(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井等(以下、総称して「油井」ともいう)においては、地下資源を採掘するためにケーシング、チュービング等の油井管(OCTG:Oil Country Tubular Goods)と呼ばれる鋼管が使用される。鋼管は順次連結され、その連結にねじ継手が用いられる。
【0003】
鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング型とインテグラル型とに大別される。カップリング型の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじ部が設けられ、カップリングの両端部の内周に雌ねじ部が設けられる。そして、鋼管の雄ねじ部がカップリングの雌ねじ部にねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。インテグラル型の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじ部が設けられ、他端部の内周に雌ねじ部が設けられる。そして、一方の鋼管の雄ねじ部が他方の鋼管の雌ねじ部にねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。
【0004】
一般に、雄ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。一方、雌ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。これらのピンとボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
図1は、従来の一般的な鋼管用ねじ継手の一例を示す縦断面図である。
図1に示すねじ継手は、カップリング型のねじ継手であり、ピン110とボックス120とから構成される。
【0006】
ピン110は、先端側から基部側に向けて順に、ショルダー面111、シール面113及び雄ねじ部114を備える。一方、ボックス120は、基部側から先端側に向けて順に、ショルダー面121、シール面123及び雌ねじ部124を備える。これらのボックス120のショルダー面121、シール面123及び雌ねじ部124は、それぞれ、ピン110のショルダー面111、シール面113及び雄ねじ部114に対応して設けられる。ピン110の雄ねじ部114とボックス120の雌ねじ部124とは互いに噛み合うものであり、これらで構成されるねじ部はテーパねじの台形ねじである。
【0007】
雄ねじ部114と雌ねじ部124は、互いのねじ込みを可能にし、締結状態では互いに嵌め合い密着し、締まりばめの状態となる。各シール面113、123は、ピン110のねじ込みに伴って互いに接触し、締結状態では嵌め合い密着して締まりばめの状態となる。これにより、各シール面113、123はメタル接触によるシール部を形成する。各ショルダー面111、121は、ピン110のねじ込みに伴って互いに接触して押し付けられ、ピン110のねじ込みを制限するストッパの役割を担う。各ショルダー面111、121は、締結状態では、ピン110の雄ねじ部114の荷重面に、いわゆるねじの締め付け軸力を付与する役割を担う。
【0008】
このような構成のねじ継手では、雄ねじ部114と雌ねじ部124との嵌め合い密着に加え、シール面113、123同士の嵌め合い密着により、密封性能が確保される。
【0009】
近年、油井環境は、高深度化及び超深海化が進展し、これに伴い、高温・高圧で高腐食という過酷な環境になっている。このような過酷な環境に対応するため、油井管として厚肉の鋼管が使用されることが多い。これらの鋼管を接続するねじ継手には、内圧及び外圧に対する優れた密封性能が要求される。
【0010】
厚肉鋼管のねじ継手について密封性能の向上を図った従来技術としては、下記のものがある。
【0011】
図2は、密封性能の向上を図った従来の鋼管用ねじ継手の一例を示す縦断面図である。
図2に示すねじ継手は、メタル接触によるシール部を2箇所備える(例えば、国際公開第WO01/029476号(特許文献1)参照)。
【0012】
具体的には、
図2に示すように、ピン210は、先端側から基部側に向けて順に、ショルダー面211、第1シール面213、第1雄ねじ部214、第2シール面216及び第2雄ねじ部217を備える。一方、ボックス220は、基部側から先端側に向けて順に、ショルダー面221、第1シール面223、第1雌ねじ部224、第2シール面226及び第2雌ねじ部227を備える。第1雄ねじ部214と第1雌ねじ部224とで構成される第1ねじ部は、テーパねじの台形ねじである。第2雄ねじ部217と第2雌ねじ部227とで構成される第2ねじ部も同様である。
【0013】
図3は、密封性能の向上を図った従来の鋼管用ねじ継手の他の一例を示す縦断面図である。
図3に示すねじ継手は、前記
図2に示すねじ継手と対比し、メタル接触によるシール部を2箇所備える点は共通するが、ショルダー面の設置位置が変更されている点で相違する(例えば、米国特許第4,662,659号(特許文献2)参照)。
【0014】
具体的には、
図3に示すように、ピン210は、先端側から基部側に向けて順に、第1シール面213、第1雄ねじ部214、ショルダー面211、第2シール面216及び第2雄ねじ部217を備える。一方、ボックス220は、基部側から先端側に向けて順に、第1シール面223、第1雌ねじ部224、ショルダー面221、第2シール面226及び第2雌ねじ部227を備える。第1雄ねじ部214と第1雌ねじ部224とで構成される第1ねじ部、及び第2雄ねじ部217と第2雌ねじ部227とで構成される第2ねじ部は、いずれもテーパねじの台形ねじである。
【0015】
前記
図2に示すねじ継手の場合、第1ねじ部のテーパ面と第2ねじ部のテーパ面は一致する。第1ねじ部と第2ねじ部との間に単に第2シール面216、226が追加されるからである。一方、
図3に示すねじ継手の場合は、第1ねじ部のテーパ面は第2ねじ部のテーパ面よりも管軸CL寄りになる。第1ねじ部と第2ねじ部との間にショルダー面211、221が設置されるからである。
【0016】
図2及び
図3に示すねじ継手のいずれも、第1雄ねじ部214及び第1雌ねじ部224は、互いのねじ込みを可能にし、締結状態では互いに嵌め合い密着し、締まりばめの状態となる。第2雄ねじ部217及び第2雌ねじ部227も同様に締まりばめの状態となる。各第1シール面213、223及び各第2シール面216、226は、それぞれピン210のねじ込みに伴って互いに接触し、締結状態では嵌め合い密着し、締まりばめの状態となる。各ショルダー面211、221は、ピン210のねじ込みに伴って互いに接触して押し付けられる。
【0017】
このような構成のねじ継手では、第1シール面213、223同士の嵌め合い密着により、主に内圧に対しての密封性能が確保される。また、第2シール面216、226同士の嵌め合い密着により、主に外圧に対しての密封性能が確保される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
近年の過酷な環境で用いられるねじ継手、特に厚肉鋼管のねじ継手には、内圧及び外圧に対し、更なる密封性能の向上が要求される。
【0020】
本発明の目的は、下記の特性を有する鋼管用ねじ継手を提供することである:
内圧及び外圧に対する密封性能を向上させること。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスが締結される鋼管用ねじ継手であって、
前記ピンは、先端側から順に、ショルダー面、第1シール面、テーパねじの第1雄ねじ部、第2シール面及びテーパねじの第2雄ねじ部を備え、
前記ボックスは、前記ピンの前記ショルダー面、前記第1シール面、前記第1雄ねじ部、前記第2シール面及び前記第2雄ねじ部のそれぞれに対応するショルダー面、第1シール面、テーパねじの第1雌ねじ部、第2シール面及びテーパねじの第2雌ねじ部を備える。
更に、前記ピンは、前記ショルダー面と前記第1シール面との間に前記第1シール面に連なるノーズ部を備えるとともに、前記第1雄ねじ部と前記第2シール面との間に前記第2シール面に連なる環状部を備え、
前記ボックスは、前記ピン部の前記ノーズ部に対応する凹部を備えるとともに、前記ピンの前記環状部に対応する環状部を備える。
このような鋼管用ねじ継手は、
締結状態において、前記ショルダー面同士が互いに接触し、前記第1シール面同士が互いに接触し、前記第2シール面同士が互いに接触し、前記ピンの前記ノーズ部と前記ボックスの前記凹部との間に隙間が形成され、前記ピンの前記環状部と前記ボックスの前記環状部との間に隙間が形成され、前記第1雄ねじ部と前記第1雌ねじ部とが嵌まり合い、前記第2雄ねじ部と前記第2雌ねじ部とが嵌まり合う構成である。
【0022】
上記のねじ継手は、下記の構成とすることができる。
前記ピンは、前記第1雄ねじ部と前記環状部との間に前記環状部に連なる補助ショルダー面を備え、
前記ボックスは、前記ピンの前記補助ショルダー面に対応する補助ショルダー面を備え、
締結状態において、更に前記補助ショルダー面同士が互いに接触する。
【0023】
このねじ継手は、下記の構成とすることが好ましい。
締結の過程で、前記ショルダー面同士の接触及び前記補助ショルダー面同士の接触が同時に行われるか、又は前記補助ショルダー面同士の接触が前記ショルダー面同士の接触よりも先に行われる。
【0024】
また、上記のねじ継手は、下記の構成とすることが好ましい。
前記ピンは、管軸に垂直な断面での管本体の断面積をA
0とし、管軸に垂直な平面への前記ショルダー面の投影面積をA
1としたとき、両者の面積比率A
1/A
0が30%以上である。
【0025】
また、上記のねじ継手は、下記の構成とすることが好ましい。
前記ピンは、管軸に垂直な断面での管本体の断面積をA
0とし、管軸に垂直な平面への前記ショルダー面及び前記補助ショルダー面それぞれの投影面積の合計をA
2としたとき、両者の面積比率A
2/A
0が30%以上である。
【0026】
また、上記のねじ継手は、下記の構成とすることが好ましい。
前記ピンは、管軸に垂直な平面への前記ショルダー面及び前記補助ショルダー面それぞれの投影面積の合計をA
2とし、管軸に垂直な平面への前記ショルダー面の投影面積をA
1としたとき、両者の面積比率A
1/A
2が35%以上である。
【0027】
更に、上記のねじ継手は、下記の構成とすることが好ましい。
前記ピンの前記環状部の外径は、前記第2雄ねじ部のねじ谷底面のテーパの延長面より前記第2雄ねじ部のねじ高さの2倍分外径が小さいテーパ面を規準とし、この規準テーパ面の直径よりも大きい。
【0028】
更に、上記のねじ継手は、下記の構成とすることが好ましい。
前記ピンの前記環状部の管軸に沿う長さは、前記第2雄ねじ部のねじピッチの1倍以上である。
【0029】
更に、上記のねじ継手は、下記の構成とすることが好ましい。
前記ピンの前記ノーズ部の管軸に沿う長さは5mm以上である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の鋼管用ねじ継手は、下記の顕著な効果を有する:
内圧及び外圧に対する密封性能を向上できること。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明者らは、シール部による密封性能を最大限に発揮できる構成について鋭意検討を重ねた。その際、ピンの先端にショルダー面を備えるとともに、メタル接触によるシール部を2箇所備えるねじ継手を前提とした。すなわち、主に内圧に対しての密封性能に寄与する内部寄りの第1シール部、及び主に外圧に対しての密封性能に寄与する外部寄りの第2シール部を備えるねじ継手を前提とした。その結果、下記の知見を得た。
【0033】
外圧に対する密封性能を向上させるには、ピンを厚肉化すればよい。ねじ継手への外圧の負荷に伴いピンは縮径変形し、外部寄りの第2シール面同士の接触が緩まる様相になるところ、ピンの厚肉化により縮径抵抗が高まるからである。ただし、ピンの内径はAPI(American Petroleum Institute(アメリカ石油協会))の規格で規定され、ピンの外径の拡大は油井の構造上の制約から有限である。このため、ピンの特に第2シール面の領域を厚肉化することは限界がある。
【0034】
そこで、ピンには、第2シール面と内部寄りの第1雄ねじ部との間に限定して、第2シール面に連なって管軸方向に伸び出す環状部を設ける。この環状部の設置により、ピンの第2シール面の領域の縮径抵抗が高まる。そのため、第2シール面同士の接触面圧の低下が抑えられ、外圧に対しての密封性能が向上する。この場合、ボックスには、ピンの環状部の領域に対応し、第2シール面に連なる環状部を設ける。このボックスの環状部とピンの環状部との間には、締結状態において隙間が形成される。この隙間により、締結時に塗布された余剰のねじグリスコンパウンド(以下、「ドープ」ともいう)を収容できるため、ドープの圧力上昇による第2シール面同士の接触面圧の不用意な低下が避けられる。
【0035】
更に、ピン及びボックスそれぞれの第2シール面と外部寄りの第2ねじ部との間に限定して、第2シール面に連なって管軸方向に伸び出す、上記の環状部とは別の環状部を設けてもよい。この環状部同士の間には、締結状態において隙間が形成される。この隙間により、第2ねじ部の締りばめ作用による第2シール面の実質的な干渉量の低下が抑えられる。そのため、第2シール面の面圧低下が抑えられ、外圧に対しての密封性能が向上する。
【0036】
一方、内圧に対する密封性能を向上させるには、以下の2つの手法が考えられる。第1の手法としては、ピンには、内部寄りの第1シール面とショルダー面との間に限定して、第1シール面に連なって管軸方向に伸び出す筒状のノーズ部を設ける。ボックスには、ピンのノーズ部の領域に対応し、凹部を設ける。締結状態においてその凹部とノーズ部との間に隙間が形成される。ピンのショルダー面がボックスのショルダー面から離れ、これに伴い第1シール面同士の接触が緩まる様相になった場合、ピンのノーズ部及びボックスの凹部の設置により、ピンの第1シール面がノーズ部と一体で弾性的に復元する。これにより、第1シール面同士の接触面圧の低下が抑えられ、過大な引張荷重が負荷された状態でも内圧に対しての高い密封性能が得られる。
【0037】
第2の手法としては、上記第1の手法に加え、ピンの内部寄りの第1雄ねじ部及び第1シール面の領域を薄肉化する。ピンの薄肉化により、ねじ継手に内圧が負荷されたときにピンが有効に拡径変形するため、内部寄りの第1シール面同士の接触面圧が増幅される。もっとも、ピンの薄肉化は剛性の低下を伴うことから、ねじ継手に内圧が負荷されないときには第1シール面同士の接触が緩まる様相になる。この状況に対しては、上記した第1の手法によるピンのノーズ部の設置により、第1シール面同士の接触面圧の低下が抑えられる。
【0038】
第2の手法では、ピンには、第1雄ねじ部と環状部との間にこの環状部に連なる補助ショルダー面を備えるとともに、ボックスには、ピンの補助ショルダー面に対応して第1雌ねじ部と環状部との間に補助ショルダー面を備える構成とすればよい。この構成の場合、補助ショルダー面の設置により、ピンでは、第1雄ねじ部及び第1シール面の領域の外径を小さくでき、これに伴い、ボックスでは、第1雌ねじ部及び第1シール面の領域の内径を小さくできる。このため、ボックスの危険断面(雌ねじ部の最も基部側の断面、すなわち第1雌ねじ部の最も基部側の断面)の断面積の確保が容易となり、ボックス外径の小径化の実現につながる。
【0039】
本発明の鋼管用ねじ継手は、以上の知見に基づいて完成されたものである。以下に、本発明の鋼管用ねじ継手の実施形態を説明する。
【0040】
[第1実施形態]
図4Aは、本発明の第1実施形態の鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。
図4Bは、その鋼管用ねじ継手におけるピンの先端部付近を拡大した縦断面図である。
図5は、本発明の第1実施形態の鋼管用ねじ継手における外部寄りの第2シール部近傍を拡大した縦断面図である。
図4A及び
図5に示すように、第1実施形態のねじ継手は、カップリング型のねじ継手であり、ピン10とボックス20とから構成される。
【0041】
ピン10は、先端側から基部側に向けて順に、ショルダー面11、ノーズ部12、第1シール面13、第1雄ねじ部14、第1環状部15a、第2シール面16、第2環状部15b、及び第2雄ねじ部17を備える。第1シール面13及び第2シール面16はいずれもテーパ状である。厳密には、第1シール面13及び第2シール面16は、それぞれ、先端側ほど直径が縮小した円錐台の周面に相当する面から成る形状、又はその円錐台の周面と、円弧等の曲線を管軸CL周りに回転して得られる回転体の周面に相当する面とを組み合わせた形状をしている。
【0042】
ノーズ部12は筒状であり、内部寄りの第1シール面13に連なって管軸方向に伸び出す。ただし、ノーズ部12の外周面は、第1シール面13のテーパと傾きが同じであるか、又は小さい(緩い)、又は大きい(急な)テーパ面であってもよい。厳密には、先端側ほど直径が縮小した円錐台の周面に相当する面から成る形状、又はその円錐台の周面と、円弧等の曲線を管軸CL周りに回転して得られる回転体の周面に相当する面とを組み合わせた形状をしている。
【0043】
このノーズ部12の先端にショルダー面11が設けられる。ショルダー面11は、管軸CLにほぼ垂直な環状面である。厳密には、そのショルダー面11の外周側がピン10の先端側に向けて僅かに傾倒する。第1環状部15aは、外部寄りの第2シール面16の前方に連なって管軸方向に伸び出す。この第1環状部15aに連なって内部寄りの第1雄ねじ部14が設けられている。第2環状部15bは、外部寄りの第2シール面16の後方に連なって管軸方向に伸び出す。この第2環状部15bに連なって外部寄りの第2雄ねじ部17が設けられる。第1環状部15aの外周面は、その剛性を確保できる形状であればよく、例えば筒面や第1雄ねじ部14のねじテーパよりも小さい(緩い)テーパ面であってもよいし、湾曲面であってもよい。第2環状部15bの外周面も同様である。
【0044】
一方、ボックス20は、基部側から先端側に向けて順に、ショルダー面21、凹部22、第1シール面23、第1雌ねじ部24、第1環状部25a、第2シール面26、第2環状部25b、及び第2雌ねじ部27を備える。これらのボックス20のショルダー面21、凹部22、第1シール面23、第1雌ねじ部24、第1環状部25a、第2シール面26、第2環状部25b、及び第2雌ねじ部27は、それぞれ、ピン10のショルダー面11、ノーズ部12、第1シール面13、第1雄ねじ部14、第1環状部15a、第2シール面16、第2環状部15b、及び第2雄ねじ部17に対応して設けられる。
【0045】
図4A及び
図4Bでは、ボックス20の第1シール面23が、ピン10の第1シール面13に向けて突出する場合を示す。ただし、ボックス20の第1シール面23は、突出しなくてもよい。その場合、ピン10の第1シール面13がボックス20の第1シール面23に向けて突出する。
【0046】
ピン10の第1雄ねじ部14とボックス20の第1雌ねじ部24は、互いに噛み合うテーパねじの台形ねじであり、内部寄りの第1ねじ部を構成する。ピン10の第2雄ねじ部17とボックス20の第2雌ねじ部27も、互いに噛み合うテーパねじの台形ねじであり、外部寄りの第2ねじ部を構成する。第1実施形態のねじ継手の場合、第1ねじ部のテーパ面と第2ねじ部のテーパ面は一致する。第1ねじ部と第2ねじ部との間に単に第2シール面16、26が追加されるからである。
【0047】
第1雄ねじ部14及び第1雌ねじ部24は、互いのねじ込みを可能にし、締結状態では互いに嵌め合い密着し、締まりばめの状態となる。第2雄ねじ部17及び第2雌ねじ部27も同様に締まりばめの状態となる。各第1シール面13、23及び各第2シール面16、26は、それぞれピン10のねじ込みに伴って互いに接触し、締結状態では嵌め合い密着し、締まりばめの状態となる。これにより、各第1シール面13、23及び各第2シール面16、26は、それぞれメタル接触による第1シール部及び第2シール部を形成する。各ショルダー面11、21は、ピン10のねじ込みに伴って互いに接触して押し付けられ、ピン10のねじ込みを制限するストッパの役割を担う。更に、各ショルダー面11、21は、締結状態では、ピン10の第1雄ねじ部14及び第2雄ねじ部17の荷重面に、いわゆるねじの締め付け軸力を付与する役割を担う。締結状態において、ピン10のノーズ部12とボックス20の凹部22との間には隙間が形成され、ピン10の第1環状部15aとボックス20の第1環状部25aとの間にも隙間が形成され、ピン10の第2環状部15bとボックス20の第2環状部25bとの間にも隙間が形成される。
【0048】
このような構成の第1実施形態のねじ継手では、内部寄りの第1シール面13、23同士の嵌め合い密着により、主に内圧に対しての密封性能が確保される。また、外部寄りの第2シール面16、26同士の嵌め合い密着により、主に外圧に対しての密封性能が確保される。
【0049】
特に、ピン10には、外部寄りの第2シール面16の前方に連なって第1環状部15aが設けられるので、この第1環状部15aの剛性により、ピン10の第2シール面16の領域の縮径抵抗が高まる。このため、ねじ継手に外圧が負荷されたときであっても、ピン10の縮径変形が抑制され、第2シール面16、26同士の接触面圧の低下が抑えられる。その結果、外圧に対しての密封性能が向上する。また、ボックス20には、ピン10の第1環状部15aの領域に対応して第1環状部25aが設けられ、締結状態において第1環状部15a、25a同士の間で隙間が形成される。そのため、締結時に塗布された余剰のドープをその隙間に収容できる。その結果、ドープの圧力上昇による第2シール面16、26同士の接触面圧の不用意な低下が避けられる。
【0050】
ピン10及びボックス20それぞれには、外部寄りの第2シール面16、26の後方に連なって第2環状部15b、25bが設けられ、この第2環状部15b、25b同士の間には、締結状態において隙間が形成される。このため、第2ねじ部の締りばめ作用による第2シール面16、26同士の実質的な干渉量の低下による面圧低下が抑えられる。その結果、外圧に対しての密封性能が向上する。
【0051】
更に、ピン10には、内部寄りの第1シール面13に連なってノーズ部12が設けられる。ボックス20には、ピン10のノーズ部12の領域に対応して凹部22が設けられる。締結状態においてそれらのノーズ部12と凹部22との間に隙間が形成される。例えば、ねじ継手に過大な引張荷重が負荷された場合、ピン10のショルダー面11がボックス20のショルダー面21から離れ、第1シール面13、23同士の実質的な干渉量が低下し接触が緩まる傾向になる。このような場合であっても、ノーズ部12の弾性回復により第1シール面13、23同士の接触面圧の増幅効果が得られる。そのため、全体として接触面圧の低下が抑えられることから、過大な引張荷重が負荷された状態でも内圧に対しての高い密封性能が得られる。
【0052】
以下に、第1実施形態のねじ継手の好適な態様について補足する。
【0053】
ピン10において、管軸CLに垂直な断面での管本体の断面積をA
0とし、管軸CLに垂直な平面へのショルダー面11の投影面積をA
1とする。このとき、両者の面積比率(以下、「管本体に対するショルダー面積率」ともいう)A
1/A
0が30%以上であることが好ましい。より好ましくは、A
1/A
0は35%以上である。その理由は以下のとおりである。A
1/A
0は実質的にショルダー面11の面積に依存する。A
1/A
0が小さいと、ショルダー面11の面積が小さいため、ねじ継手に過大な圧縮荷重が負荷された場合、ショルダー面11がその圧縮荷重に耐えきれない。この場合、ショルダー面11並びにこれに連なるノーズ部12及び第1シール面13が塑性変形し、第1シール面13、23同士の接触状態が不安定になる。その結果、第1シール面13、23同士の接触面圧が低下するおそれがある。このため、管本体に対するショルダー面積率A
1/A
0は、ある程度大きいことが好ましい。
【0054】
管本体に対するショルダー面積率A
1/A
0の上限は特に規定しない。ただしA
1/A
0があまりに大きいと、ショルダー面11の面積が大きすぎるため、ピン10のショルダー面11の外径が大きすぎることになる。その結果、ボックス20では、第1雌ねじ部24及び第1シール面23の領域の内径が大きくなる。ボックス20の危険断面の断面積を確保するためには、ボックス20の外径を大きくしなければならない。また、第1ねじ部及び第2ねじ部の噛み合い長さの確保が困難になる。このため、実用性を踏まえ、管本体に対するショルダー面積率A
1/A
0は60%以下とすることが好ましい。
【0055】
図5に示すように、ピン10において、第1環状部15aの外径の最小径は、規準テーパ面19bの直径よりも大きいことが好ましい。規準テーパ面19bは、第2雄ねじ部17のねじ谷底面のテーパの延長面19aより第2雄ねじ部17のねじ高さの2倍分外径が小さいテーパ面19bをいう。その理由は以下のとおりである。第1環状部15aの外径は、実質的に第1環状部15aの肉厚に依存する。第1環状部15aの外径が小さいと、第1環状部15aの肉厚が薄いため、ねじ継手に外圧が負荷された場合、第1環状部15aの剛性による第2シール面16の領域の縮径抵抗が不十分になる。この場合、第2シール面16、26同士の接触面圧が低下するおそれがある。このため、第1環状部15aの外径は、ある程度大きいことが好ましい。
【0056】
第1環状部15aの外径の上限は特に規定しない。ただし、第1環状部15aの外径は、締結の際にボックス20の第2シール面26に干渉しない寸法とする必要がある。
【0057】
ピン10において、第1環状部15aの管軸に沿う長さは、第2シール面16の前端側の端部から測定して第2雄ねじ部17のねじピッチの1倍以上であることが好ましい。第1環状部15aの長さが短いと、第1環状部15aの肉厚が薄いときの理由と同様に、ねじ継手に外圧が負荷された場合、第2シール面16、26同士の接触面圧が低下するおそれがあるからである。
【0058】
第1環状部15aの長さの上限は特に規定しない。ただし、第1環状部15aの長さがあまりに長いと、継手の全長が長くなり、加工時間や材料費の増加により製造コストが増加する。また、第1環状部15aの長さがある長さ以上になると密封性能の向上効果はほぼ飽和する。このため、実用性を踏まえ、第1環状部15aの長さは、第2雄ねじ部17のねじピッチの5倍以下とすることが好ましい。
【0059】
ピン10において、第2環状部15bの管軸に沿う長さは、第2シール面16の後端側の端部から測定して第2雄ねじ部17のねじピッチの1倍以上であることが好ましい。第2環状部15bの長さが短いと、第2ねじ部の締りばめ作用による第2シール面16、26同士の実質的な干渉量の低下により、第2シール面16、26同士の接触面圧が低下するおそれがあるからである。
【0060】
第2環状部15bの長さの上限は特に規定しない。ただし、第2環状部15bの長さがあまりに長いと、継手の全長が長くなり、加工時間や材料費の増加により製造コストが増加する。また、第2環状部15bの長さがある長さ以上になると密封性能の向上効果はほぼ飽和する。このため、実用性を踏まえ、第2環状部15bの長さは、第2雄ねじ部17のねじピッチの5倍以下とすることが好ましい。
【0061】
ピン10において、ノーズ部12の管軸に沿う長さは5mm以上であることが好ましい。その理由は以下のとおりである。ノーズ部12の長さが短いと、ねじ継手に過大な引張荷重が負荷された場合、ノーズ部12による第1シール面13の弾性的な復元力が不十分になる。この場合、第1シール面13、23同士の接触面圧が低下するおそれがある。このため、ノーズ部12の長さは、ある程度長いことが好ましい。
【0062】
ノーズ部12の長さの上限は特に規定しない。ただし、ノーズ部12の長さがあまりに長いと、継手の全長が長くなり、加工時間や材料費の増加により製造コストが増加する。また、ノーズ部12の長さがある長さ以上になると密封性能の向上効果はほぼ飽和する。このため、実用性を踏まえ、ノーズ部12の長さは、第1雄ねじ部14のねじピッチの5倍以下とすることが好ましい。
【0063】
[第2実施形態]
図6は、本発明の第2実施形態の鋼管用ねじ継手を示す縦断面図である。
図7は、本発明の第2実施形態の鋼管用ねじ継手における外部寄りの第2シール部近傍を拡大した縦断面図である。
図6及び
図7に示す第2実施形態のねじ継手は、前記
図4及び
図5に示す第1実施形態のねじ継手を変形したものであり、第1実施形態と重複する説明は適宜省略する。
【0064】
図6及び
図7に示すように、第2実施形態のねじ継手は、前記第1実施形態のねじ継手と対比し、ピン10の先端にショルダー面11を備えるとともに、メタル接触によるシール部を2箇所備える点は共通するが、補助ショルダー面18を追加した点で相違する。
【0065】
具体的には、ピン10は、内部寄りの第1雄ねじ部14と第1環状部15aとの間に、第1環状部15aに連なる補助ショルダー面18を備える。この補助ショルダー面18は、管軸CLに垂直な環状面である。もっとも、この補助ショルダー面18は、ピン10の先端のショルダー面11と同様に、その外周側がピン10の先端側に向けて僅かに傾倒していてもよい。一方、ボックス20は、ピン10の補助ショルダー面18に対応する補助ショルダー面28を備える。
【0066】
第2実施形態のねじ継手の場合、第1ねじ部のテーパ面は第2ねじ部のテーパ面よりも管軸CL寄りになる。第1ねじ部(第1雄ねじ部14及び第1雌ねじ部24)と第2ねじ部(第2雄ねじ部17及び第2雌ねじ部27)との間に補助ショルダー面18、28が設置されるからである。このため、第2実施形態のねじ継手では、前記第1実施形態のねじ継手と比較し、ピン10の内部寄りの第1雄ねじ部14及び第1シール面13の領域の外径が小さくなり、その領域の肉厚が薄肉化される。
【0067】
締結状態において、ショルダー面11、21同士が互いに押し付けられて接触するとともに、補助ショルダー面18、28同士も互いに押し付けられて接触する。各ショルダー面11、21の押圧接触は、主にピン10の第1雄ねじ部14の荷重面に締め付け軸力を付与する。各補助ショルダー面18、28の押圧接触は、主にピン10の第2雄ねじ部17の荷重面に締め付け軸力を付与する。
【0068】
ここで、締結の過程におけるショルダー面11、21同士の接触及び補助ショルダー面18、28同士の接触のタイミングに関し、両接触が同時に行われるか、又は補助ショルダー面18、28同士の接触がショルダー面11、21同士の接触よりも先に行われることが好ましい。このような接触タイミングにすれば、ショルダー面11、21同士の接触荷重と補助ショルダー面18、28同士の接触荷重とのバランスが保たれる。その結果、ピン10及びボックス20のダメージが少なくなる。
【0069】
第2実施形態のねじ継手によっても、上記第1実施形態と同様の効果を奏する。特に、第2実施形態では、補助ショルダー面18、28の設置により、ピン10の内部寄りの第1雄ねじ部14及び第1シール面13の領域が薄肉化される。これにより、ねじ継手に内圧が負荷されたときに、その薄肉化された領域が有効に拡径変形する。このため、第1シール面13、23同士の接触面圧が増幅される。
【0070】
以下に、第2実施形態のねじ継手の好適な態様について補足する。
【0071】
ピン10において、管軸CLに垂直な断面での管本体の断面積をA
0とし、管軸CLに垂直な平面へのショルダー面11及び補助ショルダー面18それぞれの投影面積の合計をA
2とする。このとき、両者の面積比率(以下、「管本体に対する全ショルダー面積率」ともいう)A
2/A
0が30%以上であることが好ましい。より好ましくは、A
2/A
0は35%以上である。その理由は以下のとおりである。A
2/A
0は実質的にショルダー面11及び補助ショルダー面18の面積に依存する。A
2/A
0が小さいと、ショルダー面11及び補助ショルダー面18の面積が小さいため、ねじ継手に過大な圧縮荷重が負荷された場合、ショルダー面11及び補助ショルダー面18がその圧縮荷重に耐えきれない。この場合、ショルダー面11並びにこれに連なるノーズ部12及び第1シール面13が塑性変形し、第1シール面13、23同士の接触状態が不安定になる。これと合わせ、補助ショルダー面18並びにこれに連なる第1環状部15a及び第2シール面16が塑性変形し、第2シール面16、26同士の接触状態が不安定になる。その結果、第1シール面13、23同士の接触面圧及び第2シール面16、26同士の接触面圧が低下するおそれがある。このため、管本体に対する全ショルダー面積率A
2/A
0は、ある程度大きいことが好ましい。
【0072】
管本体に対する全ショルダー面積率A
2/A
0の上限は特に規定しない。ただし、A
2/A
0があまりに大きいと、実質的にショルダー面11及び補助ショルダー面18の面積が大きすぎるため、ピン10のショルダー面11及び補助ショルダー面18の外径が大きすぎることになる。その結果、ボックス20では、第1雌ねじ部24及び第1シール面23の領域の内径が大きくなる。ボックス20の危険断面の断面積を確保するためには、ボックス外径を大きくしなければならない。また、第1ねじ部及び第2ねじ部の噛み合い長さの確保が困難になる。このため、実用性を踏まえ、管本体に対する全ショルダー面積率A
2/A
0は60%以下とすることが好ましい。
【0073】
ピン10において、管軸CLに垂直な平面へのショルダー面11及び補助ショルダー面18それぞれの投影面積の合計をA
2とし、管軸CLに垂直な平面へのショルダー面11の投影面積をA
1とする。このとき、両者の面積比率(以下、「全ショルダーに対するショルダー面積率」ともいう)A
1/A
2が35%以上であることが好ましい。より好ましくは、A
1/A
2は40%以上である。その理由は以下のとおりである。A
1/A
2は補助ショルダー面18と対比し、実質的にショルダー面11の面積に依存する。A
1/A
2が小さいと、ショルダー面11の面積が小さいため、ねじ継手に過大な圧縮荷重が負荷された場合、ショルダー面11がその圧縮荷重に耐えきれない。この場合、ショルダー面11並びにこれに連なるノーズ部12及び第1シール面13が塑性変形し、第1シール面13、23同士の接触状態が不安定になる。その結果、第1シール面13、23同士の接触面圧が低下するおそれがある。このため、全ショルダーに対するショルダー面積率A
1/A
2は、ある程度大きいことが好ましい。
【0074】
全ショルダーに対するショルダー面積率A
1/A
2の上限は特に規定しない。ただし、A
1/A
2があまりに大きいと、補助ショルダー面18と対比し、実質的にショルダー面11の面積が大きすぎるため、ピン10のショルダー面11に連なるノーズ部12の肉厚、及び第1雄ねじ部14及び第1シール面13の領域が厚すぎることになる。その結果、ねじ継手に内圧が負荷されたときに、その領域が有効に拡径変形せず、第1シール面13、23同士の接触面圧の増幅効果が得られない。この場合、第1シール面13、23同士の接触面圧が低下するおそれがある。このため、実用性を踏まえ、全ショルダーに対するショルダー面積率A
1/A
2は55%以下とすることが好ましい。
【0075】
ピン10の第1環状部15aの外径及び長さ、並びにノーズ部12の長さに関する好適な態様は、前記第1実施形態と同様である。
【0076】
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、ねじ継手に内圧が負荷されたときに、内部寄りの第1ねじ部の嵌め合い密着を第1シール部に近い領域に限定して緩和する方策を付加してもよい。これにより、ピン10の内部寄りの第1シール面13の領域がより有効に拡大変形し、第1シール面13、23同士の接触面圧がより増幅される。その方策としては、第1ねじ部の第1シール部に近い領域において、第1雄ねじ部14又は第1雌ねじ部24をねじ形状の不完全な不完全ねじとする構成を採用できる。この構成の一例として、その不完全ねじの領域では、ボックス20の第1雌ねじ部24のねじ山頂面を管軸CLに平行な円筒面として、ねじ高さを正規のねじ高さよりも低くする。これにより、不完全ねじの領域に限り、第1雌ねじ部24のねじ山頂面と第1雄ねじ部14のねじ谷底面との間に隙間が設けられる。この場合、不完全ねじの領域の長さは、第1雌ねじ部24のねじピッチの3〜9倍(15〜45mm程度)とする。
【0077】
また、上記の実施形態のねじ継手は、インテグラル型及びカップリング型のいずれにも適用できる。
【実施例】
【0078】
本発明による効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値シミュレーション解析を実施した。
【0079】
<試験条件>
FEM解析では、カップリング型の油井管用ねじ継手について、ピンの第1環状部、ノーズ部、及びショルダー面(補助ショルダー面を含む)の諸寸法を種々変更したモデルを作製した。鋼管(ピン)及びカップリング(ボックス)の主要寸法は下記の2種類とした。
(1)鋼管の寸法:10−1/8[inch]×0.8[inch](外径257.2mm、肉厚20.3mm)、カップリングの外径:276.6mm
(2)鋼管の寸法:7−5/8[inch]×1.2[inch](外径193.7mm、肉厚30.5mm)、カップリングの外径:217.8mm
【0080】
共通の条件は下記のとおりである。
・鋼管及びカップリングのグレード:API規格のQ125(降伏応力が125[ksi]の炭素鋼)
・ねじ形状:テーパが1/10(10−1/8[inch]用)又は1/11(7−5/8[inch]用)、ねじ高さが1.575[mm]、ねじピッチが5.08[mm]、荷重面のフランク角が−3°、挿入面のフランク角が10°、挿入面すき間が0.15[mm]
【0081】
FEM解析では、材料を等方硬化の弾塑性体とし、弾性係数が210[GPa]、0.2%耐力としての公称降伏強度が125[ksi](=862[MPa])になるようにモデル化したものを使用した。締め付けは、ピンとボックスのショルダー面が接触してから更に1.5/100回転した状態まで行った。
【0082】
変更した寸法条件は下記の表1のとおりである。
【0083】
【表1】
【0084】
試験No.1〜3は、本発明で規定する条件を満たさない比較例であり、いずれもピンにノーズ部が設けられていない。試験No.4〜17は、本発明で規定する条件を満たす本発明例である。そのうちの試験No.4は、前記
図4及び
図5に示す第1実施形態のねじ継手に基づくものであり、試験No.5〜17は、前記
図6及び
図7に示す第2実施形態のねじ継手に基づくものである。
【0085】
<評価方法>
FEM解析では、締結状態のモデルにISO13679 Series A試験を模擬した荷重履歴を負荷した。その履歴の内圧サイクル(第一、第二象限)及び外圧サイクル(第三、第四象限)におけるシール面の平均接触面圧の最小値(この値が高いほどシール面の密封性能が良いことを意味する)を比較することにより、シール面の密封性能を評価した。
【0086】
シール面の密封性能の評価は、以下の4水準で行った。
・E:Excellent。シール面の平均接触面圧の最小値が、内圧サイクル及び外圧サイクルのいずれでも300MPa以上。
・G:Good。シール面の平均接触面圧の最小値が、外圧サイクルで300MPa以上、内圧サイクルで250MPa以上300MPa未満。
・A:Acceptable。シール面の平均接触面圧の最小値が、外圧サイクルで300MPa以上、内圧サイクルで200MPa以上250MPa未満。
・NA:Not Acceptable。シール面の平均接触面圧の最小値が、外圧サイクルで300MPa未満、内圧サイクルで200MPa未満。
【0087】
<試験結果>
試験結果を上記の表1に示す。
【0088】
比較例の試験No.1〜3では、ピンにノーズ部が設けられていないことから、内圧に対する密封性能が不芳であった。更に、そのうちの試験No.1では、ピンに第1環状部が設けられていないことから、外圧に対する密封性能も不芳であった。
【0089】
本発明例の試験No.4〜17では、ピンにノーズ部及び第1環状部のいずれも設けられていることから、内圧及び外圧に対する密封性能がいずれも向上した。特に、試験No.4〜8、10〜14、及び17では、管本体に対するショルダー面積率A
1/A
0、管本体に対する全ショルダー面積率A
2/A
0、及び全ショルダーに対するショルダー面積率A
1/A
2が大きいため、内圧及び外圧に対する密封性能がいずれも高かった。
【0090】
試験No.9及び15では、全ショルダーに対するショルダー面積率A
1/A
2が比較的小さいため、内圧に対する密封性能の向上度合いが小さかった。また、試験No.16では、管本体に対する全ショルダー面積率A
2/A
0が比較的小さいため、内圧に対する密封性能の向上度合いが小さかった。
【0091】
以上の結果から、本発明の鋼管用ねじ継手は、内圧及び外圧に対する密封性能を向上できることが実証できた。