(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238988
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】熱可塑性のプレセラミックポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/62 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
C08G77/62
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-528908(P2015-528908)
(86)(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公表番号】特表2015-526571(P2015-526571A)
(43)【公表日】2015年9月10日
(86)【国際出願番号】EP2013002645
(87)【国際公開番号】WO2014032817
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】398056207
【氏名又は名称】クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】リヒター・フランク
(72)【発明者】
【氏名】クリヒェル・マティアス
(72)【発明者】
【氏名】デッカー・ダーニエール
(72)【発明者】
【氏名】モッツ・ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】シュマルツ・トーマス
【審査官】
海老原 えい子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−169627(JP,A)
【文献】
特開昭63−243328(JP,A)
【文献】
特開平10−245436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下に、液体の低分子量ポリシラザンを溶媒中で反応させ、所望の重合度に達したらすぐに停止剤によりその反応を停止させることによって、高分子量の固体の溶融可能な熱可塑性プラスチックのプレセラミックポリマーを製造する方法であって、
その際、停止剤として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水素化物が使用されることを特徴とする、上記の方法。
【請求項2】
次の一般式(1)のポリシラザン又はポリシラザンの混合物が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
−(SiR’R’’−NR’’’)n− (1)
(式中、R’、R’’、R’’’は、同一又は異なっていて、そして相互に独立して、水素又は、場合によっては置換された、アルキル残基、アリール残基、ビニル残基又は(トリアルコキシシリル)アルキル残基であり、nは整数であり、かつ、nは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように決定される。)
【請求項3】
R’、R’’、R’’’が、相互に独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert.ブチル、フェニル、トリル、ビニル又は3−(トリエトキシシリル)−プロピル、3−(トリメトキシシリルプロピル)の群から選択される残基であるポリシラザンが使用されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
次の式(2)のペルヒドロポリシラザンが使用されることを特徴とする、請求項1〜3の少なくとも一つに記載の方法。
【化1】
(式中、nは整数であり、かつ、nは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように決定される。)
【請求項5】
触媒として、テトラアルキル置換されたアンモニウム塩の塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物及び水酸化物が使用されることを特徴とする、請求項1〜4の少なくとも一つに記載の方法。
【請求項6】
前記反応混合物中の触媒の濃度が、0.01重量%〜10重量%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜5の少なくとも一つに記載の方法。
【請求項7】
溶媒として、水並びに反応性の基を全く含まない有機溶剤、特に、脂肪族又は芳香族の炭化水素が使用されることを特徴とする、請求項1〜6の少なくとも一つに記載の方法。
【請求項8】
反応媒体中の出発物質の濃度が、20〜80重量%の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜7の少なくとも一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セラミック材料の分野は、実用セラミック及び衛生用セラミックに使用されるシリケートと、工業用セラミックに使用される高性能セラミックとに、基本的に分類することができる(Ralf Riedel, Aleksander Gurlo, Emanuel Ionescu, “Chem. Unserer Zeit”, 2010, 44, 208 − 227(非特許文献1)。高性能セラミックには、酸化物材料(例えば、Al
2O
3)及び非毒性の材料をベースとして製造されたセラミックが包含される。
【0002】
ここで、例えば、窒化ケイ素(Si
3N
4)及び炭窒化ケイ素(SiCN)をベースとするセラミックが挙げられ、これらは、並外れた熱機械的特性を有する。例えば、組成物の化学量論量に依存して、炭窒化ケイ素は、不活性の雰囲気中、約1350℃まで結晶化する傾向がないことが見出されている(Christoph Konetschny, Dusan Galusek, Stefan Reschke, Claudia Fasel, Ralf Riedel, “Journal of the European Ceramic Society”, 19, 1999, Seiten 2789 − 2769(非特許文献2)。空気中でその安定性は1500℃まで十分である。
【0003】
Si
3N
4セラミック及びSiCNセラミックのような高性能のセラミックは、その特性に起因して、高温の用途(エネルギー技術、自動車製造、航空宇宙産業等)、医療技術、材料加工の分野における、化学的な方法技術においてではあるがミクロ電子技術における機能性材料としての使用が増大している。
【0004】
セラミックの部材の製造は、一般に、粉体工学的な加工によって行われる。これは、粉末形態の出発材料が、その後高密度化されるが、その際に溶融しない形態にされることを意味する(焼結)。
【0005】
純粋な金属酸化物及び窒化物をベースとするセラミックの場合、もっぱらこの方法だけを使用することができる。というのも、これらのセラミック材料の融点が、加工するには高過ぎるか、又は事前に材料が分解するからである。伝統的な、工業的に汎用の、造形の技術による加工、例えば、液状の又は溶融した材料を使用した射出成形又は慣用的な鋳造法が望ましいであろう。というのも、これは、サイクル時間が著しく減少し、材料の消費量を低減し、そして、さらに省エネルギーで加工できるからである。
【0006】
それとは対照的に、ケイ素−炭素−窒素(SiCN)の系の非毒性のセラミック材料を製造するための、プレセラミックの、ケイ素をベースとするポリマーが知られている。このプレセラミックのポリマーを、産業的な連続プロセスで使用するためには、それの特性が再現可能であり、かつ、長時間安定でなければならない。
【0007】
市場から入手可能な、適した出発材料であることが前提要素である。それと同時に、省資源で、かつ、それゆえ安価な反応が、広範囲の産業的な使用の決定要因となる。
【0008】
許容可能な価格で、トンの規模で市場から入手可能であるという要求を満たす、SiCN−セラミックを製造するための唯一のプレセラミックのポリマーは、オルガノポリシラザン(OPSZ)の群であり、以下、ポリシラザンと言う。ポリシラザン(例えば、KiON ML 33及びKiON HTT 1800)は、AZ Electronic Materials及びClariantから入手できる。その製造は、例えば、欧州特許第1232162 B1(特許文献1)に記載されているように、液体アンモニア法によって行われる。欧州特許第1232162 B1(特許文献1)に従って製造されるポリシラザンは液状の低粘度(<50mPa・s)であり、比較的低い分子量(<2,500g/モル)を有する。液体のポリシラザンは、根本的に上述した一定の方法技術でそれを使用できないという決定的な欠点を有する。ポリマー産業の典型的な方法技術(例えば、押出し法)は、同様に不可能である。液体ポリシラザンの更なる欠点は、欧州特許第1232162 B1(特許文献1)に記載されているように、それの比較的低い分子量にある。これは、最終的に、低いセラミック収量の原因となる。したがって、高分子量で、固体の、かつ、溶融可能なポリシラザンから製造するのが望ましい。
【0009】
それ故、上述の液体の低粘度のポリシラザンから出発し、高分子量で固体の、かつ、溶融可能なポリシラザンを提供する方法に対する差し迫った要求がある。この方法は、熱的に安定で、溶融可能であり、そして溶解可能であって、さらには、高分子量を有する、再現可能なポリマーをもたらすべきである。該ポリマーは、少なくとも12ヶ月貯蔵安定であり、そして産業的な方法で加工できる。その方法の例として挙げられるのは:押出し法、射出成形法、溶融紡糸法、カレンダー加工、インフレーションフィルム成形及びブロー成形(Folien− und Hohlkoerperblasen)、回転成形、流動床焼結、フレーム溶射及びトランスファー成形(RTM又はDP−RTM)である。
【0010】
文献には、液体のシラザンベースの、プレセラミックのポリマーを、固体の前駆体に転化するための様々な方法が明示されている。
【0011】
・固体の、塩基性触媒の使用は、その際、大きな役割を果たす。欧州特許出願公開第332357A1(特許文献2)に記載されているように、液体の出発材料の分子量を高め、そして固体の生成物を得るために、アルコキシドが使用される。
【0012】
・確かに、それにより、セラミックの収量が出発材料のそれよりも高い生成物が得られるが、方法の再現可能性は制限され、生成物は高度に架橋しており、そのため、しばしば非溶解性であり、かつ、溶融可能でなく、それにより、さらなる加工は不十分にしか可能でない。
【0013】
・ルイス酸の物質の使用は同様に知られている。しかしながら、これは、市場から入手可能な原材料には適していない。というのも、溶融不可能な生成物がもたらされるからである。
【0014】
・分子量を高めるためのさらなる方法は、遷移金属錯体、特に、例えば、Y. Blum oder von Z. Xie, X. Hu, Z. Fan, W. Peng, X. Li, W. Gao, X. Deng, Q. Wang(非特許文献3)に記載されているようなRu−カルボニルの使用の作用にある。その際にも、高度に架橋したポリマーも得られ、これは、セラミックの収量が確かに高いが、その生成物は非溶解性かつ非溶融生であるため、さらに加工することができない。市場から入手可能なポリシラザンに対する適用は成功せず、分子量又は物理的性状の変化は全く観察されなかった。
【0015】
・同様に、ポリシラザンの分子量を高めるためにガス状の物質が使用されている。その例として、例えば、BH
3(米国特許第5262553 A(特許文献3))、NH
3−H
2Oからなるガス混合物(欧州特許出願公開第412915 A1(特許文献4))、HCl及びHBr−混合物、又はオゾンの使用が挙げられる。
【0016】
・いわゆるABSE前駆体(ポリカルボシラザン(Polycarbosilazan)、アンモノリシス化ビスシリルエタン(Bissilyethan)に関して、ヒドロシリル化、アンモノリシス化及びその後の熱的後処理からなる反応の組合せが記載されている(S. Kokott, G.Motz, “Soft Materials”(2007), Volume Date 2006, 4(2−4), 165−174(非特許文献4))。このABSE前駆体は、市場から入手できないため、熱的な後処理によって、特性を再現可能に調整することはできない。
【0017】
・アンモニウム塩の使用は、Mueller及びRochowが非常に早くに開示している(Carl R. Krueger, Eugene G. Rochow, “Journal of Polymer Science”, Part A, Vol. 2 (1964), Seite 3179(非特許文献5))。ワックス状の生成物を得るために、液体のポリシラザンは、NH
4Cl、NH
4Br又はNH
4Iの存在下に、激しく加熱される。CorriuはBu
4NFを利用して、分子量が高まることを発見した(R.J.P. Corriu, D. Leckercq, P.H. Mutin, J.M. Planeix, A. Vioux, “Journal of Organometallic Chemistry”, 406, 1991, S. C1(非特許文献6))。この場合、非溶解性かつ非溶融性の生成物(熱硬化性)が最終的に得られる。さらなる加工は成功しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】欧州特許第1232162 B1
【特許文献2】欧州特許出願公開第332357A1
【特許文献3】米国特許第5262553 A
【特許文献4】欧州特許出願公開第412915 A1
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Ralf Riedel, Aleksander Gurlo, Emanuel Ionescu, “Chem. Unserer Zeit”, 2010, 44, 208 − 227
【非特許文献2】Christoph Konetschny, Dusan Galusek, Stefan Reschke, Claudia Fasel, Ralf Riedel, “Journal of the European Ceramic Society”, 19, 1999, Seiten 2789 − 2769
【非特許文献3】Y. Blum oder von Z. Xie, X. Hu, Z. Fan, W. Peng, X. Li, W. Gao, X. Deng, Q. Wang
【非特許文献4】S. Kokott, G. Motz, “Soft Materials”(2007), Volume Date 2006, 4(2−4), 165−174
【非特許文献5】Carl R. Krueger, Eugene G. Rochow, “Journal of Polymer Science”, Part A, Vol. 2 (1964), Seite 3179
【非特許文献6】R.J.P. Corriu, D. Leckercq, P.H. Mutin, J.M. Planeix, A. Vioux, “Journal of Organometallic Chemistry”, 406, 1991, S. C1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
要するに、開示されている全ての方法は、溶解性かつ溶融可能な固体の高分子量のポリマーの再現可能な方法であるという要求を満たしていないか、又は市場から入手可能な原材料の使用下での産業的な方法に適していないと言える。
【課題を解決するための手段】
【0021】
驚くことに、特定の反応媒体、定義された量の触媒、時間的に正確に制御された停止試薬の使用、出発材料の定義された調整された濃度、及び反応温度の組合せによって、液体の、市場から入手可能なポリシラザンが、固体の、溶融可能な、かつ溶解性の生成物に、再現可能に転化できることが、今や見出された。その方法は、固体生成物であるポリマーの特性(分子量、軟化点範囲)が、反応条件を変えることによって正確に調節できることを特徴とする。
【0022】
したがって、本発明は、高分子量の、固体の、溶融可能な、熱可塑性プレセラミックポリマーを製造する方法であり、液体の低分子量のポリシラザンを触媒の存在下に溶媒中で反応させ、所望の重合度に達したらすぐに停止剤によりその反応を停止させる方法である。
【0023】
液体の低分子量のポリシラザンとしては、好ましくは、次の一般式(1)のポリシラザン又はポリシラザンの混合物が適している。
−(SiR’R’’−NR’’’)
n− (1)
【0024】
式中、R’、R’’、R’’’は、同一又は異なっていて、そして相互に独立して、水素又は、場合によっては置換された、アルキル残基、アリール残基、ビニル残基又は(トリアルコキシシリル)アルキル残基であり、nは整数であり、かつ、nは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように決定される。
【0025】
その際に、R’、R’’、R’’’が、相互に独立して、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert.ブチル、フェニル、トリル、ビニル又は3−(トリエトキシシリル)−プロピル、3−(トリメトキシシリルプロピル)の群から選択される残基であるようなポリシラザンが特に適している。
【0026】
好ましい実施形態において、次の式(2)のペルヒドロポリシラザンが使用される。
【0027】
【化1】
【0028】
式中、nは整数であり、かつ、nは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように決定される。
【0029】
さらに好ましい実施形態において、出発試薬として、次の式(3)のポリシラザンが使用される。
−(SiR’R’’−NR’’’)
n−(SiR
*R
**−NR
***)
p− (3)
【0030】
式中、R’、R’’、R’’’、R
*、R
**及びR
***は、相互に独立して、水素又は、場合によっては置換された、アルキル残基、アリール残基、ビニル残基又は(トリアルコキシシリル)アルキル残基であり、その際、n及びpは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように決定される。
【0031】
特に好ましくは、式中、
−R’、R’’’及びR
***が水素であり、かつ、R’’、R
*及びR
**がメチルである、
−R’、R’’’及びR
***が水素であり、かつ、R’’、R
*がメチルであり、かつ、R
**がビニルである、
−R’、R’’’、R
*及びR
***が水素であり、かつ、R’’及びR
**がメチルである、
化合物である。
【0032】
これの例として、KiON ML33及びHTT 1800が使用された原料について示される。
【0033】
【化2】
【0034】
同様に、次の式(4)のポリシラザンも使用される。
−(SiR’R’’−NR’’’)
n−(SiR
*R
**−NR
***)
p−(SiR
1,R
2−NR
3)
q− (4)
【0035】
式中、R’、R’’、R’’’、R
*、R
**、R
***、R
1、R
2及びR
3は、相互に独立して、水素又は、場合によっては、置換された、アルキル残基、アリール残基、ビニル残基又は(トリアルコキシシリル)アルキル残基であり、その際、n、p及びqは、ポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように決定される。
【0036】
特に好ましくは、該式において、R’、R’’’及びR
***が水素であり、かつ、R’’、R
*、R
**及びR
2がメチルであり、R
3が(トリ
エトキシシリル)プロピルであり、かつ、R
1がアルキル又は水素である、化合物である。
【0037】
反応媒体中の使用されるポリシラザン原料の濃度は、十分な混合が保証されるように選択される。その場合、20〜80重量%の濃度範囲が選択される。30〜70重量%の範囲が特に好ましく、就中、33〜66重量%の範囲である。
【0038】
反応媒体としては、水を含まず、かつ、反応性の基(例えば、ヒドロキシル基又はアミン基)を含有しない有機溶媒が特に適している。その際、例えば、脂肪族又は芳香族炭化水素、ハロゲン炭化水素、酢酸エチル又は酢酸ブチルのようなエステル、アセトン又はメチルエチルケトンのようなケトン、テトラヒドロフラン又はジブチルエーテルのようなエーテル、並びに、モノアルキレングリコールジアルキルエーテル及びポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(グリム)又はそれら溶媒からなる混合物が挙げられる。
【0039】
反応媒体としては、特に、非プロトン性(aprotrische)の溶媒が使用され、例えば、ジエチルエーテル、シクロヘキセン、HMPTA、THF、トルエン、塩素化炭化水素、ペンタン、ヘキサン、及びジブチルエーテルが使用される。THF、トルエン、塩素化炭化水素、ジエチルエーテル及びジブチルエーテルが特に好ましい。
【0040】
本発明の方法は、−20℃〜110℃の温度範囲で行うことができ、0〜80℃の温度が好ましく、特に好ましくは、15〜50℃の温度範囲である。
【0041】
本発明の方法は、300ミリバール〜30バールの圧力範囲で行うことができ、500ミリバール〜5バールの範囲が好ましく、特に好ましいのは、750ミリバール〜3バールの圧力範囲である。
【0042】
触媒としては、テトラアルキル置換されたアンモニウム塩の塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物及び水酸化物が使用される。それらの例として挙げられるのは、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、フッ化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、フッ化テトラブチルアンモニウムであり、Schwesinger触媒及び相間移動触媒(PiP)も挙げられる。特に好ましいのは、テトラブチルアンモニウム塩及びSchwesingerの試薬である。
【0043】
触媒の濃度は、好ましくは、0.01重量%〜10重量%の範囲内で選択するべきである。特に好ましくは、該濃度は、0.1重量%〜5重量%である。就中、0.15重量%〜2重量%の範囲が好ましい。
【0044】
反応の間、ガス状の生成物(水素、アンモニア、シラン)が発生する。そのため、触媒の添加は時間を制御して行うのが適している。その場合、10〜200分内で添加するのが好ましく、20〜100の範囲が特に好ましい。
【0045】
使用されるシラザンが、酸化及び加水分解の影響を受けやすいため、この方法は、保護ガス下で行うのが適している。
【0046】
停止剤として使用されるのは、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水素化物、特に、KH、NaH、LiH、CaH
2、LiAlH
4、Ca(BH
4)
2及びNaBH
4である。特に好ましくは、NaH、LiAlH
4、NaBH
4及びCa(BH)
4である。
【0047】
停止剤は、時間的に正確に、かつ、溶解された形態で添加されなければならない。その停止剤の溶媒としては、反応媒体として上記で挙げられた材料が特に適している。該停止剤の溶液中の濃度は、2〜70%であるべきであり、好ましくは、3〜30%、就中、5〜10%である。該停止剤を添加する時点は、発生する水素ガスを追跡することによって決定することができる。水素ガス流が、その最大値のわずか1/10に達した時に、該停止剤を添加するのに好ましい時点に到達する。
【0048】
生成物の分離は、例えば、低温での結晶化及びその後のろ過によって、又は反応混合物の濃縮によって行うことができる。
【0049】
最終生成物の特性評価は、GPCを利用した分子量の分布の測定及び軟化点範囲の測定によって行われる。レオロジーの調査によって、架橋の程度に関する情報が得られる。
【0050】
少なくとも、2,000g/モル〜2,000,000g/モル、特に、10,000g/モル〜1,000,000g/モルの分子量を有する固体のポリシラザンが生成される。架橋度及びそれによる軟化点範囲は、−15℃〜180℃で任意に反応条件を選択することによって調節できる。得られた生成物は、規定通りの貯蔵の場合、少なくとも12ヶ月安定であり、かつ、慣用的な極性の、及び非極性の、非プロトン性の溶媒中にいつでも溶解させることができる。反応条件の制御が不十分な場合、不溶性の、非溶融性の物質が得られる。
【0051】
溶解するのに好ましい溶媒は、例えば、エーテル(THF)及び非極性の炭化水素(ヘキサン、石油エーテル)である。
【0052】
本発明の方法で製造されたこのポリシラザンは、再生可能であり、製造可能であり、熱安定性であり、溶融可能であり、かつ溶解性であり、そして、高分子量を有する。これは、さらに、少なくとも12ヶ月貯蔵安定であり、かつ、慣用的で産業的な方法、例えば、押出し法、射出成形法、溶融紡糸法、カレンダー加工、インフレーションフィルム成形及びブロー成形(Folien− und Hohlkoerperblasen)、回転成形、流動床焼結、フレーム溶射及びトランスファー成形(RTM又はDP−RTM)により加工することができる。
【実施例】
【0053】
例1
3.0kgのKiON ML 33及び1.5kgのTHFに、513gのTHFを用いて溶解させた27.1gのフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)の溶液を、室温において40分以内で添加する。その添加の終了後、その混合物をさらに30分、後撹拌し、そして引き続いて133.5gのTHF中に懸濁させた7.5gのCa(BH
4)
2を添加する。該混合物は、さらに35分撹拌する。引き続いて、高めた温度かつ低減した圧力下でTHFを除去する。〜90℃の軟化点及び38,000g/モルのM
Wを有する、固体のポリシラザン2.76kgがあとに残る。
【0054】
例2
100gのKiON ML 33及び0.2kgのTHFに、20gのTHFを用いて溶解させた0.26gのTBAFの溶液を、室温において40分以内で添加する。その添加の終了後、その混合物をさらに90分、後撹拌し、そして引き続いて5mlのTHF中に懸濁させた0.25gのCa(BH
4)
2を添加する。該混合物は、さらに30分撹拌する。引き続いて、高めた温度かつ低減した圧力下でTHFを除去する。〜50℃の軟化点及び4,190g/モルのM
Wを有する、固体のポリシラザン89.7gがあとに残る。
【0055】
例3
アルゴンで不活性化した、撹拌機、温度計及び冷却器を備えた2L−四つ口フラスコ中に、0.075kgのTHF及び、150gの、低沸点物を取り除いたKiON HTT 1800を仕込む。30分以内に、0.375mgのTBAFを27.16mlのTHFに溶解した溶液を計量添加する。30分の後撹拌時間後、375mgのCa(BH
4)
2を7.5mlのTHFに添加し、そして、それによって反応を停止させる。溶媒を分離した後に、約110℃で凝固し、かつ、116,000g/モルのM
Wを有する、白色の固形物質があとに残る。
【0056】
例4
窒素で不活性化した、磁気コア及び冷却器を備える1Lフラスコ(Einhalskolben)中に、200gのTHF、100gのKiON HTT 1800及び100gのKiON ML 33を室温で仕込む。60分以内に、均質な混合物を、38.2mlのTHF中の500mgのTBAFからなる溶液と混合する。30分撹拌後、10mlのTHF中の491mgのCa(BH
4)
2で停止する。蒸留後、約60℃の軟化点及び10,100g/モルのM
Wの分子量を有する固形物質があとに残る。
【0057】
例5
アルゴンで不活性化した、磁気コア及び冷却器を備えた1Lフラスコ中に、200gのジエチルエーテル及び100gのCeraset PSZ 20を室温で計量し、十分完全に混合する。5分以内に、1mlの1MのTBAF/THF溶液及び19mlのジエチルエーテルからなる混合物を添加する。30分の後反応後、ジエチルエーテル中に0.25gのCa(BH
4)
2を添加し、そしてさらに30分撹拌し、溶媒を除去する。冷却の際にガラス状に凝固する、115℃において高粘度の溶融物があとに残る。M
W=21,300g/モル。
【0058】
例6
不活性化した500mlのフラスコに、80gのトルエン及び40gのCeraset PSZ 20で満たす。0.4mlの1M水酸化テトラブチルアンモニウム及び7.6mlのトルエンからなる溶液を10分以内に加えてから、25分撹拌する。0.1gのCa(BH
4)
2を懸濁した2mlのトルエンを添加して、反応を完全に停止した。溶媒を除去した後、室温でワックス状の物質があとに残り、これは、20,900g/モルのM
Wを有する。
【0059】
例7
4Lフラスコ中で、300gのTHFを600gのKiON ML 33と共に混合する。30分以内に、114mlのTHFで希釈した6mlの1MTBAF溶液を計量添加し、引き続いて、30分、後撹拌する。7mlのTHF中の14ミリモルのLiBH
4で反応を停止させる。ろ過及び溶媒の除去後、ガラス状に凝固する溶融物が得られる。M
Wは17,350g/モルである。
【0060】
例8
テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)リンアニリデンアミノ]ホスホニウムフルオリドの0.3Mベンゼン溶液0.22mlを、40mlのTHF中に仕込み、そして、10gのKiON HTT 1800を10分以内に添加する。Ca(BH
4)
2で反応を停止させ、そして溶媒を除去した後、6,200g/モルのM
Wの固形物質が得られる。
【0061】
例9
4Lフラスコ中で、300gのTHFを600gのKiON ML 33と混合する。114mlのTHFで希釈したTBAFの1M溶液6mlを30以内に計量添加し、続いて30分、後撹拌する。7mlのTHF中の14ミリモルNaHで反応を停止させる。ろ過及び溶媒の除去後、ガラス状に凝固する溶融物が得られる。M
Wは28,840g/モルである。
【0062】
例10
90gのKiON HTT 1800及び210gのTHFを仕込み、0℃に冷却する。激しい撹拌下において、450mgのTBAFが溶解した15mlのTHFを60分以内に計量添加する。0℃で60分撹拌後、20℃に加熱し、それから、50mlのTHF中の300mgのCa(BH
4)
2で反応を停止させる。THFを留去した後、1,6
50g/モルのM
Wを有するワックス状の固形物質があとに残る。
【0063】
比較例1
4Lフラスコ中で、300gのTHFを600gのKiON ML 33と混合する。114mlのTHFで希釈したTBAFの1M溶液6mlを30以内に計量添加し、その後一晩にわたり撹拌する。ろ過及び溶媒の
留去後、不溶性かつ非溶融
性の固形物質があとに残る。
【0064】
比較例2
窒素で不活性化した、磁気コア及び冷却器を備えた1Lの一口フラスコ中に、200gのTHF、100gのKiON HTT 1800及び100gのKiON ML 33を室温で仕込む。45分以内に、混合物を38.2mlのTHF中の1500mgのTBAFからなる溶液と混合する。30分の後撹拌後、白色の固形物質の形成が認められ、この物質は急速に増大する。この固形物質は不溶性かつ非溶融性である。
【0065】
比較例3
200gのKiON ML 33を500mlの3三つ口フラスコ中に仕込み、そして激しい撹拌下でTBAF/THFの1M溶液5mlと混合する。液滴導入箇所に、白色の固形物質が形成する。添加終了後、60分、後撹拌し、二相のフラスコ内容物を得る。分離した固形物質は不溶性で、かつ溶融しない。