(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アニオン性官能基は、テトラフルオロボレートアニオン、ジシアナミドアニオン、炭酸水素アニオン、硝酸アニオン、ホウ酸アニオン、硫酸アニオン、リン酸アニオン、過塩素酸アニオン、およびハロゲンアニオンの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3に記載の酸化電極。
前記酸化触媒は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、イリジウム、スズ、インジウム、およびルテニウムの少なくとも1つの酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の酸化電極。
前記アニオン性官能基は、テトラフルオロボレートアニオン、ジシアナミドアニオン、炭酸水素アニオン、硝酸アニオン、ホウ酸アニオン、硫酸アニオン、リン酸アニオン、過塩素酸アニオン、およびハロゲンアニオンの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項13に記載の電気化学装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態を以下に図面を参照して説明する。図面において、同一部分には同一の参照符号を付す。また、重複した説明は、必要に応じて行う。
【0010】
1.酸化電極
図1乃至
図4を用いて、本実施形態に係る酸化電極について説明する。本実施形態では、集電体101の表面に酸化触媒102が積層され、酸化触媒102の表面に窒素カチオン104を含む修飾有機分子105が形成される。これにより、反応効率の高い水の酸化反応を達成することができる。以下に、本実施形態について詳細に説明する。
【0011】
[構成]
図1は、本実施形態に係る酸化電極の構成を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る酸化電極は、水分子を電気化学的に酸化する電極であり、集電体101、酸化触媒102、および修飾有機分子105で構成される積層体を備える。
【0013】
集電体101は、例えばステンレスなどの金属基板であるが、電気伝導性を有していれば限定されるものではなく、コスト、加工性等を考慮して適宜選択することができる。また、集電体101は、ITO(Indium Tin Oxide)、酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、またはATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物で構成されてもよい。また、集電体101は、金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造で構成されてもよい。
【0014】
酸化触媒102は、集電体101の表面上に形成される。酸化触媒102は、水分子を電気化学的に酸化する電極の一部であり、酸化反応をするための活性化エネルギーを減少させる酸化物層で構成される。言い換えると、水(H
2OまたはOH
−)を酸化して電子を引き抜く反応をする際の過電圧を低下させる酸化物層で構成される。酸化触媒102の材料としては、例えば、酸化マンガン(Mn−O)、酸化鉄(Fe−O)、酸化コバルト(Co−O)、酸化ニッケル(Ni−O)、酸化イリジウム(Ir−O)、酸化スズ(Sn−O)、酸化インジウム(In−O)、または酸化ルテニウム(Ru−O)等の二元系金属酸化物、Ni−Co−O、La−Co−O、Ni−La−O、またはSr−Fe−O等の三元系金属酸化物、あるいは、Pb−Ru−Ir−O、またはLa−Sr−Co−O等の四元系金属酸化物が挙げられる。酸化触媒102は、薄膜状に限らず、格子状、粒子状、ワイヤー状であってもよい。
【0015】
酸化触媒102では、電解液の水素イオン濃度が7よりも低い場合(pH<7)、H
2Oを酸化してO
2とH
+が生成される。一方、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい場合(pH>7)、OH
−を酸化してO
2とH
2Oが生成される。
【0016】
修飾有機分子105は、酸化触媒102の表面に化学的に結合される単層膜である。修飾有機分子105は、窒素カチオン104と、その酸化触媒102側(一方側)の末端に結合された反応性官能基103とを有する。
【0017】
窒素カチオン104は、酸化触媒102に静電的電荷および親水性(極性の向上)を付与する。これにより、窒素カチオン104は、酸化触媒102による酸化反応を促進する。窒素カチオン104は、電解液の水素イオン濃度が7よりも低い場合(pH<7)、酸化反応に必要なH
2Oを親水性によって誘引して酸化反応を促進させる。一方、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい場合(pH>7)、酸化反応に必要なOH
−を静電引力によって誘引し反応を促進させる。
【0018】
また、窒素カチオン104は、酸化触媒102に静電的電荷および立体的障害(物理的障害)を付与する。この立体的障害と静電的反発の作用によって、窒素カチオン104は電解液内に含まれるアミンまたはアミンカチオンが酸化触媒102に接触することを抑制する。これにより、酸化触媒102によるアミンまたはアミンカチオンの酸化反応を抑制し、H
2OまたはOH
−の酸化反応を促進させる。
【0019】
窒素カチオン104は、例えばアンモニウムカチオン、イミダゾールカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、またはピロリジニウムカチオン等の4級窒素カチオンであることが好ましい。その中でも、酸化性環境に対する安定性や酸化活性の向上に優れていることからイミダゾールカチオンであることがより好ましい。しかし、これに限らず、窒素カチオン104は、アミン等の1級または2級窒素カチオンであってもよい。
【0020】
反応性官能基103は、窒素カチオン104の酸化触媒102側の末端に結合される。反応性官能基103は、酸化触媒102に対して親和性を有し、酸化触媒102と化学的に反応して結合する。これにより、修飾有機分子105は、酸化触媒102上に固定化される。反応性官能基103は、例えば、炭素、ケイ素、およびリンの中から少なくとも1つ選択される原子が酸素原子を介して酸化触媒102と結合する。より具体的には、反応性官能基103は、カルボン酸基、ホスホン酸基、ハロゲン化シリル基、またはアルコキシシリル基等の共有結合が可能な官能基である。その中でも、結合力が優れていることからホスホン酸基またはアルコキシシリル基であることが好ましく、ホスホン酸基であることがより望ましい。
【0021】
図2は、本実施形態に係る酸化電極の変形例1の構成を示す図である。
【0022】
図2に示すように、変形例1における酸化電極では、修飾有機分子105がアルキル基106をさらに有する。
【0023】
アルキル基106は、窒素カチオン104の酸化触媒102とは反対側(他方側)の末端に結合される。アルキル基106は、酸化触媒102にさらなる立体的障害を付与する。言い換えると、アルキル基106は、窒素カチオン104による立体的障害効果を促進する。これにより、アルキル基106は、窒素カチオン104は電解内に含まれるアミンまたはアミンカチオンが酸化触媒102に接触することをさらに抑制する。したがって、酸化触媒102によってアミンまたはアミンカチオンの酸化反応をさらに抑制し、H
2OまたはOH
−の酸化反応をさらに促進させる。
【0024】
なお、アルキル基106は、そのアルキル鎖が長くなるほど、アミンまたはアミンカチオンが酸化触媒102に接触することを抑制し、H
2OまたはOH
−の酸化反応を促進する。その一方で、アルキル鎖が長すぎると疎水性が強くなるため、H
2OまたはOH
−が酸化触媒102に供給(接触)されにくくなる。したがって、アルキル基106のアルキル鎖長は、炭素数1〜20が好ましい。なお、アルキル基106は、置換基を有してもよいし、分岐または環を形成してもよい。
【0025】
図3は、本実施形態に係る酸化電極の変形例2の構成を示す図である。
【0026】
図3に示すように、変形例2における酸化電極では、修飾有機分子105が窒素カチオン104の対アニオン107をさらに有する。
【0027】
対アニオン107は、窒素カチオン104に結合され、親水性を有する。これにより、H
2OまたはOH
−を酸化触媒102に円滑に供給することができる。対アニオン107は、酸化に対して電気化学的な安定性を有する。このような対アニオン107として、テトラフルオロボレートアニオン、ジシアナミドアニオン、炭酸水素アニオン、硝酸アニオン、ホウ酸アニオン、硫酸アニオン、リン酸アニオン、過塩素酸アニオン、およびハロゲンアニオンの中から少なくとも1つが選択される。対アニオン107は、電解液に使用される支持電解質の種類を考慮して、適宜選択される。対アニオンの変更は、酸化電極を目的の対アニオンを含む溶液に浸漬することによるイオン交換によって可能である。
【0028】
上述した修飾有機分子105を構成する有機分子としては、N−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド、ブチルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムテトラフルオロボレート、ジブチルメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムジシアナミド、ヘキシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウム炭酸水素塩、ドデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウム硫酸塩、オクタデシルジメチル(3−トリメトキシシリルプロピル)アンモニウム過塩素酸塩、1−メチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−オクチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−オクタデシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,2−ジメチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−3−ヘキシルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−3−オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−3−オクタデシルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1,2−ジメチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−メチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムクロライド、1−エチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムジシアナミド、1−ブチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウム炭酸水素塩、1−ヘキシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウム硝酸塩、1−オクチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウム硫酸塩、1−ドデシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムホウ酸塩、1−オクタデシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムリン酸塩、1,2−ジメチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウム過塩素酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムジシアナミド、1−ブチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウム炭酸水素塩、1−(2−エチルホスホン酸)−3−ヘキシルイミダゾリウム硝酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−3−オクチルイミダゾリウム硫酸塩、1−ドデシル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムホウ酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−3−オクタデシルイミダゾリウムリン酸塩、1,2−ジメチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウム過塩素酸塩、1−メチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−オクチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−オクタデシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−4−メチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−4−(2−エチルホスホン酸)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−4−ヘキシルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−4−オクチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−4−(2−エチルホスホン酸)ピリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−4−オクタデシルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−メチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムクロライド、1−エチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムジシアナミド、1−ヘキシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム炭酸水素塩、1−オクチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム硝酸塩、1−ドデシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム硫酸塩、1−オクタデシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムホウ酸塩、1−メチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムリン酸塩、1−エチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム過塩素酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−4−メチルピリジニウムブロミド、1−エチル−4−(2−エチルホスホン酸)ピリジニウムジシアナミド、1−(2−エチルホスホン酸)−4−ヘキシルピリジニウム炭酸水素塩、1−(2−エチルホスホン酸)−4−オクチルピリジニウム硝酸塩、1−ドデシル−4−(2−エチルホスホン酸)ピリジニウム硫酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−4−オクタデシルピリジニウムホウ酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−4−メチルピリジニウムリン酸塩、1−エチル−4−(2−エチルホスホン酸)ピリジニウム過塩素酸塩、1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−オクチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−オクタデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−1−(2−エチルホスホン酸)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−ヘキシルピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクチルピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−1−(2−エチルホスホン酸)ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムクロライド、1−エチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムジシアナミド、1−ヘキシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウム炭酸水素塩、1−オクチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウム硝酸塩、1−ドデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウム硫酸塩、1−オクタデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムホウ酸塩、1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムリン酸塩、1−エチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウム過塩素酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−メチルピペリジニウムクロライド、1−エチル−1−(2−エチルホスホン酸)ピペリジニウムジシアナミド、1−(2−エチルホスホン酸)−1−ヘキシルピペリジニウム炭酸水素塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクチルピペリジニウム硝酸塩、1−ドデシル−1−(2−エチルホスホン酸)ピペリジニウム硫酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウムホウ酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−メチルピペリジニウムリン酸塩、1−エチル−1−(2−エチルホスホン酸)ピペリジニウム過塩素酸塩、1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−オクチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−オクタデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−エチル−1−(2−エチルホスホン酸)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−ヘキシルピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−ドデシル−1−(2−エチルホスホン酸)ピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピロリジニウムテトラフルオロボレート、1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムクロライド、1−エチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペロジニウムジシアナミド、1−ヘキシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウム炭酸水素塩、1−オクチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウム硝酸塩、1−ドデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウム硫酸塩、1−オクタデシル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムホウ酸塩、1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムリン酸塩、1−エチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウム過塩素酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−メチルピロリジニウムクロライド、1−エチル−1−(2−エチルホスホン酸)ピロリジニウムジシアナミド、1−(2−エチルホスホン酸)−1−ヘキシルピロリジニウム炭酸水素塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクチルピロリジニウム硝酸塩、1−ドデシル−1−(2−エチルホスホン酸)ピペリジニウム硫酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピロリジニウムホウ酸塩、1−(2−エチルホスホン酸)−1−メチルピロリジニウムリン酸塩、1−エチル−1−(2−エチルホスホン酸)ピロリジニウム過塩素酸塩、等が挙げられる。
【0029】
[製造方法]
集電体101の表面に酸化触媒102を形成する方法としては、スパッタ法、蒸着法、またはALD(Atomic Layer Deposition)法等の既知の真空成膜方法、あるいは、電着または無電解メッキ等の既知の湿式成膜法が用いられる。また、酸化触媒102は、薄膜状に限らず、格子状、粒子状、またはワイヤー状であってもよい。
【0030】
酸化触媒102に修飾有機分子105を形成する方法としては、既知の方法を用いることができる。例えば、酸化触媒102に対して親和性がある修飾有機分子105が溶解された溶液に酸化触媒102を接触させる方法、またはスプレー等によって修飾有機分子105を噴霧する方法等が挙げられる。
【0031】
修飾有機分子105が溶解された溶液に酸化触媒102を接触させる方法では、修飾有機分子105の反応性官能基103に含まれる水酸基あるいは加水分解反応を経て生成された水酸基と酸化触媒102の表面に存在する水酸基とが、脱水縮合反応によって新たな化学結合を形成する。さらに、修飾有機分子105が集合することで、配向がそろった単分子層(Self-Assembled Monolayer:SAM)が形成される。
【0032】
有機分子を溶解する溶媒は、有機分子を溶解することができれば限定されるものではない。例えば、有機分子を溶解する溶媒としては、エタノール等のアルコール、トルエン等の芳香族、またはヘキサン等の脂肪族の有機溶媒が挙げられる。有機分子の溶解性や取扱いの容易さ等から、エタノールを用いることが好ましい。
【0033】
反応性官能基103に含まれる水酸基あるいは加水分解反応を経て生成された水酸基と酸化触媒102との結合を促進するため、修飾有機分子105が溶解された溶液のpHを調整することが望ましい。
【0034】
例えば、反応性官能基103がアルコキシシリル基である場合、溶液を酸性またはアルカリ性とすることで加水分解反応が促進される。これにより、酸化触媒102に結合するための水酸基をより多く生成することができる。
【0035】
一方、反応性官能基103と酸化触媒102とが脱水縮合をする反応では、pHを弱酸性とすることで脱水縮合反応を遅くすることができる。これにより、修飾有機分子105同士の脱水縮合反応を抑制した安定な溶液となり、反応性官能基103と酸化触媒102とが結合しやすくなる。修飾有機分子105が溶解された溶液のpHは、酢酸、蟻酸、または乳酸等の有機酸が用いられる。
【0036】
なお、反応性官能基103がホスホン酸基のように酸化触媒102と結合しやすい場合、修飾有機分子105が溶解された溶液のpHの調整は不要となる。また、反応時間、反応量、または修飾有機分子105の反応性等に応じて、修飾有機分子105が溶解された溶液のpHは適宜調整することができる。
【0037】
酸化触媒102に修飾有機分子105を形成する方法の一例を、以下により詳細に説明する。
【0038】
修飾有機分子105が溶解されたエタノール溶液が用意され、酸化触媒102が形成された集電体101が数分から数時間浸漬される。これにより、酸化触媒102の表面上に修飾有機分子105が形成される。修飾有機分子105の濃度、浸漬時間、および浸漬温度等の条件は、単分子層の形成状態に影響するため、修飾有機分子105の構造等に応じて適宜変更してもよい。
【0039】
例えば、濃度に関して、修飾有機分子105の濃度が低濃度の場合、単分子層が形成されるまでに時間がかかる。一方、高濃度の場合、単分子層上に過剰な分子が積層吸着する恐れがある。このため、修飾有機分子105の濃度は、0.1mM以上100mM以下であることが好ましく、1mM以上10mM以下であることがより好ましい。また、浸漬時間に関して、配向の揃った単分子層を形成するためには長時間を必要とする。このため、浸漬時間は、1分以上100時間以下であることが好ましく、5分以上48時間以下であることが好ましい。浸漬温度は、配向がそろった単分子の形成に影響を与える。このため、溶媒の蒸気圧および沸点等を考慮して、浸漬温度は室温以上60℃以下であることが望ましい。
【0040】
修飾有機分子105の形成を確認する方法としては、既知の方法を用いることができる。
【0041】
例えば、表面分析方法として、反射法を用いたフーリエ変換赤外分光度計(FT−IR)を使用することで評価することができる。これにより、酸化触媒102表面上の薄膜および分子吸着種の赤外スペクトルを高感度に測定できる。すなわち、修飾有機分子105の構造、特に官能基の情報を知ることができる。また、X線光電子分光分析(XPS)を用いれば、修飾有機分子105の化学状態や元素の定量分析、およびアニオンの組成が測定できる。したがって、酸化触媒102上の単位面積当たりの修飾有機分子105の存在量を知ることができる。また、接触角計を用いれば、水の濡れ性の違いから修飾有機分子105の有無が判定できる。
【0042】
[効果]
本実施形態では、集電体101の表面に酸化触媒102が積層され、酸化触媒102の表面に窒素カチオン104を含む修飾有機分子105が形成される。そして、酸化触媒102において、水の酸化反応が行われる。これにより、以下の効果を得ることができる。
【0043】
図4Aおよび
図4Bは、本実施形態に係る酸化電極の効果を示す図である。
【0044】
図示するように、窒素カチオン104は、酸化触媒102に静電的電荷および親水性を付与することで酸化反応を促進することができる。より具体的には、電解液の水素イオン濃度が7よりも低い場合(pH<7)、窒素カチオン104は酸化反応に必要なH
2Oを親水性によって誘引することで、酸化触媒102によるH
2Oの酸化反応を促進することができる。一方、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい場合(pH>7)、窒素カチオン104は酸化反応に必要なOH
−を静電引力によって誘引することで、酸化触媒102によるOH
−の反応を促進することができる。
【0045】
また、変形例2に示すように、修飾有機分子105が親水性を有する対アニオン107をさらに含むことで、上記効果をさらに促進することができる。
【0046】
ところで、電解液には、CO
2を吸収させる目的でアミンが含まれる場合がある。アミンは、H
2OおよびOH
−と比べて電気化学的に酸化されやすい。このため、電解液のCO
2吸収性能を低下させる恐れがある。また、酸化触媒102によってH
2OおよびOH
−よりもアミンの酸化反応が優先的に生じてしまうため、H
2OおよびOH
−の酸化反応の効率が悪くなってしまう。
【0047】
これに対し、本実施形態では、窒素カチオン104は、酸化触媒102に静電的電荷および立体的障害を付与する。これにより、窒素カチオン104は、電解内に含まれるアミンまたはアミンカチオンが酸化触媒102に接触することを抑制することができる。すなわち、酸化触媒102によるアミンまたはアミンカチオンの酸化反応を抑制することができる。したがって、電解液内にアミンまたはアミンカチオンが含まれる場合であっても、H
2OまたはOH
−の酸化反応を優先的に促進することができる。
【0048】
また、変形例1に示すように、修飾有機分子105がアルキル基106をさらに含むことで、上記効果をさらに促進することができる。
【0049】
2.光電気化学セル
以下に
図5乃至
図7を用いて、本実施形態に係る酸化電極を用いた光電気化学セルについて説明する。
【0050】
図5は、本実施形態に係る光電気化学セルの構造を示す断面図である。
【0051】
図5に示すように、本実施形態に係る光電気化学セルは、基板11、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、酸化触媒層19、および還元触媒層20で構成される積層体を備える。
【0052】
詳細は後述するが、光電気化学セルにおける酸化電極層18および酸化触媒層19として、上述した酸化電極が適用される。
【0053】
基板11の表面上には、反射層12、還元電極層13、多接合型太陽電池17、酸化電極層18、および酸化触媒層19が形成される。一方、基板11の裏面上には、還元触媒層20が形成される。
【0054】
基板11は、光電気化学セルを支持し、その機械的強度を増すために設けられる。基板11は、導電性を有し、例えばAu、Ag、Cu、Pt、Zn、Fe、Ti、Sn、In、BiまたはNi等の金属板、もしくはそれらを少なくとも1つ含む例えばSUSのような合金板で構成される。または、基板11は、導電性の樹脂等で構成されてもよい。また、基板11は、SiまたはGe等の半導体基板で構成されてもよい。なお、後述するように、基板11は、イオン交換膜で構成されてもよい。
【0055】
反射層12は、基板11の表面上に形成される。反射層12は、光反射が可能な材料で構成され、例えば金属層、または半導体多層膜からなる分布型ブラッグ反射層で構成される。この反射層12は、基板11と多接合型太陽電池17との間に形成されることで、多接合型太陽電池17で吸収できなかった光を反射させて再び多接合型太陽電池17に入射させる。これにより、多接合型太陽電池17における光吸収率を向上させることができる。
【0056】
還元電極層13は、反射層12上に形成される。還元電極層13は、多接合型太陽電池17のn型半導体層(後述するn型のアモルファスシリコン層14a)面上に形成される。このため、還元電極層13は、n型半導体層とオーミック接触が可能な材料で構成されることが好ましい。還元電極層13は、例えば、Ag、Au、Al、またはCu等の金属、もしくはそれらを少なくとも1つ含む合金で構成される。または、還元電極層13は、ITO(Indium Tin Oxide)または酸化亜鉛(ZnO)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、またはATO(アンチモンドープ酸化スズ)等の透明導電性酸化物で構成される。また、還元電極層13は、例えば金属と透明導電性酸化物とが積層された構造、金属とその他導電性材料とが複合された構造、または透明導電性酸化物とその他導電性材料とが複合された構造で構成されてもよい。
【0057】
多接合型太陽電池17は、還元電極層13上に形成され、第1太陽電池14、第2太陽電池15、および第3太陽電池16で構成される。第1太陽電池14、第2太陽電池15、および第3太陽電池16はそれぞれ、pin接合半導体を使用した太陽電池であり、光の吸収波長が異なる。これらを平面状に積層することで、多接合型太陽電池17は、太陽光の幅広い波長の光を吸収することができ、太陽光エネルギーをより効率良く利用することが可能となる。また、各太陽電池は直列に接続されているため高い開放電圧を得ることができる。
【0058】
より具体的には、第1太陽電池14は、下部側から順に形成されたn型のアモルファスシリコン(a−Si)層14a、真性(intrinsic)のアモルファスシリコンゲルマニウム(a−SiGe)層14b、p型の微結晶シリコン(μc−Si)層14cで構成される。ここで、a−SiGe層14bは、400nm程度の短波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第1太陽電池14は、短波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
【0059】
また、第2太陽電池15は、下部側から順に形成されたn型のa−Si層15a、真性(intrinsic)のa−SiGe層15b、p型のμc−Si層15cで構成される。ここで、a−SiGe層15bは、600nm程度の中間波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第2太陽電池15は、中間波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
【0060】
また、第3太陽電池16は、下部側から順に形成されたn型のa−Si層16a、真性(intrinsic)のa−Si層16b、p型のμc−Si層16cで構成される。ここで、a−Si層16bは、700nm程度の長波長領域の光を吸収する層である。すなわち、第3太陽電池16は、長波長領域の光エネルギーによって、電荷分離が生じる。
【0061】
このように、多接合型太陽電池17は、各波長領域の光によって電荷分離が生じる。すなわち、正孔が正極側(表面側)に、電子が負極側(裏面側)に分離する。これにより、多接合型太陽電池17は、起電力を発生させる。
【0062】
なお、上記において、3つの太陽電池の積層構造で構成される多接合型太陽電池17を例に説明したが、これに限らない。多接合型太陽電池17は、2つまたは4つ以上の太陽電池の積層構造から構成されてもよい。または、多接合型太陽電池17の代わりに、1つの太陽電池を用いてもよい。また、pin接合半導体を使用した太陽電池について説明したが、pn接合型半導体を使用した太陽電池であってもよい。また、半導体層として、SiおよびGeで構成される例を示したが、これに限らず、化合物半導体系、例えばGaAs、GaInP、AlGaInP、CdTe、CuInGaSeで構成されてもよい。さらに、単結晶、多結晶、アモルファス状の種々の形態を適用することができる。
【0063】
酸化電極層18および酸化触媒層19は、多接合型太陽電池17上に順に形成される。酸化電極層18および酸化触媒層19は、多接合型太陽電池17の正極側に形成される。酸化触媒層19では、電解液の水素イオン濃度が7よりも低い場合(pH<7)、H
2Oを酸化してO
2とH
+を生成する。一方、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい場合(pH>7)、OH
−を酸化してO
2とH
2Oを生成する。このため、酸化触媒層19は、酸化反応をするための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。言い換えると、H
2OまたはOH
−を酸化して電子を引き抜く反応をする際の過電圧を低下させる材料で構成される。
【0064】
このような酸化電極層18および酸化触媒層19として、上述した酸化電極が適用される。すなわち、酸化電極層18が集電体101に対応し、酸化触媒層19が酸化触媒102および修飾有機分子105に対応する。
【0065】
また、本例において、照射光は、酸化電極層18および酸化触媒層19を通過して多接合型太陽電池17に到達する。このため、光照射面側に配置される酸化電極層18および酸化触媒層19は、照射光に対して光透過性を有する。より具体的には、照射面側の酸化電極層18および酸化触媒層19の透過性は、照射光の照射量の少なくとも10%以上、より望ましくは30%以上である。
【0066】
還元触媒層20は、多接合型太陽電池17の負極側に形成され、CO
2を還元して炭素化合物(例えば、一酸化炭素、ギ酸、ホルムアルデヒド、メタン、メタノール、エタノール等)を生成する。このため、還元触媒層20は、CO
2を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料で構成される。
【0067】
このような還元触媒層20として、Au、Ag、Cu、Pt、Zn、Fe、Ti、Sn,In,BiおよびNiの中から少なくとも1つの元素を含む金属である。これらのなかでも触媒活性の高いAuまたはAgを選択することが好ましい。
【0068】
また、多接合型太陽電池17の表面上、または光照射面側の電極層と触媒層との間(本例では、酸化電極層18と酸化触媒層19との間)に保護層を配置してもよい。保護層は、導電性を有するとともに、酸化還元反応において多接合型太陽電池17の腐食を防止する。その結果、多接合型太陽電池17の寿命を延ばすことができる。また、保護層は、必要に応じて光透過性を有する。保護層としては、例えばTiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、SiO
2、またはHfO
2等の誘電体薄膜が挙げられる。また、その膜厚は、トンネル効果により導電性を得るため、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
【0069】
図6は、本実施形態に係る光電気化学セルの動作原理の一例を示す断面図である。
図7は、本実施形態に係る光電気化学セルの動作原理の他の例を示す断面図である。ここでは、反射層12、還元電極層13、および酸化電極層18は省略している。
【0070】
図6および
図7に示すように、表面側から光が入射すると、入射光は酸化触媒層19および酸化電極層18を通過し、多接合型太陽電池17に到達する。多接合型太陽電池17は、光を吸収すると、光励起電子およびそれと対になる正孔を生成し、それらを分離する。すなわち、各太陽電池(第1太陽電池14、第2太陽電池15、および第3太陽電池16)において、n型の半導体層側(還元触媒層20側)に光励起電子が移動し、p型の半導体層側(酸化触媒層19側)に光励起電子の対として発生した正孔が移動する、電荷分離が生じる。これにより、多接合型太陽電池17に起電力が発生する。
【0071】
このように、多接合型太陽電池17内で発生した光励起電子は負極である還元触媒層20での還元反応に使用され、正孔は正極である酸化触媒層19での酸化反応に使用される。これにより、
図6に示すように、酸化触媒層19付近では(1)式、還元触媒層20付近では(2)式の反応が生じる。ただし、式(1)および式(2)は、電解液の水素イオン濃度が7よりも小さい酸性溶液である場合の反応である。
【0072】
2H
2O → 4H
++O
2+4e
− ・・・(1)
2CO
2+4H
++4e
− → 2CO+2H
2O ・・・(2)
(1)式に示すように、酸化触媒層19付近において、H
2Oが酸化されてO
2とH
+および電子が生成される。そして、酸化触媒層19側で生成されたH
+は、後述するイオン移動経路を介して還元触媒層20側に移動する。
【0073】
(2)式に示すように、還元触媒層20付近において、CO
2が移動してきたH
+と電子で還元されて、一酸化炭素(CO)とH
2Oが生成される。
【0074】
一方、
図7に示すように、電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい塩基性溶液である場合、酸化触媒層19付近では(3)式、還元触媒層20付近では(4)式の反応が生じる。
【0075】
4OH
− → O
2+2H
2O+4e
− ・・・(3)
2CO
2+2H
2O+4e
− → 2CO+4OH
− ・・・(4)
(4)式に示すように、還元触媒層20付近において、CO
2はH
2Oとともに電子を受け取る還元反応をし、一酸化炭素(CO)とOH
−が生成される。そして、還元触媒層20側で生成されたOH
−は、後述するイオン移動経路を介して酸化触媒層19側に移動する。
【0076】
(3)式に示すように、酸化触媒層19付近において、OH
−が酸化されてO
2とH
2Oと電子が生成される。
【0077】
このとき、多接合型太陽電池17は、酸化触媒層19で生じる酸化反応の標準酸化還元電位と還元触媒層20で生じる還元反応の標準酸化還元電位との電位差以上の開放電圧を有する必要がある。例えば、反応溶液の水素イオン濃度(pH)=0の場合、(1)式における酸化反応の標準酸化還元電位は+1.23[V]であり、(2)式における還元反応の標準酸化還元電位は−0.1[V]である。このため、多接合型太陽電池17の開放電圧は、1.33[V]以上の必要がある。なお、より好ましくは、開放電圧は過電圧を含めた電位差以上の必要がある。より具体的には、例えば(1)式における酸化反応および(2)式における還元反応の過電圧がそれぞれ0.2[V]である場合、開放電圧は1.73[V]以上であることが好ましい。
【0078】
(2)式および(4)式に示すCO
2からCOへの還元反応だけでなく、CO
2からHCOOH、HCHO、CH
4、CH
3OH、C
2H
5OH等への還元反応は、H
+を消費もしくはOH
−を生成する反応である。このため、酸化触媒層19で生成したH
+が対極の還元触媒層20へ移動できない場合、あるいは還元触媒層20で生成したOH
−が対極の酸化触媒層19へ移動できない場合、全体の反応の効率が低いものとなる。これに対し、本実施形態に係る光電気化学装置では、H
+あるいはOH
−を移動させるイオン移動経路を形成することで、H
+あるいはOH
−の輸送を改善して高い光反応効率を実現するものである。
【0079】
3.光電気化学装置
以下に
図8乃至
図11を用いて、本実施形態に係る光電気化学セルを用いた光電気化学装置について説明する。
【0080】
図8は、本実施形態に係る光電気化学装置の構造を示す斜視図である。
図9は、本実施形態に係る光電気化学装置の構造を示す断面図である。なお、
図8において、後述するイオン移動経路は省略している。また、ここでは、電解液の水素イオン濃度が7よりも小さい酸性溶液の場合の酸化還元反応((1)式および(2)式)の例を示す。電解液の水素イオン濃度が7よりも大きい塩基性溶液の場合、上記(3)式および(4)式にて酸化還元反応が起こる
本実施形態に係る光電気化学装置は、酸化触媒層19、還元触媒層20、およびこれらの間に形成された多接合型太陽電池17の積層体で構成される光電気化学セルと、酸化触媒層19と還元触媒層20との間でイオンを移動させるイオン移動経路と、を備える例である。これにより、高い光反応効率で、酸化触媒層19側で生成されたH
+を還元触媒層20へと移動させることができ、このH
+によって還元触媒層20側で二酸化炭素を分解することができる。
【0081】
図8および
図9に示すように、本実施形態に係る光電気化学装置は、光電気化学セルと、光電気化学セルを内部に含む電解槽31と、イオン移動経路として電解槽31に接続された電解槽流路41とを備える。
【0082】
光電気化学セルは、平板状に形成され、少なくとも基板11によって電解槽31を2つに分離する。すなわち、電解槽31は、光電気化学セルの酸化触媒層19が配置される酸化反応用電解槽45と、光電気化学セルの還元触媒層20が配置される還元反応用電解槽46とを備える。これら酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とでは、別々の電解液を供給することが可能である。
【0083】
酸化反応用電解槽45には、電解液として例えばH
2Oを含む液体が満たされている。この電解液に、酸化触媒層19が浸漬される。このような電解液としては、任意の電解質を含むものが挙げられるが、H
2Oの酸化反応を促進するものであることが好ましい。酸化反応用電解槽45では、酸化触媒層19によってH
2Oが酸化されてO
2とH
+が生成される。酸化触媒層19として、上述した酸化触媒が適用される。すなわち、集電体101の表面に形成された酸化触媒102上に修飾有機分子105が形成される。そして、酸化触媒102において、水の分解反応が行われる。
【0084】
還元反応用電解槽46には、電解液として例えばCO
2を含む液体が満たされている。この電解液に、還元触媒層20が浸漬される。還元反応用電解槽46では、還元触媒層20によってCO
2が還元されて炭素化合物が生成される。具体的には、CO
2は、一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、ホルムアルデヒド(HCHO)、およびメタノール(CH
3OH)に変換される。また、副反応として水分(H
2O)が還元されて水素(H
2)も生成され得る。
【0085】
還元反応用電解槽46における電解液は、CO
2の還元電位を低下させ、イオン伝導性が高く、CO
2を吸収するCO
2吸収剤を有することが好ましい。このような電解液として、イミダゾリウムイオンまたはピリジニウムイオン等の陽イオンと、テトラフルオロボラートアニオンまたはヘキサフルオロフォスフェートアニオン等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液が挙げられる。または、電解液として、エタノールアミン、イミダゾール、またはピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもかまわない。一級アミンとしてはメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミンなどである。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲンなどが置換していてもかまわない。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、例えば、メタノールアミンやエタノールアミン、クロロメチルアミンなどである。また、不飽和結合が存在していてもかまわない。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、などである。置換した炭化水素は、異なってもかまわない。これは、三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミンなどである。三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミンなどである。イオン液体の陽イオンとしては、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾールイオン、1−メチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムイオンなどである。また、イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。例えば、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル2,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−ペンチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどである。ピリジニウムイオンとしてはメチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム、などである。イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオンはともに、アルキル基が置換されてもよく、不飽和結合が存在してもよい。アニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、BF
4−、PF
6−、CF
3COO
−、CF
3SO
3−、NO
3−、SCN
−、(CF
3SO
2)
3C
−、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(トリフルオロメトキシスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドなどがある。また、イオン液体のカチオンとアニオンとを炭化水素で連結した双生イオンでもよい。
【0086】
酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46に満たされている電解液の温度はその使用環境に応じて同じであってもよいし、異なってもよい。例えば、還元反応用電解槽46に用いる電解液が工場から排出されたCO
2を含むアミン吸収液である場合、その電解液の温度は大気温度よりも高い。この場合、電解液の温度は、30℃以上150℃以下、より好ましくは40℃以上120℃以下である。
【0087】
電解槽流路41は、例えば電解槽31の側方に設けられる。電解槽流路41の一方は酸化反応用電解槽45に接続され、他方は還元反応用電解槽46に接続される。すなわち、電解槽流路41は、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とを接続している。
【0088】
この電解槽流路41内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた電解槽流路41を介して特定のイオンのみを移動させることができる。すなわち、光電気化学装置は、選択的に物質を通す隔壁構造を有する。ここで、イオン交換膜43は、プロトン交換膜であり、酸化反応用電解槽45で生成されたH
+を還元反応用電解槽46側に移動させることができる。より具体的には、イオン交換膜43としてナフィオンまたはフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタまたはセレミオンのようなアニオン交換膜が挙げられる。
【0089】
なお、イオン交換膜43の代わりに、イオンが移動でき、かつ電解液を分離できるもの、例えば塩橋のような寒天等を用いてもよい。一般に、ナフィオンに代表されるようなプロトン交換性の固体高分子膜を使用するとイオン移動の性能は良い。
【0090】
また、電解槽流路41にポンプ等の循環機構42を設けてもよい。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で、イオン(H
+)の循環を向上させることができる。また、電解槽流路41を2本設けてもよく、そのうちの少なくとも1本に設けられた循環機構42を用いて、一方の電解槽流路41を介して酸化反応用電解槽45から還元反応用電解槽46へイオンを移動させ、他方の電解槽流路41を介して還元反応用電解槽46から酸化反応用電解槽45へ移動させてもよい。また、複数の循環機構42を設けてもよい。また、イオンの拡散を低減させ、より効率よくイオンを循環させるために、複数(3個以上)の電解槽流路41を設けてもよい。また、液体を運搬することによって、発生したガスの気泡が電極表面や電解層表面にとどまることがなく、気泡による太陽光の散乱に起因する効率低下や光量分布を抑えてもよい。
【0091】
また、多接合型太陽電池17の表面に光を照射することによって上昇した熱を利用して電解液に温度差を生じさせることで、イオンの拡散を低減させ、より効率よくイオンを循環させてもよい。言い換えると、イオン拡散以外の対流によってイオンの移動を促進させることができる。
【0092】
一方、電解槽流路41内や電解槽31内に電解液の温度調整をする温度調整機構44を設け、温度制御によって太陽電池性能と触媒性能を制御することができる。これにより、例えば、太陽電池や触媒の性能を安定および向上させるために、反応系の温度を均一化することができる。また、システム安定のために、温度上昇を防ぐこともできる。温度制御によって、太陽電池および触媒の選択性を変化させることができ、その生成物を制御することもできる。
【0093】
また、本例において、基板11の端部は、多接合太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20の端部よりも突出しているが、これに限らない。基板11、多接合太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20が同一面積の平板状であってもよい。
【0094】
次に、本実施形態に係る光電気化学装置における変形例について説明する。
【0095】
図10および
図11は、本実施形態に係る光電気化学装置における変形例1および変形例2の構造を示す断面図である。なお、本実施形態に係る光電気化学装置の変形例において、主に上記構造と異なる点について説明する。
【0096】
図10に示すように、本実施形態に係る光電気化学装置における変形例1は、光電気化学セルと、光電気化学セルを内部に含む電解槽31と、イオン移動経路として基板11に形成された開口部51とを備える。
【0097】
開口部51は、例えば基板11の端部を酸化反応用電解槽45側から還元反応用電解槽46側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51は、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とを接続している。
【0098】
この開口部51内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。
【0099】
図11に示すように、本実施形態に係る光電気化学装置における変形例2は、光電気化学セルと、光電気化学セルを内部に含む電解槽31と、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20、イオン移動経路として基板11に形成された開口部51とを備える。
【0100】
開口部51は、例えば基板11、多接合型太陽電池17、酸化触媒層19、および還元触媒層20を酸化反応用電解槽45側から還元反応用電解槽46側まで貫通するように設けられている。これにより、開口部51は、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46とを接続している。
【0101】
この開口部51内の一部にはイオン交換膜43が充填され、イオン交換膜43は特定のイオンのみを通過させる。これにより、酸化反応用電解槽45と還元反応用電解槽46との間で電解液を分離しつつ、イオン交換膜43が設けられた開口部51を介して特定のイオンのみを移動させることができる。
【0102】
なお、
図11において、開口部51内の一部にイオン交換膜43が形成されているが、開口部51内を埋め込むようにイオン交換膜43が形成されてもよい。
【0103】
4.酸化電極の実施例
以下に
図12乃至
図16を用いて、本実施形態に係る酸化電極の実施例について説明する。
【0104】
図12は、本実施形態に係る酸化電極の実施例1〜9および比較例1とその酸化性能(水分解)の評価とを示す図である。
図13は、本実施形態に係る酸化電極の実施例10〜16および比較例2とその酸化性能の評価とを示す図である。
図14は、本実施形態に係る酸化電極の実施例17〜25および比較例3とその酸化性能の評価とを示す図である。
図15は、本実施形態に係る酸化電極の実施例26〜35および比較例1〜10とその酸化性能の評価とを示す図である。
図16は、本実施形態に係る酸化電極の実施例36〜41とその酸化性能の評価とを示す図である。
【0105】
なお、以下の実施例において、同様の点については適宜説明を省略し、主に異なる点について説明する。
【0106】
まず、
図12を用いて、実施例1〜9および比較例1について説明する。
【0107】
[実施例1]
実施例1における酸化電極は、酸化触媒102を酸化ニッケル(Ni−O)とし、修飾有機分子105をN−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムテトラフルオロボレートとする例である。
【0108】
(酸化電極の作成)
まず、FTO基板(150mm×250mm、厚さ0.5mm)で構成される集電体101が、尿素を溶解させた95℃の塩化ニッケル水溶液に浸漬され、1時間保持される。これにより、水溶液から析出される酸化触媒の前駆体が集電体101上に形成される。次に、集電体101が350℃の大気中で1時間焼成されることで、酸化触媒102が集電体101表面上に形成される。酸化触媒102が形成されたことは、電子顕微鏡の観察によって確認することができる。観察の結果、酸化触媒102は、面方向に均一な膜厚を有し、その膜厚は100nmである。
【0109】
次に、酸化触媒102の表面に、修飾有機分子105が結合される。修飾有機分子105のN−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムテトラフルオロボレートが溶解された溶液が準備される。この溶液は、濃度が10mMのエタノール水溶液(水10wt%含有)であり、塩酸を加えてpHを3〜4に調整される。また、この溶液において加水分解反応が6時間行われる。このようにして得られた溶液に酸化触媒102が30分間浸漬されることで、修飾有機分子105が酸化触媒102に結合される。その後、修飾有機分子105が溶解された溶液から酸化触媒102が取り出され、エタノールで洗浄され、かつ窒素気流中で乾燥させることで酸化電極が形成される。
【0110】
酸化触媒102に修飾有機分子105が結合していることは、X線光電子分光分析(XPS)、反射法を用いたフーリエ変換赤外分光度計(FT−IR)、または接触角計を用いて確認することができる。例えば、X線光電子分光分析(XPS)では、修飾有機分子105の結合の前後の表面の元素分析によって、炭素、窒素、酸素、またはケイ素などの反応性官能基に含まれる元素の濃度の増加を確認することで、修飾有機分子105の結合を確認することができる。また、フーリエ変換赤外分光度計(FT−IR)では、修飾有機分子105の構造、特に官能基の情報を得ることができ、分子の存在を直接確認することができる。また、接触角計では、水の濡れ性の違いから修飾有機分子105の有無を判定することができる。
【0111】
(水分解性能の測定)
実施例1における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって、以下のように評価した。
【0112】
酸化電極の評価は、アニオン交換膜(旭硝子製セレミオンDSV)で仕切られたH型セルを用いて行われた。このとき、酸化電極を作用極とし、参照極をAg/AgCl電極、対極をPt電極とした三電極式セルを構築した。また、電解液として、0.5M水酸化カリウム水溶液(pH=13)を選択した。
【0113】
酸化電極の水分解性能の評価は、光電気化学測定装置(ソーラートロン・Cell Test System、東陽テクニカ製)によって行われた。
【0114】
この光電気化学測定装置において、作用極および対極に流れる電流が1mA/cm
2となるように定電流電解を行った際の参照極に対する作用極の電極電位(電圧)を測定した。電解開始直後から電位は変化するため、電位が安定する30分後の値を採用した。また、作用極で流れている電流が水分解によるものであることを確認するため、電解中に発生する酸素(電解液に溶解する酸素)を酸素濃度計(MicroxTX3−trace)で測定した。電解反応が進むにつれて電解液中の酸素濃度が増加し、作用極で水分解による酸素発生が起きていることを確認した。
【0115】
[実施例2]
実施例2における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−メチル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、窒素カチオン104)を変更した。実施例1と同様に、実施例2における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0116】
[実施例3]
実施例3における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−メチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、窒素カチオン104)を変更した。実施例1と同様に、実施例3における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0117】
[実施例4]
実施例4における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピペリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、窒素カチオン104)を変更した。実施例1と同様に、実施例4における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0118】
[実施例5]
実施例5における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−メチル−1−(2−トリエトキシシリルエチル)ピロリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、窒素カチオン104)を変更した。実施例1と同様に、実施例5における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0119】
[実施例6]
実施例6における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−ヘキシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、窒素カチオン104およびアルキル基106)を変更した。また、実施例2に対して、アルキル基106を変更した。実施例1と同様に、実施例6における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0120】
[実施例7]
実施例7における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−ドデシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、窒素カチオン104およびアルキル基106)を変更した。また、実施例2に対して、アルキル基106を変更した。実施例1と同様に、実施例7における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0121】
[実施例8]
実施例8における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−オクタデシル−3−(2−トリエトキシシリルエチル)イミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、窒素カチオン104およびアルキル基106)を変更した。また、実施例2に対して、アルキル基106を変更した。実施例1と同様に、実施例8における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0122】
[実施例9]
実施例9における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105をアミノプロピルトリメトキシシランとする例である。すなわち、実施例1における酸化電極に対して、修飾有機分子105を変更した。実施例1と同様に、実施例9における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0123】
[比較例1]
比較例1における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例1における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0124】
[実施例1〜9における水分解性能の評価]
図12に示すように、実施例1〜5では、酸化触媒102を変化させず、修飾有機分子105を適宜変更した。より具体的には、実施例1〜5では、窒素カチオン104を4級カチオンとし、その種類を変更した。実施例1〜5における酸化電極は、修飾有機分子105を変更しても、比較例1に示す平板状の酸化ニッケル電極と比べて酸化電位が低い。これは、窒素カチオン104の材料にかかわらず、修飾有機分子105が水分解活性の向上に寄与するためだと考えられる。言い換えると、修飾有機分子105は、酸化反応に対して低いエネルギーで反応を進めることができる。
【0125】
また、実施例2,6〜8では、酸化触媒102を変化させず、修飾有機分子105を適宜変更した。より具体的には、実施例2,6〜8では、アルキル基106(アルキル鎖の長さ)を変更した。実施例2,6〜8における酸化電極は、アルキル基106を変更しても、比較例1に示す平板状の酸化ニッケル電極と比べて酸化電位が低い。これは、アルキル鎖の長さにかかわらず、修飾有機分子105が水分解活性の向上に寄与するためだと考えられる。なお、アルキル鎖の長さが長くなるほど修飾有機分子106の疎水性が強くなるため、水分解活性の向上への寄与が小さい。
【0126】
また、実施例9では、実施例1〜8に対して酸化触媒102を変更させず、窒素カチオン104をアミンとし、さらに、アミンにはアルキル基106が結合されない(1級窒素カチオン)。実施例9に示すように、修飾有機分子105が1級窒素カチオンを含み、アルキル基106を含まない場合であっても、比較例1に示す平板状の酸化ニッケル電極と比べて酸化電位が低い。これは、修飾有機分子105がアミノ基のような極性の官能基を含むことで、水分解活性の向上に寄与するためだと考えられる。しかし、4級アンモニウムカチオン(実施例1)よりも活性向上の寄与は小さい。
【0127】
なお、アミンにアルキル基106が結合されても、実施例9と同様の結果が得られる(N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2級窒素カチオン)。
【0128】
次に、
図13を用いて、実施例10〜16について説明する。
【0129】
[実施例10]
実施例10における酸化電極は、酸化触媒102を酸化コバルト(Co−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。
【0130】
(酸化電極の作成)
まず、FTO基板(150mm×250mm、厚さ0.5mm)で構成される集電体101が、尿素を溶解させた95℃の塩化コバルト水溶液に浸漬され、1時間保持される。これにより、水溶液から析出される酸化触媒の前駆体が集電体101上に形成される。次に、集電体101が350℃の大気中で1時間焼成されることで、酸化触媒102が集電体101表面上に形成される。酸化触媒102が形成されたことは、電子顕微鏡の観察によって確認することができる。観察の結果、酸化触媒102は、面方向に均一な膜厚を有し、その膜厚は100nmである。
【0131】
次に、酸化触媒102の表面に、修飾有機分子105が結合される。修飾有機分子105の1−(2−エチルホスホン酸)−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートが溶解された溶液は、濃度が10mMのエタノール溶液である。この溶液に酸化触媒102が30分間浸漬されることで、修飾有機分子105が酸化触媒102に結合される。その後、修飾有機分子105が溶解された溶液から酸化触媒102が取り出され、エタノールで洗浄され、かつ窒素気流中で乾燥させることで酸化電極が形成される。
【0132】
酸化触媒102に修飾有機分子105が結合していることは、実施例1と同様の方法で確認することができる。
【0133】
(水分解性能の測定)
実施例1と同様に、実施例10における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0134】
[実施例11]
実施例11における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を1−エチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例10における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例1と同様に、実施例11における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0135】
[実施例12]
実施例12における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を1−ブチル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例10における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例1と同様に、実施例12における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0136】
[実施例13]
実施例13における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−3−ヘキシルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例10における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例1と同様に、実施例13における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0137】
[実施例14]
実施例14における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−3−オクチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例10における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例1と同様に、実施例14における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0138】
[実施例15]
実施例15における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を1−ドデシル−3−(2−エチルホスホン酸)イミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例10における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例1と同様に、実施例15における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0139】
[実施例16]
実施例16における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−3−オクタデシルイミダゾリウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例10における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例1と同様に、実施例16における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
[比較例2]
比較例2における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例2における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0140】
[実施例10〜16における水分解性能の評価]
図13に示すように、実施例10〜16では、酸化触媒102を変化させず、修飾有機分子105を適宜変更した。より具体的には、実施例10〜16では、修飾有機分子105のアルキル基106(アルキル鎖の長さ)を変更した。実施例10〜16における酸化電極は、アルキル基106を変更しても、比較例2に示す平板状の酸化コバルト電極と比べて酸化電位が低い。これは、修飾有機分子105のアルキル基106にかかわらず、修飾有機分子105が水分解活性の向上に寄与するためだと考えられる。なお、アルキル鎖の長さが長くなるほど、修飾有機分子105の疎水性が強くなる分、水分解活性の向上への寄与が小さい。
【0141】
次に、
図14を用いて、実施例17〜25および比較例3について説明する。
【0142】
[実施例17]
実施例17における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を1−メチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。実施例1と同様に、実施例17における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0143】
[実施例18]
実施例18における酸化電極は、酸化触媒102をMn−Oとし、修飾有機分子105を1−メチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、対アニオン107)を変更した。実施例1と同様に、実施例18における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0144】
[実施例19]
実施例19における酸化電極は、酸化触媒102をMn−Oとし、修飾有機分子105を1−ヘキシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムジシアナミドとする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、対アニオン107)を変更した。実施例1と同様に、実施例19における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0145】
[実施例20]
実施例20における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を1−オクチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、対アニオン107)を変更した。実施例1と同様に、実施例20における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0146】
[実施例21]
実施例21における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を1−ドデシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム硝酸塩とする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、対アニオン107)を変更した。実施例1と同様に、実施例21における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0147】
[実施例22]
実施例22における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を1−オクタデシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム硫酸塩とする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、対アニオン107)を変更した。実施例1と同様に、実施例22における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0148】
[実施例23]
実施例23における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を1−メチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムホウ酸塩とする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、対アニオン107)を変更した。実施例1と同様に、実施例23における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0149】
[実施例24]
実施例24における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を1−エチル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウムリン酸塩とする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、対アニオン107)を変更した。実施例1と同様に、実施例24における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0150】
[実施例25]
実施例25における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を1−ヘキシル−4−(2−トリエトキシシリルエチル)ピリジニウム過塩素酸塩とする例である。すなわち、実施例17における酸化電極に対して、酸化触媒102と修飾有機分子105を変更した。実施例1と同様に、実施例25における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0151】
[比較例3]
比較例3における酸化電極は、酸化触媒102を酸化マンガン(Mn−O)とし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例3における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0152】
[実施例17〜25における水分解性能の評価]
図14に示すように、実施例17〜25では、酸化触媒102を変化させず、修飾有機分子105を適宜変更した。より具体的には、実施例17〜25では、修飾有機分子105の対アニオン107を変更した。実施例17〜25における酸化電極は、対アニオン107を変更しても、比較例3に示す平板状の酸化マンガン電極と比べて酸化電位が低い。これは、修飾有機分子105の対アニオン107にかかわらず、修飾有機分子105が水分解活性の向上に寄与するためだと考えられる。対アニオン107は、修飾有機分子105の親水性に影響する。また、クロライドおよびテトラフルオロボラートアニオンの親水性が強いため、特に活性向上に寄与した。
【0153】
次に、
図15を用いて、実施例26〜35および比較例1〜10について説明する。
【0154】
[実施例26]
実施例26における酸化電極は、酸化触媒102をMn−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。実施例1と同様に、実施例26における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0155】
[実施例27]
実施例27における酸化電極は、酸化触媒102を酸化鉄(Fe−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例27における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0156】
[実施例28]
実施例28における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例28における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0157】
[実施例29]
実施例29における酸化電極は、酸化触媒102をNi−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例29における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0158】
[実施例30]
実施例30における酸化電極は、酸化触媒102を酸化イリジウム(Ir−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例30における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0159】
[実施例31]
実施例28における酸化電極は、酸化触媒102を酸化スズ(Sn−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例31における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0160】
[実施例32]
実施例32における酸化電極は、酸化触媒102を酸化インジウム(In−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例32における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0161】
[実施例33]
実施例33における酸化電極は、酸化触媒102を酸化ルテニウム(Ru−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例33における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0162】
[実施例34]
実施例34における酸化電極は、酸化触媒102を酸化ルテニウムおよび酸化インジウムの二元酸化物(Ru−In−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例34における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0163】
[実施例35]
実施例35における酸化電極は、酸化触媒102を酸化コバルト、酸化ニッケル、および酸化鉄の三元酸化物(Co−Ni−Fe−O)とし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピペリジニウム炭酸水素塩とする例である。すなわち、実施例26における酸化電極に対して、酸化触媒102を変更した。実施例1と同様に、実施例35における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0164】
[比較例4]
比較例4における酸化電極は、酸化触媒102をFe−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例4における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0165】
[比較例5]
比較例5における酸化電極は、酸化触媒102をIr−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例5における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0166】
[比較例6]
比較例6における酸化電極は、酸化触媒102をSn−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例6における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0167】
[比較例7]
比較例7における酸化電極は、酸化触媒102をIn−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例7における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0168】
[比較例8]
比較例8における酸化電極は、酸化触媒102をRu−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例8における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0169】
[比較例9]
比較例9における酸化電極は、酸化触媒102をRu−In−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例9における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0170】
[比較例10]
比較例10における酸化電極は、酸化触媒102をCo−Ni−Fe−Oとし、修飾有機分子105を形成しない例である。実施例1と同様に、比較例10における酸化電極の水分解性能を光電気化学測定によって評価した。
【0171】
[実施例26〜35における水分解性能の評価]
図15に示すように、実施例26〜35では、修飾有機分子105を変化させず、酸化触媒102を適宜変更した。実施例26〜35における酸化電極は、酸化触媒102を変更しても、同じ修飾有機分子105を有する比較例1〜10に示す平板状の酸化電極と比べて酸化電位が低い。これは、酸化触媒102の材料にかかわらず、修飾有機分子105が水分解活性の向上に寄与するためだと考えられる。
【0172】
次に、
図16に示すように、実施例36〜41について説明する。
【0173】
[実施例36]
実施例36における酸化電極は、酸化触媒102をRu−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−メチルピロリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。実施例36では、酸化電極を光電気化学セルおよび光電気化学装置に適用して、アミン酸化抑制性能(アミン分解性能)の測定を行う。
【0174】
(光電気化学装置の作成)
光電気化学セルは、以下の方法で作成した。CO
2還元触媒としてAuが多接合型太陽電池17の裏面側の基板11上にスパッタ法で成膜される。また、酸化ルテニウムのナノ粒子をアルコール水溶液に分散するスプレー塗布法により、多接合型太陽電池17の表面側の酸化電極層18(集電体101)上に酸化触媒層19(酸化触媒102)が形成される。その後、実施例10と同様に、酸化触媒102上に修飾有機分子105が形成される。このようにしてできた光電気化学セルが150mm×250mmの大きさに切り出される。
【0175】
(アミン分解性能の測定)
光電気化学セルを光電気化学装置に組み込んで分解されるアミンの濃度を評価した。電解液には10%トリエタノールアミンを含む0.5M水酸化カリウム水溶液(CO
2飽和水溶液)を用いた。また、イオン交換膜にはアニオン交換膜を用いた。酸化触媒層19側からソーラーシュミレータによるAM1.5(100mW/cm
2)の光を照射し、酸化側の電解液に含まれるアミン分解物の濃度をGC/MSで定量分析した。
【0176】
また、同様に修飾有機分子105を形成しない比較例のアミン分解物の濃度を求めた。そして、実施例36のアミン分解性能を、比較例に対する実施例36のアミン分解物の濃度比として求めた。
【0177】
[実施例37]
実施例37における酸化電極は、酸化触媒102をRu−Oとし、修飾有機分子105を1−エチル−1−(2−エチルホスホン酸)ピロリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例36における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例36と同様に、実施例37における酸化触媒のアミン分解性能を評価した。すなわち、比較例に対する実施例37のアミン分解物の濃度比を求めた。
【0178】
[実施例38]
実施例38における酸化電極は、酸化触媒102をRu−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−ヘキシルピロリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例36における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例36と同様に、実施例38における酸化触媒のアミン分解性能を評価した。すなわち、比較例に対する実施例38のアミン分解物の濃度比を求めた。
【0179】
[実施例39]
実施例39における酸化電極は、酸化触媒102をRu−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクチルピロリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例36における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例36と同様に、実施例39における酸化触媒のアミン分解性能を評価した。すなわち、比較例に対する実施例39のアミン分解物の濃度比を求めた。
【0180】
[実施例40]
実施例40における酸化電極は、酸化触媒102をRu−Oとし、修飾有機分子105を1−ドデシル−1−(2−エチルホスホン酸)ピロリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例36における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例36と同様に、実施例40における酸化触媒のアミン分解性能を評価した。すなわち、比較例に対する実施例40のアミン分解物の濃度比を求めた。
【0181】
[実施例41]
実施例41における酸化電極は、酸化触媒102をRu−Oとし、修飾有機分子105を1−(2−エチルホスホン酸)−1−オクタデシルピロリジニウムテトラフルオロボレートとする例である。すなわち、実施例36における酸化電極に対して、修飾有機分子105(特に、アルキル基106)を変更した。実施例36と同様に、実施例41における酸化触媒のアミン分解性能を評価した。すなわち、比較例に対する実施例41のアミン分解物の濃度比を求めた。
【0182】
[実施例36〜41におけるアミン分解性能の測定]
図16に示すように、実施例36〜41では、酸化触媒102を変化させず、修飾有機分子105を適宜変更した。より具体的には、実施例36〜41では、修飾有機分子105はアルキル基106を変更した。実施例36〜41における酸化電極のアミン分解性能は、修飾有機分子を形成しない酸化電極(比較例)のアミン分解性能に比べて低い。これは、修飾有機分子105の材料(特に、アルキル基106)にかかわらず、修飾有機分子105がアミン分解の抑制に寄与するためだと考えられる。なお、修飾有機分子105はアルキル鎖の長さが長いほどアミンが酸化触媒に接近し難いため、分解抑制効果が高いと考えられる。
【0183】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。