(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239338
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】有機色素
(51)【国際特許分類】
C09B 23/00 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
C09B23/00 MCSP
C09B23/00 J
【請求項の数】3
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2013-213265(P2013-213265)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74754(P2015-74754A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「光電荷分離ゲルによる屋内用有機太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 昌和
(72)【発明者】
【氏名】住岡 孝一
(72)【発明者】
【氏名】香西 孝章
【審査官】
阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/134607(WO,A1)
【文献】
特開2007−66690(JP,A)
【文献】
特開2008−16383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[I]で示される有機色素。
【化1】
(一般式[I]において、Ar
1とAr
2は芳香族炭化水素残基を示し、R
1とR
2、R
3とR
4は水素原子またはアルキル基を示し、
R1とR2、およびR3とR4は、それぞれ連結してシクロペンタン環
を形成し、Q1とQ2は、一般式[II]、[III]、[IV]、[V]、[VI]で示される活性ケトメチレン構造を有する二価の有機残基から選択されるいずれかである。L
1とL
2は、アルキレン基を示す。X
−は対アニオンを示す。)
【化2】
(R5、R7、R10、R12、R15は、水素原子またはアルキル基である。R6、R9、R11、R14は、アルキレン基である。R8、R13、R16、R17は、アルキル基、アラルキル基またはアリール基である。なお一般式[II]、[III]、[IV]、[V]、[VI]において、「*1」は該結合手が一般式[I]におけるインドリン環が有するベンゼン環へ結合するための結合手であることを示し、「*2」は該結合手が一般式[I]のL1またはL2へ結合するための結合手であることを示す。)
【請求項2】
R5、R7、R10、R12、R15が、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R6、R9、R11、R14が、炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、R8、R13、R16、R17が、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数7以上14以下のアラルキル基または炭素数6以上14以下のアリール基である請求項1記載の有機色素。
【請求項3】
L1とL2が、炭素数2以上10以下のアルキレン基である請求項1または2に記載の有機色素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収材料として有用な有機色素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光吸収材料として使用されている色素は、銀塩写真感光材料、感熱記録材料、光学用フィルター、CD−RやDVD−R等の光学記録媒体、光感光性樹脂用の増感剤、医療用蛍光性センサー、衣料用染色剤等、広範囲な分野に用途を有する。また、近年では、太陽電池の分野においても、色素の利用が検討されている。
【0003】
光吸収材料として使用されている色素は、無機色素、有機金属色素(錯体系色素)、有機色素に大別される。このうち、有機色素は、種類が多い、色の自由度が多い、安価である等の利点を有していて、上述した用途において、有用な色素として使用されている(例えば、特許文献1〜9参照)。しかしながら、無機色素や有機金属色素と比較して、有機色素の耐久性は低く、特に、光照射によって劣化するという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−238905号公報
【特許文献2】特開2001−76773号公報
【特許文献3】特開平10−92477号公報
【特許文献4】国際公開第2002/045199号パンフレット
【特許文献5】特開2004−200068号公報
【特許文献6】特開2005−19252号公報
【特許文献7】特開2007−115673号公報
【特許文献8】国際公開第2010/016612号パンフレット
【特許文献9】特開2011−6665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、優れた耐光性を有する有機色素を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、下記発明によって、上記課題を解決した。
【0007】
(1)一般式[I]で示される有機色素。
【0008】
【化1】
【0009】
(一般式[I]において、Ar
1とAr
2は芳香族炭化水素残基を示し、R
1とR
2、R
3とR
4は水素原子またはアルキル基を示し、
R1とR2が連結して、あるいはR3とR4が連結してシクロペンタン環またはシクロヘキサン環を形成しても良い。Q
1とQ
2は、
活性ケトメチレン構造を有する二価の有機残基を示す。L
1とL
2は、アルキレン基を示す。X
−は対アニオンを示す。)
【0010】
(2)Q
1とQ
2が、一般式[II]、[III]、[IV]、[V]、[VI]で示される
活性ケトメチレン構造を有する二価の有機残基から選択されるいずれかである上記(1)記載の有機色素。
【0011】
【化2】
【0012】
(R
5、R
7、R
10、R
12、R
15は、水素原子またはアルキル基である。R
6、R
9、R
11、R
14は、アルキレン基である。R
8、R
13、R
16、R
17は、アルキル基、アラルキル基またはアリール基である。
なお一般式[II]、[III]、[IV]、[V]、[VI]において、「*1」は該結合手が一般式[I]におけるインドリン環が有するベンゼン環へ結合するための結合手であることを示し、「*2」は該結合手が一般式[I]のL1またはL2へ結合するための結合手であることを示す。)
【0013】
(3)R
5、R
7、R
10、R
12、R
15が、水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R
6、R
9、R
11、R
14が、炭素数1以上3以下のアルキレン基であり、R
8、R
13、R
16、R
17が、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数7以上14以下のアラルキル基または炭素数6以上14以下のアリール基である上記(2)記載の有機色素。
【0014】
(4)L
1とL
2が、炭素数2以上10以下のアルキレン基である上記(1)〜(3)のいずれか記載の有機色素。
【発明の効果】
【0015】
一般式[I]で示される有機色素は、電子吸引性物質である、4,4′−ビピリジニウム残基に対して、メロシアニン色素に分類される色素の残基が2個連結された化合物であり、優れた耐光性を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】有機色素D−9の吸収スペクトル(DMF溶液)である。
【
図2】有機色素D−9の
1H−NMRスペクトル(DMSO−d
6溶液)である。
【
図3】有機色素D−14の吸収スペクトル(DMF溶液)である。
【
図4】有機色素D−14の
1H−NMRスペクトル(DMSO−d
6溶液)である。
【
図5】有機色素D−13の吸収スペクトル(DMF溶液)。
【
図6】有機色素D−13の
1H−NMRスペクトル(DMSO−d
6溶液)である。
【
図7】有機色素D−42の吸収スペクトル(DMF溶液)である。
【
図8】有機色素D−42の
1H−NMRスペクトル(DMSO−d
6溶液)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般式[I]で示される有機色素について説明する。一般式[I]において、Ar
1とAr
2は芳香族炭化水素残基を示す。好ましい例としては、以下に示すAR−1〜AR−22が挙げられるが、これらに限定されるものではない。Ar
1とAr
2において、これら芳香族炭化水素残基が、置換基としてpKaが6未満の酸性基をさらに有しても良い。pKaが6未満の酸性基の具体例としては、カルボキシ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、フォスフォノ基、フォスフィニコ基などが挙げられる。この中でも、カルボキシ基が特に好ましい。
【0020】
R
1とR
2、R
3とR
4は水素原子またはアルキル基を示す。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等の直鎖のアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基等の側鎖を有するアルキル基が挙げられる。R
1とR
2、R
3とR
4は、それぞれ、同一炭素数のアルキル基であっても良いし、異なる炭素数のアルキル基であっても良い。また、R
1とR
2、R
3とR
4は、両者で結合してシクロペンタン環またはシクロヘキサン環を形成しても良い。特に好ましいのは、両者で結合してシクロペンタン環またはシクロヘキサン環を形成しているものである。
【0021】
Q
1とQ
2は、二価の電子吸引性有機残基を示す。二価の電子吸引性有機残基の具体例については、「高機能フォトケミカルズ−構造機能と応用展望−」((株)シーエムシー、1986年発行)の第101ページに記載されている活性ケトメチレン化合物を構造内に有する二価の有機残基が挙げられるが、もちろん、これらに限定されるものではない。活性ケトメチレン化合物の具体例を下記に示す。
【0023】
好ましいQ
1とQ
2としては、一般式[II]、[III]、[IV]、[V]、[VI]で示される二価の電子吸引性有機残基が挙げられる。
【0024】
R
5、R
7、R
10、R
12、R
15は、水素原子またはアルキル基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基である。また、R
6、R
9、R
11、R
14は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等のアルキレン基であり、好ましくは炭素数1以上3以下のアルキレン基である。
【0025】
R
8、R
13、R
16、R
17は、アルキル基、アラルキル基またはアリール基である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等の直鎖のアルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基等の側鎖を有するアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1以上14以下のアルキル基である。アラルキル基としては、ベンジル基、ヘネチル基、4−フェニルブチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数7以上14以下のアラルキル基である。アリール基としては、フェニル基、2−ナフチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数6以上14以下のアリール基である。
【0026】
X
−は対アニオンである。具体的には、ハロゲンアニオン、アルキル硫酸アニオン(例えば、メタンスルホン酸アニオン)、有機スルホン酸アニオン(例えばp−トルエンスルホン酸)、硫酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ヘキサフルオロケイ酸アニオン等が挙げられる。
【0027】
次に、一般式[I]で示される有機色素の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
本発明の有機色素の代表的な合成方法を説明する。例えば、化合物a)を出発原料として、以下の合成スキームにしたがって合成できる。化合物a)は、例えば特開2004−200068号公報などに記載の合成方法を参考にして合成することができる。
【0051】
上記合成スキームにおいて、R、R′は水素原子またはアルキル基を示す。Q
3、Q
4は電子吸引性有機残基を示す。Xは、置換反応によってX
−(ハロゲンアニオン、アルキル硫酸アニオン、有機スルホン酸アニオン等)を生じる基を示し、Yはハロゲン原子を示す。色素の合成及び単離後、化学的にアニオン交換処理することによって、X
−を硫酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ヘキサフルオロケイ酸アニオン等に変換することができる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0053】
(合成例1:有機色素D−9の合成)
化合物A、化合物B及び2−ブロモエチルアミン・臭化水素酸塩を用いて、上記合成スキームにしたがって、本発明の有機色素D−9を合成した。
図1は、有機色素D−9の吸収スペクトル(DMF(ジメチルホルムアミド)溶液)である。
図2は、有機色素D−9の
1H−NMRスペクトル(DMSO(ジメチルスルホキシド)−d
6溶液)である。有機色素D−9の吸収スペクトルの吸収極大値:λmax=541nm、463nm、397nm(DMF溶液)。
【0054】
【化28】
【0055】
(合成例2:有機色素D−14の合成)
化合物A、化合物C及び2−ブロモエチルアミン・臭化水素酸塩を用いて、合成スキームにしたがって、本発明の有機色素D−14を合成した。
図3は、有機色素D−14の吸収スペクトル(DMF溶液)であり、
図4は、有機色素D−14の
1H−NMRスペクトル(DMSO−d
6溶液)である。有機色素D−14の吸収スペクトルの吸収極大値:λmax=468nm(DMF溶液)。
【0056】
【化29】
【0057】
(合成例3:有機色素D−13の合成)
化合物D、化合物E及び2−ブロモエチルアミン・臭化水素酸塩を用いて、合成スキームにしたがって、本発明の有機色素D−13を合成した。
図5は、有機色素D−13の吸収スペクトル(DMF溶液)である。
図6は、有機色素D−13の
1H−NMRスペクトル(DMSO−d
6溶液)である。有機色素D−13の吸収スペクトルの吸収極大値:λmax=532nm、389nm(DMF溶液)。
【0058】
【化30】
【0059】
(合成例4:有機色素D−42の合成)
化合物F、化合物G及び2−ブロモエチルアミン・臭化水素酸塩を用いて、合成スキームにしたがって、本発明の有機色素D−42を合成した。
図7は、有機色素D−42の吸収スペクトル(DMF溶液)である。
図8は、有機色素D−42の
1H−NMRスペクトル(DMSO−d
6溶液)である。有機色素D−42の吸収スペクトルの吸収極大値:λmax=513nm、393nm(DMF溶液)。
【0060】
(評価)
有機色素20mgをTHF/クロロホルム=1g/1gの混合溶液に溶解した。バインダー樹脂としてポリエステル樹脂(商品名:エリーテル(登録商標)UE3300、ユニチカ製)の40質量%トルエン/MEK(メチルエチルケトン)溶液を0.3g加えて撹拌して均一な溶液とした。この溶液を透明PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上にワイヤーバーでコートし、ドライヤーで加熱乾燥して膜厚20ミクロンの有機色素膜を形成した。この有機色素膜を晴天下の日光に3時間暴露した後、日光に未暴露の有機色素膜と目視で比較し、有機色素の耐光性を下記判定基準で評価した。結果を表1に示す。なお、有機色素D−1〜D−42は、実施例となる本発明の有機色素であり、有機色素E−1〜E−3は、比較例となる本発明外の有機色素である。
【0061】
【化31】
【0062】
判定基準
○:有機色素の退色なし。
△:有機色素の退色あり。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなように、本発明の有機色素は、比較例の有機色素に比べて耐光性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の有機色素は、銀塩写真感光材料、感熱記録材料、光学用フィルター、CD−RやDVD−R等の光学記録媒体、光感光性樹脂用の増感剤、医療用蛍光性センサー、衣料用染色剤、太陽電池、光センサー、表示用インク等の用途において利用することができる。