特許第6239086号(P6239086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239086
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】共重合体または組成物からなる膜
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20171120BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20171120BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20171120BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20171120BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20171120BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20171120BHJP
   C08F 216/14 20060101ALI20171120BHJP
   C08G 59/32 20060101ALI20171120BHJP
   C08K 13/02 20060101ALI20171120BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C08L63/00 Z
   C09D143/04
   C09D7/12
   C08J5/18CFC
   C08F220/18
   C08F220/56
   C08F216/14
   C08G59/32
   C08K13/02
   B32B27/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】74
(21)【出願番号】特願2016-253852(P2016-253852)
(22)【出願日】2016年12月27日
(62)【分割の表示】特願2015-511256(P2015-511256)の分割
【原出願日】2014年4月7日
(65)【公開番号】特開2017-110227(P2017-110227A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2016年12月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-83915(P2013-83915)
(32)【優先日】2013年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 光樹
(72)【発明者】
【氏名】塙 貴行
(72)【発明者】
【氏名】隈 茂教
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−020103(JP,A)
【文献】 特開2010−070735(JP,A)
【文献】 特開2009−292992(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/064003(WO,A1)
【文献】 特開平08−290531(JP,A)
【文献】 特開平11−021512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C08F 6/00−246/00
C08G 59/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位を含む共重合体(i)と、(a)共重合体(i)以外のエポキシ基を有する化合物、(c)充填材、および(d)下記一般式(7)で表されるシラン化合物(ii)以外の加水分解性基を有するシラン化合物から選ばれる少なくとも1つと、を含む組成物から得られる、厚みが100nm以下である膜。
【化1】
(上記式(1)、(2)および(3)中、a、b、およびcは各構成単位の構成単位比を示し、a=0.998〜0.001、b=0.001〜0.998、c=0.001〜0.998であり、かつa+b+c=1であり、
1は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(1−1)で表される基、または下記式(1−2)で表される基を示し、A2は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(2−1)で表される基、または下記式(2−2)で表される基を示し、A3は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(3−1)で表される基、または下記式(3−2)で表される基を示し、
1、R2、およびR3は独立して水素原子またはメチル基を示し、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基を示し、R10は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基を示し、
Mは水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、またはアミンイオンを示し;
下記式(1−1)、(1−2)、(2−1)、(2−2)、(3−1)、および(3−2)において、nおよびn2は独立して1〜10の整数であり、n1は0〜10の整数であり、mは1〜6の整数であり、m1は0〜6の整数であり、lは0〜4の整数であり、R5およびR6は独立して水素原子またはメチル基を示し、*はSO3Mと結合する側の端部、**はエポキシ基と結合する側の端部、***はSi原子と結合する側の端部を示す。)
【化2】
【化3】
(上記式(7)中、X1およびX2は、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示し、
11〜R14は、それぞれ独立して、水酸基、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、2−フェニル−エチル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示し、
qは0〜10000の整数である。)
【請求項2】
一般式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位が、それぞれ、下記一般式(4)、(5)および(6)で表される構成単位を含む請求項1に記載の膜。
【化4】
(上記式(4)、(5)および(6)中、a、b、およびcは各構成単位の構成単位比を示し、a=0.998〜0.001、b=0.001〜0.998、c=0.001〜0.998であり、かつa+b+c=1であり、
1は0〜10の整数であり、nは1〜10の整数であり、
1、R2、R3、R5、およびR6は独立して水素原子またはメチル基を示し、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基を示し、R10は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基を示し、
Mは水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、またはアミンイオンを示す。)
【請求項3】
上記共重合体(i)のGPCにより測定した重量平均分子量が500〜3,000,000である請求項1または2に記載の膜。
【請求項4】
さらに上記一般式(7)で表されるシラン化合物(ii)を含む組成物から得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜。
【請求項5】
上記共重合体(i)の重量と、上記シラン化合物(ii)のSiO2換算重量との比が99.9/0.1〜0.1/99.9の範囲にある組成物から得られる請求項4に記載の膜。
【請求項6】
加熱により得られる請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の膜からなる層(Z)と基材とを有する積層体。
【請求項8】
前記層(Z)が積層体の最外層である請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記層(Z)と基材との間に、ハードコート層を有する請求項7または8に記載の積層体。
【請求項10】
前記層(Z)と基材との間に、反射防止層を有する請求項7〜9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記層(Z)を25℃の水に浸漬して10分間超音波処理する前後の、水接触角の変化が20°以内である請求項7〜10のいずれか1項に積層体。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載の積層体を有する光学物品または光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇性、防汚性、帯電防止性を備え、耐摩耗性、耐候性に優れた親水性の共重合体または該共重合体を含む組成物から得られる膜、ならびにそれらの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック表面、ガラス表面などの基材表面に発生する曇り、汚れに対する改善要求が強まっている。
曇りの問題を解決する方法として、アクリル系オリゴマーに反応性界面活性剤を加えた防曇塗料が提案されており、この防曇塗料から得られる硬化膜は親水性と吸水性が向上するとされている(非特許文献1)。また、汚れの問題を解決する方法として、例えば、表面の親水性を向上させて、外壁等に付着した汚れ(外気疎水性物質等)を降雨または散水等によって浮き上がらせて効率的に除去するセルフクリーニング性(防汚染性)を有する防汚染材料が注目されている(非特許文献2、3)。
【0003】
本発明者らは、これらの「曇り」および「汚れ」の課題を解決するための提案としてアニオン性親水基を表面に傾斜(集中化)させる単層膜を提案した(特許文献1)。この発明によって得られる膜は、透明で親水性が高く、防曇性、防汚性、帯電防止性、速乾性(付着水の乾燥速度が速い)、および耐薬品性に優れ、なおかつ硬くて擦傷性も優れるものである。しかし、本発明者らの検討によれば耐磨耗性および耐候性において改善の余地があることがわかった。
【0004】
一般的に、基材表面の耐候性および耐摩耗性を向上させる方法として、無機化合物を基材表面にコートする方法が知られる。代表例としては、ゾルゲル反応によりシリカ化合物を眼鏡レンズハードコートする方法が挙げられる(非特許文献4)。
【0005】
シリカ化合物のハードコートは構造が密のため非常に硬く、その磨耗性はガラス並みであるが、反面、そのハードコートは、割れ易い、染色が困難である、曇り易い、汚れが付着し易くまた固着し易い、といった課題等がある。
【0006】
これらを解決する方法として、従来より様々な提案が行われている。例えば、染色性および靭性を付与する方法として、シリカにメラミン多価アルコール縮合物とエポキシ基を有するシラン化合物を配合する方法(特許文献2)、シリカにエポキシ化合物とアルミニウム錯体を配合する方法(特許文献3)、シリカに水酸基を有するアクリル系ポリマーを配合する方法(特許文献4)が提案されている。
【0007】
防曇性を付与する方法として、シリカにスチレン系スルホン酸ポリマーを配合する方法(特許文献5)が提案されている。
その他に、鋼板塗装用水分散性樹脂組成物として、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマーと、スルホン酸基等の酸基を有する重合性不飽和モノマーと、水酸基を有する重合性不飽和モノマーと、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマーとを、モノマー総量に対して各々0.1〜10wt%の使用量の範囲で乳化重合された共重合体樹脂(A)に、ジルコニウム化合物(B)とシランカップリング剤(C)が配合された組成物(特許文献6)が知られている。
【0008】
同様に、金属表面用水分散性樹脂処理剤として、エポキシ基、酸基および水酸基を含有しない重合性不飽和モノマーと、エポキシ基を有する重合性不飽和モノマーと、スルホン酸基等の酸基を有する重合性不飽和モノマーと、水酸基を有する重合性不飽和モノマーと、加水分解性シリル基を有する重合性不飽和モノマーと、特定構造の環状ウレイド基を有する重合性不飽和モノマーとを、モノマー総量に対して各々0.1〜5wt%の使用量の範囲で乳化重合されたコアシェル型樹脂(A)に、ジルコニウム化合物(B)とシランカップリング剤(C)が配合された処理剤(特許文献7)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/064003号
【特許文献2】特開昭56−22365号公報
【特許文献3】特開昭61−166824号公報
【特許文献4】特開平06−166847号公報
【特許文献5】特開平11−021512号公報
【特許文献6】特開2006−342221号公報
【特許文献7】特開2006−089589号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】東亜合成研究年報、TREND1999年 2月号、39〜44頁
【非特許文献2】高分子,44(5),307頁、1995年
【非特許文献3】未来材料,2(1),36−41頁、2002年
【非特許文献4】プラスチックレンズの技術と応用,165−166頁,シーエムシー出版,2003年6月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記特許文献5に記載された提案は親水性が高くなりやすく好ましい提案であるが、ポリマーが膜から離脱し易く、水によって親水性が低下する傾向にあり、(例えば、膜厚が小さくなるほど顕著になり)、実際に防曇性および防汚性(雨水等によるセルフクリーニング)を要求される場面に於いて使用に耐え難いといった課題を抱えていることが、本発明者らの検討でわかってきた。本発明の目的は、親水性、耐摩耗性のバランスに優れ、水による親水性の低下が少なく、さらに耐候性にも優れた膜、該膜を得ることができる重合体および重合体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、スルホン酸含有基、エポキシ基、およびアルコキシシリル基を分子内に有する共重合体(i)、およびそれら共重合体(i)を含む組成物から得られる膜が、親水性、耐摩耗性のバランスに優れ、水による親水性の低下が少なく、さらに耐候性にも優れることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち、本発明は次の[1]〜[12]に関する。
[1]下記一般式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位を含む共重合体(i)と、(a)共重合体(i)以外のエポキシ基を有する化合物、(b)多官能(メタ)アクリレート、(c)充填材、および(d)下記一般式(7)で表されるシラン化合物(ii)以外の加水分解性基を有するシラン化合物から選ばれる少なくとも1つと、を含む組成物から得られる、厚みが100nm以下である膜。
【0014】
【化1】
(上記式(1)、(2)および(3)中、a、b、およびcは各構成単位の構成単位比を示し、a=0.998〜0.001、b=0.001〜0.998、c=0.001〜0.998であり、かつa+b+c=1であり、
1は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(1−1)で表される基、または下記式(1−2)で表される基を示し、A2は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(2−1)で表される基、または下記式(2−2)で表される基を示し、A3は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(3−1)で表される基、または下記式(3−2)で表される基を示し、
1、R2、およびR3は独立して水素原子またはメチル基を示し、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基を示し、R10は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基を示し、
Mは水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、またはアミンイオンを示し;
下記式(1−1)、(1−2)、(2−1)、(2−2)、(3−1)、および(3−2)において、nおよびn2は独立して1〜10の整数であり、n1は0〜10の整数であり、mは1〜6の整数であり、m1は0〜6の整数であり、lは0〜4の整数であり、R5およびR6は独立して水素原子またはメチル基を示し、*はSO3Mと結合する側の端部、**はエポキシ基と結合する側の端部、***はSi原子と結合する側の端部を示す。)
【0015】
【化2】
【化3】
(上記式(7)中、X1およびX2は、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示し、
11〜R14は、それぞれ独立して、水酸基、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、2−フェニル−エチル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示し、
qは0〜10000の整数である。)。
[2]一般式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位が、それぞれ、下記一般式(4)、(5)および(6)で表される構成単位を含む[1]に記載の膜。
【0016】
【化4】
(上記式(4)、(5)および(6)中、a、b、およびcは各構成単位の構成単位比を示し、a=0.998〜0.001、b=0.001〜0.998、c=0.001〜0.998であり、かつa+b+c=1であり、
1は0〜10の整数であり、nは1〜10の整数であり、
1、R2、R3、R5、およびR6は独立して水素原子またはメチル基を示し、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基を示し、R10は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基を示し、
Mは水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、またはアミンイオンを示す。)
【0017】
[3]上記共重合体(i)のGPCにより測定した重量平均分子量が500〜3,000,000である項[1]または[2]に記載の膜。
[4]さらに上記一般式(7)で表されるシラン化合物(ii)を含む組成物から得られる項[1]〜[3]のいずれか1項に記載の膜。
[5]上記共重合体(i)の重量と、上記シラン化合物(ii)のSiO2換算重量との比が99.9/0.1〜0.1/99.9の範囲にある組成物から得られる項[4]に記載の膜。
[6]加熱により得られる項[1]〜[5]のいずれか1項に記載の膜。
【0018】
[7]項[1]〜[6]のいずれか1項に記載の膜からなる層(Z)と基材とを有する積層体。
[8]前記層(Z)が積層体の最外層である項[7]に記載の積層体。
[9]前記層(Z)と基材との間に、ハードコート層を有する項[7]または[8]に記載の積層体。
[10]前記層(Z)と基材との間に、反射防止層を有する項[7]〜[9]のいずれか1項に記載の積層体。
[11]前記層(Z)を25℃の水に浸漬して10分間超音波処理する前後の、水接触角の変化が20°以内である項[7]〜[10]のいずれか1項に積層体。
[12]項[7]〜[11 ]のいずれか1項に記載の積層体を有する光学物品または光学装置。
【0019】
また、本発明は次の[1’]〜[12’]にも関する。
[1’]上記一般式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位を含む共重合体(i)または該共重合体(i)を含む組成物から得られる、厚みが100nm(0.1μm)以下である膜。
[2’]一般式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位が、それぞれ、下記一般式(4)、(5)および(6)で表される構成単位を含む項[1’]に記載の膜。
【0020】
【化5】
(上記式(4)、(5)および(6)中、a、b、およびcは各構成単位の構成単位比を示し、a=0.998〜0.001、b=0.001〜0.998、c=0.001〜0.998であり、かつa+b+c=1であり、
1は0〜10の整数であり、nは1〜10の整数であり、
1、R2、R3、R5、およびR6は独立して水素原子またはメチル基を示し、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基を示し、R10は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基を示し、
Mは水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、またはアミンイオンを示す。)
【0021】
[3’]上記共重合体(i)のGPCにより測定した重量平均分子量が500〜3,000,000である項[1’]または[2’]に記載の膜。
[4’]上記共重合体(i)と、下記一般式(7)で表されるシラン化合物(ii)とを含む組成物から得られる項[1’]〜[3’]のいずれか1項に記載の膜。
【0022】
【化6】
(上記式(7)中、X1およびX2は、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示し、
11〜R14は、それぞれ独立して、水酸基、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、2−フェニル−エチル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示し、
qは0〜10000の整数である。)。
【0023】
[5’]上記共重合体(i)の重量と、上記シラン化合物(ii)のSiO2換算重量との比が99.9/0.1〜0.1/99.9の範囲にある組成物から得られる項[4’]記載の膜。
【0024】
[6’]加熱により得られる項[1’]〜[5’]のいずれか1項に記載の膜。
[7’]項[1’]〜[6’]のいずれか1項に記載の膜からなる層(Z)と基材とを有する積層体。
[8’]前記層(Z)が積層体の最外層である項[7’]に記載の積層体。
【0025】
[9’]前記層(Z)と基材との間に、ハードコート層を有する項[7’]または[8’]に記載の積層体。
[10’]前記層(Z)と基材との間に、反射防止層を有する項[7’]〜[9’]のいずれか1項に記載の積層体。
【0026】
[11’]前記層(Z)を25℃の水に浸漬して10分間超音波処理する前後の、水接触角の変化が20°以内である項[7’]〜[10’]のいずれか1項に積層体。
[12’]項[7’]〜[11’]のいずれか1項に記載の積層体を有する光学物品または光学装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明の共重合体、共重合体を含む組成物から得られる膜は、親水性、耐摩耗性のバランスに優れ、水による親水性の低下が少なく、さらに耐候性にも優れている。従って、本発明の膜を基材等に積層してなる各種積層体も提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明で用いられる共重合体(i)を構成する一般式(1)で表される構造単位を与える、代表的な炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基及びスルホン酸含有基を有する化合物での熱安定性比較データ(DSCチャート)を表す図。
図2】実施例で得られたサンプルにおける傾斜度を測定する際の、サンプルの切断方法およびスルホン酸濃度測定部位を表す図。
図3】実施例2Bの反射率を表す図。
図4】実施例1A、および比較例5Aの反射率を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の膜の作製に用いられる共重合体(i)は下記式(1)、(2)および(3)で表される構成単位を含むことを特徴とする。
【0030】
【化7】
上記式中、a、b、およびcは各構成単位の構成単位比を示し、a=0.998〜0.001、b=0.001〜0.998、c=0.001〜0.998であり、かつa+b+c=1である。
【0031】
上記式中、R1、R2、およびR3は独立して水素原子またはメチル基を示し、R4は独立して水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、またはブチル基を示し、R10は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、またはブトキシ基を示す。
【0032】
上記式中、Mは水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、またはアミンイオンを示す。
上記式中、A1は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(1−1)で表される基、または下記式(1−2)で表される基を示し、A2は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(2−1)で表される基、または下記式(2−2)で表される基を示し、A3は、単結合、炭素数1〜10である2価の炭化水素基、下記式(3−1)で表される基、または下記式(3−2)で表される基を示す。
【0033】
【化8】
上記式(1−1)、(2−1)、(2−2)、(3−2)中、nは1〜10の整数であり、mは1〜6の整数である。上記式(1−2)中、n1は0〜10の整数である。上記式(2−1)中、n2は1〜10の整数であり、m1は0〜6の整数である。上記式(2−2)および(3−2)中、lは0〜4の整数である。
【0034】
上記式(1−2)中、R5およびR6は独立して水素原子またはメチル基を示す。
上記式(1−1)および(1−2)中、*はSO3Mと結合する側の端部、上記式(2−1)および(2−2)中、**はエポキシ基と結合する側の端部、上記式(3−1)および(3−2)中、***はSi原子と結合する側の端部を示す。
【0035】
共重合体(i)は上記構成単位を含むことにより親水性および架橋反応性を示し、共重合体(i)または共重合体(i)を含む組成物からは、親水性、耐摩耗性のバランスに優れ、水による親水性の低下が少なく、さらに耐候性にも優れた膜を製造できる。
【0036】
上記式(1)のA1としては、単結合、メチレン、フェニレン、上記式(1−1)で表される基、および上記式(1−2)で表される基が好ましく、上記式(1−2)で表される基がより好ましい。
【0037】
上記式(1)のA2が式(1−2)で表される基である場合には、上記式(1)で表される構成単位は、下記式(4)で表される構成単位となる。
【0038】
【化9】
なお、上記式(4)中、a、R1、R5、R6、M、およびn1は上記式(1)のものと同義である。
【0039】
上記式(1)および(4)のMは、水素原子、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、またはアミンイオンであるが、得られる共重合体(i)の取り扱い性を考慮するとSO3Mが遊離酸の形態ではないことが好ましいため、これらMの中でも、アルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、およびアミンイオンが好ましい。
【0040】
上記アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンが好ましい。上記アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、マグネシウムイオンが好ましい。上記アンモニウムイオンとしては、テトラヒドロアンモニウムイオン(NH4+)が好ましい。上記アミンイオンとしては、トリヒドロ−メチルアミンイオン、トリヒドロ−エチルアミンイオン、トリヒドロ−プロピルアミンイオン、トリヒドロ−イソプロピルアミンイオン、トリヒドロ−ブチルアミンイオン、トリヒドロ−シクロヘキシルアミンイオン、トリヒドロ−ベンジルアミンイオン、ジヒドロ−ジメチルアミンイオン、ヒドロ−トリエチルアミンイオン、トリヒドロ−エタノールアミンイオン、ジヒドロ−ジエタノールアミンイオン、ヒドロ−トリエタノールアミンイオンが好ましい。
【0041】
上記式(2)のA2としては、上記式(2−1)で表される基、および上記式(2−2)で表される基が好ましく、上記式(2−1)で表される基がより好ましい。
上記式(2)のA2が式(2−1)で表される基である場合には、上記式(2)で表される構成単位は、下記式(5A)で表される構成単位となる。
【0042】
【化10】
上記式(5A)中、b、R2、n、n2およびm1は上記式(2)のものと同義である。
上記式(5A)で表される構成単位の中でも、下記式(5)で表される構成単位が好ましい一態様である。
【0043】
【化11】
なお、上記式(5)中、b、R2、およびnは上記式(2)のものと同義である。
【0044】
上記式(3)のA3としては、単結合、メチレン、フェニレン、および上記式(3−1)で表される基が好ましく、上記式(3−1)で表される基であることがより好ましい。
上記式(3)のA3が式(3−1)で表される基である場合には、上記式(3)で表される構成単位は、下記式(6)で表される構成単位となる。
【0045】
【化12】
なお、上記式(6)中、c、R3、R4、R10、およびnは上記式(3)のものと同義である。
【0046】
上記共重合体(i)において、a、b、およびcは各構成単位の構成単位比(構成単位のモル比)を示す(ただし、a+b+c=1である。)。そして、aは0.998〜0.001の範囲、bは0.001〜0.998の範囲、cは0.001〜0.998の範囲である。
【0047】
上記共重合体(i)の親水性を高めたい場合は、式(1)で表されるスルホン酸含有基を有する構成単位の比率aを高くすればよい。しかし、式(1)の構成単位の比率を高くしすぎると、架橋反応に寄与する基を有する式(2)および(3)の構成単位の比率が相対的に低下し、共重合体(i)、または共重合体(i)を含む組成物から形成される膜の架橋密度が低下するなどするため、靭性、耐摩耗性、耐薬品性などが低下する傾向にあり、望ましくない場合がある。
【0048】
したがって、各構成単位の構成単位比は、aは0.990〜0.400の範囲、bは0.005〜0.300の範囲、cは0.005〜0.300の範囲であることが好ましく、aは0.990〜0.600の範囲、bは0.005〜0.200の範囲、cは0.005〜0.200の範囲であることがより好ましく、aは0.980〜0.700の範囲、bは0.010〜0.150の範囲、cは0.010〜0.150の範囲であることが最も好ましい。
【0049】
また、これら各構成単位を重量基準で表現しても同様の傾向にあるといえ、式(1)、(2)および(3)の全構成単位の重量を100重量%とし、式(1)の構成単位の重量%をa'、式(2)の構成単位の重量%をb'、式(3)の構成単位の重量%をc'とした場合、a'は99.0〜20.0重量%の範囲、b'は0.5〜40.0重量%の範囲、c'は0.5〜40.0重量%の範囲であることが好ましく、a'は99.0〜40.0重量%の範囲、b'は0.5〜30.0重量%の範囲、c'は0.5〜30.0重量%の範囲であることがより好ましく、a'は98.0〜60.0重量%の範囲、b'は1.0〜20.0重量%の範囲、c'は1.0〜20.0重量%の範囲であることが最も好ましい。
【0050】
これら式(1)〜(3)で表される構成単位を含む重合体は、例えば、式(1)で表される構成単位に対応する炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基およびSO3M基を有する化合物と、式(2)で表される構成単位に対応する炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基およびエポキシ基を有する化合物と、式(3)で表される構成単位に対応する炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基およびアルコキシシリル基を有する化合物とを含む混合物を重合することにより得られる。
【0051】
したがって、上述した式(1)〜(3)で表される構成単位比および、構成単位の重量%は、式(1)で表される構成単位に対応する化合物と、式(2)で表される構成単位に対応する化合物と、式(3)で表される構成単位に対応する化合物の重合の際の仕込み割合などで制御することができる。
【0052】
式(1)で表される構成単位に対応する炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基およびSO3M基を有する化合物としては、下記一般式(1')で表される化合物が挙げられる。
【0053】
【化13】
上記式(1')中、R1、A1、およびMは上記式(1)のものと同義であり、これらの好ましい態様も同一である。
【0054】
上記式(1')で表される化合物の中でも、ビニル基を有するスルホン酸系化合物、アリル基を有するスルホン酸系化合物、イソプロペニル基を有するスルホン酸系化合物、スチリル基を有するスルホン酸系化合物、アクリロイルオキシ基またはメタクリロイルオキシ基(以下、アクリロイルオキシおよびメタクリロイルオキシを総称して(メタ)アクリロイルオキシと記載する場合がある。また、アクリルおよびメタクリルを総称して、(メタ)アクリルと記載する場合がある。)を有するスルホン酸系化合物、およびアクリルアミド基またはメタクリルアミド基(以下、アクリルアミドおよびメタクリルアミドを総称して(メタ)アクリルアミドと記載する場合がある。)を有するスルホン酸系化合物が比較的に好ましい。
【0055】
ビニル基を有するスルホン酸系化合物としては、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸リチウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸カリウム、ビニルスルホン酸ルビジウム、ビニルスルホン酸アンモニウムなどが好ましい。
【0056】
アリル基を有するスルホン酸化合物としては、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸カリウムなどが好ましい。
イソプロペニル基を有するスルホン酸系化合物としては、イソプロペニルスルホン酸ナトリウム、イソプロペニルスルホン酸カリウムなどが好ましい。
【0057】
スチリル基を有するスルホン酸系化合物としては、4−スチレンスルホン酸、4−スチレンスルホン酸リチウム、4−スチレンスルホン酸ナトリウム、3−スチレンスルホン酸ナトリウム、2−スチレンスルホン酸ナトリウム、4−スチレンスルホン酸カリウム、3−スチレンスルホン酸カリウム、2−スチレンスルホン酸カリウム、4−スチレンスルホン酸ルビジウム、4−スチレンスルホン酸カルシウム、4−スチレンスルホン酸マグネシウム、4−スチレンスルホン酸アンモニウムなどが好ましい。
【0058】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有するスルホン酸系化合物としては、スルホメチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレートナトリウム塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレートカリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートナトリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートカリウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートルビジウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートカルシウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートマグネシウム塩、3−スルホプロピル(メタ)アクリレートアンモニウム塩、6−スルホヘキシル(メタ)アクリレートカリウム塩、10−スルホデシル(メタ)アクリレートカリウム塩、5−スルホ−3−オキサペンチル(メタ)アクリレートカリウム塩、8−スルホ−3,6−ジオキサオクチル(メタ)アクリレートカリウム塩などが好ましい。
【0059】
(メタ)アクリルアミド基を有するスルホン酸系化合物としては、下記式(4')で表される化合物が好ましい。
【0060】
【化14】
上記式(4')中、R1、R5、R6、M、およびn1は上記式(4)のものと同義であり、これらの好ましい態様も同一である。
【0061】
上記式(4')で表される化合物としては、1−(メタ)アクリルアミド−メタンスルホン酸、1−(メタ)アクリルアミド−メタンスルホン酸カリウム、2−(メタ)アクリルアミド−エタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−エタンスルホン酸ナトリウム、2−(メタ)アクリルアミド−プロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−プロパンスルホン酸カリウム、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸((メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸)、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸ナトリウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸カリウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸ルビジウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸カルシウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸マグネシウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロピルスルホン酸アンモニウム塩、3−(メタ)アクリルアミド−プロパンスルホン酸カリウム塩等の(メタ)アクリロイルアミド基を有するスルホン酸化合物などが挙げられる。
【0062】
上記化合物(1')の中でも、(メタ)アクリルアミド基を有する酸系化合物が好ましく、上記式(4')で表される化合物がより好ましく、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロピルスルホン酸((メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸)、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロピルスルホン酸((メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸)アルカリ金属塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロピルスルホン酸((メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸)アルカリ土類金属塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロピルスルホン酸((メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸)アンモニウム塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロピルスルホン酸((メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸)アミン塩がさらに好ましく、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロピルスルホン酸((メタ)アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸)アルカリ金属塩が最も好ましい。
【0063】
以下、一般式(1')で表される化合物において、Mが水素原子以外のアルカリ金属イオン、1/2価のアルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、およびアミンイオンが好ましい理由について説明する。
【0064】
スルホン酸が中和されていない場合(Mが水素原子)、重合反応中に、スルホン酸基が、後述するエポキシ基を有する化合物(典型的には下記一般式(2')で表される化合物)に含まれるエポキシ基とが反応し、ゲル化する場合がある。このエポキシ基とスルホン酸基の反応について模式的な反応式を以下に記載する。
【0065】
【化15】
上記反応を抑制して、高純度の共重合体(i)を得るためには、カウンターカチオンによってスルホン酸基を中和して、スルホン酸基とエポキシ基との反応を抑制することが望ましい(同様に模式的な反応式を以下に記載する)。
【0066】
【化16】
さらに、カウンターカチオンであるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、およびアミンイオンの中では、反応抑制力と安定性が高い傾向にあるアルカリ金属イオンが好ましい傾向にある。アルカリ金属の中では、ナトリウムまたはカリウムが好ましく、カリウムがより好ましい。その理由は明確ではないが、カウンターカチオンがカリウムである場合はナトリウムよりも熱安定性が高い場合がある。参考までに、上記炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基及びスルホン酸含有基を有する化合物のうちの代表的な化合物での熱安定性比較データ(DSCチャート)を図1に掲載する。
【0067】
式(2)で表される構成単位に対応する炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基およびエポキシ基を有する化合物としては、下記一般式(2')で表される化合物が挙げられる。
【0068】
【化17】
上記式(2')中、R2、およびA2上記式(2)のものと同義であり、これらの好ましい態様も同一である。
【0069】
上記式(2')で表される化合物の中でも、ビニル基を有するエポキシ化合物、ビニルエーテル基を有するエポキシ化合物、アリルエーテル基を有するエポキシ化合物、イソプロペニルエーテル基を有するエポキシ化合物、スチリル基を有するエポキシ化合物、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するエポキシ化合物が比較的に好ましい。
【0070】
ビニル基を有するエポキシ化合物としては、ビニル−シクロヘキセンモノオキサイド、ブタジエン−モノオキシド、ペンタジエン−モノオキシド、ヘキサジエン−モノオキシドなどが好ましい。
【0071】
ビニルエーテル基を有するエポキシ化合物としては、ビニルグリシジルエーテル、ブタンジオール−ジビニルエーテルモノオキシド、シクロヘキサンジメタノール−ジビニルエーテルモノオキシド、4−グリシジルオキシメチル−1−ビニルオキシメチル−シクロヘキサン、ジエチレングリコール−ジビニルエーテルモノオキシド、トリプロピレングリコール−ジビニルエーテルモノオキシド、4−ビニルオキシ−1−グリシジルオキシ−ブタンなどが好ましい。
【0072】
アリルエーテル基を有するエポキシ化合物としては、アリル−グリシジルエーテル、アリル−エポキシエーテル、ブタンジオール−ジアリルエーテルモノオキシド、シクロヘキサンジメタノール−ジアリルエーテルモノオキシド、4−グリシジルオキシメチル−1−アリルオキシメチル−シクロヘキサン、ジエチレングリコール−ジアリルエーテルモノオキシド、トリプロピレングリコール−ジアリルエーテルモノオキシド、4−アリルオキシ−1−グリシジルオキシ−ブタンなどが好ましい。
【0073】
イソプロペニルエーテル基を有するエポキシ化合物としては、イソプロペニルグリシジルエーテル、イソプロペニルエポキシエーテル、ブタンジオール−ジイソプロペニルエーテルモノオキシド、シクロヘキサンジメタノール−ジイソプロペニルエーテルモノオキシド、4−グリシジルオキシメチル−1−イソプロペニルオキシメチル−シクロヘキサン、ジエチレングリコール−ジイソプロペニルエーテルモノオキシド、トリプロピレングリコール−ジイソプロペニルエーテルモノオキシド、4−イソプロペニルオキシ−1−グリシジルオキシ−ブタンなどが好ましい。
【0074】
スチリル基を有するエポキシ化合物としては、ジビニルベンゼン−モノオキシド、4−グリシジルオキシ−スチレン、3−グリシジルオキシ−スチレン、2−グリシジルオキシ−スチレン、4−エポキシオキシ−スチレン、スチリルカルボン酸エポキシエステル、スチリルカルボン酸グリシジルエステルなどが好ましい。
【0075】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有するエポキシ化合物としては、下記式(5')で表される化合物が好ましい。
【0076】
【化18】
上記式(5')中、R2、およびnは上記式(5)のものと同義である。
【0077】
上記式(5')で表される化合物としては、例えば、グリシジル−(メタ)アクリレート、エポキシ−(メタ)アクリレート、2−グリシジルオキシ−エチル−(メタ)アクリレート、3−グリシジルオキシ−プロピル−(メタ)アクリレート、4−グリシジルオキシ−ブチル−(メタ)アクリレート、6−グリシジルオキシ−ヘキシル−(メタ)アクリレート、5−グリシジルオキシ−3−オキサペンチル−(メタ)アクリレート、3−グリシジルオキシ−2−ヒドロキシ−プロピル−(メタ)アクリレート、2,3−ビス(グリシジルオキシ)−プロピル−(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−ジグリシジルエーテル−(メタ)アクリレート、{4−グリシジルオキシフェニル}−{(4−(メタ)アクリロイルオキシ−3−ヒドロキシ−1−オキサブチル)フェニル}−2,2−プロパン、7−グリシジルオキシ−6,6−ジメチル−2−ヒドロキシ−4−オキサヘプチル−(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0078】
上記式(2')で表される化合物の中でも、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するエポキシ化合物、アリルエーテル基を有するエポキシ化合物、スチリル基を有するエポキシ化合物が好ましく、グリシジル(メタ)アクリレート、4−グリシジルオキシ−ブチル−(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、4−グリシジルオキシスチレンがより好ましい。
【0079】
式(3)で表される構成単位に対応する炭素−炭素二重結合を有する重合性官能基およびアルコキシシリル基を有する化合物としては、下記一般式(3')で表される化合物が挙げられる。
【0080】
【化19】
上記式(3')中、R3、R4、R10、およびA3は上記式(3)のものと同義であり、これらの好ましい態様も同一である。
【0081】
上記式(3')で表される化合物の中でも、ビニル基を有するアルコキシシリル化合物、ビニルエーテル基を有するアルコキシシリル化合物、アリル基を有するアルコキシシリル化合物、イソプロペニル基を有するアルコキシシリル化合物、アリルエーテル基を有するアルコキシシリル化合物、イソプロペニルエーテル基を有するアルコキシシリル化合物、スチリル基を有するアルコキシシリル化合物、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシリル化合物が比較的に好ましい。
【0082】
ビニル基を有するアルコキシシリル化合物としては、ビニル−トリメトキシシラン、ビニル−トリエトキシシラン、ビニル−トリプロポキシシラン、ビニル−トリイソプロポキシシラン、ビニル−トリブトキシシラン、ビニル−メチルジメトキシシラン、ビニル−フェニルジメトキシシラン、ビニル−エチルジエトキシシラン、ビニル−ジエチルモノエトキシシラン、ビニル−ジメチルモノブトキシシランなどが好ましい。
【0083】
ビニルエーテル基を有するアルコキシシリル化合物としては、ビニルオキシ−エチルトリメトキシシラン、ビニルオキシ−プロピルトリメトキシシランなどが好ましい。
アリル基を有するアルコキシシリル化合物としては、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、アリルトリイソプロポキシシラン、アリルトリブトキシシラン、イソプロペニルトリエトキシシラン、アリルメチルジメトキシシラン、アリルフェニルジメトキシシラン、アリルエチルジエトキシシラン、アリルジエチルモノエトキシシラン、アリルジメチルモノブトキシシランなどが好ましい。
【0084】
アリルエーテル基を有するアルコキシシリル化合物としては、アリルオキシ−エチルトリメトキシシラン、アリルオキシ−プロピルトリメトキシシラン、アリルオキシ−プロピルトリエトキシシランなどが好ましい。
【0085】
イソプロペニルエーテル基を有するアルコキシシリル化合物としては、イソプロペニルオキシ−プロピルトリエトキシシランなどが好ましい。
スチリル基を有するアルコキシシリル化合物としては、スチリル−トリメトキシシラン、スチリル−トリエトキシシラン、スチリル−トリブトキシシラン、スチリル−メチルジメトキシシランなどが好ましい。
【0086】
(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシリル化合物としては、下記式(6')で表される化合物が好ましい。
【0087】
【化20】
上記式(6')中、R3、R4、R10、およびnは上記式(6)のものと同義である。
上記式(6')で表される化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ−エチルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−ブチル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−ヘキシル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−デシル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−トリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−トリプロポキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−トリブトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−メチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−エチルジエトキシシランなどが挙げられる。
【0088】
上記式(3')で表される化合物の中でも、ビニル基を有するアルコキシシリル化合物、スチリル基を有するアルコキシシリル化合物、および(メタ)アクリロイルオキシ基を有するアルコキシシリル化合物が好ましく、ビニル−トリメトキシシラン、ビニル−トリエトキシシラン、スチリル−トリメトキシシラン、スチリル−トリエトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ−プロピル−トリエトキシシランがより好ましい。
【0089】
上記共重合体(i)には、一般式(1)〜(3)で表される構成単位以外の他の構成単位が含まれていてもよい。
他の構成単位は、例えば、上記(1')〜(3')で表される化合物を含む単量体混合物に、他の構成単位に対応する化合物をさらに加えて、重合することにより得ることができる。
【0090】
他の構成単位に対応する化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、リン酸エチル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、チオグリシジル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン、アリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、ジビニルベンゼンおよびアリル(メタ)アクリレートを使用する場合には、共重合体(i)がゲル化しない程度に少量で用いられることが望ましい。
【0091】
式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位の全量(a+b+c)と、上記他の構成単位(d)の比(モル比)(a+b+c)/dは、通常100/0〜30/70であり、より好ましくは100/0〜50/50、さらに好ましくは100/0〜60/40の範囲である。また上記他の構成単位(d)を用いる場合には、前記モル比(a+b+c)/dは、通常99.9/0.1〜30/70の範囲であり、より好ましくは99/1〜50/50の範囲、さらに好ましくは95/5〜60/40の範囲である。なお、(a+b+c)/dは、70/30以上、望ましくは80/20以上が好ましい場合もある。また、式(1)、(2)、および(3)で表される構成単位の全量(a+b+c)と、上記他の構成単位(d)の比(質量比)(Wa+Wb+Wc)/Wdは、100/0〜30/70が好ましい場合があり、この場合さらには100/0〜50/50がより好ましく、100/0〜60/40がより好ましい。
【0092】
本発明で用いる共重合体(i)は、典型的には、式(1')で表される化合物、式(2')で表される化合物、式(3')で表される化合物、および必要に応じて含まれる他の構成単位に対応する化合物を含む混合物を、重合開始剤の存在下、溶液重合することにより得られる。上記共重合体(i)の結合形式に特に制限はないが、ラジカル重合開始剤を用いて、ラジカル重合により製造した共重合体(i)が好ましい。その場合、共重合体(i)の結合形式はランダム共重合体の結合形式となっていると考えられる。
【0093】
本発明で用いる共重合体(i)の繰り返し構造単位数および分子量は、主に、溶媒の種類、化合物(モノマー)濃度、重合開始剤量、および反応温度などで制御される。
上記共重合体(i)の繰り返し構造単位数は、通常1〜10,000の範囲であり、好ましくは3〜3,000の範囲、さらに好ましくは30〜1,500の範囲である。
【0094】
上記共重合体(i)のGPCによる重量平均分子量(Mw)は、通常500〜3,000,000の範囲であるが、耐久性および溶解性の点から、好ましくは1000〜1,000,000、さらに好ましくは10,000〜500,000である。
【0095】
また、本発明で用いる共重合体(i)のMw/Mnは通常1〜10、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4である。Mw/Mnがこの範囲にあることにより、共重合体(i)または共重合体(i)を含む組成物の溶媒に対する溶解性または分散性に優れ、得られる膜の透明性または平滑性等に優れる傾向にある。
【0096】
上記重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のニトリル類;
メチルイソブチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;
イソブチリルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;
トリス(t−ブチルパーオキシ)トリアジン、t−ブチルクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;
2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類;
α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、2,4,4−トリメチルペンチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート等のアルキルパーエステル類;
ジ−3−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジエチレングリコールビス(t−ブチルパーオキシカーボネート)等のパーカボネート類等が挙げられる。
【0097】
これら重合開始剤の添加量は、式(1')で表される化合物、式(2')で表される化合物、式(3')で表される化合物、および必要に応じて含まれる他の構成単位に対応する化合物の合計重量に対して、おおよそ0.01〜10wt%の範囲であり、好ましくは0.1〜5wt%の範囲、さらに好ましくは0.2〜3wt%の範囲である。
【0098】
重合溶媒としては、重合反応を阻害する等の不具合を起こさない溶媒であれば特に限定されないが、式(1')で表される化合物、式(2')で表される化合物、式(3')で表される化合物、および必要に応じて含まれる他の構成単位に対応する化合物の溶解性が高い高極性溶媒が良い傾向にある。
【0099】
このような重合溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、1−プロパノール、1−ブタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類、アセトニトリル、スルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等の非プロトン性極性溶媒、水、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0100】
重合温度は、主にラジカル重合開始剤の10時間半減期温度で設定されるが、おおよそ室温〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜120℃の範囲、より好ましくは40〜100℃の範囲である。
【0101】
さらに、本発明で用いられる共重合体(i)の望まれる性質および高次構造について以下説明する。
上記共重合体(i)は、高い透明性が要求される用途の膜および積層体として使用される場合があるため、透明性が高くなるアモルファス性の重合体(結晶化度が低く、Tm(融点)が測定されないか、融解熱が小さい。非晶質重合体または潜晶質重合体に相当する。)が好ましい。
【0102】
このような透明性の高い共重合体(i)は、例えば、式(1)〜(3)の各構成単位比を所望の範囲とすることにより、作製することができる。
一方、コア・シェル構造体などの高次構造を形成する場合、これらのコア・シェル構造体は、一般的にミクロンサイズの大きい粒子となり易く、ナノサイズの小さい粒子ができても、凝集等により二次粒子化して、結局大きいミクロンサイズの粒子集合体となる傾向にある。例えば、これらミクロンサイズのコア・シェル構造体は、粒子サイズが光の1/4波長(約100nm)を超えるため、光が散乱して透明性が低下するため、高い透明性を要求される用途には使用できない。
【0103】
すなわち、本発明で用いる共重合体(i)は、コアシェル等の高次構造を形成させない方が好ましい。また、一般的に、2種のポリマーまたはポリマー原料等により形成される上記のコアシェル構造体は、Tg(ガラス転移点)が2点観測される傾向にある。
【0104】
このような高次構造を形成しない共重合体(i)は、例えば、各構成単位となる化合物(モノマー)を溶媒中に溶解して行う、溶液重合により作製することができる。
このようにして生成した共重合体(i)は、通常、スルホン酸含有基を多数有する高分子量体であり、水にしか溶解しない性質を有することも多い。したがって、この場合、重合溶媒として、水を大量に用いなければ、重合反応の進行とともに、重合溶液から共重合体が析出してくる。
【0105】
そのため、重合反応終了後、濾過して乾燥するだけで目的の共重合体が得られる。
一方、重合溶液から共重合体が析出しにくい、スルホン酸含有基の数が少ない共重合体の場合は、貧溶媒に入れて析出させるか、エバポレーター等で溶媒を留去した後、貧溶媒中で撹拌し、濾過して乾燥する方法により目的の共重合体が得られる。
【0106】
本発明の共重合体(i)(代表的な共重合体の模式図を下記一般式(10)に表す。)は、その分子内に反応性のエポキシ基およびアルコキシシリル基を有するため、それらの基同士が反応(例えば、下記一般式(11)〜(14)で表された縮合反応等の架橋反応)することにより、共重合体(i)のみで硬化し、膜を形成することができる。エポキシ基およびアルコキシシリル基の反応は、通常、加熱により進行する。なお、加熱以外の硬化方法としては、例えば、放射線の一種であるマイクロ波を照射して硬化する方法などが挙げられる。
以下、それぞれの基で起こる反応について、詳細に説明する。
【0107】
【化21】
【0108】
<エポキシ基同士の反応>
エポキシ基同士の反応は一般式(11)で表され、加熱して反応させることが好ましい。加熱温度は、おおよそ30〜250℃の範囲であり、好ましくは30〜200℃の範囲、さらに好ましくは30〜150℃の範囲である。このエポキシ基同士の反応は、酸などのカチオンおよび塩基などのアニオンに代表される触媒の存在によって、反応が加速される傾向にある。
【0109】
<エポキシ基とアルコキシシリル基の反応>
エポキシ基とアルコキシシリル基の反応は、一般式(12)および一般式(14)で表される。
【0110】
一般的に、エポキシ基とアルコキシシリル基は直接反応しにくく、通常はアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基とエポキシ基との間で反応が起きる。エポキシ基とアルコキシシリル基の反応も、加熱して反応させることが好ましい。加熱温度は、おおよそ30〜300℃の範囲であり、好ましくは50〜250℃の範囲、さらに好ましくは100〜200℃の範囲である。
【0111】
アルコキシシリル基の加水分解反応およびエポキシ基とシラノール基との反応は、酸などのカチオンおよび塩基などのアニオンに代表される触媒の存在によって加速される傾向にある。このように触媒を用いた場合にも、加熱して反応させることが好ましい。加熱温度は、おおよそ30〜250℃の範囲であり、好ましくは30〜200℃の範囲、さらに好ましくは30〜180℃の範囲である。
【0112】
<アルコキシシリル基同士の反応>
アルコキシシリル基同士の反応式は、一般式(13)で表され、加熱して反応させることが好ましい。加熱温度は、おおよそ30〜250℃の範囲であり、好ましくは30〜200℃の範囲、さらに好ましくは30〜180℃の範囲である。
【0113】
また、アルコキシシリル基は、水分により比較的容易に加水分解され、シラノール基へと変換される。このシラノール基は反応性が高く、シラノール基同士の反応は、アルコキシシリル基同士の反応より容易に起こる。したがって、アルコキシシリル基同士の反応は、通常は、水分により加水分解されたシラノール基同士の反応、シラノール基とアルコキシシリル基との反応として行われる。このシラノール基同士の反応、およびシラノール基とアルコキシシリル基との反応は加熱して行うことが好ましい。加熱温度は、おおよそ30〜200℃の範囲であり、好ましくは30〜180℃の範囲、さらに好ましくは30〜150℃の範囲である。
【0114】
アルコキシシリル基同士の反応、アルコキシシリル基の加水分解反応、およびアルコキシシリル基とシラノール基との反応、およびシラノール基同士の反応は、酸などのカチオン、塩基などのアニオン、アルコキシチタンおよび酸化錫などの金属化合物に代表される触媒の存在によって、反応が加速される傾向にある。
【0115】
本発明の膜は、上述のように、共重合体(i)から作製することもできるが、共重合体(i)と共重合体(i)以外の反応性化合物との組成物から膜を作製してもよい。
この組成物中、重量比 共重合体(i)/共重合体(i)以外の反応性化合物は、おおよそ99.9/0.1〜0.1/99.9の範囲、好ましくは99.1/0.1〜0.1/99.9の範囲、より好ましくは99/1〜1/99の範囲、さらに好ましくは90/10〜10/90の範囲である。
【0116】
共重合体(i)以外の反応性化合物としては、例えば、共重合体(i)以外の加水分解性基を有するシラン化合物、共重合体(i)以外のエポキシ基を有する化合物、水酸基を有する化合物、メルカプト基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、酸無水物などの反応性化合物が挙げられる。なお、上記加水分解性基を有するシラン化合物とは、加水分解により水酸基(シラノール基)に変換され得る基(アルコキシ基またはハロゲン原子)がSi原子に1〜4個結合したシラン化合物のことである。また、酸無水物とは、無水カルボン酸構造を1個以上有する化合物のことである。
【0117】
これら反応性化合物と、共重合体(i)が有するエポキシ基との間で起こり得る反応のいくつかの例を下記一般式(20)に示す。また、これら反応性化合物と、共重合体(i)が有するアルコキシシリル基との間で起こり得る反応のいくつかの例を下記一般式(21)に示す。
【0118】
【化22】
【0119】
【化23】
【0120】
上記反応性化合物として、共重合体(i)以外のエポキシ基を有する化合物を用いた場合には、上記式(20)の反応(共重合体(i)のエポキシ基との反応)では、反応ルート(F)での反応が主として起こり、上記式(21)の反応(共重合体(i)のアルコキシシリル基との反応)では、反応ルート(A')での反応が主としておこり、硬化が起きる。
【0121】
共重合体(i)以外のエポキシ基を有する化合物としては、分子内にエポキシ基を2個以上有する多価エポキシ化合物が好ましい。多価エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAビス(グリシジルエーテル)、ビスフェノールFビス(グリシジルエーテル)、水添ビスフェノールAビス(グリシジルエーテル)、N,N',N''−トリスグリシジル−イソシアヌレート、イソシアヌレート系ポリグリシジルエーテル(日産化学 TEPIC−PAS B22,TEPIC−PAS B26)、フェノールノボラック型ポリグリシジルエーテル(DIC社 N−730,三菱化学 152)、1.1.2.2.−テトラキス(4−グリシジルオキシ−フェニル)エタン、N,N,N',N'−テトラグリシジル−ジアミノジフェニルメタン、トリメチロールプロパン−トリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(三菱化学 YDE205)、シクロヘキサンジカルボン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ジシクロデカン系ポリグリシジルエーテル(DIC社 EPICLON HP−7200L,EPICLON HP−7200H)などが挙げられる。
【0122】
上記反応性化合物として、水酸基を有する化合物を用いた場合には、上記式(20)の反応(共重合体(i)のエポキシ基との反応)では、反応ルート(B)での反応が主として起こり、上記式(21)の反応(共重合体(i)のアルコキシシリル基との反応)では、反応ルート(G)での反応が主としておこり、硬化が起きる。
【0123】
上記水酸基を有する化合物としては、水酸基を2個以上有する多価水酸基化合物が好ましい。多価水酸基化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリレンジオール、レゾルシン、ビスフェノールA、フェノールホルムアルデヒド樹脂(三井化学)、メラミンとホルムアルデヒドとの縮合反応物、メラミンとホルムアルデヒドと低級アルコールとの縮合反応物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合反応物、尿素とホルムアルデヒドと低級アルコールとの縮合反応物などが挙げられる。水酸基を有する化合物として、その他に、メラミンと低級アルコールとの縮合反応物、尿素と低級アルコールとの縮合反応物などを用いることができる。これらは、水分により容易に加水分解して水酸基を生成するため、本発明の水酸基を有する化合物として使用できる。
【0124】
上記反応性化合物として、メルカプト基を有する化合物を用いた場合には、上記式(20)の反応(共重合体(i)のエポキシ基との反応)では、反応ルート(C)での反応が主として起こり、上記式(21)の反応(共重合体(i)のアルコキシシリル基との反応)では、反応ルート(H)での反応が主としておこり、硬化が起きる。
【0125】
上記メルカプト基を有する化合物としては、メルカプト基を2個以上有する多価メルカプト化合物が好ましい。多価メルカプト化合物としては、例えば、グリセリンジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスルトールテトラキス(チオグリコレート)、ジペンタエリスルトールヘキサキス(チオグリコレート)、グリセリンジ3−メルカプトプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスルトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスルトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、エタンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、キシリレンジチオール、1,4−ジチアン−2,5−ジチオール、1,4−ジチアン−2,5−ビス(メルカプトメチル)、4−メルカプトメチル−3,6−ジチアオクタン−1,8−ジチオール、4,8−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9トリチアウンデカン−1,11−ジチオール、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパンなどが挙げられる。
【0126】
上記反応性化合物として、カルボキシル基を有する化合物を用いた場合には、上記式(20)の反応(共重合体(i)のエポキシ基との反応)では、反応ルート(D)での反応が主として起こり、上記式(21)の反応(共重合体(i)のアルコキシシリル基との反応)では、反応ルート(I)での反応が主としておこり、硬化が起きる。
【0127】
上記カルボキシル基を有する化合物としては、カルボキシル基を2個以上有する多価カルボキシル化合物が好ましい。多価カルボキシル化合物としては、例えば、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、イタコン酸、シトラコン酸、フタル酸、イソフタル酸、5−ヒドロキシ−イソフタル酸、テレフタル酸、オキシジフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、L−アスパラギン酸などが挙げられる。
【0128】
上記反応性化合物として、アミノ基を有する化合物を用いた場合には、上記式(20)の反応(共重合体(i)のエポキシ基との反応)では、反応ルート(E)での反応が主として起こり、上記式(21)の反応(共重合体(i)のアルコキシシリル基との反応)では、反応ルート(I)での反応が主としておこり、硬化が起きる。
【0129】
上記アミノ基を有する化合物としては、アミノ基を2個以上有する多価アミノ化合物が好ましい。多価アミノ化合物としては、例えば、フェニレンジアミン、トルイレンジアミン、ビス(アミノジフェニル)メタン、2.2−ビス(アミノジフェニル)−プロパン、ナフタレンジアミン、キシリレンジアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N,N'−ビス(2−アミノエチル)アミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、イソホロンジアミン、ビス(アミノジシクロヘキシル)メタン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−アラニン−L−グルタミン、L−シスチン、L−シトルリンなどが挙げられる。
【0130】
上記反応性化合物として、酸無水物を用いた場合には、上記式(20)の反応(共重合体(i)のエポキシ基との反応)では、反応ルート(G)での反応が主として起こり、上記式(21)の反応(共重合体(i)のアルコキシシリル基との反応)では、反応ルート(L)での反応が主としておこり、硬化が起きる。
【0131】
上記酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、無水オキシジフタル酸、無水ナフタレンジカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などが挙げられる。
【0132】
上記反応性化合物として、共重合体(i)以外の加水分解性基を有するシラン化合物を用いた場合には、上記式(20)の反応(共重合体(i)のエポキシ基との反応)では、反応ルート(A)での反応が主として起こり、上記式(21)の反応(共重合体(i)のアルコキシシリル基との反応)では、反応ルート(K)での反応が主としておこり、硬化が起きる。
【0133】
これら反応性化合物の中でも、加水分解性基を有するシラン化合物が好ましく、下記一般式(7)で表されるシラン化合物(ii)がより好ましい。
また、反応性化合物として、シラン化合物(ii)を用いる場合には、シラン化合物(ii)以外の加水分解性基を有するシラン化合物、共重合体(i)以外のエポキシ基を有する化合物、水酸基を有する化合物、メルカプト基を有する化合物、カルボキシル基を有する化合物、アミノ基を有する化合物、酸無水物から選ばれる少なくとも1つの化合物と、シラン化合物(ii)とを組み合わせて用いることも好ましい一態様である。
【0134】
共重合体(i)に加えて、このような特定構造のシラン化合物(ii)を含ませることにより、組成物から形成される硬化物(膜)の架橋密度が向上し、より強靭な膜が容易に作製できる。
【0135】
【化24】
上記式(7)中、qは0〜10000の整数であり、好ましくは0〜100の整数、より好ましくは0〜10の整数である。
【0136】
上記式(7)中、R11〜R14は、それぞれ独立して、水酸基、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、2−フェニル−エチル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示す。
【0137】
上記式(7)中、X1およびX2は、それぞれ独立して、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子を示す。
1、X2、および、R11〜R14が水酸基である場合には、その水酸基はSi原子に結合しているシラノール基であるため反応性が高く、場合によっては室温でも容易にシラノール基が関与する反応、例えば、シラン化合物(ii)および共重合体(i)中に含まれるシラノール基同士の脱水縮合によるシロキサン結合(Si−O−Si)を形成する反応、シラン化合物(ii)に含まれるシラノール基と共重合体(i)中のエポキシ基との反応などが起こり得る。また、X1、X2、および、R11〜R14がアルコキシ基またはハロゲン原子である場合、水酸基と同様の反応性を有し、例えばアルコキシ基またはハロゲン原子は加水分解されて水酸基(シラノール基)となった後、上述と同様のシラノール基が関与する反応が起こり得る。さらに、アルコキシ基は、水酸基よりも反応性は低いものの、比較的高温での加熱(おおよそ100℃以上)した場合には、直接縮合反応が起こり、シロキサン結合(Si−O−Si)を形成する反応などが起こり得る。したがって、Si原子に結合したX1、X2、および、R11〜R14が水酸基、アルコキシ基、またはハロゲン原子である場合には、これらにより、シラン化合物(ii)と共重合体(i)との間での架橋反応、シラン化合物(ii)同士の架橋反応などが起こり得て、共重合体(i)とシラン化合物(ii)を含む組成物を硬化させることが可能となる。
【0138】
11〜R14が水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、または2−フェニル−エチル基である場合には、上述のシロキサン結合などによる架橋反応には関与しないため、得られる膜の割れ防止および靭性付与などに寄与し得るが、膜の硬度低下も起こり得る。
【0139】
そのため、X1、X2、および、R11〜R14となる基の種類と割合により、得られる膜の物性、例えば硬度などを制御し得る。
このような膜の硬度を制御する観点からは、シラン化合物(ii)に含まれるSi原子1個あたりの、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、および2−フェニル−エチル基(シラノール基が関与する反応が起こり得ない基)の総数は、好ましくは2個以下、より好ましくは1個以下であることが望ましい。また、シラン化合物(ii)に含まれるSi原子1個あたりの、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、およびハロゲン原子(シラノール基が関与する反応が起こり得る基または原子)、ならびにシロキサン結合の総数は、好ましくは2個〜4個、より好ましくは3〜4個であることが望ましい。
【0140】
そのため、上記式(7)で表される化合物において、例えばq=0の場合には、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、および2−フェニル−エチル基(シラノール基が関与する反応が起こり得ない基)の総数は、通常0個以上2個以下であり、0個以上1個以下であることが望ましく、0個であることも好ましい態様の1つである。またq=1以上の場合は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、および2−フェニル−エチル基(シラノール基が関与する反応が起こり得ない基)の総数は、通常0個以上、2×(m+1)個以下、好ましくは0個以上、(m+1)個以下である。
【0141】
上記シラン化合物(ii)としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;
ヒドロトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、(2−フェニル−エチル)トリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン類;
ジメチルジメトキシシラン、ジヒドロジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジ(2−フェニル−エチル)ジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジアリルジメトキシシラン、ヒドロフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ヒドロビニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、フェニルビニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジ(2−フェニル−エチル)ジエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジアリルジエトキシシラン、ヒドロフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ヒドロビニルジエトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、フェニルビニルジエトキシシランなどのジアルコキシシラン類;
テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラヨードシランなどのテトラハロゲン化シラン類;
ヒドロトリブロモシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、(2−フェニル−エチル)トリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリブロモシラン、ビニルトリヨードシラン、アリルトリクロロシランなどのトリハロゲン化シラン類;
ジヒドロジブロモシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジブロモシラン、ジメチルジヨードシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジ(2−フェニル−エチル)ジクロロシラン、ジビニルジクロロシラン、ジアリルジクロロシラン、ヒドロフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、ヒドロビニルジクロロシラン、メチルビニルジクロロシラン、フェニルビニルジクロロシランなどのジハロゲン化シラン類;などが挙げられる。
【0142】
上記シラン化合物(ii)以外の加水分解性基を有するシラン化合物としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤としては、例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシラン、4−スチリルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル−メチル−ジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−ウレイドプロピル−トリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル−メチル−ジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、N,N'−ビス(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N,N'−ビス(トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N,N',N''−トリス(トリメトキシシリルプロピル)−イソシアヌレート、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらシランカップリング剤の中でも、エポキシ基を有するシランカップリング剤、例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシランなどが比較的に好ましく用いられる。
【0143】
上記シラン化合物(ii)などの加水分解性シラン化合物には、その化合物に含まれる水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、またはハロゲン原子の反応(例えば、加水分解反応、シラノール基の脱水縮合反応など)の速度を向上させることなどを目的とし、酸触媒、塩基触媒などを用いてもよい。
【0144】
上記酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、トリフロロ酢酸、酢酸、リン酸、ホウ酸、三フッ化ホウ素、酸化錫、テトラアルコキシチタンなどが挙げられる。上記塩基触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、ナトリウムアルコキシド、水酸化カリウム、アンモニア、1級アミン、2級アミン、3級アミンなどが挙げられる。
【0145】
上記酸触媒または塩基触媒の添加量は、シラン化合物(ii)を用いる場合には、共重合体(i)とシラン化合物(ii)の合計に対して、0.1〜10重量%の範囲が好ましく、0.2〜5重量%の範囲がより好ましく、0.3〜3重量%の範囲がより好ましい。
【0146】
シラン化合物(ii)を含む組成物から膜を形成する場合、種々の特性を考慮すると、共重合体(i)の重量とシラン化合物(ii)のSiO2換算重量との間の比にはさらに好ましい範囲がある。
【0147】
例えば硬度を重視する視点からは、共重合体(i)の重量とシラン化合物(ii)のSiO2換算重量との比は、好ましくは60/40〜10/90の範囲、より好ましくは50/50〜10/90範囲である。
【0148】
例えば親水性を重視する視点からは、共重合体(i)の重量とシラン化合物(ii)のSiO2換算重量との比は、好ましくは90/10〜20/80の範囲、より好ましくは70/30〜20/80の範囲である。なお、上記式(7)のSiO2換算重量は、Si(m+1)(4m+4)/2の化学式に対応する式量として計算される。
【0149】
共重合体(i)に含まれるスルホン酸含有基により、得られる膜に高い親水性が付与される。また、シラン化合物(ii)同士が架橋することにより強固な膜が得られることになり、さらにシラン化合物(ii)に由来して、その膜には優れた耐候性が付与される。共重合体(i)のエポキシ基はこのシラン化合物(ii)のシラノール基と反応(反応式を一般式(8)で掲載)し、さらに共重合体(i)のアルコキシシリル基は、シラン化合物(ii)と反応することにより、共重合体(i)をシラン化合物(ii)により形成されるシロキサン結合のネットワークに組み込ませることができる。
【0150】
【化25】
【0151】
そのため、高親水性の共重合体(i)が膜中に強固に固定化されることにより、高親水の共重合体(i)の膜からの流出が抑制され、長期間に亘って高い親水性が維持される。また高親水性の共重合体(i)がシラン化合物から形成されるシロキサン結合のネットワークに組み込まれることにより、膜に靭性が付与され、耐摩耗性が向上する。さらにネットワークを形成することにより結晶化および相分離が抑制易く、得られる膜の透明性にも優れる。さらに、その膜はSi原子を含む無機物を含有し、そのSi原子がネットワーク構造をしているので膜の安定性が高く、耐候性にも優れる。したがって、本発明の組成物からは、高親水性が長期間維持される強固な硬化物(膜)が得られる。
【0152】
一方、本発明の方法以外で実施した場合、例えば、以下の(a)〜(d)のような不具合が起こり易く、好ましい方法とは言えない場合がある。
【0153】
(a)共重合体(i)の代わりに、エポキシ基およびアルコキシシリル基がなくスルホン酸含有基を有する重合体を用いた場合、親水性は同様に高いが、水洗等によりポリマーが流出し親水性の低下が起こり易い。さらに、重合体がシロキサン結合のネットワークに取り込まれていないため強度および靭性が低くなりやすく耐磨耗性に劣る傾向にあり、重合体とシリカを主体とする相との相分離等により透明性が低下する場合もある。
【0154】
(b)共重合体(i)の代わりに、スルホン酸含有基がないエポキシ化合物、またはスルホン酸含有基がないSi化合物を用いた場合、親水化されにくい。
【0155】
(c)共重合体(i)の代わりに、シロキサン結合のネットワークに取り込まれ得る、スルホン酸含有基とエポキシ基を有する式量の小さな化合物を用いる場合、その化合物に数多くのスルホン酸含有基を導入することが困難なため、本発明よりも親水性が低くなり易い。また、その化合物は式量が小さいため移動しやすく、シロキサン結合に取り込まれない化合物が膜の表面からブリードアウトまたは流出し易いため、硬化後の性能低下、安全性の面からも好ましくない。
【0156】
(d)共重合体(i)の代わりに、スルホン酸含有基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物を混合使用した場合、スルホン酸含有基を有する化合物とエポキシ基を有する化合物が反応をしないこと、およびスルホン酸含有基を有する化合物がシラン化合物(ii)と反応しないことにより、これら化合物がシロキサン結合のネットワークに取り込まれにくく、しかもそのネットワークに欠陥も生成しやすいため、共重合体(i)を使用した場合と比較して、硬度および靭性の低下により耐磨耗性が低下し易い。また、エポキシ基を有する化合物は、共重合体(i)よりも比較的低分子で極性が低い傾向にあるため、疎水性のエポキシ基を有する化合物が表面へ移動し易くなるため、高い親水性が得られにくくなる。
【0157】
共重合体(i)およびシラン化合物(ii)を含む組成物からは、その共重合体(i)に含まれるアルコキシシリル基とシラン化合物(ii)との架橋反応だけでなく、共重合体(i)のエポキシ基とシラン化合物(ii)に由来するシラノール基とを反応させることにより、高密度に形成されるシロキサン結合のネットワークを形成することが好ましい。
【0158】
そのため、エポキシ基とシラノール基との反応を促進する硬化触媒、または硬化材を上記組成物に添加してもよい。上記硬化触媒または硬化材としては、例えば、塩酸、硫酸、トリフロロ酢酸、酢酸、リン酸、ホウ酸、アルミナ、トリアルコキシアルミニウム、アセチルアセトンアルミニウム塩、トリエチレンジアミン、2−メチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2'−メチルイミダゾール−(1')]−エチル−s−トリアジンなどが挙げられる。
【0159】
これら硬化触媒または硬化材の添加量は、共重合体(i)とシラン化合物(ii)の合計重量に対して、0.01〜30wt%の範囲が好ましく、0.1〜10wt%の範囲がより好ましく、0.2〜5wt%の範囲がより好ましい。
【0160】
上記組成物から形成される膜では、共重合体(i)に由来するスルホン酸含有基の濃度が、その膜から外表面方向に向かって次第に高くなる態様で集中化(傾斜)している場合がある。そしてこの傾斜の度合いに応じて、膜表面の親水性が高くなっているものと推測される。
【0161】
この傾斜構造を形成させる主な原理は、「予め添加された極性溶媒を蒸発させる際に、スルホン酸含有基を有する親水性の共重合体(i)を極性溶媒の蒸発に同伴させて、表面に集中化させ硬化する」ものである。
【0162】
基材上に組成物から硬化膜を形成する場合、基材と反対方向にある外表面におけるスルホン酸濃度をSaとし、基材に接する界面と外表面との中間地点におけるスルホン酸濃度をDaとした場合、スルホン酸含有基を有する本発明で用いる共重合体(i)の傾斜度は、スルホン酸の濃度比(Sa/Da)で表される。すなわち、スルホン酸の濃度比(Sa/Da)が大きいことは、多くのスルホン酸が硬化膜の外表面に集中していることを示している。このことは、スルホン酸の濃度比(Sa/Da)が大きいほど膜表面の親水性が高く、本発明の膜を親水膜として用いる上でより有利であることを意味する。ここで、上記Daについて、「基材に接する界面と外表面との中間地点」は、通常、基材に接する界面に向かって、外表面からの深さが膜厚の1/2の地点(本明細書においては、この地点を「膜厚1/2の地点」とも呼ぶ。)である。なお、SaおよびDaの説明において、「スルホン酸」および「スルホン酸濃度」なる語句は、それぞれ、「−SO3M基」および「−SO3M基の濃度」を意味する。
【0163】
本発明で得られる膜の傾斜度{スルホン酸の濃度比(Sa/Da)}は、通常1.01〜1000の範囲であり、好ましくは1.1〜100の範囲であり、さらに好ましくは1.2〜60の範囲である。また、傾斜度の下限値は、1.1以上であることがより好ましい。傾斜度が1000を超える場合には、シラン化合物(ii)のシラノール基と高親水性の共重合体(i)の反応(シロキサン結合のネットワークへの取り込み)が不完全になり易く、靭性、透明性、および耐久性(親水持続性)が低下する傾向にある。
【0164】
本発明において、スルホン酸濃度が傾斜した膜は、さらに高い親水性を示す。スルホン酸濃度が傾斜していない膜(例えば傾斜度Sa/Da=1)も高い親水性を示すが、スルホン酸濃度が傾斜している場合よりも低くなる。さらに、スルホン酸濃度が傾斜していない膜(例えば傾斜度Sa/Da=1)でスルホン酸濃度が傾斜している場合と同等の親水性を得るには、より多くの親水性の共重合体(i)が必要となる。したがって、スルホン酸濃度が傾斜した膜の場合には、高い親水性を有しつつ、シロキサン結合による架橋密度が高い状態として、硬度、擦傷性、耐摩耗性、および耐久性(親水維持性)等を向上することができる。
【0165】
本発明により得られた膜で、その−SO3M基の濃度に傾斜がある場合、得られた膜の親水性(水接触角など)と硬度とのバランスがより優れているのではないかと考えられる。
【0166】
共重合体(i)および、該共重合体(i)と反応し得るシラン化合物(ii)とを含む組成物では、通常、共重合体(i)、シラン化合物(ii)、触媒、硬化材、およびそれらを均一に溶解または分散させる溶媒を含んでいる。
【0167】
上記溶媒としては、上述の各成分を均一に溶解または分散させることができれば、いかなる溶媒でもよい。なお、かかる溶媒は1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0168】
本発明の組成物から得られる膜において、親水性の共重合体(i)を厚み方向に傾斜(スルホン酸を膜の表面に集中化)させたい場合は、SP値(溶解パラメーターσ)が高い高極性の溶媒、より具体的にはSP値(溶解パラメーターσ)が少なくとも9.3以上の溶媒を1種以上用いることが好ましい。
【0169】
SP値が9.3未満の溶媒を用いて、スルホン酸濃度が傾斜した膜を形成したい場合には、この溶媒とSP値が9.3以上の溶媒とを併用し、且つこの溶媒が、SP値が9.3以上の溶媒よりも低沸点(蒸発速度が速い)であることが好ましい。
【0170】
なお、本発明において、溶媒のSP値(溶解パラメーターσ)(cal/cm31/2は、以下の(1)〜(5)の計算式によって計算された値である。
(1)1mol当たりの蒸発潜熱 Hb=21×(273+Tb)〔単位:cal/mol〕,Tb:溶媒の沸点(℃)
(2)25℃での1mol当たりの蒸発潜熱 H25=Hb×{1+0.175×(Tb−25)/100}〔単位:cal/mol〕,Tb:溶媒の沸点(℃)
(3)分子間結合エネルギー E=H25−596〔単位:cal/mol〕
(4)溶媒1ml(cm3)当たりの分子間結合エネルギー E1=E×D/Mw〔単位:cal/cm3〕,D:密度(g/cm3),Mw:溶媒の分子量
(5)SP値: 溶解パラメーター σ=(E1)1/2 〔単位:(cal/cm31/2
【0171】
このようなSP値(溶解パラメーターσ)(cal/cm31/2が9.3以上の溶媒を用いることにより、共重合体(i)に由来する親水性のスルホン酸含有基と一定の相互作用を有するため、この混合物を基材に塗布して、その混合物から溶媒を除去する際に、塗布された混合物の外気に接する表面に溶媒と同伴して親水性のスルホン酸含有基を有する共重合体(i)が移動して、その表面に親水性のスルホン酸含有基が濃縮されることになり、本発明で得られる膜の外表面に親水基のスルホン酸含有基が集中した傾斜構造が形成される。
【0172】
一方、溶解パラメーターσ(cal/cm31/2が9.3未満であると、上述のような相互作用が弱くなるため、上述の傾斜構造が十分には形成されない。この傾斜構造をより形成しやすくする観点からは、上記溶解パラメーターσ(cal/cm31/2は9.3以上であることが好ましく、10以上であればより好ましく、11以上であればさらに好ましい。
【0173】
また本発明は、主に加熱により、硬化(シロキサン結合の形成による架橋反応)させるため、加熱条件(温度、時間、触媒、硬化材、風量など)に合わせて溶媒を蒸発させて傾斜構造を形成・固定化(硬化)させるのが通常である。従って、上述の傾斜構造を形成させつつ硬化を進めるという点では、上記溶媒の中でも硬化温度に合わせて沸点(蒸発速度)を目安として選択される傾向にある。具体的には、沸点が30〜300℃の溶媒が好ましく、沸点が40〜250℃の溶媒がより好ましく、沸点が50〜210℃の溶媒がさらに好ましい。なお、溶媒を2種以上含む混合溶媒の場合には、これら混合溶媒に含まれる最も沸点の高い溶媒の沸点が上記範囲にあればよい。
【0174】
上記溶媒として用い得る、溶解パラメーターσ(cal/cm31/2が9.3以上かつ沸点が50〜210℃の溶媒としては、例えば、
メタノール、エタノール、1−プロパノール、IPA(イソプロパノール)、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、シクロヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−メチル−1−ブタノール、イソアミルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、エチレングリコールモノアセテート、ベンジルアルコール、エチレングリコール、1.2−プロピレングリコールなどのアルコール;
シクロヘキサノン、2−メチルシクロヘキサノン、アセトンなどのケトン;
蟻酸、酢酸、プロピオン酸などのカルボン酸;
酢酸メチル、エチレングリコールジアセテートなどのカルボン酸エステル;
ジオキサン、アニソール、THF(テトラヒドロフラン)などのエーテル;
DMF(N,N'−ジメチルホルムアミド)、DMAC(N,N'−ジメチルアセトアミド)などのアミド;
アセトニトリルなどのニトリル;及び
水等が挙げられる。
【0175】
これら溶媒の中でも、溶解パラメーターσが最も高い{21.4(cal/cm31/2}水、およびアルコールが好ましい。アルコールの中では、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−メトキシエタノール(EGM)、2−エトキシエタノール、2−メトキシプロパノール(PGM)、1−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノールなどの1級アルコールが好ましい傾向にある。これらアルコールは単独でも用いられるが、水と混合して用いることも好ましい。
【0176】
溶媒に含まれる溶解パラメーターσ(cal/cm31/2が9.3以上の上記溶媒は、1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
また、上記溶媒が2以上の溶媒を含む混合溶媒である場合には、少なくともその1つが、上記溶解パラメーターの条件を満たしていればよい。混合溶媒中に含まれるその1つの溶媒の溶解パラメーターが上記条件を満たしている場合には、共重合体(i)に由来する親水性のスルホン酸含有基とその1つの溶媒とが一定の相互作用を有するため、この混合物を基材に塗布して、その混合物から溶媒を除去する際に、塗布された混合物の外気に接する表面にその1つの溶媒と同伴して親水性のスルホン酸含有基を有する共重合体(i)が移動することには変わりはなく、その結果として、表面に親水性のスルホン酸含有基が濃縮されることになるからである。
【0177】
2以上の溶媒を含む混合溶媒である場合、沸点が最も高い溶媒が傾斜構造の形成に影響を与えやすい傾向にある。そのため、混合溶媒に含まれる沸点が最も高い溶媒の溶解パラメーターσ(cal/cm31/2が9.3以上であることが好ましい。
【0178】
溶解パラメーターが9.3以上同士の混合溶媒であっても、できるだけ溶解パラメーターの高い(高極性)の溶媒を用いた方が良い。さらに高沸点側の溶媒の溶解パラメーターσ(cal/cm31/2が、低沸点側の溶媒よりも高い方がスルホン酸濃度が表面に傾斜した膜が形成し易いため、好ましい。
【0179】
2以上の溶媒を含む混合溶媒の混合比は、溶解パラメーターが最も高い溶媒/それ以外の溶媒の重量比が、好ましくは99.9/0.1〜1/99、より好ましくは99/1〜10/90、さらに好ましくは98/2〜30/70の範囲である。
【0180】
ただし、水と水以外の溶媒との混合溶媒の場合、水以外の溶媒が水と分離するような低極性溶媒であったり、水の添加量が多かったり、水よりも蒸発速度が必要以上に速い(低沸点)溶媒を混合すると、溶媒乾燥工程において、塗布された本発明の組成物が水滴状になりやすく、レベリング性の低下等により透明で平滑な膜が得られなくなる場合がある。したがって、水との混合溶媒を選択する場合は、先ず、水と馴染みやすい高極性の溶媒を用いることにより本発明の組成物が均一溶液または均一分散液になるようにすることが重要である。また、透明で平滑な膜を得るためには、水/水以外の溶媒の重量比が、80/20〜1/99であることが比較的に好ましく、70/20〜5/95であることがより好ましく、70/30〜5/95であることがさらに好ましく、60/40〜10/90であることが特に好ましい。
【0181】
水と混合する、水以外の溶媒の種類の選択方法としては、溶解パラメーターσ(cal/cm31/2が9.3以上の高極性溶媒を選択する方法が挙げられるが、その他に、溶媒乾燥工程における実測内部温度での蒸発速度比(対水の蒸発速度)Rによる選択方法が挙げられる。具体的には、乾燥工程内部温度における、水に対する蒸発速度比R=0.1〜2.0の範囲の溶媒が好ましく、蒸発速度比R=0.2〜1.8の範囲の溶媒がより好ましく、蒸発速度比Rが=0.3〜1.5の範囲の溶媒であればさらに好ましい。
【0182】
なお、本発明において、蒸発速度比Rは以下の簡易計算式(A)〜(B)によって計算される。
(A) 蒸発速度=乾燥温度での飽和蒸気圧(mmHg)×√(分子量)
(B) 水に対する蒸発速度比R=水以外の溶媒の蒸発速度/水の蒸発速度
例えば、50℃における水の蒸発速度は92.6と計算され、50℃で溶媒乾燥を行う場合の代表的な溶媒の蒸発速度比Rは、およそ以下の通り計算される。
【0183】
例えば、メタノール=4.3、エタノール=2.4、IPA(2−プロパノール)=1.8、1−プロパノール=1.0、1−ブタノール=0.4、EGM(メトキシエタノール)=0.4、EGE(エトキシエタノール)=0.3である。
【0184】
一方、本発明の別の態様として、基材上に形成され、−SO3M基(Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはアンモニウムイオンを表す。)と、Si−O−Si構造またはSi−O−C構造を有する膜であって、当該膜の外表面におけるSO3M基濃度(Sa)と、基材に接する界面と前記外表面との中間地点におけるSO3M基濃度(Da)の比(Sa/Da)が、2〜1000である硬化膜を挙げることができる。なお、Si−O−Si構造は、IRによって1090〜1010cm-1で検出され、同様にSi−O−C構造はおおよそ1100〜1200cm-1および800〜810cm-1付近で検出することができる。
【0185】
本発明の上記膜の傾斜度{スルホン酸の濃度比(Sa/Da)}は、通常1.01〜1000の範囲であり、好ましくは1.1〜100の範囲であり、より好ましくは1.2〜60の範囲であり、いずれの場合にも下限の値が1.1以上であるとより好ましい。
【0186】
また本発明の上記膜は、親水性を有すると共に、Si−O−Si構造またはSi−O−C構造を有するがため、硬度、耐摩耗性、耐候性などにも優れる。
共重合体(i)または共重合体(i)を含む組成物から得られる膜の物性を改良する目的で、共重合体(i)または組成物に、添加剤または改質剤等を添加してもよい。添加剤または改質剤としては、例えば、紫外線吸収剤、HALS(ヒンダードアミン系光安定剤)、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、充填材、顔料、色補正剤、高屈折率化剤、香料、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、タレ防止材、その他改質剤などが挙げられる。
【0187】
上記紫外線吸収剤およびHALSは、主としてさらなる耐候性向上のためなどに添加される。上記酸化防止剤およびラジカル捕捉剤は、主として耐熱性向上または劣化防止のためなどに添加される。上記充填材は、主として磨耗性向上または靭性付与などのために添加される。充填材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリオレフィン樹脂等の有機フィラー、シリカ粒子、ガラス繊維等の無機フィラーなどが挙げられる。上記顔料および染料は、主として着色のためなどに添加される。上記色補正剤は、主として補色のために添加される。色補色剤としては、例えばブルーイング剤などが挙げられる。高屈折率化剤は、主として得られる膜の高屈折率化のために添加される。高屈折率化剤としては、例えば、酸化チタン等の金属酸化物、チオエポキシ化合物などの硫黄化合物が挙げられる。上記香料は、臭気改善などのために添加される。上記界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、およびタレ防止材は、主として塗工性改良、並びに硬化膜の外観向上などのために添加される。
【0188】
上記界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(花王 エマール270J)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム(花王 ペレックスNB−L)、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王 ペレックスTR,ペレックスOT−P)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(第一工業製薬 ネオコールP)、ポリオキシアルキルアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王 ラテムルPD−104)、アルケニルコハク酸ジカリウム(花王 ラテムルSAK)、アルキルアリール、ポリオキシエチレントリデシルエーテル−リン酸エステル(第一工業製薬 プライサーフA212C)、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル−リン酸エステル(第一工業製薬 プライサーフAL)、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル(花王 エマルゲンLS−144)、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット(花王 レオドール440V)、グリセリンモノオレエート、アルキルアルカノールアミド(花王 アミノーンL−02)、ステアリルメチルアンモニウムクロリド、ステアリルベタイン(花王 アンヒトール24B)などが挙げられる。
【0189】
上記消泡剤としては、例えば、信越化学工業 KS−604、信越化学工業 KF−604、信越化学工業 KS−66、信越化学工業 KM−88P、信越化学工業 KM−601S、信越化学工業 KM−72、信越化学工業 KM−73、信越化学工業 KM−85、信越化学工業 KS−508、信越化学工業 KS−530、信越化学工業 KS−538、信越化学工業 KP−650、共栄社化学 アクアレン8020、共栄社化学 アクアレン8021N、共栄社化学 アクアレンHS−01、共栄社化学 アクアレンSB−520、共栄社化学 アクアレンSB−630などが挙げられる。
【0190】
上記レベリング剤としては、例えば、変性シリコーンオイル(信越化学工業 KF355A,信越化学工業 KF640)、信越化学工業 KP−341、信越化学工業 KP−326、信越化学工業 KP−104、信越化学工業 KP−110、共栄社化学 ポリフローKL−100、共栄社化学 ポリフローKL−800、共栄社化学 KL−800、共栄社化学 ポリフローWS、共栄社化学 ポリフローWS−30、共栄社化学 ポリフローWS−314などが挙げられる。
【0191】
上記タレ防止材としては、例えば、共栄社化学 ターレン7200−20、共栄社化学 ターレンBA−600、共栄社化学 ターレンKU−700、共栄社化学 ターレンKY−2000、共栄社化学 ターレン1450、共栄社化学 ターレン2000、共栄社化学 ターレン2200A、共栄社化学 ターレン2450、共栄社化学 ターレン2550、共栄社化学 フローノンHR−2、共栄社化学 フローノンSP−1000、共栄社化学 フローノンSP−1000AF、共栄社化学 フローノンSD−700、共栄社化学 フローノンSDR−80、共栄社化学 チクゾールK−130B、共栄社化学 チクゾールK−502、共栄社化学 チクゾールW−300、共栄社化学 チクゾールW−400LPなどが挙げられる。
【0192】
上記その他改質剤としては、例えば、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどが挙げられる。
このようにして得られる共重合体(i)または共重合体(i)およびシラン化合物(ii)を含む組成物を硬化させることにより膜を形成することができる。なお、本発明で硬化とは、例えば共重合体(i)または該共重合体(i)を含む組成物から溶媒が除去された場合に、典型的には溶媒への溶解性が減じているまたは失われていることを意味する場合がある。共重合体(i)または該共重合体(i)を含む組成物が硬化されている場合には、典型的には、共重合体(i)または共重合体(i)およびシラン化合物(ii)を含む組成物中に含まれる基(典型的には、Si原子に結合するハロゲン原子、水酸基、およびアルコキシ基、ならびにエポキシ基)を反応させることにより形成されるシロキサン結合を主としたネットワーク(架橋構造)が、膜中に形成されている。
【0193】
このような硬化は、例えば加熱によって行われることが好ましい。加熱温度は、おおよそ30〜300℃の範囲であるが、好ましくは40〜200℃の範囲、より好ましくは50〜180℃の範囲である。加熱時間は、通常0.02時間〜200時間の範囲であるが、好ましくは0.1時間〜8.0時間、より好ましくは0.3時間〜4.0時間である。
【0194】
また硬化は、加熱以外の方法でも可能である。例えば、上記共重合体(i)、または上記共重合体(i)を含む組成物に放射線の一種であるマイクロ波(代表的例:振動数2.45GHz,波長=12.2cm)を照射させて硬化させる方法が挙げられる。
【0195】
例えば、上記共重合体(i)、または上記共重合体(i)を含む組成物に、公知の多官能(メタ)アクリレート、公知の多官能エポキシ化合物、または公知の多官能ビニル化合物などを添加して、さらに必要に応じてUVラジカル重合開始剤、またはUVカチオン重合開始剤等を添加し、放射線の一種である紫外線(UV)を照射することにより硬化可能である。
【0196】
なお、放射線照射を行う場合には、シロキサン結合を主としたネットワークを膜中に確実に形成させる観点などから、加熱と放射線照射とを組み合わせて硬化することが、一つの好ましい態様である。
【0197】
放射線を用いて硬化する場合には、放射線としては波長領域が0.0001〜800nm範囲のエネルギー線を用いることができる。上記放射線は、α線、β線、γ線、X線、電子線、紫外線、可視光、マイクロ波等に分類されおり、上記共重合体(i)シラン化合物(ii)の組成などに応じて適宜選択して使用できる。これら放射線の中でも紫外線が好ましく、紫外線の出力ピークは、好ましくは200〜450nmの範囲、より好ましくは210〜445nmの範囲、さらに好ましくは220〜430nm範囲、特に好ましくは230〜400nmの範囲である。上記出力ピークの範囲の紫外線を用いた場合には、硬化時の黄変及び熱変形等の不具合が少なく、且つ紫外線吸収剤を添加した場合も比較的に短時間で硬化を完結できる。また紫外線ランプの種類としては、通常の有電極UV(紫外線)ランプよりも、赤外線が少なく照度が高い無電極UV(紫外線)ランプの方が好ましい。さらに、上記共重合体(i)または組成物に紫外線吸収剤、またはHALSが添加される場合には、出力特性で240〜270nmにピーク強度を持つ紫外線ランプを用いたほうが好ましい傾向にある。
【0198】
本発明の上記共重合体(i)または該共重合体(i)を含む組成物を硬化する場合の雰囲気は、窒素等の不活性ガス雰囲気でもよいが、大気雰囲気が好ましい。また、雰囲気の湿度については、高湿度下では硬化膜表面が不均一になり易いためできるだけ低湿度の方が好ましいが、おおよそ20〜70%RHの範囲が好ましく、30〜60%RHの範囲がより好ましく、40〜60%RHの範囲がさらに好ましい。
【0199】
上記膜は、厚みが0.1μm(100nm)以下の膜である。このような厚みを有する膜は、多層構造からなる光学物品または光学装置で有用であり、上記膜の下層の機能を損なうことなく発揮させ、かつ上記膜の防曇、防汚、帯電防止機能を発現させる場合に有用である。
【0200】
例えば多層構造からなる光学物品または光学装置の例としてメガネレンズがある。メガネレンズは一般的にメガネレンズ基材にHC(ハードコート)層、AR(反射防止)層のどちらか一方、または両方を積層させたものからなる。このように高い透明性が要求される光学用途では先ず、使用される光学系基材用の材料自身の透明性が高く透過光の内部損失(散乱等)が少ないことが好ましい。加えて、AR(反射防止)層等により表面の光の反射を低減してさらに高い透明性を実現している場合が多い。ところが、この反射防止層の上に、一般用途と同様にミクロンオーダー以上の膜を積層すると、積層された膜表面で反射が起こり透明性が低下するため、膜の厚みは小さくする方向にある。また、HC(ハードコート)層等により耐擦傷性機能を付与している場合が多い。しかし、このHC層上にHC層よりも擦傷性の低い膜をミクロンオーダー以上積層すると、HC層の耐擦傷性機能を損なうため、膜の厚みは小さくする方向にある。好適な厚みは、例えば、0.1〜100nm(0.0001〜0.1μm)の範囲、より好ましくは0.5〜10nm(0.0005〜0.01μm)の範囲、さらに好ましくは1〜5nm(0.001〜0.005μm)の範囲である。
【0201】
上記膜は、例えば、上記共重合体(i)または該共重合体(i)を含む組成物を後述する基材に塗布してこれを硬化することにより作製することができる。
上記共重合体(i)または該共重合体(i)を含む組成物を基材に塗布する方法としては、例えば、刷毛塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤーバー法、バーコーター法、ブレード法、ロールコーティング法、スピンコート法、ディッピング法、その他公知のコーティング方法が挙げられる。
【0202】
塗布量は、膜の厚みが所望の範囲となるように設定すればよい。上記膜の厚さは、好ましくは0.1〜100nmの範囲、より好ましくは0.5〜10nmの範囲、さらに好ましくは1〜5nmの範囲である。
【0203】
例えば、高い透明性が要求される光学用途等では、先ず、使用される光学系基材用の材料自身の透明性が高く透過光の内部損失(散乱等)が少ないことが好ましい。加えて、AR(反射防止)層等により表面の光の反射を低減してさらに高い透明性を実現している場合が多い。ところが、この反射防止層の上に、一般用途と同様にミクロンオーダー以上の膜を積層すると、積層された膜表面で反射が起こるため透明性が低下するため、膜の厚みは小さくする方向にある。具体的に、反射防止膜が積層されたような光学系基材上での好適な厚みは、例えば、0.1〜100nm(0.0001〜0.1μm)の範囲、より好ましくは0.5〜10nm(0.0005〜0.01μm)の範囲、さらに好ましくは1〜5nm(0.001〜0.005μm)の範囲である。
【0204】
また、共重合体(i)、または該共重合体(i)を含む組成物を上述の条件で基材などの上に塗布して硬化することにより、膜からなる層(Z)を少なくとも1層と、基材とを有する積層体を作製し、得られる積層体をそのままの状態で用いることもできる。
【0205】
上記基材となる材料としては、例えば、PMMA、ポリカーボネート(PC)、PET、ABS、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(チオ)ウレタン樹脂、ポリ(チオ)ウレア樹脂、および(チオ)エポキシ樹脂などの有機材料、ガラス、鉄、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、金、銀、銅、金属酸化物、セラミックス、セメント、スレート、大理石や御影石、モルタルなどの無機材料、ガラス繊維、炭酸カルシウムなどの無機材料と不飽和ポリエステル樹脂などの有機材料とを複合化したSMC(シート・モールディング・コンパウンド)等のコンポジット材料などが挙げられる。
【0206】
このような有機材料、無機材料、コンポジット材料からそれぞれなる有機基材、無機基材、コンポジット基材はそのまま用いることもできるが、種々の表面処理を行ってから使用してもよい。表面処理を行うことにより、例えば、上記基材と膜(Z)からなる層の密着性を高めることができる。このような表面処理を行った基材としては、例えば、基材表面を金属メッキした基材、リン酸亜鉛水溶液等の化学薬品により基材表面の化学処理を行った基材、コロナ処理を行った基材、プラズマ処理を行った基材、グロー放電処理を行った基材、フレーム処理を行った基材、イトロ処理を行った基材、プライマー処理を行った基材、アンダーコート処理を行った基材、アンカーコート処理を行った基材などが挙げられる。
【0207】
上記プライマー処理、アンダーコート処理、またはアンカーコート処理に用いるコート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂またはその共重合体ないし変性樹脂、セルロース系樹脂等の樹脂をビヒクルの主成分とするコート剤を用いることができる。上記コート剤は、溶剤型コート剤、水性型コート剤のいずれであってもよい。
【0208】
これらコート剤の中でも、シランカップリング剤系コート剤、シランカップリング剤と充填材との混合系コート剤、変性ポリオレフィン系コート剤、エチルビニルアルコール系コート剤、ポリエチレンイミン系コート剤、ポリブタジエン系コート剤、ポリウレタン系コート剤;ポリエステル系ポリウレタンエマルジョンコート剤、ポリ塩化ビニルエマルジョンコート剤、ウレタンアクリルエマルジョンコート剤、シリコンアクリルエマルジョンコート剤、酢酸ビニルアクリルエマルジョンコート剤、アクリルエマルジョンコート剤;
スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスコート剤、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体ラテックスコート剤、メチルメタアクリレート−ブタジエン共重合体ラテックスコート剤、クロロプレンラテックスコート剤、ポリブタジェンラテックスのゴム系ラテックスコート剤、ポリアクリル酸エステルラテックスコート剤、ポリ塩化ビニリデンラテックスコート剤、ポリブタジエンラテックスコート剤、あるいはこれらラテックスコート剤に含まれる樹脂のカルボン酸変性物ラテックスもしくはディスパージョンからなるコート剤が好ましい。
【0209】
これらコ−ト剤は、例えば、グラビアコ−ト法、リバースロールコート法、ナイフコ−ト法、キスコ−ト法などにより塗布することができ、基材への塗布量は、乾燥状態で、通常0.005g/m2〜5g/m2である。
【0210】
これらコート剤の中では、シランカップリング剤系コート剤、シランカップリング剤と前記充填材との混合系コート剤、および商品名「タケラックTM」および「タケネートTM」(何れも三井化学製)に代表されるポリウレタン系コート剤がより好ましい。
【0211】
上記シランカップリング剤系コート剤、およびシランカップリング剤と前記充填材との混合系コート剤は、そのコート剤にシランカップリング剤が含まれることに特徴がある。コート剤に含まれる代表的なシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシラン、4−スチリルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピル−メチル−ジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシプロピル−トリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル−メチル−ジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−アミノプロピル−トリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピル−トリメトキシシラン、3−ウレイドプロピル−トリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、3−メルカプトプロピル−メチル−ジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、N,N'−ビス(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N,N'−ビス(トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N,N',N''−トリス(トリメトキシシリルプロピル)−イソシアヌレート、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる
【0212】
上記シランカップリング剤の中では、エポキシ基、メルカプト基、またはアミノ基を有するシランカップリング剤が比較的に好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤がより好ましく、さらに、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、N,N’−ビス(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(トリエトキシシリルプロピル)エチレンジアミンが最も好ましい。
【0213】
上記ポリウレタン系のコート剤は、そのコート剤に含まれる樹脂の主鎖あるいは側鎖にウレタン結合を有するものである。ポリウレタン系コート剤は、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、またはアクリルポリオールなどのポリオールとイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンを含むコート剤である。
【0214】
これらポリウレタン系コート剤の中でも、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオールなどのポリエステルポリオールとトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアナート、ノルボルナンジイソシアナートメチル、キシレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物とを混合して得られるポリウレタン系コート剤が、密着性に優れているため好ましい。
【0215】
ポリオール化合物とイソシアネート化合物とを混合する方法は、特に限定されない。また配合比も特に制限されないが、イソシアネート化合物が少なすぎると硬化不良を引き起こす場合があるためポリオール化合物のOH基とイソシアネート化合物のNCO基が当量換算で2/1〜1/40の範囲であることが好適である。さらに上記のポリオール化合物と上記のイソシアネート化合物に公知のシランカップリング材を添加しても良い。
【0216】
上記プライマー処理、アンダーコート処理、またはアンカーコート処理に用いるコート剤の膜厚は、用途などに応じて任意に決められる。例えば、反射防止性が要求される場合が少なくない光学系基材にコートする場合は、おおよそ0.0001μm(0.1nm)〜0.1μm(100nm)の範囲であり、0.001μm(1nm)〜0.05μm(50nm)の範囲であればより好ましい。例えば、光学系基材以外にコートする場合は、おおよそ0.1〜400μmの範囲、より好ましくは0.5〜200μmの範囲、さらに好ましくは1〜100μmの範囲である。
【0217】
また上記表面処理は、密着性向上以外の目的、例えば反射防止性の付与を目的に行うことができ、このような表面処理を行った基材としては、表面に微細な凹凸を形成したグレージング基材などが挙げられる。さらに、これら基材の表面に塗料を塗布して塗膜を形成した塗装基材を用いることもできる。
【0218】
上記基材は、1層単独で基材として用いることもできるが、有機基材、無機基材、およびコンポジット基材から選ばれる複数の基材を積層したラミネート基材としても用いることができる。
【0219】
また、レンズ、眼鏡、カメラ、表示装置(ディスプレイ)、投影装置等に代表される光学物品および光学装置に用いられる光学系基材としては、例えば上記有機材料、無機材料、ハイブリッド材料の中でも、透明性を有する材料からなる透明性基材を用いることもできる。
【0220】
本発明の積層体では、層(Z)が設けられる位置は特に制限はないが、層(Z)が積層体の最外層であることが好ましい一態様である。
また、上記基材と層(Z)とを有する積層体には、種々の機能層が設けられていてもよい。
このような機能層としては、例えば、ハードコート層、反射防止(AR)層などが挙げられる。
【0221】
上記ハードコート層としては、例えば、アクリル系材料から形成される層、シリカ材料から形成される層などが挙げられる。
上記反射防止層としては、低屈折率材料から形成される層、低屈折材料からなる層と高屈折材料からなる層を交互に積層した多層型反射防止層などが挙げられる。
【0222】
上記機能層は、基材と層(Z)との外側に設けられていてもよいが、基材と層(Z)との間、例えば基材上に設けられていてもよい。例えば、ハードコート層、反射防止層については、基材層と層(Z)との間に設けられていること、例えば基材上に設けられていることが好ましい1態様である。
【0223】
また本発明の積層体は、上記機能層を複数有していてもよい。
一般に、光学用途で該積層体を用いる場合、高い透明性が必要となる場合が多い。そのような場合には積層体の各層をできるだけ薄くすることが望ましい傾向にある。上記機能層は、公知の方法で、積層体中に設けることができる。
【0224】
また、上記積層体を作製する際には、本発明の膜からなる層(Z)と接する層が、SiO2を主成分とする層であるように積層することが好ましい1態様である。このように積層することで、層(Z)の接着性に優れた積層体が得られる傾向にある。
【0225】
特に光学系基材と層(Z)とを有する積層体の場合、防曇性に対する要求が強いため、共重合体(i)の式(1)で表される構成単位a、式(2)で表される構成単位b、および式(3)で表される構成単位cの比率については、式(1)で表される構成単位aが多い方が高い親水性が得られるために好ましい。具体的には式(1)で表される構成単位aが0.990〜0.600の範囲、式(2)で表される構成単位bが0.005〜0.200の範囲、式(3)で表される構成単位cが0.005〜0.200の範囲であることが好ましく、aが0.980〜0.700の範囲、bが0.010〜0.150の範囲、cが0.010〜0.150の範囲であることがより好ましい。
【0226】
また、共重合体(i)の重量とシラン化合物(ii)とのSiO2換算重量との比(i)/(ii)は、上記と同様に理由により共重合体(i)の比率が高い方が好ましい傾向にある。重量比で99/1〜40/60の範囲が好ましく、95/5〜60/40の範囲がより好ましい。
【0227】
上記積層体は、例えば、上記膜が防曇被膜、防汚被膜、または帯電防止被膜である場合には、例えば、防曇被膜、防汚被膜または帯電防止被膜で基材が被覆された積層体が得られる。
【0228】
例えば、基材がフィルムの場合には、本発明の膜を形成しない面に、後述の粘着層を設けることもできるし、さらに粘着層の表面に剥離フィルムを設けることもできる。基材フィルムの他の片面に粘着層を積層しておくと、本発明の膜を有する積層フィルムを防曇フィルムおよび防汚フィルムとして、ガラス、浴室等の鏡、ディスプレイ、テレビ等の表示材料表面、看板、広告、案内板等の案内板、鉄道、道路等の標識、建物の外壁、窓ガラス等に容易に貼付できる。
【0229】
積層体等の粘着層に用いる粘着剤は特に制限はなく、公知の粘着剤を用いることができる。粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルエーテルポリマー系粘着剤、およびシリコーン粘着剤等が挙げられる。粘着層の厚さは通常2〜50μmの範囲、好ましくは5〜30μmの範囲である。
【0230】
また、本発明の膜および該膜を積層した積層体では、膜の外気に接する表面を被覆材で被覆しておいてもよい。被覆材により被覆された膜および該膜を有する積層体では、輸送、保管、陳列等する際に、膜が傷ついたり、汚れたりするのを防ぐことができる。
【0231】
上記被覆材は、例えば、上述のように共重合体(i)、または共重合体(i)を含む組成物を塗布して放射線照射を行う場合に、酸素による重合阻害を回避する目的で、上記被覆材を塗布物に密着させたまま放射線を照射して硬化させ、基材等の上に本発明の膜と被覆材を積層させたまま製品とすることもできる。このようにすることにより、膜への傷、汚れなどを防止した積層体を得ることができる。
【0232】
上記被覆材(典型的にはフィルム)として好ましく用いられる材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系重合体、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)などが挙げられる。
【0233】
本発明の積層体は、基材の形状を工夫するなどすることにより、種々の形態の積層体とすることができる。本発明により得られる膜及び積層体は、フィルム、シート、テープなどの形態で使用できる。なお、上記膜は、プライマー層として用いることもできる。
【0234】
なお、共重合体(i)または、該共重合体(i)とシラン化合物(ii)とを含む組成物は、種々の形状の鋳型内で硬化させることにより、種々の形状を有する硬化物、例えば膜、成形体などとして得ることもできる。
【0235】
本発明により得られる膜は、親水性、耐久性、耐摩耗性、および耐候性に優れ、高い防曇性、防汚性、帯電防止性、速乾性(水の蒸発)を有する。
本発明により得られる膜の水接触角は、通常30°以下、好ましくは20°以下、より好ましくは10°以下である。水接触角が上記上限値以下である膜は、親水性が高く、水となじみ(濡れ)やすく親水性材料として優れている。
【0236】
本発明により得られる膜は、好ましくは、25℃の水に浸漬して10分間超音波処理をする前後の、水接触角の変化が通常20°以内、好ましくは10°以内、さらに好ましくは5°以内である状態であることが望ましい。この状態であれば、水溶性または水に非常に馴染み易い共重合体(i)または組成物が、それら共重合体(i)または組成物に含まれる基の反応が十分に進んで、ネットワーク化または固定化することにより水で容易に溶解しなくなった状態(十分に硬化した状態)となっている。このような、特性の膜は上述のように組成物を加熱などに硬化することにより作製できる。
【0237】
したがって、本発明により得られる膜は、例えば防曇材料、防曇被膜(以下、防曇コートとも言う)、防汚材料、防汚被膜又はセルフクリーニングコート、帯電防止材、速乾性材料又は速乾性コート、及び帯電防止被膜又はほこり付着防止コートなどに有用である。
【0238】
例えば、本発明の膜を防曇コートとして用いると膜表面に水滴が広がり水膜を形成させることができるため防曇効果に優れ、またセルフクリーニングコートとして用いると水が汚れとコーティング面の間に入り込み汚れを浮かせて除去することができるため防汚効果に優れている。また、本発明の膜は、帯電防止性に優れており、帯電防止材、及び帯電防止被膜又はほこり付着防止コートなどにも有用である。
【0239】
本発明により得られる積層体も親水性および耐久性に優れ、防曇材料、防汚材料、帯電防止材料などとして有用である。例えば、透明樹脂、ガラスなどの透明材料からなる基材に上記本発明の膜を積層することにより得られる積層体は、透明性、親水性、防曇性、防汚性、さらには、帯電防止性、速乾性、結露防止性、耐候性、耐磨耗性に優れた積層体として用いることができる。
【0240】
そのため、本発明により得られる膜及び積層体は、ボディー、ホイール、外装品、及び内装品などの自動車、船舶、航空機に代表される輸送機器用物品;外壁品、内壁品、床、家具、浴室用物品、洗面化粧室用物品、シンク、換気扇、レンジ周辺部材などのキッチン用物品、トイレ用物品、配管用物品、などの建築用物品及び住宅用物品;高速道路などに設置される遮音板などの建設用物品;衣服および布及び繊維などの衣料用部材;窓、鏡、光学フィルム、光ディスク、コンタクトレンズ、ゴーグル、反射フィルム、及び反射板、眼鏡、サングラス、カメラ、レンズ、反射防止フィルム、表示装置(タッチパネル、フラットパネル、電子ペーパーなどのディスプレイ装置)、投影装置、及びシールドなどの光学物品または光学装置;ランプ用物品及びライト用物品などの照明用物品;冷却および熱交換用のフィンなどの産業用物品;電化製品用物品、配線用物品などの電気・電子用用物品;インクジェット記録版、印刷・印字用プライマーなどの印刷用物品;化粧品容器などの日用品用物品などの多くの用途に用いることができる。
【実施例】
【0241】
以下、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
本発明において、共重合体(i)の構造の評価は下記のようにして行った。
【0242】
<共重合体の組成比>
スルホン酸含有基を有するユニット(1)、エポキシ基を有するユニット(2)、およびトリアルコキシシリル基を有するユニット(3)のユニット比(1)/(2)/(3)は13C−NMRにより分析した。測定条件を以下に記載する。
【0243】
測定条件
* 装置: ブルカー・バイオスピン製 AVANCEIII cryo−500型核磁気共鳴装置
* 測定核: 13C(125MHz)
* 測定モード: シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
* パルス幅: 45°(5.0μ秒)
* ポイント数: 64K
* 測定範囲: −25〜225ppm
* 積算回数: 1000回
* 測定溶剤: D2
* 測定温度: 室温
* 試料濃度: 40mg/0.6ml−D2
【0244】
ユニット比(1)/(2)/(3)の解析
下記式(200)のf炭素のピーク(57〜59ppm付近)、下記式(300)のk炭素のピーク(51〜52ppm付近)、および下記式(400)のt炭素のピーク(4〜6ppm付近)の積分強度比で算出した。
即ち、ユニット比(1)/(2)/(3)=f炭素ピークの積分強度/k炭素ピークの積分強度/t炭素ピークの積分強度とした。
【0245】
【化26】
【0246】
<重量平均分子量(Mw)、分散(Mw/Mn)>
Mw(重量平均分子量)、および分散Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)はGPCにより分析した。測定条件を以下に記載する。
測定条件
* 装置: 日本分光(株) GPC−900
* カラム: 昭和電工(株) Shodex Asahipac「GF−7M HQ」,Φ7.5mm×300mm
* 測定温度: 40℃
* 溶離液: 水/メタノール/NaHPO4/NaHPO4・2H2O=850.0/150.0/2.7/7.3(重量比)
* 流速: 0.5ml/min.
なお、本発明において被膜の物性評価は、下記のようにして行った。
【0247】
<水接触角の測定>
協和界面科学社製の水接触角測定装置CA−V型を用いて、1サンプルについて3箇所測定し、これら値の平均値を水接触角の値とした。
【0248】
<ヘーズの測定>
日本電色工業社製のヘーズメーターNDH2000を用いて、1サンプルについて4箇所測定し、これら値の平均値をヘーズの値とした。
【0249】
<耐擦傷性試験>
スチールウール#0000を用いて、ある一定の荷重をかけて10往復擦る。傷が入らなかった場合を〇、1〜5本の傷が入った場合を△、6本〜無数に傷が入った場合を×とした。
【0250】
<テーバー磨耗試験(JIS K 7204)>
測定機器: ロータリーアブレージョンテスター ,(株)東洋精機製作所
磨耗輪: C180 OXF
荷重: 500g(250g+250g)×2
【0251】
<密着性の評価(JIS K 7204)>
碁盤目テープ剥離試験により評価した。
【0252】
<防曇性の評価>
呼気により曇らなかった場合を〇、曇った場合を×とした。
【0253】
<防汚性の評価>
ゼブラ(株)製の油性マーカー「マッキー極細」(黒,品番MO-120-MC-BK)でマークし、その上に水滴を垂らして30秒間放置し、ティッシュペーパーでふき取る。マークがふき取れた場合を〇、ふき取れずに残った場合を×とした。
【0254】
<傾斜度の測定>
図2に示す試料調製の通り、基材10の上にコート層20を形成してなるサンプルを斜めに切断し、飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)を用いて、外表面におけるスルホン酸濃度(Sa)と、基材10に接する界面と前記外表面との中間地点におけるスルホン酸濃度(Da)とを測定し、その値から外気に接する膜の外表面と膜の内表面と外表面との中間地点のスルホン濃度比で表される傾斜度(Sa/Da)を求めた。ここで、本発明に係る積層体において、本発明に係る膜はコート層20を構成する。
【0255】
分析装置と測定条件
TOF−SIMS; ION・TOF社製 TOF−SIMS 5
1次イオン; Bi3 2+ (加速電圧25kV)
測定面積; 300〜340μm2 測定には帯電補正用電子銃を使用
【0256】
試料調製等
図2に示す通りに、基材10の表面にコート層20が設けられたサンプルを切削方向30に向かって、精密斜め切削を行った後、10×10mm2程度の大きさに切り出し、測定面にメッシュを当て、サンプルホルダーに固定し、外気と接するコート層表面40および膜の内部であるコート層内部50(膜厚1/2の地点、基材10に接するコート層の内表面)で飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF−SIMS)を用いてスルホン酸濃度を測定した。
【0257】
評価
評価は以下の計算式で行った。なお、各測定点のイオン濃度は、相対強度(トータル検出イオンに対する)を用いた。
傾斜度Sa/Da(スルホン酸濃度比,傾斜度)=コート層表面40でのスルホン酸濃度/コート層20の膜厚1/2の地点でのスルホン酸濃度
【0258】
<膜厚の測定>
測定装置および条件
装置 :電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM): JEM−2200FS(日本電子製)
加速電圧 : 200 kV
FIB(Focused Ion Beam System,集束イオンビームシステム)加工装置 : SMI2050(セイコーインスツルメンツ社製)
【0259】
試料調製等
試料の凸面中央部を切り出した後、試料最表面にPtコートおよびカーボン蒸着を行った。これをFIB加工により薄膜化し、測定検体とした。測定検体を電界放出型透過電子顕微鏡(FE−TEM)で観察し、膜厚を測定した。
【0260】
<ガラス転移点 Tgの測定>
測定装置: 島津製作所,自動示差走査熱量計 DSC−60A
測定温度範囲: −30〜200℃(昇温速度20℃/分)
リファレンス: Al2O3 10mg
サンプル: 10mg
【0261】
<密着性試験>
JIS K5600−5−6(付着性−クロスカット法)に準じて試験を行った。尚、評価は25マスを100マスに換算して剥離しなかった(密着していた)マスの数で表した。
【0262】
<L*a*b*の色評価>
コニカミノルタオプティクス株式会社,色彩色差計「CR−400」にて測定を行った。
【0263】
[合成例1]<共重合体 CH120417の製造,原料濃度15wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール559.6gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク25.0g(0.379モル)を徐々に加えて完溶させた。次にアクリルアミド−t−ブチルスルホン酸(以下ATBSと略す。)81.0g(0.382モル)を分割装入して中和(PH=7.4)を行い、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸カリウム塩(以下ATBS−Kと略す。)を含む中和混合物を作製した。
【0264】
次に、グリシジルメタクリレート(以下GMAと略す。)2.75g(0.0191モル)、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下KBM−503と略す。)5.63g(0.0191モル)とメタノール2.0gとの混合液、および重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(以下パーブチル−Oと略す。)0.14gとメタノール1.4gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温66℃)している反応フラスコに、2時間かけて三分の一ずつ分割装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で5時間重合を行った。
【0265】
室温まで冷却後、晶析した共重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体100.1g(収率96%)を得た。
【0266】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=96,000、Mw/Mn=2.9であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット/KBM−503ユニット=0.86/0.08/0.06であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。さらに得られた重合体をDSC(示差走査熱量測定,−30〜200℃範囲で測定)で分析したところ、Tg(ガラス転移点)は52℃に1点だけ観測された。
【0267】
[合成例2]<ATBS−K/GMA共重合体 CH110901の製造>
減圧下で脱ガスされたメタノール535.5gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク23.6g(0.357モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 75.7g(0.357モル)を分割装入して中和(PH=7.5)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0268】
次に、GMA 5.14g(0.036モル)と重合開始剤であるパーブチル−O 0.13gとの混合液を、得られた中和混合物を加熱還流(内温63℃)している反応フラスコに装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で4.5時間重合を行った。
【0269】
室温まで冷却後、晶析した共重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体88.8g(収率94%)を得た。
【0270】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=163,000、Mw/Mn=3.4であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット=0.87/0.13であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0271】
[合成例3]<ATBS−K/KBM−503共重合体 CH111011の製造>
減圧下で脱ガスされたメタノール400.0gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク15.7g(0.237モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 50.1g(0.237モル)を分割装入して中和(PH=7.5)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0272】
次に、KBM−503 5.99g(0.0237モル)と重合開始剤であるパーブチル−O 0.08gとの混合液を、得られた中和混合物を加熱還流(内温63℃)している反応フラスコに装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で4.5時間重合を行った。
【0273】
室温まで冷却後、晶析した共重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体65.4g(収率83%)を得た。
【0274】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=102,000、Mw/Mn=2.8であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/KBM−503ユニット=0.92/0.08であった。
【0275】
[合成例4]<共重合体 CH120531の製造,原料濃度5wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール1156.5gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク15.0g(0.227モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 48.7g(0.230モル)を分割装入して中和(PH=7.5)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0276】
次に、GMA 1.63g(0.0115モル)とKBM−503 3.34g(0.0115モル)との混合液、および重合開始剤であるパーブチル−O 0.32gとメタノール3.2gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温63℃)している反応フラスコに、2時間かけて三分の一ずつ分割装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で15時間重合を行った。
【0277】
室温まで冷却後、晶析した共重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体52.2g(収率83%)を得た。
【0278】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=34,000、Mw/Mn=1.9であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率はATBS−Kユニット/GMAユニット/KBM−503ユニット=0.88/0.06/0.06であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。さらに得られた重合体をDSC(示差走査熱量測定,−30〜200℃範囲で測定)で分析したところ、Tg(ガラス転移点)は55℃に1点だけ観測された。
【0279】
[合成例5]<共重合体 CH130117の製造,原料濃度10wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール1062.1gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク28.0g(0.424モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 89.9g(0.424モル)を分割装入して中和(PH=7.6)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0280】
次に、GMA 11.3g(0.0795モル)とメタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン(以下KBE503と略す。) 7.70g(0.0265モル)との混合液、および重合開始剤であるパーブチル−O 3.44gとメタノール34.4gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温63℃)している反応フラスコに、2時間かけて三分の一ずつ分割して装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で6時間重合を行った。
【0281】
室温まで冷却後、晶析した共重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体92.5g(収率74%)を得た。
【0282】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量Mw=71,000、Mw/Mn=2.5であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット/KBM−503ユニット=0.82/0.14/0.04であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0283】
[合成例6]<共重合体 CH120517の製造,原料濃度15wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール550.0gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク25.0g(0.379モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 81.0g(0.382モル)を分割装入して中和(PH=7.6)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0284】
次に、GMA 5.43g(0.0382モル)とKBM−503 11.10g(0.0382モル)との混合液、および重合開始剤であるパーブチル−O 0.83gとメタノール8.3gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温63℃)している反応フラスコに、1時間かけて三分の一ずつ分割して装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で5時間重合を行った。
【0285】
室温まで冷却後、晶析した共重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体101.8g(収率91%)を得た。
【0286】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=145,000、Mw/Mn=3.7であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット/KBM−503ユニット=0.83/0.09/0.08であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0287】
[合成例7]<共重合体 CH130115の製造,原料濃度10wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール1032.9gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク28.0g(0.424モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 89.9g(0.424モル)を分割装入して中和(PH=7.6)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0288】
次に、GMA 3.77g(0.0265モル)とKBE−503 23.10g(0.0795モル)との混合液、および重合開始剤であるパーブチル−O 3.44gとメタノール34.4gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温65℃)している反応フラスコに、2時間かけて三分の一ずつ分割して装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で6時間重合を行った。
【0289】
室温まで冷却後、晶析した重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体69.2g(収率52%)を得た。
【0290】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=68,000、Mw/Mn=2.5であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット/KBM−503ユニット=0.86/0.05/0.09であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0291】
[合成例8]<共重合体 CH121112の製造,原料濃度10wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール556.4gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク13.0g(0.197モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 41.7g(0.197モル)を分割装入して中和(PH=7.6)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0292】
次に、GMA 6.00g(0.0422モル)とKBM−503 10.48g(0.0422モル)との混合液、および重合開始剤であるパーブチル−O 1.83gとメタノール1.8gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温66℃)している反応フラスコに、2時間かけて三分の一ずつ分割して装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で6時間重合を行った。
【0293】
室温まで冷却後、晶析した重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体36.4g(収率55%)を得た。
【0294】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=112,000、Mw/Mn=4.6であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット/KBM−503ユニット=0.77/0.11/0.12であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0295】
[合成例9]<共重合体 CH121029の製造,原料濃度10wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール543.0gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク8.00g(0.121モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 25.7g(0.121モル)を分割装入して中和(PH=7.6)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0296】
次に、GMA 12.92g(0.0909モル)とKBM−503 22.58g(0.0909モル)との混合液、および重合開始剤であるパーブチル−O 6.56gとメタノール6.6gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温65℃)している反応フラスコに、2時間かけて三分の一ずつ分割して装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で8時間重合を行った。
【0297】
その後、得られた重合溶液をロータリーエバポレーターにより減圧濃縮し、得られた残渣にイソプロパノール590gとシクロヘキサン590gを加えて激しく混合した。
析出した重合体を濾別し、得られた濾塊をエタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体58.9g(収率89%)を得た。
【0298】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=14,000、Mw/Mn=1.8であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット/KBM−503ユニット=0.46/0.29/0.25であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0299】
[合成例10]<共重合体 CH130219の製造,原料濃度10wt%>
反応フラスコに、3−スルホプロピルアクリレート・ナトリウム塩(以下SPA−Naと略す。)52.43g(0.2425モル)、4−グリシジルオキシ−ブチルアクリレート(以下GOBAと略す。) 2.43g(0.0121モル)、3−アクリロイルオキシ−プロピルトリメトキシシラン(以下KBM−5103と略す。) 2.84g(0.0121モル)、および減圧下で脱ガスされたメタノール488.9gを装入して混合液を作製した。
【0300】
次に、撹拌条件下、この混合液を加熱還流(内温65℃)させた状態で、パーブチル−O 0.12gとメタノール1.2gとの混合液装入した後、さらに加熱還流および撹拌条件下で4時間重合を行った。
【0301】
その後、得られた重合溶液をロータリーエバポレーターにより減圧濃縮し、得られた残渣にイソプロパノール400gとシクロヘキサン400gを加えて激しく混合した。
析出した重合体を濾別し、得られた濾塊をエタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体52.5g(収率91%)を得た。
【0302】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=96,000、Mw/Mn=3.9であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 SPA−Naユニット/GOBAユニット/KBM−5103ユニット=0.91/0.05/0.04であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0303】
[合成例11]<共重合体 CH130319の製造,原料濃度10wt%>
減圧下で脱ガスされたメタノール1019.3gを反応フラスコに装入し、攪拌しながら純度85wt%のKOHフレーク30.0g(0.455モル)を徐々に加えて完溶させた。次にATBS 97.5g(0.460モル)を分割装入して中和(PH=7.6)を行い、ATBS−Kを含む中和混合物を作製した。
【0304】
次に、GMA 2.06g(0.0145モル)とKBE−503 4.21g(0.0145モル)との混合液、および重合開始剤であるパーブチル−O 3.14gとメタノール31.4gとの混合液を各々調製した。これらそれぞれを、得られた中和混合物を加熱還流(内温67℃)している反応フラスコに、2時間かけて三分の一ずつ分割して装入し、装入終了後、さらに加熱還流および撹拌条件下で5時間重合を行った。
【0305】
冷却後、析出した共重合体を濾別し、得られた濾塊をメタノールで洗浄後、減圧下(100mmHg未満)50℃の条件で重量変化がみられなくなるまで十分に乾燥し、白色の共重合体106.7g(収率89%)を得た。
【0306】
得られた共重合体のGPC分析を行った結果、重量平均分子量 Mw=54,000、Mw/Mn=2.3であった。また、13C−NMR分析を行った結果、共重合体の構成単位比率 ATBS−Kユニット/GMAユニット/KBE−503ユニット=0.94/0.03/0.03であった。なお、エポキシ基が開環したユニットは検出されなかった。
【0307】
[実施例1A](反射防止層を有する光学系基材へのコーティング 1)
<光学系基材の作製>
MR−8ATM 50.6g、MR−8B1TM 23.9g、およびMR−8B2TM 25.5g(いずれも三井化学社製)と、ジブチルチンジクロリド0.035g、紫外線吸収剤(共同薬品社製、商品名バイオソーブ583)1.5g、および内部離型剤(三井化学社製、商品名MR用内部離型剤)0.1gとを混合して、均一な溶液を作製した。
【0308】
400Paの減圧下で1時間かけてこの溶液を脱泡した後、1μmPTFE製フィルターで濾過し、得られた濾液をガラスモールドとテープからなるモールド型へ注入した。液が注入されたモールド型を重合オーブンへ投入し、25℃から120℃まで21時間かけて徐々に昇温して硬化させた。
【0309】
室温まで冷却後、モールド型からテープとガラスモールドを剥離し、内部のプラスチックレンズを取り出し、さらに歪を取る目的で、再度120℃で2時間の加熱を行い室温まで徐冷した。こうして得られたMR−8TMプラスチックレンズの屈折率(ne)は1.60、アッベ数(νe)は40、比重は1.29、耐熱性は90℃以上であり、眼鏡用プラスチックレンズとして好適な物性を有していた。
【0310】
次に、このMR−8TMプラスチック製レンズ表面に、ゾルゲル反応などによりポリシロキサンを主成分とするハードコート層(以下HC層と略す。)を形成して、表面にHC層を有するMR−8TM眼鏡レンズを得た。
【0311】
さらに、得られたHC層を有するMR−8TM眼鏡レンズの表面上(HC層上)にZrO2を主成分とする層とSiO2を主成分とする層とを交互に積層した多層構造(最終的に表面がSiO2を主成分となる層)を形成させることにより、反射防止性を有する多層構造の層(以下AR層と略す。)が積層されたMR−8TM眼鏡レンズも得た。
【0312】
<コーティング用組成物−100の調製>
合成例4で作製された共重合体 CH120531 0.5gに水2.5gを混合して水溶液を作製した後、この水溶液にEGM 170.31g、TEOS 1.3g、および5wt%硫酸 0.39gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分(共重合体およびSiO2換算のTEOSの合計量)NV0.5wt%の無色透明なコーティング用組成物−100を得た。この組成物中のポリマー/TEOS(SiO2換算)重量比は4/3(57/43)であった。
【0313】
<コーティング膜の形成および評価>
AR層を有するMR−8TM眼鏡レンズのAR層の表面に、上記コーティング用組成物−100をスピンコーター(回転数4000rpm)で塗布し、80℃×3時間加熱した。室温まで冷却後、コーティング膜表面を水で洗浄して、さらに40℃温風乾燥機で乾燥して、4nmの厚さのコーティング膜がAR層上に形成されたMR−8TM眼鏡レンズを得た。室温で、得られたMR−8TM眼鏡レンズ(積層体)の評価を行った。得られたコーティング膜が形成されたMR−8TM眼鏡レンズ(積層体)は透明で、親水性が高く、防曇および防汚性に優れていた。
【0314】
さらに、得られたコーティング膜が形成されたMR−8TM眼鏡レンズ(積層体)を純水に浸漬し、超音波(出力240W,周波数40Hz)を照射することによって耐水性(親水性の維持性)を評価した。結果を表1、表2に掲載する。さらに、反射率の測定結果を図4に掲載する。
【0315】
[比較例1A〜4A]
現在市販されている防曇眼鏡レンズ(定期的にメーカー指定販売の界面活性剤を塗布して使用する眼鏡レンズ)について、メーカー指定の界面活性剤を塗布した後、実施例1Aと同様に評価を行った。結果を表1に掲載する。
【0316】
[比較例5A](ブランク評価)
表面にAR層を有するMR−8TM眼鏡レンズについて、何も処理せずに評価を行った。結果を表1および表2掲載する。さらに、反射率の測定結果を図4に掲載する。
【0317】
【表1】
【0318】
[参考実験例2A]
<コーティング用組成物−101の調製>
合成例4で作製された共重合体 CH120531 0.5gに水2.5gを混合して水溶液を作製した後、この水溶液にEGM 39.1g、TEOS 1.3g、および5wt%硫酸 0.39gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分(共重合体およびSiO2換算のTEOSの合計量)NV2.0wt%無色透明なコーティング用組成物−101を得た。この組成物中のポリマー/TEOS(SiO2換算)重量比は4/3(57/43)であった。
【0319】
<コーティング膜の形成および評価>
HC層を有するMR−8TM眼鏡レンズのHC層の表面に上記コーティング用組成物−101(固形分NV2.0wt%)をスピンコーター(回転数4000rpm)で塗布し、80℃×3時間加熱した。室温まで冷却後、コーティング膜表面を水で洗浄して、さらに40℃温風乾燥機で乾燥して、厚み140nmのコーティング膜がHC層上に形成されたMR−8TM眼鏡レンズを得た。室温で、得られたMR−8TM眼鏡レンズ(積層体)の評価を行った。結果を表2に掲載する。
【0320】
[実施例3A]
よく洗浄されたガラス板(表面の水接触角 8°未満)の表面に実施例1Aで調製されたコーティング用組成物−100(固形分NV0.5wt%)をスピンコーター(回転数4000rpm)で塗布し、80℃×3時間加熱した。室温まで冷却後、コーティング膜表面を水で洗浄して、さらに40℃温風乾燥機で乾燥して、厚み4nmコーティング膜が形成されたガラス板を得た。室温で膜の評価を行った。結果を表2に掲載する。
【0321】
[実施例4A]
<コーティング用組成物−103の調製>
合成例7で作製された共重合体 CH130115 0.5gに水2.5gを混合して水溶液を作製した後、この水溶液にEGM 170.31g、TEOS 1.3g、および5wt%硫酸 0.39gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分(共重合体およびSiO2換算のTEOSの合計量)NV0.5wt%の無色透明なコーティング用組成物−103を得た。この組成物中のポリマー/TEOS(SiO2換算)重量比は4/3(57/43)であった。
【0322】
<コーティング膜の形成および評価>
AR層を有するMR−8TM眼鏡レンズのAR層の表面に、実施例4Aで調製されたコーティング用組成物−103(固形分NV0.5wt%)をスピンコーター(回転数4000rpm)で塗布し、80℃×3時間加熱した。室温まで冷却後、コーティング膜表面を水で洗浄して、さらに40℃温風乾燥機で乾燥して、4nmの厚さのコーティング膜がAR層上に形成されたMR−8TM眼鏡レンズを得た。室温で、得られたMR−8TM眼鏡レンズ(積層体)の評価を行った。結果を表2に掲載する。
【0323】
[実施例5A]
<コーティング用組成物−104の調製>
合成例8で作製された共重合体 CH121112 0.5gに水2.5gを混合して水溶液を作製した後、この水溶液にEGM 96.7g、5wt%硫酸 0.23gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分NV0.5wt%の無色透明なコーティング用組成物−104を得た。
【0324】
<コーティング膜の形成および評価>
AR層を有するMR−8TM眼鏡レンズのAR層の表面に、実施例5Aで調製されたコーティング用組成物−104(固形分NV0.5wt%)をスピンコーター(回転数4000rpm)で塗布し、80℃×3時間加熱した。室温まで冷却後、コーティング膜表面を水で洗浄して、さらに40℃温風乾燥機で乾燥して、4nmの厚さのコーティング膜がAR層上に形成されたMR−8TM眼鏡レンズを得た。室温で、得られたMR−8TM眼鏡レンズ(積層体)の評価を行った。結果を表2に掲載する。
【0325】
【表2】
【0326】
[実施例1B](シランカップリング剤プライマー層上への膜の形成)
<プライマー用組成物−20の調製>
撹拌条件下、シランカップリング剤であるビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン(以下KBM−666Pと略す。)0.5gに、EGM94.5g、および水5.0gを混合して、固形分0.5wt%のプライマー用組成物−20を調製した。
【0327】
<コーティング用組成物−20の調製>
合成例4で作製された共重合体 CH120531 1.25gに、水62.5gを混合して水溶液を作製した後、室温および撹拌条件下、この水溶液にEGM 185.5g、および5wt%硫酸0.1gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分NV0.5wt%の無色透明なコーティング用組成物−20を得た。
【0328】
<コーティング膜の形成および評価>
(プライマー層の形成)
よく洗浄されたガラス板(表面の水接触角 8°未満)を、スピンコーター(MIKASA SPINCOATER 1H−DX2)にセットし、500rpmの回転速度で回転させながら、調製したプライマー用組成物−20(固形分0.5wt%)を滴下し、滴下5秒後4000rpmに回転速度を上昇し、さらにその回転数で10秒間ガラス板を回転させて、プライマー用組成物−20をガラス板表面に均一に塗布した。得られた塗布ガラス板を50℃のオーブンで1分間予備乾燥した後、150℃のオーブンで1時間加熱し、ガラス板上に、厚み5nmのシランカップリング剤から形成されたプライマー層を形成した。
【0329】
(コーティング膜の形成)
そのプライマー層表面に、上記コーティング用組成物−20(固形分0.5wt%)をプライマー層の形成と同様にスピンコーター(MIKASA SPINCOATER 1H−DX2)で塗布し、50℃のオーブンで1分間予備乾燥した後、150℃×1時間加熱し、シランカップリング層上に、厚み5nmのコーティング膜を形成した。
【0330】
このようにして、ガラス板上にプライマー層およびコーティング膜(両者合計の厚み10nm)が形成された積層体が得られた。これを室温まで冷却して、膜の評価(外観、水接触角、防曇性、防汚性、密着性)を行った。外観については、これら操作後に評価したが、防曇性および防汚性については、水洗を行った後評価を行った。また、水接触角は上述の加熱および冷却操作後、および水洗後両方の値を測定した。
【0331】
なお水洗は、流水下、ベンコットM−3 II(旭化成せんい株式会社製)で擦り洗いにより行った。また、水洗を行った後膜表面はエアガンで乾燥した後、評価を行った。結果を表3に掲載する。
【0332】
[参考例1B](スルホン酸・エポキシ共重合体 CH110901の使用)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 1.25gの替わりに、合成例2で作製された共重合体 CH110901 1.25gを用いる以外は、実施例1Bと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表3に掲載する。
【0333】
[参考例2B](スルホン酸・シリル共重合体 CH111011の使用)
共重合体 CH120531 1.25gの替わりに、合成例3で作製された共重合体 CH111011 1.25gを用いる以外は、実施例1Bと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表3に掲載する。
【0334】
【表3】
【0335】
[実施例2B](シランカップリング剤プライマー層上への膜の形成 2)
<プライマー用組成物−23の調製>
撹拌条件下、シランカップリング剤であるKBM−666P 0.5gに、EGM148.7g、および固形分30wt%のシリカゾル(メタノール溶液,日産化学社製) 0.8gを順次混合して、固形分0.5wt%のプライマー用組成物−23を150g調製した。
【0336】
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
プライマー組成物−20をプライマー組成物−23に変更した以外は、実施例1Bと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。得られた硬化膜は透明で、水接触角5°、密着性100/100であった。
【0337】
[実施例3B](反射防止層を有する光学系基材へのコーティング2)
<コーティング用組成物の調製>
合成例4で作製された共重合体 CH120531 1.0gに水5.0gを混合して水溶液を作製した後、この水溶液にEGM 100.0g、TEOS 2.6g、および5wt%硫酸2.5gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分(共重合体およびSiO2換算のTEOSの合計量)NV3.0wt%の無色透明なコーティング用組成物を得た。この組成物中の重合体/TEOS(SiO2換算)重量比は4/3(57/43)である。
【0338】
<コーティング膜の形成および評価>
両面にAR(反射防止)層が積層された厚さ2mmの光学系ガラス板表面に、上記の組成物を含ませたティシュで両面に塗布し、50℃で3分間予備乾燥した後、170℃×1時間加熱してコーティング膜を形成した。室温まで冷却後、コーティング膜表面を水で洗浄し、エアガンで乾燥することにより、AR層上に10nmのコーティング膜を形成した。この膜の評価結果を表4に掲載する。
なお、反射率は以下の条件で測定した。
【0339】
<反射率の測定>
測定機種: 日立製作所製,紫外可視近赤外分光光度計「U−4100」
測定方法: 透過法、正反射法(入射角5°,絶対反射率)
測定波長領域: 450〜750nm
スキャンスピード: 300nm/分
サンプリング間隔: 1nm
スプリット幅: 6nm
【0340】
上記実施例3Bで使用した基材は、透過光の内部損失(散乱等)が殆ど無い高透明の材料(ガラス)を使用し、加えて、AR(反射防止)層により表面の光の反射を低減した構造を有している。本実施例3Bでは、AR層上に厚さ10nmの薄膜として形成した。そして図3にも示されるとおり、形成された薄膜は光学用途として充分に使用できる高い透明性を有し、AR層の反射防止特性を損なわない。さらに高い親水性が付与された積層体を得ることができた。なお、一般にミクロンオーダー以上の膜が形成された場合には、その膜表面での反射により透明性が大幅に低下することが予想される。
【0341】
【表4】
【0342】
[参考実験例1a](共重合体 CH120417)
<コーティング用組成物の調製>
合成例1で作製された共重合体 CH120417 5gに水28gを混合して溶液を作製した後、撹拌条件下、この溶液に2−メトキシエタノール(以下EGMと略す。)35g、テトラエトキシシラン(以下TEOSと略す。)26g、および5wt%硫酸6gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分(共重合体およびSiO2換算のTEOSの合計量)NV13wt%の無色透明なコーティング用組成物を得た。この組成物中の重合体/TEOS(SiO2換算)重量比は40/60である。
【0343】
<コーティング膜の形成および評価>
よく洗浄されたガラス板(表面の水接触角 8°未満)の表面に、上記コーティング用組成物をバーコーター#24で塗布し、50℃で5分間予備乾燥した後、150℃×1時間加熱し、ガラス板表面に厚み3μmのコーティング膜を形成した。室温まで冷却して、コーティング膜表面を水で洗浄し、エアガンで乾燥した後、膜の評価(外観、水接触角、防曇性、防汚性、摩耗試験)を行った。結果を表5に掲載する。なお、参考実験例1aでは、耐擦傷性、密着性の評価も行っているが、これらの結果はそれぞれ表6、表7に記載する。
【0344】
[参考例1a](共重合体 CH110901)
<コーティング用組成物の調製およびコーティング膜の形成>
共重合体 CH120417 5gの替わりに、合成例2で作製されたATBS−K/GMA共重合体 CH110901 5gを用いる以外は参考実験例1aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0345】
[参考例2a](共重合体 CH111011)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417 5gの替わりに、合成例3で作製されたATBS−K/KBM−503共重合体 CH111011 5gを用いる以外は参考実験例1aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0346】
[参考例3a]
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH111011 5gの替りに、共重合体 CH111011 4.8gとグリセリントリグリシジルエーテル(以下EX−314と略す。)0.2gとの混合物を用いる以外は参考例2aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0347】
[参考例4a]
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
コーティング組成物を作製する際にTEOSを添加しない以外は参考例3aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0348】
[参考比較例1a](PSS+エポキシ化合物+TEOSの評価)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417 5gの替わりに、重量平均分子量Mw=50万のPSS−Na(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩,21wt%水溶液)23gとEX−314 0.2gとの混合物を用い、これと混合する水の量を28gから10gに変更した以外は参考実験例1aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0349】
[参考比較例2a](PSS+TEOSの評価)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417 5gの替わりに、重量平均分子量Mw=50万のPSS−Na(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩,21wt%水溶液)24gを用い、これと混合する水の量を28gから9gに変更した以外は参考実験例1aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0350】
[参考比較例3a](エポキシ化合物+TEOSの評価)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417 5gの替わりに、EX−314 5gを用いた以外は参考実験例1aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0351】
[参考比較例4a](TEOSのみの評価)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417を用いず、これと水28gを混合しない以外は参考実験例1aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表5に掲載する。
【0352】
【表5】
【0353】
[参考実験例1b](耐候性試験)
参考実験例1aで作製した膜についてキセノン耐候性試験を行い、試験時間0時間、試験時間1000時間、試験時間2000時間での水接触角およびb*を測定した。なお、b*で表される値は、L*a*b*表色系におけるb*成分の値を示す。また、表6には、後述する参考例1bの実験結果と対比するため、キセノン耐候性試験前の膜の評価(外観、耐擦傷性、摩耗試験)の結果を掲載する。
【0354】
<耐候性試験の試験条件>
測定装置:(株)東洋精機製作所 Ci40000
キセノン耐候試験条件
光源:キセノンランプ,放射強度:60W/m2(300〜400nm),BPT:63℃,降雨:18/120分
フィルター:内/外= ボロシリケートS/ボロシリケート
【0355】
[参考例1b](親水性アクリル樹脂膜: WO2007/064003など)
<コーティング溶液の調製>
イルガキュアー127(チバ・ジャパン(株))0.30gにメタノール2.0gを混合してメタノール溶液を作製した後、撹拌条件下、このメタノール溶液にナイロスタッブS−EED(クラリアント・ジャパン(株))0.01g、3−スルホプロピルアクリレート0.12g、2,2−ビス(アクリロイルオキシメチル)プロピオン酸−3−スルホプロピルエステル・カリウム塩0.12g、および2−メトキシエタノール6.0gを混合して溶液を作製した。
【0356】
続いて、この溶液にエトキシ化グリセリントリアクリレート(新中村化学,A−GLY−9E)1.57g、およびジペンタエリスリトールペンタ(またはヘキサ)アクリレート(新中村化学,A−9530)6.30gを混合し、固形分NV50wt%のコーティング用溶液を得た。
【0357】
<コーティング膜の形成および評価>
得られた固形分NV50wt%のコーティング溶液を、バーコーター#06で基材(タキロン(株)製,ポリカーボネート板,縦100mm×横100mm×厚さ2mm)に塗布し、直ちに40〜50℃の温風乾燥機に2分間装入して溶剤を蒸発させ、最後にUVコンベアー(フュージョンUVシステムズ・ジャパン(株)製,無電極放電ランプ Hバルブ,コンベアー速度6m/分,積算光量900mJ/cm2)を通過させて、基材表面に厚み4μmの透明な膜を形成した。最後に表面を流水で洗浄しエアガンで乾燥し、膜の評価(外観、耐擦傷性、摩耗試験)を行った。さらに参考実験例1bと同様に耐候性試験を行い、試験時間0時間、試験時間1000時間、試験時間2000時間との水接触角を測定した。結果を表6に掲載する。ここで、下記表6において、参考例1bにおける膜組成(重量比)の欄に「アクリル樹脂 100」とあるのは、参考例1bではコーティング溶液を構成する重合体成分におけるアクリル樹脂の割合が100%であることを意味する。
【0358】
【表6】
【0359】
[参考実験例1c](共重合体CH120417/TEOS(SiO2換算)重量比=4/3)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417の量を5.0gから7.1gに変更し、TEOSの量を26gから18.6gに変更した以外は、参考実験例1aと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価(外観、水接触角、防曇性、防汚性、摩耗試験、密着性)を行った。結果を表7に掲載する。なお表7には、参考実験例1aで得られた膜の評価も併記する。
【0360】
[参考実験例2c](共重合体CH120417/TEOS(SiO2換算)重量比=1/1)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417の量を5.0gから6.3gに変更し、TEOSの量を26gから21.7gに変更した以外は、参考実験例1cと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表7に掲載する。
【0361】
[参考実験例3c](共重合体CH120417/TEOS(SiO2換算)重量比=1/2)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417の量を5.0gから4.2gに変更し、TEOSの量を26gから28.9gに変更した以外は、参考実験例1cと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表7に掲載する。
【0362】
[参考実験例4c](共重合体CH120417/TEOS(SiO2換算)重量比=1/3)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120417の量を5.0gから3.1gに変更し、TEOSの量を26gから32.5gに変更した以外は、参考実験例1cと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表7に掲載する。
【0363】
【表7】
【0364】
[参考実験例1d](共重合体 CH120531)
<コーティング用組成物の調製>
合成例4で作製された共重合体 CH120531 3.3gに水22gを混合して溶液を作製した後、撹拌条件下、この溶液にEGM 28g、TEOS 22g、および5wt%硫酸4.5gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して固形分(共重合体およびSiO2換算のTEOSの合計量)NV12wt%の無色透明なコーティング用組成物を得た。この組成物中の重合体/TEOS(as SiO2)重量比は33/67である。
【0365】
<コーティング膜の形成および評価>
よく洗浄されたガラス板(表面の水接触角 8°未満)の表面に、上記コーティング用組成物をバーコーター#24で塗布し、50℃で5分間予備乾燥した後、150℃×1時間で加熱し、ガラス板表面に厚み3μmのコーティング膜を形成した。室温まで冷却して、コーティング膜表面を水で洗浄した後、膜の評価(外観、水接触角、摩耗試験)を行った。結果を表8に掲載する。
【0366】
[参考実験例2d](共重合体 CH130117)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 3.3gの替わりに、合成例5で作製された共重合体 CH130117 3.3gを用いる以外は参考実験例1dと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表8に掲載する。
【0367】
[参考実験例3d](共重合体 CH120517)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 3.3gの替わりに、合成例6で作製された共重合体 CH120517 3.3gを用いる以外は参考実験例1dと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表8に掲載する。
【0368】
[参考実験例4d](共重合体 CH130115)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 3.3gの替わりに、合成例7で作製された共重合体 CH130115 3.3gを用いる以外は参考実験例1dと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表8に掲載する。
【0369】
[参考実験例5d](共重合体 CH121112)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 3.3gの替わりに、合成例8で作製された共重合体 CH121112 3.3gを用いる以外は参考実験例1dと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表8に掲載する。
【0370】
[参考実験例6d](共重合体 CH121029)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 3.3gの替わりに、合成例9で作製された共重合体 CH121029 3.3gを用いる以外は参考実験例1dと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表8に掲載する。
【0371】
[参考実験例7d](共重合体 CH130219)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 3.3gの替わりに、合成例10で作製された共重合体 CH130219 3.3gを用いる以外は参考実験例1dと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表8に掲載する。
【0372】
[参考実験例8d](共重合体 CH130319)
<コーティング用組成物の調製とコーティング膜の形成および評価>
共重合体 CH120531 3.3gの替わりに、合成例11で作製された共重合体 CH130319 3.3gを用いる以外は参考実験例1dと同様に、コーティング組成物の作製、コーティング膜の形成、および水で洗浄後の膜の評価を行った。結果を表8に掲載する。
【0373】
【表8】
【0374】
[参考実験例1e](傾斜度の測定−1)
<コーティング用組成物の調製>
合成例4で作製された共重合体 CH120531 6.0gに水29.0gを混合して水溶液を作製した後、室温および撹拌条件下、この水溶液にEGM 38.0g、TEOS 21.0g、および5wt%硫酸6.0gを混合した。得られた混合液を平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分NV12wt%の無色透明なコーティング用組成物100.0gを得た。この組成物中の重合体/TEOS(SiO2換算)重量比は1/1(50/50)である。
【0375】
<コーティング膜の形成および評価>
良く洗浄されたガラス板(表面の水接触角 8°未満)の表面に、上記コーティング用組成物をバーコーター#12で塗布し、50℃で5分間予備乾燥した後、150℃×1時間加熱し、ガラス板表面に厚み1.5μmのコーティング膜を形成した。室温まで冷却して、コーティング膜表面を水で洗浄した後、膜の評価(外観、水接触角、スルホン酸濃度)を行った。結果を表9に掲載する。
【0376】
[参考実験例2e](傾斜度の測定−2)
<ウレタン系プライマー組成物の調製>
三井化学社製 タケラックA315(固形分50wt%)10.0g、溶媒である2−ペンタノン 104.0g、および三井化学製 タケネートA10(固形分75wt%) 1.0gを混合溶解し、固形分5wt%のウレタン系プライマー溶液 115.0gを調製した。
【0377】
<コーティング用組成物の調製>
参考実験例1eで得られたコーティング用組成物をそのまま用いた。
【0378】
<コーティング膜の形成および評価>
良く洗浄されたガラス板(表面の水接触角 8°未満)の表面に、上記プライマー組成物をバーコーター#2で塗布し、150℃×10分間加熱し、ガラス板表面に厚み0.1μmプライマー層を形成した。
そのプライマー層表面に、参考実験例1eと同様に、上記コーティング用組成物から厚み1.5μmのコーティング膜を形成し、コーティング膜表面を水で洗浄した後、膜の評価を行った。結果を表9に掲載する。
【0379】
【表9】
【0380】
[参考実験例1f](プラスチック基材へのコーティング膜の形成)
<コーティング用組成物−16の調製>
合成例6で作製された共重合体 CH120517 3.0gに、水10.0gを混合して水溶液を作製した後、室温および撹拌条件下、この水溶液にEGM 15.0g、グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(以下KBM−403と略す。) 1.5g、添加剤としてポリフローKL−100(共栄社化学社製) 0.03g、および5wt%硫酸5.0gを混合した。
【0381】
撹拌条件下(スーパーホモミキサー[特殊技研(株) ROBOMICS F−model],回転数 6000rpm)、得られた混合液に、固形分30wt%のメタノールシリカゾル(日産化学工業) 1.2gを滴下した。滴下終了後、さらに3分間攪拌を続行し、固形分NV13wt%のコーティング用組成物を得た。
なお、得られたコーティング用組成物の主成分の組成比(重量比)は、共重合体/KBM−403/シリカ=50/25/6(61.7/30.9/7.4)である。
【0382】
<コーティング膜の形成および評価>
(プライマー層の形成)
厚み2mmのポリカーボネート板(タキロン株式会社)をスピンコーター(MIKASA SPINCOATER 1H−DX)にセットし、500rpmの回転速度で回転させながら、参考実験例2eで調製したウレタン系プライマー組成物(固形分5wt%)を滴下し、滴下5秒後4000rpmに回転速度を上昇し、さらにその回転数で10秒間ポリカーボネート板を回転させて、ウレタン系プライマー組成物をポリカーボネート板表面に均一に塗布した。得られた塗布板を50℃のオーブンで1分間予備乾燥した後、120℃のオーブンで10分間加熱し、ポリカーボネート板表面に厚み0.05μmプライマー層を形成した。
【0383】
(コーティング膜の形成)
そのプライマー層表面に、上記コーティング用組成物−16をバーコーター#40で塗布し、50℃で5分間予備乾燥した後、120℃×1時間加熱し、プライマー層上に厚み5μmのコーティング膜を形成した。室温まで冷却して、コーティング膜表面を水で洗浄した後、膜の評価(外観、水接触角、密着性)を行った。
得られた膜は透明で、膜の水接触角15°であり、密着性試験(碁盤目剥離試験)の結果は100/100であった。
【0384】
[参考実験例1g] 熱とUVとを併用した硬化
<コーティング用組成物−17の調製>
合成例1で作製された共重合体 CH120417 6.0gに、水29.0gを混合して溶液を作製した後、室温および撹拌条件下、この溶液にEGM 38.0g、TEOS 20.8g、および5wt%硫酸6.0gを混合した。得られた混合液に、多官能アクリレートであるデナコールアクリレートDX−314(ナガセケムテックス(株)) 1.2g{共重合体 CH120417およびTEOS(SiO2換算)の合計重量に対して10wt%}とUV重合開始剤であるダロキュアー1173(BASF Japan Ltd.)0.06gとを混合した後、これを平均孔径0.5μmのフィルターに通して、固形分NV13wt%の無色透明なコーティング用組成物101gを得た。この組成物中の重合体/多官能アクリレート/TEOS(SiO2換算)重量比は5/1/5 (45.5/9.0/45.5)である。
【0385】
<コーティング膜の形成および評価>
よく洗浄されたガラス板(表面の水接触角 8°未満)の表面に、上記のコーティング用組成物−17をバーコーター#24で塗布し、50℃で5分間予備乾燥した後、UV照射し(無電極放電ランプ Hバルブ,照度800mW/cm2,積算光量390mJ/cm2)、次いで150℃×1時間加熱し、ガラス板表面に厚み3μmのコーティング膜を形成した。室温まで冷却して、コーティング膜表面を水で洗浄した後、膜の評価(水接触角、防曇性、防汚性)を行った。
得られた膜の水接触角6°であり、膜は防曇性および防汚性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0386】
本発明により得られる共重合体(i)および該共重合体(i)を含む組成物を硬化させて得られる膜、およびこの膜を少なくとも1層有する積層体は、防曇材料、防汚材料、速乾性材料、帯電防止材料、およびアンダーコート材料などとして有用である。
図1
図2
図3
図4