特許第6239346号(P6239346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239346
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】パルススパッタ装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20171120BHJP
【FI】
   C23C14/34 T
   C23C14/34 M
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-232926(P2013-232926)
(22)【出願日】2013年11月11日
(65)【公開番号】特開2014-194069(P2014-194069A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-38798(P2013-38798)
(32)【優先日】2013年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305018856
【氏名又は名称】株式会社アヤボ
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(72)【発明者】
【氏名】塚本 恵三
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−261473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルススパッタ装置であって、
パルス放電を行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、
前記スパッタ源に対して不活性ガスを噴射し供給するガス噴射弁と、
前記スパッタ源及び前記ガス噴射弁を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記ガス噴射弁が間欠的に前記不活性ガスを噴射するように、かつ、前記スパッタ源においてパルス放電が発生する期間の一部が、前記ガス噴射弁により前記不活性ガスを噴射し供給する期間の一部と重なるように、前記スパッタ源及び前記ガス噴射弁を制御し、
前記制御手段は、パルス状の電気信号である噴射信号に応じて、前記ガス噴射弁に電力を供給することにより、前記ガス噴射弁を駆動して前記不活性ガスを噴射させ、
前記制御手段は、前記噴射信号を、複数のパルス信号群により構成し、
前記制御手段は、前記複数のパルス信号群を制御することにより、前記不活性ガスの噴射開始から噴射終了までの1つの噴射期間中における単位時間当たりの噴射量を、当該1つの噴射期間中に可変とする、ことを特徴とするパルススパッタ装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記一つの噴射期間の初期の所定期間における単位時間当たりの前記不活性ガスの噴射量を、当該一つの噴射期間の前記所定期間以降の期間における単位時間当たりの前記不活性ガスの噴射量よりも多くする、ことを特徴とする請求項に記載のパルススパッタ装置。
【請求項3】
パルススパッタ装置であって、
パルス放電を行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、
前記スパッタ源に対して不活性ガスを噴射し供給するガス噴射弁と、
前記スパッタ源及び前記ガス噴射弁を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、パルス状の電気信号である噴射信号に応じて、前記ガス噴射弁に電力を供給することにより、前記ガス噴射弁を駆動して前記不活性ガスを噴射させ、
前記制御手段は、前記噴射信号を、複数のパルス信号群により構成し、
前記制御手段は、前記複数のパルス信号群を制御することにより、前記不活性ガスの噴射開始から噴射終了までの1つの噴射期間中における単位時間当たりの噴射量を、当該1つの噴射期間中に可変とし、
前記制御手段は、前記一つの噴射期間の初期の所定期間における単位時間当たりの前記不活性ガスの噴射量を、当該一つの噴射期間の前記所定期間以降の期間における単位時間当たりの前記不活性ガスの噴射量よりも多くする、ことを特徴とするパルススパッタ装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記噴射信号を構成する前記パルス信号群における複数のパルス信号の電圧値、電流値又は周波数を可変とする、ことを特徴とする請求項のいずれか一項に記載のパルススパッタ装置。
【請求項5】
前記スパッタ源は、カソードとしてのターゲットを有し、
前記ガス噴射弁は、噴射した前記不活性ガスの少なくとも一部が、前記ターゲットのスパッタ面に垂直であって該スパッタ面に向かう方向の運動成分を有するように、該不活性ガスを噴射する、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のパルススパッタ装置。
【請求項6】
前記ガス噴射弁は、前記ターゲットに向けて前記不活性ガスを噴射する、ことを特徴とする請求項に記載のパルススパッタ装置。
【請求項7】
前記不活性ガスはアルゴンガスである、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のパルススパッタ装置。
【請求項8】
前記スパッタ源と前記ガス噴射弁とを収容する真空チャンバを有する、ことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のパルススパッタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルススパッタ装置およびパルススパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタ法(スパッタリング法)は物理的蒸着法の一種であり、真空容器中に不活性ガス(アルゴンガス等)を導入しながら高電圧を印加し、当該電圧の印加により発生したグロー放電中でイオン化した不活性ガス(プラズマ)を成膜材料としてのターゲットに衝突させ、その衝撃で弾き飛ばされたターゲット成分を、成膜対象としてのワーク上に堆積させて成膜を行う方法のことである。スパッタ法において、カソードを構成するターゲットに供給するスパッタ電力として、パルス状のスパッタ電力を用いる方法がパルススパッタである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−512458号公報
【特許文献2】特開2010−512459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルススパッタを行う場合、ターゲットを収容する真空容器中の不活性ガスの濃度は略一定に保たれる。そのため、不活性ガスを真空容器内に対して常時、所定の流量で供給するとともに、真空容器から不活性ガスを常時、所定の流量で排出する構成が用いられるのが通例であった。
【0005】
しかしながら、このように不活性ガスを連続的に供給し排出し続ける構成では、不活性ガスの使用量が多くなり、結果として不活性ガスの供給及び排出のための装置の大型化を招いていた。
更には、従来の構成では、真空容器内の不活性ガス濃度は容器内全体において略均一とされるのみであり、不活性ガスが実際にプラズマの発生に供される領域であるカソード表面、即ち、スパッタ面上において、不活性ガスの濃度を局所的に最適なものとすること、特に、高濃度化することが困難であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、パルススパッタ装置における不活性ガスの使用量を削減することにより、不活性ガスの供給・排出装置の小型化を図ることにある。また本発明の別の目的は、パルススパッタ装置において不活性ガスが実際にプラズマの発生に供される領域に対して、適切な量の不活性ガスを適切なタイミングで効率的に供給することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、次の各局面に想到した。
すなわち、本発明の一局面に係るパルススパッタ装置は、
パルス放電を行い、プラズマを発生させるスパッタ源と、
スパッタ源に対して不活性ガスを噴射し供給するガス噴射弁と、
スパッタ源及びガス噴射弁を制御する制御手段と、を備え、
制御手段は、ガス噴射弁が間欠的に不活性ガスを噴射するように、かつ、スパッタ源においてパルス放電が発生する期間の一部が、ガス噴射弁により不活性ガスを噴射し供給する期間の一部と重なるように、スパッタ源及びガス噴射弁を制御する、パルススパッタ装置である。
【0008】
上記構成によれば、ガス噴射弁を用いて不活性ガスを間欠的に噴射供給するため、不活性ガスを連続的に供給する場合に比べてその使用量を削減することができる。結果として、不活性ガスを供給・排出するための装置の小型化を図ることができる。更に上記局面によれば、制御手段は、スパッタ源においてパルス放電が発生する期間の一部が、ガス噴射弁により不活性ガスを噴射し供給する期間の一部と重なるように、スパッタ源及びガス噴射弁を制御する。このような構成により、不活性ガスの噴射による供給が間欠的なものであっても、不活性ガスに基づくプラズマの発生を確実なものとすることができる。
【0009】
本発明の別の局面によれば、制御手段は、パルス状の電気信号である噴射信号に応じて、ガス噴射弁に電力を供給することにより、ガス噴射弁を駆動して不活性ガスを噴射させ、
制御手段は、噴射信号を、複数のパルス信号群により構成し、
制御手段は、複数のパルス信号群を制御することにより、不活性ガスの噴射開始から噴射終了までの1つの噴射期間中における単位時間当たりの噴射量を、当該1つの噴射期間中に可変とする。
このような構成とすることで、例えば、制御手段は、一つの噴射期間の初期の所定期間における単位時間当たりの不活性ガスの噴射量を、当該一つの噴射期間の所定期間以降の期間における単位時間当たりの不活性ガスの噴射量よりも多くする、という構成とすることもできる。不活性ガスはスパッタのトリガとしての役割が重要であるため、この場合には、スパッタ効率を向上させることができるとともに、不活性ガスの更なる利用効率化を図ることができる。
【0010】
本発明の更に別の局面によれば、制御手段は、噴射信号を構成するパルス信号群における複数のパルス信号の電圧値、電流値又は周波数を可変とする。このような構成よっても、上記のような複数のパルス信号群の制御を実現できる。
【0011】
本発明の更に別の局面によれば、スパッタ源は、カソードとしてのターゲットを有し、
ガス噴射弁は、噴射した不活性ガスの少なくとも一部が、ターゲットのスパッタ面に垂直であって該スパッタ面に向かう方向の運動成分を有するように、該不活性ガスを噴射する。
このような構成によれば、不活性ガス供給の対象領域であるカソードのスパッタ面に対して不活性ガスが向かうように不活性ガスを噴射し供給することができる。こうして、不活性ガスが実際にプラズマの発生に供される領域に対して、不活性ガスを効率的に供給することができる。ひいては、当該領域に対して供給する不活性ガスの高濃度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)は、本発明の第1実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図であり、図1(B)は、パルススパッタ装置の制御システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態のガス噴射弁の配置方法を説明するための説明図である。
図3図3は、第1実施形態のパルススパッタ装置の制御方法を説明するための説明図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図である。
図5図5は、本発明の第3実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図である。
図6図6は、本発明の第4実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図である。
図7図7は、本発明の第5実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図である。
図8図8は、本発明の第6実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図である。
図9図9は、本発明の第7実施形態によるパルススパッタ装置の制御方法を説明するための説明図である。
図10図10は、本発明の第8実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図である。
図11図11(A)は、本発明の第9実施形態によるパルススパッタ装置の概略を示す説明図であり、図11(B)は、該パルススパッタ装置のスパッタ源を示す斜視図である。
図12図12は、本発明の複数の変形例によるパルススパッタ装置の制御方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態によるパルススパッタ装置について説明する。図1(A)は第1実施形態のパルススパッタ装置10の構成を概略的に示す説明図であり、図1(B)は、パルススパッタ装置10の制御システム(制御手段)の構成を概略的に示すブロック図である。本実施形態のパルススパッタ装置10はパルススパッタにより、ワークに対してスパッタリングデポジションを行うために用いることができる。
【0014】
パルススパッタ装置10は、チャンバ11、スパッタ源13(図1に示す例では、マグネトロンスパッタ源)、スパッタ源用パルス電源18、排気装置19、制御装置20、ガス噴射弁22、ガス供給パイプ23、ガス噴射弁用パルス電源24を備えている。チャンバ11内は、ターボ分子ポンプ等からなる排気装置19により所定の真空度(例えば10−2〜10−4Pa)まで排気される。ガス噴射弁22はチャンバ11内に設置され、ガス噴射弁用パルス電源24からパルス状に電力が供給されることにより、チャンバ11内にてアルゴンガスを間欠的に噴射供給できるように構成されている。符号21により示される高圧ガス供給装置は、ガス供給パイプ23を介してガス噴射弁22に不活性ガスとしてのアルゴンガスを供給するためのものであり、アルゴンガスを貯蔵するアルゴンガスタンク211および圧力調整器212等からなる。
【0015】
スパッタ源13はターゲット12、アノード14、磁石ユニット15から構成され、ターゲット12はカソードとしてスパッタ源用パルス電源18に接続される。スパッタ源13はチャンバ11内に設置される。チャンバ11内が真空とされ、ガス噴射弁22からアルゴンガスが供給され、スパッタ源用パルス電源18からパルス状の電力が供給される(ターゲット12とアノード14の間に高電圧のパルスが印加される)ことにより、ターゲット12及びアノード14間にグロー放電が生じる。また、磁石ユニット15によりターゲット12の表面付近に磁場を印加することで、本実施形態のパルススパッタ装置10はマグネトロンスパッタを行い、さらに強いグロー放電を生成することが可能である。ただし、本発明の実施においてマグネトロンスパッタは必須の要素ではなく、磁石ユニット15を備えないものとすることも可能である。
【0016】
本実施形態においては、ガス噴射弁22の噴射側端部である先端部がターゲット12に向けられている。そして、ガス噴射弁22から噴射されたアルゴンガスは、ガス噴射弁22先端の噴射孔から離れるに従い幅広になるような略円錐状に噴射される。これにより、ガス噴射弁22は、アルゴンガスをターゲット12に向かって噴射し、かつ、ターゲット12の広い範囲に対してアルゴンガスを略均一に噴射することができるようになっている。アルゴンガスをこのように噴射することができるようにガス噴射弁22の噴射孔が構成されている限り、ガス噴射弁22の先端部をターゲット12の方向へ向けることは必須の要件ではない。
【0017】
アルゴンガスが、ガス噴射弁22からのガス流の断面において所定の分布をもって噴射される場合、ガス噴射弁22の噴射孔の中心と、当該分布の重心を通る直線が、ターゲット12と交わるようにすることが、上記したような噴射を行う上では好ましい。当該重心を通る直線が交わる位置は、ターゲット12の中心または重心とすることが好ましい。
ガス噴射弁22の噴射孔の数は1つでも良く、複数でも良い。ガス噴射弁22が複数の噴射孔を有する場合、各噴射孔から噴射されるアルゴンガスが、ガス流の断面において所定の分布をもって噴射される場合、各噴射孔の中心と、当該分布の重心を通る直線が、ターゲット12のスパッタ面の各エロージョン領域にそれぞれ重なるようにすることが好適である。なお、エロージョン領域とは、磁石ユニット15により印加される磁場の影響により、ターゲット12のスパッタ面上において、特にエロージョンが促進される領域のことである。
【0018】
ガス噴射弁22としては、例えば、自動車用燃料噴射弁(例えば、ディーゼルエンジン用インジェクタ)を用いることができる。弁の駆動方式による分類においては、電磁バルブや、ピエゾバルブでも良く、下記に述べる駆動を実行可能であればどのような方式の噴射弁でも用いることができる。
【0019】
スパッタリングデポジションを行う際には、その対象となるワークをチャンバ11内の所定の位置に配置し、ターゲット12と対向させる。この場合、ガス噴射弁22を配置する位置は、図2(A)において斜線で示す領域Aの外とすることが好ましい。すなわち、ターゲット12を正面から(図2(A)の左方向から)見た場合に、アノード14によって覆い隠されていないターゲット12のスパッタ面の全体から、スパッタ面と垂直な方向に延びる領域が領域Aである。図2(B)のように、ターゲット12を正面から見た場合に、ターゲット12のスパッタ面の全体がアノード14と重なっていない場合には、ターゲット12のスパッタ面の全体からスパッタ面と垂直に延びる領域が領域Aとなる。
【0020】
このような図2(A)や図2(B)に示す領域A内部においては、スパッタによってターゲット12から弾き飛ばされる金属粒子や金属イオンの濃度が特に高いと考えられる。よって、この領域A内にガス噴射弁22が配置されていると、ガス噴射弁22の噴射孔に対する金属の堆積が促進され、噴射孔が早期に閉塞する虞がある。よって、ガス噴射弁22は、このような領域Aを除いて配置することが好ましい。
【0021】
次に、パルススパッタ装置10の制御システムおよび制御方法について説明する。
パルススパッタ装置10の制御システムは、図1(B)に示すように、制御装置20、スパッタ源用パルス電源18、及び、ガス噴射弁用パルス電源24により構成される。制御装置20は、パルスジェネレータ201、及び、遅延発生器202を有する。スパッタ源用パルス電源18は、スパッタ信号発生器181、及び、スパッタ源用電源本体182を有する。ガス噴射弁用パルス電源24は、噴射信号発生器241、及び、ガス噴射弁用電源本体242を有する。
例えばスパッタリングデポジションを行う際、パルスジェネレータ201はパルス状のクロック信号を発生し、遅延発生器202に送る。遅延発生器202は多チャンネルディレイ装置であり、クロック信号を基準とする第1のディレイを有する第1ディレイ信号と、第1のディレイとは異なる第2のディレイを有する第2ディレイ信号とを発生する。そして、第1ディレイ信号をスパッタ源用パルス電源18に送り、第2ディレイ信号をガス噴射弁用パルス電源24に送る。
【0022】
スパッタ源用パルス電源18のスパッタ信号発生器181は、第1ディレイ信号を受け取るとパルス状のスパッタ信号を生成し、スパッタ源用電源本体182に送る。スパッタ源用電源本体182は、スパッタ信号がオンの間、スパッタ源13にパルス状の高電圧(例えば、パルス電圧:約1kV、パルス幅:約10マイクロ秒〜1ミリ秒、デューティ比:50%以下)を印加する。
ガス噴射弁用パルス電源24の噴射信号発生器241は、第2ディレイ信号を受け取るとパルス状の噴射信号を生成し、ガス噴射弁用電源本体242に送る。ガス噴射弁用電源本体242は、噴射信号に応じて、ガス噴射弁22にパルス状の電力を供給する(例えば、噴射信号がオンの間、ガス噴射弁22に電圧を印加する)。
以上により、ガス噴射弁22から金属ターゲット12の近傍に対してアルゴンガスが供給され、スパッタ源13でパルス放電が生じることで、アルゴンガスに起因するプラズマがパルス状に形成される。次に金属ターゲット12からその形成材料である金属中性粒子及び金属イオン(一価及び多価のイオン)が、アルゴンイオン粒子により弾き出される。この金属中性粒子及び金属イオンがワーク上に堆積することにより、ワーク表面に所望の金属膜が形成される。
【0023】
次に、図3を参照して、制御装置20、スパッタ源用パルス電源18、及び、ガス噴射弁用パルス電源24からなる制御システムによるパルス放電制御及び不活性ガス供給制御について説明する。図3に示す例においては、時刻s1にスパッタ信号が発せられると、システム毎に異なる遅れ時間の経過後の時刻s3に、スパッタ源13においてパルス放電が発生する。なお、スパッタ信号のパルス幅(時刻s1〜s2)は、例えば約1.5ミリ秒であり、パルス放電の継続時間(時刻s3〜s4)は、例えば約1ミリ秒である。スパッタ信号の繰り返しの周波数は、例えば100Hzである。
【0024】
一方、時刻t1に噴射信号が発せられると、ガス噴射弁22のアクチュエータが駆動を開始する。こうして、時刻t1から遅れ時間が経過した時刻t3において、ガス噴射弁22のガス噴射孔からのアルゴンガスの噴射が開始される。
時刻t2において噴射信号がオフになると、遅れ時間の経過後の時刻t4において、アルゴンガスの噴射が終了する。アルゴンガスの噴射継続時間(時刻t3〜t4)は、例えば、約5ミリ秒である。
【0025】
この一連の動作において、遅延発生器202が第1、第2ディレイ信号によりスパッタ信号の送信開始時刻s1と噴射信号の送信開始時刻t1を適切に制御し、スパッタ信号発生器181がスパッタ信号の送信終了時刻s2(あるいはスパッタ信号の継続時間)を適切に制御し、噴射信号発生器241が噴射信号の送信終了時刻t2(あるいは噴射信号の継続時間)を適切に制御することにより、パルス放電が実際に生じる期間s3〜s4の全体が、アルゴンガスが実際に噴射される期間t3〜t4内に含まれるようにしている。
このようにすることで、アルゴンガスを連続的に供給する場合と比べてその供給量を大幅に低減しつつも、アルゴンガスが実際に利用される期間、即ち、パルス放電の発生する期間の直前から直後までの期間において、必要な量のアルゴンガスを確実に供給することができる。
【0026】
第1、第2ディレイ信号のディレイを適切に設定することにより、アルゴンガスの噴射が実際に開始される時刻t3からパルス放電が実際に開始される時刻s3までに所定の遅れ時間(例えば、約0.5〜2ミリ秒、より好ましくは、約1ミリ秒以上)を設定することが好ましい。これによって、スパッタリングに十分な量のアルゴンガスがターゲット12に対して供給されている状態でパルス放電を発生させることができる。
【0027】
また、実際のパルス放電が終了する時刻s4から実際のアルゴンガスの噴射が終了する時刻t4までには、所定の遅れ時間(例えば、約0.5〜2ミリ秒、より好ましくは、約1ミリ秒以上)を設定することが好ましい。これにより、スパッタリングの完了以降までアルゴンガスの噴射を継続することができる。こうして、ガス噴射弁22の噴射孔がスパッタ粒子(金属粒子)の堆積により閉塞されることを、ガス噴射弁22の噴射孔から噴出し続けるアルゴンガスの流れにより抑制することができる。
【0028】
なお、アルゴンガスの間欠的な供給により、アルゴンガスの供給及び排出のための装置の小型化を図るという十分な効果を得るためには、ガス噴射弁22のデューティ比(つまり、ガス噴射弁22が実際に噴射を行っている時間の割合)を50%以下とすることが好ましい。
【0029】
(第2実施形態)
図4に本発明の第2実施形態に係るパルススパッタ装置10の概要を示す。この実施形態においては、ガス噴射弁22はアノード14の外周側に設置され、ガス噴射弁22から噴射されるアルゴンガスは、アノード14を貫通する通路を通って、ターゲット12とアノード14との間から噴出する。このような構成としても、アルゴンガスは所定の角度をもって広がるように噴射されることから、噴射されたアルゴンガスの少なくとも一部がターゲット12に向かって供給される。そのため、第1実施形態と同様の制御(図3参照)を行うことにより、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0030】
(第3実施形態)
図5に本発明の第3実施形態に係るパルススパッタ装置10の概要を示す。この実施形態においては、ガス噴射弁22がアノード14の外周側に設置され、ガス噴射弁22から噴射されるアルゴンガスは、アノード14を貫通する通路を通って、ターゲット12側のアノード14の開口部の内周面の一部から、ターゲット12と略並行に噴出する。このような構成としても、アルゴンガスは所定の角度をもって広がるように噴射されることから、噴射されたアルゴンガスの少なくとも一部がターゲット12に向かって供給される。そのため、第1実施形態と同様の制御(図3参照)を行うことにより、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0031】
(第4〜6実施形態)
上記の第1〜3実施形態においては、ガス噴射弁22をチャンバ11の内部に配置した。これらに代えて、図6〜8に示すように、ガス噴射弁22をチャンバ11の外側に設置し、ガス噴射弁22からガス噴射パイプ25を介して、アルゴンガスをターゲット12に向けて噴射したり(図6:第4実施形態)、ターゲット12とアノード14の間から噴射したり(図7:第5実施形態)、あるいはターゲット12側のアノード14の開口部の内周面の一部から噴射したり(図8:第6実施形態)してもよい。これらの場合でも、図示はしないものの、アルゴンガスは、ガス噴射パイプ25の噴射孔から、徐々に幅広になるように噴出される。これによれば上記第1〜3実施形態の効果と同様の効果が奏される。ただし、ガス噴射パイプ25の長さによってアルゴンガス供給の応答性は低下する。
【0032】
(第7実施形態)
次に、図9を参照して、本発明の第7実施形態によるパルススパッタ装置10について説明する。本実施形態のガス噴射弁用パルス電源24は、噴射信号発生器241として、マイクロパルス発生器を用いる。また、本実施形態の制御システム(特に噴射信号発生器241)は、ガス噴射弁22の信号制御として、図3に示す制御に代えて、図9の制御を行う。本実施形態のパルススパッタ装置10の装置構成としては、第1〜第6実施形態のいずれのものでも採用することができる
本実施形態の噴射信号発生器241は上述の通りマイクロパルス発生器であり、噴射信号として、図9に示すように複数のマイクロパルス信号からなる信号群を発することができるように構成されている。各マイクロパルス信号のパルス幅は例えば約10マイクロ秒であり、これを複数、引き続いて発することにより、全体として約200マイクロ秒〜1ミリ秒の期間に及ぶ信号群として噴射信号を発信する。そしてガス噴射弁用電源本体242は、受け取った噴射信号に応じて、ガス噴射弁22に対して電力を供給する。
【0033】
このような構成によれば、各マイクロパルス信号を制御することにより、アルゴンガスの1つの噴射期間中に、アルゴンガスの単位時間当たりの噴射量(以下、アルゴンガス噴射率と呼ぶ)を可変とすることができる。図9の例においては、期間t1〜t2においてマイクロパルス信号の周波数を比較的高くし、期間t2〜t3のマイクロパルス信号の周波数を比較的低くしている。これにより、実際のアルゴンガス噴射率は、噴射初期の期間t4〜t5においては比較的大きな値となり、それ以降、噴射終了までの期間t5〜t6においては比較的小さな値となっている。これにより、噴射初期において比較的多量のアルゴンガスが噴射されることとなる。アルゴンガスはスパッタのトリガとしての役割が重要であるため、このような噴射態様が望ましい。なお、マイクロパルス信号の周波数を可変とすることに限らず、マイクロパルス信号の電圧値や電流値を可変としても良い。その場合、ガス噴射弁用電源本体242は、噴射信号の電圧値や電流値に応じて、ガス噴射弁22に供給する電力を可変とするものであることが好ましい。また、スパッタ信号発生器181についても、噴射信号発生器241と同様、マイクロパルス発生器により構成しても良い。
【0034】
(第8実施形態)
次に、図10を参照して、本発明の第8実施形態によるパルススパッタ装置10について説明する。
図示するように、本実施形態のパルススパッタ装置10は、アルゴンガスを供給するガス噴射弁22に加えて、窒素や酸素等の反応ガスを供給するための反応ガス噴射弁26を備えている。反応ガス噴射弁26は、ガス噴射弁22と同様にチャンバ11内に設置され、その設置態様も、第1実施形態におけるガス噴射弁22と同様である。そして、チャンバ11の外に設置された反応ガス供給装置27から、反応ガス供給パイプ28を通じて反応ガスの供給を受けるようになっている。反応ガス供給装置27は、反応ガスを貯蔵する反応ガスタンク(図略)および圧力調整器(図略)等からなる。
【0035】
本実施形態の制御システムは、上記各実施形態の制御システムの構成に加え、反応ガス噴射弁用パルス電源29を有している。制御装置20の遅延発生器202は、所定のディレイを有する第3ディレイ信号を反応ガス噴射弁用パルス電源29に送る。反応ガス噴射弁用パルス電源29は、受け取った第3ディレイ信号に基づき、反応ガス噴射弁26にパルス状の電力を供給する。これにより、反応ガス噴射弁26は、反応ガスを間欠的にチャンバ11内に噴射する。
この場合、ガス噴射弁22によるアルゴンガスの噴射開始の後に反応ガス噴射弁26による反応ガスの噴射が開始されるように、上述した各信号を制御することが好適である。なぜならば、反応ガスの反応相手である金属粒子は、アルゴンガスの噴射開始から所定の遅れの後にターゲット12から弾き出されるためである。
なお、反応ガス噴射弁26の設置態様は、第2実施形態や第3実施形態のガス噴射弁22と同様のものとしても良い。また、反応ガス噴射弁26をチャンバ11の外部に設置し、第4〜第6実施形態のガス噴射パイプ25と同様の反応ガス噴射パイプを設置しても良い。反応ガス噴射弁用パルス電源29は、第7実施形態の制御(図9参照)と同様の制御を行うものとしても良い。
【0036】
(第9実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第9実施形態によるパルススパッタ装置10について説明する。
図11(A)及び(B)に示すように、本実施形態のスパッタ源13は、アノード14の先端側、つまり、スパッタ側において、バッフル16が設けられている。バッフル16は、ターゲット12側のアノード14の開口の縁から立設され、先細になる筒状に形成されている。また、ガス噴射弁22からのアルゴンガスは、ターゲット12とアノード14の間から噴射され、噴射されたガス流がバッフル16に衝突するようになっている。このような構成とすることにより、ターゲット12とアノード14の間から噴射されたアルゴンガスが、バッフル16の内周面によって、ターゲット12のスパッタ面に向かって跳ね返される。そうすることで、ガス噴射弁22から噴射されたアルゴンガスが、ターゲット12のスパッタ面の近傍に高濃度で留まることとなり、ひいてはアルゴンガスの使用効率が向上する。
【0037】
なお、このようなバッフル16は、上記第2実施形態及び第3実施形態のようにガス噴射弁22を設置する場合、及び上記第5実施形態及び第6実施形態のようにガス噴射パイプ25を設置する場合に適用することが好ましい。
バッフル16の形状は、先細りになる円筒形状に限らず、内径が一定の円筒状としても一定の効果が得られる。また、バッフル16の内周面を凹曲面状とすることも好適である。
【0038】
なお、上記の各実施形態では、パルス放電期間が、不活性ガスの噴射期間中に含まれるようにしたが、これに限定されず、パルス放電期間の一部を不活性ガスの噴射期間の一部と重複させたり、パルス放電期間を、不活性ガスの噴射期間終了後の所定期間内に開始させるようにしたりすることによっても、不活性ガスの供給量を削減する効果は得ることができる。
【0039】
上記の各実施形態において、ワークへの金属の堆積を向上させるために、ワークに対して負の電位を印加しても良い。また、不活性ガスへ窒素や酸素等の反応ガスを混入することもできる。
上記の各実施形態においては、スパッタ信号発生器181を、スパッタ源用パルス電源18の構成部分として説明したが、これに限らず、独立の装置としてもよく、あるいは、制御装置20の構成部分としても良い。噴射信号発生器241についても同様である。
【0040】
上記の各実施形態では、遅延発生器202からスパッタ信号発生器181並びに噴射信号発生器241に対してそれぞれディレイ信号を送る構成としたが、これに限らない。例えば、噴射信号発生器241からスパッタ信号発生器181に対してディレイ信号を送る構成としても良い。第8実施形態の反応ガス噴射弁用パルス電源29についても、噴射信号発生器241からディレイ信号を受け取るようにしても良い。このように、制御システムの構成としては、図3または図9に例示した制御を行い得るいかなる構成を採用しても良い。
複数の実施形態の組み合わせについて、以上に明記したもの以外についても、実施可能である限り、行うことができる。
【0041】
(変形例)
上記の各実施形態に係るパルススパッタ装置10の制御方法は、図3に示したような、パルス放電が実際に生じる期間s3〜s4の全体が、アルゴンガスが実際に噴射される期間t3〜t4内に含まれるような制御に限られない。例えば、図12に示すように、スパッタ源13においてパルス放電が発生する期間s3〜s4の一部が、ガス噴射弁22によりアルゴンガスを噴射し供給する期間t3〜t4の一部と重なるように、スパッタ源13及びガス噴射弁22を制御するように構成することもできる。
図12(A)に示す変形例では、パルス放電が実際に生じる期間s3〜s4の開始時点s3と終了時点s4が、アルゴンガスが実際に噴射される期間t3〜t4の開始時点t3と終了時点t4よりもそれぞれ早く、かつ、期間s3〜s4の終了側の一部が、期間t3〜t4の開始側の一部と重なっている。このような構成によれば、アルゴンガスの噴射開始をプラズマ発生のトリガとしてプラズマを発生させることができる。
【0042】
図12(B)に示す変形例では、パルス放電が実際に生じる期間s3〜s4の開始時点s3と終了時点s4が、アルゴンガスが実際に噴射される期間t3〜t4の開始時点t3と終了時点t4よりもそれぞれ遅く、かつ、期間s3〜s4の開始側の一部が、期間t3〜t4の終了側の一部と重なっている。このような構成によれば、アルゴンガスの噴射が終了した後であっても、スパッタ面の近傍に残留するアルゴンガスによりスパッタリングが継続する一方で、スパッタされた金属原子およびイオンによる自己スパッタリングが発生することにより、スパッタリングを維持することができる。
【0043】
本発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
10 パルススパッタ装置
11 チャンバ
12 ターゲット
13 スパッタ源
14 アノード
15 磁石ユニット
16 バッフル
18 スパッタ源用パルス電源
19 排気装置
20 制御装置
21 高圧ガス供給装置
22 ガス噴射弁
23 ガス供給パイプ
24 ガス噴射弁用パルス電源
25 ガス噴射パイプ
26 反応ガス噴射弁
27 反応ガス供給装置
28 反応ガス供給パイプ
29 反応ガス噴射弁用パルス電源
181 スパッタ信号発生器
182 スパッタ源用電源本体
201 パルスジェネレータ
202 遅延発生器
211 アルゴンガスタンク
212 圧力調整器
241 噴射信号発生器
242 ガス噴射弁用電源本体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12