(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、一実施形態に係る車両挙動制御装置Aは、車両CRの各車輪Wに付与する制動力を適宜制御する装置である。車両挙動制御装置Aは、油路や各種部品が設けられる液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部100とを主に備えている。
【0016】
各車輪Wには、それぞれ車輪ブレーキFL,RR,RL,FRが備えられ、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRには、液圧源としてのマスタシリンダMCから供給される液圧により制動力を発生するホイールシリンダHが備えられている。マスタシリンダMCとホイールシリンダHとは、それぞれ液圧ユニット10に接続されている。そして、ブレーキペダルBPの踏力(運転者の制動操作)に応じてマスタシリンダMCで発生したブレーキ液圧が、制御部100および液圧ユニット10で制御された上でホイールシリンダHに供給される。
【0017】
制御部100には、マスタシリンダMCの圧力を検出する圧力センサ91と、各車輪Wの車輪速度を検出する車輪速センサ92と、ステアリングSTの操舵角θを検出する操舵角センサ93と、車両CRの実際のヨーレートである実ヨーレートYを検出するヨーレートセンサ94が接続されている。そして、この制御部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力回路を備えており、各センサ91〜94からの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種演算処理を行うことによって、制御を実行する。なお、制御部100の詳細は、後述することとする。
【0018】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダルBPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダMCと、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路(液圧路)を有する基体であるポンプボディ10a、油路上に複数配置された入口弁1、出口弁2等から構成されている。マスタシリンダMCの二つの出力ポートM1,M2は、ポンプボディ10aの入口ポート121に接続され、ポンプボディ10aの出口ポート122が、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに接続されている。そして、通常時はポンプボディ10a内の入口ポート121から出口ポート122までが連通した油路となっていることで、ブレーキペダルBPの踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。
【0019】
ここで、出力ポートM1から始まる油路は、前輪左側の車輪ブレーキFLと後輪右側の車輪ブレーキRRに通じており、出力ポートM2から始まる油路は、前輪右側の車輪ブレーキFRと後輪左側の車輪ブレーキRLに通じている。なお、以下では、出力ポートM1から始まる油路を「第一系統」と称し、出力ポートM2から始まる油路を「第二系統」と称する。
【0020】
液圧ユニット10には、その第一系統に各車輪ブレーキFL,RRに対応して二つの制御弁手段VLが設けられており、同様に、その第二系統に各車輪ブレーキRL,FRに対応して二つの制御弁手段VLが設けられている。また、この液圧ユニット10には、第一系統および第二系統のそれぞれに、リザーバ3、ポンプ4、オリフィス5a、調圧弁(レギュレータ)R、吸入弁7が設けられている。また、液圧ユニット10には、第一系統のポンプ4と第二系統のポンプ4とを駆動するための共通のモータ9が設けられている。
【0021】
なお、以下では、マスタシリンダMCの出力ポートM1,M2から各調圧弁Rに至る油路を「出力液圧路A1」と称し、第一系統の調圧弁Rから車輪ブレーキFL,RRに至る油路および第二系統の調圧弁Rから車輪ブレーキRL,FRに至る油路をそれぞれ「車輪液圧路B」と称する。また、出力液圧路A1からポンプ4に至る油路を「吸入液圧路C」と称し、ポンプ4から車輪液圧路Bに至る油路を「吐出液圧路D」と称し、さらに、車輪液圧路Bから吸入液圧路Cに至る油路を「開放路E」と称する。
【0022】
制御弁手段VLは、マスタシリンダMCまたはポンプ4側から車輪ブレーキFL,RR,RL,FR側(詳細には、ホイールシリンダH側)への液圧の行き来を制御する弁であり、ホイールシリンダ圧(ホイールシリンダH内の圧力)を増加、保持または低下させることができる。そのため、制御弁手段VLは、入口弁1、出口弁2、チェック弁1aを備えて構成されている。
【0023】
入口弁1は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRとマスタシリンダMCとの間、すなわち車輪液圧路Bに設けられた常開型の電磁弁である。入口弁1は、通常時に開いていることで、マスタシリンダMCから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRへブレーキ液圧が伝達するのを許容している。また、入口弁1は、制御部100により適宜閉塞されることで、ブレーキペダルBPから各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに伝達するブレーキ液圧を遮断する。
【0024】
出口弁2は、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRと各リザーバ3との間、すなわち車輪液圧路Bと開放路Eとの間に介設された常閉型の電磁弁である。出口弁2は、通常時に閉塞されているが、制御部100により適宜開放されることで、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RRに作用するブレーキ液圧を各リザーバ3に逃がす。
【0025】
チェック弁1aは、各入口弁1に並列に接続されている。このチェック弁1aは、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、ブレーキペダルBPからの入力が解除された場合に、入口弁1を閉じた状態にしたときにおいても、各車輪ブレーキFL,FR,RL,RR側からマスタシリンダMC側へのブレーキ液の流入を許容する。
【0026】
リザーバ3は、開放路Eに設けられており、各出口弁2が開放されることによって逃がされるブレーキ液圧を貯留する機能を有している。また、リザーバ3とポンプ4との間には、リザーバ3側からポンプ4側へのブレーキ液の流れのみを許容するチェック弁3aが介設されている。
【0027】
ポンプ4は、出力液圧路A1に通じる吸入液圧路Cと車輪液圧路Bに通じる吐出液圧路Dとの間に介設されており、リザーバ3で貯留されているブレーキ液を吸入して吐出液圧路Dに吐出する機能を有している。
【0028】
オリフィス5aは、ポンプ4から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動および後述する調圧弁Rが作動することにより発生する脈動を減衰させている。
【0029】
調圧弁Rは、通常時に出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容するとともに、ポンプ4が発生したブレーキ液圧によりホイールシリンダH側の圧力を増加するときには、この流れを遮断しつつ、吐出液圧路D、車輪液圧路Bおよび制御弁手段VL(ホイールシリンダH)側の圧力を設定値に調節する機能を有し、切換弁6およびチェック弁6aを備えて構成されている。
【0030】
切換弁6は、マスタシリンダMCに通じる出力液圧路A1と各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに通じる車輪液圧路Bとの間に介設された常開型のリニアソレノイド弁である。
【0031】
チェック弁6aは、各切換弁6に並列に接続されている。このチェック弁6aは、出力液圧路A1から車輪液圧路Bへのブレーキ液の流れを許容する一方向弁である。
【0032】
吸入弁7は、吸入液圧路Cに設けられた常閉型の電磁弁であり、吸入液圧路Cを開放する状態および遮断する状態を切り換えるものである。
【0033】
圧力センサ91は、出力液圧路A1のブレーキ液圧を検出するものであり、その検出結果は制御部100に入力される。
【0034】
次に、制御部100の詳細について説明する。
制御部100は、液圧ユニット10を制御して車両CRの旋回外輪に設定した目標制動力で制動力を与えることにより車両CRの挙動を安定化させる制御を実行する装置である。このため、制御部100は、
図3に示すように、操舵角取得手段110、車両速度算出手段120、操舵角速度算出手段130、規範ヨーレート算出手段140、限界ヨーレート設定手段150、挙動安定制御手段160、実ヨーレート取得手段170および記憶手段190を備えて構成されている。なお、圧力センサ91の出力は、本発明の車両挙動制御装置Aの特徴的構成にとって必要でないので、
図3においては省略している。また、以下の説明において、操舵角θ、操舵角速度ωなどの各変数は、左旋回時の値を正とし、右旋回時の値を負とする。
【0035】
操舵角取得手段110は、操舵角センサ93から、制御サイクルごとに操舵角θの情報を取得する手段である。操舵角θは、操舵角速度算出手段130および規範ヨーレート算出手段140に出力される。
【0036】
車両速度算出手段120は、車輪速センサ92から、制御サイクルごとに車輪速の情報(車輪速センサ92のパルス信号)を取得し、公知の手法で車輪速度および車両速度Vを算出する手段である。算出した車両速度Vは、規範ヨーレート算出手段140および限界ヨーレート設定手段150に出力される。
【0037】
操舵角速度算出手段130は、操舵角速度取得手段の一例であり、操舵角θから操舵角速度ωを算出する手段である。操舵角速度ωは、操舵角θを微分したり、前回の操舵角θ
n−1と今回の操舵角θ
nの差を算出することで得ることができる。算出した操舵角速度ωは、挙動安定制御手段160に出力される。なお、本明細書において、変数の後に付する添え字nは、変数が今回値であることを示し、n−1は、前回値であることを示す。
【0038】
規範ヨーレート算出手段140は、操舵角θと車両速度Vに基づいて、公知の手法により、運転者の意図するヨーレートとしての規範ヨーレートYSを算出する手段である。算出された規範ヨーレートYSは、挙動安定制御手段160に出力される。
【0039】
限界ヨーレート設定手段150は、車両速度Vに基づき、車両が安定して走行できる限界のヨーレートである限界ヨーレートYLを設定する手段である。限界ヨーレートYLは、車両速度Vが大きいほど小さい値に設定される。本実施形態において、限界ヨーレートYLは、第2制御終了閾値の一例である。なお、本実施形態においては、路面状態がドライ路面であると仮定して算出するが、制御部100が信頼できる推定路面摩擦係数を保持しているときには、その推定路面摩擦係数を用いて限界ヨーレートYLを算出してもよい。算出した限界ヨーレートYLは、挙動安定制御手段160に出力される。
【0040】
実ヨーレート取得手段170は、ヨーレートセンサ94から車両CRの実際のヨーレートである実ヨーレートYの情報を取得する手段である。取得した実ヨーレートYは、挙動安定制御手段160に出力される。
【0041】
挙動安定制御手段160は、車両CRの旋回外輪に、設定した目標制動力で制動力を与えることにより車両CRの挙動を安定させる挙動安定制御を実行する手段である。本実施形態においては、目標制動力に相当する値として、目標液圧PTを設定し、旋回外輪の車輪ブレーキFL,RR,RL,FRのホイールシリンダ圧が目標液圧PTとなるように液圧ユニット10を制御する。この制御のために、挙動安定制御手段160は、ピーク値記憶部161、制御終了閾値設定部162、制御介入閾値設定部163、制御介入判定部164、制御終了判定部165、目標制動力設定部の一例としての目標液圧設定部168および制御実行部169を有する。
【0042】
ピーク値記憶部161は、実ヨーレート取得手段170から入力された実ヨーレートYの変化を監視し、実ヨーレートYのピークを越えたときに、実ヨーレートYのピーク値Ypを記憶する手段である。なお、ピーク値Ypの検出の仕方は任意であり、例えば、前回の実ヨーレートY
n−1の絶対値より今回の実ヨーレートY
nの絶対値よりが小さい場合に前回の実ヨーレートY
n−1をピーク値Ypとして記憶することができる。もしくは、前回の実ヨーレートY
n−1と今回の実ヨーレートY
nのうち絶対値が大きい方をピーク値Ypとして記憶しても、ピーク値Ypを記憶することができる。ピーク値記憶部161は、ピーク値Ypを制御終了閾値設定部162に出力する。なお、ピーク値Ypは、初期値は、0とされており、また、ピーク値記憶部161は、挙動安定制御を終了するときにピーク値Ypを0にリセットする。
【0043】
制御終了閾値設定部162は、ピーク値Ypに応じてピーク値Ypよりも絶対値が小さい第1制御終了閾値Ythを設定する手段である。本実施形態においては、ピーク値Ypに1未満の所定の係数を乗じることで第1制御終了閾値Ythを設定する。例えば、
図4に示すように、ピーク値記憶部161が時刻t1において実ヨーレートYのピーク値Ypを記憶した後、制御終了閾値設定部162が、ピーク値Ypに1未満の所定の係数を乗じることで、第1制御終了閾値Ythを設定する。第1制御終了閾値Ythは、ピーク値Ypから所定の定数を引くことで(右旋回の場合には足すことで)設定することも可能である。設定された第1制御終了閾値Ythは、制御終了判定部165に出力される。
【0044】
なお、第1制御終了閾値Ythは、初期値が、通常では発生し得ないような大きなヨーレートの値とされており、また、制御終了閾値設定部162は、挙動安定制御を終了するときに第1制御終了閾値Ythをそのような初期値に設定する。
【0045】
制御介入閾値設定部163は、限界ヨーレートYLと、操舵角速度ωとに基づいて、制御介入閾値YSthを設定する手段である。具体的には、限界ヨーレートYLに、操舵角速度ωの絶対値に依存したオフセット量YDを加算(右旋回用について負側に加算)することで制御介入閾値YSthを算出する。このオフセット量YDは、
図5に示すように、操舵角速度ωの絶対値が0から所定値ω1までの間は、一定値YD1であり、所定値ω1から所定値ω2までの間は、操舵角速度ωの絶対値が大きくなるほど小さくなり、所定値ω2より大きい範囲では、YD1より小さな一定値YD2とされている。このため、制御介入閾値YSthの絶対値は、操舵角速度ωの絶対値が大きいほど、つまり、急操舵をしているほど小さく設定される。なお、
図11に示す各種ヨーレートの変化のグラフに示すように、制御介入閾値YSthは、右旋回用と左旋回用の2つの値を算出する。制御介入閾値設定部163は、算出した制御介入閾値YSthを、制御介入判定部164に出力する。
【0046】
制御介入判定部164は、ステアリングSTを急操舵したとき、ここでは、規範ヨーレートYSの絶対値が、制御介入閾値設定部163が設定した制御介入閾値YSthの絶対値を超えた場合に挙動安定制御を開始すると判定する手段である。なお、規範ヨーレートYSが正の場合には、左旋回用の制御介入閾値YSthと比較し、負の場合には、右旋回用の制御介入閾値YSthと比較する。
【0047】
制御介入判定部164は、挙動安定制御を開始することを判定すると、制御モードMを、非制御中(M=0)から制御中(M=1)に変更する。なお、制御介入閾値YSthは、操舵角速度ωに基づいて設定されているので、制御介入判定部164は、操舵角速度ωに基づいて挙動安定制御の開始を判定している。
【0048】
制御終了判定部165は、挙動安定制御の終了を判定する手段である。具体的には、規範ヨーレートYSの絶対値が限界ヨーレートYLの絶対値より小さくなった場合、または、実ヨーレートYの絶対値が第1制御終了閾値Ythの絶対値より小さくなった場合に挙動安定制御の終了を判定する。制御終了判定部165は、挙動安定制御の終了を判定すると、制御モードMを終了処理中(M=2)とする。
【0049】
目標液圧設定部168は、制御モードMが制御中であるか、終了処理中であるかに応じて目標液圧PTを設定する手段である。まず、制御中の場合について説明する。制御中において、目標液圧設定部168は、規範ヨーレートYSと、限界ヨーレートYLとに基づいて、目標液圧PTを設定する。
【0050】
具体的には、目標液圧設定部168は、規範ヨーレートYSと、限界ヨーレートYLの偏差ΔYに基づいて、この偏差ΔYが大きいほど目標液圧PTを大きい値に設定する。ここで、ΔYは、規範ヨーレートYSと限界ヨーレートYLの差の絶対値|YS−YL|が増加する場合には、そのまま|YS−YL|の値とし、減少する場合には、前回の値を保持するように計算する。すなわち、ΔYは、|YS−YL|がピークを迎えた後は、ピーク値を保持するように変化する。
図6は、この原則的な目標液圧PTを設定するためのマップであり、偏差ΔYが大きいほど、目標液圧PTが大きい値になるように決められている。詳細には、偏差ΔYが0から所定の値d1までは、目標液圧PTは徐々に大きくなり、偏差ΔYが所定の値d1以上では、目標液圧PTは、一定の上限値PTmとされている。
ここで、偏差ΔYは、車両CRの挙動の乱れを反映しているので偏差ΔYの大きさに応じて目標液圧PTを設定することで、予測される車両CRの挙動の乱れの大きさに応じた制動力を旋回外輪に与えることができるため、車両CRの挙動の乱れを軽減することができる。
【0051】
次に、終了処理中の場合の目標液圧PTの設定について説明する。終了処理中において、目標液圧設定部168は、前回の目標液圧PT
n−1に基づき、
図7のマップに基づいて今回の目標液圧PT
nを設定する。
図7のマップは、前回の目標液圧PT
n−1が大きいほど今回の目標液圧PT
nが大きいが、今回の目標液圧PT
nは、前回の目標液圧PT
n−1よりも少し小さい値になるように設定されている。このため、終了処理中においては、目標液圧PTが急激に0にはならず、漸減するようになっている。なお、前回の目標液圧PT
n−1が所定値より小さい場合には、今回の目標液圧PT
nは0となるように設定されている。今回の目標液圧PT
nが0となる場合には、目標液圧設定部168は、制御モードMを非制御中(M=0)に変更する。
【0052】
制御実行部169は、目標液圧設定部168が設定した目標液圧PTに基づいて、液圧ユニット10を制御して、旋回外輪のホイールシリンダ圧を目標液圧PTに制御する手段である。この制御は公知であるので詳細な説明は省略するが、簡単に説明すると、モータ9を作動させることでポンプ4を駆動し、吸入弁7を開けた上で、調圧弁Rに適宜な電流を流すように制御する。
【0053】
記憶手段190は、制御部100の動作に必要な定数、パラメータ、制御モード、マップ、計算結果などを適宜記憶する手段である。
【0054】
以上のように構成された車両挙動制御装置Aの制御部100による処理について
図8を参照して説明する。なお、
図8の処理は、制御サイクルごとに繰り返し行われる。また、制御モードMの初期値は0である。
まず、操舵角取得手段110は、操舵角センサ93から操舵角θを取得し、車両速度算出手段120は、車輪速センサ92から車輪速度を取得し、実ヨーレート取得手段170は、ヨーレートセンサ94から実ヨーレートYを取得する(S101)。そして、操舵角速度算出手段130は、操舵角θから操舵角速度ωを算出し、車両速度算出手段120は、車輪速度から車両速度Vを算出する(S102)。次に、規範ヨーレート算出手段140は、操舵角θと車両速度Vに基づいて規範ヨーレートYSを算出する(S110)。また、限界ヨーレート設定手段150は、車両速度Vに基づいて限界ヨーレートYLを設定する(S111)。
【0055】
次に、制御介入閾値設定部163は、限界ヨーレートYLと操舵角速度ωに基づいて、制御介入閾値YSthを設定する(S112)。このとき、前記したように、限界ヨーレートYLに、
図5に示したような、操舵角速度ωの絶対値が大きくなるほど小さくなるオフセット量YDを加算して制御介入閾値YSthを設定するので、制御介入閾値YSthは、操舵角速度ωの絶対値が大きいほどその大きさが小さくなる。
【0056】
次に、ピーク値記憶部161は、実ヨーレートYの絶対値がピークに達したか否か判定し、ピークに達したと判定した場合には(S115,Yes)、ピーク値Ypを記憶する(S116)。そして、ピーク値Ypに1未満の所定の係数を乗じて第1制御終了閾値Ythを設定する(S117)。一方、実ヨーレートYの絶対値がピークに達したと判定しない場合には(S115,No)、ピーク値Ypを記憶せずにステップS120に進む。
【0057】
そして、制御介入判定部164は、規範ヨーレートYSの絶対値が、右旋回用または左旋回用のうち対応する制御介入閾値YSthの絶対値より大きいか否か判定する。規範ヨーレートYSの絶対値が制御介入閾値YSthの絶対値より大きい場合(S120,Yes)、制御介入判定部164は、制御の開始を判定し、制御モードMを1にする(S121)。規範ヨーレートYSの絶対値が制御介入閾値YSthの絶対値より大きくない場合(S120,No)、制御介入判定部164は、制御モードMを変更することなくステップS130へ進む。
【0058】
そして、挙動安定制御手段160は、制御モードMが0か否か、つまり、非制御中か否か判定し、制御モードMが0でない場合(S130,No:M=1または2の場合)、ステップS200〜S300の処理を行い、制御モードMが0である場合(S130,Yes)、処理を終了する。
【0059】
ステップS200において、挙動安定制御手段160は、目標液圧PTを設定する。
図9に示すように、目標液圧設定部168は、制御モードMが1か否かを判定し、1でない場合、つまり、制御モードMが2で終了処理中の場合には(S210,No)、
図7のマップに基づき、前回の目標液圧PT
n−1に基づいて、今回の目標液圧PT
nを決定する(S220)。そして、今回の目標液圧PT
nが0である場合には(S221,Yes)、終了処理が完了したということなので制御モードMを0にする(S222)。一方、今回の目標液圧PT
nが0でない場合には(S221,No)、制御モードMを変更することなく処理を終了する。
【0060】
ステップS210の判定において、制御モードMが1である場合(S210,Yes)、目標液圧設定部168は、偏差ΔYに基づき、
図6のマップから目標液圧PTを設定する(S211)。
【0061】
このようにして目標液圧PTが設定されると、
図8に戻り、制御実行部169が、旋回外輪のホイールシリンダH内の液圧が目標液圧PTになるように、液圧ユニット10を制御する(S131)。
【0062】
次に、制御終了判定部165は、ステップS300で制御の終了判定を行う。具体的には、
図10に示すように、規範ヨーレートYSの絶対値が、左右の対応する限界ヨーレートYLの絶対値より小さいか否か判定し、小さい場合には(S310,Yes)、挙動安定制御を終了することを判定し、制御モードMを終了処理中である2に変更する(S320)。そして、ピーク値記憶部161は、ピーク値Ypをリセットし、制御終了閾値設定部162は、第1制御終了閾値Ythをリセットする(S321)。
【0063】
規範ヨーレートYSの絶対値が、左右の対応する限界ヨーレートYLの絶対値より小さくない場合であっても(S310,No)、制御終了判定部165は、実ヨーレートYの絶対値が、第1制御終了閾値Ythの絶対値より小さいか否か判定し、小さい場合には(S311,Yes)、挙動安定制御を終了することを判定し、制御モードMを終了処理中である2に変更する(S311)。
【0064】
一方、実ヨーレートYの絶対値が、第1制御終了閾値Ythの絶対値より小さくない場合には(S311,No)、制御モードMを変更することなく処理を終了する。
【0065】
以上のような制御による各種のパラメータの変化について
図11を参照しながら説明する。なお、
図11においては操舵角θを示していないが、操舵角θは、規範ヨーレートYSと略同じ位相で変化する。また、以下の説明において、各パラメータの値は大きさについて議論しており、「絶対値」は省略し、右旋回時も各パラメータについて正の値と同様に表現する。
【0066】
図11の規範ヨーレートYSの変化に示すように、車両CRは、時刻t11〜t15の間、左にステアリングSTを切り、時刻t15〜t18の間、右にステアリングSTを切っている。限界ヨーレートYLは、車両速度Vが大きい程小さい値となるので、時刻t11以後、車両速度Vが徐々に小さくなることで、限界ヨーレートYLは徐々に大きくなっている。ここで、時刻t11の後、操舵角速度ωが大きくなると、左旋回用の制御介入閾値YSthは急激に小さくなる。このため、右に切返し始める前である時刻t12において、規範ヨーレートYSが左旋回用の制御介入閾値YSthを超えて、制御モードMが0から1になる。そして、時刻t12〜t13にかけて、操舵角速度ωの減少に応じて制御介入閾値YSthは大きくなる。左向きの規範ヨーレートYSが減少し、時刻t14になると、規範ヨーレートYSが制御終了閾値としての限界ヨーレートYLより小さくなって制御モードMが2となる。そして、終了処理が終わると制御モードMが0となる。
【0067】
時刻t13の後、ステアリングSTを右に切返し始めると、操舵角速度ωが右側に大きくなることで、右旋回用の制御介入閾値YSthは減少し、時刻t16において、規範ヨーレートYSが右旋回用の制御介入閾値YSthを超えると、制御モードMが0から1になる。そして、右向きの規範ヨーレートYSが減少し、時刻t17になると、規範ヨーレートYSが限界ヨーレートYLより小さくなって制御モードMが2となる。そして、終了処理が終わると制御モードMが0となる。
【0068】
以上のような車両挙動制御装置Aの効果について
図12〜
図14を参照して説明する。
図12、
図13は、車両が直進状態から左旋回、右旋回、左旋回して直進に戻る場合の各パラメータの変化を示している。
図12は、従来技術における制御の開始判定を用いた場合である。この開始の判定は、特開2011−102048号公報と同様に、横加速度に基づいて上限設定された修正規範ヨーレートと実ヨーレートとの偏差が閾値を超えた場合に制御を開始すると判定している。そして、閾値については、操舵角速度に応じて変更されていない。
【0069】
従来技術においては、
図12(a)のように、左にステアリングを切ったことにより操舵角θがピークを迎えた後、つまり、右に切り返し始めた後である時刻t21に制御の開始が判定されている。そして、
図12(b)のように、ブレーキ液圧は、最初の操舵である左旋回中には十分に発生せず、2回目の操舵である右旋回中に初めて十分な大きさで発生している。そのため、
図12(a)に示すように、時刻t25において、実ヨーレートが減少しており、操舵角と実ヨーレートの乖離が大きくなってアンダーステア傾向となっている。そして、時刻t24において車両の挙動の乱れの状態を示すスリップ角β(車両の進行方向と操舵方向のずれ角)は、変動が大きく、車両の挙動が乱れている。
【0070】
一方、本実施形態の車両挙動制御装置Aにおいては、
図13(a)に示すように、操舵角θがピークを迎える前の時刻t31において、つまり、最初のステアリングSTの切り込み時において制御の開始が判定されている。そして、
図13(b)に示すように最初の操舵である左旋回中に十分に大きなブレーキ液圧が発生している。このため、車両の挙動の乱れが抑制され、
図13(a)に示すように、右に旋回中の時刻t35において、スリップ角βは小さく抑えられている。
【0071】
図14(a)〜(c)は、車両が直進状態から長い右旋回をした後直進に戻る場合の各パラメータの変化を示している。
図14(b)においては、実線で本実施形態の場合の実ヨーレートの変化を示し、破線で比較例の場合の実ヨーレートの変化を示している。また、
図14(c)においては、実線で本実施形態の場合のブレーキ液圧の変化を示し、破線で比較例の場合のブレーキ液圧の変化を示している。なお、ここでの比較例は、規範ヨーレートYSと限界ヨーレートYLの比較による(
図10のステップS310による)制御終了判定のみを行い、実ヨーレートYと第1制御終了閾値Ythの比較による(ステップS311による)制御終了判定を行わない場合である。
【0072】
図14(b)に示すように、右にステアリングを切った後、その右に切ったステアリング操作が長く続く場合、
図14(a)に示すように規範ヨーレートYSはその間小さくならないため、規範ヨーレートYSが限界ヨーレートYLを下回らない。そのため、比較例においては、
図14(c)に示すように、時刻t41〜t45までの間、旋回外輪に大きなブレーキ液圧が付与される。その結果、
図14(b)の破線に示すように、時刻t44において実ヨーレートが必要以上に減少し、操舵角θと実ヨーレートが大きく乖離したアンダーステア状態となる。そして、比較例においては、時刻t45で規範ヨーレートYSが限界ヨーレートYLを下回ると挙動安定制御の終了を判定し、その後、
図14(c)に示すようにブレーキ液圧が徐々に減少する。
【0073】
一方、本実施形態の場合、長い右旋回が続いて規範ヨーレートYSが大きいままであっても、
図14(b)に示すように、実ヨーレートYが時刻t42でピークに達した後、減少し始めると、実ヨーレートYが第1制御終了閾値Ythを下回った時刻t43で挙動安定制御の終了が判定される。そのため、時刻t43の後、ブレーキ液圧が減少することで、実ヨーレートYの減少が抑えられ、その結果、時刻t44においても、アンダーステアの傾向が抑制される。
【0074】
以上のように、本実施形態の車両挙動制御装置Aによれば、実ヨーレートYが、そのピークを過ぎた後に第1制御終了閾値Ythを下回った場合に挙動安定制御の終了を判定するので、長い旋回をしている場合であっても、アンダーステアの傾向が出始めることを検知して、旋回外輪に与える制動力を小さくすることができ、必要以上の制動力の付与によるアンダーステア状態の発生を抑制することができる。
【0075】
そして、制御終了判定部165が、規範ヨーレートYSと限界ヨーレートYLに基づいて挙動安定制御の終了を判定する構成、つまり、実ヨーレートYによらず、主に操舵の状態から挙動安定制御を終了する構成を有している場合には、アンダーステアが発生する懸念があるが、前記した実ヨーレートYに基づいた挙動安定制御の終了判定を併せて行うことでアンダーステア状態の発生を抑制することができる。
【0076】
また、本実施形態の車両挙動制御装置Aは、制御終了判定部165により挙動安定制御を終了すると判定した場合において、制動力を急に無くすのではなく漸減させていくことで、車両CRの姿勢の急変を防止して、自然な運転フィーリングを実現することができる。
【0077】
また、本実施形態の車両挙動制御装置Aは、実ヨーレートYに基づかずに、操舵角θ、操舵角速度ωおよび車両速度Vに基づいて挙動安定制御の開始を判定することができるので、ステアリングSTの操舵の結果が実際の車両CRの挙動に現れる前に挙動安定制御を開始すると判定することができる。そのため、早期に挙動安定制御を開始することができ、車両CRの挙動の乱れを抑制することができる。
【0078】
そして、車両挙動制御装置Aは、操舵角速度ωの絶対値が大きいほど制御介入閾値YSthが小さくなるので、直進状態からステアリングSTを切り込んだ初期の段階で挙動安定制御を開始することができる。
【0079】
また、車両挙動制御装置Aは、規範ヨーレートYSと限界ヨーレートYLとの偏差ΔYが大きいほど、目標液圧PTを大きくするので、予測される車両CRの挙動の乱れの大きさに応じた制動力を旋回外輪に与えることができるため、車両CRの挙動の乱れを軽減することができる。
【0080】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で実施できる。
【0081】
前記実施形態においては、目標制動力の一例として目標液圧を設定したが、目標制動力そのものを目標値として設定してもよい。
【0082】
前記実施形態においては、旋回外輪のうち、前輪と後輪を区別せずに目標液圧PTを設定していたが、前後輪の重量配分に応じて目標液圧PTの大きさを車輪ごとに調整してもよい。
【0083】
前記実施形態においては、車両挙動安定制御を実行する場合についてのみ説明したが、車両挙動制御装置Aにおいて、アンチロックブレーキ制御等を併せて行うように構成してもよい。
【0084】
前記実施形態においては、マスタシリンダMCの液圧がホイールシリンダHに伝わる構成のブレーキシステムにおいて本発明を適用したが、本発明の車両挙動制御装置は、電動モータによりブレーキ液を加圧してブレーキ力を発生する、いわゆるバイ・ワイヤ式のブレーキ装置に適用することもできる。