(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンに設けられ、燃料を加圧してインジェクタに送る燃料噴射ポンプが知られている。
このような燃料噴射ポンプは、エンジン側のカムシャフトに設けられたカムの回転により、プランジャが往復直線運動し、プランジャの往復直線運動により加圧室内の燃料が加圧されてインジェクタに送られるように構成されている。ここで、カムとプランジャとの間には、カムの回転運動をプランジャの往復直線運動に変換するタペットが設けられており、タペットに収容された回転自在のローラがカムに当接している。
図6は、従来の燃料噴射ポンプにおけるタペット近傍の断面図である。タペット101に収容されているローラ102の周囲には、潤滑油Oが供給されており、焼き付きを防止している。また、タペット101の側壁には、内側から外側に貫通された溝103が形成されており、潤滑油Oは溝103を介してタペット101の周囲の部品(例えば、
図6におけるプランジャ104)にも流れ込むように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年は、燃焼効率をより向上させるため、燃料をできるだけ高圧で噴射することが望まれている。そのためには、プランジャ径アップやリフト量アップ等の手法を用いて、できるだけ高圧で噴射できるような構造にすることが好ましい。
しかし、
図6に示すように、プランジャ104のリフト量アップに伴い、タペット101がハウジング105内に潜り込んだ状態が長く維持されるため、ローラ102の周囲の潤滑油Oがタペット101内から抜けにくくなってしまう。その結果、大量の潤滑油Oが溝103を介してプランジャ104に向けて、すなわち、燃料の噴射側に向けて移動してしまう(いわゆる、オイルアップ)。このような潤滑油Oの移動により、加圧室内の燃料に潤滑油が混ざってしまうおそれがあり、燃焼不良を生じるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、タペット101がハウジング105内に潜り込んだ状態が長くなっても、タペット101の周囲の潤滑油が燃料に混ざることを抑制することができる燃料噴射ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、ハウジングと、前記ハウジング内に収容され、エンジンに設けられたカムの回転運動が伝達されて往復直線運動するタペットと、前記タペットと共に往復直線運動し、燃料を加圧してインジェクタに向けて送るプランジャと、前記ハウジングからの前記タペットの離脱を防止すると共に、前記タペットの前記往復直線運動を案内する規制部材と、を備える燃料噴射装置であって、前記タペットは、前記カムに当接するローラを収容するローラ収容部と、前記タペットの往復直線運動方向に沿って形成され、前記規制部材に係合する係合部と、前記ローラ収容部と前記係合部との間における潤滑油の移動を遮断する壁部と、を有することを特徴としている。
【0007】
この発明の一態様として、前記壁部は、前記タペットと一体に形成されていることが好ましい。
【0008】
この発明の一態様として、前記規制部材は、ピン部材であり、前記係合部は、前記ピン部材が係合する溝であることが好ましい。
【0009】
この発明の一態様として、前記溝は、前記タペットにおける前記ローラ収容部とは仕切られたプランジャ収容部内に連通されていることが好ましい。
【0010】
この発明の一態様として、前記ハウジング内には、前記プランジャを摺動自在に収容するバレルが設けられ、前記プランジャにおける前記バレルとの摺動部は、前記プランジャの下死点位置において前記バレルの下端よりも上方に位置するように形成されていることが好ましい。
【0011】
この発明の一態様として、前記プランジャは、前記摺動部の下端が常に前記バレルの内側の摺動面に対向するように配置されていることが好ましい。
【0012】
この発明の一態様として、前記プランジャは、前記摺動部の下端に連続し、前記タペットに接続される接続部を有し、前記接続部は、前記摺動部の外縁よりも内側に外縁を有することが好ましい。
【0013】
この発明の一態様として、前記摺動部と前記接続部との段差によって形成される返し面と前記接続部の延在方向に沿った直線とが直角をなすことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、タペットがハウジング内に潜り込んだ状態が長くなっても、タペットの周囲の潤滑油が燃料に混ざることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の実施形態をとり得る。
【0017】
<燃料噴射ポンプ>
図1は、燃料噴射ポンプ100の一部を断面視した斜視図であり、
図2は、燃料噴射ポンプ100の断面図であり、
図3は、
図2のタペット近傍を拡大視した断面図である。
燃料噴射ポンプ100は、燃料タンク(図示略)から燃料加圧室12内に供給された燃料をプランジャ4の運動によって加圧し、燃料吐出弁92を介してインジェクタに送るものである。燃料噴射ポンプ100は、エンジンに着脱自在に構成されており、エンジンのカムシャフトの上方に装着される。なお、
図1に示されている燃料噴射ポンプ100は、プランジャ4が4本のポンプであるが、本発明においては、プランジャ4の数量を限定する必要はない。
図1、
図2に示すように、燃料噴射ポンプ100は、主に、ハウジング1と、タペット2と、ローラ3と、プランジャ4と、バレル5と、スプリング6と、スリーブフランジ7等を備えている。
【0018】
(ハウジング)
ハウジング1は、タペット2、プランジャ4等の各機構を収容するものである。ハウジング1には、タペット2やプランジャ4を収容する収容部11が形成されている。
収容部11は、収容されるプランジャ4の軸線方向(すなわち、往復直線運動方向)に延びるように略円柱状に形成されており、上端がハウジング1の上面で開口されている。
収容部11は、収容される各機構に応じて、場所によって大きさが変化しており、その一部においては、上端の開口部分よりも縮径されている。
ハウジング1における収容部11の下端部近傍には、ハウジング1からのタペット2の離脱を防止すると共に、タペット2の往復直線運動を案内する規制部材としてのピン部材8が設けられている。このピン部材8の先端部は、後述するタペット2の溝23に係合されており、タペット2の収容部11からの抜け止めと、タペット2の収容部11内での回り止めとしての機能を果たしている。
【0019】
(タペット)
図1、
図2に示すように、タペット2は、エンジンのカムシャフトに設けられたカム9の回転運動をプランジャ4の往復直線運動に変換するものである。タペット2は、プランジャ4とカム9との間に介在し、収容部11内に配置されており、収容部11内を往復直線運動する。
図4は、タペット2の斜視図である。タペット2は、円筒状に形成されており、軸線方向一端側において、外周面から内周面に貫通する円形状の貫通孔21が2カ所に形成されている。両貫通孔21は、軸線を共有しており、両貫通孔21にローラ3を支持する1本の軸部3aを挿通できるように構成されている。
タペット2の軸線方向中央近傍には、タペット2内の空間を上下の2つの空間に仕切るプレート22が載置される。プレート22は、タペット2の内周面に形成された段部2c上面に載置される。タペット2内に載置されるプレート22よりも上方の空間2aは、プランジャ4の下端部が収容され、プランジャ収容部2aとして機能する。タペット2内に載置されるプレート22よりも下方の空間2bは、ローラ3と、ローラ3を回転自在に支持する軸部3aとが収容され、ローラ収容部2bとして機能する。
【0020】
タペット2の外周面には、タペット2の軸線方向(すなわち、タペット2の往復直線運動方向)に沿って延びる溝23が形成されている。溝23は、載置されるプレート22よりも上方から当該プレート22よりも下方にわたって延びるように形成されている。溝23のうち、プレート22よりも上方の領域においては、タペット2の内周面まで貫通されている。すなわち、溝23におけるプレート22よりも上方の領域は、プランジャ収容部2a内に連通されている。
プレート22よりも下方の領域においては、ローラ収容部2bと溝23との間に壁部24が形成されている。壁部24は、タペット2と一体に形成されている。
溝23には、ピン部材8が係合されている。すなわち、溝23は係合部として機能する。
壁部24は、タペット2におけるローラ収容部2bと溝23とを完全に仕切っており、ローラ収容部2b内に収容されるローラ3に供給される潤滑油Oが溝23からタペット2の外部に流出しない構成となっている。
【0021】
(ローラ)
ローラ3は、略円柱状に形成されており、その外周面がカム9の外周面に当接するように配置されている。ローラ3は、自身の軸線方向がカムシャフトの軸線方向とほぼ平行になるように配置されている。ローラ3は、カムシャフトの回転により、カム9に押され、カム9に追随するように動作する。その結果、ローラ3は、カム9がローラ3を押す力のうち、
図2の紙面における上下方向の成分によって、プランジャ4の軸線方向に沿って往復直線運動をする。
ローラ3は、タペット2のローラ収容部2b内に収容されている。ローラ3は、自身の回転軸線と軸線を共有する軸部3aによって回転自在に支持されている。軸部3aの各端部は、それぞれがタペット2に形成された貫通孔21に挿通されており、ローラ3を回転自在に支持している。
ここで、ローラ3と接触してローラ3に駆動を伝達するカム9について説明すると、カム9はカムシャフト(図視略)に設けられており、カムシャフトは、エンジンのクランクシャフトにギヤを介して連結されている。これにより、エンジンの駆動によってカムシャフトが回転し、その結果、カム9も回転する。
【0022】
(プランジャ)
図5は、プランジャ4の斜視図である。プランジャ4は、燃料加圧室12の一部を構成しており、自身の軸線方向が上下方向に沿うように収容部11内に配置されている。
図5に示すように、プランジャ4は、略円柱状に形成されている。プランジャ4は、その下端部がスプリングシート61によってタペット2のプレート22の上面に取り付けられている。このスプリングシート61により、プランジャ4はローラ3側に引き下げられている。
プランジャ4は、下方側にタペット2のプレート22に接続される接続部41を有しており、上方側にバレル5の内周面に摺動する摺動部42を有している。摺動部42は、接続部41に連続して形成されており、摺動部42は接続部41に比べて拡径されている。すなわち、接続部41は、摺動部42の外縁よりも内側に外縁を有している。
プランジャ4の軸線方向中央近傍には、外周面から外側に向けて突出したつば部43が形成されている。ここで、摺動部42は、プランジャ4が下死点まで移動した場合であっても、摺動部42の下端部がバレル5の下端部から下方に突出しない、すなわち、バレル5の下端部よりも上方にあるようにその長さが決められている。よって、プランジャ4は、その摺動部42の下端が常にバレル5の内側の摺動面に対向するように配置されている。
【0023】
プランジャ4は、摺動部42の下端を境界として外径が変化することで段差が形成されている。この段差によって形成される返し面44は、プランジャ4の軸線方向(上下方向)に直交する方向に延びるように形成されている。すなわち、段差によって形成される返し面44の面方向に沿った直線と接続部41の延在方向に沿った直線とが直角をなしている。返し面44は、プランジャ4の下方から上昇してきた潤滑油Oを跳ね返すことで、潤滑油Oがプランジャ4の上方に向かわないようにするものである。
プランジャ4は、タペット2のハウジング1内での往復直線運動と共に往復直線運動し、燃料加圧室12内の燃料に高い圧力をかけるものである。このようなプランジャ4の運動によって加圧された燃料をインジェクタに送ることができる。プランジャ4の上端部は、燃料に高い圧力を加えるための燃料加圧室12の壁面の一部を形成している。
【0024】
(バレル)
バレル5は、その一部がハウジング1の収容部11内に収容されている。バレル5は、筒状に形成されており、その軸線方向に沿って貫通されている。バレル5の内部空間には、プランジャ4がその軸線方向(長手方向)に摺動自在となるように、かつ、周方向に回転自在となるように収容されている。バレル5の軸線方向(長手方向)途中には、吸排ポート51が設けられている。バレル5の外周面には、コントロールスリーブ52が嵌め込まれており、このコントロールスリーブ52の下部には、プランジャ4のつば部43が嵌合される溝(図示略)が形成されている。コントロールスリーブ52の外側には、コントロールスリーブ52に噛み合うコントロールラック53が設けられており、コントロールラック53の操作によってコントロールスリーブ52を回動させることができるようになっている。
バレル5は、ハウジング1の収容部11内に固定されたスリーブフランジ7の収容部71に挿入されている。
【0025】
(スプリング)
スプリング6は、自身の弾性から生まれる付勢力によりプランジャ4を下方に付勢する。スプリング6は、ハウジング1内に配置されており、一端がハウジング1内に設けられたスプリングシート60に当接し、他端がタペット2内に載置されたプレート22上のスプリングシート61に接続されている。
【0026】
(スリーブフランジ)
スリーブフランジ7は、その一部がハウジング1の収容部11内に収容されている。スリーブフランジ7は、筒状に形成されており、その軸線方向に沿って貫通されている。スリーブフランジ7の収容部71には、プランジャ4やバレル5が収容されている。
スリーブフランジ7の上端は途中で屈曲形成されており、その屈曲形成された部分がハウジング1にボルトBで固定されている。
【0027】
(その他の構成)
バレル5の上端には、筒状に形成されたデリバリバルブシート90が設けられており、このデリバリバルブシート90を外側から包み込むようにデリバリバルブホルダ91が設けられている。デリバリバルブシート90及びデリバリバルブホルダ91内には燃料吐出弁92が設けられており、プランジャ4の往復直線運動により加圧された燃料は、燃料吐出弁92から吐出ポート93を通ってインジェクタに送られる。
【0028】
以上のような構成を備える燃料噴射ポンプ100によれば、カム9とローラ3との当接部には、焼き付きを防止するために潤滑油Oが供給される。カム9及びローラ3の回転により、潤滑油Oはローラ3が収容されているタペット2のローラ収容部2b内に行き渡る。プランジャ4が上死点近傍に長くいると、ローラ収容部2b内の潤滑油Oは溝23を介して上方に流れようとする。しかし、ローラ収容部2bと溝23との間には壁部24が設けられているので、潤滑油Oの溝23への流れは壁部24によって遮られ、潤滑油Oはプランジャ4が収容されるタペット2のプランジャ収容部2aに流れにくくなる。その結果、潤滑油Oが燃料加圧室12の燃料に混ざって燃焼不良を起こす可能性を抑制することができる。
また、壁部24をタペット2と一体に形成することにより、壁部24を別途タペット2に取り付ける手間を省くことができる。
また、タペット2は、ピン部材8と溝23との係合によって、ハウジング1からの離脱防止と往復直線運動の案内を同時に実現できるので、簡易な構成で必要な機能を発揮することができる。
【0029】
また、溝23は、タペット2におけるプランジャ収容部2aに連通されているので、潤滑油Oをプランジャ4に導くことができる。
また、摺動部42は、プランジャ4の下死点位置においてバレル5の下端よりも上方に位置するように形成されているので、摺動部42の下端は、常にバレル5の内側の摺動面に対向することになる。これにより、摺動部42がバレル5の外側に露出することにより摺動部42に付着した潤滑油Oがバレル5との摺動面を介して上方に運ばれて燃料に混ざるおそれを著しく低減することができる。その結果、燃焼不良を抑制することができる。
また、摺動部42と接続部41との段差によって形成される返し面44と接続部41の延在方向に沿った直線とが直角をなすように形成されているので、接続部41を伝って潤滑油Oが上昇してきたとしても、返し面44で潤滑油Oを跳ね返すことにより、潤滑油Oの摺動部42の外面への上昇を抑制することができる。その結果、燃焼不良を抑制することができる。
【0030】
<その他>
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。規制部材と係合部の係合に関する構成は、タペットの往復直線運動を案内し、ハウジングからのタペットの抜けを防止する機能を発揮するものであれば、どのようなものであってもよい。
また、タペット、プランジャ、バレル等の構成は本発明の燃料噴射ポンプとしての機能を果たしていれば、他の構成を採用することも可能である。
その他、本発明の範囲を超えない範囲で適宜変更が可能である。