【実施例1】
【0038】
本発明に係る光学的分解能向上装置の実施例1を以下に
図1を参照しつつ説明する。
図1は、本実施例の光学的分解能向上装置の構成を示す概略図である。この
図1に示すように、光を照射する光源であるレーザー光源10が図示しない光学機器を介して、対物レンズ11と対向して配置され、このレーザー光源10が照射した光が、透過物の測定対象物である試料Sに収束照射されている。このレーザー光源10の収束照射の照射光軸とされる光軸L0上には、凸レンズとされる第1のレンズであるレンズ15が位置していて、試料Sを透過して出射された光束をレンズ15が平行な光束に変換している。
【0039】
このレンズ15の下方の光軸L0上には、レンズ15から出射された平行な光束をそれぞれ左右に分割する2つの第1のビームスプリッター12A、12Bが連続して配置されており、この下方にこの光を受光する第1の受光素子6が位置している。ただし、この第1の受光素子6は、光軸L0を挟んで位置する2つの分割受光素子6A、6Bにより構成されていて、右側寄りの分割受光素子6Aが、レンズ15からの透過光の内の光軸L0の右側寄り部分を受光し、左側寄りの分割受光素子6Bが、レンズ15からの透過光の内の光軸L0の左側寄り部分を受光することになる。
【0040】
この一方、光軸L0に対して
図1の右側に傾きを有した傾斜光軸とされる光軸L1上には、凸レンズとされる第2のレンズであるレンズ16が位置しており、このレンズ16が試料Sから出射された光束を平行な光束としている。この光軸L1上には、この平行な光束を反射するための反射鏡18が配置されており、また、この反射鏡18の下方には、第2のビームスプリッター13が位置している。このため、レンズ16と第2のビームスプリッター13との間に配置される反射鏡18が、レンズ16からの出射光を第2のビームスプリッター13側に反射させている。また、第2のビームスプリッター13の下方には、複数の分割受光素子から構成される第2の受光素子群4が位置している。
【0041】
さらに、2つの第1のビームスプリッター12A、12Bの内の上側の第1のビームスプリッター12Aが分割された光束を第2のビームスプリッター13側に送り出している。このため、レンズ15から出射された光束とレンズ16から出射された光束とを第2のビームスプリッター13が干渉させて、この光束を第2の受光素子群4が受光するようにさせている。
【0042】
他方、上記と同様の構成を有したレンズ17、反射鏡19、第2のビームスプリッター14および、第2の受光素子群5が照射光軸L0を挟んで対称に、
図1の左側にも配置されている。以上より、2つの第1のビームスプリッター12A、12Bおよび左右の第2のビームスプリッター13、14が、レンズ15から出射された光束とレンズ16、17から出射された光束とを干渉させている。
【0043】
さらに、前述の分割受光素子6A、6B、受光素子群4、5が、これら受光素子6A、6B、受光素子群4、5からの信号を比較するための比較器33にそれぞれ接続され、この比較器33が、最終的にデータを処理して試料Sのプロフィル等を得るデータ処理部34に繋がっている。このため、比較器33及びデータ処理部34が、光軸L0を挟んで位置する第1の受光素子6の分割受光素子6A、6B間の出力差および、一対の第2の受光素子群4、5間の出力差を検出する出力差検出部とされている。
【0044】
以上のことより、この
図1に示す対物レンズ11で収束された光は、測定対象物である試料S上にスポットを形成する。このスポットは理想的には回折限界の径を有し、このスポット径内における試料Sのパターンの空間周波数情報が透過光として回折される。ここで、試料Sの有する空間周波数の1次回折光でレンズ15に入射されない空間周波数を考えた場合、レンズ15には試料Sを透過した0次回折光と上記空間周波数よりも低い空間周波数成分の光が入射される。このことで、レンズ15単体では、レンズ15の有するカットオフ周波数まで、試料Sのパターンが再現されうることになる。
【0045】
ところが、レンズ15に入射されない空間周波数はカットされ、像情報に欠落を生じることになる。そこで、
図1に示すように0次回折光の光軸L0に対して、レンズ16及びレンズ17が相互に対称な位置であって、ある傾きを有して配置されている。0次回折光の光軸L0に対するこのレンズ16及びレンズ17の光軸L1、L2の傾き角は、試料Sのコントラストが最大になる空間周波数に匹敵するようにする。
【0046】
すなわち、レンズ16の光軸L1上の光束は、反射鏡18で折り返され、ビームスプリッター12Aにより分離された0次回折光の光軸L0上の光束とビームスプリッター13により合成される。合成された光自体は受光素子群4に導かれる。したがって、0次回折光とレンズ16から出射される1次回折光とを干渉させて受光素子群4が受光する。このとき、最も高いコントラストを有する光束は、レンズ16の光軸L1に一致する空間周波数の光束となるからである。
【0047】
上記した光学系と0次回折光の光軸L0に対して反対方向に同様な光学系について考えた場合、レンズ17の傾斜光軸とされる光軸L2上の光束は反射鏡19で折り返され、このレンズ17の光軸L2上の光束は、ビームスプリッター12Aを経てビームスプリッター12Bにより折り返された0次回折光の光軸L0上の光束と、ビームスプリッター14により合成される。合成された光自体は受光素子群5に導かれる。0次回折光とレンズ17から出射される−1次回折光とを干渉しつつ受光素子群5が受光する。
【0048】
ここで、受光素子群4は複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は0次回折光と1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得する。つまり、0次回折光の光軸L0と1次回折光の光軸L1が傾きを持たなければ、光束内で一様な干渉強度となるが、多少傾きを有した場合には一様なピッチの干渉縞を生じるからである。この干渉縞のピッチは、1次回折光の出射角度によるので、レンズ16に入射される空間周波数を反映したものとなる。
【0049】
また、受光素子群5も複数の分割受光素子よりなり、おのおのの分割受光素子は0次回折光と−1次回折光で干渉された干渉縞を適当なピッチでサンプリングした干渉縞強度を取得し、上記と同様に動作する。
【0050】
したがって、受光素子群4、5は、複数の分割受光素子によりそれぞれ構成される形で配置され、空間周波数の反映した情報が取得できるようになる。受光素子群4,5の実質上対応する空間周波数を取得している受光素子の差の出力を取得することにより、より高い空間周波数情報を取得できるようになる。
【0051】
以上は、DPC法の光学系および、発明者たちが提案するDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系において、特に有効となる。簡単のために上記においては透過光学系で説明したが、試料面に対して反射する方向に本光学的分解能向上装置を配置しても同様な効果をもたらすことになる。
【0052】
上記光学系により取得できる実質的な空間周波数を大きくできる点を以下に定量的に明らかにする。ただし、説明を簡単にするために試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとする。すなわち、光学的な位相θが以下の式で表される。
θ=2πh/λsin(2πx/d+θ0)・・・・・(4)式
【0053】
試料Sから回折された光の振幅Eは、fだけ離れた面においては、(4)式のフーリエ変換とレンズの開口とのコンボリューションとして、与えられるので、以下のように表される。ただし、(4)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は±1次まで取るものとする。ここで、E
0、E
1は、おのおの0次回折光と1次回折光が入射されるレンズ15、レンズ16を経た複素振幅分布である。おのおの(5)、(6)式で表される。
【0054】
【数3】
【0055】
同様にE
-1を−1次回折光が入射されるレンズ17を経た振幅分布である複素振幅分布であるとすると、下記(7)式のようになる。
【0056】
【数4】
【0057】
0次回折光の複素振幅分布を表す(5)式と1次回折光の複素振幅分布を表す(6)式とから、レンズ15の光束とレンズ16の光束とをビームスプリッター12A,13で合成して、受光素子群4上で干渉させた結果とされる受光素子群4上の強度I
1は、下記式のようになる。
【0058】
【数5】
【0059】
同様に0次回折光の複素振幅分布を表す(5)式と−1次回折光の複素振幅分布を表す(7)式とから、レンズ15の光束とレンズ17の光束とをビームスプリッター14,12Bで合成して受光素子群5上で干渉させた結果とされる受光素子群5上の強度I
2は、下記式のようになる。
【0060】
【数6】
【0061】
ただし、上記強度I
1と強度I
2は簡単のために0次回折光および±1次回折光の光路差が実質上ないものとした。このようにして、受光素子群4と受光素子群5との差出力を表すと下記式のようになる。
【0062】
【数7】
【0063】
ここで、単独の受光素子を用いずに、適正個数の分割受光素子よりなる受光素子群としたのは、受光素子と空間周波数が対応関係にすることになるので、受光量より試料Sに含まれる空間周波数成分の分布も考慮に入れた解析ができるからである。
もし、0次回折光と1次回折光とを干渉させないと、±1次回折光の強度は、下記式のようになり、差出力を取得すると0となる。
【0064】
【数8】
【0065】
また、たとえ和の出力を取得したとしても位相情報θ0は完全に失われることになり、試料Sにその空間周波数が存在するか否かの情報だけとなり、プロファイル情報等の知りたい情報を取得することはできない。
【0066】
以下、上記光学系を具体的に適用して効果のあるDPC法の光学系および、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系について述べる。ここで、
図2はDPC法における透過光学系のブロック図を示し、
図3はDPC法における反射光学系のブロック図を示す。
【0067】
まず、
図2に示すように、レーザー光源21からの光束はコリメーターレンズ22により平行光束とされ、2次元走査デバイス26に入射される。この2次元走査デバイス26は光を面上に走査するデバイスであり、MEMSやガルバノミラー、レゾナントミラー等で構成されるものである。
【0068】
この平行光束は、2次元走査デバイス26の瞳位置を対物レンズ31の瞳位置に伝達するための瞳伝達レンズ系30を経て、対物レンズ31に入射された後、試料Sに収束される。試料Sに収束された光は透過光となり、受光素子29に入射される。この受光素子29は、試料Sから実質上ファーフィールドとなる位置に配置され、光軸Lに対して対称に少なくとも2分割された受光素子とされている。
【0069】
この結果、光軸L上の平行光束が試料Sの屈折率分布や凸凹により0次回折光と±1次回折光とに分離され、分離されたこれらの光が干渉しつつ、受光素子29に受光される。これに伴い、試料Sの屈折率分布や凸凹の情報が、0次回折光と±1次回折光との干渉情報に基づき、受光素子29内の図示しない光電変換部において、変換される。このとき、光軸Lに対して対称な受光素子29の2つの受光素子間の差出力に試料Sの上記情報が反映される。
【0070】
これに対して、
図3は反射光学系のブロック図であり、
図2の透過光学系と異なるのは、コリメーターレンズ22と2次元走査デバイス26との間に配置されたビームスプリッター27により光束の一部を取り出し、この光束を少なくとも2分割された受光素子からなる受光素子29によりそれぞれ受光することにより、これらの差出力を検出することである。この際、試料Sからの反射平行光は、実質上ファーフィールド情報であることになる。
【0071】
図4および
図5は、発明者たちが提案するDPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系であり、これを以下に説明する。ここで、
図4はこれらの方法を組み合わせた透過光学系のブロック図を示し、
図5はこれらの方法を組み合わせた反射光学系のブロック図を示す。
これらの光学系が
図2および
図3に示す光学系と異なるのは、
図4に示すように、音響光学素子23によりきわめて接近した2つの光束を作成し、試料Sに照射することにある。
【0072】
具体的には、この
図4に示すように、レーザー光が出射されるレーザー光源21と、AODドライバー24が接続されて動作が制御される音響光学素子(AOD)23との間に、コリメーターレンズ22が配置されている。また、この音響光学素子23に対して、2群のレンズからなる瞳伝達拡大レンズ系25、入力されたレーザー光を分離して出射するビームスプリッター27、入力されたレーザー光を2次元走査する2次元走査デバイス26が順に並んで配置されている。
【0073】
さらに、このビームスプリッター27に隣り合って、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系30が位置し、この隣に対物レンズ31が試料Sと対向して配置されている。つまり、これら部材が光軸Lに沿って並んでいることになる。他方、光軸Lが通過する方向に対して直交する方向であってビームスプリッター27の右隣の位置には、光センサである受光素子28が配置されている。また、試料Sの背面側である下側には、同じく光センサである受光素子29が配置されている。これら受光素子28、29が、これら受光素子28、29からの信号を比較する比較器33にそれぞれ接続され、この比較器33が、最終的にデータを処理して試料Sのプロフィル等を得るデータ処理部34に繋がっている。
【0074】
以上に伴い、キャリア周波数fcと変調周波数fmの2つのDSB変調された信号を外部からAODドライバー24を経て、音響光学素子23に入力することで、きわめて接近したこれら2つの光束を作成することができる。これらきわめて接近した2方向に出射された光束は、音響光学素子23の実質的な瞳位置を2次元走査デバイス26の瞳位置に伝達する瞳伝達レンズ系25、光を面上に走査する2次元走査デバイス26および、2次元走査デバイス26の瞳位置を対物レンズ31の瞳に伝達するための瞳伝達レンズ系30を経て、対物レンズ31に入射される。
【0075】
この結果として、対物レンズ31で収束された光束は、きわめて接近された2つのスポットとして試料Sを面上に走査することになる。この2つのスポットは周波数fc+fmと周波数fc−fmの2つの信号となるので、これらの信号をヘテロダイン検波をすることにより、試料Sの凸凹情報、屈折率分布を反映した信号が得られる。
【0076】
本実施例において、ヘテロダイン検波を行うには、照射された変調信号の一部をビームスプリッター27で取り出して受光素子28でレファランス信号を得て、このレファランス信号と2分割された受光素子29で検出された信号とで差動出力を求め、比較器33により位相差情報および強度情報を取得し、データ処理部34に送る。データ処理部34では走査情報とともに取得された情報を画像やデータの形として、ディスプレイに表示したり、メモリにデータとして蓄積したりする。
【0077】
ただし、受光素子28は必ずしも必要ではなく、音響光学素子23に出力する信号、 すなわち音響光学素子23に印加される信号自体と比較してもよい。この場合、回路系や音響光学素子等による遅延が発生するが、予め補正するなどしておけば、位相差検出等に大きな影響を与えることはない。
【0078】
また、試料Sの表面を面上に走査する極めて接近した2つのスポット光は、相互に周波数の異なる光となるが、実質上、瞳伝達レンズ系25、30等の拡大光学系を使用することにより、高い周波数でも極めて接近させたスポットにすることができる。これにより高速な走査により高速な情報取得ができることになる。
【0079】
これに対して、
図5は反射光学系のブロック図であり、
図4の透過光学系と異なるのは、試料Sから反射して戻ってきた光束をビームスプリッター27により取り出し、この光束を2分割された受光素子からなる受光素子29によりそれぞれ受光することで、これらの差出力を検出することである。この際、試料Sからの反射平行光は、実質上ファーフィールド情報であることになる。
【0080】
この一方、このようにして得られた2つの光は、上記手法により分離度を非常に小さくすることができ、実質上1つのビームで走査した情報と変わらない。これに対し、一つのビームで走査し、ファーフィールドに配置した少なくとも2分割された受光素子の差動出力を得る方法が、前記したDPC法である。
【0081】
つまり、DPC法に比較すると、このような本ヘテロダイン法をさらに使用した方法では、ヘテロダイン検出することにより、位相変化および強度変化をきわめて精度よく検出できる点と、受光素子29で受光される光が非常に微弱でも検出回路系のゲインを高くすることで、高精度に検出できる点と、検出される信号は変調信号だけなので、外乱光の影響を受けることもなくなる点とを有することから、さらに高精度な検出ができることになる。
【0082】
また、上記のような光学系の受光素子部分に
図1に示す光学系を用いることで、さらに空間周波数の高い情報、すなわち横分解能の大幅な向上が図れるようになる。さらに、試料Sに照射する光束を平行光束として、
図1に示すレンズ15,16,17を省き、その他の光学系は上記実施例と同じようにすることで、平行光束系に対する光学的分解能向上装置とすることもできる。
【0083】
以下の実施例においては、DPC法の光学系の受光素子部分および、DPC法とヘテロダイン法とを組み合わせた光学系の受光素子部分に、以下の実施例の受光素子系を適用すればよいので、受光素子系以外の光学系についての説明は省略する。
【実施例2】
【0084】
本実施例においては、0次回折光の光軸L0に対してレンズを傾斜して設置することで、0次回折光の一部だけでなく、同じレンズを用いた場合に比較してより高い空間周波数を有した1次回折光の一部を取り入れることで、これら0次回折光と1次回折光の干渉を実現している。
本実施例は、
図6に示すように、平行光束が対物レンズ11に入射し、試料Sに収束されるまでは、
図1と同様である。ただし、本実施例においては、試料Sを透過した0次回折光の一部と1次回折光の一部とを、0次回折光と1次回折光との間の中間的な傾き角を有した光軸L3だけ傾けた状態のレンズ36に取り入れる。そして、上記一部の1次回折光と上記一部の0次回折光をロンボイドプリズム39のようなものにより、光束同士をシフトして重ね合わせることで、お互いの光束同士を干渉させる。
【0085】
また、ロンボイドプリズム39の一面を半透鏡39Aとし、この半透鏡39Aと反対の面を半透鏡39Bにし、それぞれの面を通過して光を受光する受光素子40,41,42を配置する。ここで、受光素子40と受光素子41は、それぞれ0次回折光の一部と1次回折光の一部との干渉結果を反映し、受光素子42は、レンズ36の0次回折光の一部が含まれる領域に回折される低い空間周波数の1次回折光と0次回折光の一部との干渉結果を反映する。
【0086】
以下の式にて、0次回折光と1次回折光とが干渉した結果について説明する。
まず、
図6で示した光学系と同様の光学系を、
図6では示していないが0次回折光の光軸L0と対称となるように、−1次回折光に対しても配置する。これら対応する各受光素子の出力差を取得すると以下のように考えられる。説明を簡単にするために、試料Sが高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとすれば、光学的な位相θが以下の式で表される。
【0087】
θ=2πh/λsin(2πx/d+θ0)・・・・・(4)式
【0088】
試料Sから回折された光の振幅Eは、fだけ離れた面においては、(4)式のフーリエ変換とレンズの開口とのコンボリューションとして与えられるので、以下のように表される。
ただし、(4)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は±1次まで取るものとする。
図6に示すように光軸L3をレンズ36のほぼsin
-1(NA)に相当する角度ξだけ傾ける。この際、光軸L3に対する垂直方向をy軸とし、(1)式の空間周波数1/dに相当する1次回折光の中心位置をY1とする。
このとき、上記(2)式を参考にして、光軸L3を角度ξだけ傾けた場合、(2)式の0次回折光は中心がaだけずれ、1次回折光の中心軸がy1になるので、下記の(8)式で複素振幅分布E
1が与えられる。
【0089】
【数9】
【0090】
同様に0次回折光の光軸L0に対して、1次回折光と対称な光学系における−1次回折光に関しては、下記の(9)式となる。
【0091】
【数10】
【0092】
図6の光学系は、レンズ36の光軸L3を0次回折光と1次回折光との間の境界に実質上シフトして重ねているので、(8)式は、下記の(8)’式となる。
【0093】
【数11】
【0094】
このようにy1=aのときに複素振幅分布E
1は最も大きく、y1=2aのときに0となる。
y1=2aは、0次回折光から見れば、3aに相当した空間周波数までの情報を取得したことになる。したがって、同じNAのレンズを用いた時に比較して1.5倍の空間周波数まで取得できたことになる。その分、光学的な分解能が実質的に向上したことになる。
【0095】
他方、0次回折光の光軸L0に対して、1次回折光と対称な光学系における−1次回折光に関しては、同様にして−1次回折光の光軸L2に垂直方向をy'軸とすると、下記の(9)’式となる。
【0096】
【数12】
【0097】
このようにy1=-aのときに複素振幅分布E
-1は最も大きく、y1=-2aのときに0となる。
y1=-2aは、0次回折光から見れば、-3aに相当した空間周波数までの情報を取得したことになる。したがって、同じNAのレンズを用いた時に比較して1.5倍の空間周波数まで取得できたことになる。その分、光学的な分解能が実質的に向上したことになるのは、1次回折光と同様である。
さて、この様にして得た情報に対して、受光素子40と受光素子41の和の出力とそれと等価な−1次回折光の受光素子間で差出力ΔIを下記の式により得るようにする。
【0098】
【数13】
【0099】
これは、実質的に実施例1と同様な式となっている。ただし、実施例1に比較すると光学系はよりシンプルで、かつロンボイドプリズムのような簡単な素子で構成しており、レンズを一体的に成形するなどすれば、安定的な光学系とすることが可能である。なお、ロンボイドプリズムを、実質上2つのハーフミラーで構成しても同様な効果をもたらすことができる。
【実施例5】
【0109】
本発明に係る光学的分解能向上装置の実施例5を以下に
図9を参照しつつ説明する。
図9は、本実施例の光学的分解能向上装置の構成を示す概略図である。本実施例は
図7と同様な光学系に採用されるものであるが、本実施例においては、この
図9に示すように拡大光学系53をなくす替りに、回折格子であるグレーティング54をレンズ52の焦点に配置した構造としている。なお、図示しないものの、本実施例においては、軸L0に対して対称な位置に同様な光学系が配置されている。
【0110】
この結果、試料Sにより回折された0次回折光と1次回折光がグレーティング54により、さらに回折され、0次回折光と1次回折光が実質上干渉するようになる。
図9において、斜線を施した部分が、0次回折光と1次回折光が重なる干渉部Kであるが、光軸L3に対して、逆側にも同様な干渉部Kが存在する。
【0111】
ここで、グレーティング54が正弦波状で構成されていれば、グレーティング54による回折波は、0次回折光、±1次回折光で位相差がない。この場合、光軸L3に対して対称な部分の位相差は同じなので、重なった部分は同相となる。従って、本実施例では、受光素子50はグレーティング54から出力された少なくとも2つの領域の上記干渉部Kを含む部分の光量を取得すればよい。
【0112】
ただし、光軸L0に対して干渉部Kが対称で同相であるが、試料Sで回折された−1次回折光では、この干渉部Kの位相が180度反転する。これに対して、干渉部K以外の強度は、試料Sで回折された±1次回折光の方向で同一となるため、±1次回折光の強度の差動出力を取ると、干渉部Kのみの情報が残ることになる。
【0113】
この一方、グレーティング54が位相差を生じる実質上の正弦波状で構成されていると、グレーティング54による0次回折光と±1次回折光で位相差が180°生じる。この場合、上記したように受光素子50をグレーティング54から出力された少なくとも1つの領域の干渉部Kを含む光量を取得すればよい。ただし、上記と異なる点は、グレーティング54の有する位相差が反映することになるので、グレーティング54のビームに対する位置も反映する。従って、グレーティング54のビームに対する位置調整が必要になる。
【0114】
なお、位置調整は非常に簡単で、あらかじめ用意した、ある空間周波数を有する位相格子の試料Sに対して、走査による観察される両側の受光素子50の強度変調が最大になるように調整し、かつ、両側で位相差が180°になる様にすればよい。±1次回折光の強度の差動出力が、干渉部Kのみの情報が残ることは上記と同様である。