特許第6239095号(P6239095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239095
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】電池複合材料及びその前駆体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20171120BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01M4/58
   C01B25/45 Z
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-512215(P2016-512215)
(86)(22)【出願日】2014年5月8日
(65)【公表番号】特表2016-522965(P2016-522965A)
(43)【公表日】2016年8月4日
(86)【国際出願番号】CN2014077080
(87)【国際公開番号】WO2014180333
(87)【国際公開日】20141113
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】61/820,939
(32)【優先日】2013年5月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508015782
【氏名又は名称】台湾立凱電能科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】洪辰宗
(72)【発明者】
【氏名】林季延
(72)【発明者】
【氏名】黄安鋒
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−507863(JP,A)
【文献】 特開2012−190568(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/092281(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/092275(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102468479(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B25/00−25/46
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池複合材料の製造方法であって、少なくとも工程(a)〜(d)を含み、
工程(a)では、鉄化合物と、リン酸(HPO)と、マンガン化合物と、リチウム化合物と、炭素源を供給し、前記鉄化合物は、Fe(PO、FePO・2HO、LiFePO、又はこれらの組み合わせであり、
工程(b)では、前記鉄化合物及び脱イオン水の混合物に前記リン酸を撹拌しながら加え第1のリン酸塩溶液を生成し、第1の量の前記マンガン化合物を前記第1のリン酸塩溶液に加え、前記マンガン化合物と前記第1のリン酸塩溶液を第1の期間連続反応させ第1生成物を生成し、
工程(c)では、前記第1生成物と、前記炭素源と、前記リチウム化合物を反応させて前駆体を生成し、前記炭素源は、炭水化物、又は高分子材料であり、
工程(d)では、前記前駆体を熱処理し電池複合材料を生成し、前記電池複合材料は、化学式がLiFeMn1−xPOであり、xが0より大きく、1未満である、
電池複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記電池複合材料の化学式において、xが0.1から0.9の間の範囲であり、xが前記マンガン化合物の前記第1の量に応じて決まる、請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記電池複合材料の化学式において、xが0.27である、請求項に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記第1の期間が少なくとも24時間以上である、請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記工程(c)は、工程(c1)〜(c3)を含み、
工程(c1)では、前記リチウム化合物と、前記炭素源と、分散剤を前記第1生成物に加え、第2生成物を生成し、
工程(c2)では、前記第2生成物を粉砕し前駆体溶液を生成し、
工程(c3)では、前記前駆体溶液を濃縮し前記前駆体を生成し、
請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕工程がボールミルを用いて行われる、請求項に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記工程(d)は、前記前駆体をセラミック坩堝に入れ、前記前駆体を保護雰囲気下で第1温度に加熱後、さらに第1温度よりも高い温度で第2期間連続焼結し前記電池複合材料の生成物の粉末を生成する工程をさらに含む、請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記第1温度が少なくとも800℃であり、前記第2期間が少なくとも7時間以上である、請求項に記載の電池複合材料の製造方法
【請求項9】
前記工程(b)は、
103gのFe(PO及び2Lの前記脱イオン水の混合液を調整する工程と、
264.4gの前記リン酸を前記混合液に加え撹拌し前記第1のリン酸塩溶液を生成する工程と、
をさらに含み、
前記第1の量のMnCOを前記第1のリン酸塩溶液に加えた後、MnCOと前記第1のリン酸塩溶液の反応を前記第1の期間連続して行い、前記第1生成物を生成する、請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項10】
工程(b)は、
118.32gのLiFePO及び2Lの前記脱イオン水の混合液を調整する工程と、
264.4gの前記リン酸を前記混合液に加え撹拌し、前記第1のリン酸塩溶液を生成する工程と、
をさらに含み、
前記第1の量のMnCOを前記第1のリン酸塩溶液に加えた後、MnCOと前記第1のリン酸塩溶液の反応を前記第1の期間連続して行い、前記第1生成物を生成する、請求項1に記載の電池複合材料の製造方法。
【請求項11】
電池複合材料の製造方法であって、少なくとも工程(a)〜(d)を含み、
工程(a)では、鉄化合物と、リン酸(HPO)と、MnCOと、LiOHと、炭素源を供給し、前記鉄化合物は、Fe(PO、FePO・2HO、LiFePO、又はこれらの組み合わせであり、
工程(b)では、前記鉄化合物及び脱イオン水の混合物に前記リン酸を撹拌しながら加えて第1のリン酸塩溶液を生成し、第1の量の前記MnCOを前記第1のリン酸塩溶液に加え、前記MnCOと前記第1のリン酸塩溶液を第1の期間連続反応させ第1生成物を生成し、
工程(c)では、前記第1生成物と、前記炭素源と、前記LiOHを反応させて前駆体を生成し、前記炭素源は、炭水化物、又は高分子材料であり、
工程(d)では、前記前駆体を熱処理し電池複合材料を生成し、前記電池複合材料は、化学式がLiFeMn1−xPOであり、xが0.1から0.9の間の範囲である、
電池複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製造方法に関し、特に電池複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
科学技術の急速な発展に伴い、多くの電子製品が市場に投入されている。利便性を高めるために、電子製品を設計する際の一般的な傾向は、小型、軽量及び携帯性に向かっている。例えば、これらの電子機器は、携帯型家庭用電子機器、ポータブル計測機器、ポータブル医療機器、電動自転車又は電動ハンドツール等である。一般的に、これらの電子機器は、電力源としてポータブル電源を用いる。ポータブル電源の中でも、安全性、軽量性及び利便性を理由に電池が広く用いられている。
【0003】
また、電気自動車は大気汚染や石油不足の問題を解消することが可能であるため、持続可能な開発と環境保護推進の観点から、電気自動車に関する技術は大きな注目を集めている。そして、電気自動車は電源として二次電池を利用するため、電気的特性及び電池のサイクル寿命を改善することが重要な課題となっている。
【0004】
また、大きな電気容量、良好な充放電サイクル特性及び他の適切な特性を有することから、従来の電池の中では、リチウムイオン電池が発展の可能性が高い。また、リン酸鉄リチウム系化合物 (LiFePO、以下LFPとする)が中でも有力である。リン酸鉄リチウム系化合物を陰極材料として含む電池は、より大きな電流、長いリサイクル寿命、抗酸化特性及び抗酸性効果等の利点を備える。また、前記リン酸鉄リチウム系化合物は充放電プロセスにおいて酸素ガスを放出しないため、リン酸鉄リチウム系化合物を用いる電池は爆発危険性がない。従って、リン酸鉄リチウム系化合物はリチウムイオン電池の有望な陰極材料と考えられている。
【0005】
従来、特許文献CN103359701Aに記載されているように、リン酸鉄リチウム化合物は、鉄化合物、リン酸およびリチウム化合物を一緒に混合し、熱処理を施すことによって製造されていた。しかし、従来のリチウム鉄リン酸化合物の製造方法はいくつかの欠点を有している。例えば、熱処理プロセスにおいて、リチウム鉄リン酸化合物の粒子は容易に凝集し、このような場合には、リン酸鉄リチウム粉末の粒径は増大し、電池の電気的特性は低下することになる。

【0006】
従って、上記欠点を解消するためにより良い電気的特性を有する陰極材料の製造方法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、電池複合材料の製造方法の提供である。鉄源にマンガン源を拡散させることにより、生成物の粉末は熱処理プロセスにおいて凝集しない。その結果、粒径の増大により引き起こされるリチウム鉄リン酸化合物の電気的特性の低下という欠点は解消される。
【0008】
本発明の別の目的は、電池複合材料の製造方法の提供である。鉄源にマンガン源を拡散させることにより、マンガン源は鉄源を取り囲み、被覆することにより反応を促進する。また、生成物の粉末が熱処理プロセスにおいて凝集しないため、電池の電気的特性が向上する。
【0009】
本発明の別の目的は、電池複合材料の製造方法の提供である。鉄源の粒径及び鉄のマンガンに対する比率を選別することにより、実用的な要件に応じた理想的な電気的特性を備える電池複合材料を製造することが出来る。
【0010】
本発明の一態様によれば、電池複合材料の製造方法が提供される。製造方法は少なくとも工程(a)〜(d)を含む。工程(a)では、鉄化合物と、リン酸(HPO)と、マンガン化合物と、リチウム化合物と、炭素源を供給する。工程(b)では、リン酸を鉄化合物及び脱イオン水の混合物に撹拌しながら加え、第1リン酸塩溶液を生成し、第1の量のマンガン化合物を第1リン酸塩溶液に加え、マンガン化合物と第1リン酸塩溶液を第1の期間連続的に反応させ、第1生成物溶液を生成する。工程(c)では、第1生成物溶液と、炭素源と、リチウム化合物を反応させ前駆体を生成する。炭素源としては、炭水化物、有機化合物、ポリマー材料又は高分子材料が挙げられる。工程(d)では、前駆体を熱処理し電池複合材料を生成する。電池複合材料の化学式は、LiFeMn1−xPOであり、xは0より大きい。
【0011】
本発明の別の態様によれば、電池複合材料の製造方法が提供される。製造方法は、少なくとも工程(a)〜(d)を含む。工程(a)では、鉄化合物と、リン酸(HPO)と、MnCOと、LiOHと、炭素源が供給される。工程(b)では、リン酸を撹拌しながら鉄化合物及び脱イオン水の混合物に加え第1リン酸塩溶液を生成し、第1の量のMnCOを第1リン酸塩溶液に加え、MnCOと第1リン酸塩溶液を第1の期間連続的に反応させ、第1生成物溶液を生成する。工程(c)では、第1生成物溶液と、炭素源と、LiOHを反応させ前駆体を生成する。炭素源としては、炭水化物、有機化合物、ポリマー材料又は高分子材料が挙げられる。工程(d)では、前駆体を熱処理し電池複合材料を生成する。電池複合材料の化学式はLiFeMn1−xPOであり、xは0.1から0.9の間の範囲である。
【0012】
本発明の別の態様によれば、電池複合材料の前駆体の製造方法が提供される。製造方法は、少なくとも以下の工程を含む。まず、鉄化合物とマンガンイオンを放出する化合物の反応をリン酸水溶液中で進行させ、第1生成物溶液を生成する。次に、第1生成物溶液とリチウムイオンを放出する化合物の反応をリン酸水溶液中で進行させ、前駆体溶液を生成する。そして、前駆体溶液を濃縮することにより電池複合材料の前駆体を得る。電池複合材料の前駆体の化学式はLiFeMn1−xPOであり、xは0より大きい。
【0013】
上述した本発明の内容は、以下に示す詳細な説明及び添付の図面を参照すると、当業者にとってより明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る材料電池複合の製造方法を示すフローチャートである。
【0015】
図2は、図1に示されている製造方法の工程S300の詳細な手順を示すフローチャートである。
【0016】
図3は、実施例1で調製した生成物の粉末X線回折パターンを概略的に示す。
【0017】
図4は、実施例2で調製した生成物の粉末X線回折パターンを概略的に示す。
【0018】
図5は、実施例1で調製した生成物の粉末のSEM写真を概略的に示す。
【0019】
図6は、実施例2で調製した生成物の粉末のSEM写真を概略的に示す。
【0020】
図7は、実施例1の生成物の粉末から製造されたコイン型電池の充放電曲線を概略的に示す。
【0021】
図8は、実施例2の生成物の粉末から製造されたコイン型電池の充放電曲線を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、以下に示す実施形態によって、より詳細に説明される。以下に示す本発明の好ましい実施形態の説明は、本発明を説明する目的のみのために示されることを注意されたい。つまり、下記に示す実施形態は、網羅的であることを意図するものではなく、また、開示された詳細な形態に限定することを意図するものでもない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る材料電池複合の製造方法を示すフローチャートである。電池複合材料の製造方法以下の工程を含む。まず、工程S100において、鉄化合物と、リン酸(HPO)と、マンガン化合物と、リチウム化合物を供給する。マンガン化合物の一例は、限定されるものではないが、炭酸マンガン(MnCO)、酸化マンガン(MnO)、マンガン含有化合物又はリン酸水溶液においてマンガンイオンを放出する任意の他の化合物を含む。中でも炭酸マンガンが好適に用いられる。リチウム化合物の一例は、限定されるものではないが、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、リチウム含有化合物又はリン酸水溶液においてリチウムイオンを放出する任意の他の化合物を含む。中でも水酸化リチウムが好適に用いられる。
【0024】
鉄化合物の一例は、限定されるものではないが、Fe(PO、FePO・2HO、LiFePO、Fe、FeC・2HO、FeC、他の鉄含有化合物又はこれらを組み合わせた混合物を含む。中でも、Fe(PO、FePO・2HO及びLiFePOが好適に用いられる。
【0025】
工程S200において、鉄化合物及び脱イオン水を混合、撹拌し、鉄化合物を脱イオン水中に初期分散させる。次に、リン酸(85重量%)を撹拌しながら加え、鉄化合物を均一に分散させ第1リン酸塩溶液を生成する。そして、第1の量のマンガン化合物を第1リン酸塩溶液に加える。マンガン化合物と第1リン酸塩溶液を第1の期間連続的に反応させ、第1生成物溶液を生成する。すなわち、鉄化合物は鉄源として用いられ、リン酸は脱イオン水中における鉄化合物の分散性を向上させ、後の反応を促進するために用いられる。本実施形態では、第1生成物溶液は鉄化合物、マンガンイオン及びリン酸イオンを含む溶液である。
【0026】
本実施形態では、第1リン酸塩溶液中のリン酸イオンはマンガン化合物の解離性を向上させ、第1生成物溶液中においてマンガンイオンは均一に分散され得る。一実施形態においては、マンガン化合物と第1リン酸塩溶液を少なくとも24時間(すなわち、第1の期間)連続的に反応させる。第1の期間は、好ましくは24時間であるが、これに限定されるものではない。また、第1の期間はリン酸イオンの濃度に応じて調製される。
【0027】
続いて、工程S300おいて、第1生成物溶液と、炭素源と、リチウム化合物の反応を進行させ、前駆体を生成する。炭素源の一例は、限定されるものではないが、炭水化物、有機化合物、ポリマー材料又は高分子材料を含む。例えば、炭水化物は、フルクトース又はラクトースである。
【0028】
工程S400において、前駆体は熱的に処理され電池複合材料を生成する。本発明の製造方法により得られる電池複合材料の化学式はLiFeMn1−xPOであり、xは0より大きく、またマンガンに対する鉄の比率を表す。この化学式において、xは0.1から0.9の間の範囲であり、好ましくは0.27である。
【0029】
一実施形態においては、工程S300遷移金属酸化物と、第1生成物溶液と、炭素源と、リチウム化合物を反応させる工程をさらに含む。その結果、工程S400において、金属酸化物LiFeMn1−xPOを含む電池複合材料、又は、リチウム鉄マンガンリン(LFMP−NCO)が共結晶化したナノ金属酸化物LiFeMn1−xPO・zM(zが1以上、Mが遷移金属酸化物である)を含む電池複合材料が生成される。遷移金属酸化物の一例は、限定されるものではないが、五酸化バナジウム(V)である。
【0030】
図2は、図1に示されている製造方法の工程S300の詳細な手順を示すフローチャートである。鉄源とマンガン源の24時間の反応の後、リチウム化合物と、炭素源と、分散剤を第1生成物溶液に加え、第2生成物溶液を生成する(工程S301)。例えば、分散剤はTriton X−100のような非イオン界面活性剤である。そして、工程S302において、第2生成物溶液は粉砕され前駆体溶液を生成する。本実施形態では、粉砕処理は、限定されるものではないが、ボールミルを用いて、450〜600rpmの回転速度で1時間行われる。
【0031】
図2に示すように、工程S303において、前駆体溶液の過剰な水を留去し、初期乾燥された前駆体を得る。そして、初期乾燥された前駆体はセラミック坩堝に入れられ、保護雰囲気(例えば、窒素又はアルゴンガス)に曝される。保護雰囲気下、前駆体を第1温度(例えば、800℃)にまで加熱し、第2期間(例えば、これに限定されるものではないが、少なくとも7時間)連続焼結する。その結果、前駆体は熱処理される。前駆体の焼結後、本発明の電池複合材料の生成物の粉末が得られる。電池複合材料は化学式LiFeMn1−xPOで表されるリチウム鉄マンガンリンである。この熱処理プロセスにおいて、前駆体中のマンガン源は鉄源中に拡散する。その結果、マンガン源は鉄源を部分置換により取り囲み、被覆する。熱処理プロセスにおいて生成物の粉末が凝集しないため、電池の電気的性能が向上する。また、本発明の製造方法により得られる生成物の粉末の粒径は鉄化合物原料の粒径に近い。すなわち、電池の電気的特性が向上するため、製品の安定性が増す。
【0032】
また、工程S400において、鉄化合物、リン酸、マンガン化合物及びリチウム化合物の分画の調整により、電池複合材料中の鉄のマンガンに対する比率が決まる。すなわち、実用的な要件に応じた理想的な電気的特性を備える電池複合材料を得ることができる。
【0033】
電池複合材料の製造方法の一例は、以下の実施例において例示される。
[実施例1]
【0034】
まず、103gのFe(PO及び2Lの脱イオン水を混合し、十分に攪拌した。続いて、264.4gのリン酸(HPO、85重量%)を混合液に加えた。なお、リン酸の濃度は85重量%より高くてもよい。混合液を均一に攪拌後、炭酸マンガン(MnCO)を混合液に加えて反応させることにより第1生成物溶液を生成した。第1生成物溶液を24時間連続攪拌し十分に反応させた後、132.1gの水酸化リチウム(LiOH)と、54gのフルクトースと、0.06gのTriton X−100を第1生成物溶液に加えた。その結果、第2生成物溶液を得た。なお、フルクトースの代わりに、12重量%のラクトース及び88重量%のフルクトースの混合物を用いてもよい。次に、第2生成物溶液をボールミル(回転速度:450 rpm〜650 rpm)を用いて1時間連続粉砕した。その結果、リチウム鉄マンガンリン(LiFexMn1−xPO4)の前駆体溶液を得た。さらに、前駆体溶液を濃縮し初期乾燥された前駆体を得た。そして、初期乾燥された前駆体をセラミック坩堝に入れ、保護雰囲気下、前駆体を少なくとも、800℃よりも高い温度で7時間焼結し生成物の粉末を得た。

[実施例2]
【0035】
本実施例においては、実施例1で用いたFe(POの代わりにLiFePOを用い、反応物の分画をこれに応じて調整した。まず、118.32gのLiFePOと、2Lの脱イオン水を混合し、十分に撹拌した。続いて、264.4gのリン酸(HPO、85重量%)を混合液に加えた。なお、リン酸の濃度は85重量%より高くてもよい。混合液を均一に攪拌後、炭酸マンガン(MnCO)を混合液に加えて反応させることにより第1生成物溶液を生成した。第1生成物溶液を24時間連続攪拌し十分に反応させた後、132.1gの水酸化リチウム(LiOH)、54gのフルクトース及び0.06gのTriton X−100を第1生成物溶液に加えた.その結果、第2生成物溶液を得た。なお、フルクトースの代わりに、12重量%のラクトース及び88重量%のフルクトースの混合物を用いてもよい。次に、第2生成物溶液をボールミル(回転速度:450 rpm〜650 rpm)を用いて1時間連続粉砕した。その結果、リチウム鉄マンガンリン(LiFexMn1−xPO4)の前駆体溶液を得た。さらに、前駆体溶液を濃縮し初期乾燥された前駆体を得た。そして、初期乾燥された前駆体をセラミック坩堝に入れ、保護雰囲気下、前駆体を少なくとも、800℃よりも高い温度で7時間焼結し生成物の粉末を得た。
【0036】
実施例1及び実施例2で調製した生成物の粉末をX線回折装置(XRD)で分析し、ICDD(国際回折データセンター)のデータと比較した。XRDの結果を図3及び図4に示す。また、実施例1及び実施例2で調製した生成物の粉末の表面トポグラフィーを図5及び図6に示す。図3及び図4で示すように、実施例1及び実施例2で調製した生成物の粉末をX線回折装置で分析して得たデータをICDDのLiFe0.3Mn0.7POのデータと比較すると、ラマンシフトにより両実施例の生成物の化学式がともにLiFe0.27Mn0.73POであることが示唆された。
【0037】
図5で示すように、実施例1で調製した生成物の粉末の平均粒径は100ナノメートルより小さく、反応物Fe(POの平均粒径も100ナノメートルより小さい。図6で示すように、実施例2で調製した生成物の粉末の粒径は、100ナノメートルから300ナノメートルの範囲内であり、反応物LiFePOの粒径も100ナノメートルから300ナノメートルの範囲内である。すなわち、鉄源の粒径は実質的に生成物の粉末の粒径と同じである。凝集の問題が効果的に回避されているので、生成物の粉末の粒径は増大しない。その結果、電池の電気的性能が向上する。
【0038】
実施例1及び実施例2で調製した生成物の粉末を、コイン型電池を組み立てるためにアルミニウム基材上にコーティングした。続いて、充放電テスターを用いてコイン型電池の電気的特性について、0.1C及び2Cにおける2回の充放電サイクルを調べた。その結果を、図7及び図8に示す。実施例1及び実施例2で調製した生成物の粉末を電池の陰極材料として用いた場合、充放電の動作がより安定し、電池容量が高かった。従って、本発明による電池複合材料の製造方法は電池の電気的特性を向上させることができる。
【0039】
上記のように、本発明は電池複合材料の製造方法を提供する。マンガン源を鉄源に拡散させることにより、生成物の粉末熱処理プロセスにおいて凝集せず、その結果、電池の電気的特性及び安定性が向上する。また、鉄源の粒径及び鉄のマンガンに対する比率を選別することにより、実用的な要件に応じた、理想的な電気的特性を備えた電池複合材料が得られる。
【0040】
以上、本発明について、現在最も実用的且つ好ましい実施形態と考えられるものに関して説明してきたが、本発明は、開示された実施形態に限定される必要はない。逆に、様々な改良及び類似の構成を添付の特許請求の範囲及び趣旨に含むことが意図されており、全ての改良及び類似の構成を包含するよう、最も広い解釈に従うべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8