特許第6238978号(P6238978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238978
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】多種イオン源
(51)【国際特許分類】
   H01J 27/20 20060101AFI20171120BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20171120BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01J27/20
   H01J37/08
   H01J37/317 D
【請求項の数】21
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-520195(P2015-520195)
(86)(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公表番号】特表2015-525951(P2015-525951A)
(43)【公表日】2015年9月7日
(86)【国際出願番号】US2013042697
(87)【国際公開番号】WO2014003937
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年5月17日
(31)【優先権主張番号】61/666,518
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501419107
【氏名又は名称】エフ・イ−・アイ・カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・エイ・シュウィンド
(72)【発明者】
【氏名】エヌ・ウィリアム・パーカー
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−227381(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0200484(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/08
H01J 37/317
H01J 27/00 −27/26
H01L 21/265
C23C 14/00 −14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子のビームを第1の光軸に沿って真空室内に供給する電子源と、
多数のチャネルであり、前記多数のチャネルのうちの少なくとも1つのチャネルが、ガス入口を有し、前記電子と相互作用してイオンを生成するガスを含むように適合された多数のチャネルと、
前記多数のチャネルのうちの異なるチャネルに入るように前記電子ビームを選択的に偏向させる第1の偏向器と、
前記多数のチャネルからイオンを引き出す1つまたは複数の引出し電極と、
引き出された前記イオンを前記第1の光軸と整列させる第2の偏向器と
を備える荷電粒子ビーム・システム。
【請求項2】
引き出された前記イオンを加工物上で集束させる集束レンズをさらに備える、請求項1に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項3】
前記多数のチャネルがそれぞれ、ガス源に接続するための入口を含む、請求項1または請求項2に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項4】
前記第1の偏向器が2つの部分、すなわち前記第1の光軸から離れる方向へ前記電子ビームを偏向させる第1の部分と、前記第1の光軸に対して平行で、前記多数のチャネルのうちの1つのチャネルと同心の第2の光軸上に前記電子を偏向させる第2の部分とを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項5】
前記第2の偏向器が2つの部分、すなわち前記第2の軸から離れる方向へ引き出された前記イオンを偏向させる第1の部分と、前記第1の光軸上に引き出された前記イオンを偏向させる第2の部分とを含む、請求項4に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項6】
前記第1の偏向器による前記電子の整列および前記第2の偏向器による前記イオンの整列を制御するコントローラをさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項7】
試料を処理するための命令を入力するプログラム・メモリをさらに備え、前記命令が、試料処理中に第1のイオン種から第2のイオン種へイオン種を切り換えることを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項8】
荷電粒子ビーム用途のために多数の荷電粒子種を供給する方法であって、
電子のビームを生成すること、
前記電子のビームを第1の経路に沿って第1のチャネル内に導いて、前記チャネル内のガスと相互作用して第1の種のイオンを生成すること、
前記第1のチャネルからイオンを引き出すこと、
前記イオンを加工物上に導くこと、および
前記電子のビーム前記第1の経路とは異なる第2の経路に沿って導いて、前記第1のチャネルを通過させずに前記加工物に荷電粒子の異なる種を供給すること
を含む方法。
【請求項9】
前記電子のビーム前記第1の経路とは異なる第2の経路に沿って導くことが、前記電子のビームを、ガスを含む第2のチャネル内に導いて、第2の種のイオンを生成することを含み、前記方法が、
前記第2のチャネルから前記第2の種のイオンを引き出すこと、および
前記第2の種の前記イオンを前記加工物上に導くこと
をさらに含み、前記方法が、前記加工物を含む真空を開放することなく、前記加工物に向かって導かれる異なる種のイオン間でイオンを切り換えることを提供する
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記電子のビームを第1の経路に沿って導くことから、前記電子のビームを第2の経路に沿って導くことに切り換えて、加工物に荷電粒子の異なる種を供給することが、0.1秒未満のうちに実行される、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記電子のビームを第1の経路に沿って導くことから、前記電子のビームを第2の経路に沿って導くことに切り換えて、加工物に荷電粒子の異なる種を供給することが、0.05秒未満のうちに実行される、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電子のビームを第1の経路に沿って導くことまたは前記電子のビームを第2の経路に沿って導くことが、前記電子を光軸から偏向させること、および前記光軸に対して平行な経路上に前記電子を偏向させることを含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記イオンを加工物の上に導くこと、または加工物に荷電粒子イオンの異なる種を供給することが、前記イオンまたは荷電粒子の前記異なる種を再び前記光軸上に偏向させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電子のビームを第2の経路に沿って導いて、前記加工物に荷電粒子の異なる種を供給することが自動化された、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
電子を供給する電子源と、
ガス入口を有し、前記電子と相互作用してイオンを生成するガスを含むように適合された第1のチャネルと、
前記電子を前記第1のチャネルと整列させ、または前記第1のチャネルを回避する第1の偏向器と、
前記第1のチャネルからイオンを引き出す引出し器と、
引き出されたイオンまたは電子を集束カラムと整列させる第2の偏向器と
を備える荷電粒子ビーム・システム。
【請求項16】
前記電子と相互作用してイオンを生成するガスを含むように適合された1つまたは複数の追加のチャネルをさらに備える、請求項15に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項17】
前記電子を前記第1のチャネル、前記1つまたは複数のチャネルと整列させ、あるいはガスを含む前記チャネルを回避するように、前記第1の偏向器をバイアスすることができる、請求項16に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項18】
前記電子を前記第1のチャネルと整列させ、または前記第1のチャネルを回避する前記第1の偏向器が、前記電子を前記第1のチャネルと整列させ、または前記電子をガスを含まないチャネルと整列させる偏向器を含む、請求項16または請求項17に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項19】
前記第1の偏向器による前記電子の整列を制御するコントローラをさらに備える、請求項15から18のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項20】
試料を処理するための命令を記憶したプログラム・メモリをさらに備え、前記命令が、前記電子を前記第1のチャネルと整列させることと、前記第1のチャネルを回避することとを切り換えることを含む、請求項15から19のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム・システム。
【請求項21】
前記電子のビームを前記第1の経路とは異なる第2の経路に沿って導いて、前記加工物に荷電粒子の異なる種を供給することが、前記電子のビームを前記第1のチャネル内の前記ガスを回避する前記第2の経路に沿って導くことを含む、請求項8から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム・システム用のイオン・ガス源の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
集束イオン・ビームを使用する粒子光学装置は、半導体産業において、集束イオン・ビームでウェーハを処理する目的に使用されている。この目的のため、イオン源を、ウェーハ上のいわゆるイオン・スポットに結像させる。このようなイオン源による処理速度は、このイオン・スポットにおけるイオン電流密度によって制限される。このイオン・スポットに高輝度のイオン源を集束させることによって、高いイオン電流密度が達成される。処理後のウェーハに残留しない貴ガス・イオンなどのイオンを使用することが望ましい。
【0003】
粒子光学装置用のガス・イオン源が、参照により本明細書に組み込まれる、本発明の譲受人であるFEI Company,Inc.に譲渡された米国特許第7,772,564号明細書に記載されている。このガス源はダイアフラム壁(diaphragm wall)を備え、このダイアフラム壁の第1の側には、これからイオン化しようとする例えば0.2バールのガス圧を有するガスが位置する。ダイアフラム壁のもう一方の側には真空、または少なくともより低いガス圧を有する空間が位置する。ダイアフラム壁には出口ダイアフラムがはめ込まれており、この出口ダイアフラムを通ってガスが真空中に流出する。電子源によってダイアフラム壁の真空側で生成された電子が、加速場である第1の電場によって加速し、電子レンズによって集束し、それによってダイアフラム壁の真空側の出口ダイアフラムのすぐ前に電子の焦点が置かれる。この電子焦点の電子と流入してくるガス原子とが衝突する結果、イオン化容積(ionization volume)内において、すなわち出口ダイアフラムのすぐ近くで、ガス・イオンが形成される。イオン化容積の容積は、高い電子密度と高いガス密度が同時に生じる領域によって決まる。このイオンは、引出し場である第2の電場の助けを借りてイオン化容積から引き出される。このイオンを次いで、先行技術で知られている粒子光学手段の助けを借りて結像させ、操作することができる。
【0004】
米国特許第7,772,564号明細書に記載されている源などのガス源は、イオン化容積を小さく維持することによって高い輝度を維持することができる。イオン化容積が大きいと、プラズマおよび空間電荷の効果によって輝度が制限されるためである。現在、高輝度電子源が必要なときにはしばしば、電界放出器(field emitter)、ショットキー放出器(Schottky emitter)またはカーボン・ナノ・チューブを使用した源などの電子源が使用されている。これらの源は小さな電子放出面を有する。当業者には知られているとおり、これらの源は、収差の小さい光学部品によって結像すべきであり、特に、その像において比較的に大きな電流を得ようとしているときにはそうすべきである。いくつかの用途では、イオン化容積からイオンを引き出している場に対して直角に電子が加えられるような態様の「横道注入(sideways injection)」によって、電子がイオン化容積内に供給される。
【0005】
米国特許第7,772,564号明細書のガス源は、単一のイオン種を供給することだけに限定されている。しかしながら、イオン種の特性はさまざまであるため、多数のイオン種の使用が望ましい用途もある。例えば、軽いイオンは、その低いスパッタ率(sputter yield)のため顕微鏡法によく適しており、高いスパッタ率を有する重いイオンは、ミリング(milling)用途によく適している。特定の化学特性を有するイオン種を選択することにより、ビーム・ケミストリ(beam chemistry)、ビーム分析などの用途が大幅に改良されることもある。
【0006】
さらに、粒子光学装置の操作中に、ある用途に適合させるために、異なるイオン種間でイオン種を素早くかつ効率的に変更することも望ましい。新しいイオン種が所望のとき、現行のシステムでは、ユーザが、単一ガス源全体を変更し、交換する必要があり、それには時間がかかり、その際には試料の処理を中断する必要があり、それによって、余分な時間に起因する位置の誤差、反応の誤差などの処理の誤差が生じる。
【0007】
先行技術の液体金属イオン源(liquid metal ion source)(LMIS)は、共通の源の種を分離することができる質量フィルタ(mass filter)を使用する。しかしながら、LMISは一般に、ガス源と同じ輝度レベルを達成しない。さらに、質量フィルタは、最初に共通の源をイオン化することによって動作し、したがって、質量フィルタは、源から少数の金属種を分離することだけしかできない。分離される種は源の組成によって制限される。したがって、多数の異なるイオン・ガス種間でイオン・ガス種を高速で切り換えることができる高輝度イオン源が求められている。さらに、ミリング、エッチング、付着、画像化などの試料の異なる処理を実行するための異なるイオン種のガスを、源を交換する必要なしに、ユーザが選択的に提供することができるシステムも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,772,564号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、集束イオン・ビーム用途のために、多数のイオン種間の高速切換えを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は、多数のチャネル(channel)を含むガス室を備え、多数のチャネルがそれぞれ異なるガスを有する高輝度イオン源を提供する。これらのチャネルのうちの1つのチャネルに入るように電子ビームを集束させて、試料処理のためのあるイオン種のイオンを形成する。異なるガス種を含むチャネルに電子ビームを導くことによって、イオン種は切り換えられる。本発明の一実施形態では、偏向板を使用して電子ビームを多数の室内へ導き、それによって集束イオン・ビーム中のガス種を素早く切り換えることを可能にする。
【0011】
以上では、以下の本発明の詳細な説明をより十分に理解できるように、本発明の特徴および技術上の利点をかなり大まかに概説した。以下では、本発明の追加の特徴および利点を説明する。開示される着想および特定の実施形態を、本発明の目的と同じ目的を達成するために他の構造体を変更しまたは設計するベースとして容易に利用することができることを当業者は理解すべきである。さらに、このような等価の構造体は、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨および範囲を逸脱しないことを当業者は理解すべきである。
【0012】
次に、本発明および本発明の利点のより完全な理解のため、添付図面に関して書かれた以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電子源を備える本発明の一実施形態に基づくガス室を示す図である。
図2図1に示した実施形態のガス室の上面図である。
図3図1に示した実施形態のガス室の側面図である。
図4】多数のガス・チャネルの入口穴および出口穴の配列を示す破断部を含む、図1に示した実施形態の等角図である。
図5】本発明の他の実施形態に基づくナノ・アパーチャ(nano aperture)イオン源のガス室の側面図である。
図6図5に示した実施形態の上面図である。
図7図5に示した実施形態の側面図である。
図8】入口穴および出口穴の配列を示す破断部を含む、図5に示した実施形態を示す等角図である。
図9】室の下方の下偏向器が必要ない光軸から十分に近いところに入口アパーチャおよび出口アパーチャがある、本発明の他の実施形態の側面図である。
図10A】異なる2つの動作モード、すなわちイオン生成モードおよび電子生成モードで動作することができる、本発明に基づくイオンおよび電子源の他の実施形態の側面図である。
図10B】異なる2つの動作モード、すなわちイオン生成モードおよび電子生成モードで動作することができる、本発明に基づくイオンおよび電子源の他の実施形態の側面図である。
図11図10Aおよび10Bに示した実施形態の上面図である。
図12図10Aおよび10Bに示した実施形態の側面図である。
図13図10Aおよび10Bに示した実施形態の破断等角図である。
図14】異なるイオン種間でイオン種を自動的に切り換えるように偏向器が自動化された本発明の一実施形態を示す図である。
図15】ガス・チャネル内で使用する本発明の一実施形態に基づくMEMS構造体であり、これによって電子がイオン化容積上で集束するMEMS構造体を概略的に示す図である。
図16図15に示したMEMS構造体を使用した、本発明に基づくイオン源の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態は、任意の集束イオン・ビーム用途、特にガス源を使用する高輝度用途に関して、ユーザが、多数の異なるイオン種間でイオン種を素早く切り換えることを可能にする。このことは特に、異なるタイプの処理を実行するときに有利である。例えば、低損傷の画像化が望ましい場合にヘリウムを使用し、次いで、低速で正確なミリングを実行するためにネオンに素早く切り換え、または高速ミリングを実行するためにキセノンに素早く切り換えることができる。好ましい実施形態では、1つのイオン種から別のイオン種への切換えが、ガス源を変更することなしに実行される。先行技術では、ガス源を変更することが例えば、試料処理を中断し、ガス源を取り外し、以前に使用していたガスを排出し、新しい所望のガス源を用意し、この新しいガスを含む源を装置に挿入することを含む。ガス源の交換は、時間のかかる労働集約的な作業であり、その長い処理時間のために試料に対して望ましくない影響がでることがある。
【0015】
本発明の実施形態は、電界放出源、ショットキー源、カーボン・ナノ・チューブ、ナノ・アパーチャ・イオン源などの高輝度電子源と一緒に使用することができる。本発明の実施形態は、室内に流入し、次いで集束電子ビームによる電子衝撃によってイオン化されるガスを有する、米国特許第7,772,564号明細書に記載されているイオン源などのガス源内で容易に実施することもできる。ある種の実施形態では、本発明が、多数のチャネルを備えるガス室を提供する。これらのチャネルはそれぞれ異なるガスを有することができ、電子ビームを通すためのアパーチャを含む。所望のチャネルに入るように電子ビームを集束させることによってガス種を選択することができる。そのチャネルは次いで、試料処理のための集束イオン・ビームを供給する。ある種の実施形態では、1つのガス室アパーチャから別のガス室アパーチャへ電子ビームを偏向させるのにかかる時間と同じ時間で、集束イオン・ビーム中のイオン種を切り換えることができることを本出願の出願人は見出した。この時間は、1秒未満であることが好ましく、0.1秒未満であることがより好ましく、0.05秒未満であることが最も好ましい。
【0016】
図1は、電子源を備える本発明の一実施形態に基づくガス室を示す。電子源102は、光軸108に沿って電子110を供給する。電子源102は一般にショットキー源だが、熱イオン放出源(thermionic emission source)、LaB6放出源または冷電界(cold field)放出源を含む他の電子源も可能である。ただし電子源はこれらに限定されるわけではない。電子光学部品領域160内の偏向器104および106によって電子を偏向させて、ガス室120に入るように電子ビームを整列させる。2重偏向構成の偏向器104および106が示されているが、本発明のある種の実施形態では単一の偏向器も使用される。電子光学部品領域160はさらに、他の要素、例えば電子ビームの直径を開口よりも小さくする集束または集光レンズを備えることができる。ガス室120は、多数のチャネル122、124、126、128、130および132を備えることが好ましく、それらのチャネルはそれぞれ異なるガスを含むことが好ましい。自然に生じる全てのガスを、これらのチャネル内に容易に実装することができる。図1は、6つのチャネルを備えるガス室を示しているが、チャネルの数は用途に基づいて変更することができることを当業者は容易に理解するであろう。例えば、より単純な用途ではより少数のチャネルを使用することができ、ミリング、画像化および/または付着のために多くのイオン種を必要とするより複雑な処理用途に対しては、より多くのチャネルを使用することができる。したがって、提供されるガス種の数を非常に大きくすることができ、提供されるガス種の数は、偏向器104および106の作動範囲のみによって制限される。この偏向を高速で変更して、電子ビームを異なるチャネルへ導き、多数のイオン種間でイオン種を切り換えて試料を処理することができる。ガス・チャネルはそれぞれ一般に約100nm〜500nmの寸法を有し、内部のガス圧は一般に大気圧の範囲にある。
【0017】
図2は、図1に示した実施形態の上面図を示す。チャネルはそれぞれ、電子ビームを通すための入口アパーチャ202を含む。チャネルはさらに、イオン・ビームを引き出すための出口アパーチャを含むことが好ましい。出口アパーチャは一般に、入口アパーチャ202の真下に位置する。
【0018】
図3は、図1に示した実施形態の側面図を示す。図4は、多数のガス・チャネルの入口穴および出口穴の配列を示す破断部を含む、図1に示した実施形態の等角図を示す。電子ビーム110は、入口アパーチャ202を通ってガス・チャネル130に入るように偏向しており、それによって出口アパーチャ112からイオン・ビーム112が出ていく。
【0019】
図15は、ガス・チャネル内で使用する本発明の一実施形態に基づくMEMS構造体であり、これによって電子がイオン化容積上で集束するMEMS構造体を概略的に示す。図15は、本発明のある種の実施形態では多数のそれぞれのガス・チャネルに対して複製されるであろう1つのガス・チャネルだけを示していることに留意されたい。
【0020】
導電性の2枚の箔1501、1502が互いに対して取り付けられており、それらの箔は、厚さが例えば1μmのフォトレジスト層1511によって互いに分離されている。このフォトレジスト層は、これらの2枚の箔間の空間を完全には埋めず、何もない空洞1512が残されている。箔1501、1502はそれぞれ、半導体ウェーハから切り出されたSi3N4ダイ1503、1504などの半導体ダイ上に形成されている。箔の材料は金属、例えばMoとすることができる。これらのダイは箔を支持し、さらに箔の製作を可能にする。これらのダイには、リソグラフィ・プロセスで凹み1505、1506、1507および1508が形成されている。Si3N4ダイ上にはさらに、例えばMoの導電層1509、1510が形成されている。これらの箔には、2組のダイアフラム、すなわち、集束電子ビーム1530がそこを通って空洞1512に入る入口ダイアフラム1520およびイオンがそこを通って空洞1512から出ていくことができる出口ダイアフラム1521と、ガス圧が例えば0.2バールであるガスがそこを通して空洞に入れられるアパーチャ1513および1514とが形成されている。入口ダイアフラムおよび出口ダイアフラムはともに、例えば100nmの小さなサイズを有する。それに対して、そこを通してガスが入れられるアパーチャは、例えば1μmのより大きなサイズを有することができる。本発明の文脈では用語「ダイアフラム」と「アパーチャ」が相互に交換可能であることに留意されたい。
【0021】
集束電子ビーム1530は、それら自体が知られている電界放出器、ショットキー放出器、CNT電子放出器などの高輝度電子源によって生成される。生成された電子は、電子光学部品分野の技術者に知られている集束電子光学部品によって加速し、MEMS構造体の入口ダイアフラム上で集束する。入口ダイアフラム1520と出口ダイアフラム1521の間に、高いガス圧と高い電子密度とが同時に生じ、それによってイオン化容積1522が形成される。2枚の箔1501、1502間に印加された小さな電圧、例えば1Vの電圧が、形成されたイオンを、箔1502の方向に加速させ、それらのイオンは、箔1502のところで、出口ダイアフラム1521を通って空洞1512の外に出て、それら自体が知られているイオンを操作するための粒子光学要素に向かってさらに加速することができる。出口アパーチャ1521を通って空洞1512の外に出たビーム1531はイオンと電子の両方からなるが、イオンが、イオンを操作するための粒子光学要素に向かって加速するときに、電子は減速し、ついには前進方向の運動量を失い、例えば導電層1510へ跳ね返される。
【0022】
入口ダイアフラムおよび出口ダイアフラムのサイズは例えば50nmと小さいため、空洞1512の外のガス圧は、箔1501、1502からの距離が大きくなるにつれて非常に急激に低下する。さらに、空洞1512からダイの外側の容積に流れるガスの量は非常に小さく、そのため、限られた能力を有するポンピング手段を使用するときでも、必要な高ガス圧が箔間だけに存在するため、イオン化容積は箔間の領域だけに限定される。このことはさらに、ビーム1531が入る容積内では、ガス分子とイオンの間の電荷交換が全く起こらないか、またはごくわずかにしか起こらないことを暗示する。このような電荷交換は、形成されたイオン・ビームのエネルギー幅の増大につながると考えられるため望ましくない。さらに、電子源がある側のガス圧は、電子源が機能することができる真空圧まで容易にポンピングすることができる。
【0023】
アパーチャ1513および1514にガスを通すため、Si3N4ダイ1503、1504は、例えばガス供給源に接続されたホルダの間に、例えばクランプで締め付けることによっておよび/または接着剤を使用することによって取り付けられる。このようにすると、微視的な空洞とガスが存在する巨視的世界との間の懸け橋を形成することができる。なお、Si3N4ダイが持つガスを入れるためのアパーチャが2つだけである必要はない。
【0024】
当業者には明白なことだが、入口ダイアフラムまたは出口ダイアフラムが形成された位置の周囲にアパーチャを環状に形成することができる。さらに、アパーチャが円形である必要はなく、アパーチャは任意の形状を有することができる。一方のダイ(ダイ1503またはダイ1504)だけにアパーチャを形成することも可能である。
【0025】
なお、ウェーハの使用およびウェーハ上で実行されるフォトリソグラフィ・プロセスは、レンズ、偏向器などの小型の粒子光学構造体の製造で使用されることが知られている。示されてはいないが、このような構造体は、本発明に基づくイオン源に組み込まれると予想される。
【0026】
図16は、図15に示したMEMS構造体を使用した、本発明に基づくイオン源の略図である。図16は、光軸1601に沿って電子ビーム1602を放出する、例えばFEI Companyから容易に入手することができるショットキー放出器1600を示す。電子は、放出器1600の先端と引出し電極1603の電圧差によって生じる電場によって、ショットキー放出器から引き出される。この引出し電極は、50から300Vの間の電圧差を提供することが好ましい。電子源から見ると、引出し電極1603の後ろに、セグメントに分割された平板電極1604によって形成された複合レンズ/偏向器があり、この複合レンズ/偏向器は、セグメント間の電圧差によって偏向器として動作し、引出し電極1603および電極1605に対する複合セグメントの電圧差によってレンズとして動作する。なお、セグメントに分割された電極1604を、非点補正装置(stigmator)として使用することもできる。
【0027】
電極1605は、MEMS構造体1610(図3に示したMEMS構造体)の電子が前記MEMS構造体に入る側にも接続される。MEMS構造体のもう一方の側は電極1606に接続される。電極1605と1606の間、したがってMEMS構造体の2枚の箔間の例えば1Vの電圧が、イオン化容積にわたって電場を生じさせる。電極1605および1606の接続が、MEMS構造体1610との間に真空シールを形成し、これらの電極を介してMEMS構造体内の空洞にガス1607が入れられる。当業者には知られていることだが、イオン化容積において所望の高い電子電流密度は一般に、約50から1000eVの間の電子エネルギーで達成される。電子−イオン衝突のイオン化効率は一般に、50から300eVの間で最大になる。したがって、電子は、イオン化容積において、50eVから1000eVの間、より好ましくは50から300eVの間のエネルギーを有することが好ましい。電極1608が、MEMS構造体1610内で形成されたイオンを引き出し、その結果、MEMS構造体からイオン・ビーム1609が出てくる。引出し場は、イオン化の結果として形成されたイオンを、イオン化容積から、電子源の方向とは反対の方向に引き出す。本発明のある種の実施形態では、この引出し場が、イオン化容積を横切る、好ましくは10V未満、よりいっそう好ましく5V未満、最も好ましくは1V未満の電圧差を生じさせる。続いて、それら自体が知られている粒子光学要素を使用して、イオン化容積から引き出されたイオンをさらに加速させることができる。
【0028】
電子は、偏向器104および106による偏向に応じて、多数のチャネルのうちの1つのチャネルのアパーチャのうちの1つのアパーチャに向かって導かれる。図1では、チャネル124のアパーチャを通過するように電子ビーム110が整列しているが、この偏向を、多数のチャネルのうちのいずれかのチャネル122、124、126、128、130または132をビームが通過することができるような態様で変更することができる。ある種の実施形態では、この偏向を、好ましくは0.1秒未満で変更して、異なる種のイオン・ビームを供給することができる。チャネル内では、電子が、ガス・イオン化容積140内のガス原子と衝突してイオンを生成し、生成されたイオンは、出口アパーチャを通してチャネルから引き出されて、イオン・ビーム112を形成する。加速場によって、それらの電子を、好ましいエネルギー・レベルまで加速させることができる。ある種の実施形態では、電圧源が、好ましくは50から300ボルトの間の電圧を印加して、ガス・チャネルの入口アパーチャのところの電子が50から300eVのエネルギーを有するようにする。図1は、多数のチャネルの詳細な図解を示していないが、ある種の実施形態では、多数のチャネルがそれぞれ、図15および図16に示した構成要素、例えば引出し電極、イオン化容積内へガスを入れるためのアパーチャおよび導電性の箔を含むことを熟練者は容易に理解することに留意されたい。さらに、ある種の実施形態では、図16に示した偏向器動作および/またはレンズ動作を生じさせるために、多数のそれぞれのチャネルの上方に電極が置かれる。
【0029】
偏向器152および154は、多数のチャネルのうちの1つのチャネルから出てきたイオン光学部品領域162内のイオン・ビーム112を、所望の軸108と再び整列するように偏向させる。2重偏向器152および154が示されてはいるが、単一の偏向器を使用して、イオン・ビームが光軸と整列していることを保証することもできる。
【0030】
ある種の実施形態では、イオン光学部品領域162がさらに、処理のために試料180に向かってイオン・ビームを集束させるための対物レンズ170、追加のアパーチャなどの集束要素を含む。イオン光学部品領域162および電子光学部品領域160は真空に維持されることが好ましい。イオン光学部品領域162はさらに、2次電子またはイオン174を検出するエバーハート・ソーンリー(Everhart Thornley)検出器などの2次粒子検出器172、およびビーム誘起付着またはエッチングための前駆体ガスを注入するガス注入システム176を含むことができる。チャネル内のガス・イオンをイオン化し、それらのイオンをチャネルから引き出し、試料に向かって加速させるのに十分なエネルギーを電子ビームに供給するため、これらのシステム構成要素に適当な電圧が印加される。
【0031】
本出願の出願人は、ガス源を使用する高輝度用途中にイオン種を高速で変更する方法を発見した。異なるイオン種間でイオン種を切り換えるため、偏向器104および106の特性を変更して、ガス室120の異なるチャネルに向かって電子ビーム110が導かれるようにする。偏向経路の変更は例えば、偏向器に印加する電圧を変更することを含むことができる。その結果として、イオン種が変更されたときには、偏向器152および154も、選択したガス・チャネルを通過した後にイオン・ビームが所望の軸108と適切に整列するように変更される。
【0032】
先行技術の電子源はしばしば、例えばイオン化容積からイオンを引き出している場に対して直角の方向に電子が加えられるときに、単一のガス室の上方の偏向器を利用して、電子ビームをガス室と整列させる。しかしながら、ガス室の下方に第2の一組の偏向器152および154を組み込むことによって、本発明が教示する多数のガス・チャネルを使用することができ、同時に、イオン化領域の後もビームの所望の光軸を維持することができることを本出願の出願人は見出した。
【0033】
本発明のある種の実施形態では、「横道注入」を使用して、イオン・ビーム112の軸に対して直角の方向に、電子源102からの電子を供給することができる。次いで、偏向器104および106が電子ビームを偏向させ、そのビームを、多数のガス・チャネルのうちの1つのガス・チャネルに向かって導いて、所望の種のイオンを供給する。次いで、偏向器152および154が、そのイオン・ビームを、試料を処理するのに適切な所望の軸と整列させる。ガス室の全ての出口アパーチャがイオン光軸108から十分に近いところにあるような態様で出口アパーチャが配列されているある種の実施形態では、整列偏向器152および154が必要ないことを本出願の出願人は見出した。いくつかの実施形態では、最も遠いアパーチャが光軸から5μm未満のところにあるときに整列偏向器152および154が必要ない。
【0034】
ある種の実施形態では、多数のチャネルのうちの1つのチャネルを、ガスを含まないようにしておくことができる。1つのチャネルを、ガスを含まない状態にしておくことによって、そのガスを含まないチャネルを通過するときに電子ビームが維持され、電子ビームがイオン・ビームを生成せず、試料処理(画像化を含む)のために電子ビームを試料に導くことができる。さらに、ユーザは、さまざまなイオン種と電子ビームとを切り換えることができる。
【0035】
図5は、本発明の他の実施形態に基づくナノ・アパーチャ・イオン源のガス室の側面図を示す。この実施形態では、4つのガス・チャネル502、504、506および508が、2×2のパターンで配列されている。この配列は、それぞれのチャネルの出口穴を光軸のより近くに配置することを可能にし、したがって必要な電子ビームおよびイオン・ビームの偏向を減らすことを可能にする。図5に示した図ではガス・チャネル502および504だけが見えている。4つのガス・チャネルはそれぞれ、試料上でのさまざまなプロセスのために、貴ガス、空気、酸素、窒素、多原子ガスなど、任意のタイプのガスを含むことができる。偏向を減らすことは、電子ビームおよびイオン・ビームの光学収差を低減させ、さらに必要なビーム偏向電圧を低くするのに役立つことを本出願の出願人は見出した。この実施形態では、電子ビーム110が、ガス・チャネル502に入るように偏向しており、その結果、室502内のガスに関連するイオンを含むイオン・ビーム512が生成されている。下偏向器152および154は、光軸上に、イオン・ビーム512を、光軸に対して平行に置く。
【0036】
図6〜8は、図5に示した実施形態の追加の図を示す。図6は、図5に示した実施形態の4つのガス・チャネル502、504、506および508の2×2アレイを示す上面図である。それらのガス・チャネルはそれぞれ、入口穴または入口アパーチャ602を有する。入口アパーチャ602の真下に出口アパーチャが位置することが好ましい。図7は、図5に示した実施形態の側面図を示す。
【0037】
図8は、入口穴および出口穴の配列を示す破断部を含む、図5に示した実施形態を示す等角図を示す。この図では、電子ビームが、チャネル504に向かって導かれ、入口アパーチャ602を通ってチャネル504に入り、それによって、チャネル504内に供給されたガスに由来するイオン種を含むイオン・ビーム512が、出口アパーチャ802から出ている。必要な電子ビームおよびイオン・ビームの偏向を減らすため、出口アパーチャ802は光軸の近くに位置することが好ましい。
【0038】
図9は、光軸から十分に近いところに入口アパーチャおよび出口アパーチャがあり、室の下方の下偏向器が必要ない、本発明の他の実施形態の側面図を示す。4つのガス・チャネル902、904、906および908が、図8に示したアレイなどの2×2アレイとして配列されている。示された図では、2つのチャネル902および904だけが見えている。上偏向器102および104が、電子ビーム110を室902に向かって誘導する。ある種の実施形態では、多数の室のうちの1つの室に向かってビームを導くのに1つの偏向器だけで十分である。室902内のガス種に関連するイオン化されたガスのビーム912が、チャネル902の出口アパーチャから出ている。電子ビーム入口アパーチャおよびイオン・ビーム出口穴が光軸に十分に近い場合、下偏向器は必要ない。一般に、出口穴が光軸108から5μm未満のところにあるとき、下偏向器は必要ないことを本出願の出願人は見出した。電子ビームの偏向を減らすと、電子ビーム中の光学収差を低減させることができ、さらに必要な電子ビーム偏向電圧が低くなる。従来の機械的な整列は一般に同じ5μmのサイズ範囲を有するため、室の下方の偏向器を使用しない場合であっても、この実施形態で出口アパーチャから出ていくイオン・ビームは整列していると考えることができる。多数の室のうちの1つの室に向かって電子ビームを導くように、コントローラによって偏向経路を制御することができる。
【0039】
図10Aおよび10Bは、異なる2つの動作モード、すなわちイオン生成モードおよび電子生成モードで動作することができる、本発明に基づくイオンおよび電子源の他の実施形態の側面図を示す。図11〜13は、図10Aおよび10Bに示した実施形態の別の図を示す。中心開口1010の周囲に、4つのガス室1002、1004、1006および1008が環状に配列されている。この配列は、電子源からの電子ビーム110が中心開口1010を通過し、それによってガス室を回避し、続いて試料上に集束し、それによってイオン・ビームによる画像化および処理に加えて電子ビームによる試料の画像化および処理を可能にするように、電子ビーム110を導く選択肢を可能にする。ガス室はそれぞれ任意の種類のガスを含むことができる。図10Aでは本発明がイオン源として機能する。図10Aでは、電子ビーム110が偏向して、ガス室1002の入口アパーチャに入る。偏向器は、ガス室1002、1004、1006および1008のうちのいずれか1つのガス室に入るようにビームを偏向させることができ、偏向経路を高速で変更して、異なるガス種を含む異なる室に向かってビームを導くことによって、異なるイオン種を選択することができる。イオン・ビーム1024は、ガス室1002の出口アパーチャから出ていき、下偏向器152および154によって光軸108上に偏向し、処理のために試料に向かって導かれる。図10Bでは、電子ビーム110がガス室内へ偏向せず、中心開口1010を通過するため、本発明が電子源として機能する。電子ビーム110は多数のガス室を回避し、続いて試料上で集束する。ある種の実施形態では、電子源から生成された後、電子ビームが光軸上に留まり、偏向させる必要がない。
【0040】
アレイの中心開口1010は、電子ビームが乱されずに通過することを可能にする。いくつかの処理用途および/または画像化用途では、特性が異なるために、電子の方がイオンよりも有利であることを熟練者は理解するであろう。例えば、いくつかの表面下画像化用途に対しては、サイズがより小さいため電子の方が有利である。したがって、この実施形態は、多数のイオン種間でイオン種を切り換えることを可能にし、さらに、試料処理のためにイオン・ビームから電子ビームへおよび電子ビームからイオン・ビームへ高速で切り換えることを可能にする。多数の室のうちのいずれか1つの室に向かって電子ビームを導いてあるイオン種のイオンを生成するか、または開口に向かって導いて電子ビームを維持するように、偏向経路を変更することができる。本発明の実施形態では、ガス室の構成および幾何形状の変更も容易に実現することができる。ある種の実施形態では、偏向を起動させないで、電子ビームが中心開口を通過するようにし、次いで偏向を起動させ、ビームを1つの室に向かって偏向させて、あるイオン種のイオンを生成する。
【0041】
図11は、図10Aおよび10Bに示した実施形態の上面図を示す。図12は、図10Aおよび10Bに示した実施形態の側面図を示す。多数の室はそれぞれ、入口アパーチャ1102および出口アパーチャを有し、出口アパーチャは、室を出るために入口アパーチャの真下にあることが好ましい。図13は、多数のそれぞれの室の入口アパーチャ1102および出口アパーチャ1302を示す、図10Aおよび10Bに示した実施形態の破断等角図を示す。図13では、室1006内のガスに関連するイオン種を選択してイオン・ビーム1310を生成するために、電子ビーム110が室1006に向かって導かれている。4つの室が示されているが、ある種の集束イオン・ビーム用途の必要性に基づいて、室の数を増やしたりまたは減らしたりすることができることを熟練者は理解するであろう。
【0042】
本発明の範囲内において、さまざまな2次元アレイなどのガス室の他の配列、例えば3×2、4×2または5×2アレイも可能である。任意の数のガス室を含むガス室の円形アレイも本発明の範囲に含まれる。
【0043】
図14は、異なるイオン種間でイオン種を自動的に切り換えるように偏向器が自動化された本発明の一実施形態を示す。偏向器104、106、152および154はコントローラ1402に接続されており、コントローラ1402は、初期電子ビーム110の偏向経路を制御する。動作中、ユーザは、所望の次のイオン種を迅速に選択することができ、所望のガス種を含むチャネルに電子ビームを導くように偏向器を自動的に調整することができる。多数の室のうちの1つ室が、電子ビームが乱されずに通過することを許す実施形態では、ユーザが、あるイオン種のイオン・ビームから電子ビームへ高速で切り換えることもできる。本出願で使用される用語「接続」および「接続された」は、物理的な接続だけに限定されず、先行技術において一般的に知られている無線通信を含むこともあることに留意されたい。一実施形態では、コントローラ1402がさらにプログラム・メモリ1404に接続される。プログラム・メモリ1404は、ユーザから入力された一組の命令を記憶することができる。ユーザは、異なるイオン種間でイオン種を指定された時間間隔で切り換えるルーチンまたはレシピ(recipe)を入力することができる。それらの命令は、処理時間、ビームのドエル時間、および/または異なる種に切り換える適切な時間に関する命令などの処理パラメータを含むことが好ましい。さまざまな用途の要件を満たすために偏向器の数を変更することもできる。さらに、異なる数および異なる配列のガス・チャネルを使用することもできる。本発明のいくつかの実施形態によれば、荷電粒子ビーム・システムは、電子のビームを光軸に沿って真空室内に供給する電子源と、多数のチャネルであり、前記多数のチャネルのうちの少なくとも1つのチャネルが、ガス入口を有し、電子と相互作用してイオンを生成するガスを含むように適合された多数のチャネルと、前記多数のチャネルのうちの異なるチャネルに入るように電子ビームを選択的に偏向させる第1の偏向器と、前記多数のチャネルからイオンを引き出す1つまたは複数の引出し電極と、引き出されたイオンを光軸と整列させる第2の偏向器とを備える。
【0044】
いくつかの実施形態では、この荷電粒子ビーム・システムが、引き出されたイオンを加工物上で集束させる集束レンズをさらに備える。いくつかの実施形態では、前記多数のチャネルがそれぞれ、ガス源に接続するための入口を含む。いくつかの実施形態では、第1の偏向器が2つの部分、すなわち光軸から離れる方向へ電子ビームを偏向させる第1の部分と、第1の光軸に対して平行で、前記多数のチャネルのうちの1つのチャネルと同心の第2の光軸上に電子を偏向させる第2の部分とを含む。いくつかの実施形態では、第2の偏向器が2つの部分、すなわち第2の軸から離れる方向へイオン・ビームを偏向させる第1の部分と、第1の光軸上にイオンを偏向させる第2の部分とを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、この荷電粒子ビーム・システムが、第1の偏向器による電子の整列および第2の偏向器によるイオンの整列を制御するコントローラをさらに備える。いくつかの実施形態では、この荷電粒子ビーム・システムが、試料を処理するための命令を入力するプログラム・メモリをさらに備え、それらの命令が、試料処理中に第1のイオン種から第2のイオン種へイオン種を切り換えることを含む。
【0046】
本発明のいくつかの実施形態によれば、荷電粒子ビーム用途のために多数の荷電粒子種を供給する方法は、電子のビームを生成すること、電子のビームを第1の経路に沿って第1のチャネル内に導いて、チャネル内のガスと相互作用して第1の種のイオンを生成すること、第1のチャネルからイオンを引き出すこと、イオンを加工物上に導くこと、および電子を第2の経路に沿って導いて、加工物に荷電粒子の異なる種を供給することを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、電子を第2の経路に沿って導くことが、電子のビームを、ガスを含む第2のチャネル内に導いて、第2の種のイオンを生成することを含み、この方法が、第2のチャネルから第2の種のイオンを引き出すこと、および第2の種のイオンを加工物上に導くことをさらに含み、この方法が、加工物を含む真空を開放することなく、加工物に向かって導かれる異なる種のイオン間でイオンを切り換えることを提供する。
【0048】
いくつかの実施形態では、電子のビームを第1の経路に沿って導くことから、電子を第2の経路に沿って導くことに切り換えて、加工物に荷電粒子の異なる種を供給することが、0.1秒未満のうちに実行される。いくつかの実施形態では、電子のビームを第1の経路に沿って導くことから、電子を第2の経路に沿って導くことに切り換えて、加工物に荷電粒子の異なる種を供給することが、0.05秒未満のうちに実行される。
【0049】
いくつかの実施形態では、電子を第1の経路に沿って導くことまたは電子を第2の経路に沿って導くことが、電子を第1の光軸から偏向させること、および第1の光軸に対して平行な経路上に電子を偏向させることを含む。いくつかの実施形態では、イオンを加工物の上に導くこと、または加工物に荷電粒子イオンの異なる種を供給することが、イオンまたは荷電粒子の異なる種を再び第1の光軸上に偏向させることを含む。いくつかの実施形態では、第1の経路と第2の経路の間で経路を切り換えるステップが自動化されている。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態によれば、荷電粒子ビーム・システムは、電子を供給する電子源と、ガス入口を有し、電子と相互作用してイオンを生成するガスを含むように適合された第1のチャネルと、電子を第1のチャネルと整列させ、または第1のチャネルを回避する第1の偏向器と、第1のチャネルからイオンを引き出す引出し器と、引き出されたイオンまたは電子を集束カラムと整列させる第2の偏向器とを備える。
【0051】
いくつかの実施形態では、この荷電粒子ビーム・システムが、電子と相互作用してイオンを生成するガスを含むように適合された1つまたは複数の追加のチャネルをさらに備える。いくつかの実施形態では、電子を第1のチャネル、前記1つまたは複数のチャネルと整列させ、あるいはガスを含むチャネルを回避するように、第1の偏向器をバイアスすることができる。いくつかの実施形態では、電子を第1のチャネルと整列させ、または第1のチャネルを回避する第1の偏向器が、電子を第1のチャネルと整列させ、または電子ビームをガスを含まないチャネルと整列させる偏向器を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、この荷電粒子ビーム・システムが、第1の偏向器による電子の整列を制御するコントローラをさらに備える。いくつかの実施形態では、この荷電粒子ビーム・システムが、試料を処理するための命令を記憶したプログラム・メモリをさらに備え、それらの命令が、電子を第1のチャネルと整列させることと、第1のチャネルを回避することとを切り換えることを含む。
【0053】
本発明の目的上、用語「チャネル」は用語「室」と交互に交換可能である。以上に記載した発明は幅広い適用可能性を有し、上記の例において説明し、示した多くの利点を提供することができる。本発明の実施形態は、具体的な用途によって大きく異なる。全ての実施形態が、これらの全ての利点を提供するわけではなく、全ての実施形態が、本発明によって達成可能な全ての目的を達成するわけでもない。しかしながら、以上の説明の多くはFIBミリングの使用を対象としているが、所望のTEM試料を処理する目的に使用されるミリング・ビームは例えば、電子ビーム、レーザ・ビーム、または例えば液体金属イオン源もしくはプラズマ・イオン源からの集束もしくは成形イオン・ビーム、あるいは他の任意の荷電粒子ビームを含むことができる。さらに、以上の説明の多くは半導体ウェーハを対象としているが、本発明は、適当な任意の基板または表面に対して使用することができる。一実施形態に記載された材料および構造または先行技術の一部として記載された材料および構造を、他の実施形態で使用することができる。本発明を、高輝度イオン源を提供するのに適していると記述したが、本発明は高輝度用途だけに限定されない。
【0054】
本発明および本発明の利点を詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲によって定義された本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に、さまざまな変更、置換および改変を加えることができることを理解すべきである。さらに、本出願の範囲が、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法およびステップの特定の実施形態に限定されることは意図されていない。当業者なら本発明の開示から容易に理解するように、本明細書に記載された対応する実施形態と実質的に同じ機能を実行し、または実質的に同じ結果を達成する既存のまたは今後開発されるプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを、本発明に従って利用することができる。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、このようなプロセス、機械、製造、組成物、手段、方法またはステップを含むことが意図されている。以下の特許請求の範囲では、用語「含む(including)」および「備える(comprising)」が、オープン・エンド(open−ended)型の用語として使用されており、したがって、これらの用語は、「...を含むが、それらだけに限定されない(including,but not limited to)」ことを意味すると解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16