(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239336
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】円二色性計測方法及び円二色性計測装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/19 20060101AFI20171120BHJP
G01N 21/21 20060101ALI20171120BHJP
G01J 4/04 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
G01N21/19
G01N21/21 Z
G01J4/04 Z
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-209346(P2013-209346)
(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公開番号】特開2015-75330(P2015-75330A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟
(72)【発明者】
【氏名】里園 浩
【審査官】
佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2012/0268740(US,A1)
【文献】
特開2013−015443(JP,A)
【文献】
特開昭61−193049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
G01J 3/00− 4/04
G01J 7/00− 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の試料に係るミュラー行列を下記の数式(1)
【数1】
としたときに、行列要素S02を計測するS02計測ステップと、
上記の数式(1)における行列要素S20を計測するS20計測ステップと、
前記S02計測ステップにおいて得られた行列要素S02と、前記S20計測ステップにおいて得られた行列要素S20とから円二色性を算出する算出ステップと、
を備える円二色性計測方法であって、
前記S02計測ステップは、
第1の方向の直線偏光である第1直線偏光を出射する偏光光源と、前記偏光光源からの前記第1直線偏光を入射し、当該第1直線偏光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第1可変波長板と、前記第1可変波長板から出射されて、試料により透過された透過光を入射し、当該透過光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第2可変波長板と、前記第2可変波長板から出射された光を入射し、第2の方向の直線偏光である第2直線偏光を取り出すことが可能な第2偏光板と、前記第2偏光板から出射された光を電気信号に変換して検出する光検出手段と、を備える円二色性計測装置において、
前記第1の方向及び前記第2の方向を固定した状態で、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うL1測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN00測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN10測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN01測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN11測定ステップと、
を有し、
前記S20計測ステップは、
前記円二色性
計測装置において、前記第1の方向及び前記第2の方向を固定した状態で、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うL2測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK00測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK10測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK01測定ステップと、
前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK11測定ステップと、
を有する円二色性計測方法。
【請求項2】
測定対象の試料に係るミュラー行列を下記の数式(2)
【数2】
としたときに、行列要素S02を計測するS02計測手段と、
上記の数式(2)における行列要素S20を計測するS20計測手段と、
前記S02計測手段において得られた行列要素S02と、前記S20計測手段において得られた行列要素S20とから円二色性を算出する算出手段と、
を備える円二色性計測装置であって、
前記S02計測手段及び前記S20計測手段を構成する計測装置は、
第1の方向の直線偏光である第1直線偏光を出射する偏光光源と、
前記偏光光源からの前記第1直線偏光を入射し、当該第1直線偏光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第1可変波長板と、
前記第1可変波長板から出射されて、試料により透過された透過光を入射し、当該透過光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第2可変波長板と、
前記第2可変波長板から出射された光を入射し、第2の方向の直線偏光である第2直線偏光を取り出すことが可能な第2偏光板と、
前記第2偏光板から出射された光を電気信号に変換して検出する光検出手段と、
を備える円二色性計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円二色性計測方法及び円二色性計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円二色性(CD:Circular Dichroism)は、分子の光学活性(キラリティ)によって起こる現象であり、左右の円偏光に対する吸光度の違いとして定義される。この円二色性のスペクトル情報は、分子の高次構造を反映していることから、特に生理活性物質の高次構造の解析等によく適用される。この円二色性は、左右の円偏光をそれぞれ試料に照射し、透過光の強度差から吸光度の差を求める方法が一般的に用いられる。
【0003】
円二色性の計測は、試料が円二色性以外の光学活性、すなわち直線偏光に対する二色性や複屈折を持っていない場合にのみ成立し、試料が円二色性以外の光学活性を有している場合、この特性が円二色性とカップリングするために円二色性計測の際のアーチファクトになることが知られている。そして、このアーチファクトの影響のために、固体、膜、液晶等の巨視的な異方性を有する試料においては、円二色性の計測に適さないとされていた(例えば、非特許文献1参照)。このため、アーチファクトを除去するための種々の検討が行われている。例えば、特許文献1では、試料を45°回転させ、検光子を外して計測し、さらに試料を裏返して計測した後で、これらの二つの信号の平均を取る、等の工程が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4010760号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】神藤、分光研究、第34巻、第4号、215ページ(1985年)
【非特許文献2】Y.Shindo, Optical Engineering,Vol.34, No.12, 3369 (1995)
【非特許文献3】Ho.P.Jensen, J.A.Schellman,T.Troxell, Applied Spectroscopy, Vol.32,No.2, 192 (1978)
【非特許文献4】G.E.Jellison Jr., F.A.Modine,Appl.Opt., Vol.36, 8184 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の計測装置によれば光学系が複雑であり、且つ、測定方法が煩雑であるため、円二色性を迅速且つ簡便に計測できるとはいえない。
【0007】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、試料の円二色性をより正確且つ簡便に計測することが可能な円二色性計測方法及び円二色性計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意研究の結果、試料の複屈折などの偏光特性を数値化したミュラー行列における行列要素S02とS20とをそれぞれ測定し、この結果に基づいて円二色性を算出することにより、より正確且つ簡便な円二色性の計測を行うことが可能であることを見出した。さらに、発明者らは、鋭意研究の結果、光源に水平垂直方向の偏光成分が存在した場合にはこれが新たなアーチファクトとして測定されることを見出し、これに対して、可変波長板を用いた測定を行うことにより、光学素子の回転を必要とせずに光源に由来するアーチファクト成分の除去を実現する、より正確な円二色性の計測を行うことが可能となることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明に係る円二色性計測方法は、測定対象の試料に係るミュラー行列を下記の数式(A)
【数1】

としたときに、行列要素S02を計測するS02計測ステップと、上記の数式(A)における行列要素S20を計測するS20計測ステップと、前記S02計測ステップにおいて得られた行列要素S02と、前記S20計測ステップにおいて得られた行列要素S20とから円二色性を算出する算出ステップと、を備える円二色性計測方法であって、前記S02計測ステップは、第1の方向の直線偏光である第1直線偏光を出射する偏光光源と、前記偏光光源からの前記第1直線偏光を入射し、当該第1直線偏光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第1可変波長板と、前記第1可変波長板から出射されて、試料により透過された透過光を入射し、当該透過光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第2可変波長板と、前記第2可変波長板から出射された光を入射し、第2の方向の直線偏光である第2直線偏光を取り出すことが可能な第2偏光板と、前記第2偏光板から出射された光を電気信号に変換して検出する光検出手段と、を備える円二色性計測装置において、前記第1の方向及び前記第2の方向を固定した状態で、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うL1測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN00測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN10測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN01測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うN11測定ステップと、を有し、前記S20計測ステップは、前記円二色性測定装置において、前記第1の方向及び前記第2の方向を固定した状態で、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うL2測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK00測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK10測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK01測定ステップと、前記第1可変波長板において、前記第1直線偏光の波長をλとしたとき、前記位相差を1/2λとして出射すると共に、前記第2可変波長板において、前記透過光の波長をλとしたとき、前記位相差を3/4λとして出射した状態で、前記試料を透過する光の強度の計測を行うK11測定ステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る円二色性測定装置は、測定対象の試料に係るミュラー行列を下記の数式(B)
【数2】
としたときに、行列要素S02を計測するS02計測手段と、上記の数式(B)における行列要素S20を計測するS20計測手段と、前記S02計測手段において得られた行列要素S02と、前記S20計測手段において得られた行列要素S20とから円二色性を算出する算出手段と、を備える円二色性計測装置であって、前記S02計測手段及び前記S20計測手段を構成する計測装置は、第1の方向の直線偏光である第1直線偏光を出射する偏光光源と、前記偏光光源からの前記第1直線偏光を入射し、当該第1直線偏光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第1可変波長板と、前記第1可変波長板から出射されて、試料により透過された透過光を入射し、当該透過光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射する第2可変波長板と、前記第2可変波長板から出射された光を入射し、第2の方向の直線偏光である第2直線偏光を取り出すことが可能な第2偏光板と、前記第2偏光板から出射された光を電気信号に変換して検出する光検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
発明者らの研究によれば、ミュラー行列の行列要素S02と行列要素S20とをそれぞれ求めた後、これに基づいて円二色性を算出することで、従来の円二色性の測定結果には含まれていたアーチファクト成分が除去されることが分かった。したがって、上記の円二色性計測方法及び円二色性計測装置に基づき、行列要素S02及び行列要素S20を測定し、これらの結果を用いて円二色性を算出する構成とすることで、より正確な円二色性の測定を行うことができる。また、従来は、より正確な円二色性を計測するために、円二色性以外の光学活性を有しない状態である溶液状態での測定を行ってきたが、上記の計測方法によれば、溶液状態以外の状態、例えば、固相、ゲル、液晶、膜状の試料の円二色性であっても、アーチファクト成分の除去が適切に行われるため、溶液状態ではない試料の円二色性の計測にも適用することが可能となる。
【0012】
そして、上記の円二色性計測方法及び円二色性計測装置によれば、可変波長板の位相差を変更させることで、光学素子を回転させるための高額な回転ステージも不要となる。さらに、光源に水平垂直方向の偏光成分が存在したとしても、光源と、光源の光から直線偏光を取り出す偏光板との相対角度が変化しない光学配置とすることで、より正確に円二色性を計測することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料の円二色性をより正確且つ簡便に計測することが可能な円二色性計測方法及び円二色性計測装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る円二色性計測装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る円二色性計測装置の構成を説明する概略構成図である。
図1に示す円二色性計測装置1(S02計測手段、S20計測手段)は、光源10、第1偏光板22、第1可変波長板82、第2可変波長板84、第2偏光板24、光検出器40(光検出手段)が光源10からの光学軸に沿ってこの順に配置され、第1可変波長板82と第2可変波長板84との間の光路上に試料100が配置されているものである。なお、以下の説明の簡略化のために、円二色性計測装置1において、光源10からの光の光学軸をZ軸とし、Z軸に対して垂直であり互いに直交する2つの軸を、それぞれX軸及びY軸とする。
【0017】
光源10は、測定対象の試料に対して照射するための光を出射する。この光源10から出射される光は非偏光であり、例えば、波長280nmの光を出射する重水素ランプ等が光源10として用いられる。
【0018】
光源10から出射された光は、第1偏光板22に入射する。第1偏光板22では、光源10から出射された光のうち直線偏光が取り出される。第1偏光板22としては、例えば、グランテーラープリズムが用いられる。第1偏光板22は、本実施形態では、X軸に対して0°方向の直線偏光を取り出すものとする。
【0019】
上記の光源10及び第1偏光板22は、特定の波長の光であって第1の直線偏光である第1直線偏光を出射する偏光光源として機能する。
【0020】
第1可変波長板82及び第2可変波長板84は、試料100を挟んでZ軸に沿って配置される。第1可変波長板82及び第2可変波長板84は入射する偏光の振動面とは異なる振動面を持ち互いに直交する2つの偏光成分の間の位相差を変更して出射することが可能であって且つその位相差の変更量が可変である波長板であり、その制御は制御部(図示せず)により行われる。
【0021】
第1可変波長板82を通過した光は、試料100に入射する。試料100を入射した光のうち、透過光が第2可変波長板84に入射して、さらに位相差の制御が行われる。その後、第2可変波長板84を出射した光が、第2偏光板24を通過して、光検出器40に入射する。なお、第2偏光板24は、本実施形態では、X軸に対して0°方向の直線偏光を取り出すものとする。
【0022】
光検出器40は、試料100を透過し、第2可変波長板84及び第2偏光板24を通過した光を電気信号に変換する機能を有する。円二色性の測定では、光検出器40により検出された電気信号を利用して、右円偏光による信号と左円偏光による信号との差分を求め、その演算結果をたとえば円二色性イメージとして出力する等により、測定結果を得ることができる。これらの円二色性の算出に係る処理(算出ステップ)は円二色性計測装置1の算出手段(図示せず)により行われる。
【0023】
本実施形態に係る円二色性計測では、上記の円二色性計測装置1を用いて円二色性の測定を行うことにより、試料の円二色性をより正確且つ簡便に計測することが可能となる。この点について、以下説明をする。
【0024】
まず、円二色性の測定において発生するアーチファクトについて説明する。円二色性計測は、円二色性以外の光学活性を持たない状態である溶液状態での計測が、従来から一般的に行われてきた。しかしながら固相、ゲル、液晶、膜状試料の円二色性計測は産業上からも重要であり、これらの試料が円二色性以外の光学活性を持ってことから、上記アーチファクトが円二色性を計測する上で大きな障害となっているものである。非特許文献1によれば、光学活性をもつ試料のミュラー行列は、以下の数式(1)により表される。
【数3】
【0025】
上記の数式(1)において、CDは円二色性、CBは円偏光複屈折、LDは直線偏光二色性、LBは直線偏光複屈折、θは試料のX軸に対する回転角をそれぞれ示している。また、数式(1)において各特性を示す単語に「’」を付している場合は、試料を45°傾けた場合について記載したものである。以下では、上記の数式(1)を数式(2)のように省略して記載する。なお、数式(1)において記載されている行列の係数e
−Aeについては、以下の検討には影響を与えない係数であるため、省略する。
【数4】
【0026】
この数式(2)で記載される試料に対して左円偏光もしくは右円偏光を照射すると、試料を透過した透過光のストークスベクトルは、ミュラー行列S(θ)と、円偏光のストークスベクトルとの積により求めることができる。その結果は、左円偏光の場合は数式(3)、右円偏光の場合は数式(4)のように記載される。
【数5】
【数6】
【0027】
ここで、光強度はストークスベクトルの第1項で表現されていることから、左円偏光に対する透過光強度は、数式(3)よりS00−S02と示され、右円偏光に対する透過光強度は数式(4)よりS00+S02となることがわかる。円二色性はこれら透過光強度の差と定義されているため、最終的に数式(5)で示される式で計算される。
【0029】
数式(5)では、左円偏光の透過光強度と右円偏光の透過光強度との差を求めた結果には、CD(円二色性)の成分だけではなく、LD(直線偏光二色性)とLB(直線偏光複屈折)に由来する成分が含まれることが示されている。LDとLBとの積がCDと比較して無視できる程度に小さい場合は、直線偏光成分が含まれない純粋な円二色性に係る情報を得ることができる。しかしながら、LDとLBとの積がCDと比較して無視できない程度の大きさである場合には、純粋な円二色性の測定ができているとは言えず、アーチファクトの影響を受けるという問題がある。
【0030】
ところで、発明者は、特許文献1において光学活性をもつ試料のミュラー行列として示された数式と非特許文献2で示されたミュラー行列として示された数式とを比較すると符号や記号等が一部相違していることに着目し、非特許文献2,3に記載のミュラー行列の導出方法に基づいて、ミュラー行列を新たに求めた。ここで、非特許文献3によれば、ミュラー行列の一般式は以下の数式(6),(7)で示される。
【数8】
【0031】
そして、上記の数式を展開すると、数式(8),(9)が得られる。
【数9】
【0032】
さらに、上記の数式(8),(9)を、非特許文献2に従って2次の項まで展開すると、以下の数式(10)が得られる。
【数10】
【0033】
数式(10)に含まれるパラメータのうち、CDとCBとは、LDおよびLBと比較して10
−3から10
−5程度小さな値になるので、CDとCBの2乗の項は無視できると考え、数式(10)を簡略化した結果、数式(11)が得られる。
【数11】
【0034】
ここで、試料の回転角をθとすると、試料の回転を考慮したミュラー行列は以下の数式(12)で表すことができる。
【数12】
【0035】
数式(12)におけるRは回転のための行列であり、以下の数式(13)と表される。また、R
−1は、Rの逆行列であり、数式(14)と表される。
【数13】
【0036】
以上の結果、ミュラー行列の行列要素S02は数式(15)になり、S20は数式(16)となる。
【数14】
【0037】
ここでS02とS20を数式(17)に従って計算する。
【数15】
【0038】
上記の数式(17)に依れば、S02とS20に含まれているLDやLBといったアーチファクト成分が打ち消され、純粋なCD成分のみが残る。したがって、S02及びS20を個別に計測し、数式(17)に従って計算することで、純粋なCDの計測値を得ることができる。
【0039】
本実施形態に係る円二色性計測装置1を用いた円二色性計測方法の詳細について説明する。以降の説明では、数式の簡略化のために、光源及び光学素子のミュラー行列を以下のように略記する。
【0040】
X軸方向にセットされた、全ての偏光成分を有する光源:Lg
【数16】
X軸方向に偏光軸をセットした透過率Tの偏光子:P(0)
【数17】
Y軸方向に偏光軸をセットした透過率Tの偏光子:P(90)
【数18】
X軸に対してZ軸周りに45度回転した位相差δの波長板:R(δ)
【数19】
【0041】
円二色性計測装置1を用いた測定では、第1偏光板2及び第2偏光板24の偏光軸はX軸方向に設定され、第1可変波長板82と第2可変波長板84の速軸は、Z軸周りにX軸方向から45°の回転角に設定される。
【0042】
ここで円二色性計測装置1による円二色性計測方法では、表1のマトリックスにしたがって、試料の有無と、第1可変波長板82及び第2可変波長板84の遅延量とを設定し、測定項目L、N00、N10、N01、N11、K00、K10、K01、K11のそれぞれについて計測する。なお、位相差λは2πラジアン、第1偏光板22の透過率をT
1とし、第2偏光板24の透過率をT
2とする。なお、表1に示す各測定項目が、本実施形態に係る円二色性計測方法における測定ステップに対応し、測定項目Lは、L1ステップ及びL2ステップを兼ねる。すなわち、L1ステップ及びL2ステップは、下記の測定項目Lの測定により代用することができ、Lを一度測定することによりL1ステップ及びL2ステップを実施することができる。すなわち、測定項目L、N00、N10、N01、N11の測定がS02計測ステップに相当し、測定項目L、K00、K10、K01、K11の測定がS20計測ステップに相当する。
【0044】
ここで、ミュラー行列法により、測定項目Lで検出される光のストークスベクトルは、次の行列計算の数式(22)で求められる。
【数20】
【0045】
したがって、Lで検出される光強度は、上記第1項となり、数式(23)で示される。
【数21】
【0046】
同様に、測定項目N00で検出される光のストークスベクトルは、数式(24)の行列計算で求められ、N00で検出される光強度は数式(24)の第1項から数式(25)と示すことができる。
【数22】
【0047】
同様に、測定項目N10で検出される光のストークスベクトルは、数式(26)の行列計算で求められ、N10で検出される光強度は数式(26)の第1項から数式(27)と示すことができる。
【数23】
【0048】
同様に、測定項目N01で検出される光のストークスベクトルは、数式(28)の行列計算で求められ、N01で検出される光強度は数式(28)の第1項から数式(29)と示すことができる。
【数24】
【0049】
同様に、測定項目N11で検出される光のストークスベクトルは、数式(30)の行列計算で求められ、N11で検出される光強度は数式(30)の第1項から数式(31)と示すことができる。
【数25】
【0050】
同様に、測定項目K00で検出される光のストークスベクトルは、数式(32)の行列計算で求められ、K00で検出される光強度は数式(32)の第1項から数式(33)と示すことができる。
【数26】
【0051】
同様に、測定項目K10で検出される光のストークスベクトルは、数式(34)の行列計算で求められ、K10で検出される光強度は数式(34)の第1項から数式(35)と示すことができる。
【数27】
【0052】
同様に、測定項目K01で検出される光のストークスベクトルは、数式(36)の行列計算で求められ、K01で検出される光強度は数式(36)の第1項から数式(37)と示すことができる。
【数28】
【0053】
同様に、測定項目K11で検出される光のストークスベクトルは、数式(38)の行列計算で求められ、K11で検出される光強度は数式(38)の第1項から数式(39)と示すことができる。
【数29】
【0054】
そして、S02は以下の数式(40)で求められ、さらに、S20は以下の数式(41)で求められる。
【数30】
【0055】
上記の数式により求められたS02及びS20に、数式(17)を適用することで、S02とS20に含まれているアーチファクト成分が打ち消され、純粋なCD成分のみが残り、純粋なCDの計測値を得ることができる。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る円二色性計測装置1及びこの円二色性計測装置1を用いた円二色性計測方法によれば、ミュラー行列の行列要素S02と行列要素S20とをそれぞれ求めた後、これに基づいて円二色性を算出することで、従来の円二色性の測定結果には含まれていたアーチファクト成分が除去される。したがって、上記の円二色性計測装置1及びこの円二色性計測装置1を用いた円二色性計測方法に基づき、行列要素S02及び行列要素S20を測定し、これらの結果を用いて円二色性を算出する構成とすることで、より正確な円二色性の測定を行うことができる。
【0057】
従来から、上記の特許文献1及び非特許文献1〜4に記載のように、円二色性を測定する方法が種々検討されていた。しかしながら、例えば特許文献1記載の方法では、複雑な光学系と計測手順とが要求されることから、円二色性を迅速に簡便に計測できる方法とはいえなかった。これに対して本実施形態に係る円二色性計測装置1及びこの円二色性計測装置1を用いた円二色性計測方法は、円二色性の計測を簡便に行うことが可能となる。
【0058】
また、非特許文献4によれば、Two-Modulator GeneralizedEllipsometer(2-MGE)と呼ばれる、試料のミュラー行列の測定装置の例が示されている。この装置を使うことで、一般的なCD計測で計測される試料のミュラー行列の行列要素S02を計測することができると考えられる。また試料のミュラー行列の行列要素S20のような、CD成分を含む他の行列要素の計測も可能であると考えられる。しかしながら、この装置だけでは、S02やS20に含まれるLDやLBといったアーチファクト成分を除去することはできないという問題があった。また、位相変調素子を回転させる必要があるため、高額な回転ステージが必要であり、また可動部分があることから測定精度の点で不利な点もあった。
【0059】
これに対して、本実施形態に係る円二色性計測装置1及びこの円二色性計測装置1を用いた円二色性計測方法によれば、光源10と、光源の光から直線偏光を取り出す第1偏光板22と、第2偏光板24と、の相対角度が変化しない光学配置とすることで、光学素子を回転させるための高額な回転ステージも不要となる。さらに、光源に水平垂直方向の偏光成分が存在したとしても、その影響を受けない計測方法が上記の構成により実現されることから、より正確に円二色性を計測することが可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。
【0061】
例えば、上記実施形態では、表1に示すように第1可変波長板82及び第2可変波長板84の位相可変範囲が1/4λ〜1λとなるように、位相差を設定したが、1λの代わりに0λとし、位相可変範囲が0λから3/4λである波長板を用いた構成としてもよい。この場合でも、上記実施形態と同じ効果が得られる。
【0062】
また、上記実施形態における光源10及び第1偏光板22の代わりに、光源10から出射された後に第1偏光板22を経て出射される光と同等に、純粋な直線偏光を発する偏光光源を用いる構成としてもよい。
【0063】
また、必要に応じて単色フィルタもしくは分光器を10の直後に挿入することで、特定波長の光の円二色性を計測することもできる。なお、単色フィルタもしくは分光器を、光検出器40の直前に設置しても、同様に特定波長の光の円二色性を計測することができる。
【0064】
また、光源10として広い分光特性を持つ白色光を出射する白色光源を選択し、光検出器40として分光機能を有する検出器を用いることで、CDスペクトルを計測する構成も可能である。分光機能を有する検出器としては、ポリクロメータとCCDカメラの組み合わせが、例としてあげられる。
【符号の説明】
【0065】
1…円二色性計測装置、10…光源、22…第1偏光板、24…第2偏光板、40…光検出器、82…第1可変波長板、84…第2可変波長板、100…試料。