特許第6239050号(P6239050)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6239050
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】エレベータの電波状況診断システム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20171120BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B66B5/00 G
   B66B3/00 U
   B66B3/00 R
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-126420(P2016-126420)
(22)【出願日】2016年6月27日
【審査請求日】2016年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平賀 正明
【審査官】 岡崎 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−044001(JP,A)
【文献】 実開平01−068370(JP,U)
【文献】 特開2006−256783(JP,A)
【文献】 特開平11−049444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00− 5/28
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内に設置された無線通信用のアンテナと、
電波状況診断モードの設定により、乗りかごを最上階または最下階から一方向に診断運転する運転制御手段と、
この運転制御手段によって上記乗りかごが診断運転で移動している間、上記アンテナを用いた無線通信の状態を監視する監視手段と、
この監視手段によって通信異常が検出されたときに上記乗りかごの位置を検出する位置検出手段と、
この位置検出手段によって検出された上記乗りかごの位置を電波遮断位置として記憶し、保守員が上記電波遮断位置で上記アンテナの位置を調整する作業を行った際に、そのときの作業履歴を当該電波遮断位置に関連付けて記憶する記憶手段と
を具備したことを特徴とするエレベータの電波状況診断システム。
【請求項2】
上記運転制御手段は、
上記監視手段によって通信異常が検出されたときに上記乗りかごの運転を停止することを特徴とする請求項1記載のエレベータの電波状況診断システム。
【請求項3】
上記監視手段は、
上記電波状況診断モードの設定に伴い、上記乗りかごが診断運転で移動している間、無線通信の状態を監視し、診断運転中に無線通信が一時的に途切れる不安定な状態を通信異常として検出することを特徴とする請求項1記載のエレベータの電波状況診断システム。
【請求項4】
上記電波状況診断モードは、
エレベータ側で所定の操作により設定されることを特徴とする請求項1記載のエレベータの電波状況診断システム。
【請求項5】
上記電波状況診断モードは、
外部から無線通信による遠隔操作により設定されることを特徴とする請求項1記載のエレベータの電波状況診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、昇降路内に設置されるアンテナの電波状況を診断するためのエレベータの電波状況診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、機械室を持たないマシンルームレスタイプのエレベータでは、設置スペースの観点から昇降路内に無線通信用のアンテナが設置され、そのアンテナを介して外部の監視センタとエレベータとの間で情報がやり取りされる。
【0003】
ここで、昇降路はコンクリートと鉄製で囲まれた閉空間であるため、電波状況が不安定であり、乗りかごの位置によって電波が遮断されることがある。このため、昇降路内にアンテナを設置する場合に、乗りかごを移動させながら電波が遮断される場所を確認し、その場所で電波が入るようにアンテナ位置を調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−316720号公報
【特許文献2】特開2005−35737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、昇降路内の電波状況は周囲の建物の影響などを受けて変わりやすい。このため、その都度、保守員がリモコン等の操作により乗りかごを移動させて電波が遮断される場所を特定しなければならず、非常に手間と時間がかかっていた。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、保守員に負担をかけずに昇降路内で電波が遮断される場所を特定してアンテナ位置の調整作業をスムーズに行うことのできるエレベータの電波状況診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係るエレベータの電波状況診断システムは、昇降路内に設置された無線通信用のアンテナと、電波状況診断モードの設定により、乗りかごを最上階または最下階から一方向に診断運転する運転制御手段と、この運転制御手段によって上記乗りかごが診断運転で移動している間、上記アンテナを用いた無線通信の状態を監視する監視手段と、この監視手段によって通信異常が検出されたときに上記乗りかごの位置を検出する位置検出手段と、この位置検出手段によって検出された上記乗りかごの位置を電波遮断位置として記憶し、保守員が上記電波遮断位置で上記アンテナの位置を調整する作業を行った際に、そのときの作業履歴を当該電波遮断位置に関連付けて記憶する記憶手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は一実施形態に係るエレベータの電波状況診断システムの構成を示す図である。
図2図2は同実施形態におけるエレベータ制御装置と遠隔監視装置の機能構成を示すブロック図である。
図3図3は同実施形態におけるエレベータ制御装置に設けられた電波状況テーブルの一例を示す図である。
図4図4は同実施形態におけるエレベータの電波状況診断システムの動作を示すフローチャートである。
図5図5は同実施形態におけるアンテナ位置の調整作業の具体例を示す図である。
図6図6は同実施形態におけるエレベータ制御装置に設けられた電波状況テーブルに作業履歴を含めて記憶した場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0010】
図1は一実施形態に係るエレベータの電波状況診断システムの構成を示す図である。
【0011】
本実施形態におけるエレベータ10は、機械室を持たないマシンルームレスタイプであり、昇降路11内の上部に巻上機12が設置されている。巻上機12にはメインロープ13が巻き架けられており、そのメインロープ13の一端に乗りかご14、他端にカウンタウェイト15が連結されている。これにより、巻上機12の駆動に伴い、乗りかご14とカウンタウェイト15がメインロープ13を介してつるべ式に昇降動作する。
【0012】
巻上機12の回転軸にパルスジェネレータ(PG)と呼ばれる回転検出器16が取り付けられている。回転検出器16は、巻上機12の回転に同期してパルス信号を出力する。このパルス信号をカウントすることにより、そのカウント数から乗りかご14の位置を検出することができる。
【0013】
また、昇降路11内には、エレベータ制御装置21および遠隔監視装置22が設置されている。
【0014】
エレベータ制御装置21は、乗りかご14の運転制御などを含むエレベータ全体の制御を行う。遠隔監視装置22は、エレベータ制御装置21とは別体で設けられており、無線通信機能を備えている。遠隔監視装置22は、エレベータ制御装置21からエレベータの動作状態に関する各種情報を取得し、無線通信網24を介して監視センタ25に送信する。監視センタ25は、遠隔地に存在し、無線通信網24を介して各地域のエレベータの動作状態を遠隔監視しており、何らかの異常を検出した場合には保守員を現場に派遣するなどして対応する。
【0015】
ここで、エレベータ10側において、監視センタ25と無線通信するために必要なアンテナ23は昇降路11内に設置されている。具体的には、図示せぬガイドレールを昇降路11内に固定するためのブラケットに磁石等を用いて設置されている。このアンテナ23は、遠隔監視装置22に接続されており、監視センタ25と無線通信するために必要な所定周波数帯の電波を送受信する。
【0016】
図2はエレベータ制御装置21と遠隔監視装置22の機能構成を示すブロック図である。
【0017】
エレベータ制御装置21には、制御部31と記憶部32が設けられている。制御部31は、CPUからなり、記憶部32に記憶された所定のプログラムを読み込むことによりエレベータ動作に関わる一連の処理を実行する。この制御部31には、本システムを実現するための機能構成として、運転制御部31a、位置検出部31bが備えられている。
【0018】
運転制御部31aは、保守員が持つ保守端末40などを通じて波状況診断モードが設定されたときに、乗りかご14を最上階から最下階へ所定の速度で診断運転する。上記「所定の速度」とは、通常運転時の走行速度以下の低速度である。保守端末40は、携帯型の通信端末装置からなり、保守点検に必要な各種機能を備えている。位置検出部31bは、巻上機12の回転に同期して回転検出器16から出力されるパルス信号をカウントすることで、乗りかご14の現在位置を検出する。
【0019】
記憶部32は、ROM,RAMなどからなり、各種プログラムなどの他に、ここでは電波状況テーブル32aが設けられている。電波状況テーブル32aは、電波状況の診断結果を記憶しておくためのテーブルであり、図3に示すように、電波状況診断モードで得られた電波遮断位置がパルスデータの形で診断日と共に記憶される。
【0020】
また、遠隔監視装置22には通信部33が設けられている。通信部33は、アンテナ23を介して所定の周波数帯の無線通信処理を行う。
【0021】
次に、本システムの動作について説明する。
図4は本システムの動作を示すフローチャートであり、左側がエレベータ10側の処理、右側が監視センタ25側の処理を示している。
【0022】
まず、保守員が保守端末40を通じて電波状況診断モードを設定する(ステップA11)。詳しくは、保守端末40をエレベータ10のエレベータ制御装置21に無線接続し、所定の操作により電波状況診断モードを設定する。なお、エレベータ制御装置21に設けられた図示せぬスイッチ等を操作して電波状況診断モードを設定することでも良い。
【0023】
電波状況診断モードが設定されると、エレベータ制御装置21は、乗りかご14を最上階から最下階へ向けて所定の速度で診断運転する(ステップA12)。なお、乗りかご14を最下階から最上階に向けて所定の速度で診断運転することでも良い。
【0024】
電波状況診断モードが設定されると、エレベータ10の遠隔監視装置22から監視センタ25に対して診断運転中であることが通知される。監視センタ25では、この通知を受けて乗りかご14の診断運転中エレベータ10との間の無線通信の状態を監視する(ステップB11)。
【0025】
ここで、乗りかご14の診断運転中にエレベータ10との間の無線通信が一時的に途切れる不安定な状態が検出された場合に(ステップB12のYes)、監視センタ25では、エレベータ10側の電波状況に起因した通信異常が発生したものと判断し、その旨の異常信号を無線通信網24を介してエレベータ10に送信する(ステップB13)。
【0026】
エレベータ10側では、エレベータ制御装置21が監視センタ25から送られて来た異常信号を遠隔監視装置22を介して受信すると(ステップA13のYes)、アンテナ23の電波が遮断されたものと判断し、直ちに乗りかご14の運転を停止する(ステップA14)。
【0027】
このようして、異常信号の受信により乗りかご14の運転を停止したとき、エレベータ制御装置21は、回転検出器16から出力されるパルス信号に基づいて乗りかご14の停止位置を検出する(ステップA15)。エレベータ制御装置21は、この停止位置を電波遮断位置として取得し、図3に示した電波状況テーブル32aに現在の診断日と関連付けて記憶する(ステップA16)。
【0028】
具体的には、例えば乗りかご14が最上階に位置しているときのパルス数が「1000」であったとする。乗りかご14の移動に伴いパルス数を更新し、上記異常信号を受信したときのかご位置を示すパルス数が「30000」であったとする。このような場合、パルス数「30000」が電波遮断位置として取得され、電波状況テーブル32aに現在の診断日と関連付けて記憶されることになる。
【0029】
ここで、乗りかご14が現在停止している場所が、乗りかご14によってアンテナ23の電波が遮断される場所として特定される。したがって、乗りかご14の運転が停止したときに、保守員はその場所でアンテナ23の電波が良好に入るようにアンテナ位置の調整作業を行えば良い(ステップA17)。
【0030】
アンテナ位置の調整作業としては、具体的には、保守員が昇降路11内に入り、乗りかご14によって電波が遮断されないように、アンテナ23の角度を調整したり、アンテナ23の設置位置を水平方向あるいは垂直方向にずらすことなどである。
【0031】
ただし、昇降路11内はコンクリートと鉄製で囲まれた閉空間であり、周囲の建物の影響もあるので、電波状況が非常に複雑である。したがって、何度か診断運転を繰り返してアンテナ位置を調整することが好ましい。
【0032】
また、昇降路11内の各場所で電波が遮断される可能性もあるので、乗りかご14を最上階から最下階までの範囲で診断運転して電波状況をチェックする必要がある。この場合、電波遮断位置が検出される度(運転が停止する度)に保守員が昇降路11内に入ってアンテナ位置を調整し、診断運転を再開することでも良い。あるいは、先に最下階までの診断運転を済ませた後、電波状況テーブル32aに記憶された電波遮断位置に基づいて乗りかご14を移動させてアンテナ位置を調整することでも良い。
【0033】
また、電波状況テーブル32aには電波遮断位置が診断日に関連付けて記憶されているので、後日、保守員が同じ現場にきたときに診断日を条件にして電波遮断位置を読み出し、その電波遮断位置に乗りかご14を移動させてアンテナ位置を調整することでも良い。
【0034】
保守端末40などを通じて電波状況診断モードが解除されると(ステップA18のYes)、ここでの処理が終了し、通常の運転モードに切り替えられる。
【0035】
このように本実施形態によれば、電波状況診断モードを設定するだけで、アンテナ23の電波が遮断される場所で乗りかご14の運転が自動的に停止するので、その停止位置を電波遮断位置として容易に特定することができる。したがって、保守員自らがリモコン等の操作により乗りかごを移動させて電波が遮断される場所を探す手間がなくなり、アンテナ位置の調整作業をスムーズに行うことができる。
【0036】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態では、電波状況テーブル32aに電波遮断位置だけを診断日に関連付けて記憶しておく構成としたが、保守員がアンテナ23の位置を調整した際にその調整作業に関する情報を作業履歴として電波状況テーブル32aに記憶しておくことでも良い。
【0037】
すなわち、上記図4のステップA17において、保守員がアンテナ位置の調整作業を行う。その際、例えば図5に示すように、アンテナ23の向きを30度右(時計回り)に傾けたとする。このときの調整作業に関する情報を保守端末40からエレベータ制御装置21に入力する。これにより、エレベータ制御装置21は、その入力された情報を当該電波遮断位置に対する保守員の作業履歴として電波状況テーブル32aに記憶する。図6にこのときの電波状況テーブル32aの一例を示す。
【0038】
このように、保守員の作業履歴を含めて電波状況テーブル32aに記憶させておくことで、後日、他の保守者がアンテナ位置の調整作業を行う場合に、電波状況テーブル32aに記憶された作業履歴から前回どのように調整したのかを知ることができる。したがって、例えばアンテナ23を前回とは逆の方向に向けてしまうなどの誤った調整を防いで、作業履歴を参考にして電波遮断を改善できる方向に正しく位置調整することができる。
【0039】
また、上記実施形態では、エレベータ10側で保守員の指示により電波状況診断モードを設定して診断運転を行う構成としたが、例えば夜間などにおいて、監視センタ25側から無線通信網24を介して遠隔操作により電波状況診断モードを設定して診断運転を行い、その診断運転で検出された電波遮断位置を電波状況テーブル32aに記憶しておく構成としても良い。この場合、後日、保守員が現場に来たときに、電波状況テーブル32aに記憶された電波遮断位置に乗りかご14を移動させてアンテナ位置を調整することになる。
【0040】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、保守員に負担をかけずに昇降路内で電波が遮断される場所を特定してアンテナ位置の調整作業をスムーズに行うことのできるエレベータの電波状況診断システムを提供することができる。
【0041】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10…エレベータ、11…昇降路、12…巻上機、13…メインロープ、14…乗りかご、15…カウンタウェイト、16…回転検出器、21…エレベータ制御装置、22…遠隔監視装置、23…アンテナ、24…無線通信網、25…監視センタ、31…制御部、31a…運転制御部、31b…位置検出部、32…記憶部、32a…電波状況テーブル、33…通信部、40…保守端末。
【要約】
【課題】保守員に負担をかけずに昇降路内で電波が遮断される場所を特定してアンテナ位置の調整作業をスムーズに行う。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータの電波状況診断システムは、昇降路内に設置された無線通信用のアンテナ23と、電波状況診断モードの設定により、乗りかごを最上階または最下階から一方向に診断運転する運転制御部31aと、乗りかごが診断運転で移動している間、アンテナを用いた無線通信の状態を監視する監視センタ25と、監視センタ25によって通信異常が検出されたときに乗りかごの位置を検出する位置検出部31bと、位置検出部31bによって検出された乗りかごの位置を電波遮断位置として記憶する電波状況テーブル32aとを備える。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6