【実施例】
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の実施例において「総合評価A」とは、本発明の効果を十分に得られる非加熱賦形用ゼラチンおよびゼラチンソースを意味し、「総合評価B」とは、本発明の効果を得られる非加熱賦形用ゼラチンおよびゼラチンソースを意味する。「総合評価C」とは、本発明の効果を得るには不十分である非加熱賦形用ゼラチンおよびゼラチンソースを意味する。
【0044】
[実施例1]
実施例1では、液状食品を賦形するのに、ゼラチン粒子の粒径が影響するか否かについて調べた。具体的には、まず液状食品を模擬する液体として市水を準備した。この市水に対し、以下の濃度となるように所定の粒径を有するゼラチン粒子をそれぞれ添加することにより、市水を賦形できるか否かについて調べた。
【0045】
<試料の調製>
(試料11〜試料15)
まず42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第1のゼラチン粒子」とも記す)を準備した。この第1のゼラチン粒子を上記市水に対し、表1に示すゼラチン濃度となる量それぞれ添加し、30秒間撹拌混合することにより試料11〜試料15のゼラチン水溶液を調製した。上記第1のゼラチン粒子は、架橋されていない。試料11〜試料15のゼラチン水溶液は、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなるため、実施例に相当する。
【0046】
(試料1A〜試料1J)
これに対し、2メッシュを通過し、42メッシュが非通過となる粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第2のゼラチン粒子」とも記す)も準備した。この第2のゼラチン粒子を上記市水に対し、表1に示すゼラチン濃度となる量それぞれ添加し、30秒間撹拌混合することにより試料1A〜試料1Eのゼラチン水溶液を調製した。さらに、10メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第3のゼラチン粒子」とも記す)を準備した。この第3のゼラチン粒子を上記市水に対し、表1に示すゼラチン濃度となる量それぞれ添加し、30秒間撹拌混合することにより試料1F〜試料1Jのゼラチン水溶液を調製した。上記第2および第3のゼラチン粒子は、架橋されていない。試料1A〜試料1Jは、42メッシュを通過する粒径よりも大きな粒径のゼラチン粒子からなるため、比較例に相当する。
【0047】
<ボストウィック粘度計を用いた粘度測定>
試料11〜試料15および試料1A〜試料1Jに対し、ボストウィック粘度計を用いて20℃および60℃における粘度(移動距離)を調べた。その結果を、表1に示す。ボストウィック粘度計を用いた粘度測定の方法は、上述したとおりである。60℃における粘度は、試料を60℃に調整すること以外について20℃における粘度と同じ方法により求めることができる。60℃という温度は、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子、2メッシュを通過し、42メッシュを非通過する粒径を有するゼラチン粒子および10メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子がすべて溶解する温度である。表1中、20℃および60℃における「移動距離」の数値が0を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料投入部から試料測定部へ流れ出なかったこと意味する。20℃および60℃における「移動距離」の数値が24を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料測定部の一端から他端まで流れ切ったこと意味する。
【0048】
<ディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価>
市販のコロッケに対し、20℃に調整した試料11〜試料15および試料1A〜試料1Jのそれぞれを、バターナイフを使ってディッピングした。このときバターナイフのへラ部でこれらの試料をすくった際に、へラ部から試料が流れ落ちないかどうか、および上記コロッケに試料をディッピングした際にコロッケから試料が流れ落ちないで、その形を保持しているかどうかの観点からディッピング性を評価した。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好なディッピング性を示したことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、へラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、ディッピングできなかったことを意味する。
【0049】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料をバターナイフで滑らかにスプレッドできるかどうかの観点からスプレッド性を評価した。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好なスプレッド性を示したことを意味する。Yは滑らかではないものの、スプレッド自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎてディッピングができなかったために、スプレッドもできなかったことを意味する。
【0050】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料について、その外観(見栄えの良さ)などの審美性を有しているかどうかの観点から意匠性を評価した。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好な意匠性を示したことを意味する。Yは見栄えは良好ではないものの、上記コロッケ上で一定の形状を保持して審美性自体を有していたことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、ディッピングの時点でへラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、意匠性を判断できなかったことを意味する。
【0051】
<流動性の評価>
上述したディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価の後、上記コロッケを市販の電子レンジを用いて60℃に加熱することにより各試料中のゼラチン粒子を溶解し、試料11〜試料15および試料1A〜試料1Jが流動性を有するかどうか調べた。その結果を表1に示す。表1中、YYは良好な流動性を示したことを意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
<考察>
表1によれば、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなる試料11〜試料15である場合に、良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性が示された(総合評価B以上)。特に、試料11〜試料14においてより良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性が示された(総合評価A)。一方、試料1A〜試料1Jは、42メッシュを通過する粒径よりも大きな粒径のゼラチン粒子からなるため、ディッピング性、スプレッド性、意匠性の少なくともいずれかにおいて良好な結果を得ることができなかった(総合評価C)。これにより、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に液状食品を賦形するのに用いる非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなる必要があると理解することができる。試料11〜試料15は、流動性が良好だったことから、口当たりおよび食感の良いソースとなるものと期待される。
【0054】
[実施例2]
<試料の調製>
実施例2では、液状食品を賦形するのに適したゼラチンソースの粘度を調べた。具体的には、まず液状食品を模擬する液体として上記市水を準備した。この市水に対し、上記第1のゼラチン粒子(42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製))を、表2に示すゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより、試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cのゼラチン水溶液を調製した。
【0055】
<ボストウィック粘度計を用いた粘度測定>
試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cに対し、ボストウィック粘度計を用いて20℃および60℃における粘度(移動距離)を調べた。ボストウィック粘度計を用いた粘度測定の方法は、上述したとおりである。その結果を、表2に示す。表2中、20℃および60℃における「移動距離」の数値が0を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料投入部から試料測定部へ流れ出なかったこと意味する。20℃および60℃における「移動距離」の数値が24を示す場合、試料がボストウィック粘度計の試料測定部の一端から他端まで流れ切ったこと意味する。
【0056】
<ディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価>
市販のコロッケに対し、20℃に調整した試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cのそれぞれを、バターナイフを使ってディッピングした。このときバターナイフのへラ部でこれらの試料をすくった際に、へラ部から試料が流れ落ちないかどうか、および上記コロッケに試料をディッピングした際にコロッケから試料が流れ落ちないで、その形を保持しているかどうかの観点からディッピング性を評価した。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好なディッピング性を示したことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、へラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、ディッピングできなかったことを意味する。
【0057】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料をバターナイフで滑らかにスプレッドできるかどうかの観点からスプレッド性を評価した。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好なスプレッド性を示したことを意味する。Yは滑らかではないものの、スプレッド自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎてディッピングができなかったために、スプレッドもできなかったことを意味する。
【0058】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料について、その外観(見栄えの良さ)などの審美性を有しているかどうかの観点から意匠性を評価した。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好な意匠性を示したことを意味する。Yは見栄えは良好ではないものの、上記コロッケ上で一定の形状を保持して審美性自体を有していたことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、ディッピングの時点でへラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、意匠性を判断できなかったことを意味する。
【0059】
<流動性の評価>
上述したディッピング性、スプレッド性および意匠性の評価の後、上記コロッケを市販の電子レンジを用いて60℃に加熱することにより各試料中のゼラチン粒子を溶解し、試料21〜試料28および試料2A〜試料2Cが流動性を有するかどうか調べた。その結果を表2に示す。表2中、YYは良好な流動性を示したことを意味する。
【0060】
【表2】
【0061】
<考察>
表2によれば、試料21〜試料28は、20℃において0〜18cm/30秒の粘度を示し、これにより良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性を示した(総合評価B以上)。特に、試料21〜試料25においてより良好なディッピング性、スプレッド性、意匠性および流動性が示された(総合評価A)。一方、試料2A〜試料2Cは、その粘度が20℃で18cm/30秒を超え、粘度が低すぎたためにディッピング性、スプレッド性、意匠性の少なくともいずれかにおいて良好な結果を得ることができなかった(総合評価C)。これによりゼラチンソースは、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に賦形するのに、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度が18cm/30秒以下であることが必要であると理解することができる。試料21〜試料28は、流動性が良好だったことから、口当たりおよび食感の良いソースとなるものと期待される。
【0062】
[実施例3]
実施例3では、液状食品としてのトマトソース(商品名:「基本のトマトソース」、カゴメ株式会社製)へ、様々な粒径のゼラチン粒子、顆粒ゼラチン、架橋ゼラチンなどを、様々な濃度となるように添加することによりゼラチンソースを調製し、これらのゼラチンソースのボストウィック粘度計を用いた粘度(20℃)、20℃におけるディッピング性、スプレッド性および60℃における流動性を調べた。
【0063】
<試料の調製>
(試料31〜試料33)
試料31〜試料33のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、60メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子を造粒することにより得た12メッシュを通過する粒径を有する顆粒ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)を、表3に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0064】
(試料34〜試料36)
試料34〜試料36のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、60メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)(以下、「第4のゼラチン粒子」とも記す)を、表3に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0065】
(試料37〜試料38)
試料37〜試料38のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記第1のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表3に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0066】
(試料41〜試料43)
試料41〜試料43のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記顆粒ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0067】
(試料44)
試料44のゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記第4のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0068】
(試料4A)
試料4Aは、上記トマトソースをそのまま用いた。
【0069】
(試料4B〜試料4D)
試料4B〜試料4Dのゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、上記第2のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0070】
(試料4E)
試料4Eのゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、10メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子として上記第3のゼラチン粒子(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。
【0071】
(試料4F)
試料4Fのゼラチンソースを、上記トマトソースに対し、100メッシュを通過する粒径を有し、加熱処理によりゼラチンの分子内および分子間の両方またはいずれか一方が架橋された架橋ゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)を、表4に示すとおりのゼラチン濃度となる量添加し、30秒間撹拌混合することにより調製した。「100メッシュを通過する粒径」は、上述のJISにおいて公称目開き150μmの試験用ふるいを通過する粒径である。
【0072】
<ボストウィック粘度計を用いた粘度測定>
試料31〜試料38、試料41〜試料44および試料4A〜試料4Fに対し、ボストウィック粘度計を用いて20℃における粘度を調べた。その結果、すべての試料において18cm/30秒以下の粘度を有していた。
【0073】
<ディッピング性およびスプレッド性の評価>
市販のコロッケに対し、20℃に調整した試料31〜試料38、試料41〜試料44および試料4A〜試料4Fのそれぞれを、バターナイフを使ってディッピングした。このときバターナイフのへラ部でこれらの試料をすくった際に、へラ部から試料が流れ落ちないかどうか、および上記コロッケに試料をディッピングした際にコロッケから試料が流れ落ちないで、その形を保持しているかどうかの観点からディッピング性を評価した。その結果を表3、4に示す。表3、4中、YYは良好なディッピング性を示したことを意味する。Yは試料の流れ落ちがあったものの、ディッピング自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎたために、へラ部またはコロッケから試料が流れ落ち、ディッピングできなかったことを意味する。
【0074】
上述したディッピング性の評価の後、上記コロッケ上でこれらの試料をバターナイフで滑らかにスプレッドできるかどうかの観点からスプレッド性を評価した。その結果を表3、4に示す。表3、4中、YYは良好なスプレッド性を示したことを意味する。Yは滑らかではないものの、スプレッド自体はできたことを意味する。Nは、粘度が低すぎてディッピングができなかったために、スプレッドもできなかったことを意味する。
【0075】
<流動性の評価>
上述したディッピング性およびスプレッド性の評価の後、上記コロッケを市販の電子レンジを用いて60℃に加熱することにより各試料中のゼラチン粒子を溶解し、試料31〜試料38、試料41〜試料44および試料4A〜試料4Fが流動性を有するかどうか調べた。その結果を表3、4に示す。表3、4中、YYは良好な流動性を示したことを意味する。Yは、粘度が高かったもののゼラチン粒子が溶解し、流動性自体は認められたことを意味する。Nは、試料の粘度が高すぎ、またはゼラチン粒子が溶解しなかたために、流動性を示さなかったことを意味する。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
<考察>
表3、4によれば、試料31〜試料38および試料41〜試料44は、試料4A〜試料4Fに比べ、より良好なディッピング性、スプレッド性および流動性を示した。試料41〜試料44は、良好なディッピング性、スプレッド性および流動性を示したが、その特性は試料31〜試料38の方が優位であった。試料31〜試料38および試料41〜試料44は、良好な流動性を示したことから、口当たりよく食感もよいソースであるものと期待される。したがってゼラチンソースは、ゼラチン粒子の濃度が0.3質量%以上10質量%未満であることが好ましいことがわかる。一方、試料4A〜試料4Fは、ゼラチン粒子が42メッシュを非通過する粒径からなるか、もしくは架橋ゼラチンであったために、ディッピング性、スプレッド性および流動性の少なくともいずれかにおいて良好な結果を得ることができなかった。
【0079】
上記によれば、本発明に係る非加熱賦形用ゼラチンは、42メッシュを通過する粒径を有するゼラチン粒子からなり、上記ゼラチン粒子が架橋されていない場合に、温度変化を利用する工程を要することなく短時間かつ簡便に液状食品を賦形することができる。さらに、このような非加熱賦形用ゼラチンを用いた本発明に係るゼラチンソースは、ボストウィック粘度計を用いた20℃における粘度測定において18cm/30秒以下の粘度を有することにより、良好なディッピング性、スプレッド性および意匠性を示し、かつ喫食時には良好な流動性を示して口当たりよく食感もよいソースとすることができる。
【0080】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0081】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。