特許第6239178号(P6239178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新田ゼラチン株式会社の特許一覧

特許6239178非加熱賦形用ゼラチンおよびそれを含むゼラチンソース
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6239178
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】非加熱賦形用ゼラチンおよびそれを含むゼラチンソース
(51)【国際特許分類】
   C09H 9/04 20060101AFI20171120BHJP
   A23J 3/06 20060101ALI20171120BHJP
   A23L 21/10 20160101ALI20171120BHJP
【FI】
   C09H9/04
   A23J3/06
   A23L21/10
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-101714(P2017-101714)
(22)【出願日】2017年5月23日
【審査請求日】2017年5月23日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190943
【氏名又は名称】新田ゼラチン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 衣織
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 洋一
(72)【発明者】
【氏名】間宮 寛之
【審査官】 松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−142834(JP,A)
【文献】 特開平05−186742(JP,A)
【文献】 特開2009−024036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23J
C08L
C09H
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化を利用することなく液状食品を賦形するのに用いる非加熱賦形用ゼラチン(ただし、化学的処理または物理的処理によりペプチド鎖が分解されたゼラチン分解物が含まれるものを除く)であって、
前記非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなり、
前記ゼラチン粒子は、架橋されていない、非加熱賦形用ゼラチン。
【請求項2】
前記非加熱賦形用ゼラチンは、前記ゼラチン粒子を造粒した顆粒ゼラチンを含む、請求項1に記載の非加熱賦形用ゼラチン。
【請求項3】
請求項1または2に記載の非加熱賦形用ゼラチンと、前記液状食品とを含むゼラチンソースであって、
前記ゼラチンソースは、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度測定において18cm/30秒以下の粘度を有する、ゼラチンソース。
【請求項4】
前記ゼラチン粒子は、前記液状食品の水分を吸収することにより前記液状食品中で膨潤している、請求項3に記載のゼラチンソース。
【請求項5】
前記ゼラチンソースは、前記ゼラチン粒子の濃度が0.3質量%以上10質量%未満である、請求項3または4に記載のゼラチンソース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非加熱賦形用ゼラチンおよびそれを含むゼラチンソースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、フライ食品にかけるソース、ハンバーグのデミグラスソース、魚または肉の照り焼きソースなどのソースを、賦形することによって予め食品に上掛けした状態で消費者に提供することが行われている。たとえば、特開2013−138661号公報(特許文献1)では、加工澱粉などを含む粘度調整剤を含有させることにより賦形したディップソースが開示されている。
【0003】
特開2015−181360号公報(特許文献2)、特開平08−107775号公報(特許文献3)、特開2005−245386号公報(特許文献4)では、ゼラチンなどをソースに添加した後に加熱溶解し、さらに冷却することによりソースを賦形することが開示されている。特開平08−168349号公報(特許文献5)では、ゼラチン粒子を食品生地に混合させて賦形した食品混合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−138661号公報
【特許文献2】特開2015−181360号公報
【特許文献3】特開平08−107775号公報
【特許文献4】特開2005−245386号公報
【特許文献5】特開平08−168349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、加工澱粉が配合されているためにべたつきがあり、ソースの口当たりおよび食感が悪化する。さらに、ソースを賦形するのに加熱工程および冷却工程が必要となるため、手間および時間が掛かる。特許文献2〜4においても、ソースを賦形するのに加熱工程および冷却工程が必要となるため、手間および時間が掛かる。特許文献5は、たとえばゼラチン粒子を小龍包の具(豚のひき肉)に混合し、これを餡として賦形しようとする技術に係るため、ソースを賦形する技術へ直接転用することが困難である。このため、加熱工程、冷却工程などの温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便にソースを賦形する技術は未だ得られておらず、その開発が切望されている。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便にソースを賦形することができる非加熱賦形用ゼラチンおよびそれを含むゼラチンソースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便にソースを賦形することができる技術を探求した。その中で所定の小ささ(後述するように42メッシュよりも小さい粒径)を有する粒状のゼラチンが、ソース内でソースの水分を吸収して膨潤することにより、温度変化を要することなくソースを賦形することができることを着想した。これにより、本発明に係る非加熱賦形用ゼラチンおよびそれを含むゼラチンソースに到達した。本発明は、以下のとおりの特徴を有する。
【0008】
本発明は、温度変化を利用することなく液状食品を賦形するのに用いる非加熱賦形用ゼラチンであって、上記非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなり、上記ゼラチン粒子は、架橋されていない。
【0009】
上記非加熱賦形用ゼラチンは、上記ゼラチン粒子を造粒した顆粒ゼラチンを含むことが好ましい。
【0010】
さらに本発明は、上記非加熱賦形用ゼラチンと、上記液状食品とを含むゼラチンソースであって、上記ゼラチンソースは、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度測定において18cm/30秒以下の粘度を有する。
【0011】
上記ゼラチン粒子は、上記液状食品の水分を吸収することにより上記液状食品中で膨潤していることが好ましい。
【0012】
上記ゼラチンソースは、上記ゼラチン粒子の濃度が0.3質量%以上10質量%未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便にソースを賦形することができる非加熱賦形用ゼラチンおよびそれを含むゼラチンソースを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態について、さらに詳細に説明する。ここで、本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0015】
<非加熱賦形用ゼラチン>
本発明は、温度変化を利用することなく液状食品を賦形するのに用いる非加熱賦形用ゼラチンである。非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなる。上記ゼラチン粒子は、架橋されていない。
【0016】
非加熱賦形用ゼラチンは、温度変化を利用することなく液状食品を賦形するのに用いられる。非加熱賦形用ゼラチンは、液状食品を賦形するために、従来のようにゼラチンを添加した液状食品を60〜70℃程度になるまで加熱することによりゼラチンを溶解する加熱工程を要せず、かつその後に4℃程度になるまで冷却することにより液状食品を賦形する冷却工程も要しない。すなわち非加熱賦形用ゼラチンは、液状食品に添加混合するだけで液状食品を賦形することができる。これにより、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に液状食品を賦形することができる。
【0017】
本明細書において「液状食品」とは、主にソース、タレ、だし汁などの味の付いた所謂調味液をいうが、この調味液に限定すべきではない。「液状食品」には、非加熱賦形用ゼラチンを適用することが可能なあらゆる液状の食品が含まれる。さらに本明細書において「賦形」とは、文字通り「形を賦(あた)える」ことをいい、形の定まらない液状食品などに対し、一定の形状を付与することを意味する。この一定の形状には、ペースト状、ゼリー状、団子状、半固形状、ジュレ状、ジャム状などの形状が含まれる。
【0018】
(ゼラチン粒子)
非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなる。本明細書において非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなるものであるが、このゼラチン粒子が一粒たりとも42メッシュが非通過となる粒径であってはならないという意味ではない。非加熱賦形用ゼラチンは、たとえば不純物を含むことが許容されるのと同じように、本発明の効果を奏する限りにおいて、42メッシュが非通過となる粒径を有するゼラチン粒子を含むことが許容される。たとえば非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュが非通過となる粒径を有するゼラチン粒子が10質量%以下含まれることが許容される。
【0019】
ここでゼラチン粒子が有する「42メッシュを通過する粒径」とは、JIS Z 8801−1:2006に規定される公称目開きが335μmである試験用ふるい(以下、「標準篩」とも記す)を通過する粒径をいう。したがってゼラチン粒子は、上述の公称目開きが335μmである試験用ふるいを通過する粒径を有する。
【0020】
ゼラチン粒子は、42メッシュを通過しない粒径である場合、上述した効果を得られない傾向にある。すなわちゼラチン粒子は、その粒径が42メッシュを非通過となるほど大きくなると、液状食品内において液状食品の水分を吸収する質量当たりの吸収量が低下するため、液状食品中の水分をゼラチン粒子で保持して賦形することが困難となる傾向がある。さらに、水分の吸収量を補うためにゼラチン粒子の添加量を増やした場合、粒子の形状が液状食品の外観に現れることとなって製品(たとえば、ゼラチンソース)の意匠性などに支障をきたす傾向がある。ただし上述したように、本発明の効果を奏する限りにおいては、42メッシュが非通過となる粒径を有するゼラチン粒子を含むことが許容される。
【0021】
ゼラチン粒子は、60メッシュを通過する粒径を有することが好ましい。これにより、液状食品の水分を吸収する質量当たりの吸収量が増えるため、より少量で本発明の上述した効果を得ることができる。「60メッシュを通過する粒径」とは、上述のJISにおいて公称目開き250μmの試験用ふるいを通過する粒径をいう。
【0022】
非加熱賦形用ゼラチンは、ゼラチン粒子を造粒した顆粒ゼラチンを含むことが好ましい。特に、上述した42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子を造粒した顆粒ゼラチンを含むことが好ましく、60メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子を造粒した顆粒ゼラチンを含むことがより好ましい。
【0023】
ゼラチン粒子から顆粒ゼラチンを造粒して得る方法は、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、粉砕などの従来公知の方法によりゼラチンを微細化することにより、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子を得る工程と、このゼラチン粒子から、従来公知の造粒方法を用いることによって、顆粒ゼラチンを造粒して得る工程とから顆粒ゼラチンを製造することができる。顆粒ゼラチンの粒径は、特に限定されるものではないが、12メッシュを通過する程度の粒径とすることが好ましい。「12メッシュを通過する粒径」は、上述のJISにおいて公称目開き1.4mmの試験用ふるいを通過する粒径である。顆粒ゼラチンの粒径はもちろん、42メッシュを通過する粒径であっても構わない。
【0024】
ゼラチン粒子は、その粒径が小さい程、液状食品の水分を吸収する質量当たりの吸収量が増える。このためゼラチン粒子の粒径の下限値は、特に限定されるべきではない。しかしながら、経済性、製造設備の観点などからゼラチン粒子の粒径の下限値は、100メッシュが非通過となる粒径とすることができる。
【0025】
ゼラチン粒子の膨潤度は6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。膨潤度が6未満では液状食品を賦形することが困難となる傾向がある。ゼラチン粒子の膨潤度の上限値は、特に限定されるべきではない。しかしながら、ゼラチン粒子としてとり得る常識的な膨潤度として、25以下と設定することができる。
【0026】
上記膨潤度は、以下の測定方法を用いることにより求めることができる。すなわち試験前の絶乾質量(g)として6gのゼラチン粒子を水300mlに投入する。次いでこれを室温で1時間静置する。その後、直ちに遠心分離機で遠心分離(13000rpm、15分)するとともに沈降した不溶性物を回収し、その質量を測定する(膨潤後質量(g))。膨潤度は、測定した膨潤後質量の値と、試験前の絶乾質量(g)の値(=6)とを次の式に代入することにより求めることができる。
膨潤度=膨潤後質量(g)/6(試験前の試料の絶乾質量(g))
【0027】
ゼラチン粒子は、牛、豚などの哺乳動物の骨、皮部分、サメ、ティラピアなどの魚類の骨、皮、鱗部分などのコラーゲンを含有する材料から、従来公知の方法で得ることができる。ゼラチン粒子は、アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチンのいずれでも構わない。ゼラチン粒子として42メッシュを通過する粒径を得るための方法は、従来公知の方法を用いることができる。たとえばピンミル、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、カッターミルなどを用いて上記材料から得たゼラチンを微細化することにより、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子を得ることができる。
【0028】
ゼラチン粒子は、架橋されていない。一般に、ゼラチンの分子内および分子間の両方またはいずれか一方を架橋するための処理として、伝導熱、輻射熱などの外部加熱もしくはマイクロ波加熱などの内部加熱によって約50〜200℃でゼラチンを加熱硬化させる物理的処理、またはゼラチンに対し紫外線照射、遠赤外線照射する物理的処理などが知られる。さらに、グルタールアルデヒド、タンニン、ミョウバン、硫酸アルミニウムなどでゼラチンを処理する化学的処理も知られる。本発明におけるゼラチン粒子としては、このような物理的処理および化学的処理がいずれも行われず、架橋されていない所謂非架橋ゼラチンが用いられる。
【0029】
なぜなら、本発明の非加熱賦形用ゼラチンを用いたゼラチンソースは、喫食時に電子レンジなどで加熱されることを想定している。すなわち上記ゼラチンソースは、電子レンジなどで加熱されることによりゼラチン粒子が溶解し、ソースの良好な口当たりおよび食感が維持されることを期待している。この場合において、ゼラチン粒子が架橋された架橋ゼラチンであると、電子レンジなどで加熱してもゼラチン粒子が溶解しない傾向がある。喫食時に溶解していないゼラチン粒子がゼラチンソース中に残存する場合、その口当たりおよび食感が悪化する傾向がある。
【0030】
<ゼラチンソース>
本発明に係るゼラチンソースは、上述した非加熱賦形用ゼラチンと、液状食品とを含む。ゼラチンソースは、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度測定において18cm/30秒以下の粘度を有する。このときゼラチン粒子は、液状食品の水分を吸収することにより液状食品中で膨潤していることが好ましい。これによりゼラチンソースは、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に賦形されるソースとなる。さらにゼラチンソースは、非加熱賦形用ゼラチンが通常のゼラチンと同様に、凍結解凍時の離水を抑える性質を有するため、冷凍保存が可能となる。もちろん、冷蔵保存および常温保存も可能である。
【0031】
(液状食品)
液状食品は、上述したとおり主にソース、タレ、だし汁などの味の付いた調味液を指すが、これらのものに限定されるべきではない。たとえば液状食品としては、ソース、タレ、だし汁の他、ジュース、ピューレ、スープなどを用いることができる。さらにドレッシング、液状調味料、果汁なども用いることができる。
【0032】
液状食品は、より詳しくは、たとえばデミグラスソース、焼肉のタレ、照り焼きソース、野菜ジュース、トマトピューレ、コンソメスープなどを用いることができる。さらにトマトソース、とんかつソース、ウスターソース、すき焼きのタレ、お好み焼きソース、焼きそばソース、クリームソース、ベシャメルソース、パスタソース、カレーソース、ヨーグルトソース、フルーツソース、ピザソース、グレイビーソース、ブラウンソース、オーロラソース、ミートソース、甘酢、ポン酢、醤油、サラダドレッシング、ノンオイルドレッシング、タルタルソース、バルサミコソース、バーベキューソース、ナンプラーソース、和風ソース、めんつゆ、ごまだれ、コンソメソース、味噌汁なども用いることができる。液状食品は、通常水性のものが適用されるが、液状食品中で非加熱賦形用ゼラチンが均一に分散される限り、油性成分を含む液体であってもよい。
【0033】
(ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度測定)
ゼラチンソースは、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度測定において18cm/30秒以下の粘度を有する。ここでボストウィック粘度計(たとえば製品名:「ボストウィック・コンシストメーター」、CSC Scientific社製、測定限界24cm)は、上方が開放された直方体形状の細長い容器(トラフ)を備える。この容器(トラフ)は、ゲートによって区画されることにより、容量の小さな試料投入部(長さ、幅各5cm、高さ3.7cm)と、容量が大きな粘度測定部(長さ24cm、幅5cm、高さ3.7cm)とが形成されている。
【0034】
上述した形状を有するボストウィック粘度計を用いて試料の粘度を測定する場合、その試料は、所定の温度に調整されて1時間静置された後に試料投入部に投入され、ゲートが跳ね上がることにより試料投入部から粘度測定部へ流れ出る。粘度測定部には目盛りが設けられているので、粘度測定部へ流れ出た試料に対し、所定時間内に流れた試料の先端までの距離(ゲートからの距離(単位:cm))を計測することができる。この試料の先端までの距離を、試料の粘度として求める。測定した試料の先端までの距離が大きい程、試料が流動性を有することを意味する。このボストウィック粘度計を用いた試料の粘度の測定は、ASTM F1080−93(2008)の規格に準拠するものである。
【0035】
本発明では、ボストウィック粘度計の試料投入部に20℃のゼラチンソースを満杯量(90g)充填し、ゲートを跳ね上げてから30秒後における粘度測定部へ流れ出たゼラチンソース先端までの距離を測定する。その測定した距離を、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度とする。このとき、本発明のゼラチンソースの粘度は、18cm/30秒以下となる。さらにゼラチンソースが上記粘度を有するとき、ゼラチン粒子は、液状食品の水分を吸収することにより液状食品中で膨潤していることが好ましい。
【0036】
ゼラチンソースの粘度は、18cm/30秒を超える場合、流動性が有り過ぎて液状食品を賦形することができない傾向にある。ゼラチンソースの粘度は、0cm/30秒であってもよく、この場合においても温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に賦形されたソースができる。ボストウィック粘度計を用いた20℃におけるゼラチンソースの好ましい粘度は、0.1〜18cm/30秒である。
【0037】
さらに、ゼラチンソース中でゼラチン粒子が液状食品の水分を吸収することにより液状食品中で膨潤しているかどうかは、たとえばマイクロスコープを用いてゼラチンソースを20〜50倍の倍率で観察することにより、ゼラチン粒子が添加前と比べて膨潤しているかどうかで確認することができる。ゼラチン粒子の膨潤度は、上述したとおりの方法で測定することができる。
【0038】
(ゼラチン粒子の濃度)
ゼラチンソースは、ゼラチン粒子の濃度が0.3質量%以上10質量%未満であることが好ましい。0.3質量%未満である場合、良好な口当たりおよび食感を維持するとともに、短時間かつ簡便に賦形するという効果が充分に得られない傾向がある。10質量%以上となると、ソースの粘度が高くなりすぎて食品へのディッピングが良好に行えないなどの支障をきたす傾向がある。
【0039】
(タンパク質および多糖類)
ゼラチンソースは、タンパク質および多糖類の両方またはいずれか一方を含めることも可能である。これにより、所望の粘度をより容易に調整することができる。
【0040】
ここで本明細書でいう「タンパク質」および「多糖類」には、ゼラチン自体のほか、液状食品に元来含有しているタンパク質および多糖類が除かれる。すなわち本明細書において「タンパク質」および「多糖類」とは、非加熱賦形用ゼラチンと液状食品とを含むゼラチンソースに対し、さらに添加されるタンパク質および多糖類をいうものとする。
【0041】
そのようなタンパク質としては、特に限定されるべきではないが、たとえばカゼインナトリウム、卵白、卵黄、大豆タンパク質などを用いることができる。多糖類としては、特に限定されるべきではないが、たとえば澱粉、グアガム、キサンタンガム、ローカストビンガム、タラガム、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、寒天、アラビアガム、グルコマンナン、アルギン酸およびその塩、カラヤガム、カードラン、セルロース、メチルセルロースなどを用いることができる。さらに本発明の効果に影響を与えない範囲において、デキストリン、ブドウ糖、砂糖、オリゴ糖などをゼラチン粒子の分散剤などとして使用することも可能である。
【0042】
(作用)
以上から、本発明に係る非加熱賦形用ゼラチンは、温度変化を利用することなく液状食品を短時間かつ簡便に賦形することができ、かつゼラチンソースとして用いた場合、喫食時において良好な口当たりおよび食感を維持することができる。さらに、冷蔵保存および常温保存に加え、凍結解凍時の離水を抑えることができ、冷凍保存も可能となる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例において「総合評価A」とは、本発明の効果を十分に得られる非加熱賦形用ゼラチンおよびゼラチンソースを意味し、「総合評価B」とは、本発明の効果を得られる非加熱賦形用ゼラチンおよびゼラチンソースを意味する。「総合評価C」とは、本発明の効果を得るには不十分である非加熱賦形用ゼラチンおよびゼラチンソースを意味する。
【0044】
[実施例1]
実施例1では、液状食品を賦形するのに、ゼラチン粒子の粒径が影響するか否かについて調べた。具体的には、まず液状食品を模擬する液体として市水を準備した。この市水に対し、以下の濃度となるように所定の粒径を有するゼラチン粒子をそれぞれ添加することにより、市水を賦形できるか否かについて調べた。
【0045】
<試料の調製>
(試料11〜試料15)
まず42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第1のゼラチン粒子」とも記す)を準備した。この第1のゼラチン粒子を上記市水に対し、表1に示すゼラチン濃度となる量それぞれ添加し、30秒間撹拌混合することにより試料11〜試料15のゼラチン水溶液を調製した。上記第1のゼラチン粒子は、架橋されていない。試料11〜試料15のゼラチン水溶液は、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなるため、実施例に相当する。
【0046】
(試料1A〜試料1J)
これに対し、2メッシュを通過し、42メッシュが非通過となる粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第2のゼラチン粒子」とも記す)も準備した。この第2のゼラチン粒子を上記市水に対し、表1に示すゼラチン濃度となる量それぞれ添加し、30秒間撹拌混合することにより試料1A〜試料1Eのゼラチン水溶液を調製した。さらに、10メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第3のゼラチン粒子」とも記す)を準備した。この第3のゼラチン粒子を上記市水に対し、表1に示すゼラチン濃度となる量それぞれ添加し、30秒間撹拌混合することにより試料1F〜試料1Jのゼラチン水溶液を調製した。上記第2および第3のゼラチン粒子は、架橋されていない。試料1A〜試料1Jは、42メッシュを通過する粒径よりも大きな粒径のゼラチン粒子からなるため、比較例に相当する。
【0047】
<ボストウィック粘度計を用いた粘度測定>
試料11〜試料15および試料1A〜試料1Jに対し、ボストウィック粘度計を用いて20℃および60℃における粘度(移動距離)を調べた。その結果を、表1に示す。ボストウィック粘度計を用いた粘度測定の方法は、上述したとおりである。60℃における粘度は、試料を60℃に調整すること以外について20℃における粘度と同じ方法により求めることができる。60℃という温度は、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子、2メッシュを通過し、42メッシュを非通過する粒径を有するゼラチン粒子および10メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子がすべて溶解する温度である。表1中、20℃および60℃における「移動距離」の数値が0を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料投入部から試料測定部へ流れ出なかったこと意味する。20℃および60℃における「移動距離」の数値が24を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料測定部の一端から他端まで流れ切ったこと意味する。
【0048】
<ディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価>
市販のコロッケに対し、20℃に調整した試料11〜試料15および試料1A〜試料1Jのそれぞれを、バターナイフを使ってディッピングした。このときバターナイフのへラ部でこれらの試料をすくった際に、へラ部から試料が流れ落ちないかどうか、および上記コロッケに試料をディッピングした際にコロッケから試料が流れ落ちないで、その形を保持しているかどうかの観点からディッピング性を評価した。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好なディッピング性を示したことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、へラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、ディッピングできなかったことを意味する。
【0049】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料をバターナイフで滑らかにスプレッドできるかどうかの観点からスプレッド性を評価した。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好なスプレッド性を示したことを意味する。Yは滑らかではないものの、スプレッド自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎてディッピングができなかったために、スプレッドもできなかったことを意味する。
【0050】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料について、その外観(見栄えの良さ)などの審美性を有しているかどうかの観点から意匠性を評価した。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好な意匠性を示したことを意味する。Yは見栄えは良好ではないものの、上記コロッケ上で一定の形状を保持して審美性自体を有していたことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、ディッピングの時点でへラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、意匠性を判断できなかったことを意味する。
【0051】
<流動性の評価>
上述したディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価の後、上記コロッケを市販の電子レンジを用いて60℃に加熱することにより各試料中のゼラチン粒子を溶解し、試料11〜試料15および試料1A〜試料1Jが流動性を有するかどうか調べた。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好な流動性を示したことを意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
<考察>
表1によれば、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなる試料11〜試料15である場合に、良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性が示された(総合評価B以上)。特に、試料11〜試料14においてより良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性が示された(総合評価A)。一方、試料1A〜試料1Jは、42メッシュを通過する粒径よりも大きな粒径のゼラチン粒子からなるため、ディッピング性、スプレッド性、意匠性の少なくともいずれかにおいて良好な結果を得ることができなかった(総合評価C)。これにより、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に液状食品を賦形するのに用いる非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなる必要があると理解することができる。試料11〜試料15は、流動性が良好だったことから、口当たりおよび食感の良いソースとなるものと期待される。
【0054】
[実施例2]
<試料の調製>
実施例2では、液状食品を賦形するのに適したゼラチンソースの粘度を調べた。具体的には、まず液状食品を模擬する液体として上記市水を準備した。この市水に対し、上記第1のゼラチン粒子(42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製))を、表2に示すゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより、試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cのゼラチン水溶液を調製した。
【0055】
<ボストウィック粘度計を用いた粘度測定>
試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cに対し、ボストウィック粘度計を用いて20℃および60℃における粘度(移動距離)を調べた。ボストウィック粘度計を用いた粘度測定の方法は、上述したとおりである。その結果を、表2に示す。表2中、20℃および60℃における「移動距離」の数値が0を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料投入部から試料測定部へ流れ出なかったこと意味する。20℃および60℃における「移動距離」の数値が24を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料測定部の一端から他端まで流れ切ったこと意味する。
【0056】
<ディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価>
市販のコロッケに対し、20℃に調整した試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cのそれぞれを、バターナイフを使ってディッピングした。このときバターナイフのへラ部でこれらの試料をすくった際に、へラ部から試料が流れ落ちないかどうか、および上記コロッケに試料をディッピングした際にコロッケから試料が流れ落ちないで、その形を保持しているかどうかの観点からディッピング性を評価した。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好なディッピング性を示したことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、へラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、ディッピングできなかったことを意味する。
【0057】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料をバターナイフで滑らかにスプレッドできるかどうかの観点からスプレッド性を評価した。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好なスプレッド性を示したことを意味する。Yは滑らかではないものの、スプレッド自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎてディッピングができなかったために、スプレッドもできなかったことを意味する。
【0058】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料について、その外観(見栄えの良さ)などの審美性を有しているかどうかの観点から意匠性を評価した。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好な意匠性を示したことを意味する。Yは見栄えは良好ではないものの、上記コロッケ上で一定の形状を保持して審美性自体を有していたことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、ディッピングの時点でへラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、意匠性を判断できなかったことを意味する。
【0059】
<流動性の評価>
上述したディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価の後、上記コロッケを市販の電子レンジを用いて60℃に加熱することにより各試料中のゼラチン粒子を溶解し、試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cが流動性を有するかどうか調べた。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好な流動性を示したことを意味する。
【0060】
【表2】
【0061】
<考察>
表2によれば、試料21〜試料28は、20℃において0〜18cm/30秒の粘度を示し、これにより良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性を示した(総合評価B以上)。特に、試料21〜試料25においてより良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性が示された(総合評価A)。一方、試料2A〜試料2Cは、その粘度が20℃で18cm/30秒を超え、粘度が低すぎたためにディッピング性、スプレッド性、意匠性の少なくともいずれかにおいて良好な結果を得ることができなかった(総合評価C)。これによりゼラチンソースは、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に賦形するのに、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度が18cm/30秒以下であることが必要であると理解することができる。試料21〜試料28は、流動性が良好だったことから、口当たりおよび食感の良いソースとなるものと期待される。
【0062】
[実施例3]
実施例3では、液状食品としてのトマトソース(商品名:「基本のトマトソース」、カゴメ株式会社製)へ、様々な粒径のゼラチン粒子、顆粒ゼラチン、架橋ゼラチンなどを、様々な濃度となるように添加することによりゼラチンソースを調製し、これらのゼラチンソースのボストウィック粘度計を用いた粘度(20℃)、20℃におけるディッピング性、スプレッド性および60℃における流動性を調べた。
【0063】
<試料の調製>
(試料31〜試料33)
試料31〜試料33のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、60メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子を造粒することにより得た12メッシュを通過する粒径を有する顆粒ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)を、表3に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0064】
(試料34〜試料36)
試料34〜試料36のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、60メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第4のゼラチン粒子」とも記す)を、表3に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0065】
(試料37〜試料38)
試料37〜試料38のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記第1のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表3に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0066】
(試料41〜試料43)
試料41〜試料43のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記顆粒ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0067】
(試料44)
試料44のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記第4のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0068】
(試料4A)
試料4Aは、上記トマトソースをそのまま用いた。
【0069】
(試料4B〜試料4D)
試料4B〜試料4Dのゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記第2のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0070】
(試料4E)
試料4Eのゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、10メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子として上記第3のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0071】
(試料4F)
試料4Fのゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、100メッシュを通過する粒径を有し、加熱処理によりゼラチンの分子内および分子間の両方またはいずれか一方が架橋された架橋ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。「100メッシュを通過する粒径」は、上述のJISにおいて公称目開き150μmの試験用ふるいを通過する粒径である。
【0072】
<ボストウィック粘度計を用いた粘度測定>
試料31〜試料38、試料41〜試料44および試料4A〜試料4Fに対し、ボストウィック粘度計を用いて20℃における粘度を調べた。その結果、すべての試料において18cm/30秒以下の粘度を有していた。
【0073】
<ディッピング性およびスプレッド性の評価>
市販のコロッケに対し、20℃に調整した試料31〜試料38、試料41〜試料44および試料4A〜試料4Fのそれぞれを、バターナイフを使ってディッピングした。このときバターナイフのへラ部でこれらの試料をすくった際に、へラ部から試料が流れ落ちないかどうか、および上記コロッケに試料をディッピングした際にコロッケから試料が流れ落ちないで、その形を保持しているかどうかの観点からディッピング性を評価した。その結果を表3、4に示す。表3、4中、YYは良好なディッピング性を示したことを意味する。Yは試料の流れ落ちがあったものの、ディッピング自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、へラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、ディッピングできなかったことを意味する。
【0074】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料をバターナイフで滑らかにスプレッドできるかどうかの観点からスプレッド性を評価した。その結果を表3、4に示す。表3、4中、YYは良好なスプレッド性を示したことを意味する。Yは滑らかではないものの、スプレッド自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎてディッピングができなかったために、スプレッドもできなかったことを意味する。
【0075】
<流動性の評価>
上述したディッピング性およびスプレッド性の評価の後、上記コロッケを市販の電子レンジを用いて60℃に加熱することにより各試料中のゼラチン粒子を溶解し、試料31〜試料38、試料41〜試料44および試料4A〜試料4Fが流動性を有するかどうか調べた。その結果を表3、4に示す。表3、4中、YYは良好な流動性を示したことを意味する。Yは、粘度が高かったもののゼラチン粒子が溶解し、流動性自体は認められたことを意味する。Nは、試料の粘度が高すぎ、またはゼラチン粒子が溶解しなかたために、流動性を示さなかったことを意味する。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
<考察>
表3、4によれば、試料31〜試料38および試料41〜試料44は、試料4A〜試料4Fに比べ、より良好なディッピング性、スプレッド性および流動性を示した。試料41〜試料44は、良好なディッピング性、スプレッド性および流動性を示したが、その特性は試料31〜試料38の方が優位であった。試料31〜試料38および試料41〜試料44は、良好な流動性を示したことから、口当たりよく食感もよいソースであるものと期待される。したがってゼラチンソースは、ゼラチン粒子の濃度が0.3質量%以上10質量%未満であることが好ましいことがわかる。一方、試料4A〜試料4Fは、ゼラチン粒子が42メッシュを非通過する粒径からなるか、もしくは架橋ゼラチンであったために、ディッピング性、スプレッド性および流動性の少なくともいずれかにおいて良好な結果を得ることができなかった。
【0079】
上記によれば、本発明に係る非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなり、上記ゼラチン粒子が架橋されていない場合に、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に液状食品を賦形することができる。さらに、このような非加熱賦形用ゼラチンを用いた本発明に係るゼラチンソースは、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度測定において18cm/30秒以下の粘度を有することにより、良好なディッピング性、スプレッド性および意匠性を示し、かつ喫食時には良好な流動性を示して口当たりよく食感もよいソースとすることができる。
【0080】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
【課題】温度変化を利用することなく短時間かつ簡便に液状食品を賦形することができる非加熱賦形用ゼラチンを提供する。
【解決手段】非加熱賦形用ゼラチンは、温度変化を利用することなく液状食品を賦形するのに用いる非加熱賦形用ゼラチンであって、前記非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなり、前記ゼラチン粒子は、架橋されていない。
【選択図】なし