【文献】
井上亮,他6名,スペックルノイズフリー・スペクトラルドメイン光干渉断層計による緑内障患者眼の視神経乳頭篩状板厚計測,日本緑内障学会抄録集,日本,2008年 9月12日,Vol.19th,Page.37
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
本実施形態に係る画像処理装置は、視細胞外節厚の菲薄化領域と中心窩F1との位置関係や網膜剥離RDの有無等に基づいて視機能への影響や予後を予測するように構成したものである。以下、添付図面に従い本発明の実施形態に係る画像処理装置および画像処理装置における画像処理方法について詳説する。
【0013】
図12は、画像処理装置10のハードウェア構成を例示する図である。CPU1201は画像処理装置10の全体的な動作を制御する。ROM1203および外部記憶装置1204には、画像処理装置10で実行可能なプログラム、パラメータが格納されている。RAM1202はプログラムが実行の際に使用するワークエリアとして機能する。モニタ1205は出力部として機能し、モニタ1205には、画像処理の結果、算出処理の結果が表示される。キーボード1206およびマウス1207は入力部として機能し、ユーザは、キーボード1206およびマウス1207を介して、種々のコマンドを画像処理装置に入力することが可能である。インターフェイス1208は、画像処理装置10をネットワーク(LAN)30に接続する。
図12に示す各構成要素は、バス1209を介して接続されている。
【0014】
図11は画像処理装置10と接続可能な機器の構成図である。断層像撮像装置20は、データサーバ40とイーサネット(登録商標)等によるネットワーク(LAN)30を介して接続可能である。画像処理装置10は、断層像撮像装置20と、ネットワーク(LAN)30、または、光ファイバ、USBやIEEE1394等のインターフェイスを介して接続可能である。断層像撮像装置20は眼部の断層像を撮像する装置であり、例えば、タイムドメイン方式もしくはフーリエドメイン方式のOCTである。断層像撮像装置20は不図示の操作者による操作に応じ、不図示の被検眼の断層像を3次元的に撮像する。撮像された断層像は画像処理装置10へと送信される。データサーバ40は被検眼の断層像や被検眼の画像特徴量などを保持するサーバであり、断層像撮像装置20が出力する被検眼の断層像や画像処理装置10が出力する解析結果を保存する。また、画像処理装置10からの要求に応じ、データサーバ40は被検眼に関する過去のデータを画像処理装置10へと送信する。
【0015】
なお本実施形態では画像処理装置10において、視細胞内節外節境界B3と網膜色素上皮層境界B4の計測を行う場合について説明するが、必ずしもこれに限定されない。他の層境界(外境界膜(不図示)や網膜色素上皮層の内側境界(不図示)等)を検出することが可能である。
【0016】
図1は画像処理装置10の機能構成を例示するブロック図であり、画像処理装置10は断層像取得部110、記憶部120、画像処理部130、診断支援情報出力部140、指示取得部150を有する。画像処理部130は眼部特徴取得部131、病変検出部132、視機能影響度判定部133を備える。視機能影響度判定部133は視機能回復可能性判定部1331および視機能予後予測部1332を有する。診断支援情報出力部140は視機能影響度情報出力部141、視機能回復可能性情報出力部142および視機能予後予測情報出力部143を有する。
【0017】
画像処理装置10を構成する各ブロックの機能については、
図2のフローチャートに示す画像処理装置10における画像処理方法の具体的な実行手順と関連付けて説明する。ステップS210において、断層像取得部110は断層像撮像装置20に対して断層像の取得要求を送信する。断層像撮像装置20は取得要求に応じて対応する断層像を送信する。断層像取得部110は断層像撮像装置20からネットワーク30を介して取得要求に対応する断層像を受信する。断層像取得部110は受信した断層像を記憶部120に格納する。
【0018】
ステップS220において、眼部特徴取得部131は、断層像から所定の部位の情報と所定の組織構造の位置情報の情報取得を行う。眼部特徴取得部131は、断層像から所定の細胞、組織または部位を表す眼部の特徴(解剖学的特徴)を取得する。眼部特徴取得部131は、記憶部120に格納された断層像から眼部の特徴として、例えば、内境界膜B1、視細胞内節外節境界B3、網膜色素上皮層境界B4を検出することが可能である。そして眼部特徴取得部131は検出した各々の特徴を記憶部120に格納する。
【0019】
具体的な眼部の特徴の取得手順を説明する。まず層の境界検出を行うための処理方法について説明する。ここでは処理対象であるボリューム画像を2次元断層画像(Bスキャン像)の集合と考え、各2次元断層画像に対し以下の処理を行う。まず、着目する2次元断層画像に平滑化処理を行い、ノイズ成分を除去する。次に、2次元断層画像からエッジ成分を検出し、その連結性に基づいて何本かの線分を層境界の候補として抽出する。そして、抽出された層境界の候補から一番上の線分を内境界膜B1として選択する。また、内境界膜B1よりも外層側(
図10(a)において、z座標が大きい側)にあるコントラスト最大の線分を視細胞内節外節境界B3として選択する。さらに、抽出された候補から一番下の線分を網膜色素上皮層境界B4として選択する。
【0020】
さらに、これらの線分を初期値としてSnakesやレベルセット法等の可変形状モデルを適用し、精密抽出を行ってもよい。またグラフカット法により層の境界を検出してもよい。なお可変形状モデルやグラフカットを用いた境界検出はボリューム画像に対し3次元的に実行してもよいし、各々の2次元断層画像に対し2次元的に適用してもよい。なお層の境界を検出する方法は、眼部の断層像から層の境界を検出可能な方法であればいずれの方法を用いてもよい。
【0021】
ステップS230において、病変検出部132は、S220で取得された眼部の特徴により定められる領域、例えば、視細胞内節外節境界B3および網膜色素上皮層境界B4で挟まれる領域内で病変候補(網膜剥離)の有無を検出する。なお本実施形態では中心窩下に網膜剥離RDが存在する場合について記述する。網膜剥離RDはマリオット盲点以外の眼底内のどの部位にも発生する可能性があり、網膜剥離RDが断層像の撮像範囲内の任意の部位(ただしマリオット盲点は除く)に発生した場合でも本実施形態における画像処理方法は適用可能である。
【0022】
網膜剥離RDの検出方法について説明する。眼部の特徴(解剖学的特徴)により定められる領域内の輝度と予め定められた輝度の閾値Trdとの比較により病変候補の領域を検出する。例えば、閾値に対して低輝度値となる領域を病変候補として検出する。
図3(a),(c)に示すように、x-z平面上のx軸方向の各Aスキャン線上で、視細胞内節外節境界B3より外層側(z座標が大きい側)かつ網膜色素上皮層境界B4より内層側(z座標が小さい側)の領域にある低輝度領域を病変候補の領域として抽出する。抽出方法は公知の抽出法を適用可能であり、ここでは先に説明した領域内で輝度の閾値Trdよりも低輝度な領域を網膜剥離候補領域(病変候補の領域)として検出する。
【0023】
病変検出部132は、眼部の特徴 (中心窩F1、内境界膜B1、視細胞内節外節境界B3、網膜色素上皮層境界B4)のおよび病変候補(網膜剥離RD)の位置から、視機能を司る部位のサイズを定量化する。病変検出部132は、位置とサイズとの関係として、x-y平面内の各座標点における視細胞外節L1の厚み(視細胞外節厚)Tp(x、y)を計測(定量化)する。視機能を司る視細胞外節L1は、被検体の眼部の網膜に到達した光を電気信号に変換することで視機能を司る部位である。ここではTp(x、y)の簡便な計測法として、x-z平面上のx軸方向の各Aスキャン線上において視細胞内節外節境界B3と網膜色素上皮層境界B4の間のz軸方向に関する距離から網膜剥離領域のz軸方向に関する距離を引いた値を用いる。なお、視細胞外節L1の厚みの計測法はこれに限らない。ステップS220で網膜色素上皮層の内側境界(不図示)を抽出しておき、視細胞内節外節境界B3と網膜色素上皮層の内側境界(不図示)との間の距離から網膜剥離厚を引いた値をTp(x、y)としてもよい。
【0024】
次に、病変検出部132は、データサーバ40から視細胞外節厚の正常値Tnおよびx-y平面内の視細胞の密度分布ω(a)[個/mm
2]に関する正常値データ(
図3(b)参照)を取得する。ここでは視細胞のうち錐体に関するデータを取得する。また、横軸aは視軸(水晶体と中心窩を結ぶ線)からの視角度[°]である。
【0025】
ステップS240において、視機能影響度判定部133は、所定の部位の情報と所定の組織構造の位置との関係から評価値を算出する。視機能影響度判定部133は、視機能を司る部位について定量化された視細胞外節L1の厚み(視細胞外節厚)Tp(x、y)を用いて視機能に与える影響度を算出する。本ステップでは、視機能の回復可能性の判定、視機能が低下する可能性(予後予測)の判定も合わせて行うことが可能である。本ステップの詳細は
図4の参照により後述する。
【0026】
ステップS250において、診断支援情報出力部140は、視機能影響度判定部133により判定された結果を診断支援情報として出力する。S240の判定の際に算出された視機能の影響度の値を断層像の画素値として有する2次元座標のマップ(視機能影響度マップ)を生成し、診断支援情報として出力する。また、診断支援情報出力部140は、視機能が回復する可能性を示す指標(値)を断層像の画素値として有する2次元座標のマップ(視機能回復可能性マップ)を生成し、診断支援情報として出力することも可能である。また、診断支援情報出力部140は、視機能が低下する可能性を示す指標(値)を断層像の画素値として有する2次元座標のマップ(視機能低下危険度マップ)を生成し、診断支援情報として出力することも可能である。ここで、視機能影響度マップ、視機能回復可能性マップ、および視機能低下危険度マップは診断支援情報に含まれるものであり、視機能影響度判定部133により判定された結果を2次元座標のマップ上に示す表示制御により、判定結果を可視化するものである。
【0027】
ステップS260において、指示取得部150は、被検眼に関する今回の処理結果をデータサーバ40へ保存するか否かの指示を外部から取得する。この指示は、例えば、
図12に示すキーボード1206やマウス1207を介して操作者により入力される。処理結果の保存が指示された場合はS270へ処理は進められ、保存が指示されなかった場合はS280へと処理は進められる。
【0028】
ステップS270において、診断支援情報出力部140は検査日時、被検眼を同定する識別情報、断層像、画像処理部130の解析結果、診断支援情報出力部140で得られた診断支援情報を関連付けてデータサーバ40へ送信する。
【0029】
ステップS280において、指示取得部150は画像処理装置10による断層像の解析処理を終了するか否かの指示を外部から取得する。この指示は、
図12に示すキーボード1206やマウス1207を介して操作者により入力される。処理終了の指示を取得した場合は解析処理を終了する。一方、処理継続の指示を取得した場合にはS210に処理を戻し、次の被検眼に対する処理(または同一被検眼に対する再処理を)行う。
【0030】
(視機能影響度判定処理)
次に
図4を参照して、S240で実行される処理の詳細について説明する。S410では、病変検出部132で定量化された視機能を司る部位のサイズTp(x、y)に対する、部位のサイズに関する正常値データ(Tn)の比率(Tn/Tp)を求める。そして、この比率に視細胞の密度分布を示す正常値データ(ω(a))を乗算して影響度を示す値を算出する。視機能影響度判定部133は、視機能を司る部位のサイズに関する正常値データ(Tn)と視細胞の密度分布を示すデータ(ω(a))を、例えば、データサーバ40から取得することが可能である。具体的には、以下の(1)式により視機能への影響度S
1を算出する。視機能への影響度を示す値の算出にはS230で検出されたx−y平面上の各点における視細胞外節厚Tp(x、y)と、視細胞外節の位置及び形状(例えば、厚さ)に関する正常値Tn、x−y平面内の視細胞の密度分布ω(a)に関する正常値データを用いる。ここでは視機能として視力の場合を考える。
【0031】
S
1= Σ{ω(a)・Tn/Tp(x、y)} ・・・(1)
ここでTp(x、y)/Tnは錐体外節の菲薄化の程度を表し、本実施形態ではTn=60μmとする。(1)式より、錐体外節の菲薄化領域が広いほど、また菲薄化領域が中心窩により近いほど視機能への影響度が大きいことがわかる。
【0032】
ステップS420において、視機能回復可能性判定部1331は、S230で得られた視細胞外節厚と視細胞外節厚の正常値との比率から、以下の(2)式のようにx−y平面上の各点(x、y)において視機能回復可能性R
1を判定する。ここで、RD(t)は網膜剥離の存在期間である。
【0034】
比率Tp/Tnが比率に関する閾値未満(<Tr)であれば、視機能回復可能性判定部1331は、視細胞外節の再生は難しいと判定し、その位置(x、y)における視機能の回復可能性を示す指標(値)はゼロとして算出さる。Tp/Tnが比率に関する閾値以上(≧Tr)であれば、視機能回復可能性は(2’)式により算出される。また、病変候補の存在期間(網膜剥離RDの存在期間RD(t))が長いほど視細胞の栄養状態が悪いと考えられるため、(1/病変候補の存在期間(RD(t))を乗じることにより、R
1はより低い値になる。なお、網膜剥離の存在期間RD(t)の情報がデータサーバ40から得られない場合は、(2’)式においてRD(t)=1としてR
1を算出する。
【0035】
ステップS430において、視機能予後予測部1332は、視機能の予後予測に関する指標(値)として視機能低下危険度P
1を算出する。これは、将来的に視機能が低下する可能性を示す指標(値)である。ここで、RDe(x、y)はx−y平面上の各点(x、y)における病変候補(網膜剥離)の有無に応じて設定される値である。例えば、病変検出部132により位置座標(x、y)において網膜剥離が有ればRDe(x、y)=1、網膜剥離が無ければRDe(x、y)=0と設定される。視機能予後予測部1332は、視細胞の密度分布を示す正常値データ(ω)と、病変候補の有無に応じて設定される設定データ(RDe)とを取得し、以下の(3)式の演算を行う。
【0036】
P
1= Σ{ω(a)・RDe(x、y)}} ・・・(3)
もしx−y平面上の各点(x、y)における網膜剥離の存在期間RD(t)が分かっている場合には、視機能低下時期の推定値P
1’を(3’)により生成することも可能である。
【0037】
P
1’= Σ{ω(a)・(Td −RD(t))} ・・・(3’)
ここで、Tdは視細胞外節が脈絡膜からの栄養供給なしに生存可能な最大期間を表すデータであり、データサーバ40または記憶部120から取得可能である。
【0038】
(診断支援情報出力処理)
次に
図5を参照して、S250で実行される処理の詳細について説明する。
【0039】
ステップS510において、診断支援情報出力部140は、画像処理部130より視機能影響度、視機能回復可能性、および視機能低下危険度に関するデータを取得する。そして、診断支援情報出力部140は、それぞれの情報を視機能影響度情報出力部141、視機能回復可能性情報出力部142、および視機能予後予測情報出力部143に送信する。
【0040】
ステップS520において、視機能影響度情報出力部141は、ステップS410で算出されたx−y平面上の各点での視機能への影響度、すなわち、ω(a)・Tn/Tp(x、y)を値として持つマップを生成する。このマップは、視機能への影響度を可視化したもので、撮影時点での各点(x、y)における視機能影響度を表す。また、モニタ1205(
図12)上には、視機能影響度マップだけでなく、ステップS410で算出された視機能の影響度S
1も同時に出力する。
【0041】
ステップS530において、視機能回復可能性情報出力部142は、ステップS420で算出されたx−y平面上の各点での視機能回復可能性の値((Tp(x、y)/Tn)・(1/RD(t)) もしくは0)を持つマップを生成する。また、視機能予後予測情報出力部143は、ステップS420で算出された視機能低下危険度の値(ω(a)・RDe(x、y))を持つマップを生成する。
【0042】
ここで、x−y平面上の各点(x、y)における網膜剥離の存在期間RD(t)が分かっている場合には、各点(x、y)における視機能低下時期の推定値、すなわちω(a)・(Td −RD(t))を値として持つマップを生成する。ここで、Tdは視細胞外節が脈絡膜からの栄養供給なしに生存可能な最大期間を表す。
【0043】
モニタ1205上には上記のマップの他、視機能回復可能性に関する指標R
1、視機能低下危険度に関する指標P
1、視機能低下時期推定値に関する指標P
1’も出力可能である。
【0044】
本実施形態によれば、画像処理装置は、視細胞外節厚の菲薄化領域と中心窩との位置関係に応じて視機能への影響度を示す値を計算する。また網膜剥離の有無を調べ、視細胞外節厚および網膜剥離の有無の情報を用いて視機能の低下危険度も併せて算出する。これにより、黄斑疾患の断層像から病変候補の視機能への影響および視機能の予後を予測することができる。
【0045】
(第2実施形態)
本実施形態は、第1実施形態に対し、視機能への影響が発生する場合として層形状異常ではなく、白斑EXのような滲出病変が中心窩F1下に集積する場合を考える。白斑EXを抽出し、白斑EXの分布と中心窩F1などの眼部特徴との位置関係に基づいて視機能への影響および視機能の予後を予測するようにしたものである。
【0046】
本実施形態に係る画像処理装置10と接続可能な機器の構成および画像処理装置10の機能構成は第1実施形態と同じである。また本実施形態での画像処理フローは、
図2のS230、S240、S250における処理を除けば第1実施形態における画像処理フロー(
図2)と同じである。そこで、ここではS230、S240、S250における処理のみを説明する。
図6に示すように、糖尿病網膜症の網膜内には、網膜血管から漏出した脂質やたんぱく質が集積して白斑EXと呼ばれる塊状の高輝度領域が形成される。白斑EXは主に外網状層付近に形成されることが多く、白斑EXが存在する部位では入射光が遮断されて視細胞C1に光が届かなくなるため、視力が低下する。特に白斑EXの存在位置が中心窩F1に近いほど、錐体密度が高いために視機能への影響が大きい。
【0047】
また網膜剥離RDが中心窩F1の下に存在すると、網膜剥離RDに向かって白斑EXが集積しやすいことが経験的に知られている。いったん中心窩F1の下に白斑EXが集積してしまうと、視力が著しく低下して視力の回復が見込めない。従って、白斑EXの網膜下との距離(近さ)、および網膜下へ向かって移動しているかどうかを知ることは、中心窩下への病変の集積による視機能の低下を予防する上で有用であると考えられる。
【0048】
(ステップS230の処理)
第2実施形態におけるステップS230の処理では、病変検出部132は、眼部断層像において白斑EXを病変候補として検出する。ここでは、輝度値の情報と、点集中度フィルタなどの塊状構造を強調するフィルタの出力値とを組み合わせて以下のように識別する。即ち、点集中度フィルタの出力が閾値Ta以上で、かつ断層像上の輝度値が閾値Tb以上の領域を白斑EXとする。なお、白斑EXの検出法はこれに限定されるものではなく、任意の公知の病変検出手法を用いることが可能である。また、第1実施形態の場合と同様に、S220で検出された視細胞内節外節境界B3および網膜色素上皮層境界B4で挟まれる領域内において網膜剥離RDの有無を検出する。
【0049】
次に、病変検出部132は、検出された病変(白斑EXおよび網膜剥離RD)から網膜内の白斑EXの分布を定量化する。具体的には、検出された白斑EXのラベリングを行う。ラベリングにより、白斑EXのそれぞれにラベル値が設定される。ここではラベリングの方法として領域拡張法を用いる。尚、ラベリング手法はこれに限定されるものではなく、任意の公知のラベリング手法を用いることが可能である。次に、同一のラベル値を持つ白斑EXの体積を求める。また、網膜内に網膜剥離RDが存在する場合にはラベルnの白斑EXの網膜剥離RDまでの最短距離dnを求めておく。
【0050】
(ステップS240の処理)
次に
図6および
図4に示すフローチャートを参照しながら、第2実施形態におけるS240で実行される処理の詳細について説明する。
【0051】
ステップS410において、視機能影響度判定部133は、以下の(4)式を用いて視機能への影響度を示す値S
2を算出する。ここでは視機能として視力の場合を考える。
【0052】
S
2=ΣnΣarea{ω(a)} ・・・ (4)
ここでω(a)は第1実施形態の場合と同じ錐体密度[個数/mm
2]、areaは同一ラベルを持つ白斑EXをx−y平面に投影した場合の面積を表し、nは撮像領域内に存在する白斑EXの数を表す。
【0053】
ステップS420において、視機能回復可能性判定部1331は、以下の(5)式を用いて視機能回復可能性に関する指標R
2を算出する。
【0054】
R
2 = Σn{ω(a)・d
n}・・・(5)
ここでnは検出された白斑16の総数、v
nはラベルnの白斑16の体積、d
n
ああははha
はラベルnの白斑16の重心点と網膜剥離15との距離を表す。
【0055】
ステップS430において、視機能予後予測部1332は、以下の(6)式を用いて視機能低下危険度、すなわち中心窩F1下への病変集積危険度P
2を算出する。
P
2= Σn{v
n/(d
n+1)} ・・・ (6)
(ステップS250の処理)
次に
図5を参照して、S250で実行される処理の詳細について説明する。
なお、S510は第1実施形態の場合と同じであるため説明を省略する。
【0056】
ステップS520において、視機能影響度情報出力部141は、S410で算出されたx-y平面上の各点(x、y)での視機能への影響度を示す値を有するマップ(視機能影響度マップ)を生成する。また、
図12のモニタ1205上には、視機能影響度マップだけでなく、S410で算出された視機能影響度を示す値S
2も同時に出力することが可能である。
【0057】
S530で、視機能回復可能性情報出力部142及び視機能予後予測情報出力部143は、S420で算出されたx-y平面上の各点での視機能回復可能性を示す値を有するマップ及びS430で算出された視機能低下危険度を示す値を有するマップを生成する。さらに、
図12のモニタ1205上には視機能回復可能性マップおよび視機能低下危険度マップだけでなく、視機能回復可能性に関する指標R
2、視機能低下危険度P
2も同時に出力可能である。
【0058】
以上述べた構成より、画像処理装置10は病変として白斑EXおよび網膜剥離RDを抽出し、中心窩F1などの眼部特徴との位置関係に基づいて視機能への影響および視機能の予後を予測することができる。
【0059】
(第3実施形態)
本実施形態は第1実施形態に対し、視神経乳頭部の深層に存在する篩状板L3と呼ばれる組織の形状異常によって視機能への影響が現れる場合を考える。網膜内の層境界や篩状板L3の抽出および形状計測を行い、中心窩F1だけでなくマリオット盲点などの眼部特徴との位置関係の情報も用いて視機能への影響および視機能の予後を予測するようにしたものである。
【0060】
図7(a)、(b)に示すように、視神経乳頭下には篩状板L3と呼ばれる篩(ふるい)状の膜が存在する。篩状板L3はx-y平面上から見ると円盤状であり、約600〜700の孔が開いている。その孔の中を視神経線維束、すなわち神経節細胞C1の軸索の集合体が通過して脳に向かって伸展する。眼圧が上昇すると篩状板L3が湾曲して孔の位置がずれ、軸索が圧迫されるために神経節細胞C1が死滅してしまう。
【0061】
本実施形態に係る画像処理装置10と接続可能な機器の構成は第1実施形態の場合と同じである。また、画像処理装置10の機能構成は視機能影響度判定部133に視機能回復可能性判定部1331を含まない点、診断支援情報出力部140に視機能回復可能性情報出力部142を含まない点が第1実施形態の場合と異なっている。これは、神経節細胞C1がいったん死滅して視機能に影響が出ると回復しないことを反映している。また本実施形態での画像処理フローは、
図2のS220、S230、S240、S250における処理を除けば第1実施形態における画像処理フロー(
図2)と同じである。そこで、ここではS220、S230、S240、S250における処理のみを説明する。
【0062】
(ステップS220の処理)
第3実施形態におけるステップS220の処理では、眼部特徴取得部131は、断層像から陥凹を検出することにより、視神経乳頭部および中心窩F1を検出する。さらに断層像の投影像内で網膜血管抽出を行い、陥凹内に網膜血管が存在する方を視神経乳頭部、存在しない方を中心窩F1と判定する。網膜血管の抽出方法は任意の公知の線強調フィルタを用いる。視神経乳頭の陥凹部には視細胞C1が存在しないため知覚不能であり、マリオット盲点と呼ばれる。
【0063】
次に、層境界として内境界膜B1、神経線維層境界B5、網膜色素上皮層境界B4を取得する。層境界の取得方法は第1実施形態の場合と同様であるので、ここでは省略する。さらに、以下の手順で篩状板L3を検出する。すなわち、x−y平面上で網膜色素上皮層境界B4が存在しない領域(マリオット盲点)内の各点(x、y)において、内境界膜B1より深層側(z軸の正方向側)にある閾値Tx以上の高輝度領域を検出する。篩状板L3は、x−y平面上で多数の孔の開いた円盤状の領域として検出される。なお本実施形態では神経線維層境界B5を用いるが、代わりに内網状層境界B2を取得しても良い。ただし、その場合はS230において神経線維層厚の代わりにGCC(Ganglion Cell Complex) 厚を計測する。
【0064】
(ステップS230の処理)
第3実施形態におけるステップS230の処理では、病変検出部132は、ステップS220で取得した内境界膜B1、神経線維層境界B5を用いて神経線維層厚を計測する。次に、データサーバ40より神経線維層厚の正常値の範囲を取得し、神経線維層厚が正常値の範囲から外れているマリオット盲点外の点(x’、 y’)を病変部として検出する。さらに、病変検出部132は、篩状板厚および篩状板境界の凹凸を計測し、データサーバ40より取得した篩状板厚や凹凸の正常値範囲よりも外れているマリオット盲点内の点(x、y)を病変部として検出する。
【0065】
(ステップS240の処理)
次に
図8を参照して、S240で実行される処理の詳細について説明する。ステップS810において、視機能影響度判定部133は、ステップS230で得られた神経線維層厚から以下の式(7)に従って視機能影響度を示す値S
3を算出する。
【0067】
ここで、T
n(x、y) はx−y平面上の点(x、y)における神経線維層厚の正常値(の中央値)である。T
l(x、y) はS230において神経線維層厚異常と判定されたx−y平面上の点(x、y)における神経線維層厚である。α(x、y)は中心マリオット盲点で0、それ以外では1となるような変数である。
【0068】
ステップS820において、視機能予後予測部1332は、ステップS230で得られた篩状板L3の厚み、凹凸から以下の式(8)に従って視機能低下危険度P
3を算出する。
【0069】
P
3= Σx、y{T
ns/T
s} + k・ΣyΣx{π/θ
x、y}・・・(8)
ここで、θ
x、yは篩状板の境界線を構成する制御点のうち隣接する3点(x軸方向についてはx-1、x、x+1の3点、y軸方向についてはy-1、y、 y+1の3点)のなす角度[rad]である。また、kは比例定数である。
【0070】
(ステップS250の処理)
次に
図9を参照して、S250で実行される処理の詳細について説明する。
【0071】
ステップS910において、診断支援情報出力部140は、画像処理部130より視機能影響度、視機能低下危険度に関するデータを取得し、各々視機能影響度情報出力部141、視機能予後予測情報出力部143に送信する。
【0072】
ステップS920において、視機能影響度情報出力部141は、S810で算出されたx-y平面上の各点(x、y)での視機能への影響度を示す値を有するマップ(視機能影響度マップ)を生成する。また、
図12のモニタ1205上には、視機能影響度マップだけでなく、S810で算出された視機能影響度の指標(値)も同時に出力することが可能である。
【0073】
ステップS930において、視機能予後予測情報出力部143は、S820で算出されたx-y平面上の各点での視機能低下危険度を示す値を有するマップを生成する。さらに、
図12のモニタ1205上には視機能低下危険度マップだけでなく、S820で算出された視機能低下危険度も同時に出力することが可能である。
【0074】
上述の構成によれば、画像処理装置10は視神経乳頭部において篩状板の形状異常(菲薄化もしくは凹凸)領域を抽出し、中心窩やマリオット盲点との位置関係に応じて視機能への影響度や視機能低下危険度を計算する。これにより、早期の緑内障症例において、視神経乳頭部の眼部断層像から網膜下の病変の分布による視機能への影響を判定したり、視機能の予後を予測することができる。
【0075】
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。