特許第6239403号(P6239403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6239403炭化水素油の水素化精製用触媒およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239403
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】炭化水素油の水素化精製用触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/19 20060101AFI20171120BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20171120BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20171120BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20171120BHJP
   C10G 45/08 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
   B01J27/19 M
   B01J32/00
   B01J35/10 301A
   B01J37/08
   C10G45/08 Z
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-32399(P2014-32399)
(22)【出願日】2014年2月24日
(65)【公開番号】特開2015-157247(P2015-157247A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162008
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧澤 宣明
(72)【発明者】
【氏名】香川 智靖
(72)【発明者】
【氏名】松元 雄介
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−212448(JP,A)
【文献】 特開2009−119453(JP,A)
【文献】 特開平05−096175(JP,A)
【文献】 特開平02−071843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C10G 45/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物担体と、周期表第VIA族および第VIII族から選ばれる少なくとも1種の金属成分とからなる炭化水素油の水素化精製用触媒であって、
該担体は、
(a)シリカの含有量が、ケイ素酸化物(SiO)換算で6.0〜12.0質量%であり、
(b)リンの含有量が、リン酸化物(P)換算でP/SiOの重量比が0.2〜1.4となるように調製され、
(c)担体を透過型フーリエ変換赤外吸収スペクトル測定装置(FT-IR)により測定して得られた塩基性OH基の当該担体単位表面積当たりの吸光度(OHBS)と酸性OH基の当該担体単位表面積当たりの吸光度(OHAS)との比(OHBS)/(OHAS)が0.70〜0.95の範囲にある、
ことを特徴とする炭化水素油の水素化精製用触媒。
(但し、前記塩基性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3720〜3740cm−1の範囲にあり、吸光度(OHBS)が0.015〜0.035m−2の範囲にあり、前記酸性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3670〜3695cm−1の範囲にあり、吸光度(OHAS)が0.025〜0.050m−2の範囲にある。)
【請求項2】
前記担体は、水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が70〜110Åの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の炭化水素油の水素化精製用触媒。
【請求項3】
前記担体の水銀圧入法で測定した細孔分布において、全細孔容積(PVo)に対する平均細孔径(PD)±30%の細孔径の合計細孔容積(PVp)の割合(PVp/PVo)が、70%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化水素油の水素化精製用触媒。
【請求項4】
前記担体は、比表面積が350〜500m/gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の炭化水素油の水素化精製用触媒。
【請求項5】
前記担体は、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.70〜1.0ml/gの範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の炭化水素油の水素化精製用触媒。
【請求項6】
前記周期表第VIA族および第VIII族から選ばれる金属成分が、モリブデン、タングステン、コバルトおよびニッケルから選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の炭化水素油の水素化精製用触媒。
【請求項7】
前記担体にモリブデン、コバルトおよびニッケルが担持された炭化水素油の水素化精製用触媒であって、(d)モリブデンの含有量が、モリブデン酸化物(MoO)換算で15〜25質量%、(e)コバルトの含有量が、コバルト酸化物(CoO)換算で2.0〜5.0質量%、(f)ニッケルの含有量が、ニッケル酸化物(NiO)換算で0.5〜3.0質量%である(ただし、水素化精製用触媒を100質量%とする。)ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の炭化水素油の水素化精製用触媒。
【請求項8】
炭化水素油の水素化精製用触媒の製造方法であって、
(1)珪酸イオン、リン酸イオンを含む塩基性アルミニウム塩水溶液と酸性アルミニウム塩水溶液とを、pHが6.5〜9.5になるように添加してアルミニウムおよびケイ素と、リンの複合酸化物との水和物を得る第1工程と、
(2)前記水和物を順次洗浄、成型、乾燥及び焼成して担体を得る第2工程と、
(3)周期表第VIA族及び第VIII族か選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む含浸液を前記担体に接触させ金属を担持した担体を得る第3工程と、
(4)前記含浸液と接触させて得られる金属を担持した担体を乾燥し、さらに焼成して水素化精製用触媒を得る第4工程と、
を有することを特徴とする炭化水素油の水素化精製用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素存在下で炭化水素油中の硫黄分および窒素分を除去するための水素化精製用触媒、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、炭化水素油は、水素化精製用触媒を充填した固定床反応塔にて、水素気流中、高温高圧の反応条件において、水素化精製して脱硫する水素化精製処理が行なわれる。この水素化精製処理にて得られた生成物は、後段の流動接触分解装置(FCC)にて分解され、ガソリンとして使用される。従って、前記水素化精製用触媒は、ガソリンに残留する硫黄分を低減するために、高い脱硫活性が要求される。
【0003】
ここで、FCCで使用される触媒は、窒素を含んだ化合物により被毒されやすく、被毒を受けると分解ガソリン収率が低下してしまう。そこで、前記水素化精製用触媒には、高い脱硫活性に加えて、高い脱窒素活性も要求されている。このような水素化精製用触媒としては、例えばアルミナ等の担体にモリブデンやコバルト等の活性金属が担持されたものが広く使用されている。
【0004】
一方、アルミナ担体以外にもシリカやリン化合物も含む担体も開発されており、中でもシリカを含むアルミナ−シリカ系無機複合酸化物担体はアルミナ担体と比べ比表面積が高く高脱硫性能を示すことが知られている。このようなシリカの原料として例えばシリカヒドロゲルを用いて、アルミナ−シリカ−リン化合物を担体として利用した触媒が開発されている(特許文献1)。しかしながら、シリカヒドロゲルはシリカの重合体であり、ケイ素元素を高分散させたアルミナ−シリカ−リン化合物担体ではないことから、脱硫活性のより高い触媒が得られないという問題点があった。また、シリカヒドロゲルに含まれるシリカはイオン性ではないため、脱窒素活性についてそれ程高い特性が得られない。
【0005】
そこで、イオン性のシリカの原料であるケイ酸塩を含んだ溶液、例えば水ガラスを用いて調製したアルミナ−シリカ−リン化合物担体を用いた触媒が開発されている(特許文献2)。しかしながら、水ガラスを用いた場合、シリカ含有量を多くしていくと、後述の実施例から分かるように、高い脱硫活性が得られなくなってしまう。
【0006】
一方、シリカ含有量の多い担体としてアルミナ−シリカ担体にリンを担持するアルミナ−シリカ−リン化合物担体が開発されている(特許文献3)。しかしながら、リンはアルミナ−シリカ担体を調製後にドーピング元素として担持されており、アルミナ-シリカ担体表面に酸化リンが担持された担体であるため、脱硫活性のより高いものが得られないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−028491号公報
【特許文献2】特開2005−342693号公報
【特許文献3】特表2008−513209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、脱硫活性および脱窒素活性の両方に優れた炭化水素油の水素化精製用触媒およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物担体と、周期表第VIA族および第VIII族から選ばれる少なくとも1種の金属成分とからなる炭化水素油の水素化精製用触媒であって、
該担体は、
(a)シリカの含有量が、ケイ素酸化物(SiO)換算で6.0〜12.0質量%であり、
(b)リンの含有量が、リン酸化物(P)換算でP/SiOの重量比が0.2〜1.4となるように調製され、
(c)担体を透過型フーリエ変換赤外吸収スペクトル測定装置(FT-IR)により測定して得られた塩基性OH基の当該担体単位表面積当たりの吸光度(OHBS)と酸性OH基の当該担体単位表面積当たりの吸光度(OHAS)との比(OHBS)/(OHAS)が0.70〜0.95の範囲にある、
ことを特徴とする。
(但し、前記塩基性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3720〜3740cm−1の範囲にあり、吸光度(OHBS)が0.015〜0.035m−2の範囲にあり、前記酸性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3670〜3695cm−1の範囲にあり、吸光度(OHAS)が0.025〜0.050m−2の範囲にある。)
【0010】
本発明のより具体的な態様を例示する。
前記担体は、水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が70〜110Åの範囲にある。
前記担体の水銀圧入法で測定した細孔分布において、全細孔容積(PVo)に対する平均細孔径(PD)±30%の細孔径の合計細孔容積(PVp)の割合(PVp/PVo)が、70%以上である。
【0011】
前記担体は、比表面積が350〜500m/gの範囲にある。
前記担体は、水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が0.70〜1.0ml/gの範囲にある。
前記周期表第VIA族および第VIII族から選ばれる金属成分が、モリブデン、タングステン、コバルトおよびニッケルから選ばれる金属成分である。
【0012】
前記担体にモリブデン、コバルトおよびニッケルが担持された炭化水素油の水素化精製用触媒であって、(d)モリブデンの含有量が、モリブデン酸化物(MoO)換算で15〜25質量%、(e)コバルトの含有量が、コバルト酸化物(CoO)換算で2.0〜5.0質量%、(f)ニッケルの含有量が、ニッケル酸化物(NiO)換算で0.5〜3.0質量%である(ただし、水素化精製用触媒を100質量%とする。)。
【0013】
他の発明は、炭化水素油の水素化精製用触媒の製造方法であって、
(1)珪酸イオン、リン酸イオンを含む塩基性アルミニウム塩水溶液と酸性アルミニウム塩の混合水溶液を、pHが6.5〜9.5になるように添加してアルミニウムおよびケイ素と、リンの複合酸化物の水和物を得る第1工程と、
(2)前記水和物を順次洗浄、成型、乾燥及び焼成して担体を得る第2工程と、
(3)周期表第VIA族及び第VIII族か選ばれる少なくとも1種の金属成分を含む含浸液を前記担体に接触させ金属を担持した担体を得る第3工程と、
(4)前記含浸液と接触させて得られる金属を担持した担体を乾燥し、さらに焼成して水素化精製用触媒を得る第4工程と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の炭化水素油の水素化精製用触媒は、FT-IRにより測定した塩基性OH基の担体単位表面積当たりの吸光度(OHBS)と酸性OH基の当該担体単位表面積当たりの吸光度(OHAS)との比(OHBS)/(OHAS)について、0.70〜0.95の範囲となるようにしている。そのため、後述の実施例からも分かるように、脱硫および脱窒素活性に優れた触媒を得ることができる。
また、本発明の炭化水素油の水素化精製用触媒の製造方法によれば、脱硫および脱窒素活性に優れた水素化精製用触媒を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1で調製した担体aのFT−IR分析結果を示すグラフである。
図2】実施例1で調製した担体aの細孔径分布分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
<炭化水素油の水素化精製用触媒>
本発明の炭化水素油の水素化精製用触媒は、アルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物担体に、周期表第VIA族および第VIII族から選ばれる少なくとも1種の金属成分を担持して構成される。
【0017】
<無機複合酸化物担体>
本発明に係る炭化水素油の水素化精製用触媒に使用されるアルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物担体(以下、単に「本担体」ともいう。)は、以下の組成となっている。
【0018】
即ち、担体中のアルミニウムの含有量は、アルミニウム酸化物(Al:アルミナ)換算で75質量%以上であり、好ましくは80質量%以上である。酸化物換算のアルミニウムの含有量が75質量%未満であると、触媒劣化しやすくなる傾向にある。
【0019】
担体中のケイ素の含有量は、ケイ素酸化物(SiO:シリカ)換算で6.0〜12.0質量%であり、好ましくは6.5〜11.0質量%である。酸化物換算のケイ素含有量が6.0質量%よりも過度に小さいと、表面積が小さいことから脱硫および脱窒素性能が低下する傾向にある。12.0質量%より過度に大きいと、シリカが凝集し、担体細孔分布がブロードとなることから脱硫活性および脱窒素活性が低下する傾向にある。
【0020】
担体中のリンの含有量は、リン酸化物(P)換算で2.0〜10.0質量%であり、好ましくは2.5〜9.0質量%である。酸化物換算のリン含有量が2.0質量%よりも過度に小さいまたは10.0質量%より過度に大きいと、担体細孔分布がブロードとなり脱硫活性が低下する傾向にある。
【0021】
さらに、リンの含有量は、リン酸化物(P)換算でP/SiOの重量比が0.2〜1.4であり、好ましくは0.25〜1.35である。リンの含有量は、リン酸化物(P)換算でP/SiOの重量比で0.2よりも過度に小さいと、シリカの凝集が起こり、細孔分布がブロードとなり、さらに表面積が低下してしまうおそれがあり、1.4より過度に大きいと、活性金属の凝集が起こり活性が低下するおそれがある。
なお、上記アルミニウムおよびケイ素と、リンの含有量はいずれも、担体全体を100質量%とした際の量である。
【0022】
本発明の無機複合酸化物担体は、以下の(a)〜(d)の性状を有する。以下、それぞれについて詳しく説明する。なお、本発明における全細孔容積(PVo)は、水銀圧入法により測定可能な細孔直径を有する細孔の細孔容積の合計値である。また、本発明においては、細孔直径、および細孔分布も、水銀圧入法により測定したものであり、細孔直径は、水銀の表面張力480dyne/cm、接触角150°を用いて計算した値である。また、細孔容積(PV)は水のポアフィリング法にて測定した値である。
【0023】
(a)水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が、0.70〜1.0ml/gである点
水のポアフィリング法で測定した細孔容積(PV)が、0.70〜1.0ml/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.75〜0.95ml/gである。細孔容積(PV)が、0.70ml/gよりも過度に小さいと、脱硫活性が低くなり、脱硫性能が低下するおそれがあるため好ましくない。一方、細孔容積(PV)が、1.0ml/gより過度に大きいと触媒強度が低下するおそれがあるので好ましくない。さらに、細孔容積(PV)が、1.0ml/gより過度に大きいと、充填密度が低くなり、脱硫活性が低下する傾向もあるので好ましくない。
【0024】
(b)BET法で測定した比表面積(SA)が、350〜500m2/gである点
BET法で測定した比表面積(SA)が、350〜500m2/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは370〜480m2/gである。細孔容積(PV)が、350m2/gよりも過度に小さいと、金属成分が凝集しやすくなり、脱硫性能が低下するおそれがあるため好ましくない。一方、細孔容積(PV)が、500m2/gより過度に大きいと平均細孔径や細孔容積が小さくなり脱硫活性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0025】
(c)水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が、70〜110Åである点
水銀圧入法で測定した平均細孔径(PD)が、70〜110Åであることが好ましい。平均細孔径(PD)が、70Åよりも過度に小さいと金属成分が含浸しにくく実用的でない。一方、平均細孔径(PD)が、110Åより過度に大きいと触媒強度の低下するおそれがあるので好ましくない。
【0026】
(d)水銀圧入法で測定した細孔分布において、全細孔容積(PVo)に対する、平均細孔径(PD)±30%の細孔径の合計細孔容積(PVp)の割合(PVp/PVo)について、70%以上である点
水銀圧入法で測定した細孔分布において、平均細孔径(PD)とは、各細孔径における細孔容積を例えば口径の大きな細孔から順に積算して積算値を求めたとき、この積算値が全細孔容積(PVo)の半分に達した時の細孔径を意味している。そして、この平均細孔径(PD)に対して±30%の範囲における細孔径の細孔容積を合計した値である合計容積(PVp)を計算して、この合計容積(PVp)の全細孔容積(PVo)に対する割合(PVp/PVo)を求めると、この割合(PVp/PVo)は、細孔分布のシャープさを示す度合いとなる。即ち、前記割合(PVp/PVo)が100%に近い程、細孔径が小さすぎたり大きすぎたりする細孔の度合いが少なくなり、一方前記割合が小さくなる程、細孔径のばらつきが大きくなる。
【0027】
そして、本発明では、細孔分布がある程度シャープとなっていることが好ましく、具体的な数値範囲で表すと、既述のように全細孔容積(PVo)に対する平均細孔径(PD)±30%の細孔径の合計細孔容積(PVp)の割合(PVp/PVo)について、70%以上である。好ましくは、前記割合(PVp/PVo)は、75%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。PVp/PVoについて、70%よりも過度に小さいと平均細孔分布がブロードであり、比表面積の低下にもつながり脱硫活性が悪くなるおそれがある。
【0028】
本発明に係る水素化精製用触媒に用いられる担体は、アルミナ系複合酸化物からなり、透過型フーリエ変換赤外吸収スペクトル測定装置(FT−IR)により測定した酸性OH基に起因する本担体単位表面積当たりの吸光度(OHAS)と、前記FT−IRにより測定した塩基性OH基に起因する当該担体単位表面積当たりの吸光度(OHBS)と、が各々所定の範囲内にあることが必要である。
【0029】
具体的には、OHASが0.025〜0.050m−2の範囲にあり、OHBSが0.015〜0.035m−2の範囲にあることが必要であり、OHASとOHBSとが各々この範囲にあることで、触媒担体表面における活性金属の分散性が向上し、脱硫性能が大幅に向上する。即ち、OHASは、担体に含まれるアルミナに起因するOH基であり、一方OHBSは、担体に含まれるシリカおよびリン酸化物に起因するOH基である。従って、これらOHASとOHBSとが各々所定の範囲にあるということは、担体にアルミナ、シリカ及びリン酸化物がそれぞれ任意の量含まれていることを意味しており、したがってシリカが高分散状態で担体に含まれつつ、脱硫活性及び脱窒素活性が本発明の水素化精製用触媒として必要とされるレベルに達していていると言える。
【0030】
ここで、前記酸性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3670〜3695cm-1の範囲にある。前記塩基性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3720〜3740cm−1の範囲にある。なお、上記したFT−IRによる測定法に関しては後述する。
【0031】
また、OHBSとOHASとの比(OHBS)/(OHAS)が0.70〜0.95の範囲にあり、本担体の比表面積が350〜500m/gの範囲にあると、本担体表面における活性金属の分散性がより向上するので好ましい。即ち、OHASとOHBSとがおのおの所定の範囲内となっているだけだと、担体中のアルミナに対するシリカ及びリン酸化物の割合がまちまちになり、脱硫活性と脱窒素活性とのバランスあるいはシリカの分散性についてそれ程厳密に設計しがたい。そこで、OHASとOHBSとの比を既述の範囲内に設定することにより、後述の実施例から分かるように、良好な触媒性能が得られる。OHBSとOHASとの比(OHBS)/(OHAS)が、0.70よりも過度に小さいと、活性金属の凝集が起こるおそれがあり、0.95より過度に大きいと、担体細孔分布がブロードとなるおそれがある。
【0032】
アルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物担体に担持される金属成分は、周期表第VIA族(IUPAC第6族)および第VIII族(IUPAC第8族〜第10族)から選ばれる。
周期表第VIA族の金属成分としては、モリブデン以外にはタングステンを好適に使用することができ、周期表第VIII族の金属成分としては、コバルト、ニッケルが好適に使用される。
【0033】
周期表第VIA族および第VIII族から選ばれる金属成分の総含有量は、触媒(担体及び金属成分を含む物質)基準で、酸化物として、1〜35質量%の範囲が好ましく、15〜30質量%の範囲が更に好ましい。このうち、周期表第VIA族の金属成分(モリブデン含む)の触媒に対する含有量は、酸化物として、好ましくは1〜30質量%の範囲、より好ましくは15〜25質量%の範囲にあることが望ましい。また、触媒に対する周期表第VIII族の金属成分の含有量は、酸化物として、好ましくは1〜10質量%の範囲、より好ましくは2〜6質量%の範囲にあることが望ましい。
【0034】
該水素化精製用触媒におけるモリブデン含有量は、モリブデン酸化物(MoO)換算で10〜28質量%であり、好ましくは15〜25質量%、より好ましくは17〜23質量%である。酸化物換算のモリブデン含有量が10質量%未満または28質量%を超えると、脱硫活性および脱窒素活性が急激に低下する傾向にあり、実用的でない。
コバルト含有量は、コバルト酸化物(CoO)換算で1.0〜5.0質量%であり、好ましくは2.0〜4.0質量%である。酸化物換算のコバルト含有量が1.0質量%未満であると、脱硫活性の低下が大きくなる傾向にあり、5.0質量%を超えると、脱硫活性の向上が見られない。
【0035】
ニッケル含有量は、ニッケル酸化物(NiO)換算で0.2〜3.0質量%である。酸化物換算のニッケル含有量が0.2質量%未満であると、脱窒素活性の低下が大きくなり、3.0質量%を超えると、脱硫活性が低下する。
なお、上記モリブデン、コバルトおよびニッケルの含有量はいずれも、水素化精製用触媒を100質量%とした際の量である。
金属成分の原料としては、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸コバルト、炭酸コバルト、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムなどが好ましく使用される。
【0036】
本発明の水素化精製用触媒は、炭化水素油、例えば、ガソリン、灯油、軽油、減圧軽油などに好適に使用される。これらの中でも、窒素分が多く、本発明の効果がとりわけ発揮される点では、減圧軽油が好ましい。該触媒を使用した水素化脱硫処理は、固定床反応装置に触媒を充填して、水素雰囲気下、高温高圧条件において、前記固定床反応装置内に炭化水素油を通流させて行なわれる。
減圧軽油とは、石油精製における常圧蒸留残油を減圧蒸留装置で処理した際の、沸点が340〜550℃の留分を70質量%以上含む留分である。常圧蒸留で処理される油は特に限定されないが、石油系の原油、オイルサンド由来の合成原油、石炭液化油、ビチュメン改質油などが挙げられる。
【0037】
本発明の触媒では、高い脱硫活性が得られるため、速やかに脱硫処理を行うことができ、したがって炭化水素油の水素化精製用精製処理量を向上させることができる。しかも、脱窒素活性が高いため、水素化精製用精製処理後の炭化水素油を接触分解する際にFCC触媒の劣化を防止できる。したがって、分解ガソリンの収率を向上させることができる。
【0038】
<炭化水素油の水素化精製用触媒の製造方法>
次に、本発明の炭化水素油の水素化精製用触媒の製造方法について説明する。
本発明に係る炭化水素油の水素化精製用触媒の製造方法は、以下の第1工程、第2工程、第3工程及び第4工程をこの順番で行う方法である。即ち、第1工程は、リン酸イオンの存在下で塩基性アルミニウム塩水溶液にケイ酸塩水溶液を混合させて混合液を調製すると共に、この混合液のpHが6.5〜9.5になるように酸性アルミニウム塩水溶液を混合して無機複合酸化物の水和物を得る工程である。第2工程は、前記水和物を順次洗浄、成型、乾燥、および焼成して無機複合酸化物担体を得る工程である。第3工程は、前記無機複合酸化物担体に、周期表第VIA族および第VIII族から選ばれる少なくとも1種の金属成分含む含浸液を接触させる工程である。第4工程は、第3工程で含浸液と接触させた担体を乾燥し、さらに焼成して水素化精製用触媒を得る工程である。以下、それぞれの工程について説明する。
【0039】
<第1工程>
まず、リン酸イオンの存在下で塩基性アルミニウム塩水溶液(これはアルカリ性の水溶液である。)にケイ酸塩水溶液を混合させ、酸性アルミニウム塩水溶液(これは酸性の水溶液である。)を、pHが6.5〜9.5、好ましくは6.5〜8.5、より好ましくは6.8〜8.0になるように混合して、アルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物の水和物を得る。
【0040】
本願発明のようにケイ素酸化物含有量が高い担体を調製するには、アルミニウム塩中にケイ酸イオンを混合する際、ケイ酸イオンの溶解度が低下しケイ酸イオンが凝集しやすくなることから、ケイ素が均一に分散した担体が得られ難いおそれがある。即ち、ケイ酸イオンの添加量が多いと、当該ケイ酸イオンの凝集体が担体とは別に生成してしまい、担体として見るとケイ素酸化物の含有量がそれ程多くならないおそれがある。そこで、本発明では、リン酸イオンを予め添加することでケイ酸イオンの凝集を抑制しているので、均一に分散状態を保つことができ、ケイ素酸化物含有量の高い担体を調製することが可能となる。
【0041】
ここで、塩基性アルミニウム塩水溶液に含有されるケイ酸イオンは、塩基性又は中性のものが使用できる。塩基性のケイ酸イオン源としては、ケイ酸ナトリウム等の水中でケイ酸イオンを生じるケイ酸化合物が使用可能である。
塩基性アルミニウム塩としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウムなどが好適に使用される。また、酸性アルミニウム塩としては、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが好適に使用される。
【0042】
また、塩基性アルミニウム塩水溶液に含有されるリン酸塩源としては、亜リン酸イオンをも包含し、リン酸アンモニア、リン酸カリウム、リン酸ナトリウムなどの水中でリン酸イオンを生じるリン酸化合物が使用可能である。
【0043】
例えば、所定量のリン酸イオンを含有する塩基性アルミニウム塩水溶液を撹拌機付きタンクに張り込み、ケイ酸塩水溶液を添加し、通常40〜90℃、好ましくは50〜70℃に加温して保持する。そして、この溶液のpHが6.5〜9.5、好ましくは6.5〜8.5、より好ましくは6.8〜8.0になるように、当該溶液の温度±5℃、好ましくは±2℃、より好ましくは±1℃に加温した所定量の酸性アルミニウム塩水溶液を通常5〜20分、好ましくは7〜15分で連続添加し沈殿を生成させ、水和物のスラリーを得る。ここで、塩基性アルミニウム塩水溶液に酸性アルミニウム塩水溶液を添加するにあたって、酸性アルミニウム塩水溶液の添加時間が長くなると擬ベーマイトの他にバイヤライトやギブサイト等の好ましくない結晶物が生成することがあるので、前記添加時間は、15分以下が望ましく、13分以下が更に望ましい。バイヤライトやギブサイトは、焼成した時に比表面積が低下するので、好ましくない。
【0044】
<第2工程>
第1工程で得られた無機複合酸化物の水和物のスラリーを、所望により熟成(加熱)した後、洗浄して副生塩を除き、アルミニウムおよびケイ素と、リンを含む水和物のスラリーを得る。得られた水和物のスラリーを、所望により更に加熱熟成した後、慣用の手段により、例えば、加熱捏和して成型可能な捏和物とした後、押出成型等により所望の形状に成型する。そして、この成型体について、通常70〜150℃、好ましくは90〜130℃で乾燥した後、更に400〜800℃、好ましくは450〜600℃で、0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間焼成して、アルミニウムおよびケイ素と、リンを含有する無機複合酸化物担体を得る。
【0045】
<第3工程>
得られたアルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物担体に、周期表第VIA族および第VIII族から選ばれた少なくとも1種の金属成分を含む含浸液を接触させる。
金属成分の原料としては、例えば、三酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、硝酸コバルト、炭酸コバルト等が好適に使用される。
【0046】
含浸液は、酸を用いてpHを4以下にして、金属成分を溶解させることが好ましい。pHが4を超えると溶解している金属成分の安定性が低下して析出する傾向にある。
前記金属成分の溶媒には、分散剤としてリン化合物またはキレート剤のどちらか1種、もしくは両方を用いてもよい。
【0047】
前記分散剤として使用されるリン化合物としては、好ましくは、オルトリン酸(以下、単に「リン酸」ともいう)、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、トリメタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸が用いられ、より好ましくは、オルトリン酸を用いることができる。
【0048】
水素化精製用触媒において、また、前記分散剤として使用されるリン化合物は、酸化モリブデンに対して、酸化物換算で3〜25質量%含有されることが好ましく、5〜15質量%の範囲で含有されることがより好ましい。リン化合物の含有量が、酸化モリブデンに対して、25質量%を超えると予備硫化済み水素化精製用触媒の性能が低下する傾向にあり、3質量%未満であると含浸液の安定性が悪くなり好ましくない。
【0049】
キレート剤としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ポリエチレングリコール(PEG)、テトラエチレングリコール(TEG)が使用でき、特に、クエン酸、リンゴ酸が好適に用いられる。
【0050】
キレート剤を用いる場合は、酸化モリブデンに対して、35〜75質量%含有されることが好ましい。ここで、キレート剤が、モリブデンに対し75質量%を超えると該金属成分を含有した含浸液の粘度が上がり、製造での含浸工程が困難になるため好ましくなく、35質量%未満だと含浸液の安定性が悪くなる上、触媒性能が低下する傾向にあるので好ましくない。
【0051】
なお、上記担体に、上記金属成分、リン化合物あるいは更にキレート剤を含有させる方法は、特に限定されず、含浸法(平衡吸着法、ポアフィリング法、初期湿潤法等)、イオン交換法等の公知の方法を用いることができる。ここで、含浸法とは、担体に活性金属を含む含浸液を含浸させた後、乾燥する方法である。含浸法では、金属成分を同時に担持することが好ましい。別々に金属を担持すると、脱硫活性又は脱窒素活性が不充分になることがある。
【0052】
<第4工程>
第3工程で含浸液と接触させて得られる金属成分を担持した担体を、110〜250℃で乾燥した後、更に400〜600℃、好ましくは450〜550℃で、0.5〜10時間、好ましくは2〜5時間焼成し、本発明の水素化精製用触媒を製造する。ここで焼成温度が600℃を超える場合には、担体に担持された金属成分の凝集が起こり、脱硫活性の低下する傾向にあるので好ましくない。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例に記載された範囲に限定されるものではない。
[測定方法および評価試験方法]
本発明の実施例で使用された測定方法は以下の通りである。
<担体成分(アルミナ、シリカ、酸化リン)および金属成分(モリブデン、コバルト、ニッケル)の含有量>
【0054】
測定試料3gを容量30mlの蓋付きジルコニアボールに採取し、乾燥(200℃、20分)させ、焼成(700℃、5分)した後、Na 2gおよびNaOH 1gを加えて15分間溶融した。さらに、HSO 25mlと水200mlを加えて溶解したのち、純水で500mlになるよう希釈して試料とした。得られた試料について、ICP装置(島津製作所(株)製、ICPS−8100、解析ソフトウェアICPS−8000)を用いて、各成分の含有量を酸化物換算基準(Al、SiO、P、MoO、NiO、CoO)で測定した。
【0055】
<酸性OH基の吸光度、塩基性OH基の吸光度>
透過型フーリエ変換赤外分光計(日本分光(株)製:FT−IR/6100)にて、以下のようにして酸性OH基の極大ピーク波数、その波数における吸光度、塩基性OH墓の極大ピーク波数、その波数における吸光度を測定した。
【0056】
(測定法)
試料20mgを成型容器(内径20mm)に充填して4ton/cm(39227N/cm)で加圧圧縮し、薄い円盤状に成型した。この成型体を、真空度が1.0×10-3Pa以下の条件下、500℃で2時間保持した後、室温に冷却して吸光度を測定した。
具体的には、TGS検出器にて、分解能4cm-1、積算回数を200回とし、波数範囲3000〜4000cm-1でベースライン補正し、その後、比表面積で補正した。吸光度は、単位表面積当りに換算した。
単位表面積当たりの吸光度(m−2)=(吸光度)/(成型体質量×比表面積)
なお、以下の実施例・比較例いずれにおいても酸性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3670〜3695cm-1の範囲にあり、塩基性OH基に起因する吸収スペクトルの極大ピーク位置の波数は3720〜3740cm−1の範囲にあった。(図1参照)
【0057】
[実施例1:水素化精製用触媒aの調製]
容量が100Lのスチームジャケット付のタンクに、Al濃度換算で22質量%のアルミン酸ナトリウム水溶液(日揮触媒化成(株)製)4.82kgを入れ、イオン交換水41kgで希釈後、P濃度換算で2.5質量%のリン酸三ナトリウム(米山 化学(株)製;P濃度19質量%)溶液4.0kgを撹拌しながら添加する。その後、SiO濃度換算で5質量%の珪酸ナトリウム(AGCエスアイテック(株)製;SiO濃度24質量%)溶液4.0kgを撹拌しながら添加し、60℃に加温して、塩基性アルミニウム塩水溶液を作成した。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、2.53質量%であった。
【0058】
また、Al濃度換算で7質量%の硫酸アルミニウム水溶液(日揮触媒化成(株)製)9.15kgを16kgのイオン交換水で希釈し、60℃に加温して酸性アルミニウム塩水溶液を作成した。塩基性アルミニウム塩水溶液が入ったタンクに、ローラーポンプを用いて酸性アルミニウム塩水溶液をpHが7.2となるまで一定速度で添加(添加時間:10分)し、アルミニウム、ケイ素、及びリンを含む水和物スラリーaを調製した。
【0059】
得られた水和物スラリーaを撹拌しながら60℃で1時間熟成した後、平板フィルターを用いて脱水し、更に、0.3質量%アンモニア水溶液150Lで洗浄した。洗浄後のケーキ状のスラリーをAl濃度換算で6.0質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、15質量%アンモニア水でpHを10.0に調整した。これを還流機付熟成タンクに移し、撹拌しながら95℃で10時間熟成した。熟成終了後のスラリーを脱水し、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーにて練りながら所定の水分量まで濃縮捏和した。得られた捏和物を押し出し成型機にて直径が1.8mmの円柱形状に成型し、110℃で乾燥した。乾燥した成型品は電気炉で550℃の温度で3時間焼成し、担体aを得た。
【0060】
担体aは、シリカがSiO濃度換算で10質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で5質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で85質量%(担体基準)含有されていた。また、担体aをQuantachrome(株)製の水銀圧入法による細孔分布測定装置PoreMasterにて細孔分布測定を行った(以下の実施例についても同様である)。その結果を図2に示す。担体の平均細孔分布より、全細孔容積(PVo)に対する平均細孔径(PD)の±30%の細孔直径の細孔容積(PVp)の割合(PVp/PVo)を算出した。担体aのPVp/PVo値は85%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
更に、三酸化モリブデン(Climax(株)製;MoO濃度99質量%)250gと炭酸コバルト((株)田中化学研究所製;CoO濃度61質量%)88gと炭酸ニッケル(正同化学工業(株)製;NiO濃度55質量%)24gとを、イオン交換水400mlに懸濁させ、この懸濁液を95℃で5時間液容量が減少しないように適当な還流措置を施して加熱した後、クエン酸(扶桑化学工業(株)製)164gを加えて溶解させ、含浸液を作製した。この含浸液を、担体a 1000gに噴霧含浸させた後、250℃で乾燥し、更に電気炉にて550℃で1時間焼成して水素化精製用触媒a(以下、単に「触媒a」ともいう。以下の実施例についても同様である。)を得た。触媒aの金属成分は、MoOが19質量%(触媒基準)で、CoOが4質量%(触媒基準)で、NiOが1質量%(触媒基準)であった。触媒aの性状を表1に示す。
【0062】
[実施例2:水素化精製用触媒bの調製]
担体調製において、アルミン酸ナトリウム水溶液5.24kg、アルミン酸ナトリウム水溶液の希釈水44kg、リン酸三ナトリウム溶液2.4kg、珪酸ナトリウム溶液2.8kg、硫酸アルミニウム水溶液9.24kg、硫酸アルミニウムを希釈するイオン交換水17kgを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体bを得た。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、2.48質量%であった。担体bは、シリカがSiO濃度換算で7質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で3質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で90質量%(担体基準)含有されていた。担体bのPVp/PVo値は87%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
含浸液は、実施例1と同じ液を用い、担体bから触媒bを製造した。表1に触媒bの性状を示す。
【0063】
[実施例3:水素化精製用触媒cの調製]
担体調製において、アルミン酸ナトリウム水溶液の希釈水40kg、リン酸三ナトリウム溶液5.6kg、珪酸ナトリウム溶液2.8kg、硫酸アルミニウム水溶液9.43kg、硫酸アルミニウムを希釈するイオン交換水17kgを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体cを得た。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、2.67質量%であった。担体cは、シリカがSiO濃度換算で7質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で7質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で86質量%(担体基準)含有されていた。担体bのPVp/PVo値は84%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
含浸液において、三酸化モリブデン254g、炭酸コバルト89g、溶媒としてクエン酸100gおよびリン酸(関東化学(株)製;P濃度62質量%)21gを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体cから触媒cを製造した。表1に触媒cの性状を示す。
【0064】
[実施例4:水素化精製用触媒dの調製]
担体調製において、アルミン酸ナトリウム水溶液4.61kg、アルミン酸ナトリウム水溶液の希釈水39kg、リン酸三ナトリウム溶液7.2kg、珪酸ナトリウム溶液2.8kg、硫酸アルミニウム水溶液9.52kg、硫酸アルミニウムを希釈するイオン交換水17kgを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体dを得た。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、2.49質量%であった。担体dは、シリカがSiO濃度換算で7質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で9質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で84質量%(担体基準)含有されていた。担体dのPVp/PVo値は75%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
含浸液は、実施例1と同じ液を用い、担体dから触媒dを製造した。表1に触媒dの性状を示す。
【0065】
[比較例1:水素化精製用触媒eの調製]
担体調製において、アルミン酸ナトリウム水溶液5.46kg、アルミン酸ナトリウム水溶液の希釈水43kg、珪酸ナトリウム溶液0.4kg、硫酸アルミニウム水溶液9.70kg、硫酸アルミニウムを希釈するイオン交換水17kgを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体eを得た。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、2.50質量%であった。担体eは、シリカがSiO濃度換算で1質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で5質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で94質量%(担体基準)含有されていた。担体eのPVp/PVo値は85%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
含浸液は、実施例1と同じ液を用い、担体eから触媒eを製造した。表1に触媒eの性状を示す。
【0066】
[比較例2:水素化精製用触媒fの調製]
担体調製において、アルミン酸ナトリウム水溶液4.99kg、アルミン酸ナトリウム水溶液の希釈水44kg、リン酸三ナトリウム溶液1.6kg、珪酸ナトリウム溶液4.8kg、硫酸アルミニウム水溶液8.88kgを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体fを得た。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、2.49質量%であった。担体fは、シリカがSiO濃度換算で12質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で2質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で86質量%(担体基準)含有されていた。担体fのPVp/PVo値は67%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
含浸液は、実施例1と同じ液を用い、担体fから触媒fを製造した。表1に触媒fの性状を示す。
【0067】
[比較例3:水素化精製用触媒gの調製]
担体調製において、アルミン酸ナトリウム水溶液3.76kg、アルミン酸ナトリウム水溶液の希釈水33kg、リン酸三ナトリウム溶液12kg、硫酸アルミニウム水溶液9.62kg、硫酸アルミニウムを希釈するイオン交換水17kgを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体gを得た。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、2.52質量%であった。担体gは、シリカがSiO濃度換算で10質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で15質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で75質量%(担体基準)含有されていた。担体gのPVp/PVo値は62%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
含浸液は、実施例1と同じ液を用い、担体gから触媒gを製造した。表1に触媒gの性状を示す。
【0068】
[比較例4:水素化精製用触媒hの調製]
担体調製において、アルミン酸ナトリウム水溶液6.36kg、リン酸三ナトリウム溶液3.6kg、SiO濃度換算で7質量%のシリカヒドロゲル(日揮触媒化成(株)製)溶液12kg、硫酸アルミニウム水溶液10kg、硫酸アルミニウムを希釈するイオン交換水18kgを用いたこと以外は触媒1と同様の調製を行い、担体hを得た。この塩基性アルミニウム塩水溶液中に含まれる全固形分の各元素の酸化物換算濃度は、3.70質量%であった。担体hは、シリカがSiO濃度換算で27質量%(担体基準)、リン酸化物がP濃度換算で3質量%(担体基準)、アルミニウムがAl濃度換算で70質量%(担体基準)含有されていた。担体hのPVp/PVo値は84%であった。また、FT-IRにて酸性OH基の吸光度および塩基性OH基の吸光度を測定した。結果を表1に示す。
含浸液は、実施例1と同じ液を用い、担体hから触媒hを製造した。表1に触媒hの性状を示す。
【0069】
[試験例]
触媒a〜hを固定床反応装置に充填し、触媒に含まれている酸素原子を脱離させて活性化するために、予備硫化処理した。その後、その固定床反応装置内に、減圧軽油(沸点範囲343〜550℃、硫黄分2.71質量%、窒素分0.079質量%)を150ml/時間の速度で供給して水素化精製を行なった。その際の反応条件は、水素分圧4.5MPa、液空間速度1.5h−1、水素油比250Nm/klである。また、触媒の活性評価は、反応温度370℃における比較例1の活性を基準(100%)として各触媒の相対活性を示した。
ここで、脱硫率は、水素化精製により除去された硫黄分/減圧軽油中の硫黄分×100(%)の式により求められ、脱窒素率は、水素化精製により除去された窒素分/減圧軽油中の窒素分×100(%)の式により求められる。
【0070】
【表1】
【0071】
[評価結果]
アルミニウム、ケイ素およびリンからなる無機複合酸化物担体にモリブデン、コバルト及びニッケルを担持して調製された実施例1〜4の水素化精製用触媒によれば、減圧軽油の硫黄分及び窒素分を高度に除去することができた。
比較例1の水素化精製用触媒では、担体中のシリカ量が少ないために担体の表面積が低く脱硫活性、脱窒素活性共に低かった。またシリカ量が請求範囲を超える比較例2では、細孔分布のシャープネスが悪くなるため表面積が低下し、特に脱硫活性が低かった。添加剤のリンが請求範囲外となる比較例3では、細孔分布がブロードとなり表面積が低いため脱硫活性、脱窒素活性共に低かった。さらに、シリカの原料にヒドロゲルを用いる比較例4では、凝集体のシリカが多いために脱硫活性が低かった。
【0072】
以上の実施例についての結果から分かるように、OHBSとOHASとの比(OHBS)/(OHAS)について、実施例4と比較例3とを比べた場合には、0.70を下回ると、脱硫活性が急激に低下する傾向が見られる。したがって、前記比(OHBS)/(OHAS)の下限値は、0.70である。一方、実施例1と比較例2とを比べると、前記比(OHBS)/(OHAS)が0.95を越えると脱硫活性が比較例1と同レベルになるか、あるいは比較例1よりも悪化する。そのため、前記比(OHBS)/(OHAS)の上限は、0.95である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の水素化精製用触媒は、炭化水素油を高度に水素化精製することができるため産業上きわめて有用である。
図1
図2