(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両に搭載される電動モータとして、ブラシ付きの電動モータが多く使用されている。この種の電動モータは、円筒状のヨークの内周面に複数のマグネットを周方向に等間隔で配置し、これらマグネットの内側にアーマチュアが回転自在に支持されている。アーマチュアは、複数のティースが放射状に形成されたアーマチュアコアを有している。各ティース間には軸方向に長いスロットが複数形成され、所定間隔をあけたスロット間に巻線が例えば重ね巻き方式にて巻装されている。
【0003】
ここで、電動モータの出力を変更する手段として、巻線の線径を変更することが考えられる。例えば、出力違いの電動モータを3種類用意する場合、互いに線径の異なる巻線を3種類用意し、それぞれ得たい出力に応じて所望の線径の巻線を用いて各スロット間に巻装する。
【0004】
また、各スロットに収納される巻線の占有率(占積率)を高めるために、線径の異なる2種類の巻線を用いて各スロット間に巻装する技術が提案されている。すなわち、各スロットには、2種類の巻線が不規則に混在した状態になっている(例えば、特許文献1参照)。このように構成することで、電動モータのモータ効率を高めることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の特許文献1のように、2種類の巻線を用いて各スロット間に巻装することにより、2種類の巻線のうちの1種類のみを用いて各スロット間に巻装した場合と異なる出力の電動モータを得ることができる。すなわち、巻線の種類を2種類に減少しつつ、出力違いの電動モータを3種類用意することが可能になる。
ここで、上述の特許文献1にあっては、各スロットに2種類の巻線が不規則に混在した状態になっているので、巻線の巻装作業が煩わしいという課題がある。
【0007】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、互いに線径の異なる2種類の巻線を用いつつ、巻線の巻装作業を容易化できるアーマチュアおよび電動モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明に係るアーマチュアは、回転軸と、前記回転軸に取り付けられ、径方向に沿うように放射状に延びる
4個以上の偶数個に設定された複数のティース、およびこれらティース間に形成される
4個以上の偶数個に設定された複数のスロット
を有するアーマチュアコアと、所定の前記スロット間に巻装される巻線と、を備えたアーマチュアにおいて、前記巻線は、互いに線径の異なる第1巻線と第2巻線とにより構成され、
前記複数のスロットを周方向に1つ置きに存在する第1スロットグループと第2スロットグループの2つのグループに分け、LおよびMをそれぞれ自然数としたとき、前記第1巻線は、前記第1スロットグループと、該第1スロットグループから一方向に2L個の前記スロットを間に挟んで存在する前記スロットとの間に、それぞれ2M回ずつ巻回されおり、前記第2巻線は、前記第2スロットグループと、該第2スロットグループから前記一方向に2L個の前記スロットを間に挟んで存在する前記スロットとの間に、それぞれ2M回ずつ巻回されており、前記スロット間には、前記第1巻線が巻装された後、前記第2巻線が巻装されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るアーマチュア
は、前記第1巻線の線径
をXとし、前記第2巻線の線径
をYとし、前記Xおよび前記Yをそれぞれ実数とし、Nを自然数したとき、前記線径Xおよび前記線径Yは、それぞれX−Y=0.3Nを満たすように設定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る電動モータは、アーマチュアと、前記アーマチュアの周囲を取り囲むように設けられ、磁極を有するヨークと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、互いに線径の異なる第1巻線と第2巻線とが各スロット間に順番に巻装されるので、互いに線径の異なる2種類の巻線を用いつつ、巻線の巻装作業を容易化できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(電動モータ)
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、電動モータ1の一部を断面で示した側面図である。
同図に示すように、電動モータ1は、例えば、二輪用のスターターモータとして用いられるものであって、車体に固定されるフロントブラケット2(
図1における左側)と、フロントブラケット2に一端部が固定される円筒状のステータ3と、ステータ3の他端部を閉塞するリアブラケット4(
図1における右側)と、ステータ3内に配置され、フロントブラケット2、およびリアブラケット4に回転自在に支持されるアーマチュア5と、を備えている。
【0017】
アーマチュア5は、エンジンのシャフトに連結される回転軸10を有し、回転軸10にアーマチュアコア11と、コンミテータ12とが固着されている。アーマチュアコア11は、例えば鉄心片を積層して製造されるものであって、回転軸10を中心にして放射状に延びる複数(例えば、この実施形態では32個)のティース61を有している(
図3〜
図5参照)。各ティース61間には、軸方向に長い蟻溝状の複数(例えば、この実施形態では32個)のスロット62が複数形成されている(
図3〜
図5参照)。そして、周方向に所定間隔をあけたスロット62間に、巻線13が巻装されている。なお、巻線13の巻装方法の詳細については後述する。
【0018】
図2は、コンミテータ12の平面図である。
図1、
図2に示すように、コンミテータ12は、円板状に形成されたいわゆるディスク型コンミテータである。このコンミテータ12は、回転軸10に固着されている円板状のコンミテータ本体12aと、このコンミテータ本体12aのアーマチュアコア11とは反対側の面に配置された複数(例えば、この実施形態では32個)のセグメント14と、により構成されている。
【0019】
各セグメント14は、周方向に沿って、かつ回転軸10を中心に放射状となるように配置されている。各々セグメント14間には、これらセグメント14間の絶縁を確保するためのスリット14aが形成されている。また、各セグメント14の径方向外側端には、巻線13の一端が接続されるライザ14bが形成されている。
【0020】
図1に示すように、フロントブラケット2の径方向中央には、軸方向外側に向かって突出する筒部15が一体成形されている。この筒部15の内周面には、回転軸10の一端部を回転自在に支持するベアリング16が圧入固定されている。回転軸10は、ベアリング16、筒部15内を介して軸方向外側に突出している。
また、筒部15の内周面には、ベアリング16よりも軸方向外側に、オイルシール17が設けられている。さらに、筒部15の外周面には、不図示のエンジンケースに電動モータ1を装着する際に使用するOリング18が取り付けられている。このように構成されたフロントブラケット2は、外周縁部がボルト19によってステータ3に締結固定されるようになっている。
【0021】
ステータ3は、筒部21aを有する略円筒状に形成されたヨーク21を備えている。ヨーク21の内周側には、界磁用の瓦状に形成されたマグネット22が周方向に沿って複数固着されている。マグネット22には、例えば、ネオジム系の希土類磁石などを用いることができる。
【0022】
また、ヨーク21の一端部には、リアブラケット4がボルト23によって締結固定されている。リアブラケット4は有底円筒形状に形成されており、底部4aの径方向中央にボス部25が突設されている。このボス部25には、アーマチュア5の回転軸10の他端を回転自在に支持するための軸受けとしてオイレスメタル26が圧入されている。
リアブラケット4、ヨーク21、およびフロントブラケット2は、導電性の材料、例えば、アルミのダイカストで製造されている。
【0023】
リアブラケット4の底部4aには、内側にブラシホルダ30が固定されている。ブラシホルダ30は略環状の樹脂成型品であり、径方向中央には、リアブラケット4のボス部25の外周面を覆うように形成されたホルダボス30aが突設されている。すなわち、リアブラケット4に突設されたボス部25とブラシホルダ30に突設されたホルダボス30aとによって、アーマチュア5の回転軸10の他端を回転自在に支持する軸受けボスが構成された状態になっている。
【0024】
また、リアブラケット4には、ホルダボス30aを囲むように4つのホルダ部31が一体に設けられている。ホルダ部31は軸方向に沿って延びており、その各々に導電性のブラシ32が1つずつ摺動自在に収容されている。ブラシ32は、ホルダ部31内に配置されたスプリング33によってコンミテータ12側に向けて付勢されている。そして、その先端が、コンミテータ12のセグメント14に摺接している。
【0025】
また、ブラシ32には、不図示のピグテールの一端が溶着などによって固定されている。ピグテールは、ホルダ部31の側部に形成された不図示のスリットから引き出される。4つのうちの2つのブラシ32(プラス側のブラシ)から延びるピグテールは、給電板35を介してターミナルボルト(給電端子)36に接続されている。一方、4つのうちの残りの2つのブラシ32(マイナス側のブラシ)から延びるピグテールは、不図示のアース端子に接続されている。
【0026】
ターミナルボルト36は、不図示の外部電源と給電板35とを電気的に接続するためのものである。ターミナルボルト36は、ボルト本体51と、ボルト本体51の基端に設けられ、ブラシホルダ30内に配置される頭部41と、から成る。
ボルト本体51は、ブラシホルダ30、およびリアブラケット4のそれぞれに形成された端子挿入孔42,43を介して内面側から外側へと突出している。ボルト本体51の先端側には、雄ネジ部52が刻設されており、ここにナット47が螺入されるようになっている。
【0027】
また、ブラシホルダ30、およびリアブラケット4のそれぞれに設けられた端子挿入孔42,43には、Oリング44が挿入されている。これによって、ターミナルボルト36のボルト本体51と端子挿入孔42,43との間がシールされる。
一方、リアブラケット4の軸方向外側では、ターミナルボルト36に、樹脂ブッシュ45と、ストッパワッシャ46を通した後でナット47が締め込まれている。そして、ターミナルボルト36とナット47とにより、ブラシホルダ30とリアブラケット4とを挟み込んでいる。また、リアブラケット4の外側には、ナット47を囲むように絶縁性のカバー48が取り付けられている。
【0028】
このような構成のもと、電動モータ1は、自動二輪車の車体、例えば、エンジンカバーなどに固定される。このとき、フロントブラケット2から延びる回転軸10には、クランクシャフトに取り付けられたワンウェイクラッチに連結される。そして、電動モータ1は、車体によってボディアースされる。
電動モータ1は、ターミナルボルト36に電圧を印加すると、ブラシ32に摺接するコンミテータ12から巻線13に電流が供給され、アーマチュア5が回転する。アーマチュア5の回転は、ワンウェイクラッチを介してクランクシャフトを回転させ、エンジンを始動させる。
【0029】
(巻線の巻線方法)
次に、
図3〜
図5に基づいて、アーマチュアコア11への巻線13の巻装方法について説明する。
図3〜
図5は、アーマチュア5の展開図であって、隣接するティース61間の空隙がスロット62に相当している。なお、本実施形態では、ティース61、スロット62、およびセグメント14の個数がそれぞれ32個に設定されているが、
図3〜
図5では、図面を分かり易くするために、ティース61、スロット62、およびセグメント14の一部を省いて図示している。
【0030】
ここで、
図3に示すように、巻線13は、互いに線径の異なる第1巻線13aと第2巻線13bとにより構成されている。第1巻線13aの線径は、第2巻線13bの線径よりも太く設定されている。具体的には、第1巻線13aの線径は、例えば、Φ1.7mmに設定されており、第2巻線13bの線径は、例えば、Φ1.4mmに設定されている。
そして、所定のスロット62間には、線径の太い第1巻線13aが巻装された後、線径の細い第2巻線13bが巻装されている。より具体的に、以下に説明する。
【0031】
まず、
図4に基づいて、第1巻線13aの巻装方法について説明する。
同図に示すように、第1巻線13aは、4つのスロット62を間に挟んで存在する2つのスロット62間に、それぞれ2回ずつ巻回される。そして、巻回された第1巻線13aの端末部は、それぞれ所定の2つのセグメント14に接続される。
【0032】
第1巻線13aを巻回した後、
図5に示すように、4つのスロット62を間に挟んで存在する2つのスロット62間に、それぞれ第2巻線13bを1回ずつ巻回する。このとき、第2巻線13bは、第1巻線13aが巻回されている2つのスロット62間と同じスロット62間には巻回されていない。すなわち、第1巻線13aが巻回されている2つのスロット62間から1つのスロット62分ずれた位置に存在する2つのスロット62間に、第2巻線13bが1回巻回されている。
【0033】
これにより、
図3に示すように、アーマチュアコア11には、第1巻線13aと第2巻線13bとが巻装される。
ここで、第1巻線13aと第2巻線13bの2つの巻線13a,13bが巻装されている電動モータ1の出力は、アーマチュアコア11に、第1巻線13aの線径と第2巻線13bの線径との間の線径の巻線が巻装されている電動モータ1の出力とほぼ同等になる。具体的には、4つのスロット62を間に挟んで存在する2つのスロット62間に、線径がΦ1.6mmの巻線を、それぞれ1.5回ずつ巻回した場合の電動モータ1の出力と同等になる。
【0034】
したがって、上述の実施形態によれば、アーマチュアコア11に、第1巻線13aと第2巻線13bとの線径の異なる2種類の巻線13a,13bを巻装して、これら巻線13a,13bの中間の線径の巻線の電動モータ1の出力を得る場合において、まず、第1巻線13aを巻装した後、第2巻線13bを巻装するので、巻線13の巻装作業を容易化できる。
【0035】
また、2種類の巻線13a,13bのうちの何れか一方のみをアーマチュアコア11に巻装することにより、異なる出力を得る2種類の電動モータ1を製造することができる。すなわち、2種類の巻線13a,13bを用いて以下の3種類の電動モータ1を製造することができる。
(1)アーマチュアコア11に第1巻線13aのみを用いて所望の出力を得る電動モータ1
(2)アーマチュアコア11に第2巻線13bのみを用いて所望の出力を得る電動モータ1
(3)アーマチュアコア11に第1巻線13aおよび第2巻線13bを用いて所望の出力を得る電動モータ1
このように、2種類の巻線13a,13bを用いて仕様の異なる3種類の電動モータ1を製造できるので、電動モータ1の製造コストを低減できる。
【0036】
さらに、2種類の巻線13a,13bのうち、線径の太い第1巻線13aを最初に巻装し、その後、線径の細い第2巻線13bを巻装するので、巻装作業をより容易化できる。これは、線径の太い第1巻線13aは、線径の細い第2巻線13bと比較して撓みにくいと共に、スロット62に挿入しにくいので、線径の太い第1巻線13aを最初に巻装することにより、この第1巻線13aの巻装作業性を向上できるからである。
【0037】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、電動モータ1は、二輪用のスターターモータとして用いられるものである場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、さまざまな電動機器に、電動モータ1を採用することができる。
【0038】
また、上述の実施形態では、ティース61、スロット62、およびセグメント14の個数がそれぞれ32個に設定されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ティース61、スロット62、およびセグメント14の個数は、それぞれ任意に設定することが可能である。
【0039】
さらに、上述の実施形態では、第1巻線13aの線径を、第2巻線13bの線径よりも太く設定した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、第1巻線13aの線径を、第2巻線13bの線径よりも細く設定してもよい。この場合、2種類の巻線13a,13bのうち、線径の太い第2巻線13bを、線径の細い第1巻線13aよりも後に巻装することになるが、2種類の巻線13a,13bを用いて仕様の異なる3種類の電動モータ1を製造できるという点では、上述の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0040】
また、上述の実施形態では、第1巻線13aの線径をΦ1.7mmに設定し、第2巻線13bの線径をΦ1.4mmに設定した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、各巻線13a,13bの線径は任意に設定することが可能であり、それぞれ異なる線径に設定されていればよい。
【0041】
さらに、上述の実施形態では、4つのスロット62を間に挟んで存在する2つのスロット62間に、それぞれ第1巻線13aを2回ずつ巻回すると共に、4つのスロット62を間に挟んで存在する2つのスロット62間に、それぞれ第2巻線13bを1回ずつ巻回する場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、電動モータ1の仕様に応じて、任意のスロット62間に各巻線13a,13bを巻回すればよい。また、各巻線13a,13bの巻回数も、電動モータ1の仕様に応じて任意に設定することが可能である。例えば、4つのスロット62を間に挟んで存在する2つのスロット62間に、それぞれ第1巻線13aを1回ずつ巻回すると共に、4つのスロット62を間に挟んで存在する2つのスロット62間に、それぞれ第2巻線13bを2回ずつ巻回してもよい。