特許第6239192号(P6239192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239192
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】排気系部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20171120BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20171120BHJP
   F01N 13/16 20100101ALI20171120BHJP
   F01N 13/08 20100101ALI20171120BHJP
   F01N 13/10 20100101ALI20171120BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20171120BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   F01N13/16
   F01N13/08 A
   F01N13/10
   !C21D9/46 Q
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-510057(P2017-510057)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016060249
(87)【国際公開番号】WO2016159011
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2017年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-73417(P2015-73417)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】新日鐵住金ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 慎一
(72)【発明者】
【氏名】井上 宜治
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純一
(72)【発明者】
【氏名】矢川 敦久
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/157655(WO,A1)
【文献】 特開2013−226600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.05〜0.15%、
Si:1.0%〜4.0%、
Mn:0.5〜3.5%、
P :0.010〜0.040%、
S :0.0001〜0.010%、
Cr:20〜30%、
Ni:8〜25%、
Mo:0.01〜1.5%、
Al:0.001〜0.10%、及び
N:0.13〜0.50%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、
Cr、Mo、Si、C、及びNの含有量が
Cr+20Mo≧24.0%、及び
Si+20C+15N≧5.8%
を満たすステンレス鋼板を母材として用いた溶接構造を有し、溶接部における板厚変化の勾配が15度以下であることを特徴とする排気系部品。
【請求項2】
前記ステンレス鋼板が、さらに、質量%で、
Cu:0.1〜3.0%、
V :0.03〜0.5%、
Ti:0.001〜0.3%、
Nb:0.001〜0.3%、
B:0.0001〜0.0050%、及び
Ca:0.001〜0.010%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の排気系部品。
【請求項3】
前記ステンレス鋼板が、さらに、質量%で
W :0.01〜3.00%、
Zr:0.05〜0.30%、
Sn:0.01〜0.10%、
Co:0.01〜0.30%、及び
Mg:0.0002%〜0.010%
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の排気系部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断続酸化特性に優れた耐熱ステンレス鋼板、及び排気系部品に関する。本発明の排気系部品は、とくに自動車エンジンのエキゾーストマニホールドやターボチャージャー部品のように、1000℃以上の高温に繰り返し加熱される環境下で使用される部品として好適である。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気系部品に用いられる材料は、高温の排ガス雰囲気にさらされ、繰り返し加熱冷却されるため、高い熱疲労特性が必要になるとともに、高温における耐酸化性、酸化スケールの耐剥離性に優れることが要求されている。たとえば、従来、エキゾーストマニホールド、フロントパイプ、コンバーターシェル用に、SUH409、SUS429、SUS430J1L、SUS436L、SUS444などのフェライト系ステンレス鋼が用いられてきた。これらの鋼は、700〜900℃程度の耐熱性を有し、かつ比較的安価であるためである。必要な耐熱温度に応じて、この中のより高合金のステンレス鋼が適用される。
【0003】
また、エキゾーストマニホールドにはオーステナイト系ステンレス鋼SUS310S(25Cr−20Ni−0.5Si)やSUS302B(18Cr−8Ni−2Si)、XM15J1(20Cr−12Ni−3Si)、DIN1.4828(19Cr−11Ni−2Si)等も用いられている。フェライト系ステンレス鋼に比べて高価であり、地域ごとの入手性や成形技術などの環境要因から鋼種選択がなされている。
【0004】
しかし、900℃を超える温度では、フェライト系ステンレス鋼では強度が不足し、オーステナイト系ステンレス鋼では熱疲労やスケール剥離が問題になり、いずれも使用できない問題があった。
【0005】
また、エキゾーストマニホールドやターボチャージャー部品には耐熱鋳鋼や、特許文献1に示すようなステンレス鋳鋼も用いられているが、自動車部品の軽量化ニーズは高く、鋳物部品を板材のプレス成型部品に置き換える取り組みが行われている。
【0006】
最近では自動車の燃費向上ニーズが極めて高くなり、燃費向上手段の一つとして、エンジンの小型高出力化が進められており、排ガス温度が上昇する傾向にある。特許文献2では、フェライト系ステンレス鋼であるSUS444にさらにMoやNb、Cu、W等を添加して高温強度を上げることで950℃における耐熱性を確保する材料が開示されている。しかしながら、室温での加工性や製造性に課題があり、エキゾーストマニホールドの様な複雑形状に加工する際には問題があった。また、薄板を製造する際にも板破断などの問題があった。
【0007】
一方、オーステナイト系ステンレス鋼を適用する場合、強度面では問題ないが、熱疲労の問題が大きい。特許文献3では、900℃以上の繰り返し加熱冷却環境において、Mo含有量を可能な限り低減し、微量のVを添加し、熱延板の結晶粒径と表面粗度を制御することで、耐熱性に優れた熱延鋼板とすることが開示されている。しかし自動車排気系部品に必要な板厚を熱延で造ることは難しく、必要な板厚精度が得られない問題があった。
【0008】
また、耐熱性を排気系部品の構造から改善すべく、エキゾーストマニホールドやターボチャージャー部品を2重管構造にすることも行われている。具体的には、内側にオーステナイト系ステンレス鋼、外側にフェライト系ステンレス鋼を使うことで、内側のオーステナイト系ステンレス鋼部材の拘束を緩和して熱歪を低減する。これにより、外側のフェライト系ステンレス鋼を直接高温の排ガスに触れさせないことで、温度を下げることが可能になる。このような二重構造部品は高価であるが、排ガス温度が1000℃以下のエキゾーストマニホールドにしばしば使われている。また、900℃以下の排ガス温度であっても、エキゾーストマニホールド外面の酸化を抑制し、意匠性を高めるために用いられる場合もある。しかしながら、これらの取り組みも、1000℃を超える温度に排ガス温度が上昇すると、効果が失われ、十分な耐熱性を得ることができない。そのため、1000℃以上の排ガス環境で耐熱性を有する排気系部品が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−118048号公報
【特許文献2】特開平9−87809号公報
【特許文献3】特開2012−207252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、エキゾーストマニホールドの二重管内管やターボチャージャー部品(二重管構造の場合を含む)等の自動車排気系部品として好適に使用できる、表面疵がなく、高い高温強度、耐食性を有し、高温での脆化が生じず、さらに、高い耐酸化性を発揮するステンレス鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、さらに、上記ステンレス鋼板を用いて、母材と溶接部の耐酸化性がともに優れる自動車排気系部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、まず成分組成の見直しを行った。耐酸化性の良いオーステナイト系ステンレス鋼としては、前述のSUS302B、XM15J1、DIN1.4828のように、Siを高めたステンレス鋼やREMを添加したステンレス鋼が一般に使用されている。
【0012】
本発明者らは、上記のオーステナイト系ステンレス鋼が1050℃の環境に耐え得るか確認するために、自動車排気ガス環境を模擬した雰囲気ガス中での断続酸化試験を行ったが、いずれの鋼種も酸化による重量減少が顕著に現れ、1050℃における耐酸化性は無いと判断された。
【0013】
そこで、本発明者らは、1050℃の環境に耐え得る材料組成を明らかにすべく、種々の検討を重ねた。
【0014】
その結果、Cr、Mo、Si量を適正量に制御しつつ、オーステナイト母相を安定させるために、Ni、C、Nを所定の量添加する際に、オーステナイト相の粒成長を抑制する炭窒化物の量の確保、及び析出形態を制御することで、断続酸化環境に於いても保護性の高いスケールを形成させる方法により、1050℃に耐え得る耐酸化性を有するステンレス鋼板が得られることを知見した。
【0015】
具体的には、Cr、Mo量を所定の範囲に制御することで、スケール中の酸素イオンの拡散、金属原子の拡散が起こり難いCrを主体とする酸化物スケールを形成させる。
【0016】
このスケールが加熱冷却時の母材の熱膨張収縮によって剥離しないように内部酸化層を形成させる。内部酸化層は、オーステナイト粒界に形成されるSi酸化物を指すものである。表面に保護性の高いCrを主体とするスケールが形成されないとこの粒界酸化が浅くなり、スケール剥離を防止することが困難である。また、オーステナイト粒が成長すると、粒界の移動により、粒界酸化が抑制されるため、耐酸化性が損なわれることから、粒成長を抑制するために析出物を分散させる。
【0017】
図1は、Cr、MoとSi、C、Nが断続酸化に於ける耐酸化性に及ぼす影響を調べた結果を示したものである。試験方法は以下のとおりである。
【0018】
各種組成のオーステナイト系ステンレス鋼をラボ溶解し、1250℃に1時間加熱し、熱間圧延して板厚3mmにした後、熱延板焼鈍を1100℃で20秒行い、すぐに水冷し、ショットブラストした後、硫酸と硝弗酸でスケールを除去した。
【0019】
引き続き冷間圧延して、板厚1.2mmにした。さらに1100℃で20秒の焼鈍を行った後、水冷し、ソルトでスケール改質を行った後、酸洗した。
【0020】
表面をSiC紙で#600研磨した後、自動車排ガス雰囲気下で、1050℃と200℃の間で加熱冷却を繰り返す断続酸化試験を行った。繰り返しサイクル数2000サイクルにおいて、板厚減少が0.4mm超であるものを不合格、0.4mm以下を合格とした。この試験結果をまとめると図1に示すように、表面の酸化抑制にはCrとMoが、スケールの剥離抑制にはSi、C、Nが、図中に示す係数で効果を示すことが明らかになった。なお、図1において、白抜きのプロットが合格を表し、黒抜きのプロットが不合格を表す。
【0021】
これらの成分的な対策により、薄板では1050℃に耐え得る耐酸化性が得られる。しかしながら、排気系部品のように溶接構造になると、それだけでは不十分である。図2に重ね隅肉溶接したサンプルの断面形状と、酸化試験後の板厚減少を示した。このサンプルを断続酸化試験に供したところ、溶接熱影響部において酸化が顕著になり、板厚減少が大きくなった結果、サンプルが分離してしまう場合も見られた(図2下写真の左上部)。そのため、溶接熱影響部が排気系部品の寿命を支配することが分かった。溶接熱影響部が選択的に酸化する実態を調査したところ、この部分には表面にCrを主体とするスケールが均一に形成されておらず、粒界酸化もあまり起こっていないことが分かった。
【0022】
そこで、溶接熱影響部と母材の組成を調べたところ、差異が認められなかったことから、母材と溶接熱影響部の酸化挙動の違いは、熱膨張、収縮による歪が影響していると考えられた。すなわち、溶接金属と母材の板厚により、加熱、冷却時に溶接金属と母材の間に温度差が生じ、この温度差による熱膨張収縮応力により、境目にある溶接熱影響部でスケールが剥離しやすくなるものと思われた。
【0023】
このサンプルの溶接部における板厚変化の勾配(止端角度)を測定したところ、酸化が小さかったサンプルは止端角度が約10度と小さいのに対して、耐酸化性が劣ったサンプルでは止端角度が20度と大きいことが分かった。なお、本発明において、「板厚変化の勾配(止端角度)」とは、溶接部側面の断面観察において、母材の面と、溶接ビード(溶接金属)の表面接線とが交わる角度をX度(degree)とするとき、(180−X)の角度で表したものを指す。止端角度は通常0から90度の範囲で表示される。一般的に溶接ビードは複数の止端を有するので、複数の止端の角度が存在するが、本発明における止端角度は、その断面視野の中で最も大きい角度のものと定義する。止端角度が大きいということは、溶接ビード表面の膨らみ(盛り上がり)によって板厚が変化する勾配が急峻であることを意味する。
【0024】
そこで、以下の試験により、溶接金属と母材の板厚差が耐酸化性に及ぼす影響を調べたところ、特定の板厚差以上になると溶接熱影響部でスケール剥離を生じ耐酸化性が低下することが分かった。
【0025】
具体的には、24Cr-12Ni-0.1C-0.02N−2.0Si−1Mn−0.5Mo−0.05Al−0.05V鋼をラボ溶解し、1250℃に1時間加熱し、熱間圧延して板厚3mmにした後、熱延板焼鈍を1100℃で20秒行い、すぐに水冷し、ショットブラストした後、硫酸と硝弗酸でスケールを除去した。引き続き冷間圧延して板厚1.2mmにした。
【0026】
さらに1100℃で20秒の焼鈍を行った後、水冷し、ソルトでスケール改質を行った後、硝酸と弗酸の混酸中で浸漬酸洗した。この板をTig溶接で重ね隅肉溶接した。溶接は裏ビードが出る条件で行い、溶接ワイヤにはSUS310Sを用いた。溶接入熱と溶接速度を変えることで、溶接ビード形状を変化させ、板厚変化の勾配を変えた。
【0027】
溶接線を試験片の中心に置いて、酸化試験片を作成した後、自動車排ガス環境下で、200℃と1050℃の間を加熱冷却する断続酸化試験を2000サイクル行った。溶接熱影響部の板厚減少を測定し、板厚減少が0.4mm以下を合格とした。その結果、溶接金属と母材との板厚差があってもその板厚変化の勾配を15度以下にすることで、溶接熱影響部のスケール剥離を軽減することが可能になることが分かった。
【0028】
重ね隅肉溶接以外に、突合せ溶接についてもその効果を調べたが、いずれの場合でも板厚変化の勾配を15度以下にすることで溶接熱影響部の酸化を大きく軽減することが可能であることが分かった。さらに、板厚変化の勾配を低減することにより溶接熱影響部の酸化はより軽減し、板厚変化の勾配が無くなると母材と同じ耐酸化性を有するようになるが、15度超での耐酸化性改善効果は小さいことがわかった。なお、本発明では溶接方法の種類を限定しないが、特にアーク溶接の場合に良好な結果が得られる。他の溶接方法でも本発明が開示する技術的メカニズムに基づき遜色のない効果が得られる。
【0029】
上述のとおり、母材の成分設計の最適化と溶接金属の形状制御により、排気系部品としての耐久性を1050℃で耐えられるものにすることを可能であることが分かった。
【0030】
本発明は上記の知見に基づきなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0031】
(1)質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:1.0%〜4.0%、Mn:0.5〜3.5%、P:0.010〜0.040%、S:0.0001〜0.010%、Cr:20〜30%、Ni:8〜25%、Mo:0.01〜1.5%、Al:0.001〜0.10%、及びN:0.13〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、Cr、Mo、Si、C、及びNの含有量がCr+20Mo≧24.0%、及びSi+20C+15N≧5.8%を満たすステンレス鋼板を母材として用いた溶接構造を有し、溶接部における板厚変化の勾配が15度以下であることを特徴とする排気系部品。
【0032】
(2)前記ステンレス鋼板が、さらに、質量%で、Cu:0.1〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Ti:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜0.3%、B:0.0001〜0.0050%、及びCa:0.001〜0.010%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)の排気系部品。
【0033】
(3)前記ステンレス鋼板が、さらに、質量%でW:0.01〜3.00%、Zr:0.05〜0.30%、Sn:0.01〜0.10%、Co:0.01〜0.30%、及びMg:0.0002%〜0.010%の1種又は2種以上を含有することを特徴とする前記(1)又は(2)の排気系部品。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、排気系部品用ステンレス鋼板及び排気系部品の耐酸化性を高めることが可能であり、また、鋼板に表面疵が生じることが少ないために、薄板製造時の表面研削工程(CG)を省略、あるいは簡略化することが可能である。耐酸化性を高めることにより、排気系部品の板厚を薄くすることが可能になり、部品の軽量化により、自動車の燃費向上の効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、薄板の1050℃の耐断続酸化特性に及ぼす成分の影響を示すグラフである。
図2図2は、重ね隅肉溶接された溶接金属の断面における板厚変化形状を示す。上段は溶接部における板厚変化の勾配が11度、下段は同勾配が25度の場合を示す。
図3図3は、板厚変化の勾配が1050℃の耐酸化性(板厚減少)に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について説明する。まず、本実施形態のステンレス鋼板の鋼組成を限定した理由について説明する。なお、組成についての%の表記は、特に断りのない場合は、質量%を意味する。
【0038】
C:0.05〜0.15%
Cは、オーステナイト組織の安定と高温強度を高めるために有効である。また、Crと炭化物を形成しオーステナイト粒の成長を抑制して粒界酸化を適度に成長させ、耐スケール剥離特性を向上させる。この効果は0.05%以上のCで発現することから、下限を0.05%とする。粒成長を安定的に抑制するためには0.10%以上にすることが望ましい。0.15%超では、Cr炭化物の量が増えて、粒界のクロム欠乏層が増加し、本鋼の様な高Crオーステナイト系ステンレス鋼であっても、自動車のエキゾーストマニホールド部材やターボチャージャー部品としても必要とされる耐食性が維持できなくなるため、上限を0.15%以下とする。耐食性の観点からは0.12%以下にすることが望ましい。
【0039】
Si:1.0%〜4.0%
Siは耐酸化性に効果があり、とくに断続酸化におけるスケール剥離の防止に効果がある。1000℃を超える環境で粒界酸化を形成し、表面のスケール剥離を抑制するためには1.0%以上のSiが必要である。耐酸化性を高めるためには2.0%以上にすることが望ましい。またSiはフェライト安定化元素であり、凝固組織におけるδフェライト量を増加させ、熱間圧延において熱間加工性の低下が問題になるため、4.0%以下にする。そのほか、Siはシグマ層の生成も促進し高温長時間使用時の脆化も危惧されるため3.5%以下にすることが望ましい。
【0040】
Mn:0.5〜3.5%
Mnは、脱酸剤として添加される元素であるとともに、オーステナイト単相域を拡大し組織の安定化に寄与する。その効果は0.5%以上で明確に現れるため0.5%以上とする。また硫化物を形成し、鋼中の固溶S量を低減することで熱間加工性を向上させる効果もあることから、1.0%以上とすることが望ましい。一方、過度の添加は耐食性を低下させることから3.5%以下とする。また耐酸化性の点ではCr23主体の酸化物が望ましく、Mnの酸化物は好ましくないため、2.0%以下にすることが望ましい。
【0041】
P:0.010〜0.040%
Pは、原料である溶銑やフェロクロム等の主原料中に不純物として含まれる元素である。熱間加工性に対しては有害な元素であるため、0.040%以下とする。なお、好ましくは0.030%以下である。過度な低減は高純度原料の使用を必須にするなど、コストの増加に繋がるため、0.010%以上とする。経済的に好ましくは、0.020%以上にすることが望ましい。
【0042】
S:0.0001〜0.010%
Sは、硫化物系介在物を形成し、鋼材の一般的な耐食性(全面腐食や孔食)を劣化させるため、その含有量の上限は少ないほうが好ましく、0.010%とする。また、Sの含有量は少ないほど耐食性は良好となるが、低S化には脱硫負荷が増大し、製造コストが増大するので、その下限を0.0001%とするのが好ましい。なお、好ましくは0.001〜0.008%である。
【0043】
Cr:20〜30%
Crは、本発明において、耐酸化性や耐食性確保のために必須な元素である。20%未満では、これらの効果は発現せず、一方で、30%超ではオーステナイト単相域が縮小し、製造時の熱間加工性を損ねるため、20〜30%とする。なお、耐酸化性の観点からは24%以上にすることが望ましい。また、Cr量を高くするとシグマ相の形成により脆化するため、27%以下にすることが望ましい。
【0044】
Ni:8〜25%
Niは、オーステナイト相を安定化させる元素であり、Mnと異なって耐酸化性に有効な元素である。これらの効果は8%以上で得られるため、下限を8%以上とする。シグマ相の生成を抑制する効果もあるので10%以上にすることが望ましい。一方、過度な添加は凝固割れ感受性を高めると共に、熱間加工性も低下させるために、25%以下とする。更に、断続酸化におけるスケール剥離を抑制するためには、15%以下にすることが望ましい。
【0045】
Mo:0.01〜1.5%
MoもSiやCrと共に、表面の保護性スケール形成に有効であり、その効果は0.01%で得られることから、その下限を0.01%以上とする。また耐食性の向上にも有効な元素であることから、0.3%以上添加することが望ましい。一方、フェライト安定化元素でもあり、Mo添加量が増えるとNiの添加も増やす必要が生じるため、過度な添加は好ましくない。また、シグマ相の形成を促進して脆化を生じることがあるため、1.5%以下とする。耐食性や耐酸化性の向上効果は0.8%以上でほぼ飽和するために、0.8%以下にすることが望ましい。
【0046】
Al:0.001〜0.10%
Alは、脱酸元素として添加される他、耐酸化性を向上させる元素である。その効果は0.001%以上で得られるため、下限を0.001%以上にする。脱酸効率を高めるためには0.003%以上にすることが望ましい。一方、過度な添加は窒化物を形成して固溶N量を低下させ、高温強度が低下するために、上限を0.10%以下とする。溶接性も考慮すると0.05%以下とすることが望ましい。
【0047】
N:0.13〜0.50%
Nは、本発明において非常に重要な元素のひとつである。Cと同様に高温強度を上げるほか、オーステナイト安定度を上げることで、Niの低減も可能になる。またCよりも鋭敏化による耐食性低下影響が小さいため、Cよりも多量の添加が可能である。高温環境に耐える高温強度を得るために、0.13%以上とする。Niの低減効果も考慮すると、0.25%以上にすることが望ましい。一方多量に添加すると、製鋼工程で凝固時に気泡系欠陥が生じるために、上限を0.50%以下とする。その他にも、常温における強度が高すぎて冷間圧延時の負荷が高くなり、生産性を損なうため、0.30%以下にすることが望ましい。
【0048】
[Cr+20Mo≧24.0%、かつSi+20C+15N≧5.8%]
1050℃で耐酸化性を発揮するためには、表面に保護性の高い酸化スケールを形成するとともに、断続酸化時のスケール剥離を抑制するために、スケール下のオーステナイト相に於いて、Si酸化物による粒界酸化を形成させることが必要である。そのためには、各元素を先の条件範囲にするだけでは不十分であり、保護性の高いスケールを形成させるために、Cr及びMoの含有量をCr+20Moを24%以上とし、オーステナイトの粒成長を抑制し、かつ粒界酸化を形成させるためにはSi、C、及びNの含有量を、Si+20C+15Nを5.8%以上とすることが必要である。Cr+20Moは27.0%以上がより好ましく、30.0%以上がさらに好ましい。Si+20C+15Nは7.0%以上がより好ましく、8.5%以上がさらに好ましい。
【0049】
[母材と溶接金属との板厚変化の勾配を15度以下]
自動車のエキゾーストマニホールドやターボチャージャーなどの排気系部品の多くが溶接構造を有している。母材と溶接金属の板厚差が大きいと、加熱冷却時の温度差により熱歪を生じ、高温時に表面に生成したスケールが剥離しやすくなり、繰り返し加熱時に表面が保護されず酸化による板厚減少が進行する。母材と溶接金属との板厚変化の勾配が小さいほど熱歪が緩和するが、板厚変化の勾配が15度以下になると、耐酸化性の改善効果が大きくなるため、15度以下とした。耐酸化性をより高めるためには、板厚変化の勾配を10度以下に低減することが望ましい。
【0050】
また、本発明のステンレス鋼板には、上記元素に加えて、Cu:0.1〜3.0%、V:0.03〜0.5%、Ti:0.001〜0.3%、Nb:0.001〜0.3%、B:0.0001〜0.0050%、Ca:0.001〜0.010%の1種又は2種以上を任意で添加してもよい。
【0051】
Cu:0.1〜3.0%
Cuは、オーステナイト安定化元素としてNiを代替する、相対的に安価な元素である。さらに、隙間腐食や孔食の進展抑制に効果があり、そのためには0.1%以上添加することが望ましい。ただし、オーステナイト系ステンレス鋼の製造において、Cuはスクラップ等の原料から混入することが多く、不可避的に不純物として0.2%程度含まれることが多い。ただし、3.0%を超えると熱間加工性を低下させるため3.0%以下とする。
【0052】
V:0.03〜0.5%
Vは、ステンレス鋼の合金原料に不可避的不純物として混入し、精錬工程における除去が困難であるため、一般的に0.01〜0.10%の範囲で含有される。また、微細な炭窒化物を形成し、粒成長抑制効果を有するため、必要に応じて、意図的な添加も行われる元素である。その効果は0.03%以上の添加で安定して発現するため、下限を0.03%とする。Vの変動により、結晶粒径が変化することは好ましくないので、結晶粒径の一定範囲に造りこむためには、0.08%以上にすることが望ましい。一方、過剰に添加すると、析出物の粗大化を招くおそれがあり、その結果、焼入れ後の靭性が低下してしまうため、上限を0.5%とする。なお、製造コストや製造性を考慮すると、0.2%以下にとすることが望ましい。
【0053】
Ti:0.001〜0.3%
Tiは、Nbと同様に炭窒化物を形成することで、ステンレス鋼におけるクロム炭窒化物の析出による鋭敏化や耐食性の低下を抑制する元素である。しかしながら、大型の製鋼介在物を形成することで、表面疵の原因になりやすいため、その上限は0.3%以下とする。固溶C、N量の確保による高温強度向上を考慮すると、0.01%以下にすることが望ましい。Tiは含有していなくても良い。
【0054】
Nb:0.001〜0.3%
Nbは、炭窒化物を形成することで、ステンレス鋼におけるクロム炭窒化物の析出による鋭敏化や耐食性の低下を抑制する元素である。しかしながら、大型の製鋼介在物を形成することで、表面疵の原因になりやすいため、その上限は0.3%とする。固溶C、N量の確保による高温強度向上を考慮すると、0.01%以下にすることが望ましい。Nbは含有していなくても良い。
【0055】
B:0.0001〜0.0050%
Bは、熱間加工性の向上に有効な元素であり、その効果は0.0001%以上で発現するため、0.0001%以上添加してもよい。より広い温度域における熱間加工性を向上させるためには、0.0005%以上とすることが望ましい。一方、過度な添加は熱間加工性の低下により、表面疵の原因となるため、0.0050%を上限とする。耐食性も考慮すると0.0025%以下が望ましい。
【0056】
Ca:0.001〜0.010%
Caは、脱硫元素として添加され、鋼中のSを低減して熱間加工性を向上させる効果がある。一般には、溶解精錬時のスラグ中にCaOとして添加させ、この一部が鋼中にCaとして溶解する。また、CaO−SiO2−Al23−MgOなどの複合酸化物としても鋼中に含有される。熱間加工性の改善効果は0.001%から得られるために、0.001%以上にすることが望ましい。一方、多量に含有すると比較的粗大な水溶性介在物CaSが析出し、耐食性を低下させるために0.010%以下にすることが望ましい。
【0057】
さらに、上記元素に加えて、W:0.01〜3.00%、Zr:0.05〜0.30%、Sn:0.01〜0.10%、Co:0.01〜0.30%、Mg:0.0002〜0.010%の1種又は2種以上を任意で添加してもよい。
【0058】
W:0.01〜3.0%
Wは、CrやMoと同様に耐食性を向上させる元素である。また固溶強化により高温強度を高める効果もある。これらの効果を発現するためには、0.01%以上添加することが望ましい。一方、シグマ相の析出を促進する元素であり、時効脆化による材料の強度低下を生じるために、3.0%以下にすることが望ましい。また、Mo、Nbと同様に高価な元素であるため、1.5%以下にすることがより好ましい。
【0059】
Zr:0.05〜0.30%
Zrは、Ti、Nbと同様に炭窒化物を形成することで、ステンレス鋼におけるクロム炭窒化物の析出による鋭敏化や耐食性の低下を抑制する元素である。しかしながら、大型の製鋼介在物を形成することで、表面疵の原因になりやすいため、その上限は0.30%以下とする。固溶C、N量の確保による高温強度向上を考慮すると、0.1%以下にすることが望ましい。Zrは含有していなくても良い。
【0060】
Sn:0.01〜0.10%
Snは、焼入れ後の耐食性向上に有効な元素であり、必要に応じて0.02%以上添加する事が好ましい。ただし、過度な添加は熱延時の耳割れを促進するため、0.10%以下にすることが好ましい。
【0061】
Co:0.01〜0.30%
Coは、オーステナイト系ステンレス鋼においては、合金原料から不可避的不純物として混入しやすい元素である。また高温強度の向上に有効な元素であるために、0.01%以上添加することが望ましい。ただし、過度な添加は熱間加工性の低下による表面疵の原因となるために、0.30%以下にすることが望ましい。
【0062】
Mg:0.0002〜0.010%
Mgは、Caと同様に脱硫元素として添加され、一般にはスラグ中から溶鋼中に平行量が固溶するほか、複合酸化物中にMgOとして含有される場合もある。また耐火物中のMgOが溶鋼中に溶け出す場合もある。脱硫効果は0.0002%以上で現われるため、下限を0.0002%とすることが望ましい。一方、過度な添加は、水溶性介在物MgSが粗大析出し、耐食性を低下させるため、0.010%以下にすることが望ましい。
【0063】
成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物とは、本発明で規定する成分組成を有するステンレス鋼板を工業的に製造する際に、原料や製造環境等から、意図的に含有させたものではなく、不可避的に混入するものをいう。
【0064】
上述した任意で添加される元素も、含有を意図しなくとも不可避的不純物として混入する場合があるが、上述した含有量の上限以下であれば特に問題はない。また、上述した以外の元素も、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることが出来る。
【0065】
上述した成分組成を有することにより高い耐酸化性を発揮するステンレス鋼板を得ることができる。さらに、上述した溶接形状を有することにより、母材と溶接部の耐酸化性がともに優れる排気系部品を得ることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明の効果を説明するが、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0067】
まず、表1に示す成分組成の鋼を溶製して200mm厚のスラブに鋳造した。このスラブを1200℃に加熱後、粗熱延、仕上熱延を経て板厚4mmの熱延鋼板とし、800℃の温度域での巻取りをシミュレーションするために、800℃の熱処理炉に挿入し、1時間保持後空冷した。引き続き、熱延板焼鈍を、1100℃で20秒行った後、水冷した。その後、ショットブラストし、酸洗してスケールを除去した。表面疵の有無を肉眼及び倍率10倍のルーペで観察して評価した。肉眼又はルーペ観察のいずれかで表面疵が確認できるものを不合格とした。
【0068】
その後、冷間圧延を行って板厚を1.2mmにした後、冷延板焼鈍を1100℃で20秒行った。表面の酸化皮膜をソルトで改質し、硝弗酸で酸洗して酸洗肌とした。
【0069】
冷延板の高温強度を1000℃で測定し、0.2%耐力が30MPa以上であるものを合格とした。また、700℃で300時間酸化させたあと、表面を研磨した薄板を作成し、割れが生じたものを高温脆化で不合格とした。
【0070】
また、この薄板をJISの塩水噴霧試験に供して、さびが発生したものを耐食性不合格とした。耐酸化性の評価には、酸洗ままの平板と平板を重ね隅肉溶接した試験片で行った。酸化試験の雰囲気は、HOが5〜10%、Oが0.2〜1.0%で残部が窒素となる雰囲気で行った。雰囲気ガス組成は、自動車排気ガスを模擬して周期的な変化を加えた。試験片を1050℃に加熱、保持、200℃まで冷却を1サイクルとして2500サイクルまで試験を行って、外観を記録するとともに、重量変化を測定した。最も酸化が進んだ場所を記録するとともに、その部分の板厚を評価し、0.8mm以上を耐酸化性が良好(○)とした。
【0071】
比較例として、組成及び溶接部形状が本発明外になるサンプルについても同様の評価を行った。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表1、2から明らかなように、本発明で規定する成分組成、成分パラメータを有する本発明例では、母材の耐酸化性が良好であり、表面疵、高温強度及び高温脆化が合格であり、耐食性も良好であった。特に、NO.1〜NO.30は溶接ビード形状を本発明範囲に制御した結果、母材のみならず、溶接部の耐酸化性も良好な結果となった。一方、本発明から外れる成分組成では、耐酸化性が不良であるほか、表面疵、高温強度、高温脆化、耐食性及び耐酸化性の各特性を両立させることが困難であり、比較例において、いずれかの特性が不合格であった。これにより、比較例は本発明例よりも特性が劣ることが分かる。
【0075】
具体的には、試験NO.31はCが低いため、NO.33はSiが低いため、NO.36はMnが高いため、NO.43はMoが低いため、NO.45はVが高いため、NO.49、53はCr+20Moが低いか、Si+20C+15Nが低いために、母材、溶接部共に耐酸化性不良であった。NO.32はCが高いために耐食性が不良であった。
【0076】
NO.34はSiが高いため、NO.35はMnが低いため、NO.37はPが高いため、NO.42はNiが高いため、NO.48はNが高いために、表面疵が発生し、不良であった。NO.38はSが高く、Alが低いために表面疵が不良であり、耐食性も不良であった。NO.39はCrが低く、Cr+20Moが低いために、表面疵が不良であり、母材と溶接部の耐酸化性も不良であった。
【0077】
NO.40はCrが高く、NO.41はNiが低く、NO.44はMoが高いために、高温脆化が不良であった。NO.46はAlが高く、NO.47はNが低いために、高温強度が不良であった。
【0078】
また、NO.49は、Moを含まず、これにも起因して、Cr+20Moが低いために、母材と溶接部の耐酸化性が、共に不良であった。
NO.50〜52、54、55は溶接部における板厚変化の勾配が大きかったために、溶接部の耐酸化性が不良であった。
【0079】
これらのうち、NO.50〜52は、供試鋼として本発明の規定を充足しているA23を使用した。そのため、NO.50〜52は溶接部の耐酸化性のみが不良であるが、母材の耐酸化性をはじめとする他の性状、性能は満足できるものであったので、溶接が不要である部品には適用が可能である。
【0080】
また、NO.55は、使用した供試鋼がB20であって、Cr+20C+15Nの値が5.60となり、本発明で規定する下限値に満たないことから、母材と溶接部の耐酸化性に関して不良であった。
【0081】
NO.54、55は溶接部における板厚変化の勾配が大きい上に、供試鋼B3のSiが低かったために、溶接部に加えて、母材の耐酸化性も不良であった。
【0082】
これらの結果から、上述した知見を確認することができ、また、上述した各鋼組成及び校正を限定する根拠を裏付けることができた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の断続酸化特性に優れた排気系部品用ステンレス鋼板及び排気系部品は、耐酸化性を高める成分設計とともに、溶接部の形状制御により溶接熱影響部の耐酸化性を高めることが可能である。また、表面疵が少ないために薄板製造時の表面研削工程(CG)を省略、あるいは簡略化することが可能である。さらに、耐酸化性を高めることで、排気系部品の板厚を薄くすることが可能になり、部品の軽量化により、自動車の燃費向上の効果も得られるので、社会的な意味合いは大きく、本発明の産業上の利用可能性は大きい。
図1
図2
図3