【実施例1】
【0023】
[全体構成]
図1〜
図4に示す本実施例1の動弁機構1は、吸気用のバルブ8に対して設置されている。この動弁機構1は、ベース円15とノーズ16とを含むカム14が設けられたカムシャフト10を備え、カム14でバルブ8を駆動する。この動弁機構1は、カムシャフト10を径方向に平行移動させる、すなわち、カムシャフト10の回転中心線Xを移動前の状態に対して平行に保ちながら、カムシャフト10を径方向に移動させていく平行移動装置40を備えている。その平行移動の方向は、曲線方向であって、具体的には、後述する偏心部材41の回動中心線Xoを中心とした回動方向である。そして、所定時以外の通常時には、
図2及び
図3(b)に示すように、平行移動装置40でカムシャフト10を所定の通常位置p1に配することで、ベース円15ではバルブ8を開かない通常状態にする。その一方、前記所定時には、
図3(a)に示すように、平行移動装置40でカムシャフト10を所定の圧抜位置p2に配することで、ベース円15でもバルブ8を開く圧抜状態にする。そして、その所定時は、内燃機関をモータで始動させる始動時と、その前後の時期とを含んでいる。
【0024】
具体的には、この動弁機構1は、次に示す、カムシャフト10と、ロッカアーム20と、ラッシュアジャスタ30と、平行移動装置40とを含み構成されている。そして、バルブ8に対しては、該バルブ8を閉じる方向に付勢するバルブスプリング9が取り付けられている。
【0025】
[カムシャフト10]
カムシャフト10は、左右方向に延びるシャフトであって、内燃機関の回転に従い回転する。そして、このカムシャフト10の各バルブ8,8・・に隣接する部位には、カム14,14・・が設けられている。そのカム14は、断面形状が円形のベース円15と、該ベース円15から突出したノーズ16とを含み構成されている。そして、このカムシャフト10に回転力を伝えるタイミングベルトを支持したスプロケットのいくつかは、カムシャフト10が平行移動した際にタイミングベルトの張力が増減しないように、カムシャフト10の平行移動に同調して所定の方向に移動するようになっている。
【0026】
[ロッカアーム20]
ロッカアーム20は、カム14とバルブ8との間に介装されたアームである。このロッカアーム20は、後端部がラッシュアジャスタ30のプランジャ32に揺動可能に支持されている。そして、長さ方向中間部にカム14に当接するローラ21を回転可能に支持している。そして、前端部がバルブ8に当接している。
【0027】
[ラッシュアジャスタ30]
ラッシュアジャスタ30は、カム14とロッカアーム20との間のクリアランスを自動で埋めるための装置である。このラッシュアジャスタ30は、上方に開口した有底筒状のボディ31と、下部がボディ31に挿入されて上端部でロッカアーム20の後端部を支持したプランジャ32とを含み構成されている。そして、カム14とロッカアーム20との間にクリアランスが発生すると、ボディ31からプランジャ32が繰り出すことでクリアランスを埋める。また、ロッカアーム20からプランジャ32に下方に負荷が加わるとボディ31にプランジャ32が退入する。
【0028】
詳しくは、プランジャ32の退入時には、ボディ31の内部にある高圧油室内の油がプランジャ32の内部にある低圧油室にリーク路からリークすることで流動抵抗が生じる。そのため、ボディ31にプランジャ32が徐々にゆっくりと退入する。また、プランジャ32の繰出し時には、ボディ31の内部にあるバネの復元力でボディ31からプランジャ32が繰り出される。このとき、プランジャ32内の低圧油室の油は、ボディ31内の高圧油室に、リーク路よりも広くて逆止弁のついた流路から流れ込む。そのため、プランジャ32の退入時ほどの流動抵抗は生じず、ボディ31からプランジャ32が速やかに繰り出す。
【0029】
[平行移動装置40]
平行移動装置40は、偏心部材41と回動装置45とを含み構成されている。その偏心部材41は、カムシャフト10を回転可能に支持するとともに、該カムシャフト10の回転中心線Xから平行に離間した位置に自身の回動中心線Xoを備えている。また、回動装置45は、偏心部材41を前記回動中心線Xoを中心に回動させるように構成されている。
【0030】
詳しくは、偏心部材41は断面形状が円形の部材であって、シリンダヘッドの立壁部7に貫設された断面形状が円形の第一貫通孔7aに挿通されることで、該立壁部7に回動可能に支持されている。そして、この偏心部材41には、断面形状が円形の支持孔42が貫設されている。その支持孔42の中心線は、偏心部材41の回動中心線Xoからその径方向に平行に離間している。その支持孔42に、カムシャフト10が挿通されることで、偏心部材41にカムシャフト10が相対回動可能に支持されている。
【0031】
また、回動装置45は、コントロールシャフト46と第一ギア47と第二ギア48と軸動装置とを含み構成されている。そのコントロールシャフト46は、偏心部材41よりもその径方向側(前方)に設けられて、該偏心部材41の回動中心線Xoと平行に自身の回動中心線Xiを備えている。そのコントロールシャフト46は、シリンダヘッドの立壁部7に貫設された断面形状が円形の第二貫通孔7bに挿通されることで、該立壁部7に回転可能に支持されている。また、第一ギア47は、コントロールシャフト46に設けられて該コントロールシャフト46と共に回動するように構成されている。また、第二ギア48は、偏心部材41に設けられて該偏心部材41と共に回動するように構成されており、第一ギア47と噛み合っている。また、軸動装置は、コントロールシャフト46を回動させるように構成されている。
【0032】
そして、通常状態から圧抜状態に切り換えるときには、
図3(a)に示すように、軸動装置でコントロールシャフト46をその回動方向の一方(図では右回り)に回動させることで、第一ギア47及び第二ギア48を介して、偏心部材41をその回動方向の他方(図では左回り)に90°回動させる。これにより、カムシャフト10が通常位置p1から、それよりもロッカアーム20側(下側)の圧抜位置p2に平行移動して、ベース円15でもバルブ8を開くようになる。よって、このとき、カム14は、ベース円15でもノーズ16でもバルブを開くことで、
図4の「圧抜状態」に示すように、バルブ8を常時開放するようになる。
【0033】
また、圧抜状態から通常状態に切り換えるときには、
図3(b)に示すように、軸動装置でコントロールシャフト46をその回動方向の他方(図では左回り)に回動させることで、第一ギア47及び第二ギア48を介して、偏心部材41をその回動方向の一方(図では右回り)に90°回動させる。これにより、カムシャフト10が圧抜位置p2から通常位置p1に平行移動して、ベース円15ではバルブ8を開かないようになる。よって、このとき、カム14は、ベース円15ではバルブ8を開かず、ノーズ16ではバルブ8を開くことで、
図4の「通常状態」に示すように、バルブ8を開閉するようになる。
【0034】
本実施例1によれば、次のA〜Cの効果を得ることができる。
[A]所定時には、ベース円15でもバルブ8を開く圧抜状態にするので、気筒内が密閉されなくなり、圧縮抵抗や膨張抵抗が抑えられる。そして、その所定時は、内燃機関の始動時を含むので、始動性が向上するとともに、始動時にモータで加えるべき負荷も減り、燃費向上に繋がる。
【0035】
[B]通常状態と圧抜状態との切換は、カムシャフト10を径方向に平行移動させて行うので、カムシャフト10を長さ方向に移動させて行う場合に比べて、熱膨張の影響が少ない。
【0036】
[C]平行移動装置40は、第二ギア48が設けられた偏心部材41と、第一ギア47が設けられたコントロールシャフト46と、軸動装置とを設けるだけで追加することができるので、本実施例1は、少ない部品変更で実施することができる。
【実施例2】
【0037】
図5,6に示す本実施例2の動弁機構2は、実施例1と比較して、次の点で相違し、その他の点で同様である。すなわち、カム14は、ベース円15の外周面の周方向の一区間に径方向に凹む凹部17を備えている。そして、圧抜状態では、該凹部17が作用するタイミングにバルブ8が閉じるように構成されている。そのバルブ8が閉じるタイミングは、
図6の「圧抜状態」に示すように、排気側のバルブが開くタイミング内に納まっている。本実施例2によれば、実施例1に記載のA〜Cの効果に加え、次のDの効果を得ることができる。
【0038】
[D]圧抜状態が長く続いても、凹部17が作用するタイミングの度にラッシュアジャスタ30のボディ31からプランジャ32が繰り出されるので、ボディ31にプランジャ32が過度に深く沈み込む心配がない。また、この場合でも、凹部17が作用して吸気用のバルブ8が閉じるタイミングは、排気側のバルブが開くタイミング内に納まっているので、吸気用のバルブ8と排気用のバルブとが同時に閉じることはなく、よって、気筒は常時開放される。
【実施例3】
【0039】
図7に示す本実施例3の動弁機構3は、実施例1と比較して、カムシャフト10を平行移動させる方向が、曲線方向(回動方向)ではなく、直線方向(上下方向)である点で相違している。構造的には、実施例1と比較して、次の点で相違し、その他の点で同様である。すなわち、シリンダヘッドの立壁部7には、実施例1でいう第一貫通孔7a及び第二貫通孔7bは貫設されていない。そして、平行移動装置40は、シリンダヘッドの立壁部7に設けられてカムシャフト10を回転可能、かつ、上下方向に平行移動可能に支持した、上下方向に延びる長孔状のガイド孔44と、該ガイド孔44に沿ってカムシャフト10を上下方向に平行移動させる昇降装置とを含み構成されている。本実施例3によれば、実施例1に記載のA,Bの効果に加え、次のC'の効果を得ることができる。
【0040】
[C']平行移動装置40は、ガイド孔44と昇降装置とを設けるだけで追加できるので、本実施例3は、少ない部品変更で実施することができる。
【0041】
なお、本発明は前記実施例の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもでき、例えば、次の変更例1,2のように変更してもよい。
[変更例1]動弁機構を、吸気用ではなく排気用のバルブに対して設置してもよい。
[変更例2]ロッカアームを可変機能を備えた揺動部材等に変更することで、動弁機構を可変動弁機構に変更してもよい。
【0042】
1 動弁機構(実施例1)
2 動弁機構(実施例3)
3 動弁機構(実施例4)
8 バルブ
10 カムシャフト
14 カム
15 ベース円
16 ノーズ
40 平行移動装置
41 偏心部材
45 回動装置
46 コントロールシャフト
47 第一ギア
48 第二ギア
X カムシャフトの回転中心線
Xo 偏心部材の回動中心線
Xi コントロールシャフトの回動中心線
p1 通常位置
p2 圧抜位置