(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一分子中に、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を含み、重量平均分子量が200〜60000である安定化剤(C)を更に含有する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
前記化合物(B)の含有量が、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.01質量部〜5質量部である、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
有機リン化合物の含有量が、前記ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して0.1質量部未満である、請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
前記化合物(B)が、1,3,5−トリス(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレートである、請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「フィルム」は、一般的に「フィルム」と呼ばれているものだけでなく、一般的に「シート」と呼ばれているものをも包含する概念である。
【0018】
≪第一の態様≫
本発明の第一の態様に係る高分子圧電材料は、重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)と、化合物(B)と、を含有し、前記化合物(B)は、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ホスファイト系化合物及びチオエーテル系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが3.5〜15.0であり、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%である。
本態様の高分子圧電材料は、上記化合物(B)を含有することにより、上記化合物(B)を含有しない高分子圧電材料と比較して、厚み精度に優れる。しかも、上記化合物(B)を含有しない高分子圧電材料と比較して、圧電性が同等に維持される。
【0019】
第一の態様において、高分子圧電材料の圧電性は、例えば、高分子圧電材料の圧電定数d
14を測定することによって評価することができる。圧電定数d
14が大きいほど、圧電性が高いことを示す。
また、第一の態様において、高分子圧電材料の透明性は、例えば、内部ヘイズを測定することによって評価することができる。内部ヘイズが小さいほど、透明性が高いことを示す。
また、第一の態様において、高分子圧電材料の耐湿熱性は、例えば、恒温恒湿試験後の重量平均分子量(Mw)の保持率(以下、「恒温恒湿試験後のMw保持率」ともいう)を測定することによって評価することができる。
以下、厚み精度、圧電定数d
14、内部ヘイズ、恒温恒湿試験後のMw保持率について説明する。
【0020】
<厚み精度>
第一の態様に係る高分子圧電材料では、厚みムラR及びフィルム幅方向の厚みの標準偏差σから厚み精度を評価する。
フィルムの製造中、MD方向に流れるフィルム対してオンライン厚み計測装置をTD方向にトラバースさせてフィルム面内の厚みデータを蓄積する。平均厚みdに対する厚みムラRの割合(100R/d)が19%以下、好ましくは18%以下、更に好ましくは17%以下である。厚みムラが0%〜19%の範囲であると高分子圧電材料を用いたデバイスを量産化した際に、個々のデバイス間の性能バラつきを抑制という効果を奏する。
なお、厚みムラRは、測定長での厚み最大値T
max(μm)及び最小値T
min(μm)から以下の式に基づき算出する。
[式]・・厚みムラR(μm)=T
max−T
min
【0021】
以下、
図1、2を用いて、高分子圧電材料の厚み測定についてより詳細に説明する。
図1に示すように、厚み測定装置2をフィルム(高分子圧電材料)1が流れるMD方向と垂直なTD方向に移動させながらフィルム面内の厚みデータを取得する。このとき、厚み測定装置2は、MD方向に流れるフィルム1に対して
図2に示すような走行軌跡(測定点)3を描く。
厚み測定装置2としては、市販の厚み測定装置を用いることができ、例えば、山文電気社製のレーザ式非接触オンライン厚み計測装置NSM−RMが挙げられる。
【0022】
第一の態様に係る高分子圧電材料では、フィルム幅方向の厚みの標準偏差σが1.4以下、より好ましくは1.3以下である。
【0023】
さらに、第一の態様に係る高分子圧電材料では、フィルム幅方向の厚みムラR(μm)と厚みの標準偏差σとの積(R×σ)は13以下、好ましくは11以下、さらに好ましくは10以下である。
R×σがこの範囲にあると、高分子圧電材料を用いたデバイスを量産化した際に、個々のデバイス間の性能バラつきを抑制するという効果を奏する。
【0024】
<圧電定数d
14(変位法)>
高分子圧電材料の圧電性は、例えば、高分子圧電材料の圧電定数d
14を測定することによって評価することができる。
第一の態様において、「圧電定数d
14」は、25℃において変位法で測定した圧電定数d
14を指す。
ここで、「変位法で測定した圧電定数d
14」とは、32mm×5mmの高分子圧電材料の両面に導電層が形成されてなる圧電定数測定用サンプルの一対の導電層間に10Hz、300Vppの正弦波の交流電圧を印加し、このときの変位の最大値と最小値との差分距離を変位量(mp−p)として測定し、測定された変位量(mp−p)を基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を指す。
この「変位法で測定した圧電定数d
14」は、例えば、特許4934235号公報の段落0058〜0059に記載の方法によって測定できる。
【0025】
以下、圧電定数d
14(変位法)の測定方法の一例を示す。
まず、40mm×40mmの正方形形状に切り出された高分子圧電材料の両面に、蒸着装置(例えば、株式会社昭和真空SIP−600)を用いてアルミニウム(Al)を蒸着することにより、Alの導電層を形成する。
次に、両面にAlの導電層が形成された40mm×40mmの試験片(高分子圧電材料)を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に32mm、45°なす方向に直交する方向に5mmにカットして、32mm×5mmの矩形のフィルムを切り出す。これを、圧電定数測定用サンプルとする。得られた圧電定数測定用サンプルに、10Hz、300Vppの正弦波の交流電圧を印加したときの、フィルムの変位の最大値と最小値の差分距離を、キーエンス社製レーザ分光干渉型変位計SI−1000により計測する。計測した変位量(mp−p)を、フィルムの基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を圧電定数d
14(pm/V)とする。なお、この計測は25℃の条件下で行う。
【0026】
圧電定数d
14は高ければ高いほど、高分子圧電材料に印加される電圧に対する高分子圧電材料の変位が大きくなり、また、高分子圧電材料に印加される力に対して発生する電圧が大きくなり、高分子圧電材料として有用である。
具体的には、第一の態様の高分子圧電材料の圧電定数d
14(即ち、25℃における変位法で測定した圧電定数d
14)は、1.0pm/V以上であることが好ましく、3.0pm/V以上であることがより好ましく、4.0pm/V以上であることが更に好ましい。
また、圧電定数d
14の上限は特に限定されないが、透明性などのバランスの観点からは、ヘリカルキラル高分子を用いた高分子圧電材料では50pm/V以下が好ましく、30pm/V以下がより好ましい。
また、同様に透明性などとのバランスの観点からは、変位法で測定した圧電定数d
14が15pm/V以下であることが好ましい。
【0027】
なお、本明細書中において、「MD方向」とはフィルムの流れる方向(Machine Direction)であり、「TD方向」とは、前記MD方向と直交し、フィルムの主面と平行な方向(Transverse Direction)である。
【0028】
<内部ヘイズ>
第一の態様の高分子圧電材料の透明性は、内部ヘイズを測定することにより評価することができる。
第一の態様の高分子圧電材料は、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であることが好ましい。
ここで高分子圧電材料の内部ヘイズは、高分子圧電材料の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズを指す。
第一の態様の高分子圧電材料の内部ヘイズは、厚さ0.03mm〜0.05mmの高分子圧電材料に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において詳述する。
高分子圧電材料の内部ヘイズは、更に40%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、13%以下であることが更に好ましく、5.0%以下であることが更に好ましい。更に、高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、透明性及び縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下が好ましく、1.0%以下が特に好ましい。
また、高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、低ければ低いほどよいが、圧電定数などとのバランスの観点からは、0.0%〜40%であることが好ましく、0.01%〜20%であることがさらに好ましく、0.01%〜5%がさらに好ましく、0.01%〜2.0%がさらに好ましく、0.01%〜1.0%が特に好ましい。
【0029】
第一の態様の高分子圧電材料は、可視光線に対する内部ヘイズが1.0%以下であり、且つ25℃において変位法で測定した圧電定数d
14が1.0pm/V以上であることが好ましい。
【0030】
<恒温恒湿試験後のMw保持率>
第一の態様において、高分子圧電材料の耐湿熱性は、例えば、恒温恒湿試験後の重量平均分子量(Mw)の保持率(以下、「恒温恒湿試験後のMw保持率」ともいう)を求めることによって評価することができる。
ここで、恒温恒湿試験後のMw保持率は、下記式によって求められる値を指す。
恒温恒湿試験後のMw保持率 = 恒温恒湿試験後の高分子圧電材料に含まれる高分子の重量平均分子量(Mw)/恒温恒湿試験前の高分子圧電材料に含まれる高分子の重量平均分子量(Mw)
【0031】
高分子圧電材料に含まれる高分子の重量平均分子量(Mw)の測定方法については後述する。また、恒温恒湿試験の条件の一例としては、温度85℃、湿度85%RHの条件が挙げられる。
【0032】
次に、第一の態様の高分子圧電材料について、更に詳細に説明する。
【0033】
第一の態様の高分子圧電材料では、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含有すること、上記MORcが3.5以上であること、及び上記結晶化度が20%以上であることにより、ヘリカルキラル高分子(A)の結晶状態にある分子鎖が、高密度に一方向に配向された状態となっている。これにより、優れた圧電性が維持される。
また、第一の態様の高分子圧電材料では、上記MORcが15.0以下であること、上記結晶化度が80%以下であること、及び上記内部ヘイズが50%以下であることを満たした場合、高い透明性が維持される。
【0034】
次に、MORc、結晶化度について説明する。
【0035】
<規格化分子配向MORc>
上記規格化分子配向MORcは、ヘリカルキラル高分子(A)の配向の度合いを示す指標である「分子配向度MOR」に基づいて定められる値である。
ここで、分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。すなわち、高分子圧電材料(例えば、フィルム状の高分子圧電材料)を、周知のマイクロ波分子配向度測定装置(マイクロ波透過型分子配向計ともいう)のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に高分子圧電材料の面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、高分子圧電材料をマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
【0036】
規格化分子配向MORcは、基準厚さtcを50μmとしたときの分子配向度MORであって、下記式により求めることができる。
MORc=(tc/t)×(MOR−1)+1
(tc:補正したい基準厚さ、t:高分子圧電材料の厚さ)
規格化分子配向MORcは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、4GHzもしくは12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
【0037】
前述のとおり、第一の態様の高分子圧電材料は、上記規格化分子配向MORcが3.5〜15.0である。
規格化分子配向MORcが3.5以上であることにより、高分子圧電材料中において、分子配向するヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖が多くなり、その結果、高分子圧電材料の圧電性が高く維持される。
また、規格化分子配向MORcが15.0以下であることにより、分子配向するヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖が多すぎることによる透明性の低下が抑制され、その結果、高分子圧電材料の透明性が高く維持される。
規格化分子配向MORcは、3.5〜10.0であることが好ましく、4.0〜8.0であることがより好ましい。
【0038】
規格化分子配向MORcは、例えば、高分子圧電材料が延伸フィルムである場合には、延伸前の加熱処理条件(加熱温度及び加熱時間)や、延伸条件(延伸温度及び延伸速度)等によって制御されうる。
【0039】
なお、規格化分子配向MORcは、位相差量(レターデーション)をフィルムの厚さで除した複屈折率Δnに変換することもできる。具体的には、レターデーションは大塚電子株式会社製RETS100を用いて測定することができる。またMORcとΔnとは大凡、直線的な比例関係にあり、かつΔnが0の場合、MORcは1になる。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)がポリ乳酸系高分子であり、かつ、高分子圧電材料の複屈折率Δnを測定波長550nmで測定した場合、規格化分子配向MORcの好ましい範囲の下限である2.0は、複屈折率Δn 0.005に変換できる。また、後述する、高分子圧電材料の規格化分子配向MORcと結晶化度の積の好ましい範囲の下限である40は、高分子圧電材料の複屈折率Δnと結晶化度の積が0.1に変換することができる。
【0040】
<結晶化度>
第一の態様において、高分子圧電材料の結晶化度は、DSC法によって求められるものである。
前述のとおり、第一の態様の高分子圧電材料の結晶化度は、20%〜80%である。
結晶化度が20%以上であることにより、高分子圧電材料の圧電性が高く維持される。
結晶化度が80%以下であることにより、高分子圧電材料の透明性が高く維持され、また、結晶化度が80%以下であることにより、延伸時に白化や破断がおきにくいので、高分子圧電材料を製造しやすい。
従って、高分子圧電材料の結晶化度は20%〜80%であるが、上記結晶化度は、より好ましくは25%〜70%であり、さらに好ましくは30%〜50%である。
【0041】
<規格化分子配向MORcと結晶化度との積>
高分子圧電材料の規格化分子配向MORcと結晶化度との積には特に制限はないが、上記積は、好ましくは40〜700、より好ましくは75〜680、さらに好ましくは90〜660、さらにより好ましくは125〜650、特に好ましくは150〜350である。上記の積が40〜700の範囲にあれば、高分子圧電材料の圧電性と透明性とのバランスが良好であり、かつ寸法安定性も高く、後述する圧電素子として好適に用いることができる。
第一の態様では、例えば、高分子圧電材料を製造する際の結晶化及び延伸の条件を調整することにより、上記の積を上記範囲に調整することができる。
【0042】
第一の態様の高分子圧電材料の形状には特に制限はないが、フィルム形状が好ましい。
また、第一の態様の高分子圧電材料の厚さ(例えば、フィルム形状である場合の第一の態様の高分子圧電材料の厚さ)には特に制限はないが、10μm〜400μmが好ましく、20μm〜200μmがより好ましく、20μm〜100μmが更に好ましく、20μm〜80μmが特に好ましい。
【0043】
<引張弾性率>
第一の態様の高分子圧電材料の引張弾性率は、JIS Z−6732に記載の試験方法により評価したときに、厚み50μmのフィルムの延伸方向の引張弾性率は、好ましくは0.1GPa〜100GPaであり、より好ましくは1GPa〜50GPaであり、さらに好ましくは1.5GPa〜30GPaであり、特に好ましくは2GPa〜10GPaである。
高分子圧電材料の引張弾性率が0.1GPa以上であると、十分な形状保持性を確保することができ、引張弾性率が100GPa以下であると、フィルムが脆くなることを抑制できる。
高分子圧電材料の引張弾性率は、フィルムの組成、延伸倍率及び加熱条件などによって調整することができる。例えば、延伸倍率を高めれば、高分子圧電材料の引張弾性率を高くすることができる。
【0044】
他にも、第一の態様の高分子圧電材料の引張弾性率は、JIS K7161に準拠した方法で測定してもよい。具体的には、フィルムをカットして、巾(高分子圧電材料の延伸方向と直交する方向)10mm、長さ(高分子圧電材料の延伸方向)120mmの短冊状の試験片を準備し;引張試験機を用いて、温度23℃において、チャック間距離100mm、引張速度100mm/分の条件下で、試験片の引張弾性率を測定すればよい。試験片の引張弾性率としては、好ましくは0.1GPa〜100GPaであり、より好ましくは0.1GPa〜50GPaである。
【0045】
第一の態様において、「延伸方向」とは、高分子圧電材料の分子鎖の伸びきり方向;又は引張弾性率が0.1GPa〜100GPaとなる方向である。また、「延伸方向と直交する方向」とは、高分子圧電材料の分子鎖の伸びきり方向と直交する方向である。
【0046】
次に、高分子圧電材料の各成分について説明する。
【0047】
<ヘリカルキラル高分子(A)>
第一の態様の高分子圧電材料は、ヘリカルキラル高分子(A)を含有する。
第一の態様におけるヘリカルキラル高分子(A)は、重量平均分子量が5万〜100万であり光学活性を有するヘリカルキラル高分子である。
ここで、「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」とは、分子構造が螺旋構造であり分子光学活性を有する高分子を指す。
第一の態様におけるヘリカルキラル高分子(A)は、上記の「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」のうち、重量平均分子量が5万〜100万である高分子である。
【0048】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系高分子、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
上記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
上記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0049】
ヘリカルキラル高分子(A)は、高分子圧電材料の圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、96.00%ee以上であることがより好ましく、99.00%ee以上であることがさらに好ましく、99.99%ee以上であることがさらにより好ましい。望ましくは100.00%eeである。ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
【0050】
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、ヘリカルキラル高分子(A)の光学純度は、
『「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値である。
【0051】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子(A)のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0052】
上記ヘリカルキラル高分子(A)としては、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する高分子が好ましい。
【0054】
上記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする高分子としては、ポリ乳酸系高分子が挙げられる。
ここで、ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)」、「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
ポリ乳酸系高分子の中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)又はD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
【0055】
ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子である。
ポリ乳酸は、ラクチドを経由するラクチド法;溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法;などによって製造できることが知られている。
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸及びD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0056】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸;グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸及びこれらの無水物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール;セルロース等の多糖類;α−アミノ酸等のアミノカルボン酸;等を挙げることができる。
【0057】
上記「L−乳酸又はD−乳酸と、該L−乳酸又はD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマー又はグラフトコポリマーが挙げられる。
【0058】
また、ヘリカルキラル高分子(A)中におけるコポリマー成分に由来する構造の濃度は20mol%以下であることが好ましい。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)が、ポリ乳酸系高分子である場合、ポリ乳酸系高分子中における、乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、コポリマー成分に由来する構造の濃度が20mol%以下であることが好ましい。
【0059】
ポリ乳酸系高分子は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法;米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法;などにより製造することができる。
【0060】
さらに、上記各製造方法により得られたポリ乳酸系高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0061】
−重量平均分子量−
ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)は、前述のとおり5万〜100万である。
ヘリカルキラル高分子(A)のMwが5万以上であることにより、高分子圧電材料の機械的強度が向上する。上記Mwは、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子(A)のMwが100万以下であることにより、成形(例えば押出成形)によって高分子圧電材料を得る際の成形性が向上する。上記Mwは、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
【0062】
また、ヘリカルキラル高分子(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、高分子圧電材料の強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0063】
なお、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定された値を指す。ここで、Mnは、ヘリカルキラル高分子(A)の数平均分子量である。
【0064】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
ヘリカルキラル高分子(A)を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
【0065】
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子(A)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
【0066】
ヘリカルキラル高分子(A)の例であるポリ乳酸系高分子としては、市販のポリ乳酸を用いることができる。
市販品としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeo
TM biopolymer、等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、又は直接重合法によりポリ乳酸系高分子を製造することが好ましい。
【0067】
第一の態様の高分子圧電材料は、上述したヘリカルキラル高分子(A)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
第一の態様の高分子圧電材料中におけるヘリカルキラル高分子(A)の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、高分子圧電材料の全量に対し、80質量%以上が好ましい。
【0068】
<化合物(B)>
第一の態様の高分子圧電材料は、化合物(B)を含有する。
第一の態様における化合物(B)は、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
【0069】
また、化合物(B)として、ヒンダードフェノール系化合物又はヒンダードアミン系化合物を用いることが好ましい。これにより、耐湿熱性及び透明性にも優れる高分子圧電材料を提供することができる。
さらに、化合物(B)として、ヒンダードフェノール系化合物がより好ましく、一分子中にリン原子を含まないヒンダードフェノール系化合物がさらに好ましい。これにより、耐湿熱性及び透明性がより向上した高分子圧電材料を提供することができる。
【0070】
(ヒンダードフェノール系化合物)
第一の態様において、ヒンダードフェノール系化合物とは、一分子中に、(1)ベンゼン環と、(2)上記ベンゼン環に結合している−OH基(即ち、フェノール性水酸基)と、(3)上記ベンゼン環の上記−OH基に対するオルト位に結合している置換基(好ましくは置換又は無置換のアルキル基)と、を含む化合物を指す。
ヒンダードフェノール系化合物としては、第二の態様の効果がより効果的に奏される観点から、一分子中にリン原子を含まないヒンダードフェノール系化合物が好ましい。
【0071】
ヒンダードフェノール系化合物は、一分子中に、下記一般式(b1)で表される基及び下記一般式(b2)で表される基の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0073】
一般式(b1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基を表す。前記炭素数1〜6のアルキル基は、炭素数1〜20のアルコキシ基又は炭素数1〜20のアルキルチオ基によって置換されていてもよい。
一般式(b1)中、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
一般式(b2)中、R
21〜R
24は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を表す。
一般式(b1)及び(b2)中、波線は、結合位置を表す。
【0074】
一般式(b1)中、R
1及びR
2で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖アルキル基であっても分岐アルキル基であってもよい。
上記炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、直鎖プロピル基、分岐プロピル基(即ち、イソプロピル基)、直鎖ブチル基、分岐ブチル基(即ち、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基)、直鎖ペンチル基、分岐ペンチル基、直鎖へキシル基、分岐へキシル基が挙げられる。
上記炭素数1〜6のアルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、ターシャリーブチル基が最も好ましい。
【0075】
R
1及びR
2で表される炭素数1〜6のアルキル基は、炭素数1〜20のアルコキシ基又は炭素数1〜20のアルキルチオ基によって置換されていてもよい。
上記炭素数1〜20のアルコキシ基は、直鎖アルコキシ基であっても分岐アルコキシ基であってよい。上記炭素数1〜20のアルコキシ基としては、炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。
上記炭素数1〜20のアルキルチオ基は、直鎖アルキルチオ基であっても分岐アルキルチオ基であってよい。上記炭素数1〜20のアルキルチオ基としては、炭素数1〜12のアルキルチオ基が好ましい。
【0076】
また、前述のとおり、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがより好ましい。R
3及びR
4は、いずれも水素原子であることが特に好ましい。
【0077】
一般式(b1)中、R
1及びR
2が、それぞれ独立に、無置換の炭素数1〜4のアルキル基、又は、炭素数1〜12のアルキルチオ基によって置換された炭素数1〜4のアルキル基であり、R
3及びR
4がいずれも水素原子であることが好ましい。
特に好ましくは、一般式(b1)中、R
1及びR
2がいずれもターシャリーブチル基であり、R
3及びR
4がいずれも水素原子であることである。
【0078】
また、高分子圧電材料の耐湿熱性をより向上させる観点から、化合物(B)は、一分子中に、一般式(b1)で表される基を含むことが好ましい。
【0079】
また、高分子圧電材料の耐湿熱性をより向上させる観点から、化合物(B)は、一分子中にイソシアヌル骨格を含むことが好ましい。
より好ましくは、化合物(B)が、一分子中に、一般式(b1)で表される基及びイソシアヌル骨格を含むことである。
化合物(B)として、最も好ましくは、1,3,5−トリス(3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート(後述する安定化剤B−4)である。
【0080】
化合物(B)の分子量には特に制限はないが、高分子圧電材料の耐湿熱性をより向上させる観点から、化合物(B)の分子量は、400以上であることが好ましい。
また、高分子圧電材料の耐湿熱性をより向上させる観点から、化合物(B)の分子量は、1200以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。
ここで、化合物(B)の分子量は、数平均分子量を指す。
【0081】
第一の態様の高分子圧電材料は、化合物(B)を、1種のみ含有していてもよいし、2種以上含有していてもよい。
また、第一の態様の高分子圧電材料中における化合物(B)の含有量には特に制限はない。
高分子圧電材料の耐湿熱性をより向上させる観点から、化合物(B)の含有量(2種以上である場合には総含有量。以下同じ。)は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることが好ましく、0.1質量部〜3質量部であることがより好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、高分子圧電材料の耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、高分子圧電材料の透明性の低下がより抑制される。
【0082】
以下、化合物(B)の具体例(安定化剤B−1〜B−10)を示すが、本発明は具体例に限定されることはない。
化合物B−1〜B−10の分子量は、後述の実施例(表1)に示す。
また、下記の化合物B−1〜B−10の構造において、「t−Bu」は、ターシャリーブチル基を表す。
【0084】
また、ヒンダードフェノール系化合物としては、例えば、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9−ビス[2−{3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4,6-トリス(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)メシチレン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−m−クレゾール)、等が挙げられる。
【0085】
化合物(B)としては、市販品を用いることもできる。
化合物(B)がヒンダードフェノール系化合物である場合、市販品としては、例えば、BASF社製の「IRGANOX」シリーズ、ADEKA社製の「アデカスタブAOシリーズ」、住友化学社製の「スミライザーシリーズ」が挙げられる。
【0086】
(ヒンダードアミン系化合物)
第一の態様において、ヒンダードアミン系化合物とは、一分子中にピペリジン環を含み、上記ピペリジン環の2位及び6位の炭素上の全ての水素原子がメチル基で置換された化合物を指す。
【0087】
ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’−テトラメチレン−ビス[3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ジアミン、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオニル]ヒドラジン、N−サリチロイル−N’−サリチリデンヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4―トリアゾール、N,N’−ビス[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]オキシアミド等を挙げることができる。好ましくは、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、及びテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。
【0088】
(ホスファイト系化合物)
第一の態様において、ホスファイト系化合物とは、一分子内に少なくとも1個のリン原子を有し、上記リン原子に3個の有機基が結合した有機亜リン酸エステル化合物を指す。リン原子に結合した有機基としては、例えば、置換又は無置換のヒドロキシフェニル基、置換又は無置換のアルコキシ基などが挙げられる。
ホスファイト系化合物としては、少なくとも1つのP−O結合が芳香族基(例えば、置換又は無置換のフェニル基)に結合している化合物が好ましい。
【0089】
ホスファイト系化合物としては、例えば、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスファイト、ビス(2,6―ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジトリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノ及びジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられる。中でも、トリス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、テトラキス(2,6―ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェニレンホスファイト、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン等が好ましい。
【0090】
化合物(B)がホスファイト系化合物である場合、市販品としては、例えば、ADEKA社製のPEP−36、BASF社製のIRGAFOS 168などが挙げられる。
【0091】
(チオエーテル系化合物)
第一の態様において、チオエーテル系化合物としては、一分子内に少なくとも1個のチオエーテル結合を有する化合物を指す。
チオエーテル系化合物としては、一分子内に少なくとも1つのエステル結合を有する化合物であることが好ましく、2つのエステル結合を有する化合物であることがさらに好ましい。
【0092】
チオエーテル系化合物としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ドデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−オクタデシルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ステアリルチオプロピオネート)等が挙げられる。
【0093】
<安定化剤(C)>
第一の態様の高分子圧電材料は、更に、安定化剤(C)を含有することが好ましい。これにより、耐湿熱性をより向上させることができる。
第一の態様における安定化剤(C)は、一分子中に、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、重量平均分子量が200〜60000である安定化剤である。
【0094】
第一の態様における安定化剤(C)としては、国際公開第2013/054918号パンフレットの段落0039〜0055に記載された「安定化剤(B)」を用いることができる。
【0095】
安定化剤(C)として用い得る、一分子中にカルボジイミド基を含む化合物(カルボジイミド化合物)としては、モノカルボジイミド化合物、ポリカルボジイミド化合物、環状カルボジイミド化合物が挙げられる。
モノカルボジイミド化合物としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、等が好適である。
また、ポリカルボジイミド化合物としては、種々の方法で製造したものを使用することができる。従来のポリカルボジイミドの製造方法(例えば、米国特許第2941956号明細書、特公昭47−33279号公報、J.0rg.Chem.28,2069−2075(1963)、Chemical Review 1981,Vol.81 No.4、p619−621)により、製造されたものを用いることができる。具体的には特許4084953号公報に記載のカルボジイミド化合物を用いることもできる。
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド、等が挙げられる。
環状カルボジイミド化合物は、特開2011−256337号公報に記載の方法などに基づいて合成することができる。
カルボジイミド化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、東京化成製、B2756(商品名)、日清紡ケミカル社製、カルボジライトLA−1、ラインケミー社製、Stabaxol P、Stabaxol P400、Stabaxol I(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0096】
安定化剤(C)として用い得る、一分子中にイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)としては、イソシアン酸3−(トリエトキシシリル)プロピル、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、等が挙げられる。
【0097】
安定化剤(C)として用い得る、一分子中にエポキシ基を含む化合物(エポキシ化合物)としては、フェニルグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA−ジグリシジルエーテル、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン等が挙げられる。
【0098】
安定化剤(C)の重量平均分子量は、上述のとおり200〜60000であるが、200〜30000がより好ましく、300〜18000がさらに好ましい。
分子量が上記範囲内ならば、安定化剤がより移動しやすくなり、耐湿熱性改良効果がより効果的に奏される。
安定化剤(C)の重量平均分子量は、200〜900であることが特に好ましい。なお、重量平均分子量200〜900は、数平均分子量200〜900とほぼ一致する。また、重量平均分子量200〜900の場合、分子量分布が1.0である場合があり、この場合には、「重量平均分子量200〜900」を、単に「分子量200〜900」と言い換えることもできる。
【0099】
第一の態様の高分子圧電材料が安定化剤(C)を含有する場合、上記高分子圧電材料は、安定化剤(C)を1種のみ含有してもよいし、2種以上含有してもよい。
第一の態様の高分子圧電材料が安定化剤(C)を含む場合、安定化剤の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.01質量部〜10質量部であることが好ましく、0.01質量部〜5質量部であることが好ましく、0.1質量部〜3質量部であることがより好ましく、0.5質量部〜2質量部であることが特に好ましい。
上記含有量が0.01質量部以上であると、耐湿熱性がより向上する。
また、上記含有量が10質量部以下であると、透明性の低下がより抑制される。
【0100】
安定化剤の好ましい態様としては、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有し、且つ、数平均分子量が200〜900の安定化剤(C1)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を1分子内に2以上有し、且つ、重量平均分子量が1000〜60000の安定化剤(C2)とを併用するという態様が挙げられる。なお、数平均分子量が200〜900の安定化剤(C1)の重量平均分子量は、大凡200〜900であり、安定化剤(C1)の数平均分子量と重量平均分子量とはほぼ同じ値となる。
安定化剤として安定化剤(C1)と安定化剤(C2)とを併用する場合、安定化剤(C1)を多く含むことが透明性向上の観点から好ましい。
具体的には、安定化剤(C1)100質量部に対して、安定化剤(C2)が10質量部〜150質量部の範囲であることが、透明性と耐湿熱性の両立という観点から好ましく、50質量部〜100質量部の範囲であることがより好ましい。
【0101】
以下、安定化剤(C)の具体例(安定化剤C−1〜C−3)を示す。
【0103】
以下、上記安定化剤C−1〜C−3について、化合物名、市販品等を示す。
・安定化剤C−1 … 化合物名は、ビス−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドである。重量平均分子量(この例では、単なる「分子量」に等しい)は、363である。市販品としては、ラインケミー社製「Stabaxol I」、東京化成社製「B2756」が挙げられる。
・安定化剤C−2 … 化合物名は、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約2000のものとして、日清紡ケミカル社製「カルボジライトLA−1」が挙げられる。
・安定化剤C−3 … 化合物名は、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)である。市販品としては、重量平均分子量約3000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P」が挙げられる。また、重量平均分子量20000のものとして、ラインケミー社製「Stabaxol P400」が挙げられる。
【0104】
<その他の成分>
第一の態様の高分子圧電材料は、必要に応じ、その他の成分を含有してもよい。
その他の成分としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂等の公知の樹脂;シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の公知の無機フィラー;フタロシアニン等の公知の結晶核剤;等が挙げられる。
無機フィラー及び結晶核剤としては、国際公開第2013/054918号パンフレットの段落0057〜0058に記載された成分を挙げることもできる。
【0105】
また、前述したとおり、第一の態様の効果をより効果的に奏する観点からは、第一の態様の高分子圧電材料中におけるヘリカルキラル高分子(A)の含有量が、高分子圧電材料の全量に対し、80質量%以上であることが好ましい。
【0106】
また、透明性の低下(即ち、内部ヘイズの上昇)をより抑制する観点、及び、耐湿熱性をより向上させる観点から、第一の態様の高分子圧電材料中における有機リン化合物の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、1質量部未満であることが好ましい。
ここで、「有機リン化合物の含有量が1質量部未満である」とは、第一の態様の高分子圧電材料が有機リン化合物を含有しないか、又は、含有する場合には、第一の態様の高分子圧電材料中における有機リン化合物の含有量がヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対して1質量部未満であることを意味する。
上記有機リン化合物の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)100質量部に対し、0.5質量部未満であることがより好ましく、0.1質量部未満であることが更に好ましく、0質量部であること(即ち、第一の態様の高分子圧電材料が有機リン化合物を含有しないこと)が最も好ましい。
上記有機リン化合物としては、一分子中にリン原子を含むヒンダードフェノール系安定化剤、ホスファイト系安定化剤、等が挙げられる。
また、上記高分子圧電材料中における有機リン化合物の含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)の量に対し、リン原子換算で0〜90質量ppmであることが好ましい。有機リン化合物の更に好ましい含有量は、ヘリカルキラル高分子(A)の量に対し、リン原子換算で0〜50質量ppmであることであり、最も好ましくは、リン原子換算で0質量ppmであることである。
【0107】
特に、透明性の観点からは、第一の態様の高分子圧電材料は、ヘリカルキラル高分子(A)、化合物(B)、及び安定化剤(C)以外の成分を含まないことが好ましく、化合物(B)として、ヒンダードフェノール系化合物又はヒンダードアミン系化合物を用いることがより好ましい。
【0108】
<高分子圧電材料の用途等>
第一の態様の高分子圧電材料は、スピーカー、ヘッドホン、タッチパネル、リモートコントローラー、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサー、加速度センサー、衝撃センサー、振動センサー、感圧センサー、触覚センサー、電界センサー、音圧センサー、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができる。
【0109】
このとき、第一の態様の高分子圧電材料は、少なくとも2つの面を有し、当該面には電極が備えられた圧電素子として用いられることが好ましい。電極は、高分子圧電材料の少なくとも2つの面に備えられていればよい。前記電極としては、特に制限されないが、例えば、ITO、ZnO、IGZO(登録商標)、導電性ポリマー等が用いられる。
【0110】
また第一の態様の高分子圧電材料と電極を繰り返し重ねて積層圧電素子として用いることもできる。例としては電極と高分子圧電材料のユニットを繰り返し重ね、最後に電極で覆われていない高分子圧電材料の主面を電極で覆ったものが挙げられる。具体的にはユニットの繰り返しが2回のものは、電極、高分子圧電材料、電極、高分子圧電材料、電極をこの順で重ねた積層圧電素子である。積層圧電素子に用いられる高分子圧電材料はそのうち1層の高分子圧電材料が第一の態様の高分子圧電材料であればよく、その他の層は第一の態様の高分子圧電材料でなくてもよい。
また積層圧電素子に複数の第一の態様の高分子圧電材料が含まれる場合は、ある層の第一の態様の高分子圧電材料に含まれるヘリカルキラル高分子(A)の光学活性がL体ならば、他の層の高分子圧電材料に含まれるヘリカルキラル高分子(A)はL体であってもD体であってもよい。高分子圧電材料の配置は圧電素子の用途に応じて適宜調整することができる。
【0111】
例えば、L体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む高分子圧電材料の第1の層が電極を介してL体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む第2の高分子圧電材料と積層される場合は、第1の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)を、第2の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)と交差、好ましくは直交させると、第1の高分子圧電材料と第2の高分子圧電材料の変位の向きを揃えることができ、積層圧電素子全体としての圧電性が高まるので好ましい。
【0112】
一方、L体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む高分子圧電材料の第1の層が電極を介してD体のヘリカルキラル高分子(A)を主たる成分として含む第2の高分子圧電材料と積層される場合は、第1の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)を、第2の高分子圧電材料の一軸延伸方向(主たる延伸方向)と略平行となるように配置すると第1の高分子圧電材料と第2の高分子圧電材料の変位の向きを揃えることができ、積層圧電素子全体としての圧電性が高まるので好ましい。
【0113】
特に高分子圧電材料の主面に電極を備える場合には、透明性のある電極を備えることが好ましい。ここで、電極について、透明性があるとは、具体的には、内部ヘイズが20%以下(全光線透過率が80%以上)であることをいう。
【0114】
第一の態様の高分子圧電材料を用いた前記圧電素子は、スピーカーやタッチパネル等、上述の種々の圧電デバイスに応用することができる。特に、透明性のある電極を備えた圧電素子は、スピーカー、タッチパネル、アクチュエータ等への応用に好適である。
【0115】
<高分子圧電材料の製造方法>
第一の態様の高分子圧電材料を製造する方法には特に制限はない。
第一の態様の高分子圧電材料は、例えば、高分子圧電材料の原料をフィルム状に成形する工程と、成形されたフィルムを延伸する工程と、を含む方法によって好適に製造することができる。
第一の態様の高分子圧電材料を製造する方法としては、例えば、国際公開第2013/054918号パンフレットの段落0065〜0099に記載の製造方法が挙げられる。
【0116】
以下、第一の態様の高分子圧電材料を製造する製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態の製造方法は、
前述のヘリカルキラル高分子(A)及び前述の化合物(B)を含む組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に加熱し、フィルム形状に成形してフィルムを得る成形工程と、
上記フィルムを主として1軸方向に延伸する延伸工程と、
を有する製造方法である。
上記組成物は、更に、前述の安定化剤(C)を含有することが好ましい。
本実施形態の製造方法は、必要に応じ、その他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、延伸工程後のフィルムをアニールするアニール工程が挙げられる。
以下、本実施形態の製造方法の各工程について説明する。
【0117】
(成形工程)
成形工程は、ヘリカルキラル高分子(A)と、化合物(B)と、必要に応じ安定化剤(C)等のその他の成分と、を含む組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点Tm(℃)以上の温度に加熱してフィルム形状に成形する工程である。この成形工程により、ヘリカルキラル高分子(A)と、化合物(B)と、必要に応じ安定化剤(C)等のその他の成分と、を含むフィルムが得られる。
【0118】
なお、本明細書中において、ヘリカルキラル高分子(A)の融点Tm(℃)、及び、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度(Tg)は、それぞれ、示差走査型熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分の条件でヘリカルキラル高分子(A)の温度を上昇させたときの融解吸熱曲線から求めた値を指す。融点(Tm)は、吸熱反応のピーク値として得られる値である。ガラス転移温度(Tg)は、溶融吸熱曲線の屈曲点として得られる値である。
【0119】
上記組成物は、ヘリカルキラル高分子(A)と、化合物(B)と、必要に応じ安定化剤(C)等のその他の成分と、を混合することにより製造することができる。
ここで、ヘリカルキラル高分子(A)、化合物(B)、安定化剤(C)、及びその他の成分は、それぞれ、1種のみ用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
上記混合は、溶融混練であってもよい。
具体的には、上記組成物は、ヘリカルキラル高分子(A)と、化合物(B)と、必要に応じ安定化剤(C)等のその他の成分と、を溶融混練機〔例えば、東洋精機社製のラボプラストミル〕に投入し、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に加熱して溶融混練することにより製造してもよい。この場合、本工程では、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に加熱して溶融混練することによって製造された組成物を、ヘリカルキラル高分子(A)の融点以上の温度に維持した状態でフィルム形状に成形する。
溶融混練の条件としては、例えば、ミキサー回転数30rpm〜70rpm、温度180℃〜250℃、混練時間5分間〜20分間、といった条件が挙げられる。
【0120】
本成形工程において、組成物をフィルム形状に成形する方法としては、押出成形法などの公知の方法が挙げられる。
【0121】
成形工程では、組成物を上記温度に加熱し成形してフィルムとし、得られたフィルムを急冷してもよい。急冷により、本工程で得られるフィルムの結晶化度を調整することができる。
ここで、「急冷」とは、押出した直後に少なくともヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移点Tg以下に冷やすことをいう。
本実施形態では、フィルムへの成形と急冷との間に他の処理が含まれないことが好ましい。
【0122】
急冷の方法は、水、氷水、エタノール、ドライアイスを入れたエタノール又はメタノール、液体窒素などの冷媒にフィルムを浸漬する方法;蒸気圧の低い液体スプレーをフィルムに吹き付け、蒸発潜熱によりフィルムを冷却する方法;等が挙げられる。
また、連続的にフィルムを冷却するには、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tg以下の温度に管理された金属ロールとフィルムとを接触させるなどして、急冷することもできる。
また、冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよい。
【0123】
成形工程で得られるフィルム(即ち、後述の延伸工程に供されるフィルム)は、非晶状態のフィルムであってもよいし、予備結晶化されたフィルム(以下、「予備結晶化フィルム」ともいう)であってもよい。
ここで、非晶状態のフィルムとは、結晶化度が3%未満であるフィルムをいう。
また、予備結晶化フィルムとは、結晶化度が3%以上(好ましくは3%〜70%)であるフィルムを指す。
ここで、結晶化度は、既述の第一の態様の高分子圧電材料の結晶化度と同様の方法によって測定される値を指す。
【0124】
成形工程で得られるフィルム(非晶状態のフィルム、又は、予備結晶化フィルム)の厚さは、最終的に得られる高分子圧電材料の厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50μm〜1000μmであり、より好ましくは200μm〜800μm程度である。
【0125】
予備結晶化フィルムは、ヘリカルキラル高分子(A)と、化合物(B)と、必要に応じ安定化剤(C)等のその他の成分と、を含む非晶状態のフィルムを加熱処理して結晶化させることで得ることができる。
非晶状態のフィルムを予備結晶化するための加熱温度Tは特に限定されないが、製造される高分子圧電材料の圧電性や透明性など高める点で、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度Tgと以下の式の関係を満たし、結晶化度が3%〜70%になるように設定されることが好ましい。
Tg−40℃≦T≦Tg+40℃
(Tgは、ヘリカルキラル高分子(A)のガラス転移温度を表す)
【0126】
非晶状態のフィルムを予備結晶化するための加熱時間は、最終的に得られる高分子圧電材料の、規格化分子配向MORcや結晶化度を考慮して適宜設定できる。
上記加熱時間は、5秒〜60分が好ましく、製造条件の安定化という観点からは、1分〜30分がより好ましい。加熱時間が長くなるに従い、上記規格化分子配向MORcが高くなり、上記結晶化度が高くなる傾向となる。
例えば、ヘリカルキラル高分子(A)としてポリ乳酸系高分子を含む非晶状態のフィルムを予備結晶化する場合は、20℃〜170℃で、5秒〜60分(好ましくは1分〜30分)加熱することが好ましい。
【0127】
<延伸工程>
延伸工程は、成形工程において得られたフィルム(例えば予備結晶化フィルム)を主として1軸方向に延伸する工程である。本工程により、延伸フィルムとして、主面の面積が大きな高分子圧電材料を得ることができる。
第一の態様において、主面の面積が大きいとは、高分子圧電材料の主面の面積が5mm
2以上であることをいう。また主面の面積が10mm
2以上であることが好ましい。
【0128】
ここで、「主面」とは、高分子圧電材料の表面の中で、最も面積の大きい面をいう。第一の態様の高分子圧電材料は、主面を2つ以上有してもよい。例えば、高分子圧電材料が、長さ10mm×幅0.3mmの面Aと、長さ3mm×幅0.3mmの面Bと、長さ10mm×幅3mmの面Cと、をそれぞれ2面ずつ有する板状体である場合、当該高分子圧電材料の主面は面Cであり、2つの主面を有する。
【0129】
また、フィルムを主として1軸方向に延伸することで、フィルムに含まれるヘリカルキラル高分子(A)の分子鎖を、一方向に配向させ、かつ高密度に整列させることができ、より高い圧電性が得られると推測される。
【0130】
フィルムの延伸温度は、1軸方向への延伸のように引張力のみでフィルムを延伸する場合、フィルム(又は、フィルム中のヘリカルキラル高分子(A))のガラス転移温度より10℃〜20℃程度高い温度範囲であることが好ましい。
【0131】
延伸処理における延伸倍率は、3倍〜30倍が好ましく、4倍〜15倍の範囲で延伸することがより好ましい。
【0132】
延伸工程において、予備結晶化フィルムの延伸を行なう場合には、延伸直前にフィルムを延伸しやすくするために予熱を行なってもよい。この予熱は、一般的には延伸前のフィルムを軟らかくし延伸しやすくするために行なわれるものであるため、前記延伸前のフィルムを結晶化してフィルムを硬くすることがない条件で行なわれるのが通常である。しかし、上述したように本実施形態においては、延伸前に予備結晶化を行なう場合があるため、前記予熱を、予備結晶化を兼ねて行なってもよい。具体的には、予備結晶化工程における加熱温度や加熱処理時間に合わせて、予熱を通常行なわれる温度よりも高い温度や長い時間行なうことで、予熱と予備結晶化を兼ねることができる。
【0133】
<アニール工程>
本実施形態の製造方法は、必要に応じ、アニール工程を有していてもよい。
アニール工程は、上記延伸工程において延伸されたフィルム(以下、「延伸フィルム」ともいう)を、アニール(熱処理)する工程である。アニール工程により、延伸フィルムの結晶化をより進行させることができ、より圧電性が高い高分子圧電材料を得ることができる。
また、主に、アニールによって延伸フィルムが結晶化する場合は、前述の成形工程における、予備結晶化の操作を省略できる場合がある。この場合、成形工程で得られるフィルム(即ち、延伸工程に供されるフィルム)として、非晶状態のフィルムを選択できる。
【0134】
本実施形態において、アニールの温度は、80℃〜160℃であることが好ましく、100℃〜155℃あることがより好ましい。
【0135】
アニール(熱処理)の方法としては特に限定されないが、延伸されたフィルムを、熱風ヒータや赤外線ヒータを用いて直接加熱する方法;延伸されたフィルムを、加熱した液体(シリコンオイル等)に浸漬することにより加熱する方法;等が挙げられる。
【0136】
アニールは、延伸フィルムに一定の引張応力(例えば、0.01MPa〜100Mpa)を印加し、延伸フィルムがたるまないようにしながら行うことが好ましい。
【0137】
アニールの時間は、1秒〜5分であることが好ましく、5秒〜3分であることがより好ましく、10秒〜2分であることがさらに好ましい。アニールの時間が5分以下であると生産性に優れる。一方、アニールの時間が1秒以上であると、フィルムの結晶化度をより向上させることができる。
【0138】
アニールされた延伸フィルム(即ち、高分子圧電材料)は、アニール後に急冷することが好ましい。アニール工程で行われることがある「急冷」は、既述の成形工程で行われることがある「急冷」と同様である。
冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよく、さらには、アニールと冷却とを交互に繰り返し行なうことも可能である。
【0139】
≪第二の態様≫
以下、本発明の第二の態様に係る高分子圧電材料について説明する。
本発明の第二の態様に係る高分子圧電材料は、重量平均分子量が5万〜100万で光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)と、ヒンダードフェノール系化合物である化合物(B)と、を含有し、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが3.5〜15.0であり、DSC法で得られる結晶化度が20%〜80%であり、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下である。
本態様の高分子圧電材料は、化合物(B)としてヒンダードフェノール系化合物を含有することにより、ヒンダードフェノール系化合物を含有しない高分子圧電材料と比較して、耐湿熱性(耐加水分解性)に優れる。しかも、ヒンダードフェノール系化合物を含有しない高分子圧電材料と比較して、圧電性が同等に維持され、かつ、可視光線に対する内部ヘイズが50%以下であるため、透明性が大きく損なわれることもない。
このように、本態様の高分子圧電材料によれば、圧電性を高く維持し、かつ、透明性もある程度高く維持したまま、耐湿熱性が改良される。
【0140】
第二の態様の高分子圧電材料では、光学活性を有するヘリカルキラル高分子(A)を含有すること、上記MORcが3.5以上であること、上記結晶化度が20%以上であること、及び上記内部ヘイズが50%以下であることにより、ヘリカルキラル高分子(A)の結晶状態にある分子鎖が、高密度に一方向に配向された状態となっている。これにより、優れた圧電性が維持される。
また、第二の態様の高分子圧電材料では、上記MORcが15.0以下であること、上記結晶化度が80%以下であること、及び上記内部ヘイズが50%以下であることにより、高い透明性が維持される。
【0141】
前述のとおり、第二の態様の高分子圧電材料の結晶化度は、20%〜80%である。
結晶化度が20%以上であることにより、高分子圧電材料の圧電性が高く維持される。
結晶化度が80%以下であることにより、高分子圧電材料の透明性が高く維持され、また、結晶化度が80%以下であることにより、延伸時に白化や破断がおきにくいので、高分子圧電材料を製造しやすい。
【0142】
第二の態様の高分子圧電材料は、ホスファイト系化合物を含有しないことが好ましい。これにより、高い透明性及び耐湿熱性を確保することができる。
なお、本態様の高分子圧電材料の上記効果は、化合物(B)として、一分子中にリン原子を含まないヒンダードフェノール系化合物を用いたときに、より効果的に奏される。
【0143】
第二の態様において、化合物(B)の代わりに、ヒンダードフェノール系安定化剤である安定化剤(B)を用いてもよい。ヒンダードフェノール系安定化剤としては、一分子中に、(1)ベンゼン環と、(2)上記ベンゼン環に結合している−OH基(即ち、フェノール性水酸基)と、(3)上記ベンゼン環の上記−OH基に対するオルト位に結合している置換基(好ましくは置換又は無置換のアルキル基)と、を含む化合物を用いればよく、例えば、上記ヒンダードフェノール系化合物を用いてもよい。
【0144】
上記以外の構成、数値範囲の好ましい範囲、好ましい化合物などは、第一の態様と同様である、
【実施例】
【0145】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0146】
〔実施例1−A〕
<高分子圧電材料の作製>
ヘリカルキラル高分子(A)としての、NatureWorks LLC社製のポリ乳酸(PLA)(品名:Ingeo
TM biopolymer、銘柄:4032D、重量平均分子量Mw:20万)90質量部に対し、化合物(B)としての上記化合物B−1(5質量部)、安定化剤(C)としての上記安定化剤C−1(5質量部)をそれぞれドライブレンドした後、二軸延伸機を用いて200℃で溶融混練、ペレタイズし、マスターバッチを作製した。
NatureWorks LLC社製のポリ乳酸(PLA)80質量部に対し、上記マスターバッチ20質量部を押出成形機ホッパーに入れて、220℃〜230℃に加熱しながら幅2000mmのTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.5分間接触させて、厚さ150μmの予備結晶化フィルムを製膜した(成形工程)。得られた予備結晶化フィルムの結晶化度を測定したところ4.79%であった。
得られた予備結晶化フィルムを70℃に加熱しながらロールツーロールで、延伸速度1650mm/分で延伸を開始し、3.5倍までMD方向に一軸延伸し、一軸延伸フィルムを得た(延伸工程)。得られた一軸延伸フィルムの厚さは表1に示すとおりである。
その後、一軸延伸フィルムを、ロールツーロールで、130℃に加熱したロール上に78秒間接触させアニール処理した後、50℃に設定したロールで急冷し、フィルム幅方向の両端部を均等にスリットして切り落とし、幅1500mmのフィルムとし、さらにロール状に巻き取ることで、フィルム状の高分子圧電材料を得た(アニール工程)。
【0147】
〔実施例1−B〕
<高分子圧電材料の作製>
ヘリカルキラル高分子(A)としての、NatureWorks LLC社製のポリ乳酸(PLA)(品名:Ingeo
TM biopolymer、銘柄:4032D、重量平均分子量Mw:20万)100質量部(10g)、化合物(B)としての上記化合物B−1を1質量部(0.1g)、安定化剤(C)としての上記安定化剤C−1を1質量部(0.1g)をクロロホルム(和光純薬工業株式会社製、和光一級)200gに室温で溶解させてポリ乳酸組成物溶液を作製した。
この溶液を、50℃、0.2気圧の雰囲気に12時間放置して乾燥させることにより混合固体を得た。
得られた混合固体に対し、205℃の熱プレスを1分間施した後、20℃に設定したプレス機でのプレスを施すことにより、急冷フィルムを得た(成形工程)。
得られた急冷フィルムの対向する2辺であってこの急冷フィルムのMD方向に直交する2辺をクリップで固定した。この状態で急冷フィルムを70℃に加熱し、70℃に加熱したまま、固定した2辺と直交する方向(即ち、MD方向)に3.5倍まで一軸延伸し、一軸延伸フィルムを得た(延伸工程)。得られた一軸延伸フィルムの厚さは53μmであった。
その後、一軸延伸フィルムを130℃で600秒間加熱してアニール処理した後、急冷し、厚さ53μmのフィルム状の高分子圧電材料を得た(アニール工程)。
【0148】
<測定及び評価>
上記で得られた高分子圧電材料について、以下の測定及び評価を行った。
【0149】
(ヘリカルキラル高分子の重量平均分子量及び分子量分布)
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、上記高分子圧電材料に含まれるヘリカルキラル高分子(ポリ乳酸)の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
その結果、Mwは20万であり、Mw/Mnは1.9であった。
−GPC測定方法−
・測定装置
Waters社製GPC−100
・カラム
昭和電工社製、Shodex LF−804
・サンプル溶液の調製
上記高分子圧電材料を溶媒〔クロロホルム〕に溶解させ、濃度1mg/mLのサンプル溶液を準備した。
・測定条件
サンプル溶液0.1mLを溶媒(クロロホルム)、温度40℃、1mL/分の流速でカラムに導入し、カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定した。ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン標準試料に基づいて作成したユニバーサル検量線に基づき、算出した。
【0150】
<ヘリカルキラル高分子の光学純度>
上記高分子圧電材料に含まれるヘリカルキラル高分子(ポリ乳酸)の光学純度を、以下のようにして測定した。
【0151】
まず、50mLの三角フラスコに1.0gのサンプル(上記高分子圧電材料)を秤り込み、ここに、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mL及び5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLを加え、サンプル溶液とした。
次に、このサンプル溶液が入った三角フラスコを温度40℃の水浴に入れ、ポリ乳酸が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌した。
上記約5時間の撹拌後のサンプル溶液を室温まで冷却した後、1.0mol/L塩酸溶液を20mL加えて中和し、三角フラスコを密栓してよくかき混ぜた。
次に、上記でかき混ぜたサンプル溶液の1.0mLを25mLのメスフラスコに取り分け、ここに下記組成の移動相を加え、25mLのHPLC試料溶液1を得た。
得られたHPLC試料溶液1をHPLC装置に5μL注入し、下記HPLC測定条件にてHPLC測定を行った。得られた測定結果から、ポリ乳酸のD体に由来するピークの面積とポリ乳酸のL体に由来するピークの面積とを求め、L体の量とD体の量とを算出した。
得られた結果に基づき、光学純度(%ee)を求めた。
その結果、光学純度は、97.0%eeであった。
【0152】
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000
・HPLC装置
日本分光社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相の組成
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
(この移動相において、硫酸銅(II)、IPA、及び水の比率は、硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mLである。)
・移動相流量
1.0mL/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
【0153】
(内部ヘイズ)
以下の方法により、高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を測定した。
結果を表1、2に示す。
まず、ガラス板2枚の間に、シリコンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んだ積層体を準備し、この積層体の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H2)とする)を測定した。
次に、上記のガラス板2枚の間に、シリコンオイルで表面を均一に塗らした上記高分子圧電材料を挟んだ積層体を準備し、この積層体の厚さ方向のヘイズ(以下、ヘイズ(H3)とする)を測定した。
次に、下記式のようにこれらの差をとることにより、高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
【0154】
ここで、ヘイズ(H2)及びヘイズ(H3)の測定は、それぞれ、下記測定条件下で下記装置を用いて行った。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0155】
(規格化分子配向MORc)
王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA6000を用い、上記高分子圧電材料の規格化分子配向MORcを測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
結果を表1、2に示す。
【0156】
(結晶化度)
上記高分子圧電材料を10mg正確に秤量し、秤量した高分子圧電材料10mgについて、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から結晶化度を得た。
結果を表1、2に示す。
【0157】
(圧電定数d
14)
前述した変位法(25℃)による圧電定数d
14の測定方法の一例に従い、上記高分子圧電材料の圧電定数d
14を測定した。
結果を表1、2に示す。
【0158】
(耐湿熱性試験)
製造直後(製造から24時間以内)の高分子圧電材料から、長手方向50mm×幅方向50mmの矩形の試験片を3枚切り出した。以下、切り出した3枚の試験片を、「試験片1〜3」とする。
試験片1について、上述したGPC測定方法により、試験片1に含まれるPLA(ヘリカルキラル高分子(A))の重量平均分子量(Mw)を測定した。
試験片1に含まれるPLAのMwは、20万であった。
【0159】
次に、試験片2を、85℃85%RHに保った恒温恒湿器内に吊り下げ、192時間保持した(以下、この操作を「耐湿熱性試験192時間」とする)。次に、耐湿熱性試験192時間後の試験片2を取り出し、取り出した試験片2について、上述したGPC測定方法により、試験片2に含まれるPLA(ヘリカルキラル高分子(A))の重量平均分子量(Mw)を測定した。
次に、下記式に従い、耐湿熱性試験192時間後のMw保持率を求めた。結果を表1、2に示す。
耐湿熱性試験192時間後のMw保持率 = 耐湿熱性試験192時間後の試験片2に含まれるPLAのMw/試験片1に含まれるPLAのMw
【0160】
次に、試験片3を、85℃85%RHに保った恒温恒湿器内に吊り下げ、264時間保持した(以下、この操作を「耐湿熱性試験264時間」とする)。次に、耐湿熱性試験264時間後の試験片3を取り出し、取り出した試験片3について、上述したGPC測定方法により、試験片3に含まれるPLA(ヘリカルキラル高分子(A))の重量平均分子量(Mw)を測定した。
次に、下記式に従い、耐湿熱性試験264時間後のMw保持率を求めた。結果を表1に示す。
耐湿熱性試験264時間後のMw保持率 = 耐湿熱性試験264時間後の試験片3に含まれるPLAのMw/試験片1に含まれるPLAのMw
【0161】
なお、各Mw保持率は、いずれも、1.0に近いほど、耐湿熱性に優れていることを示している。各Mw保持率は、いずれも、理想的には1.0である。
【0162】
(厚みムラ)
以下の方法により厚みムラ(レンジ)を測定した。
結果を表1に示す。
フィルムの製造中、両端部スリット後の巻き取り前の位置で、山文電気社製レーザ式非接触オンライン厚み計測装置NSM−RM(分解能0.1μm、測定ピッチ1mm)をTD方向にトラバースさせながら膜厚値を取得した。測定データ内での厚み最大値T
max(μm)及び最小値T
min(μm)から以下の式に基づき、厚みムラを求めた。
[式1]・・厚みムラR(μm)=T
max−T
min
なお、厚みムラとともに、フィルムの平均厚み及びフィルムの厚みの標準偏差σを求めた。厚みムラR及び標準偏差σから高分子圧電材料の厚み精度について評価した。なお、フィルムの平均厚みを求める際の測定点数は30回トラバース分450000点である。
【0163】
〔実施例2−A〜4−A、比較例1−A〜2−A〕
化合物(B)の種類及び量、並びに、安定化剤(C)の種類及び量の組み合わせを、下記表1に示す組み合わせに変更したこと以外は実施例1−Aと同様の操作を行った。
結果を表1に示す。
【0164】
【表1】
【0165】
以下、表1中における各化合物及び各安定化剤の詳細を示す。
・化合物B−1 … BASF社製「IRGANOX 1010」を用いた。分子量は表1に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−4 … BASF社製「IRGANOX 3114」を用いた。分子量は表1に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−10 … BASF社製「IRGAMOD 295」を用いた。分子量は表1に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−13 … ADEKA社製「PEP−36」を用いた。分子量は表1に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−16 … ローム・アンド・ハース・ジャパン社製、コアシェル構造体「パラロイド
TMBPM−500」を用いた。
【0166】
表1に示すように、実施例1−A〜4−Aでは、厚みムラ(レンジ)の値が10μm未満であり、かつ、標準偏差σが1.4以下であった。よって、本実施例では、厚み精度に優れた高分子圧電材料を提供することができた。
【0167】
〔実施例2−B〜15−B、比較例1−B、2−B〕
化合物(B)の種類及び量、並びに、安定化剤(C)の種類及び量の組み合わせを、下記表2に示す組み合わせに変更したこと以外は実施例1−Bと同様の操作を行った。
なお、比較例1−Bでは、化合物(B)を用いず、比較例2−Bでは、化合物(B)および安定化剤(C)を用いなかった。
結果を表2に示す。
なお、比較例2−Bでは、高分子圧電材料の耐湿熱性が悪すぎるために、耐湿熱性試験において、試験片を85℃85%RHに保った恒温恒湿器内に吊り下げてから24時間の時点で、既に、PLAの分解によって試験片が崩壊していた。このため、比較例2−Bでは、192時間及び264時間の耐熱性試験を行うことができなかった。
【0168】
〔参考例1〕
実施例1−Bの高分子圧電材料の作製において、延伸工程を省略し、かつ、最終的に得られる高分子圧電材料の厚さが実施例1−Bと同様の53μmとなるように成形工程の条件を調整したこと以外は実施例1−Bと同様の操作を行った。
結果を表2に示す。
【0169】
【表2】
【0170】
以下、表2中における各化合物及び各安定化剤の詳細を示す。
・化合物B−1 … BASF社製「IRGANOX 1010」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−2 … BASF社製「IRGANOX 1076」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−3 … BASF社製「IRGANOX MD 1024」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−4 … BASF社製「IRGANOX 3114」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−5 … BASF社製「IRGANOX 245」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−6 … BASF社製「IRGANOX E 201」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−7 … BASF社製「IRGANOX 1330」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−8 … BASF社製「IRGANOX 565」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−9 … BASF社製「IRGANOX 1726」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−10 … BASF社製「IRGAMOD 295」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−11 … BASF社製「IRGAFOS 168」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−12 … BASF社製「IRGASTAB FS 301 FF」を用いた。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−13 … ADEKA社製「PEP−36」を用いた。分子量は表2に示したとおりである。化学構造は以下に示すとおりである。
・化合物B−14 … BASF社製「IRGANOX 1010」及びADEKA社製「PEP−36」を用いた。
・安定化剤C−1 … ラインケミー社製「Stabaxol I」を用いた。重量平均分子量(この例では、単に「分子量」)は、363である。化学構造は前述したとおりである。
・P量(ppm)は、ヘリカルキラル高分子(A)の量に対する、化合物(B)又は比較安定化剤のリン原子換算での含有量(質量ppm)を示す。
【0171】
次に、表1、2中における各化合物の化学式を示す。
【0172】
【化7】
【0173】
表2に示すように、化合物(B)としてヒンダードフェノール系化合物を用いた実施例1−B〜9−B、12−Bでは、圧電定数d
14を高く維持し、かつ、内部ヘイズを低く維持したまま、耐湿熱性が改良されていた。この効果は、化合物(B)として、一分子中にリン原子を含まないヒンダードフェノール系化合物を用いた実施例1−B〜9−Bにおいて、特に顕著であった。
また、延伸工程を行わなかった参考例1では、内部ヘイズが50%を超えており、かつ、圧電性が確認されなかった(圧電定数が0.0であった)。また、この参考例1は、実施例1−Bと対比すると、耐湿熱性の改良効果が劣っていた。