特許第6239230号(P6239230)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239230
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】タービンロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20171120BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20171120BHJP
   B23K 33/00 20060101ALI20171120BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20171120BHJP
   F01D 5/06 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B23K31/00 L
   B23K9/00 501E
   B23K9/00 501G
   B23K33/00 A
   F01D25/00 X
   F01D25/00 F
   F01D5/06
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-266779(P2012-266779)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-111274(P2014-111274A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年11月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西本 慎
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】川崎 憲治
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】内山 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】郡 佳伸
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−108883(JP,A)
【文献】 特開2001−047232(JP,A)
【文献】 特開2003−344313(JP,A)
【文献】 特開2011−177790(JP,A)
【文献】 特開平06−032669(JP,A)
【文献】 特開2011−059790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 9/00
B23K 33/00
G01N 23/04
F01D 5/06
F01D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータに適用される第1のディスク及び第2のディスクのうち少なくとも一方に凹溝を形成する溝形成ステップであって、前記第1のディスク及び前記第2のディスクの各々は、動翼を支持可能な本体及び前記本体から軸線方向に突出する環状部を有し、前記第1のディスク及び前記第2のディスクの環状部は前記軸線方向にて先端に継手面を有し、前記継手面は相互に当接可能な突合せ面及び前記突合せ面よりも径方向外側に外周溝を形成可能な開先部を有し、前記凹溝は、前記第1のディスク及び前記第2のディスクのうち一方又は両方の環状部の先端側且つ内周側に、前記環状部の周方向に沿って延びるよう形成される、溝形成ステップと、
前記外周溝を通じて前記突合せ面同士を初層溶接し、溶込み部を形成する初層溶接ステップと、
前記初層溶接ステップの後、前記環状部の径方向にて外側から前記溶込み部に対しX線を照射し、前記溶込み部を透過したX線によって感光用フィルムに像を形成させる撮像ステップと、
前記撮像ステップで得られた像に基づいて、前記溶込み部における溶け込み不足の有無を判定する判定ステップと、
前記判定ステップで溶け込み不足が無いと判定されたときに、前記溶込み部の周囲にて前記開先部同士を溶接する2次溶接ステップと、
前記判定ステップで溶け込み不足が有ると判定されたとき、前記溶込み部を修復する修復ステップと
を備え、
前記撮像ステップは、
前記環状部の径方向にて外側に、前記X線を照射するためのX線発生装置を配置するX線発生装置配置ステップと、
前記環状部の周方向にて前記X線発生装置とは180°反対側に位置する前記環状部の部分の外周面に前記感光用フィルムを配置する感光用フィルム配置ステップと、
前記X線発生装置から前記溶込み部に対し前記X線を照射し、前記環状部の周方向にて前記X線発生装置とは180°反対側に位置する前記溶込み部の部分の像のみを前記感光用フィルムに形成させる感光ステップと
を含み、
前記X線発生装置配置ステップ、前記感光用フィルム配置ステップ及び前記感光ステップを、前記溶込み部における溶け込み不足の有無を判定するため、前記溶込み部の全周の像を得るべく複数回実行する、
ことを特徴とするタービンロータの製造方法。
【請求項2】
前記第1のディスクの環状部に、前記突合せ面に段差を形成するよう前記軸線方向に突出する第1の凸部を形成するとともに、前記第2のディスクの環状部に、前記突合せ面に段差を形成するよう前記軸線方向に突出し且つ前記第1の凸部よりも小径の第2の凸部を形成する凸部形成ステップと、
前記初層溶接ステップの前に、前記第1の凸部及び前記第2の凸部を同心上に相互に嵌合させる突合せステップと
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のタービンロータの製造方法。
【請求項3】
前記凹溝は、前記第2のディスクの環状部にのみ形成され、前記第2の凸部の径方向内側に位置している
ことを特徴とする請求項2に記載のタービンロータの製造方法。
【請求項4】
前記凹溝の断面積は、前記初層溶接ステップが失敗したとき、前記判定ステップで前記凹溝の存在を確認可能な大きさであって、且つ、前記初層溶接ステップが成功したときに、前記初層溶接により埋めることが可能な大きさに設定されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載のタービンロータの製造方法。
【請求項5】
タービンロータに適用される第1のディスク及び第2のディスクを準備する工程であって、前記第1のディスク及び前記第2のディスクの各々は、動翼を支持可能な本体及び前記本体から軸線方向に突出する環状部を有し、前記第1のディスク及び前記第2のディスクの環状部は前記軸線方向にて先端に継手面を有し、前記継手面は相互に当接可能な突合せ面及び前記突合せ面よりも径方向外側に外周溝を形成可能な開先部を有し、前記第1のディスク及び前記第2のディスクのうち一方又は両方の環状部の先端側且つ内周側に、前記環状部の周方向に沿って延びる凹溝が形成されている、準備ステップと、
前記外周溝を通じて前記突合せ面同士を初層溶接し、溶込み部を形成する初層溶接ステップと、
前記初層溶接ステップの後、前記環状部の径方向にて外側から前記溶込み部に対しX線を照射し、前記溶込み部を透過したX線によって感光用フィルムに像を形成させる撮像ステップと、
前記撮像ステップで得られた像に基づいて、前記溶込み部における溶込み不足の有無を判定する判定ステップと、
前記判定ステップで溶け込み不足が無いと判定されたときに、前記溶込み部の周囲にて前記開先部同士を溶接する2次溶接ステップと、
前記判定ステップで溶け込み不足が有ると判定されたとき、前記溶込み部を修復する修復ステップと
を備え、
前記撮像ステップは、
前記環状部の径方向にて外側に、前記X線を照射するためのX線発生装置を配置するX線発生装置配置ステップと、
前記環状部の周方向にて前記X線発生装置とは180°反対側に位置する前記環状部の部分の外周面に前記感光用フィルムを配置する感光用フィルム配置ステップと、
前記X線発生装置から前記溶込み部に対し前記X線を照射し、前記環状部の周方向にて前記X線発生装置とは180°反対側に位置する前記溶込み部の部分の像のみを前記感光用フィルムに形成させる感光ステップと
を含み、
前記X線発生装置配置ステップ、前記感光用フィルム配置ステップ及び前記感光ステップを、前記溶込み部における溶け込み不足の有無を判定するため、前記溶込み部の全周の像を得るべく複数回実行する、
ことを特徴とするタービンロータの製造方法。
【請求項6】
前記第1のディスクの環状部に、前記突合せ面に段差を形成するよう前記軸線方向に突出する第1の凸部を形成するとともに、前記第2のディスクの環状部に、前記突合せ面に段差を形成するよう前記軸線方向に突出し且つ前記第1の凸部よりも小径の第2の凸部を形成する凸部形成ステップと、
前記初層溶接ステップの前に、前記第1の凸部及び前記第2の凸部を同心上に相互に嵌合させる突合せステップと
を更に備えることを特徴とする請求項5に記載のタービンロータの製造方法
【請求項7】
前記凹溝は、前記第2のディスクの環状部にのみ形成され、前記第2の凸部の径方向内側に位置している
ことを特徴とする請求項6に記載のタービンロータの製造方法。
【請求項8】
前記凹溝の断面積は、前記初層溶接ステップが失敗したとき、前記判定ステップで前記凹溝の存在を確認可能な大きさであって、且つ、前記初層溶接ステップが成功したときに、前記初層溶接により埋めることが可能な大きさに設定されることを特徴とする請求項5乃至7の何れか一項に記載のタービンロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を用いて溶接継手の溶け込み不足の有無を非破壊的に検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンのロータにおいては、蒸気の高温化に伴い、高温の蒸気に曝される高温部及び低温蒸気に曝される低温部などの部位は、夫々の置かれた環境に適した材料で製造され、互いに溶接で接合されているものがある。例えば、高温部は高耐熱鋼で構成され、低温部は低合金鋼で構成されている。図8は、蒸気タービンの一般的な構成を示す。図8において、蒸気タービン1は、支持軸3を有する両端が円筒形の分割中空ディスク5の間に、複数の分割中空ディスク7が嵌め合わされ、互いに隣接する分割中空ディスク5及び7の当接部は、溶接継手部Wで接合されている。このように、分割中空ディスク5及び7を溶接して製造された蒸気タービン1では、溶接継手部Wの溶接状態を検査することが重要となる。なお、図1に示すように、蒸気タービン1の内部には内側空間Iが形成されている。
【0003】
図9は、従来の溶接継手部Wの溶接方法を示す。図9(A)において、夫々異なる材質からなる中空ディスクを構成する母材100及び200の継手面には、母材100の開先部102と、母材200の開先部202と、母材100の突合せ面104と母材200の突合せ面204とが形成されている。図9(A)に示すように、開先部102及び202は外側空間O側に形成され、突合せ面104及び204は内側空間I側に形成されている。そして、外側空間Oから溶接トーチ300を開先部102と開先部202の間で位置決めする。
【0004】
次に、図9(B)に示すように、溶接トーチ300で突合せ面104及び204を溶け込ますと共に、開先部102及び202に1パスずつ肉盛り溶接を行う。溶接後、突合せ面104及び204に形成された溶込み部Mの溶け込み不足の有無を検査する必要がある。しかし、溶込み部Mは外側空間Oから目視できない。そのため、母材100(又は母材200)に検査孔106を穿設し、外側空間Oから検査孔106に、矢印a方向に図示しないボアスコープを内側空間Iに挿入する。あるいはアクセスが可能な場合は、内側空間Iの軸方向(矢印b方向)から溶込み部Mまでボアスコープを挿入する。そして、ボアスコープにより目視で、溶込み部Mが完全に溶け込んでいることを確認する。この検査は、1パス溶接(初層溶接)の直後に行ったほうが、溶け込み不足を確認した後の補修作業が容易になる。
【0005】
特許文献1には、蒸気タービンロータの溶接継手部に前記の検査方法を行うことが開示されている。また、特許文献1には、検査孔から内側空間IにX線源を挿入し、溶接継手部の放射線透過試験を行って、溶接継手部の溶接状態を検査することが開示されている。また、特許文献2には、蒸気タービン等のロータを溶接する場合に、溶接トーチにビデオ装置を組み込み、溶接部を視覚的に監視することが開示されている。また、特許文献3には、蒸気タービンロータ等を溶接する場合に、継手面に開先と突合せ面が形成され、該突合せ面に互いに相補的に嵌合して、2つの母材の継手面を位置決めする凹凸部が形成されていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−108883号公報
【特許文献2】特開2010−201507号公報
【特許文献3】特開2011−177790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の検査方法では、外側空間Oからボアスコープを溶接継手部Wまで挿入できる検査孔や内側空間Iを必要とする。しかし、このような内側空間Iは常に存在するものではない。また、母材に検査孔を穿設すると、母材の強度が低下するため、検査孔周囲の母材の強度を配慮した構造検討が必要となる。また、検査孔から母材の内部に蒸気等の異物が入り込むことで、蒸気タービン等、母材が構成する装置の運転に支障をきたすおそれが出てくる。
【0008】
なお、特許文献1に開示されているように、検査孔にX線源を挿入して行う放射線透過試験では、感光用フィルムに写った透過X線の像で突合せ面の残存状態を確認し、これによって、突合せ面の溶け込み不足の有無を確認する。しかし、突合せ面は感光用フィルムには写りにくく、さらに、感光用フィルムには、X線発生装置から遠い側の部位が写るため、感光用フィルムから突合せ面の有無を確認するのは困難である。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、母材に検査孔を穿設することなく、目視できない場所に位置する突合せ面に対して、検査が可能になる溶接継手の検査方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明の溶接継手の検査方法は、2つの母材間に形成される溶接継手の検査方法であって、2つの母材間に形成される継手面に開先部と突合せ面とが形成され、突合せ面の一端に母材の表面に開口する凹溝を予め形成する溝形成ステップと、開先部に対して少なくとも1パスの肉盛り溶接を行った後、開先部形成側から放射線を継手面に向けて照射する放射線照射ステップと、継手面を透過した放射線によって感光用フィルムに像を形成させ、該像に基づいて溶接継手における溶け込み不足の有無を判定する判定ステップとからなるものである。
【0011】
本発明では、前記凹溝を予め形成しておき、溶接後に前記放射線照射ステップを行う。そして、凹溝の有無を感光用フィルムに形成される像で確認する。突合せ面と違って凹溝の有無は該像で明瞭に確認できる。凹溝が確認できたときは溶け込み不足と考えられ、凹溝が確認できないときは突合せ面が完全に溶け込んでいると考えられる。これによって、検査孔を穿設する必要がなくなり、前記問題を解消できる。なお、放射線照射ステップは、1パス溶接(初層溶接)の直後に行ったほうが、溶け込み不足を確認した後の補修作業が容易になる。
【0012】
本発明において、凹溝の断面積は、判定ステップで得られる像によって識別可能な大きさを下限とし、かつ1パスの肉盛り溶接で埋めることが可能な大きさを上限とするのがよい。これによって、放射線照射による溶接後の凹溝の有無を確認できると共に、溶接により凹溝を埋めることができるので、母材の強度面等に及ぼす影響を解消できる。
凹溝の横断面形状は、円弧状より矩形状のほうが凹溝の輪郭を、放射線照射によって得られる画像に明瞭に写すことができる。凹溝が矩形状のとき、例えば、開口の長さが0.3mm以上0.5mm以下であり、奥行き長さが0.2mm以上1.0mm以下にすれば、前記条件を満たすことができる。
【0013】
本発明において、凹溝は一方の母材の継手面にのみ形成されているとよい。これによって、凹溝の加工が容易になる。また、継手面に、前記凹溝に隣接して互いに相補的に嵌合する凹凸部が形成されているとよい。これによって、2つの母材間で継手面の位置決めが容易になる。
【0014】
2つの母材が夫々中空筒形を有し、継手面を介して軸方向に溶接されるものであるとき、本発明を適用することで、検査孔を穿設することなく中空筒型の内側空間に面して形成される突合せ面の溶け込み不足の有無を検査できる。例えば、複数の中空円筒体を継手面を介して軸方向に溶接されてなるタービン用溶接ロータに適用すれば、検査孔を穿設することなく継手面に形成される突合せ面の溶け込み不足の有無を検査できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶接継手面において、直接目視できない突合せ面の溶け込み不足の有無を、母材に検査孔を穿設することなく検査できるので、検査孔を加工する余分な作業を要せず、かつ母材の強度を阻害せず、さらに、母材の内側空間の気密を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係る溶接継手部の断面図である。
図2図1の一部拡大断面図である。
図3図2中のA部の拡大断面図である。
図4】第1実施形態に用いられる感光用フィルムの断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る溶接継手部の断面図である。
図6】本発明の第3実施形態に係り、(A)は溶接前の溶接継手面の断面図であり、(B)は溶接後の溶接継手部の断面図である。
図7】(A)は前記第3実施形態に係り、感光用フィルムに写った溶接前の溶接継手面の像であり、(B)は同じく溶接後の溶接継手面の像であり、(C)は凹溝が形成されていない溶接継手部の溶接前の像(比較例)を示す説明図である。
図8】蒸気タービンロータの正面視断面図である。
図9】従来の溶接方法を示し、(A)は溶接前、(B)は1パス溶接後の溶接継手面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0018】
(実施形態1)
本発明の第1実施形態を図1図4に基づいて説明する。図1は蒸気タービンロータを構成する分割中空ディスク10及び20を溶接継手部Wで溶接した後の状態を示す。蒸気タービンロータは、分割中空ディスク10及び20を含む複数の分割中空ディスクが軸方向に溶接されて構成されている。溶接継手部Wの内側に内側空間Iが形成されている。図2及び図3は、溶接前の継手面Wcを示す。
図2及び図3において、継手面Wcは、外側空間Oの側に開先部12及び22が形成され、内側空間Iの側に突合せ面14及び24が形成されている。突合せ面14及び24は、互いに当接している。
【0019】
図3に示すように、開先部12及び22とは反対側の突合せ面14及び24の一端に、内側空間Iに開口した環状の凹溝32が、分割中空ディスク10及び20の周方向に形成されている。凹溝32は、分割中空ディスク10の突合せ面14に形成された四角形の切欠き16と分割中空ディスク20の突合せ面24に形成された四角形の切欠き26とが対向配置されて形成されている。凹溝32は、突合せ面14及び24に対して対称な形状を有している。本実施形態では、凹溝32の軸方向開口長さXはX=0.3〜0.5mmであり、凹溝32の奥行YはY=0.2〜1.0mmの寸法を有している。
【0020】
図2に示すように、継手面Wcの溶接は、外側空間Oから開先部12及び22によって形成される溝に溶接トーチ30を配置し、溶接トーチ30を突合せ面14及び24に向ける。そして、分割中空ディスク10及び20を位置合わせした状態で回転させる。この状態で、溶接トーチ30によって開先部12及び22によって形成された溝に肉盛り溶接を行う。1パス溶接(初層溶接)で突合せ面14及び24に溶込み部を形成し、凹溝32を埋め込む。次に、10〜20パスの肉盛り溶接を行うことで、開先部12及び22を埋め込む。
【0021】
1パス溶接後に、図1に示すように、突合せ面14及び24の溶け込み不足の有無を検査するため、外側空間OにX線発生装置34を配置する。さらに、X線発生装置34に対して180°位相が異なる分割中空ディスク10及び20の外周面に、溶接継手部Wを跨る位置に、高温用フィルムカセット36を貼り付ける。
【0022】
図4に、高温用フィルムカセット36の構成を示す。高温用フィルムカセット36は、内側からテフロン(登録商標)プレート38と、断熱材からなる断熱プレート40と、溶接継手部Wを透過した放射線が感光される感光用フィルム42とが積層された構成を有している。試験体に放射線を透過すると、放射線は透過しながら試験体との相互作用により次第に弱くなる。溶接部の場合、ブローホールなどの欠陥を有する領域は、欠陥を有さない領域と比べ、放射線がよく透過する。その結果、ブローホールなどの欠陥を有する領域は感光用フィルム42上に黒い像として検出される。
【0023】
かかる構成において、X線発生装置34から溶接継手部Wに向けて照射されたX線は、溶接継手部Wを透過し、透過したX線は感光用フィルム42を感光させ、感光用フィルム42に像を形成する。感光用フィルム42には、X線発生装置34から遠い方の溶接継手部Wが写し出されるため、もし突合せ面14及び24に溶け込み不足があれば、感光用フィルム42に凹溝32の像が明瞭に写し出される。
【0024】
本実施形態によれば、突合せ面14及び24に溶け込み不足があるときは、凹溝32が感光用フィルム42に黒い像として明瞭に写し出されるため、突合せ面14及び24の溶け込み不足の有無を正確に把握できる。そのため、分割中空ディスク10や20に検査孔を穿設する必要がないので、検査孔を加工する余分な作業を要せず、かつ分割中空ディスク10や20の強度を阻害しない。
【0025】
また、内側空間Iを気密に保持でき、内側空間Iに蒸気が侵入して、蒸気タービンの運転に支障をきたしたり、あるいは運転効率を低下させるおそれがない。また、凹溝32の断面が矩形であるので、感光用フィルム42に凹溝32の像をより明瞭に写し出すことができる。さらに、凹溝32の断面が、前記寸法を有しているので、感光用フィルム42に凹溝32の像を鮮明に写し出すことができると共に、1パスの肉盛り溶接で凹溝32の埋め込みを確実に行うことができる。なお、1パス溶接後にX線照射を行うことで、溶け込み不足を確認した後の補修作業が容易になる。
【0026】
(実施形態2)
次に、本発明の第2実施形態を図5に基づいて説明する。本実施形態では、第1実施形態と同様に、開先部12及び22とは反対側の突合せ面14及び24の一端に、内側空間Iに開口した環状の凹溝44が、分割中空ディスク10及び20の周方向に形成されている。凹溝44は、分割中空ディスク20の突合せ面24のみに形成された四角形の切欠き46と分割中空ディスク10とを対抗配置させて形成されている。その他の構成は第1実施形態と同一である。本実施形態によれば、突合せ面24のみを加工することで、凹溝44を形成できるので、凹溝44の加工が容易である。
【0027】
(実施形態3)
次に、本発明の第3実施形態を図6及び図7に基づいて説明する。図6(A)において、本実施形態では、第2実施形態と同様に、内側空間Iに開口した凹溝44が、分割中空ディスク20の突合せ面24のみに形成された四角形の切欠き46と分割中空ディスク10とを対抗配置させて形成されている。さらに、凹溝44に加えて、凹溝44に隣接して凹溝44の奥側(外側空間O側)に、分割中空ディスク20の突合せ面に凸部48が形成され、分割中空ディスク10の突合せ面に凸部50が形成されている。これら凸部48及び凸部50は、互いに相補的に嵌合した形状を有している。
【0028】
図6(B)は、1パス目の肉盛り溶接P、2パス目の肉盛り溶接P及び3パス目の肉盛り溶接Pを行った溶接継手面Wcの状態を示す。1パスの肉盛り溶接Pにより、突合せ面に溶込み部Mが形成され、凹溝44が埋め込まれている。図7は、実際に感光用フィルム42に写し出された溶接継手部Wの像を示している。図7(A)は溶接前の像であり、図7(B)は1パス目の肉盛り溶接後の像である。図7(A)では、凹溝44の像S44が明瞭に写し出されている。一方、図7(B)では、何も写し出されておらず、突合せ面に溶込み部Mが形成され、凹溝44が埋め込まれていることがわかる。
【0029】
図7(C)は、比較例として示す溶接継手部Wの像である。この比較例は凹溝44を形成しない溶接継手部Wを感光用フィルム42に写し出した像である。図7(C)から突合せ面のラインがうっすらと微妙に確認できるが、周囲のほとんど見分けがつかない。これでは1パス目の肉盛り溶接後、溶込部Mが正常に形成されているかどうかを判定することは困難である。
【0030】
本実施形態によれば、第2実施形態と同様の作用効果が得られると共に、分割中空ディスク10、20の突合せ面に互いに相補的に嵌合する凸部48及び50が形成されているので、溶接継手部Wにおける内側空間Iのシール効果を高めることができる。また、凸部48及び50が形成されていることで、溶接時の分割中空ディスク10及び20間の位置決めが容易になるという利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、目視できない場所に位置する溶接継手面の突合せ面に対して、母材に検査孔を穿設することなく、溶接継手部の検査が可能になる。
【符号の説明】
【0032】
1 蒸気タービン
3 支持軸
5、7,10,20 分割中空ディスク
12,22,102,202 開先部
14,24、104,204 突合せ面
16,26、46 切欠き
30,300 溶接トーチ
32、44 凹溝
34 X線発生装置
36 高温用フィルムカセット
38 テフロン(登録商標)プレート
40 断熱プレート
42 感光用フィルム
48,50 凸部
100,200 母材
106 検査孔
I 内側空間
M 溶込み部
O 外側空間
、P、P 肉盛り溶接
W 溶接継手部
Wc 継手面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9