特許第6239298号(P6239298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239298
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】多層シートおよび成形品
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/541 20120101AFI20171120BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20171120BHJP
   D04H 1/4334 20120101ALI20171120BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20171120BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   D04H1/541
   D04H1/4242
   D04H1/4334
   B29C45/14
   B32B5/26
【請求項の数】11
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-152419(P2013-152419)
(22)【出願日】2013年7月23日
(65)【公開番号】特開2014-223780(P2014-223780A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-81582(P2013-81582)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-97926(P2013-97926)
(32)【優先日】2013年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511041857
【氏名又は名称】ART&TECH株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 泰
(72)【発明者】
【氏名】城野 秀治
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】三田寺 淳
(72)【発明者】
【氏名】久保 治也
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−524755(JP,A)
【文献】 特開2012−206446(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/021084(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/037225(WO,A2)
【文献】 特公平08−011863(JP,B2)
【文献】 特開平09−011374(JP,A)
【文献】 独国実用新案第29710980(DE,U1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00 − 18/04
B29C 45/00 − 45/84
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布とテキスタイル層を熱プレスして得られる多層シート、または、不織布とテキスタイル層と重ね、不織布側から熱可塑性樹脂(E)を射出成形して得られる多層シートであって、
不織布が、ジアミン構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂を含む熱可塑性樹脂繊維(A)と、炭素繊維(B)と、前記熱可塑性樹脂繊維(A)よりもガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂(C)を含み、前記熱可塑性樹脂(C)を、熱可塑性樹脂繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)の合計量の1〜50重量%の割合で含む、多層シート。
【請求項2】
不織布とテキスタイル層の間に接着層を有する、請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
前記接着層が、ポリビニルアセタール系樹脂を含む、請求項2に記載の多層シート。
【請求項4】
炭素繊維(B)の平均繊維長が1〜15mmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層シート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂繊維(A)の平均繊維長が1〜15mmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の多層シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂(C)が繊維である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層シート。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂(C)が平均繊維長1〜15mmの繊維である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多層シート。
【請求項8】
熱可塑性樹脂繊維(A)の平均繊維長と炭素繊維(B)の平均繊維長の差が10mm以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多層シート。
【請求項9】
熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)の配合比(重量比)が、99:1〜25:75である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多層シート。
【請求項10】
前記不織布とテキスタイル層に加え、さらに、熱可塑性樹脂(D)を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の多層シート。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂(D)が樹脂フィルムである、請求項10に記載の多層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シートに関する。さらに、かかる多層シートをインサート成形して得られる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や家電等の筐体および自動車内装品の筐体の技術分野において、その筐体の外面に加飾材を積層することが広く検討されている。かかる筐体は、通常、樹脂を主要構成成分とする成形品によって作製されている場合が多い。このような樹脂成形品では、その表面に施されるさまざまな加飾材が他の製品からの差別化に欠かせない要素となっている。このような状況において、一部の企業では、同一製品でも、樹脂成形品に多様な加飾材を施すことで顧客が自由に製品の加飾デザインを選択することができるようになっている。
【0003】
上記分野に関連した技術としては、例えば、接着樹脂層を介して互いに接着された透明アクリルフィルム層およびテキスタイル層の積層体と、このテキスタイル層の各繊維の隙間に浸潤しつつテキスタイル層に固着された基盤樹脂層とを備えるテキスタイル/樹脂積層構造の筐体が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2012/105664号パンフレット
【特許文献2】国際公開2012/105665号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および特許文献2によれば、テキスタイル層の基盤樹脂層に対する密着性及びテキスタイル層の表面の耐衝撃性及び擦過性が優れ、加えてテキスタイル層の皺の発生や絵柄のゆがみをなくすことができる。
【0006】
一方で、本願発明者が検討したところ、テキスタイル層を設けた多層シートには反りが生じてしまう場合があることが分かった。また、用途によっては、多層シートに機械的強度が求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、テキスタイル層を有する樹脂を含む多層シートであって、機械的強度に優れ、かつ、反りの少ない多層シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況のもと、本願発明者が検討を行った結果、以下の手段<1>により、好ましくは<2>〜<14>により、上記課題は解決された。
【0008】
<1>不織布とテキスタイル層を熱プレスして得られる多層シート、または、不織布とテキスタイル層と重ね、不織布側から熱可塑性樹脂(E)を射出成形して得られる多層シート。
<2>不織布とテキスタイル層の間に接着層を有する、<1>に記載の多層シート。
<3>前記接着層が、ポリビニルアセタール系樹脂を含む、<2>に記載の多層シート。
<4>不織布が、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)と、前記熱可塑性樹脂繊維(A)よりもガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂(C)を含み、前記熱可塑性樹脂(C)を、熱可塑性樹脂繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)の合計量の1〜50重量%の割合で含む、<1>〜<3>のいずれかに記載の多層シート。
<5>炭素繊維(B)の平均繊維長が1〜15mmである、<4>に記載の多層シート。
<6>熱可塑性樹脂繊維(A)の平均繊維長が1〜15mmである、<4>または<5>に記載の多層シート。
<7>前記熱可塑性樹脂(C)が繊維である、<4>〜<6>のいずれかに記載の多層シート。
<8>前記熱可塑性樹脂(C)が平均繊維長1〜15mmの繊維である、<4>〜<6>のいずれかに記載の多層シート。
<9>熱可塑性樹脂繊維(A)の平均繊維長と炭素繊維(B)の平均繊維長の差が10mm以下である、<4>〜<8>のいずれかに記載の多層シート。
<10>熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)の配合比(重量比)が、99:1〜25:75である、<4>〜<9>のいずれかに記載の多層シート。
<11>前記不織布とテキスタイル層に加え、さらに、熱可塑性樹脂(D)を含む、<1>〜<10>のいずれかに記載の多層シート。
<12>前記熱可塑性樹脂(D)が樹脂フィルムである、<11>に記載の多層シート。
<13>熱可塑性樹脂繊維(A)が、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂およびポリカーボネート樹脂から選択される、<4>〜<13>のいずれかに記載の多層シート。
<14><1>〜<13>のいずれかに記載の多層シートに、熱可塑性樹脂(E)をインサート成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、テキスタイル層を有し機械的強度に優れ、かつ、反りの少ない多層シートを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明における筐体の一例を示した斜視図である。
図2図1中のII−II線の断面の一例を示した断面図である。
図3図1中のIII−III線の断面の一例を示した断面図である。
図4a】〜
図4d】インサート成形する工程を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。本発明における主成分とは、含有量が最も多い成分をいう。また、本明細書では、「熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)を主成分とする不織布」等の記載があるが、これは、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)の合計量が不織布中に最も多いことを意味する。
【0012】
多層シート
本発明の多層シートは、不織布とテキスタイル層を熱プレスして得られる多層シート、または、不織布とテキスタイル層と重ね、不織布側から熱可塑性樹脂(E)を射出成形して得られる多層シートである。
具体的には、本発明の多層シートは、不織布とテキスタイル層とを熱プレスし、不織布とテキスタイル層とを融着、固着させることで得られる。または、不織布とテキスタイル層を重ねた状態で、熱可塑性樹脂(E)を射出成形することによって、不織布とテキスタイル層を融着、固着させることで得られる。これらの多層シートは、不織布とテキスタイル層以外の層を有していてもよい。本発明の多層シートでは、不織布とテキスタイル層に加え、熱可塑性樹脂(D)を含んで成形されていても良い。また、不織布とテキスタイル層の間に接着層を有していても良い。
このような構成とすることにより、機械的強度に優れ、かつ、反りが生じにくい多層シートが得られる。
以下本発明の詳細について説明する。
【0013】
<不織布>
本発明の多層シートは、不織布を有する。本発明で用いる不織布は、不織布である限り特に定めるものではなく、公知のものを採用できるが、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)を含む不織布であることが好ましく、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)と、前記熱可塑性樹脂繊維(A)よりもガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂(C)を含み、前記熱可塑性樹脂(C)を、熱可塑性樹脂繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)の合計量の1〜50重量%の割合で含む不織布がより好ましい。熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)を主成分とする不織布において、前記熱可塑性樹脂繊維(A)よりもガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂(C)を用いて結合することにより、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)を適切に結合させることができる。さらに、熱可塑性樹脂(C)が熱可塑性樹脂繊維(A)よりもガラス転移温度が低いので、熱可塑性樹脂繊維(A)については、繊維の状態を保ったままの不織布とすることができる。
本発明で用いる不織布の厚さに特に制限はないが例えば、0.05〜30mmが好ましく、0.1〜10mmがより好ましく、0.5〜5mm程度が特に好ましい。
【0014】
<<熱可塑性樹脂繊維(A)>>
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)は、熱可塑性樹脂繊維である限り特に定めるものではなく、公知のものを採用でき、通常は、熱可塑性樹脂繊維束を任意の長さに加工したものを用いる。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)の平均繊維長は、1〜20mmが好ましく、1〜15mmがより好ましく、3〜15mmがさらに好ましく、3〜12mmが特に好ましい。平均繊維長を1mm以上とすることで、不織布を用いた成形品の力学的強度を向上させることができ、20mm以下、特に、15mm以下とすることで、不織布中により均一に分散させることが可能になる。なお、平均繊維長は不織布から熱可塑性樹脂繊維(A)を20本程度取り出し、その長さを測定し相加平均して求めることができる。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)は、通常、熱可塑性樹脂繊維が束状になった熱可塑性樹脂繊維束(マルチフィラメント)を用いて製造するが、かかる熱可塑性樹脂繊維束1本の当たりの合計繊度が、37〜600Dであることが好ましく、50〜500Dであることがより好ましく、150〜400Dであることがさらに好ましい。かかる熱可塑性樹脂繊維束を構成する繊維数は、1〜200fであることが好ましく、1〜100fであることがより好ましく、5〜80fであることがさらに好ましく、20〜70fであることが特に好ましい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維は、引張強度が2〜10gf/dであるものが好ましい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)のガラス転移温度は、樹脂の種類にもよるが、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、55℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。また、本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)のガラス転移温度は、樹脂の種類にもよるが、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。特に、熱可塑性樹脂繊維(A)としてポリアミド樹脂を用いたときに、このような範囲とすることにより本発明の効果がより効果的に発揮される。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)の融点は、樹脂の種類にもよるが、150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上がより好ましい。また、本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)の融点は、樹脂の種類にもよるが、320℃以下が好ましく、310℃以下がより好ましく、300℃以下がより好ましく、280℃以下がさらに好ましい。特に、熱可塑性樹脂繊維(A)としてポリアミド樹脂を用いたときに、このような範囲とすることにより本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0015】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)に用いる繊維としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂およびポリカーボネート樹脂から選択されることが好ましい。これらの中でも、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)は、熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂組成物を繊維状にしたものである。ここで、前記熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂のみからなっていても良い。
【0016】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)は、より好ましくは、ポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666または、ジアミン構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂であり、さらに好ましくはジアミン構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂であって、数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000であり、その0.5〜5質量%が、分子量が1,000以下のポリアミド樹脂であるポリアミド樹脂組成物を繊維状にしたものである。
【0017】
本発明では、ジアミン構成単位として、パラキシリレンジアミンおよびメタキシリレンジアミンの両方に由来するポリアミド樹脂を繊維状にしたものであることがより好ましい。特に、本発明で用いるポリアミド樹脂としては、ジアミンの50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸と重縮合されたキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂であることが好ましい。
好ましくは、ジアミン構成単位の70モル%以上、より好ましくは80モル%以上がメタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位(ジカルボン酸に由来する構成単位)の好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、特には80モル%以上が、炭素原子数が好ましくは4〜20の、α,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂である。
【0018】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることが出来るメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン構成単位の50モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは1〜25モル%、特に好ましくは5〜20モル%の割合で用いる。
【0019】
ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種又は2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸が好ましく、セバシン酸が特に好ましい。
【0020】
上記炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6−ナフタレンジカルボン酸、1,7−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
【0021】
ジカルボン酸成分として、炭素原子数4〜20のα,ω−直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸を用いる場合は、成形加工性、バリア性の点から、イソフタル酸を用いることが好ましい。イソフタル酸の割合は、好ましくはジカルボン酸構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1〜30モル%、特に好ましくは5〜20モル%の範囲である。
【0022】
さらに、ジアミン成分、ジカルボン酸成分以外にも、ポリアミド樹脂を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類も共重合成分として使用できる。
【0023】
ポリアミド樹脂として、最も好ましいものは、ポリメタキシリレンセバカミド樹脂、ポリパラキシリレンセバカミド樹脂、及び、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合キシリレンジアミンをセバシン酸と重縮合してなるポリメタキシリレン/パラキシリレン混合セバカミド樹脂である。これらのポリアミド樹脂は成形加工性が特に良好となる傾向にある。
【0024】
本発明において、ポリアミド樹脂としては、数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000であり、そのうちの0.5〜5質量%が、分子量が1,000以下のポリアミド樹脂であることがより好ましい。
【0025】
数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000の範囲とすることにより、得られる不織布またはその成形品の強度がより向上する傾向にある。好ましい数平均分子量(Mn)は8,000〜28,000であり、より好ましくは9,000〜26,000であり、さらに好ましくは10,000〜24,000であり、特に好ましくは11,000〜22,000であり、特に好ましくは12,000〜20,000である。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0026】
なお、ここでいう数平均分子量(Mn)とは、ポリアミド樹脂の末端アミノ基濃度[NH2](μ当量/g)と末端カルボキシル基濃度[COOH](μ当量/g)から、次式で算出される。
数平均分子量(Mn)=2,000,000/([COOH]+[NH2])
【0027】
また、ポリアミド樹脂は、分子量が1,000以下の成分を0.5〜5質量%含有することが好ましいが、このような低分子量成分をこのような範囲で含有することにより、ポリアミド樹脂の含浸性が良好となるため、すなわちポリアミド樹脂の強化繊維間での流動性が良好となり、成形加工時にボイドの発生を抑制することができることから、得られる不織布及びその成形品の強度や低そり性がより良好となる。5質量%を超えると、この低分子量成分がブリードして強度が悪化し、表面外観が悪くなる場合がある。
分子量が1,000以下の成分の好ましい含有量は、0.6〜4.5質量%であり、より好ましくは0.7〜4質量%であり、さらに好ましくは0.8〜3.5質量%であり、特に好ましくは0.9〜3質量%であり、最も好ましくは1〜2.5質量%である。
【0028】
分子量が1,000以下の低分子量成分の含有量の調整は、ポリアミド樹脂重合時の温度や圧力、ジアミンの滴下速度などの溶融重合条件を調節して行うことができる。特に溶融重合後期に反応装置内を減圧して低分子量成分を除去し、任意の割合に調節することができる。また、溶融重合により製造されたポリアミド樹脂を熱水抽出して低分子量成分を除去してもよいし、溶融重合後さらに減圧下で固相重合して低分子量成分を除去してもよい。固相重合に際しては、温度や減圧度を調節して、低分子量成分を任意の含有量に制御することができる。また、分子量が1,000以下の低分子量成分を後からポリアミド樹脂に添加することでも調節可能である。
【0029】
なお、分子量1,000以下の成分量の測定は、東ソー社(TOSOH CORPORATION)製「HLC−8320GPC」を用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメチルメタクリレート(PMMA)換算値より求めることができる。なお、測定用カラムとしては「TSKgel SuperHM−H」を2本用い、溶媒にはトリフルオロ酢酸ナトリウム濃度10mmol/lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を用い、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度は40℃、流速0.3ml/分、屈折率検出器(RI)にて測定することができる。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定し作成する。
【0030】
ポリアミド樹脂組成物では、上記ポリアミド樹脂の0.01〜1質量%が、環状の化合物(ポリアミド樹脂)であることが好ましい。本発明において環状化合物とは、ポリアミド樹脂の原料であるジアミン成分とジカルボン酸成分からなる塩が環を形成してなる化合物をいい、以下の方法により定量することができる。
ポリアミド樹脂のペレットを超遠心粉砕機にて粉砕し、φ0.25mmのふるいにかけ、φ0.25mm以下の粉末試料10gを円筒ろ紙に測りとる。その後メタノール120mlにて9時間ソックスレー抽出を行い、得られた抽出液をエバポレータにて乾固しないように注意しながら10mlに濃縮する。なお、その際、オリゴマーが析出する場合は、適宜PTFEフィルターに通液して取り除く。得られた抽出液をメタノールにて50倍希釈した液を測定に供し、日立ハイテクノロジー社(Hitachi High−Technologies Corporation)製高速液体クロマトグラフHPLCによる定量分析を実施して環状化合物含有量を求める。
環状化合物をこのような範囲で含有することにより、得られる不織布及びその成形品の強度が良好となり、さらにそりが少なくなり、寸法安定性がより向上しやすい傾向にある。
環状化合物のより好ましい含有量は、上記ポリアミド樹脂の0.05〜0.8質量%であり、さらに好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0031】
溶融重合により製造されたポリアミド樹脂中には、環状化合物が相当量含まれている場合が多く、通常、熱水抽出等を行ってこれらは除去されている。この熱水抽出の程度を調整することにより、環状化合物量を調整することができる。また、溶融重合時の圧力を調整することでも可能である。
【0032】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn))が、好ましくは1.8〜3.1である。分子量分布は、より好ましくは1.9〜3.0、さらに好ましくは2.0〜2.9である。分子量分布をこのような範囲とすることにより、機械特性に優れた不織布が得られやすい傾向にある。
ポリアミド樹脂の分子量分布は、例えば、重合時に使用する開始剤や触媒の種類、量及び反応温度、圧力、時間等の重合反応条件などを適宜選択することにより調整できる。また、異なる重合条件によって得られた平均分子量の異なる複数種のポリアミド樹脂を混合したり、重合後のポリアミド樹脂を分別沈殿させることにより調整することもできる。
【0033】
分子量分布は、GPC測定により求めることができ、具体的には、装置として東ソー社製「HLC−8320GPC」、カラムとして、東ソー社製「TSK gel Super HM−H」2本を使用し、溶離液トリフルオロ酢酸ナトリウム濃度10mmol/lのヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、樹脂濃度0.02質量%、カラム温度40℃、流速0.3ml/分、屈折率検出器(RI)の条件で測定し、標準ポリメチルメタクリレート換算の値として求めることができる。また、検量線は6水準のPMMAをHFIPに溶解させて測定し作成する。
【0034】
また、ポリアミド樹脂は、溶融粘度が、ポリアミド樹脂の融点+30℃、せん断速度122sec-1、ポリアミド樹脂の水分率が0.06質量%以下の条件で測定したときに、50〜1200Pa・sであることが好ましい。溶融粘度を、このような範囲とすることにより、ポリアミド樹脂のフィルムまたは繊維への加工が容易となる。なお、後述するような、ポリアミド樹脂が融点を2つ以上有する場合は、高温側の吸熱ピークのピークトップの温度を融点とし、測定を行う。
溶融粘度のより好ましい範囲は、60〜500Pa・s、さらに好ましくは70〜100Pa・sである。
ポリアミド樹脂の溶融粘度は、例えば、原料ジカルボン酸成分およびジアミン成分の仕込み比、重合触媒、分子量調節剤、重合温度、重合時間を適宜選択することにより調整できる。
【0035】
また、ポリアミド樹脂は、末端アミノ基濃度([NH2])が好ましくは100μ当量/g未満、より好ましくは5〜75μ当量/g、さらに好ましくは10〜60μ当量/gであり、末端カルボキシル基濃度([COOH])は、好ましくは150μ当量/g未満、より好ましくは10〜120μ当量/g、さらに好ましくは10〜100μ当量/gのものが好適に用いられる。このような末端基濃度のポリアミド樹脂を用いることにより、ポリアミド樹脂をフィルム状又は繊維状に加工する際に粘度が安定しやすく、また、カルボジイミド化合物との反応性が良好となる傾向にある。
【0036】
また、末端カルボキシル基濃度に対する末端アミノ基濃度の比([NH2]/[COOH])は、0.7以下であるものが好ましく、0.6以下であるものがより好ましく、特に好ましくは0.5以下である。この比が0.7よりも大きいものは、ポリアミド樹脂を重合する際に、分子量の制御が難しくなる場合がある。
【0037】
末端アミノ基濃度は、ポリアミド樹脂0.5gを30mlのフェノール/メタノール(4:1)混合溶液に20〜30℃で攪拌溶解し、0.01Nの塩酸で滴定して測定することができる。また、末端カルボキシル基濃度は、ポリアミド樹脂0.1gを30mlのベンジルアルコールに200℃で溶解し、160℃〜165℃の範囲でフェノールレッド溶液を0.1ml加える。その溶液を0.132gのKOHをベンジルアルコール200mlに溶解させた滴定液(KOH濃度として0.01mol/l)で滴定を行い、色の変化が黄〜赤となり色の変化がなくなった時点を終点とすることで算出することができる。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂は、反応したジカルボン酸単位に対する反応したジアミン単位のモル比(反応したジアミン単位のモル数/反応したジカルボン酸単位のモル数、以下「反応モル比」という場合がある。)が、0.97〜1.02であることが好ましい。このような範囲とすることにより、ポリアミド樹脂の分子量や分子量分布を、任意の範囲に制御しやすくなる。
反応モル比は、より好ましくは1.0未満、さらに好ましくは0.995未満、特には0.990未満であり、下限は、より好ましくは0.975以上、さらに好ましくは0.98以上である。
【0039】
ここで、反応モル比(r)は次式で求められる。
r=(1−cN−b(C−N))/(1−cC+a(C−N))
式中、
a:M1/2
b:M2/2
c:18.015 (水の分子量(g/mol))
M1:ジアミンの分子量(g/mol)
M2:ジカルボン酸の分子量(g/mol)
N:末端アミノ基濃度(当量/g)
C:末端カルボキシル基濃度(当量/g)
【0040】
なお、ジアミン成分、ジカルボン酸成分として分子量の異なるモノマーからポリアミド樹脂を合成する際は、M1およびM2は原料として配合するモノマーの配合比(モル比)に応じて計算されることはいうまでもない。なお、合成釜内が完全な閉鎖系であれば、仕込んだモノマーのモル比と反応モル比とは一致するが、実際の合成装置は完全な閉鎖系とはなりえないことから、仕込みのモル比と反応モル比が一致するとは限らない。仕込んだモノマーが完全に反応するとも限らないことから、仕込みのモル比と反応モル比が一致するとは限らない。したがって、反応モル比とは出来上がったポリアミド樹脂の末端基濃度から求められる実際に反応したモノマーのモル比を意味する。
【0041】
ポリアミド樹脂の反応モル比の調整は、原料ジカルボン酸成分およびジアミン成分の仕込みモル比、反応時間、反応温度、キシリレンジアミンの滴下速度、釜内の圧力、減圧開始タイミング等の反応条件を適当な値にすることにより、可能である。具体的には、特開2012−153749号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
【0042】
なお、融点とは、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度である。また、ガラス転移温度とは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるガラス転移温度をいう。測定には、例えば、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC−60」を用い、試料量は約5mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30ml/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移温度を求めることができる。
【0043】
また、ポリアミド樹脂は、融点を少なくとも2つ有するポリアミド樹脂であることも好ましい。融点を少なくとも2つ有するポリアミド樹脂は、耐熱性と不織布を成形する際の成形加工性が良くなる傾向にあり好ましい。
【0044】
融点を少なくとも2つ有するポリアミド樹脂としては、ジアミン構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸構成単位の50モル%以上がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂であって、キシリレンジアミン単位は、パラキシリレンジアミン由来単位を50〜100モル%、メタキシリレンジアミン由来単位を0〜50モル%含有し、数平均分子量(Mn)が6,000〜30,000であり、融点を少なくとも2つ有するポリアミド樹脂を、好ましく挙げることができる。
この際、2つ以上の融点は、通常250〜330℃の範囲にあって、好ましくは260〜320℃、より好ましくは270〜310℃、特に好ましくは275〜305℃にある。融点を2つ以上、好ましくはこのような温度範囲に有することで、良好な耐熱性と不織布を成形する際の成形加工性を有するポリアミド樹脂となる。
【0045】
このような融点を少なくとも2つ有するポリアミド樹脂を得る方法としては、特開2012−153749号公報の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
【0046】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維を構成する樹脂組成物には、上記熱可塑性樹脂以外の樹脂を配合してもよい。特に、上記ポリアミド樹脂と併用してもよい、他のポリアミド樹脂としては、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド6/66、ポリアミド10、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸およびテレフタル酸からなるポリアミド66/6T、ヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸およびテレフタル酸からなるポリアミド6I/6Tなどが挙げられる。これらの配合量はポリアミド樹脂組成物の5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維を構成する樹脂組成物には、エラストマーを配合してもよい。エラストマー成分としては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコン系エラストマー等公知のエラストマーが使用でき、好ましくはポリオレフィン系エラストマー及びポリスチレン系エラストマーである。これらのエラストマーとしては、ポリアミド樹脂に対する相溶性を付与するため、ラジカル開始剤の存在下または非存在下で、α,β−不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリルアミド並びにそれらの誘導体等で変性した変性エラストマーも好ましい。
【0048】
このような他の樹脂やエラエストマー成分の含有量は、熱可塑性樹脂組成物中の通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、特には10質量%以下である。
【0049】
さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、酸化防止剤、熱安定剤等の安定剤、耐加水分解性改良剤、耐候安定剤、艶消剤、紫外線吸収剤、核剤、可塑剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤、離型剤等の添加剤等を加えることができる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130〜0155の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
【0050】
本発明で用いる熱可塑性樹脂繊維(A)の含有量としては、不織布中に20〜98重量%が好ましく、25〜80重量%がより好ましく、30〜70重量%がさらに好ましい。熱可塑性樹脂繊維(A)は1種類のみを用いても良く、2種類以上用いても良い。2種類以上用いた場合は、その合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0051】
<<炭素繊維(B)>>
本発明で用いる炭素繊維(B)は、その種類等特に定めるものではないが、ポリアクリロニトリルを炭化して得られるPAN系炭素繊維およびピッチ系を用いたピッチ系炭素繊維から選択されることが好ましく、PAN系炭素繊維を用いることがより好ましい。
本発明で用いる炭素繊維(B)は、通常、複数の炭素繊維(B)が束状になった炭素繊維束を任意の長さに加工したものである。
【0052】
本発明で用いる炭素繊維(B)の平均繊維長は、1〜20mmであることが好ましく、1〜15mmがより好ましく、2〜15mmがさらに好ましく、3〜15mmが特に好ましく、4〜15mmであることがさらに好ましい。平均繊維長を1mm以上とすることで、不織布を用いた成形品の力学的強度を向上させることができ、20mm以下、特に、15mm以下とすることで、不織布中での分散度がより向上する。
【0053】
本発明で用いる炭素繊維束は、繊度が、100〜50000Dであることが好ましく、500〜40000Dであることがより好ましく、1000〜10000Dであることがさらに好ましく、1000〜3000Dであることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、得られる不織布の弾性率・強度がより優れたものとなる。
本発明で用いる炭素繊維束は、繊維数が、500〜60000fであることが好ましく、500〜50000fであることがより好ましく、1000〜30000fであることがさらに好ましく、1500〜20000fであることが特に好ましい。
【0054】
本発明で用いる不織布中に含まれる炭素繊維束の平均引張弾性率は、50〜1000GPaであることが好ましく、200〜700GPaであることがより好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の多層シートの引張弾性率がより良好となる。
【0055】
本発明で用いる炭素繊維(B)は、処理剤で表面処理されていることが好ましい。かかる処理剤は、炭素繊維(B)を収束させて繊維束とする機能を有するものであることが好ましい。
【0056】
具体的には、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂、1分子中にアクリル基またはメタクリル基を有するエポキシアクリレート樹脂であって、ビスフェノールA型のビニルエステル樹脂、ノボラック型のビニルエステル樹脂、臭素化ビニルエステル樹脂等のビニルエステル系樹脂が好ましく挙げられる。またエポキシ系樹脂やビニルエステル系樹脂のウレタン変性樹脂であってもよい。
【0057】
前記処理剤の量は、炭素繊維(B)の0.001〜1.5質量%であることが好ましく、0.008〜1.0質量%であることがより好ましく、0.1〜0.8質量%であることがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0058】
本発明で用いる炭素繊維(B)の含有量としては、不織布中に1重量%以上80重量%未満が好ましく、20重量%を超え70重量%以下がより好ましく、25〜60重量%がさらに好ましい。炭素繊維(B)は1種類のみを用いても良く、2種類以上用いても良い。2種類以上用いた場合は、その合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0059】
<<熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)の関係>>
本発明で用いる不織布は、熱可塑性樹脂繊維(A)の平均繊維長と炭素繊維(B)の平均繊維長との差が10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。平均繊維長の差をこのような範囲にすることにより、不織布中で、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)がより均一に分散され、より優れた不織布が得られる。
【0060】
本発明では、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)の配合比(重量比)が、99:1〜25:75あることが好ましく、80:20〜30:70であることがより好ましく、70:30〜40:60であることがさらに好ましい。配合比をこのような範囲にすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。本発明では特に、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)の合計量が不織布の90重量%以上を占めることが好ましい。
【0061】
<<熱可塑性樹脂(C)>>
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)は、熱可塑性樹脂繊維(A)よりもガラス転移温度(Tg)が低いものであり、不織布中に、熱可塑性樹脂繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)の合計量の1〜50重量%の割合で含まれることが好ましい。
【0062】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)は、熱可塑性樹脂繊維(A)のガラス転移温度よりも10〜50℃低いことが好ましく、20〜30℃低いことがより好ましい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)のガラス転移温度は、20〜80℃であることが好ましく、30〜60℃であることがより好ましい。
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)の融点は、100〜250℃であることが好ましく、120〜230℃であることがより好ましい。また、融点を示さない非晶性樹脂も好ましく用いられる。
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)の含有量を1〜50重量%とし、熱可塑性樹脂(C)のガラス転移温度を熱可塑性樹脂繊維(A)のガラス転移温度よりも低くすることで、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)を適切に結合させることができ、また、熱可塑性樹脂繊維(A)の繊維の状態を保ったままの不織布とすることができる。
【0063】
本発明で用いる繊維状の熱可塑性樹脂(C)は、通常、熱可塑性樹脂繊維が束状になった熱可塑性樹脂繊維束を用いて製造するが、かかる熱可塑性樹脂繊維束1本の当たりの合計繊度が、37〜600Dあることが好ましく、50〜500Dであることがより好ましく、150〜400Dであることがさらに好ましい。かかる熱可塑性樹脂(C)の繊維束を構成する繊維数は、1〜200fであることが好ましく、1〜100fであることがより好ましく、5〜80fであることがさらに好ましく、20〜70fであることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、得られる不織布中での熱可塑性樹脂(C)繊維束の分散状態がより良好となる。
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)の繊維束は、引張強度が2〜10gf/dであるものが好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される傾向にある。
【0064】
本発明で用いる不織布は、熱可塑性樹脂繊維(A)の平均繊維長と熱可塑性樹脂(C)の平均繊維長との差が10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。平均繊維長の差をこのような範囲にすることにより、本発明の効果がより効果的に発揮される。
【0065】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)としては、熱可塑性樹脂繊維(A)のガラス転移温度との関係で適宜定められるが、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、液晶ポリマー、ポリスチレン樹脂、ゴム強化ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)等があげられ、ポリエステル樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂(C)は、上記の樹脂のみからなっていてもよいが、樹脂成形品に一般的に添加される添加剤を含んでいてもよい。例えば、上記熱可塑性樹脂組成物の欄で述べた、エラストマーやその他の添加剤が例示され、配合量等も同様の範囲が好ましい。
【0066】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)は、合成品であってもよく、市販品であってもよい。市販品としては、例えば、ノバデュラン(ポリブチレンテレフタレート、(三菱エンジニアリングプラスチックス社製))等の商品名で市販されている熱可塑性樹脂が例示される。
【0067】
本発明で用いる熱可塑性樹脂(C)の含有量は、熱可塑性樹脂繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)の合計量に対し、2〜40重量%であることが好ましく、3〜30重量%であることがより好ましく、5〜20重量%がさらに好ましい。熱可塑性樹脂(C)は1種類のみを用いても良く、2種類以上用いても良い。2種類以上用いた場合は、その合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0068】
<不織布の製造方法>
本発明で用いる不織布は、例えば、熱可塑性樹脂繊維(A)と、炭素繊維(B)と、前記熱可塑性樹脂繊維(A)よりもガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂(C)を前記熱可塑性樹脂繊維(A)の1〜50重量%の割合で含む組成物を、液体中で抄くことを含むことによって製造できる。かかる製造方法では、液体中で抄くこと、いわゆる湿式抄紙法の手法で製造可能であるため、特別な装置等が無くても不織布を製造可能となる。ここで、液体中で抄くとは、液体中(好ましくは水中)に分散させた繊維を網上にすくいあげて液体を除去(例えば、脱水)し、フィルムまたはシート状にすることを意味する。
【0069】
より具体的には、本発明で用いる不織布の製造方法は、熱可塑性樹脂繊維(A)、炭素繊維(B)、および熱可塑性樹脂(C)を含むスラリーを調製する。スラリーの溶媒は、通常は、水である。スラリー中でのより均一な分散を達成するためには、液体(スラリー)の固形分濃度は0.1〜5重量%とすることが好ましい。さらに、スラリーには、分散剤や凝集剤を配合してもよい。分散剤としては、界面活性剤、粘度調整剤等が例示される。また、凝集剤としては、硫酸アルミニウム、カチオンポリマー、アニオンポリマー等が例示される。
【0070】
スラリーを網上にすくいあげた後の層を、単層のまま、あるいは複数層積層させた後、乾燥させる。乾燥は、加熱処理や加圧処理によって行うことができる。加熱処理は、熱可塑性樹脂(C)のガラス転移温度(Tg)以上の温度で行うことが好ましく、熱可塑性樹脂(C)のTg〜Tg+40℃が好ましく、Tg〜Tg+30℃で行うことがより好ましく、Tg+5〜Tg+20℃で行うことがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(C)をそのガラス転移温度以上の温度で加熱することで、不織布中の溶媒を除去すると同時に、熱可塑性樹脂繊維(A)と炭素繊維(B)を適切に結合させることができ、また、熱可塑性樹脂繊維(A)の繊維の状態を保ったままの不織布とすることができる。加熱処理の手段は、公知の手段を採用でき、例えば、シリンダドライヤー、ヤンキードライヤーなどで行うことができる。さらに、本発明の不織布の一層の強度アップや、加熱再生式有機系ローター部材の圧力損失を低下させるべく機能性基材の圧密化を目的として、機能性基材を熱プレスや熱カレンダーなどを用いて加圧加熱処理しても何ら構わない。
【0071】
本発明で用いる不織布は、目付が20〜1000g/m2であることが好ましく、30〜500g/m2であることがより好ましく、30〜200g/m2であることがさらに好ましく、30〜150g/m2であることがよりさらに好ましく、30〜80g/m2であることが特に好ましい。この範囲であると不織布の取り扱いが容易であり好ましい。
本発明で用いる不織布は、熱プレス後の引張強度が10〜100MPaであることが好ましく、10〜70MPaであることがより好ましく、15〜60MPaであることがさらに好ましい。
本発明で用いる不織布は、熱プレス後のJIS K7162により測定した引張弾性率が2000〜6000MPaであることが好ましく、2500〜5500MPaであることがより好ましく、2900〜5000MPaであることがさらに好ましい。
【0072】
<テキスタイル層>
本発明の多層シートは、テキスタイル層を有する。テキスタイル層は、織物、編み物、不織布、レース等の繊維製品を含むテキスタイルからなり、織物または編み物が好ましく、織物がより好ましい。またテキスタイルとしては、合成繊維または天然繊維を主成分とするものが好ましく、合成繊維を主成分とするものがより好ましく、ポリエステルを主成分とするものがさらに好ましい。
【0073】
このテキスタイルは、さまざまなデザインが容易に得られると共に繊維生地の立体感がそのまま現出される。また、テキスタイルを使用することによって、筐体のデザイン性の自由度を高めることができるのに加えて、筐体の力学的強度を高める効果を有する。
【0074】
また、テキスタイル層は、染色あるいは印刷されていてもよい。テキスタイル層への印刷は染料または顔料を用いて、スクリーン印刷、ロータリー印刷、インクジェットプリント、転写プリント等の公知の技術を利用できる。
【0075】
<接着層>
本発明では、不織布とテキスタイル層の間を貼り合わせるための接着層を有することが好ましい。
【0076】
接着層は、熱可塑性を有するとともに、テキスタイル層と不織布を互いに接着し易くする層である。本発明で用いる接着層に用いる接着剤は、ポリビニルアセタール系樹脂を含むことが好ましい。また、接着層に用いる接着剤は、筐体の成形時において、気泡を逃すことができる程度に粘度が低いことが好ましい。例えば、1〜100000mPa・s程度とすることができる。
【0077】
ポリビニルアセタール系樹脂としては、アルデヒドによりアセタール化したポリビニルアルコール(PVA)樹脂であることが好ましく、ブチルアルデヒドによりアセタール化したポリビニルブチラール(PVB)樹脂がより好ましい。
【0078】
上記アセタール化したPVA樹脂は、鹸化度が80.0〜99.9モル%のポリ酢酸ビニルであることが好ましく、また、ポリビニルブチラールの平均重合度は、500〜3000が好ましく、1000〜2000がより好ましい。
【0079】
アセタール化したPVB樹脂の平均重合度を500以上とすることにより、筐体成形時の加熱による再軟化の際に、粘度が低くなり過ぎず、より良好な筐体を形成可能であり、平均重合度を3000以下とすることにより、筐体成形時の加熱によるPVB樹脂の再軟化の際に、粘度が高い状態のままとならず、気泡を逃しやすくなり、より良好な筐体を形成可能となる。
【0080】
上記アセタール化したPVB樹脂は、接着層に柔軟性を付与する目的で可塑剤を含んでもよい。可塑剤の種類については特に制限はないが、例えば、トリエチレングリコールジ2−エチルヘキシル酸エステル、トリエチレングリコールジ2−エチル酪酸エステル、トリエチレングリコールジn−オクチル酸エステル等の一塩基性有機酸エステル、ジブチルセバシン酸エステル、ジオクチルアゼライン酸エステル等の多塩基性有機酸エステル、ポリオキシプロピレンポリグリセルエーテル、ポリエチレングリコールポリグリセリルエーテル等のポリグリセリン誘導体が挙げられる。
【0081】
また、接着層は、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン/アクリル系共重合体系樹脂、プロピレン系樹脂、プロピレン/1−ブテン共重合体系樹脂、プロピレン/イソブテン共重合体系樹脂、スチレン/プロピレン/イソブテン共重合体系樹脂、スチレン/イソプレン共重合体系樹脂、スチレン/イソプレン/イソブテン共重合体系樹脂、スチレン/イソプレン/ブテン共重合体系樹脂の群から選択された樹脂からなっていてもよい。
【0082】
<熱プレスの方法>
本発明の多層シートは、不織布とテキスタイル層を熱プレスして得ることができる。熱プレス温度については、用いる不織布およびテキスタイル層の材料等に応じて適宜定めることができる。
また、本発明では、不織布とテキスタイル層に加えて、熱可塑性樹脂(D)も熱プレスすることも好ましい。この場合、不織布と熱可塑性樹脂(D)を熱プレスしてから、テキスタイル層を熱プレスしてもよいし、不織布と熱可塑性樹脂(D)層とテキスタイル層を積層して熱プレスしてもよい。さらに上記接着層も一緒に熱プレスして硬化させることが好ましい。
不織布、熱可塑性樹脂(D)層は、それぞれ、1層ずつでもよいし、2層以上を交互に積層してもよい。
熱プレスは、公知の熱プレス装置などを用いて行うことができる。
熱プレス装置のプレス条件としては、使用する不織布や熱可塑性樹脂(D)の種類により適宜定めることができる。
例えば、上記熱可塑性樹脂繊維(A)を含む不織布とテキスタイル層を熱プレスする場合、熱可塑性樹脂繊維(A)の融点+(5〜50)℃が好ましく、熱可塑性樹脂繊維(A)の融点+(10〜30)℃がより好ましい。
熱プレスの際の圧力としては、0.1〜10MPaであることが好ましく、1〜5MPaであることがより好ましい。
【0083】
<<熱可塑性樹脂(D)>>
熱可塑性樹脂(D)に用いる樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂およびポリカーボネート樹脂から選択されることが好ましい。これらの中でも、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
熱可塑性樹脂(D)は、前記熱可塑性樹脂繊維(A)と、その主成分となる樹脂が同一であることが好ましく、90重量%以上の組成が共通することがより好ましい。
熱可塑性樹脂(D)は、上記の樹脂のみからなっていてもよいが、樹脂成形品に一般的に添加される添加剤を含んでいてもよい。例えば、上記熱可塑性樹脂組成物の欄で述べた、エラストマーやその他の添加剤が例示され、配合量等も同様の範囲が好ましい。
【0084】
熱可塑性樹脂(D)のSP値と熱可塑性樹脂繊維(A)のSP値との差は、10(cal/ml)0.5以下が好ましく、7(cal/ml)0.5以下がより好ましく、5(cal/ml)0.5以下がさらに好ましい。この範囲であると、熱可塑性樹脂(D)と熱可塑性樹脂繊維(A)の接着性が良好になり、得られる成形品の強度が優れるため好ましい。SP値は溶解パラメーターであり、Small法やfedors法などによって計算された値が公知である。また、各種の計算ソフトを用いて計算可能であり、例えばJ−OCTA を用いて、構造物性推算機能 Krevelen式より算出すると、ポリエチレンテレフタレートは9.644(cal/ml)0.5、ポリアミドXD10は11.775(cal/ml)0.5、ポリアミドMXD6は12.666(cal/ml)0.5、ナイロン6は12.261(cal/ml)0.5等の値となる。
【0085】
熱可塑性樹脂(D)は、その形状等を特に定めるものではなく、例えば、粉状や液状のものを不織布表面に適用してもよいが、熱可塑性樹脂フィルムであることが好ましい。
【0086】
本発明の多層シートの厚さとしては、0.05〜2.0mmが好ましく、0.08〜1.5mmがより好ましく、0.1〜1.0mmがさらに好ましく、0.15〜0.5mmが特に好ましい。
【0087】
<成形品および射出成形によって多層シートを製造する方法>
本発明の成形品は、本発明の多層シートに熱可塑性樹脂(E)をインサート成形してなることを特徴とする。また、本発明の不織布とテキスタイル層と重ね、不織布側から熱可塑性樹脂(E)を射出成形(通常は、インサート成形)して得られる多層シートも、本発明の成形品の製造方法にならって製造することができる。以下これらの詳細について説明する。
【0088】
インサート成形とは、射出成形用金型のキャビティ内に、不織布とテキスタイル層を熱プレスして得られる多層シートまたは、不織布とテキスタイル層をあらかじめ配置し、その外側(通常、不織布側)の空間に熱可塑性樹脂(E)を射出成形(射出充填)して、成形品または多層シートとする方法である。さらに、熱可塑性樹脂(D)や接着層を含んでいてもよい。インサート成形を行うことにより、成形品の強度を向上させたり、細かな凹凸を形成可能となる。尚、本発明の不織布とテキスタイル層と重ね、不織布側から熱可塑性樹脂(E)を射出成形して得られる多層シートにおいて、さらに、熱可塑性樹脂(E)を射出成形して、インサート成形品としても良いことは言うまでもない。この場合、多層シートの形成に用いる熱可塑性樹脂(E)とインサート成形に用いる熱可塑性樹脂(E)は同一であってもよいし、異なっていても良い。
熱可塑性樹脂(E)は、熱可塑性樹脂(D)または熱可塑性樹脂繊維(A)と同一の樹脂が主成分であると接着性が良好になるため好ましく、90重量%以上の組成が共通することがより好ましい。以下、具体的に説明する。
【0089】
本発明のインサート成形による成形品の一例を図1に示す。図1に示す例は、筐体1であって、逆盆構造であり、逆盆構造の底部に1つの突出部11と1つの開口部12を有する形態である。図2は、図1の線II−IIの断面図であり、図3は、図1の線III−IIIの断面図である。
筐体1は、接着層3を介して互いに接着されたテキスタイル層2と、不織布(好ましくは、不織布と熱可塑性樹脂(D)を熱プレスしたフィルムまたはシート4)(以下、単にシート4ともいう)と、前記シート4の各繊維の隙間に場合によっては浸潤しつつシート4に固着された熱可塑性樹脂(E)層5とを有する。
【0090】
熱可塑性樹脂(E)層は、熱可塑性樹脂(E)を主成分とする。熱可塑性樹脂(E)層の原料は、例えば、射出成形機で加熱溶融され、不織布側を表にして装着されたメス金型の中に射出される。そして、シートの各繊維の隙間に場合によっては浸潤しながら固着される。熱可塑性樹脂(E)層の冷却固化時には、シート4が収縮することにより熱可塑性樹脂(E)層との固着をより強固なものとすることができる。
【0091】
熱可塑性樹脂(E)としては、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂およびポリカーボネート樹脂から選択されることが好ましい。これらの中でも、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂が好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0092】
熱可塑性樹脂(E)は、上記の樹脂のみからなっていてもよいが、他の成分を含んでいてもよい。具体的には、樹脂成形品に一般的に添加される添加剤を含むことができる。例えば、上記熱可塑性樹脂組成物の欄で述べた、エラストマーやその他の添加剤が例示され、配合量等も同様の範囲が好ましい。
【0093】
熱可塑性樹脂(E)は、前記熱可塑性樹脂繊維(A)と、その主成分となる樹脂が同一であることが好ましく、90重量%以上の組成が共通することがより好ましい。また、ガラスフィラーやカーボンフィラー等の充填剤で強化されていることも好ましい。
また、熱可塑性樹脂(E)のSP値と熱可塑性樹脂繊維(A)のSP値との差は、10以下が好ましく、7以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。この範囲であると、熱可塑性樹脂(E)と熱可塑性樹脂繊維(A)の接着性が良好になり、得られる成形品の強度が優れるため好ましい。
【0094】
図1図3に一例として示した筐体1は、熱可塑性樹脂(E)がシートの各繊維の隙間に浸潤しつつシート4に固着されているので、アンカー効果により、シート4の熱可塑性樹脂(E)層5に対する密着性が優れている。また、テキスタイル層2の皺の発生や絵柄のゆがみの発生を抑制できる。さらに、筐体1の力学的強度が優れ且つ筐体1に反りが生じないものとすることができる。もちろん、筐体1の表面の模様をテキスタイルの変更によりさまざまに選択することができる。
【0095】
図1中の筐体1は、シート4を表とする逆盆形構造としているが、これら以外の形状であってもよいことは言うまでもない。
【0096】
以下、インサート成形の一例について、述べる。
インサート成形では、図4aに一例を示すように、テキスタイル層2、接着層3、およびシート4からなる多層シートのシート4側を表にしてプレス機のメス金型20(固定金型)の上に載置する。多層シートは、予め所定の形状に切断されていてもよい。
【0097】
次いで、図4bに一例を示すように、メス金型20上に載置された多層シートをメス金型20の中に押し込むようにプレス機のオス金型21(可動金型)をメス金型20に向かって移動する。これにより、本発明の多層シートをメス金型20及びオス金型21により規定される形状に成形する。成形は通常熱プレスにより行う。
この成形された本発明の多層シートはプレス機から取り出される。このとき、成形された本発明の多層シートの周囲をレーザカッタや切断用金型(切断ユニット)で切断してバリ取りを行ってもよい。
【0098】
続いて、図4cに一例を示すように、プレス機で成形された多層シートをシート4側を表にして金型ダイ22内に装着する。次に、金型ダイ22内に受容された多層シートに向けて射出成形オス金型23(射出成形金型)を移動する。そして、射出機24の射出孔24aを射出成形オス金型23の射出成形孔23aに押し当て、射出スクリュー25を回転させてタンク26内の熱可塑性樹脂(E)原料27を多層シートと射出成形オス金型23とで規定される空間に射出する。このとき、熱可塑性樹脂(E)原料27はシートの各繊維の隙間に浸潤し、熱可塑性樹脂(E)原料27の冷却固化時におけるシート4及び熱可塑性樹脂(E)原料27の収縮によりシート4との固着がより強固になる。
【0099】
最後に、図4dに一例を示すように、射出成形された熱可塑性樹脂(E)原料27が冷却固化した後、射出機24及び射出成形オス金型23が金型ダイ22から離間されて、筐体(本発明の成形品)1が取り出される。
【0100】
なお、インサート成形において、多層シートの表面を、保護シート7で保護しておいてもよい。このような保護シートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)シートが例示される。さらに、保護シート7と多層シートの貼り合わせは、接着性フィルム6によることが好ましい。このような接着性フィルム6としては、PVAフィルムが例示される。PVAフィルムは、水溶性であることが好ましく、例えばアイセロ化学株式会社製のソルブロン(登録商標)からなる。PVA系フィルム6は、PETシート7上に塗布されるPVA塗布剤であってもよい。
【0101】
メス金型20及びオス金型21はプレス機を構成すると共に、メス金型22、射出成形オス金型23、及び射出機24は射出成形機を構成する。変形例として、プレス機と射出成形機とが一体となっていて、メス金型20がメス金型22として使用されてもよい。この場合は、メス金型20の中で成形された本発明の多層シートに向けて射出成形オス金型23が移動される。
【0102】
図4cによれば、熱可塑性樹脂(E)原料27がシートの各繊維の隙間に浸潤し、熱可塑性樹脂(E)原料27の冷却固化時において、シート4と熱硬化性樹脂(E)層5が収縮する。結果として、熱可塑性樹脂(E)層5とシート4との固着がより強固になる。
【0103】
また、図4a〜図4dによれば、本発明の多層シートの熱硬化性樹脂(E)層5に対する密着性を向上させ且つ皺の発生や絵柄のゆがみをなくすことができるのに加えて、筐体1の力学的強度を向上させ且つ筐体1に反りを無くすことができる。
【0104】
本発明のインサート成形した成形品は、例えば、厚さが0.1〜2mmで面積10cm2以上の領域を有する成形品とすることができる。
本発明の実施の形態において、筐体は、単に一般的な成形品として記載されているが、本発明の実施の形態の適用技術分野としては、例えば、表面コーティング層を有するインモールド成形による加飾品が対象であり、具体的には、容器やステーショナリを含む雑貨品、携帯電話やノートパソコンを含む電子機器や家電製品等の筐体、建築物や自動車の内外装品の筐体、航空機、鉄道車両、船舶の内装筐体が挙げられる。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0106】
<合成例1:ポリメタキシリレンセバカミド(MXD10)の合成>
反応缶内でセバシン酸(伊藤製油製TAグレード)を170℃にて加熱し溶融した後、内容物を攪拌しながら、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学(株)製)をセバシン酸とのモル比が1:1になるように徐々に滴下しながら、温度を240℃まで上昇させた。滴下終了後、260℃まで昇温した。反応終了後、内容物をストランド状に取り出し、ペレタイザーにてペレット化した。得られたペレットをタンブラーに仕込み、減圧下で固相重合し、分子量を調整したポリアミド(MXD10)を得た。
ポリアミド樹脂(MXD10)の融点は191℃、ガラス転移温度(Tg)は60℃、数平均分子量は30,000であった。
【0107】
<合成例2:ポリメタ/パラキシリレンセバカミド(MPXD10)の合成>
特開2012−021062号公報の実施例の記載にならって、ポリアミドMPXD10(MXDA(メタキシレンジアミン)/PXDA(パラキシレンジアミン)=70:30とセバシン酸からなるポリアミド樹脂を合成した。得られたポリアミド樹脂は、融点215℃、Tg63℃、相対粘度2.3であった。
【0108】
<製造例1:MXD10からなるフィルムの作製>
上記で得られたMXD10を、シリンダー径30mmのTダイ付き単軸押出機(プラスチック工学研社製、PTM−30)に供給した。シリンダー温度260℃、スクリュー回転数30rpmの条件で溶融混練を行った後、Tダイを通じてフィルム状物を押出し冷却ロール上で固化し、所定の厚さのフィルムを得た。
【0109】
<製造例2:MPXD10からなるフィルムの作製>
製造例1において、MXD10をMPXD10とし、他は製造例1と同様にしてフィルムを得た。
【0110】
<製造例3:不織布の作製>
<<実施例1で用いた不織布>>
上記で得られたポリアミド樹脂MPXD10を溶融紡糸し、フィラメント数34、繊度210Dのマルチフィラメントを得た。得られた繊維を切断し、平均繊維長12mmの繊維を得た。
ポリブチレンテレフタレート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製ノバデュラン、融点224℃、Tg40℃)を溶融紡糸し、フィラメント数34、繊度210Dのマルチフィラメントを得た。得られた繊維を切断し、平均繊維長12mmの繊維を得た。
炭素繊維(三菱レイヨン製TR50S)を切断し、平均繊維長12mmの繊維を得た。
【0111】
これら3種類の繊維を表記載の重量比で水中に分散させ、十分に混合した後、金網上にすくいあげてシート状とした。得られたシートを80℃で熱風乾燥し、目付が80g/m2の不織布を得た。
【0112】
<<他の実施例および比較例で用いた不織布>>
下記表に示す通り、用いる樹脂の種類、炭素繊維の切断する長さと変え、他の実施例および比較例の不織布を作成した。
【0113】
<熱プレス>
上記で得られた各不織布と表1に記載の熱可塑性樹脂(D)フィルムと交互積層し、テキスタイル層(ポリエステルからなる平織の布、目付量164.5g/m2)を、熱可塑性樹脂(D)側の金型温度を280℃とし、圧力2MPaで熱プレスして、10cm×10cmの多層シートを得た。
また、上記で得られた各不織布と表1に記載の熱可塑性樹脂(D)フィルムと交互積層し、テキスタイル層(ポリエステルからなる平織の布、目付量164.5g/m2)を、接着剤(ポリビニルアセタール系樹脂)を介して積層させ、熱可塑性樹脂(D)側の金型温度を280℃とし、圧力2MPaで熱プレスして、10cm×10cmの多層シートを得た。
【0114】
<多層シートの評価>
<<反り>>
得られた多層シートを平板上に置き、端部の4つの頂点の浮き上がり高さを測定した。その合計値が2mm以上なら反りがあると判定した。
【0115】
<<引張強度>>
ISO 527−1およびISO 527−2に記載の方法に従って、測定温度23℃、チャック間距離50mm、引張速度50mm/minの条件で引張強度を測定した。
【0116】
【表1】
【0117】
上記表において、熱可塑性樹脂繊維(A)、炭素繊維(B)、熱可塑性樹脂(C)の配合量は、これらの配合比(重量比)で示している。また、熱可塑性樹脂(C)の「(C)/((A)+(C))(重量%)」は、熱可塑性樹脂繊維(A)と熱可塑性樹脂(C)の合計量に対する、熱可塑性樹脂(C)の割合(重量%)である。
本発明の多層シートは、反りが無く、機械的強度が高かった。
これに対し、不織布を用いずに薄い樹脂フィルムで、本発明の多層シートを製造しても、十分な強度が得られなかった。また、さらに、炭素繊維をMPXD10に対して50重量%コンパウンドした材料を用いて薄い樹脂フィルムの製造を試みたが、現実的に製造が困難であった。
【0118】
実施例5
製造例3の不織布とテキスタイル層と重ねたものを、不織布をホットランナー側にして射出成型機金型内にセットし、不織布側からポリアミドMPXD10を射出成形して多層シートを成形した。ポリアミドMPXD10と不織布とテキスタイル層は良好に接着していた。
【0119】
実施例6
インサート成形
実施例2で得られた多層シートをIRヒータで再加熱し金型内で成形した。得られた成形品を射出成型機の金型にセットし、ポリアミドMPXD10をインサート成形した。ポリアミドMPXD10は多層シートに良好に接着していた。
【符号の説明】
【0120】
1 筐体
11 突出部
12 開口部
2 テキスタイル層
3 接着層
4 不織布を有するシート
5 熱可塑性樹脂(E)層
6 保護シート
7 接着シート
20 メス金型
21 オス金型
22 金型ダイ
23 射出成形オス金型
23a 射出成形孔
24 射出機
24a 射出孔
25 射出スクリュー
26 タンク
27 熱可塑性樹脂(E)原料
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図4d