特許第6239326号(P6239326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239326非水電解質二次電池用負極材料、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池及び電池パック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239326
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極材料、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20171120BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20171120BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20171120BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   H01M4/38 Z
   H01M4/48
   H01M4/36 C
   H01M4/36 E
   H01M4/62 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-195036(P2013-195036)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-60776(P2015-60776A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100088487
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 允之
(72)【発明者】
【氏名】深澤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】越崎 健司
(72)【発明者】
【氏名】森田 朋和
(72)【発明者】
【氏名】久保木 貴志
(72)【発明者】
【氏名】沖 充浩
(72)【発明者】
【氏名】五戸 康広
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/067956(WO,A1)
【文献】 特開2008−282819(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/145522(WO,A1)
【文献】 特開2013−069674(JP,A)
【文献】 特開2012−178269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00 − H01M4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素ナノ粒子と、
前記ケイ素ナノ粒子を被覆する被覆層とを有し、
前記被覆層は、非晶質ケイ素酸化物と炭化ケイ素相とを有し、
前記炭化ケイ素相は、粒子であり、
前記炭化ケイ素相の少なくとも一部は、前記ケイ素ナノ粒子の表面上に存在し、
前記炭化ケイ素は複数存在し、その一部は、前記非晶質ケイ素酸化物で全体的に被覆されている非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記ケイ素ナノ粒子の平均一次粒径は、10nm以上100nm以下である請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記被覆層は、前記非晶質ケイ素酸化物と前記炭化ケイ素相が露出した表面を有する請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項4】
前記被覆層の厚さは、平均1nm以上10nm以下である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項5】
前記請求項1乃至のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極材料は、炭素質物相に内包されてなる非水電解質二次電池用負極材料。
【請求項6】
集電体と、
前記集電体上に、前記請求項1乃至5のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極材料と、導電助剤と、結着剤との負極活物質層とを有する非水電解質二次電池用負極。
【請求項7】
セパレータと
前記セパレータの一方の面上に正極と、
前記セパレータの他方の面上に前記請求項に記載の負極と、
非水電解質とを有する非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記請求項に記載された非水電解質二次電池をセルとして用いた電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、非水電解質二次電池用負極材料、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池及び電池パックに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットなどに代表される小型携帯端末の急速な普及により、それらを駆動させる小型でエネルギー密度の高い電池に対する要求が高まっている。
現在、多くのリチウムイオン電池の負極には黒鉛系材料が用いられている。黒鉛系材料の理論容量は372mAh/g(LiC)であり、現状、ほぼその限界に近いところで用いられている。負極材は還元剤であるため、できるだけ電位が低くて還元力が強く、電気化学当量の小さい材料が好ましい。そこで、炭素、リチウムに次いで電位が低く、容量密度の高いケイ素、スズなどのリチウムと合金化する元素や、非晶質カルコゲン化合物などが次世代リチウムイオン電池の負極材料として注目されている。
【0003】
中でもケイ素はケイ素原子1に対して4.4の比率までリチウム原子を吸蔵することができ、理論的には黒鉛系炭素の約10倍の容量をもたせることができる。しかし、ケイ素粒子はリチウムを吸蔵すると、およそ3〜4倍に体積が膨れるため、特に、その粒子サイズが大きい場合には、粒子が割れて微粉化してしまうという問題があった。一方、ケイ素粒子のサイズをナノサイズ化していくと、充放電サイクルの経過とともに隣接する粒子同士が合体、粒成長を起こし、サイクル性が著しく低下することが知られている。そこで、一般には、ケイ素粒子表面を炭素材で被覆するなどの対策がなされているが、固体上への固体の被覆であり、密着性は十分とはいえない。特許文献1に、ケイ素粒子の周りにケイ素と結合性のよい炭化ケイ素を被覆する方法が開示されている。炭化ケイ素被覆層が体積膨張を抑え、サイクル性を向上させるとしているが、ケイ素粒子は粉砕により作られており比較的大きなサイズであるとともに、被覆粒子中に炭化ケイ素の占める割合も多い。ケイ素粒子の表面を炭化ケイ素層で厚く膜状に覆ってしまうと、リチウムの移動の障害となり、電気化学反応を阻害する要因となる。これにより、十分な充放電特性が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−19127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高容量かつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池用負極材料、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池および電池パックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の非水電解質二次電池用負極材料は、ケイ素ナノ粒子と、ケイ素ナノ粒子を被覆する被覆層とを有し、被覆層は、非晶質ケイ素酸化物と炭化ケイ素相とを有し、炭化ケイ素相は、粒子であり、炭化ケイ素相の少なくとも一部は、ケイ素ナノ粒子の表面上に存在し、炭化ケイ素は複数存在し、その一部は、非晶質ケイ素酸化物で全体的に被覆されている
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態の負極材料の概念図である。
図2図2は、実施形態の複合粒子の概念図である。
図3図3は、実施形態の扁平型非水電解質電池の概念図である。
図4図4は、図3のA部の拡大概念図である。
図5図5は、実施形態の電池パックの概念図である。
図6図6は、実施形態の電池パックの電気回路を示すブロック図である。
図7図7は、実施例の負極材料のX線回折分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
そこで発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ケイ素ナノ粒子と、ケイ素ナノ粒子を被覆する被覆層とを有し、被覆層は、非晶質ケイ素酸化物と炭化ケイ素相とを有し、炭化ケイ素相の少なくとも一部は、ケイ素ナノ粒子の表面上に存在する特にサイクル特性に優れた非水電解質二次電池用負極材料を見出した。
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
(第1実施形態)
実施形態に係る負極材料の基本的な構造模式図を図1に示す。図1の負極材料10は、ケイ素ナノ粒子11と、ケイ素酸化物12と、炭化ケイ素13を有し、ケイ素ナノ粒子11が核となり、核をケイ素酸化物12と炭化ケイ素13が被覆した形態である。第1実施形態の負極材料10は、負極活物質である。
【0010】
ケイ素ナノ粒子11は、多量のリチウムを吸蔵・放出する。ケイ素ナノ粒子11は、負極材料10の核となる。ケイ素ナノ粒子11は、リチウム吸蔵と放出をするたびに、ケイ素は大きな体積変化を生ずる。体積変化の応力によって、負極材料が微粉化するなどの劣化を引き起こすおそれがある。そのため、この応力を緩和するために、できるだけ微細なサイズのケイ素ナノ粒子11を用いるのが良い。具体的には、平均一次粒径は、10nm以上100nm以下にすることが好ましい。平均一次粒径が10nmより小さいケイ素は、凝集が強く、分散が困難である。また、微細過ぎるケイ素は、酸化しやすいために容量の低下をきたす恐れがある。一方、平均一次粒径が100nmより大きいケイ素は、体積膨張収縮の繰り返しによりケイ素粒子自体の割れ、微粉化が起こりやすくなる。
【0011】
ケイ素ナノ粒子の平均一次粒径は、例えば次のような方法により測定することができる。
まず、二次電池を分解し、負極を取り出し、得られた負極をイオントリミングを用いて一部をフラット化する。っしてフラット化した部分を電界放射型走査型電子顕微鏡(Field Emission−Scanning Electron Microscope:FE−SEM)にて5万倍にて観察する。得られた視野は四角形であるため、その視野の対角線上のケイ素ナノ粒子の最大のものから10個の一次粒子径を測定し、粒径は、測定対象のケイ素ナノ粒子1個の最大径(長径)と最小径(短径)の平均値とし、10個の平均値の平均を平均1次粒子径とする。なお、FE−SEMでの測定に際し、反射電子線での結果を用いることで、より鮮明に測定が可能であり。
【0012】
ケイ素ナノ粒子11は、ケイ素ナノ粒子11を構成する元素の90%以上、つまり主成分がケイ素であり、一部にBやP、N、Sb、Alなどの元素が含まれていても構わない。また、ケイ素ナノ粒子11は、結晶質であっても非晶質であっても構わない。ケイ素ナノ粒子11はケイ素粒子の粉砕等による方法で作製しても構わないが、プラズマを用いた気相−冷却法やレーザー熱分解法などにより作り上げたものの方が好ましい。また、形状も不定形のものより、球状をしたものの方がより好ましい。ケイ素ナノ粒子11は、粒子表層部が、結晶性の高い構造であるとより好ましく、内部に積層欠陥等を含んでいても構わない。ケイ素ナノ粒子11の表面の一部は、ケイ素酸化物12と結着する。実施形態の負極材料の組成は、粉末X線回折法および誘導結合プラズマ質量分析で測定することができる。
【0013】
ケイ素ナノ粒子11の被覆層に含まれるケイ素酸化物12は、その大部分が非結晶質のケイ素酸化物である。ケイ素酸化物12には、結晶質のケイ素酸化物相が含まれていても構わない。ケイ素酸化物12には、ケイ素酸化物の他にリチウムシリケートが含まれる場合がある。ケイ素酸化物12は、ケイ素ナノ粒子11の表層部を平均10nm以下の厚さで覆っていることが好ましい。ケイ素酸化物12は、ケイ素ナノ粒子11の表面のほぼすべて(ただし、ケイ素ナノ粒子同士が結合した界面にはいない。ケイ素が直接表面に出ている部分はほとんど無い)を被覆している。実施形態の負極材料の形態観察は、透過型電子顕微鏡を用いて行うことができる。
【0014】
ケイ素酸化物12は、その大部分が非晶質であるため、充電時にリチウムが入り体積膨張しても緩和能力がある。また、充放電サイクルにおけるケイ素粒子同士の成長を防ぐこともできる。ケイ素酸化物12は、充放電の際に、リチウムイオンと反応してリチウムイオン導電性をもつリチウムシリケートを含む層となるため、存在していること自体、むしろよいことである。ケイ素酸化物12は、必要以上に厚いと負極材料の質量あたりの充放電容量の低下や非可逆容量の増加、すなわち初期充放電効率低下の要因となる。また、このケイ素酸化物12には炭素質相が含まれていても構わないし、ケイ素酸化物12と融合して非晶質なSi−C−O組成の層を構成していても構わない。
【0015】
ケイ素ナノ粒子11の被覆層に含まれる炭化ケイ素13は、結晶性の炭化ケイ素相である。炭化ケイ素13の、少なくとも一部は、ケイ素ナノ粒子11とケイ素ナノ粒子11の表面で結合している。炭化ケイ素13は、ケイ素ナノ粒子11の表面上の一部に存在し、ケイ素ナノ粒子11の表面上のすべてを覆わない。炭化ケイ素13は、粒状である。炭化ケイ素13の粒子は、独立して存在してもよいし、粒子同士が1方向あるいは複数方向につながった形成していてもよい。緻密質でケイ素ナノ粒子の全面を炭化ケイ素13で覆ったような被覆ではなく、電解液を介してリチウムイオンが侵入しやすい隙間のある構造になっていることが好ましい。この隙間には、ケイ素酸化物12が含まれる。
【0016】
また、炭化ケイ素13の一部はケイ素ナノ粒子11の内部に入り込んでいてもよい。さらに、炭化ケイ素13の一部は被覆層から外側に露出していてもよい。むしろ、炭化ケイ素には導電性があるため、別に加えた導電助剤と接触する機会が増えることにもなるので、充放電容量の向上に効果的である。また、周りの導電材との接触を持つことで繰り返し充放電に対する導電パスの形成の維持にも役立つ。また、炭化ケイ素は充放電時にリチウムを吸蔵・放出しないため、ケイ素ナノ粒子11の体積膨張を抑制することができる。さらに、充放電反応の繰り返しによるケイ素ナノ粒子11同士の合体・凝集を防ぐことができ、サイクル性を高めることができる。
【0017】
(製造方法)
次に第1実施形態に係る非水二次電池用負極材料の製造方法について説明する。第1実施形態に係る負極材料は、まず、原料であるケイ素ナノ粒子に、有機炭化水素ガスなどを用いての気相法や、有機炭素前駆体で被覆し加熱処理をする方法などにより、炭素被覆処理を行う。炭素被覆の方法についてはこれらの方法に限ったものではないが、できるだけ均一に膜形成できる方法がよい。炭素の被覆量としては、ケイ素ナノ粒子に対し、0.2質量%以上20質量%以下の範囲であることが好ましい。炭素の被覆量が0.2質量%より小さい場合には、その後の炭化ケイ素化の効果が現れないことが好ましくない。また、炭素の被覆量が20質量%を超えると、被覆が不均一になったり、必要以上に炭化ケイ素化が進んでしまったりして、容量を低下させる懸念があって好ましくない。
【0018】
また、熱処理条件は、大気圧下、不活性ガス雰囲気中にて、900℃以上1400℃以下の範囲で行うのが好ましい。より好ましくは1000℃以上1200℃以下である。ここでいう不活性雰囲気とは、真空中、Ar、N、水素含有雰囲気など又は、これらの混合ガス雰囲気のことをいう。この加熱処理過程において、被覆炭素とケイ素ナノ粒子の一部を反応させ、炭化ケイ素相の生成も行う。熱処理温度が900℃より低温の場合には、炭化ケイ素相が生成せず、1400℃より高温では、ケイ素が溶解してしまうため、不適切である。
【0019】
(第2実施形態)
第2実施形態の負極材料は、第1実施形態の負極材料10を炭素質物相21と複合化させた複合化負極材料20である。第2実施形態の複合化負極材料の断面概念図を図2に示す。図2の複合化負極材料20は、負極材料10と、負極材料21を内包する炭素質物層とを有する。
【0020】
第1実施形態の負極材料10を炭素質物相内21に内包させて、複合化材料として用いることができる。
あるいは、ケイ素ナノ粒子をそのまま炭素質物相内に内包させて、製造過程の熱処理により、ケイ素ナノ粒子表層部に炭化ケイ素相を形成することもできる。
【0021】
この場合、炭素質物相21による被覆は、単一の負極材料10に対してでもよいし、複数の負極材料10が同時に内包された複合構造をもつ粒子(以降、複合粒子という)であってもよい。負極材料10の一部は、炭素質物21の表面に露出していてもよい。このような複合粒子20においては、構造体中に複数の負極材料10を分散させることにより、炭素質物相21が体積膨張による応力を緩和するバッファー相として働き、活物質の微粉化および脱落を防止することができる。また、炭素質物相21は良好な導電材でもあるため、充放電容量や効率の向上にも大きく貢献する。
【0022】
複合化負極材料20の内部において負極材料10と一緒に添加される炭素質物21としては、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、アモルファス炭素またはアセチレンブラックなどから選ばれる少なくとも1種、好ましくはハードカーボンのみ、あるいはグラファイトとハードカーボンの混合物がよい。グラファイトは活物質の導電性を高め、容量を向上させる点で好ましく、ハードカーボンは活物質全体を被覆し膨張収縮を緩和する効果が大きい。
【0023】
また、複合化負極材料20において、構造の保持および負極材料10の凝集を防ぎ、導電性を確保するために炭素繊維を含んでいてもよい。添加される炭素繊維の直径は、平均直径が10nm以上1000nm以下であることが好ましい。炭素繊維の含有量は0.1質量%以上、8質量%以下の範囲であることが好ましい。8質量%を超えると、比表面積が大きいため、それを包む炭素質物相もより多く必要になり、結果としてケイ素含有量が減って好ましくない。より好ましくは0.5質量%以上、5質量%以下である。
【0024】
また、LiSiOなどのリチウムシリケートが、複合化負極材料20内部の炭素質物相21中や負極材料10表面に分散されていてもよい。炭素質物に添加されたリチウム塩は熱処理を行うことによって複合粒子内のケイ素酸化物相と固体反応を起こしリチウムシリケートを形成することができる。
【0025】
複合化負極材料20の中にSiO前駆体およびLi化合物が添加されていてもよい。これらの物質を炭素質物21中に加えることで表層ケイ素酸化物12と炭素質物21の結合がより強固になると共に、Liイオン導電性に優れるLiSiOを酸化ケイ素相中に生成することができる。SiO前駆体としては、シリコンエトキシド等のアルコキシドが挙げられる。Li化合物としては、炭酸リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム、シュウ酸リチウム、塩化リチウムなどが挙げられる。
【0026】
複合化負極材料20の平均粒径は、0.5μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。この平均粒径が0.5μmより小さいと、比表面積が大きくなり、その分だけ電極化する際に多くの結着剤が必要となってしまう。この平均粒径が50μmより大きいと、電極化した時に意図しない空間が形成され、結果として体積あたりの容量の低下を引き起こす。したがって、複合粒子の比表面積としては0.5m/g以上100m/g以下の範囲であることが好ましい。活物質となる複合粒子の粒径および比表面積は、リチウムの挿入脱離反応の速度に影響し、負極特性に大きな影響をもつと考えられるが、この範囲の値であれば安定して特性を発揮することができる。
比表面積は、窒素ガス吸着法を用いて吸着量の測定、および測定対象の重量を測定することで求めることができる。
【0027】
複合粒子中のケイ素相と炭素質物相の比率は、ケイ素と炭素のモル比で0.2≦ケイ素/炭素≦1の範囲にあるのが好ましい。この範囲であれば、負極活物質として大きな容量と良好なサイクル特性を得ることができるからである。
【0028】
(複合化処理)
次に、負極材料10を炭素質物21で複合化する方法について説明する。
複合化処理においては、負極材料10と、黒鉛などの炭素材料および炭素前駆体からなる有機材料を混合し複合体を形成する。混合は、連続式ボールミルや遊星ボールミル等を用いて行うことができる。
【0029】
有機材料としては、グラファイト、コークス、低温焼成炭、ピッチなどの炭素材料および炭素材料前駆体のうち少なくとも一種を用いることができる。特に、ピッチなど加熱により溶融するものは力学的なミル処理中には溶融して複合化が良好に進まないため、コークス・グラファイトなど溶融しないものと混合して使用すると良い。
【0030】
液相での混合攪拌により複合化を行う方法を以下に説明する。混合攪拌処理は例えば各種攪拌装置、ボールミル、ビーズミル装置およびこれらの組み合わせにより行うことができる。前述の炭化ケイ素で被覆したケイ素ナノ粒子と炭素前駆体および炭素材との複合化は分散媒を用いた液中で液相混合を行うと良い。より均一に分散させるためである。分散媒としては有機溶媒、水等を用いることができるが、ケイ素ナノ粒子と炭素前駆体および炭素材の双方と良好な親和性をもつ液体を用いることが好ましい。具体例として、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、酢酸エチルなどを挙げることができる。
【0031】
また、炭素前駆体は炭化ケイ素被覆ケイ素ナノ粒子と均一に混合するために混合段階で液体あるいは分散媒に可溶であるものが好ましく、液体であり容易に重合可能なモノマーあるいはオリゴマーであると特に好ましい。例えば、フラン樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アミノ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂などを形成する有機材料が挙げられる。液相で混合を行った材料は、固化あるいは乾燥工程を経て炭素被覆ケイ素ナノ粒子−有機材料複合化物を形成する。
【0032】
(炭化焼成処理)
炭化焼成は、Ar中等の不活性雰囲気下にて行なわれる。炭化焼成においては、炭化ケイ素被覆ケイ素ナノ粒子−有機材料複合化物中のポリマーまたはピッチ等の炭素前駆体が炭化される。この炭化焼成の温度は、使用する有機材料化合物の熱分解温度にもよるが、適正な範囲として700℃以上1200℃以下であることが好ましい。用いるケイ素ナノ粒子の粒子径にもよるが、1200℃より高い温度では、炭化した炭素とケイ素ナノ粒子が反応してさらに炭化ケイ素を生成し、より容量が低下する原因となるため、好ましくない。焼成時間は、焼成の温度にもよるが、10分から12時間程度の間であることが好ましい。
【0033】
以上のような合成方法により本実施形態に係る負極材料が得られる。炭化焼成後の生成物は各種ミル、粉砕装置、グラインダー等を用いて粒径、比表面積等を調製してもよい。
【0034】
以上、説明した第1実施形態に係る負極材料と第2実施形態に係る複合化負極材料は、粉末X線回折測定において2θ=28.4°と2θ=35.6°に回折ピークを有することが確認される。2θ=28.4°のピークは、ケイ素酸化物に由来するものである。2θ=35.6°のピークは炭化ケイ素相に由来するものである。このような負極活物質を用いることで高い充放電容量と長いサイクル寿命を同時に達成することができるため、放電容量が向上された長寿命な非水電解質二次電池を実現することができる。
【0035】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る非水電解質二次電池を説明する。
第3実施形態に係る非水電解質二次電池は、外装材と、外装材内に収納された正極と、外装材内に正極と空間的に離間して、例えばセパレータを介在して収納された活物質を含む負極と、外装材内に充填された非水電解質とを具備する。
【0036】
実施形態に係る非水電解質二次電池100の一例を示した図3図4を参照してより詳細に説明する。図3は、外装材102がラミネートフィルムからなる扁平型非水電解質二次電池100の断面図模式図であり、図4は、図3のA部の拡大断面図である。なお、各図は説明のための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0037】
扁平状の捲回電極群101は、2枚の樹脂層の間にアルミニウム箔を介在したラミネートフィルムからなる袋状外装材102内に収納されている。扁平状の捲回電極群101は、外側から負極3、セパレータ104、正極105、セパレータ104の順で積層した積層物を渦巻状に捲回し、プレス成型することにより形成される。最外殻の負極3は、図2に示すように負極集電体103aの内面側の片面に負極層103bを形成した構成を有する。その他の負極3は、負極集電体103aの両面に負極層103bを形成して構成されている。負極層103b中の活物質は、第1実施形態に係る電池用活物質を含む。正極105は、正極集電体105aの両面に正極層105bを形成して構成されている。
【0038】
捲回電極群101の外周端近傍において、負極端子106は最外殻の負極103の負極集電体103aに電気的に接続され、正極端子107は内側の正極105の正極集電体105aに電気的に接続されている。これらの負極端子106及び正極端子107は、袋状外装材102の開口部から外部に延出されている。例えば液状非水電解質は、袋状外装材102の開口部から注入されている。袋状外装材102の開口部を負極端子6及び正極端子107を挟んでヒートシールすることにより捲回電極群101及び液状非水電解質を完全密封している。
【0039】
負極端子106は、例えばアルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。負極端子106は、負極集電体103aとの接触抵抗を低減するために、負極集電体103aと同様の材料であることが好ましい。
【0040】
正極端子107は、リチウムイオン金属に対する電位が3Vから4.25Vの範囲における電気的安定性と導電性とを備える材料を用いることができる。具体的には、アルミニウムまたはMg、Ti、Zn、Mn、Fe、Cu、Si等の元素を含むアルミニウム合金が挙げられる。正極端子107は、正極集電体105aとの接触抵抗を低減するために、正極集電体105aと同様の材料であることが好ましい。
【0041】
以下、非水電解質二次電池100の構成部材である外装材、正極、負極、電解質、セパレータについて詳細に説明する。
1)外装材
外装材102は、厚さ0.5mm以下のラミネートフィルムから形成される。或いは、外装材102には厚さ1.0mm以下の金属製容器が用いられる。金属製容器は、厚さ0.5mm以下であることがより好ましい。
外装材102の形状は、扁平型(薄型)、角型、円筒型、コイン型、及びボタン型から選択できる。外装材102の例には、電池寸法に応じて、例えば携帯用電子機器等に積載される小型電池用外装材、二輪乃至四輪の自動車等に積載される大型電池用外装材などが含まれる。
【0042】
ラミネートフィルムは、樹脂層間に金属層を介在した多層フィルムが用いられる。金属層は、軽量化のためにアルミニウム箔若しくはアルミニウム合金箔が好ましい。樹脂層は、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の高分子材料を用いることができる。ラミネートフィルムは、熱融着によりシールを行って外装材の形状に成形することができる。
【0043】
金属製容器は、アルミニウムまたはアルミニウム合金等から作られる。アルミニウム合金は、マグネシウム、亜鉛、ケイ素等の元素を含む合金が好ましい。合金中に鉄、銅、ニッケル、クロム等の遷移金属が含まれる場合、その量は100質量ppm以下にすることが好ましい。
【0044】
2)正極105
正極は、活物質を含む正極活物質層105bが正極集電体105aの片面もしくは両面に担持された構造を有する。
前記正極活物質層105bの片面の厚さは1.0μm以上150μm以下の範囲であることが電池の大電流放電特性とサイクル寿命の保持の点から望ましい。従って正極集電体の両面に担持されている場合は正極活物質層105bの合計の厚さは20μm以上300μm以下の範囲となることが望ましい。片面のより好ましい範囲は30μm以上120μm以下である。この範囲であると大電流放電特性とサイクル寿命は向上する。
【0045】
正極活物質層105bは、正極活物質の他に導電剤を含んでいてもよい。
また、正極活物質層105bは正極材料同士を結着する結着剤を含んでいてもよい。
正極活物質としては、種々の酸化物、例えば二酸化マンガン、リチウムマンガン複合酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiCOO)、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物(例えばLiNi0.8CO0.2)、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLiMn、LiMnO)を用いると高電圧が得られるために好ましい。
【0046】
導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などを挙げることができる。
結着材の具体例としては例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等を用いることができる。
【0047】
正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、正極活物質80質量%以上95質量%以下、導電剤3質量%以上18質量%以下、結着剤2質量%以上7質量%以下の範囲にすることが、良好な大電流放電特性とサイクル寿命を得られるために好ましい。
【0048】
集電体としては、多孔質構造の導電性基板かあるいは無孔の導電性基板を用いることができる。集電体の厚さは5μm以上20μmであることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
【0049】
正極105は、例えば活物質、導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体5aに塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。正極5はまた活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して正極層105bとし、これを集電体105a上に形成することにより作製されてもよい。
【0050】
3)負極103
負極103は、負極材料を含む負極活物質層103bが負極集電体103aの片面もしくは両面に担持された構造を有する。負極活物質には、第2実施形態に係る複合化負極材料を用いることができる。
【0051】
前記負極活物質層103bの厚さは1.0μm150μmの範囲であることが望ましい。従って負極集電体103aの両面に担持されている場合は負極活物質層103aの合計の厚さは20μm以上300μm以下の範囲となる。片面の厚さのより好ましい範囲は30μm以上100μm以下である。この範囲であると大電流放電特性とサイクル寿命は大幅に向上する。
【0052】
負極活物質層103bは負極材料同士を結着する結着剤を含んでいてもよい。結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ弗化ビニリデン(PVdF)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリイミド、ポリアラミド等を用いることができる。また、結着剤には2種またはそれ以上のものを組み合わせて用いてもよく、活物質同士の結着に優れた結着剤と活物質と集電体103aの結着に優れた結着剤の組み合わせや、硬度の高いものと柔軟性に優れるものを組み合わせて用いると、寿命特性に優れた負極を作製することができる。
【0053】
また、負極活物質層103bは導電剤を含んでいてもよい。導電剤としてはアセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などを挙げることができる。
【0054】
集電体103aとしては、多孔質構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板を用いることができる。これら導電性基板は、例えば、銅、ステンレスまたはニッケルから形成することができる。集電体103aの厚さは5μm以上20μm以下であることが望ましい。この範囲であると電極強度と軽量化のバランスがとれるからである。
【0055】
負極3は、例えば活物質、導電剤及び結着剤を汎用されている溶媒に懸濁してスラリーを調製し、このスラリーを集電体103aに塗布し、乾燥し、その後、プレスを施すことにより作製される。負極3はまた活物質、導電剤及び結着剤をペレット状に形成して負極層103bとし、これを集電体103a上に形成することにより作製されてもよい。
【0056】
4)電解質
電解質としては非水電解液、電解質含浸型ポリマー電解質、高分子電解質、あるいは無機固体電解質を用いることができる。
非水電解液は、非水溶媒に電解質を溶解することにより調製される液体状電解液で、電極群中の空隙に保持される。
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)やエチレンカーボネート(EC)とPCやECより低粘度である非水溶媒(以下第2溶媒と称す)との混合溶媒を主体とする非水溶媒を用いることが好ましい。
【0057】
第2溶媒としては、例えば鎖状カーボンが好ましく、中でもジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン(BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、トルエン、キシレンまたは、酢酸メチル(MA)等が挙げられる。これらの第2溶媒は、単独または2種以上の混合物の形態で用いることができる。特に、第2溶媒はドナー数が16.5以下であることがより好ましい。
【0058】
第2溶媒の粘度は、25℃において2.8cmp以下であることが好ましい。混合溶媒中のエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は、体積比率で1.0%以上80%以下であることが好ましい。より好ましいエチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートの配合量は体積比率で20%以上75%以下である。
【0059】
非水電解液に含まれる電解質としては、例えば過塩素酸リチウム(LiClO)、六弗化リン酸リチウム(LiPF)、ホウ弗化リチウム(LiBF)、六弗化砒素リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CFSO]等のリチウム塩(電解質)が挙げられる。中でもLiPF、LiBFを用いるのが好ましい。
電解質の非水溶媒に対する溶解量は、0.5mol/L以上2.0mol/L以下とすることが望ましい。
【0060】
5)セパレータ104
非水電解液を用いる場合、および電解質含浸型ポリマー電解質を用いる場合においてはセパレータ104を用いることができる。セパレータ104は多孔質セパレータを用いる。セパレータ104の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリ弗化ピニリデン(PVdF)を含む多孔質フィルム、合成樹脂製不織布等を用いることができる。中でも、ポリエチレンか、あるいはポリプロピレン、または両者からなる多孔質フィルムは、二次電池の安全性を向上できるため好ましい。
【0061】
セパレータ104の厚さは、30μm以下にすることが好ましい。厚さが30μmを越えると、正負極間の距離が大きくなって内部抵抗が大きくなる恐れがある。また、厚さの下限値は、5μmにすることが好ましい。厚さを5μm未満にすると、セパレータ104の強度が著しく低下して内部ショートが生じやすくなる恐れがある。厚さの上限値は、25μmにすることがより好ましく、また、下限値は1.0μmにすることがより好ましい。
【0062】
セパレータ104は、120℃の条件で1時間おいたときの熱収縮率が20%以下であることが好ましい。熱収縮率が20%を超えると、加熱により短絡が起こる可能性が大きくなる。熱収縮率は、15%以下にすることがより好ましい。
【0063】
セパレータ104は、多孔度が30%以上70%以上の範囲であることが好ましい。これは次のような理由によるものである。多孔度を30%未満にすると、セパレータ104において高い電解質保持性を得ることが困難になる恐れがある。一方、多孔度が70%を超えると十分なセパレータ104強度を得られなくなる恐れがある。多孔度のより好ましい範囲は、35%以上70%以下である。
【0064】
セパレータ104は、空気透過率が500秒/1.00cm以下であると好ましい。空気透過率が500秒/1.00cmを超えると、セパレータ104において高いリチウムイオン移動度を得ることが困難になる恐れがある。また、空気透過率の下限値は、30秒/1.00cmである。空気透過率を30秒/1.00cm未満にすると、十分なセパレータ104強度を得られなくなる恐れがあるからである。
【0065】
空気透過率の上限値は300秒/1.00cmにすることがより好ましく、また、下限値は50秒/1.00cmにするとより好ましい。
また、非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、前記正極に酸素を供給するための空気孔を備えるケースとを具備した非水電解質空気電池などにも適用できる。
【0066】
(第4実施形態)
次に、上述の非水電解質二次電池を用いた電池パックについて説明する。
実施形態に係る電池パックは、上記実施形態に係る非水電解質二次電池(即ち、単電池)を一以上有する。電池パックに複数の単電池が含まれる場合、各単電池は、電気的に直列、並列、或いは、直列と並列に接続して配置される。
図5の概念図及び図6のブロック図を参照して電池パック200を具体的に説明する。図5に示す電池パック200では、単電池201として図3に示す扁平型非水電解液電池100を使用している。
【0067】
複数の単電池201は、外部に延出した負極端子202及び正極端子203が同じ向きに揃えられるように積層され、粘着テープ204で締結することにより組電池205を構成している。これらの単電池201は、図6に示すように互いに電気的に直列に接続されている。
【0068】
プリント配線基板206は、負極端子202及び正極端子203が延出する単電池201側面と対向して配置されている。プリント配線基板206には、図6に示すようにサーミスタ207、保護回路208及び外部機器への通電用端子209が搭載されている。なお、組電池205と対向する保護回路基板206の面には組電池205の配線と不要な接続を回避するために絶縁板(図示せず)が取り付けられている。
【0069】
正極側リード210は、組電池205の最下層に位置する正極端子203に接続され、その先端はプリント配線基板206の正極側コネクタ211に挿入されて電気的に接続されている。負極側リード212は、組電池205の最上層に位置する負極端子202に接続され、その先端はプリント配線基板206の負極側コネクタ213に挿入されて電気的に接続されている。これらのコネクタ211、213は、プリント配線基板206に形成された配線214、215を通して保護回路208に接続されている。
【0070】
サーミスタ207は、単電池205の温度を検出するために用いられ、その検出信号は保護回路208に送信される。保護回路208は、所定の条件で保護回路208と外部機器への通電用端子209との間のプラス側配線216a及びマイナス側配線216bを遮断できる。所定の条件とは、例えばサーミスタ207の検出温度が所定温度以上になったときである。また、所定の条件とは単電池201の過充電、過放電、過電流等を検出したときである。この過充電等の検出は、個々の単電池201もしくは単電池201全体について行われる。個々の単電池201を検出する場合、電池電圧を検出してもよいし、正極電位もしくは負極電位を検出してもよい。後者の場合、個々の単電池201中に参照極として用いるリチウム電極が挿入される。図5及び図6の場合、単電池201それぞれに電圧検出のための配線217を接続し、これら配線217を通して検出信号が保護回路208に送信される。
【0071】
正極端子203及び負極端子202が突出する側面を除く組電池205の三側面には、ゴムもしくは樹脂からなる保護シート218がそれぞれ配置されている。
【0072】
組電池205は、各保護シート218及びプリント配線基板206と共に収納容器219内に収納される。すなわち、収納容器219の長辺方向の両方の内側面と短辺方向の内側面それぞれに保護シート218が配置され、短辺方向の反対側の内側面にプリント配線基板206が配置される。組電池205は、保護シート218及びプリント配線基板206で囲まれた空間内に位置する。蓋320は、収納容器219の上面に取り付けられている。
【0073】
なお、組電池205の固定には粘着テープ204に代えて、熱収縮テープを用いてもよい。この場合、組電池の両側面に保護シートを配置し、熱収縮テープを周回させた後、熱収縮テープを熱収縮させて組電池を結束させる。
【0074】
図5図6では単電池201を直列接続した形態を示したが、電池容量を増大させるためには並列に接続しても、または直列接続と並列接続を組み合わせてもよい。組み上がった電池パックをさらに直列、並列に接続することもできる。
以上に記載した本実施形態によれば、上記実施形態における優れた充放電サイクル性能を有する非水電解質二次電池を備えることにより、優れた充放電サイクル性能を有する電池パックを提供することができる。
【0075】
なお、電池パックの態様は用途により適宜変更される。電池パックの用途は、小型かつ大容量が求められるもの好ましい。具体的には、スマートフォン、デジタルカメラの電源用や、二輪乃至四輪のハイブリッド電気自動車、二輪乃至四輪の電気自動車、アシスト自転車等の車載用が挙げられる。
【0076】
以下に具体的な実施例(各実施例で説明する夫々の条件で、図3で説明した電池を具体的に作成した例)を挙げ、その効果について述べる。但し、これらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
次のような条件で炭化ケイ素で被覆したケイ素ナノ粒子を作製した。
市販の球状ケイ素ナノ粒子(平均粒径80nm)を用い、ケイ素ナノ粒子2gに対して0.2質量%分の炭素量となるように調整したスクロース溶液を混合し、混練機にて均一に攪拌した後、120℃に加熱して溶液分を蒸発、固化させた。得られた炭素前駆体被覆ケイ素ナノ粒子をAr雰囲気下で、1200℃、1時間の熱処理を行い、炭素前駆体を熱分解により炭化、さらに炭素とケイ素ナノ粒子の表層部とを反応させて、表層被覆処理ケイ素ナノ粒子を得た。
【0078】
次に、得られた表面被覆処理ケイ素ナノ粒子と3μmの黒鉛粉末とを、次のような方法でハードカーボンと複合化した。
フルフリルアルコール2.4gとエタノール20gの混合液に表面被覆処理ケイ素ナノ粒子を1.2g、黒鉛粉末を0.3gを加え混練機にて混練処理しスラリー状とした。混錬後のスラリーにフルフリルアルコールの重合触媒となる希塩酸を0.5g加え室温で放置し乾燥、固化して炭素複合体を得た。得られた炭素複合体を1100℃で3h、Arガス雰囲気中にて焼成し、室温まで冷却後、粉砕し45μm径のふるいをかけて、ふるい下に負極材料を得た。
【0079】
(充放電試験)
得られた試料に平均径3μmの黒鉛を質量12%、ポリイミドを16質量%を分散媒としてN−メチルピロリドンを用いて混練し厚さ12μmの銅箔上に塗布して圧延した後、400℃で2時間、Arガス中にて熱処理し、所定のサイズに裁断した後、100℃で12時間、真空乾燥し、試験電極とした。対極および参照極を金属Li、電解液をLiPF(1M)のEC・DEC(体積比EC:DEC=1:2)溶液とした電池をアルゴン雰囲気中で作製し充放電試験を行った。充放電試験の条件は、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで2mA/cmの電流密度で充電、さらに0.01Vで16時間の定電圧充電を行い、放電は1mA/cmの電流密度で1.5Vまで行った。さらに、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cmの電流密度で充電、1mA/cmの電流密度で1.5Vまで放電するサイクルを50回行い、1サイクル目に対する50サイクル目の放電容量の維持率を測定した。
【0080】
以下の実施例と比較例に関しても表1にまとめた。以下の実施例および比較例については実施例1と異なる部分のみ説明し、その他の合成および評価手順については実施例1と同様に行ったので説明を省略する。
【0081】
(実施例2)
前処理となる炭素被覆において、ケイ素ナノ粒子に対する被覆炭素量が5質量%となるようにした以外はすべて実施例1と同様に試料を作製し、充放電試験を行った。
【0082】
(実施例3)
前処理となる炭素被覆において、ケイ素ナノ粒子に対する被覆炭素量が20質量%となるようにした以外はすべて実施例1と同様に試料を作製し、充放電試験を行った。
【0083】
(実施例4)
前処理となる炭素被覆において、ケイ素ナノ粒子に対する被覆炭素量が5質量%となるようにし、最初の熱処理温度を1050℃とした以外はすべて実施例1と同様に試料を作製し、充放電試験を行った。
【0084】
(実施例5)
前処理となる炭素被覆において、ケイ素ナノ粒子に対する被覆炭素量が5質量%となるようにし、最初の熱処理温度を1200℃として炭化ケイ素被覆ケイ素ナノ粒子を作製し、その後の複合化処理温度を900℃とした以外はすべて実施例1と同様に試料を作製し、充放電試験を行った。
【0085】
(実施例6)
前処理となる炭素被覆を行わずに1100℃で複合化処理を行った以外はすべて実施例1と同様に試料を作製し、充放電試験を行った。
(比較例1)
前処理となる炭素被覆を行わずに900℃で複合化処理を行った以外はすべて実施例1と同様に試料を作製し、充放電試験を行った。
(実施例7)
次のような条件で炭化ケイ素で被覆したケイ素ナノ粒子を作製した。(炭素被覆を気相法により作製した例を追加します。)
市販の球状ナノ粒子(平均粒径80nm)を用い、熱CVD装置により、メタン−アルゴンガスの通気下、1200℃に加熱して30分間炭素被覆処理を行った。これにより、表面被覆処理ケイ素ナノ粒子を得た。そして、実施例1と同様に充放電試験を行った。
【0086】
(比較例2)
前処理となる炭素被覆を行わずに1200℃で複合化処理を行った以外はすべて実施例1と同様に試料を作製し、充放電試験を行った。
【0087】
実施例2において得られた負極材料について、炭素被覆熱処理後のX線回折測定ならびに高分解能電子顕微鏡による構造観察を行った。
【0088】
図7に、本発明に係る炭素を被覆して熱処理をしたのちの粉末の粉末X線回折結果を示す。ケイ素に起因するピークと共に炭化ケイ素のピークが確認される。また、2θ=20°〜30°あたりにかけて、表層部に存在すると見られる非晶質のケイ素酸化物相の存在もうかがわれる。
【0089】
高分解能電子顕微鏡による構造観察からはケイ素ナノ粒子の粒サイズに大きな変化は見られなかった。ケイ素ナノ粒子の表層部を拡大してみると、粒子表面を全体的に覆うケイ素酸化物の非晶質な層が観察された。厚さは2nmから3nmであった。この層中に、ケイ素ナノ粒子と接触する形で、粒子状に見える1nmから5nm程度の大きさの結晶質な炭化ケイ素の相が観察された。その一部はケイ素酸化物層から露出して存在していた。
実施例と比較例に関して、結果をまとめて表1に示した。表1中の炭化ケイ素相の有無については、ケイ素ナノ粒子に炭素被覆をして熱処理した後の被覆粒子の粉末X線回折より得られた結果である。
【0090】
【表1】
【0091】
前処理温度を1200℃とした場合は、すべての場合において炭化ケイ素相が生成しているのが確認された。また、実施例6のように、前処理では炭化ケイ素相が形成されなくても、その後の炭素質物と複合化の処理温度を1100℃程度とすることで炭化ケイ素相は生成することがわかった。ただし、比較例2に示すように、複合化のようなケイ素ナノ粒子の周りに過剰に炭素がある状態で1200℃まで加熱すると、ケイ素ナノ粒子の多くが炭化ケイ素化してしまい、ほとんど炭素の放電容量にまで大きく低下する結果となった。
【0092】
また、ケイ素ナノ粒子の周りの非晶質なケイ素酸化物と同時にその内部に部分的に含まれる炭化ケイ素相を形成することでサイクル特性が大きく改善されることがわかった。被覆層の炭化ケイ素化には少なくとも1050℃以上の熱処理が必要であり、その後の複合化処理時の熱処理温度はせいぜい1100℃程度に抑えることが必要であることがわかった。
しかし、比較例1のように、複合化の温度を900℃まで下げ、まったく炭化ケイ素相を形成しない状態にしたものでは、炭素質材料の特性に起因し、容量の向上は見られたものの、サイクル特性が大きく低下した。
このように、適度な量の炭化ケイ素相の存在はサイクルにおける高い容量の維持に効果的であることが明らかになった。
【0093】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。
【符号の説明】
【0094】
10…負極材料、11…ケイ素ナノ粒子、12…ケイ素酸化物、13…炭化ケイ素相、20…複合化負極材料、21…炭素質物、101…捲回電極群、102…外装材、103…負極、104…セパレータ、105…正極、106…負極端子、107…正極端子、200…電池パック、201…単電池、202…負極端子、203…正極端子、204…粘着テープ、205…組電池、206…プリント配線基板、207…サーミスタ、208…保護回路、209…通電用端子、210…、極側リード、211…正極側コネクタ、212…負極側リード、213…負極側コネクタ、214、215…配線、216a…プラス側配線、216b…マイナス側配線、217…配線、218…保護シート、219…収納容器、220…蓋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7