【実施例】
【0046】
実施例1
医薬品グレードの有機第二鉄化合物を合成するための一般的方法
有機第二鉄化合物を合成するための一般的方法は、PCT/US2006/032585、および米国仮出願第60/763,253号(該文献は参照により本出願に組み入れられる)に開示されている。代表的な有機第二鉄化合物には、非限定的に、クエン酸第二鉄が含まれる。
【0047】
図1を参照すると、そのフローチャート10は、本発明で使用できる形態の有機第二鉄化合物またはクエン酸第二鉄化合物を合成するための一般的プロセスである。ボックス20に記載の出発材料は可溶性第二鉄塩を含む。可溶性第二鉄塩は、ボックス21に記載の塩化第二鉄六水和物(FeCl
36H
2O)、または任意の他の好適な可溶性第二鉄塩を含みうる。次いで、水酸化アルカリ金属(ボックス30)を特定の速度および温度で可溶性第二鉄塩に加える。特定の速度、好ましくは約10 ml/分〜約20 ml/分の範囲で、かつ特定の温度範囲、好ましくは40℃未満で水酸化アルカリ金属を加えると、均一なポリ鉄オキソコロイド懸濁液が形成される。水酸化アルカリ金属は、ボックス31に記載の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または任意の他の好適な水酸化アルカリ金属を含みうる。
【0048】
コロイド懸濁液沈殿を回収し、蒸留水ですすいで(ボックス40)、すべての可溶性不純物を除去する。すすいだ後、沈殿を再懸濁し、ボックス50に記載のように、結晶性有機酸を沈殿に加え、特定の温度範囲、好ましくは約80℃〜約90℃の範囲に加熱する。該有機酸は任意の好適な有機酸を含みうる。ボックス51は、使用できるいくつかの有機酸候補を列挙しており、その有機酸候補には、非限定的に、クエン酸、酢酸、イソクエン酸、コハク酸、フマル酸、および酒石酸が含まれる。有機酸を加えると、該酸が溶液中の沈殿と複合体を形成することが可能になる。ボックス60では、有機溶媒を用いて有機第二鉄化合物を溶液から沈殿させ、新規形態の有機第二鉄化合物を形成させる(ボックス70)。種々の有機溶媒を使用することができ、その有機溶媒には、非限定的に、ボックス61に記載の溶媒、例えばエタノール、メタノール、ブタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、または任意の他の好適な有機溶媒が含まれる。
【0049】
クエン酸第二鉄の合成
本発明の一実施形態では、有機第二鉄化合物はクエン酸第二鉄である。クエン酸第二鉄を生成するための出発材料は、塩化第二鉄六水和物(FeCl
36H
2O)の1.85M溶液を含む。比1:3の第二鉄 対 水酸化物イオンを達成するために必要な5M水酸化ナトリウムの容量を、20 ml/分未満、好ましくは約10 ml/分〜約20 ml/分の範囲の速度で塩化第二鉄六水和物溶液に加える。該混合物の温度を40℃未満、好ましくは約10℃〜約40℃の範囲で維持しつつ、水酸化ナトリウムを加えて、水酸化第二鉄の酸化ポリ鉄コロイド懸濁液を形成させる。該懸濁液のpHを測定しながら、水酸化ナトリウムを加える。pHが7.0を超えたら、懸濁液を30℃未満、好ましくは約10℃〜約30℃の範囲になるまで冷却する。そして1 mm孔フィルターを通して該懸濁液をろ過して凝集物を分散させ、大きい粒子の水酸化第二鉄沈殿を除去する。そしてろ過した水酸化第二鉄懸濁液を遠心分離する。上清を廃棄し、沈殿させた水酸化第二鉄を再び遠心分離して、すべての残りの上清を除去する。そして水酸化第二鉄沈殿を蒸留水で再懸濁する。遠心分離-再懸濁ステップをさらに2回反復して、水酸化第二鉄沈殿を洗浄し、水溶性不純物を除去する。そして得られた水酸化第二鉄沈殿をホモジナイズする。
【0050】
比1:1の第二鉄 対 クエン酸を達成するために必要なクエン酸の量を沈殿に加える。混合物の色がオレンジ〜褐色から澄んだ黒色〜褐色に変化するまで、またはすべての水酸化第二鉄沈殿が溶解するまで、油浴中で混合物を約80℃〜約90℃の範囲に加熱する。反応物を30℃未満、好ましくは約10℃〜約30℃の範囲になるまで冷却し、pHを測定して、0.8〜1.5の範囲内であることを決定する。反応物を遠心分離し、上清を回収する。5倍容量の有機溶媒を加えることによって、上清からクエン酸第二鉄を沈殿させる。
【0051】
種々の有機溶媒を使用することができ、その有機溶媒には、エタノール、メタノール、ブタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、またはテトラヒドロフランが含まれる。溶媒を加えたら、淡いベージュ色沈殿が形成されるまで混合物を攪拌する。懸濁液を遠心分離し、上清を廃棄する。沈殿を、さらに2回、溶媒で洗浄し遠心分離する。そして沈殿を、周囲温度で8〜16時間真空オーブンで乾燥するか、または任意の他の好適な工業プロセス、例えば流動床乾燥によって乾燥する。乾燥させた沈殿を乳鉢および乳棒で砕き、周囲温度でさらに8〜24時間乾燥する。微細な沈殿を再び粉砕することによって細かく砕き、45メッシュサイズ(35ミクロン)のふるいに通してふるい分けする。その新規形態のクエン酸第二鉄粉末を、真空オーブンで再び、または流動床乾燥で再び乾燥し、1時間の乾燥によって0.25%未満の重量減少に至るまで周囲温度で乾燥する。
【0052】
実施例2
末期腎疾患(ESRD)患者における血清リン酸に対するクエン酸第二鉄の効果についての無作為化、二重盲検、プラセボ対照化、用量範囲決定(Dose-Ranging)研究
目的: (1) 末期腎疾患(ESRD)患者における血清リン酸(PO
4)レベルに対する、28日間にわたり、TID (3回/日)で投与される、2、4および6 g/日の用量のクエン酸第二鉄の効果を決定すること。(2) ESRD患者において、28日間の、TID投与される、2、4、6 g/日の用量のクエン酸第二鉄の安全性を評価すること。
【0053】
研究薬物: 米国第11/206,981号およびWO 2004/07444に開示されているクエン酸第二鉄。
【0054】
研究デザイン: 血液透析を受けているESRD患者の血清リン酸濃度に対するクエン酸第二鉄の効果を評価するための、無作為化、二重盲検、プラセボ対照化、用量範囲決定研究。血清リン酸濃度によって測定される有効性に関して、研究14および28日目に患者を評価する。さらに、1以上の用量の研究薬物を投与された患者を安全性に関して評価する。
【0055】
研究期間: 8週間(スクリーニング期間、2週間の洗い出し、4週間の処置を含む)。
【0056】
結果は、0、2、4および6 gm/日(食事直後、すなわち10分以内にTIDで投与される)で、血清PO
4およびCa×PO
4の減少を示す。クエン酸第二鉄を経口投与し、3回/日で均等に与える。
【0057】
クエン酸第二鉄の、ESRD患者の血清リン酸レベルを低下させる能力が実証された。プラセボ、2、4、および6 gm/日に関して、28日間、血清カルシウムレベルの有意な変化は観察されなかった。しかし、Ca×PO
4レベルは減少し、14および28日目の両時点で6 gm/日の用量に関して統計学的に有意であった。さらにこの結果は、クエン酸第二鉄での処置後に石灰化が回復するか、または安定化されうることも示す。以下の表に本研究のデータをまとめる。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0058】
図2および3に示されるように、医薬品グレードのクエン酸第二鉄を使用する処置は、ケミカルグレードのクエン酸第二鉄より優れたいくつかの利点を提供する。一般に、医薬品グレードのクエン酸第二鉄はケミカルグレードのクエン酸第二鉄と概ね等しい効力を示すが、医薬品グレードのクエン酸第二鉄はこの結果をケミカルグレードのクエン酸第二鉄より少ない有害副作用しか伴わずに達成する。
【0059】
図2はまた、医薬品グレードのクエン酸第二鉄の投与に伴う有害副作用が、プラセボに伴う有害副作用と統計学的に相違しなかったことを示す。この安全性プロファイルの利点は、個々の患者が、副作用について少ない懸念で、広範囲の用量にわたって滴定された医薬品グレードのクエン酸第二鉄の投薬を受けることができることである。このように、患者の個別の処置を、具体的なニーズおよび耐容性に合わせてオーダーメード化することができる。
【0060】
血清クレアチニンレベルの減少
糸球体ろ過量(GFR)レベルは構造的な腎臓損傷と相関し、したがって腎機能を測定するための黄金標準として使用される。GFRは、バイオマーカーである血清クレアチニンによって推定することができる。腎機能が悪化すると、腎臓は、クレアチニンを効率的に排泄するその機能を失い、その結果、体内にクレアチニンが保持される。したがって、血清クレアチニンの増加はGFRの低下を示し、それは腎臓悪化の重要な徴候である。
【0061】
第二相臨床研究: 「末期腎疾患(ESRD)患者の血清リン酸に対するクエン酸第二鉄の効果についての無作為化、二重盲検、プラセボ対照化、用量範囲決定研究」の非盲検拡張研究では、一部の患者に2〜6g/日のクエン酸第二鉄を投与し、血清クレアチニンレベルをモニターして、腎機能を評価した。6g/日のクエン酸第二鉄を投与された複数の患者が血清クレアチニンレベルの減少傾向を有するようであり、このことは、クエン酸第二鉄が慢性腎疾患の進行を改善し、遅延させ、阻止するか、または予防することを意味する。2人の患者から得られた結果を
図4〜5に示す。
【0062】
実施例3
角膜石灰化の測定方法
デジタルカメラ(NIKON E995)に連結された細隙灯顕微鏡を使用して眼の検査を行った。角膜の石灰化は角膜縁の鼻側および側頭側の近くで生じ、高カルシウム血症の帯状角膜症のように見える。観察者は、内側(鼻の近く)、外側(側頭の近く)を撮影するか、または石灰化が認められる角膜の全体像を撮った(
図6)。したがって、各眼について撮影された1〜2枚の写真が存在し、その結果、1検査当たり患者1人につき2〜4枚の写真が収集された。
【0063】
「Image J」と称される画像解析ソフトウェアをデータ解析に使用した。この画像解析ソフトウェアは、8ビット、16ビットおよび32ビット画像を表示し、編集し、解析し、加工し、保存し、印刷するよう開発されている。このソフトウェアは、ユーザー定義の選択部分の面積およびピクセル値統計データを計算し、距離および角度を測定し、濃度ヒストグラムおよび線形プロファイルプロットを作成することができる。これは標準画像処理機能、例えばコントラスト操作、シャープニング、スムーシング、エッジ検出および中央値フィルタリングをサポートする。このソフトウェアは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)(NIH)の1機関であるNational Institute of Mental HealthのResearch Services Branchで開発されている。このソフトウェアはNIHのウェブサイトからダウンロードすることができる。
【0064】
この画像解析ソフトウェアは、ユーザーによって主観的に定義される石灰化面積および総角膜面積を測定することができる。石灰化面積を見積もるために、観察者はまず、患者の眼の写真を画像ソフトウェアに読み込み、特定の石灰化領域を切り取り、そのソフトウェアによって、定義セクションをしかるべく測定する(該領域中に含まれるピクセル数として定義される)。写真は、角膜の一方の側に焦点を合わせて撮影されたために、通常、角膜の完全な画像をキャプチャーしていなかったことが留意されるべきであろう。角膜全体のサイズを見積もるために、観察者は、画像ソフトウェアを使用して、主観的に、写真上の利用可能な角膜領域上の90度の扇形領域を切り取り、そしてそのソフトウェアに、角膜全体の1/4に当たるこの扇形領域のサイズを計算させる。そして観察者は、該数値を4倍することによって、総角膜面積の推定値を得た。角膜石灰化の写真の例を
図7に示す。
【0065】
石灰化が占める角膜表面のパーセンテージ、すなわち内側石灰化% + 外側石灰化%に基づいて、角膜石灰化の重症度を算出した。その際、内側または外側石灰化を、(内側または外側角膜の石灰化面積/総角膜面積)×100として算出する。
図8を参照のこと。
【0066】
いくつかの要因が角膜の石灰化測定に影響しうる。 (1) 処置後の検査までの遅延期間が異なる結果、試験者によって定義される被験体間の変動が生じうる。
【0067】
(2) 写真撮影要因、例えば環境の明るさ、焦点距離、露出時間、輝度、光感度(ISO値)、分解能、画像コントラスト等を制御しなかった。これらの要因は、写真間の質に影響し、ゆえに、異なる写真間の石灰化領域の正確な定義に対する医師の判断に影響しうる。
【0068】
(3) 角膜領域の画像を標準化しなかった。ほとんどの写真は角膜の部分画像のみを含んでいた。角膜領域のサイズを見積もるために、観察者は、主観的に、90度の扇形領域を定義し、その値を4倍することによって角膜全体のサイズを外挿した。
【0069】
(4) いくつかの写真において異なるカメラを使用した。ベースライン角膜測定に使用されたカメラが偶然故障し、2回目の角膜測定の一部を行うために別のカメラを使用した。
【0070】
(5) 角膜の球状構造上の3次元の石灰化を見積もるために2次元の面積を使用する現行の方法は、完全に正確なわけではない。
【0071】
すべての上記要因が角膜石灰化測定の誤差に寄与する。しかし、全画像が単一の評価者によって測定され、各患者が自分自身の対照として機能し、かつ各患者内の相対的変化を検査したという事実によって、その誤差は最小化されている。
【0072】
実施例4
クエン酸第二鉄は角膜石灰化を回復させる
上記第二相研究から得られた結果では、クエン酸第二鉄が用量依存的様式で血清CaxPを減少させることができ、最小限の副作用しか伴わないことが示される。眼球の石灰化は最も頻繁に観察される軟組織石灰化の1つであるため、第二相研究の終了後に、眼球の角膜石灰化に対するクエン酸第二鉄の効果および軟組織石灰化に対するその意義をさらに調査するために、クエン酸第二鉄での処置を、非盲検延長(OLE)として延長した。
【0073】
この研究では、クエン酸第二鉄処置の前および後に、患者を眼の検査のために眼科に診せた。すべての患者は、第二相試験の最初の投薬日の2、3日前または当日に1回目の眼の検査を受けた(角膜石灰化のベースライン値)。2回目の眼の検査の時期は様々であった。一部の患者は第二相研究の直後に検査を受け、別の患者はOLE期間中に検査を受けた。しかし、2回目の眼の検査を行った時期とは無関係に、角膜石灰化の変化に対するクエン酸第二鉄の効果を決定するための有効値としてみなすために、定義した連続日のクエン酸第二鉄投与後に結果を得る必要がある。
【0074】
クエン酸第二鉄の第二相臨床試験のすべての患者は、その後、種々の時間長にわたる薬を使わない期間を持ち、また一部の患者は非盲検延長処置期間に参加した。参加した各患者は、眼科医が実施する2回の眼の検査を受けた。1回目および2回目の眼の検査の日付および対応する薬物投与期間に応じて、参加したすべての患者から使用可能な情報が得られるわけではない。認められる患者は、少なくとも21日間の連続投薬を受けた患者であった。1回目および2回目の眼の検査の間の期間は少なくとも投薬期間と同じ長さであった。2回の眼の検査の間の実際の間隔はこの評価の目的では関連がなかった。その理由は、1回目および2回目の眼の検査の間の時間がより長いほど、角膜石灰化が発症する可能性が高く、その逆はないからである。したがって、角膜石灰化の変化の程度に対するクエン酸第二鉄の効果の見積りに関する以下の結果は、1回目および2回目の検査の間の間隔が薬物処置期間より長い場合には、実に保存的である。
【0075】
合計で12人の患者から評価にふさわしいデータが得られた。得られたデータを表6に列挙した。各患者の左眼および右眼を検査し、したがって24個の角膜石灰化の値が得られた。これらの12人の患者のうち、1人はプラセボを投与され、ネガティブコントロールとして機能した。他の11人の患者は種々の期間の連続有効処置(28〜57日間の範囲)を受け、22個の左眼および右眼の角膜石灰化の値が得られた。有効処置を受けた11人の患者のうち、2人の患者は用量レベル2g/日のクエン酸第二鉄を投与され、2人の患者は用量レベル4g/日のクエン酸第二鉄を投与され、7人の患者は6g/日の用量レベルのクエン酸第二鉄を投与された。この評価には、限られた数の患者しか参加していないために、本格的な統計データは必要でなく、本明細書中では概要の統計データを使用する。
【0076】
プラセボを投与された患者は、1回目および2回目の眼の検査の間の77日間の期間中に平均で+6.55%(+1.28%の右眼悪化および+11.81%の左眼悪化)悪化した角膜石灰化を示すことが見出された。
【0077】
有効処置を受けた11人の患者のうちでは、処置期間は平均33日間であり、28〜57日間の範囲におよんだ。1回目および2回目の検査の間の期間は平均で126日間であり、50〜217日間の範囲におよんだ。これらの11人の患者の中で、悪化した結果を示した眼の角膜石灰化の値は10個のみであった(平均+2.20%、範囲+0.08%〜+6.98%)。対照的に、1個の眼の角膜石灰化の値は不変のままであり、一方、11個の眼の角膜石灰化の値は改善を示した(平均-2.07%、-0.08%〜- 10.21%の範囲)。角膜石灰化の悪化または改善例を
図9〜10に示す。
【0078】
上記データは極めて有望であった。クエン酸第二鉄は角膜石灰化病状を遅延させるか、または改善すると考えられる。その結果はまた、クエン酸第二鉄処置が軟組織石灰化の種々の病状を改善しうることを意味する。追加の臨床研究を実施して、すべての軟組織石灰化病状の治療に対するクエン酸第二鉄の効力を確認することができる。
【表6】