(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6239458
(24)【登録日】2017年11月10日
(45)【発行日】2017年11月29日
(54)【発明の名称】2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 315/02 20060101AFI20171120BHJP
C07C 317/44 20060101ALI20171120BHJP
【FI】
C07C315/02
C07C317/44
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-148580(P2014-148580)
(22)【出願日】2014年7月22日
(65)【公開番号】特開2016-23161(P2016-23161A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 俊史
(72)【発明者】
【氏名】小松 史宜
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−120250(JP,A)
【文献】
特表2003−500481(JP,A)
【文献】
特開平04−273866(JP,A)
【文献】
特開平05−039259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 315/02
C07C 317/44
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステル1モル部に、温度−5℃〜15℃にてフェニルメタンチオール1〜1.5モル部を0.5〜10時間かけて添加して、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルを得、
次いで、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステル1モル部に、温度50℃〜80℃にて過酸化水素水1〜3モル部を5〜10時間かけて添加することを含む、
2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
フェニルメタンチオール添加時の温度が0℃〜10℃である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
過酸化水素水添加時の温度が60℃〜65℃である請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルは抗菌剤の原料として用いられている(特許文献1または2)。2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルの製造方法が特許文献1または2に記載されている。この方法では、ベンジルスルフィニル基を導入する反応の際にチオエステル体が副生しやすいため収率が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平03−120250号公報
【特許文献2】EP0419074A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、副生成物を低減して、2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルを高収率で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0006】
〔1〕 (2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステル1モル部に、温度−5℃〜15℃にてフェニルメタンチオール1〜1.5モル部を0.5〜10時間かけて添加して、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルを得、
次いで、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステル1モル部に、温度50℃〜80℃にて過酸化水素水1〜3モル部を5〜10時間かけて添加することを含む、
2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルの製造方法。
【0007】
〔2〕 フェニルメタンチオール添加時の温度が0℃〜10℃である〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕 過酸化水素水添加時の温度が60℃〜65℃である〔1〕または〔2〕に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、副生成物が少なく、2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルを高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルの製造方法は、(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステル1モル部に、温度−5℃〜+15℃にてフェニルメタンチオール1〜1.5モル部を0.5〜10時間かけて添加して、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルを得、
次いで、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステル1モル部に、温度+50℃〜+80℃にて過酸化水素水1〜3モル部を5〜10時間かけて添加することを含むものである。
【0010】
本発明の反応原料である(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステルは、例えば、式(1)で表される化合物である。
【0011】
【化1】
式(1)中、Rは、特に制限されないが、通常、無置換の若しくは置換基を有するアルキル基または無置換の若しくは置換基を有するアリール基、好ましくは無置換の若しくは置換基を有するアルキル基である。nは括弧内のメチレン基の繰り返し数を示し、通常、1〜7、好ましくは3〜5である。
【0012】
本発明の製造方法では、先ず、(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステルとフェニルメタンチオールとを反応させる。この反応は、溶媒中にて行うことができる。溶媒は、(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステルとフェニルメタンチオールとを溶解でき、且つ以下に述べる酸と反応しないものであれば特に限定されない。溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などが挙げられる。溶媒の使用量は、(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステル1モルに対して、好ましくは50〜1000mL、より好ましくは100〜300mLである。
【0013】
(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステルとフェニルメタンチオールとの反応を促進させるために酸を反応系に存在させることができる。酸としては、硫酸、有機スルホン酸、ハロゲン化水素、リン酸などが挙げられる。酸の使用量は、酸によって供給できるプロトンの量で設定する。係るプロトンの量は、(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステル1モル部に対して、好ましくは0.1〜1.0モル部、より好ましくは0.3〜0.7モル部である。
【0014】
(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステルとフェニルメタンチオールとの反応は、通常、−5℃〜+15℃、好ましくは0℃〜+10℃で行う。
また、フェニルメタンチオールは反応系に長い時間をかけて徐々に添加する。具体的に、(2−オキソ−シクロアルカン)−1−カルボン酸エステル1モル部に対して、1〜1.5モル部のフェニルメタンチオールを、好ましくは1.01〜1.05モル部のフェニルメタンチオールを、通常、0.5〜10時間、好ましくは2〜6時間かけて、添加する。このように低温度で長い時間をかけてフェニルメタンチオールを添加すると、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステル(例えば、式(2)で表される化合物)の収率が高くなる。
【0015】
【化2】
式(2)中、Rおよびnは、式(1)中のそれらを引き継いだものである。
【0016】
フェニルメタンチオールの添加終了後、反応が完了するまで、すなわち転化率が変動しなくなるまで撹拌する。該撹拌時において、反応系の温度は、通常、−5℃〜+15℃、好ましくは0℃〜+10℃に維持する。撹拌時間は、反応規模、反応装置などによって異なるが、通常、2〜6時間である。
【0017】
上記反応で得られる2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルは、次の工程で使用するために、反応液から公知の方法で単離してなる精製品にしてもよいし、反応液に含まれたままの粗製品であってもよい。
【0018】
次に、上記反応で得られる2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルに過酸化水素水を作用させて酸化反応させる。
この酸化反応は、溶媒中にて行うことができる。溶媒として、例えば、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ギ酸、酢酸、プロピオン酸などが挙げられる。
【0019】
該酸化反応は、酸性の液中で行うことが好ましい。酸化反応時のpHは、好ましくは2〜7、より好ましくは2〜3である。pHの調整は、塩酸などの酸、水酸化ナトリウムなどの塩基を用いて行う。酸化反応時の温度は、通常、50〜80℃、好ましくは60〜65℃である。
【0020】
過酸化水素水は反応系に長い時間をかけて徐々に添加する。具体的に、2−(ベンジルスルファニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステル1モル部に対して、1〜3モル部の過酸化水素水を、好ましくは1.0〜1.7モル部の過酸化水素水を、通常、5〜10時間、好ましくは5〜7時間かけて、添加する。このように長い時間をかけて過酸化水素水を添加すると、2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステル(例えば、式(3)で表される化合物)の収率が高くなる。
【0021】
過酸化水素水の添加終了後、反応が完了するまで、すなわち転化率が変動しなくなるまで撹拌する。該撹拌時において、反応系の温度は、通常、50〜80℃、好ましくは60〜65℃に維持する。撹拌時間は、反応規模、反応装置などによって異なるが、通常、2〜6時間である。
【0022】
【化3】
式(3)中、Rおよびnは、式(1)中のそれらを引き継いだものである。
【0023】
上記反応で得られる2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルは、次の工程、例えば、殺菌剤の製造工程で使用するために、反応液から公知の方法で単離してなる精製品にしてもよいし、反応液に含まれたままの粗製品であってもよい。単離方法は特に制限されない。2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルの単離方法として、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを7前後に調整した後、ろ過などによって固液分離する方法が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例で本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
【0026】
【化4】
【0027】
1000mL四口フラスコに酢酸115mL、濃硫酸19.6g(0.200mol)、およびメチル 2−オキソ−シクロペンタンカルボキシレート142g(1.00mol)を加えた。次に、7℃に冷却し、内容物を撹拌しながら、容器内にフェニルメタンチオール128g(1.03mol)を4時間かけて滴下した。滴下終了後、容器内の温度を7〜10℃に維持しながらさらに4時間撹拌した。メチル 2−(ベンジルスルファニル)シクロペンタン−1−エン−1−カルボキシレートを含む懸濁液が得られた。
得られた懸濁液に49%水酸化ナトリウム水溶液33.4g(0.409mol)を20〜30℃で加えてpHを2とした。その後、35%過酸化水素水146g(1.50mol)を60〜65℃で5時間かけて滴下した。滴下終了後、60〜65℃に維持しながらさらに3時間撹拌した。
【0028】
これに、水250mLを加え、30℃に冷却し、次いで49%水酸化ナトリウム水溶液161g(1.97mol)を加えてpHを7にした。固形分を濾過で取り出し、水50mLで洗浄し、次いで乾燥させた。メチル 2−(ベンジルスルフィニル)シクロペンタン−1−エン−1−カルボキシレートを含む乾燥品259g(有姿収率98%)を得た。得られた乾燥品をHPLC分析したところ、メチル 2−(ベンジルスルフィニル)シクロペンタン−1−エン−1−カルボキシレート、およびメチル 2−(ベンジルスルファニル)シクロペンタン−1−エン−1−カルボキシレートの面積比がそれぞれ92.3%、および0.3%であった。
【0029】
比較例1
200mL四口フラスコに酢酸12mL、濃硫酸3.50g(0.036mol)、およびメチル 2−オキソ−シクロペンタンカルボキシレート14.2g(0.10mol)を加えた。次に、20〜25℃で内容物を撹拌しながら、容器内にフェニルメタンチオール12.4g(0.10mol)を5分間かけて滴下した。滴下終了後、容器内の温度を20〜25℃に維持しながらさらに2時間撹拌した。
得られた懸濁液に47%水酸化ナトリウム水溶液5.97g(0.070mol)を20〜25℃で加えた。その後、30%過酸化水素水14.7g(0.13mol)を60〜65℃で5分間かけて滴下した。滴下終了後、60〜65℃に維持しながらさらに5時間撹拌した。
【0030】
これに、水55mLを加え、20〜25℃に冷却し、次いで47%水酸化ナトリウム水溶液17.7g(0.21mol)を加えてpHを7にした。0〜5℃まで冷却し、析出した固体を濾過で取り出し、水75mLで洗浄し、乾燥させた。メチル 2−(ベンジルスルフィニル)シクロペンタン−1−エン−1−カルボキシレートを含む乾燥品22.4g(有姿収率85%)を得た。
得られた乾燥品をHPLC分析したところ、メチル 2−(ベンジルスルフィニル)シクロペンタン−1−エン−1−カルボキシレートの面積比が98.5%であった。
【0031】
以上のとおり、本発明に従って、フェニルメタンチオールを低温度で長い時間をかけて添加しながら反応させ、且つ過酸化水素水を長い時間をかけて添加しながら反応させる(実施例)と、高収率で2−(ベンジルスルフィニル)−1−シクロアルケン−1−カルボン酸エステルを得ることができる。