特許第6239181号(P6239181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6239181
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】部分義歯
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/271 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   A61C13/271
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-116669(P2017-116669)
(22)【出願日】2017年6月14日
【審査請求日】2017年9月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517191046
【氏名又は名称】重村 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】重村 宏
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0086326(US,A1)
【文献】 特開2011−031012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/00−13/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯床を有さない部分義歯であって、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
該人工歯を支持し、前記歯列の内側に係合する内側の係合部材と、
該内側の係合部材又は前記人工歯に連結され、弾性を有し、前記内側の係合部材から離間する方向に弾性変形することで、前記内側の係合部材との間に前記歯列を挿入可能にするとともに、弾性復元することで、前記歯列の外側に係合する外側の係合部材とを備え、
前記内側の係合部材は、前記歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備え、
前記外側の係合部材は、前記歯列における少なくとも一つの歯の、前記傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える
部分義歯。
【請求項2】
前記歯列の両側において前記欠損部よりも遠心に歯がない両側遊離端に対する部分義歯であって、
前記内側の係合部材は、両側端部のそれぞれに前記人工歯が連結されて前記歯列の内側に係合するアーチ状に形成され、
前記外側の係合部材は、遠心から前記歯列に沿って近心に延びる左右一対のアーム部を備え、
前記第二の係合部は、前記歯列における前歯及び臼歯を含む複数の歯のそれぞれに対応して、前記一対のアーム部のそれぞれに複数設けられる
請求項1に記載の部分義歯。
【請求項3】
前記歯列の右側又は左側の片側において前記欠損部よりも遠心に歯がない片側遊離端に対する部分義歯であって、
前記内側の係合部材は、右側又は左側の片側端部に前記人工歯が連結されて前記歯列の内側に係合するアーチ状に形成され、
前記外側の係合部材は、遠心から前記歯列に沿って近心に延びる左右一対のアーム部を備え、
前記第二の係合部は、前記歯列における前歯及び臼歯を含む複数の歯のそれぞれに対応して、前記一対のアーム部のそれぞれに複数設けられる
請求項1に記載の部分義歯。
【請求項4】
前記内側の係合部材は、前記欠損部に隣接する一つないし複数の歯のそれぞれに被せられるクラウン部を備える請求項2又は3に記載の部分義歯。
【請求項5】
前記アーム部は、歯肉の外側面に配置され、
前記外側の係合部材は、前記アーム部における前記複数の歯のそれぞれに対応する部位から各歯の外側面に向けて延びる複数のローチ部を備え、
前記第二の係合部は、前記複数のローチ部のそれぞれの先端部に形成される
請求項2ないし4のいずれか1項に記載の部分義歯。
【請求項6】
前記ローチ部は、歯の外側面に沿って湾曲する横バー部を前記第二の係合部として先端部に有するT字状に形成される請求項5に記載の部分義歯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取り外し可能な部分義歯に関する。
【背景技術】
【0002】
部分的に欠損した歯を補う歯科用補綴物として、古くから部分床義歯が用いられている。また、その後、クラウンブリッジやインプラントも用いられるようになってきた。そして、使用者の利便性に鑑みた歯科用補綴物が各種提案されており、部分床義歯であれば、特許文献1ないし5に記載されたものがその一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−236647号公報
【特許文献2】特開2015−109965号公報
【特許文献3】特開2016−196号公報
【特許文献4】特開2004−254911号公報
【特許文献5】特開2004−89443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
部分床義歯は、義歯床に人工歯を設けたものを歯列の欠損部における歯槽堤に被せて装着するものであり、人工歯にかかる咬合力は、歯槽堤の歯肉(粘膜)に作用するようになっている。そのため、部分床義歯においては、強力な咬合力を必要とする硬い食べ物は食べられないという問題がある。
【0005】
また、部分床義歯の中には、残存歯に一部咬合力を負担させるためや義歯の装着を安定させるために、残存歯に係合するクラスプを設けたものがある。しかし、この構造によれば、咬合力が柔軟性のある歯肉と動きにくい残存歯の両者に作用し、荷重にアンバランスが生じるため、残存歯にかかる負担が大きく、この残存歯の寿命を縮めるという問題がある。
【0006】
クラウンブリッジは、人工歯の両側に一体形成されたクラウンを歯列の欠損部の前後に位置する残存歯に被せて装着するものである。そのため、クラウンブリッジにおいては、クラウンを残存歯に被せるためにクラウンの厚さだけ健全な残存歯を切削しなければならないという問題がある。
【0007】
インプラントは、人工歯根を歯槽骨に植立し、人工歯根の上端部に人工歯を固着するものである。そのため、インプラントにおいては、人工歯根を歯槽骨に植立するために歯肉を切開するとともに歯槽骨を切削しなければならないという問題がある。加えて、人工歯根は、自然歯根と異なり、歯根膜を介さず、歯槽骨に直接植立される。そのため、インプラントにおいては、適度なクッション性が得られないという問題がある。さらに、インプラントにおいては、周辺粘膜の歯垢や口腔内細菌に対する防御機構も存在しない。
【0008】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を伴わず、しかも、部分床義歯のように義歯床を用いることなく装着することができて、取り外しも可能な部分義歯を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る部分義歯は、
義歯床を有さない部分義歯であって、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、歯列の内側に係合する内側の係合部材と、
内側の係合部材又は人工歯に連結され、弾性を有し、内側の係合部材から離間する方向に弾性変形することで、内側の係合部材との間に歯列を挿入可能にするとともに、弾性復元することで、歯列の外側に係合する外側の係合部材とを備え、
内側の係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備え、
外側の係合部材は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
【0010】
かかる構成によれば、部分義歯を歯列に装着するに際しては、まず、部分義歯を歯列に対して適正な位置に合わせた後、歯根側に押し込む。これにより、第二の係合部が歯の外側面に当接して外側面の最大豊隆部に向かうのに伴い、外側の係合部材は内側の係合部材から離間する方向に弾性変更する。そして、第二の係合部が歯の外側面の最大豊隆部を超えると、外側の係合部材は弾性復元する。これにより、一対の係合部材が歯列の内側及び外側に係合し、部分義歯は歯列に装着される。
【0011】
そして、部分義歯が歯列に装着されると、第一の係合部が歯列の内側に係合するとともに、第二の係合部が歯列の外側に係合することで、一対の係合部材は、歯列を内側及び外側から挟み込むように係合する。したがって、部分義歯は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。
【0012】
加えて、部分義歯を装着している間、第一の係合部は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯にかかる咬合力は、欠損部における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散される。
【0013】
さらに、部分義歯を装着している間、第二の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜する傾斜部であるアンダーカット部に係合している。そのため、部分義歯が歯列から抜けることはない。
【0014】
他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、部分義歯を咬合側に引く。これにより、第二の係合部が歯の外側面の最大豊隆部に向かうのに伴い、外側の係合部材は内側の係合部材から離間する方向に弾性変更し、一対の係合部材の間隔が拡がるので、部分義歯を取り外すことができる。
【0015】
なお、「内側」とは、歯を基準とした場合に舌がある側(舌側)をいい、「外側」とは、歯を基準とした場合に、前歯(1歯ないし2歯の切歯及び3歯の犬歯)であれば、唇がある側(唇側)をいい、奥歯(4番ないし7番の臼歯)であれば、頬がある側(頬側)をいう。また、「歯根側」とは、咬合方向(上下方向)において、歯根に近づく側をいい、「咬合側」とは、咬合方向(上下方向)において、前歯であれば、切端に近づく側をいい、奥歯であれば、咬合面(上顎の歯列と下顎の歯列とが噛み合う面、より詳しくは、歯の頂部において隆起している咬頭の間に囲まれた面)に近づく側をいう。
【0016】
ここで、本発明に係る部分義歯の一態様として、歯列の両側において欠損部よりも遠心に歯がない両側遊離端に対する部分義歯であって、内側の係合部材は、両側端部のそれぞれに人工歯が連結されて歯列の内側に係合するアーチ状に形成され、外側の係合部材は、遠心から歯列に沿って近心に延びる左右一対のアーム部を備え、第二の係合部は、歯列における前歯及び臼歯を含む複数の歯のそれぞれに対応して、一対のアーム部のそれぞれに複数設けられる構成を採用することができる。
【0017】
また、本発明に係る部分義歯の他態様として、歯列の右側又は左側の片側において欠損部よりも遠心に歯がない片側遊離端に対する部分義歯であって、内側の係合部材は、右側又は左側の片側端部に人工歯が連結されて歯列の内側に係合するアーチ状に形成され、外側の係合部材は、遠心から歯列に沿って近心に延びる左右一対のアーム部を備え、第二の係合部は、歯列における前歯及び臼歯を含む複数の歯のそれぞれに対応して、一対のアーム部のそれぞれに複数設けられる構成を採用することができる。
【0018】
これらの構成によれば、歯列の外側に複数の第二の係合部が異なる方向から係合するため、人工歯にかかる咬合力の向きによって部分義歯に前歯側が浮き上がろうとする力が作用したり、右側又は左側のいずれかが浮き上がろうとする力が作用しても、その方向にある第二の係合部が主として抵抗し、部分義歯の浮き上がりを防止することができる。
【0019】
なお、「遠心」とは、正中(右側1番の切歯と左側1番の切歯の間)から遠ざかる方向をいい、「近心」とは、正中に近づく方向をいう。
【0020】
また、本発明に係る部分義歯の別の態様として、内側の係合部材は、欠損部に隣接する一つないし複数の歯のそれぞれに被せられるクラウン部を備える構成を採用することができる。
【0021】
かかる構成によれば、一対の係合部材が歯列を内側及び外側から挟み込むように係合することと相俟って、部分義歯は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。
【0022】
また、本発明に係る部分義歯のさらに別の態様として、アーム部は、歯肉の外側面に配置され、外側の係合部材は、アーム部における複数の歯のそれぞれに対応する部位から各歯の外側面に向けて延びる複数のローチ部を備え、第二の係合部は、複数のローチ部のそれぞれの先端部に形成される構成を採用することができる。
【0023】
さらにこの場合、ローチ部は、歯の外側面に沿って湾曲する横バー部を第二の係合部として先端部に有するT字状に形成される構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0024】
以上の如く、本発明に係る部分義歯によれば、残存歯をそのまま利用することで、クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を行う必要がなく、部分義歯を取り外し可能に装着することができる。また、本発明に係る部分義歯によれば、人工歯にかかる咬合力を、義歯床を介して歯槽堤に負担させるのではなく、複数の残存歯に分散させて負担させるので、部分床義歯による諸問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1(a)は、本発明の第一の実施形態に係る部分義歯が装着される上顎を模った上顎模型を下顎側から見た平面図、図1(b)は、部分義歯を上顎模型に装着した状態を示す図であって、図1(a)に対応する平面図である。
図2図2(a)は、上顎模型を下顎右側側から見た斜視図、図2(b)は、部分義歯を上顎模型に装着した状態を示す図であって、図2(a)に対応する平面図である。
図3図3(a)は、上顎模型を下顎左側側から見た斜視図、図3(b)は、部分義歯を上顎模型に装着した状態を示す図であって、図3(a)に対応する平面図である。
図4図4(a)は、部分義歯を前側から見た斜視図、図4(b)は、部分義歯を上顎側から見た平面図である。
図5図5(a)は、図1(b)のA−A線断面図、図5(b)は、図1(b)のB−B線断面図、図5(c)は、図1(b)のC−C線断面図である。
図6図6(a)は、本発明の第二の実施形態に係る部分義歯が装着される上顎を模った上顎模型を下顎側から見た平面図、図6(b)は、部分義歯を上顎模型に装着した状態を示す図であって、図6(a)に対応する平面図である。
図7図7(a)は、図6(b)のA−A線断面図、図7(b)は、図6(b)のB−B線断面図、図7(c)は、図6(b)のC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第一の実施形態>
以下、本発明に係る部分義歯の第一の実施形態について、図1ないし図5を参酌して説明する。なお、本実施形態に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。
【0027】
図1ないし図4に示す如く、本実施形態に係る部分義歯1は、左右の6番及び7番の臼歯の欠損部51,51を補綴するためのもので、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56の歯列に装着されるものである。すなわち、部分義歯1は、左右の欠損部51,51よりも遠心に歯がない、いわゆる両側遊離端に対するものである。
【0028】
部分義歯1は、欠損部51に配置される人工歯10と、人工歯10を支持し、歯列に内側から係合する内側の係合部材20と、人工歯10に連結され、弾性を有し、内側の係合部材20から離間する方向に弾性変形することで、内側の係合部材20との間に歯列を挿入可能にするとともに、弾性復元することで、歯列に外側から係合する外側の係合部材30とを備える。
【0029】
人工歯10は、歯の形を模した単体、あるいはベース部に、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティングを施した積層体である。本実施形態においては、左右の6番及び7番の隣り合う二本の臼歯が欠損しており、人工歯10は、この二本の歯を一体的に設けたものである。
【0030】
内側の係合部材20は、歯列の全体に内側から係合するアーチ状を有する。本実施形態においては、内側の係合部材20は、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56の残存歯列の内側に係合するアーチ状を有する。
【0031】
図5に詳細に示す如く、内側の係合部材20は、歯の歯頚部にプラークが付着するのを防止するために、歯根側の端縁部が内側の歯肉59の縁と接して隙間ができない状態となるように、歯列の内側に係合する。
【0032】
また、内側の係合部材20は、対応する各歯の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部21,…を備える。本実施形態においては、内側の係合部材20は、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56のそれぞれの歯に対し、第一の係合部21を備える。
【0033】
また、内側の係合部材20は、欠損部51に近い一つ又は複数の臼歯の、咬合面から、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する内側及び外側の傾斜部にかけての部位(歯冠の咬合側の部位)に被せられるクラウン部22を備える。本実施形態においては、内側の係合部材20は、左右の4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56のそれぞれの歯に対し、クラウン部22を備える。
【0034】
また、内側の係合部材20は、所定の肉厚を有して近心の各歯の切端部に被せられるスペーサ部23を備える。スペーサ部23は、対応する各歯における第一の係合部21の咬合側の端縁部から延び、内側から切端を通って外側に屈曲して、各歯の切端部に被せられる。スペーサ部23は、外観上目立たなくさせるために透明な樹脂等で形成される。本実施形態においては、内側の係合部材20は、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53及び3番の犬歯54,54のそれぞれの前歯に対し、スペーサ部23を備える。
【0035】
スペーサ部23は、前歯列に沿って一体的に形成される。前歯列において、第一の係合部21は、各歯の歯冠の咬合方向(上下方向)における中間部位を咬合側の端縁部として、前歯列に沿って連続している。そのため、スペーサ部23は、前歯列における各歯の歯冠の咬合方向における中間部位よりも咬合側に配置される。
【0036】
外側の係合部材30は、人工歯10の所定部位、より詳しくは、6番の臼歯に対応する人工歯10のうち、外側の歯頸部に対応する部位から歯列に沿って近心に延びるアーム部31と、アーム部31における各歯に対応する部位から各歯の外側面に向けて延びるT字状のローチ部32,…とを備える。
【0037】
アーム部31は、長尺であるため、弾性に起因する可撓性を有する。そして、各ローチ部32が内側の係合部材20から離間する方向(外側)にアーム部31が弾性変形することで、ローチ部32と内側の係合部材20との間隔が拡がるようになっている。
【0038】
ローチ部32の横バー部32aは、歯の、近心から遠心にかけて湾曲する外側面に適合するよう湾曲しており、歯の外側のアンダーカット部に係合する第二の係合部33となる。本実施形態においては、外側の係合部材30は、アンダーカット部を有する左右の2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56のそれぞれの歯に対し、第二の係合部33を備える。
【0039】
アーム部31は、歯肉59の外側面に配置される。そこからローチ部32が咬合側に延び、歯の外側面に至る。第二の係合部33(ローチ部32の横バー部32a)は、アンダーカット部のうち、最大豊隆部寄りに係合するようになっている。なお、アンダーカット部は必ずしもすべての歯(特に前歯)に存在するわけではないので、その場合は、第二の係合部34は、単に歯の外側面に係合するということになる。
【0040】
なお、図示はしないが、審美処理として、外側の係合部材30の外側面のうち、歯肉59にかかる部位には、歯肉と同色の肌色を有して外観上歯肉に見せるための周知のコーティングが施され、また、外側の係合部材30の外側面のうち、歯にかかる部位には、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティングが施されることがある。
【0041】
部分義歯1の材質としては、部分義歯としての剛性を有しつつ、外側の係合部材30のアーム部31に弾性を与えることができる材質であればよく、例えば、コバルト・クロム・モリブデン合金や金合金といった金属のほか、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂といった合成樹脂やジルコニアといったセラミックを用いることができる。本実施形態においては、人工歯10、内側の係合部材20(スペーサ部23を除く。)及び外側の係合部材30は、金属材料を用いて鋳造により一体成型した金属製である。
【0042】
本実施形態に係る部分義歯1は、以上の構成からなり、次に、この部分義歯1を歯列に装着する手順について説明する。
【0043】
まず、部分義歯1を歯列に対して適正な位置に合わせた後、歯根側に押し込む。これにより、外側の係合部材30の各ローチ部32の横バー部32a(第二の係合部33)が歯の外側面に当接して外側面の最大豊隆部に向かうのに伴い、外側の係合部材30は内側の係合部材20から離間する方向に弾性変更する。そして、横バー部32aが歯の外側面の最大豊隆部を超えると、外側の係合部材30は弾性復元する。これにより、図5に示す如く、一対の係合部材20,30が歯列の内側及び外側に係合し、部分義歯1は歯列に装着される。
【0044】
ここで、本実施形態に係る部分義歯1は、外側の係合部材30に、各歯のアンダーカット部に係合する第二の係合部33が形成されている。そのため、部分義歯1がそのままでは、第二の係合部33が歯列(の外側面の豊隆部)と干渉して部分義歯1を歯列に装着することはできない。しかし、本実施形態に係る部分義歯1は、外側の係合部材30が内側の係合部材20との間隔を拡げるように弾性変更可能となっている。これにより、第二の係合部33を各歯の外側面の最大豊隆部を超えて最大豊隆部よりも歯根側にあるアンダーカット部に係合させることができて、部分義歯1を歯列に容易に装着することができる。
【0045】
部分義歯1が歯列に装着されると、内側の係合部材20の複数の第一の係合部21,…が歯列の内側に係合する。加えて、外側の係合部材30の複数の第二の係合部33,…が歯列の外側に係合する。これにより、一対の係合部材20,30は、歯列を内側及び外側から挟み込むように係合する。加えて、歯列における臼歯には、歯冠の咬合側の部位を覆うようにクラウン部22が被せられる。したがって、本実施形態に係る部分義歯1は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着することができる。
【0046】
しかも、本実施形態に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、使用者は快適な装着感をもって部分義歯を使用することができる。
【0047】
また、本実施形態に係る部分義歯1によれば、歯列に装着している間、複数の第一の係合部21,…が、歯列における複数の歯(本実施形態においては、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56の十本の歯)のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯10にかかる咬合力を、欠損部51における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散させることができる。これにより、部分床義歯が抱える、強力な咬合力を必要とする硬い食べ物は食べられないという問題や、荷重にアンバランスが生じるため、残存歯にかかる負担が大きく、この残存歯の寿命を縮めるという問題を解消することができる。
【0048】
加えて、左右の人工歯10,10に咬合力がかかることにより、部分義歯1に前歯側が浮き上がろうとする力が作用しても、2番の切歯53,53に係合する第二の係合部33が主として抵抗し、浮き上がりを防止することができる。また、右側又は左側のいずれか一方の人工歯10に咬合力がかかることにより、部分義歯1に右側又は左側のいずれか他方が浮き上がろうとする力が作用しても、右側又は左側のいずれか他方の3番ないし5番の歯に係合する第二の係合部33が主として抵抗し、やはり浮き上がりを防止することができる。そして、このような浮き上がりの防止メカニズムは、それぞれの第二の係合部33が歯の外側面に沿って湾曲した形状であることから、第二の係合部33の端部によっても発生するものである。したがって、本実施形態に係る部分義歯1は、咬合力がどのようにかかっても、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着することができる。
【0049】
しかも、本実施形態に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、咬合力の分散効果に偏りが生じて、特定の歯に咬合力が過度に作用してこの歯の寿命を縮めてしまうという問題は生じない。
【0050】
また、本実施形態に係る部分義歯1は、残存歯をそのまま利用して装着するものである。これにより、クラウンブリッジのように部分義歯を合わせるために残存歯を切削するという必要がなくなる。そのため、健全歯質の喪失を防ぐことができるという使用者にとっては極めて大きな効果を奏する。
【0051】
また、本実施形態に係る部分義歯1は、クラウン部22の肉厚によってクラウン部22が被せられる歯の高さが高くなる分、人工歯10も本来の欠損歯よりも高さが高くなるように形成するとともに、前歯には、所定の肉厚を有するスペーサ部23が被せられる。これにより、残存歯列が適切な噛み合わせとなっていない場合に、噛み合わせを矯正(再構成)することができる。
【0052】
<第二の実施形態>
次に、本発明に係る部分義歯の第二の実施形態について、図6及ぶ図7を参酌して説明する。
【0053】
本実施形態に係る部分義歯1は、第一の実施形態のように両側遊離端ではなく、片側遊離端(本実施形態においては、左側6番の臼歯及び左側7番の臼歯の欠損)に対するものである。そのため、基本的には、第一の実施形態に係る部分義歯1と同じ構成であるが、異なる点は、本実施形態においては、右側の人工歯10が不要となるため、右側の外側の係合部材30は、連結部31aを介して内側の係合部材20の右側端部に連結される点である。具体的には、本実施形態においては、内側の係合部材20は、右側5番の臼歯56まで係合可能な歯列方向長さを有し、この右側端部に、右側5番の臼歯と右側6番の臼歯との歯間部を通って外側から内側に延びる連結部31aが連結される。なお、本実施形態においては、右側の外側の係合部材30は、内側の係合部材20と一体成型されて内側の係合部材20に連結される。
【0054】
もう一つの異なる点は、本実施形態においては、噛み合わせの矯正を行わない点である。そのため、本実施形態においては、第一の実施形態に係る部分義歯1のクラウン部22及びスペーサ部23は、設けられていない。そのため、図7(b)に示す如く、左右の臼歯55,56に対し、内側の係合部材20は、歯の内側面をほぼ全体的に覆う高さ寸法を有し、第一の係合部21は、内側の係合部材20の咬合側の端縁部に形成される。ただし、第一の係合部21が臼歯55,56の咬合面にまで進出すると、下顎の歯と第一の係合部21が当たり、歯の噛み合わせが変わってしまう。そのため、第一の係合部21は、臼歯55,56の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部のうち、咬合面にかからない部位、例えば咬合面よりもわずかに歯根側の部位に係合するようになっている。右側の外側の係合部材30の連結部31aも同様である。
【0055】
本実施形態に係る部分義歯1によっても、第一の実施形態に係る部分義歯1と同様の効果を奏するものである。
【0056】
なお、本発明に係る部分義歯は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記第一の実施形態においては、噛み合わせの矯正を行っており、上記第二の実施形態においては、噛み合わせの矯正を行っていない。しかし、第一の実施形態において、クラウン部22及びスペーサ部23を設けない(噛み合わせの矯正を行わない)ようにしてもよいし、第二の実施形態において、クラウン部22及びスペーサ部23を設ける(噛み合わせの矯正を行う)ようにしてもよい。
【0058】
また、上記実施形態においては、残存歯列のすべての歯に第一の係合部21が係合し、左右1番の切歯52,52を除き、残存歯列のすべての歯に第二の係合部33が係合するようになっている。しかし、本発明の効果を損なわない程度において、第一の係合部21や第二の係合部33の数を減らしてもよい。
【0059】
また、上記実施形態においては、外側の係合部材30は、アーム部31と、アーム部31における各歯に対応する部位から各歯の外側面に向けて延びるローチ部32を備え、第二の係合部33は、ローチ部32の先端部(横バー部32)に形成される。しかし、第二の係合部33の形成は、この形態に限定されるものではない。例えば、ローチ部32を設けず、第二の係合部33は、内側の係合部材20(アーム部31)の咬合側の端縁部に形成され、主として歯頚部に係合するようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態においては、ローチ部32は、歯の外側面に沿って湾曲する横バー部32aを第二の係合部33として先端部に有するT字状に形成される。しかし、ローチ部32は、I字状、L字状、U字状といった他の形状であってもよい。
【0061】
また、上記実施形態に係る部分義歯1は、両側又は片側の遊離端に対する部分義歯である。しかし、欠損部51よりも遠心に自然歯が残存する中間欠損に対する部分義歯であってもよい。この場合、7番の臼歯(や、存在するならば8番の臼歯)に対しては、上記第一の実施形態に係る部分義歯1の4番や5番の歯に対する構成(クラウン部22を有する構成)や、上記第二の実施形態に係る部分義歯1の4番や5番の歯に対する構成(クラウン部22を有さず、咬合面の周りに第一の係合部21が係合する構成)が採られることとなる。
【0062】
また、上記第一の実施形態に係る部分義歯1は、両側遊離端に対する部分義歯であり、上記第二の実施形態に係る部分義歯1は、片側遊離端に対する部分義歯である。しかし、上記第一の実施形態に係る部分義歯1において、1番ないし3番の前歯52ないし54におけるいずれかの部位にて右側又は左側のうち欠損部51と反対側を無くした形態の部分義歯を片側遊離端に対する部分義歯として採用することができる。
【0063】
また、第一の係合部21が係合する歯の数は、人工歯10にかかる咬合力を好適に分散させる観点から、少なくとも三つの歯であるのが好ましい。また、これは欠損歯の数にもよるものであり、第一の係合部23は、欠損歯の数の二倍以上の数の歯に係合するのが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
1…部分義歯、10…人工歯、20…内側の係合部材、21…第一の係合部、22…クラウン部、23…スペーサ部、30…外側の係合部材、31…アーム部、31a…連結端部、32…ローチ部、32a…横バー部、33…第二の係合部、50…上顎、51…欠損部、52,53…切歯、54…犬歯、55〜58…臼歯、59…歯肉
【要約】
【課題】クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を伴わず、しかも、部分床義歯のように義歯床を用いることなく装着することができて、取り外しも可能な部分義歯を提供する。
【解決手段】本発明に係る部分義歯は、人工歯と、人工歯を支持し、歯列の内側に係合する内側の係合部材と、内側の係合部材又は人工歯に連結され、弾性を有し、内側の係合部材から離間する方向に弾性変形することで、内側の係合部材との間に歯列を挿入可能にするとともに、弾性復元することで、歯列の外側に係合する外側の係合部材とを備え、内側の係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備え、外側の係合部材は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7