(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6238999
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】内燃機関用のピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20171120BHJP
F16J 1/16 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
F02F3/00 Z
F16J1/16
F02F3/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-543319(P2015-543319)
(86)(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公表番号】特表2016-501335(P2016-501335A)
(43)【公表日】2016年1月18日
(86)【国際出願番号】DE2013000688
(87)【国際公開番号】WO2014079406
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年11月18日
(31)【優先権主張番号】102012022913.5
(32)【優先日】2012年11月23日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506292974
【氏名又は名称】マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング イスラー
【審査官】
櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−303993(JP,A)
【文献】
特開昭62−184274(JP,A)
【文献】
特開平07−232237(JP,A)
【文献】
特開2000−240508(JP,A)
【文献】
特開2007−071158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/00
F16J 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用のピストン(1)であって、
半径方向外側でピストンヘッドから離反する方向にリング部(6)が続いている、ピストンヘッド(4)と、
それぞれ1つのピン穴(8)を有する、互いに反対側に位置しかつピストンヘッドから離反する方向に前記ピストンヘッド(4)に一体的に成形された2つのピンボス(7)と、
前記ピンボス(7)を互いに結合するピストンスカート(12)と、
を備える、内燃機関用のピストンにおいて、
前記ピン穴(8)の、ピストンヘッドとは反対側の下側半部の、前記ピストン(1)の半径方向内側領域に、それぞれ1つの旋削部(10,10’)が成形加工されており、前記ピン穴(8)の、ピストンヘッド側の上側半部には、旋削部が成形加工されておらず、
前記旋削部(10)は、ピン穴軸線(3)に対して平行に位置する円筒軸線を有して円筒形に形成されていて、断面で階段ステップの態様を有することを特徴とする、内燃機関用のピストン。
【請求項2】
内燃機関用のピストン(1)であって、
半径方向外側でピストンヘッドから離反する方向にリング部(6)が続いている、ピストンヘッド(4)と、
それぞれ1つのピン穴(8)を有する、互いに反対側に位置しかつピストンヘッドから離反する方向に前記ピストンヘッド(4)に一体的に成形された2つのピンボス(7)と、
前記ピンボス(7)を互いに結合するピストンスカート(12)と、
を備える、内燃機関用のピストンにおいて、
前記ピン穴(8)の、ピストンヘッドとは反対側の下側半部の、前記ピストン(1)の半径方向内側領域に、それぞれ1つの旋削部(10,10’)が成形加工されており、前記ピン穴(8)の、ピストンヘッド側の上側半部には、旋削部が成形加工されておらず、
前記旋削部(10)の各々は、前記ピンボス(7)の半径方向内側の端面(11)にまで達する、円筒形で、該円筒の円筒軸線がピン穴軸線(3)に対して平行に位置する半径方向内側の領域(13)と、円錐形に形成された領域(14)とを有し、該円錐形に形成された領域(14)の円錐面は、半径方向内向きに開いていることを特徴とする、内燃機関用のピストン。
【請求項3】
内燃機関用のピストン(1)であって、
半径方向外側でピストンヘッドから離反する方向にリング部(6)が続いている、ピストンヘッド(4)と、
それぞれ1つのピン穴(8)を有する、互いに反対側に位置しかつピストンヘッドから離反する方向に前記ピストンヘッド(4)に一体的に成形された2つのピンボス(7)と、
前記ピンボス(7)を互いに結合するピストンスカート(12)と、
を備える、内燃機関用のピストンにおいて、
前記ピン穴(8)の、ピストンヘッドとは反対側の下側半部の、前記ピストン(1)の半径方向内側領域に、それぞれ1つの旋削部(10,10’)が成形加工されており、前記ピン穴(8)の、ピストンヘッド側の上側半部には、旋削部が成形加工されておらず、
前記旋削部(10)の各々は、前記ピンボス(7)の半径方向内側の端面(11)にまで達する、円筒形で、該円筒の円筒軸線がピン穴軸線(3)に対して平行に位置する半径方向内側の領域(13)を有し、該円筒形の領域(13)は、滑らかで連続的に延在する移行半径でもって、前記ピン穴(8)の表面に続いていることを特徴とする、内燃機関用のピストン。
【請求項4】
前記旋削部(10,10’)の、ピン穴軸線(3)の方向で測定される長さLは、0.5mm〜3mmであり、ピン穴軸線(3)に対して直交する方向で測定される深さTは、0.05mm〜0.3mmである、請求項1から3までのいずれか1項記載の内燃機関用のピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半径方向外側でピストンヘッドから離反する方向にリング部が続いている、ピストンヘッドと、それぞれ1つのピン穴を有する、互いに反対側に位置しかつピストンヘッドから離反する方向にピストンヘッドに一体的に成形された2つのピンボスと、ピンボスを互いに結合するピストンスカートと、を備える、内燃機関用のピストンに関する。
【0002】
冒頭で述べたようなピストンは、日本の特許出願の特開昭62−184274号公報において公知である。公知のピストンは、ピン穴を有し、ピン穴に、半径方向内側で、ピン穴の内面の全周にわたって延在する旋削部(テーパ部)が成形加工されている。これにより、負荷下のピストンピンの変形時に、ピストンピンとピン穴の半径方向内側縁部との間の接触領域が拡大されるので、これにより、ピストンピン及びピストンがピン穴の半径方向内側縁部の領域で破損される恐れが低減される、ということが達成される。
【0003】
この場合の欠点は、これによりピン穴の天頂領域(ピン穴の、ピストン頂部側の上方の領域)に位置する、ピン穴とピン穴内に位置するピストンピンとの間の接触面積が減少されるので、ピン穴の天頂からピストンピンに及ぼされる、接触面積あたり圧力は、特にピストンが組み込まれている機関の圧縮行程及び作業(燃焼・膨張)行程において極めて大きくなり、このことは、ここではピン穴だけでなくピストンピンの高められた摩耗を招いてしまう。
【0004】
背景技術におけるこの欠点を回避することが、本発明の課題である。
【0005】
この課題は、ピン穴の、ピストンヘッドとは反対側の下側半部の半径方向内側領域に、それぞれ1つの旋削部が成形加工されていることによって解決される。これにより、ピン穴の天頂は、旋削部が存在しないまま維持されるので、ピン穴の天頂全体がピストンピンに接触し、従って、圧縮行程及び作業行程における接触面積あたり圧力も減少され、このことは、ピストンピンだけでなくピン穴の摩耗の低減をもたらす。
【0006】
本発明の好適な態様は、従属請求項の対象である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ピストン軸線及びピン穴軸線に沿った断面で、第1の態様による旋削部を有するピストンの半部を示す図である。
【
図2】ピストン軸線上に位置し、ピン穴軸線に対して直交する平面に沿った断面で、ピストンの半部を示す図である。
【
図3】第2の態様による旋削部を有する
図1の部分Aの拡大図である。
【0008】
図1には、ピストン軸線2及びピン穴軸線3により形成される平面に沿った断面図で、内燃機関用のピストン1の半部が示されている。ピストン1は、ピストンヘッド4と、半径方向外向きにピストンヘッド4に続くトップランド5と、ピストンヘッドから離反する方向にトップランド5に続くリング部6とを備える。
【0009】
更に、ピストン1は、ピストンヘッドから離反する方向にリング部6に続く、それぞれ1つのピン穴8を有するピンボス7を備える。ピン穴8の半径方向外側の領域に配置されたピン固定溝9も看取される。
図1による断面平面の位置では、両ピンボス7を互いに結合するピストンスカート12は、投影図でしか看取されない。
【0010】
半径方向内側で、ピン穴8の壁の天底の領域(ピストンヘッドとは反対側の下方領域)及び赤道の領域(天頂と天底との間の中間領域)に旋削部10が成形加工されており、旋削部10は、半径方向内側でピンボス7の端面11にまで達していて、ピン穴8の下側半部に配置されている。
図1による第1の態様では、旋削部10は、円筒形に、ピン穴軸線3に対して平行に位置する円筒軸線を有して構成されていて、断面で階段ステップの態様を有する。
【0011】
図2には、ピストン軸線2上に位置し、ピン穴軸線3に対して直交する平面に沿った断面で、ピストンの半部が示されている。ピストンスカート12、ピン穴8及びピン穴8の下側領域に配置された旋削部10が看取される。この場合、旋削部10は、0.5mm〜3mmの長さLと0.05mm〜0.3mmの深さTとを有する。
【0012】
図3には、拡大された、
図1の部分Aが示されていて、旋削部10’の第2の態様が看取される。旋削部10’は、半径方向内側の、ピンボス7の半径方向内側の端面11にまで達する、円筒形で、円筒軸線がピン穴軸線3に対して平行に位置する領域13と、半径方向外側の、円錐形に形成された領域14とを有し、円錐形の領域14における円錐面は、半径方向内向きに開いている。
【0013】
ピストン1は、アルミニウム、鋳鉄又は鋼から成っていてよく、鋳造又は鍛造により製造することができる。旋削部10,10’は、旋盤により製作され、この場合、旋削工具の軸線が移動可能である。旋削部10,10’の製作時に、旋削工具の軸線は、先ずピン穴軸線3と同一であり、その後で、旋削部10,10’の成形中にピストンヘッドから離間する方向に距離Tだけ下方に移動させられる。
【0014】
これに対して択一的に、第1の旋削工具を用いたピン穴8の加工前後に、旋削部10,10’は、第2の旋削工具を用いて形成してよい。第2の旋削工具は、ピン穴軸線3に対して平行に位置し、ピン穴軸線3から間隔Tを有する軸線を中心に回転させられる。
【0015】
機関運転中、吸入行程の開始時に、ピストン1は、ピストンピンを介して連接棒により下向きに引っ張られ、この場合、ピストンの慣性質量により、比較的高い回転数で、連接棒からピストンピンに、ピストンピンが下向きに曲がるような力が及ぼされる。この場合、ピストンピンは、ピン穴8の内側下縁に接触し、このことは、ピン穴8の内側下縁付近においてピストンピンの破損及びピストン材料の亀裂をもたらす。
【0016】
ピン穴8がその内側下方領域で本発明による旋削部10,10’を有する場合、変形するピストンピンの内側部分は、吸入行程の開始時に、2つの縁部に載置し、2つの縁部では、ピストンピンからピン穴8の内側下方領域に及ぼされる圧力負荷が分散するので、これにより、ピストンピン及びピストンがピン穴の内側下方縁部の領域で破損される恐れが著しく低減される。
【0017】
更に旋削部10,10’は、旋削部を介するピン穴8への油のアクセスが容易になるので、これによりピストンピンの潤滑が改善される、という利点を提供する。
【0018】
本発明の更なる利点は、圧縮行程及び作業行程に際してピン穴の天頂を介して大きな圧力がピストンピンの上側部分に及ぼされる、という事実から得られる。この面積あたり圧力を可能な限り減少させ、ひいては天頂の領域におけるピン穴及びピストンピンの摩耗を可能な限り低減するために、ピン穴の天頂とピストンピンの上側部分との間の接触面は、可能な限り大きくするべきである。
【0019】
このような理由から、旋削部10,10’は、ピン穴8の下側半部に存在するので、ピン穴の天頂面全体がピストンピンに接触することができ、これにより、ピン穴8の天頂及びピストンピンの上側部分の摩耗の最少化が得られる。
【符号の説明】
【0020】
L 旋削部10,10’の長さ
T 旋削部10,10’の深さ
A 部分
1 ピストン
2 ピストン軸線
3 ピン穴軸線
4 ピストンヘッド
5 トップランド
6 リング部
7 ピンボス
8 ピン穴
9 ピン固定溝
10,10’ 旋削部
11 端面
12 ピストンスカート
13 旋削部10’の前方領域
14 旋削部10’の後方領域