(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6239172
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】摩擦撹拌接合装置、摩擦撹拌接合装置用C型フレーム、摩擦撹拌接合方法
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
B23K20/12 346
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-64553(P2017-64553)
(22)【出願日】2017年3月29日
【審査請求日】2017年3月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000233044
【氏名又は名称】株式会社日立パワーソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小田倉 富夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章弘
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−203326(JP,A)
【文献】
米国特許第08033443(US,B1)
【文献】
特許第5602248(JP,B2)
【文献】
特開2010−214401(JP,A)
【文献】
特開2002−239756(JP,A)
【文献】
特開2014−128824(JP,A)
【文献】
特開2009−142845(JP,A)
【文献】
特開2001−096377(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01864747(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合装置であって、
複数の関節を有し、三次元空間を自在に移動可能な多軸ロボットアームと、
前記多軸ロボットアームの先端に接続される保持部と、
前記保持部の一端に接続され、上下動機構を介して接合ツールを保持する接合ツール保持部と、
前記保持部の他端に接続され、前記接合ツールからの押圧力を受け止める押圧力受け部と、
前記押圧力受け部の前記接合ツールと対向する位置に設けられる凹部に配置される球状回転体と、
所定の幅で形成されて、前記凹部の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、前記球状回転体の直径よりも内側で、且つ前記球状回転体と接触せずに前記球状回転体の頂点よりも下側に設けられる球状回転体押えと、
を備えることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記接合ツールの中心点の延長線上に前記球状回転体の頂点が位置することを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体は、前記押圧力受け部に設けられる凹部、前記押圧力受け部に接続された台座に設けられる凹部、前記押圧力受け部に接続されたフック状台座に設けられる凹部のいずれかに配置されることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体押えは、前記球状回転体を挟んで対向配置され、少なくとも一対以上備えることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体押えは、前記球状回転体の周囲を囲むように環状に形成されていることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体押えは、接続される端部よりも開放される端部が前記球状回転体の方向に直線状に所定の角度をもって傾斜し、
前記開放される端部は、前記球状回転体の表面と所定の間隙を有することを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体押えは、前記球状回転体に対して所定の曲率を有して前記球状回転体方向に湾曲して形成されており、
前記開放される端部は、前記球状回転体の表面と所定の間隙を有することを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体押えは、前記接続される端部と前記開放される端部との間で屈曲し、当該屈曲部から前記開放された端部までの間は、前記球状回転体方向に所定の角度をもって傾斜し、
前記開放される端部は、前記球状回転体の表面と所定の間隙を有することを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項9】
請求項3に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体押えは、固定部材により、前記押圧力受け部、前記台座、前記フック状台座のいずれかに着脱可能に設けられることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記球状回転体を回転させる回転機構を備えることを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記凹部内壁面に軸受材が設けられることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項12】
請求項11に記載の摩擦撹拌接合装置であって、
前記軸受材は、滑り軸受または転がり軸受であることを特徴とする摩擦撹拌接合装置。
【請求項13】
被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合装置用C型フレームであって、
多軸ロボットアームの先端に接続される保持部と、
前記保持部の一端に接続され、上下動機構を介して接合ツールを保持する接合ツール保持部と、
前記保持部の他端に接続され、前記接合ツールからの押圧力を受け止める押圧力受け部と、
前記押圧力受け部の前記接合ツールと対向する位置に設けられる凹部に配置される球状回転体と、
所定の幅で形成されて、前記凹部の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、前記球状回転体の直径よりも内側で、且つ前記球状回転体と接触せずに前記球状回転体の頂点よりも下側に設けられる球状回転体押えと、
を備えることを特徴とする摩擦撹拌接合装置用C型フレーム。
【請求項14】
請求項13に記載の摩擦撹拌接合装置用C型フレームであって、
前記接合ツールの中心点の延長線上に前記球状回転体の頂点が位置することを特徴とする摩擦撹拌接合装置用C型フレーム。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか1項に記載の摩擦撹拌接合装置を用いて被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合方法であって、
前記摩擦撹拌接合装置は、前記多軸ロボットアームの動きを制御する制御部を備え、
前記制御部の指令により前記被接合部材の形状に追従して前記接合ツールを移動するステップと、
前記制御部の指令により前記被接合部材の接合部に前記接合ツールを挿入するステップと、
前記制御部の指令により前記接合ツールの動作を制御しながら前記被接合部材同士を摩擦撹拌接合するステップと、
を有することを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合装置と摩擦撹拌接合方法に係り、特に、自動車のボディなど立体的に配置された被接合部材の接合に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状の接合ツールを回転させて発生する摩擦熱で被接合材料を軟化させ、その部分を撹拌することで被接合材料同士を接合する摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、材料以外の素材を用いないため、疲労強度が高く、材料も溶融しないことから溶接変形(ひずみ)の少ない接合が可能であり、航空機や自動車のボディなど、幅広い分野での応用が期待されている。
【0003】
FSW装置は、従来、固定設置型のものが活用されており、平面上の強固な載置台に被接合部材を載置し、動かないように被接合部材を保持した上で、直進駆動のみ可能な接合ツールを進行させることで撹拌接合するものである。
【0004】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には「より高精度の攪拌接合を行うために、多軸ロボットのアーム先端に接合ツールを配し(ロボットFSW)、接合ツールを平面配置された被接合部材を自在に動ける構造として、接合ツールを進行させて攪拌接合する際に接合線との乖離が所定の大きさに到達したときに補正する技術」が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には「加工対象部材を載置すべく床に固設された載置台と、載置台に固設されて加工対象部材を装脱自在に固定する保持機構と、載置台の上方で載置台に対向して配置自在な接合ツールと、載置台の下方で載置台の下面に当接するように配置自在な補助支持機構と、接合ツール及び補助支持機構を装着治具で保持して床に固設されたロボットと、を備える摩擦攪拌接合装置」が開示されている。(特許文献2の段落[0022]参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5945348号公報
【特許文献2】特開2014−128825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、例えば自動車用部品においては、三次元空間に載置台を設けずに、曲面を含む被接合部材を、直線的または曲線的に攪拌接合する技術が求められている。この際の課題は次の2つが存在する。
【0008】
(1)強固に固定した載置台を設けることができないために、接合ツールを被接合部材に挿入するときの押圧力を受止める押圧力受け台が必要となる。
【0009】
(2)接合ツールを、被接合部材に挿入して攪拌接合しながら自在に駆動するための機構が必要となる。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1および特許文献2に記載されている2つのタイプのFSW装置は、いずれも平面状の強固な載置台に被接合部材を載置することを前提とするものであり、例えば自動車用部材を攪拌接合する際のニーズである、三次元空間上で強固な載置台を用いない立体的な攪拌接合に対応することはできない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、自動車のボディのように立体的に配置され、曲面を含む複雑な形状の被接合部材の摩擦撹拌接合を可能にする摩擦撹拌接合装置とそれに用いられるC型フレームを提供することにある。
【0012】
また、本発明の別の目的は、自動車のボディのように立体的に配置され、曲面を含む複雑な形状の被接合部材であっても、被接合部材同士の確実な摩擦撹拌接合が可能な摩擦撹拌接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合装置であって、複数の関節を有し、三次元空間を自在に移動可能な多軸ロボットアームと、前記多軸ロボットアームの先端に接続される保持部と、前記保持部の一端に接続され、上下動機構を介して接合ツールを保持する接合ツール保持部と、前記保持部の他端に接続され、前記接合ツールからの押圧力を受け止める押圧力受け部と、前記押圧力受け部の前記接合ツールと対向する位置に設けられる
凹部に配置される球状回転体と
、所定の幅で形成されて、前記凹部の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、前記球状回転体の直径よりも内側で、且つ前記球状回転体と接触せずに前記球状回転体の頂点よりも下側に設けられる球状回転体押えと、を備えることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合装置用C型フレームであって、多軸ロボットアームの先端に接続される保持部と、前記保持部の一端に接続され、上下動機構を介して接合ツールを保持する接合ツール保持部と、前記保持部の他端に接続され、前記接合ツールからの押圧力を受け止める押圧力受け部と、前記押圧力受け部の前記接合ツールと対向する位置に設けられる
凹部に配置される球状回転体と
、所定の幅で形成されて、前記凹部の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、前記球状回転体の直径よりも内側で、且つ前記球状回転体と接触せずに前記球状回転体の頂点よりも下側に設けられる球状回転体押えと、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、
上記のいずれかの摩擦撹拌接合装置を用いて被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合方法であって、
前記摩擦撹拌接合装置は、前記多軸ロボットアームの動きを制御する制御部を備え、前記制御部の指令により
前記被接合部材の形状に追従して
前記接合ツールを移動するステップと、前記制御部の指令により前記被接合部材の接合部に前記接合ツールを挿入するステップと、前記制御部の指令により前記接合ツールの動作を制御しながら前記被接合部材同士を摩擦撹拌接合するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自動車のボディのように立体的に配置され、曲面を含む複雑な形状の被接合部材の摩擦撹拌接合を可能にする摩擦撹拌接合装置とそれに用いられるC型フレームを実現することができる。
【0017】
また、本発明によれば、自動車のボディのように立体的に配置され、曲面を含む複雑な形状の被接合部材であっても、被接合部材同士の確実な摩擦撹拌接合が可能な摩擦撹拌接合方法を実現することができる。
【0018】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の全体概要を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大断面図である。
【
図7A】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大断面図である。
【
図7B】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部の拡大図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置用C型フレームの構成概要を示す図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置用C型フレームの構成概要を示す図である。
【
図11】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置用C型フレームの構成概要を示す図である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合装置による摩擦撹拌接合を概念的に示す図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において、同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【実施例1】
【0021】
図1および
図2を参照して、実施例1の摩擦撹拌接合装置とそれに用いられるC型フレームについて説明する。
図1は本実施例の摩擦撹拌接合装置1の全体概要を示しており、
図2は
図1における押圧力受け部3cの拡大図である。
【0022】
図1に示すように、摩擦撹拌接合装置1は主要な構成として、多軸ロボット2、C型フレーム3、昇降装置であるボールスクリュー4を介してC型フレーム3と接続される接合ツール5、C型フレーム3の押圧力受け部3cに設けられた球状回転体であるトラックボール6、およびトラックボール6を押圧力受け部3cに保持する球状回転体押え7を備えている。
【0023】
多軸ロボット2は、一般的にロボットアームと呼ばれる垂直多関節ロボットであり、多関節構造とサーボモーターによって三次元空間を自在に動作(移動)することができる。関節の数(軸数)によって可動範囲が変化するが、ここでは台座部2a上に下腕部2b、上腕部2c、手首部2dを有する三軸タイプのロボットアームの例を示す。多軸ロボット2の白丸部分が関節である。
【0024】
なお、摩擦撹拌接合装置1はサーボアンプや基板などが収納された制御装置(図示せず)を備えており、この制御装置からの指令(プログラム信号)により多軸ロボット2の動きを総合的にコントロールする。
【0025】
多軸ロボット2の手首部2dの先端には、略C型形状(または略コの字形状)のC型フレーム3が関節を介して回動可能に接続されている。C型フレーム3は、手首部2dの先端に接続されてC型フレーム3自体を多軸ロボット2に保持する保持部(立上部)3a、保持部3aの一方の端部に接続されてボールスクリュー4を介して接合ツール5を保持する接合ツール保持部3b、保持部3aの他方の端部に接続されて接合ツール5からの押圧力を受け止める押圧力受け部3cから構成されている。
【0026】
なお、
図1では保持部3a、接合ツール保持部3b、押圧力受け部3cの境界が分かり易いように補助線(点線)を用いて示しているが、本実施例のC型フレーム3はこれらの部位が一体物として形成される場合も含んでいる。
【0027】
接合ツール5は、ボールスクリュー4を介して接合ツール保持部3bに接続されており、接合ツール保持部3bに対して上下方向(ここでは、
図1のz方向)に動作する。接合ツール5は、接合ヘッド5a、ショルダ5b、接合ピン5cで構成され、接合ピン5cを回転させながら被接合部材に所定の深さまで挿入し、接合線に沿って移動させることで摩擦撹拌接合を行う。
【0028】
球状回転体(トラックボール)6は、押圧力受け部3cの接合ツール5(接合ピン5c)と対向する位置に配置され、球状回転体押え7により押圧力受け部3cに保持されている。押圧力受け部3cには球状回転体6が配置される凹部(図示せず)が設けられている。また、凹部の内壁面には球状回転体6を回転させる回転機構(図示せず)が設けられている。この凹部と回転機構の詳細については後述する。
【0029】
球状回転体押え7は、
図2に示すように、球状回転体6の周囲を囲むように環状に形成されており、押圧力受け部3cの凹部(図示せず)の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、球状回転体6の直径よりも内側で、且つ球状回転体6と接触せずに球状回転体6の頂点(
図1中の黒点)よりも下側に位置するように設けられる。
【0030】
以上説明したように、本実施例の摩擦撹拌接合装置は、C型フレームの押圧力受け部に球状回転体とそれを保持する球状回転体押えを設けることにより、C型フレームに保持された接合ツールが湾曲した三次元曲線に沿って連続的に滑らかに動作することができる。
【0031】
これにより、自動車のボディなど立体的に配置された被接合部材を接合する場合であっても、湾曲した三次元曲線に沿って連続的に滑らかな動きができ、被接合部材同士を確実に摩擦撹拌接合することができる。
【0032】
なお、
図1中の補助線Bで示すように、球状回転体6の頂点(
図1中の黒点)と接合ツールの先端部が略同軸上(略同一直線上)に位置するように球状回転体6を押圧力受け部3cに設けるのが好適である。言い換えると、接合ツール5の中心点の延長線上に球状回転体6の頂点(中心点)が位置するように接合ツール5が保持されるのが望ましい。
【0033】
摩擦撹拌接合する際、被接合部材は接合ツール5(接合ピン5c)と球状回転体6の間に配置されて接合ツール5(接合ピン5c)からの押圧力を受けるが、球状回転体6の頂点(
図1中の黒点)でその反力を受けることができ、被接合部材の不必要な変形を防ぐことができ、なお且つ、接合ツール5(接合ピン5c)を連続的に滑らかに移動させることができる。
【0034】
また、C型フレーム3を構成する保持部3a、接合ツール保持部3b、押圧力受け部3cをそれぞれ分割して着脱可能に構成した場合、被接合部材の大きさや形状に合わせて別の接合ツール保持部3bと押圧力受け部3cに交換することで、C型フレーム3の逃げ量(
図1中の距離A)を被接合部材に応じて最適な逃げ量(距離)に調整することができる。
【実施例2】
【0035】
図3から
図5を参照して、実施例2の摩擦撹拌接合装置とC型フレームについて説明する。
図3は摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部3cの拡大図であり、
図4および
図5はそれぞれ
図3の変形例を示している。
【0036】
実施例1の
図2では球状回転体押え7が球状回転体6の周囲を囲むように環状に形成される例を示したが、
図3の球状回転体押え7は球状回転体6を挟んで対向して配置される一対の球状回転体押え7a,7bで構成されている。
【0037】
球状回転体押え7a,7bの各々は、所定の幅で形成されており、押圧力受け部3cの凹部(図示せず)の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、球状回転体6の直径よりも内側で、且つ球状回転体6と接触せずに球状回転体6の頂点よりも下側に位置するように設けられている。球状回転体押え7a,7bは、押圧力受け部3cの凹部に球状回転体6を確実の保持できるよう所定の角度θを有して押圧力受け部3cに接続される。
【0038】
図2のように球状回転体押え7を球状回転体6の周囲を囲むように環状に形成した場合、球状回転体6と球状回転体押え7の間に異物が侵入することで球状回転体6が滑らかに回転しなくなる恐れがあるが、
図3のように球状回転体押え7a,7bの各々を所定の幅で形成することにより、異物により球状回転体6の回転が阻害される可能性が低くなり、球状回転体6と球状回転体押え7a,7bの間に異物が侵入した場合であっても、容易に異物を取り除くことができる。
【0039】
なお、この所定の幅で形成される球状回転体押え7a,7bの形状は、摩擦撹拌接合装置の用途や被接合部材の種類に応じて、矩形(長方形)や台形に形成する。
【0040】
図4は
図3の変形例であり、球状回転体6を挟んで対向して配置される一対の球状回転体押え7c,7dは、球状回転体6に対して所定の曲率を有して球状回転体6の方向に湾曲して形成されている。
【0041】
この球状回転体押え7c,7dは、押圧力受け部3cの凹部(図示せず)の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、球状回転体6の直径よりも内側で、且つ球状回転体6と接触せずに球状回転体6の頂点よりも下側に位置しており、開放される端部は、球状回転体6の表面と所定の間隙を有している。
【0042】
図4のように、球状回転体押え7c,7dを球状回転体6に対して所定の曲率を有して設けることで、球状回転体6が動いた場合に球状回転体6の表面を点(点接触)ではなく、面(面接触)で押えることができ、球状回転体6をより滑らかに回転させることができる。
【0043】
図5は
図3のさらに別の変形例であり、球状回転体6を挟んで対向して配置される一対の球状回転体押え7e,7fは、球状回転体6に対して所定の角度θを有して球状回転体6の方向に屈曲して形成されている。
【0044】
この球状回転体押え7e,7fは、押圧力受け部3cの凹部(図示せず)の開口部の縁またはその外側で一端が接続され、他端が開放されて、球状回転体6の直径よりも内側で、且つ球状回転体6と接触せずに球状回転体6の頂点よりも下側に位置しており、接続される端部と開放される端部との間で屈曲し、その屈曲部から開放された端部までの間は、球状回転体6の方向に所定の角度θをもって傾斜し、開放される端部は、球状回転体6の表面と所定の間隙を有している。
【0045】
図5のように、球状回転体押え7e,7fを球状回転体6に対して屈曲部を有して設けることで、球状回転体押え7e,7fを押圧力受け部3cに垂直に接続することができるため、
図3のように角度θを設けて球状回転体押え7a,7bを押圧力受け部3cに接続する場合に比べて、容易に形成できるメリットがある。
【実施例3】
【0046】
図6から
図7Bを参照して、実施例3の摩擦撹拌接合装置とC型フレームについて説明する。
図6は摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部3cの拡大断面図であり、
図7Aおよび
図7Bはそれぞれ
図6の変形例を示している。
【0047】
上述したように、押圧力受け部3cには球状回転体6が配置される凹部が設けられるが、
図6に示すように、この凹部の内壁面に軸受材8を設け、摩擦撹拌接合する際に球状回転体6が凹部内で摩擦抵抗が少なく自由に回転できるようにするのが好適である。これにより、摩擦撹拌接合時に接合ツール5(接合ピン5c)を自由に移動することができる。
【0048】
軸受材8の具体例としては、金属表面にカーボンを含浸させたカーボン含浸軸受材やルーロンなどの樹脂材料を用いる滑り軸受が挙げられる。
【0049】
凹部の内壁面に設ける軸受材は、
図6のように凹部の内壁面全体に軸受材8を設けてもよく、
図7Aのように凹部の内壁面に断続的に軸受材(滑り軸受)8aを設けてもよい。また、
図7Bのように凹部の内壁面にボールベアリングを設けて転がり軸受8bとすることで、球状回転体6と凹部内壁面との間の摩擦抵抗がさらに少なくなり、摩擦撹拌接合時に接合ツール5(接合ピン5c)をより滑らかに移動させることができる。
【実施例4】
【0050】
図8を参照して、実施例4の摩擦撹拌接合装置とC型フレームについて説明する。
図8は摩擦撹拌接合装置の押圧力受け部3cの拡大図である。
【0051】
図8に示すように、本実施例では、球状回転体押え7g,7hをそれぞれボルト9a,9bを用いて押圧力受け部3cに接続し、着脱可能に構成している点において、上記の各実施例の球状回転体押えと異なっている。
【0052】
図8のように、球状回転体押え7g,7hを押圧力受け部3cに対して着脱可能に接続することで、摩擦撹拌接合装置の定期メンテナンス時や球状回転体6と球状回転体押え7g,7hとの間隙に異物が侵入した場合に球状回転体押え7g,7hを容易に取り外すことができ、摩擦撹拌接合装置のメンテナンス性を向上することができる。
【実施例5】
【0053】
図9から
図11を参照して、実施例5の摩擦撹拌接合装置とC型フレームについて説明する。
図9は摩擦撹拌接合装置用C型フレームの構成概要を示しており、実施例1の
図1で説明した保持部3a、接合ツール保持部3b、押圧力受け部3cの各部位を着脱可能なユニットとして構成する例である。
図1における保持部3a、接合ツール保持部3b、押圧力受け部3cは、それぞれ
図9の保持部11、接合ツール保持部12、押圧力受け部10に相当し、押圧力受け部10、保持部11、接合ツール保持部12により略C型形状(または略コの字形状)のC型フレームが構成されている。また、
図10および
図11は
図9の変形例である。
【0054】
図9に示すように、多軸ロボット2の手首部2dの先端には、保持部11が関節を介して回動可能に接続されている。保持部11の一方の端部には、接合ツール保持部12が連結部(ジョイント)13a,13bにより連結されている。接合ツール保持部12の反対側には、ボールスクリュー4を介して接合ツール5が上下動可能に接続されている。
【0055】
接合ツール5は、
図1の構成と同様に、ボールスクリュー4により接合ツール保持部12に対して上下方向(ここでは、
図9のz方向)に動作する。接合ツール5は、接合ヘッド5a、ショルダ5b、接合ピン5cで構成され、接合ピン5cを回転させながら被接合部材に所定の深さまで挿入し、接合線に沿って移動させることで摩擦撹拌接合を行う。
【0056】
保持部11の反対側の端部には、押圧力受け部10が連結部(ジョイント)13c,13dにより連結されている。球状回転体(トラックボール)6は、押圧力受け部10の接合ツール5(接合ピン5c)と対向する位置に配置され、球状回転体押え7により押圧力受け部10に保持されている。押圧力受け部10には球状回転体6が配置される凹部(図示せず)が設けられている。また、押圧力受け部10には球状回転体6を回転させる回転機構(図示せず)が設けられている。凹部と回転機構については、上記の各実施例で説明したものと同様であり、詳細な説明を省略する。
【0057】
以上説明したように、本実施例の摩擦撹拌接合装置とC型フレームでは、C型フレームが押圧力受け部10、保持部11、接合ツール保持部12の各ユニットから構成されており、被接合部材の形状や大きさ、配置位置に応じて、押圧力受け部10と接合ツール保持部12を別のユニットに交換することで、逃げ量(
図9中の距離C)を調整し、摩擦撹拌接合が可能になる。
【0058】
なお、本実施例においても、
図9中の補助線Bで示すように、球状回転体6の頂点(
図9中の黒点)と接合ツールの先端部が略同軸上(略同一直線上)に位置するように球状回転体6を押圧力受け部10に設けるのが好適である。言い換えると、接合ツール5の中心点の延長線上に球状回転体6の頂点(中心点)が位置するように接合ツール5が保持されるのが望ましい。
【0059】
他の実施例と同様に、摩擦撹拌接合する際、被接合部材は接合ツール5(接合ピン5c)と球状回転体6の間に配置されて接合ツール5(接合ピン5c)からの押圧力を受けるが、球状回転体6の頂点(
図9中の黒点)でその反力を受けることができ、被接合部材の不必要な変形を防ぐことができ、なお且つ、接合ツール5(接合ピン5c)を連続的に滑らかに移動させることができる。
【0060】
図10は
図9の変形例である。
図10に示すように、押圧力受け部10に所望の高さを有する台座14を追加し、台座14に球状回転体6と球状回転体押え7を設けることで、接合ツール5(接合ピン5c)と球状回転体6の距離(
図10中の距離D)を被接合部材の大きさや厚みに応じて変更することができる。
【0061】
図11は
図9のさらに別の変形例である。
図11に示すように、押圧力受け部10に追加する台座を被接合部材の形状や配置位置に応じてフック状台座15とすることで、被接合部材の形状や配置位置によりC型フレームを挿入する際に障害物があるような場合でも、摩擦撹拌接合が可能になる。
【実施例6】
【0062】
図12および
図13を参照して、実施例6の摩擦撹拌接合方法について説明する。
図12は実施例1の
図1で説明した摩擦撹拌接合装置を用いて自動車のボディのように湾曲した三次元曲線を有する被接合部材同士を摩擦撹拌接合する様子を模式的に示している。
図13は
図12に示す摩擦撹拌接合方法をフローチャートとして示しており、上記の各実施例で説明した摩擦撹拌接合装置およびC型フレームを用いて行う摩擦撹拌接合の代表的な接合フローである。
【0063】
先ず、被接合部材16の形状(或いは、大きさや配置位置)に追従して接合ツール(C型フレーム)を移動させる。(ステップS1)接合ツール(C型フレーム)の位置制御は、実施例1で説明したように、摩擦撹拌接合装置の制御装置(図示せず)からの指令(プログラム信号)により多軸ロボット2の動きを制御することで行う。
【0064】
次に、制御装置からの指令(プログラム信号)により被接合部材16の接合部に接合ツール(C型フレーム)を挿入する。(ステップS2)
続いて、制御装置からの指令(プログラム信号)により多軸ロボット2のアーム動作を制御しながら被接合部材16の摩擦撹拌接合を行い、所望の領域の接合が完了した時点で、処理を終了する。(ステップS3)
以上説明したように、本発明の各実施例によれば、三次元空間上に配置された被接合部材を、C型フレームの押圧力受け部において接合ツールの押圧力を受けながら、球状回転体と多軸ロボットのアームの動きにより自在に接合ツールを駆動することが可能となる。
【0065】
これにより、自動車のボディのように立体的に配置され、曲面を含む複雑な形状の被接合部材の摩擦撹拌接合を精度良く行うことができる。
【0066】
なお、C型フレームの保持部(立上部)の逃げ量は、摩擦撹拌接合を行う際、被接合部材の端部と接合線との距離により定めることとし、予め決定した大きさで固定しても、可変とする構造としてもよい。
【0067】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1…摩擦撹拌接合装置、2…多軸ロボット、2a…台座部、2b…下腕部、2c…上腕部、2d…手首部、3…C型フレーム、3a…保持部(立上部)、3b…接合ツール保持部、3c…押圧力受け部、4…昇降装置(ボールスクリュー)、5…接合ツール、5a…接合ヘッド、5b…ショルダ、5c…接合ピン、6…球状回転体(トラックボール)、7,7a,7b,7c,7d,7e,7f,7g,7h…球状回転体押え、8…軸受材、8a…滑り軸受、8b…転がり軸受、9a,9b…ボルト、10…押圧力受け部、11…保持部、12…接合ツール保持部、13a,13b,13c,13d…連結部(ジョイント)、14…台座、15…フック状台座、16…被接合部材。
【要約】
【課題】
自動車のボディのように立体的に配置され、曲面を含む複雑な形状の被接合部材の摩擦撹拌接合を可能にする摩擦撹拌接合装置とそれに用いられるC型フレーム、および摩擦撹拌接合方法を提供する。
【解決手段】
被接合部材同士を摩擦撹拌接合により接合する摩擦撹拌接合装置であって、複数の関節を有し、三次元空間を自在に移動可能な多軸ロボットアームと、前記多軸ロボットアームの先端に接続される保持部と、前記保持部の一端に接続され、上下動機構を介して接合ツールを保持する接合ツール保持部と、前記保持部の他端に接続され、前記接合ツールからの押圧力を受け止める押圧力受け部と、前記押圧力受け部の前記接合ツールと対向する位置に設けられる球状回転体と、前記球状回転体を回転させる回転機構と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1