(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239233
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】一体型ブレーキを備える電気油圧式アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02K 7/102 20060101AFI20171120BHJP
F16D 55/28 20060101ALI20171120BHJP
F16D 65/12 20060101ALI20171120BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20171120BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20171120BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
H02K7/102
F16D55/28 Z
F16D65/12 Y
F16D65/16
F16D65/18
F16D55/28 B
B60T13/74 Z
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-289463(P2012-289463)
(22)【出願日】2012年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-135612(P2013-135612A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2015年12月22日
(31)【優先権主張番号】201110442141.5
(32)【優先日】2011年12月26日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】502458039
【氏名又は名称】ジョンソン エレクトリック ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン ブルキ
(72)【発明者】
【氏名】カリン クラッティンガー
【審査官】
津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−005265(JP,A)
【文献】
特開2003−083438(JP,A)
【文献】
米国特許第04987788(US,A)
【文献】
実公昭45−019937(JP,Y1)
【文献】
実開昭59−067634(JP,U)
【文献】
実開平02−040132(JP,U)
【文献】
特開平08−216846(JP,A)
【文献】
特開昭59−213256(JP,A)
【文献】
米国特許第04835695(US,A)
【文献】
米国特許第06483217(US,B1)
【文献】
特開平01−156162(JP,A)
【文献】
特開2008−044457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/102
B60T13/74
F16D55/28
F16D65/12
F16D65/16
F16D65/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧回路のための電気油圧式アクチュエータであって、
油圧シリンダと、前記油圧シリンダ内に摺動可能に収容されて前記油圧回路内の圧力を変更する作動ピストンを含むマスタシリンダと、
ステータ及びロータを備え、前記作動ピストンを前記油圧シリンダ内に駆動するように構成されるモータと、
前記ロータを前記ステータに対して選択的に及び解放可能に保持するように配置され、前記ロータと前記ステータとの間の相対運動を妨げるようになった電気機械式ブレーキと、
を備え、
前記電気機械式ブレーキは、前記ステータに対して固定される電磁石と、前記ロータと一緒に回転するように固定されるブレーキディスクとを備え、
前記ブレーキディスクは、該ブレーキディスクが前記ロータの軸線方向に移動することを可能にする弾性部材によって前記ロータに結合されるが、前記ブレーキディスクは、前記ロータと一緒に回転するように固定され、
前記電磁石がアクティブにされると、前記ブレーキディスクは前記弾性部材の弾性付勢に対抗して前記電磁石に磁気的に吸引され、前記電磁石が非アクティブにされると、前記弾性部材は前記ブレーキディスクを前記電磁石から離れるように付勢するアクチュエータ。
【請求項2】
前記モータが、ブラシレスDCモータ又はステッピングモータである、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記モータが、軸線に沿って直線的に移動する出力軸を有する、請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記電磁石が、鉄心と、該鉄心の周りに配置されて該鉄心に磁場を誘発するように構成されたコイルとを備える、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記電気機械式ブレーキが、摩擦面を更に備え、前記電磁石が、前記ブレーキディスクを付勢して前記摩擦面と接触させて前記ステータに対して前記ロータを保持するように構成される、請求項4に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記摩擦面が、鉄心上に形成される、請求項5に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記鉄心が、環状リングであり、前記モータに対抗する基部、前記ブレーキディスクに対抗する開放端部、及び前記基部と前記開放端部との間に延びてチャンネルを形成する2つの側面をもつU字型断面を有し、前記コイルがチャンネル内に配置される、請求項5又は6に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記ブレーキディスクが、前記電磁石が非アクティブの場合に、空隙を挟んで前記鉄心の開放端部と対向する、請求項7に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記ブレーキディスクが、前記ブレーキが非アクティブの場合に、空隙を挟んで前記鉄心の開放端部と対向し、前記ブレーキがアクティブの場合に、前記摩擦面に係合する、請求項7に記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気油圧式アクチュエータに関し、詳細には、一体型ブレーキを有する電気油圧式アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気油圧式アクチュエータは、油圧回路のマスタシリンダのプランジャを駆動するモータを含む。このような装置は、ブレーキシステム及びクラッチシステムなどの自動車用途に使用することができる。モータは、作動ピストンを油圧シリンダの中に直線的に動かし、これにより油圧回路全体の圧力が上昇する。作動時、圧力は比較的低いので、モータは、ピストンを動かすために必要なトルクを与えるために多くの電流(電力)を必要としない。作動終了時、物理的障害物が(ストロークの最後に)到達する、圧力が指数関数的に増大して高い値に達する。この高い圧力により、作動ピストン上に高い軸方向反力が発生するので、モータに大きな動力を供給することを必要とする、大きな保持トルクが必要となる。この保持トルクをモータによって与える必要がある場合、高い電流レベルを維持する必要があり、結果的にエネルギー消費及び熱放散が大きくなり最終的に過熱につながる場合もある。
【0003】
現在、自動車の構成要素が消費するエネルギーは、燃料を動力源とする車両の燃料消費又はバッテリを動力源とする車両のバッテリ充電寿命に直接影響を及ぼすので非常に重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、過熱することなく少ないエネルギー消費で、長時間にわたって高い保持トルクモードで作動できる電気油圧式アクチュエータに対する要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、前述の課題は、高い保持トルクを維持して、マスタシリンダがモータの逆駆動を防止して、保持モード時にはモータが駆動されないようになった、電気機械式ブレーキを有するモータを使用することで解決される。
【0006】
従って、1つの態様において、本発明は、油圧回路のための電気油圧式アクチュエータを提供し、アクチュエータは、油圧シリンダと、油圧シリンダ内に摺動可能に収容されて油圧回路内の圧力を変更する作動ピストンを含むマスタシリンダと、ステータ及びロータを備え作動ピストンを油圧シリンダ内に駆動するように構成されるモータと、ロータをステータに対して選択的に及び解放可能に保持するように配置され、ロータとステータとの間の相対運動を妨げるようになった電気機械式ブレーキとを備える。
【0007】
好ましくは、モータが、ブラシレスDCモータ又はステッピングモータである。
【0008】
好ましくは、モータが、軸線に沿って直線的に移動する出力軸を有する。
【0009】
好ましくは、電気機械式ブレーキが、ステータに対して固定される電磁石と、ロータと一緒に回転するように固定されるブレーキディスクとを備える。
【0010】
好ましくは、ブレーキディスクは、該ブレーキディスクがロータの軸線方向に移動することを可能にする弾性部材によってロータに結合されるが、ブレーキディスクは、ロータと一緒に回転するように固定される。
【0011】
好ましくは、電磁石が、鉄心と、該鉄心の周りに配置されて該鉄心に磁場を誘発するように構成されたコイルとを備える。
【0012】
好ましくは、電気機械式ブレーキが、摩擦面を更に備え、電磁石が、ブレーキディスクを付勢して摩擦面と接触させてステータに対してロータを保持するように構成される。
【0013】
好ましくは、摩擦面が、鉄心上に形成される。
【0014】
好ましくは、鉄心が環状リングであり、前記モータに対抗する基部、前記ブレーキディスクに対抗する開放端部、及び前記基部と前記開放端部との間に延びてチャンネルを形成する2つの側面をもつU字型断面を有し、前記コイルがチャンネル内に配置される。
【0015】
好ましくは、ブレーキディスクが、電磁石が非アクティブの場合に、空隙を挟んで鉄心の開放端部と対向する。
【0016】
好ましくは、ブレーキディスクが、ブレーキが非アクティブの場合に、空隙を挟んで鉄心の開放端部と対向し、ブレーキがアクティブの場合に、摩擦面に係合する
【0017】
本発明は、動作時間が非常に短いが保持モード時間が長い用途に対して特に有用である。特定の用途では、保持モード時間は、アクチュエータ作動時間の大部分である場合がある。従って、保持モード時にエネルギー消費を低減することはて非常に有利である。車両のブレーキアクチュエータの場合、デューティサイクルは、車両の運転時間の10%未満とすることができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態は、添付図面を参照して例示的に説明される。各図において、2つ以上の図面に現れる同じ構造体、要素、又は部品は、一般に全ての図で同じ参照番号を用いて表記される。図示の構成要素及び特徴部の寸法は、一般に、便宜的に明瞭化のために選択され、必ずしも縮尺通りでではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の好ましい実施形態による電気油圧式アクチュエータの断面図である。
【
図2】
図1のアクチュエータの一部であるブレーキ機構の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は部分的断面図であり、本発明の好ましい実施形態による電気油圧式アクチュエータ10を示す。アクチュエータ10は、マスタシリンダ12、モータ14、及びブレーキ16を含む。一般的に、マスタシリンダは、1つ又はそれ以上のスレーブシリンダを駆動するために、油圧回路(図示せず)に接続されるように構成される。スレーブシリンダは、クラッチ移動装置等の2つの操作位置を有しこの2つの位置の間で制御された動きを必要とするもの、又はブレーキシステムのブレーキパッド等のスレーブシリンダの動きがブレーキパッドに加えられる力の大きさ、従ってブレーキが与える摩擦量を変えるように制御される、押し込み作動をするものを動かすように構成される。いずれの場合も、マスタシリンダの作動ピストンに対して所定レベルのプッシュバックがあり、これは油圧回路が加える力が大きくなると増大する。
【0021】
マスタシリンダは、作動流体、油圧オイルを貯蔵するオイルタンクを有する。オイルタンクは、油圧シリンダと連通している。作動ピストン22は、ピストンの第1の端部が油圧シリンダ中に入るように、油圧シリンダに沿って摺動するように構成される。1つ又はそれ以上のシールは、油圧シリンダに対して作動ピストンをシールして、作動ピストンが油圧流体を圧縮した際に油圧流体が逃げるのを防止する。作動ピストン22は、油圧シリンダに入る第1の端部から遠く離れた第2の端部に設けられた拡大ヘッド又はフランジ24を有する。フランジは好ましくは、第2の端部に設けられるが、第1の端部と第2の端部の間に設けることもできる。しかしながら、フランジは、油圧シリンダ内に入らないので、フランジの位置が軸方向の作動ピストンの動き又はストロークに影響を与える場合がある。フランジは、1つ又はそれ以上のガイドピント26と協働してピストンをシリンダと位置合わせする。ガイドピン26は、作動ピストンをホーム位置又は休止位置に戻すための、フランジとマスタシリンダ12の本体との間に延びる伸縮バネ28を支持する。
【0022】
モータ14は、好ましくはスクリュー30によってマスタシリンダ12の本体に固定される。モータは、ブラシレスDCモータ又はステッピングモータである。モータのロータの回転運動は、ロータの回転軸線と位置合わせされたねじ付き出力軸32の直線運動に変換される。出力軸32は、休止位置から油圧シリンダ20の中にピストンを押し込み油圧回路に圧力をかけるように、作動ピストンを支持するように構成される。出力軸は、作動ピストンの第2の端部で軸方向に延びる止まり穴に収容されるように示されている。
【0023】
モータ14の他端には電気機械式ブレーキ16が取り付けられている。
図2は、ブレーキ16の拡大断面を示す。ブレーキは、電磁石46と、薄膜バネ等の弾力性のある又は柔軟な部材によってモータのロータ34の1つの端部に結合されるブレーキディスク42とを含む。薄膜バネにより、バネの付勢に対してブレーキディスクが軸線方向に移動できるが、ロータ34とブレーキディスク42との間での円周方向又は回転方向の移動は不可能である。電磁石は、コイル48と環状鉄心50とを有する。鉄心はU字型断面であり、ブレーキディスク42に対向する開放端部を有し、モータ14に隣接するU字部の基部を備える。2つの側面56は、基部から環状チャンネル58を形成する開放端部まで延び、コイル48は、チャンネル58内に巻き付けるかさもなければ配置される。バネ44は、電磁石のコア50と対向するが、小さな空隙62によって軸方向に離間した休止位置でブレーキパッドを支持する。電磁石がアクティブになる、ブレーキディスクは、磁気吸引されて薄膜バネ44の弾性付勢に対抗して電磁石にラッチされ、ロータを電磁石のコアに対して静止状態に保持する。鉄心の開放端部52は、側面56の軸線方向端部であり、ブレーキが作動する場合にブレーキディスクと係合する摩擦面56を形成する。電磁石のコア50は、モータのハウジング又はステータ部に固定されたブレーキカバー64内に圧入されるか、さもなければ固定される。もしくは、コアは、モータに対して直接的に又はブレーキマウントを介して間接的に結合することができる。水の侵入に対してブレーキをシールするためにOリングシール等のシールを設けることができる。
【0024】
使用時、マスタシリンダ12はモータ14によって作動され、作動ピストン22を油圧シリンダ20内に押し込んで油圧回路を加圧する。所望の圧力に到達するとモータはオフになり、同時に伸縮バネが作動ピストン22を付勢して、休止位置に戻るようにモータを逆に駆動する。モータへの電力を継続する代わりに、回路内の圧力を保持することが望まれる場合、電磁石46をアクティブにして、鉄心50の摩擦面60に対してブレーキディスク42を押し付けてブレーキを作動させることで、モータに継続的に電力を供給するよりも著しく少ない電力を使用して、作動ピストンによる駆動に対抗してモータを保持して油圧回路の圧力を保持できる。回路内の圧力を低下させる必要がある場合、電磁石をオフとして、モータを作動させて、作動ピストンを所望の解放速度及び量で解放するようになっている。同様に、回路内で更に高い圧力が必要な場合、モータを作動させ、電磁石を非アクティブにしてブレーキを解放してモータが作動ピストンを更に油圧シリンダ内に駆動できるようにする。従って、必要な場合に、電磁石を非アクティブにしてブレーキを解放して、作動ピストンを新しい所望の位置に動かすことができる。電磁石をオフにするとブレーキディスクが解放され、薄膜バネ44はブレーキディスクを摩擦面と接触しない休止位置まで戻し、ロータは回転可能になる。
【0025】
本発明の明細書及び請求の範囲において、動詞「備える」、「含む」、「包含する」、及び「有する」、及びそれらの変形語は、追加のアイテムの存在を除外するためではなく、記載したアイテムの存在を特定するために包括的な意味で使用される。
【0026】
本発明は、1つ又はそれ以上の実施形態を参照して説明したが、当業者であれば、様々な変形例が可能であることを理解できるはずである。従って、本発明の範囲は、請求の範囲を参照して特定される。
【0027】
例えば、薄膜バネは、ブレーキディスクをロータに結合するための単純な機構であり、薄膜バネによって、ディスクは電磁石によって軸方向に移動して摩擦面と係合し、電磁石がオフになると弾性でディスクは休止位置まで戻ることができる。薄膜バネは、ディスクとロータの間の回転運動を防止することもできる。同様の摩擦は、ディスクを休止位置に付勢するように配置されたコイルバネを備えたロータとブレーキディスクの間のスプライン結合等の他の機構によって実現できるはずである。
【0028】
更に、特定の実施例では、電磁石がアクティブになった際にブレーキが作動するアクチュエータが記載されるが、バネによってブレーキが作動し、電磁石がアクティブになるとブレーキが解放される逆の構成も可能である。どちらの構成が好ましいかは故障要件を含むシステムの作動要求によって決まるであろう。
【符号の説明】
【0029】
10 電気油圧式アクチュエータ
12 マスタシリンダ
14 モータ
16 ブレーキ
20 油圧シリンダ
22 作動ピストン
24 拡大ヘッド又はフランジ
26 ガイドピン
28 伸縮バネ
30 スクリュー
32 出力軸