE阻害薬は、フォシノプリル、ラミプリル、カプトプリル、トランドラプリル、モエキシプリル、リシノプリル、キナプリル、エナラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリルおよびそれらの混合物、ならびにそれらの活性代謝物を包含する。
【0040】
用語「メタノール」は、本明細書で使用する場合、メチルアルコールおよび木精を含む。
【0041】
用語「治療すること」および「治療」は、眼障害および/または眼疾患を改善することを意味する。
【0042】
「〜から本質的に成る」は、本明細書で使用する場合、眼科用組成物が、その主要な有効成分(active principle)としてのACE阻害薬と、薬学的に許容される賦形剤と、さらには、薬学的有効成分の活性を妨げない追加成分を有することができることを意味する。
【0043】
本発明は、視覚機能、とりわけ、視神経症に罹患している患者の視野および視力の改善を得るための眼科疾患治療用とされる医薬品の使用に関する。これらの視神経症としては、例えば、レーベル遺伝性視神経症、先天性視神経症、または、血管に関する要因(vascular factor)を含めた視神経の劣化が挙げられる。いくつかの病理が含まれ、そのいくつかを以下に挙げると、例えば、(1)レーベル遺伝性視神経症、(2)先天性視神経萎縮ならびに(3)虚血性および/または炎症性視神経症である。
【0044】
これらの眼科疾患の治療に最も効率的な分子は、次式:
【0046】
を有するラミプリル(rampiril)、または、次式:
【0048】
を有する、ラミプリルを脱エステル化すると得られるラミプリラート(ramprilat)である。
【0049】
間違いなく、これらの医薬品は、アンギオテンシンIから血管収縮物質のアンギオテンシンIIへの変換を阻みかつ血管拡張物質(vasodialator)であるブラジキニン(brandykinin)を分解する方式で、アンギオテンシン変換酵素(angioternsinconverting enzyme)(ACE)阻害薬の作用機序に干渉する。したがって、これらのアンギオテンシン変換酵素阻害薬は、動脈および静脈に対しても効果を有する血管拡張(vasodialation)をもたらすこととなり、混合型の血管拡張薬として公知である。
【0050】
また、ラミプリルまたはラミプリラートの代わりに、親油性(但し、必要に応じて、むしろ親水性の性質を保存することもできる)という特徴を有するその他のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬ならどれでも使用することも可能であり、このようなアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、酵素の変換にとって重要な親和性をもたらし、したがって、安定な酵素-阻害薬複合体を形成する。
【0051】
したがって、本発明は、視神経症または視神経萎縮の治療のための眼科用神経保護薬として使用するための、少なくとも1種のアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を提供する。
【0052】
本明細書に記載の眼科用組成物において使用できるACE阻害薬としては、フォシノプリル、ラミプリル、カプトプリル、トランドラプリル、モエキシプリル、リシノプリル、キナプリル、エナラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリルおよびそれらの混合物、ならびにそれらの活性代謝物が挙げられる。
【0053】
ACE阻害薬の活性代謝物としては、フォシノプリラート、ラミプリラート、トランドラプリラート、モエキシプリラート、キナプリラート、エナラプリラート、ペリンドプリラートおよびベナゼプリラートが挙げられる。カプトプリルおよびリシノプリル(linsinopril)のみが、プロドラッグではないACE阻害薬である。
【0054】
一態様において、親油性のACE阻害薬は、親油性の低い方から順に、フォシノプリル、ペリンドプリル(peridopril)、モエキシプリル、キナプリル、ベナゼプリル、ラミプリル、エナラプリル、カプトプリルおよびリシノプリルである。
【0055】
別の実施形態では、視神経症または視神経萎縮の治療のための眼科用神経保護薬として使用するための、ラミプリルまたはラミプリラートと薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物が、本発明により提供される。
【0056】
本明細書に記載の眼科用組成物を用いて治療できる視神経症または視神経萎縮の例としては、先天性視神経萎縮、虚血性視神経症、炎症性視神経症、圧迫性視神経症、浸潤性視神経症、外傷性視神経症、ミトコンドリア視神経症、栄養障害性視神経症、中毒性視神経症および遺伝性視神経症が挙げられる。
【0057】
別の態様では、視神経症は、急性メタノール中毒に起因する中毒性視神経症、または虚血性視神経症、または炎症性視神経症、または、眼の中心動脈の閉塞である。
【0058】
メタノール中毒は、メチルアルコールまたは木精を摂取することにより生じる。メタノールを摂取することによる眼傷害の原発部位は、網膜神経節ではなく、視神経乳頭、および、視神経の眼窩内部分である。初期症状は、視覚の混乱である。すなわち、見え方がはっきりせず、「吹雪の中にいる」ようだと説明される。
【0059】
炎症性視神経症の例としては、視神経炎、視神経脊髄炎および類肉腫症が挙げられる。
【0060】
本明細書に記載の眼科用組成物を用いて治療できる遺伝性視神経症としては、レーベル遺伝性視神経症、先天性視神経萎縮およびKjer型の常染色体優性視神経萎縮が挙げられる。
【0061】
別の態様において、本発明は、その治療を必要とする人の視覚機能の維持または回復のために眼科用神経保護薬として使用するための、ラミプリルまたはラミプリラートと薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を提供する。多くの場合、例えば、本明細書に記載の遺伝性視神経症においては、神経症の発症時点で患者の視覚機能を維持するだけでも成果である。視覚機能は、維持した際にもわずかに損なわれることはあるが、生涯を通じて悪化しない。
【0062】
患者の視覚を維持することに加えて、本明細書に記載の眼科用組成物は、患者の視覚を回復させることができる。この点に関しては、視覚は、治療によって明瞭になってくる。
【0063】
視覚機能とは、視力または視野の意味である。視力は、見え方の明瞭さまたは鮮明さであり、眼内の網膜の焦点の鮮明さに依存する。視力を検査するには、古典的なスネレン視力表が使用される。正常視力は、視力20/20と称され、メートル値は視力6/6である。1つ目の数字は、患者の視覚を検査する距離を指し、一般的には、20フィートまたは6メートルである。2つ目の数字は、視力表に書かれた記号または文字を正常眼が見ることのできる距離を示している。
【0064】
視野は、患者が周囲にものを見ることができる水平方向および垂直方向の最大範囲を検査する視野検査によって決定される。このタイプの検査は、通常は、自動化された視野計測検査を用いて実施され、この検査では、患者は正面の光源を凝視し、異なる密度のランダムな光が患者の周辺視野で点灯する。患者は、ボタンまたは他の手段を押して、光を見ることができたことを知らせる。
【0065】
眼科用神経保護薬を用いて本明細書に記載の視神経症または視神経萎縮を治療するための方法であって、その治療を必要とする人に、少なくとも1種のACE阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を投与することを含む方法は、本発明のまた別の態様である。
【0066】
ACE阻害薬は、フォシノプリル、ラミプリル、カプトプリル、トランドラプリル、モエキシプリル、リシノプリル、キナプリル、エナラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリルおよびそれらの混合物、ならびにそれらの活性代謝物であってよい。
【0067】
一態様において、親油性のACE阻害薬は、親油性の順に、フォシノプリル、ペリンドプリル、モエキシプリル、キナプリル、ベナゼプリル、ラミプリル、エナラプリル、カプトプリルおよびリシノプリルである。
【0068】
別の態様において、本明細書に記載の視神経症を治療する方法に用いられる眼科用組成物においては、ラミプリルまたはラミプリラートと薬学的に許容される賦形剤とが使用される。
【0069】
その治療を必要とする人の視覚機能を維持するまたは回復させる方法であって、その治療を必要とする人に、少なくとも1種のアンギオテンシン(angiotension)酵素(ACE)阻害薬と薬学的に許容される賦形剤とを含む眼科用組成物を投与することを含む方法。ACE阻害薬は、フォシノプリル、ラミプリル、カプトプリル、トランドラプリル、モエキシプリル、リシノプリル、キナプリル、エナラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリルおよびそれらの混合物、ならびにそれらの活性代謝物であってよい。
【0070】
薬学的に許容される賦形剤は、本眼科用(opthalmic)組成物の医薬活性を妨げず、組成物が投与される宿主に対して有毒ではない任意の許容される担体、アジュバントまたは賦形剤であってよい。薬学的に許容される賦形剤としては、溶媒、分散媒、コーティング、吸収遅延剤などが挙げられる。このような薬学的に許容される賦形剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences、第21版、2005に記載されている。許容される賦形剤(vehicler)は、例えば、生理食塩水、緩衝生理食塩水などであってよい。賦形剤は、医薬組成物の製剤化後に、医薬組成物に添加することができる。
【0071】
本眼科用組成物は、固形剤または液剤の形態であってよい。この組成物は、圧縮錠、または、点眼剤の形態の液剤であってよい。本眼科用組成物は、経口的に、非経口的に(parentally)、静脈内に、筋肉内に、局所的に、または眼内注射によって、投与することができる。
【0072】
一態様において、本眼科用組成物は、点眼剤の形態で局所投与される。
【0073】
眼の視神経症を治療するための有効量のACE阻害薬は、一般に、その必要がある人または動物に、0.001から15%(w/v)、好ましくは0.05から10%(w/v)、より好ましくは0.1から3%(w/v)の範囲の濃度で投与される。
【0074】
a)フォシノプリル、ラミプリル、カプトプリル、トランドラプリル、モエキシプリル、リシノプリル、キナプリル、エナラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリルおよびそれらの混合物、ならびにそれらの活性代謝物の群から選択される、本明細書に記載の用量の少なくとも1種のACE阻害薬と;
b)本明細書に記載の薬学的に許容される賦形剤と
を含む、またはそれらから成る、またはそれらから本質的に成るキットは、本発明の別の態様である。
【0075】
使用説明書もキットに加えることができる。
【0076】
とりわけ、本発明は、人々を治療してその視力および視野を改善するために使用することができる医薬の製造のための、本明細書に記載の製品の使用に関する。
【0077】
本発明は、また、有効成分(active principal)が、薬学的に許容される賦形剤と組み合わされることにより、異なる形態で、例えば、経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に(intermuscularly)、経皮的に(transdermically)および局所的に投与することが可能になる、医薬組成物に関する。本医薬組成物は、点眼剤、軟膏剤および眼内注射剤として製剤化することができる。局所的な形態、例えば、点眼剤、軟膏剤および眼内注射剤が好ましい。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
レーベル遺伝性視神経症
レーベル遺伝性視神経症は、典型的には、若年患者において視覚が無痛かつ両側性に徐々に減退することによって始まる遺伝性疾患である。この疾患には、男女(雌雄)とも罹患する。女性(雌)の方が、罹患しても重症度は低い。この疾患の最初の徴候は、中心視野に影響する視覚的なぼやけである。この疾患は、75%の症例において両側性(bilaterial)である。多くの場合、急性期の後で改善がみられるが、次いで視覚喪失が進行し、視野検査では大型の中心暗点が示され、患者は法的失明となる。眼底検査により、乳頭周囲毛細血管拡張症(peripapillary telangiectasia)、微小血管症、偽浮腫および血管蛇行が明らかになる。視神経の電気生理学的試験により、その原発部位を確定し、網膜病変を排除する。レーベル視神経症の家族歴がない場合は、視神経萎縮(antrophy)に腫瘍が関わっている可能性を排除するために脳画像化が必要である。ゲノム中では、95%を超える個体にミトコンドリアDNA異常が検出される。ミトコンドリア機能欠損の伝わり方および浸透度は、その人の性別および年齢によって異なる。レーベル遺伝性視神経症は、母親からのみ伝わる。しかし、男性(雄)からこの疾患が伝わることは決してないが、女性(雌)は、すべての子孫にこれを伝える可能性がある。
【0079】
患者
患者RWはレーベル視神経症を有しており、視力は、治療前の時点で、右眼が1/20、左眼がゼロである。治療前に測定した患者RWの蛍光血管造影画像を
図1に示す。治療前の患者RWの光干渉断層撮影法のスキャン画像を
図2に示す。
【0080】
2%(w/v)ラミプリラートの眼内(硝子体内)注射剤0.1から0.2ml量を15日ごとに1回、合計3回の注射になるように注射した。この治療の後で視力を測定した。右眼が2/10、左眼が1/20という結果が達成された。
【0081】
患者CLは、レーベル視神経症を有しており、双方の眼で明るさを知覚するだけであった。治療前の時点で視力を測定した。
【0082】
2%(w/v)ラミプリラートの眼内(硝子体内)注射剤0.1から0.2ml量を15日ごとに1回、合計3回の注射になるように注射した。この治療の後で視力を測定した。視力は両眼とも2/10であった。
【0083】
(実施例2)
前部虚血性視神経症
患者MMは両側性で非対称の前部虚血性視神経症を有しており、治療前の時点で、視力は両眼とも1/10であった。
図3および
図4は、治療前のMMの蛍光血管造影画像を示すものである。
【0084】
MMには、2%(w/v)ラミプリラートの硝子体内注射剤0.1から0.2ml量を投与することとし、15日ごとに1回、合計3回の注射となるように注射した。次いで視力を計ったところ、両眼とも5/10であった。
【0085】
(実施例3)
優性および劣性の先天性視神経萎縮
優性および劣性の(dominant recessive)先天性視神経萎縮を有する患者2名は、視力がよくなかった。
【0086】
この2名の患者は、2%(w/v)ラミプリラートを含有する点眼剤で、1日2回、3カ月間治療した。彼らの視覚は、視力の改善により示されているように、大きく改善された。
【0087】
(実施例4)
網膜の網膜中心動脈閉塞
網膜の中心動脈閉塞に罹患している2名の患者(STおよびVV)は、視力がよくなかった。
図5は、治療前の患者STの眼底写真である。
【0088】
一方には、2%(w/v)ラミプリラート(ramprilate)を点眼剤製剤の形態で1日2回、3カ月にわたって投与し、他方には、2%(w/v)ラミプリラートを硝子体内注射用ラミプリラート剤によって0.1から0.2ml量で投与することとし、15日ごとに1回、合計3回の注射となるように注射した。両名の患者とも、視力の改善により示されているように、視覚が改善された。
【0089】
(実施例5)
メチルアルコールの摂取による中毒
メチルアルコールの摂取による中毒に罹患している2名の患者(SRおよびWW)は、視力がよくなかった。
図6は、治療前の時点のSRの蛍光血管造影画像である。
図7は、治療前のSRの光干渉断層撮影法のスキャン画像である。
【0090】
一方の患者には、2%(w/v)ラミプリラートを点眼剤製剤の形態で1日2回、3カ月にわたって投与し、他方の患者には、2%(w/v)ラミプリラートを硝子体内注射用ラミプリラート剤により0.1から0.2ml量で投与することとし、15日ごとに1回、合計3回の注射となるように注射した。両名の患者とも、視力の改善により示されているように、視覚が改善された。
【0091】
(実施例6)
他のACE阻害薬
フォシノプリラート、トランドラプリラート、モエキシプリラート、キナプリラート、エナラプリラート、ペリンドプリラートおよびベナゼプリラート、ならびにカプトプリルおよびリシノプリルについても、実施例1から5のものと同じ視神経症または先天性視神経萎縮を有する患者を対象とし、同様の手順を用いて試験する。視力の改善について、同様の結果が達成される。