特許第6239103号(P6239103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239103チロシンキナーゼ阻害活性を有する物質ならびにその調製方法および使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239103
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】チロシンキナーゼ阻害活性を有する物質ならびにその調製方法および使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/06 20060101AFI20171120BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20171120BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20171120BHJP
   A61K 31/63 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C07D403/06CSP
   A61P35/00
   A61P35/02
   A61P35/04
   A61P43/00 111
   A61K31/4184
   A61K31/63
【請求項の数】18
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-520212(P2016-520212)
(86)(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公表番号】特表2016-522223(P2016-522223A)
(43)【公表日】2016年7月28日
(86)【国際出願番号】CN2013000720
(87)【国際公開番号】WO2014201587
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2016年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】508007916
【氏名又は名称】中国人民解放軍軍事医学科学院放射及び輻射医学研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF RADIATION MEDICINE, ACADEMY OF MILITARY MEDICAL SCIENCES, PEOPLE’S LIBRATION ARMY OF CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 暁明
(72)【発明者】
【氏名】王 林
(72)【発明者】
【氏名】李 長燕
(72)【発明者】
【氏名】▲チャン▼ 軼群
(72)【発明者】
【氏名】劉 靖
(72)【発明者】
【氏名】羅 騰
(72)【発明者】
【氏名】顔 海燕
(72)【発明者】
【氏名】張 首国
(72)【発明者】
【氏名】李 圍
(72)【発明者】
【氏名】温 暁雪
(72)【発明者】
【氏名】彭 涛
(72)【発明者】
【氏名】李 魯
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−503736(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0204407(US,A1)
【文献】 特表2003−535847(JP,A)
【文献】 特表2006−510727(JP,A)
【文献】 KIM, Moon H., et al.,Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,2012年,22,4979-4985
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式I:
【化1】

[式中、
は水素またはハロゲンであり;Rは−SONRであり、ここで、Rは水素またはメチルであり、Rはフェニル、シクロヘキシル、ハロゲン置換フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、エトキシフェニル、ヒドロキシエチルフェニルまたはβ−ナフチルである]
の化合物、その幾何異性体または薬学的に許容される塩である、チロシンキナーゼ阻害活性を有する物質。
【請求項2】
式Iの化合物が、以下:
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(β−ナフチルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo1);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo2);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(N−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo3);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(シクロヘキシルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo4);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo5);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−クロロフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo6);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−ヒドロキシエチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo7);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo8);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−エトキシフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo9)
のうちのいずれか1つを含む、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
式IIの化合物および式IIIの化合物
【化2】
[式中、
およびRは、請求項1に定義される通りである]
を、メタノール、エタノールもしくはイソプロパノールまたはそれらの混合溶液中で混合すること、そこに塩基性または酸性の触媒を加えること、ならびに、還流させて所望の生成物を得ること
を含む、請求項1または2に記載の化合物の調製方法。
【請求項4】
調製の間、塩基性触媒が、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、酸化カルシウム、およびそれらの水溶液を含む無機塩基性化合物;トリエチルアミン、ピペリジン、ジメチルアミノピリジン、2,4,5−トリメチルピリジンまたはピリジンを含む有機アミンから選択され、酸性触媒が、塩酸およびリン酸を含む無機酸;p−トルエンスルホン酸および酢酸を含む有機酸から選択される、請求項3に記載の調製方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のチロシンキナーゼ阻害活性を有する物質のうち1つまたは複数および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物である、組成物。
【請求項6】
チロシンキナーゼ阻害薬または抗腫瘍薬の製造における請求項1または2に記載の化合物、その幾何異性体または薬学的に許容される塩、あるいは請求項5に記載の組成物の使用。
【請求項7】
腫瘍細胞アポトーシスを誘導すること、腫瘍血管新生を阻害すること、ならびに腫瘍の化学療法耐性および腫瘍の悪性転移を予防することを含む、腫瘍を予防および治療するために、チロシンキナーゼが阻害される、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
腫瘍が、乳癌、肺癌、皮膚癌、結腸癌、前立腺癌、膵癌、肝癌、胃癌、頭頸部癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、黒色腫、腎癌腫または白血病である、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
チロシンキナーゼ阻害薬が、c−MetまたはTrkシグナル伝達経路に関係する疾患を治療する薬物である、請求項6に記載の使用。
【請求項10】
c−Metシグナル伝達経路に関係する疾患が、肝癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌または白血病を含むがこれらには限定されない、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
Trkシグナル伝達経路に関係する疾患が、乳癌、肺癌、皮膚癌、胃癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、黒色腫、腎癌腫または白血病を含むがこれらには限定されない、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
腫瘍が、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、膵癌、肝癌、胃癌、頭頸部癌、神経膠腫、黒色腫、腎癌腫および白血病を含むがこれらには限定されない、抗腫瘍薬の製造における3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo5)の使用。
【請求項13】
腫瘍が、乳癌、肺癌、肝癌、胃癌、皮膚癌、神経芽細胞腫または白血病である、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
チロシンキナーゼ阻害薬の製造における3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo5)の使用。
【請求項15】
チロシンキナーゼ阻害薬が、c−MetまたはTrkシグナル伝達経路に関係する疾患を治療する薬物である、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
c−Metシグナル伝達経路に関係する疾患が、肝癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌または白血病を含むがこれらには限定されない、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
Trkシグナル伝達経路に関係する疾患が、乳癌、肺癌、皮膚癌、胃癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、黒色腫、腎癌腫または白血病を含むがこれらには限定されない、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
腫瘍が肝癌、肺癌または神経芽細胞腫である、抗腫瘍薬の製造における3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo5)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療および医薬品分野に関し、新たな種類の化合物、特に、一連の2−インドロン(2−indolone)誘導体(一般式I)、その幾何異性体および薬学的塩、ならびにそれらの化合物を調製する方法、ならびに腫瘍疾患の予防および治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍は、ヒトの健康を危うくする主な疾患であり、悪性腫瘍による全世界での年間死亡数はすべての疾患のうち2番目に多い。抗腫瘍薬に関する研究は、世界中の強い関心を引いてきた。従来の化学療法薬物は、細胞分裂を非特異的に阻止し得るまたは直接細胞死を引き起こし得るため、腫瘍細胞を死滅させる一方で、ヒト正常細胞を破壊することがある。腫瘍の形成および発達の背後にある機序についての理解が十分に進むにつれて、高い有効性、低い毒性、および腫瘍細胞のシグナル伝達経路に不可欠な酵素を標的とすることによる高い特異性をもつ新規薬物の開発が、抗腫瘍薬物に関する現在の研究において重要な傾向となっている。
【0003】
抗腫瘍薬物の様々な標的の中で、タンパク質チロシンキナーゼシグナル伝達経路が、腫瘍細胞の増殖および分化に密接に関係している。チロシンキナーゼシグナル伝達経路を干渉および遮断することが、抗腫瘍薬物の現在の研究および開発において注目されている。毎年、多数の研究が報告されている。肺癌を治療するためのチロシンキナーゼ阻害薬であるゲフィチニブ(Gefitinib)、慢性骨髄性白血病を治療するためのチロシンキナーゼ阻害薬であるグリベック(Gleevec)、および進行腎細胞癌を治療するためのスニチニブ(Sunitinib)など、様々なチロシンキナーゼ阻害薬が上市されている。これらは、上皮成長因子受容体(EGFR)および血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)などを含む複数の標的に作用し得る。さらに他の現在開発中のチロシンキナーゼ阻害薬も、臨床試験の種々のステージに入っている。
【0004】
抗腫瘍薬ゲフィチニブ(イレッサ)は、アストラゼネカUKによって開発されたチロシンキナーゼ阻害薬である。同剤は、2003年に、米国で、進行性または転移性非小細胞肺癌(NSCLC)における使用が承認され、2005年に、中国での販売が承認された。以前に化学療法を受けたことのあるNSCLC患者におけるゲフィチニブ錠剤250mg/日の奏効率を評価するための臨床試験が、中国の5つの臨床試験施設で行われた。計159例にゲフィチニブ錠剤250mgの少なくとも1回用量を投与した。その結果は、奏効率は27.0%であった(ゲフィチニブ説明書、http://baike.soso.com/v8292080.htmによる)ことを示した。これは、該薬物の有効性が低かったことを示唆した。したがって、効果的なチロシンキナーゼ阻害薬を探索し続けることに、実際的な重要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、チロシンキナーゼ活性を阻害する能力がある物質および抗腫瘍効果を有する薬物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、チロシンキナーゼ阻害活性を有する物質、すなわち一般式I:
【0007】
【化1】
【0008】
[式中、
は水素またはハロゲンであり;Rは水素または−SONRであり、ここで、Rは水素またはメチルであり、Rはフェニル、シクロヘキシル、ハロゲン置換フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、エトキシフェニル、ヒドロキシフェニルまたはβ−ナフチルである]
の化合物、その幾何異性体および薬学的に許容される塩に関する。
【0009】
式Iの化合物は、以下:
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(β−ナフチルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo1);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo2);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(N−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo3);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(シクロヘキシルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo4);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo5);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−クロロフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo6);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−ヒドロキシエチルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo7);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo8);
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−エトキシフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo9)
のうちのいずれか1つを含む。
【0010】
チロシンキナーゼ阻害薬の構造活性相関に従って、一連の化合物を設計し、合成した化合物のチロシンキナーゼ阻害活性を評価し、これらの化合物が良好なチロシンキナーゼ阻害活性を有することを実証する。
【0011】
本開示の化合物は、チロシンキナーゼ活性を効果的に阻害し得、したがって、潜在的な抗腫瘍活性を有し、抗腫瘍療法に使用し得る。
【0012】
上記化合物の幾何異性体、薬学的に許容される塩、水和物または溶媒和物と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物もまた、本開示の範囲内である。具体的には、該医薬組成物は:
syn(合成)またはanti(抗)化合物など、上記の化合物の異性体または水和物;
硫酸塩、ピロ硫酸塩、重硫酸塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、メタリン酸塩、ピロリン酸、塩酸塩、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、プロピオン酸塩、カプリル酸塩、アクリル酸塩、ギ酸塩、イソ酪酸塩、エナント酸塩、デカン酸塩、プロピオル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、スベリン酸塩、セバシン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、2−ブチン−1,4−二酸塩(2-butyne-1,4-dioate)、3−シクロヘキシン−2,5−二酸塩(3-cyclohexyne-2,5-dioate)、安息香酸塩、クロロ安息香酸塩、フェニル酢酸塩、フェニルプロピオン酸塩、フェニル酪酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、馬尿酸塩、β−ヒドロキシ酪酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、プロパンスルホン酸塩、ナフタレン−1−スルホン酸塩、ナフタレン−2−スルホン酸塩、マンデル酸塩、グルタミン酸塩、アルギニナート(argininate)、リシナート(lysinate)などを含む、上記の化合物の薬学的に許容される塩を含む。本開示の化合物の医薬および薬学的目的を考慮して、塩酸塩およびリン酸塩が特に好ましい。
【0013】
本開示の別の態様は:
式IIの化合物および式IIIの化合物
【0014】
【化2】
【0015】
[式中、
およびRは、上に定義される通りである]
を、メタノール、エタノールもしくはイソプロパノールまたはそれらの混合溶液中で混合すること、そこに塩基性または酸性の触媒を加えること、ならびに、還流させて所望の生成物を得ること
を含む、一般式Iの化合物を調製する方法に関する。
【0016】
調製の間、塩基性触媒は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニア、酸化カルシウム、およびそれらの水溶液を含む無機塩基性化合物;トリエチルアミン、ピペリジン、ジメチルアミノピリジン、2,4,5−トリメチルピリジンまたはピリジンを含む有機アミンなどから選択される。酸性触媒は、塩酸、およびリン酸を含む無機酸;p−トルエンスルホン酸および酢酸を含む有機酸などから選択される。
【0017】
上記のチロシンキナーゼ阻害活性を有する1つまたは複数の物質を薬学的に有効な量で、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む医薬組成物もまた、本開示の範囲内である。本開示の化合物の有効量を含有する医薬組成物は、当業者によく知られている薬学的担体を用いて調製し得る。
【0018】
本開示のさらなる態様は、チロシンキナーゼ阻害薬または抗腫瘍薬の製造における一般式Iの化合物、その幾何異性体もしくは薬学的に許容される塩、または組成物の使用に関する。
【0019】
本開示はまた、哺乳動物、好ましくはヒトにおける腫瘍および関連疾患を治療、予防、阻害または緩和する前記化合物から調製されたプロドラッグの使用も含む。該使用は、治療を必要とする哺乳動物に対して、薬学的に有効な量の本開示の薬物またはその医薬組成物を投与することを含む。
【0020】
該使用は、腫瘍細胞アポトーシスを誘導する、腫瘍血管新生を阻害する、ならびに腫瘍の化学療法耐性および腫瘍の悪性転移を予防することを意図している。
【0021】
腫瘍は、乳癌、肺癌、皮膚癌、結腸癌、前立腺癌、膵癌、肝癌、胃癌、頭頸部癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、黒色腫、腎癌腫または白血病である。
【0022】
チロシンキナーゼ阻害薬は、c−MetまたはTrkシグナル伝達経路に関係する疾患を治療する薬である。
【0023】
c−Metシグナル伝達経路に関係する疾患は、肝癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌または白血病などを含むが、これらには限定されない。
【0024】
Trkシグナル伝達経路に関係する疾患は、乳癌、肺癌、皮膚癌、胃癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、黒色腫、腎癌腫または白血病を含むが、これらには限定されない。
【0025】
本開示のさらなる態様は、チロシンキナーゼ阻害薬または抗腫瘍薬の製造における3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo5)の使用に関する。腫瘍は、乳癌、肺癌、結腸癌、前立腺癌、膵癌、肝癌、胃癌、頭頸部癌、神経膠腫、黒色腫、腎癌腫および白血病など、特に、肝癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、膵癌、結腸癌、胃癌、頭頸部癌または白血病、特に肝癌、肺癌または神経芽細胞腫を含むが、これらには限定されないTrkまたはc−Metシグナル伝達経路に関係する疾患を含むが、これらには限定されない。
【0026】
チロシンキナーゼ阻害活性を有する本開示の物質は、注射、経口または非経口投与で与えられ得る。該物質は、錠剤、丸剤、粉末混合物、カプセル剤、被覆剤、溶液、乳剤、分散剤、注射剤もしくは坐剤の形態、または任意の他の適切な形態とし得る。これらの製剤は、当業者によく知られている方法によって調製される。錠剤、カプセル剤および被覆剤の調製に使用される補助剤は、デンプン、ゼラチン、アラビアガム、シリカ、ポリエチレングリコールならびに水、エタノール、プロピレングリコールならびにコーン油、ピーナッツ油およびオリーブ油など植物油などの液体剤形で使用される溶剤などの従来の補助剤である。本開示の化合物を含有する製剤は、界面活性剤、潤滑剤、崩壊剤、保存剤、香味料または色素などの他の補助剤をさらに含み得る。
【0027】
本開示の化合物に関連した薬物を使用する場合、所望の生物学的効果を達成するために、所望の薬学的に有効な量は、選択される具体的な化合物、使用目的、投与経路および患者の臨床状態など、様々な要因に左右される。薬学的に有効な量は、既存のチロシンキナーゼ阻害薬、抗腫瘍薬であるゲフィチニブ(イレッサ)、例えば250mg/日を基準として決定され得る。
【0028】
本開示は、チロシンキナーゼ阻害活性を有する一連の2−インドロン誘導体、その幾何異性体および薬学的に許容される塩、ならびにそれらの化合物の調製方法および使用を提供する。チロシンキナーゼ阻害活性の評価を通じて、これらの化合物が優れたチロシンキナーゼ阻害活性を有し、したがって、潜在的な抗腫瘍活性を有することが実証されてきた。腫瘍疾患の予防および治療のための薬物(抗腫瘍剤)は、該化合物を有効成分として使用することにより調製され得る。本開示は、抗腫瘍療法において重要な役割を果たし、有望な適用が期待できる。
【0029】
本開示は、具体的な実施例とともに詳述される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】HepG2担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す。
図2】MHCC97−L担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す。
図3】MHCC97−H担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す。
図4】NCI−H460担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す。
図5】肝同所性腫瘍モデルにおける本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)のin vivo抗腫瘍活性を示す。
図6A】ヘパトーマ細胞株HepG2におけるHGF−誘導型c−Metリン酸化およびシグナル伝達経路に対する2−インドロン誘導体Indo5の阻害を示す。
図6B】ヘパトーマ細胞株MHCC97−Hにおけるc−Metリン酸化およびシグナル伝達経路に対する2−インドロン誘導体Indo5の阻害を示す。
図7】SK−N−SH細胞におけるNGF−誘導型TrkAリン酸化およびシグナル伝達経路に対する2−インドロン誘導体Indo5の阻害を示す。
図8】SK−N−SH細胞におけるBDNF−誘導型TrkBリン酸化およびシグナル伝達経路に対する2−インドロン誘導体Indo5の阻害を示す。
図9】SK−N−SH担癌マウスにおける腫瘍に対する腹腔内注射および経管栄養投与による2−インドロン誘導体Indo5の阻害効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
別段の記載がないかぎり、百分率濃度は、質量/体積(W/V)百分率濃度または体積/体積(V/V)百分率濃度である。
【0032】
実施例に記載の様々な生物学的材料を入手するための手法は、具体的な開示の目的のために、実験的に入手する手法を与えることを意図しているに過ぎず、本開示の生物学的材料の供給源への限定として解釈されるものではない。実際には、使用される生物学的材料を入手し得る数多くの供給源が存在する。いかなる法律または倫理にも反することなく入手し得る任意の生物学的材料を、実施例の中の助言に従い、代替として使用し得る。
【0033】
実施例は、本開示の技術的解決法に基づいて実施され、実施の詳細な方法および具体的な手順を提供する。実施例は、本開示の理解に役立つが、本開示の保護範囲は以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0034】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(β−ナフチルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo1)
0.17g(0.5mmol)の5−(B−ナフチルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾール−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、77.3%の収率で0.18gの淡黄色の固形物を得た。
【0035】
核磁気共鳴(NMR)分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm): δ13.81 (s, 1H), 11.68 (s, 1H), 10.51 (s, 1H), 8.48 (s, 1H), 8.13 (s, 1H), 7.58-7.82 (m, 6H), 7.64 (s, 1H, J=8.4 Hz), 7.29-7.46 (m,5H), 7.05 (d, 1H, J=8.4 Hz)。ESI-MS m/z: 465 [M-H]+ (100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rがβ−ナフチルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(β−ナフチルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例2】
【0036】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo2)
0.17g(0.5mmol)の5−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾール−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、64.1%の収率で0.15gの淡黄色の固形物を得た。
【0037】
NMR分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ (ppm): δ13.82 (s, 1H), 11.74 (s, 1H), 10.45 (s, 1H), 8.38 (s, 1H), 8.14 (s, 1H), 7.78-7.84 (q, 2H), 7.69 (d, 1H), 7.26-7.38 (m, 4H), 7.17-7.15 (m, 1H), 7.09 (d, 1H, J=8.4Hz)。ESI-MS m/z: 467 [M-H]+ (100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rが3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(3−クロロ−4−フルオロフェニルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例3】
【0038】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(N−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo3)
0.15g(0.5mmol)の5−(N−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾール−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、65.1%の収率で0.14gの淡黄色の固形物を得た。
【0039】
NMR分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ (ppm): δ13.83 (s, 1H), 11.73 (s, 1H), 8.24 (s, 1H), 8.20 (s, 1H), 7.81 (b, 2H), 7.27-7.37 (m, 6H), 7.17 (s, 1H), 7.15 (s, 1H), 7.05 (d, 1H, J=8.4Hz), 3.21 (s, 3H)。ESI-MS m/z: 429 [M-H]+ (100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、RがN−メチルフェニルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(N−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例4】
【0040】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(シクロヘキシルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo4)
0.15g(0.5mmol)の5−(シクロヘキシルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾール−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、80.6%の収率で0.17gの淡黄色の固形物を得た。
【0041】
NMR分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ (ppm): δ13.86 (s, 1H), 11.68 (s, 1H), 8.35 (s, 1H), 8.08 (s, 1H), 7.76-7.84 (m, 3H), 7.48 (d, 1H, J=7.2Hz), 7.66 (d, 1H, J=6.4Hz), 7.38 (t, 1H), 7.31 (t, 1H), 7.10 (d, 1H, J=8.0Hz), 3.02 (b, 1H), 1.60 (b, 5H), 1.50 (b, 5H)。ESI-MS m/z: 421 [M-H]+ (100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rがシクロヘキシルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(シクロヘキシルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例5】
【0042】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo5)
0.15g(0.5mmol)の5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾール−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、55.8%の収率で0.12gの淡黄色の固形物を得た。
【0043】
NMR分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ (ppm): δ13.82 (s, 1H), 11.70 (s, 1H), 9.44 (s, 1H), 8.20 (s, 1H), 8.00 (s, 1H), 7.82 (d, 1H, J=8.0Hz), 7.78 (d, 1H, J=8.0Hz), 7.61 (dd, 1H, J=16.8Hz), 7.38 (t, 1H), 7.30 (t, 1H), 7.00-7.15 (m, 5H), 2.09 (s, 3H)。ESI-MS m/z: 429 [M-H]+ (100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rが2−メチルフェニルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(2−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例6】
【0044】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−クロロフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo6)
0.16g(0.5mmol)の5−(4−クロロフェニルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾール−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、80.0%の収率で0.18gの淡黄色の固形物を得た。
【0045】
NMR分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm): δ13.81 (s, 1H), 11.70 (s, 1H), 10.36 (s, 1H), 8.36 (s, 1H), 8.10 (s, 1H), 7.80 (b, 2H), 7.70(dd, 1H, J=16.4Hz), 7.38 (b, 2H), 7.30 (d, 2H, J=13.6Hz), 7.17 (d, 2H, J=11.6Hz), 7.08 (d, 1H, J=8.4Hz)。ESI-MS m/z: 449[M-H]+(100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rが4−クロロフェニルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−クロロフェニルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例7】
【0046】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−ヒドロキシエチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo7)
0.16g(0.5mmol)の5−(4−ヒドロキシエチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.69mmol)の1H−ベンゾイミダゾール−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、69.6%の収率で0.16gの淡黄色の固形物を得た。
【0047】
NMR分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm): δ13.83 (s, 1H), 11.71 (s, 1H), 10.12 (s, 1H), 8.33 (s, 1H), 8.06 (s, 1H), 7.81 (b, 2H), 7.70(dd, 1H, J=16.4Hz), 7.34 (d, 2H), 7.06-7.08 (m, 5H), 4.60 (s, 1H), 4.49 (d, 2H), 2.59(t, 3H)。ESI-MS m/z: 459[M-H]+(100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rが4−ヒドロキシエチルフェニルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−ヒドロキシエチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例8】
【0048】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo8)
0.15g(0.5mmol)の5−(4−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾイル−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、83.7%の収率で0.18gの淡黄色の固形物を得た。
【0049】
NMR分光分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm): δ13.82 (s, 1H), 11.70 (s, 1H), 10.06 (s, 1H), 8.32 (s, 1H), 8.06 (s, 1H), 7.83 (d, 1H, J=8.0Hz), 7.79 (d, 1H, J=8.4Hz), 7.67(dd, 1H, J=16.8Hz), 7.38(t, 1H), 7.31 (t, 1H), 7.30 (d, 2H, J=13.6Hz), 7.06 (d, 2H, J=8.4Hz), 7.03 (s, 4H), 2.17 (s, 3H)。ESI-MS m/z: 429[M-H]+(100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rが4−メチルフェニルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−メチルフェニルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【実施例9】
【0050】
3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−エトキシフェニルアミノスルホ)−2−インドロン(Indo9)
0.16g(0.5mmol)の5−(4−エトキシフェニルアミノスルホ)−2−インドロンと0.10g(0.685mmol)の1H−ベンゾイミダゾイル−2−ホルムアルデヒドとを、6mLの無水エタノールに懸濁させた後、ピペリジンを2滴加えた。該混合物を30分間、油浴で加熱し、還流させた。大量の黄色の固形物を沈殿させ、ろ過および無水エタノールで洗浄して、58.3%の収率で0.13gの淡黄色の固形物を得た。
【0051】
NRM分析法による分析結果:1H-NMR (DMSO-d6) δ(ppm): δ13.82 (s, 1H), 11.71 (s, 1H), 9.83 (s, 1H), 8.24 (s, 1H), 8.02 (s, 1H), 7.83 (d, 1H, J=8.0Hz), 7.79 (d, 1H, J=8.0Hz), 7.62(dd, 1H, J=16.4Hz), 7.38 (t, 1H), 7.31 (t, 1H), 7.05 (d, 1H, J=8.4Hz), 7.01 (d, 2H, J=9.2Hz), 7.05 (d, 2H, J=8.8Hz), 3.90 (q, 2H), 1.24 (t, 3H)。ESI-MS m/z): 459 [M-H]+ (100)。分析により、淡黄色の固形物は、その構造式が式Iに示され、式中、Rが4−エトキシフェニルアミノスルホであり、Rが水素である、3−(1H−ベンゾイミダゾール−2−メチレン)−5−(4−エトキシフェニルアミノスルホ)−2−インドロンであることが示された。
【0052】
実験例1
2−インドロン誘導体のチロシンキナーゼ阻害活性
材料:
チロシンキナーゼ緩衝液:10mL 1M HEPES(pH7.5)、0.4mL 5% BSA/PBS、0.2mL 0.1M NaVO、および1mL 5M NaClを88.4mLの再蒸留水(DDW)に加えた(HEPES:Amresco;NaVO:Sigma)。
【0053】
ATP:アデノシン三リン酸、Amresco
組織抽出物PTKの抽出:マウス脳組織を速やかに取り除き、重さを量った後、均質化のために、5倍の体積の予備冷却した均質化緩衝液を加えた。4℃、1,000gで10分間遠心分離した後、核および細胞片を取り除いた。上清S1を採取し、4℃、10,000gで20分間遠心分離した後、上清S2を採取した。粗膜タンパク質画分に相当する、沈殿物P2が保持された。S2は、細胞質タンパク質を含み、タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)活性を試験するために使用した。膜タンパク質画分の検出において、2倍の体積の溶解緩衝液をP2に加え、得られたものを氷上に10分間置き、4℃、10,000gで10分間遠心分離した。PTK活性を試験するために、可溶性膜タンパク質を含む粗膜タンパク質に相当する上清S3を採取した。BCAタンパク質濃度測定キット(BCA protein concentration kit)(Beyotime Institute of Biotechnologyから購入)を使用して、細胞質または膜タンパク質中のタンパク質含量を検出した。組織抽出物は−70℃で保管した。
【0054】
96ウェルプレートのコーティング:PTK基質を溶解し、各ウェルに100μlの量で加えた。プレートに蓋をして、4℃で一晩(10〜12時間)インキュベートした。その後、200μlの溶出緩衝液で1回洗浄し、37℃で2時間乾燥させた。その後、10mMのPBSで1回洗浄し、室温で乾燥させた後、さらなる使用のために4℃で保管した。
【0055】
群:ブランク対照:ATP含有の80μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液+20μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液;陰性対照:ATP含有の80μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液+10μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液+7μl 組織抽出物+3μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液;陽性対照:ATP含有の80μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液+10μl ゲフィチニブ+7μl 組織抽出物+3μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液(最初に、陽性薬物を、室温で10分間、チロシンキナーゼ組織抽出物と相互作用させ、一方、陰性対照群の組織抽出物も室温で10分間置き、その後、ATP含有の80μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液をそれぞれの群に加えた);溶媒対照(vehicle control):ATP含有の80μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液+10μl DMSO+7μl 組織抽出物+3μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液;スクリーニング対象となる薬物:ATP含有の80μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液+10μl 検査対象となる薬物+7μl 組織抽出物+3μl 1×チロシンキナーゼ緩衝液。
【0056】
PTK活性アッセイ:1mLの(10×)チロシンキナーゼ緩衝液を9mLのDDWと均一に混ぜ合わせることによって、1×チロシンキナーゼ緩衝液を調製した。組織抽出物を1×チロシンキナーゼ緩衝液を用いて適切に希釈し、それ(it)とゆっくりと均一に混ぜ合わせて、氷上に置いた。ATP保存液を、48μlのATP保存液を1mLの1×チロシンキナーゼ緩衝液と均一に混ぜ合わせることによって溶解させて、氷上に置いた。上記の通り処置された各群のそれぞれのウェルにマイクロプレートリーダーを取り付けて、蓋をし、室温で30分間、インキュベートした。残留している緩衝液が取り除かれるまで、マイクロプレートリーダーを200μlの溶出緩衝液で洗浄し、液を抜き取り(tapped)、この手順を5回繰り返した。各ウェルに対して、100μlの抗体希釈液(1:2000の比率で希釈した抗体溶出緩衝液)を加えた。リーダーに蓋をし、室温で30分間、インキュベートした。4mgのOPDを0.1mol/Lのクエン酸溶液4.86mLと0.2mol/LのNaHPO溶液5.14mLとの混合物に加えた後、50μlの30%Hを加えて完全に溶解させた後、遮光することによって、OPD溶液を調製した。抗体溶液を取り除いた。残留している緩衝液が取り除かれるまで、リーダーを200μlの溶出緩衝液で洗浄し、液を抜き取り、この手順を5回繰り返した。100μlの新たに調製したOPDを加えて、遮光の下で(light tight)、正確に7分間、室温で反応させた。陽性ウェルは、オレンジ色を示した。100μlの2.5N HSOを加えて、反応を終了させた。ODを492nmで測定した。
【0057】
サンプルスクリーニング:サンプルを予備的にスクリーニングした。タンパク質チロシンキナーゼ活性に対するサンプルの効果を試験し、阻害率を算出した。阻害率(%)=(OD陰性対照−ODサンプル)/(OD陰性対照−ODブランク)×100%;陽性薬物の阻害率を算出する場合、式中のOD陰性対照をOD溶媒対照で置き換えて、PTK活性に及ぼすDMSOの影響を除外する。
【0058】
結果:表1を参照。表1は、薬物群(化合物番号は、対応する実施例から得た)および陽性薬物群(ゲフィチニブ)からの結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1のデータは以下のことを示した:陽性薬物であるゲフィチニブは、400μMで、チロシンキナーゼ活性を40.2%の阻害率で有意に阻害し、一方、本開示の実施例のすべての化合物が、同じ濃度で、45%を超える阻害率でチロシンキナーゼ活性に対する強力な阻害を示し、これは、陽性対照薬物と同等、または陽性対照薬物よりも優れ、これらの化合物が、チロシンキナーゼを高発現する腫瘍を予防および治療する可能性があることを示唆した。
【0061】
実験例2
本開示の2−インドロン誘導体のin vitro抗腫瘍活性
方法:14種の細胞株(ΜKN−45細胞、MHCC97−L細胞、MHCC97−H細胞、HLE細胞、HepG2細胞、7721細胞、L02細胞、A375細胞、H460細胞、A549細胞、SK−N−SH細胞、MCF−7細胞、K562細胞、およびBa/F3−Tpr−Met細胞(c−Met構成的活性変異体Tpr−Metによって悪性転換された前駆B細胞)を、96ウェルプレートに1×10細胞/ウェルで播種し、各ウェルに10%ウシ胎仔血清(Hycloneから購入)含有の150μlのDMEM培地(Invitrogenから購入)を加えた。細胞の付着が観察される場合、陰性対照(溶媒対照群)およびブランク対照(培地群)に加えて、種々の濃度(0.1〜10μMの濃度)の2−インドロン誘導体を加えた。37℃で、5%CO下で72時間の培養後、MTS試薬(Promega Corporation)を加え、さらに2〜4時間培養させた。マイクロプレートリーダーを用いて450nmの波長でOD値を検出し、ソフトウェアSPSSを用いてIC50(細胞増殖の阻害率が50%に達する化合物の濃度)を算出した。
【0062】
結果を表2に示す(IC50(μM)は、細胞増殖の阻害率が50%に達する化合物の濃度を示す)。化合物は、正常な肝細胞L02の増殖にわずかに影響を与えたことを除き、他の腫瘍細胞株に対して有意な阻害を示し、本開示の2−インドロン誘導体が有意なin vitro抗腫瘍活性を有し、正常細胞に対する有害作用を有さないことが示唆された。
【0063】
【表2】
【0064】
実験例3
皮下接種されたヌードマウスモデルにおける2−インドロン誘導体(Indo5)のIn vivo抗腫瘍活性
方法:本開示の2−インドロン誘導体の全体的なin vivo抗腫瘍活性を評価するために、HepG2細胞、MHCC97−L、MHCC97−H細胞、およびNCI−H460細胞を含む様々な担癌ヌードマウスモデルを確立し、担癌ヌードマウスにおける腫瘍の成長に対する腹腔内注射した2−インドロン誘導体(実施例としてIndo5)の効果を観察した。
【0065】
担癌モデルの確立:腫瘍細胞を、対数的成長を達成するまでT75フラスコ内で培養した。細胞をトリプシン処理し、10%ウシ胎仔血清含有のDMEM培地を加えてトリプシン処理を終了させた。細胞をPBSで2回洗浄し、懸濁させた。細胞濃度を5×10個/mlに調整し、150μlの細胞懸濁液をマウスの右側腹部に注射した。接種後、ヌードマウス内の腫瘍を毎日観察し、腫瘍が100mmの体積に達したときに、マウスを群に分けた。各ヌードマウスに番号を付け、腫瘍サイズを測定した。選別のためにデータをEXCELに入力することで、極値を除外した。マウスの数に合わせてランダムな番号を作成し、これらのランダムな番号を使用してマウスを無作為に群に分けた。
【0066】
投与:それぞれ4mg/kg、8mg/kgおよび16mg/kgの用量で、腹腔内注射を使用した。溶媒対照群には同量のDMSOを注射した。マウスは、24時間毎に1回処置を行い、合計で6回の投与を施した。投与の間、腫瘍サイズ(長さ×幅×幅/2)の変化をリアルタイムでモニターして、記録し、結果は平均値±標準偏差として表した。2週間後、マウスを屠殺し、腫瘍を取り出して、計量し、腫瘍に対する化合物の阻害率を算出した。
【0067】
結果:図1は、HepG2担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す;Aは、腫瘍体積変化曲線を表し、Bは、阻害率を表す。
【0068】
図2は、MHCC97−L担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す;Aは、腫瘍体積変化曲線を表し、Bは、阻害率を表す。
【0069】
図3は、MHCC97−H担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す;Aは、腫瘍体積変化曲線を表し、Bは、阻害率を表す。
【0070】
図4は、NCI−H460担癌マウスにおける腫瘍に対する異なる用量の化合物Indo5の阻害を示す;Aは、腫瘍体積変化曲線を表し、Bは、阻害率を表す。
【0071】
腫瘍阻害率は、以下の式に従って、測定値を使用することにより算出された:
腫瘍阻害率=(対照群の平均重量−処置群の平均重量)/対照群の平均重量×100%
算出結果から、腹腔内投与による化合物Indo5は、用量依存的に腫瘍細胞成長を阻害することができ、HepG2細胞、MHCC97−L/H細胞およびNCI−H460細胞のin vivo増殖に対する最高用量(16mg/kg)での化合物Indo5の阻害率はそれぞれ61%、68%、61%および59%であることが示され、化合物Indo5が様々な腫瘍細胞を皮下接種されたヌードマウスモデルに対して有意な抗腫瘍効果を有することが示された。
【0072】
実験例4
肝同所性腫瘍モデルにおける2−インドロン誘導体(Indo5)のin vivo抗腫瘍活性
動物モデルの確立:MHCC−97H細胞を、10%ウシ胎仔血清(100μl/mLのペニシリンおよび100μl/mLのストレプトマイシンで補充)含有の1640培地で、37℃、5%CO含有のインキュベーターで培養した。1〜2日毎に1回、培地を変えた。細胞を0.25%トリプシンで消化し、1,000回転/分で5分間遠心分離した。上清を廃棄し、新鮮な培地を継代培養のために加えた。継代培養した腫瘍細胞を無菌条件下で消化(digested)し、塩化ナトリウム注入で再懸濁させ、ヌードマウスの右側腹部に皮下接種した。ヌードマウスの皮下腫瘍が、体積約1,500〜2,000mmまで成長したとき、腫瘍塊を無菌条件下で取り出し、今後の使用のために約1.0×1.0mmのサイズに細切りした。その後、接種の対象となるヌードマウスは、麻酔をかけて、手術台に固定した。腹部の皮膚を消毒し、左上腹部に約1cmの切り込みを入れ、肝臓を露出させ、手術部位を覆った。用意した腫瘍断片を接種専用トロカール(dedicated inoculation trocar)内に置き、トロカールを使用して肝臓内に移植した。創傷の出血部位を滅菌ガーゼまたは滅菌綿棒で処置し、止血した。その後、手術を施した肝臓をマウスの腹腔内に戻した。次いで、腹筋および腹部の皮膚を4/0規格手術針で縫合した。2週間にわたるマウスへの通常の給餌後、肝腫瘍のサイズをB−超音波の下で観察した。約100mmの腫瘍から、同所性接種モデルが首尾よく確立されたことが示された。
【0073】
方法:動物モデルを、溶媒対照群、腹腔内低用量群(18mg/kg)、腹腔内高用量群(36mg/kg)、および経管栄養群(36mg/kg)に、各群9例で無作為化した。マウスは24時間毎に1回処置した。腹腔内投与は腹腔内注射で行った。溶媒対照群は、DMSOを腹腔内に注射して処置した。6回の投与を施した。最後の投与後、動物をさらに3週間維持し、その後、頸椎脱臼により屠殺し、解剖して、肝臓を採取した。視認できる腫瘍を切除し、計量した。
【0074】
結果を図5および表3に示した。図5は、それぞれ9例の動物(腫瘍サイズにより分類し、1〜9の番号を付した)を含む各群の屠殺した動物から解剖した腫瘍の写真を示した。本実験の終了時、腹腔内高用量群のうち1例の動物(No.9)において肝癌が消滅した。データは、本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)が、同所性に肝腫瘍を形成するヘパトーマ細胞株の能力を有意に阻害する可能性があることを示唆し、用量依存性を示した。さらに、経管栄養群および腹腔内注射群は、同等の抗腫瘍効果を示し、経口投与される場合、本開示の化合物が抗腫瘍効果を有し、したがって、経口抗腫瘍剤へと開発される可能性があることを示した。
【0075】
【表3】
【0076】
実験例5
肺癌細胞A549の肺同所性腫瘍形成を阻害する本開示の2−インドロン誘導体の能力
本研究は、肺癌細胞A549の肺同所性腫瘍形成を阻害する本開示の2−インドロン誘導体(実施例としてIndo5)の能力を試験することを目的とした。
【0077】
動物モデルの確立:ヒト肺癌細胞株A549を、10%ウシ胎仔血清(100μl/mLのペニシリンおよび100μl/mLのストレプトマイシンで補充)含有の1640培地で、37℃で、5%CO含有のセルインキュベーター内で培養した。1〜2日毎に1回、培地を変えた。細胞を0.25%トリプシンで消化し、1,000回転/分で5分間遠心分離した。上清を廃棄し、新鮮な培地を継代培養のために加えた。継代培養した腫瘍細胞を無菌条件下で懸濁液へ消化し、BALB/cヌードマウスに、左胸部の第3と第4の肋骨の間に、同所性に注入した(3.0×10個/マウス、30μl)。接種針を肺葉内に約5mmの深さで挿入した。接種日はD0としてラベルで表示した。7日後、動物を計量し、体重に基づき各群に無作為化した。この時点で、胸部X線により、マウスの肺に腫瘍が形成されていることが示され、これは動物モデルが首尾よく確立されたことが示された。
【0078】
方法:動物モデルを、溶媒対照群(DMSO腹腔内注射)、腹腔内低用量群(18mg/kg)、および腹腔内高用量群(36mg/kg)の3つの群に無作為化した。動物は24時間毎に1回処置した。6回の逐次的投与の後、動物をさらに30日間維持した。本実験の終了時、動物を屠殺し、解剖して、肺を採取した。腫瘍を切除し、計量した。
【0079】
結果を表4に示した。表に示されるように、本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)は、肺癌細胞A549の肺同所性腫瘍形成を有意に阻害でき、用量依存性を示した。
【0080】
【表4】
【0081】
実験例6
c−MetおよびTrk活性に対する本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)の特異的阻害
c−MetおよびTrkA/Bキナーゼを含む15種の受容体型チロシンキナーゼを選択し、それぞれのin vitroリン酸化に対する本開示の2−インドロン誘導体(実施例としてIndo5)の効果を試験した。実験方法は以下の通りである:
1)in vitro c−Metキナーゼ活性に対するIndo5の阻害を試験するためにELISAおよびMetキナーゼアッセイキット(Cell Signalingから購入)を使用した:1010μlの10mM ATPを、1.25mlの6μM基質ペプチドに加え、水で希釈して2.5mlとし、2×ATP/基質混合物([ATP]=40μM、[基質]=3μm)を調製した。酵素を−80℃から取り出し、解凍のため、直ちに氷上に置いた。4℃で遠心分離し、液体を管の底に濃縮させて、速やかに氷上に戻した。10μlのDTT(1.25M)を4×HTScanチロシンキナーゼ溶液(240mMのHEPES pH7.5、20mMのMgCI2、20mMのMnCI2、12μMのNa3VO4)に加えて、DTT/キナーゼ溶液を調製した。1.2mlのDTT/キナーゼ溶液を、それぞれのキナーゼの管に加えて、4×反応混合物([酵素]=4×反応混液中4ng/μL)を調製した。12.5μlの4×反応混合物と12.5μlの溶解前Indo5(異なる用量)とを、室温で5分間インキュベートし、これに25μl 2×ATP/基質を加えて、均一に混合し、その後、さらに30分間室温でインキュベートした。50μlの停止緩衝液(50mMのEDTA、pH8)を加えて反応を終了させた。上記の反応物のうち25μlと75μlの水とを、ストレプトアビジン結合型96ウェルプレートに加えて、室温で60分間インキュベートした。プレートを200μlのPBSで3回洗浄した。P−Tyr−100抗体を1:1000の比率で希釈し、96ウェルプレートに加えて、60分間室温でインキュベートした。プレートを200μlのPBSで3回洗浄した。西洋ワサビペルオキシダーゼ結合型二次抗体を希釈し、100μlの量で96ウェルプレートに加えて、30分間室温でインキュベートした。その後、プレートを200μlのPBS/Tで3回洗浄した。100μlのTMB基質を加えて、15分間室温でインキュベートした。その後、100μlの停止液を加えて、均一に混合した。分光光度計を使用して450nmで吸光度を読み取った。ソフトウェアSPSSを用いて、IC50(キナーゼ活性の阻害率が50%に達する化合物の濃度)を算出した。
2)Kinase Glo Plusアッセイフォーマット、Progmagを使用して、残り14種の受容体型チロシンキナーゼの活性を試験し、キナーゼ活性に関するIC50を阻害率に基づき算出した。
【0082】
結果を表5に示した。c−Metキナーゼに対する本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)の阻害に関するIC50は0.16μMであり、TrkAキナーゼについてのIC50は0.022μMであり、TrkBキナーゼについてのIC50は0.23μMであったのに対し、他のキナーゼに対する阻害についてのIC50は10μM超であった。これらの結果は、本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)が、c−MetおよびTrk(TrkAおよびTrkBを含む)キナーゼの活性を有意に阻害し、良好な選択性を示すことを示唆した。該結果は、本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)は、c−MetおよびTrkキナーゼの活性を特異的に阻害することができ、一方、他のキナーゼに対しては有意な効果を有さないことを示した。
【0083】
【表5】
【0084】
実験例7
ヘパトーマ細胞におけるc−Metリン酸化およびシグナル伝達経路に対する2−インドロン誘導体(Indo5)の阻害
これまで報告されたように、肝細胞増殖因子(HGF)によって介在されるc−Metシグナル伝達経路は、腫瘍の形成および発達に重要な役割を果たす。c−Metキナーゼは、HGFの高親和性受容体であり、組織修復、創傷治癒、肝再生および胚発生において必要不可欠な機能を有する。研究により、c−Metの異常発現が直接、腫瘍形成を引き起こす可能性があることが示されてきた。c−Metは、HGFに結合することで、下流シグナル伝達経路を活性化させ、腫瘍細胞間の接着を妨害し、細胞運動を促進し、したがって腫瘍細胞の浸潤能および血管新生を高める。癌と臨床的に診断された患者におけるc−Metの異常形成は、不良な予後、急速な病勢進行、高転移および短期の生存期間と密接に関係している。c−Metは、国際的に、癌治療の標的として認識されている。本開示は、2つのヘパトーマ細胞株を使用してc−Metシグナル伝達経路に対する化合物の有効性を試験した。HepG2細胞はc−Metを高発現し、HGF刺激は、ERK、Aktなどの活性化を含む、c−Metリン酸化およびその下流シグナル伝達経路を活性化する可能性がある。MHCC97−H細胞は、HGFそれ自体を分泌するヘパトーマ細胞株であり、したがって、この細胞は、通常の培養条件下で、高くおよび持続性のあるレベルのc−Metリン酸化を有する。
【0085】
2つのヘパトーマ細胞株、HepG2およびMHCC97−Hを使用して、HGF−誘導型c−Metリン酸化およびシグナル伝達経路に対する本開示の2−インドロン誘導体(実施例としてIndo5)の阻害を試験した。
【0086】
細胞培養:c−Metを高発現するHepG2細胞および持続的に活性のあるc−Metを有するMHCC97−H細胞を、10%ウシ胎仔血清(100μl/mLのペニシリンおよび100μl/mLのストレプトマイシンで補充)含有の1640培地で、37℃で、5%CO含有のセルインキュベーターで培養した。1〜2日毎に1回、培地を変えた。細胞を0.25%トリプシンで消化し、5分間1,000回転/分で遠心分離した。上清を廃棄し、新鮮な培地を継代培養のために加えた。
ウエスタンブロットアッセイ:
(A)HepG2細胞について:HepG2細胞を24時間、無血清条件下で培養し、次いで2時間、様々な濃度(0.1μM、0.5μM、1.0μMおよび2.0μM)のIndo5または溶剤DMSO(0)で予備培養した。その後、20ng/mLのHGF(加えない場合には、「−」と表示)を加えて、5分置いた。細胞溶解後、全タンパク質を抽出した。c−Metリン酸化および非リン酸化抗体、ERKリン酸化および非リン酸化抗体、Aktリン酸化および非リン酸化抗体(すべてCell Signalingから購入)ならびにGAPDH抗体(Santa Cruzから購入)を用いて、ウエスタンブロットアッセイを行った。
(B)MHCC97−H細胞について:MHCC97−H細胞を24時間、通常の条件下で培養し、次いで、様々な濃度(0.1μM、0.5μM、1.0μMおよび2.0μM)のIndo5または溶剤DMSO(0)あるいは1μMのSU11274で処理した。SU11274(Sigmaから購入)は、c−Metの活性化を遮断し得る特異的c−Metキナーゼ阻害剤である。但し、この化合物の溶解性および大きな有害作用により、適切な臨床薬ではないが、この化合物は本研究において陽性対照として使用することができる。化合物とともに2時間インキュベーション後、細胞を収集し、全タンパク質を抽出した。c−Metリン酸化および非リン酸化抗体、ERKリン酸化および非リン酸化抗体、Aktリン酸化および非リン酸化抗体(すべてCell Signalingから購入)ならびにGAPDH抗体(Santa Cruzから購入)を用いて、ウエスタンブロットアッセイを行った。
【0087】
結果を図6Aおよび6Bに示した。HepG2細胞において、HGFは、c−Metのリン酸化を速やかに誘導し、Indo5は、c−MetのHGF−誘導型リン酸化を用量依存的に阻害した。2μMでc−Metリン酸化がほぼ完全に阻害され、c−Metの重要な下流シグナル伝達分子であるAktおよびERKのリン酸化も阻害された(図6A参照)。MHCC97−H細胞は、高転移ヒトヘパトーマ細胞株である。それは、HGFを分泌し、自己分泌を通じてHGF/c−Metシグナル伝達経路を活性化し得る。通常の培養条件下で、MHCC97−H細胞は高レベルのc−Metリン酸化を有する。Indo5は、c−Metのリン酸化ならびにその下流シグナル伝達経路分子であるAktおよびERKのリン酸化を用量依存的に阻害し得る(図6B参照)。2μMの濃度でのIndo5の阻害効果は、陽性対照SU11274と同等であった。上記の結果は、本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)が、c−Metの活性化とその下流シグナル伝達分子であるERKのリン酸化とを用量依存的に有意に阻害したことを示し、in vitro細胞においてHGF/c−Metを効果的に阻害し得ること、ならびにc−Metの異常活性化がみられる腫瘍および肝癌を治療するための治療剤へと開発し得ることを示唆した。
【0088】
実験例8
TrkAおよびTrkBリン酸化ならびにシグナル伝達経路に対するIndo5の阻害
Trk(NTRK)キナーゼは、受容体型チロシンキナーゼファミリーのサブファミリーに属している。このサブファミリーのキナーゼは、ニューロトロフィン受容体であり、中枢および末梢神経系の発生および維持において重要な役割を果たしている。そのメンバーとしては、TrkA(NTRK1)、TrkB(NTRK2)およびTrkC(NTRK3)が含まれる。Trkは、腫瘍の形成および発達に密接に関係しており、Trkシグナル伝達経路を阻害することは、すでに腫瘍治療の戦略の1つとなっている。Trkを標的とする低分子阻害剤および治療的モノクロナール抗体が、末梢性疼痛に対する臨床的介入ならびに中枢神経系の異常および癌に対する治療において使用されている。TrkAはNGFの高親和性受容体であり、TrkBはBDNFの高親和性受容体である。TrkAのリン酸化、TrkBのリン酸化および下流シグナルを検出することによって、該シグナル伝達経路に対する本開示の2−インドロン誘導体(実施例としてIndo5)の効果を評価し得、さらに、本細胞経路に関連している神経芽細胞腫、乳癌、および肺癌などに対する阻害効果も予測し得る。
【0089】
方法:神経芽細胞腫細胞SK−N−SHを、10%ウシ胎仔血清(100μl/mLのペニシリンおよび100μl/mLのストレプトマイシンで補充)含有の1640培地で、37℃で、5%CO含有のセルインキュベーターで培養した。1〜2日毎に1回、培地を変えた。細胞を0.25%トリプシンで分解し、5分間1,000回転/分で遠心分離した。上清を廃棄し、新鮮な培地を継代培養のために加えた。24時間無血清条件下でSK−N−SH細胞の培養後、様々な濃度(0.05μM、0.1μM、0.5μMおよび1.0μM)のIndo5または溶剤DMSO(0)を2時間の予備培養のために加えた。500ng/mLのNGFまたは200ng/mlのBDNF(加えない場合には、「−」と表示)を加えて、5分間細胞を刺激した。細胞溶解後、全タンパク質を抽出した。TrkAリン酸化および非リン酸化(p−TrkA)抗体、TrkBリン酸化および非リン酸化(p−TrkB)抗体、ERKリン酸化および非リン酸化(p−ERK)抗体、Aktリン酸化および非リン酸化(p−Akt)抗体ならびにGAPDH抗体を用いて、ウエスタンブロットアッセイを行った。
【0090】
結果を図7に示した。本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)は、TrkAのリン酸化およびその下流シグナル伝達分子であるERKのリン酸化を用量依存的に有意に阻害した。図8に示すように、本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)は、TrkBのリン酸化ならびにその下流シグナル伝達分子であるERKおよびAktのリン酸化を用量依存的に有意に阻害した。これらのデータは、本開示の2−インドロン誘導体(Indo5)が、in vitro細胞におけるTrkシグナル伝達経路を効果的に阻害し得ること、ならびに神経芽細胞腫、乳癌および肺癌などを治療する治療剤へと開発し得ることを示唆した。
【0091】
実験例9
in vivoにおける神経芽細胞腫SK−N−SH細胞の成長に対するIndo5の阻害
NGF/TrkAが神経細胞性(neurocyte)腫瘍の形成および発達において重要な役割を果たすことが報告されている。神経芽細胞腫SK−N−SH細胞を用いて、担癌ヌードマウスモデルを確立し、該担癌ヌードマウスにおける腫瘍に対する本開示の2−インドロン誘導体(実施例としてIndo5)の効果を観察した。
【0092】
モデルの確立:6〜8週齢のnu/nu雌マウスを、1週間、動物施設においてSPF条件下で給餌し、5×10個の神経芽細胞腫SK−N−SH細胞(ATCCから購入)を各マウスの左側腹部に皮下接種した。接種後、腫瘍体積を毎日モニターした。サイズが約100mmまでに達したとき、マウスをグループに分けた。各ヌードマウスに番号を付けて、腫瘍サイズを測定した。選別するために測定したデータをEXCELに入力し、極値を除外した。マウスの数に合わせてランダムな番号を作成し、これらのランダムな番号を使用してマウスを無作為にグループ化した。
【0093】
方法:4mg/kg、8mg/kgおよび16mg/kgの各用量での腹腔内注射群;経管栄養群(16mg/kg);ならびに同量のDMSOを注射した溶媒対照群。それぞれの群に10例の動物が含まれていた。マウスに24時間毎に1回処置を行い、合計で6回の投与を施した。投与の間、腫瘍サイズ(長さ×幅×幅/2)の変化をリアルタイムでモニターして、記録し、結果は、平均値±標準偏差として表した。2週間後、マウスを屠殺し、視認できる腫瘍を取り出して、計量し、腫瘍に対する化合物の阻害率を算出した。
【0094】
図9は、SK−N−SH担癌マウスに対する異なる用量での化合物Indo5の阻害を示した;Aは、腫瘍体積変化曲線を表し、Bは、阻害率を表す。図は、化合物Indo5の腹腔内注射がSK−N−SH細胞の成長を効果的に阻害し得ることを示し、および用量依存性を示すことを示した。腫瘍阻害率は、測定されたデータから算出し、算出した結果は、腹腔内投与による化合物Indo5が腫瘍細胞の成長を用量依存的に阻害し得ることを示した。SK−N−SH細胞のin vivo増殖に対する最高用量(16mg/kg)の化合物Indo5の阻害率は50%であり、化合物Indo5がSK−N−SH腫瘍細胞を皮下接種したヌードマウスモデルに対し有意な抗腫瘍効果を有することを示した。
【0095】
さらに、SK−N−SH細胞のin vivo増殖に対する経管栄養および腹腔内投与の効果を比較したところ、腫瘍細胞の増殖に対する16mg/kgの経管栄養投与の阻害率は48%で、腹腔内注射の阻害率と同等であったとの結果が示され、これは本開示の化合物が経口投与された場合、抗腫瘍効果を有し、経口抗腫瘍薬へと開発される可能性があることを示唆した。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示は、2−インドロン誘導体およびその調製方法を提供し、それらの物質は、チロシンキナーゼ阻害活性を有し、チロシンキナーゼ阻害剤または抗腫瘍剤の有効成分として使用することができ、したがって、腫瘍疾患の予防および治療ならびに抗腫瘍剤の開発のために使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9