特許第6239350号(P6239350)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239350
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】プライマー用ラテックス
(51)【国際特許分類】
   C08F 246/00 20060101AFI20171120BHJP
   C04B 41/63 20060101ALI20171120BHJP
   C08F 2/24 20060101ALI20171120BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   C08F246/00
   C04B41/63
   C08F2/24 A
   C08F8/42
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-238146(P2013-238146)
(22)【出願日】2013年11月18日
(65)【公開番号】特開2015-98514(P2015-98514A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】グエンバー ツエツトガー
(72)【発明者】
【氏名】上山 靖之
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−113061(JP,A)
【文献】 特開2000−191975(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0004468(US,A1)
【文献】 特開2005−350580(JP,A)
【文献】 特開平06−256522(JP,A)
【文献】 特開平09−169818(JP,A)
【文献】 特開2006−070149(JP,A)
【文献】 特開2013−170244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08C 19/00 − 19/44
C08F 6/00 − 246/00
C08F 301/00
C08F 2/00 − 2/60
C04B 41/00 − 41/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体の総量100質量%において、
カルボキシル基含有重合性単量体(A)0.5〜10質量%と、
アルコキシシラン基含有重合性単量体(B)0.05〜5質量%と、
アミド基含有重合性単量体(C)0.05〜5質量%と、
前記(A)成分、前記(B)成分、及び前記(C)成分のいずれか1種以上と共重合可能な他の重合性単量体(D)と、
を少なくとも共重合させて得られる共重合体を含み、
前記(A)成分、(C)成分、及び(D)成分の組成から、下記式(i)に基づき計算されるガラス転移温度(Tg)が、−30〜−10℃である、プライマー用ラテックス。

1/(Tg+273)=Wa/Tga+Wc/Tgc+Wd/Tgd ・・・(i)
(但し、Wa+Wc+Wd=1)

Tg:ガラス転移温度(℃)
Tga:(a)成分のホモ重合体のTg(K)
Tgc:(c)成分のホモ重合体のTg(K)
Tgd:(d)成分のホモ重合体のTg(K)
a:(a)成分の質量比率
c:(c)成分の質量比率
d:(d)成分の質量比率
【請求項2】
重合性単量体の総量100質量%において、
カルボキシル基含有重合性単量体(A)0.5〜10質量%と、
アルコキシシラン基含有重合性単量体(B)0.05〜5質量%と、
アミド基含有重合性単量体(C)0.05〜5質量%と、
前記(A)成分、前記(B)成分、及び前記(C)成分のいずれか1種以上と共重合可能な他の重合性単量体(D)と、
を少なくとも共重合させて共重合体を得る工程を含み、
前記(A)成分、(C)成分、及び(D)成分の組成から、下記式(i)に基づき計算されるガラス転移温度(Tg)が、−30〜−10℃であり、
前記共重合は、界面活性剤の存在下で乳化重合させるものであり、
前記界面活性剤は、反応性界面活性剤である、プライマー用ラテックスの製造方法

1/(Tg+273)=Wa/Tga+Wc/Tgc+Wd/Tgd ・・・(i)
(但し、Wa+Wc+Wd=1)

Tg:ガラス転移温度(℃)
Tga:(a)成分のホモ重合体のTg(K)
Tgc:(c)成分のホモ重合体のTg(K)
Tgd:(d)成分のホモ重合体のTg(K)
a:(a)成分の質量比率
c:(c)成分の質量比率
d:(d)成分の質量比率
【請求項3】
前記共重合体が、下記式(1)で表される化合物によって変性されている、請求項に記載のプライマー用ラテックスの製造方法

(R1n−Si−(R2(4-n) (1)

(式中、nは0〜3の整数であり、R1は、水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、及び炭素数5〜6のシクロアルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。n個のR1は、同一であってもよいし、異なってもよい。R2は、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、及び水酸基からなる群より選ばれるいずれかを表す。(4−n)個のR2は、同一であってもよいし、異なってもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプライマー用ラテックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメント硬化物(例えば、コンクリート構造物やモルタル硬化物等)に、モルタル組成物を表面に付着させる際、密着性の向上や、表面のモルタル硬化物の浮きや割れの発生を防止するために、プライマーとして、水性分散体をセメント硬化物の表面等に塗布することが行われてきた。
【0003】
このような用途に使用される水性分散体としては、例えば、エチレン−酢ビニル系エマルジョン、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン等が挙げられる。これらの中でも、エマルジョンとしてスチレン−(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョン、(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョンが汎用されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、特定の単量体組成物から得られる水性分散体であって、その水性分散体のカルボキシル基の分布が一定範囲にあるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−220142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年のコンクリート構造物の長寿命化の要望に応えるために、上記したプライマーにおいてもより高いレベルの要望がなされるようになっている。例えば、セメント硬化物に対する密着性が一層優れていることや、既存のコンクリート構造物の補修や補強にプライマーを使用した場合に、下地コンクリートの劣化等による密着性不良が起こらないことや、上塗りモルタル組成物の浮きや割れが起こらないこと等が挙げられる。
【0007】
また、特許文献1の水性分散体は、耐水性が不十分であり、特に、水周りや温度差の激しい場所等に使用すると十分な密着性が得られないといった問題が顕著であり、そういった点でも近年要求される高度な物性要求に十分に応えることができていない。このように、セメント硬化物への密着性に優れ、かつ上塗りモルタル組成物の浮きや割れもなく、さらには、耐水性や耐久性に優れるプライマー用ラテックスの開発が望まれているのが現状である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、セメント硬化物への密着性に優れ、かつ上塗りモルタル組成物の浮きや割れもなく、さらには、耐水性や耐久性に優れるプライマー用ラテックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定量のカルボキシル基含有重合性単量体、アルコキシシラン基含有重合性単量体、アミド基含有重合性単量体、及びこれらのいずれか1種以上と共重合可能な他の重合性単量体とを少なくとも共重合させて得られる共重合体をプライマー用ラテックスに配合することに知見を得て、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
重合性単量体の総量100質量%において、
カルボキシル基含有重合性単量体(A)0.5〜10質量%と、
アルコキシシラン基含有重合性単量体(B)0.05〜5質量%と、
アミド基含有重合性単量体(C)0.05〜5質量%と、
前記(A)成分、前記(B)成分、及び前記(C)成分のいずれか1種以上と共重合可能な他の重合性単量体(D)と、
を少なくとも共重合させて得られる共重合体を含む、プライマー用ラテックス。
〔2〕
前記(A)成分、(C)成分、及び(D)成分の組成から、下記式(i)に基づき計算されるガラス転移温度(Tg)が、−30〜10℃である、〔1〕に記載のプライマー用ラテックス。

1/(Tg+273)=W/Tg+W/Tg+W/Tg ・・・(i)
(但し、W+W+W=1)

Tg:ガラス転移温度(℃)
Tg:(a)成分のホモ重合体のTg(K)
Tg:(c)成分のホモ重合体のTg(K)
Tg:(d)成分のホモ重合体のTg(K)
:(a)成分の質量比率
:(c)成分の質量比率
:(d)成分の質量比率
〔3〕
前記共重合は、界面活性剤の存在下で乳化重合させるものであり、
前記界面活性剤は、反応性界面活性剤である、〔1〕又は〔2〕に記載のプライマー用ラテックス。
〔4〕
前記共重合体が、下記式(1)で表される化合物によって変性されている、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のプライマー用ラテックス。

(R−Si−(R(4−n) (1)

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは、水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、及び炭素数5〜6のシクロアルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。n個のRは、同一であってもよいし、異なってもよい。Rは、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、及び水酸基からなる群より選ばれるいずれかを表す。(4−n)個のRは、同一であってもよいし、異なってもよい。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメント硬化物への密着性に優れ、かつ上塗りモルタル組成物の浮きや割れもなく、さらには、耐水性や耐久性に優れるプライマー用ラテックスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
本実施形態は、重合性単量体の総量100質量%において、カルボキシル基含有重合性単量体(A)0.5〜10質量%と、アルコキシシラン基含有重合性単量体(B)0.05〜5質量%と、アミド基含有重合性単量体(C)0.05〜5質量%と、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分のいずれか1種以上と共重合可能な他の重合性単量体(D)と、を少なくとも共重合させて得られる共重合体を含む、プライマー用ラテックスである。
【0014】
カルボキシル基含有重合性単量体(A)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、接着性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。
【0015】
重合性単量体の総量100質量%における、(A)成分の割合は、0.5〜10質量%である。(A)成分の割合が0.5質量%未満であるとセメント硬化物に対する密着性が不十分となる。(A)成分の割合が10質量%を超えると、上塗りモルタル組成物の浮きや割れが生じやすくなってしまう。かかる観点から、重合性単量体の総量100質量%における(A)成分の割合は、好ましくは1〜5質量%であり、より好ましくは2〜4質量%である。
【0016】
アルコキシシラン基含有重合性単量体(B)としては、架橋性能を持つアルコキシシランであり、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、架橋性の観点から、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0017】
重合性単量体の総量100質量%における、(B)成分の割合は、0.05〜5質量%である。(B)成分の割合が0.05質量%未満であると、セメント硬化物に対する密着性が不十分となる。(B)成分の割合が5質量%を超えると、上塗りモルタル組成物に対する密着性が不十分となる。かかる観点から、重合性単量体の総量100質量%における(B)成分の割合は、好ましくは0.1〜2質量%であり、より好ましくは0.5〜2質量%である。
【0018】
アミド基含有重合性単量体(C)としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−メチレンビスアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、重合安定性の観点から、アクリルアミド、メタクリルアミドが好ましい。
【0019】
重合性単量体の総量100質量%における、(C)成分の割合は、0.05〜5質量%である。(C)成分の割合が0.1質量%未満であると重合安定性が不十分となる。(C)成分の割合が5質量%を超えると耐水性に劣る。かかる観点から、重合性単量体の総量100質量%における(C)成分の割合は、好ましくは、0.1〜2質量%であり、より好ましくは0.2〜1質量%である。
【0020】
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分のいずれか1種以上と共重合可能な他の重合性単量体(D)としては、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の少なくとも1種の単量体と共重合可能であれば特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシル基含有重合性単量体を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸エステルを含むことがより好ましい。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、例えば、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。
【0023】
ヒドロキシル基含有重合性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0024】
共重合可能な重合性単量体(D)としては、(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシル基含有重合性単量体以外の重合性単量体を用いることもできる。例えば、スチレン、ビニルトルエン等の芳香族単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、パーチサック酸ビニル等のビニルエステル類、(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、ブタジエン等を用いることができる。さらには、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸グリシジル、N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、ジビニルベンゼン、メチルビニルケトン、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等の種々の官能性単量体も用いることができる。
【0025】
(D)成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
重合性単量体の総量100質量%における(D)成分の割合は、80〜99.5質量%であることが好ましい。
【0027】
本実施形態の共重合体を構成する単量体組成から計算されるガラス転移温度(Tg)は、−30〜10℃であることが好ましい。Tgが−30℃以上であると成膜性が良く、施工された膜の表面に作業を施しても過度なべた付きや剥がれがない。10℃以下であるとクラック発生や成膜不良を効率よく防止できる。かかる観点から、Tgは−20〜10℃であることがより好ましい。
【0028】
上記Tgは、(A)成分、(C)成分、(D)成分のホモ重合体のTg及び各成分の質量分率から、下記式(i)に基づいて導出できる。

1/(Tg+273)=W/Tg+W/Tg+W/Tg ・・・(i)
(但し、W+W+W=1)

Tg:ガラス転移温度(℃)
Tg:(a)成分のホモ重合体のTg(K)
Tg:(c)成分のホモ重合体のTg(K)
Tg:(d)成分のホモ重合体のTg(K)
:(a)成分の質量比率
:(c)成分の質量比率
:(d)成分の質量比率
【0029】
計算に使用する単量体のホモ重合体のTg(K)としては、例えば、ポリマーハンドブック(John Willey & Sons,1989年)に記載されている値を用いることができる。参考として、以下にいくつかのホモ重合体のTgを例示する。カッコ内の値がホモ重合体のTgである。
ポリスチレン(373K)、ポリメタクリル酸メチル(378K)、ポリアクリル酸ブチル(219K)、ポリアクリル酸2−エチルヘキシル(205K)、ポリアクリル酸(379K)、ポリメタクリル酸(403K)、ポリアクリロニトリル(373K)、ポリアクリルアミド(426K)、ポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(328K)。
なお、(B)アルコキシシラン基含有重合性単量体のホモ重合体のTgは、式(i)の計算には考慮されない。
【0030】
共重合体から当該Tgの値を計算により求める手法としては、例えば、熱分解ガスクロマトグラフィーや質量分析熱分解ガスクロマトグラフィーにより共重合体中の単量体単位の成分組成を分析し、その結果に基づき上記式(i)からTgを求めることができる。
【0031】
本実施形態のプライマー用ラテックスは、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を少なくとも共重合させることで得ることできる。特に、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分を乳化重合させることが好ましい。本実施形態のプライマー用ラテックスの製造方法としては、通常の乳化重合法が採用できる。その好適な代表例としては、水中にて乳化剤及び重合開始剤等の存在下で、pHが4以下の状態で重合性単量体を、通常60〜90℃の加温下で乳化重合する。この工程を1回(1段回)又は複数段回繰り返し行う方法等が挙げられる。
【0032】
乳化重合の手法としては、ラジカル乳化重合させる手法等が採用できる。ラジカル乳化重合は、界面活性剤存在下で行うことが好ましい。界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等が挙げられる。
【0033】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性アニオン性界面活性剤等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルや、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又は前述の骨格と重合性の不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、アルキルアミン塩や、第四級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;(変性)ポリビニルアルコール等が挙げられる。両性界面活性剤の具体例としては、例えば、ラウリルアミドプロピル酢酸ベタイン、ラウリルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。高分子界面活性剤の具体例としては、例えば、特殊非イオン高分子界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
上記した界面活性剤の中でも、耐水性の向上の観点から、反応性界面活性剤が好ましい。反応性界面活性剤としては、例えば、エーテルサルフェート型アンモニウム塩、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム等が挙げられる。これらの中でも、耐水性の観点から、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸アンモニウム等が好ましい。
【0035】
本実施形態のプライマー用ラテックスを乳化重合する際の重合方法は、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体と水と乳化剤とを予め混合乳化しておき、これらを滴下するプレエマルション法、あるいは、これらを組み合わせる方法等が挙げられる。なお、これらの手法において、重合開始剤の使用方法は特に限定されない。
【0036】
また、Si含有化合物の使用方法としては、加水分解性シランの縮合反応と不飽和単量体のラジカル重合を同時に、及び/又は、加水分解性シランの縮合反応を先行させた後に、不飽和単量体のラジカル重合を進行させる乳化重合方法や;不飽和単量体のラジカル重合を進行させた後に、加水分解性シランの縮合反応を進行させる方法等が挙げられる。
【0037】
本実施形態のプライマー用ラテックスを乳化重合する際に使用する重合開始剤としては、特に限定されず、一般に用いられるラジカル開始剤を使用することもできる。ラジカル重合開始剤としては、熱又は還元性物質等によってラジカルを生成して重合性単量体の付加重合を起こさせるものが挙げられる。例えば、水溶性又は油溶性である、過硫酸塩、過酸化物、及びアゾビス化合物等が挙げられ、これらの中でも水溶性のものが好ましい。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。なお、重合速度の促進や低温反応を望む場合には、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホオキシレート塩等の還元剤を、ラジカル重合開始剤と組み合わせて用いることができる。
【0038】
乳化重合では、必要に応じて、分子量調整剤を使用することもできる。分子量調整剤の具体例としては、例えば、ドデシルメルカプタン、ブチルメルカプタン等が挙げられる。分子量調整剤の使用方法は、特に限定されないが、その使用量は、単量体総量に対して2質量%以下であることが好ましい。
【0039】
プライマー用ラテックスの長期の分散安定性を一層高いレベルで維持させる観点から、本実施形態のプライマー用ラテックスは、塩基性物質(例えば、アンモニア、ジメチルアミノエタノール等のアミン類をはじめとする塩基性有機化合物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩をはじめとする塩基性無機化合物等)を用いて、プライマー用ラテックスのpHを5〜10の範囲に制御することが好ましい。
【0040】
本実施形態のSi含有化合物を用いた乳化重合において、乳化重合終了後、成膜時の硬化用触媒(例えば、ジブチルすずジラウレート、ジオクチルすずジラウレート、ジブチルすずジアセテート、オクチル酸すず、ラウリン酸すず、オクチル酸鉄、オクチル酸鉛、テトラブチルチタネート等の有機酸の金属塩;n−ヘキシルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン等のアミン化合物等)を更に添加することもできる。なお、これらの硬化用触媒が水溶性でない場合には、その使用に際して、乳化剤と水を用いてエマルジョン化しておくことが好ましい。
【0041】
本実施形態のプライマー用ラテックスに含まれる共重合体は、Si含有化合物によって変性されていることが好ましい。さらには、下記式(1)で表される化合物によって変性されていることが無機物との密着性の観点からより好ましい。

(R−Si−(R(4−n) (1)

(式中、nは0〜3の整数であり、Rは、水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、及び炭素数5〜6のシクロアルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。n個のRは、同一であってもよいし、異なってもよい。Rは、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、及び水酸基からなる群より選ばれるいずれかを表す。(4−n)個のRは、同一であってもよいし、異なってもよい。)
【0042】
Si含有化合物としては、式(1)においてn=0としたシラン化合物(I)、及び/又は、n=1としたシラン化合物(II)の少なくとも1種を含んでいることが好ましい。さらに、プライマー用ラテックスの重合安定性も優れたものにするためには、シラン化合物(II)を少なくとも含むことがより好ましい。
【0043】
シラン化合物(I)の全てのRは、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、又は水酸基であることが好ましい。シラン化合物(I)の好ましい具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
シラン化合物(II)のRは、メチル基、又はフェニル基であることが好ましい。Rは、それぞれ独立して、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、又は水酸基であることが好ましい。
【0045】
シラン化合物(II)の好ましい具体例としては、例えば、メチルトリメトシキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0046】
また、柔軟性が一層必要とされる場合には、Si含有化合物として、環状シラン化合物、及び式(1)においてn=2としたシラン化合物(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種を更に用いることが好ましい。シラン化合物(II)と、環状シラン化合物及びシラン化合物(III)からなる群より選ばれる少なくとも1種とを用いることより、Si含有化合物が形成するシリコーン重合体の架橋密度を低くし、重合体の構造が複雑になることを防ぐことができ、これによって、ラテックスから提供される塗膜に柔軟性を付与することができるためであり、シラン化合物(II)と併用した場合に特に好ましい。
【0047】
環状シランの具体例としては、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0048】
シラン化合物(III)において、式(1)のRとしては、メチル基、フェニル基が特に好ましく、式(1)のRとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、水酸基が特に好ましい。
【0049】
シラン化合物(III)の具体例としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0050】
さらに、Si含有化合物として、加水分解基を有する線状シロキサン、アルコキシシランオリゴマー、及び式(1)においてn=3としたシラン化合物(IV)からなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含んでもよい。
【0051】
加水分解基を有する線状シロキサンとしては、例えば、下記式(2)、式(3)、式(4)で表される化合物等が挙げられる。
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、炭素数4〜10のアクリル酸アルキル基、及び炭素数5〜10のメタクリル酸アルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基、水酸基、エポキシ基、アルキレンオキサイド基、及びポリアルキレンオキサイド基からなる群より選ばれるいずれかを表し、mは1〜999の整数を表す。)
【0052】
アルコキシシランオリゴマーとしては、例えば、メチル系シリコーンアルコキシオリゴマー、メチルフェニル系シリコーンアルコキシオリゴマー等が挙げられる。
【0053】
シラン化合物(IV)の具体例としては、例えば、トリフェニルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
シラン化合物(IV)において、Rとしては、メチル基、フェニル基が好ましい。Rとしては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、メトキシエトキシ基、水酸基が好ましい。
【0055】
Si含有化合物は、上記したシラン化合物に加え、クロロシラン(例えば、メチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルクロロシラン等)も併用することができる。
【0056】
このようなSi含有化合物を用いてシリコーン変性された共重合体を用いることによって、本実施形態のプライマー用ラテックスから作製した塗膜について、屋外等での長期曝露時の光沢保持性を一層向上させることができる。上記したシリコーン変性等の確認は、29Si−NMR(29Si核磁気共鳴スペクトル)、H−NMR(プロトン核磁気共鳴スペクトル)等によって行うことができる。例えば、シラン化合物(II)に由来する縮合物は、29Si−NMR測定等によって構造同定することができる。
【0057】
本実施形態のプライマー用ラテックスには、プライマーに通常添加配合されうる成分(例えば、増粘剤、成膜助剤、凍結防止剤、消泡剤、染料、防腐剤等)を任意に配合することができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
増粘剤の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(部分鹸化ポリ酢酸ビニル等を含む)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の高分子分散安定剤等、その他ポリエーテル系増粘剤、ポリカルボン酸系増粘剤等が挙げられる。
【0059】
造膜助剤の具体例としては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ブタンジオールイソブチレート、グルタル酸ジイソプロピル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、アジピン酸ジイソブチル等が挙げられる。
【0060】
凍結防止剤の具体例としては、例えば、プロピレングリコール、エチレングルコール等が挙げられる。
【0061】
本実施形態のプライマー用ラテックスは、共重合体の平均粒子径として、30〜500nmであることが好ましく、50〜300nmであることがより好ましく、700〜200nmであることが更に好ましい。ここでいう平均粒子径は、実施例に記載の測定方法に準じて求めることができる。
【0062】
本実施形態のプライマー用ラテックスの固形分率は、30〜65質量%であることが好ましく、30〜55質量%であることがより好ましく、30〜50質量%であることが更に好ましい。ここでいう固形分率は、実施例に記載の測定方法に準じて求めることができる。
【実施例】
【0063】
次に、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものでない。なお、特に断りがない限り、本実施例中の「部」及び「%」等は、質量基準に基づくものである。
【0064】
[試験方法]
<ガラス転移温度(Tg)>
得られたプライマー用ラテックスの設定Tg(K:絶対温度)は、重合体を構成する各単量体のホモ重合体の各Tgと、各単量体の共重合比率(共重合体中の質量比率)から、下記式(i)に基づき計算した。

1/(Tg+273)=W/Tg+W/Tg+W/Tg ・・・(i)
(但し、W+W+W=1)

Tg:ガラス転移温度(℃)
Tg:(a)成分のホモ重合体のTg(K)
Tg:(c)成分のホモ重合体のTg(K)
Tg:(d)成分のホモ重合体のTg(K)
:(a)成分の質量比率
:(c)成分の質量比率
:(d)成分の質量比率
【0065】
なお、本実施例で使用したスチレン(St)、メチルメタクリレート(MMA)、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)、メタアクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)、アクリルアミド(AAm)の各ホモ重合体のTg(K)は、以下のとおりである。
St:373K、MMA:378K、2−EHA:205K、MAA:403K、AA:379K、AAm:426K
【0066】
<重合安定性>
乳化重合後に得られたプライマー用ラテックスを100メッシュの濾布で凝固物を濾過し、その残渣質量をプライマー用ラテックスの質量で割り、残渣率(質量基準)とした。残渣率は、以下の基準に基づき評価した。
○:残渣率が100ppm未満であった。
△:残渣率が100ppm以上、1000ppm未満であった。
×:残渣率が1000ppm以上であった。
【0067】
<平均粒子径>
レーザー回折式の粒度分布計(リーズ・アンド・ノースラップ社製、マイクロトラック粒度分布計「UPA150」)にて、プライマー用ラテックスの体積平均粒子径を測定し、これをプライマー用ラテックスの平均粒子径とした。
【0068】
<プライマー用ラテックスの固形分率>
アルミ皿にプライマー用ラテックス1gを正確に秤量し、恒温乾燥機で105℃にて3時間乾燥させ、シリカゲルを入れたデシケーター中で30分間放冷した後に精秤した。乾燥後質量を乾燥前質量で除した割合を固形分率(%)とした。
【0069】
<プライマー用ラテックスの接着性試験>
(試験体の調製)
JIS A5371−2000(プレキャスト無筋コンクリート製品)に規定する舗装用平板に、4倍希釈のプライマー用ラテックス(プライマー用ラテックス:水=1:3、体積比)を200g/mの比率となるよう塗布した。塗布した舗装用平板を、20℃×65%RHの条件下で一晩静置した。
次いで、セメント/川砂/水/メチルセルロース=100/200/26/0.175(体積比)のセメントモルタルを作製し、塗装用平板に15mm厚となるよう塗りつけた。これを、20℃×65%RHの条件下で14日間養生して、塗装用平板にセメントモルタル硬化物が接着された測定試料を得た。得られた測定試料の常態接着、耐水接着、及び耐温冷接着を以下の方法によって評価した。
(イ)常態接着:20℃×65%RHの条件で4週間養生した後、40×40mmにカッターで試験体に切り込みを入れた後、治具を設置して、建研式引っ張り試験機でセメントモルタル硬化物との接着強さを測定した。
(ロ)耐水接着:20℃×65%RHの条件下で2週間養生した後、40×40mmにカッターで試験体に切り込みを入れた後、治具を設置して、さらに20℃の水中に2週間浸漬し、湿潤状態のままでセメントモルタル硬化物との接着強さを測定した。
(ハ)耐温冷接着:20℃×65%RHの条件下で2週間養生した後に、さらに10サイクル温冷繰り返し試験を行った。その後、20℃×65%RHの条件下に1日静置し、40×40mmにカッターで試験体に切り込みを入れた後、治具を設置して、セメントモルタル硬化物との接着強さを測定した。
なお、接着強度は、JIS A1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」の7.9「接着耐久性試験」に準拠して測定した。
温冷繰り返し試験1サイクル:20℃水中に18時間→−20℃気中に3時間→50℃気中に3時間。
【0070】
<実施例1>
攪拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に、水500質量部と、「エマールD−3−D」(ポリオキシエチレンアルキル(C10〜16)エーテル硫酸ナトリウム、有効成分26質量%:花王社製)7.7質量部を投入し、反応容器中の温度を80℃に上げた。そして、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの10%水溶液5質量部を添加した後、5分後に、メチルメタクリレート(MMA)396質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)577質量部、メタアクリル酸(MAA)20質量部、アクリルアミド(AAm)2質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5質量部、「エマールD−3−D」46.2質量部、「エマルゲンEm120」(ポリオキシエチレン(12)ラウリルエーテル:花王社製)の20%水溶液100質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム10%水溶液20質量部、及び水457.6質量部からなる乳化混合液を、240分かけて滴下槽から反応容器に投入した。その間、反応系のpHは4以下に維持した。乳化混合液の投入終了後、反応容器の温度を80℃に保ったまま、更に60分間攪拌を続けた。攪拌後、室温まで冷却した。冷却後、100メッシュの金網で反応物をろ過して、凝集物等を除去した。25%のアンモニア水を用いてろ液のpHを8に調整した後、消泡剤(特殊非イオン型配合物、商品名「アデカネートB−1045」、ADEKA社製)0.2質量部を添加し、更に30分間攪拌した。最後に、固形分が46質量%となるよう水を添加し、プライマー用ラテックスを得た。
なお、一例として、実施例1で得られたプライマー用ラテックスのTgに関して、式(i)からの計算結果を示す。

1/(Tg+273)=Wd1/Tgd1+Wd2/Tgd2+W/Tg+W/Tg ・・・(i)
(但し、d:MMA、d:2−EHA、a:MAA、c:AAm)

d1=396/(396+577+20+2)=0.398
d2=577/(396+577+20+2)=0.580
=20/(396+577+20+2)=0.020
=2/(396+577+20+2)=0.002
Tgd1=378(K)
Tgd2=205(K)
Tg=403(K)
Tg=426(K)

1/Tg=0.398/378+0.580/205+0.020/403+0.002/426
よって、Tg=−19℃
【0071】
<実施例2>
攪拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に水500質量部、「エマールD−3−D」を7.7質量部投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの10%水溶液5質量部を添加した後、5分後に、メチルメタクリレート(MMA)396質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)577質量部、メタアクリル酸(MAA)20質量部、アクリルアミド(AAm)2質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5質量部、「アクアロンKH1025」(アンモニウム−α−スルホナト−ω−1−(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン、有効成分25質量%;第一工業製薬社製)48質量部、「エマルゲンEm120」の20%水溶液20質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム10%水溶液20質量部、及び水455.8質量部からなる乳化混合液を、240分間かけて滴下槽から反応容器に投入した。その間、反応系のpHは4以下に維持した。乳化混合液の投入終了後、反応容器の温度は80℃に保ったまま、更に60分間攪拌を続けた。攪拌後、室温まで冷却した。冷却後、100メッシュの金網で反応物をろ過して、凝集物等を除去した。25%のアンモニア水を用いてろ液のpHを8に調整した後、消泡剤(「アデカネートB−1045」)0.2質量部を添加し、更に30分間攪拌した。最後に、固形分が46質量%となるよう水を添加し、プライマー用ラテックスを得た。
【0072】
<実施例3>
攪拌機、還流冷却器、滴下槽、及び温度計を取り付けた反応容器に水500質量部、「エマールD−3−D」を7.7質量部投入し、反応容器中の温度を80℃に上げてから、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの10%水溶液5質量部を添加した後、5分後に、メチルメタクリレート(MMA)396質量部、2−エチルヘキシルアクリレート(2−EHA)577質量部、メタアクリル酸(MAA)20質量部、アクリルアミド(AAm)2質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン5質量部、メチルトリメトキシシラン10質量部、ジメチルジメトキシシラン10質量部、「アクアロンKH1025」(アンモニウム−α−スルホナト−ω−1−(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン、有効成分25質量%;第一工業製薬社製)48質量部、「エマルゲンEm120」の20%水溶液20質量部、ペルオキソ二硫酸アンモニウム10%水溶液20質量部、及び水455.8質量部からなる乳化混合液を、240分間かけて滴下槽から反応容器に投入した。その間、反応系のpHは4以下に維持した。乳化混合液の投入終了後、反応容器の温度は80℃に保ったまま、更に60分間攪拌を続けた。攪拌後、室温まで冷却した。冷却後、100メッシュの金網で反応物をろ過して、凝集物等を除去した。25%のアンモニア水を用いてろ液のpHを8に調整した後、消泡剤(「アデカネートB−1045」)0.2質量部を添加し、更に30分間攪拌した。最後に、固形分が46質量%となるよう水を添加し、プライマー用ラテックスを得た。
【0073】
<実施例4〜7、比較例3、5
表1に記載の条件とした以外は、実施例2と同様にしてプライマー用ラテックスを得た。表1に、得られたプライマー用ラテックスの物性及び評価結果等を示す。なお、表中の「St」はスチレンを、「MMA」はメチルメタクリレートを、「2−EHA」は2−エチルヘキシルアクリレートを、「MAA」はメタアクリル酸を、「AA」はアクリル酸を、「AAm」はアクリルアミドを、それぞれ示す。
【0074】
比較例4
表1に記載の条件とした以外は、実施例3と同様にしてプライマー用ラテックスを得た。表1に、得られたプライマー用ラテックスの物性及び評価結果等を示す。
【0075】
<比較例1、2>
表1に記載の条件とした以外は、実施例1と同様にしてプライマー用ラテックスを得た。表1に、得られたプライマー用ラテックスの物性及び評価結果等を示す。
【0076】
【表1】
各成分の組成:質量%
【0077】
以上より、本実施例のプライマー用ラテックスは、セメント硬化物への密着性に優れ、かつ上塗りモルタル組成物の浮きや割れもなく、さらには、耐水性や耐久性に優れることが、少なくとも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明のプライマー用ラテックスは、セメント硬化物の表面に塗布して使用されるプライマー用途に好適に利用することができる。