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特許6239383食品防腐剤としての抗微生物ペプチドを含む組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239383
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】食品防腐剤としての抗微生物ペプチドを含む組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/3526 20060101AFI20171120BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20171120BHJP
   A01N 65/20 20090101ALI20171120BHJP
   A01N 25/00 20060101ALI20171120BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   A23L3/3526ZNA
   A01P3/00
   A01N65/20
   A01N25/00 101
   A01N37/44
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-533202(P2013-533202)
(86)(22)【出願日】2011年10月12日
(65)【公表番号】特表2013-540442(P2013-540442A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2011067821
(87)【国際公開番号】WO2012049213
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2014年10月14日
(31)【優先権主張番号】1017283.1
(32)【優先日】2010年10月13日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】105331
(32)【優先日】2010年10月12日
(33)【優先権主張国】PT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513086452
【氏名又は名称】コンスモ エム ヴェルデ ビオテクノロジア ダス プランタス ソシエダット アノニマ
【氏名又は名称原語表記】CONSUMO EM VERDE − BIOTECNOLOGIA DAS PLANTAS, S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【弁理士】
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ マヌエラ ローレンソ カレイラ
(72)【発明者】
【氏名】サラ アレクサンドラ ヴァラダス ダ シルヴァ モンテイロ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド マニュエル デ セイシャス ボアヴィダ フェレイラ
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−505637(JP,A)
【文献】 特開平08−119995(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/010192(WO,A1)
【文献】 特開2002−095475(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/090438(WO,A1)
【文献】 アサマNEWSパートナー, (2000), [75], p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00−3/3598
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物による食品の腐敗を防止または抑制するための、SEQ ID NO:4に示されるBlad配列またはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物の使用であって、前記活性異変体は抗菌作用を持ち、SEQ ID NO:4と少なくとも90%の同一性を持つ配列を含む、組成物の使用であって、前記食品が植物食品であるときは、収穫された食品である、
使用。
【請求項2】
前記微生物が細菌または真菌である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記細菌がシュードモナスまたはバチルス属からの食品腐敗種である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記真菌が以下の属:アルテルナリア、アスペルギルス、フザリウム、ボトリチス、コレトトリカム、サッカロマイセス、クルイベロマイセスおよびチゴサッカロマイセスの1つからの食品腐敗種である、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記食品が果物、堅果、野菜、種子、糖、乳製品、液状もしくはペースト状食品、肉、魚またはパンから得られる、これらをもたらす、またはこれらそのものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記食品がイチゴである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記微生物がボトリチス・シネレアまたはコレトトリカム・アキュタタムである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記微生物がボトリチス・シネレアである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記組成物がキレート剤をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項10】
微生物による食品の腐敗の防止または抑制方法であって、それを必要とする食品に効果的な量の、請求項1または9に記載の組成物を投与するステップを含む、方法であって、前記食品が植物食品であるときは、収穫された食品である、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品を腐敗させる微生物を標的とする抗微生物剤の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
[序論]
食品保存は、内因性化学/酵素分解により引き起こされる、および/または微生物により引き起こされる、もしくは加速される、食品の腐敗を防止または抑制するための食品処理プロセスである。食品を保存するための多数の技術が存在するが、そのいくつかは内因性プロセスを抑制し(例えば抗酸化剤)、そのいくつかは微生物プロセスを抑制し(例えば抗微生物剤)、そのいくつかは両方のタイプのプロセスを抑制する(例えば冷凍)。食品の腐敗を抑制するのに用いられる化合物は一般的には防腐剤と称され、これは例えば抗酸化剤または抗微生物剤であってもよい。
【0003】
特定の食品保存技術としては、乾燥、加熱、冷蔵または冷凍、浸透抑制(例えばシロップまたは塩の使用)、真空包装、缶詰および瓶詰、ゼリー化、ポッティング、ジャギング、イオン化照射、パルス電界処理、高圧食品保存、および超高水圧食品保存、抗酸化剤の使用、ならびに/または抗微生物防腐剤(例えば二酸化硫黄、二酸化炭素、エタノール、酢酸、クエン酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸塩、硝酸塩および亜硝酸塩、亜硫酸塩、プロピオン酸カルシウムならびにメチルクロロイソチアゾリノン)の使用が挙げられる。
【0004】
比較的多数の食品保存技術が現在用いられているにもかかわらず、新しい抗微生物防腐剤を開発する必要性がある。これは、多くの既存の技術が微生物を効果的に標的とすることができないことならびに、とくに多くの既存の抗微生物防腐剤の効力および/または安全性の問題のためである。
【0005】
微生物の増殖に好ましくない条件を作り出そうとする多くの食品保存技術は、極限条件で生存する有機体に対しては非効果的である(例えばシュードモナス(Pseudomonas)種は非常に低温で増殖することができる;バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans)は耐熱性かつ耐酸性である;アスペルギルス(Aspergillus)の多くの種は貧栄養性を示す;チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)種は耐キセロ性を有する)。
【0006】
多くの既存の抗微生物防腐剤は、とくに自然または獲得耐性を有する微生物に対して、中程度の活性、および/または狭いスペクトルを有する。例えば、チゴサッカロマイセス種は、エタノール、酢酸、ソルビン酸、安息香酸および二酸化硫黄に高い耐性を有する。また、多数の既存の抗微生物防腐剤は、呼吸器の問題またはADDのような各種副作用に関連している。特定の例では、二酸化硫黄は喘息患者の気管支管には刺激性であり、亜硝酸塩は潜在的に発癌性であり、安息香酸塩は各種アレルギー、喘息、皮膚発疹および脳損傷に関連している。
【0007】
さらに、低pHまたは低水分活性のような、食品における微生物増殖の効果的な抑制技術は、消費者にとって許容できない(例えば酸味を与える)ものが多く、または健康への悪影響(例えば高い塩分または糖分)を有する。
【0008】
本発明の目的は、これらの問題の解決を試みることであり、とくに、例えば低い毒性を有しつつ、微生物に対して強力で広スペクトルな活性を有する新規抗微生物剤を提供することである。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、驚くべきことに、ルピナス(Lupinus、ハウチワマメ)からのBladポリペプチドが食品の腐敗を引き起こす多数の多様な細菌および真菌有機体に対して強力な抗微生物活性を示すことを見出した。本発明者らは、Bladポリペプチドが非毒性であり、従ってBladが抗微生物食品防腐剤として用いるのに優れた化合物となることも見出した。
【0010】
従って、本発明者らは、微生物による食品の腐敗を防止または抑制するための、Bladまたはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物の使用を提供する。好適には、前記微生物は細菌(好適にはシュードモナスまたはバチルス属からの食品腐敗種)または真菌(好適には以下の属:アルテルナリア(Alternaria)、アスペルギルス、フザリウム(Fusarium)、ボトリチス(Botrytis)、コレトトリカム(Colletotrichum)、サッカロマイセス(Saccharomyces)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)およびチゴサッカロマイセスの1つからの食品腐敗種)である。
【0011】
好適な実施形態では、食品は、果物、堅果、野菜、種子、糖、乳製品、液状もしくはペースト状食品、肉、魚またはパンから得られる、これらをもたらす、またはこれらそのものである。
【0012】
好適な実施形態では、食品はイチゴであり、好適にはこの場合微生物はボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)またはコレトトリカム・アキュタタム(Colletotrichum acutatum)、好適にはボトリチス・シネレアである。
【0013】
好適な実施形態では、前記組成物はキレート剤をさらに含む。
【0014】
本発明者らは、それを必要とする食品に効果的な量のBladまたはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物を投与するステップを含む、微生物による食品の腐敗の防止または抑制方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ルピナス・アルバス(Lupinus albus、シロバナハウチワマメ)β−コングルチン前駆体をエンコードする配列(SEQ ID NO:1)を示す。
図2】Bladに対応するβ−コングルチン前駆体をエンコードする配列の内部断片(SEQ ID NO:3)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
Blad
Blad(「banda de Lupinus albus doce」―スイートL.アルバスからのバンド)は、β−コングルチン、ルピナス属の種中に存在する主要な貯蔵タンパク質の、安定した中間分解生成物に与えられた名称である。173個のアミノ酸残基からなり、ルピナスからのβ−コングルチンの前駆体をエンコードする遺伝子(GenBankにおいてアクセッション番号AAS97865で公表される、1791個のヌクレオチド)の内部断片(GenBankにおいてアクセッション番号ABB13526で登録される、519個のヌクレオチド)によりエンコードされる20kDのポリペプチドとして特徴づけられる。Blad末端配列をエンコードするプライマーを用いてゲノムルピナスDNAからの配列を増幅する場合、〜620bpの生成物が得られ、Bladをエンコードする遺伝子断片中のイントロンの存在を示す。自然発生Bladは、発芽の開始後4〜12日の間、ルピナス種の子葉のみに(β−コングルチンの集中的かつ限定的なタンパク質分解の後)蓄積する、210kDのグリコオリゴマーの主成分である。前記オリゴマーはグリコシル化しているが、自然発生Bladはグルコシル化していない。Blad含有グリコオリゴマーは、いくつかのポリペプチドを含み、主なものは14、17、20、32、36、48および50kDの分子量を示す。20kDのポリペプチド、Bladは、オリゴマー中でもっとも豊富なポリペプチドであり、レクチン活性を有する唯一のものであると考えられる。自然発生Bladは8日齢の植物体中の総子葉タンパク質の約80%を占める。
【0017】
L.アルバスβ−コングルチン前駆体をエンコードする配列(SEQ ID NO:1)を図1に示す。β−コングルチン親サブユニットをコードする配列は残基70〜1668に位置する。エンコードされた、533個のアミノ酸残基のβ−コングルチン親サブユニット(SEQ ID NO:2)は:

である。
【0018】
Bladに対応するβ−コングルチン前駆体をエンコードする配列の内部断片(SEQ ID NO:3)を図2に示す。Bladポリペプチド(SEQ ID NO:4)は:

である。
【0019】
本発明は、Bladまたはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物に関する。従って、SEQ ID NO:4のポリペプチド配列またはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物に関する。代替実施形態では、組成物は本質的にBladもしくはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドからなる、および/または抗微生物ポリペプチドは本質的にBladもしくはその活性変異体からなる。さらなる実施形態では、Bladまたはその活性変異体を含む(または本質的にこれらからなる)抗微生物ポリペプチドは分離形態で用いることができる。
【0020】
Bladの活性変異体は、抗微生物剤として作用する能力を保持する(すなわち、抗微生物活性を有する―こうした活性のレベルおよびどのように測定するかの説明は以下参照)Bladの変異体である。「Bladの活性変異体」は、その範囲内に、SEQ ID NO:4の断片を含む。好適な実施形態では、SEQ ID NO:4の断片は、SEQ ID NO:4の長さの少なくとも10%、好適には少なくとも20%、好適には少なくとも30%、好適には少なくとも40%、好適には少なくとも50%、好適には少なくとも60%、好適には少なくとも70%、好適には少なくとも80%、好適には少なくとも90%、もっとも好適にはSEQ ID NO:4の長さの少なくとも95%であるものが選択される。Bladまたはその変異体は一般的には、少なくとも10個のアミノ酸残基、例えば少なくとも20、25、30、40、50、60、80、100、120、140、160または173個のアミノ酸残基の長さを有する。
【0021】
「Bladの活性変異体」は、その範囲内に、例えば全配列について、または少なくとも20個、好適には少なくとも30個、好適には少なくとも40個、好適には少なくとも50個、好適には少なくとも60個、好適には少なくとも80個、好適には少なくとも100個、好適には少なくとも120個、好適には少なくとも140個、もっとも好適には少なくとも160個以上の隣接するアミノ酸残基の領域について、SEQ ID NO:4との相同性、例えば少なくとも40%の同一性、好適には少なくとも60%、好適には少なくとも70%、好適には少なくとも80%、好適には少なくとも85%、好適には少なくとも90%、好適には少なくとも95%、好適には少なくとも97%、もっとも好適には少なくとも99%同一性を有するポリペプチド配列も含む。タンパク質相同性の測定方法は当技術分野において周知であり、当業者であれば、本文脈では相同性はアミノ酸同一性(「ハード相同性」と称されることもある)に基づいて計算されることを理解するだろう。
【0022】
相同活性Blad変異体は一般的には、置換、挿入または削除、例えば1、2、3、4、5〜8個以上の置換、挿入または削除によりSEQ ID NO:4のポリペプチド配列とは異なる。置換は好適には「保守的」である、すなわちアミノ酸を同様のアミノ酸で置換することができ、それによって同様のアミノ酸は以下の群:芳香族残基(F/H/W/Y)、非極性脂肪族残基(G/A/P/I/L/V)、極性非荷電脂肪族(C/S/T/M/N/Q)および極性荷電脂肪族(D/E/K/R)の1つを共有する。好適な亜群は:G/A/P;I/L/V;C/S/T/M;N/Q;D/E;およびK/Rを含む。
【0023】
(上述のような)Bladまたはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドは、N末端および/またはC末端にいずれかの数のアミノ酸残基を付加したBladまたはその活性変異体からなり得るが、ただしポリペプチドは抗微生物活性を保持する(同様に、こうした活性のレベルおよびこれをどのように測定するかの説明は以下参照)。好適には、300個以下のアミノ酸残基、より好適には200個以下のアミノ酸残基、好適には150個以下のアミノ酸残基、好適には100個以下のアミノ酸残基、好適には80個、60個または40個以下のアミノ酸残基、もっとも好適には20個以下のアミノ酸残基をBladまたはその活性変異体の一端または両端に付加する。
【0024】
(上述のような)Bladまたはその活性変異体を含む(または本質的にこれからなる)抗微生物ポリペプチドは、本発明において(例えば植物、動物または微生物供給源から取り出した)精製および/または組換えタンパク質の形態で用いることができる。組換え形態の製造はBladの活性変異体の製造を可能にする。
【0025】
自然発生Bladの精製方法は当技術分野においてすでに説明されている(例えばRamos et al.(1997)Planta 203(1):26−34およびMonteiro et al.(2010)PLoS ONE 5(1):e8542)。自然発生Bladの適切な供給源は、好適には発芽の開始後約4〜約14日の間に採取された、より好適には発芽の開始後約6〜約12日の間(例えば発芽の開始から8日後)に採取された、ルピナス・アルバスのようなルピナス属の植物、好適には該植物の子葉である。当技術分野では、Bladを含む粗抽出物をもたらす総タンパク質抽出方法、およびこうした抽出物の、例えばBladを含むBlad含有グリコオリゴマーを含む部分精製抽出物をもたらすタンパク質精製方法が開示されている。
【0026】
Bladそのものを分離するには、SDS−PAGEおよび/または、好適にはC−18カラム上での逆相(RP)−HPLCを用いることができる。
【0027】
Bladを含むグリコオリゴマーを含む部分精製抽出物を得る代替方法は、Bladのキチン結合活性を用いることである。グリコオリゴマーは、キチン親和性クロマトグラフィー精製の一部として、キチンカラムと非常に強く結合し、0.05NのHClで溶離される。この精製方法の一例の詳細は以下のとおりである:
【0028】
8日齢のルピナス属植物から子葉を採取し、10mMのCaClおよびMgClを含有するMilli−Q plus水(pHは8.0に調節)中に均質化する。そのホモジェネートをチーズクロスに通してろ過し、4℃で、1時間30,000gで遠心分離する。ペレットをその後、10%(w/v)のNaCl、10mMのEDTAおよび10mMのEGTAを含有するpH7.5の100mMのトリス−HCl緩衝剤中に懸濁させ、4℃で1時間撹拌し、4℃で、1時間30,000gで遠心分離する。浮遊物に含まれる総グロブリン画分を硫酸アンモニウム(561g/l)で沈殿させ、冷却しながら1時間撹拌しつづけ、4℃で、30分間30,000gで遠心分離する。得られたペレットを、pH7.5の50mMのトリス−HCl緩衝剤に溶解し、同じ緩衝剤で平衡化したPD−10カラム中で脱塩し、同じ緩衝剤で予め平衡化したキチン親和性クロマトグラフィーカラムに通す。カラムをpH7.5の50mMのトリス−HCl緩衝剤で洗浄し、結合タンパク質を0.05NのHClで溶離する。溶離した画分をすぐに2Mのトリスで中和し、ピーク画分を溜め、凍結乾燥させ、SDS−PAGEにより分析する。
【0029】
キチンカラムの製造について、粗キチンをSigmaから入手し、以下のとおり処理する:キチン試料をMilli−Q plus水のみで、その後0.05NのHClで洗浄する。次に1%(w/v)の炭酸ナトリウムで、次にエタノールで、洗浄剤の吸収度が0.05未満になるまで洗浄する。キチンを次にピペット先端に充填し、pH7.5の50mMのトリス−HCl緩衝剤で平衡化する。
【0030】
組換えタンパク質の製造方法は当技術分野において周知である。ここで適用されるこうした方法は、Bladまたはその活性変異体を含むポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドを適切な発現ベクターに挿入するステップ、該ポリヌクレオチドの1つ以上のプロモーター(例えばT7lacのような誘導性プロモーター)との、および対象の他のポリヌクレオチドまたは遺伝子との並置を可能にするステップ、発現ベクターを適切な細胞または有機体(例えばエシェリキア・コリ)中に導入するステップ、形質転換細胞または有機体においてポリペプチドを発現するステップ、ならびに発現した組換えポリペプチドをその細胞または有機体から取り出すステップを含む。こうした精製を補助するため、発現ベクターは、ポリヌクレオチドが、例えば精製を補助することができる末端タグ:例えば、親和性精製のためのヒスチジン残基のタグをさらにエンコードするように構成することができる。組換えポリペプチドを精製した後、精製タグは、例えばタンパク質分解開裂により、ポリペプチドから取り出すことができる。
【0031】
Bladまたはその活性変異体を含む(または本質的にこれからなる)抗微生物ポリペプチドを含む組成物では、該ポリペプチドは好適には部分精製形態、より好適には精製形態である。前記ポリペプチドは、これに自然と関連する1つ以上の他のポリペプチドを有さない環境中に存在する、および/または存在する総タンパク質の少なくとも約10%に相当する場合、部分精製である。前記ポリペプチドは、これに自然と関連する他のポリペプチドをすべて、またはほとんどの有さない環境中に存在する場合、精製である。例えば、精製Bladとは、Bladが組成物中の総タンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%に相当することを意味する。
【0032】
Bladまたはその活性変異体を含む(または本質的にこれからなる)抗微生物ポリペプチドを含む組成物では、ルピナスタンパク質分は本質的にBladまたはその活性変異体を含む(または本質的にこれからなる)ポリペプチドを含むBlad含有グリコオリゴマーからなり得る。
【0033】
Bladを含む(または本質的にこれからなる)抗微生物ポリペプチドを含む組成物は、当業者により組成物に添加された別の化合物を含む製剤とすることもできる。
【0034】
食品腐敗および食品
微生物による食品の腐敗とは、その栄養および/または商業的価値を低下させる、例えば味、臭いまたは外観(例えば形、色、質感、硬度)の変化をもたらす、微生物による食品のいずれかの変質を意味する。食品の語により、栄養または楽しみを理由にヒトまたは動物により消費されるいずれかの液体または固体物質を意味することを意図している。食品は直接または間接的に(例えば、穀類の精製のように、調理または加工後に)消費され得る。
【0035】
適用できる場合、食品は好適には、収穫された植物食品(例えば果物、野菜、種子)および動物から分離された製品(例えば肉、魚、乳)のように、その自然環境から分離された形態で考慮される。
【0036】
食品は、果物、堅果、野菜、種子、糖、乳製品、液状もしくはペースト状食品、肉、魚またはパンから得ることができる、これらをもたらすことができる、またはこれらそのものとすることができる。果物から得られる食品としてはワインおよびフルーツジュースが挙げられる。種子をもたらす植物としては、穀類(例えばトウモロコシ、小麦、大麦、モロコシ、キビ、米、カラス麦およびライ麦)およびマメ科植物(例えばマメ、エンドウマメおよびレンズマメ)が挙げられる。糖類、好適にはスクロースは、テンサイまたはサトウキビから得ることができる。乳製品としては、ミルク、クリーム、チーズおよびヨーグルトが挙げられる。液状またはペースト状食品としては、スープ、ソース、ピクルス、マヨネーズ、サラダクリームおよび他のサラダドレッシング、ジャム、シロップならびに乳児食品が挙げられる。考慮される肉および/または魚食品は加工されていてもいなくてもよく、調理されていてもされていなくてもよい。さらに考慮される特定の食品は次のセクションで説明するが、ここでは本発明の使用および方法において標的とすることができる微生物により腐敗され得る食品の例について記載する。
【0037】
食品は、サンドイッチ、パイ、キッシュ等のような調理済み複合食品、とくに現在チルド保存用にデザインされているものも含む。
【0038】
微生物標的
本発明者らは、微生物による食品の腐敗を防止または抑制するための、Bladまたはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物の使用を提供する。食品の腐敗を引き起こし得る微生物―食品腐敗微生物―としては、とくに、細菌および真菌が挙げられる。こうした使用では、抗微生物ポリペプチドは抗微生物食品防腐剤とみなすことができる。
【0039】
抗微生物ポリペプチドを用い、グラム陽性またはグラム陰性細菌による食品の腐敗を防止または抑制することができる。とくに好適な細菌標的(括弧内にはそれらが腐敗させ得る食品の例を記載)としては:食品腐敗シュードモナス種、例えばシュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa、シロイヌナズナおよびレタス)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae、各種植物性食品、例えばビート、小麦および大麦)、シュードモナス・トラシイ(Pseudomonas tolaasii、キノコ)、シュードモナス・アガリシ(Pseudomonas agarici、キノコ)、シュードモナス・フラジ(Pseudomonas fragi、乳製品)およびシュードモナス・ルンデンシス(Pseudomonas lundensis、ミルク、チーズ、肉および魚)、もっとも好適にはP.アエルギノサ;ならびに食品腐敗バチルス種、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis、トマト、ジャガイモ、パン)およびバチルス・コアグランス(ミルク、トマトジュース)が挙げられる。
【0040】
抗微生物ポリペプチドを用い、単細胞(酵母)または多細胞(糸状)真菌による食品の腐敗を防止または抑制することができる。とくに好適な酵母菌標的(括弧内にはそれらが腐敗させ得る食品の例を記載)としては:食品腐敗サッカロマイセス種、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae、糖、液糖、ワイン、およびフルーツジュースのようなソフトドリンク);食品腐敗クルイベロマイセス種、例えばクルイベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus、チーズ);ならびに食品腐敗チゴサッカロマイセス種、例えばチゴサッカロマイセス・バイリ(Zygosaccharomyces bailii、ワイン、フルーツジュース、サラダドレッシングおよびトマトソース)およびチゴサッカロマイセス・ロウキシ(Zygosaccharomyces rouxii、液糖、フルーツジュース、ジャムおよびサラダドレッシング)が挙げられる。とくに好適な糸状菌標的(括弧内にはそれらが腐敗させ得る食品の例を記載)としては:食品腐敗アルテルナリア種、例えばアルテルナリア・アルテルナタ(Alternaria alternata、ジャガイモ)、アルテルナリア・アルボレセンス(Alternaria arborescens、トマト)、アルテルナリア・アルブスチ(Alternaria arbusti、ナシ)、アルテルナリア・ブラシカエ(Alternaria brassicae、野菜)、アルテルナリア・ブラシシコラ(Alternaria brassicicola、アブラナ属作物)、アルテルナリア・カロチインクルタエ(Alternaria carotiincultae、ニンジン)、アルテルナリア・コンジャンクタ(Alternaria conjuncta、パースニップ)、アルテルナリア・ダウシ(Alternaria dauci、ニンジン)、アルテルナリア・ユーフォルビイコラ(Alternaria euphorbiicola、アブラナ属作物)、アルテルナリア・ガイセン(Alternaria gaisen、セイヨウナシ)、アルテルナリア・インフェクトリア(Alternaria infectoria、小麦)、アルテルナリア・ジャポニカ(Alternaria japonica、アブラナ属作物)、アルテルナリア・ペトロセリニ(Alternaria petroselini、パセリ)、アルテルナリア・セリニ(Alternaria selini、パセリ)、アルテルナリア・ソラニ(Alternaria solani、ジャガイモ、トマト)およびアルテルナリア・スミルニ(Alternaria smyrnii、アレクサンダース、パセリ);食品腐敗アスペルギルス種、例えばアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus、堅果、ジャガイモ、米およびパン)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger、果物および野菜、例えばブドウおよびタマネギ)、およびアスペルギルス・フラバス(Aspergillus flavus、穀物、ピーナツ);食品腐敗フザリウム種、例えばフザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum、果物)およびフザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearum、大麦、小麦およびトウモロコシ);食品腐敗ボトリチス種、例えばボトリチス・シネレア(イチゴ、ブドウおよびトマト);ならびに食品腐敗コレトトリカム種、例えばコレトトリカム・アキュタタム(イチゴ、セロリ、リンゴ、アボカド、ナス、コーヒーおよびグアバ)、コレトトリカム・ココデス(Colletotrichum coccodes、トマト、ジャガイモ)、コレトトリカム・カプシシ(Colletotrichum capsici、バジル、ヒヨコマメ、コショウ)、コレトトリカム・クラシペス(Colletotrichum crassipes、パッションフルーツ)、コレトトリカム・グロエスポリオイデス(Colletotrichum gloesporioides、野菜および果物、例えばマルメロおよびリンゴ)、コレトトリカム・グラミニコラ(Colletotrichum graminicola、穀類)、コレトトリカム・カハワエ(Colletotrichum kahawae、コーヒー)、コレトトリカム・リンデムチアヌム(Colletotrichum lindemuthianum、マメ)、コレトトリカム・ムサエ(Colletotrichum musae、バナナ)、コレトトリカム・ニグラム(Colletotrichum nigrum、トマト)、コレトトリカム・オルビクラレ(Colletotrichum orbiculare、メロン、キュウリ)、コレトトリカム・ピシ(Colletotrichum pisi、エンドウマメ)およびコレトトリカム・サブリネオラム(Colletotrichum sublineolum、米)が挙げられる。
【0041】
好適な実施形態では、抗微生物ポリペプチドは、微生物による果物、好適にはイチゴの腐敗を防止または抑制するために用いられ、好適にはこの場合微生物はボトリチス・シネレアまたはコレトトリカム・アキュタタム、好適にはボトリチス・シネレアである。
【0042】
当業者であれば、日常的な方法によって、抗微生物ポリペプチドを用いていずれかの特定の背景における腐敗を防止または抑制するのに適した濃度(すなわち効果的な濃度)を識別することができるだろう。好適には、例えば、Bladは少なくとも1μg/ml、少なくとも5μg/ml、少なくとも10μg/ml、少なくとも50μg/ml、少なくとも100μg/ml、または少なくとも150μg/ml、および350μg/mlまで、500μg/mlまで、600μg/mlまで、1mg/mlまで、2.5mg/mlまで、5mg/mlまでまたは10mg/mlまでの濃度で用いられる。好適には、選択されるBladの濃度は10μg/ml〜5mg/ml、より好適には50μg/ml〜2.5mg/ml、より好適には100μg/ml〜1mg/ml、さらにより好適には150μg/ml〜600μg/ml(例えば約250μg/ml)である。本発明者らは、Bladが少なくとも400μg/mlまでは動物に非毒性である証拠(実施例4および5を参照)を提供した。
【0043】
本発明者らは、驚くべきことに、Bladのキレート剤(例えばEDTA)との組み合わせが相乗的な抗微生物効果を生むことを見出した。従って、好適には、キレート剤は抗微生物ポリペプチドの抗微生物活性を向上させるのに用いられ、こうしたキレート剤の使用は特定のレベルの腐敗の防止または抑制を達成するのに必要な抗微生物ポリペプチドの濃度を低下させることができる。キレート剤(別名、金属イオン封鎖剤)は、金属イオンと結合し、非共有複合体を形成し、イオンの活性を低減するいずれかの化合物である。適切なキレート剤としては、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)およびEGTA(エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−テトラ酢酸)のようなポリアミノカルボキシレートが挙げられる。好適には、EDTAはキレート剤として、好適には少なくとも10μg/ml、少なくとも50μg/ml、または少なくとも100μg/ml、および500μg/mlまで、1mg/mlまで、5mg/mlまで、10mg/mlまで、または20mg/mlまでの濃度で用いられる。好適には、EDTAは0.1mg/ml〜1mg/mlの濃度で用いられる。
【0044】
成果
抗微生物ポリペプチドを用い、食品上で食品腐敗微生物の増殖を阻害する(静微生物活性を有することを意味する)、および/または該微生物を殺滅する(殺微生物活性を有することを意味する)ことができ、微生物による該食品の腐敗が防止または抑制される。当業者であれば、微生物のとくに所望の増殖阻害または殺滅を達成するのに適した用量および/または濃度を識別することができる。
【0045】
好適には、静微生物剤として用いる場合、抗微生物ポリペプチドは、抗微生物ポリペプチドが存在しない同等の条件と比べて、増殖率を10%、より好適には50%、より好適には75%、より好適には90%、より好適には95%、より好適には98%、より好適には99%、さらにより好適には99.9%低減する。もっとも好適には、抗微生物ポリペプチドは微生物のいかなる増殖も防止する。
【0046】
好適には、殺微生物剤として用いる場合、抗微生物ポリペプチドは、抗微生物ポリペプチドが存在しない同等の条件と比べて、微生物の集団の10%、より好適には該集団の50%、より好適には該集団の75%、より好適には該集団の90%、より好適には該集団の95%、より好適には該集団の98%、より好適には該集団の99%、さらにより好適には該集団の99.9%を殺滅する。もっとも好適には、抗微生物ポリペプチドは微生物の集団のすべてを殺滅する。
【0047】
微生物による食品の腐敗を防止または抑制するのに用いる場合、抗微生物ポリペプチドは好適には効果的な量、すなわち、好適には抗微生物ポリペプチドが存在しない同等の条件と比べて、検出可能なレベルの腐敗防止または抑制(例えば腐敗率の低下)が達成されるレベルの微生物の増殖阻害および/または殺滅をもたらす量で用いられる。好適には、効果的な量の抗微生物ポリペプチドはヒトまたは動物に非毒性である。
【0048】
使用および方法
本発明者らは、微生物による食品の腐敗を防止または抑制するための、Bladまたはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物の使用を提供する。この目的のため、彼らは、それを必要とする食品に効果的な量のBladまたはその活性変異体を含む抗微生物ポリペプチドを含む組成物を投与するステップを含む、微生物による食品の腐敗の防止または抑制方法も提供する。好適には、効果的な量の抗微生物ポリペプチドはヒトまたは動物に非毒性である。腐敗の防止または抑制は、食品の貯蔵、輸送、取扱、加工または陳列中に起こり得る。
【0049】
抗微生物ポリペプチドを含む組成物は例えば食品中に混合することができ、または例えば食品の表面に(例えば液膜または噴霧として)塗布してもよい。また食品は前記組成物中に浸漬し(および任意でその中に維持し)てもよい。いずれかの特定の食品について、防腐剤としての前記組成物の使用は、乾燥、加熱、冷蔵または冷凍、浸透抑制(例えばシロップまたは塩の使用)、真空包装、缶詰および瓶詰、ゼリー化、ポッティング、ジャギング、イオン化照射、パルス電界処理、高圧食品保存、および超高水圧食品保存、抗酸化剤の使用、ならびに/または他の抗微生物防腐剤(例えば二酸化硫黄、二酸化炭素、エタノール、酢酸、クエン酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸塩、硝酸塩および亜硝酸塩、亜硫酸塩、プロピオン酸カルシウムならびにメチルクロロイソチアゾリノン)の使用を含む、その他の周知の食品保存技術、抗微生物剤等と組み合わせることができる。
【実施例】
【0050】
以下の実施例では、BLADは、Ramos et al.(1997)Planta 203(1):26−34:文献のMaterials and Methodsセクションの“Plant material and growth conditions”および“Purification of proteins”部分参照、に従って精製した20kDのBladポリペプチドを含む自然発生Blad含有グリコオリゴマーを示す。
【0051】
定義:
MIC―最小阻害濃度:微生物の目に見える増殖を阻害するもっとも低い抗微生物剤の濃度
MFC/MBC―最小殺真菌/殺細菌濃度(または最小致死濃度):標準の条件下、24時間後に初期接種の99.9%を殺滅するのに必要なもっとも低い抗微生物剤の濃度
【実施例1】
【0052】
BLADの殺細菌活性
[各種細菌種についてのBLADのMICおよびMBC(ミューラー・ヒントン培地を用いる)]
【表1】
【0053】
とくに、P.アエルギノサおよびB.サブチリスは食品の腐敗を引き起こし得る。BLADは、P.アエルギノサに対して、100μg/mlで静細菌性であり、250μg/mlで殺細菌性であることが見出された。P.アエルギノサに対して、BLADは50μg/mlで、またはEDTAは1mg/mlで増殖を阻害する(すなわち両方とも静細菌性である)が、2つの組み合わせは殺細菌性である。
【実施例2】
【0054】
BLADの殺真菌活性
[各種糸状真菌についてのBLADのMICおよびMFC(RPMI培地を用いる)]
【表2】
【0055】
[各種糸状真菌についてのBLADのMIC(各種培地を用いる)]
【表3】
【0056】
[0.6%または0.9%w/vのポテトデキストロース寒天(PDA)(25℃で3日培養)上でのボトリチス・シネレアBMに対するBLADの阻害ハロ直径データ]
【表4】
【0057】
0.6%寒天上、B.シネレアの増殖は、BLADの量を20μgから200μgまで増加させることによりますます阻害された。0.9%寒天上で5mg/mlおよび10mg/mlでは顕著な阻害は見られなかった。
【0058】
[0.9%(w/v)の寒天を有するPDA(25℃で3〜5日培養)上での各種酵母菌に対する200μg/ディスクのBLADの阻害ハロ(直径)データ]
【表5】
【0059】
BLADは200μg/ディスクで、すべて食品の腐敗を引き起こし得る、これらの酵母菌のすべての顕著な増殖阻害を示した。
【実施例3】
【0060】
イチゴ防腐/除染試験
BLADでの処理後、B.シネレア汚染に対するイチゴの感受性を調べた。商業的な供給業者より供給される無処理のイチゴの38%までが汚染されることが見出され(サンプルサイズ:500gの箱10個)、イチゴ汚染の問題を示した。
【0061】
試験プロトコル
1.均質な代表となるサンプルを用意する。
2.水中で洗浄し、70%v/vエタノールを用いて除染する。
3.水中で2回すすぐ。
4.各種濃度のBLADで処理する(対照については省略した):処理溶液中に1分間浸漬させた後、(滅菌水を含んで湿ったスポンジ、ろ紙およびプラスチックメッシュを含有する)培養ペトリ皿において乾燥させる。
5.各イチゴに1〜5×10胞子/mlのB.シネレア胞子溶液10μlを接種する。
6.以下の条件下で5日間培養する:
温度:25℃(+/−3℃)
相対湿度:80〜90%
光:直射日光から保護
7.間を置いて、1gのサンプルを収集し、ボルテックスを用いて均質化する。
8.一連の10進希釈を行う。
9.固体培地上に分散させ、コロニー数測定を行う。
【0062】
すべての取扱技術は、オートクレーブ材料を用い、滅菌条件下で行われた。
【0063】
以下のデータは、B.シネレア胞子溶液を接種した後B.シネレアに感染したイチゴの割合を表す。
【表6】
【0064】
BLADは150μg/ml〜350μg/mlの濃度で、B.シネレアでの汚染の開始を顕著に遅延させ、対照と比べて汚染イチゴの合計割合を低減させた。
【実施例4】
【0065】
モルモットにおけるBLADの経皮毒性実験
化学物質の試験のためのOECDガイドライン、No.402、急性経皮毒性を用いて、Instituto Superior de Agronomiaによりリスボン工科大学獣医学部で行われた機密実験(2006年7月18日〜2006年8月1日)。実験は優良実験室規範および動物福祉に従って行われた。
【0066】
BLADの急性経皮毒性は、経皮毒性実験に適した動物として広く受け入れられている、モルモットへの単回投与後に評価された。BLADを、各10匹の2群の無毛皮膚に、それぞれ200μg/mlおよび400μg/ml投与した。投与後、動物を15日間観察し続け、その間の体重、罹患率および死亡率を記録した。
【0067】
材料および方法
1.材料
試験項目:BLADを5mg/mlで用意し(黄色がかった不透明な液体、0〜4℃)、−80℃で保存した。
動物:アルビノモルモット;系統:バルセロナのHarlan Ibericaによるダンキン・ハートレイ(HsdPoc:DH)
用いた動物の数:30
体重:400〜449g
齢:6週
ハウス:動物を消毒した木粉(リグノセル)が入ったポリエチレンの箱に個別に入れた。
周囲条件:
a)光周期:12時間毎の明/暗のサイクル
b)制御環境:19/22℃の平均温度および60%の平均湿度
適応:動物は試験の開始前の7日間、試験の環境条件下に置いた。
食糧:バルセロナのHarlan Ibericaにより供給されるGlobal Diet2014、Rodent Maintenance Diet;水、適宜
【0068】
2.方法
投与:動物を試験の48時間前に剃毛し、病変のない皮膚を持つ動物のみに実験を行った。1mlのアリコート(200μg/mlまたは400μg/ml)を各動物の剃毛した皮膚に投与した。
実験デザイン:実験の30匹の動物を4つの群、各10匹の2群および各5匹の2群に分けた。1つの群の10匹には200μg/mlでBLADを投与し(試験群1)、もう1つの群の10匹にはBLADを400μg/mlで投与した(試験群2)。5匹の2群は対照とした:1つの群には水(1mlアリコート)を投与し、もう1つの群はすべての他の群と同様に扱ったが、いずれの投与も行わなかった。
成果:投与後、動物を15日間毎日観察し、罹患のいずれかの兆候、または死亡を記録した。罹患に関して、投与部位での皮膚病変の発症および正常な行動パターンの変化のような一般的な毒性の兆候にとくに注意を払った。体重は投与前および試験期間の終わりに個別に測定した。
【0069】
結果
どちらの濃度のBLADでも、経皮投与領域におけるいずれかの物理的な変化または飲水/摂食もしくは一般行動の変化の兆候は見られなかった。BLAD投与後、副作用も死亡も起こらなかった。体重の増加はすべての群において同様だった(こうした幼齢の動物の成長から予想される増加と一致していた)。
【0070】
結論
400μg/mlまでの(あるいはこれより高い)濃度のBLADは経皮毒性を示さない。
【実施例5】
【0071】
アルビノラットにおけるBLADの経口毒性実験
化学物質の試験のためのOECDガイドライン、No.401、急性経口毒性を用いて、Instituto Superior de Agronomiaによりリスボン工科大学獣医学部で行われた機密実験。実験は優良実験室規範および動物福祉に従って行われた。
【0072】
BLADの急性経口毒性は、経口毒性実験に適した動物として広く受け入れられている、ラットへの単回投与後に評価された。BLADは強制給餌により、各10匹の2群に、それぞれ200μg/mlおよび400μg/mlで投与した。投与後、動物を15日間観察し続け、その間の体重、罹患率および死亡率を記録した。観察期間後、動物は安楽死させ、剖検を行った。
【0073】
材料および方法
1.材料
試験項目:BLADを5mg/mlで用意し(黄色がかった不透明な液体、0〜4℃)、−80℃で保存した。
動物:ラタス・ノルベジカス(Rattus norvegicus);系統:バルセロナのHarlan Ibericaからリスボンの獣医学部の動物飼育場が入手したウィスター・ハノーバー
用いた動物の数:30
体重:250〜300g
齢:10週
ハウス:動物は消毒した木粉(リグノセル)が入ったポリエチレンの箱に個別に入れた。
周囲条件:
a)光周期:12時間毎の明/暗のサイクル
b)制御環境:19/22℃の平均温度および60%の平均湿度
適応:動物は試験の開始前の7日間、試験の環境条件下に置いた。
食糧:バルセロナのHarlan Ibericaより供給されるGlobal Diet2014、Rodent Maintenance Diet;水、適宜
【0074】
2.方法
投与:1mlのアリコート(200μg/mlまたは400μg/ml)を各動物に、胃一般的には強制給餌として知られる経口(経口腔食道)挿管法により投与した。投与は用いた動物の種に適した金属プローブで行った。動物は投与前の18時間は絶食させ、投与の3時間後に給餌した。
実験デザイン:実験の30匹の動物を4つの群、各10匹の2群および各5匹の2群に分けた。1つの群の10匹には200μg/mlでBLADを投与し(試験群1)、もう1つの群の10匹にはBLADを400μg/mlで投与した(試験群2)。5匹の2群は対照とした:1つの群には水(1mlアリコート)を投与し、もう1つの群はすべての他の群と同様に扱ったが、いずれの投与も行わなかった。
成果:投与後、動物を15日間毎日観察し、罹患の兆候、または死亡を記録した。体重は投与前および試験期間の終わりに個別に測定した。観察期間後、動物は、その後の剖検のため、(二酸化炭素で飽和した雰囲気下での窒息により)安楽死させた。
【0075】
結果
どちらの濃度のBLADでも、いずれかの物理的な変化または飲水/摂食もしくは一般行動の変化の兆候も見られなかった。BLAD投与後、副作用も死亡も起こらなかった。体重の増加はすべての群において同様だった(こうした幼齢の動物の成長から予想される増加と一致していた)。剖検/胸腔および腹腔の器官の肉眼観察でそれに変化がないことがわかった。
【0076】
結論
400μg/mlまでの(あるいはこれより高い)濃度のBLADは経口毒性を示さない。
図1
図2