特許第6239251号(P6239251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239251
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/24 20060101AFI20171120BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01M4/24 H
   H01M12/08 K
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-69406(P2013-69406)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-192137(P2014-192137A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年10月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】小久見 善八
(72)【発明者】
【氏名】中田 明良
(72)【発明者】
【氏名】平井 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】祐延 貴洋
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−252547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属のイオンを含有する電解質溶媒と、
負極電極体と、
を備え、
前記金属は亜鉛であり、
前記負極電極体のうちの前記電解質溶媒に接触する負極表面は、
導体から形成される複数の20μmの一定幅の電極領域と、
絶縁体から形成される絶縁体領域とを含み、
前記負極表面は、前記絶縁体領域を介して前記電極領域が20μmの一定距離で互いに離間し、前記絶縁体が前記電解質溶媒に接触する面が沿う平面から前記複数の電極領域が突出するように形成されている二次電池。
【請求項2】
前記電解質溶媒に接触する正極をさらに備え、
前記正極の正極活物質は、酸素を含む気体である請求項1に記載される二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池に関し、特に、繰り返し充放電可能である二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
繰り返し充放電可能な二次電池が知られている。国際公開第2010/116533号には、高性能であるリチウムイオン電池が開示されている。そのリチウムイオン電池は、負極シートと正極シートとを長尺シート状のセパレータを介して重ね合わせて捲回してなる電極体が非水電解液とともに適当な外容器に収容された構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2010/116533号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのリチウムイオン電池は、負極シートの表面またはその近傍で析出する析出物がセパレータの細孔を埋めて両電極シート間に導電パスを形成することがある。その析出物の中で特に樹枝状析出物(以下、デンドライト)は、内部短絡を生じるおそれがある。また、デンドライトは非水電解液中の金属イオンが析出したものであるため、電極から離れることで不活性金属となってしまい、そのリチウムイオン電池の放電容量を低下させることがある。また、デンドライトが発生した際には、水素ガス(H)も発生し、その水素ガスの発生により電気化学反応に使用されるエネルギーが使われてしまう。そのために、デンドライトが発生した電池は充電効率が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、デンドライトの発生による内部短絡及び水素発生の抑制と、放電容量の低下を防止する二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による二次電池は、金属のイオンを含有する電解質溶媒と、負極電極体とを備えている。このとき、その負極電極体のうちのその電解質溶媒に接触する負極表面は、導体から形成される複数の20μmの一定幅の電極領域と、絶縁体から形成される絶縁体領域とを含んでいる。その負極表面は、その絶縁体領域を介してその電極領域が20μmの一定距離で互いに離間して、形成されている。ここで離間とは、それぞれの電極領域が間隔をあけて離れていることを言う。
【0007】
このような二次電池は、複数の20μmの一定幅の電極領域が20μmの一定距離で互いに離間して島状に配置されることにより、充電するときに、その金属のイオンが高効率にその複数の電極領域に輸送され、複数の電極領域に金属のデンドライトが析出することが低減される。このため、このような二次電池は、デンドライトの生成による負極と正極との短絡及び水素ガスによる充電効率の低下が抑制され、放電容量が低下することが防止される。
【0008】
参考態様では、その複数の電極領域のうちの任意の電極領域は、その電極領域の幅が1μm以上20μm以下である。
【0009】
このような二次電池は、複数の電極領域がそれぞれ微小電極に形成されることにより、電極領域の幅が20μmよりも大きい電極領域から形成される複数の電極領域に比較して、より平面拡散によりイオンが供給される領域がより小さくなる。このため、このような二次電池は、その金属のイオンが高効率にその複数の電極領域に輸送され、複数の電極領域にデンドライトが析出することがより低減され、内部短絡や水素ガスが抑制され、放電容量が低下することが防止される。
【0010】
その負極は、その絶縁体がその電解質溶媒(電解液に接触する面が沿う平面からその複数の電極領域が突出するように、形成されている。
【0011】
このような二次電池は、その平面から突出しないように形成される他の負極に比較して、充電されるときに、その金属のイオンがより高効率にその複数の電極領域に輸送される。そのため、複数の電極領域にデンドライトが析出することが低減され、内部短絡や水素ガスの発生を抑制し、放電容量が低下することが防止される。
【0012】
その金属は、亜鉛である。すなわち、このような二次電池は、亜鉛が利用されるときに好適である。
【0013】
その電解液に接触する正極をさらに備えている。このとき、その正極の正極活物質は、酸素を含む気体である。すなわち、このような二次電池は、空気電池に利用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明による二次電池は、負極に金属のデンドライトが生成すること低減することにより、デンドライトによる内部短絡と水素ガスの発生の抑制及び、放電容量の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】二次電池を示す断面図である。
図2】負極を示し、拡散層を示す断面図である。
図3】負極を示す平面図である。
図4】比較例の拡散層を示す断面図である。
図5】拡散層を示す断面図である。
図6】比較例の拡散層を示す断面図である。
図7】実験装置を示す断面図である。
図8】他の負極を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、二次電池の実施の形態が以下に記載される。その二次電池1は、図1に示されているように、ケース2と電解質溶媒3(以下、電解液3)とを備えている。ケース2は、液体を貯留する容器に形成されている。本実施形態では電解液3は、水酸化カリウムKOHと亜鉛Znとが溶解している溶液である。電解液3は、ケース2に貯留されている。
なお、本実施形態では電解液3は溶液であるが、これに限られず、固体電解質を採用してもよい。
【0017】
二次電池1は、さらに、正極5と負極6とセパレータ7とを備えている。正極5は、ガス拡散電極から形成され、正極の活物質として酸素を含有する気体が電解液3に接触するように、ケース2の内部に配置され、電解液3に浸漬されている。その気体としては、空気が例示される。負極6は、電解液3に接触するように、電解液3に浸漬され、ケース2の内部に配置されている。セパレータ7は、絶縁体から形成され、多孔質であるシートに形成されている。セパレータ7は、正極5と負極6との間に配置されるように、電解液3に浸漬され、ケース2の内部に配置されている。セパレータ7は、電解液3に溶解しているイオンを通過させ、正極5と負極6とが電気的に接触することを防止している。
【0018】
二次電池1は、さらに、正極端子11と負極端子12と備えている。正極端子11は、導体から形成されている。正極端子11は、正極5に電気的に接触し、一部がケース2の外部に配置されている。負極端子12は、導体から形成されている。負極端子12は、負極6に電気的に接触し、一部がケース2の外部に配置されている。
【0019】
図2は、負極6を示している。負極6は、金属部分21と絶縁体部分22とを備えている。金属部分21は、金属亜鉛Znから形成され、平坦である金属表面23が形成されている。絶縁体部分22は、例えば、ジルコニア(ZrO)や炭化ケイ素(SiC)などの絶縁体から形成され、金属表面23を被覆する膜に形成されている。絶縁体部分22は、複数の孔が形成されている。負極6は、金属表面23に絶縁体部分22が被覆されることにより、負極表面24が形成されている。負極6は、負極表面24が電解液3に接触するように、電解液3に浸漬され、ケース2の内部に配置されている。
【0020】
負極表面24は、図3に示されるように、絶縁体領域25と複数の電極領域26−1〜26−nとから形成されている。絶縁体領域25は、絶縁体部分22から形成されている。複数の電極領域26−1〜26−nは、それぞれ、金属部分21から形成されている。複数の電極領域26−1〜26−nのうちの任意の電極領域26−i(i=1,2,3,…,n)は、正方形状に形成されている。電極領域26−iは、さらに、電極幅27が20μmに等しくなるように、形成されている。電極幅27は、電極領域26−iの電極領域の幅の最小値を示し、すなわち、その正方形の一辺の長さを示している。
【0021】
複数の電極領域26−1〜26−nは、さらに、碁盤の目状に並べられて配置されている。複数の電極領域26−1〜26−nは、絶縁体領域25を介して互いに離れ、すなわち、電極領域26−iと複数の電極領域26−1〜26−nのうちの電極領域26−iに隣り合う他の電極領域26−j(j=2,3,…,n;j≠i)との間に絶縁体領域25の一部が配置されるように形成されている。複数の電極領域26−1〜26−nは、さらに、マスク幅28が20μmに等しくなるように、形成されている。マスク幅28は、電極領域26−iと電極領域26−jとの間の距離を示している。
【0022】
二次電池の動作は、放電する動作と充電する動作とを備えている。その放電する動作は、正極端子11と負極端子12とが電気的に接続されたときに、実行される。このとき、複数の電極領域26−1〜26−nでは、次半反応式:
Zn→Zn2++2e
Zn+4OH→Zn(OH)2−+2e
により表現される反応が主に進行する。正極5では、次半反応式:
+2HO+4e→4OH
により表現される反応が主に進行する。
【0023】
その充電する動作は、負極端子12に対して正極端子11に所定の電圧以上の電圧が印加されたときに、実行される。このとき、複数の電極領域26−1〜26−nでは、次半反応式:
Zn2++2e→Zn
Zn(OH)2−+2e→Zn+4OH
により表現される反応が主に進行する。正極5では、次半反応式:
4OH→O+2HO+4e
により表現される反応が主に進行する。
【0024】
二次電池1は、その充電する動作が実行されているときに、複数の電極領域26−1〜26−nで金属亜鉛Znのデンドライトが析出することがある。二次電池1は、複数の電極領域26−1〜26−nに金属亜鉛Znのデンドライトが析出したときに、そのデンドライトがセパレータ7を突き破ることにより、負極の金属部分21と正極5とが短絡することがある。二次電池1は、複数の電極領域26−1〜26−nに金属亜鉛Znのデンドライトが析出したときに、さらに、そのデンドライトの一部が複数の電極領域26−1〜26−nから脱落することがある。二次電池1は、このような脱落により、負極の金属部分21のうちの活性金属である亜鉛Znが低減し、放電容量が低下することがある。二次電池1は、その充電する動作が実行されているときに、さらに、複数の電極領域26−1〜26−nで気体水素Hが生成されることがある。二次電池1は、その充電する動作が実行されているときに、デンドライトが発生すると下記の半反応式で表されるように、複数の電極領域26−1〜26−nで気体水素Hが生成される。この発生した水素ガスによって、複数の電極領域26−1〜26−nにおいて反応する金属亜鉛Znの量が低減し、充填の効率が低下する。
2HO+2e→H+2OH
【0025】
二次電池1は、複数の電極領域26−1〜26−nが一定幅の島状に形成され、一定距離で互いに離間して配置されることにより、充電するときに、亜鉛イオンZn2+が比較的高効率に電解液3から複数の電極領域26−1〜26−nに輸送される。このため、このような二次電池は、複数の電極領域26−1〜26−nにボウルダー形状の金属亜鉛Znが析出し、複数の電極領域26−1〜26−nに金属亜鉛Znのデンドライトが析出することが低減され、さらに、複数の電極領域26−1〜26−nで気体水素Hが生成されることが低減される。その結果、二次電池1は、負極の金属部分21と正極5とが短絡することや、水素ガスの発生による充放電効率の低下が抑制され、放電容量が低下することが防止される。
ここで一定幅とは、一定値の幅を言うが、本実施形態での効果が得られる範囲内での誤差も含んでいる。また、同様に一定距離とは、隣り合う任意の電極領域の一定値の距離を言うが、本実施形態での効果が得られる範囲内での誤差も含んでいる。
【0026】
図2は、さらに、複数の電極領域26−1〜26−nのうちの任意の電極領域26−iにより電解液3に形成される拡散層を示している。その拡散層31は、平面拡散領域32と球面拡散領域33とを含んでいる。平面拡散領域32は、平面拡散により亜鉛イオンZn2+を電極領域26−iに供給する領域を示し、すなわち、電極領域26−iの法線に平行に亜鉛イオンZn2+を電極領域26−iに供給する領域を示している。球面拡散領域33は、球面拡散により亜鉛イオンZn2+を電極領域26−iに供給する領域を示し、すなわち、電極領域26−iの法線に平行に亜鉛イオンZn2+を電極領域26−iに供給するだけでなく、その法線方向以外の方向から亜鉛イオンZn2+を電極領域26−iに供給する領域を示している。
【0027】
拡散層31は、電極幅27が20μmに等しくなるように電極領域26−iが形成されることにより、平面拡散領域32が比較的小さくなるように形成されている。すなわち、電極領域26−iは、いわゆる微小電極に形成されている。
【0028】
二次電池の比較例は、既述の実施の形態における絶縁体部分22が他の絶縁体部分に置換されている。その絶縁体部分122は、図4に示されるように、既述の実施の形態における複数の電極領域26−1〜26−nと大きさが異なる他の複数の電極領域を形成している。その複数の一定幅の電極領域のうち、任意の電極領域126は、電極領域の幅が20μmより十分に大きくなるように、形成されている。電極領域126により電解液3に形成される拡散層131は、平面拡散領域132と球面拡散領域33とを含んでいる。平面拡散領域132は、平面拡散により亜鉛イオンZn2+を電極領域126に供給する領域を示し、すなわち、電極領域126の法線に平行に亜鉛イオンZn2+を電極領域126に供給する領域を示している。球面拡散領域133は、球面拡散により亜鉛イオンZn2+を電極領域126に供給する領域を示し、電極領域126の法線に平行に亜鉛イオンZn2+を電極領域126に供給するだけでなく、その法線方向以外の方向から亜鉛イオンZn2+を電極領域126に供給する領域を示している。
【0029】
平面拡散領域132は、電極領域の幅が20μmより大きくなるように電極領域126が形成されることにより、拡散層31の平面拡散領域32に比較して、より大きい。その球面拡散は、一般的に、その平面拡散に比較して、電極に金属イオンをより高効率に輸送する。このため、電極領域26−iは、電極領域126に比較して、電解液3から亜鉛イオンZn2+がより高効率に輸送されることができ、その充電する動作が実行されているときに、金属亜鉛Znのデンドライトがより生成されにくく、気体水素Hが生成されにくい。
【0030】
図5は、電極領域の幅が20μmより大きく、一定距離で隣り合う2つの電極領域26−i、26−jにより電解液3にそれぞれ形成される2つの拡散層を示している。その2つの拡散層のうちの電極領域26−iにより形成される拡散層41は、二次電池1が充電されているときに、亜鉛イオンZn2+を電極領域26−iに供給する領域を示している。その2つの拡散層のうちの電極領域26−iにより形成される拡散層42は、二次電池1が充電されているときに、亜鉛イオンZn2+を電極領域26−jに供給する領域を示している。拡散層41と拡散層42とは、電極領域26−iと電極領域26−jとの距離が20μm以下の範囲でありその範囲内において、電極領域26−iと電極領域26−jとの距離が大きく離れるように形成されていることにより、拡散層41と拡散層42との重なりが十分に小さくなる。一方で、電極領域26−iと電極領域26−jとの距離が20μmより大きい範囲では、微小電極の効果で亜鉛イオンの供給量は十分多くなるが、マスク幅が20μmより大きくなると、電極領域26−iと電極領域26−jのいずれかで有効面積が小さくなるのに、電極への亜鉛イオン供給量は変わらないので、電極全体での電流値は小さくなってしまう。
【0031】
図6は、二次電池の他の比較例を示している。その比較例の二次電池は、既述の実施の形態における絶縁体部分22が他の絶縁体部分に置換されている。その絶縁体部分222は、既述の実施の形態における複数の電極領域26−1〜26−nと大きさが異なる他の複数の電極領域を形成している。その複数の電極領域のうちの任意の電極領域226−iは、電極領域26−iと同様にして、電極領域の幅が1μm以上20μm未満になるように、形成されている。その複数の電極領域のうちの電極領域226−iに隣り合う他の電極領域226−jは、電極領域226−iと同様にして、電極領域の幅が1μm以上20μm未満になるように、形成されている。その複数の電極領域は、さらに、電極領域226−iと電極領域226−jとの距離(マスク幅)が20μm未満になるように、形成される。
【0032】
図6は、さらに、2つの電極領域226−i、226−jにより電解液3にそれぞれ形成される2つの拡散層を示している。その2つの拡散層のうちの電極領域226−iにより形成される拡散層241は、二次電池1が充電されているときに、亜鉛イオンZn2+を電極領域226−iに供給する領域を示している。その2つの拡散層のうちの電極領域226−iにより形成される拡散層242は、二次電池1が充電されているときに、亜鉛イオンZn2+を電極領域226−jに供給する領域を示している。拡散層241と拡散層242とは、電極領域226−iと電極領域226−jとの距離が20μmより小さいことにより、拡散層241と拡散層242とが重なるように形成される。
【0033】
電極領域226−iは、拡散層241と拡散層242とが重なることにより、拡散層241から供給される亜鉛イオン2+の量がその重なりの分だけ低減する。このため、その比較例の二次電池は、充電されるときに、電極領域226−iに供給される亜鉛イオン2+の量が低減することにより、電極領域226−iに金属亜鉛Znのデンドライトがより生成されやすく、電極領域226−iで気体水素Hが生成しやすい。
【0034】
対して、電極領域26−iは、電極領域226−iに比較して、電解液3から亜鉛イオンZn2+がより高効率に輸送されることができ、その充電する動作が実行されているときに、金属亜鉛Znのデンドライトがより生成されにくい。その結果、二次電池1は、複数の電極領域26−1〜26−nに金属亜鉛Znのデンドライトが生成されにくいことにより、その比較例の二次電池に比較して、デンドライトによる短絡や水素ガスによる充電効率の低下が抑制され、放電容量が低下することがより確実に防止される。
【0035】
図7は、二次電池1の効果を実証するための実験に利用される実験装置を示している。その実験装置51は、ケース52と電解液53と参照電極54と対極55と作用極56とを備えている。ケース52は、テフロン(登録商標)から形成され、液体を貯留する容器に形成されている。電解液53は、7Mの水酸化カリウムKOHと0.6Mの酸化亜鉛ZnOとが溶解している水溶液である。電解液53は、ケース52に貯留されている。対極55は、金属亜鉛Znから形成され、板状に形成されている。参照電極54は、電解液53に接触するように、ケース52の内部に配置され、電解液53に浸漬されている。参照電極54は、金属亜鉛Znから形成され、亜鉛線に形成されている。
【0036】
作用極56は、既述の実施の形態における負極6の金属部分21が高配向熱分解黒鉛(HOPG:Highly Oriented Pyrolytic Graphite)から形成され、絶縁体部分22がジルコニアZrOから形成されている。作用極56は、電解液53に接触するように、電解液53に浸漬され、ケース52の内部に配置されている。
【0037】
その実験では、まず、作用極56として複数の作用極が作製される。その複数の作用極は、マスク幅28と電極幅27とが互いに異なっている。その実験では、その複数の作用極に対応する複数のデンドライト閾値電流値が計測される。その複数のデンドライト閾値電流値のうちのある作用極に対応するデンドライト閾値電流値は、その作用極を用いて実験装置51が組み立てられた場合で、対極55に対してその作用極に所定の電圧が印加されたときに、その作用極と対極55とに流れる電流を示し、その作用極に金属亜鉛Znのデンドライトが析出する電流の最小値を示している。そのデンドライト閾値電流値は、大きいほど、その作用極に金属亜鉛Znのデンドライトが析出しにくいことを示している。また、本実験で流す電流を一定とし、さらに条件として電流密度条件を変化させ、各々の電析物の形状をSEMで確認し、デンドライトかボウルダー形状か否かを確認した。
【0038】
その実験の実験結果は、その作用極のマスク幅が20μmであり、電極幅が20μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0157Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が50μmであり、電極幅が50μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0141Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が100μmであり、電極幅が100μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0124Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が20μmであり、電極幅が40μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0140Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が50μmであり、電極幅が100μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0140Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が350μmであり、電極幅が700μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0110Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が20μmであり、電極幅が50μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0149Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が20μmであり、電極幅が100μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0140Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が50μmであり、電極幅が250μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0140Aであることを示している。その実験結果は、さらに、マスク幅が100μmであり、電極幅が500μmであるときに、デンドライト閾値電流値が0.0140Aであることを示している。その実験結果は、さらに、絶縁体部分22が省略されたときに、デンドライト閾値電流値が0.0152Aであることを示している。
【0039】
その実験結果は、電極領域の幅が一定であるときに、その電極領域の幅が1〜20μmの範囲内においては、マスク幅が1〜20μmの範囲内では、そのマスク幅が大きいほど金属亜鉛Znのデンドライトが析出しにくいことを示している。すなわち、その実験結果は、複数の電極領域26−1〜26−nに金属亜鉛Znのデンドライトが析出しにくいことを示し、二次電池1の放電容量が低下することが防止され、負極6と正極5とが短絡することが防止されることを示している。
【0040】
なお、複数の電極領域26−1〜26−nは、正方形と異なる他の形状に形成されることができる。その形状としては、多角形、円が例示される。さらに、複数の電極領域26−1〜26−nは、碁盤の目状と異なる他の並べ方で配置されることができる。このような複数の電極領域が形成された二次電池も、電極幅が所定の幅より小さく、マスク幅が所定の幅より大きくすることにより、既述の実施の形態における二次電池1と同様にして、放電容量が低下することが防止され、負極6と正極5とが短絡することが防止される。
【0041】
二次電池の実施の他の形態は、既述の実施の形態における負極6が他の負極に置換されている。その負極60は、図8に示されるように、金属部分61と絶縁体部分62とを備えている。金属部分61は、金属亜鉛Znから形成されている。絶縁体部分62は、絶縁体から形成され、金属部分61を被覆する膜に形成されている。絶縁体部分62は、複数の孔が形成されている。負極60は、金属部分61に絶縁体部分62が被覆されることにより、負極表面64が形成されている。
【0042】
負極表面64は、絶縁体領域65と複数の電極領域とから形成されている。絶縁体領域65は、絶縁体部分62から形成されている。その複数の電極領域は、それぞれ、金属部分61から形成されている。その複数の電極領域のうちの任意の電極領域66−iは、既述の実施の形態における電極領域26−iと同様にして、電極幅が20μmに等しくなるように、マスク幅が20μmに等しくなるように、形成されている。負極表面64は、さらに、金属部分61の電解液3に接触する表面が、絶縁体部分62の電解液3に接触する表面より突出するように、形成されている。負極60は、負極表面64が電解液3に接触するように、電解液3に浸漬され、ケース2の内部に配置されている。
【0043】
このような負極60を備える二次電池は、既述の実施の形態における二次電池1と同様にして、その複数の電極領域に金属亜鉛Znのデンドライトが析出することが防止され、放電容量が低下することが防止され、負極60と正極5とが短絡することが防止される。このような負極60は、金属部分61の表面が絶縁体部分62の表面より突出していることにより、既述の実施の形態における負極6に比較して、電解液3からその複数の電極領域に亜鉛イオンZn2+がより高効率に輸送されることができる。例えば、突出している高さが電極領域の幅の1/2である場合には、球面拡散領域を既述の実施の形態に比べて、より広くとることができる。そのため、このような二次電池は、既述の実施の形態における二次電池1に比較して、放電容量が低下することがより確実に防止され、負極60と正極5とが短絡することがより確実に防止される。
また、使用する金属イオンによっては、電極幅を一定とし、マスク幅を20μmより大きくすることができる。
【0044】
なお、亜鉛イオンZn2+が電解液3を拡散する拡散速度は、電解液3の状態により変動する。このため、参考態様において負極6は、亜鉛のデンドライトの析出を十分に低減することができる電解液が適用されたときに、マスク幅28が20μm以下になるように形成されることができ、電極幅26が20μmより大きく(たとえば、50μm)なるように形成されることもできる。このような二次電池は、金属亜鉛Znが電解液に接触する表面が複数の電極領域に分割されていない他の二次電池に比較して、亜鉛のデンドライトの析出をより抑制することができ、放電容量の低下と自己放電とをより確実に防止することができる。
【0045】
なお、電解液3は、水酸化カリウムKOHと異なる他の電解質が溶解している他の電解液に置換されることができる。その電解質としては、水酸化ナトリウムが例示される。正極5は、酸素と異なる他の物質から形成される他の正極に置換されることができる。その物質は、金属亜鉛Znの対極に利用したときに電池に形成される物質であり、たとえば、水酸化ニッケルNi(OH)が例示される。このような二次電池も、既述の実施の形態における二次電池1と同様にして、放電容量が低下することが防止され、負極と正極とが短絡することが防止される。
【0046】
なお、金属部分21は、亜鉛Znと異なる他の金属から形成される他の金属部分に置換されることができる。その金属は、デンドライトが生成されうる金属であり、たとえば、リチウムLiが例示される。このような二次電池も、既述の実施の形態における二次電池1と同様にして、負極にデンドライトが生成することが防止され、放電容量が低下することが防止され、負極と正極とが短絡することが防止される。
【符号の説明】
【0047】
1 :二次電池
2 :ケース
3 :電解質溶媒(電解液)
5 :正極
6 :負極
7 :セパレータ
11:正極端子
12:負極端子
21:金属部分
22:絶縁体部分
23:金属表面
24:負極表面
25:絶縁体領域
26−1〜26−n:複数の電極領域
26−i、26−j:任意の電極領域
27:電極幅
28:マスク幅
31:拡散層
32:平面拡散領域
33:球面拡散領域
41:拡散層
42:拡散層
51:実験装置
52:ケース
53:電解液
54:参照電極
55:対極
56:作用極
60:負極
61:金属部分
62:絶縁体部分
64:負極表面
65:絶縁体領域
66−i:電極領域
122:絶縁体部分
126:電極領域
131:拡散層
132:平面拡散層
133:球面拡散領域
222:絶縁体部分
226−i、226−j:任意の電極領域
241:拡散層
242:拡散層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8