(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
分析対象とする成分(分析対象物)は、試料が血清の場合、抗原、ペプチドホルモン、ステロイドホルモン、薬剤、ウィルス抗体、各種の腫瘍マーカー、抗体、抗体複合物、単一タンパク質などである。
【0013】
固相としての磁性体粒子は、粒径が0.5〜10μmであり、比重が1.2〜1.5である。この粒子は、液内に沈降し難く、懸濁しやすい。粒子の表面には抗体が固定されている。磁性粒子は、たとえば鉄、酸化鉄、ニッケル、コバルト、酸化クロム等の磁気吸引物質の粉末をマトリクス内にうめ込んで形成されており、このマトリクス自体は、多くの合成及び天然の重合性物質(たとえばセルロース、ポリエステル、ポリスチレン、シリカ、デキストラン、アルブミン等)からなる広い範囲の物質からなる。
【0014】
免疫反応によって分析対象物(抗原)及び発光標識物質を含む免疫複合体が、磁性体粒子上に結合される。この免疫複合体は、反応混合物中の他の共存物質とともに懸濁液の形でフロースルーセルのフローチャンバーに導入される。
【0015】
磁性体粒子は、フローチャンバー内において平面的に広げられた状態で、磁力によって所定の場所に捕捉される。発光を測定するときには磁力が解除されるが、このときフローチャンバー内の液体の流れが停止されているため、磁性体粒子は捕捉されたままの状態でフローチャンバー内にとどまっている。
【0016】
フローチャンバーは、深さ(すなわち厚さ)に対し幅が2〜20倍になるように形成されており、流体の流れに乗って導入された粒子が流れの横方向に広がるのを容易にする。磁性体粒子の広がり方は、理想的には、単一層であるのが望ましいが、実際には粒子同士の重なりが多少生ずる。本発明ではこのような重なりがある場合も平面的な広がりと称す。フローチャンバー内における平面的な広がりは、磁力の強さに加えて、反応混合物を含む懸濁液の導入時の流速にも影響される。流速による力が磁力によって粒子を捕捉する力を上回った場合には、粒子が離脱されるので、適正な流速を選ぶ必要がある。
【0017】
フローチャンバーに磁場を印加するための磁石の磁束密度(magnetic flux density)は、好ましくは0.5〜3Tである。フロースルーセルは、フローチャンバーと光検出素子の間に光透過性の窓を有する。窓は、ガラス、石英、アクリル、ポリカーボネート等の光内部透過率90%以上のプラスチックのうちから選ばれた何れか1つの材料でできている。光検知素子は、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード、フォトダイオード、ストリーク管のうちから選ばれた何れか1つのものである。前記窓は凸レンズの形状になっていてもよい。
【0018】
フロースルーセルにおいて、懸濁液の液相からの反応生成物の分離は磁気トラップ手段を用い導管中の所定の位置におかれたフロースルーセル内のフローチャンバーで行われる。前記懸濁液は、導管にそってそれらを吸引あるいは吐出する手段からなる送液手段によってフロースルーセル内のフローチャンバーに導かれ、作用電極下あるいは上に配置された磁石による局部的磁界の領域に達するとその磁力により作用電極上に捕捉される。
【0019】
この懸濁液をフロースルーセル内のフローチャンバーに導入し、反応生成物を作用電極上に捕捉させる工程で求められる条件は、以下の通りになる。即ち、標識物質による発光の感度(SN比)をより高いものにするため、作用電極表面の磁性体粒子の密度が相対的に小さい領域を減らすことである。作用電極表面の磁性体粒子の密度が相対的に小さい領域は、標識物質を励起させる誘引物質(TPA等)による不要発光が出てくる割合が、目的としている発光標識からの発光の割合に対して大きく、局所的に(相対的に)SN比の低い領域となってしまう。このために高いSN比を得ることが難しいため好ましくない。
【0020】
フローチャンバー形状は上面からみて紡錘形であり、その紡錘形の最大幅部の幅が入口径(最小幅部)に対し10倍以内、入口から見て最大幅部への開口角が30°以内、その厚さが0.2〜1.0mmとなるような構造である。不適切な形状の場合には、チャンバー側面付近で流れの剥離、気泡の滞留が起き易くなり、懸濁液中の反応生成物の作用電極上への捕捉妨害を引き起こすとともに、一度捕捉した反応生成物を洗浄する際に洗浄液がフローチャンバー側面部まで廻り込まないため、発光反応後の反応生成物の洗浄が困難となってしまう。
【0021】
また、フローチャンバーを形成する部材の材質は試料中の蛋白成分などによる汚れの付着しにくさ及び洗浄液などによる劣化を極力防止するため、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ブチルゴム、シリコンゴム、ガラス、及びアクリル樹脂等の電気非導電性物質から選ばれる。
【0022】
磁性体粒子の粒径が0.75〜3μmの場合、フローチャンバー内に反応生成物を含む懸濁液を導入する際、その線速度を10〜100mm/sとすることにより流れの状態を最適化でき、より多くの反応生成物を作用電極上により分散した形で捕捉することができる。ここで、線速度10mm/s以下では懸濁液中の反応生成物は作用電極上の一点に集中して捕捉されるため電気化学的発光を行なう際に高い発光効率を確保することが困難となる。また線速度100mm/s以上では、反応生成物は作用電極上に捕捉されにくくほとんどの部分が流れさってしまうため発光量が低下する。
【0023】
前記懸濁液がフロースルーセル内のフローチャンバーを通過する際に作用電極上に捕捉された反応生成物よりなる固相は、導管を通じてフローチャンバー内に洗浄用液体を流すことにより洗浄することができる。固相は作用電極上に捕捉されたまま残るがその反応生成物は流れる洗浄液体に露出し、これにより洗浄が行われる。
【0024】
洗浄液体は、次工程の発光反応を考慮すれば標識物質を励起させる誘引物質を含む緩衝液が望ましい。その目的は、固相から懸濁液液相の残留痕跡を除くこと、及び標識物質の励起を誘引する物質を反応生成物のまわりに再現性良く供給することにある。
【0025】
磁性体粒子は作用電極がフローチャンバー上面におかれた時は作用電極上、あるいはその逆の場合は下におかれた磁石により生ずる局部的な磁気トラップにより捕捉される。作用電極はフローチャンバー上面または下面のどちらに配置されてもよいが、捕捉効率及び配置の容易さを考慮すると下面に配置されるのが望ましく、かつ紡錘形の最大幅部近傍に配置されるのが望ましい。
【0026】
ここで「作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域の面積」は「磁石の頂上部の面積」より小さいことが望ましく、更に望ましくは「磁石の頂上部の面積」の2/3以下であること、更に望ましくは「磁石の頂上部の面積」の1/3倍以下であることが装置のSN比を向上するためには好ましい。理由は以下のとおりである。即ち、磁性体粒子の個数密度は磁石の磁束密度(及び流速等)により決まる。一般的に磁石の磁束密度が空間分布を有するため磁性体粒子の個数密度は均一にならず、磁石の大きさに対して凡そ2/3程度の領域は磁束密度が大きく、磁性体粒子がやや高濃度となる領域が形成され、更に1/3程度の領域においては特に磁束密度が大きく、磁性体粒子の個数密度は特に高くなる。従って、作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域の面積を前段落で記したように決定することが望ましい。
【0027】
他方で、検体濃度検出に有効な磁性体粒子数を保持するためには、作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域の面積は、磁石の頂上部の面積の1%以上あることが望ましく、更に望ましくは磁石の頂上部の面積の5%以上あることが望ましい。
【0028】
なお、磁石の「頂上部」とは、フローチャンバーに対向する磁石の一部分が平坦な場合は頂上部そのものであり、頂上部が平坦ではない場合、例えば凹凸や段差を有する場合は、光検出素子側からみた際の磁石の見かけの領域を意味する。
【0029】
更に「作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域」の重心は、磁石の頂上部の重心より、フローチャンバー内の上流側にあることが望ましい。これはフローチャンバー内を流れてきた磁性体粒子は、まず磁束密度の特に大きい磁石のエッジ部分に対応する上流側で捕捉されるため、一般的に上流側の方が下流側よりも磁性体粒子の個数密度が高くなるためである。ここで本明細書における重心とは、指定した領域の2次元面内における、密度一様とした際の平均的な位置、を意味する。
【0030】
「作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域」の基本形状は、磁石の形にあわせて、円形、楕円形、方形から選ばれる。更に「作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域」の形状は、上記した基本形状に加え、フローチャンバー内の下流側に下流側凹部を有することが望ましい。これはフローチャンバーの流路中央部は特に流速が大きく、他方で壁面近傍は流速が小さいために流路中央部は壁面近傍に比べ磁性体粒子の個数密度が高い領域が小さくなりやすい為である。このとき、フローチャンバーの吸引口が1つであれば、下流側凹部は流路中央に1つあれば十分磁性体粒子の個数密度分布を反映して、SN比の高い発光を実現できる。他方で、フローチャンバーの吸引口が2つ以上ある場合は、実際の磁性体粒子の濃度分布に合わせて、複数置いてもよく、吸引口の数と同数の下流側凹部を設けることが望ましい。
【0031】
また「作用電極の前記フローチャンバー内に露出されている領域」は、フローチャンバー内の上流側両端部に上流側凹部を有することが望ましい。これは作用電極の下に磁石を配置した場合、一般的にフローチャンバーの流路中央部は、壁面近傍に比べ、磁束密度がやや高いために、流路中央部は壁面近傍に比べ磁性体粒子の個数密度が高い領域が、よりフローの上流側にくるためである。他方で壁面近傍では、磁性体粒子の個数密度が高い領域はよりフローの下流側にくる。
【0032】
このとき壁面がフローの方向から見て左右の2か所に存在するため、両側(「作用電極の前記フローチャンバー内に露出されている領域」の両端部)に上流側凹部を有することが望ましい。
【0033】
また「作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域」は、フローチャンバー内の上流側にある上流側作用電極露出領域と、フローチャンバー内の下流側にある下流側作用電極露出領域とに分かれていてもよい。これは磁石のエッジ近傍の磁束密度が他の領域よりも大きくなることに由来して、フローの上流側及び下流側にそれぞれ磁束密度の大きい領域ができるためである。従って、まず既に説明したように、上流側に(「作用電極のフローチャンバー内に露出されている領域」の重心は「磁石の頂上部」の重心より、フローチャンバー内の上流側にあるように)作用電極を形成することが望ましい。即ち、上流側作用電極露出領域の重心は、磁石の頂上部の重心より、フローチャンバー内の上流側にあることが望ましい。また、他方で下流側にも作用電極を設けることでこの領域においても効率よく磁性体粒子を捕捉することができるため、下流側作用電極露出領域の重心は、磁石の頂上部の重心より、フローチャンバー内の下流側にあることが望ましい。このような構成とすることでSN比を大きく下げることなく、発光強度を向上することができる。
【0034】
この作用電極及び対向電極の材料は、金、白金、パラジウム、タングステン、イリジウム、ニッケル及びそれらの合金のうちいずれか1つから選ばれる。これは電極反応により生じる表面の摩耗、あるいは電極上に流される各試薬による腐食を極力防止するためである。
【0035】
対向電極と作用電極は同一平面上、又は互いにフローチャンバー内で対向する位置に配置される。
【0036】
局部的磁気トラップは、作用電極を挟んでフロースルーセル内フローチャンバーの反対側に設置された少なくとも1個の磁石により生成される。この磁石は、作用電極表面上から0.5〜3mmまで近接でき、かつ磁界を最低値から最高値へ必要に応じて変更できることが望ましい。これは、永久磁石を用いた場合は、作用電極面上へ磁界が生じないよう磁石を遠ざける方向で動かしたり近接させたりすることにより、電磁石を用いた場合は消磁したり励磁したりすることにより実施される。これにより、作用電極上に捕捉された磁性体粒子に結合された反応生成物に対し、電気化学的発光反応終了後、作用電極上に残存する反応生成物を効率良く洗浄することが可能となる。また、磁石の磁束密度を0.5〜3Tとし、また作用電極面との距離を0.5〜3mmまで近接させることができるように配置することにより、導管を通ってフローチャンバー内を流れてくる懸濁液中の反応生成物に対し局部的に最適な磁界を与えることができるため、懸濁液中のより多くの反応生成物を再現性よく、より均一かつ広範囲な分布をもって捕捉することが可能となる。
【0037】
また作用電極面上への反応生成物捕捉後、この条件下でフローチャンバー内にさらに緩衝液を流すことにより、より迅速にかつ高効率をもって未反応の試薬を洗い流すことができるため、キャリーオーバーを極少としたB/F分離を簡便に行うことが可能となる。
【0038】
作用電極上に捕捉された反応生成物は、緩衝液により洗浄され未反応の液相と分離された後、作用電極−対向電極間に印加される一定シーケンスに従った電圧により、緩衝液中に含まれる標識物質を励起させる誘引物質が還元され、その還元された誘引物質により励起された標識物質が基底状態に遷移する際に所定の波長を持った光が発せられることになる。その光は、フロースルーセル内のフローチャンバーをはさんで、作用電極と反対側に設けられた透明な窓に入射し、この窓に接して(場合によってはある距離をおいて)配置された光検知素子の検知部に導入されてその発光強度が計測される。
【0039】
以上の構造をもつフロースルーセルにより、血清、尿等の生体液試料中の特定成分を、より迅速かつ簡便な方法で高感度かつ再現性よく分析することが可能となる。
【0040】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は本願発明の内容の具体例を示すものであり、本願発明がこれらの実施形態に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0041】
図1は本発明の一実施例による免疫分析装置の全体の概略構成を示す図である。
図2は
図1に示す装置におけるフロースルーセルユニットの構成を示す縦断面図である。
図3は
図2のフロースルーセルユニットのIII−III線部分拡大図である。
図4は
図3のIV−IV線断面図である。
図5は比較例におけるフロースルーセルの
図3と同じ方向からの断面図である。
図6は実施例2におけるフロースルーセルの
図3と同じ方向からの断面図である。
図7はTSHを含む緩衝液(シグナルに相当)、並びにTSHを含まず標識物質の励起を誘引させる物質(TPA)を含む緩衝液(ノイズに相当)それぞれの発光量(任意単位)を比較例1、実施例1及び実施例2で比較した表である。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【実施例1】
【0042】
以下、
図1〜
図4を用いて本発明の一実施例による免疫分析方法及び装置を説明する。先ず、本実施例の分析装置のシステム構成を
図1により説明する。
【0043】
図1において、本実施例の分析装置は、試料を入れたサンプルボトル31と、磁性体粒子を含むビーズ(Beads)溶液を入れたビーズボトル32と、磁性体粒子を試料中の特定成分に結合させる第1試薬を入れた第1試薬ボトル33と、電気化学的反応により発光を生じる標識物質をラベルしかつ試料中の特定成分と結合する第2試薬を入れた第2試薬ボトル34と、標識物質の電気的な化学発光を誘引する物質を含む緩衝液を入れた緩衝液ボトル3と、洗浄液を入れた洗浄液ボトル4と、反応生成物を含む懸濁液を得るためのベッセル(反応容器)1と、ベッセル1に試料、ビーズ、第1試薬、第2試薬、緩衝液を分注するサンプリングプローブ30と、ベッセル1の懸濁液を送液するシッパープローブ2と、シッパープローブ2の先端部を洗浄する洗浄槽5と、シッパープローブ2から送液された懸濁液が導入されるフロースルーセルユニット10と、懸濁液、洗浄液、緩衝液の吸引及び吐出を行うシリンジ11と、廃液を収容する廃液ボトル13と、蒸留水が収容される蒸留水ボトル14と、蒸留水ボトル14の蒸留水を洗浄槽5に送液するポンプ12とを備えている。
【0044】
サンプリングプローブ30は、既知のピペッティング機構を有しており、図示しないシリンジに導管P1を介して接続されている。シッパープローブ2は、導管P2を介してフロースルーセルユニット10に接続されている。フロースルーセルユニット10は導管P3、第1ピンチ弁7、導管P4を介して、シリンジ11に接続されている。また、導管P4は、導管P5、第2ピンチ弁8、導管P6を介して、廃液ボトル13に接続されている。一方、蒸留水ボトル14は、導管P9、ポンプ12、導管P10を介して洗浄槽5に接続され、洗浄槽5は、導管P11を介して廃液ボトル13に接続されている。また、導管P10の途中から導管P8が分岐し、この導管P8は第3ピンチ弁9、導管P7を介しシリンジ11に接続されている。
【0045】
サンプルボトル31内の試料は、例えば特定成分であるTSH(甲状腺ホルモン)を含む血清、尿等の生体液由来の試料である。ビーズボトル32内のビーズ溶液は粒子状磁性物質をポリスチレン等からなるマトリックス内に埋め込んだビーズ(Beads)、すなわち磁性体粒子(比重1.4、平均粒径2.8μm)を緩衝液中に分散させたものであり、このマトリックスの表面にはビオチンと結合可能なストレプトアビジンが結合されている。磁性体粒子としてはマトリックス中に複数個の粒子状磁性物質を包含したものを用いてもよい。
【0046】
第1試薬ボトル33内の第1試薬は、末端をビオチン処理したTSH抗体を含むものである。第2試薬ボトル34内の第2試薬は、末端をビオチン処理し、かつ励起により化学発光を生じる標識物質を結合させたTSH抗体を含むものである。この実施例では、標識物質として例えばRu(bpy)
3、すなわちルテニウム(II)トリス(ビピリジル)を用いる。Ru(bpy)
3は緩衝液中ではRu(bpy)
32+の形で存在する。緩衝液ボトル3内の緩衝液は、電圧の印加により還元され、標識物質の励起を誘引する物質を含むpH7.4前後のものである。この実施例では、その誘引物質としてトリプロピルアミン(TPA)を用いる。
【0047】
次にフロースルーセルユニットの構造を
図2〜
図4により説明する。
【0048】
フロースルーセルユニット10はセル基板18と、光電子倍増管19を収納したPMTケース21と、セル基板18とPMTケース21との間に位置する受光窓22とを有し、セル基板18と受光窓22とはスペーサ18Aを介して一体化され、それらの間にフロースルーセルユニット10内に導入された反応生成物を含む懸濁液が流れるフローチャンバー17が形成されている。なお本明細書では特に、受光窓22、スペーサ18A、セル基板18、フローチャンバー17、シート部材18b、作用電極15、対向電極16a、16b、流路入口35、流路出口36、ニップル50,51等からなる部材をフロースルーセル6と称している。フローチャンバー17は
図4に示すように上方から見て紡錘形をしており、紡錘形の一方の端部に流路入口35が位置し、他方の端部に流路出口36が位置し、流路入口35及び流路出口36はセル基板18に取付けられたニップル50,51を介してそれぞれ導管P2,P3に接続されている。また、フローチャンバー17の紡錘形の最大幅部中央下面には作用電極15が配置され、作用電極15の両側の同一平面上には一対の対向電極16a,16bが対称な形で配置されている。作用電極15及び対向電極16a,16bはセル基板18上に設けられたシート部材18B上に取付けられ、かつそれらの一端はセル基板18の外に延出し、図示しない電源及び制御装置に接続されている。作用電極15の下方には磁石24が位置し、磁石24は、作用電極15に接近し得るようセル基板18に形成された凹所18C内に配置されている。また、磁石24は、磁石ホルダ25に取付けられ、磁石ホルダ25はレバー25Aの一端に取り付けられている。レバー25Aの他端はステッピングモータ26に取付けられ、支点28を中心にして回動可能であり、ステッピングモータ26を動作させることにより、磁石24は凹所18C内の図示の作動位置とその外に出た二点鎖線で示す後退位置との間で出入可能である。
【0049】
光電子倍増管19はフローチャンバー17で発生し、受光窓22を透過した光を計測するものであり、ここではR1878浜松ホトニクス社製を使用する。光電子倍増管19は、磁気による倍増効率の低下を防ぐためにシールド管20に覆われてPMTケース21内に収納されている。光電子倍増管19の上方にはソケット27が取付けられこのソケット27を介して光電子倍増管19の検出信号が図示しない制御装置に送られ、光強度が計測される。
【0050】
フローチャンバー17の側面を形成するスペーサ18A及び下面を形成するシート部材18Bはポリテトラフルオロエチレンからなる。またフローチャンバー17は紡錘形の両端の最小幅W1は1mm、中央の最大幅W2は5mm、フローチャンバー長さLは33mm、開口角αは16.2゜、厚さtは0.5mmである。またフローチャンバー17の流路入口35及び流路出口36の直径は最小幅W1と等しくそれぞれ1mmである。
【0051】
作用電極15は白金からなり、
図3及び
図4に示すように、フローチャンバーに露出されている領域では、上辺長さ4.1mm、下辺長さ5mm、高さ(幅)3mmの台形をなし面積は約13.6mm
2である。
【0052】
対向電極16も作用電極15と同様に白金からなり、作用電極15と2mmの間隔をあけて配置されている。
【0053】
フローチャンバー17に対向する磁石24の面は4.6mm×5mmの方形であり、面積は23mm
2である。従って作用電極のフローチャンバー内に露出している領域の面積は、磁石の頂上部面積より小さく、前者の後者に対する比率は13.6/23=59%(2/3以下である)である。なお前者の後者に対する比率を1/3以下にする為には、例えば作用電極がフローチャンバーに露出されている台形領域の高さ(幅)を1.5mmとすればよい。更に作用電極のフローチャンバー内に露出している領域の重心91は磁石の頂上部の重心92よりもフローの上流側にある。なお、今フローは流路入口35から流路出口36へ流れているため、流路入口35に近いほうが上流側に相当する。
【0054】
また磁石は永久磁石であり、作用電極15側にN極が着磁され、磁束密度0.85Tを有している。この磁石24は凹所18C内の作動位置では作用電極15の表面に対して1mm離れた距離に置かれる。受光窓22は、光透過率90%以上の非電導性プラスチック材料であるアクリルからなり、厚さ4mm、有効直径25mmの円板状である。
【0055】
次に、上記のように構成した本実施例の免疫分析装置の動作を説明する。
【0056】
サンプルボトル31内の特定成分であるTSH(甲状腺刺激ホルモン)を含む血清、尿等の生体液由来の試料50μlと、ビーズボトル32内の緩衝液中に分散させたビーズ溶液50μlと、第1試薬ボトル33内の末端をビオチン処理したTSH抗体を含む第1試薬50μlと、第2試薬ボトル34内の末端をビオチン処理し、かつ励起により化学発光を生じる前記の標識物質を結合させたTSH抗体を含む第2試薬50μlと、緩衝液ボトル3内の前記誘引物質を含むpH7.4前後の緩衝液50μlとをサンプリングプローブ30により所定の順番に従って順にベッセル1内に分注する。ここではサンドイッチ法により分析するため、ビーズ溶液、第1試薬、試料、第2試薬の順番で分注する。
【0057】
また、分注動作中は、ベッセル1内を一定温度(この実施例では37℃)に保温しながら図示しない振動装置により撹拌して反応を進行させ、分注動作後一定時間(この実施例では15分間)保温と撹拌を継続する。これにより、磁性体粒子、第1試薬、試料中のTSH、及び第2試薬が結合した反応生成物を含む懸濁液がベッセル1内に生成される。
【0058】
次にベッセル1内の懸濁液をフロースルーセルユニット10のフローチャンバー17内に導入する。この操作は次のようにして行う。まず、
図2において、ステッピングモータ26を駆動して磁石24を
図2に実線で示す作動の位置に移動させておく。次に、
図1において、第1ピンチ弁7を開け、第2ピンチ弁8及び第3ピンチ弁9を閉じる。この状態で、まずシッパープローブ2を図示しない駆動装置によりベッセル1の上方に水平移動した後下方に移動させ、その先端部をベッセル1内の懸濁液内に挿入する。
【0059】
次に、シリンジ11によりベッセル1内の前記反応生成物を含む250μlの懸濁液のうち200μlの懸濁液をシッパープローブ2内に吸引した後、シッパープローブ2を上方に移動させその先端部を懸濁液の外に出し、その後再びシリンジ11によりシッパープローブ2内の懸濁液を吸引する。この吸引により200μlの懸濁液が導管P2を介してフロースルーセルユニット10内に導入され、フローチャンバー17内を流れる。このとき、懸濁液は流路入口35から線速度50mm/sでフローチャンバー17内を流れるようにシリンジ11の操作を制御する。懸濁液が作用電極15上に達すると、磁石24により局部的に形成される磁場により、反応生成物と未反応の磁性体粒子のみが作用電極15上に捕捉され、その他の未反応の第1試薬と第2試薬はフローチャンバー17を通過してシリンジ11へと吸引される。このようにして、200μlの懸濁液に含まれていた全ての反応生成物をフローチャンバー17内に集められB/F分離が行われる。
【0060】
次に、シッパープローブ2を洗浄槽5の上方に水平移動した後下方に移動し、その先端部を洗浄槽5内に位置させ、この状態で、ポンプ12を駆動し、蒸留水ボトル14内の蒸留水を導管P9、ポンプ12、導管P10を介して洗浄層5内に吐出させ、挿入されたシッパープローブ2の先端部の外側を洗浄する。洗浄槽5内に吐出された使用済みの蒸留水は廃液として洗浄槽5の底部から導管P11を介して廃液ボトル13に送液させる。
【0061】
次に、シッパープローブ2を上方に移動して先端部を洗浄槽5の外に出した後、緩衝液ボトル3の上方に水平移動させ更にシッパープローブ2を下方に移動してその先端部を緩衝液ボトル3内の緩衝液に挿入する。次にシリンジ11により緩衝液ボトル3内の緩衝液を吸引し1000μlの緩衝液をフロースルーセルユニット10内に導入する。この緩衝液の導入により、フロースルーセルユニット10のフローチャンバー17内に残存していた未反応の第2試薬が洗い流されB/F分離が完了する。このとき、洗浄に用いられた緩衝液と未反応の試薬は、フローチャンバー17から導管P3、第1ピンチ弁7及び導管P4を通ってシリンジ11内に吸入される。
【0062】
以上の操作によりフローチャンバー17内は、作用電極15上に反応生成物と未反応の第1試薬(磁性体粒子)が捕捉されており、それらの周囲すなわちフローチャンバー17全体は、標識物質の励起を誘引するために用いられるTPAを含む緩衝液によって満たされることになる。一方、シリンジ11中に吸引されていた緩衝液と未反応の試薬は第1ピンチ弁7を閉じた後、第2ピンチ弁8を開けて、シリンジ11により廃液ボトル13中に吐出される。
【0063】
上記工程終了の後、作用電極15とその同一平面上両側に配置された対向電極16間に定められたシーケンスに基づいた電圧を印加し、下記の反応を行わせる。
1)TPA→TPA
+ +e
-
2)TPA
+ →TPA
* +H
+
3)Ru(bpy)
32+→Ru(bpy)
33++e
-
4)Ru(bpy)
33++TPA
* →Ru(bpy)
32+*
5)Ru(bpy)
32+* →Ru(bpy)
32++photon(620nm)
すなわち、電圧の印加により緩衝液中のTPAが還元され、反応生成物中の標識物質であるRu(bpy)
32+が発光する。この反応によって発生した光は、フローチャンバー17上に設けられた透明の受光窓22を通じて光電子倍増管19の光電面に導入されてその発光量が計測され、TSH濃度既知のコントロール物質を測定した際の発光量と比較して試料中のTSH濃度が算出される。
【0064】
上記反応工程に際して、作用電極15上に磁性体粒子と結合してなる反応生成物を捕捉する目的で、配置した磁石24は、光電子増倍管の増倍効率に対する磁界の影響を少なくするため、電圧の印加による電気化学的反応により発光を行わせる直前あるいは、できうるならば直後にステッピングモータ28を駆動して作用電極15面上に磁界の影響が及ばぬ後退位置に移動する。
【0065】
発光反応終了後、フローチャンバー17内の洗浄を行う。まず、第1ピンチ弁7を開け、第2ピンチ弁8及び第3ピンチ弁9を閉じ、先に説明したのと同様に予め蒸留水により先端を洗浄しておいたシッパープローブ2を洗浄水ボトル4の上方に水平移動した後に、下方に移動し、その先端部を洗浄液ボトル4内の洗浄液内に挿入し、この状態で、シリンジ11にて洗浄液ボトル4内の洗浄液の吸引を開始する。この際、洗浄効率を上げる目的でシリンジ11により洗浄液を吸引している間にシッパープローブ2を上下させて洗浄液及び空気を一定量ずつ交互に吸引するのがよい。このように吸引された洗浄液は、導管P2を通じてフロースルーセルユニット10内のフローチャンバー17内に導びかれ、フローチャンバー17内に残った反応終了後の緩衝液、反応生成物及び未反応の第1試薬(磁性体粒子)を洗い流す。この後、シリンジ11内に吸引された廃液及び洗浄液は、第1ピンチ弁7を閉じ、第2ピンチ弁8を開け、シリンジ11を押し出すことにより廃液ボトル13内に吐出される。
【0066】
上記工程終了後、再び第2ピンチ弁8を閉じて第1ピンチ弁7を開け、予め蒸留水により先端を洗浄しておいたシッパープローブ2により緩衝液ボトル3内からTPAを含む緩衝液をシリンジ11を用いて1000μl吸引し、導管P2及びフロースルーセルユニット10のフローチャンバー17内に残された洗浄液を洗い流した後、導管P2及びフローチャンバー17内を緩衝液で置換する。この操作にて一試料に対するTSHの測定が完了する。
【0067】
以上の操作及びフロースルーセル6を用いて、実際のSN比の向上を検討する為、シグナルに相当するものとしてTSHを含む緩衝液(濃度:1uIU/ml)を、又ノイズに相当するものとして、TSHを含まず、標識物質の励起を誘引させる物質(TPA)を含む緩衝液をそれぞれ測定し、発光量(任意単位)の比較を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1では比較例1として
図5に示す作用電極形状のフロースルーセルを用いた場合の測定結果を併記した。
図5に示す作用電極15−2はフローチャンバーに露出されている領域の面積は磁石の頂上部とほぼ一致しており、約23.1mm
2である。それ以外の構成は
図4と同様である。従って作用電極のフローチャンバー内に露出している領域の面積は磁石の頂上部の面積よりわずかに大きく、前者の後者に対する比率は23.1/23>100%である。更に作用電極のフローチャンバー内に露出している領域の重心91は磁石の頂上部の重心92と一致している。
【0070】
表1から分かるように、本実施例1は比較例1よりSN比(表1中のSignal/Noise)が高い。これは磁性体粒子を補足する領域に選択的に作用電極を配置したことで、TSHに由来する目的としている発光標識からの発光の割合に対して、発光誘引物質の発光の割合を向上することができた為と考えられる。
【実施例2】
【0071】
図6には本発明の別の実施形態を示す。
【0072】
フロースルーセルの構成は、作用電極形状以外は実施例1で作製したフロースルーセルと同様である。作用電極15−3はフローチャンバーに露出されている領域では二股に分かれている。フローチャンバーの上流側にある露出領域を上流側作用電極露出領域、また下流側にある露出領域を下流側作用電極露出領域と称す。
【0073】
上流側作用電極露出領域はその上流側両端部に上流側凹部94を有する。また上流側作用電極露出領域はその下流側に下流側凹部95を有する。また上流側作用電極露出領域の重心91−3は、磁石の頂上部の重心92よりも上流側にあり、下流側作用電極露出領域の重心93は、磁石の頂上部の重心92よりも下流側にある。
【0074】
図6に示す作用電極15−3はフローチャンバーに露出されている領域の面積は上流側作用電極露出領域と下流側作用電極露出領域を合わせて14.5mm
2とした。従って作用電極のフローチャンバー内に露出している領域の面積は磁石の頂上部の面積より小さく、前者の後者に対する比率は14.5/23=63%(2/3より小さい)である。
【0075】
表1から分かるように、本実施例2の方が比較例1更には実施例2よりもSN比が高いことが分かる。これは作用電極形状をより磁性体粒子を補足する領域に近い形状とすることで、TSHに由来する目的としている発光標識からの発光の割合に対して、発光誘引物質の発光の割合を向上することができる為と考えられる。
【実施例3】
【0076】
本発明の他の実施例を示す。
【0077】
本実施例においては、作用電極の形状は従来と同様であるとする。受光窓22は、捕捉領域の下流側から生じた発光が光電子増倍管に入らないよう、受光窓の一部が覆われている。これにより、ノイズ成分が多い領域からの発光が光電子増倍管に入らないので、SN比の向上につながる。また受光窓を覆うことで、電極形状の細かい加工・制御が不要となる(比較例と同じより簡便な形状でよい)。従って、電極形状を加工する際の電極端部等の加工精度ばらつきに由来する電気化学反応効率のばらつきを抑制することができる。即ち、フロースルーセル又は分析装置の有する精度を低下させることなく、SN比を向上することができる。