【文献】
森田朋和、櫻井宏昭、星野昌幸、本多啓三、高見則雄,「充電曲線解析法に基づくリチウムイオン二次電池の電池状態推定と余寿命評価」,第53回電池討論会 講演要旨集,2012年11月13日,p.55
【文献】
門田行生、櫻井宏昭、星野昌幸、本多啓三、高見則雄,「充電曲線解析法によるリチウムイオン二次電池の状態算出アルゴリズム開発」,第53回電池討論会 講演要旨集,2012年11月13日,p.56
【文献】
森田朋和、門田行生、本多啓三,「内部状態の推定により電池の健全性を可視化する充電曲線解析法」,東芝レビュー,2013年10月,Vol.68, No.10,pp.54-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記算出ステップにおいて、前記オーミック抵抗成分および前記拡散抵抗成分を一定とし、前記推算された内部抵抗と前記オーミック抵抗成分および前記拡散抵抗成分の和との残差を前記反応抵抗成分とする請求項1または2のいずれか1項に記載の電池性能推定方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】電池の内部抵抗の各抵抗成分の概要を示す図。
【
図2】本実施形態に係る電池性能推定システムの機能構成を示すブロック図。
【
図4】活物質Aおよび活物質Bを用いた正極の充電量に対する起電力の一例を示す図。
【
図6】電流地の増大による充電量に対する負極電位の変化の一例を示す図。
【
図7A】コバルト酸リチウムの開回路電位−充電量のプロットを示す図。
【
図7B】チタン酸リチウムの開回路電位−充電量のプロットを示す図。
【
図8A】開回路電位の温度変化についての測定から導出したエントロピー−充電量プロットを示す図。
【
図8B】開回路電位の温度変化についての測定から導出したエントロピー−充電量プロットを示す図。
【
図9】コバルト酸リチウムの開回路電位曲線の温度変化を示す図。
【
図10A】コバルト酸リチウムの反応抵抗成分を充電量に対してプロットした図。
【
図10B】コバルト酸リチウムの拡散抵抗成分を充電量に対してプロットした図。
【
図11A】チタン酸リチウムの反応抵抗成分を充電量に対してプロットした図。
【
図11B】チタン酸リチウムの拡散抵抗成分を充電量に対してプロットした図。
【
図12A】正極をコバルト酸リチウム、負極をチタン酸リチウムとした電池について、測定された交流インピーダンス測定結果を示す図。
【
図12B】反応抵抗成分のアレニウスプロットを示す図。
【
図13】異なる温度での電池の貯蔵試験について劣化状態を示す図。
【
図14A】セル1(25℃)について、充電量および温度において測定された反応抵抗成分のプロットを示す図。
【
図14B】セル2(35℃)について、充電量および温度において測定された反応抵抗成分のプロットを示す図。
【
図14C】セル3(45℃)について、充電量および温度において測定された反応抵抗成分のプロットを示す図。
【
図14D】セル4(55℃)について、充電量および温度において測定された反応抵抗成分のプロットを示す図。
【
図15】セル1〜4の各SOCでの測定値に対してEa、Aを求めた結果を示す図。
【
図16A】セル1(25℃)について、充電量および温度において測定されたオーミック抵抗成分のプロットを示す図。
【
図16B】セル2(35℃)について、充電量および温度において測定されたオーミック抵抗成分のプロットを示す図。
【
図16C】セル3(45℃)について、充電量および温度において測定されたオーミック抵抗成分のプロットを示す図。
【
図16D】セル4(55℃)について、充電量および温度において測定されたオーミック抵抗成分のプロットを示す図。
【
図17】セル温度に対してオーミック抵抗をプロットした結果を示す図。
【
図18A】セル1〜4についてEc、Aを算出した結果を示す図。
【
図18B】セル1〜4についてR1を算出した結果を示す図。
【
図19A】正極をコバルト酸リチウム、負極をチタン酸リチウムとした電池について、充電電流パルスを印加した際の測定結果を示す図。
【
図20A】セル1(貯蔵温度25℃)について、充電量および温度を変えて測定された拡散抵抗成分のプロットを示す図。
【
図20B】セル2(貯蔵温度55℃)について、充電量および温度を変えて測定された拡散抵抗成分のプロットを示す図。
【
図21】セル1,セル2についてEbを求めた結果を示す図。
【
図22】算出されたEa、Eb、Ecを用いて電池の内部抵抗の温度変化をプロットした図。
【
図23】セル1に対して0℃、5℃、10℃、25℃、45℃で行った充電曲線およびセル表面温度のプロットを示す図。
【
図24】
図23の各温度の充電曲線についてRct、Rd、Rohmを算出した結果を示す図。
【
図25】
図23の結果をもとに各温度で算出された内部抵抗値を基準温度(25℃)に補正した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る電池性能推定方法および電池性能推定装置について詳細に説明する。
[原理と方法]
本実施形態に係る電池性能推定方法は、充放電曲線から各活物質の開回路電位−充電量データを参照し電池の容量、内部抵抗および正負極の各活物質の劣化の程度を推算する電池性能診断方法に対し温度の影響を補正する手段を提供し、良好に適用できる温度範囲を拡大するものである。その原理と方法は、次の様である。
【0010】
(充放電曲線の解析)
リチウムイオン二次電池は、対向する正極と負極と正負極間のLi塩を含む電解質とを有し、正極および負極には活物質が集電箔上に塗布されており、集電箔は電池外装の正極および負極端子にそれぞれ接続されている。電池の充放電時には、電解質を通じてLiイオンが正極活物質と負極活物質間を移動し、電子が活物質から外部端子へ流れる。
【0011】
活物質は物質ごとに可逆に挿入・脱離できるLi量と電位を有している。一定の充放電電圧の範囲で電池が貯蔵できるエネルギー量は、電池内の正極活物質と負極活物質の量およびその組み合わせで決定される。
【0012】
また、充放電時にはLiイオン伝導、電解質中のLiイオンが活物質内部へ侵入する際の電荷移動抵抗、電解質と活物質の界面に形成される被膜による抵抗、活物質や集電箔を電子が流れる電気抵抗が生じる。電池の内部抵抗はこれらLiイオンの移動、電子の移動、電荷移動抵抗、被膜の抵抗、正極、負極内での拡散抵抗などの総和となる。
【0013】
一般的にリチウムイオン二次電池の電池制御システム内部では、安全性の観点から各別電池の電圧や電池パック内の温度を計測しており、これらのデータを用いて電池性能を算出することが出来れば、費用や時間をかけずに劣化診断を行うことが可能となる。
【0014】
しかしながら、充電放電条件が細かくランダムに変動する実使用時の電池挙動を解析することは、時間に依存する抵抗、拡散抵抗や緩和過程等が複雑に複合された現象となり計算モデル化は容易ではない。一方で、例えば電気自動車の一定条件で行う充電曲線のような単純な挙動のみを対象とすることで簡略化したモデルにより解析が可能となる。
【0015】
そこで、本実施形態に係る電池性能推定方法では、一定条件での充電または放電カーブを用い、各活物質のLi挿入脱離反応に対する電位−充電量のカーブを基にして、各活物質の量、充電電流の印加に伴う内部抵抗による電池電圧の上昇(過電圧)を変数としてフィッティング計算により変数の値を定める。これにより容量減少(各活物質の減少)および内部抵抗の増加を推定することができる。
【0016】
ところで、実際の電池の使用状況下では、外部環境や充電時の電池の状態により温度条件が変動する。電池の温度が変化すると電池性能も変化し、特に内部抵抗は温度の低下に大きくより増加する。このため温度が異なる測定データからの解析結果を比較しても、温度による解析結果の変動が大きく影響し、劣化による内部抵抗の増加の評価は難しい。
【0017】
したがって、実使用下の電池の測定データより電池特性を推定し劣化の進行を評価するためには内部抵抗の温度補正が必要となる。電池の内部抵抗は前述のように種々の抵抗成分が複合されており、かつ各成分で温度依存性、劣化による増加速度が異なるため劣化の進行により抵抗の占める割合が変化しそれに伴い内部抵抗全体としての温度依存性も変化する。このことに着目して、本実施形態の電池性能推定方法における内部抵抗の温度補正は、内部抵抗を反応抵抗、オーミック抵抗、および拡散抵抗の3つの成分に分け、それぞれ固有の温度依存性に従い基準温度T
0へ補正し合算する。
【0018】
具体的には、以下に記述する数式により測定時の電池温度から基準温度へ補正を行う。なお、下記の式中のRを気体定数、T
0を基準温度、Tを測定時の電池温度とする。
【0019】
反応抵抗
Rct(T
0)=Rct(T)×Exp(−Ea/(R・T))/Exp(−Ea/(R・T
0))
拡散抵抗
Rd(T
0)=Rd(T)×Exp(−Eb/(R・T))/Exp(−Eb/(R・T
0))
オーミック抵抗
Rohm(T
0)=(Rohm(T)−R1)×Exp(−Ec/(R・T))/Exp(−Ec/(R・T
0))+R1
各抵抗成分の概要を
図1に示す。反応抵抗は、電荷移動抵抗と表面被膜の抵抗とを含む。オーミック抵抗は、電解液のイオン伝導抵抗と電池内の電子伝導抵抗とを含み、温度依存性が相対的に小さい電子伝導抵抗は定数とする。拡散抵抗は、活物質内部、電極内のリチウムイオン拡散に伴う抵抗を含む。
【0020】
それぞれの抵抗成分の温度依存性を決定する定数は、式中のEa、Eb、Ecとなる。これらの定数の意味としては、オーミック抵抗のEcはLiイオンの電解液中での移動に伴う活性化エネルギー、反応抵抗のEaは電解液中で溶媒和されたLiイオンが活物質表面で脱溶媒和する際のエネルギー、拡散抵抗のEbは活物質内部におけるLiイオンサイト間移動に伴う活性化エネルギーと考察される。従って、劣化過程ではこれらの値は一定で変化しないと考えることが出来る。
【0021】
これらEa、Eb、Ecの値は、単電池の交流インピーダンス測定、電流パルス測定等により算出することが出来る。解析対象とする電池について予め測定値から算出されたEa、Eb、Ecの値をデータベースに記憶しておき、内部抵抗の温度補正演算時に引用する。
【0022】
次に、充放電カーブからの電池特性の推算において内部抵抗を3成分に分けて算出する方法について説明する。
電池の劣化過程において、内部抵抗の3成分はいずれも上昇していくが劣化による増加の速度は各成分により異なっている。評価する寿命の範囲を限定することで、劣化しないという仮定が成立する場合もある。電気自動車用の電池であり評価の下限を残容量90〜70%程度までと想定すれば、使用条件や電池の構成にもよるが、一部の抵抗成分が電池寿命を通じて一定値と近似できることもある。
【0023】
本実施形態で定める内部抵抗の3成分うち、最も温度依存性が大きく、劣化が大きいものが反応抵抗である。反応抵抗の増加は、電解液と活物質表面の界面での副反応や活物質表面の変質に起因しており、電池が静止状態でも電解液と活物質との電位差により劣化が進行し、一般的には時間の平方根に比例して増加するとされていることが多い。
【0024】
それに対し、拡散抵抗およびオーミック抵抗の劣化挙動は、電池の活物質、電解液等の構成や使用条件により異なる。拡散抵抗およびオーミック抵抗成分の増加は、電池内に収納されている電極内部での電解液の分布状態の変化、一部電極上での電解液の枯渇、電解液の変質や、充放電に伴う活物質の体積変化による電極の集電体上に形成された活物質層の構造の緩みなどが原因であると考えられる。また、電池の電極塗布量のばらつきや電池内の電解液の分布状態など電池の製造精度も重要な要因となる。活物質の種類や電池使用条件によっては劣化を小さくすることも可能で、車両用電池等の寿命の範囲内では拡散抵抗およびオーミック抵抗の劣化を無視することもができる場合もある。これに対応して内部抵抗の各成分の推算方法も異なる方法をとることができる。
【0025】
(第一の方法)
第一の方法は、算出された電池の内部抵抗値からの3成分の算出を、オーミック抵抗成分および拡散抵抗成分を一定として残差を反応抵抗として行う方法である。この方法ではオーミック抵抗成分および拡散抵抗成分については、劣化による増加が生じないと想定しセル温度に依存する温度変化のみを考慮する。充放電曲線の解析においては、ある温度Tに対して推定された内部抵抗値から、測定温度Tでのオーミック抵抗成分、拡散抵抗成分を引き、その残りを反応抵抗成分とし、それぞれの成分を基準温度T
0へ温度補正して合計して基準温度T
0での内部抵抗値として補正する。第一の方法は、正負極の活物質が安定なSOC範囲で、室温付近以下で電池の電流が比較的小さい緩やかな使い方をする場合に適する。
【0026】
(第二の方法)
第二の方法は、オーミック抵抗成分、拡散抵抗成分が累積時間または累積電力量の関数により推算し残差を反応抵抗とする方法である。この方法ではオーミック抵抗成分、拡散抵抗成分についての劣化が、時間または充放電サイクル量に相関すると想定し、オーミック抵抗成分、拡散抵抗成分を算出する。充放電曲線の解析においては、ある温度Tに対して推定された内部抵抗値から、上述した算出されたオーミック抵抗成分、拡散抵抗成分の測定温度Tに補正値を引き、残りを反応抵抗成分とし、それぞれの成分を基準温度T
0へ温度補正して合計して基準温度T
0での内部抵抗の値を算出する。第二の方法はオーミック抵抗成分、拡散抵抗成分の劣化が比較的小さいが確実に劣化が進行する場合に適しており、貯蔵時にガス発生などにより劣化進む場合には累積時間による劣化量推定が適しており、活物質の体積変化によりサイクルの繰り返しでの劣化が顕著な場合には累積電力量による劣化量推定が適している。累積時間または累積電力量のデータを保持している必要があり、累積電力量は機器の稼動量、例えば車両であれば走行距離で代替することもできる。
【0027】
(第三の方法)
第三の方法は、反応抵抗成分、拡散抵抗成分が予め保持する各活物資の拡散抵抗−充電量、反応抵抗−充電量データにより推算され、残差をオーミック抵抗成分とする方法である。第三の方法においては、第一、第二の方法とは異なり、充放電曲線の解析において活物質の反応抵抗−充電量カーブ、拡散抵抗−充電量カーブと電池の内部抵抗−充電量カーブを参照し、回帰計算により反応抵抗および拡散抵抗の値を推定する方法である。活物質の抵抗成分が充電量すなわちSOCに対して依存性を有しており、劣化によりその依存性の傾向は変化しないことを利用して電池の内部抵抗−充電量の傾向から内部抵抗の組成の推定を行う。活物質の反応抵抗−充電量カーブ、拡散抵抗−充電量カーブは、予め測定する必要がある。また、劣化による変化の様態も電池の構成によるため、予め測定しておく必要がある。例えば、抵抗性の表面被膜が形成されるケースでは一様に一定値ずつ増加し、活物質が減少する場合には一様にn倍となるような挙動をとると考えられる。
【0028】
第三の方法は、反応抵抗−充電量に顕著な変化があり、その結果として電池としての反応抵抗に充電量の依存性が明確に現れている場合に適している。
【0029】
(第四の方法)
第四の方法は、予め保持する各活物資の拡散抵抗−充電量、反応抵抗−充電量、オーミック抵抗−充電量データを用いて、回帰計算により反応抵抗成分、オーミック抵抗成分、拡散抵抗成分を推定する方法である。第三の方法では、拡散抵抗−充電量、反応抵抗−充電量のみを用いたが、第四の方法では、オーミック抵抗−充電量データも用いることが特徴である。活物質のオーミック抵抗−充電量の依存性に特徴がある場合、例えば充放電により活物質の電子導電性が大きく変化する場合に有効である。
【0030】
[構成]
図2は、本実施形態に係る電池性能推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【0031】
図2に示す電池性能推定システムは、1つまたは複数の二次電池等を含む電池装置20の残容量の算出を行うコンピュータシステムである。本実施形態において、電池性能推定システムの構成要素の一つである算出装置(電池性能推定装置)10は、処理機能に応じて装置をLAN、イントラネット等の通信ネットワークを介して組み合わせた算出装置群で構成することができる。
【0032】
算出装置10は、CPU100と、RAM(RWM)110と、通信IF120と、入力IF131と、表示IF141と、ROM150と、記憶部160と、タイマ170を含む構成である。その他、USBメモリ等の外部記憶装置を装着するIF(インターフェース)を備えていてもよい。算出装置10は、プログラムを実行し演算するコンピュータである。
【0033】
算出装置10は、通信IF120を介して電池装置20から電流値、電圧値などのデータを収集し、収集したデータを用いて各種演算処理を行う。
【0034】
CPU100は、ROM150に予め書き込んだ各プログラムをRAM110に読み出し、算出処理を行う演算処理部(マイクロプロセッサ)である。CPU100は、機能に合わせて複数のCPU群(マイクロコンピュータ、マイクロコントローラ)で構成することができる。またCPU内にRAM機能をもった内蔵メモリを備えていてもよい。
【0035】
RAM(RWM)110は、CPU100がプログラムを実行するに際して使用する記憶エリアであって、ワーキングエリアとして用いられるメモリである。処理に必要なデータを一次記憶させるのに好適である。
【0036】
通信IF120は、二次電池装置とデータ授受を行う通信装置、通信手段である。たとえば、ルーターがある。本実施形態では通信IF20と電池装置20との接続は有線通信のごとく記載しているが、各種無線通信網に代替することができる。また、通信IF20と電池装置20との接続は一方向または双方向通信可能台数なネットワークを介して行われる形態であってもよい。
【0037】
入力IF130は、入力部131と算出装置10とを接続するインターフェースである。入力部131から送られてきた入力信号を変換しCPU100が認識可能な信号に変換する入力制御機能を有していても良い。本IFは端子等として必須の構成要素ではなく直接算出装置内の配線と接続されていてもよい。
【0038】
入力部131は、コンピュータ装置が一般に備えている各種キーボードやボタン等の入力制御を行う入力装置、入力手段である。その他、人の発する声を認識することにより、入力信号として認識または検出する機能を備えていてもよい。本実施形態では算出装置10の外部に設置しているが算出装置に組み込まれていている形態であってもよい。
【0039】
表示IF140は、表示部141と算出装置10とを接続するインターフェースである。CPU100から表示IF141を介して表示部130の表示制御がおこなわれてもよいし、グラフィックボードなど描画処理を行うLSI(GPU)により表示制御が行われてもよい。表示制御機能として例えば、画像データを復号化するデコード機能がある。IFを使用せず算出装置10内部に直接接続される形態であってもよい。
【0040】
表示部141は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイなどの出力装置、出力手段である。その他、音を発する機能を備えていてもよい。本実施形態では算出装置10の外部に設置しているが算出装置10の内部に組み込まれていてもよい。
【0041】
ROM150は、回帰計算プログラム151と、劣化度算出プログラム152と、を格納するプログラムメモリである。データの書き込みはできない非一次記憶媒体を用いることが好適であるが、データの読み出し、書き込みが随時できる半導体メモリ等の記憶媒体であってもよい。その他、画像データを表示部141にて人が認識可能な文字や図柄を表示させる表示プログラムや、電池の劣化情報等のコンテンツを通信IF120を介して端末30に配信させるプログラム、取得したデータを記憶部160に予め定められた時間毎に記憶させる情報登録プログラムなどが格納されていてもよい。
【0042】
測定結果DB161には測定された電池電圧、電流、温度−時間のデータを格納することができる。関数情報DB163は、正極開回路電位、各抵抗成分、エントロピーと充電量の関係を表す関数や、負極開回路電位と充電量、各抵抗成分、エントロピーの関係を表す関数、値を格納している。本関数情報は、正極、負極の劣化度を評価する際にも利用される。算出結果DB162は、回帰計算プログラム151を実行するCPU100によって算出された値を格納する。格納した値は、CPU100により読み出され表示IF140を介して表示部141に表示しても良い。本記憶手段に代えて、クラウドコンピューティングシステム内の算出装置10外部の記憶媒体に格納する形態であってもよい。
【0043】
回帰計算プログラム151は、電池装置20を構成する各電池セルごとまたは組電池毎の正極、負局の容量値、内部抵抗値を算出する機能をCPU100に実現させる手段である。例えば、以下の7つの値、(1)正極を構成する活物質Aの容量、(2)正極を構成する活物質Bの容量、(3)負極の容量、(4)正極を構成する活物質Aの充電量、(5)正極を構成する活物質Bの充電量、(6)負極の充電量、(7)内部抵抗値、を算出(解析)する。
【0044】
Rohm、Rct、Rdの算出は回帰計算の中で行う場合と、回帰計算で算出された内部抵抗に対して外部での計算により行う場合がある。前述した第一、第二の方法は、回帰計算で算出された内部抵抗から電池温度等の条件に対して外部で算出されたRohm、Rdの値とをもとにRctを算出することを特徴としている。一方、第三および第四の方法においては、正極および負極の各活物質のRct、Rdと充電量の関係と、電池の抵抗値と充電量との関係を比較対照する回帰計算によって内部抵抗の中の抵抗成分の割合をすることを特徴としている。
【0045】
第三の方法においては、各活物質の反応抵抗、拡散抵抗の充電量に対する依存性をデータベースに記憶し、電池の内部抵抗−充電量の依存性と(活物質の抵抗成分の総和)−充電量の傾向が一致するよう回帰計算において反応抵抗、拡散抵抗の割合を定める。オーミック抵抗は電池の内部抵抗の値から反応抵抗、拡散抵抗を引くことによって算出される。
【0046】
第四の方法においては、第三の方法における電池の内部抵抗−充電量の依存性の回帰計算に加えてオーミック抵抗の充電量依存性も回帰計算に導入する。これにより電池の内部抵抗−充電量の依存性と(活物質の抵抗成分の総和)−充電量の傾向が一致するよう演算により反応抵抗、拡散抵抗、オーミック抵抗の割合を定める。
【0047】
電池の測定温度Tに対して算出された反応抵抗Rct(T)、拡散抵抗Rd(T)、オーミック抵抗Rohm(T)について、前述した式を用いて基準温度T
0への補正を行い反応抵抗Rct(T)、拡散抵抗Rd(T)、オーミック抵抗Rohm(T)を算出する。基準温度は一般的には25℃であるが、電池の使用環境に応じて任意の温度を選ぶことができる。
【0048】
これらの基準温度T
0に換算された各抵抗成分およびその合計値を初期および以前の測定値と比較することで、測定時点までの劣化の進行を評価することができる。
【数1】
【0049】
これらの値を用いて、時間に対する充電電圧の変化特性、充電量に対する正極の電位およびまたは充電量に対する負極の電位特性を算出する。具体的動作については後述する。
【0050】
回帰計算プログラム151は、以下の各数式に対応するプログラム群により構成されている。なお、各プログラムの順番については、各種変更が可能である。
【0051】
充電電圧V
Cは、電池の起電圧Ve,内部抵抗による電圧V
Rを用いて次の数式11から求める。
【0052】
V
C=V
e+V
R (数式11)
図3に、数式11および数式12の関係を示す。
図3左図においては起電力Veが電池OCV(Open Circuit Voltage:開回路電圧)、充電電圧V
Cが充電電圧と表記されている。また数式12における電位は開回路時の電位を表しており、
図3右図においては正極の電位Ecが正極OCV、負極の電位Eaが負極OCVをそれぞれ示している。
【0053】
電池の起電圧V
eは、正極の電位Ec、負極の電位Eaを用いて次の数式12から求める。
【0054】
V
e=E
c−E
a (数式12)
正極と負極の電位は、充電量(q)、初期状態での正極の容量Q
ic、初期状態での負極の容量Q
iaを用いて数式13、数式14から求める。
【0055】
E
c=f
c(q/Q
ic) (数式13)
E
a=f
a(q/Q
ia) (数式14)
ここで、複数の活物質で正極または負極を構成する場合について説明する。この場合、
図4に示すように、それぞれの活物質の起電力は異なる特性を示す。活物質A(例えば、マンガン酸リチウム)と活物質B(例えば、コバルト酸リチウム)を混合した複合正極の起電圧の充電量に対する特性を算出する。算出した特性を図示すると
図5のようになる。
【0056】
活物質Aの正極の電位E
cA、活物質Bの正極の電位E
cBは、初期状態の活物質Aの容量Q
icAと、初期状態の活物質Bの容量Q
icB、活物質Aの充電量q
A、活物質Bの充電量q
Bとを用いて数式15、数式16、17、18の関係にある(
図5)。
【0057】
E
cA=f
cA(q
A/Q
icA) (数式15)
E
cB=f
cB(q
B/Q
icB) (数式16)
f
cA(q
A/Q
cA)=f
cB(q
B/Q
cB) (数式17)
q=q
A+q
B (数式18)
よって、混合正極の電位Ecは、活物質Aの正極の充電開始時の容量q
A、活物質Aの正極の充電量Q
cAまたは活物質Bの正極の充電開始時の容量q
B、活物質Bの正極の充電量Q
cB用いて数式19から求める。
【0058】
E
c=f
c(q/Q
ic)=f
cA(q
A/Q
cA)=f
cB(q
B/Q
cB) (数式19)
なお、活物質Aの正極の電位E
cAと活物質Bの充電量q
Bは、各活物質表面の電位である。したがって、活物質内でのリチウムイオンの拡散抵抗により活物質内でのリチウムイオンの分布が変わるので充電電流により充電量と起電圧の関係が変わってしまうようにも思われる。しかしながら、本実施形態では、正極に使われる活物質や負極に使われる炭素系の活物質では、活物質内の拡散抵抗が小さいため、充電電流が変化しても、充電電流と起電圧の関係が大きくは変わらないものとして取扱っている。
【0059】
一方、負極に活物質としてチタン酸リチウムのような拡散抵抗の大きな材料を負極に用いた場合には、
図6に示すように電流値によって充電量と起電圧の関係が大きく変化するため正極と同様の近似は行わない。
【0060】
よって、負極電位Eaは、数式20であらわされる。
【0061】
E
a=f
a(q/Q
ia,I/Q
ia) (数式20)
また、内部抵抗による電圧V
Rは、充電電流Iと内部抵抗R(q)を用いて数式21、22により求められる。
【0062】
V
R=R(q)×I (数式21)
q=∫Idt (数式22)
つまり、数式11は、
V
C=f
C(q/Q
ic)−f
a(q/Q
ia,I/Q
ia)+R(q)×I
(数式11A)
としてあらわされる。
【0063】
このように、充電電圧と、活物質の起電圧特性及び内部抵抗とには非線形の相関関係がある。これから、活物質の容量、内部抵抗を変数として充電電圧の充電量に対する特性カーブについて回帰計算を行い、活物質の容量と、内部抵抗とを算出、決定する。
【0064】
劣化度算出プログラム152は、回帰計算プログラム151を実行することにより求めた活物質の容量と内部抵抗の値から電池装置20の劣化度を算出する機能をCPU100に実現させる手段である。
【0065】
正極をコバルト酸リチウム、負極をチタン酸リチウムとした電池を例として説明する。コバルト酸リチウムおよびチタン酸リチウムの開回路電位−充電量のプロットを
図7Aおよび
図7Bに示す。
【0066】
次に、開回路電圧の温度依存性の補正について説明する。開回路電位の温度変化についての測定から導出したエントロピー−充電量プロットを
図8Aおよび
図8Bに示す。チタン酸リチウムでは充電量0から満充電にわたってほぼ0の値をとり、開回路電圧の温度変化は無視できることを示している。一方、コバルト酸リチウムではエントロピー値は比較的大きな変化を示す。コバルト酸リチウムの開回路電位曲線の温度変化を
図9に示す。コバルト酸リチウムのように温度により開回路電位−充電量プロットが大きく変化する場合には、
図8A及び
図8Bのプロットに従って、測定温度Tに対する開回路電位E(T)について、下記数式23により補正を行う。T
0は基準温度である。
E(T)=E(T
0)−(T−T
0)×ΔS (数式23)
電池の測定温度Tにおける正極、負極の開回路電位Ec(T)、Ea(T)を基準として、回帰計算により電池充電曲線に対しより的確なパラメーター値を算出することが出来る。
【0067】
次に、Rohm、Rct、Rdの算出について説明する。ここでは、Rohm、Rct、Rdの算出方法のうち第三の方法を用いることとする。
【0068】
図10Aおよび
図10Bは、コバルト酸リチウムの反応抵抗成分および拡散抵抗成分を充電量に対してプロットしたものである。
図11Aおよび
図11Bは、チタン酸リチウムの反応抵抗成分および拡散抵抗成分を充電量に対してプロットしたものである。拡散抵抗は充電・放電の方向により挙動が異なり、
図10B,
図11Bのプロットでは充電曲線の解析を目的とするため拡散抵抗は充電方向に対する値である。
【0069】
ところで、
V
C=f
C(q/Q
ic)−f
a(q/Q
ia,I/Q
ia)+R(q)×I
(数式11A)
における充電量qに対するR(q)の変化は、
図10A,
図10B及び
図11A,
図11Bに示した活物質の反応抵抗、拡散抵抗の充電量に対する依存性を包含したものになる。すなわち内部抵抗の中で反応抵抗が占める割合が大きくなれば、反応抵抗成分−充電量の依存性が、電池としての内部抵抗の充電量変化R(q)においてより明確に現れる。この相関性から、回帰計算により電池の内部抵抗におけるRctおよびRdの割合を算出する。
【0070】
上記算出された電池の内部抵抗、Rct(T)、およびRd(T)により、Rohm(T)を算出し、電池の測定温度Tにおける内部抵抗値およびRct(T)、Rd(T)よりRohm(T)の値を求めることができる。
【0071】
(温度依存定数の算出について)
温度補正の際に用いられる定数の測定および算出について実施例を挙げて説明する。
【0072】
反応抵抗成分およびオーミック抵抗成分は交流インピーダンス測定により測定することができる。
図12Aに、正極をコバルト酸リチウム、負極をチタン酸リチウムとした電池について、測定された交流インピーダンス測定結果(Cole-Cole plot)を示す。
図12Aのプロットの円弧直径部を反応抵抗成分とし、円弧開始部のZ′の値をオーミック抵抗成分とすることができる。
図12Bは、反応抵抗成分のアレニウスプロットを示したものである。
【0073】
図13は、異なる温度での電池の貯蔵試験の結果を示したものである。およそ650日の貯蔵試験後、セル1(貯蔵温度25℃)は、容量99%、抵抗125%、セル2(貯蔵温度35℃)は、容量98%、抵抗140%、セル3(貯蔵温度45℃)は、容量95%、抵抗170%、セル4(貯蔵温度55℃)は、容量86%、抵抗220%の劣化状態となった。
【0074】
図14A乃至14Dに、
図13の貯蔵試験を経て劣化状態の異なる電池(セル1〜4)について、充電量(SOC)および温度において測定された反応抵抗成分Rctのプロットを示す。劣化の進行とともに大きく反応抵抗が劣化し、また温度依存性が他の抵抗成分(後述)と比較して大きいことが分かる。
【0075】
Rct(T)=1/{A×exp(−Ea/R・T)} (数式24)
図15に、
図13に示すセル1〜4の各SOCでの測定値に対して数式24に従ってEa、Aを求めた結果を示す。温度依存性を定めるEaの値が算出され、かつ値は劣化により変化しないことが確認できる。
【0076】
図16A乃至16Dに、
図13の貯蔵試験を経て劣化状態の異なる電池(セル1〜4)について、充電量(SOC)および温度において測定されたオーミック抵抗成分Rohmのプロットを示す。オーミック抵抗は電池の劣化による増加が少なく、温度による変化も小さいことが分かる。
【0077】
Rohm(T)=1/{A×exp(−Ec/R・T)}+R1(const.)
(数式25)
図17は、セル温度に対してオーミック抵抗をプロットした結果であり、数式25の関係を満たしていると判断できる。この数式25へのフィッティングによって、セル1〜4についてEc、Aを算出した結果を
図18Aに示し、セル1〜4についてR1を算出した結果を
図18Bに示す。
【0078】
拡散抵抗成分Rdについては、例えば定電流パルス法により測定することができる。
図19Aに、正極をコバルト酸リチウム、負極をチタン酸リチウムとした電池について、充電電流パルスを印加した際の測定結果を示す。横軸を電流印加開始時点を0とした時間の平方根、縦軸は電池電圧(CCV)から開回路電圧(OCV)を引いた値である。
図19Aにおいて、切片がオーミック抵抗と反応抵抗による過電圧、時間の平方根に対して一定の傾きで増加分が拡散抵抗による過電圧とする。すなわちこの過電圧分を電流値で除した値が内部抵抗値となる(
図19B)。
図19BにおいてRの切片が反応抵抗とオーミック抵抗の和であり、t
1/2に対し比例して増加する分が拡散抵抗である。
【0079】
ここで、
図20A及び
図20Bに、劣化の進行が異なる2つのセル(貯蔵温度25℃,貯蔵温度55℃)について拡散抵抗をSOCおよび温度を変えて測定した結果を示す。
【0080】
Rd(T)=1/{A×exp(−Eb/R・T)} (数式26)
数式26に従って、セル1,セル2についてEbを求めた結果が
図21である。Ebについても劣化により顕著な変化は生じていないことが確認できる。
【0081】
以上に述べた方法によれば、各抵抗成分の温度依存定数Ea、Eb、Ecを算出することができる。また劣化によりEa、Eb、Ecには変化が無く劣化した電池においても、本実施形態の温度補正方法の原理が有効であることが確認できた。
【0082】
このように算出されたEa、Eb、Ecを用いて実施例の電池について内部抵抗の温度変化をプロットした図を
図22に示す。
図22では、横軸に温度、縦軸に抵抗値を取り、Ea、Eb、Ecおよび電気化学測定の結果に基づいてオーミック抵抗、反応抵抗、拡散抵抗を積み上げ加算して示している。Ea、Eb、Ecが既知であり、電池使用可能範囲での任意の温度TでのRct、Rd、Rohmの値が分かれば基準温度での内部抵抗の算出が可能である。また、反応抵抗は温度による変化が非常に大きく、オーミック抵抗および拡散抵抗は温度による変化が相対的に小さいことが分かる。
【0083】
図23は、セル1に対して0℃、5℃、10℃、25℃、45℃で行った充電曲線およびセル表面温度のプロットを示したものである。
図24には、この充電曲線に対し回帰計算解析を行い、それぞれの温度の充電曲線についてRct、Rd、Rohmを算出した結果を示す。各抵抗成分の推定値は、
図24中に実線、点線、二点鎖線で示す電気化学的手法によって測定されたRct、Rd、Rohmとよい一致を示している。
【0084】
図25は、この結果をもとに各温度で算出された内部抵抗値を基準温度(25℃)に補正した結果である。
図25においては、横軸に充電曲線を測定した電池温度、縦軸は25℃の内部抵抗値に対する比率(%)をとり、補正前、補正後の内部抵抗推定値がプロットされている。補正前の内部抵抗値は、温度の影響により低温では大きく、高温では小さくなる。この内部抵抗値を本実施形態の方法で補正することにより、基準温度(25℃)の抵抗値に対してほぼ等しい値に温度補正することができた。
【0085】
すなわち、任意の温度で測定された電池の充電または放電中の温度、電流、電圧データを用いて、予め保持している正極活物質および負極活物質の開回路電圧−充電量を用いて電池状態推算を行い、電池容量および内部抵抗値を含む電池特性を算出する電池性能推定方法を行った場合に、内部抵抗の推定値を温度補正し、劣化による内部抵抗の増加について評価することが可能となる。
【0086】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。