特許第6239402号(P6239402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239402
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】ガスエンジン及びその運転制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 19/10 20060101AFI20171120BHJP
   F02B 19/12 20060101ALI20171120BHJP
   F02B 43/00 20060101ALI20171120BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   F02B19/10 G
   F02B19/12 E
   F02B43/00 A
   F02M21/02 L
   F02M21/02 S
   F02M21/02 301A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-27573(P2014-27573)
(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151959(P2015-151959A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年11月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】小柴 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】小倉 和雄
(72)【発明者】
【氏名】古川 雄太
【審査官】 堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−248850(JP,A)
【文献】 特開2002−317664(JP,A)
【文献】 特開平6−33836(JP,A)
【文献】 特開2009−243471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 1/00−23/10、43/00−45/10
F02M 21/00−21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとシリンダヘッドとの間に画定される主室と、該主室と噴孔を介して連通される副室と、該副室に燃料ガスを供給する副室ガス供給路と、を備え、
燃料ガス供給圧力と前記主室側の筒内圧との圧力差により開閉期間が決まる逆止弁により前記副室への燃料ガス供給を制御するガスエンジンであって、
前記副室に供給する燃料ガス量を算出する燃料ガス量演算部と、
前記燃料ガス量となるように前記副室ガス供給路から前記副室に供給する燃料ガス供給圧力を制御する燃料ガス供給圧力制御部と、
前記逆止弁の弁体の移動に基づいて前記逆止弁の開閉動作を検出して、前記逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間を検出する開弁状態検出部と、を備え、
前記燃料ガス供給圧力制御部は、前記開弁タイミング及び前記開弁期間の検出値に基づいて前記燃料ガス供給圧力の調整を行うガスエンジン。
【請求項2】
前記燃料ガス供給圧力の調整は、
前記開弁タイミングが設定より遅く、かつ、前記開弁期間が設定より短い場合に前記燃料ガス供給圧力を上げ、
前記開弁タイミングが設定より早く、かつ、前記開弁期間が設定より長い場合に前記燃料ガス供給圧力を下げることを特徴とする請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項3】
前記燃料ガス供給圧力の調整は、前記筒内圧の変化に応じてなされることを特徴とする請求項1に記載のガスエンジン。
【請求項4】
前記開弁状態検出部を複数から選択した一つの代表気筒に設け、他の気筒の前記燃料ガス供給圧力制御部は、前記代表気筒に追従した制御を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガスエンジン。
【請求項5】
ピストンとシリンダヘッドとの間に画定される主室と、該主室と噴孔を介して連通される副室と、該副室に燃料ガスを供給する副室ガス供給路と、を備え、
燃料ガス供給圧力と前記主室側の筒内圧との圧力差により開閉期間が決まる逆止弁により前記副室への燃料ガス供給を制御するガスエンジンの運転制御方法であって、
前記副室に供給する燃料ガス量を燃料ガス量演算部で算出し、前記燃料ガス量となるように前記副室ガス供給路から前記副室に供給する燃料ガス供給圧力を燃料ガス供給圧力制御部で制御するとともに、
前記逆止弁の弁体の移動に基づいて前記逆止弁の開閉動作を検出して、前記逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間を検出した検出値に基づいて前記燃料ガス供給圧力の調整を行うガスエンジンの運転制御方法。
【請求項6】
ピストンとシリンダヘッドとの間に画定される主室と、該主室と噴孔を介して連通される副室と、該副室に燃料ガスを供給する副室ガス供給路と、を備え、
燃料ガス供給圧力と前記主室側の筒内圧との圧力差により開閉期間が決まる逆止弁により前記副室への燃料ガス供給を制御するガスエンジンの運転制御方法であって、
前記副室に供給する燃料ガス量を燃料ガス量演算部で算出し、前記燃料ガス量となるように前記副室ガス供給路から前記副室に供給する燃料ガス供給圧力を燃料ガス供給圧力制御部で制御するとともに、
開弁状態検出部で、前記逆止弁の弁体の移動に基づいて前記逆止弁の開閉動作を事前に検出して、事前に検出した前記逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間と前記燃料ガス供給圧力及び前記筒内圧との関係を示すデータベースを作成し、該データベースに基づいて前記燃料ガス供給圧力の調整を行うガスエンジンの運転制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス等の燃料ガスを燃料として運転されるガスエンジン及びその運転制御方法に係り、特に、燃焼室に副室を備えて燃料ガスの供給を逆止弁で制御するガスエンジン及びその運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンは天然ガス等の燃料ガスを燃料として運転され、一般に燃焼室として主室の他に副室を有している。そして、副室において混合気を着火してトーチ火炎を生成し、このトーチ火炎を主室に向かって噴出することにより、主室にある混合気を燃焼するようになっている。なお、副室には主室よりも濃い混合気が供給されるようになっており、主室とは別の供給路を介して、燃料ガスが供給されるようになっている。
【0003】
図4は、燃焼室に副室を備えた従来のガスエンジンについて、副室周りの構成例を示す要部断面図である。
図示のガスエンジンは、ピストン(不図示)とシリンダヘッド1との間にメイン燃焼室である主室60が画定され、さらに、シリンダヘッド1の上部には、副室口金2の内部に副室4が形成されている。この副室4は、主室60と噴孔3を介して連通されている。
【0004】
また、図中の符号6sは逆止弁挿入孔であり、燃料ガスの供給を制御する逆止弁6が設置されている。逆止弁挿入孔6sの内部は、逆止弁6の設置により逆止弁上方室28と逆止弁下方室29との2つの空間に画成されている。一方の逆止弁上方室28には、副室ガス供給路14が接続されて図示しない燃料ガス供給源と連通し、さらに、逆止弁下方室29と副室4との間は連絡孔5によって連通されている。上述した逆止弁6は、燃料ガス供給源から副室4に向かう流れのみ許容する。
なお、図中の符号1aは水室、6aは逆止弁挿入孔6sの中心線、9は逆止弁ホルダ、10は点火プラグである。
【0005】
このようなガスエンジンにおいては、例えば下記の特許文献に開示されているように、副室燃料供給路を並列的に複数形成する構成(特許文献1参照)や、電磁弁の開放時間を延長する絞り部を副室ガス流路に設ける構成(特許文献2参照)により、副室に対する燃料ガス流量を制御する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−221937号公報
【特許文献2】特開2013−113256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、副室4が設置されたガスエンジンにおいては、副室4への燃料ガス供給装置として、圧力差により開弁期間が決まる逆止弁6を採用している。この逆止弁6は、副室4へ供給する燃料ガスの供給圧力と主室60側の筒内圧との圧力差により開弁期間が決まるため、副室4へ供給する燃料ガスの流量(供給量)制御が困難であった。また、このようなガスエンジンは、1サイクル内のどの時期に逆止弁6が開いているのか、そして、開弁期間にサイクリックなばらつきがあるのか、についても明確ではない。
このように、逆止弁6を用いて副室4へ燃料ガスを供給するガスエンジンは、運転条件によって逆止弁6の開弁タイミングや開弁期間が変化するため、燃料ガスの流量制御を適切に行うことが困難であるという問題を有している。
【0008】
また、逆止弁6は、異物(油分や微粒子等)の混入、摩耗、ばね定数の変化等の経年変化により、挙動が変化する可能性もある。このような逆止弁6の挙動変化も、燃料ガスの流量制御を困難にする要因の一つとなっている。
さらに、燃料ガスのメタン価や成分が地域や季節のような環境によって変化することや、ガスエンジンの機関経年変化により同一出力における副室内圧力が変化してくる可能性もあるため、これらも燃料ガスの流量制御を困難にする要因となる。
【0009】
このような背景から、燃焼室に副室を備えて燃料ガスの供給を逆止弁で制御するガスエンジンにおいては、燃料ガスの流量制御を改善することにより、運転効率の向上や燃焼変動の抑制を実現することが望まれる。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、燃焼室に副室を備えて燃料ガスの供給を逆止弁で制御するガスエンジンにおいて、運転効率の向上や燃焼変動の抑制を実現できるガスエンジン及びその運転制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明の第1態様に係るガスエンジンは、ピストンとシリンダヘッドとの間に画定される主室と、該主室と噴孔を介して連通される副室と、該副室に燃料ガスを供給する副室ガス供給路と、を備え、燃料ガス供給圧力と前記主室側の筒内圧との圧力差により開閉期間が決まる逆止弁により前記副室への燃料ガス供給を制御するガスエンジンであって、前記副室に供給する燃料ガス量を算出する燃料ガス量演算部と、前記副室ガス供給路から前記副室に供給する燃料ガス供給圧力を制御する燃料ガス供給圧力制御部と、前記逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間を検出する開弁状態検出部と、を備え、前記燃料ガス供給圧力制御部は、前記開弁タイミング及び前記開弁期間の検出値に基づいて前記燃料ガス供給圧力の調整を行うことを特徴とするものである。
【0011】
このような第1態様のガスエンジンによれば、副室に供給する燃料ガス量を算出する燃料ガス量演算部と、副室ガス供給路から副室に供給する燃料ガス供給圧力を制御する燃料ガス供給圧力制御部と、逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間を検出する開弁状態検出部と、を備え、燃料ガス供給圧力制御部は、開弁タイミング及び開弁期間の検出値に基づいて燃料ガス供給圧力の調整を行うので、逆止弁が実際に動作した開弁タイミング及び開弁期間を反映した適切な燃料ガスの流量制御が可能になる。
【0012】
上記のガスエンジンにおいて、前記燃料ガス供給圧力の調整は、前記開弁タイミングが設定より遅く、かつ、前記開弁期間が設定より短い場合に前記燃料ガス供給圧力を上げ、前記開弁タイミングが設定より早く、かつ、前記開弁期間が設定より長い場合に前記燃料ガス供給圧力を下げることが好ましく、これにより、燃料ガスの供給量(流量)を適正に調整することができる。すなわち、燃料ガス供給圧力を上げて高くすることにより、燃料ガスの流量が増加するので、開弁期間が設定より短い場合の燃料ガス供給量を増すことができ、反対に、燃料ガス供給圧力を下げて低くすることにより、燃料ガスの流量が減少するので、開弁期間が設定より長い場合の燃料ガス供給量を低減することができる。
【0013】
この場合、前記燃料ガス供給圧力の調整は、前記筒内圧の変化に応じてなされることが好ましく、これにより、ガスエンジンの起動時(立ち上げ時)、低回転数運転時、燃料ガスの組成変化時及び運転環境変化時等のように、主室側の筒内圧が変化するような運転状況においても、燃料ガスの供給量(流量)を適正に調整することができる。
【0014】
また、上記のガスエンジンにおいては、前記開弁状態検出部を複数から選択した一つの代表気筒に設け、他の気筒の前記燃料ガス供給圧力制御部は、前記代表気筒に追従した制御を行うようにしてもよく、これにより、開弁状態検出部の数を最小限に抑えて燃料ガスの供給量を適正に調整することができる。
【0015】
本発明の第2態様に係るガスエンジンの運転制御方法は、ピストンとシリンダヘッドとの間に画定される主室と、該主室と噴孔を介して連通される副室と、該副室に燃料ガスを供給する副室ガス供給路と、を備え、燃料ガス供給圧力と前記主室側の筒内圧との圧力差により開閉期間が決まる逆止弁により前記副室への燃料ガス供給を制御するガスエンジンの運転制御方法であって、前記副室に供給する燃料ガス量を燃料ガス量演算部で算出し、前記燃料ガス量となるように前記副室ガス供給路から前記副室に供給する燃料ガス供給圧力を燃料ガス供給圧力制御部で制御するとともに、前記逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間を検出した検出値に基づいて前記燃料ガス供給圧力の調整を行うことを特徴とするものである。
【0016】
このような第2態様のガスエンジンの運転制御方法によれば、副室に供給する燃料ガス量を燃料ガス量演算部で算出し、この燃料ガス量となるように副室ガス供給路から副室に供給する燃料ガス供給圧力を燃料ガス供給圧力制御部で制御するとともに、逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間を検出した検出値に基づいて燃料ガス供給圧力の調整を行うので、逆止弁が実際に動作した開弁タイミング及び開弁期間を反映した適切な燃料ガスの流量制御が可能になる。
【0017】
本発明の第3態様に係るガスエンジンの運転制御方法は、ピストンとシリンダヘッドとの間に画定される主室と、該主室と噴孔を介して連通される副室と、該副室に燃料ガスを供給する副室ガス供給路と、を備え、燃料ガス供給圧力と前記主室側の筒内圧との圧力差により開閉期間が決まる逆止弁により前記副室への燃料ガス供給を制御するガスエンジンの運転制御方法であって、前記副室に供給する燃料ガス量を燃料ガス量演算部で算出し、前記燃料ガス量となるように前記副室ガス供給路から前記副室に供給する燃料ガス供給圧力を燃料ガス供給圧力制御部で制御するとともに、開弁状態検出部で事前に検出した前記逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間と前記燃料ガス供給圧力及び前記筒内圧との関係を示すデータベースを作成し、該データベースに基づいて前記燃料ガス供給圧力の調整を行うことを特徴とするものである。
【0018】
このような第3態様のガスエンジンの運転制御方法によれば、副室に供給する燃料ガス量を燃料ガス量演算部で算出し、この燃料ガス量となるように副室ガス供給路から副室に供給する燃料ガス供給圧力を燃料ガス供給圧力制御部で制御するとともに、開弁状態検出部で事前に検出した逆止弁の開弁タイミング及び開弁期間と燃料ガス供給圧力及び筒内圧との関係を示すデータベースを作成し、該データベースに基づいて燃料ガス供給圧力の調整を行うようにしたので、ガスエンジンが開弁状態検出部を備えていなくても、逆止弁が実際に動作した開弁タイミング及び開弁期間を反映した適切な燃料ガスの流量制御が可能になる。すなわち、開弁状態検出部は、データベースの作成時にのみ使用されるものであるから、開弁状態検出部の常設が困難な既設エンジンにも容易に適用することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明によれば、燃焼室に副室を備えて燃料ガスの供給を逆止弁で制御するガスエンジンは、燃料ガスの流量制御が改善されたことにより、広範囲の運転領域で運転効率の向上や燃焼変動の抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係るガスエンジン及びその運転制御方法の一実施形態として、燃焼室に副室を備えたガスエンジンの副室周りの構成例を示す要部断面図である。
図2】開弁期間の変化に応じた燃料ガス供給圧力の調整を示す説明図であり、クランク角度を横軸にして、縦軸に逆止弁のリフト量(逆止弁リフト量)及び圧力が示されている。
図3】筒内圧の変化に応じた燃料ガス供給圧力の調整を示す説明図であり、クランク角度を横軸にして、縦軸に逆止弁のリフト量(逆止弁リフト量)及び圧力が示されている。
図4】燃焼室に副室を備えたガスエンジンの従来例として、副室周りの構成例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るガスエンジン及びその運転制御方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るガスエンジンの副室周りを示す要部断面図である。このガスエンジンは、メイン燃焼室である主室60と、副室4と、副室ガス供給路14とを備え、副室4において点火プラグ10により混合気を着火してトーチ火炎を生成し、このトーチ火炎を主室60に向かって噴出することにより、主室60にある混合気を燃焼するようになっている。
【0022】
図示の実施形態において、ピストン(不図示)とシリンダヘッド1との間には、メイン燃焼室である主室60が画定されている。また、シリンダヘッド1の上部には、水室1aに囲まれて副室口金2が固定されており、この副室口金2の内部には副室4が形成されている。この副室4は、主室60と噴孔3を介して連通され、図示しない燃料ガス供給源に接続された副室ガス供給路14を介して燃料ガスの供給を受けるようになっている。
なお、副室口金2は、その上部の副室上面を点火プラグ押え13及び押え金具12により押圧されてシリンダヘッド1に固定され、点火プラグ10は、点火プラグ押え13内に取付けシート面を介して固定されている。
【0023】
点火プラグ押え13には、副室4の上方となる位置に逆止弁挿入孔6sが形成されている。逆止弁挿入孔6sの下部には、逆止弁ホルダ9に支持されて燃料ガスの供給を制御する逆止弁6が設置されている。この逆止弁6が設置されることにより、逆止弁挿入孔6sの内部には、逆止弁上方室28及び逆止弁下方室29の2つの空間が画成されており、逆止弁下方室29と副室4とは、連絡孔5によって連通されている。
また、点火プラグ押え13の側部には、逆止弁上方室28と連通するように、副室ガス供給路14の一端が接続されている。
【0024】
本実施形態の逆止弁6は、逆止弁上方室28から逆止弁下方室29へ向かう方向の流れを許容するものであり、燃料ガス供給圧力と主室60側の筒内圧との圧力差(差圧)により開閉期間が決まる。すなわち、逆止弁6は、燃料ガス供給圧力と主室60側の筒内圧との圧力差によって開閉し、副室4への燃料ガス供給を制御する弁である。
そして、本実施形態のガスエンジンは、副室4に供給する燃料ガス量を算出する燃料ガス量演算部となる燃料ガス量演算装置30と、副室ガス供給路14から副室4に供給する燃料ガス供給圧力を制御する燃料ガス供給圧力制御部となる燃料ガス供給圧制御装置40及び圧力制御弁41と、逆止弁6の開弁タイミング及び開弁期間を検出する開弁状態検出部となる開弁タイミング・開弁期間検知装置(以下、「検知装置」と呼ぶ)50を備えている。
【0025】
燃料ガス量演算装置30には、例えばエンジン回転数31、負荷信号32、燃料性状33及び外気温度34が必要に応じて入力される。ここに示したエンジン回転数31、負荷信号32、燃料性状33及び外気温度34は、通常のガスエンジンが備えている運転状況等の検出データや運転時の入力データである。
この燃料ガス量演算装置30では、入力された検出データ等に基づいて、副室4に供給する燃料ガス量を算出する。ここで算出された燃料ガス量は、燃料ガス供給圧制御装置40に入力される。
【0026】
検知装置50は、逆止弁6が実際に開閉動作する状況について、例えばギャップセンサ51を用いて検出(計測)し、燃料ガス供給圧制御装置40や燃料ガス量演算装置30に入力する装置である。すなわち、検知装置50は、開閉動作によって逆止弁6の弁体が移動するので、過電流式変異センサ等のギャップセンサ51により弁体との間隔Lを継続的に測定し、測定値の変化から逆止弁6の開弁タイミングや開弁期間を検出する。この検出値は、燃料ガス供給圧制御装置40に入力される。
【0027】
この場合、ばねの付勢を受けている逆止弁6の弁体は、吸入行程など筒内圧が低く燃料ガス供給圧力との圧力差が大きい場合に開弁して副室4へ燃料ガスを供給し、排気行程など筒内圧が高く燃料ガス供給圧力との圧力差が小さい場合に閉弁して燃料ガス供給を停止する。すなわち、略一定の燃料ガス供給圧力に対して、筒内圧はガスエンジンの行程に応じて変動するので、逆止弁6は、主室60内の圧力(筒内圧)と燃料ガス供給圧力との圧力差が所定値より大きい場合にリフト量が大となる上方へ移動して開弁し、反対に、主室60内の圧力と燃料ガス供給圧力との圧力差が所定値より小さい場合にリフト量が小となる下方へ移動して閉弁する。
【0028】
燃料ガス供給圧制御装置40及び圧力制御弁41を具備してなる燃料ガス供給圧力制御部は、逆止弁6の開弁タイミング及び開弁期間の検出値に基づいて燃料ガス供給圧力の調整を行うものである。すなわち、燃料ガス供給圧制御装置40は、燃料ガス量演算装置30及び検知装置50から入力された燃料ガス量、開弁タイミング及び開弁期間に基づいて燃料ガス供給圧力を算出し、この燃料ガス供給圧力となるように圧力制御弁41の開度制御信号を出力する。
圧力制御弁41は、開度信号に応じて開度を変化させる動作をする。このため、副室ガス供給路14へ略一定の圧力で供給される燃料ガスは、圧力制御弁41の開度に応じて副室4へ供給する燃料ガス供給圧力が調整される。
【0029】
このようにして燃料ガス供給圧力を調整するガスエンジンは、燃料ガスの流量制御に逆止弁6が実際に動作した開弁タイミング及び開弁期間を反映できるようになり、適切な燃料ガスの流量制御が可能になる。すなわち、流量と相関関係にある燃料ガス供給圧力を調整する圧力制御弁41の開度制御に対し、逆止弁6が実際に動作した開弁タイミング及び開弁期間を反映させてフィードバック制御を行うので、逆止弁6の実情を反映した適切な燃料ガス供給量を副室4に供給することが可能になる。
【0030】
以下では、燃料ガス供給圧力制御装置40の燃料ガス供給圧力の調整について、具体的に説明する。
燃料ガス供給圧力制御装置40は、検知装置50からの入力データに基づいて、逆止弁6の開弁タイミングが設定より遅く、かつ、開弁期間が設定より短い場合に燃料ガス供給圧力を上げ、開弁タイミングが設定より早く、かつ、開弁期間が設定より長い場合に燃料ガス供給圧力を下げる。
【0031】
逆止弁6の開弁タイミングが設定より遅く、かつ、開弁期間が設定より短い場合には、燃料ガスの供給量が所定の供給量より少ない状況にあると判断できるため、圧力制御弁41に対して設定値より燃料ガス供給圧力を上げる方向の開度制御信号、すなわち開度を増す方向の開度制御信号を出力する。この結果、燃料ガス供給圧力の上昇に伴って燃料ガス供給量も増加するので、逆止弁6の開弁タイミングや開弁期間により生じる燃料ガス供給量の不足分を調整して修正することができる。
【0032】
また、逆止弁6の開弁タイミングが設定より早く、かつ、開弁期間が設定より長い場合には、燃料ガスの供給量が所定の供給量より多い状況にあると判断できるため、圧力制御弁41に対して設定値より燃料ガス供給圧力を下げる方向の開度制御信号、すなわち開度を絞る方向の開度制御信号を出力する。この結果、燃料ガス供給圧力の下降に伴って燃料ガス供給量も減少するので、逆止弁6の開弁タイミングや開弁期間により生じる燃料ガス供給量の増加分を調整して修正することができる。
【0033】
すなわち、例えば図2に示すように、開弁タイミングa1/閉弁タイミングb1で開弁期間Taとなる場合から、開弁タイミングa2/閉弁タイミングb2で開弁期間Tbとなる場合の範囲内においては、検知装置50からの入力データに基づいて、副室4へ供給する燃料ガス供給圧力をP1〜P2の圧力範囲ΔP内で調整することにより、逆止弁6の開弁タイミングや開弁期間により生じる燃料ガス供給量の増減分を調整して修正することができる。なお、図2において、開弁タイミングa1/閉弁タイミングb1で開弁期間Taとなる場合の燃料ガス供給圧力をP1とし、開弁タイミングa2/閉弁タイミングb2で開弁期間Tbとなる場合の燃料ガス供給圧力をP2とする。
【0034】
このような燃料ガス供給圧力の制御を行うことにより、逆止弁6を用いて燃料ガス供給を行うガスエンジンにおいても、副室4への適切な燃料ガスの供給タイミングや供給ガス流量を調整することが可能になる。そして、副室4に対する燃料ガス供給を適切に調整することにより、定格条件におけるガスエンジンの熱効率向上及び燃焼変動の抑制が可能となる。
また、上述した燃料ガス供給圧力の制御は、エンジン回転数31及び負荷信号(kW信号)32により逆止弁6の目標開弁タイミングまたは開弁期間をマッピングし、検知装置50により得られた実際の開弁タイミングまたは開弁期間と比較するものであるが、燃料性状33や外気温度34を加えて3Dマッピングとして制御することも可能である。
【0035】
ところで、上述したガスエンジンは、ガスエンジンの起動時(立ち上げ時)、低回転数運転時、燃料ガスの組成変化時及び運転環境変化時等のように、主室60側の筒内圧が変化するような運転状況においても、検知装置50により逆止弁6の開弁タイミングや開弁期間を把握できる。このため、燃料ガス供給圧力は、主室60の筒内圧変化に応じて調整することも可能である。
【0036】
具体的に説明すると、図3に示すように、筒内圧がPs1〜Ps3のように変化する場合、開弁期間Tが所定値となるように、燃料ガス供給圧力をP1〜P3のように調整する。換言すれば、開弁タイミングa/閉弁タイミングbと開弁期間Tとが設定値となるように、燃料ガス供給圧力と筒内圧との差圧を所定の値に調整する。
この場合、最も低い筒内圧がPs1に対して燃料ガス供給圧力も最も低いP1とし、最も高い筒内圧がPs3に対して燃料ガス供給圧力も最も低いP3とすることで、燃料ガス供給圧力と筒内圧との差圧を一定にすることができる。
【0037】
例えばガスエンジンの起動時においては、検知装置50で検出した開弁タイミングや開弁期間に応じて副室4へ供給する燃料ガスの圧力を徐々に上げていくことにより、スムーズに立ち上げることが可能となる。すなわち、徐々に上昇する起動時の筒内圧に応じて最適の燃料ガス供給圧力に調整し、燃料ガスの供給量を適正化した運転が可能となる。
このため、ガスエンジンの起動時には、起動時間の短縮や燃料ガス消費量の削減を実現するとともに、安定したエンジン立ち上げが可能となる。また、このような制御を行うガスエンジンは、低回転数や低負荷での運転時において、ガスエンジンの熱効率向上及び燃焼変動の抑制が可能となる。
【0038】
また、上述したガスエンジンは、燃料ガスの組成等が変化し、熱量が変化した場合においても、副室4へ燃料ガスを供給する逆止弁6の開弁タイミング及び開弁時期に応じて、副室4へ供給する燃料ガスの供給圧を調整することができる。
すなわち、検知装置50から得られた逆止弁6の計測結果に基づいて、副室6へ供給する燃料ガスの圧力を制御することにより、燃料ガスの組成変化や地域差にも対応可能となる。従って、ガスエンジンの仕様をその都度変更しなくても、熱量の異なる燃料ガスや運転時の温度条件変動等にも対応可能となり、1つの種類で多くの地域や運転条件をカバーできるガスエンジンを提供することが可能になる。
【0039】
ところで、上述した検知装置50は、ガスエンジンが複数の気筒を備えている場合、全ての気筒に設けてもよいが、複数から選択した代表する一つの気筒(代表気筒)にのみ設けてもよい。この場合、他の気筒については、燃料ガス供給圧力制御部を構成する燃料ガス供給圧制御装置40及び圧力制御弁41が、代表気筒に追従した制御を行うようにすればよい。
このように、検知装置50を代表気筒に設けることにより、検知装置50の数を最小限に抑えて燃料ガスの供給量を適正に調整することができる。
【0040】
上述した実施形態の構成を有するガスエンジンは、副室4に供給する燃料ガス量を燃料ガス量演算部30で算出し、この燃料ガス量となるように副室ガス供給路14から副室4に供給する燃料ガス供給圧力を燃料ガス供給圧制御装置40及び圧力制御弁41で制御するとともに、検知装置50で逆止弁6の開弁タイミング及び開弁期間を検出した検出値に基づいて燃料ガス供給圧力の調整を行う運転方法が可能となる。
このため、逆止弁6が実際に動作した開弁タイミング及び開弁期間を反映したフィードバック制御により、適切な燃料ガスの流量制御が可能になる。
【0041】
また、上述したガスエンジンの運転方法は、ガスエンジンが検知装置50を備えたものであるが、他の実施形態では、検知装置50で事前に検出した逆止弁6の開弁タイミング及び開弁期間と燃料ガス供給圧力及び筒内圧との関係を示すデータベースを作成し、このデータベースに基づいて燃料ガス供給圧力の調整を行うようにしてもよい。すなわち、この運転方法は、ガスエンジンに専用の検知装置50を設けるのではなく、事前に作成したデータベースに基づいて燃料ガス供給圧力の制御を行うものである。
【0042】
このようなガスエンジンの運転方法を採用すれば、ガスエンジンが検知装置50を備えていなくても、逆止弁6が実際に動作した開弁タイミング及び開弁期間を反映した適切な燃料ガスの流量制御が可能になる。すなわち、この運転方法は、データベースの作成時にのみ検知装置50を使用するものであるから、検知装置50の常設が困難な既設エンジンにも容易に適用することが可能になる。
【0043】
このように、上述した本実施形態のガスエンジンは、すなわち、燃焼室に副室4を備えて燃料ガスの供給を逆止弁6で制御するガスエンジンは、検知装置50で検出される逆止弁6の動作に基づいて副室4へ供給する燃料ガス供給圧をフィードバック制御するので、燃料ガスの流量制御が改善され、広範囲の運転領域で運転効率の向上や燃焼変動の抑制が可能となる。また、ガスエンジンの熱効率向上及び燃焼変動の抑制が可能となり、広範囲の運転領域で効率のよい燃焼を達成できるとともに、燃焼変動の抑制も可能となる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 シリンダヘッド
2 副室口金
3 噴孔
4 副室
5 連絡孔
6 逆止弁
6s 逆止弁挿入孔
9 逆止弁ホルダ
10 点火プラグ
14 副室ガス供給路
30 燃料ガス量演算装置(燃料ガス量演算部)
40 燃料ガス供給圧制御装置(燃料ガス供給圧力制御部)
41 圧力制御弁(燃料ガス供給圧力制御部)
50 開弁タイミング・開弁期間検知装置(開弁状態検出部)
51 ギャップセンサ
60 主室
図1
図2
図3
図4