特許第6239108号(P6239108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239108新規な変異オルニチンデカルボキシラーゼタンパク質及びその用途
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  • 特許6239108-新規な変異オルニチンデカルボキシラーゼタンパク質及びその用途 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239108
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】新規な変異オルニチンデカルボキシラーゼタンパク質及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/88 20060101AFI20171120BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20171120BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20171120BHJP
   C12P 13/00 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C12N9/88
   C12N15/00 AZNA
   C12N1/21
   C12P13/00
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-527934(P2016-527934)
(86)(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公表番号】特表2016-524919(P2016-524919A)
(43)【公表日】2016年8月22日
(86)【国際出願番号】KR2014006490
(87)【国際公開番号】WO2015009074
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2016年2月26日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0084409
(32)【優先日】2013年7月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】514260642
【氏名又は名称】コリア アドバンスド インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジィ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ヒャン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ヒー ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ハク サン
(72)【発明者】
【氏名】キョン,ヒュン ホ
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ジュン ミン
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジュン ジャエ
(72)【発明者】
【氏名】セオ,ヒョー ドク
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/077995(WO,A2)
【文献】 J. Biol. Chem.,1995年,Vol.270, No.20,pp.11797-11802
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00 − 9/99
C12P 13/00 − 13/24
C12N 15/00 − 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型よりも増大したオルニチンデカルボキシラーゼ活性を有する変異したオルニチンデカルボキシラーゼ(Ornithine decarboxylase)(ODC)タンパク質であって、
配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するODCのN末端から163番目のイソロイシン(isoleucine)がイソロイシンよりも小さなアミノ酸残基で置換されているか、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するODCのN末端から165番目のグルタミン酸(Glutamic acid)がグルタミン酸よりも小さなアミノ酸残基で置換されているか、または2つのアミノ酸残基の置換がなされている野生型よりも増大したオルニチンデカルボキシラーゼ活性を有する変異したODCタンパク質。
【請求項2】
前記165番目のグルタミン酸がアラニン(alanine)、グリシン(Glycine)、セリン(Serine)又はバリン(Valine)に置換されたものである、請求項1に記載の野生型よりも増大したデカルボキシラーゼ活性を有する変異したODCタンパク質。
【請求項3】
前記163番目のイソロイシンがアラニン、グリシン、セリン 又はバリンに置換されたものである、請求項1に記載の野生型よりも増大したデカルボキシラーゼ活性を有する変異したODCタンパク質。
【請求項4】
前記163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸が同時に変異したODCタンパク質であって、163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸がそれぞれアラニン−アラニン、アラニン−バリン、セリン−バリン又はバリン−バリンに置換されたものである、請求項1に記載の野生型よりも増大したデカルボキシラーゼ活性を有する変異したODCタンパク質。
【請求項5】
配列番号34〜57のいずれかで表されるアミノ酸配列で構成される、請求項1に記載の野生型よりも増大したデカルボキシラーゼ活性を有する変異したODCタンパク質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子を含むベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項9】
L−オルニチン(L-ornithine)、L−オルニチンが含まれる混合物、又はL−オルニチン発酵液に請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質を加えて反応させるステップを含むプトレシン製造方法。
【請求項10】
前記変異したODCタンパク質が、精製された変異したODCタンパク質である、請求項9に記載のプトレシン製造方法。
【請求項11】
プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物に請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質が導入された、プトレシン生産能が向上した組換え微生物。
【請求項12】
前記コリネバクテリウム属微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項11に記載の組換え微生物。
【請求項13】
(a)請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質を導入することにより向上したプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を培養するステップと、
(b)前記(a)ステップで得られた培養物からプトレシンを分離するステップとを含むプトレシン生産方法。
【請求項14】
前記コリネバクテリウム属微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項13に記載のプトレシン生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な変異オルニチンデカルボキシラーゼタンパク質及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
プトレシン(又は1,4−ブタンジアミン)は、ナイロン4,6を含むポリアミド4,6の生産のための重要な原料物質である。産業的規模では、シアン化水素(hydrogen cyanide)の添加によりアクリロニトリル(acrylonitrile)から生産されるスクシノニトリル(succinonitrile)の水素化により生産される。これらの化学物質の合成経路においては、非再生的な石油化学産物を原料物質として要し、相対的に多重段階(multi step)、マルチリアクター設計(muti-reactor design)であるだけでなく、高価な触媒システムに関連して高温高圧を要する。その上、非常に強い毒性と可燃性を有する反応物であるので、従来の化学合成経路は環境的な面で好ましくない。よって、上記化学生産工程の代案として再生可能なバイオマス由来炭素源からプトレシンを生産する工程が求められており、近年、環境にやさしい微生物により生産するバイオ化学工程が大いに注目を集めている。プトレシンは、バクテリアから動植物に至る全ての有機体に見られるポリアミンの一種である。大腸菌におけるプトレシン濃度は約2.8g/lと非常に高いことが知られている。また、微生物は、高濃度のポリアミンに対して潜在的に良好な耐性を有するので、高濃度のポリアミン存在下で生長又は生存することができる。例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)は30g/L以上のカダベリン(cadaverine)存在下でも成長できることが報告されている。よって、産業的に用いることのできる高濃度のポリアミンを生産するために微生物を用いる研究が続けられている。しかし、微生物によりポリアミンを生産する研究はいまだ産業的に適用するほどのレベルには至っていない状態であるので、高収率でポリアミンを生産する菌株の開発は今後も続けられるべきである(非特許文献1,2)。
【0003】
一方、オルニチンデカルボキシラーゼ(Ornithine decarboxylase, ODC)は、ほとんどの微生物に存在する酵素であり、オルニチンをプトレシンに変換する酵素である。大腸菌において、ODCは一般にホモダイマーの形態であり、ダイマーのインターフェースに活性部位(active site)が形成される。ODCの反応メカニズムは、補因子(cofactor)としてピリドキサールリン酸 (pyridoxal phosphate、PLP)を必要とし、PLPが酵素の活性部位のリシン残基にシッフ塩基(Schiff base)を形成しているときに、基質(substrate)であるオルニチンがリシン残基に代替されると、脱カルボキシル化(decarboxylation)反応が起こる。プトレシンが生成されると、ODCは再びPLPとシッフ塩基を形成する。
【0004】
従来のプトレシン生産菌株であるコリネバクテリウム属菌株に導入されていたODCは、大腸菌のspeC遺伝子にコードされたタンパク質であり、活性が非常に低いことが報告されている。よって、高収率のプトレシン生産菌株を開発するために、プトレシン生産経路における最後の段階の酵素であるODCの改良は非常に重要であるといえる。しかし、ODCタンパク質においては、現在まで構造や反応メカニズムの研究のために変異導入などの実験が行われてきたにすぎず、活性増加に関する結果は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3668072号明細書
【特許文献2】国際公開第2013/105827号
【特許文献3】国際公開第2012/077995号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Qian ZG, et al., Biotechnol Bioeng, 104: 651-662, 2009
【非特許文献2】Schneider J, et al., Appl Microbiol Biotechnol, 88: 859-868, 2010
【非特許文献3】Sambrook et al., 1989, infra
【非特許文献4】Manual of Methods for General Bacteriology. American Society for Bacteriology. Washington D.C., USA, 1981
【非特許文献5】Applebaum DM, et al., Biochemistry, 16: 1590-1581, 1977
【非特許文献6】Momany C, et al., J Mol Biol, 4: 849-854, 1995
【非特許文献7】Vienozinskiene J, et al, Anal Biochem, 146: 180-183, 1985
【非特許文献8】Ngo TT, et al., Anal Biochem, 160: 290-293, 1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、プトレシンを生産する上で重要な役割を果たすが低い活性を示すODCタンパク質を改良すべく鋭意努力した結果、新規な変異位置を見出し、その位置に変異を導入することにより向上したプトレシン生産能力を有する変異したODCタンパク質を作製し、従来のプトレシンを生産する微生物に変異したODCタンパク質を導入することにより、プトレシンを高収率で作製できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下を提供する。
[1]配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するオルニチンデカルボキシラーゼ(Ornithine decarboxylase, ODC)のN末端から163番目のイソロイシン(isoleucine)アミノ酸残基及び165番目のグルタミン酸(Glutamic acid)アミノ酸残基からなる群から選択される1つ以上が突然変異した、変異したODCタンパク質。
[2]上記165番目のグルタミン酸がアラニン(alanine)、グリシン(Glycine)、セリン(Serine)又はバリン(Valine)に置換されたものである、上記[1]に記載の変異したODCタンパク質。
[3]上記163番目のイソロイシンがアラニン、グリシン、セリン 又はバリンに置換されたものである、上記[1]に記載の変異したODCタンパク質。
[4]上記163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸が同時に変異したODCタンパク質であって、163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸がそれぞれアラニン−アラニン、アラニン−バリン、セリン−バリン又はバリン−バリンに置換されたものである、上記[1]に記載の変異したODCタンパク質。
[5]配列番号34〜57のいずれかで表されるアミノ酸配列で構成される、上記[1]に記載の変異したODCタンパク質。
[6]上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子。
[7]上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子を含むベクター。
[8]上記[7]に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
[9]L−オルニチン(L-ornithine)、L−オルニチンが含まれる混合物、又はL−オルニチン発酵液に上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の変異したODCタンパク質を加えて反応させるステップを含むプトレシン製造方法。
[10]上記変異したODCタンパク質が、精製された変異したODCタンパク質又は変異したODCタンパク質が含まれる微生物発酵液である、上記[9]に記載のプトレシン製造方法。
[11]プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物に上記[1]〜[5]のいずれかの変異したODCタンパク質が導入された、プトレシン生産能が向上した組換え微生物。
[12]上記コリネバクテリウム属微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、上記[11]に記載の組換え微生物。
[13](a)上記[1]〜[5]のいずれかの変異したODCタンパク質を導入することにより向上したプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を培養するステップと、
(b)上記(a)ステップで得られた培養物からプトレシンを分離するステップとを含むプトレシン生産方法。
[14]上記コリネバクテリウム属微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、上記[13]に記載のプトレシン生産方法。
本発明は、新規な変異オルニチンデカルボキシラーゼ(Ornithine decarboxylase, ODC)タンパク質を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記変異したODCタンパク質をコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、及び前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、L−オルニチン(L-ornithine)、L−オルニチンが含まれる混合物、又はL−オルニチン発酵液に前記変異したODCタンパク質を加えて反応させるステップを含むプトレシン製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物に前記変異したODCタンパク質を導入した、プトレシン生産能が向上した組換え微生物を提供することを目的とする。
【0012】
さらに、本発明は、前記変異したODCタンパク質を導入することにより向上したプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を培養するステップと、前記ステップで得られた培養物からプトレシンを分離するステップとを含むプトレシン生産方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による変異したオルニチンデカルボキシラーゼタンパク質は、天然のものに比べてプトレシン変換活性が21倍にまで増加するだけでなく、従来のプトレシン生産菌株に導入するとプトレシン生産活性を確実に増大させるので、従来の化学合成経路の代案として、より効率的なプトレシンの大量生産に広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】大腸菌由来のODCタンパク質にI163A又はE165A変異を導入したタンパク質と天然タンパク質のプトレシン変換活性を比較測定した図である。具体的には、変換反応が起こることによってpHが増加するが、pH増加をフェノールレッドで確認することにより吸光度の増加を確認した。天然ODCタンパク質に比べて、I163AもしくはE165A又は両変異が導入されたODCタンパク質のプトレシン変換活性が優れることが確認された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するオルニチンデカルボキシラーゼ(Ornithine decarboxylase, ODC)のN末端から163番目のイソロイシン(isoleucine)アミノ酸残基及び165番目のグルタミン酸(Glutamic acid)アミノ酸残基からなる群から選択される1つ以上が突然変異した、新規な変異体である変異したODCタンパク質を提供する。
【0016】
本発明における「オルニチンデカルボキシラーゼ(Ornithine decarboxylase, ODC)」とは、オルニチンからポリアミンを合成する最初の段階であってプトレシン生産経路の最後の段階である下記反応式を触媒する酵素である。L−オルニチンを基質としてプトレシンを生産するが、ピリドキサールリン酸(Pyridoxal phosphate, PLP)が補因子(cofactor)として作用する。
【0017】
[反応式]
L−オルニチン⇔プトレシン+CO
【0018】
本発明におけるオルニチンデカルボキシラーゼ(Ornithine decarboxylase, ODC)は、具体的には大腸菌由来のODCであってもよく、より具体的には大腸菌(Escherichia coli)由来の配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するODCであってもよい。
【0019】
本発明において、ODC(Ornithine decarboxylase)を確保する方法には、当該分野で周知の様々な方法を適用することができる。その方法の例としては、酵素発現に通常用いられる大腸菌において酵素を高効率で確保できるようにコドン最適化が含まれる遺伝子合成技術や、微生物の大量ゲノム情報に基づいて生物情報学的方法により有用酵素資源のスクリーニング方法を用いて確保することができるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明における「変異したODCタンパク質」とは、前記ODCタンパク質のアミノ酸配列上の1つ又はそれ以上のアミノ酸が追加、除去又は置換されたODCタンパク質を意味する。本発明においては、具体的には変異によりODCタンパク質の活性を野生型と比較して効率的に増加させたタンパク質を意味する。本発明における変異には、一般に酵素を改良する方法であって当業界で公知の方法を制限なく用いることができ、合理的設計(rational design)や指向性進化(directed evolution)などの戦略がある。例えば、合理的設計戦略としては特定位置のアミノ酸における部位特異的突然変異誘発(site-directed mutagenesis)などが挙げられ、指向性進化戦略としてはランダム変異誘発(random mutagenesis)などが挙げられる。また、自然な突然変異により、外部操作なしに配列番号1の163番目及び/又は165番目のアミノ酸残基が突然変異したものであってもよい。本発明における「変異したODCタンパク質」、「ODC変異体」及び「speC変異体」は混用される。
【0021】
本発明の変異したODCタンパク質は、具体的には大腸菌(Escherichia coli)由来の配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するオルニチンデカルボキシラーゼのN末端から163番目のイソロイシン(isoleucine)アミノ酸残基及び/又は165番目のグルタミン酸(Glutamic acid)アミノ酸残基が突然変異したもの、例えば前記165番目のグルタミン酸がアラニン、グリシン、セリン又はバリンに置換されたものであってもよく、前記163番目のイソロイシンがアラニン、グリシン、セリン又はバリンに置換されたものであってもよい。また、前記163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸が同時に変異したODCタンパク質であって、163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸がそれぞれアラニン、バリン、セリン及びグリシンからなる群から選択されるものに置換されたものであってもよく、具体的な例として、163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸がそれぞれアラニン−アラニン、アラニン−バリン、セリン−バリン又はバリン−バリンに置換されたものであってもよい。
【0022】
本発明の実施例においては、様々な組み合わせの野生型ODCの163、165番目のアミノ酸に変異を導入するとプトレシン生産能が増加することが確認され、上記位置はプトレシン生産能が向上したODC変異体を作製するのに最も重要な位置であることが確認された。特に、前記重要な変異位置に存在するアミノ酸を小さな残基(small residue)のアミノ酸(アラニン、セリン、バリン又はグリシン)に置換する変異によりプトレシン生産能が増加することが確認された。
【0023】
また、本発明の変異したODCタンパク質は、配列番号34〜57のいずれかで表されるアミノ酸配列で構成されるものであってもよい。具体的には、配列番号34〜42、45、49及び57のいずれかで表されるアミノ酸配列で構成されるものであってもよい。これには、N末端から163番目のイソロイシン又は165番目のグルタミン酸が小さな残基に変異したODCタンパク質のアミノ酸配列であって、前記変異を含んで野生型より優れたプトレシン変換活性を有するものであれば、前記配列と50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%又は99%以上の相同性を有するポリペプチドが制限なく含まれる。
【0024】
本発明における「相同性」とは、2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド部分間の同一性の割合を意味する。一部分から他の部分までの配列間の相同性は周知の当該技術により決定される。例えば、配列情報を整列させることのできる、容易に入手可能なコンピュータプログラムを用いて、2つのポリヌクレオチド分子又は2つのポリペプチド分子間の配列情報を直接整列させることにより2つの部分間の相同性が決定される。また、ポリヌクレオチド間の相同性は、相同領域間に安定した二重鎖を形成する条件下でポリヌクレオチドをハイブリダイゼーションし、その後単鎖特異的なヌクレアーゼで分解し、分解したフラグメントのサイズにより決定することができる。
【0025】
本発明における「相同」とは、全ての文法形態やスペリングの変異形態であるスーパーファミリー由来のタンパク質及び異種由来の相同タンパク質を含み、「共通の進化的起源」を有するタンパク質間の関係を意味する。それらのタンパク質(及びそれらのコーディング遺伝子)は、高度の配列類似性により反映される配列相同性を有する。しかし、一般的な使用及び本発明における「相同」とは、「非常に高い」などの形容詞で修飾されると、共通の進化的起源を意味するのではなく、配列類似性を意味する。
【0026】
本発明における「配列類似性」とは、共通の進化的起源を有するか、又は有さないタンパク質の塩基配列やアミノ酸配列間の同一性や相応性の程度を意味する。具体的には、2つのアミノ酸配列がアミノ酸配列の所定の長さに対して、ポリペプチドが少なくとも21%(具体的には少なくとも約50%、より具体的には約75%、90%、95%、96%、97%又は99%)の割合でマッチする場合、「実質的に相同」又は「実質的に類似」であるという。実質的に相同な配列は、データバンクで用いる標準ソフトウェアを用いるか、例えば特定のシステムのために定義されたストリンジェントな条件下でサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)実験で配列を比較することにより確認することができる。定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内である(例えば、非特許文献3を参照)。
【0027】
本発明の具体的な一実施例においては、大腸菌由来のODCタンパク質の構造分析を行い、構造情報に基づいて合理的な設計戦略による変異を誘導した。基質が活性部位に接近する通路の入口領域(entrance region)を広げるための変異(V156,D160,I163,E165,Q691)及び活性部位に結合される補因子であるPLPを安定化させるための変異(N153,D309)を設計及び作製した(実施例1及び2)。具体的には、通路の入口領域のかさ高い(bulky)残基を小さな残基であるアラニンに置換する変異により、N末端から163番目のアミノ酸であるイソロイシンと165番目のアミノ酸であるグルタミン酸をアラニンに置換すると、ODCタンパク質の活性が大幅に増加することが確認された(実施例3)。一方、PLP安定化のための変異を含む他の6種の変異型V156A、D160A、Q691A、N153D、N153E、D309Eにより変異を導入したODCタンパク質は、野生型に比べて活性が非常に減少するか、ほとんどなくなるという結果を示した。これにより、大腸菌由来のODCタンパク質(配列番号1)の163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸は、タンパク質の活性を増加させる上で重要な残基であることが確認された。上記変異の導入は、表2に示すプライマーとPCRを用いた部位特異的突然変異により行われる。
【0028】
また、本発明の具体的な実施例においては、さらに、前記163番目のイソロイシンと165番目のグルタミン酸をアラニンに置換すること以外に、他の小さな残基であるセリン(serine)、バリン(valine)又はグリシン(glycine)にもさらに置換し、当該残基における変異を最適化しようとした(実施例4及び表4)。163及び165番目のアミノ酸残基にそれぞれグリシン(G, glycine)、セリン(S, serine)、バリン(V, valine)への単一変異を導入した結果、163番目のアミノ酸残基においてはセリンに、165番目のアミノ酸残基においてはバリンに置換した場合、kcat/K値が野生型に比べてそれぞれ4.4倍、6.9倍に増加した活性を示すことが確認された(表5)。これらの結果に基づき、2つの残基に二重変異を導入して活性を確認した。単一変異を導入したときに活性が最も高かったI163SとE165Vの組み合わせを全て導入すると、野生型に比べて8倍に増加した活性を示すのに対して、163及び165番目のアミノ酸残基をどちらもバリンに置換すると、野生型に比べて21.3倍増加した活性を示し、最も高い活性を有することが確認された(実施例4及び表5)。
【0029】
全体的には、ODC酵素変異体の活性増加は、K値の減少よりも、kcat値の増加によるkcat/K値の増加として現れた。これは、変異導入により基質であるオルニチンの酵素に対する結合親和性の増加よりも、生成物であるプトレシンに変換される速度を増加させる方向にODC酵素の構造が変化したことを示唆するものである。
【0030】
本発明において、オルニチンをプトレシンに変換するODC酵素の活性測定方法は、ODC酵素が触媒する反応を用いる。具体的には、ODC酵素がオルニチン1分子をプトレシンに変換する際に水1分子が消費され、プトレシンと共に二酸化炭素1分子とOHイオン1分子が生成される。よって、全体的なpHは増加するので、増加したpHをpH指示薬の1つであるフェノールレッド(phenol red)により559nmで測定すると、反応が進んでpHが増加した量に比例して吸光度の値も増加する。このような反応特性を用いて間接的にプトレシン生成量を測定した。
【0031】
本発明における「オルニチン」とは、オルニチン回路において重要な役割を果たす塩基性アミノ酸であり、特にL−オルニチンは、植物、動物、微生物において広く見られる。一般に、オルニチン回路を有する生体内では尿素生産に関連して代謝における重要な役割を果たす。また、生体内でアルギニン、グルタミン酸、プロリンと互いに変換することができ、a−ケト酸、グリオキシル酸とアミノ基転移を行う。オルニチンデカルボキシラーゼによりアミン(プトレシン)を生成する基質であり、これによりポリアミンまで合成される。本発明においては、特にオルニチンデカルボキシラーゼの基質として用いられるL−オルニチンであってもよい。
【0032】
本発明における「プトレシン」とは、オルニチンの脱炭酸反応やアグマチンの加水分解により生成される物質であり、腐敗物にも存在するが、生体に正常な成分として広く分布する。ポリアミンの一種であり、リボソームを構成し、細胞の生長を促進したり、RNA合成を促進する機能を有する。特に、産業的にはナイロン4,6を含むポリアミド4,6の生産のための重要な原料物質に該当し、大量生産のための研究の必要性が依然として存在する物質である。
【0033】
本発明の他の態様は、本発明の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子を提供する。
【0034】
本発明における「核酸分子」は、DNA及びRNA分子を包括する意味で用いられ、核酸分子における基本構成単位であるヌクレオチドには、天然ヌクレオチドだけでなく、糖又は塩基部分が変形したアナログ(analogue)も含まれる。
【0035】
本発明のさらに他の態様は、本発明の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子を含むベクターを提供する。
【0036】
本発明における「ベクター」とは、宿主細胞への塩基のクローニング及び/又は転移のための任意の媒体を意味する。ベクターは、他のDNA断片が結合することにより、結合した断片の複製をもたらすことのできるレプリコン(replicon)であってもよい。「レプリコン」とは、生体内でDNA複製の自己ユニットとして機能する、すなわち自己調節により複製可能な任意の遺伝的単位(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)を意味する。「ベクター」には、試験管内、生体外又は生体内で宿主細胞に塩基を導入するためのウイルス及び非ウイルス媒体が含まれる。また、「ベクター」にはミニサークルDNAが含まれてもよい。例えば、前記ベクターは、バクテリアDNA配列を有さないプラスミドであってもよい。CpG領域における豊富なバクテリアDNA配列の除去は、転移遺伝子の発現サイレンシングを減少させてプラスミドDNAベクターからさらに持続的な発現をもたらすために行われている。さらに、「ベクター」には、トランスポゾン又は人工染色体が含まれてもよい。
【0037】
本発明において、本発明の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子を含むベクターは、特にこれらに限定されるものではないが、哺乳類細胞(例えば、ヒト、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、マウス細胞など)、植物細胞、酵母細胞、昆虫細胞、又はバクテリア細胞(例えば、大腸菌など)を含む真核もしくは原核細胞において、前記核酸分子を複製及び/又は発現することのできるベクターであってもよい。具体的には、宿主細胞において前記ポリヌクレオチドが発現するように好適なプロモーターに作動可能に連結され、少なくとも1つの選択マーカーを含むベクターであってもよく、より具体的には、ファージ、プラスミド、コスミド、ミニ染色体、ウイルス、レトロウイルスベクターなどに前記ポリヌクレオチドが導入された形態であってもよい。
【0038】
当業界で通常用いられるT7プロモーターを用いるpETシステム(novagen)はよく知られており、当業界で公知の様々な発現システムを用いることができるが、これらに限定されるものではない。具体的には、本発明において、変異したODCタンパク質をコードする核酸分子を含むベクターはpET28aベクターであってもよい。
【0039】
本発明の具体的な一実施例においては、PCRにより部位特異的突然変異が行われたODCタンパク質をコードする核酸分子をpET28aベクターに挿入した。これにより、変異したODC(speC)発現ベクターである、pET28a−speC_I163A、pET28a−speC_I163G、pET28a−speC_I163S、pET28a−speC_I163V、pET28a−speC_E165A、pET28a−speC_E165S、pET28a−speC_E165G、pET28a−speC_E165V、pET28a−speC_I163A_E165A、pET28a−speC_I163S_E165V、pET28a−speC_I163A_E165V、pET28a−speC_I163V_E165Vを作製し、変異導入の有無は配列分析により確認した。
【0040】
本発明のさらに他の態様は、前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
【0041】
本発明における形質転換体は、前記ベクターが導入されて本発明の変異型ODCを発現するものであれば特に限定されるものではないが、形質転換された大腸菌(E. coli)、コリネバクテリウム属、ストレプトマイセス、サルモネラ・ティフィムリウムなどのバクテリア細胞、酵母細胞、ピキア・パストリスなどの菌類細胞、ドロソフィラ、スポドプテラSf9細胞などの昆虫細胞、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞,chinese hamster ovary cells)、SP2/0(マウス骨髄腫)、ヒトリンパ芽球(human lymphoblastoid)、COS、NSO(マウス骨髄腫)、293T、ボウメラノーマ細胞、HT−1080、BHK(ベビーハムスター腎臓細胞,baby hamster kidney cells)、HEK(ヒト胎児腎臓細胞,human embryonic kidney cells)、PERC.6(ヒト網膜細胞)などの動物細胞、又は植物細胞が挙げられる。
【0042】
本発明のさらに他の態様は、L−オルニチン(L-ornithine)、L−オルニチンが含まれる混合物、又はL−オルニチン発酵液に前記変異したODCタンパク質を加えて反応させるステップを含むプトレシン製造方法を提供する。
【0043】
L−オルニチン、変異したODCタンパク質及びプトレシンなどは前述した通りである。
【0044】
本発明において、プトレシン作製のために変異したODCタンパク質と反応させる物質は、L−オルニチン、L−オルニチンが含まれる混合物、又はL−オルニチン発酵液である。前記L−オルニチンが含まれる混合物とは、別途に存在するL−オルニチンと他の成分が混合した混合物を意味し、L−オルニチン発酵液とは、発酵の過程でL−オルニチンが生成されるか、含有量が上昇して反応のための十分なL−オルニチンを含む発酵液を意味するが、これらに限定されるものではない。
【0045】
例えば、発酵の過程でL−オルニチンを生成する方法及び生成された発酵液については、従来の特許文献1などに開示されており、本願において援用される(E.coli, ATCC 21104)。
【0046】
本発明における前記変異したODCタンパク質は、精製された変異したODCタンパク質又は変異したODCタンパク質が含まれる微生物発酵液であってもよい。具体的には、前記微生物発酵液を作製する際に用いられる微生物は、本発明の変異したODCタンパク質を発現する微生物であってもよく、より具体的には、本発明の変異したODCタンパク質をコードする核酸分子を含むベクターで形質転換された形質転換体微生物であってもよい。
【0047】
本発明のさらに他の態様は、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物に前記変異したODCタンパク質が導入された、プトレシン生産能が向上した微生物を提供する。
【0048】
本発明における「微生物」とは、野生型微生物や自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物を全て含むものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が向上するか又は低下するなどの原因により、特定機序が低下又は向上した微生物であってもよい。
【0049】
本発明における「プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物」とは、天然のもの又は変異によりプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を意味する。コリネバクテリウム属微生物の培養物がプトレシンを有することは既に知られている。しかし、プトレシンの生産能が非常に低く、生産機序に作用する遺伝子や機序原理が明らかにされていない状態である。よって、本発明における、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物とは、天然菌株自体又は外部プトレシン生産機序に関する遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性を向上又は低下させることにより、向上したプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を意味する。
【0050】
本発明における「コリネバクテリウム属微生物」とは、具体的にはコリネバクテリウム・グルタミカム、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)などであるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。より具体的には、本発明におけるコリネバクテリウム属微生物は、高濃度のプトレシンにさらしても細胞生長及び生存に影響を受けにくいコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよい。例えば、NCgl1469タンパク質の活性を内在性活性より低下させることによりプトレシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11240P(KCCM11138P△NCgl1469)菌株であるが、これに限定されるものではない。前記KCCM11240P菌株は、細胞内でプトレシンがN−アセチルプトレシンに合成される経路を遮断するために、NCgl1469をコードする遺伝子を欠失させたプトレシン過剰生産菌株であり、特許文献2に開示されている菌株である。
【0051】
本発明の具体的な実施例においては、NCgl1469タンパク質の活性を内在性活性より低下させることによりプトレシン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物(KCCM11240P(KCCM11138P△NCgl1469))に基づき、前記プトレシン変換活性が増加したODC I163S/E165V(speC)変異体を染色体内の野生型speCに導入した変異菌株を作製した(実施例6)。前記変異菌株をCorynebacterium glutamicum CC01−0578と命名し、ブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms, KCCM)に2013年6月10日付けで受託番号KCCM11425Pとして寄託した。
【0052】
本発明のさらに他の態様は、本発明の変異したODCタンパク質を導入することにより向上したプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)微生物を培養するステップと、前記ステップで得られた培養物からプトレシンを分離するステップとを含むプトレシン生産方法を提供する。
【0053】
具体的には、前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカムであってもよく、より具体的には、Corynebacterium glutamicum CC01−0578(受託番号KCCM11425P)菌株であってもよい。
【0054】
本発明における「培養」とは、微生物を人工的に調節した好適な環境条件で生育させることを意味する。本発明において、コリネバクテリウム属微生物を用いてプトレシンを培養する方法は、当業界で周知の方法を用いることができる。具体的には、前記培養は、バッチ工程、流加工程又は反復流加工程(fed batch or repeated fed batch process)で連続して培養することができるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
培養に用いられる培地は、好適な方法で特定菌株の要件を満たすものでなければならない。コリネバクテリウム属菌株の培養培地は公知である(例えば、非特許文献4)。用いることのできる糖源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は単独で用いることもでき、又は混合物として用いることもできる。用いることのできる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆粕及び尿素、又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが挙げられる。窒素源は、単独で用いることもでき、又は混合物として用いることもできる。用いることのできるリン源としては、リン酸二水素カリウムもしくはリン酸水素二カリウム、又はそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウム、又は硫酸鉄などの金属塩が含まれてもよい。前記物質以外にも、アミノ酸及びビタミンなどの必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に好適な前駆体が用いられてもよい。前述した原料は、培養過程において培養物に好適な方法でバッチ式に添加されるか又は連続して添加されてもよい。
【0056】
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの塩基性化合物、又はリン酸もしくは硫酸などの酸化合物を好適な方法で用いて培養物のpHを調節することができる。また、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を保持するために、培養物内に酸素又は酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。培養物の温度は、通常20℃〜45℃、具体的には25℃〜40℃である。培養は、プトレシンの所望の生成量が得られるまで続ける。これらの目的は、通常10〜160時間で達成される。プトレシンは、培養培地中に排出されるか、細胞中に含まれてもよい。
【0057】
本発明のプトレシンを生産する方法は、細胞又は培養物からプトレシンを回収するステップを含む。細胞又は培養物からプトレシンを回収する方法は、当業界で公知の方法、例えば遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1:ODC(Ornithine decarboxylase)の構造分析及び変異体の設計
一般に、大腸菌は2つの形態のODCを有することが知られている。一方は周辺のpHが酸性状態のときに発現が誘導されるinducible ODC(speF)であり、他方はプトレシンなどのジアミン(diamine)の生産に関与するconstitute ODC(speC)である(非特許文献5)。そのうち、プトレシン生産に関与するconstitute ODCであるspeCを標的遺伝子に選定した。
【0060】
現在まで、バクテリアにおいてはビブリオ菌とラクトバチルス菌のODCの構造が明らかになっており、そのうち大腸菌のODC(speC)はラクトバチルス30a ODCに類似の構造を有するものと予測されていた。よって、ラクトバチルスODCの3D構造に基づいて、大腸菌ODC(speC)のアミノ酸配列をGeneDocプログラムで整列比較(align)した(非特許文献6)。アミノ酸配列を比較した結果、大腸菌speCとラクトバチルス30a ODCの配列同一性は53%、類似性は65%であり、両酵素は非常に類似したタンパク質であることが判明した。よって、RCSB Protein Data Bankに登録されているラクトバチルス30a ODC(PDB ID: 1ORD)の構造に基づいて、大腸菌speCの構造をホモロジーモデリング(homology modeling)した。その結果、タンパク質の全体的な骨格が非常に類似しており、PLP(pyridoxal phosphate)との結合に関与する活性部位(active site)のアミノ酸配列もほぼ同じであった。
【0061】
両酵素の構造分析の結果、ODCは二量体の形態で細胞内に存在し、二量体の境界面(interface)に活性部位が形成されるが、基質が活性部位に接近する通路の入口領域(entrance region)が狭いものと分析された。よって、基質が活性部位に効果的に接近して生成物が速く変換されるように、入口領域を広くするために入口領域のかさ高い(bulky)残基を小さな残基に置換する変異を導入する設計を行った(V156,D160,I163,E165,Q691)。
【0062】
さらに、活性部位に結合されている補因子(cofactor)であるPLPを安定化させるために、活性部位の周囲の残基にも変異を設計した(N153,D309)。
【0063】
実施例2:大腸菌ODC(speC)遺伝子のクローニング及び発現
大腸菌speC遺伝子を発現させるために、酵素発現のために通常用いられるpET28a(Novagen)ベクターシステムを用いた。まず、speC遺伝子は、大腸菌野生型菌株W3110の染色体を鋳型とし、表1に示すプライマーを用いてPCRで増幅した。PCR増幅により得られた遺伝子断片とベクターpET28aは、NdeIとXhoI制限酵素で処理(37℃,3時間)し、その後通常のライゲーション方法を用いてpET28aベクターにspeC遺伝子断片を挿入した。
【0064】
【表1】
【0065】
前述したように作製したspeC発現ベクター(pET28a−speC)の変異導入の有無は配列分析により確認した。
【0066】
実施例1において、対象残基にはそれぞれ小さな残基であるアラニン(alanine)に置換する変異を導入し、PLP安定化のためには、PLPと結合する位置によって異なる変異を導入した。
【0067】
前述したように作製したpET28a−speCベクターを鋳型とし、表1及び2に示すプライマーを用いてPCRを行った。1次的にspeC遺伝子に変異を導入するために、変異を起こそうとする部位を中心に前方部分(5’)と後方部分(3’)にそれぞれPCRを行い、次いで2次的に2つのPCR断片を組み合わせるPCRを行った。例えば、speC V156Aの場合、前方部分はspeC_start(NdeI)_5(配列番号2)及びspeC_V156A_3(配列番号5)プライマーを用いてPCRで増幅し、後方部分はspeC_V156A_5(配列番号4)及びspeC_stop(XhoI)_3(配列番号3)プライマーを用いてPCRで増幅した。1次PCRにより得られた2つのPCR断片を2次PCRの鋳型とし、speC_start(NdeI)_5(配列番号2)及びspeC_stop(XhoI)_3(配列番号3)プライマーを用いてPCRを行った。最終的に得られたspeC V156A遺伝子は、前記speC遺伝子断片と同じ方法でpET28aベクターに挿入した。その他の変異も、表2に示すプライマーを用いて、前記と同様にPCRを行ってpET28aベクターに挿入した。
【0068】
前述したように作製したspeC変異体発現ベクター(pET28a−speC_V156A,pET28a−speC_D160A,pET28a−speC_I163A,pET28a−speC_E165A,pET28a−speC_Q691A,pET28a−speC_N153D,pET28a−speC_N153E,pET28a−speC_D309E)の変異導入の有無は配列分析により確認した。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例3:ODC(speC)変異体酵素のプトレシン合成活性の測定
3−1.ODC変異体酵素の取得
DE3遺伝子型を有する大腸菌に実施例2で作製したpET28a−speC変異体ベクターを導入することにより、酵素を取得できる菌株を作製した。
【0071】
前記pET28a−speC変異体ベクターの発現は、pETシステムマニュアル(Novagen)を参照した。具体的には、LB平板培地から各菌株の単一コロニーを選択して3mlのLB液体培地(+カナマイシン 50ug/ml)に接種し、37℃、200rpmの条件で16時間培養した。これを新たな15mlのLB培地(+カナマイシン 50ug/ml)に再接種し、OD600が0.6程度になるように同じ培養条件で培養した直後に、最終濃度が0.5mMになるようにIPTGを添加して18℃、180rpmで20時間培養して酵素発現を誘導した。
【0072】
酵素発現誘導後に得られた細胞を超音波粉砕し、その後遠心分離し、得られた上清を1次活性評価のために用いた。さらに、酵素の特性を把握するために精製後に2次活性評価を行ったが、酵素はpETベクターにより酵素に結合して発現したhis−tagを用いてNi−NTA columnで分離した。精製にはChelating Excellose spin kit(Bioprogen)を用いた。前記過程で得られたODC(SpeC野生型と変異型)酵素は、8% SDS PAGEによりそれぞれ可溶な(soluble)形態で発現して上清から得られることが確認された。
【0073】
3−2.ODC(speC)変異体酵素のプトレシン合成活性の測定
オルニチンを基質として用いて、ODCによるプトレシン合成可否の程度を評価するために、実施例3−1で得られたODC(SpeC野生型と変異型)酵素の活性を測定した。プトレシン合成活性を把握するためのODCの活性評価条件は、既存の文献報告を参照して行った(非特許文献7)。
【0074】
すなわち、オルニチン1分子からODC酵素によりプトレシンが生成されると水1分子が消費され、プトレシンと共に二酸化炭素1分子とOHイオン1分子が生成されるので、全体的なpHは増加する(反応式1)。増加したpHに従ってpH指示薬の1つであるフェノールレッド(phenol red)による559nmでの吸光度が変化し、pHが増加した量に比例して吸光度の値も増加する。このような反応特性を用いて間接的にプトレシン生成量を測定した。
【0075】
[反応式1]
L−オルニチン+HO→プロレシン+CO+OH
【0076】
ODC酵素の1次活性評価のために、精製前に上清のタンパク質定量を行って濃度を同一にした。反応条件は、酵素上清30ug、10mMオルニチン、1.25uM PLPになるように反応液を作製し、その後40uMフェノールレッドでpH変化量をモニタリングした。
【0077】
測定した結果、ODC変異型酵素のうち野生型よりプトレシン生成速度が増加したのはI163AとE165Aであった。他の6種の変異型V156A、D160A、Q691A、N153D、N153E、D309Eにより変異を導入したODCは、559nmでの吸光度の変化がほとんどなかった(図1参照)。
【0078】
1次スクリーニングで選択されたODC変異体I163AとE165Aの2つの酵素の特性を具体的に把握するために、his−tagで精製、定量して各オルニチン濃度におけるプトレシン合成速度を測定した。用いたODC酵素濃度は10ug、オルニチン濃度は0.15〜10mMの範囲で、前述したようにフェノールレッドでpH変化量を測定した。
【0079】
【表3】
【0080】
これらの結果から、ODCの構造分析により設計したI163A、E165A変異型ODC酵素は、野生型に比べてK値がそれぞれ53%、27%減少し、基質であるオルニチンの結合親和性(binding affinity)が増加したことが分かる。また、kcat値は、WTに比べてI163A変異型は12.5%、E165A変異型は50%増加した値となったので、オルニチンをプトレシンに変換する能力も増加したことが分かる。最終的に、酵素活性の特徴を示すkcat/K値を計算した結果、WTに比べてI163A変異型は2.4倍、E165A変異型は2倍に増加したことが確認された(表3)。
【0081】
実施例4:ODC(speC)変異の最適化
実施例3で確認されたように、ODC活性に重要な残基である163番目のアミノ酸(イソロイシン)及び165番目のアミノ酸(グルタミン酸)に各種小さなサイズのアミノ酸への変異を導入した。変異導入は実施例1の方法と同様に行い、用いたプライマーは表4の通りである。さらに、163、165番目の位置にそれぞれ単一変異を導入し、その後各位置にODC活性が増加した変異の組み合わせを導入した二重変異体(double mutant)を作製して評価した。
【0082】
【表4】
【0083】
表4のプライマーにより導入されたODC変異体を実施例2及び3の方法で精製し、プトレシン合成速度を測定した。前述したように作製したODC変異体に対するプトレシン合成速度測定の結果は表5の通りである。
【0084】
【表5】
【0085】
表5に示すように、163、165番目のアミノ酸残基にそれぞれグリシン(G, glycine)、セリン(S, serine)、バリン(V, valine)への単一変異を導入した結果、163番目の残基においてはセリン、165番目の残基においてはバリンに置換した場合に、kcat/K値が野生型に比べてそれぞれ4.4倍、6.9倍に増加した活性を示した。これらの結果に基づいて、2つの残基に二重変異を導入して活性を確認した。意外にも、単一変異を導入した際に最も高かったI163SとE165Vの組み合わせの二重変異の場合より、163、165番目の残基をどちらもバリンに置換した場合に、野生型に比べて21.3倍増加した最も高い活性を示した。
【0086】
全体的には、ODC酵素変異体の活性増加は、K値の減少よりも、kcat値の増加によるkcat/K値の増加として現れた。これは、変異導入により基質であるオルニチンの酵素に対する結合親和性の増加よりも、生成物であるプトレシンに変換される速度を増加させる方向にODC酵素の構造が変化したことを示唆するものである。
【0087】
実施例5:オルニチンを基質とするODC変異体酵素発現菌株の作製及びプトレシン変換の測定
実施例4で変異を最適化したODC変異体酵素が実際に微生物内でもオルニチンをプトレシンに変換する効果があるか否かを評価した。
【0088】
具体的には、DE3遺伝子型を有する大腸菌に前述したように作製したpET28a−speC変異体ベクターを導入した菌株を用いて実験を行った。LB平板培地から各菌株の単一コロニーを選択して3mlのLB(+カナマイシン 50ug/ml)液体培地に接種し、37℃、200rpmの条件で16時間培養した。これを新たな25mlのLB(+カナマイシン 50ug/ml及び0.2% グルコース)液体培地に再接種し、OD600値が0.5〜0.6になるように培養した。その後、0.5mM IPTGを添加してODC(speC)の発現を誘導し、18℃、200rpmの条件で20時間培養し、次いで遠心分離により上清を除去して細胞を得た。凝集体(pellet)の形態で得られた細胞を再び1XM9最小培地(3.37mM NaHPO,2.2mM KHPO,0.86mM NaCl,0.94mM NHCl)に再懸濁してOD600値が20になるように調整し、さらに基質である10mMオルニチンと補因子である0.5uM PLPを添加して最終反応体積が10mlになるようにした。25℃、200rpmの条件で振盪しながら反応させ、所定時間毎にサンプリングしてTNBSを用いたプトレシン定量測定方法で変換されたプトレシン濃度を測定した(非特許文献8)。
【0089】
TNBS方法は、前述したようにサンプリングした培養液を遠心分離し、その後上清を50倍に希釈して分析を行った。希釈した分析試料0.5mlに4N NaOHを1ml添加して十分に混合し、それに1−ペンタノールを2ml注いでさらに混合した。2000rpmで5分間遠心分離し、その後0.1M Na(pH8.0)を1ml入れた新たなチューブに上清1mlを注いで十分に混合した。さらに10mM TNBSを1ml添加して混合し、DMSOを2ml注いで混合し、その後遠心分離し、次いで上清を取って426nmで吸光度を測定した。
【0090】
【表6】
【0091】
野生型とODC変異体3種に対してプトレシン変換測定実験を行った結果、反応2時間後のsampleにおいて、ODC変異体はオルニチンをプトレシンに変換する速度が野生型に比べて相対的に約32〜39%増加した。ODC変異体間の変換速度差はほとんどなく、in vitro実験で見られた精製したODC変異体間における大きな活性の差は見られなかったものの、野生型においては4時間経過しても反応が完全には終了しなかったが、変異体においては4時間以内に反応がほぼ終了した。上記結果から、in vivo実験である酵素変換菌株においてもODC変異体の活性効果が向上することが確認された。
【0092】
実施例6:ODC変異体導入プトレシン生産菌株の作製及びプトレシン生産能の測定
前述したように作製したプトレシン変換活性が増加したODC変異体を実際にプトレシン生産菌株に導入するとプトレシン生産性にいかなる影響を与えるかを確認するために、プトレシン生産能を測定した。
【0093】
6−1.ODC変異体導入プトレシン生産菌株の作製
NCgl1469タンパク質の活性を内在性活性より低下させることによりプトレシン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物(KCCM11240P)に基づき、前記プトレシン変換活性が増加したODC(speC)変異体を染色体内の野生型speCに導入した変異菌株を作製した。
【0094】
前記プトレシン生産能が向上したコリネバクテリウム・グルタミカム(KCCM11240P)菌株は、特許文献2に開示されている菌株であり、母菌株として特許文献3に開示されているプトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物(KCCM11138P)を用いて作製した。より具体的な菌株作製方法は、ATCC13032菌株の遺伝子NCgl1469の塩基配列に基づいて、NCgl1469のN末端部分とC末端部分をpDZベクターにクローニングし、プトレシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物(KCCM11138P)菌株に電気穿孔法を用いて導入し、その後カナマイシン(25μg/ml)を含む培地に塗抹して選択した。ベクターの染色体挿入が正常に行われたものは、X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)を含む培地で青色を示すコロニーを選択し、1次染色体挿入が行われた菌株を栄養培地で培養し、その後希釈してX−galを含む抗生物質を含まない培地に塗抹し、低い割合で出現する白色コロニーを選択することにより、交差(cross over)による最終のNCgl1469遺伝子欠失菌株を選択した。最終的に作製されたKCCM11138P△NCgl1469菌株は、細胞内でプトレシン分解経路の1つであるプトレシンがN−アセチルプトレシンに分解される経路に関与するタンパク質であるNCgl1469をコードする遺伝子を欠失させることにより、母菌株であるKCCM11138P菌株よりプトレシン生産能が向上したプトレシン過剰生産菌株である。
【0095】
具体的には、表7に示すspeC_start(BamHI)_5、speC_stop(XbaI)_3プライマーを用いて、実施例2及び4で作製したODC(speC)変異体のDNAを増幅した。より具体的には、前述したように作製したpET28a−speC変異体(I163S,I163V,I163S E165V)ベクターを鋳型とし、表7に示すspeC_start(BamHI)_5、speC_stop(XbaI)_3の2つのプライマーを用いてPCRを行った。
【0096】
【表7】
【0097】
PCR増幅により得られた遺伝子断片とベクターpDZをBamHIとXbaI制限酵素で処理(37℃,3時間)し、その後通常のライゲーション(ligation)方法を用いてpDZベクターにspeC変異体の遺伝子断片を挿入した。作製された染色体挿入用組換えベクター(pDZ−speC_I163S,pDZ−speC_I163V,pDZ−speC_I163S E165V)は配列分析により確認した。
【0098】
speC変異体が染色体に挿入された菌株を得るために、前述したように作製したpDZ−speC_I163S、pDZ−speC_I163V、pDZ−speC_I163S E165V組換えベクターのそれぞれをKCCM11240P菌株に電気穿孔法でトランスフェクションし、その後BHIS平板培地(ブレインハートインフージョン 37g/l,ソルビトール 91g/l,寒天 2%,1L中+カナマイシン 25ug/ml)に塗抹した。
【0099】
ベクターの染色体挿入が正常に行われたか否かは、X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)を含む固体培地で青色を示すか否かにより判別した。1次染色体挿入が行われた菌株を栄養培地で振盪培養(30℃,8時間)し、その後それぞれに段階希釈(serial dilution)を行い、X−galを含む固体培地に塗抹した。ほとんどのコロニーが青色を示すのに対して、低い割合で出現する白色のコロニーを選択することにより、2次交差により最終的にspeC変異体が染色体に導入された菌株が得られた。最終的に、菌株は変異体の配列分析により確認した。確認された菌株をKCCM11240P::speC_I163S、KCCM11240P::speC_I163V、KCCM11240P::speC_I163S E165Vと命名し、そのうちKCCM11240P::speC_I163S E165VをCorynebacterium glutamicum CC01−0578と命名し、2013年6月10日付けでブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorganisms, KCCM)に受託番号KCCM11425Pとして寄託した。
【0100】
6−2.ODC変異体導入プトレシン生産菌株のプトレシン生産能の測定
ODC(speC)変異体導入によるプトレシン生産菌株のプトレシン生産能の影響を確認するために、実施例6−1で作製した菌株を対象にプトレシン生産能を評価した。
【0101】
具体的には、前述したように作製した菌株を1mMアルギニンを含むCM平板培地(ブドウ糖1%,ポリペプトン 1%,酵母抽出物0.5%,牛肉抽出物 0.5%,NaCl 0.25%,尿素 0.2%,50% NaOH 100ul,寒天 2%,pH6.8,1L中)で30゜Cにて16時間培養し、その後表8の組成からなる25mlの力価培地に1白金耳程度接種し、次いでこれを30℃にて200rpmで24時間振盪培養した。作製された全ての菌株において、発酵時に培地に1mMアルギニンを添加して培養した。
【0102】
【表8】
【0103】
その結果、表9に示すように、活性が増加したODC(speC)変異体を導入した菌株において、12時間後の試料のプトレシン生産量が37〜105%増加した。
【0104】
これらの結果は、ODC変異体が導入されることにより、プトレシン生産菌株において糖消費の割に従来より高い濃度のプトレシンを生産できることを示すものである。
【0105】
【表9】
【0106】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく特許請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更又は変形された形態を含むものであると解釈すべきである。
【0107】
【表10】
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]