(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。まず、本実施形態の概要について説明する。本実施形態の超伝導マグネット装置は、マグネット中心の常温ボア内に有効磁場領域を生成する一般的な超電導マグネットである。本実施形態は、電磁誘導の原理を用いてクエンチ発生時に超伝導コイルから放出されるエネルギーを回収し、超伝導コイルの温度上昇を抑える具体的な構成について提示するものである。
【0009】
(超伝導マグネット装置SMの構成について)
続いて、
図1を用いて、超伝導マグネット装置SMの構成について説明する。
図1は、本実施形態における超伝導マグネット装置SMの構成を示す概略構成図である。
図1に示すように、超伝導マグネット装置SMは、電源PS、スイッチSW、陽極端子PT、陰極端子NT、冷凍機
RM、輻射シールドSLD、真空容器VV、超伝導コイルSC、誘導コイルIC、第1の高温超伝導電流リードHLD1、第2の高温超伝導電流リードHLD2、保護抵抗RS、ダイオードD、及び連結部MCを備える。
【0010】
電源PSは、一端が陽極端子PTを介して超伝導コイルSCの一端に接続され、他端がスイッチSWの一端に接続されている。スイッチSWは、他端が陰極端子NTを介して超伝導コイルSCの他端に接続されている。
【0011】
輻射シールドSLDは、超伝導コイルSC及び誘導コイルICを覆い、外部からの熱輻射を遮蔽する。
真空容器VVは、超伝導コイルSC、誘導コイルIC、及び輻射シールドSLDを収容し、内部を真空状態に保つ。
【0012】
冷凍機RMは、コールドヘッドCH、及びコールドヘッドCHと接続されコールドヘッドCHを冷却する冷却器CLを備える。ここでコールドヘッドCHは、第1のステージSTG1、第2のステージSTG2、第1のステージSTG1と第2のステージSTG2を接続する接続部CUを備える。
【0013】
第1のステージSTG1は、第1の温度(本実施形態では一例として40K(ケルビン))以下になるよう冷却されており、輻射シールドSLDに連結されて輻射シールドSLDを冷却する。これにより、輻射シールドSLD内が、第2の温度(本実施形態では一例として40K)以下に冷却される。第1のステージSTG1は、例えば、第2のステージSTG
2よりも冷却能力が高くなっている。
【0014】
第2のステージSTG2は、第1の温度より低い第2の温度(本実施形態では一例として4K)以下になるよう冷却されており、超伝導コイルSCと誘導コイルICに、連結部MCを介して連結されて超伝導コイルSCと誘導コイル
ICを冷却する。
【0015】
超伝導コイルSCは、一例として円筒状に巻かれており、連結部MCを介して第2のステージSTG2に連結されている。これにより、超伝導コイルSCは、第2の温度以下に冷却され、超伝導状態を維持する。超伝導コイルSCは、電源PSから供給された直流電流によりその内周側に磁場を形成する。
【0016】
誘導コイルICは、一例として、超伝導コイルSCの内周側に円筒状に巻かれた状態で配置され、連結部MCを介して第2のステージSTG2に連結されている。これにより、誘導コイルICは、第2の温度以下に冷却され、超伝導状態を維持する。誘導コイルICは、超伝導コイルが形成する磁場により誘導電流を発生させる。誘導コイルICは、一例として、超伝導コイルSCと同心円周上で、外周が超伝導コイルSCの内周と絶縁を確保しながら物理的に接触するように配置されている。これにより、超伝導コイルSCと誘導コイルICの結合係数が大きくなるので、誘導コイルICは超伝導コイルSCのクエンチ発生時に多くのエネルギーを回収することができる。
【0017】
誘導コイルICを構成する導体は、低温超伝導材料を含む超伝導材料により作製されていることが好ましい。これにより、誘導コイルICは第2の温度以下に冷却されることで、超伝導状態になり誘導電流が流れても発熱を抑えられる。このため、誘導コイルICの発熱によって超伝導コイルSCがクエンチする事態を防ぐことができる。
【0018】
より好ましくは、誘導コイルICを構成する導体を作製する超伝導材料は、高温超伝導材料である。これにより、誘導コイルICの温度が例えば40K程度に上昇したとしても、超伝導状態を維持することができ誘導電流が流れても発熱を抑えられる。このため、誘導コイルICの温度が例えば40K程度に上昇したとしても誘導コイルICから発熱がないので、誘導コイルICに発熱に起因する超伝導コイルSCの温度上昇を抑えることができる。本実施形態では、誘導コイルICは、一例として、高温超伝導材料から作製されているものとして以後説明する。
【0019】
なお、誘導コイルICは、常伝導材料から作製され常伝導状態であってもよい。これにより、誘導コイルICが超伝導材料から作製される場合よりも、超伝導マグネット装置SMの製造コストを低くすることができる。
【0020】
ダイオードDは、カソードが超伝導コイルの一端に接続され、アノードが超伝導コイルの他端に接続されている。
第1の高温超伝導電流リードHLD1及び第2の高温超伝導電流リードHLD2は、輻射シールドSLD内に設置されている。第1の高温超伝導電流リードHLD1は、一端が誘導コイルICの一端と接続され、他端が保護抵抗RSの一端と接続されている。第2の高温超伝導電流リードHLD2は、一端が誘導コイルICの他端と接続され、他端が保護抵抗RSの他端と接続されている。
【0021】
このように、誘導コイルICの両端部は、保護抵抗RSの対応する端部に高温超伝導電流リードを介して接続されている。これにより、高温超伝導電流リードの温度は、誘導コイルICに接続されている端部で第2の温度(例えば4K)と最も低く、保護抵抗RSに近づくにつれて温度が上昇し、保護抵抗RSに接続されている端部で第1の温度(例えば40K)と最も高くなる。このように、高温超伝導電流リードは、第2の温度(例えば4K)と第1の温度(例えば40K)の間の温度に冷却されて超伝導状態を維持するので、高温超伝導電流リード自身が発熱することを防止することができる。その結果、誘導コイルICが回収したエネルギーがほぼそのまま保護抵抗RSで熱として消費され、この熱が輻射シールドSLDに放出される。これにより、誘導コイルICが回収したエネルギーを効率良く消費することができる。
【0022】
更に、第1の高温超伝導電流リードHLD1及び第2の高温超伝導電流リードHLD2を構成する導体は、一例としてセラミックにより作製されている。セラミックは熱伝導率が低いので、通常運転時に、抵抗RSから誘導コイルICへ伝導する熱を低減することができる。その結果、通常運転時に誘導コイルICの温度上昇を抑えるので、その温度上昇に伴う超伝導コイルSCの温度上昇を抑えることができる。
【0023】
保護抵抗RSは、一端が第1の高温超伝導電流リードHLD1を介して誘導コイルICの一端に接続され、他端が第2の高温超伝導電流リードHLD2を介して誘導コイルICの他端に接続されている。これにより、保護抵抗RSには、誘導コイルICにて発生した誘導電流が流れる。保護抵抗RSは、輻射シールドSLDに物理的に接触しており、輻射シールドSLDを介して第1のステージSTG1に連結されている。このようにして、保護抵抗RSは、第1の温度を有するようになっている。第1のステージSTG1の冷却能力は第2のステージSTGより高く、保護抵抗RSは、輻射シールドSLDを介して第1のステージSTG1に連結されている。このため、保護抵抗RSに生じる熱は第1のステージSTG1によって効率的に放出される。
【0024】
なお、保護抵抗RSは、輻射シールドSLDではなく第1のステージSTG1と他の連結部材(図示せず)を介して連結されていてもよい。これにより、第1のステージSTG1の冷却能力が第2のステージSTGより高いので、第1のステージSTG1は、保護抵抗RSで生じる熱を効率的に冷ますことができる。
【0025】
電磁誘導でエネルギーを回収する場合、一般的に誘導コイルIC側にエネルギーを効率良く回収するのに最適な時定数が存在する。この最適な時定数の具体的な値は、超伝導コイルの構造によって異なる。例えば3Tクラスの超伝導マグネットの場合、最適な時定数は、数100秒程度である。
【0026】
回収可能なエネルギーの理論上の最大値は、超伝導コイルと誘導コイルとの結合係数によって決定されるため、おおよそ誘導コイルの形状、配置も決定される。このとき、時定数を長くするには誘導コイルIC自体の抵抗率を小さくし、抵抗値をμΩオーダーにしなければ効率的なエネルギー回収ができない。誘導コイルICを冷却することにより誘導コイルICの抵抗値は小さくできるが、温度が常温〜40Kでは、ある一定のインダクタンスを確保しつつ抵抗値をμΩオーダーにすることは極めて困難である。したがって、本実施形態では、一例として、誘導コイルICを第2の温度以下に冷却し、誘導コイルICにより回収されたエネルギーを保護抵抗RSで熱に変換し、変換した熱を輻射シールドSLDに放出する。このとき、誘導コイルICに超伝導体を用いると誘導回路のインダクタンスおよび抵抗値をそれぞれ任意に決定することができ、すなわち最適な時定数を選ぶことが可能となる。
【0027】
(超伝導マグネット装置SMの動作について)
続いて、
図2を用いて、本実施形態の超伝導マグネット装置SMの動作について説明する。
図2は、本実施形態における超伝導マグネット装置SMの等価回路である。
通常運転時には、スイッチSWが閉じられ、電源PSは、陽極端子PTを介して超伝導コイルSCに直流電流i
1を供給する。これにより、超伝導コイルSCは、直流電流i
1に応じた磁場を形成する。
【0028】
超伝導コイルSCにおいてクエンチが発生した場合、スイッチSWが開かれる。その場合、超伝導コイルSCは、これまで流れていた直流電流i
1を流そうとして、超伝導コイルSCからダイオードDに直流電流i
2が流れ込む。超伝導コイルSCに蓄えられていた磁気エネルギーの一部は、誘導コイルICによって回収され、誘導コイルICにて発生した誘導電流が保護抵抗RSに流れて保護抵抗RSが発熱する。これにより、超伝導コイルSCに蓄えられていた磁気エネルギーの一部が、保護抵抗RSで熱として消費される。また、超伝導コイルSCに蓄えられていた磁気エネルギーの残りの部分は、超伝導コイルSCがクエンチすることにより生じた抵抗によって消費される。この結果、超伝導コイルSCに流れる電流が時間の経過とともに減衰する。
【0029】
このようにして、超伝導コイルSCにおいてクエンチが発生した場合、この超伝導コイルSCにおける蓄えられていたエネルギーの一部が、保護抵抗RSで熱として消費されるので、超伝導コイルSCの内部で熱として消費される量を低減することができる。この結果、超伝導コイルSCの温度上昇を抑制することができ、クエンチ発生時から超伝導状態に回復するまでの冷却時間を短縮することができる。
【0030】
(誘導コイルの第1の配置例)
続いて、誘導コイルICの第1の配置例(Case1)について
図3を用いて説明する。
図3は、誘導コイルICの第1の配置例を示す模式図である。
図3の超伝導マグネット装置SMは、超伝導主コイルS0、第1の超伝導シールドコイルS1、及び第2の超伝導シールドコイルS2を更に備える。第1の超伝導シールドコイルS1及び第2の超伝導シールドコイルS2は、超伝導主コイルS0の外周側に設けられており、超伝導主コイルS0が形成する磁場の漏れを防止する。
【0031】
例えば、
図3に示すように超伝導主コイルS0が円筒状に巻かれている場合、例えば、第1の超伝導シールドコイルS1及び第2の超伝導シールドコイルS2は、超伝導主コイルS0の外周側で円筒状に巻かれており、巻き方向が超伝導主コイルS0とは反対である。これにより、第1の超伝導シールドコイルS1及び第2の超伝導シールドコイルS2には、超伝導主コイルS0とは反対回りに電流が流れるので、磁場の漏れを防止することができる。
【0032】
なお、第1の超伝導シールドコイルS1及び第2の超伝導シールドコイルS2の巻き方向が超伝導主コイルS0とは反対であるとしたが、これに限ったものではない。第1の超伝導シールドコイルS1及び第2の超伝導シールドコイルS2には、超伝導主コイルS0が形成する磁場を打ち消す磁場を形成する電流が流れるように構成されていればよい。
【0033】
(誘導コイルの第2の配置例)
続いて、
図4を用いて誘導コイルICの第2の配置例(Case2)について説明する。
図4は、誘導コイルの第2の配置例を示す模式図である。
図4の超伝導マグネット装置SMは、
図3の超伝導マグネット装置SMと同様に、超伝導主コイルS0、第1の超伝導シールドコイルS1、及び第2の超伝導シールドコイルS2を更に備える。
図4の第2の配置例では、誘導コイルICは、超伝導主コイルS0と第1の超伝導シールドコイルS1及び第2の超伝導シールドコイルS2との間に配置され、超伝導主コイルS0を囲むように円筒状に巻かれている。
【0034】
(誘導コイルの第3の配置例)
続いて、
図5を用いて誘導コイルICの第3の配置例(Case3)について説明する。
図5は、誘導コイルの第3の配置例を示す模式図である。
図5の超伝導マグネット装置SMは、
図3の超伝導マグネット装置SMと同様に、超伝導主コイルS0、第1の超伝導シールドコイルS1、及び第2の超伝導シールドコイルS2を更に備える。
図5の第3の配置例では、誘導コイルは、超伝導主コイルS0の内周側に配置されている。
【0035】
続いて、
図6を用いて上述した三つの配置例における超伝導コイルSCと誘導コイルICとの結合係数を説明する。
図6は、誘導コイルICの配置例毎の結合係数を示す表である。
図6の表では、配置例(Case)毎に、誘導コイルICの位置と結合係数の組が示されている。三つの配置例のうち第3の配置例で、最も結合係数が高いので、超伝導コイルSCのクエンチ発生時に誘導コイルICで最も多くのエネルギーを回収できる。このように、結合係数が高くなるように、誘導コイルICは超伝導主コイルS0のなるべく近くに配置されていることが好ましい。これにより、超伝導コイルSCのクエンチ発生時に誘導コイルICでなるべく多くのエネルギーを回収することができる。
【0036】
また、超伝導マグネット装置SMが、超伝導コイルSCの外周側に設けられ、超伝導コイルが形成する磁場の漏れを防止する超伝導シールドコイルを更に備える場合、誘導コイルICは、超伝導コイルSCの外周側よりも、超伝導コイルSCの内周側に配置されていることが好ましい。超伝導コイルSCの外周側において、超伝導シールドコイルが形成する磁場によって超伝導主コイルS0が形成する磁場が打ち消されて低減する。このため、仮に、誘導コイルICが超伝導コイルSCの外周側に配置された場合、その打ち消された分だけ、誘導コイルICの誘導電流が小さくなる。例えば、仮に超伝導コイルSCの外周側と内周側それぞれに、超伝導コイルSCから同じ距離だけ離れた位置に誘導コイルICを配置する場合を比較すると、超伝導コイルSCの内周側に配置した方が、誘導コイルICには大きな誘導電流が流れるので、誘導コイルICは、超伝導コイルSCのクエンチ発生時により多くのエネルギーを回収できる。
【0037】
超伝導コイルSCのクエンチ発生後に誘導コイルICが回収するエネルギーが所定値以上になるように、保護抵抗RSの設置場所、すなわち保護抵抗RSの温度が設定されていてもよい。
【0038】
以上、本実施形態における超伝導マグネット装置SMは、磁場を形成する超伝導コイルSCと、超伝導コイルSCが形成する磁場により誘導電流を発生させる誘導コイルICと、誘導コイルICにて発生した誘導電流が流れる保護抵抗RSと、第1の温度以下になるよう冷却された第1のステージSTG1と、第1の温度より低い第2の温度以下になるよう冷却された第2のステージSTG2であって超伝導コイルSCに連結されて超伝導コイルSCを冷却する第2のステージSTG2と、を有する冷凍機RMと、超伝導コイルSC及び誘導コイルICを収容し、内部を真空状態に保つ真空容器VVと、を備える。保護抵抗RSは、第1のステージSTG1または真空容器VVに連結されている。
【0039】
これにより、超伝導コイルSCにクエンチが発生した場合に、誘導コイルICは、超伝導コイルSCに発生したエネルギーの一部を回収し、回収されたエネルギーが保護抵抗RSで熱として消費される。この結果、超伝導コイルSCで熱として消費されるエネルギーを低減できるので、超伝導コイルSCの温度上昇を抑制することができ、クエンチ発生時から超伝導状態に回復するまでの冷却時間を短縮することができる。
【0040】
また、本実施形態における誘導コイルICを構成する導体は高温超伝導材料により作製されている。このため、超伝導コイルSCのクエンチ発生時に超伝導コイルSCが発熱して誘導コイルICの温度が超伝導状態を維持できる範囲である程度上昇しても、誘導コイルICにおいてエネルギーを消費することを防止し、誘導コイルICが回収したエネルギーを保護抵抗RSに供給することができる。これにより、超伝導コイルSCのクエンチ発生時に誘導コイルICが回収するエネルギーが所定の値以上になるように、保護抵抗RSの抵抗値Rを任意に決めることができる。
【0041】
なお、保護抵抗RSは、真空容器VVと輻射シールドSLDとの間に配置され、輻射シールドSLDではなく真空容器VVに連結されていてもよい。この場合においても、保護抵抗RSで生じる熱を真空容器VVに放出することができる。その場合、第1の高温超伝導電流リードHLD1及び第2の高温超伝導電流リードHLD2は、輻射シールドSLDを貫通して設けられていてもよい。高温超伝導電流リードが含有するセラミックは熱伝導率が低いので、輻射シールドSLD外から輻射シールドSLD内へ伝導する熱を低減することができる。この結果、超伝導コイルSCのクエンチ発生時に、輻射シールドSLD内の温度上昇を抑えることができるので、輻射シールドSLD内に設置された超伝導コイルSCの温度上昇を抑制することができ、クエンチ発生時から超伝導状態に回復するまでの冷却時間を短縮することができる。
【0042】
以上、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。