(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる内燃機関の点火装置要部の構成を示す図であり、
図2(a)は点火装置に含まれる2つのコイル対と、該コイル対が巻回された鉄心とを示す縦断面である。
図2(b)は、
図2(a)に示すA−A線の断面図(鉄心10のみ示す)である。
【0017】
内燃機関(図示せず)は例えば4気筒を有し、各気筒には点火プラグ1が装着されている。点火プラグ1に火花放電を発生させるための駆動回路2は、2つのコイル対11,12を備え、第1コイル対11は、一次コイル11a及び二次コイル11bを鉄心10に巻回することによって構成され、第2コイル対12は、一次コイル12a及び二次コイル12bを鉄心10に巻回することによって構成される。
【0018】
鉄心10は、複数の薄い鉄板を積層した部材を隙間無く接触させることによって構成され、
図2(a)に示すように、第1コイル対11が巻回される第1巻回部(第1中心鉄心)10aと、第2コイル対12が巻回される第2巻回部(第2中心鉄心)10aと、2つの一次コイル11a,12aに通電することよって発生する磁束が重複して通る共用部(外周鉄心)10c、共用部10c以外の外周鉄心10dとで構成される。第1巻回部10aと第2巻回部10bの断面積AWNDは互いに等しく、共用部11cの断面積ACMNは、
図2(b)に示す例では巻回部の断面積AWNDの1.5倍程度に設定されている。
図3は、一次コイル11a,12aに通電することによって発生する磁束の流れを示す図であり、一次コイル11aの通電によって発生する磁束Φ1と、一次コイル12aの通電によって発生する磁束Φ2とがともに共用部11cを通る。
【0019】
一次コイル11a,12aの一端はバッテリ4の正極に接続され、他端はスイッチング素子としてのトランジスタQ1,Q2にコレクタに接続されている。トランジスタQ1,Q2のエミッタはアースに接続され、ベースはそれぞれ電子制御ユニット(以下「ECU」という)3に接続されている。トランジスタQ1,Q2のベースには、ECU3から点火信号SI1,SI2が供給され、トランジスタQ1,Q2のオンオフが制御される。
【0020】
点火プラグ1の一方の電極はアースに接続され、他方の電極はダイオードD1,D2を介して二次コイル11b,12bの一端に接続されている。二次コイル11b,12bの他端はアースに接続されている。
【0021】
点火信号SI1,SI2によってトランジスタQ1,Q2がオンすると、一次コイル11a,12aに一次電流が供給される。トランジスタQ1,Q2がオフすると、二次コイル11b,12bの両端に高電圧が発生し、点火プラグ1の電極間において火花放電が発生する。放電電流ISPは放電開始当初が最大で、時間経過に伴って徐々に減少する。
【0022】
図4は、第1コイル対11の一次コイル11aの通電が終了すると同時に、第2コイル対12の一次コイル12aの通電を開始するように点火信号SI1,SI2を生成する交互駆動モードにおける点火信号SI1,SI2、駆動回路各部の電流、及び放電電流ISPの推移を示すタイムチャートであり、上から順に第1及び第2点火信号SI1,SI2、一次コイル11aを流れる一次コイル電流IC1a、一次コイル12aを流れる一次コイル電流IC2a、一次コイル電流IC1a及びIC2aの合計である全一次コイル電流ICa(=IC1a+IC2a)、二次コイル11bを流れる二次コイル電流IC1b、二次コイル12bを流れる二次コイル電流IC2b、及び放電電流ISPの推移を示す。なお
図4には、時刻t2において放電電流ISPがほぼ「0」まで低下する例が示されている。
図4及び後述する
図5において放電電流ISPは負値で(「0」の状態から下方向に増加するように)示されているが、本明細書の説明は、放電電流値の大小関係あるいは増加/減少については、絶対値に着目した記載としている。
【0023】
時刻t0から時刻t1までの期間において第1点火信号SI1が供給され、時刻t1から時刻t2までの期間において第2点火信号SI2が供給され、一次コイル電流IC1a及びIC2aが図示のように流れる。したがって、全一次コイル電流ICaの最大値は、一次コイル電流IC1aまたはIC2aの最大値と同一であり、鉄心10の共用部10cの断面積ACMNが巻回部の断面積AWNDと同一であっても、共用部10cにおいて磁束の飽和は発生しない。
【0024】
しかし、このような点火プラグの交互駆動モードでは、時刻t2において放電電流ISPがほぼ「0」なって放電電流ISPの短時間の遮断(以下「吹き消え」という)が発生する可能性が高い。吹き消えが発生すると点火プラグ電極の摩耗が促進されるという問題があるため、吹き消えを確実に防止することが必要である。
【0025】
そこで本実施形態では、2つの一次コイルの通電期間を期間TOVL(以下「重複期間TOVL」という)だけ重複させる駆動モード(以下「重複通電駆動モード」という)を採用し、吹き消えを確実に防止するようにしている。
【0026】
図5は重複通電駆動モードにおける点火信号SI1,SI2、駆動回路各部の電流、及び放電電流ISPの推移を
図4と同様に示すタイムチャートである。
【0027】
図5に示す動作例では、時刻t10からt12までの通電期間TONにおいて、一次コイル11aの通電が行われ、時刻t11からt13までの通電期間TONにおいて、一次コイル12aの通電が行われる。すなわち、時刻t11からt12までが重複期間TOVLである。なお、以下の説明では通電期間TONから重複期間TOVLを減算した期間、すなわち時刻t10からt11までの期間をオフセット期間TOFSという。
【0028】
重複通電駆動モードでは、2つの一次コイル11a,12aの通電期間が一部重複するため、全一次コイル電流ICaの最大値ICaMXは、一次コイル電流IC1a,IC2aの最大値より大きくなる。したがって、共用部10cの断面積ACMNが巻回部の断面積AWNDと同一であると、共用部10cにおいて磁束の飽和が発生する可能性がある。本実施形態では、共用部10cの断面積ACMNを巻回部断面積AWNDの1.5程度に設定しているため、磁束飽和が発生することを確実に防止し、エネルギ効率の低下を回避することができる。
【0029】
また重複通電駆動モードでは、2回目の放電開始直前の放電電流値に相当する最小放電電流ISPMN(
図5のISP参照)は比較的大きな値とすることができるため、吹き消えを確実に防止することができる。
なお、共用部10cの断面積ACMNは、余裕をもって大きくすれば磁束飽和を確実に防止できるが、装置の大型化・コスト増を招く弊害がある。そこで、磁束飽和が発生しない範囲で最小の断面積ACMNに設定することが望まれる。
【0030】
次に重複通電駆動モードを採用する場合において、吹き消えを確実に防止できるオフセット期間TOFSの設定手法(換言すれば重複期間TOVLの設定手法)、及び共用部10cの断面積ACMNの設定手法について検討する。
【0031】
図6(a)は、
図5に示した全一次コイル電流ICa及び放電電流ISPの推移を示しており、最小放電電流ISPMNと、オフセット期間TOFSとの関係は、
図6(b)に実線で示すようになる。同図の破線は、全一次コイル電流ICaの増加率RINCと、オフセット期間TOFSとの関係を示す。
【0032】
図6(b)に示すように、オフセット期間TOFSが「0」(すなわちTOVL=TONである)ときは、時刻t12とt13とが一致するため、最小放電電流ISPMNは、一次コイル11aの通電を終了することによる放電電流の最大値ISPMX(例えば50〜100mA程度)と等しくなり、オフセット期間TOFSが増加するほど、最小放電電流ISPMNが減少し、オフセット期間TOFSが1つのコイル対の通電によって発生する放電の継続期間(以下「放電期間」という)TSPと等しくなると、最小放電電流ISPMNは「0」となる。
【0033】
また増加率RINCはオフセット期間TFSが「0」であるとき、すなわち通電期間TONが重複期間TOVLと等しいとき、100%(2倍)となり、オフセット期間TFSが通電期間TONと等しいとき、すなわち通電期間TONが重複しないとき、0%となる。
【0034】
図6(b)に示すISPTHは、吹き消えが全く発生しない放電電流の最小値(例えば30mA程度である)を示し、以下「吹き消え閾値ISPTH」という。最小放電電流ISPMNが吹き消え閾値ISPTH以上であれば、吹き消えを確実に防止できる。よって、吹き消えを確実に防止できる最大のオフセット期間TOFSは、同図に示すTOFSTHであり、以下「吹き消え防止オフセット期間TOFSTH」という。オフセット期間TOFSが減少するほど、増加率RINCが増加するため、オフセット期間TOFSを吹き消え防止オフセット期間TOFSTHに設定することにより、吹き消えが発生しない範囲で増加率RINCを最小とすることができ、したがって共用部10cの断面積ACMNを吹き消えを確実に防止できる範囲で最小とすることができる。なお、オフセット期間TOFSを吹き消え防止オフセット期間TOFSTHに設定することは、重複期間TOVL(=TON−TOFS)を吹き消えが発生しない範囲で最小の重複期間TOVLTHに設定することに相当する。
【0035】
図6(b)において、オフセット期間TOFSが吹き消え防止オフセット期間TOFSTHであるときの増加率RINCTH(以下「吹き消え防止増加率RINCTH」という)は約50%であり、この場合、共用部断面積ACMNは巻回部断面積AWNDの1.5倍程度に設定することで、磁束飽和を回避することができる。
【0036】
図7は、最小放電電流ISPMNの最大値ISPMX、放電期間TSP、及び通電期間TONに依存して、吹き消え防止オフセット期間TOFSTHが大きく変化し、その結果吹き消え防止増加率RINCTHが大きく変化することを説明するために示す図である。最大値ISPMX、放電期間TSP、及び通電期間TONは、コイル対11及び12の仕様によって決まるパラメータである。
【0037】
図7(a)は、最大値ISPMXが比較的小さい50mA程度であり、かつ放電期間TSPが通電期間TONに比べて短い場合を示す。この場合には、吹き消え閾値ISPTHは変化しないため、吹き消え防止オフセット期間TOFSTHは相対的に短くなり、したがって吹き消え防止増加率RINCTHは90%程度となる。よってこの場合には、共用部断面積ACMNは巻回部断面積AWNDの1.9倍程度に設定することで、磁束飽和を回避することができる。
【0038】
図7(b)は、最大値ISPMXが比較的大きい100mA程度であり、かつ放電期間TSPと通電期間TONがほぼ等しい場合を示す。この場合には、吹き消え防止オフセット期間TOFSTHは相対的に長くなり、したがって吹き消え防止増加率RINCTHは30%程度となる。よってこの場合には、共用部断面積ACMNは巻回部断面積AWNDの1.3倍程度に設定することで、磁束飽和を回避することができる。
【0039】
図7(a)は、吹き消え防止増加率RINCTHがほぼ最大となる場合に対応し、
図7(b)は、吹き消え防止増加率RINCTHがほぼ最小となる場合に対応する。すなわち、最大値ISPMXと放電期間TSPの他の組み合わせに対応する吹き消え防止増加率RINCTHは、30%から90%の間の値となる。
【0040】
実際には、吹き消え閾値ISPTHは内燃機関の運転状態に依存して変化し、機関回転数が増加するほど、また機関負荷が増加するほど増加する傾向がある。したがって、最も条件が厳しい高回転高負荷状態において吹き消えが発生しないように設定される。また、吹き消え防止増加率RINCTHは、上述したように吹き消え閾値ISPTHだけでなく、放電電流の最大値ISPMX及び放電期間TSPに依存して変化する。したがって、共用部断面積ACMNと、巻回部断面積AWNDとの面積比率は、吹き消え閾値ISPTH、最大値ISPMX、及び放電期間TSPの値に基づいて、1.3から1.9倍程度の範囲で、磁束飽和を回避し得る最小の値に設定することが望ましい。
【0041】
以上のように本実施形態では、2つコイル対11,12の一次コイル11a,12aの通電期間TONの一部が重複する多重点火が実施されるように、点火信号SI1,SI2が生成され、一次コイル11a,12aに通電することによって発生する磁束が重複して通る鉄心10の共用部10cの断面積ACMNは、コイル対11,12が巻回された巻回部10a,10bの断面積AWNDの1.5倍程度として、磁束飽和が発生しないように構成されるので、2つの一次コイル11a,12aの通電期間TONを吹き消えが発生しないように重複させても、共用部10cにおける磁束飽和の発生が回避され、駆動回路2のエネルギ効率の低下を回避することができる。
【0042】
また2つの一次コイル11a,12aへの通電期間TONの一部が重複するように点火信号SI1,SI2が生成され、共用部断面積ACMNは、通電期間TONの重複期間TOVLに対応するオフセット期間TOFSに応じて設定される。すなわち、通電期間TONの重複期間TOVLと、通電時間TONとの比率RTOVL(=TOVL/TON)で定義される重複度合に対応する全一次コイル電流ICaの増加率RINCに応じて、共用部断面積ACMNが設定されるので、磁束飽和が発生しない範囲で大きくし過ぎることなく適切に設定することができる。また通電期間TONの重複度合RTOVLを、上述したように吹き消え閾値ISPTHに応じて、吹き消え、すなわち放電電流の短時間の遮断が発生しないように設定することにより、吹き消えの発生を防止できる。
本実施形態では、ECU3によって制御手段が構成される。
【0043】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、2つの一次コイル11a,12aへの通電期間TONの一部が重複するようにしたが、全部が重複する駆動モードを含めるようにしてもよい。その場合には、鉄心10の共用部10cの断面積ACMNは、巻回部10a,10bの断面積AWNDの2倍に設定する。
【0044】
また上述した実施形態では、1つの点火プラグ1を駆動する駆動回路に2つのコイル対を備える例を示したが、3つ以上のコイル対を備えるようにしてもよい。
図8は3つのコイル対を備える駆動回路に適用する鉄心20の平面図(
図8(a))、側面図(
図8(b))、及びコイル対が巻回される状態を説明するための断面図(
図8(c))を示す。
【0045】
鉄心20は、コイル対が巻回される巻回部20a,20b,20cと、これらの巻回部20a,20b,20cにそれぞれ巻回される3つの一次コイルに通電したときに発生する磁束が重複して通る共用部20dとを備える。
図8(c)には、巻回部20aに巻回されたコイル対を構成する一次コイル21a及び二次コイル21bと、巻回部20bに巻回されたコイル対を構成する一次コイル22a及び二次コイル22bとが示されている。
【0046】
3つの巻回部20a,20b,20cの断面積AWNDは等しく、3つの一次コイルの通電期間の一部または全部が重複するように3つの点火信号SI1〜SI3が生成される。通電期間の全部を重複させる駆動モードを含む駆動モードを採用する場合には、共用部20dの断面積ACMNは巻回部の断面積AWNDの3倍に設定される。
【0047】
またコイル対の数Nは、2,3に限らず4以上としてもよく、1つの点火プラグを駆動する駆動回路にN個のコイル対を設けて、すべての一次コイルの通電期間を全部重複させる駆動モードを採用する場合には、共用部断面積ACMNは巻回部断面積AWNDのN倍に設定される。